説明

含フッ素エラストマーおよびその組成物

【課題】テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)を主成分とする共重合体であって、特に有機アミン類、熱水、高温水蒸気等の極性媒体に対する抵抗性が改善され、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)主鎖骨格本来の耐化学薬品性を発現し得る含フッ素エラストマーおよびその組成物を提供する。
【解決手段】(A)テトラフルオロエチレン 55〜75モル%、(B)パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 23〜44.9モル%および(C)一般式


(X:I,Br、m:0,1、n:2〜4)で表わされる含フッ素ビニルエーテル化合物 0.1〜2モル%からなる共重合体組成を有する含フッ素エラストマー。この含フッ素エラストマーに、芳香族ボロン酸エステル、有機パラジウム化合物、塩基性無機または有機化合物(および有機リン化合物)を配合して、含フッ素エラストマー組成物を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマーおよびその組成物に関する。さらに詳しくは、改善された耐化学薬品性、特に有機アミン類、熱水または水蒸気等の極性媒体に対して優れた抵抗性を有する硬化物を与え得る含フッ素エラストマーおよびその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)を共重合体主成分とする含フッ素エラストマーは、種々の架橋反応により硬化され、優れた特性を有する、産業上極めて有用なエラストマー性成形物を与える。この成形物は、広範囲の化学薬品に対して耐性を示し、また約200〜300℃の高温条件下で長期使用が可能である。このようなエラストマー性成形物の優れた耐熱性および耐化学薬品性は、主に共重合体の主鎖構造に起因するものであるが、その架橋方法もこれらの性質に部分的にではあるが影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
第1の架橋方法としては、例えば一般式
CF2=CFO〔CF2C(CF3)O〕m(CF2)nCN (m:1〜2、n:1〜4)
で表わされる架橋部位単量体が、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)とともに少量共重合され、硬化性の含フッ素エラストマーを形成する。このような3元共重合体を2,2-ビス(3,3′-ジアミノ-4,4′-ジヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン

を用いて硬化させる方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭63−5409号公報
【特許文献2】特公平3−3708号公報
【特許文献3】特開平2−59177号公報
【0004】
上記シアノ基含有架橋点部位単量体が共重合された共重合体を硬化させて得られる成形物は、その連続使用温度が300℃に達するなど極めて優れた耐熱性を示し、また大抵の化学薬品に対して耐性を示すものの、有機アミン類、熱水、高温水蒸気等の極性媒体に対しては比較的大きな膨潤を示すことがあり、使用に際しては事前のテストが必要とされる場合がある。このように耐化学薬品性に関しては、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体の主鎖骨格が本来有する耐化学薬品性を十分発揮しているとはいえない。
【0005】
第2の架橋方法としては、含ハロゲン不飽和架橋点部位単量体を共重合するか、あるいは含ハロゲンパーフルオロアルカン等の連鎖移動剤を用いて、硬化性テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体を形成し、これに有機過酸化物およびトリアリルイソシアヌレートの如き共架橋剤を用いて架橋させる、いわゆるパーオキサイド架橋方法が知られている。
【特許文献4】USP 4,973,634
【特許文献5】特開昭53−125491号公報
【0006】
ここで、含ハロゲン不飽和架橋部位単量体としては、
CF2=CFBr
CF2=CFI
CF2=CFOCF2CF2Br
CH2=CHCF2CF2Br
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CH2I
等が知られている。
【0007】
パーオキサイド架橋法により得られた成形物の最高使用温度は、230℃程度であるが、耐化学薬品性に関しては、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体が本来有する耐化学薬品性に近い特性を有し、前記第1の架橋方法に比べれば幾分良化しているものの、なお改善の余地を残している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)を主成分とする共重合体であって、特に有機アミン類、熱水、高温水蒸気等の極性媒体に対する抵抗性が改善され、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)主鎖骨格本来の耐化学薬品性を発現し得る含フッ素エラストマーおよびその組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって、(A)テトラフルオロエチレン 55〜75モル%、(B)パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 23〜44.9モル%および(C)一般式

(ここで、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、mは0または1、nは2〜4の整数である)で表わされる含フッ素ビニルエーテル化合物 0.1〜2モル%からなる共重合体組成を有する含フッ素エラストマーが提供される。
【0010】
また、
(A)成分 上記含フッ素エラストマー 100重量部
(B)成分 芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜5重量部
(C)成分 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D)成分 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E)成分 有機リン化合物 0〜5重量部
を含有してなる含フッ素エラストマー組成物が形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る含フッ素エラストマーおよびそれを用いた組成物は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)を主成分とする共重合体の主鎖骨格本来の耐熱性を維持し、耐化学薬品性、特にヘキサメチレンジアミン等の有機アミン類、熱水および高温水蒸気等の極性媒体に対する抵抗性が改善された成形物を与える。有機アミン化合物は、酸化劣化防止剤としてエンジンオイル等の潤滑油に含まれており、また半導体産業においては、そのウエハ洗浄工程において、キレート剤としてエチレンジアミン、グリシン、EDTA等が用いられおり、本発明にかかる含フッ素エラストマーおよびその組成物は、このような過酷な使用環境にも耐え得るエラストマー性成形物を与える。
【0012】
このようにして得られるエラストマー性硬化物は、耐薬品性および耐熱性に優れ、石油化学産業、自動車産業、半導体製造産業および航空機産業の部品等に有効に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の含フッ素エラストマーは、テトラフルオロエチレン 55〜75モル%、パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 23〜44.9モル%および一般式

(X:I,Br、m:0,1、n:2〜4)
で表わされる含フッ素ビニルエーテル化合物 0.1〜2.0モル%の共重合組成を有する。好ましい組成は、加工性等を考慮してテトラフルオロエチレン 60〜70モル%、メチルビニルエーテル 28.5〜39.5モル%、含フッ素ビニルエーテル化合物 0.5〜1.5モル%である。
【0014】
本発明の含フッ素ビニルエーテル化合物の具体例を、以下に示す。






【0015】
特に、他の含フッ素単量体との共重合性および製造のし易さから、好ましくは下記化合物が選ばれる。


【0016】
本発明の含フッ素ビニルエーテル化合物は、例えば以下のような方法により製造することができる。

【0017】
上記含フッ素ビニルエーテル化合物の共重合割合は、0.1〜2.0モル%であり、好ましくは0.5〜1.5モル%である。0.1モル%以下では、十分に硬化反応が進行せず、成形が困難になったり、成形不良の原因となり、また得られる成形物の機械的な強度も低下する。一方、2.0モル%以上では、不経済であるばかりではなく、過度の圧縮または伸長応力により成形物が破断し易くなる。
【0018】
また、本発明の含フッ素エラストマーは、パーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)(住友3M製品FC-77):CF3CFClCCl2CF3(容積比40:60)混合溶媒の0.1重量%溶液として、35℃で測定したときの溶液粘度ηsp/cは、0.1〜2.0dl/gである。
【0019】
なお、加工性を改善するために、1,4-ジヨードオクタフルオロブタン、1,6-ジヨードドデカフルオロヘキサン、1-ブロモ-2-ヨードテトラフルオロエタン等の含ハロゲンパーフルオロアルカン類の存在下で、上記必須成分を共重合することもできる。
【0020】
以上の各成分よりなる3元共重合体は、含フッ素乳化剤として
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4
等を用い、水性乳化重合法により容易に製造することができる。共重合反応に際しては、重合開始剤として、例えば過硫酸アンモニウム単独または過硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム等の還元剤とを併用するレドックス系の何れにも使用できる。水性乳化液を安定させるために、pH調整剤として、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムおよび水酸化アンモニウムなどが用いられる。重合反応は、30〜80℃、重合圧力は0.1〜3.0MPaで行われる。
【0021】
このようにして得られる含フッ素エラストマーは、下記の成分とともに、含フッ素エラストマー組成物を形成し得る。
(A)成分 上記含フッ素エラストマー 100重量部
(B)成分 芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜5重量部
(C)成分 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D)成分 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E)成分 有機リン化合物 0〜5重量部
【0022】
これらの各成分から形成された組成物の硬化反応は、パラジウム触媒による、アリールボロン酸またはそのエステルとハロゲン化アリールのクロスカップリング反応(鈴木−宮浦反応)に基づくものである。
【非特許文献1】Chem. Rev. 95巻 2457頁 (1995)
【0023】
以下、(A)成分以外の各成分の実施形態について、順次説明する。
【0024】
(B)成分は、下記一般式で表わされる芳香族ボロン酸エステル化合物


を用いることができる。下記の如き

芳香族ボロン酸化合物を用いることも可能であるが、加熱により脱水縮合してボロキシン
等に変化し、硬化剤としての活性が低下することがあるので、好ましくは芳香族ボロン酸エステル化合物が選ばれる。芳香族ボロン酸エステル化合物において、R1は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の2価の脂肪族炭化水素基であり、例えば-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH2CH2-、-C(CH3)2C(CH3)2-、-C(CH3)2CH2C(CH3)2-等が挙げられる。
【0025】
具体的な芳香族ボロン酸エステル化合物の例としては、1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4,4,6,6-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル)ベンゼンが挙げられる。好ましくは、1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼンが製造の容易さから選ばれる。
【非特許文献2】J. Appl. Poly. Sci. 76巻 1257頁 (2000)
【0026】
(B)成分芳香族ボロン酸エステル化合物は、(A)成分含フッ素エラストマー100重量部当り0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の割合で用いられる。(B)成分がこれより少ないと、硬化が不十分となるかまたは得られる硬化物の機械的強度が低下する。一方、これより多い割合で用いることは、それに見合った効果が見込めず、経済的でない。
【0027】
硬化触媒として用いられる(C)成分有機パラジウム化合物としては、0価または2価の有機パラジウム化合物が用いられる。0価のパラジウム化合物は、そのまま0価の状態で硬化反応の触媒として作用する。2価の有機パラジウム化合物は、(A)成分、(B)成分または後述の(E)成分有機リン化合物により0価に還元された後、触媒作用を発現する。(C)成分有機パラジウム化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部当り0.0001〜1重量部、好ましくは0.001〜0.5重量部の割合で用いられる。(C)成分がこれより少ないと、十分な硬化が行われず、一方これより多い割合で用いることは経済的でない。
【0028】
0価の有機パラジウム化合物としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパアラジウム等が用いられる。2価の有機パラジウム化合物としては、例えば酢酸パラジウム、アリルパラジウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、ビス(トリ第3ブチルホスフィン)パラジウムジクロリド、(ジフェニルホスフィノフェロセン)ジクロロパラジウム等が用いられる。特に、酢酸パラジウムが好適に用いられる。
【0029】
なお、酢酸パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、アリルパラジウムクロリドのように分子内にリン化合物を含まない有機パラジウム化合物を用いる場合、その安定剤として、一般式

で表わされる(E)成分有機リン化合物を併用することが好ましい。
【0030】
ここで、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、置換基を有し得る炭素数1〜10の鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数5〜12の環状脂肪族炭化水素基または炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基を有する有機リン化合物の具体例としては、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ第3ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン等が挙げられる。
【0031】
また、芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物としては、一般式

で表わされるトリフェニルホスフィン化合物類または一般式

で表わされる、Buchwald配位子と総称される化合物群を用いることもできる。
【特許文献6】USP 6,307,087
【特許文献7】USP 6,294,627
【0032】
ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基あるいは炭素数1〜3のアルキル基を有するアルコキシ基またはジアルキルアミノ基である。R6は炭素数1〜6の鎖状または環状の脂肪族炭化水素基である。トリフェニルホスフィン化合物類としては、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(1,3,5-トリイソプロピルフェニル)ホスフィン等が例示される。Buchwald配位子の具体例としては、(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2′,6′-ジメトキシビフェニル、2-ジ-第3ブチルホスフィノ-2′,4′,6′-トリイソプロピルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2′-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル等の化合物が例示される。
【0033】
その他、分子内に2個のリン原子を有する、一般式

で表わされる二座配位子有機リン化合物も用いることができる。ここで、R5は置換基を有し得るフェニル基または炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基であり、Zは2価の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはメタロセン基である。
【0034】
具体例には、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1′-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,1′-ビス(ジ第3ブチルホスフィノ)フェロセン、2,2′-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1′-ビナフタレン等の化合物が例示される。
【0035】
(E)成分有機リン化合物は、(C)成分有機パラジウム化合物のPd原子に対して0.5〜10モル当量、好ましくは1〜4モル当量用いられる。(A)成分に対しては、その100重量部当り0.1〜2重量部の割合で用いられることが好ましい。
【0036】
(D)成分の塩基性無機化合物または塩基性有機化合物としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩あるいは炭酸水素塩、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属リン酸塩あるいはリン酸水素塩、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物、酢酸カリウム等のアルカリ金属酢酸塩、ナトリウムメトキシド、有機アミン類が挙げられる。好ましい例は、リン酸カリウムである。(D)成分塩基性無機化合物または塩基性有機化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは1〜10重量部の割合で用いられる。(D)成分を添加しないと硬化反応がきわめて遅いかあるいは全く起こらない場合がある。
【0037】
硬化性含フッ素ポリエーテル組成物中には、これらの各成分以外に、硬化反応を阻害しない量および純度を有する各種充填剤、補強剤、顔料等適宜配合して用いられる。組成物の調製は、2本ロール等を用いて混練することにより行われ、混和物の硬化は、100〜200℃で圧縮成形、射出成形等により約1〜60分間行われ、必要に応じて100〜300℃で10〜50時間程度のオーブン加硫(二次加硫)が行われる。これは、成形物中の揮発性成分の除去、硬化反応の完遂および成形工程における成形物内部の歪の除去が目的で行われる。このオーブン加硫は、窒素等の不活性ガス雰囲気中で、一定温度で加熱する1段階方式でも良いが、急激な加熱による成形物の発泡および変形を防止するために、段階的に温度を上げる多段階昇温方式が推奨される。
【実施例】
【0038】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0039】
参考例

上記原料物質カルボン酸カリウム塩200g(0.35モル)を、攪拌機および気体・揮発性物質の排出口を備えた内容量2Lの三口フラスコに仕込んだ。ドライアイス/メタノールコールドトラップおよび液体窒素コールドトラップを、反応容器と真空ポンプの間に設置し、反応系内を133Pa以下に減圧した。反応系内圧力を133Pa以下に保ちながら、反応容器を270℃に加熱し、反応を開始させた。反応により生成したビニルエーテル化合物および炭酸ガスは、それぞれドライアイス/メタノールコールドトラップおよび液体窒素コールドトラップに捕集された。2時間後反応を終了させ、ドライアイス/メタノールコールドトラップより1,1,2,4,4,5,5,6,6-ノナフルオロ-6-(4′-ヨードフェノキシ)-3-オキサヘキセン-1(純度95GC%)139g(収率85%)を回収した。

19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準):-116ppm(Fa)
-124ppm(Fb)
-138ppm(Fc)
-83ppm(Fd)
-128ppm(Fe)
-81ppm(Ff)
1H-NMR(ケミカルシフトはTMS基準): 7.0ppm(Hb)
7.7ppm(Ha)
IR(neat): 1840cm-1(C=C)
【0040】
実施例1
内容量3Lのステンレス鋼製オートクレーブ内に、
イオン交換水 1.5kg
C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 30g
リン酸水素二ナトリウム・12水塩 15g
を仕込んだ後内部を脱気し、次いで窒素ガスで満たした。脱気、窒素ガス導入操作をさらに2度繰り返した後、再度オートクレーブ内部を脱気した。そこに、
テトラフルオロエチレン 40g
パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 40g
1,1,2,4,4,5,5,6,6-ノナフルオロ-6- 3.0g
(4′-ヨードフェノキシ)-3-オキサ-ヘキセン-1
を順次仕込み、60℃に昇温した。そこに、亜硫酸ナトリウム 0.2gおよび過硫酸アンモニウム 1.0gをそれぞれ50mlの水溶液として仕込み、重合反応を開始させた。重合反応の進行に伴い、圧力が降下する。圧力が0.8MPaになったら、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)混合物(重量比1:1)を導入し、0.9MPaまで昇圧した。降圧、昇圧の操作を繰り返し、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)それぞれ200g仕込んだ時点でガスの供給を停止し、さらに2時間重合反応を継続した。オートクレーブを室温まで冷却し、内部の残留ガスを放出した後、固形分濃度24重量%の水性ラテックスを回収した。
【0041】
抜き取った水性ラテックスを、エタノール 1.5Lおよび5重量%塩化マグネシウム水溶液 1.5Lからなる凝析液に加え、共重合体を析出させた。析出した共重合体を、70℃のイオン交換水で洗浄した後、100℃で24時間減圧乾燥し、僅かに黄色味を帯びたエラストマー性3元共重合体を420g得た。
【0042】
19F-NMRおよび赤外線吸収スペクトル分析により、得られた3元共重合体は下記の組成を有していた。
テトラフルオロエチレン 66モル%
パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 33モル%
1,1,2,4,4,5,5,6,6-ノナフルオロ-6- 1モル%
(4′-ヨードフェノキシ)-3-オキサヘキセン-1
また、溶液粘度ηsp/c (FC-77-CF3CFClCCl2CF3 (容量比40:60)混合溶媒の0.1重量%溶液として、35℃で測定)は、0.70dl/gであった。
【0043】
実施例2
実施例1で得られた3元共重合体 100重量部
アセチレンカーボンブラック 5重量部
酢酸パラジウム 0.1重量部
1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2- 1.0重量部
ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン
(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン 0.5重量部
リン酸カリウム 5重量部
【0044】
以上の各成分を、2本ロールで混和した。得られた混和物を、180℃で10分間プレス加硫した後、
室温から100℃まで1時間かけて昇温
100℃で5時間保持
100℃から200℃まで1時間かけて昇温
200℃で10時間保持
200から280℃まで1時間かけて昇温
280℃で10時間保持する
という段階的なオーブン加硫を窒素雰囲気中で行った。
【0045】
このようにして得られたシート(厚さ2mm)およびP24 Oリングについて、次の各項目の測定を行った。
常態物性:JIS K6250、K6253準拠
圧縮永久歪:ASTM D395 Method B準拠
P-24 Oリングについて、250℃および275℃、70時間試験後の値を測定
ヘキサメチレンジアミン浸漬試験:140℃、70時間浸漬後の体積変化率を測定
【0046】
実施例3
実施例2において、有機リン化合物として、(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィンの代りに、トリフェニルホスフィン0.4重量部が用いられた。
【0047】
比較例1
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)/CF2=CF(CF2)3OCF(CF3)CN 〔モル比69/30/1〕3元共重合体(ηsp/c:0.78dl/g(FC-77-CF3CFClCCl2CF3 (容量比40:60)混合溶媒の0.1重量%溶液として、35℃で測定)100重量部に、
MTカーボンブラック 20重量部
2,2-ビス(3,3′-ジアミノ-4,4′-ジヒドロキシフェニル) 1.4重量部
ヘキサフルオロプロペン
を添加し、2本ロールで混和した。得られた混和物を、200℃で30分間プレス加硫した後、
室温から90℃まで0.5時間かけて昇温
90℃で4時間保持
90℃から204℃まで6時間かけて昇温
204℃で18時間保持
204から288℃まで6時間かけて昇温
288℃で18時間保持する
という段階的なオーブン加硫を窒素雰囲気中で行った。
【0048】
このようにして得られたシート(厚さ2mm)およびP24 Oリングについて、実施例2と同様の試験を行った。
【0049】
比較例2
ICF2CF2Br存在下で、水性乳化重合法によって得られた、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)2元共重合体〔モル比63/27、I,Br含量0.25%、ηsp/c:0.30dl/g、FC-77 1重量%溶液として、35℃で測定〕100重量部に、
MTカーボンブラック(キャンキャブ製N990) 20重量部
TAIC M60(日本化成製トリアリルイソシアヌレート) 4重量部
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B40) 1重量部
酸化亜鉛 5重量部
を、2本ロールを用いて混和した。得られた混和物を、180℃、10分間プレス加硫を行い、次いで空気中で200℃、24時間のオーブン加硫を行った。このようにして得られたシート(厚さ2mm)およびP24 Oリングについて、実施例2と同様の試験を行った。
【0050】
以上の実施例2〜3および比較例1〜2での測定結果は、次の表に示される。

測定項目 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2
〔常態物性〕
硬さ 73 74 72 74
100%モジュラス (MPa) 7.0 8.5 6.7 8.5
破断時強度 (MPa) 14.0 13.5 17.0 20.0
破断時伸び (%) 150 140 160 210
〔圧縮永久歪〕
250℃、70時間 (%) 40 37 22 47
275℃、70時間 (%) 55 57 30 (メルト)
〔浸漬試験〕
体積変化率 (%) +13 +16 +43 +25

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラフルオロエチレン 55〜75モル%、(B)パーフルオロ(メチルビニルエーテル) 23〜44.9モル%および(C)一般式

(ここで、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、mは0または1、nは2〜4の整数である)で表わされる含フッ素ビニルエーテル化合物 0.1〜2モル%からなる共重合体組成を有し、パーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン):CF3CFClCCl2CF3(容積比40:60)混合溶媒の0.1重量%溶液として、35℃で測定したときの溶液粘度ηsp/c が0.1〜2.0dl/gである含フッ素エラストマー。
【請求項2】
含フッ素ビニルエーテル化合物が、一般式

で表わされる請求項1記載の含フッ素エラストマー。
【請求項3】
含フッ素ビニルエーテル化合物が、

である請求項2記載の含フッ素エラストマー。
【請求項4】
(A) 請求項1記載の含フッ素エラストマー 100重量部
(B) 一般式

(ここで、R1は炭素数2〜10の直鎖状または
分岐状の2価の脂肪族炭化水素基である)
で表わされる芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜5重量部
(C) 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D) 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E) 一般式

(ここで、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、それ
ぞれ置換基を有し得る炭素数1〜10の鎖状脂
肪族炭化水素基、炭素数5〜12の環状脂肪族
炭化水素基または炭素数6〜20の芳香族炭化
水素基である)
または一般式

(ここで、R5は置換基を有し得るフェニル基
または炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基であり、
Zは2価の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、
炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはメタ
ロセン基である)
で表わされる有機リン化合物 0〜5重量部
を含有してなる含フッ素エラストマー組成物。
【請求項5】
(A)成分が、含フッ素ビニルエーテル化合物として

を共重合させた含フッ素エラストマーである請求項4記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項6】
(B)成分芳香族ボロン酸エステル化合物が1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン

である請求項4記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項7】
(C)成分2価の有機パラジウム化合物が酢酸パラジウムである請求項4記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項8】
(D)成分塩基性無機化合物がリン酸カリウムである請求項4記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項9】
(E)成分有機リン化合物が、下記一般式

(ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水
素原子、炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基
あるいは炭素数1〜3のアルキル基を有す
るアルコキシ基またはジアルキルアミノ
基である)
で表わされる化合物である請求項4記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項10】
(E)成分有機リン化合物が、トリフェニルホスフィンである請求項9記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項11】
(E)成分有機リン化合物が、一般式

(ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水
素原子、炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基
あるいは炭素数1〜3のアルキル基を有す
るアルコキシ基またはジアルキルアミノ
基であり、R6は炭素数1〜6の鎖状または
環状脂肪族炭化水素基である)
で表わされる化合物である請求項4記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項12】
(E)成分有機リン化合物が、(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン

である請求項11記載の含フッ素エラストマー組成物。

【公開番号】特開2008−266437(P2008−266437A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110349(P2007−110349)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】