説明

含フッ素化アルカンの製造方法

【課題】 含フッ素イリドをフッ素化剤に用いてフッ素化アルカン類を製造する方法において、フッ化水素によるダメージを軽減できる、フッ素化アルカンの収量を増大させる製造方法を提供する。
【解決手段】含フッ素イリドをフッ素化剤に使用してアルコール類からフッ素化アルカンを製造する際、オレフィン類を添加しておくことにより、フッ化水素をオレフィン類に付加させて遊離フッ化水素量の軽減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造分野において有用なエッチング、CVD等のプラズマ反応用ガス、あるいは、含フッ素医薬中間体、ハイドロフルオロカーボン系溶剤として有用な含フッ素アルカン、あるいはアルケンの製造方法に関する。高純度化されたフッ素化アルカン、アルケン類は、特に、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマ用エッチングガス、化学気相成長法(CVD)用ガス等に好適である。
【背景技術】
【0002】
構造式(2)で示される含フッ素イリドをフッ素化剤に使用してフッ素化アルカンの製造方法としては幾つかの製造方法が開示されている。
特許文献1においては、ヘキサフルオロシクロブテンから誘導される3級アミンのイリド、あるいはジアルキルアミノホスフィンのイリドをフッ素化剤に用いて、2−ブタノール、1−オクタノール、ベンジルアルコール等のアルコールをフッ素化して対応する含フッ素アルカンを製造している。
非特許文献1においては、特許文献1と同様にヘキサフルオロシクロブテンから誘導される含フッ素イリドをフッ素化剤に用いて、アリルアルコール、α−ヒドロキシエステル、さらには、芳香族カルボン酸をフッ素化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−48741号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron,Vol.52,2977(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1と特許文献2に記載の反応は以下のような反応機構で進むと考えられ、反応中にフッ化水素を生成することが知られている。遊離のフッ化水素は耐腐食性のある材質である金属類を使用してもその腐食が避けられず、設備に大きく負荷をかける。
【0006】
【化1】

【0007】
上式中、Yは窒素原子、又はリン原子を、R,Rはアルキル基を表す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、上記状況を鑑み、構造式(2)で示される含フッ素イリドをフッ素化剤に用いる反応において、遊離フッ化水素を減らすべく、フッ化水素をフッ素源に使用することを考え、さらに含フッ素アルカンを収率良く製造する方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
かくして本発明によれば、下記構造式(2)で示される含フッ素イリドと構造式(1)で示されるアルコールを接触させて、構造式(3)で示される含フッ素アルカンを製造する方法おいて、構造式(4)で示されるオレフィン化合物を添加してなる製造方法が提供される。
【0009】
【化2】

【0010】
構造式(1)中、R、及びRはそれぞれ水素、又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、RとRがメチレン基で繋がって環を形成しても良い。RとRの炭素数の合計は最大で4である。
【0011】
【化3】

構造式(2)中、nは1又は2であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Xは、水素原子、塩素原子、フッ素原子であり、Yは窒素原子、又はリン原子である。
【0012】
【化4】

【0013】
構造式(3)中、R、及びRはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、RとRがメチレン基で繋がって環を形成しても良い。RとRの炭素数の合計は最大で4である。
【0014】
【化5】

【0015】
構造式(4)中、R、及びRはそれぞれ水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、RとRがメチレン基で繋がって環を形成しても良い。RとRの炭素数の合計は最大で4である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いられる構造式(1)で示されるアルコールとしては、例えば、1−プロパノール、2−プロパノールなどの炭素数3のアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、シクロブタノールなどの炭素数4のアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、シクロペンタノールなどの炭素数5のアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−1−ブタノール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロペンタノールなどの炭素数6のアルコールが挙げられる。これらの中でも、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコールなどの炭素数4のアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、シクロペンタノールなどの炭素数5のアルコールがより好ましい。
【0017】
これらアルコールの添加量は、構造式(2)で示される含フッ素イリドに対して、2〜5当量が好ましく、より好ましくは2.5〜3.5当量である。添加量が少ないと、対応する含フッ素アルカンの生成量が少なく収率の低下を招き、添加量が多すぎると、精製工程での回収に手間がかかる。
【0018】
また、上記アルコール類は予め、モレキューラーシーブスや、アルミナ等の乾燥剤で乾燥し、含有水分量を少なくしておくことが好ましい。含有水分量が多いと、含フッ素イリドがアルコール類よりも水分とより速く反応し、収率の低下を招く可能性がある。
【0019】
構造式(2)で示される含フッ素イリドは以下に記載の方法に従って製造することができる。例えば、特開平9−48741号公報においては、ヘキサフルオロシクロブテンとトリエチルアミンを圧力容器中に入れて反応させ、対応するトリエチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンを、また、Tetrahedron、Vol.52、2977(1996)においては、ジエチルエーテル溶媒下、トリス(ジエチルアミノ)ホスフィンとヘキサフルオロシクロブテンを反応させ、ジエチルエーテルで2回の再結晶を行って、トリス(ジエチルアミノ)−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンイリドを得ることができる。
【0020】
このようなイリドとしては、トリメチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンイリド、トリエチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンイリド、トリブチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンイリド、トリメチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンイリド、トリエチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンイリド、トリブチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンなどのアンモニウムイリド、トリス(ジエチルアミノ)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンイリド、トリス(ジエチルアミノ)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンイリド、トリス(n−ブチル)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンイリド、トリス(n−ブチル)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンイリドなどのホスホニウムイリドが挙げられる。これらの中でも、トリエチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンイリド、トリス(ジエチルアミノ)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンイリド、トリス(n−ブチル)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンイリドなどの、構造式(2)のn=2であるシクロペンタン骨格のイリドが耐圧容器を必要としない点から調製がし易く、より好ましい。
【0021】
本発明で適用される反応においては、上記のような方法で製造された含フッ素イリドとアルコールとの反応で、含フッ素アルカンと一緒に当量のフッ化水素が副生する。この副生フッ化水素を有効活用するために、反応系に構造式(4)で示されるアルケン類を添加することを特徴とする。すなわち、副生フッ化水素がアルケンに付加すれば含フッ素アルカンが生成し、毒性を有し、設備に腐食を与える遊離のフッ化水素の量を低減することが可能となる。原料となるアルコールとフッ化水素と付加するアルケンの種類をうまく組み合わせれば、生成する含フッ素アルカンは同じ構造を有するため、見かけ上収率が向上するという特徴を持つ。
【0022】
構造式(4)で示されるアルケン類としては、プロペンなどの炭素数3のアルケン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテンなどの炭素数4のアルケン、1−ペンテン、2−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、シクロペンテンなどの炭素数5のアルケン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、2,3−ジメチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン、2,3−ジメチル−2−ブテン、4−メチル2−ペンテン、3−メチレンペンタン、3,3−ジメチル−1−ブテン、シクロヘキセンなどの炭素数6のアルケンを用いることができる。
【0023】
これらの中でも、1−ブテン、2−ブテン、イソブテンなどの炭素数4のアルケン、1−ペンテン、2−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、シクロペンテンなどの炭素数5のアルケンが適度な沸点を有することから好適に使用することができる。
【0024】
さらには、反応後に行う精製の容易さという観点からは、原料アルコールから誘導される含フッ素アルカンと、アルケンにフッ化水素が付加して生成する含フッ素アルカンとが同じ構造を有することが望ましい。例えば、2−ブタノールと2−ブテン、2−ペンタノールと1−ペンチン、シクロペンタノールとシクロペンテンのような組み合わせがより好ましい形態である。
【0025】
上記アルケン類の添加量は、基本的に構造式(1)で用いられるアルコールと当量である。添加量が少ないと副生フッ化水素のアルケンへの付加反応が不十分となり、収率の低下を招き、一方、添加量が多すぎるとアルケンの重合が起こり易くなり、オリゴマーやポリマーを生成するので、反応後の処理が煩雑になる。
【0026】
本反応は溶媒下で行うことができる。かかる溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジクロペンチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテルなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどの塩素系類、ペンタフルオロブタン、デカフルオロペンタン、ヘプタフルオロシクロペンタン、ウンデカフルオロヘキサンなどのフッ素化炭化水素類、トルエン、キシレン、ベンゾフルオリドなどの芳香族類を挙げることができる。中でもエーテル類やフッ素化炭化水素が好ましい。
【0027】
エーテル類の中でも、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジクロペンチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルメチルエーテル、及びノナフルオロブチルエチルエーテルが好ましい。フッ素化炭化水素類の中では、ペンタフルオロブタン、デカフルオロペンタン、及びヘプタフルオロシクロペンタンが好ましい。
溶媒は反応終了後の精製の容易さ、すなわち、目的物であるフッ素化アルカンの沸点を考慮して適宜選択することができる。
また、溶媒についても原料のアルコールと同様に、含有水分量を少なくしておくことが好ましい。
【0028】
溶媒の添加量としては、原料となるアルコールに対して容積で、5〜15倍が好ましい。溶媒の使用量が少ないとアルケンの重合を引き起こし、使用量が多すぎると、副生フッ化水素のアルケンへの付加反応が不十分になる。
【0029】
反応温度は、通常、0〜100℃の範囲に設定することができ、20〜60℃の範囲に設定することが好ましい。反応温度が低いと原料転化率が低く、回収粗生成物中に未反応の原料が多く含まれ、反応温度が高すぎると、添加したアルケン類の中には重合を引き起こしてポリマー化し、好ましくない場合がある。
【0030】
反応時間としては、原料のアルコール、含フッ素イリド、及びアルケンの組み合わせにより、適宜調整すれば良く、通常、1〜30時間、より好ましくは、2〜10時間である。反応時間が短いと、アルコールのフッ素化反応や、副生フッ化水素のアルケンへの付加反応が十分に進行せず、収率が低くなり、一方、反応時間が長すぎるとアルケンの重合を引き起こし、反応後の処理が煩雑になる。
【0031】
本反応では、反応系に残存する水分を極力除外するために、モレキュラーシーブスやアルミナ等の乾燥剤を添加して反応を行っても良い。モレキュラーシーブスとしては、3A,4A,5A,13Xなどの合成ゼオライトを使用することができる。これらモレキュラーシーブスやアルミナは反応系内で均一に分散させることが望ましいので、粉末状のものを使用することが好ましい。
【0032】
反応形態としては、反応器内で含フッ素イリドを形成し、未反応のパーフルオロアルケン、及び溶媒を減圧下に回収し、反応器内に含フッ素イリドを残す。この反応器を冷媒に浸して冷却し、反応器内に原料となるアルコール、溶媒、アルケンを順次加え、系内を窒素や、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下に置く。この状態から反応器を任意の温度に設定して反応させた後、反応混合物を減圧下のコールドトラップに回収、通常の蒸留操作(精留)により、含フッ素アルカンを単離することができる。設備上の簡便さや、含フッ素イリドをなるべく大気と接触させない観点からは上述のような形態が好ましいが、含フッ素イリドの製造と、含フッ素イリドとアルコールから含フッ素アルカンを製造する反応とを別々の反応器で行っても構わない。また、未反応で残存したアルコールは蒸留精製で回収し、再度、反応に付することができる。
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「%」は「重量%」を表す。
【0034】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:GC−2010(島津製作所社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 TC−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.0μm
カラム温度:50℃で10分間保持した後、20℃/分で昇温し、250℃で10分間保持する。
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
スプリット比:100/1
検出器:FID
H、及び19F−NMR測定
装置:JNM−ECA−500(日本電子社製)
【0035】
[製造例1]
ガラス製反応器に、オクタフルオロシクロペンテン42g、乾燥ジエチルエーテル100mlを入れ、窒素雰囲気下に置いた。反応器を0℃に冷却し、トリn−ブチルホスフィン20gを適下ロートより30分かけて滴下した。反応混合物を0℃でさらに10時間攪拌させた後、 反応器にドライアイス/エタノール浴に浸したガラス製トラップを接続し、真空ポンプで減圧して未反応のオクタフルオロシクロペンテン及びジエチルエーテルを留去した。反応器を40℃に加温し、さらに1時間減圧した。内容物の重量を測定した結果、トリス(n−ブチル)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンが38g生成していた(トリn−ブチルホスフィン基準で収率91%)。
【0036】
[製造例2]
SUS316製オートクレーブ中に乾燥ジエチルエーテル100mlを仕込み、ドライアイス/エタノール浴に浸して−30℃に冷却した。そこへ、ヘキサフルオロシクロブテン32gを吹き込み、さらに、トリn−ブチルホスフィン20gをシリンジにて、30分かけて添加した。反応混合物を−30℃で2時間、室温でさらに5時間攪拌させた。オートクレーブにドライアイス/エタノール浴に浸したガラス製トラップを接続し、真空ポンプで減圧して未反応のヘキサフルオロシクロブテン及びジエチルエーテルを留去した。反応器を40℃に加温し、さらに1時間減圧した。内容物の重量を測定した結果、トリス(n−ブチル)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタンが32g生成していた(トリn−ブチルホスフィン基準で収率89%)。
【0037】
[製造例3]
ジムロート型コンデンサーを付したガラス製反応器に、オクタフルオロシクロペンテン84g、乾燥トリエチルアミン20gを入れ、窒素雰囲気下に置いた。ジムロート型コンデンサーには反応器を−5℃の冷媒を循環させた。反応器を20℃以下に保持し、内容物を5日間攪拌させた。反応器にドライアイス/エタノール浴に浸したガラス製トラップを接続し、真空ポンプで減圧して未反応のオクタフルオロシクロペンテン、及びトリエチルアミンを留去した。反応器を40℃に加温し、さらに1時間減圧した。内容物の重量を測定した結果、トリエチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンが40g生成していた(トリエチルアミン基準で収率65%)。
【0038】
[実施例1]
製造例1で調製したトリス(n−ブチル)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタン33g及び、乾燥テトラヒドロフラン100mlをSUS316製オートクレーブに仕込み、ドライアイス/エタノール浴に浸して−20℃に冷却した。オートクレーブ内に2−ブテン3.9gを吹き込み、さらに、2−ブタノール5.2gをシリンジにて7分間かけて添加した。オートクレーブを50℃にて8時間、加熱攪拌した。オートクレーブにドライアイス/エタノール浴(−70℃)に浸したガラス製トラップを接続し、真空ポンプで減圧して内容物を捕集した。ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、仕込んだ2−ブテンの23%が2−フルオロブタンに変換されていた。ガラス製トラップに捕集した内容物をKS型蒸留塔(東科精機製)にて蒸留し、沸点24〜25℃の留分を採取した結果、2−フルオロブタン4.6gが得られた。
【0039】
2−フルオロブタンのスペクトルデータ
H−NMR(CDCl,TMS)δ(ppm)0.88(t、3H)、1.17(dq、3H),1.73(m、2H),4.35(m、1H)
19F−NMR(CDCl、CFCl)δ(ppm)−173(m,F)
【0040】
[実施例2]
実施例1において、ホスホニウム塩を製造例2で調製したトリス(n−ブチル)ホスホニウム−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロシクロブタン29gに変えて行った以外は、実施例1に従って同様に反応を行った。ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、仕込んだ2−ブテンの38%が2−フルオロブタンに変換されていた。ガラス製トラップに捕集した内容物をKS型蒸留塔(東科精機製)にて蒸留し、沸点24〜25℃の留分を採取した結果、2−フルオロブタン6gが得られた。
【0041】
[実施例3]
製造例3で調製したトリエチルアンモニウム−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタン22g及び、乾燥1,2−ジクロロエタン100mlをSUS316製オートクレーブに仕込み、ドライアイス/エタノール浴に浸して−20℃に冷却した。オートクレーブ内に1−ペンテン4.9g、さらに、2−ペンタノール6.2gをシリンジにて10分間かけて添加した。オートクレーブを50℃にて8時間、加熱攪拌した。オートクレーブにドライアイス/エタノール浴(−70℃)に浸したガラス製トラップを接続し、真空ポンプで減圧して内容物を捕集した。ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、仕込んだ1−ペンテンの31%が2−フルオロペンタンに変換されていた。ガラス製トラップに捕集した内容物をKS型蒸留塔(東科精機製)にて蒸留し、沸点56〜57℃の留分を採取した結果、2−フルオロペンタン5.2gが得られた。
【0042】
2−フルオロペンタンのスペクトルデータ
H−NMR(CDCl,TMS)δ(ppm)0.96(t、3H)、1.26(d、2H),1.35(m、2H),1.56(m、2H),4.54−4.78(m、2H)
19F−NMR(CDCl、CFCl)δ(ppm)−173(m,F)
【0043】
[実施例4]
実施例1において、2−ブタノール5.2gをシクロペンタノール6g、2−ブテン5.9gをシクロペンテン4.1gに、反応器をガラス製丸底フラスコに変更したこと以外は実施例1に従い、反応を行った。ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、仕込んだシクロペンテンの42%がフルオロシクロペンタンに変換されていた。また、ガラス製トラップに捕集した内容物をKS型蒸留塔(東科精機製)にて蒸留し、沸点50−51℃/40kPaの留分を採取した結果、フルオロシクロペンタン6.7gが得られた。また、反応後にガラス製反応器を観察したところ、フッ化水素による白化現象は認められなかった。
【0044】
フルオロシクロペンタンのスペクトルデータ
H−NMR(CDCl,TMS)δ(ppm)1.55(m、6H)、4.40(m、4H)
19F−NMR(CDCl、CFCl)δ(ppm)−171(m,F)
【0045】
[比較例1]
実施例1において、2−ブテンを添加しないこと以外は実施例1にしたがって、反応を行った。ガラス製トラップに捕集した内容物をKS型蒸留塔(東科精機製)にて蒸留し、沸点24〜25℃の留分を採取した結果、2−フルオロブタン2.7g(2−ブタノール基準で収率52%)が得られに過ぎなかった。
【0046】
このようにして、含フッ素イリドをフッ素化剤に使用してアルコール類からフッ素化アルカンを製造する方法において、オレフィン類を添加しておくことにより、遊離するフッ化水素の付加反応が起こり、設備に対して腐食等の問題を軽減することが可能となる。また、フッ素化するアルコールとオレフィン類の組み合わせをうまく選択することにより、フッ素化アルカンの収量を増大させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で示されるアルコールを構造式(2)で示される含フッ素イリドと接触させて、構造式(3)で示される含フッ素アルカンを製造する方法において、構造式(4)で示されるアルケン化合物を添加することを特徴とする含フッ素アルカンの製造方法。
【化1】

構造式(1)中、R、及びRはそれぞれ水素、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、RとRがメチレン基で繋がって環を形成しても良い。RとRの炭素数の合計は最大で4である。
【化2】

構造式(2)中、nは1又は2であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Xは、水素原子、塩素原子、又はフッ素原子であり、Yは窒素原子、又ははリン原子である。
【化3】

構造式(3)中、R、及びRはそれぞれ水素、又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、RとRがメチレン基で繋がって環を形成しても良い。RとRの炭素数の合計は最大で4である。
【化4】

構造式(4)中、R、及びRはそれぞれ水素、又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、RとRがメチレン基で繋がって環を形成しても良い。RとRの炭素数の合計は最大で4である。
【請求項2】
上記構造式(2)で示される含フッ素イリドが、n=2であることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素アルカンの製造方法。
【請求項3】
構造式(1)で示される化合物が2−ブタノール、構造式(4)で示される化合物が2−ブテンであることを特徴とする、請求項1、又は2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−95669(P2013−95669A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236720(P2011−236720)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】