説明

含フッ素エラストマー組成物および該組成物からなる成形品

【課題】 柔軟で燃料バリア性、耐熱性・耐薬品性・耐油性等の特性に優れる含フッ素エラストマー組成物を提供する。また、その含フッ素エラストマー組成物を架橋することにより得られるシール材、成形品、燃料ホースを提供する。
【解決手段】 本発明は、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリオール系架橋剤およびハイドロタルサイト類を含む含フッ素エラストマー組成物を架橋して得られる成形品であって、2価の金属の酸化物または水酸化物のみからなる受酸剤が含フッ素エラストマー100重量部に対して1重量部以下であり、ハイドロタルサイト類が含フッ素エラストマー100重量部に対して0.1〜6重量部である成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリオール系架橋剤およびハイドロタルサイト類を含む含フッ素エラストマー組成物に関する。また、該含フッ素エラストマー組成物を用いた成形品、シール材、燃料ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料ホースやチューブなどのいわゆる燃料周辺部品には、従来はゴムを用いることが主流であったが、米国のカリフォルニア州を中心とした蒸散ガス規制(LEVII)に対応するために、より耐燃料透過性を示す材料、たとえば、ゴム材料としてはアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)からフッ素ゴムへ移行してきた。
【0003】
ところで、近年、化石燃料の枯渇化や、CO規制などの観点から、菜種、大豆、サトウキビなどの農業作物や、麦わら、籾殻などの農業廃棄物、その他一般の廃棄物などを起源とするバイオ燃料に対する期待が高まっており、軽油代替として高級脂肪酸メチルエステル(FEME)を含むバイオディーゼル燃料の検討が進んでいる。ここで、バイオディーゼル燃料とは、生物(バイオマス)、主に植物を搾油することによって得られる高級脂肪酸をエステル化して得られるものであり、例えば、菜種油メチルエステル、大豆油メチルエステル、ひまわり油メチルエステル、ココナッツ油メチルエステル、パーム油メチルエステルなどがあげられる。バイオディーゼル燃料としては、前記高級脂肪酸をエステル化したものを単品として用いる場合や、軽油と混合し、例えば軽油:バイオディーゼル=90:10(体積%)のように用いる場合などがある。
【0004】
しかし、このようなバイオディーゼル燃料を用いた場合、従来のフッ素ゴムからなる燃料周辺部品では劣化が早いという問題があった。この原因として、水分や温度等の影響で、高級脂肪酸メチルエステルの加水分解が促進され、高級脂肪酸とメタノールが発生する、すなわち、バイオディーゼル燃料には、高級脂肪酸メチルエステル、メタノールおよび高級脂肪酸等が混在することになり、これらによってフッ素ゴムが劣化すると推測される。
【0005】
このような問題点を解決する方法として、ハイドロタルサイトが分散している含フッ素エラストマー組成物が知られている(例えば、国際公開番号第2004/067618号パンフレット参照)。しかし、国際公開番号第2004/067618号パンフレットにおいては、高級脂肪酸の影響については充分検証されておらず、また、国際公開番号第2004/067618号パンフレットの含フッ素エラストマーは、パーオキサイド架橋剤を用いるものであるが、軽油類に高級脂肪酸を添加したバイオディーゼル燃料では、パーオキサイド架橋剤を用いて架橋した場合、バイオディーセル燃料に対する膨潤率が大きく、表面状態が悪いという問題がある。
【0006】
また、耐エンジン油性を改善したフッ素ゴム組成物として、ハイドロタルサイト類を含むポリオール加硫系フッ素ゴム組成物が開示されている(例えば、特開平7−82449号公報参照)。しかし、特開平7−82449号公報では、前記したような高級脂肪酸の影響については検討されておらず、また、特開平7−82449号公報のフッ素ゴム組成物は、受酸剤として、ハイドロタルサイトと2価の金属酸化物が用いられているものであり、該組成物から得られる成形品は物性の低下や表面劣化をする等の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、柔軟で燃料バリア性、耐熱性・耐薬品性・耐油性等の特性に優れる含フッ素エラストマー組成物を提供することである。また、本発明の目的は、該含フッ素エラストマー組成物を架橋することにより得られる成形品、シール材、燃料ホースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリオール系架橋剤およびハイドロタルサイト類を含む含フッ素エラストマー組成物であって、
2価の金属の酸化物または水酸化物のみからなる受酸剤が含フッ素エラストマー100重量部に対して2重量部以下である含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0009】
ハイドロタルサイト類が、一般式(1):
[(M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・mHO]x− (1)
(式中、M2+は2価の金属イオンであり、M3+は3価の金属イオンであり、An−はn価のアニオンであり、xは0<x<0.5を満たす数であり、mは0≦mを満たす数である)
で示される化合物であることが好ましい。
【0010】
一般式(1)中のM2+がMg2+および/またはZn2+、M3+がAl3+、An−がCO2−であることが好ましい。
【0011】
前記含フッ素エラストマー組成物が、パーオキサイド系架橋剤および/またはパーオキサイド系架橋促進剤を含まないことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記含フッ素エラストマー組成物を架橋して得られる成形品、シール材、燃料ホースに関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリオール系架橋剤およびハイドロタルサイト類を含む含フッ素エラストマー組成物であって、
2価の金属の酸化物または水酸化物のみからなる受酸剤が含フッ素エラストマー100重量部に対して2重量部以下である含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0014】
ハイドロタルサイト類としては、特に限定されるものではないが、一般式(1):
[(M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・mHO]x− (1)
(式中、M2+は2価の金属イオンであり、M3+は3価の金属イオンであり、An−はn価のアニオンであり、xは0<x<0.5を満たす数であり、mは0≦mを満たす数である。)
で示される化合物であることが入手容易の点からより好ましい。
【0015】
また、ハイドロタルサイト類としては、天然品であっても合成品であってもよい。
【0016】
2+は、2価の金属イオンを示し、たとえば、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+またはZn2+をあげることができる。これらの中でも、容易に入手可能である点から、Mg2+および/またはZn2+が好ましい。
【0017】
3+は、3価の金属イオンを示し、例えば、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+またはIn3+をあげることができる。これらの中でも、容易に入手可能の点から、Al3+が好ましい。
【0018】
n−は、n価のアニオンを示し、たとえば、OH、F、Cl、Br、NO、CO2−、SO2−、Fe(CN)3−、CHCOO、シュウ酸イオンまたはサリチン酸イオンをあげることができる。これらの中でも、容易に入手可能の点から、CO2−が好ましい。
【0019】
xは0<x<0.5を満たす数であり、0.2≦x≦0.4を満たす数であることが好ましく、0.2≦x≦0.33を満たす数であることがより好ましい。xがこの範囲であることにより、ハイドロタルサイトの生成が安定であるため好ましい。
【0020】
mは0≦mを満たす数であり、0≦m≦1を満たす数であることが好ましい。
【0021】
ハイドロタルサイト類は、一般式(1)で示される不定比化合物であるが、これらの中でも、入手が容易な点から、MgAl(OH)16CO・4HO、Mg4.5Al(OH)13CO・mH2O(0≦m)、Mg4Al2(OH)12CO3・3.5H2O、Mg5Al2(OH)14CO3・4HO、MgAl(OH)10CO・1.7HO、およびMgZnAl(OH)12CO・mHO(0≦m)からなる群から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましく、MgAl(OH)16CO・4HO、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、MgZnAl(OH)12CO・mHO(0<m)がより好ましい。
【0022】
ハイドロタルサイト類の添加量としては、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー100重量部に対して、0.1〜30重量部であることが好ましく、0.1〜10重量部であることがより好ましく、0.1〜6重量部であることがさらに好ましい。ハイドロタルサイトの添加量が、0.1重量部未満であると架橋時間の増大や架橋度が低下する傾向があり、30重量部をこえるとゴムの混練が困難となったり、成形品の硬度が上昇したり、含フッ素エラストマー組成物のムーニー粘度が上昇し、成形しにくくなる傾向がある。
【0023】
本発明で用いるハイドロタルサイトは、受酸剤として機能するものであるが、本発明においては、2価の金属の酸化物または水酸化物のみからなる受酸剤が含フッ素エラストマー100重量部に対して2重量部以下であり、1.5重量部以下であることが好ましく、1.0重量部以下であることがより好ましく、0.5重量部以下であることがさらに好ましく、含まないことが特に好ましい。加硫速度が遅い等の問題がある場合、2価の金属の酸化物または水酸化物のみからなる受酸剤を2重量部以下であれば混合してもよいが、例えば、燃料温度が120℃を超える場合等のより厳しい環境下では、得られた成形品等が膨潤劣化する場合があるため、できるだけ混合しないことが好ましい。2価の金属の酸化物または水酸化物からなる受酸剤が2重量部をこえると、得られた成形品、シール材、燃料ホースが膨潤し、物性の低下や表面劣化をするので好ましくない。
【0024】
2価の金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉛、亜鉛などがあげられ、2価の金属の酸化物または水酸化物としては、たとえば、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化鉛などをあげることができる。
【0025】
本発明の組成物を用いると、得られる成形品、シール材、燃料ホースの膨潤および物性の低下や表面劣化が抑制できるものである。
【0026】
本発明で用いるポリオール架橋可能な含フッ素エラストマーは、ポリオール架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。ポリオール架橋可能な部位としては、フッ化ビニリデン(VdF)単位を有する部位などをあげることができる。なかでも、VdF単位を含むフッ素ゴムが好ましい。
【0027】
ポリオール架橋可能な部位を有するフッ素ゴムとしては、非パーフルオロフッ素ゴム(a)およびパーフルオロフッ素ゴム(b)があげられる。なお、パーフルオロフッ素ゴムとは、その構成単位のうち、90モル%以上がパーフルオロモノマーからなるものをいう。
【0028】
非パーフルオロフッ素ゴム(a)としては、VdF系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴム、TFE/プロピレン/VdF系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/HFP/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP/TFE系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、またはフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組合わせて用いることができる。
【0029】
VdF系フッ素ゴムとしては、下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
【0030】
−(M)−(M)−(N)− (2)
(式中、構造単位Mはビニリデンフルオライド(m)由来の構造単位であり、構造単位Mは含フッ素エチレン性単量体(m)由来の構造単位であり、構造単位Nは単量体(m)および単量体(m)と共重合可能な単量体(n)由来の繰り返し単位である)
【0031】
一般式(2)で示されるVdF系フッ素ゴムの中でも、構造単位Mを30〜85モル%、構造単位Mを55〜15モル%含むものが好ましく、より好ましくは構造単位Mを50〜80モル%、構造単位Mを50〜20モル%である。構造単位Nは、構造単位Mと構造単位Mの合計量に対して、0〜20モル%であることが好ましい。
【0032】
含フッ素エチレン性単量体(m)としては、1種または2種以上の単量体が利用でき、たとえばTFE、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体があげられるが、これらのなかでも、TFE、HFP、PAVEが好ましい。
【0033】
単量体(n)としては、単量体(m)および単量体(m)と共重合可能なものであれば、いかなるものでもよいが、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、架橋部位を与える単量体などをあげることができる。
【0034】
このような架橋部位を与える単量体としては、一般式(3):
CY=CY−RCHR (3)
(式中、Yは、水素原子、フッ素原子または−CH、Rは、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、Rは、水素原子または−CH、Xは、ヨウ素原子または臭素原子)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(4):
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−X (4)
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、Xは、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子、ヨウ素原子)で表される単量体、一般式(5):
CH=CH(CFI (5)
(式中、pは1〜10の整数)で表される単量体などがあげられ、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有単量体、特開平4−217936号公報記載のCF=CFOCFCFCHIなどのヨウ素含有単量体、特開昭61−55138号公報に記載されている4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンなどのヨウ素含有単量体、特開平4−505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特開平4−505345号公報、特開平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0035】
このようなVdF系フッ素ゴムとして、具体的には、VdF/HFP系ゴム、VdF/HFP/TFE系ゴム、VdF/CTFE系ゴム、VdF/CTFE/TFE系ゴムなどが好ましくあげられる。
【0036】
TFE/プロピレン系フッ素ゴムとしては、下記一般式(6)で表されるものが好ましい。
【0037】
−(M)−(M)−(N)− (6)
(式中、構造単位MはTFE(m)由来の構造単位であり、構造単位Mはプロピレン(m)由来の構造単位であり、構造単位Nは単量体(m)および単量体(m)と共重合可能な単量体(n)由来の繰り返し単位である)
【0038】
一般式(6)で示されるTFE/プロピレン系フッ素ゴムの中でも、構造単位Mを40〜70モル%、構造単位Mを60〜30モル%含むものが好ましく、より好ましくは構造単位Mを50〜60モル%、構造単位Mを50〜40モル%含むものである。構造単位Nは、構造単位Mと構造単位Mの合計量に対して、0〜40モル%であることが好ましい。
【0039】
単量体(n)としては、単量体(m)および単量体(m)と共重合可能なものであればいかなるものでもよいが、架橋部位を与える単量体であることが好ましい。たとえば、VdF、エチレンなどがあげられる。
【0040】
パーフルオロフッ素ゴム(b)としては、下記一般式(7)で表されるものが好ましい。
【0041】
−(M)−(M)−(N)− (7)
(式中、構造単位Mはテトラフルオロエチレン(m)由来の構造単位であり、構造単位Mはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)やパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)(m)由来の構造単位であり、構造単位Nは単量体(m)および単量体(m)と共重合可能な単量体(n)由来の繰り返し単位である)
【0042】
一般式(7)で示されるパーフルオロフッ素ゴム(b)の中でも、構造単位Mを50〜90モル%、構造単位Mを10〜50モル%含むものが好ましく、より好ましくは構造単位Mを50〜80モル%、構造単位Mを20〜50モル%含むものである。構造単位Nは、構造単位Mと構造単位Mの合計量に対して、0〜5モル%であることが好ましく、0〜2モル%であることがより好ましい。これらの組成の範囲を外れると、ゴム弾性体としての性質が失われ、樹脂に近い性質となる傾向がある。
【0043】
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(m)としては、たとえばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0044】
パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)(m)としては、たとえば特開昭61−223007号公報記載の単量体を用いることができる。
【0045】
また、単量体(n)としては、単量体(m)および単量体(m)と共重合可能なものであればいかなるものでもよいが、架橋部位を与える単量体が好ましい。
【0046】
このような架橋部位を与える単量体としては、たとえばビニリデンフルオライド、一般式(3)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(4)、(5)で表される単量体などがあげられ、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有単量体、特開平4−217936号公報記載のCF=CFOCFCFCHIなどのヨウ素含有単量体、特開平4−505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特開平4−505345号公報、特開平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0047】
このヨウ素原子、臭素原子、ビニル基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基は、架橋点として機能することができる。
【0048】
かかるパーフルオロフッ素ゴム(b)の具体例としては、国際公開第97/24381号パンフレット、特公昭61−57324号公報、特公平4−81608号公報、特公平5−13961号公報などに記載されているフッ素ゴムなどがあげられる。
【0049】
これらのなかでも、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマーとしては、非パーフルオロフッ素ゴムかパーフルオロフッ素ゴムかを問わず、VdFと他の少なくとも1種のフッ素含有モノマーからなるフッ素ゴムであることが好ましく、特にVdF/HFP系フッ素ゴム、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴム、およびVdF/TFE/PAVE系フッ素ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましい。
【0050】
以上説明した非パーフルオロフッ素ゴム(a)およびパーフルオロフッ素ゴム(b)は、常法により製造することができるが、得られる重合体は分子量分布が狭く、分子量の制御が容易である点、末端にヨウ素原子を導入することができる点から、フッ素ゴムの製造法として公知のヨウ素移動重合法が好ましい。たとえば、実質的に無酸素下で、ヨウ素化合物、好ましくはジヨウ素化合物の存在下に、前記エチレン性単量体と、要すれば架橋部位を与える単量体を加圧下で撹拌しながらラジカル開始剤の存在下、水媒体中での乳化重合、あるいは溶液重合を行なう方法があげられる。使用するヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式(8):
Br (8)
(式中、xおよびyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1〜3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で示される化合物などをあげることができる。このようなヨウ素化合物を用いて得られるフッ素ゴムの末端には、ヨウ素原子または臭素原子が導入される。
【0051】
一般式(8)で表される化合物としては、たとえば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨード置換体、ならびに(2−ヨードエチル)および(2−ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合せて使用することもできる。
【0052】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、ジヨードメタンなどが好ましい。
【0053】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、従来から含フッ素エラストマーの重合に使用されているものと同じものであってよい。これらの開始剤には有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。APSは単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0054】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.005〜2重量%が好ましく、とくに0.01〜1.5重量%が好ましい。
【0055】
本発明で使用するモノマー混合ガスは、カルブ(G.H.Kalb)ら、アドヴァンシーズ・イン・ケミストリー・シリーズ(Advances in Chemistry Series.),129,13(1973)に記載されるように、爆発性を有する場合があるので、重合装置には着火源となるスパークなどが発生しないように工夫する必要がある。
【0056】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜7MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.8MPa以上であることが好ましい。
【0057】
前記一般式(8)で表される化合物の添加量としては、含フッ素エラストマーの分子量を調整するために適宜変化させれば良いが、得られる含フッ素エラストマーの全重量の0.0001〜15重量%であればよい。
【0058】
本発明で用いるポリオール系架橋剤としては、従来、含フッ素エラストマーの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0059】
ポリオール架橋系により架橋すると、架橋点に炭素−酸素結合を有しており、圧縮永久歪みが小さく、成形性も良く、シール特性に優れているという特徴がある点で好適である。
【0060】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて含フッ素エラストマーを凝析した場合は、架橋剤として上記金属塩は用いないことが好ましい。これらの中でも、得られる成形品などの耐熱性が優れることからビスフェノールAFが好ましい。
【0061】
また、ポリオール架橋系においては、ポリオール系架橋剤と併用して、通常、架橋促進剤を用いる。架橋促進剤を用いると、含フッ素エラストマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0062】
ポリオール架橋系の架橋促進剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0063】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU−Bが好ましい。
【0064】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0065】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0066】
ポリオール系架橋剤の添加量は、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー100重量部に対して、0.01〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜4重量部であり、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。架橋剤が、0.01重量部未満であると、含フッ素エラストマーの架橋が充分に進行せず、得られる含フッ素エラストマー組成物の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、5重量部をこえると、得られる含フッ素エラストマー組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0067】
架橋促進剤の添加量は、ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー100重量部に対して、0.01〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜3重量部であり、さらに好ましくは0.01〜2重量部である。架橋促進剤が、0.01重量部未満であると、含フッ素エラストマーの架橋が充分に進行せず、得られる含フッ素エラストマー組成物の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、5重量部をこえると、得られる含フッ素エラストマー組成物の成形加工性、物性が低下する傾向がある。
【0068】
また、通常含フッ素エラストマーの架橋剤として用いられているポリアミン系架橋剤等を前記ポリオール系架橋剤と併用してもよいが、バイオディーゼル燃料による膨潤を抑制することができる点から、パーオキサイド系架橋剤を含まないことが好ましい。
【0069】
また、必要に応じて含フッ素エラストマー組成物に配合される通常の添加物、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、前記のものとは異なる常用の架橋剤、架橋促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0070】
前記含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素エラストマー、ポリオール系架橋剤、ハイドロタルサイト類、必要に応じて、架橋促進剤、充填材などのその他配合剤を、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得られる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機などを用いることができる。
【0071】
特に、架橋剤としてポリヒドロキシ化合物を用いる場合、架橋剤・架橋促進剤の融点が比較的高い場合が多く、ゴム中に均一に分散させるために、架橋剤・架橋促進剤をニーダーなどの密閉型の混練り装置を用いて120〜200℃の高温で溶融させながら混練りした後に、充填材などのその他配合剤をこれ以下の比較的低温で混練りする方法が好ましい。また、架橋剤と架橋促進剤を一旦溶融させ融点降下を起こさせた固溶体を用いて均一分散させる方法もある。
【0072】
さらに一度含フッ素エラストマー、ポリオール系架橋剤、ハイドロタルサイト、必要に応じて、架橋促進剤、充填材などのその他配合剤を混練りした後に、室温にて12時間以上置いた後に再度混練りすることで、さらに分散性を高めることができる。
【0073】
また、本発明は、前記含フッ素エラストマー組成物を架橋して得られる成形品、シール材、燃料ホースに関する。
【0074】
架橋条件としては、使用する架橋剤などの種類により適宜決めればよいが、通常、150〜300℃の温度で、1分〜24時間加熱を行う。
【0075】
また、架橋方法としては、スチーム架橋など通常用いられている方法はもちろんのこと、常圧、加圧、減圧下においても、また、空気中においても、どのような条件下においても架橋反応を行うことができる。
【0076】
本発明の成形品は、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層および他の材料を含む層を有する積層構造体を包含するものである。
【0077】
他の材料としては、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよい。該他の材料としては、例えば、ポリオレフィン(例:高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリエステル、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)などの熱可塑性重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどの架橋ゴム、ポリプロピレン/EPDM複合体などの熱可塑性エラストマー、金属、ガラス、木材、セラミックなどをあげることができる。
【0078】
該積層構造を有する成形品においては、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層と他の材料を含む基材層との間に接着剤層を介在させてもよい。接着剤層を介在させることによって、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層と他の材料を含む基材層とを強固に接合一体化させることができる。接着剤層において使用される接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール化合物とアジピン酸等の二塩基酸とを重縮合して得られるポリエステルポリオール;酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体の部分ケン化物など)とポリイソシアネート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート等)との混合物(例えば、1,6−ヘキサメチレングリコール等のグリコール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対2の反応生成物;トリメチロールプロパン等のトリオール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対3の反応生成物など);等を使用することができる。なお、積層構造形成のためには、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0079】
本発明には、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物の単独の層を用いた燃料ホースが包含される。
【0080】
また、本発明には、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層を有する多層燃料ホースが包含される。該多層燃料ホースまたは多層燃料容器としては、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層と、他の材料を含む少なくとも1つの層を含み、これらの層が接着剤層を介在させないで、あるいは介在させて、互いに接着しているものである。
【0081】
そして、他の材料を含む層としては、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物以外のゴムを含む層や熱可塑性樹脂を含む層があげられる。
【0082】
該ゴムとしては、耐薬品性や柔軟性の観点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、エピクロロヒドリンゴム、EPDM、アクリルゴム、エチレンアクリルゴムおよびスチレン−ブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴムおよびエピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムからなることがより好ましい。
【0083】
また、該熱可塑性樹脂としては、燃料バリア性の観点から、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0084】
上記に示した本発明の燃料ホースの用途は特に限定されないが、例えば、自動車用のフィラーホース、エバポホース、ブリーザーホース等の燃料ホース;自動車用の燃料容器、自動2輪車用の燃料容器、小型発電機の燃料容器、芝刈機の燃料容器等の燃料容器があげられる。
【0085】
この内、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む最内層および他のゴムを含む層を有する多層燃料ホースとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、あるいはアクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、あるいはエピクロロヒドリンゴムを含む層(例えば中間層や最外層)、および本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む最内層の3層から構成される燃料ホース、あるいはアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、あるいはアクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、あるいはエピクロロヒドリンゴムを含む外層、および本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む内層の2層から構成される燃料ホースが、優れた燃料バリア性・柔軟性・耐薬品性を示す点で好ましい。
【0086】
また、本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層と他の材料を含む層を有する積層構造体を作製する場合、必要に応じて本発明の含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理されていない含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層の表面をプライマー処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したが含フッ素エラストマー組成物の架橋物を含む層の表面を更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0087】
本発明の含フッ素エラストマー組成物、および該組成物を用いた成形品は、例えば、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野;自動車分野;航空機分野;ロケット分野;船舶分野;プラント等の化学品分野;医薬品等の薬品分野;現像機等の写真分野;印刷機械等の印刷分野;塗装設備等の塗装分野;分析・理化学機分野;食品プラント機器分野;原子力プラント機器分野;鉄板加工設備等の鉄鋼分野;一般工業分野;電気分野;燃料電池分野などの分野で好適に用いることができるが、これらのなかでも自動車分野・航空機分野・ロケット分野・船舶分野でより好適に用いることができる。そのほか、各種の塗料用組成物、塗装物品などとしても有用である。
【0088】
自動車分野では、ガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材およびホースはエンジンならびに周辺装置に用いることができ、ホースおよびシール材はAT装置に用いることができ、O(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材およびダイアフラムは燃料系統ならびに周辺装置に用いることができる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、オイルホース、酸素センサー用シール、ATFホース、インジェクターOリング、インジェクターパッキン、燃料ポンプOリング、ダイアフラム、燃料ホース、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のOリング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、EGRチューブ、ツインキャブチューブ、キャブレターのセンサー用ダイアフラム、防振ゴム(エンジンマウント、排気部等)、再燃焼装置用ホース、酸素センサーブッシュ等として用いることができる。
【0089】
航空機分野、ロケット分野および船舶分野では、ダイアフラム、O(角)リング、バルブ、チューブ、パッキン、ホース、シール材等があげられ、これらは燃料系統に用いることができる。
【0090】
本発明の成形品、シール材、燃料ホースは、バイオディーゼル燃料用として好適に用いることができる。ここで、バイオディーゼル燃料とは、軽油類、高級脂肪酸エステル、および/または高級脂肪酸を含有する混合物である。
【実施例】
【0091】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0092】
<硬度>
実施例および比較例で製造した含フッ素エラストマー組成物を用いて、熱プレス機により160℃、45分の条件下で圧縮成形し、厚さ2mmのシート状試験片を作製し、これらを用いてJIS−K6253に準じて硬度を測定した。
【0093】
<100%モジュラス、引張破断強度、引張破断伸び>
実施例および比較例で製造した含フッ素エラストマー組成物を用いて、熱プレス機により160℃、45分の条件下で圧縮成形し、厚さ2mmのシートとしJIS−K6251に準じて、100%モジュラス、引張破断強度、引張破断伸びを測定した。
【0094】
<加硫特性>
実施例および比較例で製造した含フッ素エラストマー組成物を用いて下記加硫条件にて架橋する際に、JSR型キュラストメータII型を用いて160℃における加硫曲線を求め、最低粘度(ML)、最高粘度(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求めた。
【0095】
<標準加硫条件>
混練方法 :ロール練り
加硫条件 :160℃で45分間
【0096】
<浸漬試験>
実施例および比較例で製造した含フッ素エラストマー組成物の成形品を2cm×4cm(厚みは2mm)に切り、試験片を作製した。次に、ペンタデカン:オレイン酸=90:10(体積%)からなるバイオディーゼルモデル燃料(1)および、ペンタデカン:オレイン酸メチル=90:10(体積%)からなるバイオディーゼルモデル燃料(2)、を調製した。これに試験片を100℃で330時間浸漬したときの膨潤率および表面状態を評価した。浸漬試験および膨潤率の計算はJIS-K6258に準拠し、表面状態については、目視で、下記基準に基づき評価した。
3・・・表面に艶がある
2・・・表面が曇っている
1・・・表面にクラックが見られる、表面が荒れている
【0097】
<含フッ素エラストマー(A)>
公知の方法で製造されたVdFとHFPからなる2元系含フッ素エラストマー(VdF:HFP=78:22(モル%))
ムーニー粘度:40(ML(1+10)100℃の値)
【0098】
<含フッ素エラストマー(B)>
ヨウ素移動重合法である公知の方法で製造されたパーオキサイド加硫可能なVdFとTFEとHFPからなる3元系含フッ素エラストマー(VdF:TFE:HFP=50:20:30(モル%))
ムーニー粘度:50(ML(1+10)100℃の値)
【0099】
<受酸剤>
ハイドロタルサイト1:MgAl(OH)16CO・4HO(協和化学工業(株)製、DHT−6)[一般式(1)のx=0.25、m=0.50]
ハイドロタルサイト2:Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO[(協和化学工業(株)製、DHT−4A)[一般式(1)のx=0.31、m=0.539]
ハイドロタルサイト3:Mg4.5Al(OH)13CO・AHO:(協和化学工業(株)製、DHT−4A-2(DHT-4Aの脱結晶水品)、A:0〜3.5)[一般式(1)のx=0.31、m=0〜0.539]
MgO:キョーワマグ150(協和化学工業(株)製)
Ca(OH):カルディック2000(近江化学工業(株)製)
【0100】
<架橋剤>
ポリオール系架橋剤:ビスフェノールAF
パーオキサイド系架橋剤:パーヘキサ25B(日本油脂(株)製)
【0101】
<架橋促進剤>
ポリオール系架橋促進剤:DBU−B
パーオキサイド系架橋促進剤:トリアリルイソシアヌレート(TAIC)(日本化成(株)製)
【0102】
<添加剤>
Carbon black N774:シーストS(東海カーボン(株)製)
Carbon black N990:サーマックスMT(Cancarb製)
【0103】
実施例1
上記した含フッ素エラストマー(A)100重量部に対して、前記ポリオール系架橋剤ビスフェノールAF1.3重量部および架橋促進剤DBU−B 0.15重量部を8インチ2本ロールにて混練し、続いて前記ハイドロタルサイト1(DHT−6:協和化学工業(株)製)3重量部、カーボンブラックN774(シーストS:東海カーボン(株)製)13重量部を配合して8インチ2本ロールを用いて、通常の方法で20〜70℃にて混練した。これを、25℃にて、約20時間熟成させ、再度同じロール機で混練し、含フッ素エラストマー組成物を作製した。
【0104】
得られた含フッ素エラストマー組成物を用いて、上記した方法で加硫特性および常態物性の測定、浸漬試験を行った結果を表2に示す。
【0105】
実施例2〜7、比較例1〜6
含フッ素エラストマー組成物の組成を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして含フッ素エラストマー組成物をそれぞれ製造した。得られた含フッ素エラストマー組成物を用いて、上記した方法で加硫特性および常態物性の測定、浸漬試験を行なった結果を表2に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、ハイドロタルサイト類を含むことにより、柔軟性、燃料バリア性、耐熱性・耐薬品性・耐油性等の特性に優れる成形品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール架橋可能な含フッ素エラストマー、ポリオール系架橋剤およびハイドロタルサイト類を含む含フッ素エラストマー組成物を架橋して得られる成形品であって、
2価の金属の酸化物または水酸化物のみからなる受酸剤が含フッ素エラストマー100重量部に対して1重量部以下であり、
ハイドロタルサイト類が含フッ素エラストマー100重量部に対して0.1〜6重量部である成形品。
【請求項2】
ハイドロタルサイト類が、一般式(1):
[(M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・mHO]x− (1)
(式中、M2+は2価の金属イオンであり、M3+は3価の金属イオンであり、An−はn価のアニオンであり、xは0<x<0.5を満たす数であり、mは0≦mを満たす数である。)で示される化合物である請求の範囲第1項記載の成形品。
【請求項3】
一般式(1)中のM2+がMg2+および/またはZn2+、M3+がAl3+、An−がCO2−である請求の範囲第2項記載の成形品。
【請求項4】
パーオキサイド系架橋剤を含まない請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の成形品。
【請求項5】
2価の金属の酸化物または水酸化物のみからなる受酸剤が含フッ素エラストマー100重量部に対して0.5重量部以下である請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の成形品。
【請求項6】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の成形品からなるシール材。

【公開番号】特開2013−64157(P2013−64157A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287531(P2012−287531)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2008−516634(P2008−516634)の分割
【原出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】