説明

含フッ素アミン化合物の製造方法

【課題】毒性の高い還元剤を使用せずに、含フッ素N,O−アセタール化合物の還元により含フッ素アミン化合物を高収率で製造する。
【解決手段】含フッ素N,O−アセタール化合物をボランアミン錯体により還元反応させ、含フッ素アミン化合物を製造する。ボランアミン錯体としては脂肪族アミン錯体、芳香族アミン錯体、独立して水素原子、アルキル基またはアミノ基で置換されたボランピリジン錯体があげられる。ボランピリジン錯体は収率の面で優れ、特に2−ピコリンボランは安全性に関わる取り扱いの面において利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素アミン化合物を製造する方法に関する。より詳しくは、含フッ素N,O−アセタール化合物をボランアミン錯体で還元し、含フッ素アミン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素アミン化合物は医農薬中間体あるいは電子材料原料等として広範に利用されている極めて有用な化合物である。この含フッ素アミン化合物の合成方法としては、次の3つの方法が知られている。第一の方法は、例えば特許文献1に開示されているような、含フッ素アミン化合物とハライド化合物を反応させる方法である。この方法の場合、フッ素の強い電子求引性のため、原料である含フッ素アミン化合物の反応性が低く低収率となる問題がある。例えば前記公報では、15当量の含フッ素アミンを使用しながら、目的物の収率はハライド化合物を基準として25%に止まっている。第二の方法は、特許文献2、特許文献3等に開示されているような1級アミン化合物とトリフルオロメタンスルホン酸含フッ素アルキルエステルを反応させる方法である。この方法は、反応は比較的容易であるものの、反応終了後、原料分子中に含まれるフッ素原子のうちの3個がトリフルオロメタンスルホン酸塩として副産物中に存在する。このため、経済性を求めて製造を行うには、このトリフルオロメタンスルホン酸塩を再生利用する必要があり、プロセスが非常に煩雑になる問題がある。
【0003】
第三の方法は、特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7等に示されるようなアミン化合物と含フッ素アルデヒド化合物及び還元剤を反応させる方法である。この方法の場合、原料分子の反応性は高く、また、原料分子中に含まれるフッ素原子基は原理的にはすべて目的物中に導入できるため、効率的な方法と言える。しかしながら、特許文献4の場合はアミン化合物が低級脂肪族アミンに限られる問題を有する。一方、特許文献5〜7の場合は還元剤として極めて有毒なシアノ水素化ホウ素ナトリウムを用いるため、大量生産において廃棄などの問題が発生する。
【0004】
一方、含フッ素N,O−アセタール化合物は非特許文献1あるいは非特許文献2に示されるように、含フッ素アルデヒド化合物とアミン化合物から誘導される化合物である。それぞれの方法により、1級アミン及び2級アミンを原料とする含フッ素N,O−アセタール化合物を得ることができる。しかしながら、この含フッ素N,O−アセタール化合物を還元して含フッ素アミンを得る方法に関しては、これまで全く知られていない。
【特許文献1】WO 02/24663号パンフレット
【特許文献2】WO 02/12235号パンフレット
【特許文献3】WO 04/29043号パンフレット
【特許文献4】欧州特許 第156470号明細書
【特許文献5】WO 01/16108号パンフレット
【特許文献6】WO 02/066475号パンフレット
【特許文献7】WO 05/085185号パンフレット
【非特許文献1】J. Fluor. Chem., 125(2004),767
【非特許文献2】Synthesis, (2003),185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち、毒性の高い還元剤を使用せず、含フッ素N,O−アセタール化合物の還元により含フッ素アミン化合物を高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑み本発明者らは鋭意検討した結果、含フッ素N,O−アセタール化合物を特定の還元剤を用いて還元することにより、高収率で含フッ素アミン化合物が得られることを見出し本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は下記要旨に関わるものである。
【0007】
1.下記一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Xはフッ素原子または水素原子、nは1〜10の整数、R1は、炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルキル基、R2、R3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜30のアリール基を表す。なお、R2、R3は末端で、ヘテロ原子の介在あるいは非介在下で、互いに結合し環状構造をなしていてもよい。)
で表される含フッ素N,O−アセタール化合物を、ボランアミン錯体により還元し、下記一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、X、n及びR2、R3は前記定義に同じ。)
で表される含フッ素アミン化合物を製造する方法。
【0012】
2.ボランアミン錯体が下記一般式(3)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R4〜R8は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアミノ基を表す。)
で表されるボランピリジン錯体であることを特徴とする1項に記載の含フッ素アミン化合物の製造方法。
【0015】
3.ボランアミン錯体が、2−ピコリンボランであることを特徴とする1項または2項記載の含フッ素アミン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、毒性の高い還元剤を使用せず、含フッ素N,O−アセタール化合物の還元により含フッ素アミン化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、前記一般式(1)の含フッ素N,O−アセタール化合物を原料として用いる。
【0018】
一般式(1)においてX(CF)n−は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基またはヒドロパーフルオロアルキル基であり、例えば、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基及びパーフルオロデシル基等が挙げられる。
【0019】
は炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基等を挙げることができる。また、式中、R2、 R3は、同一または非同一であり、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜30のアリール基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基及びエイコサン基等を挙げることができる。アルキル基の置換基としては、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ケトン基、エステル基、カルボン酸基、アルキルチオ基、チオール基、シアノ基、ニトロ基またはハロゲン原子等を挙げることができる。炭素数6〜30のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基等を挙げることができる。アリール基の置換基としては、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ケトン基、エステル基、カルボン酸基、アルキルチオ基、チオール基、シアノ基、ニトロ基またはハロゲン原子等を挙げることができる。また、R2とR3は、ヘテロ原子の介在または非介在下、互いに結合し環状構造をなしていてもよい。このような、含フッ素N,O−アセタール化合物の一例として、例えば、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)アミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)メチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−エトキシエチル)メチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−ブトキシエチル)メチルアミン、N−(2,2−ジフルオロ−1−メトキシエチル)メチルアミン、N−(2,2,3,3−テトラフルオロ−1−メトキシプロピル)メチルアミン、N−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−メトキシプロピル)メチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)エチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−n−プロピルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)イソプロピルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−n−ブチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)ベンジルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−2−メトキシエチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−2−クロロエチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−ジメチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)ジエチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)ジ−n−プロピルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−ジ−n−ブチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−アニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−2−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−3−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−4−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−4−クロロアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−4−シアノアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N−メチルアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N−エチルアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N−メチル−4−メチルアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N−メチル−4−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1−ナフチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)インドリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)ピペリジン、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N’−フェニルピペラジンおよびN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)モルホリン等を挙げることができる。
【0020】
これら含フッ素N,O−アセタール化合物は、アミン化合物と含フッ素アルデヒドヘミアセタールから合成することができる。J. Fluor. Chem., 125(2004)767 には、1級芳香族アミンと含フッ素アルデヒドヘミアセタールを酸触媒の存在下、アルコール中で反応させることにより含フッ素N,O−アセタール化合物が合成する方法が述べられている。Synthesis, (2003),185 には、2級アミン化合物と含フッ素アルデヒドヘミアセタールを反応させ、ヘミアミナールを生成させた後、塩基及びアルキルハライドと反応させて含フッ素N,O−アセタール化合物を合成する方法が述べられている。また、2級アミンと含フッ素アルデヒドヘミアセタールを非極性溶媒中、加熱条件下で反応させることによっても含フッ素N,O−アセタール化合物を生成させることが可能である。
【0021】
本発明方法により得られる含フッ素アミン化合物は、前記一般式(2)で表され、例えば、(2,2,2−トリフルオロエチル)アミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルアミン、N−(2,2−ジフルオロエチル)メチルアミン、N−(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチルアミン、N−(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)メチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)エチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−n−プロピルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)イソプロピルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−n−ブチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)ベンジルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−2−メトキシエチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−2−クロロエチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)ジエチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)ジ−n−プロピルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)ジ−n−ブチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)アニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−2−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−3−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−4−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−4−クロロアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−4−シアノアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−メチルアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−エチルアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−メチル−4−メチルアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−メチル−4−メトキシアニリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1−ナフチルアミン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)インドリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、N−(2,2,2−トリフルオロ−エチル)ピペリジン、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N’−フェニルピペラジンおよびN−(2,2,2−トリフルオロエチル)モルホリン等を挙げることができるが、前記一般式(2)に包含される含フッ素アミン化合物であればこれらの例示に限定されることはない。
【0022】
本発明では、含フッ素N,O−アセタール化合物をボランアミン錯体と反応させ還元して含フッ素アミンを合成する。ボランアミン錯体を使用することにより、他の還元剤では還元反応を行うことが困難な含フッ素N,O−アセタールを還元し、目的とする含フッ素アミンを得ることができる。例えば、オルト位に置換基を有する1級アニリン類から誘導された含フッ素N,O−アセタール化合物、あるいは、2級アミンから誘導された含フッ素N,O−アセタール化合物等は、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤では全く還元することができないのに対し、ボランアミン錯体を用いると収率よく還元反応を行うことができる。
【0023】
ボランアミン錯体としては、メチルアミンボラン、エチルアミンボラン、t−ブチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンアミン、トリエチルアミンボラン等のボラン脂肪族アミン錯体、ジエチルアニリンボラン等のボラン芳香族アミン錯体及び一般式(3)で示されるボランピリジン錯体等を挙げることができる。一般式(3)において、R〜Rは、同一または非同一であり、水素原子、メチル基、エチル基等のアルキル基またはアミノ基である。一般式(3)のボランピリジン錯体としては、ピリジンボラン、2−ピコリンボラン、3−ピコリンボラン、4−ピコリンボラン、2,4−ルチジンボラン、2−アミノピリジンボラン等が挙げられる。これらボランアミン錯体のうち、一般式(3)のボランピリジン錯体は、含フッ素アミン化合物の収率の面で優れ、特に、2−ピコリンボランはボランピリジン錯体安全性に関わる取り扱いの面において利点を有する。ボランアミン錯体の使用量は、含フッ素N,O−アセタール化合物に対し、モル比で0.5〜10倍である。
【0024】
また、還元反応を行う際、溶媒の不在下で反応させることもできるが、通常、溶媒を使用する。溶媒としては特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール及びn−プロパノール等のアルコール類、ヘキサン等のアルカン類、トルエン等の芳香族化合物類、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類等を挙げることができる。溶媒の使用量は通常含フッ素N,O−アセタールに対し、重量比で1〜50倍である。
【0025】
また、本発明の方法では酸を存在させて還元反応を行ってもよい。酸の存在により収率が向上する場合がある。酸としては液体状の酸、固体状の酸のいずれを使用してもよく、液体状の酸としては、酢酸、プロピオン酸及びトリフルオロ酢酸等のカルボン酸類、メタンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、硫酸、燐酸及び塩酸等の鉱酸類または、三フッ化ホウ素エーテル錯塩及び四塩化チタン等のルイス酸等を挙げることができる。固体状の酸としては、陽イオン交換樹脂、硫酸化ジルコニア及びヘテロポリ酸等を挙げることができる。この際の酸触媒の使用量は、N,O−アセタール化合物に対し、モル比で0.01〜100倍である。特に、液体状の酸を使用する場合は、酸を溶媒として用いることも有効である。
【0026】
また、還元反応を行う際の反応温度は、−20℃〜200℃、好ましくは0℃〜150℃である。反応時間は温度によって影響されるが、通常、1分から100時間である。
【0027】
還元反応後、公知の抽出法、蒸留法、晶析法またはクロマトグラフ等により含フッ素アミン化合物を単離することができる。
【0028】
実施例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
参考例1 N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−2−メトキシアニリンの 合成
硝子製反応器にトリフルオロアセトアルデヒド 2.11g(16.2mmol)、2−メトキシアニリン 500mg(4.06mmol)、メタノール 10ml及びp−トルエンスルホン酸1水和物 20mgを入れ、4時間還流させた。反応後、炭酸水素ナトリウム水溶液 30mlを添加し、酢酸エチル(30ml×2)で抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧蒸去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:10)で精製し、N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−2−メトキシアニリン 765mg(収率 80%)を得た。
【0030】
実施例1
硝子製反応器にN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−2−メトキシアニリン 235mg(1.0mmol)、酢酸2.5mlを入れ、2−ピコリンボラン 128mg(1.2mmol)を加え室温で1hr攪拌した。反応液に10%塩酸 10mlを加え30分攪拌した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及び固体状の炭酸ナトリウムを添加し中和した。溶液を酢酸エチル(20ml×2)で抽出した後、抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶媒を減圧蒸去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:4)で精製し、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−2−メトキシアニリン 136mg(収率 66%)を得た。
IR (neat) : 3440, 2950, 2850, 1610, 1605, 1520, 1500, 1400, 1280-1260, 1220, 1165, 1060, 960, 830, 770, 695 cm-1
1H -NMR (270 MHz, CDCl3) δ 3.72-3.79 (m, 2H, CH2), 3.78 (s, 3H, CH3), 3.94 (brs, 1H, NH), 6.23-6.43 (m, 3H, Ar-H), 7.09-7.18 (m, 1H, Ar-H)
【0031】
参考例2
硝子製反応器にN−メチルアニリン300mg (2.8mmol)、トルエン6 ml、トリフルオロアセトアルデヒドメチルヘミアセタール 1.46g(112 mmol)を入れ、130℃で4時間加熱した。反応後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン1:20)で精製し、N,O−アセタール化合物であるN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N−メチルアニリン 421mg(収率69%)を得た。
IR (neat): 3000, 2950, 2830, 1610, 1510, 1460, 1410, 1350, 1320, 1300, 1280, 1220, 1180, 1150, 1120, 1080, 1040, 1010, 950, 870, 810, 760, 720, 700, 640 cm-1
1H-NMR (270 MHz, CDCl3) δ 2.92 (s, 3H, CH3), 3.34 (s, 3H, CH3), 5.08 -5.14 (q, 1H, CH), 6.87 -7.33 (m, 5H, Ar-H)
EI-MS m/z 219 (M+ 27.14), 216 (1.17), 188 (39.51), 168 (3.44), 150 (100.00), 135 (6.33), 113 (3.26), 106 (12.88), 91 (4.34), 77 (19.73), 63 (3.60), 51 (4.74)
【0032】
実施例2
硝子製反応器にN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N−メチルアニリン 100mg(0.46mmol)、酢酸2mlを入れ、2−ピコリンボラン 59mg(0.65mmol)を加え室温で1hr攪拌した。反応液に10%塩酸 5mlを加え30分攪拌した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及30mlを添加し中和した。溶液を酢酸エチル(20ml×2)で抽出した後、抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶媒を減圧蒸去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:4)で精製し、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−メチルアニリン 53mg(収率 72%)を得た。
IR (neat) : 1610, 1510, 1380, 1170, 1150, 1100, 1000, 980, 830, 760, 700, 670 cm-1
1H-NMR (270 MHz, CDCl3): 3.05 (s, 3H, CH3), 3.81 -3.90 (q, 2H, CH2), 6.79 -6.83 (m, 3H, Ar-H), 7.24 -7.29 (m, 2H, Ar-H)
EI-MS m/z 189 (M+ 46.68), 120 (100.00), 105 (12.94), 104 (11.95), 77 (16.78)
【0033】
参考例3 N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリンの合成
硝子製反応器に1,2,3,4−テトラヒドロキノリン 504mg(3.8mmol) 、トルエン25ml、トリフルオロアセトアルデヒドメチルヘミアセタール 1.97g(15.1mmol) 及び p−トルエンスルホン酸1水和物 20mgを入れ、90℃で2時間加熱した。 反応後、酢酸エチル(20ml)を加え、この溶液を 10%炭酸水素ナトリウム水溶液(20ml×2)、次いで飽和食塩水(20ml)で洗い芒硝乾燥した。溶媒を減圧蒸去し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン1:4)で精製し、N,O−アセタール化合物であるN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン 695mg(収率 75%)を得た。
IR (neat) : 2950, 2930, 1610, 1510, 1310, 1270, 1150, 750 cm-1
1H -NMR (270 MHz, CDCl3) δ 1.81-2.04 (m, 2H, CH2), 2.75-2.89 (m, 2H, CH2), 3.17-3.26 (m, 1H, CH), 3.40 (s, 3H, CH3), 3.44-3.53 (m, 1H, CH), 5.22 (q, 1H, CH), 6.71-6.78 (m, 2H, Ar-H), 7.02-7.11 (m, 2H, Ar-H)
EI-MS m/z 245 (M+, 36.03), 214 (22.63), 176 (100.00)
【0034】
実施例3
硝子製反応器にN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン 204mg(0.83mmol)、酢酸2mlを入れ、2−ピコリンボラン 182mg(1.70mmol)を加え、140℃で30分攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に10%塩酸 10mlを加え30分攪拌した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及30mlを添加し中和した。溶液を酢酸エチル(20ml×2)で抽出した後、抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶媒を減圧蒸去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:4)で精製し、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン 164mg(収率 92%)を得た。
EI-MS m/z 215 (M+, 58.83), 146 (100.00)
【0035】
参考例4 N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,7,8−テトラヒドロイソキノリンの合成
硝子製反応器に1,2,7,8−テトラヒドロイソキノリン 133mg(1.0mmol)、トルエン10 ml、トリフルオロアセトアルデヒドメチルヘミアセタール521mg(4.0mmol)、p−トルエンスルホン酸1水和物 10mgを加え、90℃で2.5時間加熱した。冷却後、反応液に10%炭酸水素ナトリウム水溶液20mlを加え、水層をトルエン(20ml×2)で抽出した。トルエン層を飽和食塩水(20ml)で洗浄し芒硝乾燥した。溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:4)で精製し、N,O−アセタール化合物であるN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,7,8−テトラヒドロイソキノリン235mg(収率96%)を得た。
IR (neat) : 2950, 2850, 1280, 1170, 1150, 1110 cm-1
1H -NMR (270 MHz, CDCl3) δ 2.86 (t, 2H, CH2), 2.98-3.07 (m, 1H, CH), 3.14-3.22 (m, 1H, CH), 3.47 (s, 3H, CH3), 3.83 (d, 1H, CH), 4.03 (d, 1H, CH), 4.25 (q, 1H, CH), 7.00-7.15 (m, 4H, Ar-H)
EI-MS m/z 245 (M+, 27.14), 244 (22.20)214 (22.63), 176 (100.00)
【0036】
実施例4
硝子製反応器にN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−1,2,7,8−テトラヒドロイソキノリン 212mg(0.865mmol)、酢酸3.5mlを入れ、2−ピコリンボラン 112mg(1.04mmol)を加え室温で1hr攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に10%塩酸 10mlを加え30分攪拌した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及30mlを添加し中和した。溶液を酢酸エチル(20ml×2)で抽出した後、抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶媒を減圧蒸去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:4)で精製し、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,2,7,8−テトラヒドロイソキノリン 169mg(収率 91%)を得た。
EI-MS m/z 215 (M+, 74.20), 214 (100.00), 146 (36.98), 104 (86.70)
【0037】
参考例5 N−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N’−フェニルピペラジンの合成
硝子製反応器に1−フェニルピペラジン517mg(3.2mmol) 、トルエン25ml、トリフルオロアセトアルデヒドメチルヘミアセタール 1.97g(15.1mmol)及びp−トルエンスルホン酸1水和物 30mgを入れ、90℃で2時間加熱した。 反応後、酢酸エチル20mlを加え、この溶液を 10%炭酸水素ナトリウム水溶液(20 mL×2)、次いで飽和食塩水(20ml)で洗い芒硝乾燥した。溶媒を減圧蒸去し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:4)にて精製し、N,O−アセタール化合物であるN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N’−フェニルピペラジン 725mg(収率83%)を得た。
IR (neat) : 2950, 2900, 2830, 1605, 1505, 1460, 1280, 1240, 1180, 1160, 1140, 1020, 760, 690 cm-1
1H -NMR (270 MHz, CDCl3) δ 2.90-2.97 (m, 2H, CH2), 3.03-3.12 (m, 2H, CH2), 3.15-3.20 (m, 4H, CH2 × 2), 3.51 (s, 3H, CH3), 4.12 ((q, 1H, CH), 6.85-7.00 (m, 3H, Ar-H), 7.24-7.31 (m, 2H, Ar-H)
EI-MS m/z 274 (M+, 100.00), 259 (22.47), 243 (30.92), 205 (69.23), 132 (27.29)105 (42.65), 104 (25.22)
【0038】
実施例5
硝子製反応器にN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−N’−フェニルピペラジン 195mg(0.71mmol)、酢酸2mlを入れ、2−ピコリンボラン152mg(1.42mmol)を加え、140℃で30分攪拌した。反応液に10%塩酸 10mlを加え30分攪拌した後、10%炭酸ナトリウム水溶液及40mlを添加し中和した。溶液を酢酸エチル(20ml×2)で抽出した後、抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶媒を減圧蒸去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:n−ヘキサン 1:4)で精製し、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N’−フェニルピペラジン 166mg(収率 96%)を得た。
元素分析理論値 C, 59.01; H, 6.19; N, 11.47 実測値 C, 59.04; H, 6.23; N, 11.72
IR (KBr) : 2850, 2830, 1610, 1515, 1460, 1320, 1270, 1170, 1150, 1105, 760, 690 cm-1
1H -NMR (270 MHz, CDCl3) δ 2.83 (t, 4H, CH2 × 2), 3.03 (q, 2H, CH2), 3.21 (t, 4H, CH2× 2), 6.84-6.94 (m, 3H, Ar-H), 7.23-7.30 (m, 2H, Ar-H)
EI-MS m/z 244 (M+, 100.00), 132 (18.89), 106(24.17), 105 (64.74)
【0039】
比較例1
溶媒としてメタノール 5mlを使用し、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム 114mg(3.0mmol)を用い、還流条件下、反応時間を2時間とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。実施例1と同様にして精製を行ったが、目的とするN−(2,2,2−トリフルオロエチル)−2−メトキシアニリンは得られず、原料であるN−(2,2,2−トリフルオロ−1−メトキシエチル)−2−メトキシアニリンが202mg(回収率86%)で得られた。
【0040】
比較例2
溶媒としてメタノール 5mlを使用し、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム 52mg(1.4mmol)を用い、還流条件下、反応時間を2時間とした以外は実施例2と同様にして反応を行った。実施例2と同様にして精製を行ったが、目的とするN−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−メチルアニリンは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、毒性の高い還元剤を使用せず、含フッ素N,O−アセタール化合物の還元により含フッ素アミン化合物を高収率で製造することができる。含フッ素アミン化合物は医農薬中間体、電子材料用原料として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Xはフッ素原子または水素原子、nは1〜10の整数、R1は、炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルキル基、R2、R3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜30のアリール基を表す。なお、R2、R3は末端で、ヘテロ原子の介在あるいは非介在下で、互いに結合し環状構造をなしていてもよい。)
で表される含フッ素N,O−アセタール化合物を、ボランアミン錯体により還元し、下記一般式(2)
【化2】

(式中、X、n及びR2、R3は前記定義に同じ。)
で表される含フッ素アミン化合物を製造する方法。
【請求項2】
ボランアミン錯体が下記一般式(3)
【化3】

(式中、R4〜R8は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアミノ基を表す。)
で表されるボランピリジン錯体であることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素アミン化合物の製造方法。
【請求項3】
ボランアミン錯体が、2−ピコリンボランであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の含フッ素アミン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−29765(P2009−29765A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198241(P2007−198241)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日 平成19年2月1日 掲載アドレス http://nenkai.pharm.or.jp/127/web/ http://nenkai.pharm.or.jp/127/pc/ipdfview.asp?i=2744
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【出願人】(000159065)
【Fターム(参考)】