説明

含フッ素多官能チオール、活性エネルギー線硬化型塗料組成物及びその硬化物

【課題】生体への蓄積性の懸念がなく、硬化塗膜表面に優れた防汚性を付与することができ、かつ空気雰囲気下(酸素存在下)で硬化した場合においても優れた防汚性を発揮できる含フッ素多官能チオールを提供する。また、塗布、硬化させた後に塗膜表面からの前記フッ素系界面活性剤又はその分解物の揮発や脱離を防止することができ、防汚性等の表面性能の安定性を向上することができ、かつ空気雰囲気下で硬化した場合においても優れた防汚性を発揮できる活性エネルギー線硬化型塗料組成物、その硬化物及びその硬化塗膜を有する物品を提供する。
【解決手段】ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にそれぞれ2つ以上のメルカプト基を有することを特徴とする含フッ素多官能チオールを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体への蓄積性の懸念がなく、硬化塗膜表面に優れた防汚性を付与することができ、フッ素系界面活性剤、フッ素系表面改質剤として用いることができる含フッ素多官能チオールに関する。また、該含フッ素多官能チオールを用いた活性エネルギー線硬化型塗料組成物、その硬化物及びその硬化塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系界面活性剤又はフッ素系表面改質剤は、レベリング性、濡れ性、浸透性、ブロッキング防止性、滑り性、撥水撥油性、防汚性などに優れる点から、各種コーティング材料、表面改質剤等に広く使用されている。
【0003】
このフッ素系界面活性剤又はフッ素系表面改質剤(以下、これらを併せて単に「フッ素系界面活性剤」という。)を配合した活性エネルギー線硬化型塗料は、例えば、液晶ディスプレイ用偏光板におけるトリアセチルセルロース(TAC)フィルム等へのコート材の分野で、フィルム表面に指紋や汚れに対する防汚性を付与するのに利用されている。
【0004】
しかしながら、非反応性のフッ素系界面活性剤は、単に活性エネルギー線硬化型塗料中のバインダー樹脂中に分散しているだけで、加熱、加湿、酸・アルカリ等の薬品への暴露、汚れ除去のための洗浄等によって、フッ素系界面活性剤の一部が硬化塗膜表面から脱離又は揮発しやすくなり、その結果、製造ラインが汚染されたり、塗膜表面の防汚性が低下したりするという問題があった。また、活性エネルギー線硬化型塗料を塗布後、紫外線を照射する通常の製造ラインでは、空気雰囲気下で紫外線を照射する場合も多く、空気中に存在する酸素により重合が阻害され、防汚性が低下するという問題もあった。
【0005】
上記のフッ素系界面活性剤の一部が硬化塗膜表面から脱離又は揮発する問題を解決する方法として、重合性基を有するフッ素系界面活性剤を用いて硬化塗膜中にフッ素系界面活性剤を共有結合により固定化し、硬化塗膜表面から脱離又は揮発を防止することが提案されている。このような重合性基を有するフッ素系界面活性剤の例としては、フッ素化アルキル基を有するモノアクリレートを、活性水素を有するアクリル系単量体と共重合させ、次いで、得られた重合体にイソシアネート基を有するアクリル系単量体を反応させて得られる不飽和基を有する重合型フッ素系界面活性剤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ジイソシアネートの3量体であるトリイソシアネート化合物に水酸基含有パーフルオロポリエーテルと水酸基含有アクリル系単量体とを反応させたパーフルオロポリエーテル基含有ウレタンアクリレートをフッ素系界面活性剤として用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1記載の重合型フッ素系界面活性剤は、フッ化アルキル基の炭素原子数が8以上、すなわちフッ素の含有量がより高くないと十分な防汚性が得られない問題がある上、近年、炭素原子数8のパーフルオロアルキル基を有する化合物は分解することにより、生体への蓄積性が懸念されるパーフルオロオクタン酸(PFOA)を生成し得ることが明らかになった。また、炭素原子数が8よりもさらに多いパーフルオロアルキル基を有する化合物は、さらに生体への蓄積性が高い化合物を生成し得ることが懸念される。また、空気雰囲気下(酸素存在下)で紫外線を照射して硬化させた場合、十分な防汚性を発揮できない問題があった。
【0007】
一方、前記特許文献2記載のパーフルオロポリエーテル基含有ウレタンアクリレートは、3官能性イソシアネート化合物に対して水酸基含有パーフルオロポリエーテルと水酸基含有アクリル系単量体とを適切な割合で反応させることが困難であって、パーフルオロポリエーテルのみ有する化合物が残留し、この化合物の硬化塗膜表面から脱離又は揮発によって、防汚性が大きく変化するという問題や、特許文献1記載の重合型フッ素系界面活性剤と同様、空気雰囲気下(酸素存在下)で紫外線を照射して硬化させた場合、十分な防汚性を発揮できない問題があった。
【0008】
そこで、生体への蓄積性の懸念がなく、空気雰囲気下(酸素存在下)で紫外線を照射して硬化させた場合でも、十分な防汚性を硬化塗膜に付与できるフッ素系界面活性剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−246696号公報
【特許文献2】特許第3963169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、生体への蓄積性の懸念がなく、硬化塗膜表面に優れた防汚性を付与することができ、かつ空気雰囲気下(酸素存在下)で硬化した場合においても優れた防汚性を発揮できる含フッ素多官能チオールを提供することである。また、塗布、硬化させた後に塗膜表面からの前記フッ素系界面活性剤又はその分解物の揮発や脱離を防止することができ、防汚性等の表面性能の安定性を向上することができ、かつ空気雰囲気下で硬化した場合においても優れた防汚性を発揮できる活性エネルギー線硬化型塗料組成物、その硬化物及びその硬化塗膜を有する物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に、それぞれ2つ以上のメルカプト基を有する含フッ素多官能チオールをフッ素系界面活性剤として活性エネルギー線硬化型塗料組成物に配合したものは、硬化塗膜からのフッ素成分又はその分解物の揮発や脱離が抑制でき、塗膜表面に防汚性等の表面性能を安定性よく付与でき、かつ空気雰囲気下で硬化した場合においても優れた防汚性を発揮できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にそれぞれ2つ以上のメルカプト基を有することを特徴とする含フッ素多官能チオールに関する。
【0013】
さらに、本発明は、前記含フッ素多官能チオールを配合した活性エネルギー線硬化型塗料組成物、該塗料組成物を基材に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させてなる硬化物及び該塗料組成物の硬化塗膜を有する物品に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の含フッ素多官能チオールは、生体への蓄積性の懸念がなく、フッ素系界面活性剤として活性エネルギー線硬化型塗料組成物に配合することにより、該塗料組成物の硬化塗膜に防汚性等の表面性能を付与することができる。また、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、空気雰囲気下(酸素存在下)で紫外線照射して硬化した場合においても、優れた防汚性等の表面性能を塗膜表面に付与することができる。さらに、含フッ素多官能チオールが有するメルカプト基と活性エネルギー線硬化型塗料組成物中の他の成分が有する不飽和二重結合との間でエン−チオール反応が生じるため、含フッ素多官能チオール中の(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖が硬化塗膜中に共有結合により固定化される。このことにより、硬化塗膜の加熱、加湿、酸・アルカリ等の薬品への暴露によって、含フッ素多官能チオール成分が硬化塗膜表面から脱離又は揮発することがなく、また硬化塗膜表面に付着した汚れを拭き取っても(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖が塗膜から脱離することを抑制できることから、非常に安定性の高い防汚性を発揮することができる。
【0015】
したがって、本発明の含フッ素多官能チオール及びそれを配合した活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、紫外線等の活性エネルギー線を照射する硬化装置内から空気を排出するため窒素パージした窒素雰囲気下での硬化のみならず、製造コスト、装置上の制約等により窒素パージが困難な場合においても十分な性能を発揮することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例2で得られた含フッ素多官能チオール(2)のIRスペクトルのチャート図である。
【図2】図2は、実施例2で得られた含フッ素多官能チオール(2)の13C−NMRのチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の含フッ素多官能チオールは、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にそれぞれ2つ以上のメルカプト基を有する化合物である。この含フッ素多官能チオールの製造方法としては、例えば、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)と1分子中にメルカプト基を3つ以上有する多官能チオール(B)とを反応させる方法が挙げられる。
【0018】
前記化合物(A)が有するポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖としては、炭素原子数1〜3の2価フッ化炭素基と酸素原子が交互に連結した構造を有するものが挙げられる。炭素原子数1〜3の2価フッ化炭素基は、一種類であっても良いし複数種の混合であっても良く、具体的には、下記構造式(a1)で表されるものが挙げられる。
【0019】
【化1】

(上記構造式(a)中、Xは下記構造式(a1−1)〜(a1−5)であり、構造式(a1)中の全てのXが同一構造のものであってもよいし、また、複数の構造がランダムに又はブロック状に存在していてもよい。また、nは繰り返し単位を表す1以上の整数である。)
【0020】
【化2】

【0021】
これらの中でも特に塗膜表面の汚れの拭き取り性が良好となって防汚性に優れた塗膜が得られる点から前記構造式(a1−1)で表されるパーフルオロメチレン構造と、前記構造式(a1−2)で表されるパーフルオロエチレン構造とが共存するものがとりわけ好ましい。ここで、前記構造式(a1−1)で表されるパーフルオロメチレン構造と、前記構造式(a1−2)で表されるパーフルオロエチレン構造との存在比率は、モル比率[構造(a1−1)/構造(a1−2)]が1/10〜10/1となる割合であることが防汚性の点から好ましく、また、前記構造式1中のnの値は3〜100の範囲であること、特に6〜70が好ましい。
【0022】
また、前記ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖は、汚れ拭き取り性と滑り性が優れる点と非フッ素系硬化性樹脂組成物への溶解性を向上させやすい点からポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖1本に含まれるフッ素原子の合計が18〜200個の範囲であることが好ましく、25〜150個の範囲であることがより好ましい。
【0023】
前記化合物(A)の両末端に(メタ)アクリロイル基を導入する前の化合物としては、以下の一般式(a2−1)〜(a2−6)が挙げられる。なお、下記の各構造式中における「−PFPE−」は、上記のポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖を表す。
【0024】
【化3】

【0025】
さらに、前記化合物(A)の両末端に(メタ)アクリロイル基を導入する前の化合物として、上記のポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にアルキレンエーテル構造を導入したものは、後述する活性エネルギー線硬化型樹脂(C)、活性エネルギー線硬化性単量体(D)等の他の成分との相溶性が向上することから好ましい。このポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にアルキレンエーテル構造を導入する方法としては、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に水酸基を有する上記の一般式(a2−1)、(a2−2)等で表される化合物にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加反応させる方法が挙げられる。この付加反応は、公知の方法を用いることができ、一般的には、水酸化カリウム等の触媒を用いて、加圧下でアルキレンオキサイドを導入して加熱することにより行うことができる。これらのアルキレンオキサイドは、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。
【0026】
アルキレンオキサイドの付加モル数は、原料であるポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に水酸基を有する化合物1モルに対して、平均で1〜10モルが好ましく、2〜8モルがより好ましく、2〜5モルがさらに好ましい。このように、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に水酸基を有する化合物にアルキレンオキサイドを付加した化合物としては、下記の一般式(a2’−1)、(a2’−2)等が挙げられる。
【0027】
【化4】

【0028】
上記一般式(a2’−1)及び(a2’−2)中、「PFFE」は上記と同義であり、「RO」はアルキレンオキサイドの1単位を表す。また、式中のm及びnは繰り返し単位数を表し、それぞれ0又は1以上の整数(ただし、m及びnの合計は1以上である。)であり、特にm及びnの合計が平均で1〜10のものが好ましい。
【0029】
上記化合物(A)を製造するには、例えば、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に水酸基を1つずつ有する化合物に対して、(メタ)アクリル酸クロライドを脱塩酸反応させて得る方法、(メタ)アクリル酸を脱水反応させて得る方法、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートをウレタン化反応させて得る方法、無水イタコン酸をエステル化反応させて得る方法、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にカルボキシル基を1つずつ有する化合物に対して、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルをエステル化反応させて得る方法、グリシジルメタクリレートをエステル化反応させて得る方法、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にイソシアネート基を1つずつ有する化合物に対して、2−ヒドロキシエチルアクリルアミドを反応させる方法が挙げられる。これらのなかでも、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に水酸基を1つずつ有する化合物に対して、(メタ)アクリル酸クロライドを脱塩酸反応させて得る方法と、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートをウレタン化反応させて得る方法が合成上得られやすい点で特に好ましい。
【0030】
上記の方法で得られた前記化合物(A)のポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に有する(メタ)アクリロイル基の構造部位は、例えば、下記構造式(U−1)〜(U−4)で示される(メタ)アクリロイル基を有するものが挙げられる。
【0031】
【化5】

【0032】
これらの(メタ)アクリロイル基の構造部位の中でも、化合物(A)と前記した前記多官能チオール(B)との反応性に優れる点から、構造式(U−1)で表されるアクリロイルオキシ基又は構造式(U−2)で表されるメタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0033】
前記化合物(A)のなかで、前記したアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するものとしては、下記一般式(A−1)〜(A−10)で表される化合物等が挙げられる。なお、下記の各一般式中における「−PFPE−」は、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖を表す。
【0034】
【化6】

【0035】
また、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にアルキレンエーテル構造を有するものとしては、例えば、下記一般式(A’−1)〜(A’−8)で表される化合物等が挙げられる。
【0036】
【化7】

(上記一般式中、「PFFE」及び「RO」は上記と同義である。)
【0037】
上記の一般式(A−1)〜(A−10)及び一般式(A’−1)〜(A’−8)中でも、前記多官能チオール(B)との反応性が高いことから、アクリロイル基を有する一般式(A−1)、(A−3)、(A−5)、(A−7)、(A−9)、(A’−1)、(A’−3)、(A’−5)及び(A’−7)が好ましい。特に、前記多官能チオール(B)が有するメルカプト基が2級炭素原子に結合している化合物の場合は、前記化合物(A)と前記多官能チオール(B)との反応性が低下する傾向があるため、アクリロイル基を有する化合物(A)がより好ましい。
【0038】
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル基」とは、メタクリロイル基とアクリロイル基の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいう。
【0039】
次に、1分子中にメルカプト基を3つ以上有する多官能チオール(B)について説明する。前記多官能チオール(B)としては、水酸基を3つ以上有するポリオール(b−1)とメルカプト基を有するカルボン酸(b−2)とを反応させて得られたエステル化合物(B−1)が挙げられる。
【0040】
前記エステル化合物(B−1)の具体例としては、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ジペンタエリスリトールヘキサキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサキスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトブチレート)、トリス(メルカプトグリコールオキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メルカプトプロピルオキシエチル)イソシアヌレート、トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらの中でも、空気雰囲気下での硬化においても優れた防汚性を発揮することから、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)イソシアヌレート及びジペンタエリスリトールヘキサキスチオプロピオネートが好ましい。
【0041】
ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)と1分子中にメルカプト基を3つ以上有する多官能チオール(B)とを反応させる際の仕込み比率としては、前記化合物(A)が有する(メタ)アクリロイル基と前記多官能チオール(B)が有するメルカプト基とを確実に反応させ、かつ前記多官能チオール(B)を架橋剤として、前記化合物(A)が複数架橋するのを抑制できることから、前記化合物(A)1モルに対して前記多官能チオール(B)2.5〜8モルの範囲が好ましく、3〜5モルの範囲がより好ましい。
【0042】
また、前記化合物(A)と前記多官能チオール(B)との反応は、通常の求核付加反応の条件と同様に行うことができ、無溶媒でも溶媒存在下でも行うことができる。溶媒を使用する場合には、前記化合物(A)及び前記多官能チオール(B)の溶解性、沸点、使用する反応容器等を考慮して適宜選択する。使用できる溶媒の具体的としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素などが挙げられる。これら溶媒は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。これらの溶媒の中でもエステル、芳香族系炭化水素、ケトン、アルコール、エーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドを用いることが好ましく、エステル、ケトン、アルコール、エーテルを用いることがより好ましい。
【0043】
この反応は、無触媒で行うことも可能であるが、反応の進行を促進するため、触媒等の反応助剤を使用することが好ましい。前記反応助剤として、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコラート、トリメチルアミン、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ−[2.2.2]−オクタン等のアミン、水素化ナトリウム、水素化リチウム等の金属水素化物、ベンジルトリメチルアンモニウム・ヒドロキシド、テトラアンモニウム・フルオライド等のアンモニウム塩、過酢酸等の過酸化物等が挙げられる。これらの中でも、金属アルコラート、アミン、アンモニウム塩が好ましく、アミンがより好ましい。前記反応助剤の使用量としては、原料として用いる前記化合物(A)1モルに対して0.01〜20モル%の範囲が好ましく、0.1〜10モル%の範囲がより好ましい。
【0044】
さらに、前記化合物(A)と前記多官能チオール(B)との反応における反応温度としては、通常、0℃〜使用した溶媒の沸点であるが、より反応の進行を促進し、かつ副反応を抑制するためには、20〜100℃の範囲が好ましく、20〜70℃の範囲がより好ましい。
【0045】
上記の反応により、前記化合物(A)が有する(メタ)アクリロイル基と前記多官能チオール(B)が有するメルカプト基の1つが反応して、結合を形成し、本発明の含フッ素多官能チオールが得られる。例えば、前記化合物(A)として前記一般式(A−1)を用い、前記多官能チオール(B)としてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)を用いて反応させた場合、下記のような構造を有する含フッ素多官能チオールが得られる。
【0046】
【化8】

【0047】
上記の反応により得られた含フッ素多官能チオールは、純度を高める目的で、分液洗浄、カラムクロマトグラフィー等で精製することもできる。
【0048】
また、本発明の含フッ素多官能チオール中のフッ素含有率は、十分な防汚性と他の成分とのバランスを取る観点から、10〜50質量%の範囲が好ましく、20〜40質量%の範囲がより好ましく、25〜35質量%の範囲がさらに好ましい。なお、本発明の含フッ素ラジカル重合性共重合体中のフッ素含有率は、用いた原料の合計量に対するフッ素原子の質量比率から算出したものである。
【0049】
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、本発明の含フッ素多官能チオールを配合したものであるが、その主成分して、活性エネルギー線硬化型樹脂(C)又は活性エネルギー線硬化性単量体(D)を含有する。なお、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物において、活性エネルギー線硬化型樹脂(C)と活性エネルギー線硬化性単量体(D)とは、それぞれ単独で用いてもよいが、併用しても構わない。また、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、メルカプト基を3つ以上有する多官能チオール(B)を含有していても構わない。さらに、本発明の含フッ素多官能チオールは、当該活性エネルギー線硬化型塗料組成物において、フッ素系界面活性剤として用いることが好ましい。
【0050】
前記活性エネルギー線硬化型樹脂(C)は、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、アクリル(メタ)アクリレート樹脂、マレイミド基含有樹脂等が挙げられるが、本発明では、特に透明性や低収縮性等の点からウレタン(メタ)アクリレート樹脂が好ましい。
【0051】
ここで用いるウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、脂肪族ポリイソシアネート化合物又は芳香族ポリイソシアネート化合物とヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物とを反応させて得られるウレタン結合と(メタ)アクリロイル基とを有する樹脂が挙げられる。
【0052】
前記脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略する。)、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2−メチルペンタメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート等が挙げられ、また、芳香族ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0053】
一方、ヒドロキシ基含有アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのモノ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート等の3価のアルコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート、あるいは、これらのアルコール性水酸基の一部をε−カプロラクトンで変性した水酸基含有モノ及びジ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の1官能の水酸基と3官能以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、あるいは、該化合物をさらにε−カプロラクトンで変性した水酸基含有多官能(メタ)アクリレート;ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート化合物;ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシブチレン−ポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート等のブロック構造のオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート化合物;ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等のランダム構造のオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0054】
上記した脂肪族ポリイソシアネート化合物又は芳香族ポリイソシアネート化合物とヒドロキシ基含有アクリレート化合物との反応は、ウレタン化触媒の存在下、常法により行うことができる。ここで使用し得るウレタン化触媒は、具体的には、ピリジン、ピロール、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミンなどのアミン類、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィンなどのホフィン類、ジブチル錫ジラウレート、オクチル錫トリラウレート、オクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫などの有機錫化合物、オクチル酸亜鉛などの有機金属化合物が挙げられる。
【0055】
これらのウレタンアクリレート樹脂の中でも特に脂肪族ポリイソシアネート化合物とヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物とを反応させて得られるものが硬化塗膜の透明性に優れ、かつ、活性エネルギー線に対する感度が良好で硬化性に優れる点から好ましい。
【0056】
次に、不飽和ポリエステル樹脂は、α,β−不飽和二塩基酸又はその酸無水物、芳香族飽和二塩基酸又はその酸無水物、及び、グリコール類の重縮合によって得られる硬化性樹脂であり、α,β−不飽和二塩基酸又はその酸無水物としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロルマレイン酸、及びこれらのエステル等が挙げられる。芳香族飽和二塩基酸又はその酸無水物としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ニトロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸及びこれらのエステル等が挙げられる。脂肪族あるいは脂環族飽和二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、グルタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びこれらのエステル等が挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、エチレングリコールカーボネート、2,2−ジ−(4−ヒドロキシプロポキシジフェニル)プロパン等が挙げられ、その他にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等の酸化物も同様に使用できる。
【0057】
次に、エポキシビニルエステル樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるものが挙げられる。
【0058】
また、マレイミド基含有樹脂としては、N−ヒドロキシエチルマレイミドとイソホロンジイソシアネートとをウレタン化して得られる2官能マレイミドウレタン化合物、マレイミド酢酸とポリテトラメチレングリコールとをエステル化して得られる2官能マレイミドエステル化合物、マレイミドカプロン酸とペンタエリスリトールのテトラエチレンオキサイド付加物とをエステル化して得られる4官能マレイミドエステル化合物、マレイミド酢酸と多価アルコール化合物とをエステル化して得られる多官能マレイミドエステル化合物等が挙げられる。これらの活性エネルギー線硬化型樹脂(C)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0059】
前記活性エネルギー線硬化性単量体(D)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、数平均分子量が150〜1,000の範囲にあるポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、数平均分子量が150〜1,000の範囲にあるポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールペンタ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等の脂肪族アルキル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジプロピレングルリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリスチリルエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、2−マレイミドエチル−エチルカーボネート、2−マレイミドエチル−プロピルカーボネート、N−エチル−(2−マレイミドエチル)カーバメート、N,N−ヘキサメチレンビスマレイミド、ポリプロピレングリコール−ビス(3−マレイミドプロピル)エーテル、ビス(2−マレイミドエチル)カーボネート、1,4−ジマレイミドシクロヘキサン等のマレイミド類などが挙げられる。
【0060】
これらのなかでも特に硬化塗膜の硬度に優れる点からトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレートが好ましい。これらの活性エネルギー線硬化性単量体(D)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0061】
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物中の前記含フッ素多官能チオールの使用量は、レベリング性、撥水撥油性、防汚性を十分なものにすることができ、該塗料組成物の硬化後の硬度や透明性も十分なものとできることから、前記活性エネルギー線硬化型樹脂(C)及び活性エネルギー線硬化性単量体(D)の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0062】
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、基材に塗布後、活性エネルギー線を照射することで硬化塗膜とすることができる。この活性エネルギー線とは、紫外線、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線をいう。本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を、活性エネルギー線として紫外線を照射して硬化塗膜とする場合には、活性エネルギー線硬化型組成物中に光重合開始剤(E)を添加し、硬化性を向上することが好ましい。また、必要であればさらに光増感剤を添加して、硬化性を向上することもできる。一方、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線を用いる場合には、光重合開始剤や光増感剤を用いなくても速やかに硬化するので、特に光重合開始剤(E)や光増感剤を添加する必要はない。
【0063】
前記光重合開始剤(E)としては、分子内開裂型光重合開始剤及び水素引き抜き型光重合開始剤が挙げられる。分子内開裂型光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類;2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系化合物;ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル等が挙げられる。
【0064】
一方、水素引き抜き型光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系化合物;ミヒラ−ケトン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系化合物;10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が挙げられる。
【0065】
上記の光重合開始剤(E)の中でも、活性エネルギー線硬化型塗料組成物中の前記活性エネルギー線硬化性樹脂(C)及び活性エネルギー線硬化性単量体(D)との相溶性に優れる点から、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、及びベンゾフェノンが好ましく、特に、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。これらの光重合開始剤(E)は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0066】
また、前記光増感剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン類、o−トリルチオ尿素等の尿素類、ナトリウムジエチルジチオホスフェート、s−ベンジルイソチウロニウム−p−トルエンスルホネート等の硫黄化合物などが挙げられる。
【0067】
これらの光重合開始剤及び光増感剤の使用量は、活性エネルギー線硬化型組成物中の不揮発成分100質量部に対し、各々0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.3〜7質量部がさらに好ましい。
【0068】
さらに、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、用途、特性等の目的に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、粘度や屈折率の調整、あるいは、塗膜の色調の調整やその他の塗料性状や塗膜物性の調整を目的に各種の配合材料、例えば、各種有機溶剤、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、石油樹脂、フッ素樹脂等の各種樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、カーボン、酸化チタン、アルミナ、銅、シリカ微粒子等の各種の有機又は無機粒子、重合開始剤、重合禁止剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、防錆剤、スリップ剤、ワックス、艶調整剤、離型剤、相溶化剤、導電調整剤、顔料、染料、分散剤、分散安定剤、シリコーン系、炭化水素系界面活性剤等を併用することができる。
【0069】
上記の各配合成分中、有機溶媒は、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物の溶液粘度を適宜調整する上で有用であり、特に薄膜コーティングを行うためには、膜厚を調整することが容易となる。ここで使用できる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール;酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトンなどが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0070】
ここで有機溶媒の使用量は、用途や目的とする膜厚や粘度によって異なるが、硬化成分の全質量に対して、質量基準で、0.5〜4倍量の範囲であることが好ましい。
【0071】
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を硬化させる活性エネルギー線としては、上記の通り、紫外線、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線であるが、具体的なエネルギー源又は硬化装置としては、例えば、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、カーボンアーク、キセノンランプ、複写用高圧水銀灯、中圧又は高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、自然光等を光源とする紫外線、又は走査型、カーテン型電子線加速器による電子線等が挙げられる。
【0072】
これらの活性エネルギー線の中でも特に紫外線が好ましく、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、空気雰囲気下での硬化でも十分な防汚性を発揮するが、より高い防汚性を得るために酸素等による硬化阻害を避けるため、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で、紫外線を照射しても構わない。また、硬化を促進するため、熱をエネルギー源として併用し、紫外線で硬化した後、熱処理を行ってもよい。
【0073】
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物の塗工方法は用途により異なるが、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、キスコーター、シャワーコーター、ホイーラーコーター、スピンコーター、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー、アプリケーター、バーコーター等を用いた塗布方法、あるいは各種金型を用いた成形方法等が挙げられる。
【0074】
本発明の含フッ素多官能チオールを配合した活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて防汚性(撥インク性、耐指紋性等)を付与できる物品としては、TACフィルム等の液晶ディスプレイ(LCD)の偏光板用フィルム;プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ等の各種ディスプレイ画面;タッチパネル;携帯電話筐体又は携帯電話の画面;CD、DVD、ブルーレイディスク等の光学記録媒体;インサートモールド(IMD、IMF)用転写フィルム;コピー機、プリンター等のOA機器用ゴムローラー;コピー機、スキャナー等のOA機器の読み取り部のガラス面;カメラ、ビデオカメラ、メガネ等の光学レンズ;腕時計等の時計の風防、ガラス面;自動車、鉄道車輌等の各種車輌のウインドウ;化粧板等の各種建材;住宅の窓ガラス;家具等の木工材料、人工・合成皮革、家電の筐体等の各種プラスチック成形品、FRP浴槽などが挙げられる。これらの物品表面に本発明の含フッ素多官能チオール又は活性エネルギー線硬化型塗料組成物を塗布し、紫外線等の活性エネルギー線を照射して硬化塗膜を形成することで、物品表面に防汚性を付与することができる。また、本発明の含フッ素多官能チオールを各物品に適した各種塗料に添加し、塗布・乾燥することで、物品表面に防汚性を付与することも可能である。
【0075】
また、本発明の含フッ素多官能チオールを添加し、レベリング性を向上するとともに、塗膜に防汚性(撥インク性、耐指紋性等)を付与できる塗材としては、TACフィルム等のLCDの偏光板用フィルムのハードコート材、アンチグレア(AG:防眩)コート材又は反射防止(AR、LR)コート材;プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ(PDP)等の各種ディスプレイ画面用ハードコート材;タッチパネル用ハードコート材;液晶ディスプレイ用カラーフィルター(以下、「CF」という。)に使用されるRGBの各画素を形成するためのカラーレジスト、印刷インク、インクジェットインク又は塗料;CFのブラックマトリックス用のブラックレジスト、印刷インク、インクジェットインク又は塗料;プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ等の画素隔壁用樹脂組成物;携帯電話筐体用塗料又はハードコート材;携帯電話の画面用ハードコート材;CD、DVD、ブルーレイディスク等の光学記録媒体用ハードコート材;インサートモールド(IMD、IMF)用転写フィルム用ハードコート材;コピー機、プリンター等のOA機器用ゴムローラー用コート材;コピー機、スキャナー等のOA機器の読み取り部のガラス用コート材;カメラ、ビデオカメラ、メガネ等の光学レンズ用コート材;腕時計等の時計の風防、ガラス用コート材;自動車、鉄道車輌等の各種車輌のウインドウ用コート材;化粧板等の各種建材用印刷インキ又は塗料;住宅の窓ガラス用コート材;家具等の木工用塗料;人工・合成皮革用コート材;家電の筐体等の各種プラスチック成形品用塗料又はコート材;FRP浴槽用塗料又はコート材などが挙げられる。
【0076】
さらに、本発明の含フッ素多官能チオール又は活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて耐擦傷性(耐スクラッチ性)及び防汚性を付与できる物品としては、LCDのバックライト部材であるプリズムシート又は拡散シート等が挙げられる。また、プリズムシート又は拡散シート用コート材に本発明の含フッ素多官能チオールを添加することで、該コート材のレベリング性を向上するとともに、コート材の塗膜に耐擦傷性(耐スクラッチ性)及び防汚性を付与することができる。
【0077】
また、本発明の含フッ素多官能チオールの硬化塗膜は低屈折率であるため、LCD等の各種ディスプレイ表面への蛍光灯等の映り込みを防止する反射防止層中の低屈折率層用塗材としても用いることができる。また、反射防止層用の塗材、特に反射防止層中の低屈折率層用塗材に本発明の含フッ素多官能チオールを添加することで、塗膜の低屈折率を維持しつつ、塗膜表面に防汚性を付与することもできる。
【0078】
さらに、本発明の含フッ素多官能チオール又は活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いることができるその他の用途として、光ファイバクラッド材、導波路、液晶パネルの封止材、各種光学用シール材、光学用接着剤等が挙げられる。
【0079】
特に、LCD用偏光板の保護フィルム用コート材用途のうち、アンチグレアコート材として本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いる場合、上記した各組成のうち、シリカ微粒子、アクリル樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子等の無機又は有機微粒子を、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物中の硬化成分の全質量の0.1〜0.5倍量となる割合で配合することで防眩性に優れたものとなるため好ましい。
【0080】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を、LCD用偏光板の保護フィルム用アンチグレアコート材に用いる場合、コート材を硬化させる前に凹凸の表面形状の金型に接触させた後、金型と反対側から活性エネルギー線を照射して硬化し、コート層の表面をエンボス加工して防眩性を付与する転写法にも適用できる。
【実施例】
【0081】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。なお、合成した含フッ素多官能チオールのIRスペクトル及び13C−NMRスペクトルは下記の条件で測定した。
【0082】
[IRスペクトル測定条件]
装置:株式会社島津製作所製「IRPrestige−21」
方法:KBr法
【0083】
13C−NMR測定条件]
装置:日本電子株式会社製「AL−400」
溶媒:アセトン−d
【0084】
(合成例1)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、下記式(a2−1−1)で表される両末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物20質量部、溶媒としてジイソプロピルエーテル20質量部、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール0.02質量部及び中和剤としてトリエチルアミン3.1質量部を仕込み、空気気流下にて攪拌を開始し、フラスコ内を10℃に保ちながらアクリル酸クロライド2.7質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、10℃で1時間攪拌し、昇温して30℃で1時間攪拌した後、50℃に昇温して10時間攪拌することにより反応を行い、ガスクロマトグラフィー測定にてアクリル酸クロライドの消失が確認された。次いで、溶媒としてジイソプロピルエーテル40質量部を追加した後、イオン交換水80質量部を混合して攪拌してから静置し水層を分離させて取り除く方法による洗浄を3回繰り返した。次いで、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール0.02質量部を添加し、脱水剤として硫酸マグネシウム8質量部を添加して1日間静置することで完全に脱水した後、脱水剤を濾別した。
【0085】
【化9】

(式中、Xはパーフルオロメチレン基及びパーフルオロエチレン基であり、1分子あたり、パーフルオロメチレン基が平均7個、パーフルオロエチレン基が平均8個存在するものであり、フッ素原子の数が平均46である。また、GPCによる数平均分子量は1,500である。)
【0086】
次いで、減圧下で溶媒を留去することによって、下記構造式(A−1−1)で表されるポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖を有する化合物(以下、「PFPE−DA」と略記する。)を得た。
【0087】
【化10】

(式中、Xはパーフルオロメチレン基及びパーフルオロエチレン基であり、1分子あたり、パーフルオロメチレン基が平均7個、パーフルオロエチレン基が平均8個存在するものであり、フッ素原子の数が平均46である。)
【0088】
(合成例2)
ステンレス製オートクレーブに、上記式(a2−1−1)で表される両末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物140質量部及び水酸化カリウム0.08質量部を仕込んだ後、オートクレーブ内を窒素で置換した。次に、温度120℃、圧力0.2MPaに維持しながらエチレンオキサイド13.2質量部導入した。そのまま温度120℃で1時間反応した後、60℃に冷却した。冷却後、反応物を取り出し、温水で洗浄を1時間行って、下記式(a2’−1−1)で表されるエチレンオキサイド付加したパーフルオロポリエーテル化合物(以下、「PFPE−EO」と略記する。)を得た。得られたPFPE−EOの平均付加モル数は3であった。
【0089】
【化11】

(式中、Xはパーフルオロメチレン基及びパーフルオロエチレン基であり、1分子あたり、パーフルオロメチレン基が平均7個、パーフルオロエチレン基が平均8個存在するものであり、フッ素原子の数が平均46である。また、式中の「EO」はエチレンオキサイドの1単位を表し、m及びnは繰り返し単位数を表し、m及びnの合計は平均で3である。)
【0090】
次いで、撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、上記で得られたPFPE−EO21.3質量部、溶媒としてジイソプロピルエーテル20質量部、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール0.02質量部及び中和剤としてトリエチルアミン3.1質量部を仕込み、空気気流下にて攪拌を開始し、フラスコ内を10℃に保ちながらアクリル酸クロライド2.7質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、10℃で1時間攪拌し、昇温して30℃で1時間攪拌した後、50℃に昇温して10時間攪拌することにより反応を行い、ガスクロマトグラフィー測定にてアクリル酸クロライドの消失が確認された。次いで、溶媒としてジイソプロピルエーテル40質量部を追加した後、イオン交換水80質量部を混合して攪拌してから静置し水層を分離させて取り除く方法による洗浄を3回繰り返した。次いで、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール0.02質量部を添加し、脱水剤として硫酸マグネシウム8質量部を添加して1日間静置することで完全に脱水した後、脱水剤を濾別した。次に、減圧下で溶媒を留去することによって、下記式(A’−1−1)で表されるポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖を有する化合物(以下、「PFPE−EODA」と略記する。)を得た。
【0091】
【化12】

(式中、Xはパーフルオロメチレン基及びパーフルオロエチレン基であり、1分子あたり、パーフルオロメチレン基が平均7個、パーフルオロエチレン基が平均8個存在するものであり、フッ素原子の数が平均46である。また、式中の「EO」はエチレンオキサイドの1単位を表し、m及びnは繰り返し単位数を表し、m及びnの合計は平均で3である。)
【0092】
(実施例1)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、下記式(B−1)で表される多官能チオールであるペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(以下、「PEMB」と略記する。)27.4質量部、触媒としてトリエチルアミン0.3質量部、溶媒としてジイソプロピルエーテル47.4質量部を仕込み、攪拌しながら55℃に昇温した。次いで、合成例1で得られたPFPE−DA20質量部を滴下装置を用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、55℃で6時間攪拌することにより反応を行った結果、IRスペクトル測定によりアクリロイル基の消失が確認された。溶媒を留去することによって、含フッ素多官能チオール(1)33.7質量部とPEMB13.7質量部の混合物を得た。得られた含フッ素多官能チオール(1)のフッ素含有率は、33.4質量%であった。
【0093】
【化13】

【0094】
(実施例2)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、下記式(B−2)で表される多官能チオールであるペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート(以下、「PEMP」と略記する。)5質量部、触媒としてトリエチルアミン0.05質量部及び溶媒としてアセトン13.1質量部を仕込み、攪拌しながら55℃に昇温した。次いで、合成例2で得られたPFPE−EODA3.5質量部をアセトン9.3質量部で希釈した溶液を滴下装置を用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、55℃で3時間攪拌することにより、IRスペクトル測定によりアクリロイル基の消失が確認された。溶媒を留去することによって、含フッ素多官能チオール(2)6質量部及びPEMP2.5質量部の混合物を得た。得られた含フッ素多官能チオール(2)のフッ素含有率は、29.6質量%であった。また、得られた含フッ素多官能チオール(2)のIRスペクトルのチャート図を図1に、13C−NMRのチャート図を図2に示す。
【0095】
【化14】

【0096】
(実施例3)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、PEMB5.5質量部、触媒としてトリエチルアミン0.05質量部、溶媒としてアセトン12.7質量部を仕込み、攪拌しながら55℃に昇温した。次いで、合成例2で得られたPFPE−EODA3.5質量部をアセトン9質量部で希釈した溶液を滴下装置を用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、55℃で3時間攪拌することにより、IRスペクトル測定によりアクリロイル基の消失が確認された。溶媒を留去することによって、含フッ素多官能チオール(3)6.2質量部及びPEMB2.8質量部の混合物を得た。得られた含フッ素多官能チオール(3)のフッ素含有率は、28.3質量%であった。
【0097】
(実施例4)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、下記式(B−3)で表される多官能チオールであるトリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)イソシアヌレート(以下、「TMBI」と略記する。)5.7質量部、触媒としてトリエチルアミン0.05質量部、溶媒としてアセトン13.9質量部を仕込み、攪拌しながら55℃に昇温した。次いで、合成例2で得られたPFPE−EODA3.5質量部をアセトン13質量部で希釈した溶液を滴下装置を用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、55℃で3時間攪拌することにより、IRスペクトル測定によりアクリロイル基の消失が確認された。溶媒を留去することによって、含フッ素多官能チオール(4)6.3質量部とTMBI2.9質量部の混合物を得た。得られた含フッ素多官能チオール(4)のフッ素含有率は、27.7質量%であった。
【0098】
【化15】

【0099】
(実施例5)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、下記式(B−4)で表される多官能チオールであるジペンタエリスリトールヘキサキスチオプロピオネート(以下、「DPEMP」と略記する。)7.8質量部、溶媒としてアセトン12.9質量部を仕込み、攪拌しながら55℃に昇温した。次いで、合成例2で得られたPFPE−EODA3.5質量部をアセトン13質量部で希釈した溶液を滴下装置を用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、55℃で3時間攪拌することにより、IRスペクトル測定によりアクリロイル基の消失が確認された。溶媒を留去することによって、含フッ素多官能チオール(5)7.4質量部とDPEMP3.9質量部の混合物を得た。得られた含フッ素多官能チオール(5)のフッ素含有率は、25.9質量%であった。
【0100】
【化16】

【0101】
(比較例1)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、下記式(B’)で表される多官能チオールであるビス(3−メルカプトブチレート)ブタン(以下、「BMBB」と略記する。)2.9質量部、触媒としてトリエチルアミン0.05質量部、溶媒としてアセトン13質量部を仕込み、攪拌しながら55℃に昇温した。次いで、合成例2で得られたPFPE−EODA3.5質量部をアセトン13質量部で希釈した溶液を滴下装置を用いて30分かけて滴下した。滴下終了後、55℃で3時間攪拌することにより、IRスペクトル測定によりアクリロイル基の消失が確認された。溶媒を留去することによって、含フッ素多官能チオール(6)4.9質量部とBMBB1.5質量部の混合物を得た。得られた含フッ素多官能チオール(6)のフッ素含有率は、35.3質量%であった。
【0102】
【化17】

【0103】
(比較例2)
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、PEMB81.7質量部、下記式(Y−1)で表されるパーフルオロオクチルエチルアクリレート(以下、「PFOEA」と略記する。)38.9質量部、触媒としてトリエチルアミン0.9質量部及び溶媒としてアセトン121.6質量部を仕込み、攪拌しながら55℃に昇温し、3時間攪拌することにより、IRスペクトル測定によりアクリロイル基の消失が確認された。溶媒を留去することによって、含フッ素多官能チオール(7)79.8質量部とPEMB40.8質量部の混合物を得た。得られた含フッ素多官能チオール(7)のフッ素含有率は、30.4質量%であった。
【0104】
【化18】

【0105】
[含フッ素多官能チオールの生体蓄積性評価]
上記の実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた含フッ素多官能チオールについて、炭素原子数8以上のパーフルオロアルキル基の有無によって、下記の基準にしたがい生体蓄積性を評価した。
A:炭素原子数8以上のパーフルオロアルキル基を有さず、生体蓄積性の懸念がない。
B:炭素原子数8以上のパーフルオロアルキル基を有し、生体蓄積性の懸念がある。
【0106】
[活性エネルギー線硬化型樹脂組成物のベース樹脂の調製]
紫外線硬化型コーティング組成物として、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂(DIC株式会社製「ユニディック17−806」;80質量%含有の酢酸ブチル溶液)125質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャルティーケミカルズ社製「イルガキュア184」)5質量部、溶剤としてトルエン54質量部、2−プロパノール28質量部、酢酸エチル28質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル28部を混合し溶解させて、紫外線硬化型コーティング組成物268質量部を得た。
【0107】
(実施例6〜10及び比較例3〜6)
[活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の調製]
上記で得られた紫外線硬化型コーティング組成物268質量部に、実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた含フッ素多官能チオール及び多官能チオールの混合物を20質量%含有するアセトン溶液5質量部(溶液中の各成分の含有量は表1に示す。)を加えて均一に混合して、活性エネルギー線硬化型塗料組成物を得た。
【0108】
[含フッ素多官能チオールの相溶性評価]
上記で得られた活性エネルギー線硬化型塗料組成物の外観を目視で観察し、下記の基準にしたがい活性エネルギー線硬化型樹脂組成物のベース樹脂への含フッ素多官能チオールの相溶性を評価した。
A:透明である。
B:濁りがある。
C:成分の分離が見られる。
【0109】
[防汚性評価用塗工フィルムの作製]
上記で得られた活性エネルギー線硬化型塗料組成物をバーコーターNo.13を用いて、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布した後、60℃の乾燥機に5分間入れて溶剤を揮発させ、紫外線硬化装置にて紫外線(UV)を照射して硬化させ、実施例6〜10及び比較例3〜4として塗工フィルムを作製した。なお、紫外線の照射条件は、空気(酸素濃度21%)雰囲気下、高圧水銀灯使用、紫外線照射量3.5kJ/mとした。また、上記で得られた紫外線硬化型コーティング組成物268質量部に、PEMP1質量部を加えて調製した活性エネルギー線硬化型塗料組成物についても同様に塗工フィルムを作製して比較例5とした。さらに、何も添加していない活性エネルギー線硬化型塗料組成物についても同様に塗工フィルムを作製して比較例6とした。
【0110】
[防汚性の評価]
上記で得られた塗工フィルムの塗工表面に、フェルトペン(寺西化学工業株式会社製「マジックインキ大型」青色)又はフェルトペン(三菱鉛筆株式会社製「ユニ・メディアックス」黒色)で線を描き、その青色インク又は黒色インクの付着状態を目視で観察することで防汚性(汚れ付着防止性、汚れ拭き取り性)の評価を行った。なお、評価基準は下記の通りである。
【0111】
[汚れ付着防止性の評価基準]
A:防汚性が最も良好で、インクが玉状にはじくもの。
B:インクが玉状にはじかず、線状のはじきが生じるもの(線幅がフェルトペンのペン先の幅の50%未満)。
C:インクの線状のはじきが生じ、線幅がフェルトペンのペン先の幅の50%以上100%未満であったもの。
D:インクがまったくはじかずに表面にきれいに描けてしまうもの。
【0112】
[汚れ拭き取り性の評価基準]
「汚れ付着防止性」の試験後、荷重1kgにてティッシュペーパーで拭き取った際の様子を下記の基準にて評価した。
A:10回未満の拭き取りで完全にインクを除去できたもの。
B:10回の拭き取り操作で完全にはインクを除去できなかったもの。
【0113】
上記の評価結果を評価に用いた活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の組成とともに表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
本発明の含フッ素多官能チオールである実施例1〜5で得られた含フッ素多官能チオール(1)〜(5)を添加した実施例6〜10の活性エネルギー線硬化型塗料組成物の硬化塗膜は、空気雰囲気下(酸素存在下)でのUV硬化において、優れた汚れ付着防止性及び汚れ拭き取り性を有することが分かった。
【0116】
一方、比較例3は、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に1つずつのメルカプト基しか有しない含フッ素多官能チオール(6)を用いた例であるが、防汚性が十分でない問題があった。
【0117】
比較例4は、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖ではなくパーフルオロアルキル基を有し、片末端にしかメルカプト基を有しない含フッ素多官能チオール(7)を用いた例であるが、防汚性は十分であったが、生体蓄積性が懸念される材料であった。
【0118】
比較例5は、含フッ素多官能チオールを配合せず、多官能チオールであるPEMPを配合した活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いた例であるが、防汚性が十分でない問題があった。
【0119】
比較例6は、含フッ素多官能チオール及び多官能チオールを配合しなかった活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いた例であるが、防汚性が十分でない問題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にそれぞれ2つ以上のメルカプト基を有することを特徴とする含フッ素多官能チオール。
【請求項2】
ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端にアルキレンエーテル構造を有し、その両末端にそれぞれ2つ以上のメルカプト基を有する請求項1記載の含フッ素多官能チオール。
【請求項3】
ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)と1分子中にメルカプト基を3つ以上有する多官能チオール(B)とを反応させて得られる請求項1又は2記載の含フッ素多官能チオール。
【請求項4】
前記多官能チオール(B)が、水酸基を3つ以上有するポリオール(b−1)とメルカプト基を有するカルボン酸(b−2)とを反応させて得られたエステル化合物(B−1)である請求項3記載の含フッ素多官能チオール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の含フッ素多官能チオール、及び、活性エネルギー線硬化型樹脂(C)又は活性エネルギー線硬化性単量体(D)を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【請求項6】
請求項5記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を、基材に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項7】
請求項5記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物の硬化塗膜を有することを特徴とする物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−208046(P2011−208046A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78041(P2010−78041)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】