含フッ素化合物、撥水性組成物および薄膜
比較的低エネルギーの紫外線を用いて、容易に撥水性親水性パターンを有する薄膜を形成できる含フッ素化合物を提供する。
下式1で表される含フッ素化合物(式1中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価有機基、そのうちの少なくとも一つはフッ素原子を有する1価有機基。R5は水素原子または1価有機基。R6は1価有機基。Aはヘテロ原子。)を用いて薄膜を形成し、紫外線を照射することにより撥水性親水性パターンを有する薄膜を形成する。
下式1で表される含フッ素化合物(式1中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価有機基、そのうちの少なくとも一つはフッ素原子を有する1価有機基。R5は水素原子または1価有機基。R6は1価有機基。Aはヘテロ原子。)を用いて薄膜を形成し、紫外線を照射することにより撥水性親水性パターンを有する薄膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線分解性の含フッ素化合物、それを含む撥水性組成物、該組成物から形成された撥水性薄膜、および該薄膜から形成された撥水性親水性パターンを有する薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子、集積回路、有機ELディスプレイ用デバイス等の微細デバイスの製造方法としては、真空蒸着、スパッタリング等によって基板上に機能性材料の薄膜を形成させ、該薄膜をフォトリソグラフィによってパターン化する手法が用いられる。フォトリソグラフィは、一般に以下の(1)〜(3)の工程からなる。
【0003】
(1)パターンニングを行う材料の薄膜を基板上に形成する。(2)薄膜上にフォトレジスト膜を形成し、所定のパターンを有するフォトマスクを介して露光し、アルカリ現像液により現像して、フォトレジストパターンを形成する。(3)フォトレジストパターンをマスクとしてエッチングを行い、不要な部分を除去して所望のパターン形状を有する薄膜を得る。フォトリソグラフィーは工程が複雑で、クリーンルーム内で実施する必要があることから、エネルギー、材料等の利用効率が低く、設備が高価となる問題があった。
【0004】
低コスト、低エネルギーで実施できるパターン形成方法が提案されている。たとえば、機能性材料の溶液のインクジェットプリンティング(非特許文献1参照。)、マイクロコンタクトプリンティング(非特許文献2参照。)等の方法が利用されつつある。
【0005】
最近、基板上に、表面特性の異なるパターンを形成し、その表面特性の違いを利用して微細デバイスを作製する方法が提案されている。たとえば、基板上に親水性領域と撥水性領域とを形成し、機能性材料の水溶液を親水性領域に塗布する方法がある。この方法では、親水性領域では水溶液が濡れ広がり、撥水性領域にはにじみ出ないことから、機能性材料の薄膜パターンが形成できる。
【0006】
表面特性の異なる領域を形成する方法としては、ある特性1を有する基板上に別の特性2を有する薄膜を形成し、該薄膜の一部を除去することによって特性1の表面を露出させ、特性1と特性2とを有する表面を形成する方法、または、特性2を有する薄膜を除去した領域に特性3を有する薄膜を形成し、特性2と特性3とを有する表面を形成する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0007】
特性2を有する薄膜は薄い方が効率的に除去できるため、自己組織化単分子膜(以下、SAMと記す。SAM=Self−Assembled Monolayer)が好ましい。SAMのような薄膜のパターンニング方法としては、走査型プローブ顕微鏡を利用する方法、紫外線、X線等の高エネルギー線、電子線、高出力レーザー等を用いる方法等が知られている。なかでも紫外線を用いるパターニング方法は、フォトマスクを用いて大面積の基板を一度に処理することができるため、製造面において好ましい。しかし、これまで紫外線として主に200nm以下の高エネルギー線が用いられるため、例えば酸化珪素膜を設けたシリコンウェハ基板の場合には基板のSi−O結合まで分解してしまう問題があった(特許文献2参照。)。
【0008】
基板上に薄膜を形成でき、かつ300nm以上で効率的に分解する材料として、4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルエーテル系化合物が知られているが、撥水性が充分でなかった(非特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2002−19008号公報
【特許文献2】特開2000−282240号公報
【非特許文献1】A.V.Lemmo,J.T.Fisher、H.M.Geysen,D,J.Rose,Anal.Chem,1997,69,543−551.
【非特許文献2】Y.Xia,G.M.Whitesides,Angew.Chem.Int.Ed,1998,37,550−575.
【非特許文献3】尾崎淳、山口和夫、ポリマー材料フォーラム(2002),305−306.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術が有する前述の欠点を解消することにあり、300nm以上の紫外線で容易に分解し、基板のパターニングに有用な含フッ素化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下式1で表される含フッ素化合物(以下、化合物1とも記す。)を提供する。
【0011】
【化1】
【0012】
[式1中のR1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基または1価有機基であり、R1、R2、R3、R4のうちの少なくとも一つはフッ素原子を有する有機基である。R5は水素原子または1価有機基であり、R6は加水分解性基を有する1価有機基であり、Aはヘテロ原子である。]
また、本発明は、上記含フッ素化合物と有機溶剤を含む撥水性組成物、該撥水性組成物を用いて形成された撥水性薄膜、該撥水性薄膜に、紫外線を照射し、照射された部分の含フッ素化合物を分解し、除去して形成されてなる撥水性親水性パターンを有する薄膜を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素化合物は、比較的低エネルギーの紫外線によって容易に分解する。該含フッ素化合物を含む組成物から形成された薄膜は、撥水性に優れる。一方、紫外線の照射により分解することにより、該薄膜に親水性が付与される。この特性を用いて、基板上に容易に撥水性親水性パターンを有する薄膜を形成できる。したがって、少ない工程数で、安価な装置を用いて、撥水性親水性パターンを有する薄膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】合成例1の化合物eの紫外可視光吸収スペクトル。
【図2】合成例2の化合物hの紫外可視光吸収スペクトル。
【図3】合成例3の化合物iの紫外可視光吸収スペクトル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の化合物1において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価有機基であり、そのうちの少なくとも一つはフッ素原子を含む1価有機基である。該フッ素原子を含む1価有機基としては、RF−B−(RFはポリフルオロアルキル基(以下、RF基と記す。)であり、Bはフッ素原子を含まない2価有機基または共有結合を示す。)で表される基が好ましい。RF基とは、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基をいう。RF基の炭素原子数は1〜20が好ましく、4〜16がより好ましく、6〜12が最も好ましい。炭素原子数が該範囲であると、形成された薄膜が撥水性に優れる。
【0016】
RF基は、直鎖構造、分岐構造、環構造のいずれであってもよく、直鎖構造が好ましい。分岐構造である場合には、分岐部分の炭素原子数は1〜4が好ましい。また、RF基は不飽和結合を有してもよい。RF基は、フッ素原子以外の他のハロゲン原子を有していてもよく、他のハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また、RF基中の炭素−炭素結合間には、エーテル性の酸素原子またはチオエーテル性の硫黄原子が挿入されていてもよい。
【0017】
RF基中のフッ素原子の数は、(RF基中のフッ素原子数/RF基と同一炭素原子数の対応するアルキル基中の水素原子数)×100(%)で表現して、60%以上が好ましく、特に80%以上が好ましい。
RF基の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
【0018】
CF3−、F(CF2)2−、F(CF2)3−、F(CF2)4−、F(CF2)5−、F(CF2)6−、F(CF2)7−、F(CF2)8−、F(CF2)9−、F(CF2)10−、F(CF2)11−、F(CF2)12−、F(CF2)13−、F(CF2)14−、F(CF2)15−、F(CF2)16−、(CF3)2CF−、(CF3)2CFCF2−、(CF3)2CFCF2CF2−、(CF3)2CFCF2CF2CF2CF2−、(CF3)2CFCF(CF3)−、(CF3)2CFCF(CF3)CF2−、(CF3)2CFCF2CF(CF3)−、(CF3)2CFCF2CF(CF3)CF2CF2−、CF3CF2CF(CF3)−、CF3CF2CF(CF3)CF2CF2−、CF3CF2CF(CF2CF3)−、CF3CF2CF(CF2CF3)CF2CF2−、(CF3)3C−、(CF3)3CCF2−、(CF3)3C(CF2CF3)−、(CF2CF3)C(CF3)2−、(CF2CF3)2CCF3−。
CF2=CF−、CF3CF=CF−、CF3CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2CF=CF−、CF3C(CF3)=CF−、CF3C(CF3)=C(CF3)−。
HCF2−、HCF2CF2−、HCF2CF2CF2−、HCF2CF2CF2CF2−、HCF2CF2CF2CF2CF2CF2−、HCF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2−。
ClCF2−、ClCF2CF2−、ClCF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2−。
CF3OCF2−、CF3CF2OCF2−、CF3OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2−。CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2OCF(CF3)−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CF2−。
CF3CF2OCF=CF−、CF3CF2OCF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF=CF−。
【0019】
【化2】
【0020】
前記Bは2価有機基または共有結合である。2価有機基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を含んでいてもよく、飽和の基でもよく、不飽和の基でもよく、直鎖構造でもよく、分岐構造でもよく、環構造でもよい。ベンゼン環と結合する部位は共鳴構造をとることができ、共鳴部位としては酸素原子、窒素原子、二重結合、カルボニル基が好ましい。
RF−B−の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
【0021】
RF−(CH2)qO−(qは1〜10の整数)、RF−NH−、RF−CH2NH−、RF−CH2CH2NH−、RF−CH2CH2CH2NH−、RF−(CH2)4NH−、RF−N(CH3)−、RF−CH2N(CH3)−、RF−CH2CH2N(CH3)−、RF−CH2CH2CH2N(CH3)−、RF−CH2CH2CH2CH2N(CH3)−。
RF−OC(=O)−、RF−CH2OC(=O)−、RF−CH2CH2OC(=O)−、RF−CH2CH2CH2OC(=O)−、RF−CH2CH2CH2CH2OC(=O)−、RF−C(=O)−、RF−CH2C(=O)−、RF−CH2CH2C(=O)−、RF−CH2CH2CH2C(=O)−、RF−CH2CH2CH2CH2C(=O)−、RF−C(=O)O−、RF−CH2C(=O)O−、RF−CH2CH2C(=O)O−、RF−CH2CH2CH2C(=O)O−、RF−CH2CH2CH2CH2C(=O)O−。
RF−C(=O)NH−、RF−CH2C(=O)NH−、RF−CH2CH2C(=O)NH−、RF−CH2CH2CH2C(=O)NH−、RF−CH2CH2CH2CH2C(=O)NH−、RF−CH=CH−、RF−CH2CH=CH−、RF−CH2CH2CH=CH−。
これらのうち、RF−(CH2)qO−(qは1〜10の整数)が好ましく、RF−(CH2)3O−がより好ましく、C8F17(CH2)3O−が最も好ましい。
【0022】
本発明の化合物1におけるR1、R2、R3、R4において、フッ素原子を有する1価有機基以外の1価有機基としては、酸素原子を有する1価有機基が好ましく、アルコキシ基がより好ましく、窒素原子、硫黄原子、リン原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を有していてもよい。また、1価有機基としては、飽和の基でも、不飽和の基でもよく、直鎖構造、分岐構造、環構造のいずれでもよい。該1価有機基としては、ベンゼン環の光吸収特性に優れることから、ヘテロ原子またはベンゼン環と共鳴構造をとることができる基が好ましい。R1、R2、R3、R4における1価有機基の数は、1以上が好ましい。
【0023】
上記1価有機基の具体例としては特に限定されず、−OCH3、−OCH2CH3、−OCH2CH2CH3、−OCH(CH3)2、−NH(CH3)、−N(CH3)2、−CN、−C(=O)OH、−C(=O)OCH3、−OC(=O)CH3、−NHC(=O)CH3、−N(CH3)C(=O)CH3等が好ましく挙げられる。
R1、R2、R3、R4における水素原子の数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。
【0024】
本発明の化合物1において、R5は水素原子または1価有機基であり、水素原子が好ましい。1価有機基である場合は、低級アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。また、Aはヘテロ原子であり、酸素原子または窒素原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。Aが酸素原子であると、紫外線による分解後の薄膜が親水性に優れる。
【0025】
化合物1において、R6は加水分解性基を有する1価有機基であり、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を含んでいてもよく、飽和の基でも、不飽和の基でもよく、直鎖構造、分岐構造、環構造のいずれでもよい。
【0026】
R6としては、ケイ素原子を有する基が好ましく、−R7−Si(R8)3−mXmまたは−R7−SH(R7は2価有機基であり、R8は1価有機基である。Xは加水分解性基であり、mは1〜3の整数である。)で表される基がより好ましく、−R7−Si(R8)3−mXmが最も好ましい。R7としては炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、該アルキレン基の炭素−炭素結合間に−C(=O)−または−NH−が挿入されていてもよい。R8としては、低級アルキル基が好ましい。Xとしては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子(特に塩素原子)またはアルコキシ基がより好ましく、アルコキシ基が最も好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数1〜3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。mとしては、2または3が好ましく、3がより好ましい。mが多いほど密着性に優れる。
本発明の含フッ素化合物の具体例としては、以下の化合物が好ましく挙げられる。なお、以下において、メチル基をMe、エチル基をEtと表記する場合がある。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
【化6】
【0031】
本発明の化合物1は、フッ素原子を有する1価有機基を含み、それから形成された薄膜は撥水性に優れる。水との接触角は100度以上であることが好ましい。該化合物1は、紫外線により分解し、前記薄膜は紫外線照射後、水との接触角は80度以下となることが好ましい。これは、化合物1に紫外線を照射することにより、化合物1が−A−R6とそれ以外の部分とに分解し、−A−R6がヒドロキシル基、アミノ基に変化するためと考えられる。
【0032】
化合物1から形成された薄膜の水に対する接触角は、110度以上がより好ましい。また、紫外線により分解した後の薄膜の水に対する接触角は、70度以下がより好ましく、60度以下が最も好ましい。また、紫外線により分解する前後の薄膜の水に対する接触角の差は30度以上が好ましく、50度以上がより好ましい。
【0033】
本発明の撥水性組成物は化合物1と有機溶剤とを含む。該撥水性組成物は、化合物1の1種を含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。有機溶剤としては、特に限定されず、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類が好ましく、エチルアルコール、2−プロピルアルコール等の低級アルコール類またはパラフィン系炭化水素類がより好ましい。有機溶剤は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いて、極性、蒸発速度等を調節することも好ましい。
【0034】
撥水性組成物における有機溶剤の含有量は、化合物1の1質量部に対して0.01〜1000質量部が好ましく、0.1〜100質量部がより好ましい。上記範囲であると、均一な薄膜が形成され、優れた撥水性が発現する。
【0035】
撥水性組成物は、化合物1および有機溶剤以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては酸が好ましく、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、蟻酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸が好ましく挙げられる。酸を添加することにより、化合物1の加水分解性基がシラノール基(Si−OH)に変換し、基板上で脱水縮合反応してSi−O−Siが形成される。このとき、基板にSi−OH基が存在すると、これとも反応し、基板への密着性が向上する。
【0036】
撥水性組成物における酸の含有量は、化合物1の1質量部に対して0.0001〜0.1質量部が好ましく、0.001〜0.01がより好ましい。上記範囲であると、加水分解効果が充分に発現し、かつ該組成物が安定性に優れる。撥水性組成物は、作業性、形成する薄膜の厚さ等を考慮し、必要に応じてさらに有機溶剤で希釈して使用するのが好ましい。
【0037】
本発明の撥水性薄膜は、前記撥水性組成物を基板に塗布して形成されてなる。撥水性薄膜の厚さは、特に限定されないが、100nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、5nm以下が最も好ましい。撥水親水性薄膜の厚さは、SAMの厚さ(約1〜3nm)が好ましい。この範囲にあると、紫外線が効率よく化合物に照射されるため分解反応が効率よく進行する。
【0038】
撥水性組成物を塗布する方法としては、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の各種の公知の方法が挙げられる。撥水性組成物は、表面に塗布した後、大気中、窒素気流中等で乾燥する。該乾燥は室温で行うのが好ましく、加熱によって乾燥する場合には、基材の耐熱性を加味して加熱の温度、時間を設定する。
本発明の撥水性親水性パターンを有する薄膜は、前記撥水性薄膜に紫外線を照射し、照射された部分の化合物1を分解し、除去して形成されてなる。
【0039】
照射する紫外線の波長は、200nm以上が好ましく、250nm以上がより好ましく、300nm以上が最も好ましい。波長が200nm未満の紫外線は、基板を構成する材料自体を分解する場合がある。該紫外線の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ナトリウムランプ、窒素等の気体レーザー、有機色素溶液の液体レーザー、無機単結晶に希土類イオンを含有させた固体レーザー等が好ましく挙げられる。また、単色光が得られるレーザー以外の光源としては、広帯域の線スペクトル、連続スペクトルをバンドパスフィルター、カットオフフィルター等の光学フィルターを使用して取出した必要な波長の紫外線を使用してもよい。一度に大きな面積を照射することができることから、光源としては高圧水銀ランプまたは超高圧水銀ランプが好ましい。
【0040】
この照射方法としては、所定のパターンを有するフォトマスクを介して紫外線を照射する方法、レーザー光を用いる方法等が挙げられる。一度に大きな面積を照射できることから、フォトマスクを介して紫外線を照射する方法が好ましい。
【0041】
本発明の撥水性親水性パターンを有する薄膜において、紫外線を照射した部分は親水性を示し、紫外線が照射されなかった部分は撥水性を示す。そのため、本発明においては、1度の撥水性組成物の塗布による薄膜形成と、その後の1度の紫外線の照射によって、親水性と撥水性のパターンを有する薄膜を容易に得ることができる。
【0042】
本発明に用いる基板は特に限定されず、ガラス、石英ガラス、シリコンウェハ、プラスチック板、金属板等が好ましく挙げられる。また、これらの基板上に、金属薄膜が形成された基板を用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例においては、ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R−225と記す。)としては、旭硝子社製商品名AK−225を用いた。白金触媒としてはPt−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の3質量%キシレン溶液を用いた。また、NMRスペクトルデータは、みかけの化学シフト範囲として示し、積分値は比率で表記した。水に対する接触角は、静滴法を用い基板に水滴を3ケ所乗せ、測定された接触角3点の平均値として求めた。
【0044】
[合成例1]
(合成例1−1)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた500mLのガラス製反応容器に、C8F17CH2CH2CH2Br(ガスクロマトグラフィー(以下、GCと記す。)による純度は84.3モル%。)の91g、バニリンの22.7g、炭酸カリウムの39.0g、臭化テトラブチルアンモニウムの6.87gおよびアセトニトリルの170gを入れ、82℃に昇温して1.5時間還流させて反応を行い、反応粗液を得た。得られた反応粗液にR−225の450gを加え、次いで蒸留水の300gを用いて2回洗浄した。溶媒のR−225を留去し、下記化合物aの109gを得た。GCによる純度は79.5モル%であり、収率は99.5%であった。19F−NMRおよび1H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0045】
【化7】
【0046】
19F−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):−81.3(3F),−114.7(2F),−122.4(6F),−123.2(2F),−123.9(2F),−126.6(2F)。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.13−2.42(4H)、3.90(3H)、4.16(2H)、6.93−7.44(3H)、9.84(1H)。
【0047】
(合成例1−2)
温度計、滴下ロート、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた1Lのガラス製反応容器に、合成例1−1で得られた化合物aの109gおよび酢酸の330gを入れ、発煙硝酸の128gと酢酸の105gを混合した溶液を室温にて30分間かけて滴下した。その後、さらに3時間反応させ反応粗液を得た。得られた反応粗液にR−225の300gを加え、次いで蒸留水の500g、8質量%重曹水溶液の500g、蒸留水の500gを用いて洗浄した。溶媒のR−225を留去し、下記化合物bの111.8gを得た。GCによる純度は73.6モル%であり、収率は82.7%であった。19F−NMRおよび1H−NMRの測定結果を示す。
【0048】
【化8】
【0049】
19F−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):−81.2(3F),−114.7(2F),−122.4(6F),−123.2(2F),−123.8(2F),−126.6(2F)。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.17−2.43(4H)、3.99(3H)、4.21(2H)、7.40(1H)、7.58(1H)、10.44(1H)。
【0050】
(合成例1−3)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた300mLのガラス製反応容器に、合成例1−2で得られた化合物bの26.8g、ヒドラジン一水和物の3.3gおよびエタノールの150gを入れ、78℃に昇温して3時間還流させて反応を行った。室温に冷却して析出した粗生成物をろ過により採取し、エタノールの50gで5回洗浄した。減圧乾燥して下記化合物cの17.1gを得た。NMRによる純度は100モル%であり、収率は85.1%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0051】
【化9】
【0052】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.12−2.39(4H),3.95(3H),4.13(2H),5.81(2H),7.48(1H),7.55(1H),8.41(1H)。
【0053】
(合成例1−4)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた200mLのガラス製反応容器に、合成例1−3で得られた化合物cの16.8g、酸化マンガン(IV)の10.9gおよびクロロホルムの100gを入れ、室温で3時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液をろ過し、ろ液を8質量%の重曹水溶液の100gで洗浄し、硫酸マグネシウムの10gを用いて乾燥し反応液を得た。3−ブテン−1−オールの1.8g、53%質量テトラフルオロほう酸水溶液の0.36gおよびクロロホルムの100gを入れたガラス製容器に、得られた反応液の全量を冷水下に45分間かけて滴下した。さらに室温で3時間反応させた後、溶媒のクロロホルムを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製して、下記化合物dの3.04gを得た。収率は17.0%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0054】
【化10】
【0055】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.10−2.44(6H),3.62(2H),3.93(3H),4.13(2H),4.88(2H),5.04−5.18(2H),5.80−5.94(1H),7.25(1H),7.67(1H)。
【0056】
(合成例1−5)
PTFE製の内袋を備えた50mLのステンレス鋼製耐圧反応容器に、合成例1−4で得られた化合物dの4.60g、トリエトキシシランの2.76g、Pt触媒の29mgおよびトルエンの15gを入れ、100℃で1.5時間反応を行い、反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のトルエンを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物eの2.24gを得た。NMRによる純度は98モル%であり、収率は75.3%であった。1H−NMRの測定結果を示す。吸収スペクトルを図1に示す。
【0057】
【化11】
【0058】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.66(2H),1.20(9H),1.52−1.76(4H),2.11−2.42(4H),3.59(2H),3.78(6H),3.95(3H),4.14(2H),4.86(2H),97.30(1H),7.69(1H)。
【0059】
[合成例2]
(合成例2−1)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた500mLのガラス製反応容器に、水素化ほう素ナトリウムの1.13gおよび2−プロパノールの80gを入れ、合成例1−2で得られた化合物bの26.8gを2−プロパノールの200gに懸濁した溶液を氷冷下に20分間かけて滴下した。その後、室温にて3時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。水酸化ナトリウムの8.0gを蒸留水の300gに溶解した水溶液に、得られた反応粗液の全量を注ぎ込んだ。減圧下に溶媒の2−プロパノールを除去して、得られた生成物をR−225の300gに溶解させ、蒸留水の200gで3回洗浄した。溶媒のR−225を留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を再結晶により精製し、下記化合物fの14.7gを得た。NMRによる純度は100モル%であり、収率は74.5%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0060】
【化12】
【0061】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.12−2.40(4H),2.56(1H),3.97(3H),4.14(2H),4.94(2H),7.17(1H),7.69(1H)。
【0062】
(合成例2−2)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた100mLのガラス製反応容器に、合成例2−1で得られた化合物fの6.92g、トリエチルアミンの1.27gおよびクロロホルムの50gを入れ、4−ペンテン酸塩化物の1.37gをクロロホルム20gに溶解した溶液を、冷水下に10分間かけて滴下した。その後、室温にて5時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液の全量をR−225の100gに溶解させ、蒸留水の50g、8質量%重曹水溶液の50g、蒸留水の50gの順に洗浄した。溶媒のR−225を留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を再結晶により精製し、下記化合物gの4.79gを得た。NMRによる純度は99.5モル%であり、収率は61.5%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0063】
【化13】
【0064】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.11−2.54(8H),3.94(3H),4.14(2H),4.98−4.90(2H),95.50(2H),5.70−5.89(1H),6.98(1H),7.70(1H)。
【0065】
(合成例2−3)
PTFE製の内袋を備えた50mLのステンレス鋼製耐圧反応容器に、合成例2−2で得られた化合物gの4.61g、トリエトキシシランの5.18g、Pt触媒の20mgおよびトルエンの10gを入れ、100℃で1時間反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のトルエンを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物hの2.86gを得た。NMRによる純度は99モル%であり、収率は50.1%であった。1H−NMRの測定結果を示す。吸収スペクトルを図2に示す。
【0066】
【化14】
【0067】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.61(2H),1.16(9H),1.39−1.75(4H),2.11−2.43(6H),3.79(6H),3.95(3H),4.15(2H),5.48(2H),6.98(1H),7.69(1H)。
【0068】
[合成例3]
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた50mLのガラス製反応容器に、合成例2−1で得られた化合物fの6.00g、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランの2.25g、トリエチルアミンの46mgおよびアセトニトリルの25gを入れ、80℃に昇温して8時間反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のアセトニトリルを留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物iの3.30gを得た。NMRによる純度は98モル%であり、収率は40.0%であった。1H−NMRの測定結果を示す。吸収スペクトルを図3に示す。
【0069】
【化15】
【0070】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.62(2H),1.20(9H),1.64(2H),2.13−2.39(4H),3.20(2H),3.80(6H),3.93(3H),4.13(2H),5.12(2H),5.48(2H),6.99(1H),7.68(1H)。
【0071】
[合成例4]
(合成例4−1)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた100mLのガラス製反応容器に、4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルアルコールの6.02g、トリエチルアミンの5.00gおよびアセトンの30gを入れ、4−ペンテン酸塩化物の5.23gをアセトン10gに溶解した溶液を、冷水下に15分間かけて滴下した。その後、室温にて2時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液の全量をR−225の50gに溶解させ、蒸留水の30g、8質量%重曹水溶液の30g、蒸留水の30gの順に洗浄した。溶媒のR−225を留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を再結晶により精製し、下記化合物jの6.76gを得た。NMRによる純度は99.5モル%であり、収率は81.5%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0072】
【化16】
【0073】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.37−2.54(4H),3.94(6H),4.98−5.09(2H),5.50(2H),5.75−5.89(1H),6.97(1H),7.70(1H)。
【0074】
(合成例4−2)
PTFE製の内袋を備えた50mLのステンレス鋼製耐圧反応容器に、合成例4−1で得られた化合物jの6.46g、トリエトキシシランの10.51g、Pt触媒の60mgおよびトルエンの15gを入れ、100℃で1時間反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のトルエンを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物kの6.60gを得た。NMRによる純度は99モル%であり、収率は65.9%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0075】
【化17】
【0076】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.65(2H),1.21(9H),1.43−1.78(4H),2.43(2H),3.81(6H),3.97(6H),5.51(2H),7.00(1H),7.72(1H)。
【0077】
[ガラス基板の前処理]
10cm四方の厚さ2mmソーダライム系ガラス基板の表面を、酸化セリウム系微粒子を含む研磨剤で研磨洗浄し、純水ですすいで風乾し洗浄済みガラスを得た。以下の例においては、ガラス基板として該洗浄済みガラスを用いた。
【0078】
[Siウェハ基板の前処理]
5cm四方の酸化膜付Siウェハ基板を、過酸化水素水およびアンモニア水溶液の混合液に浸漬し、5分間超音波を照射した後、60℃で30分間静置した。得られた基板を純粋ですすいで風乾し洗浄済みSiウェハを得た。以下の例においては、Siウェハ基板として該洗浄済みSiウェハを用いた。
【0079】
[例1]
300mLのガラス製容器に、合成例1で得られた化合物eの1質量部、2−プロパノールの100質量部および0.1N塩酸の0.5質量部を入れて、室温で12時間加水分解反応を行い撥水性組成物eを得た。得られた撥水性組成物eの1mLをガラス基板に滴下し、3000回転で20秒間スピンコートした後、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−1を作製した。
【0080】
得られたサンプルe−1の水に対する接触角は108.8度であり、未処理のガラス基板の水に対する接触角は10度以下であった。高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−2を作製した。照射量が22mJ/cm2の場合のサンプルe−21の水に対する接触角は102.2度であった。また、光の照射と洗浄を12回繰り返して合計の照射量が629mJ/cm2の場合のサンプルe−22の水に対する接触角は79.8度であった。さらに、照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルe−23の水に対する接触角は90.9度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返して合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルe−24の水に対する接触角は62.3度であった。
比較例として、未処理のガラス基板についても、紫外線の照射と洗浄を12回繰り返したが、水に対する接触角は10度以下であった。
【0081】
[例2]
合成例2で得られた化合物hを用いて、例1と同様にしてサンプルh−1を作製した。得られたサンプルh−1の水に対する接触角は104.9度であった。例1と同様にして紫外線を照射しサンプルh−2を作製した。照射量が22mJ/cm2の場合のサンプルh−21の水に対する接触角は103.1度であった。また、光の照射と洗浄を12回繰り返して合計の照射量が629mJ/cm2の場合のサンプルh−22の水に対する接触角は76.9度であった。さらに、照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルh−23の水に対する接触角は86.2度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返して合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルh−24の水に対する接触角は52.6度であった。
【0082】
[例3]
合成例3で得られた化合物iを用い、例1と同様にしてサンプルi−1を作製した。得られたサンプルi−1の水に対する接触角は105.8度であった。例1と同様にして紫外線を照射しサンプルI−2を作製した。照射量が22mJ/cm2の場合のサンプルi−21の水に対する接触角は102.6度であった。また、紫外線の照射と洗浄を12回繰り返して合計の照射量が629mJ/cm2の場合のサンプルi−22の水に対する接触角は76.0度であった。さらに、照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルi−23の水に対する接触角は93.9度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返して合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルi−24の水に対する接触角は65.8度であった。
【0083】
[例4]
例1において化合物eの代わりにC8F17CH2CH2Si(OCH3)3を用いた以外は、例1と同様にしてサンプルu−1を作製した。得られたサンプルu−1の水に対する接触角は105.7度であった。例1と同様にして紫外光を照射しサンプルu−2を作製した。照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルu−21の水に対する接触角は106.6度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返て合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルu−22の水に対する接触角は105.7度であった。紫外線分解性の基を持たない化合物の場合は分解しない。
【0084】
[例5]
300mLのガラス製容器に、合成例1で得られた化合物eの1質量部、トルエンの100質量部およびSiウェハ基板を入れ、1時間加熱還流した後、Siウェハ基板を取り出し、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−3を作製した。
得られたサンプルe−3の水に対する接触角は102.5度であり、未処理のSiウェハ基板の水に対する接触角は10度以下であった。超高圧水銀ランプを用いて、300nm以下の波長をカットするフィルタを通して紫外線を照射し、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルe−41の水に対する接触角は87.6度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルe−42の水に対する接触角は50.6度であった。
比較例として、未処理のSiウェハ基板についても、紫外線の照射と洗浄を15回繰り返したが、水に対する接触角は10度以下であった。
【0085】
[例6]
合成例2で得られた化合物hを用いて、例5と同様にしてサンプルh−3を作製した。
得られたサンプルh−3の水に対する接触角は106.4度であった。例5と同様にして紫外線を照射しサンプルh−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルh−41の水に対する接触角は86.7度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルh−42の水に対する接触角は51.8度であった。
【0086】
[例7]
合成例3で得られた化合物iを用いて、例5と同様にしてサンプルi−3を作製した。
得られたサンプルi−3の水に対する接触角は106.3度であった。例5と同様にして紫外線を照射しサンプルi−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルi−41の水に対する接触角は82.8度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルh−42の水に対する接触角は53.7度であった。
【0087】
[例8]
例5において化合物eの代わりにC8F17CH2CH2Si(OMe)3を用いる以外は、例5と同様にしてサンプルu−3を作製した。
得られたサンプルu−3の水に対する接触角は103.4度であった。例5と同様にして紫外線を照射しサンプルu−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルu−41の水に対する接触角は103.4度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルu−42の水に対する接触角は103.2度であった。紫外線分解性の基を持たない化合物の場合は分解しない。
【0088】
[例9]
例6で作製したサンプルh−3(接触角は106.4度)に、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、R−225で洗浄し風乾してサンプルh−5を作製した。照射量が600mJ/cm2の場合のサンプルh−51の水に対する接触角は92.4度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を10回繰り返して合計の照射量が6000mJ/cm2の場合のサンプルh−52の水に対する接触角は62.0度であった。
【0089】
[例10]
例5において化合物eの代わりに合成例4で得られた化合物kを用いる以外は、例5と同様にしてサンプルk−1を作製した。
得られたサンプルk−1の水に対する接触角は60.2度であった。例9と同様にして紫外線を照射しサンプルk−2を作製した。照射量が600mJ/cm2の場合のサンプルk−21の水に対する接触角は53.6度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を10回繰り返して合計の照射量が6000mJ/cm2の場合のサンプルe−22の水に対する接触角は48.8度であった。フッ素原子を持たない化合物の場合は撥水性が発揮されず、紫外線の照射により分解は進行するが、接触角の変化が小さい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の含フッ素化合物を用いて基板上に薄膜を形成し、該薄膜に所定のパターンを有するフォトマスクを介して紫外線を照射することにより、撥水性と親水性のパターンを有する薄膜が形成された基板が得られる。該撥水性親水性パターンを有する薄膜は、たとえば、インクジェットプリンティングにより機能性材料を親水性領域に噴射することにより、鮮明な機能性材料パターンを容易に形成できる。また、撥水性親水性パターンを有する薄膜に真空蒸着等の手法により親水性領域のみに機能性材料膜を形成させることにより、機能性材料パターンを容易に形成できる。このような、撥水性親水性パターンを有する薄膜は、親水性領域に機能性インクを含ませ、別の基材に転写することにより、マイクロコンタクトプリンティング用のスタンプとしての用途を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線分解性の含フッ素化合物、それを含む撥水性組成物、該組成物から形成された撥水性薄膜、および該薄膜から形成された撥水性親水性パターンを有する薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子、集積回路、有機ELディスプレイ用デバイス等の微細デバイスの製造方法としては、真空蒸着、スパッタリング等によって基板上に機能性材料の薄膜を形成させ、該薄膜をフォトリソグラフィによってパターン化する手法が用いられる。フォトリソグラフィは、一般に以下の(1)〜(3)の工程からなる。
【0003】
(1)パターンニングを行う材料の薄膜を基板上に形成する。(2)薄膜上にフォトレジスト膜を形成し、所定のパターンを有するフォトマスクを介して露光し、アルカリ現像液により現像して、フォトレジストパターンを形成する。(3)フォトレジストパターンをマスクとしてエッチングを行い、不要な部分を除去して所望のパターン形状を有する薄膜を得る。フォトリソグラフィーは工程が複雑で、クリーンルーム内で実施する必要があることから、エネルギー、材料等の利用効率が低く、設備が高価となる問題があった。
【0004】
低コスト、低エネルギーで実施できるパターン形成方法が提案されている。たとえば、機能性材料の溶液のインクジェットプリンティング(非特許文献1参照。)、マイクロコンタクトプリンティング(非特許文献2参照。)等の方法が利用されつつある。
【0005】
最近、基板上に、表面特性の異なるパターンを形成し、その表面特性の違いを利用して微細デバイスを作製する方法が提案されている。たとえば、基板上に親水性領域と撥水性領域とを形成し、機能性材料の水溶液を親水性領域に塗布する方法がある。この方法では、親水性領域では水溶液が濡れ広がり、撥水性領域にはにじみ出ないことから、機能性材料の薄膜パターンが形成できる。
【0006】
表面特性の異なる領域を形成する方法としては、ある特性1を有する基板上に別の特性2を有する薄膜を形成し、該薄膜の一部を除去することによって特性1の表面を露出させ、特性1と特性2とを有する表面を形成する方法、または、特性2を有する薄膜を除去した領域に特性3を有する薄膜を形成し、特性2と特性3とを有する表面を形成する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0007】
特性2を有する薄膜は薄い方が効率的に除去できるため、自己組織化単分子膜(以下、SAMと記す。SAM=Self−Assembled Monolayer)が好ましい。SAMのような薄膜のパターンニング方法としては、走査型プローブ顕微鏡を利用する方法、紫外線、X線等の高エネルギー線、電子線、高出力レーザー等を用いる方法等が知られている。なかでも紫外線を用いるパターニング方法は、フォトマスクを用いて大面積の基板を一度に処理することができるため、製造面において好ましい。しかし、これまで紫外線として主に200nm以下の高エネルギー線が用いられるため、例えば酸化珪素膜を設けたシリコンウェハ基板の場合には基板のSi−O結合まで分解してしまう問題があった(特許文献2参照。)。
【0008】
基板上に薄膜を形成でき、かつ300nm以上で効率的に分解する材料として、4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルエーテル系化合物が知られているが、撥水性が充分でなかった(非特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2002−19008号公報
【特許文献2】特開2000−282240号公報
【非特許文献1】A.V.Lemmo,J.T.Fisher、H.M.Geysen,D,J.Rose,Anal.Chem,1997,69,543−551.
【非特許文献2】Y.Xia,G.M.Whitesides,Angew.Chem.Int.Ed,1998,37,550−575.
【非特許文献3】尾崎淳、山口和夫、ポリマー材料フォーラム(2002),305−306.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術が有する前述の欠点を解消することにあり、300nm以上の紫外線で容易に分解し、基板のパターニングに有用な含フッ素化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下式1で表される含フッ素化合物(以下、化合物1とも記す。)を提供する。
【0011】
【化1】
【0012】
[式1中のR1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基または1価有機基であり、R1、R2、R3、R4のうちの少なくとも一つはフッ素原子を有する有機基である。R5は水素原子または1価有機基であり、R6は加水分解性基を有する1価有機基であり、Aはヘテロ原子である。]
また、本発明は、上記含フッ素化合物と有機溶剤を含む撥水性組成物、該撥水性組成物を用いて形成された撥水性薄膜、該撥水性薄膜に、紫外線を照射し、照射された部分の含フッ素化合物を分解し、除去して形成されてなる撥水性親水性パターンを有する薄膜を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素化合物は、比較的低エネルギーの紫外線によって容易に分解する。該含フッ素化合物を含む組成物から形成された薄膜は、撥水性に優れる。一方、紫外線の照射により分解することにより、該薄膜に親水性が付与される。この特性を用いて、基板上に容易に撥水性親水性パターンを有する薄膜を形成できる。したがって、少ない工程数で、安価な装置を用いて、撥水性親水性パターンを有する薄膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】合成例1の化合物eの紫外可視光吸収スペクトル。
【図2】合成例2の化合物hの紫外可視光吸収スペクトル。
【図3】合成例3の化合物iの紫外可視光吸収スペクトル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の化合物1において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価有機基であり、そのうちの少なくとも一つはフッ素原子を含む1価有機基である。該フッ素原子を含む1価有機基としては、RF−B−(RFはポリフルオロアルキル基(以下、RF基と記す。)であり、Bはフッ素原子を含まない2価有機基または共有結合を示す。)で表される基が好ましい。RF基とは、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基をいう。RF基の炭素原子数は1〜20が好ましく、4〜16がより好ましく、6〜12が最も好ましい。炭素原子数が該範囲であると、形成された薄膜が撥水性に優れる。
【0016】
RF基は、直鎖構造、分岐構造、環構造のいずれであってもよく、直鎖構造が好ましい。分岐構造である場合には、分岐部分の炭素原子数は1〜4が好ましい。また、RF基は不飽和結合を有してもよい。RF基は、フッ素原子以外の他のハロゲン原子を有していてもよく、他のハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また、RF基中の炭素−炭素結合間には、エーテル性の酸素原子またはチオエーテル性の硫黄原子が挿入されていてもよい。
【0017】
RF基中のフッ素原子の数は、(RF基中のフッ素原子数/RF基と同一炭素原子数の対応するアルキル基中の水素原子数)×100(%)で表現して、60%以上が好ましく、特に80%以上が好ましい。
RF基の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
【0018】
CF3−、F(CF2)2−、F(CF2)3−、F(CF2)4−、F(CF2)5−、F(CF2)6−、F(CF2)7−、F(CF2)8−、F(CF2)9−、F(CF2)10−、F(CF2)11−、F(CF2)12−、F(CF2)13−、F(CF2)14−、F(CF2)15−、F(CF2)16−、(CF3)2CF−、(CF3)2CFCF2−、(CF3)2CFCF2CF2−、(CF3)2CFCF2CF2CF2CF2−、(CF3)2CFCF(CF3)−、(CF3)2CFCF(CF3)CF2−、(CF3)2CFCF2CF(CF3)−、(CF3)2CFCF2CF(CF3)CF2CF2−、CF3CF2CF(CF3)−、CF3CF2CF(CF3)CF2CF2−、CF3CF2CF(CF2CF3)−、CF3CF2CF(CF2CF3)CF2CF2−、(CF3)3C−、(CF3)3CCF2−、(CF3)3C(CF2CF3)−、(CF2CF3)C(CF3)2−、(CF2CF3)2CCF3−。
CF2=CF−、CF3CF=CF−、CF3CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2CF=CF−、CF3C(CF3)=CF−、CF3C(CF3)=C(CF3)−。
HCF2−、HCF2CF2−、HCF2CF2CF2−、HCF2CF2CF2CF2−、HCF2CF2CF2CF2CF2CF2−、HCF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2−。
ClCF2−、ClCF2CF2−、ClCF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2−、ClCF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2CF2−。
CF3OCF2−、CF3CF2OCF2−、CF3OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2−。CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2OCF(CF3)−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF2CF2−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CF2−。
CF3CF2OCF=CF−、CF3CF2OCF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2OCF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2CF2CF2CF2OCF2CF2OCF=CF−、CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF=CF−。
【0019】
【化2】
【0020】
前記Bは2価有機基または共有結合である。2価有機基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を含んでいてもよく、飽和の基でもよく、不飽和の基でもよく、直鎖構造でもよく、分岐構造でもよく、環構造でもよい。ベンゼン環と結合する部位は共鳴構造をとることができ、共鳴部位としては酸素原子、窒素原子、二重結合、カルボニル基が好ましい。
RF−B−の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されない。
【0021】
RF−(CH2)qO−(qは1〜10の整数)、RF−NH−、RF−CH2NH−、RF−CH2CH2NH−、RF−CH2CH2CH2NH−、RF−(CH2)4NH−、RF−N(CH3)−、RF−CH2N(CH3)−、RF−CH2CH2N(CH3)−、RF−CH2CH2CH2N(CH3)−、RF−CH2CH2CH2CH2N(CH3)−。
RF−OC(=O)−、RF−CH2OC(=O)−、RF−CH2CH2OC(=O)−、RF−CH2CH2CH2OC(=O)−、RF−CH2CH2CH2CH2OC(=O)−、RF−C(=O)−、RF−CH2C(=O)−、RF−CH2CH2C(=O)−、RF−CH2CH2CH2C(=O)−、RF−CH2CH2CH2CH2C(=O)−、RF−C(=O)O−、RF−CH2C(=O)O−、RF−CH2CH2C(=O)O−、RF−CH2CH2CH2C(=O)O−、RF−CH2CH2CH2CH2C(=O)O−。
RF−C(=O)NH−、RF−CH2C(=O)NH−、RF−CH2CH2C(=O)NH−、RF−CH2CH2CH2C(=O)NH−、RF−CH2CH2CH2CH2C(=O)NH−、RF−CH=CH−、RF−CH2CH=CH−、RF−CH2CH2CH=CH−。
これらのうち、RF−(CH2)qO−(qは1〜10の整数)が好ましく、RF−(CH2)3O−がより好ましく、C8F17(CH2)3O−が最も好ましい。
【0022】
本発明の化合物1におけるR1、R2、R3、R4において、フッ素原子を有する1価有機基以外の1価有機基としては、酸素原子を有する1価有機基が好ましく、アルコキシ基がより好ましく、窒素原子、硫黄原子、リン原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を有していてもよい。また、1価有機基としては、飽和の基でも、不飽和の基でもよく、直鎖構造、分岐構造、環構造のいずれでもよい。該1価有機基としては、ベンゼン環の光吸収特性に優れることから、ヘテロ原子またはベンゼン環と共鳴構造をとることができる基が好ましい。R1、R2、R3、R4における1価有機基の数は、1以上が好ましい。
【0023】
上記1価有機基の具体例としては特に限定されず、−OCH3、−OCH2CH3、−OCH2CH2CH3、−OCH(CH3)2、−NH(CH3)、−N(CH3)2、−CN、−C(=O)OH、−C(=O)OCH3、−OC(=O)CH3、−NHC(=O)CH3、−N(CH3)C(=O)CH3等が好ましく挙げられる。
R1、R2、R3、R4における水素原子の数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。
【0024】
本発明の化合物1において、R5は水素原子または1価有機基であり、水素原子が好ましい。1価有機基である場合は、低級アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。また、Aはヘテロ原子であり、酸素原子または窒素原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。Aが酸素原子であると、紫外線による分解後の薄膜が親水性に優れる。
【0025】
化合物1において、R6は加水分解性基を有する1価有機基であり、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を含んでいてもよく、飽和の基でも、不飽和の基でもよく、直鎖構造、分岐構造、環構造のいずれでもよい。
【0026】
R6としては、ケイ素原子を有する基が好ましく、−R7−Si(R8)3−mXmまたは−R7−SH(R7は2価有機基であり、R8は1価有機基である。Xは加水分解性基であり、mは1〜3の整数である。)で表される基がより好ましく、−R7−Si(R8)3−mXmが最も好ましい。R7としては炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、該アルキレン基の炭素−炭素結合間に−C(=O)−または−NH−が挿入されていてもよい。R8としては、低級アルキル基が好ましい。Xとしては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子(特に塩素原子)またはアルコキシ基がより好ましく、アルコキシ基が最も好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数1〜3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。mとしては、2または3が好ましく、3がより好ましい。mが多いほど密着性に優れる。
本発明の含フッ素化合物の具体例としては、以下の化合物が好ましく挙げられる。なお、以下において、メチル基をMe、エチル基をEtと表記する場合がある。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
【化6】
【0031】
本発明の化合物1は、フッ素原子を有する1価有機基を含み、それから形成された薄膜は撥水性に優れる。水との接触角は100度以上であることが好ましい。該化合物1は、紫外線により分解し、前記薄膜は紫外線照射後、水との接触角は80度以下となることが好ましい。これは、化合物1に紫外線を照射することにより、化合物1が−A−R6とそれ以外の部分とに分解し、−A−R6がヒドロキシル基、アミノ基に変化するためと考えられる。
【0032】
化合物1から形成された薄膜の水に対する接触角は、110度以上がより好ましい。また、紫外線により分解した後の薄膜の水に対する接触角は、70度以下がより好ましく、60度以下が最も好ましい。また、紫外線により分解する前後の薄膜の水に対する接触角の差は30度以上が好ましく、50度以上がより好ましい。
【0033】
本発明の撥水性組成物は化合物1と有機溶剤とを含む。該撥水性組成物は、化合物1の1種を含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。有機溶剤としては、特に限定されず、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類が好ましく、エチルアルコール、2−プロピルアルコール等の低級アルコール類またはパラフィン系炭化水素類がより好ましい。有機溶剤は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いて、極性、蒸発速度等を調節することも好ましい。
【0034】
撥水性組成物における有機溶剤の含有量は、化合物1の1質量部に対して0.01〜1000質量部が好ましく、0.1〜100質量部がより好ましい。上記範囲であると、均一な薄膜が形成され、優れた撥水性が発現する。
【0035】
撥水性組成物は、化合物1および有機溶剤以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては酸が好ましく、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、蟻酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸が好ましく挙げられる。酸を添加することにより、化合物1の加水分解性基がシラノール基(Si−OH)に変換し、基板上で脱水縮合反応してSi−O−Siが形成される。このとき、基板にSi−OH基が存在すると、これとも反応し、基板への密着性が向上する。
【0036】
撥水性組成物における酸の含有量は、化合物1の1質量部に対して0.0001〜0.1質量部が好ましく、0.001〜0.01がより好ましい。上記範囲であると、加水分解効果が充分に発現し、かつ該組成物が安定性に優れる。撥水性組成物は、作業性、形成する薄膜の厚さ等を考慮し、必要に応じてさらに有機溶剤で希釈して使用するのが好ましい。
【0037】
本発明の撥水性薄膜は、前記撥水性組成物を基板に塗布して形成されてなる。撥水性薄膜の厚さは、特に限定されないが、100nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、5nm以下が最も好ましい。撥水親水性薄膜の厚さは、SAMの厚さ(約1〜3nm)が好ましい。この範囲にあると、紫外線が効率よく化合物に照射されるため分解反応が効率よく進行する。
【0038】
撥水性組成物を塗布する方法としては、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗り等の各種の公知の方法が挙げられる。撥水性組成物は、表面に塗布した後、大気中、窒素気流中等で乾燥する。該乾燥は室温で行うのが好ましく、加熱によって乾燥する場合には、基材の耐熱性を加味して加熱の温度、時間を設定する。
本発明の撥水性親水性パターンを有する薄膜は、前記撥水性薄膜に紫外線を照射し、照射された部分の化合物1を分解し、除去して形成されてなる。
【0039】
照射する紫外線の波長は、200nm以上が好ましく、250nm以上がより好ましく、300nm以上が最も好ましい。波長が200nm未満の紫外線は、基板を構成する材料自体を分解する場合がある。該紫外線の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ナトリウムランプ、窒素等の気体レーザー、有機色素溶液の液体レーザー、無機単結晶に希土類イオンを含有させた固体レーザー等が好ましく挙げられる。また、単色光が得られるレーザー以外の光源としては、広帯域の線スペクトル、連続スペクトルをバンドパスフィルター、カットオフフィルター等の光学フィルターを使用して取出した必要な波長の紫外線を使用してもよい。一度に大きな面積を照射することができることから、光源としては高圧水銀ランプまたは超高圧水銀ランプが好ましい。
【0040】
この照射方法としては、所定のパターンを有するフォトマスクを介して紫外線を照射する方法、レーザー光を用いる方法等が挙げられる。一度に大きな面積を照射できることから、フォトマスクを介して紫外線を照射する方法が好ましい。
【0041】
本発明の撥水性親水性パターンを有する薄膜において、紫外線を照射した部分は親水性を示し、紫外線が照射されなかった部分は撥水性を示す。そのため、本発明においては、1度の撥水性組成物の塗布による薄膜形成と、その後の1度の紫外線の照射によって、親水性と撥水性のパターンを有する薄膜を容易に得ることができる。
【0042】
本発明に用いる基板は特に限定されず、ガラス、石英ガラス、シリコンウェハ、プラスチック板、金属板等が好ましく挙げられる。また、これらの基板上に、金属薄膜が形成された基板を用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例においては、ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R−225と記す。)としては、旭硝子社製商品名AK−225を用いた。白金触媒としてはPt−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の3質量%キシレン溶液を用いた。また、NMRスペクトルデータは、みかけの化学シフト範囲として示し、積分値は比率で表記した。水に対する接触角は、静滴法を用い基板に水滴を3ケ所乗せ、測定された接触角3点の平均値として求めた。
【0044】
[合成例1]
(合成例1−1)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた500mLのガラス製反応容器に、C8F17CH2CH2CH2Br(ガスクロマトグラフィー(以下、GCと記す。)による純度は84.3モル%。)の91g、バニリンの22.7g、炭酸カリウムの39.0g、臭化テトラブチルアンモニウムの6.87gおよびアセトニトリルの170gを入れ、82℃に昇温して1.5時間還流させて反応を行い、反応粗液を得た。得られた反応粗液にR−225の450gを加え、次いで蒸留水の300gを用いて2回洗浄した。溶媒のR−225を留去し、下記化合物aの109gを得た。GCによる純度は79.5モル%であり、収率は99.5%であった。19F−NMRおよび1H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0045】
【化7】
【0046】
19F−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):−81.3(3F),−114.7(2F),−122.4(6F),−123.2(2F),−123.9(2F),−126.6(2F)。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.13−2.42(4H)、3.90(3H)、4.16(2H)、6.93−7.44(3H)、9.84(1H)。
【0047】
(合成例1−2)
温度計、滴下ロート、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた1Lのガラス製反応容器に、合成例1−1で得られた化合物aの109gおよび酢酸の330gを入れ、発煙硝酸の128gと酢酸の105gを混合した溶液を室温にて30分間かけて滴下した。その後、さらに3時間反応させ反応粗液を得た。得られた反応粗液にR−225の300gを加え、次いで蒸留水の500g、8質量%重曹水溶液の500g、蒸留水の500gを用いて洗浄した。溶媒のR−225を留去し、下記化合物bの111.8gを得た。GCによる純度は73.6モル%であり、収率は82.7%であった。19F−NMRおよび1H−NMRの測定結果を示す。
【0048】
【化8】
【0049】
19F−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):−81.2(3F),−114.7(2F),−122.4(6F),−123.2(2F),−123.8(2F),−126.6(2F)。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.17−2.43(4H)、3.99(3H)、4.21(2H)、7.40(1H)、7.58(1H)、10.44(1H)。
【0050】
(合成例1−3)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた300mLのガラス製反応容器に、合成例1−2で得られた化合物bの26.8g、ヒドラジン一水和物の3.3gおよびエタノールの150gを入れ、78℃に昇温して3時間還流させて反応を行った。室温に冷却して析出した粗生成物をろ過により採取し、エタノールの50gで5回洗浄した。減圧乾燥して下記化合物cの17.1gを得た。NMRによる純度は100モル%であり、収率は85.1%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0051】
【化9】
【0052】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.12−2.39(4H),3.95(3H),4.13(2H),5.81(2H),7.48(1H),7.55(1H),8.41(1H)。
【0053】
(合成例1−4)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた200mLのガラス製反応容器に、合成例1−3で得られた化合物cの16.8g、酸化マンガン(IV)の10.9gおよびクロロホルムの100gを入れ、室温で3時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液をろ過し、ろ液を8質量%の重曹水溶液の100gで洗浄し、硫酸マグネシウムの10gを用いて乾燥し反応液を得た。3−ブテン−1−オールの1.8g、53%質量テトラフルオロほう酸水溶液の0.36gおよびクロロホルムの100gを入れたガラス製容器に、得られた反応液の全量を冷水下に45分間かけて滴下した。さらに室温で3時間反応させた後、溶媒のクロロホルムを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製して、下記化合物dの3.04gを得た。収率は17.0%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0054】
【化10】
【0055】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.10−2.44(6H),3.62(2H),3.93(3H),4.13(2H),4.88(2H),5.04−5.18(2H),5.80−5.94(1H),7.25(1H),7.67(1H)。
【0056】
(合成例1−5)
PTFE製の内袋を備えた50mLのステンレス鋼製耐圧反応容器に、合成例1−4で得られた化合物dの4.60g、トリエトキシシランの2.76g、Pt触媒の29mgおよびトルエンの15gを入れ、100℃で1.5時間反応を行い、反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のトルエンを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物eの2.24gを得た。NMRによる純度は98モル%であり、収率は75.3%であった。1H−NMRの測定結果を示す。吸収スペクトルを図1に示す。
【0057】
【化11】
【0058】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.66(2H),1.20(9H),1.52−1.76(4H),2.11−2.42(4H),3.59(2H),3.78(6H),3.95(3H),4.14(2H),4.86(2H),97.30(1H),7.69(1H)。
【0059】
[合成例2]
(合成例2−1)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた500mLのガラス製反応容器に、水素化ほう素ナトリウムの1.13gおよび2−プロパノールの80gを入れ、合成例1−2で得られた化合物bの26.8gを2−プロパノールの200gに懸濁した溶液を氷冷下に20分間かけて滴下した。その後、室温にて3時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。水酸化ナトリウムの8.0gを蒸留水の300gに溶解した水溶液に、得られた反応粗液の全量を注ぎ込んだ。減圧下に溶媒の2−プロパノールを除去して、得られた生成物をR−225の300gに溶解させ、蒸留水の200gで3回洗浄した。溶媒のR−225を留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を再結晶により精製し、下記化合物fの14.7gを得た。NMRによる純度は100モル%であり、収率は74.5%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0060】
【化12】
【0061】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.12−2.40(4H),2.56(1H),3.97(3H),4.14(2H),4.94(2H),7.17(1H),7.69(1H)。
【0062】
(合成例2−2)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた100mLのガラス製反応容器に、合成例2−1で得られた化合物fの6.92g、トリエチルアミンの1.27gおよびクロロホルムの50gを入れ、4−ペンテン酸塩化物の1.37gをクロロホルム20gに溶解した溶液を、冷水下に10分間かけて滴下した。その後、室温にて5時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液の全量をR−225の100gに溶解させ、蒸留水の50g、8質量%重曹水溶液の50g、蒸留水の50gの順に洗浄した。溶媒のR−225を留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を再結晶により精製し、下記化合物gの4.79gを得た。NMRによる純度は99.5モル%であり、収率は61.5%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0063】
【化13】
【0064】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.11−2.54(8H),3.94(3H),4.14(2H),4.98−4.90(2H),95.50(2H),5.70−5.89(1H),6.98(1H),7.70(1H)。
【0065】
(合成例2−3)
PTFE製の内袋を備えた50mLのステンレス鋼製耐圧反応容器に、合成例2−2で得られた化合物gの4.61g、トリエトキシシランの5.18g、Pt触媒の20mgおよびトルエンの10gを入れ、100℃で1時間反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のトルエンを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物hの2.86gを得た。NMRによる純度は99モル%であり、収率は50.1%であった。1H−NMRの測定結果を示す。吸収スペクトルを図2に示す。
【0066】
【化14】
【0067】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.61(2H),1.16(9H),1.39−1.75(4H),2.11−2.43(6H),3.79(6H),3.95(3H),4.15(2H),5.48(2H),6.98(1H),7.69(1H)。
【0068】
[合成例3]
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた50mLのガラス製反応容器に、合成例2−1で得られた化合物fの6.00g、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランの2.25g、トリエチルアミンの46mgおよびアセトニトリルの25gを入れ、80℃に昇温して8時間反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のアセトニトリルを留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物iの3.30gを得た。NMRによる純度は98モル%であり、収率は40.0%であった。1H−NMRの測定結果を示す。吸収スペクトルを図3に示す。
【0069】
【化15】
【0070】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.62(2H),1.20(9H),1.64(2H),2.13−2.39(4H),3.20(2H),3.80(6H),3.93(3H),4.13(2H),5.12(2H),5.48(2H),6.99(1H),7.68(1H)。
【0071】
[合成例4]
(合成例4−1)
温度計、撹拌機、ジムロート冷却器の付いた100mLのガラス製反応容器に、4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルアルコールの6.02g、トリエチルアミンの5.00gおよびアセトンの30gを入れ、4−ペンテン酸塩化物の5.23gをアセトン10gに溶解した溶液を、冷水下に15分間かけて滴下した。その後、室温にて2時間撹拌して反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液の全量をR−225の50gに溶解させ、蒸留水の30g、8質量%重曹水溶液の30g、蒸留水の30gの順に洗浄した。溶媒のR−225を留去し、減圧乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物を再結晶により精製し、下記化合物jの6.76gを得た。NMRによる純度は99.5モル%であり、収率は81.5%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0072】
【化16】
【0073】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):2.37−2.54(4H),3.94(6H),4.98−5.09(2H),5.50(2H),5.75−5.89(1H),6.97(1H),7.70(1H)。
【0074】
(合成例4−2)
PTFE製の内袋を備えた50mLのステンレス鋼製耐圧反応容器に、合成例4−1で得られた化合物jの6.46g、トリエトキシシランの10.51g、Pt触媒の60mgおよびトルエンの15gを入れ、100℃で1時間反応を行い反応粗液を得た。得られた反応粗液から溶媒のトルエンを留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物kの6.60gを得た。NMRによる純度は99モル%であり、収率は65.9%であった。1H−NMRの測定結果を示す。
【0075】
【化17】
【0076】
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.65(2H),1.21(9H),1.43−1.78(4H),2.43(2H),3.81(6H),3.97(6H),5.51(2H),7.00(1H),7.72(1H)。
【0077】
[ガラス基板の前処理]
10cm四方の厚さ2mmソーダライム系ガラス基板の表面を、酸化セリウム系微粒子を含む研磨剤で研磨洗浄し、純水ですすいで風乾し洗浄済みガラスを得た。以下の例においては、ガラス基板として該洗浄済みガラスを用いた。
【0078】
[Siウェハ基板の前処理]
5cm四方の酸化膜付Siウェハ基板を、過酸化水素水およびアンモニア水溶液の混合液に浸漬し、5分間超音波を照射した後、60℃で30分間静置した。得られた基板を純粋ですすいで風乾し洗浄済みSiウェハを得た。以下の例においては、Siウェハ基板として該洗浄済みSiウェハを用いた。
【0079】
[例1]
300mLのガラス製容器に、合成例1で得られた化合物eの1質量部、2−プロパノールの100質量部および0.1N塩酸の0.5質量部を入れて、室温で12時間加水分解反応を行い撥水性組成物eを得た。得られた撥水性組成物eの1mLをガラス基板に滴下し、3000回転で20秒間スピンコートした後、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−1を作製した。
【0080】
得られたサンプルe−1の水に対する接触角は108.8度であり、未処理のガラス基板の水に対する接触角は10度以下であった。高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−2を作製した。照射量が22mJ/cm2の場合のサンプルe−21の水に対する接触角は102.2度であった。また、光の照射と洗浄を12回繰り返して合計の照射量が629mJ/cm2の場合のサンプルe−22の水に対する接触角は79.8度であった。さらに、照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルe−23の水に対する接触角は90.9度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返して合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルe−24の水に対する接触角は62.3度であった。
比較例として、未処理のガラス基板についても、紫外線の照射と洗浄を12回繰り返したが、水に対する接触角は10度以下であった。
【0081】
[例2]
合成例2で得られた化合物hを用いて、例1と同様にしてサンプルh−1を作製した。得られたサンプルh−1の水に対する接触角は104.9度であった。例1と同様にして紫外線を照射しサンプルh−2を作製した。照射量が22mJ/cm2の場合のサンプルh−21の水に対する接触角は103.1度であった。また、光の照射と洗浄を12回繰り返して合計の照射量が629mJ/cm2の場合のサンプルh−22の水に対する接触角は76.9度であった。さらに、照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルh−23の水に対する接触角は86.2度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返して合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルh−24の水に対する接触角は52.6度であった。
【0082】
[例3]
合成例3で得られた化合物iを用い、例1と同様にしてサンプルi−1を作製した。得られたサンプルi−1の水に対する接触角は105.8度であった。例1と同様にして紫外線を照射しサンプルI−2を作製した。照射量が22mJ/cm2の場合のサンプルi−21の水に対する接触角は102.6度であった。また、紫外線の照射と洗浄を12回繰り返して合計の照射量が629mJ/cm2の場合のサンプルi−22の水に対する接触角は76.0度であった。さらに、照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルi−23の水に対する接触角は93.9度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返して合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルi−24の水に対する接触角は65.8度であった。
【0083】
[例4]
例1において化合物eの代わりにC8F17CH2CH2Si(OCH3)3を用いた以外は、例1と同様にしてサンプルu−1を作製した。得られたサンプルu−1の水に対する接触角は105.7度であった。例1と同様にして紫外光を照射しサンプルu−2を作製した。照射量が650mJ/cm2の場合のサンプルu−21の水に対する接触角は106.6度であり、同じ照射量での光の照射と洗浄を5回繰り返て合計の照射量が3250mJ/cm2の場合のサンプルu−22の水に対する接触角は105.7度であった。紫外線分解性の基を持たない化合物の場合は分解しない。
【0084】
[例5]
300mLのガラス製容器に、合成例1で得られた化合物eの1質量部、トルエンの100質量部およびSiウェハ基板を入れ、1時間加熱還流した後、Siウェハ基板を取り出し、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−3を作製した。
得られたサンプルe−3の水に対する接触角は102.5度であり、未処理のSiウェハ基板の水に対する接触角は10度以下であった。超高圧水銀ランプを用いて、300nm以下の波長をカットするフィルタを通して紫外線を照射し、R−225で洗浄し風乾してサンプルe−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルe−41の水に対する接触角は87.6度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルe−42の水に対する接触角は50.6度であった。
比較例として、未処理のSiウェハ基板についても、紫外線の照射と洗浄を15回繰り返したが、水に対する接触角は10度以下であった。
【0085】
[例6]
合成例2で得られた化合物hを用いて、例5と同様にしてサンプルh−3を作製した。
得られたサンプルh−3の水に対する接触角は106.4度であった。例5と同様にして紫外線を照射しサンプルh−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルh−41の水に対する接触角は86.7度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルh−42の水に対する接触角は51.8度であった。
【0086】
[例7]
合成例3で得られた化合物iを用いて、例5と同様にしてサンプルi−3を作製した。
得られたサンプルi−3の水に対する接触角は106.3度であった。例5と同様にして紫外線を照射しサンプルi−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルi−41の水に対する接触角は82.8度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルh−42の水に対する接触角は53.7度であった。
【0087】
[例8]
例5において化合物eの代わりにC8F17CH2CH2Si(OMe)3を用いる以外は、例5と同様にしてサンプルu−3を作製した。
得られたサンプルu−3の水に対する接触角は103.4度であった。例5と同様にして紫外線を照射しサンプルu−4を作製した。照射量が60J/cm2の場合のサンプルu−41の水に対する接触角は103.4度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を15回繰り返して合計の照射量が900J/cm2の場合のサンプルu−42の水に対する接触角は103.2度であった。紫外線分解性の基を持たない化合物の場合は分解しない。
【0088】
[例9]
例6で作製したサンプルh−3(接触角は106.4度)に、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、R−225で洗浄し風乾してサンプルh−5を作製した。照射量が600mJ/cm2の場合のサンプルh−51の水に対する接触角は92.4度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を10回繰り返して合計の照射量が6000mJ/cm2の場合のサンプルh−52の水に対する接触角は62.0度であった。
【0089】
[例10]
例5において化合物eの代わりに合成例4で得られた化合物kを用いる以外は、例5と同様にしてサンプルk−1を作製した。
得られたサンプルk−1の水に対する接触角は60.2度であった。例9と同様にして紫外線を照射しサンプルk−2を作製した。照射量が600mJ/cm2の場合のサンプルk−21の水に対する接触角は53.6度であった。また、同じ照射量での光の照射と洗浄を10回繰り返して合計の照射量が6000mJ/cm2の場合のサンプルe−22の水に対する接触角は48.8度であった。フッ素原子を持たない化合物の場合は撥水性が発揮されず、紫外線の照射により分解は進行するが、接触角の変化が小さい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の含フッ素化合物を用いて基板上に薄膜を形成し、該薄膜に所定のパターンを有するフォトマスクを介して紫外線を照射することにより、撥水性と親水性のパターンを有する薄膜が形成された基板が得られる。該撥水性親水性パターンを有する薄膜は、たとえば、インクジェットプリンティングにより機能性材料を親水性領域に噴射することにより、鮮明な機能性材料パターンを容易に形成できる。また、撥水性親水性パターンを有する薄膜に真空蒸着等の手法により親水性領域のみに機能性材料膜を形成させることにより、機能性材料パターンを容易に形成できる。このような、撥水性親水性パターンを有する薄膜は、親水性領域に機能性インクを含ませ、別の基材に転写することにより、マイクロコンタクトプリンティング用のスタンプとしての用途を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式1で表される含フッ素化合物。
【化1】
[式1中のR1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基または1価有機基であり、R1、R2、R3、R4のうちの少なくとも一つはフッ素原子を有する1価有機基である。R5は水素原子または1価有機基であり、R6は加水分解性基を有する1価有機基であり、Aはヘテロ原子である。]
【請求項2】
前記R6が−R7−Si(R8)3−mXmで表される基である請求項1に記載の含フッ素化合物。
[式中のR7は2価有機基であり、R8は1価炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、mは1〜3の整数である。]
【請求項3】
前記Aが酸素原子である請求項1または2に記載の含フッ素化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素化合物と有機溶剤とを含む撥水性組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の撥水性組成物を基板上に塗布して形成されてなる撥水性薄膜。
【請求項6】
請求項5に記載の撥水性薄膜に、紫外線を照射し、照射された部分の含フッ素化合物を分解し、除去して形成されてなる撥水性親水性パターンを有する薄膜。
【請求項1】
下式1で表される含フッ素化合物。
【化1】
[式1中のR1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基または1価有機基であり、R1、R2、R3、R4のうちの少なくとも一つはフッ素原子を有する1価有機基である。R5は水素原子または1価有機基であり、R6は加水分解性基を有する1価有機基であり、Aはヘテロ原子である。]
【請求項2】
前記R6が−R7−Si(R8)3−mXmで表される基である請求項1に記載の含フッ素化合物。
[式中のR7は2価有機基であり、R8は1価炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、mは1〜3の整数である。]
【請求項3】
前記Aが酸素原子である請求項1または2に記載の含フッ素化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素化合物と有機溶剤とを含む撥水性組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の撥水性組成物を基板上に塗布して形成されてなる撥水性薄膜。
【請求項6】
請求項5に記載の撥水性薄膜に、紫外線を照射し、照射された部分の含フッ素化合物を分解し、除去して形成されてなる撥水性親水性パターンを有する薄膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【国際公開番号】WO2005/054256
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515974(P2005−515974)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017966
【国際出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/017966
【国際出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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