説明

含フッ素アルコール誘導体の製造方法

【課題】 本発明は、溶媒中、反応触媒としてルイス酸を用いてペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応させることを特徴とする含フッ素アルコール誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】 溶媒中、ルイス酸触媒存在下、一般式(1)
COR (1)
で示されるカルボニル化合物を、一般式(2)
SiR (2)
で示されるペルフルオロアルキルシラン類と反応させ、一般式(3)
C(OSiR)R (3)
で示される含フッ素アルコール誘導体、または脱シリル化した一般式(4)
C(OH)R (4)
で示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含フッ素アルコール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素アルコール誘導体は医薬、農薬分野における重要な合成中間体である。
【0003】
一般式(3)
C(OSiR)R (3)
(式中、Rはペルフルオロアルキル基であり、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基であり、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基を示し、R、RまたはRはそれぞれ互いに独立し、同一または異なってもよいアルキル基またはアリール基を示す。なおRおよびRが一体となって、ヘテロ原子の介在もしくは非介在で環状構造の一部を形成してもよい。)
または一般式(4)
C(OH)R (4)
(式中、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法としては、次に示す方法が挙げられる。即ち(1)α位に含フッ素置換基を有するカルボニル化合物を金属触媒存在下、接触水素還元する方法(非特許文献1)、(2)α位に含フッ素置換基を有するカルボニル化合物に対してGrignard試薬を用いて反応した後に加水分解する方法(非特許文献2)、(3)ヨウ化トリフルオロメチルあるいは臭化トリフルオロメチル等のペルフルオロアルキルハライドと銅、亜鉛、あるいはカドミウム等の金属を用いて、生成するトリフルオロメチルアニオン等価体をカルボニル化合物と反応させる方法(非特許文献3、4)、(4)テトラブチルアンモニウムフルオリドに代表されるルイス塩基触媒存在下、ペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応させる方法(非特許文献5、6、特許文献1)、等が知られている。
【0004】
しかしながら、前記(1)、(2)の方法では原料として含フッ素置換基を有するカルボニル化合物を入手する必要がある。工業的に入手可能な含フッ素置換基を有するカルボニル化合物は限定される点が問題であった。(3)の方法ではペルフルオロアルキルハライドが低沸点のものが多く取り扱いにくいことに加え、使用する金属量が多く大量の廃棄物が生成する問題があった。(4)の方法では、テトラブチルアンモニウムフルオリドに代表されるルイス塩基触媒存在下において、工業的に入手容易なカルボニル化合物に対して直接ペルフルオロアルキル基が導入できるが、その触媒はルイス塩基に限られていた。
【0005】
ペルフルオロアルキルシラン類以外の化合物として、トリアルキルシリルシアニド類はルイス酸触媒存在下でカルボニル化合物との反応が公知である(非特許文献7)。しかしながら、ルイス酸触媒存在下でペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物の反応はこれまで報告されていない。
【0006】
従って、ルイス酸触媒存在下、ペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応して、工業的スケールで効率良く製造し得る前記一般式(3)または一般式(4)に示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法が望まれていた。
【特許文献1】特開平07-118188号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,70,143(1948)
【非特許文献2】J.Org.Chem.,24,238(1959)
【非特許文献3】J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,1951(1990)
【非特許文献4】Org.Lett.,3,4241(2001)
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.,111,393(1989)
【非特許文献6】J.Org.Chem.,56,984(1991)
【非特許文献7】Chem.Lett.,11,1979(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、溶媒中、反応触媒としてルイス酸を用いてペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応させて、工業的スケールで効率良く製造し得る前記一般式(3)または(4)に示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、溶媒中、反応触媒としてルイス酸を用いてペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応させて、前記一般式(3)または(4)に示される含フッ素アルコール誘導体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記の(1)〜(7)に関するものである。
(1) 溶媒中、ルイス酸触媒存在下、一般式(1)
COR (1)
(式中、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基であり、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基を示す。なおRおよびRが一体となって、ヘテロ原子の介在もしくは非介在で環状構造の一部を形成してもよい。)
で示されるカルボニル化合物を、一般式(2)
SiR (2)
(式中、Rはペルフルオロアルキル基であり、R、RまたはRはそれぞれ互いに独立し、同一または異なってもよいアルキル基またはアリール基を示す。)
で示されるペルフルオロアルキルシラン類と反応させることを特徴とする一般式(3)
C(OSiR)R (3)
(式中、R、R、R、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法。
【0010】
(2) 溶媒中、ルイス酸触媒存在下、一般式(1)
COR (1)
(式中、R、Rは前記定義に同じ。)
で示されるカルボニル化合物を、一般式(2)
SiR (2)
(式中、R、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示されるペルフルオロアルキルシラン類と反応させ、一般式(3)
C(OSiR)R (3)
(式中、R、R、R、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示される含フッ素アルコール誘導体を含有する反応液を直接加水分解して脱シリル化、または精製分離した後に加水分解して脱シリル化することを特徴とする一般式(4)
C(OH)R (4)
(式中、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法。
【0011】
(3) 前記一般式(2)で示されるペルフルオロアルキルシラン類がトリフルオロメチルトリメチルシランである(1)または(2)に記載の製造方法。
【0012】
(4) 前記ルイス酸触媒が、一般式(5)、(6)、(7)および(8)から選ばれる少なくとも1種のルイス酸であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(RO)M (5)
(RCOM (6)
(RfSO2 M (7)
(X)M (8)
(式中、Mは、希土類を含む遷移金属、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン及びビスマスから選ばれた元素、nは、Mの原子価と同数の整数を表す。R、Rは水素原子、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数6〜20の置換若しくは無置換のアリール基を表す。Rfはペルフルオロアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
【0013】
(5) 前記ルイス酸触媒が、(A)一般式(5)、(6)、(7)および(8)
(RO)M (5)
(RCOM (6)
(RfSO2 M (7)
(X)M (8)
(式中、M、R、R、Rf、X、nは前記定義に同じ。)
から選ばれる少なくとも1種、および(B)一般式(9)
P(CHPA (9)
(式中、Pはリン原子、Aは置換または無置換のアリール基、mは1から5の整数を表す。)
で示されるリン系化合物から構成されることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0014】
(6) 前記ルイス酸触媒が、四フッ化チタン、チタンテトライソプロポキシド、酢酸銅(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種、または(A)酢酸銅(II)および(B)ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンもしくはビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンから構成されることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
(7) 前記溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種である(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
従来、前記一般式(3)または(4)で示される含フッ素アルコール誘導体を製造する際には入手が容易ではなく高価な基質または低沸点で取り扱いが容易でない基質を使用する点、大量の廃棄物が生成する点が問題であった。またルイス塩基触媒存在下において、カルボニル化合物に対して直接ペルフルオロアルキル基が導入できることが知られているが、ルイス酸触媒を用いた反応例はこれまで報告されていない。
【0017】
従来法と比較して、本発明における製造方法は、ルイス酸触媒存在下、ペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応して、前記一般式(3)または(4)に示される含フッ素アルコール誘導体を得ることが可能であり、工業的に利用価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明はルイス酸触媒存在下、ペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応して、前記一般式(3)または(4)に示される含フッ素アルコール誘導体を得ることを特徴とする製造方法である。
【0019】
前記一般式(1)中のアルキル基は炭素数が1〜20の枝分かれがあっても良いアルキル基または炭素数が3〜20のシクロアルキル基が好ましく、炭素数が1〜10のアルキル基または炭素数が3〜10のシクロアルキル基がさらに好ましい。アルキル基はハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基などの置換基で置換されていてもよい。
【0020】
前記一般式(1)中のアルケニル基は炭素数が2〜20の枝分かれがあっても良いアルケニル基または炭素数が3〜20のシクロアルケニル基が好ましく、炭素数が1〜10のアルケニル基または炭素数が3〜10のシクロアルケニル基がさらに好ましい。アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、アリル基などが挙げられる。アルケニル基はハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基などの置換基で置換されていてもよい。
【0021】
前記一般式(1)中のアラルキル基は、例としてベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、o−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、p−ニトロベンジル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、α−フェネチル基等が挙げられる。
【0022】
前記一般式(1)中のアルキニル基は、例としてエチニル基、フェニルエチニル基、2−プロピニル基等が挙げられる。
【0023】
前記一般式(1)中のアリール基は炭素数が6〜20のアリール基が好ましく、炭素数が6〜10のアリール基がさらに好ましい。アリール基はアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基などの置換基で置換されていてもよい。
【0024】
前記一般式(1)中のアルコキシ基は炭素数が1〜20のアルコキシ基が好ましく、炭素数が1〜10のアルコキシ基がさらに好ましい。アルコキシ基の場合も上記のアルキル基の場合と同様の置換基により置換されていてもよい。
【0025】
前記一般式(1)中のアリールオキシ基は炭素数が1〜20のアリールオキシ基が好ましく、炭素数が1〜10のアリールオキシ基がさらに好ましい。アリールオキシ基の場合も上記のアリール基の場合と同様の置換基により置換されていてもよい。
【0026】
前記一般式(1)中のアシル基は炭素数が1〜20のアシル基が好ましく、炭素数が1〜10のアシル基がさらに好ましい。特に制限するわけではないが、例としてホルミル基、アセチル基、マロニル基、ベンゾイル基、シンナモイル基等が挙げられる。
【0027】
前記一般式(1)中のアルコキシカルボニル基は炭素数が2〜20のアルコキシカルボニル基が好ましく、炭素数が2〜10のアルコキシカルボニル基がさらに好ましい。アルコキシカルボニル基の場合も上記のアルコキシ基の場合と同様の置換基により置換されていてもよい。
【0028】
前記一般式(1)中のアリールオキシカルボニル基は炭素数が7〜20のアリールオキシカルボニル基が好ましく、炭素数が7〜15のアリールオキシカルボニル基がさらに好ましい。アリールオキシカルボニル基の場合も上記のアリールオキシ基の場合と同様の置換基により置換されていてもよい。
【0029】
前記一般式(1)中のRおよびRを組み合わせて形成されうる前記環状構造の例としては、3員環から20員環でなる単環、双環、またはそれ以上の多環の構造を示すことができる。これらの環状構造はヘテロ原子を有してもよい。
【0030】
前記一般式(1)で示されるカルボニル化合物としては特に制限するわけではないが、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、バレルアルデヒド、ヘキサルデヒド、イソブチルアルデヒド、トリメチルアセトアルデヒド、シクロペンタンカルボキサルデヒド、シクロヘキサンカルボキサルデヒド、アクロレイン、3−ブチル−2−オン、ベンズアルデヒド、4−ニトロベンズアルデヒド、4−メトキシベンズアルデヒド、2−ベンゼンスルホニルアルデヒド、2-ベンゼンスルフィニルアルデヒド、4−クロロベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−フェニルプロピオンアルデヒド、アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸フェニル、ジアセチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル等が挙げられる。
【0031】
前記一般式(2)中のペルフルオロアルキル基は、枝分かれがあっても良い炭素数が1〜10のペルフルオロアルキル基または炭素数が3〜20のペルフルオロシクロアルキル基が好ましく、場合によってはハロゲン原子などで置換されていてもよい。
【0032】
前記一般式(2)中のアルキル基は、置換基を有していても良く、直鎖または分岐した炭素数が1〜20のアルキル基または炭素数が3〜20のシクロアルキル基が好ましく、炭素数が1〜10のアルキル基または炭素数が3〜10のシクロアルキル基がさらに好ましい。
【0033】
前記一般式(2)中のアリール基は炭素数が6〜20の置換または無置換のアリール基が好ましく、炭素数が6〜10のアリール基がさらに好ましい。
【0034】
前記一般式(2)で示されるペルフルオロアルキルシラン類としては、例えばトリフルオロメチルトリメチルシラン、ペンタフルオロエチルトリメチルシラン、ヘプタフルオロプロピルトリメチルシラン、ノナフルオロブチルトリメチルシラン、ヘプタデカフルオロオクチルトリメチルシラン、トリフルオロメチルトリエチルシラン、トリフルオロメチルトリプロピルシラン、トルフルオロメチルトリフェニルシランが挙げられる。
【0035】
前記一般式(3)で示される含フッ素アルコール誘導体としては、例えばトリメチル(2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエトキシ)シラン、トリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エトキシ]シラン、トリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(4−メチルフェニル)エトキシ]シラン、トリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(4−メトキシフェニル)エトキシ]シラン、トリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(4−ニトロフェニル)エトキシ]シラン、[1−(4−ブロモフェニル)−2,2,2−トリフルオロエトキシ]トリメチルシラン、トリメチル[[(2E)−3−フェニル−1−(トリフルオロメチル)−2−プロペニル]オキシ]シラン、トリメチル(1−トリフルオロメチルオクチロキシ)シラン、トリメチル(2,2,2−トリフルオロ−1−フラン−2-イル−エトキシ)シラン、トリメチル(2,2,2−トリフルオロ−1−チオフェン−2-イル−エトキシ)シラン等が挙げられる。
【0036】
前記一般式(4)で示される含フッ素アルコール誘導体としては、例えば2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(4−メチルフェニル)エトタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(4−メトキシフェニル)エタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(4−ニトロフェニル)エタノール、1−(4−ブロモフェニル)−2,2,2−トリフルオロエタノール、(2E)−3−フェニル−1−(トリフルオロメチル)−2−プロペノール、1−トリフルオロメチルオクタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−フラン−2-イル−エタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−チオフェン−2-イル−エタノール等が挙げられる。
【0037】
前記一般式(5)または(6)中のアルキル基は炭素数が1〜20の枝分かれがあっても良いアルキル基が好ましく、炭素数が1〜8の枝分かれがあっても良いアルキル基がさらに好ましい。
【0038】
前記一般式(5)または(6)中のアリール基は炭素数が6〜20の置換または無置換のアリール基が好ましく、炭素数が6〜15の置換または無置換のアリール基がさらに好ましい。
【0039】
前記一般式(7)中のペルフルオロアルキル基は炭素数が1〜10の、水素がフッ素で置換された枝分かれがあっても良いアルキル基または炭素数が3〜20のシクロアルキル基が好ましく、場合によってはハロゲン原子などで置換されていてもよい。
【0040】
前記一般式(5)、(6)、(7)または(8)中で示されるルイス酸としては、特に制限するわけではないが、例えば四塩化すず、三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯塩、四塩化チタン(以下、TiClと略す。)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)[以下、Cu(OTf)と略す。]、過塩素酸ニッケル(II)[以下、Ni(ClOと略す。]、酢酸亜鉛(II)[以下、Zn(OAc)と略す。]、酢酸パラジウム(II)[以下、Pd(OAc)と略す。]、酢酸銅(II)[以下、Cu(OAc)と略す。]、フッ化銀(I)[以下、AgFと略す。]、フッ化亜鉛(II)[以下、ZnFと略す。]、フッ化銅(II)[以下、CuFと略す。]、フッ化インジウム(III)[以下、InFと略す。]、塩化マグネシウム[以下、MgClと略す。]、フッ化チタン(IV)[以下、TiFと略す。]、チタンテトライソプロポキシド[以下、Ti(OiPr)と略す。]等が挙げられる。これらは単独で使用し得るのみならず、2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0041】
前記一般式(9)中のAで表される置換または無置換のアリール基は炭素数が6〜20のアリール基が好ましく、炭素数が6〜15のアリール基がさらに好ましい。
【0042】
前記一般式(9)で示されるリン系化合物としては、例えば1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン[以下、dppeと略す。]、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン[以下、dpppと略す。]、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン等が挙げられる。
【0043】
本発明の反応は、溶媒を必須とするが、用いる溶媒としては非プロトン性溶媒が好ましい。プロトン性溶媒は、触媒として用いるルイス酸が分解されるため好ましくない。非プロトン性溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサメチルリン酸トリアミド等が挙げられる。この際、非プロトン性溶媒の概念にはヘプタン、ヘキサン、キシレン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジイソプロピルエーテルを含む。中でも反応収率が高く、取り扱いおよび工業的に入手が容易であることから、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、テトラヒドロフランが好ましい。これらは単独で使用し得るのみならず、2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0044】
本発明で用いられる試薬はあらゆる慣用の方法に従って導入することができ、触媒をカルボニル化合物、ペルフルオロアルキルシラン類、溶媒から成る混合物に投入することができる。またカルボニル化合物、ペルフルオロアルキルシラン類を同時にまたは混合物として、溶媒および触媒から成る混合物に投入することができる。またカルボニル化合物を溶媒、触媒、ペルフルオロアルキルシラン類からなる三成分の混合物中に投入すること、あるいはペルフルオロアルキルシラン類を溶媒、触媒、カルボニル化合物から成る三成分の混合物中に投入することも可能である。
【0045】
本発明で使用する試薬の量は、カルボニル化合物1molに対してペルフルオロアルキルシラン類0.1〜10molであるのが好ましく、さらに好ましくは0.5〜3molである。またカルボニル化合物1molに対して触媒は0.001〜2molであるのが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.2molである。溶媒量は特に制限するわけではないが、使用するα−ケトエステル化合物1gに対して溶媒0.1〜100gが好ましく、1〜30gがさらに好ましい。
【0046】
反応温度は特に限定されるものではないが、通常−80℃〜120℃であり、より好ましくは−40℃〜60℃である。反応器は大気開放型の反応器、またはオートクレーブ等の密閉型の反応器のいずれも可能である。反応圧力は大気圧下、または加圧下のいずれも可能である。反応時間は特に限定されるものではないが、通常0.5〜24時間で反応は完結する。
【0047】
反応後、前記一般式(3)で示される含フッ素アルコール誘導体を含有する反応液は直接脱シリル化、または精製分離した後に脱シリル化を行うことが可能である。
【0048】
反応後、前記一般式(3)で示される含フッ素アルコール誘導体は一般的な手法によって反応液から単離および精製することができ、例えば反応液から溶剤抽出、乾燥、濃縮した後、蒸留精製またはシリカゲル、アルミナ等の吸着剤を用いたカラムクロマトグラフ法での精製、塩析、再結晶等が挙げられる。
【0049】
脱シリル化反応は、シリル基を脱離できる任意の条件を選択することができ、塩酸、硫酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸等を用いた酸加水分解、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いたアルカリ加水分解等が挙げられる。
【0050】
脱シリル化により得られた前記一般式(4)で示される含フッ素アルコール誘導体は、一般的な手法によって反応液から単離および精製することができ、例えば反応液から溶剤抽出、乾燥、濃縮した後、蒸留精製またはシリカゲル、アルミナ等の吸着剤を用いたカラムクロマトグラフ法での精製、塩析、再結晶等が挙げられる。
【0051】
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
10mlナスフラスコに2−ナフトアルデヒド(30mg、0.19mmol)、Ti(OiPr)(5.8μL、10mol%)をDMF(0.6mL)に溶かし、トリフルオロメチルトリメチルシラン(57μL、0.38mmol)を加えて室温で撹拌した。2時間撹拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶媒にヘキサンを用いて精製し、トリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エトキシ]シランを収率96%で得た。
H−NMR(CDCl)δ0.12(s、9H),4.90(q、J=6.6Hz、1H)、7.26−7.50(m、5H)
19F−NMR(CDCl)δ−78.5(d、J=6.6Hz、3F)
IR(neat)3069、3036、2961、2898、1497、1456、1369、1271、1172、1133、1031、882、756、701、634、552
MS(EI)m/z 248(M
【0053】
実施例2
10mlナスフラスコにトリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エトキシ]シラン(30mg、0.10 mmol)、1N塩酸水溶液(1mL)、テトラヒドロフラン(1mL)を加え、30分撹拌した。その後,酢酸エチルで有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を除去することで脱シリル化した2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エタノールを定量的に得た。
H−NMR(CDCl)δ2.69(brs、1H),5.18(q、J=6.8Hz、 1H)、7.24−7.59(m、3H)、7.84-7.95(m、4H)
19F−NMR(CDCl)δ−77.9(d、J=6.8Hz,3F)
【0054】
実施例3〜27
実施例1と同様、表1に示した種々のカルボニル化合物(0.19mmol)、ルイス酸(0.019mmol)をDMF(0.6mL)に溶かし、トリフルオロメチルトリメチルシラン(0.38mmol)を加えて室温で撹拌した。表1に示した所定時間撹拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶媒にヘキサンを用いて精製し、表1に示す生成物である含フッ素アルコール誘導体を得た。
【0055】
実施例28
10mlナスフラスコにCu(OAc)(3.5mg、0.019mmol)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(7.6mg、0.019mmol)をトルエン(0.6mL)に溶かし,室温で30分撹拌した。その後2−ナフトアルデヒド(30mg、0.19mmol)、トリフルオロメチルトリメチルシラン(57μL、0.38mmol)を加えた。1時間以内で反応が終了し、その後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶媒にヘキサンを用いて精製し、収率99%でトリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エトキシ]シランを得た。
【0056】
実施例29〜40
実施例28と同様、表2に示した種々のルイス酸(0.019mmol)、リン系化合物を溶媒(0.6mL)に溶かし、所定時間撹拌した。その後、種々のカルボニル化合物(0.19mmol)、トリフルオロメチルトリメチルシラン(0.38mmol)を加えて室温で撹拌した。その後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶媒にヘキサンを用いて精製し、表2に示す生成物である含フッ素アルコール誘導体を得た。
【0057】
比較例1
10mlナスフラスコに1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(7.6mg、0.019mmol)をトルエン(0.6mL)に溶かし,室温で30分撹拌した。その後2−ナフトアルデヒド(30mg、0.19mmol)、トリフルオロメチルトリメチルシラン(57μL、0.38mmol)を加え、24時間反応させた。トリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エトキシ]シランは生成しなかった。
【0058】
比較例2
10mlナスフラスコにCu(OAc)(3.5mg、0.019mmol)をトルエン(0.6mL)に溶かし,室温で30分撹拌した。その後2−ナフトアルデヒド(30mg、0.19mmol)、トリフルオロメチルトリメチルシラン(57μL、0.38mmol)を加え、24時間反応させた。トリメチル[2,2,2−トリフルオロ−1−(2−ナフタレニル)エトキシ]シランは生成しなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
ルイス酸触媒存在下、ペルフルオロアルキルシラン類とカルボニル化合物を反応して、容易かつ高収率で前記一般式(3)または(4)に示される含フッ素アルコール誘導体を得ることが可能であり、工業的に利用価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中、ルイス酸触媒存在下、一般式(1)
COR (1)
(式中、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基であり、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基を示す。なおRおよびRが一体となって、ヘテロ原子の介在もしくは非介在で環状構造の一部を形成してもよい。)
で示されるカルボニル化合物を、一般式(2)
SiR (2)
(式中、Rはペルフルオロアルキル基であり、R、RまたはRはそれぞれ互いに独立し、同一または異なってもよいアルキル基またはアリール基を示す。)
で示されるペルフルオロアルキルシラン類と反応させることを特徴とする一般式(3)
C(OSiR)R (3)
(式中、R、R、R、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法。
【請求項2】
溶媒中、ルイス酸触媒存在下、一般式(1)
COR (1)
(式中、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基であり、Rは水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基を示す。なおRおよびRが一体となって、ヘテロ原子の介在もしくは非介在で環状構造の一部を形成してもよい。)
で示されるカルボニル化合物を、一般式(2)
SiR (2)
(式中、Rはペルフルオロアルキル基であり、R、RまたはRはそれぞれ互いに独立し、同一または異なってもよいアルキル基またはアリール基を示す。)
で示されるペルフルオロアルキルシラン類と反応させ、一般式(3)
C(OSiR)R (3)
(式中、R、R、R、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示される含フッ素アルコール誘導体を含有する反応液を直接脱シリル化、または精製分離した後に脱シリル化することを特徴とする一般式(4)
C(OH)R (4)
(式中、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で示される含フッ素アルコール誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)で示されるペルフルオロアルキルシラン類がトリフルオロメチルトリメチルシランである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ルイス酸触媒が、一般式(5)、(6)、(7)および(8)から選ばれる少なくとも1種のルイス酸であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
(RO)M (5)
(RCOM (6)
(RfSO2M (7)
(X)M (8)
(式中、Mは、希土類を含む遷移金属、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン及びビスマスから選ばれた元素、nは、Mの原子価と同数の整数を表す。R、Rは水素原子、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数6〜20の置換若しくは無置換のアリール基を表す。Rfはペルフルオロアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項5】
前記ルイス酸触媒が、(A)一般式(5)、(6)、(7)および(8)
(RO)M (5)
(RCOM (6)
(RfSO2M (7)
(X)M (8)
(式中、Mは、希土類を含む遷移金属、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン及びビスマスから選ばれた元素、nは、Mの原子価と同数の整数を表す。R、Rは水素原子、置換基を有してもよい直鎖状若しくは分岐した炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数6〜20の置換若しくは無置換のアリール基を表す。Rfはペルフルオロアルキル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
から選ばれる少なくとも1種、および(B)一般式(9)
P(CHPA (9)
(式中、Pはリン原子、Aは置換または無置換のアリール基、mは1から5の整数を表す。)
で示されるリン系化合物から構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ルイス酸触媒が、四フッ化チタン、チタンテトライソプロポキシド、酢酸銅(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種、または(A)酢酸銅(II)および(B)1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンもしくは1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンから構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−291044(P2007−291044A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123546(P2006−123546)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会(2006)講演予稿集 2」に発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】