説明

含フッ素塗料組成物および二液塗料用キット

【課題】塗膜形成時の硬化乾燥時間が短く、得られる塗膜が十分な耐候性を有し、かつ透明性も確保可能な含フッ素塗料組成物およびこの含フッ素塗料組成物を調製するための二液塗料用キットを提供する。
【解決手段】(A)水酸基およびカルボキシル基を有し、酸価が3〜10mg/KOHである含フッ素共重合体と、(B)下記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物とを含有する含フッ素塗料組成物、および上記(A)成分を主剤とし(B)成分を硬化剤としてなる二液塗料用キット。
R−(NCO)n ・・・(1)
(式(1)中、Rは、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとポリオールとから誘導されるポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基を除く残基であり、nは3〜20である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素塗料組成物および二液塗料用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械的強度、耐候性、防水・防湿性、電気絶縁性等の特性が要求される分野においては含フッ素塗料組成物が広く用いられており、この含フッ素塗料組成物の主成分である各種硬化性官能基含有含フッ素共重合体に関する技術が開発されている(例えば、特許文献1)。また、このような含フッ素塗料組成物においては、多くの場合、上記硬化性官能基含有含フッ素共重合体と該硬化性官能基と反応性を有する官能基を有する硬化剤とが組合わされて配合されている。
【0003】
ここで、工業分野での塗装材料の硬化乾燥はコスト的に低温で短時間であることが望ましく、特に上記含フッ素塗料組成物に限定せずに、高い乾燥硬化性を有する硬化剤を用いて塗装材料の硬化乾燥時間を短縮する試みがなされている。
【0004】
このような硬化剤として、ポリイソシアネート組成物からなる硬化剤に関する技術が開発されており、例えば、特許文献2には、脂肪族イソシアネートと脂環族イソシアネートの両者または一方とポリオールから誘導されたポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートを含有するポリイソシアネートを特定の割合で含有するポリイソシアネート組成物が、低粘度でかつ優れた架橋性を発現できる旨の記載がある。また、特許文献3および特許文献4には、脂肪族ジイソシアネートと脂環族ジイソシアネートをポリオールで変成して得られた特定の粘度、分子量、ガラス転移点等の性質を有するポリイソシアネート組成物が、架橋性、乾燥性に優れた塗料用硬化剤となる旨の記載がされている。
【0005】
特許文献2〜4には、ポリイソシアネート組成物を塗料に硬化剤として配合する際に、これと組合わせる架橋性の化合物として、イソシアネート基と反応性を有する活性水素を分子内に2個以上有する化合物、例えば、ポリオール、ポリアミン、ポリチオールなどが挙げられているが、ポリオールとして特許文献1記載の含フッ素ポリオールが挙げられている。
【0006】
しかしながら、含フッ素ポリオールとこのようなポリイソシアネート組成物からなる硬化剤を組合わせて塗料組成物として用いる場合、硬化乾燥時間は短縮されるものの、用いる含フッ素ポリオールによっては塗料組成物に白濁が生じ、透明性が求められる用途には不適である、また白濁により耐候性が低下する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−034107号公報
【特許文献2】特開2007−145988号公報
【特許文献3】特開2008−156450号公報
【特許文献4】国際公開第2005/082966号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、塗膜形成時の硬化乾燥時間が短く、得られる塗膜が十分な耐候性を有し、かつ透明性も確保可能な含フッ素塗料組成物およびこの含フッ素塗料組成物を調製するための二液塗料用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の含フッ素塗料組成物の一実施形態は、[1]の構成を有する。
[1]水酸基およびカルボキシル基を有する含フッ素共重合体と、下記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物とを含有する含フッ素塗料組成物であって、前記フッ素共重合体の酸価が1〜12mg/KOHであることを特徴とする含フッ素塗料組成物。
R−(NCO)n ・・・(1)
(式(1)中、Rは、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとポリオールとから誘導されるポリイソシアネー
ト化合物におけるイソシアネート基を除く残基であり、nは下記式(2)から求められ、3〜20である。)
【数1】

(上記式(2)中、数平均分子量はポリイソシアネート化合物の数平均分子量である。)
本発明の含フッ素塗料組成物は、[2]の構成とすることもできる。
[2]前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するジイソシアネート残基が、脂肪族ジイソシアネート残基/脂環族ジイソシアネート残基で示す質量比で95/5〜50/50となる割合である[1]に記載の含フッ素塗料組成物。
【0010】
本発明の含フッ素塗料組成物は、[3]の構成とすることもできる。
[3]前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するポリオール化合物残基の割合が、前記ポリイソシアネート化合物全量に対して1〜50質量%である[1]または[2]に記載の含フッ素塗料組成物。
本発明の含フッ素塗料組成物は、[4]の構成とすることもできる。
[4]前記含フッ素共重合体の水酸基価が20〜200mg/KOHである[1]〜[3]のいずれかに記載の含フッ素塗料組成物。
本発明の含フッ素塗料組成物は、[5]の構成とすることもできる。
[5]前記含フッ素共重合体が、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンおよびフッ化ビニルからなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィンに基づく重合単位を有する重合体である[1]〜[4]のいずれかに記載の含フッ素塗料組成物。
【0011】
また、本発明の二液塗料用キットの一実施形態は、[6]の構成を有する。
[6]下記主剤(A)および硬化剤(B)からなる二液塗料用キット。
主剤(A):水酸基とカルボキシル基を有し、酸価が3〜10mg/KOHである含フッ素共重合体を含有する組成物。
硬化剤(B):下記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を含有する組成物。
R−(NCO)n ・・・(1)
(式(1)中、Rは、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとポリオールとから誘導されるポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基を除く残基であり、nは下記式(2)から求められ、3〜20である。)
【数2】

(上記式(2)中、数平均分子量はポリイソシアネート化合物の数平均分子量である。)
【0012】
本発明の二液塗料用キットは、[7]の構成とすることもできる。
[7]前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するジイソシアネート残基が、脂肪族ジイソシアネート残基/脂環族ジイソシアネート残基で示す質量比で95/5〜50/50となる割合である[6]に記載の二液塗料用キット。
本発明の二液塗料用キットは、[8]の構成とすることもできる。
[8]前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するポリオール残基の割合が、前記ポリイソシアネート化合物全量に対して1〜50質量%である[6]または[7]に記載の二液塗料用キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素塗料組成物およびこの含フッ素塗料組成物を調製するための二液塗料用キットによれば、塗膜形成時の硬化乾燥時間が短く、また、得られる塗膜が十分な耐候性を有し、かつ透明性の確保も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、特に説明のない場合、「%」は、「質量%」を表す。含フッ素共重合体の「重合単位」を「単位」と、「単量体によって形成された重合単位」を「単量体の単位」と記載することがある。上記以外の単量体、オレフィン類についても同様に記載することがある。また、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸の両者を意味する総称として使用する。
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0015】
[含フッ素塗料組成物]
本発明の含フッ素塗料組成物は、水酸基およびカルボキシル基を有する酸価が3〜10mg/KOHの含フッ素共重合体および上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を含有する。
本発明の含フッ素塗料組成物においては、上記含フッ素共重合体は架橋性成分として、また上記ポリイソシアネート化合物は硬化剤として機能し、含フッ素共重合体が有する水酸基とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が反応することで、これらが架橋・硬化して塗膜を形成するものである。
【0016】
(1)含フッ素共重合体
本発明の含フッ素塗料組成物が含有する含フッ素共重合体は、フッ素原子、水酸基およびカルボキシル基を有する共重合体であり、その酸価は3〜10mg/KOHである。以下、この含フッ素共重合体を構成する重合単位を形成する単量体について説明する。
【0017】
本発明に用いる含フッ素共重合体は、フッ素原子、水酸基およびカルボキシル基を有する共重合体であれば、これを構成する重合単位を形成する単量体は特に制限されない。
【0018】
上記含フッ素共重合体は、例えば、フッ素原子と水酸基またはカルボキシル基、水酸基とカルボキシル基、あるいはフッ素原子と水酸基とカルボキシル基をともに有する単量体に基づく単位の組合せを含む構成であってもよいが、通常はこれらの原子または官能基をそれぞれ独立に有する単量体に基づく単位、すなわち、(a)フッ素原子を有する単量体に基づく単位、(b)水酸基を有する単量体に基づく単位、および(c)カルボキシル基を有する単量体に基づく単位を含む構成であり、好ましくは、さらに(d)エーテル結合またはエステル結合によって連結されてなるその他のアルキル基含有単量体に基づく単位を含む構成である。なお、本発明に用いる含フッ素共重合体は、必要に応じてさらに(a)〜(d)以外の(e)その他の単量体に基づく単位を含んでいてもよい。
【0019】
(a)フッ素原子を有する単量体
フッ素原子を有する単量体としては、フッ素樹脂原料として通常用いられている含フッ素単量体が特に制限なく挙げられる。具体的には、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニリデン(VdF)、フッ化ビニル(VF)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フルオロアルキル基と重合性不飽和基とがエーテル結合またはエステル結合で連結された単量体(以下、「フルオロアルキル基を有する単量体」ともいう。)等が挙げられる。これらの中でも、TFE、HFP、CTFE、VdF、VFが好ましく、TFE、CTEFが特に好ましい。これらは1種を単独で用いることも可能であり、2種以上を併用することも可能である。
【0020】
(b)水酸基を有する単量体
水酸基を有する単量体は、水酸基を有し、上記(a)フッ素原子を有する単量体の他、本発明に用いる含フッ素共重合体の重合単位を形成するその他の単量体と共重合が可能な重合性不飽和基を有する単量体であれば特に制限なく使用することができる。
【0021】
このような水酸基を有する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ-2−メチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシ−2−メチルブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル等のエチレングリコールモノビニルエーテル類;ヒドロキシエチルアリルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類;ヒドロキシエチルビニルエステル、ヒドロキシブチルビニルエステル等のヒドロキシアルキルビニルエステル類;ヒドロキシエチルアリルエステル、ヒドロキシブチルアリルエステル等のヒドロキシアルキルアリルエステル類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類などが好ましい。
【0022】
水酸基を有する単量体は、1種を単独で用いることも可能であり、2種以上を併用することも可能である。
【0023】
(b)カルボキシル基を有する単量体
カルボキシル基を有する単量体は、カルボキシル基を有し、上記(a)フッ素原子を有する単量体の他、含フッ素共重合体の重合単位を形成するその他の単量体と共重合が可能な重合性不飽和基を有する単量体であれば特に制限なく使用することができる。このようなカルボキシル基と重合性不飽和基を有する単量体であるが、不飽和ジカルボン酸の酸無水物も、容易にカルボキシル基を有する単量体に変換されることから、本明細書においては、不飽和ジカルボン酸の酸無水物をカルボキシル基を有する単量体と等価の単量体として扱う。
【0024】
上記カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、3−ヘキセン酸、5−ヘキセン酸、2−ヘプテン酸、3−ヘプテン酸、6−ヘプテン酸、3−オクテン酸、7−オクテン酸、2−ノネン酸、3−ノネン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸または10−ウンデセン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、などの不飽和カルボン酸類;ビニルオキシ吉草酸、3−ビニルオキシプロピオン酸3−(2−ビニルオキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−ビニルオキシエトキシカルボニル)プロピオン酸などの飽和カルボン酸ビニルエーテル類;アリルオキシ吉草酸、3−アリルオキシプロピオン酸、3−(2−アリロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸などの飽和カルボン酸アリルエーテル類;3−(2−ビニロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−ビニロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸などのカルボン酸ビニルエーテル類;アジピン酸モノビニル、こはく酸モノビニル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニルなどの飽和多価カルボン酸モノビニルエステル類;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸類またはその分子内酸無水物;イタコン酸モノエステル、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステルなどの不飽和カルボン酸モノエステル類などが好ましい。
【0025】
カルボキシル基を有する単量体は、1種を単独で用いることも可能であり、2種以上を併用することも可能である。
【0026】
本発明に用いる含フッ素共重合体にカルボキシル基を導入する方法としては、上記のようにカルボキシル基を有する単量体を共重合させる方法の他に、上記の水酸基を有する単量体を共重合させておき、導入された水酸基の一部を酸変性する方法が挙げられる。酸変性は、前記導入された水酸基に、ジカルボン酸やジカルボン酸の酸無水物を作用させて行うことが好ましい。
【0027】
その際の好ましい水酸基を有する単量体は上に記載した水酸基を有する単量体と同じである。好ましい酸無水物としては、無水コハク酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、無水cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸が好ましい。
【0028】
(d)エーテル結合またはエステル結合によって連結されてなるその他のアルキル基含有単量体(以下、単に「アルキル基含有単量体(d)」という)
アルキル基含有単量体(d)は、アルキル基と重合性不飽和基とが、エーテル結合またはエステル結合によって連結されてなる単量体であり、具体的には、下記一般式(3)、(4)、(5)のいずれかで表される単量体が挙げられる。
【0029】
−O−R …(3)
−COO−R …(4)
−OC(O)−R …(5)
(上記式(3)〜(5)中、Rは4級炭素を含まない直鎖または分岐の炭素数2〜20のアルキル基を、Rは重合性不飽和基を表す。)
【0030】
なお、上記式(3)〜(5)における、アルキル基(R)の構造、連結結合、重合性不飽和基(R)の構造の好ましい組み合わせは以下のとおりである。
【0031】
アルキル基含有単量体(d)がアルキルビニルエーテルであり、アルキル基が直鎖1価飽和脂肪族炭化水素基の場合には、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテルなどの直鎖1価飽和脂肪族アルキルビニルエーテルが好ましい。また、アルキル基が分岐1価飽和脂肪族炭化水素基の場合には、2−エチルヘキシルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどの分岐1価飽和脂肪族アルキルビニルエーテルが好ましい。アルキル基含有単量体(d)がアルキルビニルエーテルである組み合わせの場合の、アルキル基含有単量体(d)としては、エチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルエーテルが特に好ましい。
【0032】
アルキル基含有単量体(d)がカルボン酸ビニルエステルであり、アルキル基が直鎖1価飽和脂肪族基の場合には、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどの直鎖1価飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルが好ましい。また、アルキル基が分岐1価飽和脂肪族炭化水素基の場合には、ビニルイソ酪酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどの分岐1価飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルが好ましい。
【0033】
アルキル基含有単量体(d)がアルキルアリルエーテルであり、アルキル基が直鎖1価飽和脂肪族炭化水素基の場合には、エチルアリルエーテル、n−プロピルアリルエーテル、n−ブチルアリルエーテル、オクタデシルアリルエーテルなどの直鎖1価飽和脂肪族アルキルアリルエーテルが好ましい。また、アルキル基が分岐1価飽和脂肪族炭化水素基の場合には、2−エチルヘキシルアリルエーテル、イソプロピルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテルなどの分岐1価飽和脂肪族アルキルアリルエーテルが好ましい。アルキル基含有単量体(d)がアルキルアリルエーテルである場合の、アルキル基含有単量体(d)としては、エチルアリルエーテル、2−エチルヘキシルアリルエーテルが特に好ましい。
【0034】
アルキル基含有単量体(d)がカルボン酸アリルエステルであり、アルキル基が直鎖1価飽和脂肪族基の場合には、プロピオン酸アリル、酪酸アリル、カプロン酸アリル、ラウリン酸アリル、ステアリン酸アリルなどの直鎖1価飽和脂肪族カルボン酸アリルエステルが好ましい。また、アルキル基が分岐1価飽和脂肪族炭化水素基の場合には、ビニルイソ酪酸アリル、バーサチック酸アリルなどの分岐1価飽和脂肪族カルボン酸アリルエステルが好ましい。
【0035】
重合性不飽和基がエステル結合の炭素側に結合しているアルキル基含有単量体(d)としては、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。
【0036】
アルキル基含有単量体(d)は、1種を単独で用いることも可能であり、2種以上を併用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。その場合には、エチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテルの少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0037】
(e)その他の単量体
本発明に用いる含フッ素共重合体が上記(a)〜(d)の単量体以外に含有していてもよいその他の単量体としては、本発明の効果を損なわない限りにおいて要求特性に応じて各種単量体を用いることができる。このようなその他の単量体としては、非フッ素系単量体が好ましく、架橋性の官能基を持たない単量体が好ましい。また、その他の単量体として、具体的には、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンなどの非フッ素系オレフィン類;安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニルなどの非フッ素系芳香族基含有モノマー;t−ブチルビニルエーテル、ピバリン酸ビニルなどが好ましい。
【0038】
本発明に用いる含フッ素共重合体を構成する単位の組み合わせは、酸変性などの重合後に構成単位を直接反応させる場合を除いて、含フッ素共重合体を製造する際の単量体の組み合わせによって決まる。該単量体の組み合わせとしては、共重合性、製造の容易さ、架橋系などによって、上記(a)フッ素原子を有する単量体、(b)水酸基を有する単量体、(c)カルボキシル基を有する単量体を必須の単量体とし、好ましくは、さらに(d)エーテル結合またはエステル結合によって連結されてなるその他のアルキル基含有単量体を含む組合せ、さらに必要に応じて(e)その他の単量体を適宜含む組合せが挙げられる。
【0039】
含フッ素共重合体中の、上記(d)アルキル基含有単量体の含有量は、含フッ素共重合体中の全単位に対して0モル%〜65モル%であることが好ましく、10モル%〜50モル%であることがより好ましい。また、含フッ素共重合体中の、上記(e)その他の単量体の単位の含有量は、含フッ素共重合体中の全単位に対して0モル%または0超〜10モル%以下であることがより好ましい。
【0040】
好ましい単量体の組み合わせとしては、例えば、(a)フッ素原子を有する単量体、(c)カルボキシル基を有する単量体、(e)その他の単量体として上記例示した単量体を適宜選択して用い、(b)水酸基を有する単量体と(d)アルキル基含有単量体とを以下のように組合せることが好ましい。
【0041】
単量体の組合せを「(b)水酸基を有する単量体/(d)アルキル基含有単量体」として表して、ヒドロキシアルキルビニルエーテル/アルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル/アルキルビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル/アルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル/アルキルアリルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル/アルキルビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル/アルキルビニルエーテルが好ましい組合せである。
【0042】
より具体的には、例えば、CTFE/ヒドロキシブチルビニルエーテル/カルボキシル基を有する単量体/エチルビニルエーテル/その他の単量体の共重合体、CTFE/ヒドロキシブチルビニルエーテル/カルボキシル基を有する単量体/2−エチルヘキシルビニルエーテル/その他の単量体の共重合体、TFE/ヒドロキシブチルビニルエーテル/カルボキシル基を有する単量体/エチルビニルエーテル/その他の単量体の共重合体、TFE/ヒドロキシブチルビニルエーテル/カルボキシル基を有する単量体/2−エチルヘキシルビニルエーテル/その他の単量体の共重合体などが好ましい。
【0043】
なお、本発明に用いる水酸基とカルボキシル基を有する含フッ素共重合体は、上述したように、水酸基を有する含フッ素共重合体の水酸基の一部を酸変性することにより、作製することが可能であるが、その場合には、上記好ましい単量体の組合せにおいて、カルボキシル基を有する単量体を除いた組合せにより水酸基を有する含フッ素共重合体を作製し、さらにその水酸基の一部を従来公知の方法で酸変性する方法をとればよい。
【0044】
また、上記本発明において好ましい組合せにおいて、その他の単量体を含まない組合せも上記同様に、本発明において好ましい組合せとして挙げられる。
【0045】
ここで、本発明に用いる含フッ素共重合体における、上記(a)フッ素原子を有する単量体、(b)水酸基を有する単量体、(c)カルボキシル基を有する単量体を必須の単量体、(d)エーテル結合またはエステル結合によって連結されてなるその他のアルキル基含有単量体、および(e)その他の単量体にそれぞれ基づく単位の構成割合については、酸価が1〜12mg/KOHの範囲であり、水酸基の量が後述のポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応して、これらを含有する本発明の含フッ素塗料組成物が架橋硬化しうる量となるような構成割合であれば、特に制限されず、各単量体の単位の含有量はこの範囲内で適宜調整可能である。
【0046】
例えば、含フッ素共重合体中のフッ素原子を有する単量体の単位の含有量は、含フッ素共重合体中の全単位に対して30〜70モル%であることが好ましく、40〜60モル%であることがより好ましい。含フッ素共重合体中のフッ素原子を有する単量体の単位を上記範囲とすることで、耐候性と溶剤への溶解性の両立が可能である。
【0047】
本発明に用いる含フッ素共重合体においては、酸価が1〜12mg/KOHの範囲であるが、好ましくは1〜10mg/KOHであり、より好ましくは3〜7mg/KOHである。
【0048】
酸価の調整は、含フッ素共重合体が有するカルボキシル基の量、具体的には、含フッ素共重合体の共重合にカルボキシル基を有する単量体を用いる場合には配合するカルボキシル基を有する単量体の量や、水酸基を有する含フッ素共重合体の水酸基を酸変性する場合にはカルボキシル基に変性する水酸基の割合等を調整することで行うことができる。含フッ素共重合体の酸価が1mg/KOH未満であると、これと上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を組合せて配合した際に白濁が生じ、耐候性の低下を招く。また、含フッ素共重合体の酸価が12mg/KOHを超えると上記式(1)で表わされるイソシアネートとの反応性が増してポットライフ(可使時間)が短くなる、反応時に炭酸ガスを発生して発泡することにより塗膜外観を損なう、塗膜欠損となり基材の保護効果を損なう、等の問題が発生する。
【0049】
本発明に用いる含フッ素共重合体においては、水酸基価が20〜200mg/KOHの範囲にあることが好ましく、30〜160mg/KOHの範囲にあることがより好ましい。水酸基価の調整は、含フッ素共重合体が有する水酸基の量、具体的には含フッ素共重合体の共重合時に配合する水酸基を有する単量体の量を調整することで行うことができる。含フッ素共重合体の水酸基価が20mg/KOH以上であると、塗膜の耐溶剤性や耐摩耗性の点で好ましく、200mg/KOH以下であると耐候性の点で好ましい。
【0050】
本発明に用いる含フッ素共重合体の分子量については、特に制限されないが、塗膜の平滑性や耐候性の観点から質量平均分子量(M)として、2000〜100000のものが好ましく、6000〜30000のものがより好ましい。なお、本明細書において数平均分子量(M)および質量平均分子量(M)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0051】
なお、本発明に用いる水酸基とカルボキシル基を有し、酸価が1〜12mg/KOHの範囲にある含フッ素共重合体としては、市販品にこの条件を満足する含フッ素共重合体を含有する組成物があるので、これを使用することもできる。市販品としては、例えば、いずれも商品名で、ルミフロン(旭硝子社製)、ボンフロン(AGC旭硝子コーテック社製)、ゼッフル(ダイキン工業社製)、Vフロン(大日本塗料社製)、ニューガーメット(トウベ社製)等の製品群から上記条件に適合した製品を適宜選択することができる。より具体的には、ルミフロン(旭硝子社製)としては、実施例で用いたルミフロンLF−400等が挙げられる。
【0052】
本発明に使用する含フッ素共重合体は、上記各単量体を従来公知の重合方法、具体的には、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの重合方法により共重合することで得ることができる。また、必要に応じて行われる水酸基の酸変性も従来公知の方法を用いて行うことができる。
【0053】
また、本発明において含フッ素共重合体は、本発明の効果を損なわない限りは、上記含フッ素共重合体を構成する重合単位を形成する単量体の混合物を共重合し、重合上がりの含フッ素共重合体および重合媒体を含有する組成物(以下、「重合上がり組成物」ともいう。)のかたちで含フッ素塗料組成物に配合することが可能であり、作業性の点から好ましい。
【0054】
含フッ素塗料組成物が溶液型塗料である場合には、含フッ素共重合体を溶液重合法によって重合し、得られた重合上がり組成物をそのまま含フッ素塗料組成物に配合することができる。この際、重合溶媒も媒体として見なし、必要に応じて重合上がり組成物に対して媒体を追加または除去することにより濃度調整を行うことが好ましい。媒体は有機溶媒であることが好ましく、重合上がり組成物に対して媒体を追加する場合には、追加する媒体は重合溶媒と同じ有機溶媒であることがより好ましい。
【0055】
溶液重合を行う際の重合溶媒としては、後述する含フッ素塗料組成物の媒体における好ましい有機溶媒と同じ有機溶媒が好ましく、具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エタノール、メタノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;ミネラルスピリット、ミネラルターペン等の炭化水素類;HCFC−225(ジクロロペンタフルオロプロパン)、クロルベンゼントリフルオリド等のハロゲン化化合物が好ましい。
【0056】
含フッ素塗料組成物が分散型塗料である場合には、含フッ素共重合体を乳化重合法によって重合し、得られた重合上がり組成物をそのまま、または必要に応じて濃度調整行った後、含フッ素塗料組成物に配合することができる。また、溶液重合法によって得られた含フッ素共重合体を水系分散媒に分散させて得られた分散液を用いて、必要に応じて該分散液の濃度調整を行い、含フッ素塗料組成物に配合することもできる。なお、含フッ素塗料組成物が分散型塗料である場合には、硬化塗膜層の耐水性が良好であることから、溶液重合で得られた含フッ素共重合体を用いて含フッ素塗料組成物を調製することが好ましい。
【0057】
(2)ポリイソシアネート化合物
本発明の含フッ素塗料組成物が含有するポリイソシアネート化合物は、下記一般式(1)で示される化合物である。
R−(NCO)n ・・・(1)
(式(1)中、Rは、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとポリオールとから誘導されるポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基を除く残基であり、nは3〜20である。)
【0058】
なお、イソシアネート基平均数nは以下の式(2)による求められる。
【数3】

(上記式(2)中、数平均分子量はポリイソシアネート化合物の数平均分子量である。)
【0059】
上記ポリイソシアネート化合物に用いる脂肪族ジイソシアネートとしては、炭素数4〜30のものが好ましく、例えば、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ペンタメチレン−1,5−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと記載する)、2,2,4−トリメチル−1,6−ジイソシアネートヘキサン、リジンイソシアネートなどが挙げられ、これらのなかでも、工業的入手のしやすさからHDIが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0060】
上記ポリイソシアネート化合物に用いる脂環族ジイソシアネートとしては、炭素数8〜30のものが好ましく、例えば、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと記載する)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのなかでも、耐候性、工業的入手の容易さから、IPDIが好ましい。脂環族ジイソシアネートは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
また、上記ポリイソシアネート化合物に用いる脂肪族ジイソシアネートと脂環族ジイソシアネートの組合せとしては、HDIとIPDIの組合せが好ましい。
【0061】
上記ポリイソシアネート化合物に用いるポリオールとしては、分子量500未満の低分子ポリオールと分子量500以上の高分子ポリオールが挙げられる。低分子ポリオールとしては、ジオール類、トリオール類、テトラオール類などがあり、ジオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、2−エチル−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられ、トリオール類としては、例えば、グルセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられ、テトラオール類としては、例えば、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0062】
また、低分子ポリオールとしては、上記以外に例えば、(1)ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等、(2)エリスリトール、D−トレイトール、L−アラビニトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、ラムニトール等の糖アルコール系化合物、(3)アラビノース、リボース、キシロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラムノース、フコース、リボデソース等の単糖類、(4)トレハロース、ショ糖、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、メリビオース等の二糖類、(5)ラフィノース、ゲンチアノース、メレチトース等の三糖類、(6)スタキオース等の四糖類、等が挙げられる。
【0063】
高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のカルボン酸の群から選ばれた二塩基酸の単独または混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオールなどの群から選ばれた多価アルコールの単独または混合物との縮合反応によって得られるポリエステルポリオールおよび、例えばε−カプロラクトンを多価アルコールに開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類等が挙げられる。
【0064】
アクリルポリオールとしては、例えば、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−2−ヒドロキシブチル等の活性水素を有するアクリル酸エステル等、またはグリセリンのアクリル酸モノエステルあるいはメタクリル酸モノエステル、トリメチロールプロパンのアクリル酸モノエステルあるいはメタクリル酸モノエステル等の群から選ばれた単独または混合物とメタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−4−ヒドロキシブチル等の活性水素を有するメタクリル酸エステル等の群から選ばれた単独または混合物とを必須成分とし、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル等、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル等、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド、およびメタクリル酸グリシジル、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、フマル酸ジブチル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するビニルモノマー等のその他の重合性モノマーの群から選ばれた単独または混合物の存在下、あるいは非存在下において重合させて得られるアクリルポリオールが挙げられる。
【0065】
ポリエーテルポリオール類としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどの水酸化物、アルコラート、アルキルアミンなどの共塩基性触媒存在下、活性水素原子を有する化合物にアルキレンオキシドを開環重合させて得たポリアルキレンオキシドであることが好ましい。
【0066】
その他にポリエーテルポリオール類として、ポリアルキレンオキシドを媒介として、アクリルアミド等を重合して得られる、いわゆるポリマーポリオール類等が挙げられる。更に、環状エーテルを開環重合したポリテトラメチレングリコール等も挙げられる。
【0067】
アルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、シクロへキセンオキシド、スチレンオキシドが挙げられる。
【0068】
活性水素原子を有する化合物は、1種を用いても良く、2種以上を用いても良い。活性水素原子を有する化合物は、活性水素原子を有する有機化合物が好ましく、水酸基またはアミノ基を有する化合物がより好ましい。
【0069】
活性水素原子として水酸基を有する有機化合物の具体例としては、前述した分子量500未満の低分子量ポリオールが挙げられる。得られるポリアルキレンオキシドの水酸基数は、活性水素原子を有する化合物の価数と同数となるため、アルキレンオキシドを付加させる該低分子量ポリオールのうち3価から5価の多価アルコール類が好ましい。
【0070】
活性水素原子としてアミノ基を有する化合物としては、脂肪族アミン類、脂環族アミン類、芳香族アミン類が挙げあれる、脂肪族アミン類としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類が挙げられる。脂環族アミン類としては、アミノエチルピペラジン等が挙げられる。芳香族アミン類としては、ジアミノトルエン等が挙げられる。
【0071】
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、水酸基を2個以上有するポリブタエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレンなどが挙げられる。ポリオールの統計的1分子が有する水酸基数(以下、水酸基平均数という)は2〜8であることが好ましい。水酸基平均数が2未満であると、上記式(1)におけるイソシアネート基の平均数nの下限3に到達するのが困難になり、硬化性が低下するおそれがある。また、8を超えると、得られるポリイソシアネート化合物の粘度が非常に高くなるか、この粘度を低下させるためにポリオールの分子量を大きくすると、得られる含フッ素塗料組成物を用いて形成される塗膜の硬度の低下を招く場合がある。好ましい水酸基平均数は3〜5である。
好ましいポリオールの例としては、前記の低分子量ポリオールおよびポリエステルポリオールであり、さらに好ましくは、ポリエステルポリオールであり、その中でも最も好ましくは、低分子量ポリオールにε−カプロラクトンを開環重合して得られるポリカプロラクトンポリオールである。また、低分子量ポリオールとしてはトリオールが好ましい。
【0072】
また、ポリオールの数平均分子量は、100〜1000が好ましく、より好ましくは100〜800であり、さらに好ましくは150〜500の範囲である。数平均分子量が100よりも小さい場合は、水酸基平均数が小さくなるため、上記式(1)におけるイソシアネート基の平均数nの下限3に到達するのが困難になり、および/または形成される塗膜の可撓性が不足する場合があり、ポリオールの数平均分子量が1000を超えると、形成される塗膜の硬度の低下を招くおそれがある。
【0073】
本発明に用いる上記式(1)で示されるポリイソシアネート化合物は、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートと1種以上のポリオールから誘導される。
【0074】
上記脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネートのみからなるジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートのみからなるジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートの組合せからなるジイソシアネートが挙げられるが、本発明においては、硬化乾燥時間の短縮の観点から、脂肪族ジイソシアネートのみからなるジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートと脂環族ジイソシアネートの組合せからなるジイソシアネートが好ましく、得られる含フッ素塗料組成物の硬化塗膜の硬さ(タックフリー)の観点から、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートの組合せからなるジイソシアネートがより好ましい。
【0075】
脂肪族ジイソシアネートのみからなるジイソシアネートとして、好ましくはHDIが挙げられ、脂肪族ジイソシアネートと脂環族ジイソシアネートの組合せとして、好ましくは、HDIとIPDIの組合せが挙げられる。
【0076】
また、ジイソシアネートとして、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートの組合せからなるジイソシアネートを用いた場合、上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するジイソシアネート残基が、脂肪族ジイソシアネート残基/脂環族ジイソシアネート残基で示す質量比で95/5〜50/50となる割合であることが好ましく、90/10〜60/40となる割合がより好ましい。この割合が95/5を超えると、得られる含フッ素塗料組成物から形成される塗膜の硬度が十分とならない場合があり、50/50未満では、得られるポリイソシアネート化合物が白濁し、それを含む含フッ素塗料組成物により得られる塗膜の可撓性が低下する場合がある。
【0077】
上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するポリオール化合物残基の割合は、ポリイソシアネート化合物全量に対して1〜50質量%であることが好ましく、3〜30質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは3〜15質量%である。この割合が1質量%未満であると、イソシアネート基の平均数nが低下しやすく、50質量%を超えると、含フッ素塗料組成物に使用する上記含フッ素共重合体との相溶性が低下する場合がある。
【0078】
本発明に用いる上記式(1)で示されるポリイソシアネート化合物において、イソシアネート基の平均数nは3〜20であるが、好ましくは4.5〜20、より好ましくは4.5〜15である。nが3未満であると、ポリイソシアネート化合物の架橋性が低下する。nが20を超えると、含フッ素塗料組成物に使用する上記含フッ素共重合体との相溶性が低下する。
【0079】
上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基の割合は、ポリイソシアネート化合物全量に対して3〜22質量%が好ましい。この割合が3質量%未満であると、得られる含フッ素塗料組成物から形成される塗膜中のウレタン結合濃度が低下しやすく、可撓性が低下する場合があり、22質量%を越えると、イソシアネート基平均数の増加がし難く、硬化性が劣る場合がある。
【0080】
上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物の数平均分子量は、600〜3000が好ましく、より好ましくは600〜1200である。600未満ではイソシアネート基平均数nが低下しやすく、3000を越えるとポリイソシアネート化合物の粘度が高くなる場合がある。
【0081】
上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物のE型粘度計で測定した粘度は、好ましくは5,000〜2,000,000mPa・s/25℃、より好ましくは10,000〜1,500,000mPa・s/25℃である。ポリイソシアネート化合物の粘度が5,000mPa・s/25℃未満であると、イソシアネート基平均数nの下限3が達成できない場合がある。一方、ポリイソシアネート化合物の粘度が2,000,000mPa・s/25℃を越えると、含フッ素塗料組成物に使用する上記含フッ素共重合体との相溶性が低下する場合がある。
【0082】
本発明に用いる上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物は、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとポリオールを反応させることを特徴として誘導される。この反応において、ジイソシアネートのイソシアネート基とポリオールの水酸基のウレタン化反応および、イソシアヌレート化反応の両者を併用することが好ましい。イソシアヌレート化反応後、上記ポリオールを添加し、ウレタン化反応を行うことができるが、好ましくはウレタン化反応後、イソシアヌレート化反応を行うことが、イソシアネート基の平均数nを高めるために好ましい。
【0083】
ここで、イソシアヌレート化反応により、その前に形成されたウレタン基の一部またはすべてはアロファネート基となる。アロファネート結合とウレタン結合の割合は、10:0〜8:2が好ましく、より好ましくは10:0〜9:1、更にはウレタン結合が存在しないことが最も好ましい。ウレタン結合が上記割合8:2を越えると、上記ポリイソシアネート化合物に要求されるイソシアネート基平均数nの下限3の達成が難しい場合がある。
【0084】
上記ジイソシアネートとポリオールを反応させる場合のジイソシアネートとポリオールの比率は、イソシアネート基/水酸基の当量比により上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物が生成されるように従来公知の方法で適宜調整される。その他、反応条件についても従来公知の条件が適用可能である。上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物の製造に際しては、ウレタン化反応後、イソシアヌレート化反応を行うことが好ましい。イソシアヌレート化反応に関する触媒等を含む反応条件についても従来公知の条件が適用可能である(特許文献2〜4参照)。
【0085】
上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物は、上記のイソシアヌレート化反応によるイソシアヌレート基を有することが好ましく、その場合、イソシアヌレート3量体濃度は10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。イソシアヌレート基を有しない場合、これにより得られるポリイソシアネート化合物を含む含フッ素塗料組成物により形成される塗膜の硬度が低下しやすく、さらにイソシアヌレート3量体濃度が10質量%未満の場合、ポリイソシアネート化合物の粘度が高くなりやすい。
【0086】
なお、上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物の製造に際しては、ポリイソシアネート化合物の収率は10〜70質量%の範囲から選択することが好ましく、30〜60質量%の範囲がより好ましい。高い収率で得られるポリイソシアネート化合物の粘度は高くなる。
【0087】
反応終了後、未反応ジイソシアネートモノマーは薄膜蒸発缶、抽出などにより除去されるが、得られる上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を含む組成物においては、未反応ジイソシアネートモノマー濃度は3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.7質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。本発明の含フッ素塗料組成物に上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を配合する場合には、作業性を考慮して、通常、上記未反応ジイソシアネートモノマーを含むポリイソシアネート化合物含有組成物として配合するが、未反応ジイソシアネートモノマー濃度がポリイソシアネート化合物含有組成物全量に対して3質量%を越えると、ポリイソシアネート化合物の硬化性が低下する場合がある。
【0088】
本発明に用いる上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物は、そのイソシアネート基の一部を活性水素含有化合物で後変性反応させたポリイソシアネート化合物として使用することもできる。なお、本明細書において、後変性反応とは、ポリイソシアネート化合物を得た後に、そのポリイソシアネート組成物の性能を付与させるため、そのイソシアネート基の一部を活性水素含有化合物と反応させることをいう。活性水素含有化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。この場合、使用する活性水素含有化合物によっては、含フッ素塗料組成物にともに配合される上記含フッ素共重合体との相溶性が向上する場合がある。
【0089】
活性水素含有化合物で後変性反応させる場合の後変性率は、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基の5〜30%であることが好ましく、更に好ましくは5〜20%である。5%未満であると含フッ素塗料組成物にともに配合される上記含フッ素共重合体との相溶性が低下するおそれがあり、30%を越えると含フッ素塗料組成物から形成される塗膜の硬化性が十分でないことがある。
【0090】
本発明に用いる上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物は、そのイソシアネート基の一部または全てを従来公知のブロック剤で封鎖し、ブロックポリイソシアネートとしても使用できる。
この場合に使用されるブロック剤としては、活性水素を分子内に1個有する化合物が好ましく、例えば、アルコール系、アルキルフェノール系、フェノール系、活性メチレン、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系、イミド系、ピラゾール系化合物等が挙げられる。
【0091】
なお、本発明に用いる上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物としては、市販品にこれを含む組成物があるので、これを使用することもできる。市販品としては、例えば、いずれも商品名で、デュラネート(旭化成社製)の製品群から上記条件に適合した製品を適宜選択することができる。より具体的には、デュラネート(旭化成社製)としては、実施例で用いたMHG−80B、MFA−75B等が挙げられる。
【0092】
(3)含フッ素塗料組成物の調製
本発明の含フッ素塗料組成物は、上記(1)の含フッ素共重合体と、上記(2)のポリイソシアネート化合物とを含有する。本発明の含フッ素塗料組成物においては、上記含フッ素共重合体は架橋性成分として、また上記ポリイソシアネート化合物は硬化剤として機能し、含フッ素共重合体が有する水酸基とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が反応することで、これらが架橋・硬化して塗膜を形成するものである。
【0093】
本発明の含フッ素塗料組成物における(1)含フッ素共重合体と、(2)ポリイソシアネート化合物の配合割合は、用いる(1)含フッ素共重合体、(2)ポリイソシアネート化合物にもよるが、含フッ素塗料組成物に配合される(1)含フッ素共重合体が有する水酸基1モルに対する(2)ポリイソシアネート化合物が有するイソシアネート基のモル数の割合として0.3〜2.0であることが好ましく、0.7〜1.3であることがより好ましい。この割合が0.3未満では耐溶剤性の低下、耐摩耗性の低下のおそれがあり、2.0を超えると耐候性低下のおそれがある。
【0094】
本発明の含フッ素塗料組成物においては、硬化剤として、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、完全アルキル型、メチロール基型アルキル、イミノ基型アルキル等のメラミン系硬化剤を添加することも可能である。
【0095】
本発明の含フッ素塗料組成物は、上記(1)含フッ素共重合体と、上記(2)ポリイソシアネート化合物以外に必要に応じて媒体および各種の添加剤を適宜含有していてもよい。
【0096】
含フッ素塗料組成物が含有する媒体は、具体的には溶媒または分散媒である。含フッ素塗料組成物としては、(1)含フッ素共重合体と(2)ポリイソシアネート化合物、および任意に配合された添加剤が溶媒に溶解した溶液型塗料、または(1)含フッ素共重合体と(2)ポリイソシアネート化合物、および任意に配合された添加剤が分散媒に分散した(ただし、添加剤の種類によっては添加剤については溶解した)分散型塗料が用いられる。含フッ素塗料組成物は、塗膜形成の容易さ、硬化性、乾燥性の良好さなどの点から、溶液型塗料であることが好ましい。
【0097】
(a)媒体
含フッ素塗料組成物が溶液型塗料である場合には、媒体は溶媒であることが好ましく、有機溶媒であることがより好ましい。
有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エタノール、メタノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ミネラルスピリット、ミネラルターペン等の炭化水素類;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類等が好ましい。
【0098】
(b)添加剤
本発明の含フッ素塗料組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で、要求特性に応じて適宜各種の添加剤を配合してもよい。このような添加剤として具体的には、硬化触媒、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、顔料分散剤、消泡剤、増粘剤、密着改良剤、つや消し剤等が挙げられる。
【0099】
上記硬化触媒としては、従来公知のジブチル錫ラウレート等のスズ系、アルミニウムキレートなどの他の金属キレート化合物、p−トルエンスルホン酸などの有機酸系、塩酸などの無機酸系、アミノ系の硬化促進剤が使用できる。硬化触媒の添加量としては、用いる硬化促進剤にもよるが、(1)含フッ素共重合体と(2)ポリイソシアネート化合物の合計質量の100質量部に対して、7〜20ppmとすることが好ましく、7〜15ppmとすることがより好ましい。
【0100】
また、塗装物品の外観を美麗にする点、紫外線から基材シートを保護する観点から顔料を添加してもよい。特に白色顔料である酸化チタンは着色力が高くかつ、紫外線吸収能が高いため好ましく用いられる。他には炭酸カルシウムや、黒色顔料であるカーボンブラックのほかCu−Cr−Mn合金などの複合金属類などが好ましい。顔料の添加量としては、用いる顔料にもよるが、(1)含フッ素共重合体と(2)ポリイソシアネート化合物の合計質量の100質量部に対して、100〜300質量部とすることが好ましい。
【0101】
さらに低汚染性、熱反射性を付与する目的で下記化合物Xを配合してもよい。
(化合物X)
化合物Xは、一般式Si(OY)(式中、Yは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物またはその部分縮合物である。
化合物Xを含有することにより、塗膜を親水性にして屋外で付着した汚れが雨水で除去される効果が付与できる。
【0102】
一般式中のYの炭素数が5を超えると、熱線反射性能を維持する効果が低下する。特に優れた熱線反射性能の維持効果が得られることから、Yは、炭素数1または2のアルキル基であることが好ましい。特に好ましい化合物Xは、テトラメトキシシラン、若しくはテトラエトキシシラン、またはそれらの部分縮合物である。
化合物Xは、シリカ分が20〜60重量%であることが好ましい。シリカ分が少なすぎると熱線反射性能を維持する効果が低下し、多すぎると貯蔵安定性を損なうため好ましくない。
なお、シリカ分とは、化合物Xに対して、化合物Xが100%加水分解縮合した場合に得られるシリカ(SiO)が占める割合である。
【0103】
化合物Xの含フッ素塗料組成物中の樹脂固形分に対する含有量は、0.5〜60質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましい。化合物Xの含有量が少なすぎると熱線反射性能を維持する効果が低下し、多すぎると泡、タレ、レベリング等が発生して塗装性が劣る場合がある。
本含フッ素塗料組成物に化合物Xを配合する際、化合物Xの脱アルコキシ基反応を進めるために促進剤を含んでもよい。促進剤としては、前述の硬化触媒が挙げられる。
化合物Xおよび促進剤は後で述べる硬化剤(B)に予め添加してもよいし、主剤(A)と硬化剤(B)を混合する時に添加してもよい。
【0104】
本発明の含フッ素塗料組成物には、硬化塗膜として透明性の高いクリア膜が要求される場合においても、上記(1)含フッ素共重合体と(2)ポリイソシアネート化合物の組合せにおいて、透明性が十分に確保されるものであるが、この場合にも紫外線吸収効果を与えるため、必要に応じて紫外線吸収剤や光安定剤が添加される。代表的な紫外線吸収剤としてはベンゾフェノール系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系が好適に使用できる。光安定剤としてはヒンダードアミン系、リン系の光安定剤が好適に使用される。紫外線吸収剤の添加量は得られる硬化塗膜の膜厚によりその要求値が変わる。具体的には形成された硬化塗膜の膜厚での紫外線透過率が10%未満になるような濃度に添加されることが好ましい。
【0105】
なお、上記各種添加剤の配合量は、含フッ素塗料組成物全量に対して、紫外線吸収剤は0.1〜10質量%、光安定剤は0.01〜5質量%、表面調整剤は0.01〜1質量%、顔料分散剤は0.1〜5質量%、消泡剤は0.01〜3質量%、増粘剤は0.01〜10質量%、密着改良剤は0.01〜5質量%、つや消し剤は0.01〜10質量%が好ましい。
【0106】
この様に調製された含フッ素塗料組成物は、塗膜形成時の硬化乾燥時間が短く、得られる塗膜が十分な耐候性を有し、かつ透明性も確保可能な塗料組成物である。本発明の含フッ素塗料組成物は、通常の架橋硬化性の含フッ素塗料組成物と同様の方法で用いることができる。例えば、被塗装物品の表面に、ロール塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装、静電塗装、ベル塗装などの通常の方法により、含フッ素塗料組成物を塗布し、乾燥硬化条件を適宜選択して硬化乾燥させる。本発明の含フッ素塗料組成物によれば、同じ硬化乾燥条件であれば、従来の含フッ素塗料組成物に比べて硬化乾燥時間は大きく短縮されるものであり、作業性の向上や、省エネルギー化に貢献することが可能である。
【0107】
本発明の含フッ素塗料組成物は、鋼板、表面処理鋼板などの金属およびプラスチック、無機材料などの素材にプライマーまたは上中塗りとして有用であり、更に防錆鋼板を含むプレコートメタル、自動車塗装、プラスチック塗装などに美粧性、耐候性、耐酸性、防錆性、耐チッピング性、電気絶縁性などを付与するために有用である。
【0108】
[二液塗料用キット]
本発明の二液塗料キットは、含フッ素塗料組成物の長期保存安定性や諸特性の安定性の観点から、上記(1)で説明した水酸基とカルボキシル基を有し、酸価が3〜10mg/KOHである含フッ素共重合体を含有する組成物からなる主剤(A)、および上記(2)で説明した上記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を含有する組成物からなる硬化剤(B)からなる。
主剤(A)における含フッ素共重合体としては、本発明の含フッ素塗料組成物における含フッ素共重合体と同様のものが好ましい。
硬化剤(B)を構成するポリイソシアネート化合物としては本発明の含フッ素塗料組成物におけるポリイソシアネート化合物と同様のものが好ましい。
【0109】
主剤(A)および硬化剤(B)は、それぞれ上記必須成分(1)含フッ素共重合体および(2)ポリイソシアネート化合物以外に、上記媒体や添加剤を含有してもよい。主剤(A)の組成物に上記媒体を含有する場合、芳香族炭化水素類、ケトン類、炭化水素類、エステル類、が好ましく、含有量は20〜90質量%が好ましい。主剤(A)の組成物に上記添加剤を含有する場合、紫外線吸収剤は0.1〜10質量%、光安定剤は0.01〜5質量%、表面調整剤は0.01〜1質量%、顔料分散剤は0.1〜5質量%、消泡剤は0.01〜3質量%、増粘剤は0.01〜10質量%、密着改良剤は0.01〜5質量%、つや消し剤は0.01〜10質量%が好ましい。硬化剤(B)に上記媒体を含有する場合、芳香族炭化水素類、ケトン類、炭化水素類、エステル類が好ましく、含有量は0.1〜90質量%が好ましい。
【0110】
さらに、硬化剤(B)には、低汚染性、熱反射性を付与する目的で上記化合物Xや化合物Xの脱アルコキシ基反応ならびに分子の網状化を進めるための促進剤を上記同様の配合量で配合してもよい。化合物Xおよび促進剤は硬化剤(B)に予め添加してもよいし、主剤(A)と硬化剤(B)を混合する時に添加してもよい。
【0111】
主剤(A)および硬化剤(B)における各成分の配合量は、必須成分を含めて、主剤(A)および硬化剤(B)を合わせたときに、上記(3)含フッ素塗料組成物の調製で説明した量となる量である。
【0112】
本発明の二液塗料用キットは、使用に際して、主剤(A)および硬化剤(B)を十分撹拌混合後、上記本発明の含フッ素塗料組成物と同様にして使用される。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0114】
[合成例1]主剤(A1)の作製
クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、カルボキシル基を含有するモノマーの共重合体であるフッ素樹脂ルミフロンLF−400[商品名、旭硝子社製、水酸基およびカルボキシル基含有フルオロオレフィン系共重合体(水酸基価:47mgKOH/g、酸価:5mgKOH/g)60質量%を含む有機溶剤溶液]69gにメチルエチルケトン30g、ジブチル錫ジラウリレートの0.0008gを加えて撹拌し、二液塗料用キットの主剤(A)を得た。
【0115】
[合成例2]主剤(A2)の作製
クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、およびカルボキシル基を含有するモノマーの共重合体であるフッ素樹脂ルミフロンLF−552[商品名、旭硝子社製、水酸基およびカルボキシル基含有フルオロオレフィン系共重合体(水酸基価:52mgKOH/g、酸価:5mgKOH/g)40質量%を含む有機溶剤溶液]86gにメチルエチルケトン13g、ジブチル錫ジラウリレートの0.0008gを加えて撹拌し、二液塗料用キットの主剤(A2)を得た。
【0116】
[合成例3]主剤(A3)の作製
クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、およびカルボキシル基を含有するモノマーの共重合体であるフッ素樹脂ルミフロンLF−936[商品名、旭硝子社製、水酸基およびカルボキシル基含有フルオロオレフィン系共重合体(水酸基価:45mgKOH/g、酸価:2mgKOH/g)65質量%を含む有機溶剤溶液]53gにメチルエチルケトン46g、ジブチル錫ジラウリレートの0.0008gを加えて撹拌し、二液塗料用キットの主剤(A3)を得た。
【0117】
[比較合成例1]主剤(a1)の作製
クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテルおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルの共重合体であるフッ素樹脂ルミフロンLF−200[旭硝子社製、水酸基含有フルオロオレフィン系共重合体(水酸基価:52mgKOH/g、酸価:0mgKOH/g、質量平均分子量13000)60質量%を含む有機溶剤溶液]57.4gにメチルエチルケトン40.7g、ジブチル錫ジラウリレートの0.0008gを加えて撹拌し、二液塗料用キットの主剤(a1)を得た。
【0118】
[比較合成例2]主剤(a2)の作製
フッ素樹脂ルミフロンLF−200の57gにメチルエチルケトン16g、ジブチル錫ジラウリレートを0.0008g、酸化チタン(石原産業社製、CR−90)27gを加えて撹拌後、サンドミルで酸化チタンを約10μmになるまで分散して、二液塗料用キットの主剤(a2)を得た。
【0119】
[硬化剤(B1)]
二液塗料用キットの硬化剤(B1)として、上記式(1)で示されるポリイソシアネート化合物(n:5.4、イソシアネート基濃度:15.1質量%)を含有するデュラネートMHG−80B(商品名、旭化成社製)を準備した。
【0120】
[硬化剤(B2)]
二液塗料用キットの硬化剤(B2)として、上記式(1)で示されるポリイソシアネート化合物(n:5.0、イソシアネート基濃度:13.7質量%)を含有するデュラネートMFA−75B(商品名、旭化成社製)を準備した。
【0121】
[(比較)硬化剤(b1)]
HDI系イソシアヌレートであるデュラネートTHA−100(商品名:旭化成社製、イソシアネート基濃度:19.7質量%、イソシアネート基平均数:3.5)を、二液塗料用キットの硬化剤(b1)として準備した。なお、硬化剤(b1)は本発明の範囲外の硬化剤である。
【0122】
[実施例1]
上記合成例1で得られた主剤(A1)の100gに、上記硬化剤(B1)を8g加えて撹拌し含フッ素塗料組成物を得た。この含フッ素塗料組成物を、透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、乾燥膜厚が約10μmとなるようにバーコーターで塗工し、80℃で1分または2分、100℃で1分、120℃で1分の乾燥を行った。各条件において乾燥終了後、塗膜が室温に戻った直後に以下のタック評価を行った。100℃で1分の乾燥条件で得られた塗膜について、塗膜外観を評価した。結果を表1に示す。
【0123】
<タック>
指で塗膜表面のベタツキを観察し、以下の基準で評価した。
◎:べと付き無く、指紋跡も無い。○:べと付き無いが、指紋跡がある。
△:ややべと付く。指紋跡あり。×:顕著にべと付く。指紋跡あり。
【0124】
<塗膜外観>
100℃×1分間の乾燥を行った塗膜について、透明度を目視で観察した。
○:透明で白濁がない。△:白濁あり。×:白濁が顕著。
【0125】
[実施例2]
上記合成例1で得られた主剤(A1)の100gに、上記硬化剤(B2)を8.9g加えて撹拌し含フッ素塗料組成物を得た。この含フッ素塗料組成物を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に塗膜を形成し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0126】
[実施例3]
上記合成例2で得られた主剤(A2)の100gに、上記硬化剤(B1)を10.7g加えて撹拌し含フッ素塗料組成物を得た。この含フッ素塗料組成物を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に塗膜を形成し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0127】
[実施例4]
上記合成例3で得られた主剤(A3)の100gに、上記硬化剤(B1)を8.8g加えて撹拌し含フッ素塗料組成物を得た。この含フッ素塗料組成物を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に塗膜を形成し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0128】
[比較例1〜4]
上記合成例で作製した主剤と硬化剤の両方またはいずれかが本発明の範囲外のものとなる表1に示す組合せを、表1に示す量で、必要に応じてキシレンを表1に示す量添加し、混合して、比較例1〜4の含フッ素塗料組成物を作製した。この含フッ素塗料組成物を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に塗膜を形成し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
[比較例5〜7]
上記比較合成例2で作製した主剤(a2)の100gに、それぞれ硬化剤(B1)9.1g、硬化剤(B1)10g、硬化剤(b1)6.4gとキシレン1.3gを加えて撹拌し、比較例5〜7の含フッ素塗料組成物を作製した。この含フッ素塗料組成物を用いて、透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、乾燥膜厚が約15μmとなる様にバーコーターで塗工し、150℃で90秒間の乾燥を行った。乾燥終了後、塗膜が室温に戻った直後に次の耐ブロッキング性の評価を行った。結果を表2に表記した。
<耐ブロッキング性>
7.5cm×13.5cmの塗膜上にPETフィルムを載せて、その上にPTFEの成形板(30cm×30cm)の上に重りを載せて重量が合計で3.4Kgに調整したものを載せた。17時間放置後に、PETフィルムを塗工面から剥がして塗膜表面の外観状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:PETフィルムを剥がす際に、容易に剥がせた。
△:塗膜が剥離が見られた。×:剥がせなかった。
【0131】
【表2】

【0132】
表1からわかるように実施例の含フッ素塗料組成物によれば、塗膜形成時の硬化乾燥時間が短く、得られる塗膜は透明性も確保されている。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の含フッ素塗料組成物は、鋼板、表面処理鋼板などの金属およびプラスチック、無機材料などの素材にプライマーまたは上中塗りとして有用であり、更に防錆鋼板を含むプレコートメタル、自動車塗装、プラスチック塗装などに美粧性、耐候性、耐酸性、防錆性、耐チッピング性、電気絶縁性などを付与するために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基およびカルボキシル基を有する含フッ素共重合体と、下記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物とを含有する含フッ素塗料組成物であって、前記フッ素共重合体の酸価が1〜12mg/KOHであることを特徴とする含フッ素塗料組成物。
R−(NCO)n ・・・(1)
(式(1)中、Rは、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとポリオールとから誘導されるポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基を除く残基であり、nは下記式(2)から求められ、3〜20である。)
【数1】

(上記式(2)中、数平均分子量はポリイソシアネート化合物の数平均分子量である。)
【請求項2】
前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するジイソシアネート残基が、脂肪族ジイソシアネート残基/脂環族ジイソシアネート残基で示す質量比で95/5〜50/50となる割合である請求項1に記載の含フッ素塗料組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するポリオール化合物残基の割合が、前記ポリイソシアネート化合物全量に対して1〜50質量%である請求項1または2に記載の含フッ素塗料組成物。
【請求項4】
前記含フッ素共重合体の水酸基価が20〜200mg/KOHである請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素塗料組成物。
【請求項5】
前記含フッ素共重合体が、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンおよびフッ化ビニルからなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィンに基づく重合単位を有する重合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素塗料組成物。
【請求項6】
下記主剤(A)および硬化剤(B)からなる二液塗料用キット。
主剤(A):水酸基とカルボキシル基を有し、酸価が3〜10mg/KOHである含フッ素共重合体を含有する組成物。
硬化剤(B):下記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を含有する組成物。
R−(NCO)n ・・・(1)
(式(1)中、Rは、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種からなるジイソシアネートとポリオールとから誘導されるポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基を除く残基であり、nは下記式(2)から求められ、3〜20である。)
【数2】

(上記式(2)中、数平均分子量はポリイソシアネート化合物の数平均分子量である。)
【請求項7】
前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するジイソシアネート残基が、脂肪族ジイソシアネート残基/脂環族ジイソシアネート残基で示す質量比で95/5〜50/50となる割合である請求項6に記載の二液塗料用キット。
【請求項8】
前記式(1)で表わされるポリイソシアネート化合物を構成するポリオール残基の割合が、前記ポリイソシアネート化合物全量に対して1〜50質量%である請求項6または7に記載の二液塗料用キット。

【公開番号】特開2011−256257(P2011−256257A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131174(P2010−131174)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000116954)AGCコーテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】