説明

含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法及び安定化された含フッ素アリルブロミド化合物組成物

【課題】含フッ素アリルブロミド化合物を保存する際に、二量体化、異性化及び分解を抑制し含フッ素アリルブロミド化合物を長期間高純度に保持できる新たな含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法および安定化された組成物を提供する。
【解決手段】含フッ素アリルブロミド化合物にフェノチアジン、TEMPOおよびBHTからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を添加する含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法及び安定化された含フッ素アリルブロミド化合物組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、染料、香料その他の有機合成原料として有用であり、工業的に重要な含フッ素アリルブロミド化合物の安定化法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペンなどの含フッ素アリルブロミド化合物は、医薬、農薬、染料、香料その他の有機合成原料として使用されている。しかしながら、含フッ素アリルブロミド化合物は、容易に二量体化、異性化及び分解が進行することがあり、特に二量体、異性体類の増加は、含フッ素アリルブロミド化合物の急激な純度低下をもたらし、その商品価値を著しく損なってしまう。
このように含フッ素アリルブロミド化合物は保存安定性が悪いことから、医薬、農薬、染料、香料等のファインケミカル製品を製造するにあたり、かかる二量体、異性体類を含んだ含フッ素アリルブロミド化合物を使用することは、品質の低下、収率の低下または不純物の増加等の弊害をもたらすことになる。従って、安定化剤を用いることにより含フッ素アリルブロミド化合物の二量体化、異性化及び分解を抑制し、含フッ素アリルブロミド化合物を高純度に保持しておくことは不可欠なことであり、含フッ素アリルブロミド化合物の保存時の安定化に関する方法を確立することが望まれている。
【0003】
ところで、スチレンなどのビニル化合物に、ピペリジン−1−オキシル塩を添加して安定化することが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、2,2−ビス(4−アクリロキシフェニル)プロパンなどの芳香環を含むラジカル重合可能な多官能ビニル単量体にN−ニトロフェニルヒドロキシルアミン塩化合物を添加して安定化させることが提案されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、含フッ素アリルブロミド化合物の安定化については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01−165534号公報
【特許文献2】特開昭63−170401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は含フッ素アリルブロミド化合物を保存する際に、二量体化、異性化及び分解を抑制し、含フッ素アリルブロミド化合物を長期間高純度に保持できる新たな含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法および安定化された含フッ素アリルブロミド化合物組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、従来の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、含フッ素アリルブロミド化合物に安定化剤としてフェノチアジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル(以下、TEMPOと略す)およびジブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTと略す)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することにより、前記課題を解決し、含フッ素アリルブロミド化合物を長期間高純度に保持することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R,Rは各々独立して水素原子または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状または環状のアルキル基を示し、R,Rが結合した環状構造も含む。Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。nは1または2を示す。)
で示される含フッ素アリルブロミド化合物に、フェノチアジン、TEMPOおよびBHTからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を添加することを特徴とする含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法および安定化された含フッ素アリルブロミド化合物組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次の効果を奏することができる。
(1)含フッ素アリルブロミド化合物の保存において、含フッ素アリルブロミド化合物が二量体化するのを抑制できる。
(2)含フッ素アリルブロミド化合物の保存において、含フッ素アリルブロミド化合物が異性化するのを抑制できる。
(3)含フッ素アリルブロミド化合物の保存において、含フッ素アリルブロミド化合物が分解するのを抑制できる。
(4)含フッ素アリルブロミド化合物の保存において、含フッ素アリルブロミド化合物を長期間高純度に保持できる。
本発明では、これらの効果により、工業上有用な新たな含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法および安定化された含フッ素アリルブロミド化合物組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
前記一般式(1)中、R,Rは各々独立して水素原子または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状または環状のアルキル基を示すが、アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1−エチルプロピル、シクロヘキシル、シクロペンチル、n−ヘキシル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピルを挙げることができる。
前記一般式(1)中、X水素原子またはハロゲン原子を示すが、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。
【0011】
本発明で安定化される一般式(1)で表される含フッ素アリルブロミド化合物は、例えば、2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ブテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヘプテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−2−オクテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ノネン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ブテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1,1−ジフルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、2,3−ジブロモ−3−フルオロプロペン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−2−ブテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−2−ヘプテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−2−オクテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−2−ノネン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ブテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1,2−ジブロモ−1−フルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−3,3−ジフルオロプロペン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ブテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヘプテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−オクテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ノネン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−3−フルオロプロペン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ブテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヘプテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−オクテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ノネン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−2,3,3−トリフルオロプロペン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−2−ブテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−2−ヘプテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−2−オクテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−2−ノネン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1,2−トリフルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−2,3−ジフルオロプロペン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−2−ブテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−2−ペンテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−2−ヘプテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−2−オクテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−2−ノネン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,2−ジフルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−2−クロロ−3,3−ジフルオロプロペン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−2−ブテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−2−ヘプテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−2−オクテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−2−ノネン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1,1−ジフルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−2−クロロ−3−フルオロプロペン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−2−ブテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−2−ヘプテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−2−オクテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−2−ノネン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−2−クロロ−1−フルオロ−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−3,3−ジフルオロ−2−ヨードプロペン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−2−ブテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−2−ヘプテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−2−オクテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−2−ノネン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ヨード−2−シクロヘキシリデンプロパン、 3−ブロモ−3−フルオロ−2−ヨードプロペン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−2−ブテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−2−ヘプテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−2−オクテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−2−ノネン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ブテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−エチル−2−ペンテン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−エチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−メチル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−3−プロピル−2−ヘキセン、1−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨード−2−シクロヘキシリデンプロパンなどが挙げられ、これらのうちでも2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペンが好ましく用いられる。
【0012】
本発明に使用する安定化剤は、フェノチアジン、TEMPOおよびBHTからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、特にフェノチアジンが好ましい。本発明に使用する安定化剤の添加量は、含フッ素アリルブロミド化合物に対して0.0001重量%〜5.0重量%の範囲であり、好ましくは0.0005重量%〜1.0重量%の範囲、さらに0.001重量%〜0.05重量%の範囲が実用上好ましい。0.0001重量%より少ないと十分な安定化効果が得られないことがある。一方、5.0重量%より多い添加量では、含フッ素アリルブロミド化合物以外の化合物が多量に含有することとなり、医薬、農薬、染料、香料等のファインケミカル製品の原料として使用するには不適当となることがあり、また、経済的にも好ましくないことがある。
【0013】
安定化剤を添加する時期は特に限定されるものではなく、含フッ素アリルブロミド化合物の蒸留又は濃縮後であっても良いが、蒸留又は濃縮時に、あらかじめ含フッ素アリルブロミド化合物の受器に仕込み、その後、蒸留又は濃縮を行うことも出来る。また、含フッ素アリルブロミド化合物の純度、濃度又は不純物組成に関係なく安定化剤を添加しても良く、含フッ素アリルブロミド化合物を溶媒に溶解させた状態で添加を行っても良い。
本発明において、含フッ素アリルブロミド化合物を保存する温度範囲として、−30〜70℃の範囲が好ましく、さらに−20〜10℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の概要を示すもので、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、二量体、分解生成物は、以下の、ガスクロマトグラフィーによる標品の測定及びGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)にて確認した。又、組成分析はいずれもガスクロマトグラフィーを用いて行った。
【0015】
[測定機器]
(1)ガスクロマトグラフィー測定に用いた装置を以下に示す。
装置:GC−14B((株)島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム TC−1(GLサイエンス(株)製)(0.32mmI.D.×30m)
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
(2)GC−MS測定に用いた装置を以下に示す。
装置:GCMS−QP2010Plus((株)島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム TC−1(GLサイエンス(株)製)(0.32mmI.D.×30m)
【0016】
実施例1〜5、比較例
1,2,3−トリブロモ−1,1−ジフルオロプロパン(50g:0.16モル)およびジクロロメタン70mLを温度計および磁気攪拌子を装着した四つ口フラスコに入れ、攪拌しながら内温を0℃まで冷却し、トリエチルアミン(18g:0.18モル)を30分かけて滴下した。更に2時間反応し、得られた反応液を水洗後無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧蒸留を行った。その結果、2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペンを得た。ガスクロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペンの純度は97.0%であり、二量体、異性体および分解物の合計量は3.0%であった。
上記の2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペンに安定化剤を添加し、保存安定性を試験した結果を表1に示す。
なお、表1中、フェニチアジンは、和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
TEMPOは、和光純薬工業株式会社製の試薬特級を用いた。
BHTは、和光純薬工業株式会社製の試薬特級を用いた。
【0017】
【表1】

【0018】
以上から、実施例1〜5は比較例と比べ、二量体、異性体及び分解物の生成を抑制できることが分かる。実施例では比較例よりも試験時間が長いにも拘らず、二量体、異性体及び分解物の生成を抑制できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、含フッ素アリルブロミド化合物を保存する際に、二量体化、異性化及び分解を抑制し含フッ素アリルブロミド化合物を長期間高純度に保持できるので、このようにして保存された含フッ素アリルブロミド化合物は、医薬、農薬、染料、香料その他有機合成原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R,Rは各々独立して水素原子または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状または環状のアルキル基を示し、R,Rが結合した環状構造も含む。Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。nは1または2を示す。)
で示される含フッ素アリルブロミド化合物に、フェノチアジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルおよびジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を添加することを特徴とする、含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法。
【請求項2】
安定化剤の添加量が、含フッ素アリルブロミド化合物に対して0.0001〜5.0重量%、である請求項1記載の含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法。
【請求項3】
含フッ素アリルブロミド化合物が、2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペンである請求項1または請求項2記載の含フッ素アリルブロミド化合物の安定化方法。
【請求項4】
下記一般式(1)
【化2】

(式中、R,Rは各々独立して水素原子または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐状または環状のアルキル基を示し、R,Rが結合した環状構造も含む。Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。nは1または2を示す。)
で示される含フッ素アリルブロミド化合物と、フェノチアジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルおよびジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤からなることを特徴とする安定化された含フッ素アリルブロミド化合物組成物。
【請求項5】
安定化剤の添加量が、含フッ素アリルブロミド化合物に対して0.0001〜5.0重量%である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
含フッ素アリルブロミド化合物が、2,3−ジブロモ−3,3−ジフルオロプロペンである請求項4または請求項5記載の組成物。

【公開番号】特開2013−103887(P2013−103887A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246998(P2011−246998)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】