含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物
【課題】耐熱性、低吸湿性等の特性に優れ、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の様々な分野で好適に用いることができる含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1);
【化1】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物。
【解決手段】下記一般式(1);
【化1】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物に関する。より詳しくは、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の種々の用途に好適に用いられる含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、フッ素を含有していることに起因して撥水性が良好であり、また耐熱性等の特性に優れるものであることから、重合体等の形態で各種フィルム、燃料電池用電解質膜やエンジニアリングプラスチック等の原料として幅広い産業分野において利用されている。各種工業用材料の高機能化、高性能化の要求に伴い、近年、様々な産業分野において、これら含フッ素化合物が注目されているが、各種分野において好適に用いることができるものとなるように、更に耐熱性や低吸湿性、溶剤への溶解性、その他の物性等を高めた化合物を開発する余地があった。
【0003】
これらフッ素化合物の利用が期待される分野の中に、光学・電子部品分野がある。この分野の中で、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の用途においては、近年アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等に代表される透明樹脂が利用されつつあり、これらの用途において要求される物性を発揮するものが望まれている。しかしながら、これらの透明樹脂は吸湿性を示すものが多く、透明樹脂中への水分の吸収は、成形物のそりやひずみの発生、伝送損失の増大等の様々な弊害を招くため、透明樹脂の低吸湿化について種々検討されているが、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の用途に好適に用いることができるまでには至っていない。
【0004】
従来の含フッ素重合体としては、例えば、含フッ素アリールエーテルケトン重合体が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。これらの重合体は、フッ素で置換されたベンゼン環とフェニルエーテル構造とを有する単量体単位により構成されるものであり、溶剤に溶解し、耐熱性を有する等の基本性能を発揮することができるものである。しかしながら、光学・電子部品用材料や、樹脂用添加剤として好適に用いることができるものとなるように更に高い特性を有する含フッ素重合体とする工夫の余地があった。
【0005】
また従来の透明樹脂を含有する材料に関し、エーテル結合を含有する6員環構造を有する繰り返し単位を含む重合体(A)と(メタ)アクリル系重合体(B)とからなる樹脂組成物(例えば、特許文献3参照。)、フェニルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び架橋剤を含有する組成物をラジカル重合開始剤の存在下に注型重合して得られる低吸湿性透明樹脂(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。これらの樹脂組成物においては、レンズ等の光学部品、光ディスク等の光学式情報記録用媒体、光伝送材等に用いられることが記載されている。また、主鎖に窒素原子を含む化合物がエステル結合された繰り返し単位を含む光通信用高分子材料が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
しかしながら、これらの透明樹脂を含有する材料においては、低吸湿性を更に向上させて、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の種々の用途に好適に用いられるものとするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2001−64226号公報(第1−2、11頁)
【特許文献2】特開2003−82091号公報(第1−2、8頁)
【特許文献3】特開2000−239325号公報(第2−3頁)
【特許文献4】特開平5−32731号公報(第2、4頁)
【特許文献5】特開2000−89049号公報(第2−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、耐熱性、低吸湿性等の特性に優れ、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の様々な分野で好適に用いることができる含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、電子情報材料、光材料等の様々な分野で好適に用いることができる含フッ素化合物について種々検討したところ、含フッ素化合物が、フッ素原子を有する2つのベンゼン環と、特定の構造の2価の有機基がエステル結合により結合されている構造を有するものであると、低吸湿性、耐侯性に優れた化合物となること、及び、各種溶剤への溶解性に優れるとともに、高い反応性を有することから、従来の含フッ素化合物の重合反応に必要とされた温度よりも低温で重合体を製造することができることを見いだした。また、本発明者等は、この含フッ素化合物と1分子中に2つの水酸基を有する化合物とを反応させると、低吸湿性に加え、耐熱性、電気的特性や透明性、耐候性、撥水性等の各種特性に優れた重合体となること、及び、この重合体が溶剤溶解性にも優れることから、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の様々な分野で必要に応じて、フィルム、ファイバー、ペレット形状やシート形状等の様々な形状に成形して好適に用いることができることを見いだした。更に、本発明者らは、この含フッ素化合物、及び、含フッ素化合物重合体を添加剤として樹脂に加えると、樹脂の低吸湿化が可能となることを見いだした。特に、この含フッ素化合物、及び、含フッ素化合物重合体は、エステル構造を有することに起因して、構造中にエステル結合を有するエステル系樹脂との相溶性が良好であり、これらの樹脂に添加剤として加えると、樹脂をより効果的に低吸湿化することが可能となり、樹脂の吸湿に起因する各種弊害を防止するために低吸湿性樹脂が求められる光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の分野において、また、電子情報材料や精密機械用材料として好適に用いることができる樹脂組成物とすることができることを見いだした。また、本発明の含フッ素化合物、含フッ素化合物重合体や樹脂組成物は、屈折率特性に優れたものであり、これらの成形体を用いると、屈折率制御を精密に行うことができることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物である。
本発明はまた、下記一般式(4);
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R1及びR2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする含フッ素アリールエステル重合体である。
本発明は、更に下記一般式(1);
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物と下記一般式(7);
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、R2は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されるジヒドロキシ化合物とを塩基性触媒存在下で重合する工程を含んでなる含フッ素アリールエステル重合体の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0017】
本発明の含フッ素エステル化合物は、下記一般式(1);
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される構造を有する化合物である。ベンゼン環に付加するフッ素原子の数は、1〜5のいずれであってもよいが、3〜5であることが好ましい。より好ましくは、5であること、すなわち、ベンゼン環の6つの炭素原子のうち、エステル結合している炭素原子以外の全ての炭素原子にフッ素原子が付加していることである。なお、ベンゼン環には、フッ素原子以外のハロゲン原子やアルキル鎖を有する置換基等のその他の置換基が付加していてもよい。
【0020】
上記一般式(1)中、R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表すが、2価の有機基としては、炭素数1〜50の有機基であることが好ましい。より好ましくは、下記式(8−1)〜(8−19)で表される基のいずれかであることである。
【0021】
【化6】
【0022】
上記式(8−1)〜(8−19)中、Y1、Y1’、Y2、Y2’、Y3及びY4は、同一若しくは異なって、置換基を表し、1つのベンゼン環は、0〜4個のY1、Y2、Y3及びY4、0〜3個のY1’及びY2’を置換基として有する。Y1、Y1’、Y2、Y2’、Y3及びY4で表される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アリールチオ基等が挙げられる。
本発明の含フッ素エステル化合物においては、上記式(8−1)〜(8−19)で表される基のベンゼン環が置換基を1つ以上有し、その置換基が炭素数1〜30であって、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基等であること、又は、ベンゼン環が置換基を有しないことが好ましい。より好ましくは、ベンゼン環が置換基を有しないことである。すなわち、下記一般式(9−1)〜(9−19)で表される基であることが好ましい。
【0023】
【化7】
【0024】
本発明の含フッ素エステル化合物においては、上記一般式(1)中、R1の構造が上記(9−6)又は(9−18)のいずれかであって、かつベンゼン環が置換基を有さないものであることが好ましい。すなわち、本発明の含フッ素エステル化合物は、下記式(2)又は(3);
【0025】
【化8】
【0026】
で表されることが好ましい。含フッ素エステル化合物がこのような構造を有するものであると、本発明の作用効果がより効果的に発揮されることになる。
【0027】
上記一般式で表される化合物の製造方法としては、特に制限されないが、含フッ素ベンゾイルクロライドとジヒドロキシ化合物(ジオール化合物)を原料として製造する方法等が好適である。例えば、ベンゼン環に5つのフッ素原子が置換したフッ素化エステル化合物を製造する場合には、下記式(10);
【0028】
【化9】
【0029】
で表されるようにペンタフルオロベンゾイルクロライドとジヒドロキシ化合物とを反応させることによりフッ素化エステル化合物を合成する工程を含む方法が好適である。なお、この反応においては、原料としてベンゼン環に付加したフッ素原子の数や位置が異なる2種類以上の含フッ素ベンゾイルクロライドを用いてもよい。
【0030】
上記式(10)で表される反応においては、反応原料の有効利用及び生成物の収率の向上の点から、原料として使用される含フッ素ベンゾイルクロライドとジヒドロキシ化合物との比率を適宜設定することが好ましく、含フッ素ベンゾイルクロライド1モルに対して、ジヒドロキシ化合物0.2〜1.2モル使用することが好ましい。より好ましくは、ジヒドロキシ化合物0.4〜0.6モルを使用することである。
【0031】
上記式(10)の反応に用いる溶媒としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジフェニルエーテル、ベンジルエーテル、tert−ブチルエーテル等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル類;N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類が好ましい。溶媒の量としては、上記反応を効率良く進行できる量であればよいが、含フッ素ベンゾイルクロライドが溶媒中に0.1〜50質量%となるような量とすることが好ましい。より好ましくは、含フッ素ベンゾイルクロライドが溶媒中に1〜30質量%存在するような量である。
【0032】
上記式(10)の反応の反応条件としては、反応を効率良く進行できる条件であればよく、反応温度としては、−50〜150℃とすることが好ましく、より好ましくは、−5〜50℃である。また、反応時間は、0.01〜20時間とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜3時間である。更に、上記反応は、減圧下、常圧下又は加圧下のいずれで行われてもよいが、設備面等を考慮すると、常圧下で反応を行うことが好ましい。
【0033】
本発明はまた、下記一般式(4);
【0034】
【化10】
【0035】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R1及びR2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする含フッ素アリールエステル重合体でもある。
【0036】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、上記一般式(4)で表される繰り返し単位を必須とするものである限り、その他の繰り返し単位を含んでいてもよいが、上記一般式(4)で表される繰り返し単位が含フッ素アリールエステル重合体を構成する繰り返し単位の主成分であることが好ましい。なお、本発明の含フッ素アリールエステル重合体においては、上記一般式(4)で表される繰り返し単位の構造は、同一であっても異なっていてもよく、異なる繰り返し単位により構成される場合には、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。
【0037】
上記一般式(4)で表される繰り返し単位において、(−O−R2−O−)の部分は、ベンゼン環のエステル結合している炭素に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれの炭素に結合していてもよいが、オルト位又はパラ位に結合しているものが好ましい。本発明の含フッ素アリールエステル重合体においては、フッ素原子を有するベンゼン環は、4つの水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された形態となっており、また、ベンゼン環の水素原子がフッ素原子以外のハロゲン原子や、アルキル鎖を有する置換基等のその他の置換基により置換された形態となっていてもよい。したがって、1つのベンゼン環において水素原子とフッ素原子、及び、フッ素原子以外のハロゲン原子や、その他の置換基との合計は4である。R1、R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表すが、R1、R2の好ましい形態としては、上述した一般式(1)中のR1と同様である。
【0038】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体においては、R1の構造が上記(9−6)又は(9−18)のいずれかであって、かつベンゼン環が置換基を有さないものであることが好ましい。すなわち、本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、下記一般式(5);
【0039】
【化11】
【0040】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(6);
【0041】
【化12】
【0042】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とするものであることが好ましい。含フッ素アリールエステル重合体がこのような構造を有するものであると、本発明の作用効果がより効果的に発揮されることになる。
【0043】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体の数平均分子量(Mn)としては、要求される特性、用途等に合わせて適宜設定すればよいが、1000以上、1000000以下であることが好ましい。より好ましくは、3000以上、500000以下である。数平均分子量は、GPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)を用いて、標準サンプルにポリスチレン、展開溶媒にTHFを用いて測定することができる。
【0044】
上記一般式(4)で表される含フッ素アリールエステル重合体の製造方法は、特に制限されないが、上述した含フッ素エステル化合物とジヒドロキシ化合物とを重合する工程を含んでなる製造方法が好ましい。また、反応効率の点から、この工程は、塩基性触媒存在下で行われることが好ましい。
すなわち、上記一般式(4)で表される含フッ素アリールエステル重合体は、下記一般式(1);
【0045】
【化13】
【0046】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物と下記一般式(7);
【0047】
【化14】
【0048】
(式中、R2は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されるジヒドロキシ化合物とを塩基性触媒存在下で重合する工程を含んでなる製造方法により製造されることが好ましく、このような製造方法もまた、本発明の1つである。
【0049】
上記一般式(1)で表される本発明の含フッ素エステル化合物は、反応性が高いことから、上記製造方法のように、この含フッ素エステル化合物を原料として重合体を製造する場合には、均一系での重合、界面重合等、重合方法を選ばず様々な重合方法を用いることができ、また、従来の含フッ素化合物を用いた重合反応に比べて低温である150℃以下の条件下でも重合することが可能である。
【0050】
上記製造方法においては、ジヒドロキシ化合物由来の構造(−O−R2−O−)の部分がベンゼン環のエステル基が結合している炭素に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれの炭素に結合していてもよいが、オルト位又はパラ位に結合したものが好ましい。また、1つのベンゼン環にジヒドロキシ化合物由来の部分が2つ以上結合すると、架橋構造を形成することになる場合があるが、架橋構造を有すると生成する重合体がゲル化することから、架橋構造が少ないものが好ましい。上記製造方法においては、反応温度と反応時間、用いる溶媒や塩基性触媒の種類と濃度、原料の仕込み順序や反応系中の水分量等によって架橋構造の生成しやすさが異なるため、それぞれを最適化することにより、架橋構造の生成を抑制することが可能となる。
【0051】
上記製造方法における重縮合反応においては、反応原料の有効利用及び生成物の収率の向上の点から、原料として使用されるジヒドロキシ化合物と含フッ素エステル化合物との比率を適宜設定することが好ましく、含フッ素エステル化合物1モルに対して、ジヒドロキシ化合物を0.8〜1.2モル使用することが好ましい。より好ましくは、ジヒドロキシ化合物を0.9〜1.1モル使用することである。
【0052】
上記製造方法における重縮合反応の反応温度としては、0〜100℃とすることが好ましく、より好ましくは、10〜80℃である。また、反応時間は、1〜40時間とすることが好ましく、より好ましくは1〜30時間である。更に、上記反応は、減圧下、常圧下又は加圧下のいずれで行われてもよいが、設備面等を考慮すると、常圧下で反応を行うことが好ましい。
【0053】
上記製造方法における重縮合反応においては、含フッ素エステル化合物が溶媒への溶解性に優れていることに起因して様々な溶媒を用いることができ、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ニトロベンゼン、ニトロメタン等のニトロ類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジフェニルエーテル、ベンジルエーテル、tert−ブチルエーテル等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル類;N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アセトン、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)が好ましい。溶媒の量としては、上記反応を効率良く進行できる量であればよいが、含フッ素エステル化合物が溶媒中に1〜50質量%となるような量とすることが好ましく、より好ましくは1〜30質量%存在するような量である。
【0054】
上記製造方法における重縮合反応において用いられる塩基性化合物としては、重縮合反応によって生成するフッ化水素を捕集することにより重縮合反応を促進するよう作用し、更に上述したようなジヒドロキシ化合物をより反応性の高いアニオンに変える作用があるものが好適であり、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、トリブチルアミン、ピリジン、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン等の1種又は2種以上が好適である。このような塩基性化合物の使用量としては、使用される含フッ素エステル化合物1モルに対して、0.5〜20モルが好ましい。より好ましくは、0.8〜10モルである。
【0055】
上記重縮合反応終了後は、蒸発等により反応溶液中の溶媒の除去を行い、必要により留出物を洗浄することによって、上記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する含フッ素アリールエステル重合体が得られることになる。また、反応溶液を重合体の溶解度が低い溶媒中に加えることにより、含フッ素アリールエステル重合体を固体として沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することによって得ることもできる。
【0056】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、溶剤への溶解性に優れることから、フィルム状、ファイバー状等の様々な形状の成形体に成形して用いることが可能である。このような、本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる成形体もまた、本発明の1つである。
【0057】
本発明の成形体は、本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなるものである限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分を含んでいる場合、成形体100質量%に対して、含フッ素アリールエステル重合体の割合は、30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、50質量%以上である。
なお、本発明の成形体は、上述した本発明の含フッ素エステル化合物を含んでいてもよい。すなわち、本発明の成形体は、含フッ素アリールエステル重合体と含フッ素エステル化合物の混合物からなるものであってもよい。本発明の成形体が含フッ素アリールエステル重合体と含フッ素エステル化合物の混合物からなるものである場合、両者の含有比率は特に制限されず、成形体100質量%に対して、両者の合計の割合が30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、50質量%以上である。
【0058】
本発明の成形体をフィルム又はシート等の膜状の成形体として用いる場合、厚さとしては、0.1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。また、ファイバー状成形物として用いる場合、直径としては、5μm以上、10000μm以下であることが好ましい。その他の形態の成形体としては、例えば、ペレット形状、平板や波板等のシート形状、パイプ形状等の成形体;半円、L字形、T字形、U字形、山形等の形状をしている異形の成形体が挙げられる。
上記成形物の成形方法としては、射出成形、押出成形、真空成形、ブロー成形、熱成形、圧縮成形、カレンダー成形、粉末成形、発泡成形、積層成形、溶剤キャスト法、スピンコート法等の方法が好適である。
【0059】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる成形体は、上述のように溶剤溶解性に優れることに起因して成形加工性が高いことに加え、耐熱性、低吸湿性、透明性、耐候性、撥水性及び電気的特性に優れたものであることから、スーパーエンジニアリングプラスチックとして、また、絶縁材料として高周波電子部品や高周波配線基板、コーティング剤、低誘電フィルム、プリント配線板表面配線の塗布絶縁膜、半導体素子及びリード線の被覆材、接着剤等の電子情報材料や精密機械用材料、及び、基板や光学補償層等に用いられる光学フィルムや光導波路、通信用材料、光ファイバー、光記録、液晶ディスプレイ等の光通信・記録材料、表示用基板等の様々な分野において、好適に用いることができるものである。本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる成形体は、これらの様々な分野において、上述した様々な形態で用いることができるが、これらの中でも、フィルムとして用いられることが好ましい。
【0060】
上記成形体の成形は、溶媒キャスト法、貧溶媒を用いた膜成形法、押し出し法、紡糸法、圧延法等の成形方法により行うことができる。これらの方法を用いて、膜状だけでなく、繊維状、ペレット状、プレート状、ロッド状、パイプ状、ボール状、ブロック状等の様々な形状に成形することができる。フィルムを作製する場合には、これらの中でも溶媒キャスト法が最も好ましい。
例えば、溶媒キャスト法にてフィルムを作製する場合、重合体等を溶媒に溶解又は分散させ、その溶液を基板に塗布し、溶媒を除くことによりフィルムを得ることができる。
成形体の成形に用いる溶媒は特に限定されず、成形する環境、膜厚、溶液温度、塗布温度、乾燥温度等の種々の条件下で最も好ましいものを適宜選択することができる。溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上の溶媒を併用してもよい。また、溶液には、溶媒、重合体以外に添加剤等の第3成分を含有してもよい。また、溶媒除去は、例えば、加熱による乾燥、減圧乾燥、溶媒のみを溶解する液体への浸漬等によって行うことができる。
【0061】
上記溶媒キャスト法において、基板上に塗布される溶液の厚みとしては特に限定されず、例えば、0.5μmから1000μmとすることが好ましい。より好ましくは、1μmから500μmである。厚みが0.5μm未満であると、膜としての形態を保てなくなるおそれがあり、厚みが1000μmを超えると、充分に均一な膜ができなくなるおそれがある。キャスト厚を制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、アプリケーター、ドクターブレード、バーコーター等を用いて一定の膜厚にすることができる。溶媒を除去した後の膜厚としては、0.5μmから500μmであることが好ましい。
【0062】
本発明の含フッ素エステル化合物、及び、含フッ素アリールエステル重合体はまた、樹脂用添加剤としても用いることができる。本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体を樹脂に添加すると、樹脂を効果的に低吸湿化することが可能となり、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の低吸湿性樹脂材料が求められる分野においても、好適に用いることができる樹脂組成物とすることが可能となる。
このような、本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【0063】
本発明の樹脂用組成物に含まれる本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体の含有量としては、樹脂100質量%に対して1質量%以上であることが好ましく、100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、5質量%以上であることであり、また、80質量%以下であることである。
含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体の含有量が1質量%以下であると、充分に低吸湿化された樹脂組成物とすることができないこととなる。
なお、本発明の樹脂用組成物が含フッ素エステル化合物と含フッ素アリールエステル重合体との両方を含む場合、両者の含有比率は特に制限されない。
【0064】
本発明の樹脂組成物は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂等のいずれの樹脂からなるものであってもよいが、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の構造中にエステル構造を有するエステル系樹脂からなるものであることが好ましい。本発明の含フッ素エステル化合物、又は、含フッ素アリールエステル重合体は、構造中にエステル構造を有することに起因してエステル系樹脂との相溶性が良好であり、樹脂組成物がエステル系樹脂からなるものであると、樹脂に対する含フッ素エステル化合物や含フッ素アリールエステル重合体の比率を高くして添加することができ、より低吸湿性に優れた樹脂組成物とすることが可能となる。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の各種用途に好適に用いることができるものであり、例えば、光ピックアップレンズ、レーザービームプリンター用fθレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ランプレンズ等のレンズ;ビデオディスク、オーディオディスク、コンピューター用追記型ディスク等のディスク;プラスチック光ファイバー(POF)、光コネクター、導光体等の光伝送材等を挙げることができる。また、電子情報材料や精密機械用材料としても好適に用いることができ、例えば、絶縁材料として高周波電子部品や高周波配線基板、コーティング剤、低誘電フィルム、プリント配線板表面配線の塗布絶縁膜、半導体素子及びリード線の被覆材等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0066】
本発明の含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体は、上述の構成よりなり、低吸湿性、耐侯性に優れたものであり、また重合体は、耐熱性、耐侯性、電気的特性や透明性等の各種特性に優れたものであることから、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の様々な分野で好適に用いることができる。また、本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体を樹脂に添加することにより、樹脂を効果的に低吸湿化することが可能となり、低吸湿性の材料が求められる光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の分野においても好適に用いられる樹脂組成物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
実施例1 4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル(BPDES)の合成
4,4’−ヒドロキシジフェニルエーテル5.00g(24.75mmol)、トリエチルアミン5.01g(49.50mmol)、ジクロロメタン100gをフラスコに仕込み、ウォーターバスを用いて10℃に保持した。ペンタフルオロベンゾイルクロライド11.41g(49.50mmol)と20gのジクロロメタンを滴下ロートに仕込みフラスコ内にゆっくりと滴下した。
滴下終了後、ウォーターバスをはずし、室温で3時間反応させた。水に投入後、固体を回収し、メタノールで再結晶することによりBPDESを得た。収率は86.0%、融点はTm=130℃であった。得られたBPDESの1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図1、図2に示す。1H−NMR及び19F−NMRの測定装置及び測定条件は以下に示す。
【0069】
実施例2 2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)の合成
2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)へキサフルオロプロパン5.00g(14.88mmol)、トリエチルアミン3.31g(32.74mmol)、ペンタフルオロベンゾイルクロライド6.86g(29.76mmol)を用いて実施例1と同様に合成してBP6FBAを得た。
収率は80.7%、融点はTm=119℃であった。得られたBP6FBAの1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図3、図4に示す。
【0070】
【化15】
【0071】
実施例3 BPDESとフルオレン−9−ビスフェノール(HF)とからなる重合体(BPDES−HF)の合成
BPDES 6.04g(10.23mmol)、HF 3.59g(10.23mmol)、炭酸カリウム 7.07g(51.16mmol)、モレキュラーシーブ10.00g及びMEK100gを仕込んで、75℃で2時間反応した。その後、この反応液を0.5Lの脱イオン水に注ぎ、重合体(BPDES−HF)を得た。この重合体の収率は90%であった。得られた重合体の1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図5、図6に示す。得られた重合体の数平均分子量は、15400であった。また、この重合体の熱的特性評価、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価を行った。結果を表1、2及び3に示す。数平均分子量測定、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価の方法は以下に示す。
【0072】
実施例4 BPDESとヘキサフルオロビスフェノールA(6FBA)とからなる重合体(BPDES−6FBA)の合成
BPDES 3.00g(5.08mmol)、6FBA 1.70g(5.08mmol)、炭酸カリウム 3.51g(25.40mmol)、モレキュラーシーブ10.00g及びメチルエチルケトン(MEK) 100gを仕込んで、75℃で2時間反応した。その後、この反応液を0.5Lの脱イオン水に注ぎ、重合体を得た。この重合体の収率は82%であった。得られた重合体の1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図7、図8に示す。得られた重合体の数平均分子量は、13000であった。また、この重合体の熱的特性評価、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価を行った。結果を表1、2及び3に示す。
【0073】
実施例5 BP6FBAと6FBAとからなる重合体(BP6FBA−6FBA)の合成
BP6FBA 3.00g(4.14mmol)、6FBA 1.39g(4.14mmol)、炭酸カリウム 2.86g(20.70mmol)、モレキュラーシーブ10.00g及びMEK100gを仕込んで、75℃で2時間反応した。その後、この反応液を0.5Lの脱イオン水に注ぎ、重合体を得た。この重合体の収率は85%であった。得られた重合体の1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図9、図10に示す。得られた重合体の数平均分子量は、16100であった。また、この重合体の熱的特性評価、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価を行った。結果を表1、2及び3に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
実施例6〜10及び比較例1
18gのトルエンに溶解させたポリメチルメタクリレート(PMMA)2gに対して実施例1〜5で合成した化合物をそれぞれ1gずつ添加した。ガラス板上にキャストし、乾燥させることによりフィルムを得た。各フィルムの熱的特性評価、屈折率及び吸湿率(吸水率)測定を行った。結果を表4〜6に示した。なお、比較のため、PMMA単独のものについても測定を行った。熱的特性評価、屈折率及び吸湿率測定の方法は以下に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
〔NMR測定〕
UNITY PLUS400MHz(Varian社製)を用いて測定した。測定溶媒として重クロロホルムを用いた。1H−NMRには標準としてテトラメチルシラン(TMS)を、19F−NMRには標準としてヘキサフルオロベンゼンを用いた。
〔熱的特性評価〕
島津示差熱熱重量同時測定装置(島津製作所社製)を用いて融点、ガラス転移温度、ガラス転移温度オンセット(ガラス転移開始温度)と、重量減少温度(5質量%減少)とを測定した。加熱速度は、窒素雰囲気下10℃/分とした。
〔数平均分子量〕
HLC−8120GPC(東ソー社製)、カラム:G−5000HXL+GMHXL−Lを用いて測定した。展開溶媒THF、流速1mL/分、標準としてポリスチレンを用い、ポリスチレン換算により数平均分子量を測定した。
【0082】
〔吸湿率(吸水率)測定〕
得られたフィルムを110℃で15時間乾燥後、25℃の水に48時間浸漬させて、その重量変化を測定し、吸湿率を算出した。
〔屈折率測定〕
プリズムカプラーSPA−4000(SAIRON TECHNOLOGY社製)を用いて632.8nm、830nm、1310nm及び1550nmにおける屈折率を測定した。
〔透過率測定〕
Shimadzu UV−3100(島津製作所社製)を用いて850nmにおける透過率を測定した。30μmのフィルム状で測定を行った。
〔全光線透過率測定〕
NDH−1001DP型(日本電色工業社製)を用いて全光線透過率を測定した。
膜厚30μmのフィルム状で測定した。
〔電気的特性評価〕
インピーダンスアナライザHP4294A8(HEWLETT PACKERD社製)を用いて誘電率を測定した。
【0083】
これらの測定結果より、本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、高い耐熱性、透明性を有し、光学特性、電気的特性に優れることが確認できた。また、本発明の含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体を樹脂に添加すると、低吸水率化や屈折率制御が可能となるとともに、耐熱性の低下抑制に効果的であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施例1において得られた4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル(BPDES)の1H−NMRの測定チャートである。
【図2】本発明の実施例1において得られた4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル(BPDES)の19F−NMRの測定チャートである。
【図3】本発明の実施例2において得られた2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)の1H−NMRの測定チャートである。
【図4】本発明の実施例2において得られた2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)の19F−NMRの測定チャートである。
【図5】本発明の実施例3において得られたBPDESとフルオレン−9−ビスフェノール(HF)とからなる重合体(BPDES−HF)の1H−NMRの測定チャートである。
【図6】本発明の実施例3において得られたBPDESとフルオレン−9−ビスフェノール(HF)とからなる重合体(BPDES−HF)の19F−NMRの測定チャートである。
【図7】本発明の実施例4において得られたBPDESとヘキサフルオロビスフェノールA(6FBA)とからなる重合体(BPDES−6FBA)の1H−NMRの測定チャートである。
【図8】本発明の実施例4において得られたBPDESとヘキサフルオロビスフェノールA(6FBA)とからなる重合体(BPDES−6FBA)の19F−NMRの測定チャートである。
【図9】本発明の実施例5において得られたBP6FBAと6FBAとからなる重合体(BP6FBA−6FBA)の1H−NMRの測定チャートである。
【図10】本発明の実施例5において得られたBP6FBAと6FBAとからなる重合体(BP6FBA−6FBA)の19F−NMRの測定チャートである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物に関する。より詳しくは、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の種々の用途に好適に用いられる含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、フッ素を含有していることに起因して撥水性が良好であり、また耐熱性等の特性に優れるものであることから、重合体等の形態で各種フィルム、燃料電池用電解質膜やエンジニアリングプラスチック等の原料として幅広い産業分野において利用されている。各種工業用材料の高機能化、高性能化の要求に伴い、近年、様々な産業分野において、これら含フッ素化合物が注目されているが、各種分野において好適に用いることができるものとなるように、更に耐熱性や低吸湿性、溶剤への溶解性、その他の物性等を高めた化合物を開発する余地があった。
【0003】
これらフッ素化合物の利用が期待される分野の中に、光学・電子部品分野がある。この分野の中で、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の用途においては、近年アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等に代表される透明樹脂が利用されつつあり、これらの用途において要求される物性を発揮するものが望まれている。しかしながら、これらの透明樹脂は吸湿性を示すものが多く、透明樹脂中への水分の吸収は、成形物のそりやひずみの発生、伝送損失の増大等の様々な弊害を招くため、透明樹脂の低吸湿化について種々検討されているが、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の用途に好適に用いることができるまでには至っていない。
【0004】
従来の含フッ素重合体としては、例えば、含フッ素アリールエーテルケトン重合体が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。これらの重合体は、フッ素で置換されたベンゼン環とフェニルエーテル構造とを有する単量体単位により構成されるものであり、溶剤に溶解し、耐熱性を有する等の基本性能を発揮することができるものである。しかしながら、光学・電子部品用材料や、樹脂用添加剤として好適に用いることができるものとなるように更に高い特性を有する含フッ素重合体とする工夫の余地があった。
【0005】
また従来の透明樹脂を含有する材料に関し、エーテル結合を含有する6員環構造を有する繰り返し単位を含む重合体(A)と(メタ)アクリル系重合体(B)とからなる樹脂組成物(例えば、特許文献3参照。)、フェニルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び架橋剤を含有する組成物をラジカル重合開始剤の存在下に注型重合して得られる低吸湿性透明樹脂(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。これらの樹脂組成物においては、レンズ等の光学部品、光ディスク等の光学式情報記録用媒体、光伝送材等に用いられることが記載されている。また、主鎖に窒素原子を含む化合物がエステル結合された繰り返し単位を含む光通信用高分子材料が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
しかしながら、これらの透明樹脂を含有する材料においては、低吸湿性を更に向上させて、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の種々の用途に好適に用いられるものとするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2001−64226号公報(第1−2、11頁)
【特許文献2】特開2003−82091号公報(第1−2、8頁)
【特許文献3】特開2000−239325号公報(第2−3頁)
【特許文献4】特開平5−32731号公報(第2、4頁)
【特許文献5】特開2000−89049号公報(第2−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、耐熱性、低吸湿性等の特性に優れ、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の様々な分野で好適に用いることができる含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体、その製造方法、及び、それらを含む樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、電子情報材料、光材料等の様々な分野で好適に用いることができる含フッ素化合物について種々検討したところ、含フッ素化合物が、フッ素原子を有する2つのベンゼン環と、特定の構造の2価の有機基がエステル結合により結合されている構造を有するものであると、低吸湿性、耐侯性に優れた化合物となること、及び、各種溶剤への溶解性に優れるとともに、高い反応性を有することから、従来の含フッ素化合物の重合反応に必要とされた温度よりも低温で重合体を製造することができることを見いだした。また、本発明者等は、この含フッ素化合物と1分子中に2つの水酸基を有する化合物とを反応させると、低吸湿性に加え、耐熱性、電気的特性や透明性、耐候性、撥水性等の各種特性に優れた重合体となること、及び、この重合体が溶剤溶解性にも優れることから、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の様々な分野で必要に応じて、フィルム、ファイバー、ペレット形状やシート形状等の様々な形状に成形して好適に用いることができることを見いだした。更に、本発明者らは、この含フッ素化合物、及び、含フッ素化合物重合体を添加剤として樹脂に加えると、樹脂の低吸湿化が可能となることを見いだした。特に、この含フッ素化合物、及び、含フッ素化合物重合体は、エステル構造を有することに起因して、構造中にエステル結合を有するエステル系樹脂との相溶性が良好であり、これらの樹脂に添加剤として加えると、樹脂をより効果的に低吸湿化することが可能となり、樹脂の吸湿に起因する各種弊害を防止するために低吸湿性樹脂が求められる光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の分野において、また、電子情報材料や精密機械用材料として好適に用いることができる樹脂組成物とすることができることを見いだした。また、本発明の含フッ素化合物、含フッ素化合物重合体や樹脂組成物は、屈折率特性に優れたものであり、これらの成形体を用いると、屈折率制御を精密に行うことができることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物である。
本発明はまた、下記一般式(4);
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R1及びR2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする含フッ素アリールエステル重合体である。
本発明は、更に下記一般式(1);
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物と下記一般式(7);
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、R2は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されるジヒドロキシ化合物とを塩基性触媒存在下で重合する工程を含んでなる含フッ素アリールエステル重合体の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0017】
本発明の含フッ素エステル化合物は、下記一般式(1);
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される構造を有する化合物である。ベンゼン環に付加するフッ素原子の数は、1〜5のいずれであってもよいが、3〜5であることが好ましい。より好ましくは、5であること、すなわち、ベンゼン環の6つの炭素原子のうち、エステル結合している炭素原子以外の全ての炭素原子にフッ素原子が付加していることである。なお、ベンゼン環には、フッ素原子以外のハロゲン原子やアルキル鎖を有する置換基等のその他の置換基が付加していてもよい。
【0020】
上記一般式(1)中、R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表すが、2価の有機基としては、炭素数1〜50の有機基であることが好ましい。より好ましくは、下記式(8−1)〜(8−19)で表される基のいずれかであることである。
【0021】
【化6】
【0022】
上記式(8−1)〜(8−19)中、Y1、Y1’、Y2、Y2’、Y3及びY4は、同一若しくは異なって、置換基を表し、1つのベンゼン環は、0〜4個のY1、Y2、Y3及びY4、0〜3個のY1’及びY2’を置換基として有する。Y1、Y1’、Y2、Y2’、Y3及びY4で表される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アリールチオ基等が挙げられる。
本発明の含フッ素エステル化合物においては、上記式(8−1)〜(8−19)で表される基のベンゼン環が置換基を1つ以上有し、その置換基が炭素数1〜30であって、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基等であること、又は、ベンゼン環が置換基を有しないことが好ましい。より好ましくは、ベンゼン環が置換基を有しないことである。すなわち、下記一般式(9−1)〜(9−19)で表される基であることが好ましい。
【0023】
【化7】
【0024】
本発明の含フッ素エステル化合物においては、上記一般式(1)中、R1の構造が上記(9−6)又は(9−18)のいずれかであって、かつベンゼン環が置換基を有さないものであることが好ましい。すなわち、本発明の含フッ素エステル化合物は、下記式(2)又は(3);
【0025】
【化8】
【0026】
で表されることが好ましい。含フッ素エステル化合物がこのような構造を有するものであると、本発明の作用効果がより効果的に発揮されることになる。
【0027】
上記一般式で表される化合物の製造方法としては、特に制限されないが、含フッ素ベンゾイルクロライドとジヒドロキシ化合物(ジオール化合物)を原料として製造する方法等が好適である。例えば、ベンゼン環に5つのフッ素原子が置換したフッ素化エステル化合物を製造する場合には、下記式(10);
【0028】
【化9】
【0029】
で表されるようにペンタフルオロベンゾイルクロライドとジヒドロキシ化合物とを反応させることによりフッ素化エステル化合物を合成する工程を含む方法が好適である。なお、この反応においては、原料としてベンゼン環に付加したフッ素原子の数や位置が異なる2種類以上の含フッ素ベンゾイルクロライドを用いてもよい。
【0030】
上記式(10)で表される反応においては、反応原料の有効利用及び生成物の収率の向上の点から、原料として使用される含フッ素ベンゾイルクロライドとジヒドロキシ化合物との比率を適宜設定することが好ましく、含フッ素ベンゾイルクロライド1モルに対して、ジヒドロキシ化合物0.2〜1.2モル使用することが好ましい。より好ましくは、ジヒドロキシ化合物0.4〜0.6モルを使用することである。
【0031】
上記式(10)の反応に用いる溶媒としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジフェニルエーテル、ベンジルエーテル、tert−ブチルエーテル等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル類;N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類が好ましい。溶媒の量としては、上記反応を効率良く進行できる量であればよいが、含フッ素ベンゾイルクロライドが溶媒中に0.1〜50質量%となるような量とすることが好ましい。より好ましくは、含フッ素ベンゾイルクロライドが溶媒中に1〜30質量%存在するような量である。
【0032】
上記式(10)の反応の反応条件としては、反応を効率良く進行できる条件であればよく、反応温度としては、−50〜150℃とすることが好ましく、より好ましくは、−5〜50℃である。また、反応時間は、0.01〜20時間とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜3時間である。更に、上記反応は、減圧下、常圧下又は加圧下のいずれで行われてもよいが、設備面等を考慮すると、常圧下で反応を行うことが好ましい。
【0033】
本発明はまた、下記一般式(4);
【0034】
【化10】
【0035】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R1及びR2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする含フッ素アリールエステル重合体でもある。
【0036】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、上記一般式(4)で表される繰り返し単位を必須とするものである限り、その他の繰り返し単位を含んでいてもよいが、上記一般式(4)で表される繰り返し単位が含フッ素アリールエステル重合体を構成する繰り返し単位の主成分であることが好ましい。なお、本発明の含フッ素アリールエステル重合体においては、上記一般式(4)で表される繰り返し単位の構造は、同一であっても異なっていてもよく、異なる繰り返し単位により構成される場合には、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。
【0037】
上記一般式(4)で表される繰り返し単位において、(−O−R2−O−)の部分は、ベンゼン環のエステル結合している炭素に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれの炭素に結合していてもよいが、オルト位又はパラ位に結合しているものが好ましい。本発明の含フッ素アリールエステル重合体においては、フッ素原子を有するベンゼン環は、4つの水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された形態となっており、また、ベンゼン環の水素原子がフッ素原子以外のハロゲン原子や、アルキル鎖を有する置換基等のその他の置換基により置換された形態となっていてもよい。したがって、1つのベンゼン環において水素原子とフッ素原子、及び、フッ素原子以外のハロゲン原子や、その他の置換基との合計は4である。R1、R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表すが、R1、R2の好ましい形態としては、上述した一般式(1)中のR1と同様である。
【0038】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体においては、R1の構造が上記(9−6)又は(9−18)のいずれかであって、かつベンゼン環が置換基を有さないものであることが好ましい。すなわち、本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、下記一般式(5);
【0039】
【化11】
【0040】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(6);
【0041】
【化12】
【0042】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とするものであることが好ましい。含フッ素アリールエステル重合体がこのような構造を有するものであると、本発明の作用効果がより効果的に発揮されることになる。
【0043】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体の数平均分子量(Mn)としては、要求される特性、用途等に合わせて適宜設定すればよいが、1000以上、1000000以下であることが好ましい。より好ましくは、3000以上、500000以下である。数平均分子量は、GPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)を用いて、標準サンプルにポリスチレン、展開溶媒にTHFを用いて測定することができる。
【0044】
上記一般式(4)で表される含フッ素アリールエステル重合体の製造方法は、特に制限されないが、上述した含フッ素エステル化合物とジヒドロキシ化合物とを重合する工程を含んでなる製造方法が好ましい。また、反応効率の点から、この工程は、塩基性触媒存在下で行われることが好ましい。
すなわち、上記一般式(4)で表される含フッ素アリールエステル重合体は、下記一般式(1);
【0045】
【化13】
【0046】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物と下記一般式(7);
【0047】
【化14】
【0048】
(式中、R2は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されるジヒドロキシ化合物とを塩基性触媒存在下で重合する工程を含んでなる製造方法により製造されることが好ましく、このような製造方法もまた、本発明の1つである。
【0049】
上記一般式(1)で表される本発明の含フッ素エステル化合物は、反応性が高いことから、上記製造方法のように、この含フッ素エステル化合物を原料として重合体を製造する場合には、均一系での重合、界面重合等、重合方法を選ばず様々な重合方法を用いることができ、また、従来の含フッ素化合物を用いた重合反応に比べて低温である150℃以下の条件下でも重合することが可能である。
【0050】
上記製造方法においては、ジヒドロキシ化合物由来の構造(−O−R2−O−)の部分がベンゼン環のエステル基が結合している炭素に対して、オルト位、メタ位、パラ位のいずれの炭素に結合していてもよいが、オルト位又はパラ位に結合したものが好ましい。また、1つのベンゼン環にジヒドロキシ化合物由来の部分が2つ以上結合すると、架橋構造を形成することになる場合があるが、架橋構造を有すると生成する重合体がゲル化することから、架橋構造が少ないものが好ましい。上記製造方法においては、反応温度と反応時間、用いる溶媒や塩基性触媒の種類と濃度、原料の仕込み順序や反応系中の水分量等によって架橋構造の生成しやすさが異なるため、それぞれを最適化することにより、架橋構造の生成を抑制することが可能となる。
【0051】
上記製造方法における重縮合反応においては、反応原料の有効利用及び生成物の収率の向上の点から、原料として使用されるジヒドロキシ化合物と含フッ素エステル化合物との比率を適宜設定することが好ましく、含フッ素エステル化合物1モルに対して、ジヒドロキシ化合物を0.8〜1.2モル使用することが好ましい。より好ましくは、ジヒドロキシ化合物を0.9〜1.1モル使用することである。
【0052】
上記製造方法における重縮合反応の反応温度としては、0〜100℃とすることが好ましく、より好ましくは、10〜80℃である。また、反応時間は、1〜40時間とすることが好ましく、より好ましくは1〜30時間である。更に、上記反応は、減圧下、常圧下又は加圧下のいずれで行われてもよいが、設備面等を考慮すると、常圧下で反応を行うことが好ましい。
【0053】
上記製造方法における重縮合反応においては、含フッ素エステル化合物が溶媒への溶解性に優れていることに起因して様々な溶媒を用いることができ、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ニトロベンゼン、ニトロメタン等のニトロ類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジフェニルエーテル、ベンジルエーテル、tert−ブチルエーテル等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル類;N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アセトン、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)が好ましい。溶媒の量としては、上記反応を効率良く進行できる量であればよいが、含フッ素エステル化合物が溶媒中に1〜50質量%となるような量とすることが好ましく、より好ましくは1〜30質量%存在するような量である。
【0054】
上記製造方法における重縮合反応において用いられる塩基性化合物としては、重縮合反応によって生成するフッ化水素を捕集することにより重縮合反応を促進するよう作用し、更に上述したようなジヒドロキシ化合物をより反応性の高いアニオンに変える作用があるものが好適であり、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、トリブチルアミン、ピリジン、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン等の1種又は2種以上が好適である。このような塩基性化合物の使用量としては、使用される含フッ素エステル化合物1モルに対して、0.5〜20モルが好ましい。より好ましくは、0.8〜10モルである。
【0055】
上記重縮合反応終了後は、蒸発等により反応溶液中の溶媒の除去を行い、必要により留出物を洗浄することによって、上記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する含フッ素アリールエステル重合体が得られることになる。また、反応溶液を重合体の溶解度が低い溶媒中に加えることにより、含フッ素アリールエステル重合体を固体として沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することによって得ることもできる。
【0056】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、溶剤への溶解性に優れることから、フィルム状、ファイバー状等の様々な形状の成形体に成形して用いることが可能である。このような、本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる成形体もまた、本発明の1つである。
【0057】
本発明の成形体は、本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなるものである限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分を含んでいる場合、成形体100質量%に対して、含フッ素アリールエステル重合体の割合は、30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、50質量%以上である。
なお、本発明の成形体は、上述した本発明の含フッ素エステル化合物を含んでいてもよい。すなわち、本発明の成形体は、含フッ素アリールエステル重合体と含フッ素エステル化合物の混合物からなるものであってもよい。本発明の成形体が含フッ素アリールエステル重合体と含フッ素エステル化合物の混合物からなるものである場合、両者の含有比率は特に制限されず、成形体100質量%に対して、両者の合計の割合が30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、50質量%以上である。
【0058】
本発明の成形体をフィルム又はシート等の膜状の成形体として用いる場合、厚さとしては、0.1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。また、ファイバー状成形物として用いる場合、直径としては、5μm以上、10000μm以下であることが好ましい。その他の形態の成形体としては、例えば、ペレット形状、平板や波板等のシート形状、パイプ形状等の成形体;半円、L字形、T字形、U字形、山形等の形状をしている異形の成形体が挙げられる。
上記成形物の成形方法としては、射出成形、押出成形、真空成形、ブロー成形、熱成形、圧縮成形、カレンダー成形、粉末成形、発泡成形、積層成形、溶剤キャスト法、スピンコート法等の方法が好適である。
【0059】
本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる成形体は、上述のように溶剤溶解性に優れることに起因して成形加工性が高いことに加え、耐熱性、低吸湿性、透明性、耐候性、撥水性及び電気的特性に優れたものであることから、スーパーエンジニアリングプラスチックとして、また、絶縁材料として高周波電子部品や高周波配線基板、コーティング剤、低誘電フィルム、プリント配線板表面配線の塗布絶縁膜、半導体素子及びリード線の被覆材、接着剤等の電子情報材料や精密機械用材料、及び、基板や光学補償層等に用いられる光学フィルムや光導波路、通信用材料、光ファイバー、光記録、液晶ディスプレイ等の光通信・記録材料、表示用基板等の様々な分野において、好適に用いることができるものである。本発明の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる成形体は、これらの様々な分野において、上述した様々な形態で用いることができるが、これらの中でも、フィルムとして用いられることが好ましい。
【0060】
上記成形体の成形は、溶媒キャスト法、貧溶媒を用いた膜成形法、押し出し法、紡糸法、圧延法等の成形方法により行うことができる。これらの方法を用いて、膜状だけでなく、繊維状、ペレット状、プレート状、ロッド状、パイプ状、ボール状、ブロック状等の様々な形状に成形することができる。フィルムを作製する場合には、これらの中でも溶媒キャスト法が最も好ましい。
例えば、溶媒キャスト法にてフィルムを作製する場合、重合体等を溶媒に溶解又は分散させ、その溶液を基板に塗布し、溶媒を除くことによりフィルムを得ることができる。
成形体の成形に用いる溶媒は特に限定されず、成形する環境、膜厚、溶液温度、塗布温度、乾燥温度等の種々の条件下で最も好ましいものを適宜選択することができる。溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上の溶媒を併用してもよい。また、溶液には、溶媒、重合体以外に添加剤等の第3成分を含有してもよい。また、溶媒除去は、例えば、加熱による乾燥、減圧乾燥、溶媒のみを溶解する液体への浸漬等によって行うことができる。
【0061】
上記溶媒キャスト法において、基板上に塗布される溶液の厚みとしては特に限定されず、例えば、0.5μmから1000μmとすることが好ましい。より好ましくは、1μmから500μmである。厚みが0.5μm未満であると、膜としての形態を保てなくなるおそれがあり、厚みが1000μmを超えると、充分に均一な膜ができなくなるおそれがある。キャスト厚を制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、アプリケーター、ドクターブレード、バーコーター等を用いて一定の膜厚にすることができる。溶媒を除去した後の膜厚としては、0.5μmから500μmであることが好ましい。
【0062】
本発明の含フッ素エステル化合物、及び、含フッ素アリールエステル重合体はまた、樹脂用添加剤としても用いることができる。本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体を樹脂に添加すると、樹脂を効果的に低吸湿化することが可能となり、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の低吸湿性樹脂材料が求められる分野においても、好適に用いることができる樹脂組成物とすることが可能となる。
このような、本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【0063】
本発明の樹脂用組成物に含まれる本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体の含有量としては、樹脂100質量%に対して1質量%以上であることが好ましく、100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、5質量%以上であることであり、また、80質量%以下であることである。
含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体の含有量が1質量%以下であると、充分に低吸湿化された樹脂組成物とすることができないこととなる。
なお、本発明の樹脂用組成物が含フッ素エステル化合物と含フッ素アリールエステル重合体との両方を含む場合、両者の含有比率は特に制限されない。
【0064】
本発明の樹脂組成物は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂等のいずれの樹脂からなるものであってもよいが、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の構造中にエステル構造を有するエステル系樹脂からなるものであることが好ましい。本発明の含フッ素エステル化合物、又は、含フッ素アリールエステル重合体は、構造中にエステル構造を有することに起因してエステル系樹脂との相溶性が良好であり、樹脂組成物がエステル系樹脂からなるものであると、樹脂に対する含フッ素エステル化合物や含フッ素アリールエステル重合体の比率を高くして添加することができ、より低吸湿性に優れた樹脂組成物とすることが可能となる。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の各種用途に好適に用いることができるものであり、例えば、光ピックアップレンズ、レーザービームプリンター用fθレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ランプレンズ等のレンズ;ビデオディスク、オーディオディスク、コンピューター用追記型ディスク等のディスク;プラスチック光ファイバー(POF)、光コネクター、導光体等の光伝送材等を挙げることができる。また、電子情報材料や精密機械用材料としても好適に用いることができ、例えば、絶縁材料として高周波電子部品や高周波配線基板、コーティング剤、低誘電フィルム、プリント配線板表面配線の塗布絶縁膜、半導体素子及びリード線の被覆材等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0066】
本発明の含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体は、上述の構成よりなり、低吸湿性、耐侯性に優れたものであり、また重合体は、耐熱性、耐侯性、電気的特性や透明性等の各種特性に優れたものであることから、電子情報材料、精密機械材料、光材料等の様々な分野で好適に用いることができる。また、本発明の含フッ素エステル化合物、及び/又は、含フッ素アリールエステル重合体を樹脂に添加することにより、樹脂を効果的に低吸湿化することが可能となり、低吸湿性の材料が求められる光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の分野においても好適に用いられる樹脂組成物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
実施例1 4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル(BPDES)の合成
4,4’−ヒドロキシジフェニルエーテル5.00g(24.75mmol)、トリエチルアミン5.01g(49.50mmol)、ジクロロメタン100gをフラスコに仕込み、ウォーターバスを用いて10℃に保持した。ペンタフルオロベンゾイルクロライド11.41g(49.50mmol)と20gのジクロロメタンを滴下ロートに仕込みフラスコ内にゆっくりと滴下した。
滴下終了後、ウォーターバスをはずし、室温で3時間反応させた。水に投入後、固体を回収し、メタノールで再結晶することによりBPDESを得た。収率は86.0%、融点はTm=130℃であった。得られたBPDESの1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図1、図2に示す。1H−NMR及び19F−NMRの測定装置及び測定条件は以下に示す。
【0069】
実施例2 2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)の合成
2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)へキサフルオロプロパン5.00g(14.88mmol)、トリエチルアミン3.31g(32.74mmol)、ペンタフルオロベンゾイルクロライド6.86g(29.76mmol)を用いて実施例1と同様に合成してBP6FBAを得た。
収率は80.7%、融点はTm=119℃であった。得られたBP6FBAの1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図3、図4に示す。
【0070】
【化15】
【0071】
実施例3 BPDESとフルオレン−9−ビスフェノール(HF)とからなる重合体(BPDES−HF)の合成
BPDES 6.04g(10.23mmol)、HF 3.59g(10.23mmol)、炭酸カリウム 7.07g(51.16mmol)、モレキュラーシーブ10.00g及びMEK100gを仕込んで、75℃で2時間反応した。その後、この反応液を0.5Lの脱イオン水に注ぎ、重合体(BPDES−HF)を得た。この重合体の収率は90%であった。得られた重合体の1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図5、図6に示す。得られた重合体の数平均分子量は、15400であった。また、この重合体の熱的特性評価、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価を行った。結果を表1、2及び3に示す。数平均分子量測定、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価の方法は以下に示す。
【0072】
実施例4 BPDESとヘキサフルオロビスフェノールA(6FBA)とからなる重合体(BPDES−6FBA)の合成
BPDES 3.00g(5.08mmol)、6FBA 1.70g(5.08mmol)、炭酸カリウム 3.51g(25.40mmol)、モレキュラーシーブ10.00g及びメチルエチルケトン(MEK) 100gを仕込んで、75℃で2時間反応した。その後、この反応液を0.5Lの脱イオン水に注ぎ、重合体を得た。この重合体の収率は82%であった。得られた重合体の1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図7、図8に示す。得られた重合体の数平均分子量は、13000であった。また、この重合体の熱的特性評価、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価を行った。結果を表1、2及び3に示す。
【0073】
実施例5 BP6FBAと6FBAとからなる重合体(BP6FBA−6FBA)の合成
BP6FBA 3.00g(4.14mmol)、6FBA 1.39g(4.14mmol)、炭酸カリウム 2.86g(20.70mmol)、モレキュラーシーブ10.00g及びMEK100gを仕込んで、75℃で2時間反応した。その後、この反応液を0.5Lの脱イオン水に注ぎ、重合体を得た。この重合体の収率は85%であった。得られた重合体の1H−NMRスペクトル及び19F−NMRスペクトルを図9、図10に示す。得られた重合体の数平均分子量は、16100であった。また、この重合体の熱的特性評価、透過率測定、全光線透過率測定、及び、電気的特性評価を行った。結果を表1、2及び3に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
実施例6〜10及び比較例1
18gのトルエンに溶解させたポリメチルメタクリレート(PMMA)2gに対して実施例1〜5で合成した化合物をそれぞれ1gずつ添加した。ガラス板上にキャストし、乾燥させることによりフィルムを得た。各フィルムの熱的特性評価、屈折率及び吸湿率(吸水率)測定を行った。結果を表4〜6に示した。なお、比較のため、PMMA単独のものについても測定を行った。熱的特性評価、屈折率及び吸湿率測定の方法は以下に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
〔NMR測定〕
UNITY PLUS400MHz(Varian社製)を用いて測定した。測定溶媒として重クロロホルムを用いた。1H−NMRには標準としてテトラメチルシラン(TMS)を、19F−NMRには標準としてヘキサフルオロベンゼンを用いた。
〔熱的特性評価〕
島津示差熱熱重量同時測定装置(島津製作所社製)を用いて融点、ガラス転移温度、ガラス転移温度オンセット(ガラス転移開始温度)と、重量減少温度(5質量%減少)とを測定した。加熱速度は、窒素雰囲気下10℃/分とした。
〔数平均分子量〕
HLC−8120GPC(東ソー社製)、カラム:G−5000HXL+GMHXL−Lを用いて測定した。展開溶媒THF、流速1mL/分、標準としてポリスチレンを用い、ポリスチレン換算により数平均分子量を測定した。
【0082】
〔吸湿率(吸水率)測定〕
得られたフィルムを110℃で15時間乾燥後、25℃の水に48時間浸漬させて、その重量変化を測定し、吸湿率を算出した。
〔屈折率測定〕
プリズムカプラーSPA−4000(SAIRON TECHNOLOGY社製)を用いて632.8nm、830nm、1310nm及び1550nmにおける屈折率を測定した。
〔透過率測定〕
Shimadzu UV−3100(島津製作所社製)を用いて850nmにおける透過率を測定した。30μmのフィルム状で測定を行った。
〔全光線透過率測定〕
NDH−1001DP型(日本電色工業社製)を用いて全光線透過率を測定した。
膜厚30μmのフィルム状で測定した。
〔電気的特性評価〕
インピーダンスアナライザHP4294A8(HEWLETT PACKERD社製)を用いて誘電率を測定した。
【0083】
これらの測定結果より、本発明の含フッ素アリールエステル重合体は、高い耐熱性、透明性を有し、光学特性、電気的特性に優れることが確認できた。また、本発明の含フッ素エステル化合物、含フッ素アリールエステル重合体を樹脂に添加すると、低吸水率化や屈折率制御が可能となるとともに、耐熱性の低下抑制に効果的であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施例1において得られた4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル(BPDES)の1H−NMRの測定チャートである。
【図2】本発明の実施例1において得られた4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル(BPDES)の19F−NMRの測定チャートである。
【図3】本発明の実施例2において得られた2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)の1H−NMRの測定チャートである。
【図4】本発明の実施例2において得られた2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)の19F−NMRの測定チャートである。
【図5】本発明の実施例3において得られたBPDESとフルオレン−9−ビスフェノール(HF)とからなる重合体(BPDES−HF)の1H−NMRの測定チャートである。
【図6】本発明の実施例3において得られたBPDESとフルオレン−9−ビスフェノール(HF)とからなる重合体(BPDES−HF)の19F−NMRの測定チャートである。
【図7】本発明の実施例4において得られたBPDESとヘキサフルオロビスフェノールA(6FBA)とからなる重合体(BPDES−6FBA)の1H−NMRの測定チャートである。
【図8】本発明の実施例4において得られたBPDESとヘキサフルオロビスフェノールA(6FBA)とからなる重合体(BPDES−6FBA)の19F−NMRの測定チャートである。
【図9】本発明の実施例5において得られたBP6FBAと6FBAとからなる重合体(BP6FBA−6FBA)の1H−NMRの測定チャートである。
【図10】本発明の実施例5において得られたBP6FBAと6FBAとからなる重合体(BP6FBA−6FBA)の19F−NMRの測定チャートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されることを特徴とする含フッ素エステル化合物。
【請求項2】
前記含フッ素エステル化合物は、下記式(2)又は(3);
【化2】
で表される
ことを特徴とする請求項1記載の含フッ素エステル化合物。
【請求項3】
下記一般式(4);
【化3】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R1及びR2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする
ことを特徴とする含フッ素アリールエステル重合体。
【請求項4】
下記一般式(5);
【化4】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(6);
【化5】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする
ことを特徴とする含フッ素アリールエステル重合体。
【請求項5】
下記一般式(1);
【化6】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物と下記一般式(7);
【化7】
(式中、R2は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されるジヒドロキシ化合物とを塩基性触媒存在下で重合する工程を含んでなる
ことを特徴とする含フッ素アリールエステル重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4記載の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなることを特徴とする成形体。
【請求項7】
請求項1若しくは2記載の含フッ素エステル化合物、及び/又は、請求項3若しくは4記載の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されることを特徴とする含フッ素エステル化合物。
【請求項2】
前記含フッ素エステル化合物は、下記式(2)又は(3);
【化2】
で表される
ことを特徴とする請求項1記載の含フッ素エステル化合物。
【請求項3】
下記一般式(4);
【化3】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R1及びR2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする
ことを特徴とする含フッ素アリールエステル重合体。
【請求項4】
下記一般式(5);
【化4】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(6);
【化5】
(式中、m’及びn’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R2は、同一又は異なって、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。pは、重合度を表す。)で表される繰り返し単位を必須とする
ことを特徴とする含フッ素アリールエステル重合体。
【請求項5】
下記一般式(1);
【化6】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜5の整数である。R1は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表される含フッ素エステル化合物と下記一般式(7);
【化7】
(式中、R2は、炭素数1〜150の2価の有機基を表す。)で表されるジヒドロキシ化合物とを塩基性触媒存在下で重合する工程を含んでなる
ことを特徴とする含フッ素アリールエステル重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4記載の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなることを特徴とする成形体。
【請求項7】
請求項1若しくは2記載の含フッ素エステル化合物、及び/又は、請求項3若しくは4記載の含フッ素アリールエステル重合体を含んでなる
ことを特徴とする樹脂組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−183023(P2006−183023A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156394(P2005−156394)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
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