説明

含フッ素アルキル基を有するアレンの製造方法

【課題】安全かつ容易で高選択的に主生成物として生産し得る含フッ素アルキル基を有するアレンの製造方法を提供する。
【解決手段】非プロトン性溶媒中、塩化トリメチルシラン存在下または非存在下でヨウ化アリルアルコール化合物由来のカルボン酸もしくはスルホン酸エステルを亜鉛と反応させて、下記一般式(1)で示される含フッ素アルキル基を有するアレンを得る。


(式中、Rは炭素数1〜8の含フッ素アルキル基を表わし、R,Rはそれぞれ水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、ベンジル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含フッ素アルキル基を有するアレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特異な1,2-プロパンジエン骨格を含むアレンは、工業材料として汎用的に用いられている有用な化合物であるにもかかわらず、パーフルオロアルキル基を有するアレンに関しては、論文や特許によって公知になっているものが比較的少ない(非特許文献1-4参照)。ところで、パーフルオロアルキル基は、電子供与性である一般のアルキル基と反対に強い電子求引性を示すことから、パーフルオロアルキル基を含むアレンに存在する2つの二重結合の性質が大きく異なり、位置選択的な反応へと展開していくことが期待されるため、パーフルオロアルキルキル基を有するアレンを簡便に製造する方法を開発することは重要な課題の一つと捉えることができる。
【0003】
後述する含フッ素アルキル基を有するアレンの製造方法に関しては、α位にトリフルオロメチル基を有するプロパルギルアルコール由来のメシラートとGrignard試薬のパラジウム触媒存在下でのカップリング反応や(非特許文献1,2参照)、これと類似のトシラートやハロゲン化プロパルギルに対するパーフルオロアルキル化銅(CF(CFCu)の付加(非特許文献3参照)、更にはα位にトリフルオロメチル基を有するプロパルギルアルコールを原料としたJohnson-Claisen転位反応によって調製される方法(非特許文献4参照)などが公知である。しかし、これらの中でも特に、式1でRがCFでRが水素である1,3-二置換型のアレンに関しては、わずかにR=Meの1例が知られているのみである(非特許文献3参照)。
【0004】
1,3-二置換型を始めとする各種アレンの合成に使用されたパーフルオロアルキル化銅の中でも特にCFCuは(非特許文献3参照)、量論上CBrとカドミウムから生成するCFBrCdBr分子から形成されるため、最終的には倍量の金属ハロゲン化物が廃棄物となって生成してしまうし、毒性などの点を考慮に入れると、カドミウム金属を利用すること自体にも問題はある。また、他の三置換型アレンの調製例においては(非特許文献1,2参照)、空気中で取り扱うと容易に失活してしまうため、工業的プロセスには不向きであるパラジウム触媒が必須である点が問題となる。
【0005】
従って、安全かつ容易に、収率ならびに再現性良く高選択的に、後述する一般式(1)で示されるアレンを主生成物として与える製造方法が望まれていた。
【非特許文献1】Coll.Czech.Chem.Commun.,67,1421(2002)
【非特許文献2】Chem.Lett.,1360(2000)
【非特許文献3】Tetrahedron Lett.,31,3699(1990)
【非特許文献4】Tetrahedron Lett.,26,219(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、安全かつ簡便に、また、収率良く高選択的に主生成物として製造することが可能な、含フッ素アルキル基を有するアレン類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ヨウ化アリルアルコール化合物を、対応するカルボン酸もしくはスルホン酸のエステルへと変換後、塩化トリアルキルシラン存在下又は非存在下に非プロトン性有機溶媒中還流条件にて亜鉛末で処理すれば、極めて速やかに、含フッ素アルキル基を有するアレンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は下記を要旨とするものである。
(1) 一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは炭素数1〜8の含フッ素有機基を表す。RならびにRはそれぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜12のアルキル基、ベンジル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。)
で示される二置換もしくは三置換型のアレンの製造方法であり、
一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R、R及びRは前記定義に同じ。)
で示されるヨウ化アリルアルコール化合物と酸無水物、スルホン酸無水物又はスルホニルクロリドを反応させて、一般式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R、R及びRは前記定義に同じであり、Rは水素原子、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜12のアルキル基、ベンジル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。Xは炭素又は硫黄を表し、Xが炭素の時にはnは1であり、Xが硫黄の時にはnは2である。)
で示されるカルボン酸もしくはスルホン酸のエステルを製造し、非プロトン性溶媒中で亜鉛と反応させて、上記一般式(1)に示した、含フッ素アルキル基を含む二もしくは三置換アレンを生成することを特徴とする含フッ素アルキル基を有するアレンの製造方法。
(2) 前記一般式(3)に示したカルボン酸もしくはスルホン酸のエステルと、一般式(4)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、X、X、ならびにXはそれぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子又は置換基を有してもよい直鎖状または分岐した炭素数1〜12のアルキル基、ベンジル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す)
で示される塩化トリアルキルシラン存在下に亜鉛と反応させて前記一般式(1)で示される二置換もしくは三置換型のアレンを製造することを特徴とする(1)に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、パーフルオロアルキル基を含むアレンの製造方法に関するものであり、非プロトン性溶媒中、塩化トリメチルシラン存在下で含フッ素アルキル基を有するヨウ化ビニル類と亜鉛のReformatsky型反応を経たβ脱離によって、前記一般式(1)で示される含フッ素アルキル基含有アレンを生成することを特徴とする製造方法である。
【0017】
前記一般式(1)で示されるアレン類、特にR=CFの1,3-二置換体については、我々の知る限りではR=CH、R=Hの例のみが過去に知られているだけである。その他の1,1,3-もしくは1,3,3-の三置換体や1,1,3,3-四置換体の合成は、酸素や水分に極めて不安定な遷移金属触媒を利用した経路が多い。また、R=CFの場合には、CFBrとカドミウムから得られるCFBrCdBrを経た不均化型反応でCFCuが調製されるが、反応の性質上、CFCu1分子を作るのにCFBrとカドミウムが2倍量必要なために、不要なハロゲン化金属が多量に副生することと、毒性の観点から問題が大きいカドミウムを使用する必要があることが大きな問題点となっている。
【0018】
本発明における製造方法は、従来法と比較して、単純に混合して短時間加熱するだけで、市販の亜鉛を希塩酸などで洗って活性化せずにそのまま使用することが可能であり、2等量と過剰に用いてはいるものの、余剰物は反応終了後に生成物とは廬別され、適当な溶媒等で洗浄すれば再使用も可能なので、工業的見地から見ても利用価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の一般式(1)中のRで表される炭素数1〜8の含フッ素有機基として、例えば
トリフルオロメチル基やペンタフルオロエチル基といったCF(CF(n=0〜7)という一般式で表される直鎖型のものだけでなく、ヘプタフルオロイソプロピル基のような分枝状のペルフルオロアルキル基等を挙げることができる。
【0021】
一般式(1)で示されるアレンにおいて、RならびにRは、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基であることが好ましい。アルキル基としては、特に制限するわけではないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等が代表的な例として挙げられる。アリール基は、単純な炭化水素であるフェニル基やナフタレニル基が代表例であり、アルコキシ基やハロゲンといった各種置換基が存在していても差し支えない。
【0022】
本発明の一般式(1)のR、R中、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜12のアルキル基としては、例えばメチル基やエチル基のような短いものから、ドデシル基のような長い直鎖型アルキル基を始め、イソプロピル基やtert-ブチル基のような分枝状のアルキル基、また、RとRの両者で-(CH-のように環を形成しているような場合などを挙げることができる。
【0023】
本発明の一般式(1)のR、R中、炭素数6〜10のアリール基としては、オルト、メタ、パラといった各種の様式の置換ベンゼン(置換基としては、塩素や臭素、ヨウ素といったハロゲンやメトキシ基に代表されるアルコキシ基)や、同じく様々な置換様式のナフタレン等を挙げることができる。
【0024】
一般式(1)で示される化合物の具体例としては、例えば4,4,4-トリフルオロ-1-(1-ナフチル)-2,3-ブタジエンや、1,1,1-トリフルオロ-6-フェニル-2,3-ヘキサジエン、1,1,1-トリフルオロ-2,3-ヘキサデカジエン、1-(4-ブロモフェニル)-4,4,4-トリフルオロ-2,3-ブタジエン、4,4,4-トリフルオロ-1-(2-メトキシフェニル)-2,3-ブタジエン、1,1,1-トリフルオロ-4-フェニル-2,3-ペンタジエンを挙げることができる。
【0025】
本発明は前記一般式(1)に示された含フッ素アルキル基を有するアレンの製造方法に関するものであり、前記一般式(2)で示されるヨウ化アリルアルコール化合物を、前記一般式(3)に示したカルボン酸もしくはスルホン酸エステルを経て、テトラヒドロフランやエーテルなどの非プロトン性溶媒中、一般式(4)に示した塩化トリアルキルシラン存在下又は非存在下、亜鉛と処理することで、前記一般式(1)で示されるアレンを生成することを特徴とする製造方法である。
【0026】
前記一般式(2)で示されるヨウ化アリルアルコール化合物は、公知文献(J.Org.Chem.,60,6046(1995))に従って、2-ブロモ-3,3,3-トリフルオロプロペンと2等量のリチウムジイソプロピルアミドから4,4,4-トリフルオロ-2-ブチン-1-オール類を製造し、これを公知文献(J.Org.Chem.,65,2003(2000))に従って酢酸溶媒中ヨウ化ナトリウムと反応させることにより調製される。
【0027】
一般式(2)で示されるヨウ化アリルアルコール化合物の具体例としては、例えば(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-(1-ナフチル)-2-ブテノールや、(Z)-6,6,6-トリフルオロ-4-ヨード-1-フェニル-4-ヘキセン-3-オール、(Z)-1,1,1-トリフルオロ-3-ヨード-2-ヘキサデセン-4-オール、(Z)-5,5,5-トリフルオロ-3-ヨード-2-フェニル-3-ペンテン-2-オール、(Z)-1-(4-ブロモフェニル)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-2-ブテノール、(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1,1-ジフェニル-2-ブテノール、(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-(2-メトキシフェニル)-2-ブテノールを挙げることができる。
【0028】
一般式(3)に示したカルボン酸もしくはスルホン酸エステルを製造するには、一般式(2)のヨウ化アリルアルコールと無水トリフルオロ酢酸のような酸無水物、スルホン酸無水物又はスルホニルクロリドを反応させればよい。
【0029】
前記一般式(3)で示される化合物の脱離基部分は、カルボン酸もしくはスルホン酸由来のエステルであることが好ましく、Xが炭素(C)である場合にはn=1であり、R3は水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、ベンジル基又は芳香族基を表し、その中でもパーフルオロアルキル基が好ましく、特に限定するわけではないが、トリフルオロメチル基やペンタフルオロエチル基等が挙げられる。また一方、Xが硫黄(S)である場合にはn=2であり、R3は同じく炭素数1〜10のアルキル基または芳香族基を表し、特に限定するわけではないが、一般的なパラトリル基やメチル基等が挙げられる。
【0030】
一般式(3)で示されるカルボン酸又はスルホン酸エステルの具体例としては、例えばエステルの中でも酢酸エステルとしては(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-(1-ナフチル)-2-ブテニル アセタートや、(Z)-6,6,6-トリフルオロ-4-ヨード-1-フェニル-4-ヘキセン-3-イル アセタート、(Z)-1,1,1-トリフルオロ-3-ヨード-2-ヘキサデセン-4-イル アセタート、(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-(2-メトキシフェニル)-2-ブテン-1-イル アセタート、(Z)-5,5,5-トリフルオロ-3-ヨード-2-フェニル-3-ペンテン-2-イル アセタート、また、トリフルオロ酢酸エステルとしては、(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-(1-ナフチル)-2-ブテニル トリフルオロアセタートや、(Z)-6,6,6-トリフルオロ-4-ヨード-1-フェニル-4-ヘキセン-3-イル トリフルオロアセタート、(Z)-1,1,1-トリフルオロ-3-ヨード-2-ヘキサデセン-4-イル トリフルオロアセタート、(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-(2-メトキシフェニル)-2-ブテン-1-イル トリフルオロアセタート、(Z)-5,5,5-トリフルオロ-3-ヨード-2-フェニル-3-ペンテン-2-イル トリフルオロアセタート、(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-(4-ブロモフェニル)-2-ブテン-1-イル トリフルオロアセタート、スルホン酸エステルとしては(Z)-6,6,6-トリフルオロ-4-ヨード-1-フェニル-4-ヘキセン-3-イル p-トルエンスルホナートや(Z)-6,6,6-トリフルオロ-4-ヨード-1-フェニル-4-ヘキセン-3-イル メタンスルホナート等を挙げることができる。
【0031】
一般式(3)の化合物から一般式(1)の化合物へと変換する際には、活性化剤として前記一般式(4)のような塩化トリアルキルシランを使用するが、ここでは塩化トリメチルシランや塩化トリエチルシラン、塩化tert-ブチルジメチルシラン、塩化ジメチルセキシルシランなどが好ましく、中でも特に、塩化トリメチルシランの使用が好ましい。
【0032】
本発明の一般式(1)で示される化合物を与える反応は、亜鉛もしくは亜鉛を含有する金属のいずれも使用可能であるが、形状としては粒状、塊状、箔状などの中でも分散性や表面積の大きさなどの面から粉末状のものが好ましい。なお、一般式(4)の塩化トリアルキルシランを用いる場合には市販品をそのまま用いることができるが、希塩酸洗浄などで亜鉛を活性化してあれば、塩化トリアルキルシランがなくても同様な収率ならびに選択性が発現する。
【0033】
本発明の一般式(1)に示した化合物を与える反応で用いる溶媒は、非プロトン性溶媒が好ましい。非プロトン性溶媒の具体例としてはジメトキシエタン(DME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DGM)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。中でも反応の収率が高く、また蒸留精製工程において反応生成物と溶媒の蒸留分離が容易である点から、テトラヒドロフランが好ましい。これらは単独で使用し得るのみならず、2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0034】
本発明で用いられる試薬はあらゆる慣用の方法に従って導入することができ、一般式(3)に示したカルボン酸もしくはスルホン酸由来のエステルと塩化トリアルキルシラン化合物を同時にまたは混合物として、溶媒および亜鉛から成る混合物に投入することができる。またこうしたエステル化合物を溶媒、亜鉛、塩化トリアルキルシラン化合物から成る三成分の混合物中に投入すること、あるいは塩化トリアルキルシラン化合物を溶媒、亜鉛、エステル化合物から成る三成分の混合物中に投入することも可能である。
【0035】
本発明で使用する試薬の量は、一般式(3)のエステル化合物1molに対して一般式(4)の塩化トリアルキルシラン化合物0.1〜10molであるのが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1molである。またエステル化合物1molに対して亜鉛は1〜10molであるのが好ましく、さらに好ましくは1〜2molである。溶媒量は特に制限するわけではないが、使用するエステル化合物1molに対して溶媒0.1〜30Lが好ましく、1〜5Lがさらに好ましい。
【0036】
本発明の反応は窒素、アルゴン等の不活性ガス気流下で行うのが好ましい。反応温度は30℃〜120℃で可能であるが、60℃〜100℃が好ましい。温度が60℃未満であると反応速度が遅いため、反応が充分に進行しない傾向があるために好ましくない。また120℃を超えると、生成物であるアレンが熱的に副反応を起こすためか収率が低下する傾向があるために好ましくない。
【0037】
反応器は大気開放型の反応器、またはオートクレーブ等の密閉型の反応器のいずれも可能である。反応圧力は大気圧下、または加圧下のいずれも可能であるが、0〜0.20MPa(ゲージ圧力)が好ましい。
【0038】
反応生成物は直接、または水を加えた後に精製することが可能である。常圧下、または減圧下で蒸留することにより単離および精製することができ、本発明の目的化合物を得ることができる。
実施例
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
ヨウ化アリルアルコール化合物の合成
還流冷却管を備えた50mL二口フラスコ内をアルゴン置換し、そこにヨウ化ナトリウム6.385g(42.6mmol)、続いて42mLの酢酸に溶解させた4,4,4-トリフルオロ-1-ナフチル-2-ブチン-1-オール6.98g(27.9mmol)を加え、70℃で8時間攪拌した。その後、水50mLを含むビーカーに反応物を加え、炭酸ナトリウム77.2gを用いて中和した。この溶液を70mLの酢酸エチルで2度抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後濃縮し、ヘキサンより再結晶を行い、望む生成物である(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-ナフチル-2-ブテン-1-オールを8.508g(22.5mmol)得た。収率は81%、融点は117.0〜118.2℃であった。
H NMR(CDCl,内部基準TMS)δ2.614(1H,d,J=4.8Hz),6.704(1H,m),7.013(1H,dq,J=1.8,7.5Hz),7.48〜7.63(4H,m),7.89〜7.93(2H,m),8.081(1H,d,J=8.4Hz).
13C NMR(CDCl,内部基準TMS)δ62.280,114.063(q,J=255.9Hz),118.447(q,J=6.5Hz),124.505(q,J=35.7Hz),123.211,124.991,125.148,126.260,126.944,128.914,130.126,130.241,132.854,133.966.
【実施例2】
【0040】
カルボン酸エステルを経由したアレンの合成
100mL二口フラスコ内をアルゴン置換し、そこに(Z)-4,4,4-トリフルオロ-2-ヨード-1-ナフチル-2-ブテン-1-オール7.562g(20.0mmol)と塩化メチレン50mLを加えた後、氷浴で0℃に冷却した。この溶液に、無水トリフルオロ酢酸4.2mL(30mmol)とトリエチルアミン4.2mL(30mmol)を滴下し、その温度で5時間攪拌した。水100mLを加えて反応を停止させた後に、200mLの塩化メチレンで2度抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後濃縮し、そのまま次の反応に用いた。
【0041】
還流冷却管を備えた100mLの二口フラスコに亜鉛末2.614g(40.0mmol)を入れ、フラスコ内をアルゴン置換した。ここに、上記の粗生成物9.238g(19.4mmol)をテトラヒドロフラン20.0mLに溶かして加え、この溶液を70℃で30分加熱還流させた。ろ過により過剰の亜鉛を取り除いた後に水50mLを加え、100mLのエーテルで2度抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後濃縮し、ヘキサン溶媒を用いたカラムクロマトグラフィーにより単離し、目的とする4,4,4-トリフルオロ-1-ナフチル-1,2-ブタジエン4.152g(17.73mmol)を得た。収率は89%であった。
H NMR(CDCl,内部基準TMS)δ5.905(1H,quint,J=6.0Hz),7.334(1H,dq,J=3.9,7.8Hz),7.41〜7.64(4H,m),7.75〜7.92(2H,m),8.092(1H,d,J=8.1Hz).
13C NMR(CDCl,内部基準TMS)δ88.600(q,J=39.0Hz),98.057,122.581(q,J=268.9Hz),123.211,125.584,126.095,126.582,126.672,127.126,128.815,129.203,130.735,133.867,207.877(q,J=6.0Hz).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜8の含フッ素有機基を表す。RならびにRはそれぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜12のアルキル基、ベンジル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。)
で示される二置換もしくは三置換型のアレンの製造方法であり、
一般式(2)
【化2】

(式中、R、R及びRは前記定義に同じ。)
で示されるヨウ化アリルアルコール化合物と酸無水物、スルホン酸無水物又はスルホニルクロリドを反応させて、一般式(3)
【化3】

(式中、R、R及びRは前記定義に同じであり、Rは水素原子、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜12のアルキル基、ベンジル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。Xは炭素又は硫黄を表し、Xが炭素の時にはnは1であり、Xが硫黄の時にはnは2である。)
で示されるカルボン酸もしくはスルホン酸のエステルを製造し、非プロトン性溶媒中で亜鉛と反応させて、上記一般式(1)に示した、含フッ素アルキル基を含む二もしくは三置換アレンを生成することを特徴とする含フッ素アルキル基を有するアレンの製造方法。
【請求項2】
前記一般式(3)に示したカルボン酸もしくはスルホン酸のエステルと、一般式(4)
【化4】

(式中、X、X、ならびにXはそれぞれ互いに独立し、同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよい直鎖状または分岐した炭素数1〜12のアルキル基、ベンジル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す)
で示される塩化トリアルキルシラン存在下に亜鉛と反応させて前記一般式(1)で示される二置換もしくは三置換型のアレンを製造することを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2006−257006(P2006−257006A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75454(P2005−75454)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】