説明

含フッ素ジヒドロキノリン化合物及び含フッ素キノリン化合物の製造方法

【課題】工業的に利用可能なパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を用いて、含フッ素ジヒドロキノリン化合物、含フッ素キノリン化合物を高収率で得る方法を提供する。
【解決手段】2−ビニルアニリン化合物とパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を、トリアルキルシラン化合物の存在下に反応させることを特徴とする含フッ素ジヒドロキノリン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ジヒドロキノリン化合物及び含フッ素キノリンを製造する方法に関する。より詳細には2−ビニルアニリン化合物、パーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒドアルデヒド水和物をトリアルキルシラン化合物の存在下で反応させる含フッ素ジヒドロキノリンの製造方法及び該含フッ素ジヒドロキノリン化合物を酸化する含フッ素キノリン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノリン化合物は天然物においてその構造を含有するものが多く知られており、生理活性を示すものも多い。特に2位に含フッ素基を有する2−トリフルオロメチルキノリン誘導体は抗マラリア薬として有効であること(非特許文献1)が広く知られている。このため、含フッ素キノリン化合物は、医農薬の分野で広範に検討されており、極めて有用な化合物である。また、含フッ素ジヒドロキノリン化合物は、酸化により容易に含フッ素キノリン化合物に変換できるだけでなく、含フッ素テトラヒドロキノリン化合物への変換も可能であり、応用性の高い有用な化合物である。
【0003】
2位に含フッ素基を有するジヒドロキノリン化合物またはキノリン化合物の合成法としては、含フッ素基含有化合物の環化反応により、ジヒドロキノリン骨格またはキノリン骨格を形成させる方法が多数報告されている。出発となる含フッ素有機化合物としては、工業的な利用という観点から、パーフルオロアルカンカルボン酸を出発物質とする方法とパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールあるいはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を出発とする方法が優れている。
【0004】
前者の方法としては、トリフルオロ酢酸エステルから誘導されるトリフルオロアセチルケトン化合物あるいはトリフルオロアセチルアセチレン化合物とアニリン化合物を反応させる方法(非特許文献2、非特許文献3)、トリフルオロ酢酸から誘導されるトリフルオロメチルイミドイルクロライド化合物とアルキン化合物をロジウム触媒の存在下に反応させる方法(非特許文献4)等が知られている。しかし、非特許文献2または非特許文献3の方法は、(トリフルオロメチル)キノリン化合物の収率が十分でない上、トリフルオロメチル基の位置の制御が難しい問題がある。また、非特許文献4の方法も(トリフルオロメチル)キノリン化合物の収率が十分でなく、非対称のアルキン化合物を用いた場合は置換基の異性体の混合物が生成する問題がある。
【0005】
一方、後者の方法としては、トリフルオロアセトアルデヒドヘミアセタールから誘導されるアルジミン化合物とシリルエノールエーテル化合物を三塩化ガリウム存在化で反応させ、トリフルオロメチルジヒドロキノリン化合物を得る方法(非特許文献5)、アルジミン化合物とオレフィン化合物をルイス酸存在下で反応させ、一旦(トリフルオロメチル)テトラヒドロキノリン化合物を得た後、脱離反応を経由させて(トリフルオロメチル)キノリン化合物を得る方法(非特許文献6)等が知られている。いずれの方法も、(トリフルオロメチル)ジヒドロキノリン化合物または(トリフルオロメチル)キノリン化合物の合成収率は十分とは言い難い。
【0006】
また、フッ素を含まないキノリン化合物の合成法として、2−ビニルアニリン化合物とアルデヒド化合物またはケトン化合物を反応させてキノリン化合物またはジヒドロキノリン化合物を合成する方法が、非特許文献7、非特許文献8に述べられている。しかし、この反応をパーフルオロアルカンアルデヒドに適用する場合、フッ素の強い電子吸引効果の影響により、中間体となるイミン化合物が容易に生成しないため、同様の反応を行うことが難しいことが予想される。非特許文献7、非特許文献8においても、パーフルオロアルカンアルデヒドを用いた反応例については全く示されていない。
【非特許文献1】J. Med. Chem., (1971) 14, 926
【非特許文献2】Tetrahedron Lett. (1990) 31, 2689
【非特許文献3】J. Fluor. Chem. (2002) 118, 135
【非特許文献4】Org. Lett. (2001) 3, 1109
【非特許文献5】Org. Lett. (2000) 2, 1577
【非特許文献6】J. Org. Chem. (2000) 65, 5009
【非特許文献7】J. Org. Chem. (1988) 53, 4218
【非特許文献8】J. Prakische Chemie/Chemiker-Zeitung (2004) 340, 309
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち、工業的に利用可能なパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を用いて、含フッ素ジヒドロキノリン化合物、含フッ素キノリン化合物を高収率で得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題に鑑み本発明者らは鋭意検討した結果、2−ビニルアニリン化合物とパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物をトリアルキルシラン化合物の存在下で反応させることにより、高収率で含フッ素ジヒドロキノリンが得られることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は下記要旨に関わるものである。
(1)一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1〜R6は、同一または非同一であり、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、水酸基、カルボン酸基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基またはチオール基を表す。)
で表される2−ビニルアニリン化合物と一般式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、R7は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を、一般式(5)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R8〜R10は、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、Xはハロゲン原子、トリフルオロメタンスルホナート基、p−トルエンスルホナート基、メタンスルホナート基、シアノ基またはアミノ基を表す。)
で表されるトリアルキルシラン化合物の存在下に反応させることを特徴とする一般式(3)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、RfおよびR1〜R6は、前記定義に同じ。)
で表される含フッ素ジヒドロキノリン化合物の製造方法。
【0018】
(2)前項において、反応中または反応後に酸化剤を存在させ、生成した含フッ素ジヒドロキノリン化合物を酸化し、下記一般式(4)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、RfおよびR1〜R6は、前記定義に同じ。)
で表される含フッ素キノリン化合物を得ることを特徴とする含フッ素キノリン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、工業的に利用可能なパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を用いて、含フッ素ジヒドロキノリン、含フッ素キノリン化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、さらに詳細に本発明を説明する。
【0023】
本発明は、前記一般式(1)で表される2−ビニルアニリン化合物、前記一般式(2)で表されるパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を前記一般式(5)で表されるトリアルキルシラン化合物を存在させて含フッ素キノリン化合物を製造することを特徴とする。この際、2−ビニルアニリン化合物(1)とパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物(2)が反応し、下式(6)のN,O−ヘミアセタール化合物がまず生成し、これにトリアルキルシラン化合物が反応することにより、N,O−アセタール化合物(7)が生成して環化反応が進行するものと考えられる。
【0024】
【化6】

【0025】
本発明の2−ビニルアニリン化合物は前記一般式(1)で表される。一般式(1)において、置換基R1〜R6は、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、水酸基、カルボン酸基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基またはチオール基のいずれかである。未置換のアルキル基の例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基等を挙げることができる。置換基を有するアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、水酸基、カルボン酸基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、チオール基及びアリール基等が挙げられ、置換基を有するアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ベンジル基、2−メトキシエチル基、2−ヒドロキシメチル基、2−シアノエチル基、2−アミノエチル基、2−メチルチオエチル基等を挙げることができる。未置換のアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。置換基を有するアリール基の置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、水酸基、カルボン酸基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、チオール基及びアルキル基等が挙げられ、置換基を有するアリール基としては、例えば、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、及び2−メチル−1−ナフチル基等を挙げることができる。なお、置換基R1〜R6は同一であってもよいし、非同一であってもよい。
【0026】
このような2−ビニルアニリン化合物の一例として、2−ビニルアニリン、3−メチル−2−ビニルアニリン、4−メチル−2−ビニルアニリン、5−メチル−2−ビニルアニリン、6−メチル−2−ビニルアニリン、4−メチル−6−エチル−2−ビニルアニリン、4−クロロ−2−ビニルアニリン、4−(トリフルオロメチル)−2−ビニルアニリン、4−メトキシ−2−ビニルアニリン、4−ヒドロキシ−2−ビニルアニリン、4−アミノ−5−ビニル安息香酸、4−アミノ−5−ビニル安息香酸メチル、4−シアノ−2−ビニルアニリン、4−アミノ−2−ビニルアニリン、4−ニトロ−2−ビニルアニリン、4−メチルチオ−2−ビニルアニリン、4−フェニル−2−ビニルアニリン、4−(4−メトキシフェニル)−2−ビニルアニリン、2−イソプロペニルアニリン、2−(1−プロペニル)−アニリン、2−(1−メチル−1−プロペニル)−アニリン、2−(2−フェニルエテニル)アニリン、2−(1,2−ジフェニルエテニル)アニリン及び3−(2―アミノフェニル)−2−プロペン酸メチル、5−クロロ−2−イソプロペニルアニリン、4,5−ジメトキシ−2−イソプロペニルアニリン等を挙げることができる。
【0027】
なお、2−ビニルアニリン化合物は市販されているものを購入することもできるが、例えば、J. Chem. Soc. (1964) 4046等の方法に従い、(2−アミノフェニル)ケトン化合物あるいは(2−アミノフェニル)安息香酸エステル化合物を原料として、2段階で合成することもできる。
【0028】
パーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物は前記一般式(2)で表される。一般式(2)において、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であり、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−n−プロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基及びノナフルオロ−n−ブチル基等を挙げることができる。R7は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である。即ち、R7が水素原子の場合は、パーフルオロアルカンアルデヒド水和物であり、R7が炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基の場合はパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールである。炭素数1〜10のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基等を挙げることができる。このようなパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールとして、例えば、トリフルオロアセトアルデヒドメチルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドn−プロピルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドイソプロピルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドn−ブチルヘミアセタール、トリフルオロアセトアルデヒドn−オクチチルヘミアセタール、ペンタフルオロエタンアルデヒドメチルヘミアセタール、ヘプタフルオロn−プロパンアルデヒドメチルヘミアセタール、ノナフルオロn−ブタンアルデヒドメチルヘミアセタール等を挙げることができる。パーフルオロアルカンアルデヒド水和物として、例えば、トリフルオロアセトアルデヒド水和物、ペンタフルオロエタンアルデヒド水和物、ヘプタフルオロn−プロパンアルデヒド水和物、ノナフルオロn−ブタンアルデヒド水和物等を挙げることができる。なお、パーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールあるいはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物は単一で用いられてもよいし、混合物として用いられてもよい。2−ビニルアニリン化合物に対するパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物の使用量は、モル比で0.5〜10倍、好ましくは、1〜5倍である。パーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物の使用量が0.5倍未満の場合は含フッ素ジヒドロキノリン化合物または含フッ素キノリン化合物の収率が十分でなく、10倍を超える場合は、パーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物の分離操作が煩雑となり非効率である。
【0029】
本発明で用いられるトリアルキルシラン化合物は前記一般式(5)で表される。一般式(5)において、R8〜R10は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基等を挙げることができる。Xはアニオンとして脱離可能な置換基であり、塩素、臭素等のハロゲン原子、トリフルオロメタンスルホナート基、p−トルエンスルホナート基、メタンスルホナート基、シアノ基、またはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリン基等のアミノ基のいずれかである。このようなトリアルキルシラン化合物として、例えば、トリメチルシリルクロライド、トリエチルシリルクロライド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、トリメチルシリルアイオダイド、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、トリメチルシリルp−トルエンスルホナート、トリメチルシリルメタンスルホナート、トリメチルシリルシアニド及びN,N−ジエチルトリメチルシリルアミン等を挙げることができる。2−ビニルアニリン化合物に対するトリアルキルシラン化合物の使用量は、モル比で0.5〜10倍、好ましくは、1〜5倍である。トリアルキルシラン化合物の使用量が0.5倍未満の場合は含フッ素ジヒドロキノリン化合物及び/または含フッ素キノリン化合物の収率が十分でなく、10倍を超える場合は、トリアルキルシラン化合物の分離操作が煩雑となり非効率である。
【0030】
本発明では、以上の3成分に加えて、3級アミン化合物を存在させて反応を行ってもよい。3級アミン化合物を存在させることにより含フッ素ジヒドロキノリン化合物または含フッ素キノリン化合物の収率が向上する効果が認められる。3級アミン化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン等の脂肪族3級アミン化合物、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の芳香族3級アミン化合物、ピリジン、コリジン等のヘテロ芳香族3級アミン化合物等を挙げることができる。2−ビニルアニリン化合物に対する3級アミン化合物の使用量は、モル比で0.5〜100倍、好ましくは、1〜10倍である。3級アミン化合物の使用量が0.5倍未満の場合は、その添加効果が十分でなく、100倍を超える場合は、3級アミン化合物の分離操作が煩雑となり非効率である。
【0031】
また、本発明は溶媒の不在下に反応を実施することもできるが、溶媒を存在させて反応を行うこともできる。溶媒としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール等のアルコール類、ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジグライム、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、ジエチルスルフィド、ジn−ブチルスルフィド等のスルフィド類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。あるいは、前記3級アミン類を溶媒として使用することもできる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、通常、2−ビニルアニリン化合物に対し重量比で1〜100倍である。
【0032】
なお、2−ビニルアニリン化合物、パーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物、トリアルキルシラン化合物の混合順は特に限定されないが、2−ビニルアニリン化合物とパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を混合した後、トリアルキルシラン化合物を添加し反応を行う方法が高収率を得られ易い。この際、2−ビニルアニリン化合物とパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を混合する温度は、通常、−20〜50℃であり、混合後、1分〜2時間後にトリアルキルシラン化合物を添加し反応させる。トリアルキルシラン化合物を添加した後の反応温度は、20〜200℃、好ましくは50〜150℃である。反応温度が20℃未満の場合、十分な反応速度が得られず、反応温度が200℃を超えた場合、副反応が起こり易く含フッ素ジヒドロキノリン化合物及び/または含フッ素キノリン化合物の収率が低下する場合がある。反応時間は、通常、10分〜100時間である。なお、反応は十分な攪拌下にて行うことが望ましい。
【0033】
また、本発明の方法によれば、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で反応を行った場合、通常、含フッ素ジヒドロキノリン化合物が主生成物として得られる。反応中、または、反応後に酸化剤を存在させると、生成した含フッ素ジヒドロキノリン化合物が酸化され、含フッ素キノリン化合物を主生成物として得ることができる。ここで、酸化剤としては、クロラニル等の有機酸化剤、過酸化水素等の無機酸化剤等、各種の酸化剤を用いることができるが、空気を酸化剤とする方法が簡便であり、且つ、副反応が起こりにくく、含フッ素キノリン化合物を高収率で得ることができる。
【0034】
反応後、反応液には、通常、目的とする含フッ素ジヒドロキノリン化合物または含フッ素キノリン化合物の他、未反応の原料、溶媒等が含まれる。この反応液から、公知の抽出法、液体クロマトグラフ法、蒸留法あるいは晶析法等により含フッ素ジヒドロキノリン化合物または含フッ素キノリン化合物を単離することができる。この際、含フッ素ジヒドロキノリン化合物を単離する場合は、酸素等の酸化剤との接触を避けて操作を行うことが望ましい。
【0035】
(実施例)
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
アルゴン雰囲気下、あらかじめ加熱乾燥した10mL反応用試験管に2−イソプロペニルアニリン 66.7mg(0.50mmol)、トリフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール 128μL(1.1mmol)を仕込み,室温で1時間撹拌後、トリメチルシリルクロライド 190μL(1.5mmol)、ピリジン 2.5mL を順次加え,100℃で6時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、水 4mLを加え、ジエチルエーテル(3mL×3)を用いて抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過して、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学,63−200μm,12g)により精製した。ヘキサン−酢酸エチルで展開し、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリンと4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリンの混合物を得た。得られた混合物を中圧液体クロマトグラフィー(KUSANO Prepacked column Si−10,40x300mm I.D.、ヘキサン:酢酸エチル=20:1)により精製し、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 91.9mg (0.43mmol 収率87%)、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 8.6mg(0.04mmol 収率8%)を得た。
【0037】
4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン
油状物質
IR(neat,ν cm−1):3410,3059,2923,1607,1256,1121,750。
H−NMR(400MHz,CDCl,δ ppm):2.08(3H,s),4.15(1H,brs),4.64−4.73(1H,m),5.41(1H,brd,J=3.8Hz),6.50(1H,brd,J=8.0Hz),6.68−6.74(1H,m),7.01−7.08(1H,m),7.12(1H,brd,J=7.7Hz)。 13C−NMR(100MHz,CDCl,δ ppm):18.8, 54.7(q,J=31.0Hz),110.9,120.0,124.2,124.2(q,J=285.0Hz),118.3,112.7,129.4,135.8,141.7。
19F−NMR(376MHz,CDCl,δ ppm):−13.0(3F,d,J=7.2Hz)。
ESI−MS(m/z):214[M+H]
HRMS:Calcd. for C1111N: 214.0844,Found:214.0847[M+H]
【0038】
4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン
白色結晶
mp.54−55℃.
IR(KBr,ν cm−1):3067,2954,1714,1597,1151
H−NMR(400MHz,CDCl,δ ppm):2.78(3H,s),7.56(1H,s),7.67−7.70(1H,m),7.79−7.83(1H,m),8.04(1H,d,J=8.3Hz),8.21(1H,d,J=8.5Hz)。
13C−NMR(100MHz,CDCl,δ ppm):19.4,117.8,122.1(q,J=275.3Hz),124.2,128.7,129.2,130.8,131.1,147.3,147.4,148.0(q,J=34.5Hz)。
19F−NMR(376MHz,CDCl,δ ppm):−4.9(3F,s)。
ESI−MS(m/z):212[M+H]
HRMS:Calcd. for C11N: 212.0687,Found:212.0696[M+H]
【実施例2】
【0039】
実施例1に示した方法により得た4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 8.6mg(0.04mmol)を無溶媒,空気中,室温で48時間放置した。得られた反応混合物を中圧液体クロマトグラフィー(KUSANO Prepacked column Si−10,40x300mm I.D.、ヘキサン:酢酸エチル=20:1)により精製し,4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 8.3mg(0.04mmol,収率98%)を得た。
【実施例3】
【0040】
ピリジンを5ml用い、反応時間を9時間としたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 95mg (0.45mmol 収率89%)、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 9.5mg (0.05mmol 収率9%)を得た。
【実施例4】
【0041】
ピリジン2.5mlに代えてトルエン5mlを用い、反応時間を9時間としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 38mg (0.18mmol 収率36%)、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 19mg (0.09mmol 収率18%)を得た。
【実施例5】
【0042】
トリフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールを64μL(0.55mmol)、トリメチルシリルクロライドを95μL(0.75mmol)用い、ピリジンに代えてトルエン5mlを用い、反応時間を9時間としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 38mg (0.18mmol 収率36%)、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 18mg (0.09mmol 収率17%)を得た。
【実施例6】
【0043】
2−イソプロペニルアニリンに代えて2−ビニルアニリン 59.6mg(0.50mmol) を用い、反応温を120℃、反時間を23時間とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い、2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 34mg (0.17mmol 収率34%)、2−(トリフルオロメチル)キノリン 4mg (0.02mmol 収率4%)を得た。
【実施例7】
【0044】
2−イソプロペニルアニリンに代えて2−(1−フェニルエテニル)アニリン 97.6mg(0.50mmol) を用い、反応時間を7時間とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い、4−フェニル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 114mg (0.41mmol 収率83%)、4−フェニル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 5mg (0.02mmol 収率4%)を得た。
【0045】
4−フェニル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン
白色結晶
H−NMR(400MHz,CDCl,δ ppm):7.50-7.59(6H,m),7.59−7.67(1H,m),7.69(1H,s),8.00(1H,d J=8.4Hz),8.31(1H,d,J=8.4Hz)。
13C−NMR(100MHz,CDCl,δ ppm):117.4,122.1(q,J=275.5Hz),126.3,127.8,129.0,129.2,129.4,129.9,130.9,131.0,137.6,148.0(q,J=34.4Hz),148.2,151.3。
19F−NMR(376MHz,CDCl,δ ppm):−4.7(3F,s)。
ESI−MS(m/z):274[M+H]
【0046】
4−フェニル−2−(トリフルオロメチル)キノリン
油状物質
H−NMR(400MHz,CDCl,δ ppm):4.27(1H,brs,NH),4.83(1H,qd,J=7.0,4.9Hz),5.54(1H,d,J=4.9Hz),6.59(1H,d,J=7.9Hz),6.62−6.68(1H,m),6.91(1H,brs,J=7.7Hz),7.04-7.12(1H,m),7.34−7.48(5H,m)。
13C−NMR(100MHz,CDCl,δ ppm):54.7(q,J=31.1Hz),112.6,113.1,118.4,119.6,124.3(q,J=285.2Hz),126.7,127.9,128.3,128.8,129.7,138.5,142.1,142.5。
19F−NMR(376MHz,CDCl,δ ppm):−17.5(3F,d,J=7.0Hz)。
【実施例8】
【0047】
2−イソプロペニルアニリンに代えて2−(1−フェニル−1−プロペニル)アニリン105mg(0.50mmol) を用い、反応時間を10時間とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い、3−メチル−4−フェニル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン 65mg (0.23mmol 収率45%)、3−メチル−4−フェニル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 10mg (0.04mmol 収率7%)を得た。
【実施例9】
【0048】
2−イソプロペニルアニリンに代えて2−イソプロペニル−5−クロロアニリン 84mg(0.5mmol)を用い、反応時間を10時間とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い、7−クロロ−4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン(103mg,0.42mmol,収率83%)を得た。
【0049】
7−クロロ−4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリン
油状物質
IR(neat,ν cm−1): 3419,3059,2979,2924,1602,1257,1126,810。
H−NMR(400MHz,CDCl,δ ppm):2.06(3H,s),4.21(1H,brs,NH),4.62−4.70(1H,m),5.39(1H,brd,J=4.4Hz),6.50(1H,d,J=2.0Hz),6.66(1H,dd,J=8.2,2.0Hz),7.01(1H,d,J=8.2Hz)。
13C−NMR(100MHz,CDCl,δ ppm):19.1,54.9(q,J=31.2Hz),111.4,112.9,118.7,119.0,124.4(q,J=289.3Hz),125.8,135.2,135.6,143.1。
19F−NMR(376MHz,CDCl,δ ppm):−13.0(3F,d,J=7.2Hz)。
【実施例10】
【0050】
2−イソプロペニルアニリンに代えて2−イソプロペニル−4,5−ジメトキシアニリン 89.6mg(0.50mmol) を用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。同様の方法で精製を行い6,7−ジメトキシ−4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン 81mg (0.32mmol 収率63%)を得た。
6,7−ジメトキシ−4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリンは、非常に酸化され易いため、反応中あるいは精製処理中に微量の酸素等により酸化され、6,7−ジメトキシ−4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリンが得られたと考えられる。
【0051】
6,7−ジメトキシ−4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリン
白色結晶
IR(KBr,ν cm−1):2968,1622,1496,1248,1122,919。
H−NMR(400MHz,CDCl,δ ppm):2.69(3H,s),4.02(3H,s),4.04(3H,s),7.13(1H,s),7.43(1H,s),7.94(1H,s)。
13C−NMR(100MHz,CDCl,δ ppm):19.4,56.1,56.3,101.1,108.8,116.0,121.9,(q,J=274.8),124.6,144.2,144.3,145.4(q,J=34.0Hz),151.1,153.1。
19F−NMR(376MHz,CDCl,δ ppm):−4.5(3F,s)。
【0052】
(比較例1)
トリメチルシリルクロライドを使用せず、溶媒として、1,2−ジクロロエタン 4mlを用い、反応温度を83℃、反応時間を12時間とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。同様の操作で精製を行ったが、4−メチル−2−(トリフルオロメチル)−1,2−ジヒドロキノリンまたは4−メチル−2−(トリフルオロメチル)キノリンは全く生成していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、工業的に利用可能なパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を用いて、含フッ素ジヒドロキノリン及び含フッ素キノリン化合物を高収率で製造することができる。含フッ素ジヒドロキノリン化合物及び含フッ素キノリン化合物は、医農薬原料として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1〜R6は、同一または非同一であり、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20の置換ないし未置換のアリール基、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、水酸基、カルボン酸基、シアノ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基またはチオール基を表す。)
で表される2−ビニルアニリン化合物と一般式(2)
【化2】

(式中、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、R7は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を、一般式(5)
【化3】

(式中、R8〜R10は、同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基、Xはハロゲン原子、トリフルオロメタンスルホナート基、p−トルエンスルホナート基、メタンスルホナート基、シアノ基またはアミノ基を表す。)
で表されるトリアルキルシラン化合物の存在下に反応させることを特徴とする一般式(3)
【化4】

(式中、RfおよびR1〜R6は、前記定義に同じ。)
で表される含フッ素ジヒドロキノリン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される2−ビニルアニリンと前記一般式(2)で表されるパーフルオロアルカンアルデヒドヘミアセタールまたはパーフルオロアルカンアルデヒド水和物を反応させた後、前記一般式(5)で表されるトリアルキルシラン化合物を添加し、50〜150℃の温度で反応を行うことを特徴とする請求項1に記載の含フッ素ジヒドロキノリン化合物の製造方法。
【請求項3】
さらに3級アミン化合物の存在下に反応させることを特徴とする請求項1または2に記載の含フッ素ジヒドロキノリン化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、反応中または反応後に酸化剤を存在させ、生成した含フッ素ジヒドロキノリン化合物を酸化し、下記一般式(4)
【化5】

(式中、RfおよびR1〜R6は、前記定義に同じ。)
で表される含フッ素キノリン化合物を得ることを特徴とする含フッ素キノリン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記酸化剤が分子状酸素であることを特徴とする請求項4に記載の含フッ素キノリン化合物の製造方法。