説明

含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物

【課題】Si-H結合を有する含フッ素オルガノ水素シロキサン化合物を必要としないで硬化可能であり、その上耐熱性、低温特性および成形加工性に優れ、しかも酸性条件下での使用に耐え得る硬化物を与える含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物を提供する。
【解決手段】
含フッ素カルボン酸フルオリド XC6H4ORfO〔CF(CF3)CF2O〕nCF(CF3)COF (Rf:パーフルオロアルキレン基、X:I,Br、n:30〜130)を芳香族アミン YC6H4NHR1(R1:H,アルキル基,フェニル基、Y:I,Br)と反応させ、含フッ素ポリエーテル化合物 XC6H4ORfO〔CF(CF3)CF2O〕nCF(CF3)CONR1C6H4Y を得る。この含フッ素ポリエーテル化合物に、芳香族ボロン酸エステル、有機パラジウム化合物、塩基性無機または有機化合物(および有機リン化合物)を配合して、硬化性含フッ素ポリエーテル組成物を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物に関する。さらに詳しくは、耐熱性および低温特性に優れ、その上良好な耐薬品性を示す硬化物を与え得る含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
分子末端に官能基を有する含フッ素ポリエーテル化合物としては、例えば一般式

で表わされる化合物が知られている。
【特許文献1】特開平11−343336号公報
【0003】
また、上記化合物の主鎖構造をオリゴマー化したより一般的な化合物として、一般式

で表わされる化合物が知られている。
【特許文献2】特許2990646号公報
【0004】
これらの一般式で表わされる化合物群は、Si-H基を分子内に複数個有する含フッ素オルガノ水素シロキサン化合物および白金化合物触媒により硬化し、非常に優れた特性(耐薬品性、耐熱性、低温特性)を有するエラストマー性成形物を与え得るとされ、特に-50℃程度の低温条件下でも柔軟性を失わずに、使用に耐え得るとされる。また、これらを主成分とする硬化性組成物は、抜群の成形加工性を有し、RIM成形も可能とさせる。しかしながら、この硬化物は、分子内架橋構造にシロキサン結合を有するため、フッ素水素などの酸性条件下で使用されると、化学的劣化によりそれの機械的な強度が低下するなどの好ましくない結果を与えることもある。
【0005】
一方、低温特性に優れた含フッ素エラストマーとしては、一般的なものとしては例えばフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)三元共重合体が知られており、そのガラス転移温度Tgは約-25〜-35℃である。また、-35℃以下のガラス転移温度Tgを有する含フッ素エラストマーとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)の代りに、以下の如きパーフルオロ(アルコキシアルキル)基側鎖を有するパーフルオロビニルエーテル化合物を共重合させたものが知られている。
CF2=CFO(CF2)3OCF3
CF2=CFO(CF2)2O(CF2)nCF3 (n:1〜4)
CF2=CFO(CF2CF2)mOCF3 (m:1〜5)
CF2=CFO(CF2CF2CF2O)nCmF2m+1 (n:1〜4、m:1〜5)
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕nCF3 (n:2〜6)
【特許文献3】USP 5,969,216
【特許文献4】USP 6,294,627
【特許文献5】特開昭64−52733号公報
【特許文献6】特開2004−348087号公報
【0006】
これらのパーフルオロビニルエーテル化合物を共重合した含フッ素エラストマーは、フッ化水素などの酸性条件に耐性を示すなど耐薬品性に優れ、耐熱性も良好であるが、成形加工性に関しては従来の含フッ素エラストマーと同等である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、Si-H結合を有する含フッ素オルガノ水素シロキサン化合物を必要としないで硬化可能であり、その上耐熱性、低温特性および成形加工性に優れ、しかも酸性条件下での使用に耐え得る硬化物を与える含フッ素ポリエーテル化合物、その製造方法およびそれを含有する硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって、一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、XおよびYはそれぞれ独立にヨウ素原子または臭素原子であり、X、Yのフェニル基上の置換位置は、それぞれ独立にRfO結合置換基およびNR1結合置換基に対してm-位またはp-位であり、nは30〜130の整数である)で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物が提供される。
【0009】
かかる含フッ素ポリエーテル化合物は、一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はRfO結合置換基に対してm-位またはp-位であり、nは30〜130の整数である)で表わされる含フッ素カルボン酸フルオリド化合物を、一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、Yはヨウ素原子または臭素原子であり、Yのフェニル基上の置換位置はNR1結合置換基に対してm-位またはp-位である)で表わされる芳香族1級または2級アミン化合物と、ピリジンまたはトリエチルアミン等の3級アミン化合物の存在下で反応させることにより製造される。
【0010】
このようにして得られる含フッ素ポリエーテル化合物は、以下の硬化性組成物の主成分として用いられる。具体的には、本発明に係る硬化性組成物は、以下の各成分より構成される。
(A)成分 含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B)成分 芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜10重量部
(C)成分 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D)成分 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E)成分 有機リン化合物 0〜5重量部
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る含フッ素ポリエーテル化合物は、入手容易な原料物質から、平易な反応によって製造することができる。また、特定の硬化剤および硬化触媒とともに、硬化性含フッ素ポリエーテル組成物を形成することができる。この硬化性含フッ素ポリエーテル組成物は、室温で適度な流動性を示すなど良好な加工性を有し、射出成形、RIM等種々の成形方法に適用できる。また、それを硬化することで、耐熱性、低温特性に優れ、フッ化水素などの酸性条件下でも使用可能な優れた耐薬品性を有する硬化物を与える。かかる組成物を硬化して得られる成形物は、上述の如き諸特性を有するため、自動車燃料供給系シール材、オイルシール材、航空機燃料系および油圧系シール材、半導体製造装置シール材等の各種用途に好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の含フッ素ポリエーテル化合物

において、nは30〜130の整数であり、好ましくは50〜130の整数である。R1は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、特に製造面からは水素原子またはメチル基であることが好ましい。ただし、水素原子の場合には、得られる含フッ素ポリエーテル化合物の粘度が高くなる傾向にある。Rfは、炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、特に製造面からは炭素数3のパーフルオロアルキレン基が選ばれ、具体的には-CF2CF(CF3)-(ただし、側鎖CF3基はオキシフェニル基側)または-CF2CF2CF2-が好ましい例として挙げられる。X、Yはそれぞれ独立にヨウ素原子または臭素原子であり、そのフェニル基上の置換位置はそれぞれ独立にRfO結合置換基およびNR1結合置換基に対してm-位またはp-位である。
【0013】
上記一般式で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物は、含フッ素カルボン酸フルオリド

と芳香族1級または2級アミン

とを、ピリジンまたはトリエチルアミン等の3級アミン化合物の存在下で反応させることにより製造することができる。反応は、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル等の含フッ素溶媒、またはこれらの含フッ素溶媒と非プロトン性非フッ素系溶媒との混合溶媒中で-50〜150℃、好ましくは0〜100℃で行われる。含フッ素溶媒の具体例としては、HCFC-225、HFE-449(住友3M製品HFE7100)、HFE-569(住友3M製品HFE-7200)等が挙げられる。非プロトン性非フッ素系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。1級アミンまたは2級アミンの溶解性を考慮すると、含フッ素溶媒と非プロトン性非フッ素系溶媒の混合溶媒を用いるのがより好ましい。
【0014】
なお、含フッ素カルボン酸フルオリド化合物は、例えば以下のようにして製造することができる。

【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 106巻 5544頁 (1984)
【0015】
本発明の含フッ素ポリエーテル化合物の具体例としては、







などが挙げられる。
【0016】
本発明の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物は、上記含フッ素ポリエーテル化合物〔(A)成分〕を主成分とする、以下の各成分から構成される。
(A)成分 含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B)成分 芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜10重量部
(C)成分 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D)成分 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E)成分 有機リン化合物 0〜5重量部
上述の硬化性組成物の硬化反応は、パラジウム触媒による、アリールボロン酸またはそのエステルとハロゲン化アリールのクロスカップリング反応(鈴木−宮浦反応)に基づくものである。
【非特許文献2】Chem. Rev. 95巻 2457頁 (1995)
【0017】
以下、組成物を形成する各成分について順次説明する。
(A)成分である、前記一般式で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物において、nは30〜130の整数であるが、硬化後十分な機械的強度を有する硬化物を得るには、nは50〜130が好ましい。R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であるが、分子内または分子間水素結合および硬化における副反応を避けるために、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基が好ましい。特に、原料の入手のし易さから、メチル基が選ばれる。Rfは、炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、特に製造面からは炭素数3のパーフルオロアルキレン基が選ばれ、具体的には-CF2CF(CF3)-(ただし、側鎖CF3基はオキシフェニル基側)または-CF2CF2CF2-が好ましい例として挙げられる。X、Yはそれぞれ独立にヨウ素原子または臭素原子であるが、硬化の迅速性の点からはヨウ素原子が好ましい。また、X、Yのフェニル基上の置換位置はそれぞれ独立にRfO結合置換基およびNR1結合置換基に対してm-位またはp-位である。X、Yの置換位置がo-位の場合、立体的要因により硬化速度が低下するので好ましくない。
【0018】
(B)成分は、下記一般式で表わされる芳香族ボロン酸エステル化合物

を用いることができる。ここで、R2は炭素数2〜10の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基であり、例えば-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH(CH3)2C(CH3)2-、-C(CH3)2CH2C(CH3)2-等が挙げられる。具体的な例としては、1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキシサボロラン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4,4,6,6-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル)ベンゼンが挙げられる。好ましくは、1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼンが製造の容易さから選ばれる。
【非特許文献3】J. Appl. Poly. Sci. 76巻 1257頁 (2000)
【0019】
(B)成分芳香族ボロン酸エステル化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部当り0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の割合で用いられる。(B)成分がこれより少ないと、硬化が不十分となるかまたは得られる硬化物の機械的強度が低下する。一方、これより多い割合で用いることは、それに見合った効果が見込めず、経済的でない。
【0020】
硬化触媒として用いられる(C)成分有機パラジウム化合物としては、0価または2価の有機パラジウム化合物が用いられる。0価の有機パラジウム化合物は、そのまま0価の状態で硬化反応の触媒として作用する。2価の有機パラジウム化合物は、(A)成分、(B)成分または後述の(E)成分有機リン化合物により0価に還元された後、触媒作用を発現する。(C)成分有機パラジウム化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部当り、0.0001〜1重量部、好ましくは0.001〜0.5重量部の割合で用いられる。(C)成分がこれより少ないと、十分な硬化が行われず、一方これより多い割合で用いることは経済的でない。
【0021】
0価の有機パラジウム化合物としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム等が用いられる。2価の有機パラジウム化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、アリルパラジウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムクロリド、ビス(トリ第3ブチルホスフィン)パラジウムクロリド等が用いられる。特に、酢酸パラジウムが好適に用いられる。
【0022】
なお、酢酸パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、アリルパラジウムクロリドのように分子内にリン化合物を含まない有機パラジウム化合物を用いる場合、その安定剤として、一般式

で表わされる(E)成分有機リン化合物を併用することが好ましい。
【0023】
ここで、R3、R4、R5はそれぞれ独立に、置換基を有し得る炭素数1〜10の鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数5〜12の環状脂肪族炭化水素基または炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基を有する有機リン化合物の具体例としては、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ第3ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン等が挙げられる。
【0024】
また、芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物としては、一般式

で表わされるトリフェニルホスフィン化合物類または一般式

で表わされる、Buchwald配位子と総称される化合物群を用いることもできる。
【特許文献7】USP 6,307,087
【特許文献8】USP 6,294,627
【0025】
ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基あるいは炭素数1〜3のアルキル基を有するアルコキシ基またはジアルキルアミノ基である。R6は炭素数1〜6の鎖状または環状の脂肪族炭化水素基である。トリフェニルホスフィン化合物類としては、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(1,3,5-トリイソプロピルフェニル)ホスフィン等が例示される。Buchwald配位子の具体例としては、(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2′,6′-ジメトキシビフェニル、2-ジ-第3ブチルホスフィノ-2′,4′,6′-トリイソプロピルビフェニル、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2′-ジメチルアミノビフェニル等の化合物が例示される。
【0026】
その他、分子内に2個のリン原子を有する、一般式

で表わされる二座配位子有機リン化合物も用いることができる。ここで、Phは炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基または置換基を有し得るフェニル基であり、Zは2価の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはメタロセン基である。
【0027】
具体例には、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1′-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,1′-ビス(ジ第3ブチルホスフィノ)フェロセン、2,2′-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1′-ビナフタレン等の化合物が例示される。
【0028】
(E)成分有機リン化合物は、(C)成分有機パラジウム化合物のPd原子に対して0.5〜10モル当量、好ましくは1〜4モル当量用いられる。(A)成分に対しては、その100重量部当り0.1〜2重量部の割合で用いられることが好ましい。
【0029】
(D)成分の塩基性無機化合物または塩基性有機化合物としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩あるいは炭酸水素塩、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属リン酸塩あるいはリン酸水素塩、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物、酢酸カリウム等のアルカリ金属酢酸塩、ナトリウムメトキシド、有機アミン類が挙げられる。好ましい例は、リン酸カリウムである。(D)成分塩基性無機化合物または塩基性有機化合物は、(A)成分含フッ素ポリエーテル化合物100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは1〜10重量部の割合で用いられる。(D)成分を添加しないと硬化反応がきわめて遅いかあるいは全く起こらない場合がある。
【0030】
硬化性含フッ素ポリエーテル組成物中には、これらの各成分以外に、硬化反応を阻害しない量および純度を有する各種充填剤、補強剤、顔料等適宜配合して用いられる。組成物の調製は、3本ロールミル、プラネタリミキサー等を用いて混練することにより行われ、混合物の硬化は、室温〜200℃で圧縮成形、射出成形、RIM成形等により約1〜60分間行われ、必要に応じて50〜250℃で1〜30時間程度のオーブン加硫(二次加硫)が行われる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0032】
参考例
含フッ素カルボン酸フルオリド化合物の合成

【0033】
(1)酸フルオリド化合物

8.5g、フッ化セシウム3.5gおよびテトラグライム39gを混合してからセシウムアルコキシド

のテトラグライム溶液を調製し、次の反応に用いた。
【0034】
(2)攪拌装置、温度センサ、ガス導入口およびドライアイス/エタノール冷却凝縮器を備えた内容量1Lのガラス製反応容器を低温恒温槽に設置し、上記(3)で得られたアルコキシド化合物を23ミリモル含むテトラグライム溶液50gを仕込んだ。内温を-33〜-30℃に調整した後、ガス導入口よりヘキサフルオロプロペンを20g仕込んだ。次に、ヘキサフルオロプロペンオキシドを5g/hrおよびヘキサフルオロプロペンを2g/hrの供給速度で反応容器内に仕込んだ。60時間経過後、ガスの供給を停止し、さらに1時間-33〜-30℃に内温を保った。減圧下でヘキサフルオロプロペンを反応系内より除去した後、室温までゆっくり昇温した。さらに100℃まで昇温し、減圧下でヘキサフルオロプロペンオリゴマーを反応混合物より除去した。このようにして、フッ化セシウム、テトラグライムおよび含フッ素カルボン酸フルオリドからなる混合物を淡黄色粘稠な懸濁液として345g得た。これを精製せずに、実施例に示される次の工程に用いた。
【0035】
(3)また、上記混合物の一部をメタノールによりエステル体とした後、19F-NMRによりヘキサフルオロプロペンオキシド数平均重合度およびヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーとのモル分率(MF)を求めた。

s=Fa(-131ppm)ピーク積分値
t=Fb(-133ppm)ピーク積分値
u=Fc(-146ppm)ピーク積分値
注) ケミカルシフトはCFCl3基準
MF=1-(s/(2t))=0.85
ヘキサフルオロプロペンオキシド数平均重合度=u/t=72
【0036】
実施例1
含フッ素ポリエーテル化合物〔PFPE-I〕の合成

参考例で得られた含フッ素カルボン酸フルオリド、フッ化セシウムおよびテトラグライムからなる混合物60g(約4.7ミリモル)を、含フッ素系溶媒(住友3M製品HFE-7100)50mlに溶解し、そこにトリエチルアミン1.0g(1.0ミリモル)およびジエチルエーテル20mlを加えた。これに、p-ヨード-N-メチルアニリン1.6g(7.0ミリモル)を加え、室温で1時間反応を行った。得られた反応混合物を飽和食塩水に加え、分離した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、ロ過した。減圧下でロ液から含フッ素系溶媒およびジエチルエーテルを留去した後、得られた粘稠な液体をジエチルエーテルで数回洗浄し、次いで減圧下でジエチルエーテルを完全に留去した。このようにして、含フッ素ポリエーテル化合物〔PFPE-I〕

を僅かに黄色味を帯びた透明な液体として49g得た。E型粘時計(東機産業製TEV-22)により粘度を測定したところ、13Pa・s(25℃)であった。
19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準): -123ppm(Fb)
-145ppm(Fc)
1H-NMR(ケミカルシフトはTMS基準): 7.5ppm(Ha、He)
6.6ppm(Hb、Hd)
3.1ppm(Hc)
IR(neat): 1703cm-1(C=O)
1490cm-1(Ar)
【0037】
実施例2
含フッ素ポリエーテル化合物〔PFPE-IBr〕の合成

参考例で得られた含フッ素カルボン酸フルオリド、フッ化セシウムおよびテトラグライムからなる混合物50g(約4.0ミリモル)を、含フッ素系溶媒(HFE-7100)50mlに溶解し、そこにトリエチルアミン0.8g(0.8ミリモル)およびジエチルエーテル20mlを加えた。これに、p-ブロモ-N-メチルアニリン1.1g(6.0ミリモル)を加え、室温で1時間反応を行った。得られた反応混合物を飽和食塩水に加え、分離した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、ロ過した。減圧下でロ液から含フッ素系溶媒およびジエチルエーテルを留去した後、得られた粘稠な液体をジエチルエーテルで数回洗浄し、次いで減圧下でジエチルエーテルを完全に留去した。このようにして、含フッ素ポリエーテル化合物〔PFPE-IBr〕

を僅かに黄色味を帯びた透明な液体として41g得た。E型粘時計(TEV-22)により粘度を測定したところ、10Pa・s(25℃)であった。
19F-NMR(ケミカルシフトはCFCl3基準): -123ppm(Fb)
-145ppm(Fc)
1H-NMR(ケミカルシフトはTMS基準): 7.4ppm(Ha、He)
6.6ppm(Hb、Hd)
3.1ppm(Hc)
IR(neat): 1700cm-1(C=O)
1490cm-1(Ar)
【0038】
実施例3
実施例1の含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2- 3重量部
ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン
酢酸パラジウム 0.15重量部
2-(ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン 0.5重量部
リン酸カリウム 5重量部
以上の各成分をエタノール 120重量部、水 25重量部およびベンゾトリフルオリド 300重量部からなる混合溶媒中に加え、窒素雰囲気下に室温で10分間混合し、次いで減圧下に40℃で揮発性物質を除去した。得られた混合物に、アセチレンブラック10重量部を混合し、硬化性組成物を調製した。
【0039】
この硬化性組成物を、130℃で10分間圧縮成形し、次いで80℃、5時間および200℃、10時間のオーブン加硫(二次加硫)を順次窒素雰囲気下で行い、試験片を得た。
【0040】
得られた硬化性組成物および加硫物について、次の各項目の測定を行った。
硬化試験:モンサント・ディスク・レオメーターを使用し、130℃でt10、t90、ML、M Hの値を測定
常態物性:JIS K6250、K6253準拠
圧縮永久歪:ASTM D395 Method B準拠
P-24 Oリングについて、200℃、70時間の値を測定
低温特性:ASTM D1329に準拠して、TR10、TR20の値を測定
メタノール浸漬試験:25℃のメタノール中に70時間浸漬後の体積変化率を測定
フッ化水素酸浸漬試験:25℃の10重量%フッ化水素酸水溶液中に70時間浸漬後の体積 変化率を測定
【0041】
実施例4
実施例3で用いられた2-(ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィンの代りにトリフェニルホスフィン0.4重量部を用い、130℃で10分間圧縮成形し、次いで80℃、5時間および200℃、10時間のオーブン加硫(二次加硫)を順次窒素雰囲気下で行い、試験片を得た。
【0042】
比較例
CF2=CH2/CF2=CF2/CF2=CFOCF3/CF2=CFO〔CF2C(CF3)O〕5CF3/CF2=CFOCF2CF2Br(共重合モル比70/10/10/9/1)共重合体(ηsp/c=1.2;1重量% C6F6溶液について測定、ポリマームーニー粘度(121℃)70)100重量部に、
MTカーボンブラック(キャンキャブ製品サーマックスN900) 30重量部
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品TAIC M60) 6 〃
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B-40) 1.4 〃
ZnO 4 〃
を加えて2本ロールで混合し、この混合物を180℃で10分間圧縮成形して、厚さ2mmのシートおよびP-24 Oリングを加硫成形し、これらをさらに230℃で24時間オーブン加硫(二次加硫)し、実施例3〜4と同様の測定を行った。
【0043】
以上の実施例3〜4および比較例の測定結果は、次の表に示される。

測定項目 実施例3 実施例4 比較例
〔硬化試験〕
試験温度 (℃) 130 130 180
t10 (分) 0.5 0.5 0.5
t90 (分) 1.2 1.1 2.6
ML (dN・m) 0.2 0.2 2.0
MH (dN・m) 2.7 2.6 10.7
〔常態物性〕
硬さ 51 50 59
100%モジュラス (MPa) 1.2 1.1 4.5
破断時強度 (MPa) 2.7 2.5 11.3
破断時伸び (%) 240 240 180
〔圧縮永久歪〕
200℃、70時間 (%) 60 62 24
〔低温特性〕
TR10 (℃) -47 -47 -39
TR20 (℃) -34 -34 -29
〔メタノール浸漬試験〕
体積変化率 (%) +3 +3 +4
〔フッ化水素酸浸漬試験〕
体積変化率 (%) +1 +1 +3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、XおよびYはそれぞれ独立にヨウ素原子または臭素原子であり、X、Yのフェニル基上の置換位置は、それぞれ独立にRfO結合置換基およびNR1結合置換基に対してm-位またはp-位であり、nは30〜130の整数である)で表わされる含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項2】
上記一般式において、Rfが-CF2CF2CF2-である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項3】
上記一般式において、Rfが-CF2CF(CF3)-(ただし、側鎖CF3基はオキシフェニル基側)である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項4】
上記一般式において、XおよびYがヨウ素原子である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項5】
上記一般式において、R1がメチル基である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項6】
上記一般式において、nが50〜130の整数である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物。
【請求項7】
一般式

(ここで、Rfは炭素数2〜4の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Xはヨウ素原子または臭素原子であり、Xのフェニル基上の置換位置はRfO結合置換基に対してm-位またはp-位であり、nは30〜130の整数である)で表わされる含フッ素カルボン酸フルオリド化合物を、一般式

(ここで、R1は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基であり、Yはヨウ素原子または臭素原子であり、Yのフェニル基上の置換位置はNR1結合置換基に対してm-位またはp-位である)で表わされる芳香族1級または2級アミン化合物と反応させることを特徴とする請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物の製造方法。
【請求項8】
ピリジンまたは3級アミン化合物の存在下で反応が行われる請求項7記載の含フッ素ポリエーテル化合物の製造方法。
【請求項9】
(A) 請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物 100重量部
(B) 一般式

(ここで、R2は炭素数2〜10の直鎖状または
分岐状の2価の脂肪族炭化水素基である)
で表わされる芳香族ボロン酸エステル化合物 0.1〜10重量部
(C) 0価または2価の有機パラジウム化合物 0.0001〜1重量部
(D) 塩基性無機化合物または塩基性有機化合物 0.1〜10重量部
(E) 一般式

(ここで、R3、R4、R5はそれぞれ独立に、それ
ぞれ置換基を有し得る炭素数1〜10の鎖状脂
肪族炭化水素基、炭素数5〜12の環状脂肪族
炭化水素基または炭素数6〜20の芳香族炭化
水素基である)
または一般式

(ここで、Phは炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基
または置換基を有し得るフェニル基であり、
Zは2価の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、
炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはメタ
ロセン基である)
で表わされる有機リン化合物 0〜5重量部
を含有してなる硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項10】
XおよびYがヨウ素原子である請求項1記載の含フッ素ポリエーテル化合物が(A)成分として用いられた請求項9記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項11】
(B)成分芳香族ボロン酸エステル化合物が1,3,5-トリス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼン

である請求項9記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項12】
(C)成分2価の有機パラジウム化合物が酢酸パラジウムである請求項9記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項13】
(D)成分塩基性無機化合物がリン酸カリウムである請求項9記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項14】
(E)成分有機リン化合物が、下記一般式

(ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水
素原子、炭素数1〜5のアルキル基あるい
は炭素数1〜3のアルキル基を有するアル
コキシ基またはジアルキルアミノ基であ
る)
で表わされる請求項9記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。
【請求項15】
(E)成分有機リン化合物が、下記一般式

(ここで、A、B、Cはそれぞれ独立に、水
素原子、炭素数1〜5のアルキル基あるい
は炭素数1〜3のアルキル基を有するアル
コキシ基またはジアルキルアミノ基であ
り、R6は炭素数1〜6の鎖状または環状の
脂肪族炭化水素基である)
で表わされる請求項9記載の硬化性含フッ素ポリエーテル組成物。

【公開番号】特開2008−255179(P2008−255179A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97284(P2007−97284)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】