説明

含クロム溶鋼の脱炭精錬法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】含クロム溶鋼の脱炭精錬法において、溶鋼中の[Cr]の酸化を抑え、効率よく脱炭を行う含クロム溶鋼の脱炭精錬法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来ステンレス鋼のごとき11wt%以上のクロムを含むような含クロム溶鋼の浴面下および浴面上より酸素ガスまたは酸素ガス(以下、単に酸素という)と不活性ガスの混合ガスを吹込む複合吹錬法において、溶鋼中の[Cr]の酸化を抑え、効率よく脱炭を行う方法として、例えば、特開昭55−158213号には、浴面下に酸素および不活性ガスを吹き込んで脱炭を行うと同時に該酸素量の少なくとも、0.2倍に相当する量の酸素ガスを浴面上より供給し、浴面上より供給した酸素による二次燃焼反応熱によって、脱炭の促進をはかる方法が記載されている。
【0003】また、特開昭59−166617号には、上吹き酸素、底吹き酸素または不活性ガスを用いる複合吹錬法で含クロム溶鋼を脱炭するに際し、鋼中[C]濃度に応じて、ランス高さおよび上吹き酸素量を抑制することによって、浴面から発生するスプラッシュを抑え、また、上吹き酸素による二次燃焼反応熱によって、脱炭の促進をはかる方法が記載されている。
【0004】一般に、複合吹錬による含クロム溶鋼の脱炭は、浴面下により供給される酸素による脱炭と浴面上より供給される酸素による脱炭に分けて考えられるが、前記従来術は、いずれも浴面上より供給される酸素による脱炭を改善した技術であって、浴面下および浴面上の双方より供給される酸素による脱炭の関係については着目されてない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】含クロム溶鋼の脱炭精錬法において、底吹き条件およびを上吹き条件を好適な範囲に維持することにより、溶鋼中[Cr]の酸化を抑え、効率よく脱炭を行い、併せて、還元用Si原単位の低減、精錬時間の短縮をはかるものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上述の課題を有利に解決したものであり、その要旨は炭素を0.3wt%以上含有する含クロム溶鋼の浴面下および浴面上より酸素ガスまたは酸素ガスと不活性ガスの混合ガスを吹込む脱炭精錬法において、浴面下および浴面上より吹込むガスを下記の■式、■式および■式を満足する条件下で、吹込むことを特徴とする含クロム溶鋼の脱炭精錬法である。
【0007】
【数2】


【0008】以上本発明について詳細に説明する。
【0009】本発明の含クロム溶鋼の脱炭精錬法は図1に例示するように複合吹錬による脱炭精錬法であり、(a)は静止浴状態、(b)はガス吹込み状態を示し、図中の1は上吹きランス、2は底吹き羽口、3は溶鋼、4はスラグを示し、上吹きランス1および底吹き羽口から酸素または酸素と不活性ガスとの混合ガスを吹込む。図中5は火点部を示す。
【0010】本発明は、含クロム溶鋼の複合吹錬において、浴面下から一定流量以上の酸素または混合ガスを吹込むことによって、溶鋼を積極的に攪拌し、浴面の流動を活発にする。一方、浴面上より吹込んだ酸素によって、浴面上に高温域を形成させ、浴面において、前記の活発な流動作用と高温作用とによって、脱炭が極めて効率的に進行することに着目したものである。
【0011】まず、底吹き条件としては■式を満足する必要がある。図2は底吹きのみの吹錬において、底吹きガス流量と脱炭酸素効率の関係を示す。なお、脱炭酸素効率は底吹き酸素のうち脱炭に使用された酸素の割合を示す。また、吹錬前の[Si]濃度は0.1wt%以下の値であった。図2より底吹きガス流量が0.4Nm3 /min・T以上で脱炭酸素効率が高位に安定する。底吹きガス流量が0.4Nm3 min・Tよりも少ない場合、鋼浴の攪拌力が小さくなり、供給された酸素が[C]と反応するための反応界面積が小さくなり、供給された酸素は[Cr]酸化に使用されスラグ中に(Cr23 )として移行することにる。従って、底吹きガス流量は■式を満足する必要がある。
【0012】
【数3】


【0013】なお、脱炭速度比率は底吹き酸素量1.0Nm3 /min・Tで、上吹き酸素量の比率が0の場合の平均脱炭速度を100として指数化したものである。また底吹きガス流量は1.0Nm3 /min・Tで、上吹きガスによる浴面の凹み率L/L0 は0.1の場合の値である。図3より横軸の値が0.20以上で0.65以下の場合に縦軸の値が高位に安定する。これは上吹き酸素量比率が小さい場合、上吹き酸素は底吹き酸素による脱炭反応で生じたCOガスと反応してCO2ガスを生成する二次燃焼反応に殆どが使用され、脱炭反応に有効に使用されない。また、上吹き酸素量比率が大きい場合、上吹き火点部に供給される酸素量が過剰になり過ぎ、供給された酸素が高酸素濃度の溶鋼を生成する以外に[Cr]の酸化にも使用され、スラグ中の(Cr23 )濃度の上昇に働くことによる。従って、上吹き酸素量の比率は■式を満足する必要がある。
【0014】図4は上吹きガスによる浴面の凹み率[L/L0 ]と脱炭酸素効率の関係を示す。なお、脱炭酸素効率は上吹き酸素のうち脱炭に使用された酸素の割合を示す。なお、吹錬前の溶鋼中[Si]濃度は0.1wt%以下であり、上吹きガスによる浴面の凹み率は図1に基づいて説明される。
【0015】図1(a)の静止浴状態での鋼浴深さL0 の溶鋼3に上吹きおよび底吹きのガスを供給することで、(b)の状態になる。ここで、上吹きガスによる浴面の凹み深さLは■式、■式によって導かれる。
【0016】
【数4】


【0017】つまり、上吹きランス・ギャップhを小さくし、吹込むガスの流速を大きくとることによって、浴面の凹み深さLが大きくなり、L/L0 も大きくなることになる。
【0018】図4よりL/L0 が0.04以上で0.4以下の範囲で縦軸の値が高位安定する。これは、L/L0 が小さい場合、上吹きより供給される酸素の中で鋼浴表面まで到達する酸素の率が小さく、該酸素は気相中で二次燃焼反応に使用され、脱炭反応に有効に使用されない。、また、L/L0 が大きい場合、上吹きより供給される酸素の殆どが鋼浴表面まで到達するが、局部的に集中して酸素が供給されるために、溶鋼中の[Cr]の酸化に使用されるために、脱炭反応に有効に使用されない。また、L/L0 が大き過ぎると、溶鋼のスプラッシュ量が大きくなり、安定な操業が行えない問題点がある。従って、L/L0 の値は■式を満足する必要がある。
【0019】図5に底吹き酸素量0.6Nm3 /min・T、底吹き不活性ガス流量0.2Nm3 /min・T、上吹き酸素量0.4Nm3 /min・Tの条件下における溶鋼中[C]濃度と脱炭酸素効率の関係を示す。なお、脱炭酸素効率は上吹きおよび底吹きによって供給した酸素の脱炭に使用された割合を示す。図5より、炭素濃度0.3wt%以上では脱炭酸素効率は高位に安定するが、炭素濃度0.3wt%未満では急激に低下する。つまり、溶鋼中[Cr]の酸化が進行し、スラグ中の(Cr23 )の量および濃度が急激に上昇する。このような状態では、酸素ガスの供給条件を変えても脱炭反応に対して、十分な効果が得られない。
【0020】以上より、炭素濃度が0.3wt%以上の含クロム溶鋼の複合吹錬法による脱炭精錬において、溶鋼中の[Cr]の酸化を抑え、効率よく脱炭を行うには、先に示した■式、■式および■式を満足する条件下で行う必要がある。操業においては溶鋼温度との対応で条件を設定する必要があるが、粗溶鋼の装入時に溶鋼組成および溶鋼温度を把握し、これを基に、上吹き条件および底吹きの条件を決定して、精錬を行う。L/L0 の調整は基本的には上吹きランス・ギャップの調整により操業する。なお、目標温度より溶鋼温度が低い場合には上吹き酸素量を多めにして操業することにより、調整が可能である。
【0021】
【作用】含クロム溶鋼のい脱炭精錬では、下記■式で示される脱炭反応と同時に■式で示される溶鋼中[Cr]の酸化反応も進行する。
【0022】
[C]+1/2 O2 ────→CO(g) ………………■ 2[Cr]+3/2 O2 ──→(Cr23 ) …………■また、上吹きにより酸素を吹き込む場合には、上記の反応以外に■式で示される二次燃焼反応が進行する。
【0023】
CO+1/2 O2 (g)──→CO2 (g)……………■この二次燃焼反応は発熱反応であり、適度に制御することにより、上吹き酸素の火点部5の温度が上昇し、脱炭反応を有利に進めることが可能である。しかし、過剰な二次燃焼反応の進行は上吹きにより供給される酸素が脱炭反応に使用されなくなって、不利となる。従って、■式および■式で示した条件によって、二次燃焼反応を制御することによって、脱炭反応を効率よく進めることが、可能である。
【0024】脱炭反応は[C]濃度によって律速過程が変化する。低[C]濃度側では律速過程は[C]の移動であり、鋼浴の攪拌を強化することによって[C]の移動が促進されて、脱炭速度が増大する。この状態で、上吹きガスを制御しても、脱炭速度の向上にはつながらない。
【0025】一方、高[C]濃度では鋼浴への酸素の供給が律速過程であり、鋼浴への酸素の供給条件を好適な範囲に維持することで脱炭速度が向上する。しかし、このような領域においても、攪拌力が弱過ぎると反応界面積が小さくなり、脱炭反応が[Cr]の酸化に優先して進行しない。このために、一定の攪拌力が必要となり、■式の関係が導出される。
【0026】
【実施例】SUS304スレンレス鋼(8wt%Ni−18wt%Cr)60ton処理において、図1(b)に示す実施態様で図6に示す酸素ガスとArガスの供給パターンで実施した。なお、脱炭開始時の[C]濃度は1.5wt%とし、また、[C]濃度0.2wt%以下では上吹きを中止し、底吹きのみでの精錬を行った。
【0027】表1に脱炭の精錬条件の実施例を示す。
【0028】なお、本発明の実施例は先に示した■式、■式および■式を満足するように精錬を実施した。比較例のNo.6およびNo.8は従来法として一般に実施されている方法と認められる特開昭55−15213号の方法に従った。また、比較例のNo.7は底吹きガス流量およびL/L0 が本発明条件外の例、No.9は上吹き酸素量比率が本発明外の例、No.10は底吹きガス流量、L/L0 および上吹き酸素量比率が本発明外の例である。
【0029】
【表1】


【0030】
【表2】


【0031】実施結果を表2に示す。表中の平均脱炭酸素効率は[C]≧0.3wt%での値、脱炭速度指数はNo.6の例を100とし、かつ供給酸素ガス流量で比例換算した値、また、還元用Si原単位および精練時間はNo.6の例を100として換算した値である。
【0032】
【発明の効果】本発明法によると、含クロム溶鋼の脱炭精錬において、脱炭酸素効率が向上し、かつ同一供給酸素ガス量での脱炭速度の向上がはかられる。また、還元用Si原単位が低減すると共に、精錬時間が短縮される。これにより、精錬コストの大幅な低減ができると共に、生産性の向上がはかられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施態様例の説明図で、(a)は静止浴状態、(b)はガス吹込み状態を示す図。
【図2】本発明法における底吹きガス流量の限定理由を示す図。
【図3】本発明法における上吹き酸素量比率の限定理由を示す図。
【図4】本発明法における上吹きによるL/L0 の限定理由を示す図。
【図5】本発明法における炭素濃度の限定理由を示す図。
【図6】実施例におけるガス供給パターンの例を示す図。
【符号の説明】
1…上吹きランス 2…底吹き羽口
3…溶鋼 4…スラグ
5…火点部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素を0.3wt%以上含有する含クロム溶鋼の浴面下および浴面上より酸素ガスまたは酸素ガスと不活性ガスの混合ガスを吹込む脱炭精錬法において、浴面下および浴面上より吹込むガスを下記の■式、■式および■式を満足する条件下で、吹込むことを特徴とする含クロム溶鋼の脱炭精錬法。
【数1】


【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2515059号
【登録日】平成8年(1996)4月30日
【発行日】平成8年(1996)7月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−156928
【出願日】平成3年(1991)6月27日
【公開番号】特開平5−9547
【公開日】平成5年(1993)1月19日
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【参考文献】
【文献】特開昭60−230930(JP,A)
【文献】特開昭60−194007(JP,A)