説明

含フッ素エラストマ被覆電線、及び含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法

【課題】被覆層の導体からの剥離性を向上させ、端末加工性が改善された含フッ素エラストマ被覆電線、及び当該含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の含フッ素エラストマ被覆電線1は、導体10と、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを含む組成物から形成され、導体10の外周に設けられる被覆層20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマ被覆電線、及び含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法に関する。特に、本発明は、端末加工時に被覆を剥がす含フッ素エラストマ被覆電線、及び含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20重量部添加してなる組成物を、導体の外周に被覆層として形成した含フッ素エラストマ被覆電線が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の含フッ素エラストマ被覆電線によれば、所定量の三酸化アンチモンをテトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体に添加するので、含フッ素エラストマ被覆電線の難燃性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−140683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の含フッ素エラストマ被覆電線は、上述のとおり、難燃性に優れる。しかしながら、例えば、めっき処理がなされていない導体、又は錫めっきがなされた導体に被覆層を形成する場合、導体に対する被覆層の密着力が強いので、含フッ素エラストマ被覆電線の端末を処理する際に被覆層が導体から剥がれにくい場合がある。この場合、特に、直径が細い線材を撚り合わせた導体を用いると、被覆層の剥離時に導体に損傷を与える可能性がある。すなわち、特許文献1に記載の含フッ素エラストマ被覆電線において、ワイヤストリッパ性に関しては向上の余地がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、被覆層の導体からの剥離性を向上させ、端末加工性が向上した含フッ素エラストマ被覆電線、及び当該含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、導体と、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを含む組成物から形成され、導体の外周に設けられる被覆層とを備える含フッ素エラストマ被覆電線が提供される。
【0008】
また、上記含フッ素エラストマ被覆電線において、被覆層が、架橋構造を有してもよい。
【0009】
また、上記含フッ素エラストマ被覆電線において、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体が、テトラフルオロエチレンのプロピレンに対するモル比が90/10から45/55の範囲であってもよい。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、導体の外周に、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを含む組成物から形成される被覆層を形成する被覆層形成工程と、組成物を架橋させ、架橋構造を被覆層内に形成する架橋工程とを備える含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法が提供される。
【0011】
また、上記含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法において、架橋工程は、組成物に予め含まれる架橋剤による架橋処理工程、又は、組成物に電子線若しくは紫外線を照射する架橋処理工程を有することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る含フッ素エラストマ被覆電線、及び含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法によれば、被覆層の導体からの剥離性を向上させ、端末加工性が向上した含フッ素エラストマ被覆電線、及び当該含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線の製造の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明者が得た知見]
本発明者は、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを添加することにより、製造される被覆層20の機械的特性及び耐熱性を損なうことなく被覆層20の導体10に対する芯線密着性を抑制すると共に、端末加工性を大幅に向上させることができることを見出した。そして、芯線密着性の緩和に対する効果を発揮させることを目的とする場合、0.1重量部以上の脂肪酸アマイドの添加量が好ましく、耐熱性の低下を抑制することを目的とする場合、10重量部以下の脂肪酸アマイドの添加量が好ましいことを見出した。本実施の形態は、このような発明者が得た知見に基づく。
【0015】
[実施の形態の要約]
本実施の形態は、導体と、前記導体の外周に設けられる被覆層とを備える含フッ素エラストマ被覆電線において、前記被覆層は、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを含む組成物から形成され、前記導体の外周に設けられる含フッ素エラストマ被覆電線が提供される。
【0016】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線の断面の概要を示す。
【0017】
本実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線1は、導体10と、導体10の外周に設けられる被覆層20とを備える。
【0018】
(導体10)
導体10は、電気信号を伝達することのできる材料から形成され、具体的には、所定の直径を有する金属材料を有して形成される。例えば、導体10は、銅又は銅合金等の金属材料から形成される。また、導体10は、銅線、めっきが表面に施された銅線、銅と他の金属とを含む銅合金線、銅と他の金属とを組み合わせることにより多層構造にした線材、所定の金属の金属粒子を焼結して形成される材料から形成することもできる。なお、めっきとしては、錫めっき等を用いることができる。
【0019】
また、導体10は、例えば、1mm以下の直径を有する。そして、導体10の形状は、図1においては断面略円形の単線状に形成されるが、複数本の素線を撚り合わせた撚線から形成することもでき、更には、チューブ形状にすることもできる。導体10を撚線から形成する場合、複数本の素線のそれぞれの表面にめっきを施しためっき付素線を撚り合わせた撚線、又は、複数本の素線をまず撚り合わせて形成した撚線の表面に一括してめっきを施した撚線を導体10として用いることができる。
【0020】
(被覆層20)
被覆層20は、可撓性、熱安定性、電気絶縁性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、及び/又は難燃性に優れ、かつ、架橋することができる材料から形成される。例えば、被覆層20は、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体と脂肪酸アマイドとを含んで構成される。具体的に、被覆層20は、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを含む組成物から形成される。また、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、耐熱性及び成形性の確保を目的として、テトラフルオロエチレンのプロピレンに対するモル比が90/10から45/55の範囲であることが好ましい。そして、被覆層20は、導体10の外周を被覆する。更に、被覆層20は、架橋構造を有することが好ましい。
【0021】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、主成分であるテトラフルオロエチレン及びプロピレンと、これらとの間で共重合することができる成分とで構成される。この共重合することができる成分としては、一例として、エチレン、ブテン−1、イソブテン、アクリル酸及びアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸及びメタクリル酸のアルキルエステル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、クロロエチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等である。
【0022】
組成物には、主成分を除く他の成分として、架橋助剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、安定剤、充填剤、着色剤、及び/又はシリコーン樹脂等を添加することもできる。テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体の主成分を除く他の成分の含有量は、主成分に対し、30モル%以下であることが望ましい。
【0023】
(含フッ素エラストマ被覆電線1の製造方法)
図2は、本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線の製造の流れの一例を示す。
【0024】
まず、導体10を準備する(導体準備工程、ステップ10、以下、ステップを「S」と表す)。次に、所定量のテトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体と所定量の脂肪酸アマイドとを混練して形成したコンパウンド(すなわち、組成物)を導体10の外周に押し出すことにより被覆層20を形成する(被覆層形成工程、S20)。そして、被覆層20を架橋する(架橋工程、S30)。なお、架橋工程は、組成物に予め含まれる架橋剤(例えば、有機過酸化物)による架橋処理工程、又は、組成物に電子線若しくは紫外線を照射する架橋処理工程を有する。これにより、本実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線1が製造される。
【0025】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線1は、所定量のテトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体と所定量の脂肪酸アマイドとを混練して形成したコンパウンドを導体10の外周に押し出すことにより被覆層20を形成することにより導体10からの剥離性を向上させた被覆層20を形成することができるので、端末加工性に優れた含フッ素エラストマ被覆電線1を提供することができる。すなわち、本実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線1は、ワイヤストリッパ性に優れ、被覆層20を導体10から剥がした場合において、導体10が損傷することを抑制できる。
【0026】
なお、被覆層20を構成する組成物は、本実施の形態に係る含フッ素エラストマ被覆電線1の他に、耐熱性が要求されるゴムパッキン、又はシール材に適用することもできる。
【実施例】
【0027】
表1に示す配合で形成した組成物からなる被覆層20を導体10の外周に設けた実施例1〜5に係る含フッ素エラストマ被覆電線を製造した。また、表1に示す配合で形成した組成物からなる被覆層を導体の外周に設けた比較例1〜3に係る含フッ素エラストマ被覆電線を製造した。
【0028】
【表1】

【0029】
まず、実施例1において、表1に示す分量の各配合剤を秤量し、50℃〜60℃に加熱したロールで15分間、均一に混練した。これにより、実施例1に係るコンパウンドを形成した。次に、このコンパウンドを、ヘッドの温度を120℃、第1シリンダーの温度を80℃、第2シリンダーの温度を120℃に設定した40mm押出機(ただし、L/D=24)内に庄入した。その後、26AWG(ただし、導体径は0.78mm、撚り本数7本)の銅撚線の外周に厚さが0.55mmになるようにコンパウンドを押し出すことにより被覆層を形成すると共に、この被覆層に12気圧の蒸気に曝すことによりコンパウンドを架橋させた。このようにして実施例1の含フッ素エラストマ被覆電線を製造した。実施例2〜5、及び比較例1〜3についても同様に製造した。
【0030】
次に、実施例1〜5、及び比較例1〜3の含フッ素エラストマ被覆電線における機械的特性、端末加工性、及び耐熱老化性について評価した。各特性の評価は、以下に説明する方法で実施した。
【0031】
(引張特性)
各含フッ素エラストマ被覆電線から導体を抜脱した被覆層について、JIS−K−6301に準じた引張試験を実施することにより引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定した。この引張試験における実施例1〜5、及び比較例1〜3の含フッ素エラストマ被覆電線の引張強さ、伸びの値を初期値とした。
【0032】
(端末加工性[ワイヤストリッパ性])
市販のワイヤストリッパを用い、実施例1〜5、及び比較例1〜3の含フッ素エラストマ被覆電線それぞれの端末から25mmの箇所に刃を入れ、被覆層を剥離する試験を実施した。この試験を実施例1〜5、及び比較例1〜3の含フッ素エラストマ被覆電線のそれぞれについて20本ずつ実施した。そして、導体素線の断線が1本でも発生した含フッ素エラストマ被覆電線について「×」、断線が発生しなかった含フッ素エラストマ被覆電線について「○」と評価した。
【0033】
(耐熱老化性[耐熱性])
各含フッ素エラストマ被覆電線から導体を抜脱した被覆層について、空気置換量が200回/hrのギヤーオーブン(ただし、232℃の温度に設定)中で7日間保持した後、JIS−K−6301に準じた引張試験を実施することにより引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定した。そして、初期値に対する引張強さ残率(%)及び伸び残率(%)を算出した。
【0034】
実施例1〜5、及び比較例1〜3の含フッ素エラストマ被覆電線それぞれにおける上記各試験の結果を表1に示す。
【0035】
表1を参照すると分かるように、実施例1〜5の含フッ素エラストマ被覆電線はいずれも、引張強さが13.2以上、伸びが480以上、ワイヤストリッパ性が合格、熱老化後の引張強さ残率及び伸び残率が85以上であり、機械的特性、端末加工性、耐熱性の全てにおいて優れていた。
【0036】
一方、比較例1の含フッ素エラストマ被覆電線は、脂肪酸アマイドが添加されていないことに起因し、ワイヤストリッパ性が不合格であった。また、比較例2の含フッ素エラストマ被覆電線は、ワイヤストリッパ性が合格したものの、所定量を超えた量の脂肪酸アマイドが添加されていたことに起因し、耐熱老化性が低下した。更に、比較例3の含フッ素エラストマ被覆電線は、脂肪酸アマイドを除く他の脂肪酸、具体的にはステアリン酸を用いたことに起因して導体素線の切断が発生し、ワイヤストリッパ性が不合格であった。
【0037】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0038】
1 含フッ素エラストマ被覆電線
10 導体
20 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを含む組成物から形成され、前記導体の外周に設けられる被覆層と
を備える含フッ素エラストマ被覆電線。
【請求項2】
前記被覆層が、架橋構造を有する請求項1に記載の含フッ素エラストマ被覆電線。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体が、テトラフルオロエチレンのプロピレンに対するモル比が90/10から45/55の範囲である請求項2に記載の含フッ素エラストマ被覆電線。
【請求項4】
導体の外周に、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対し、0.1重量部以上10重量部以下の脂肪酸アマイドを含む組成物から形成される被覆層を形成する被覆層形成工程と、
前記組成物を架橋させ、架橋構造を前記被覆層内に形成する架橋工程と
を備える含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法。
【請求項5】
前記架橋工程は、前記組成物に予め含まれる架橋剤による架橋処理工程、又は、前記組成物に電子線若しくは紫外線を照射する架橋処理工程を有する請求項4に記載の含フッ素エラストマ被覆電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−249268(P2011−249268A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123945(P2010−123945)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】