説明

含フッ素弾性共重合体の製造方法および架橋フッ素ゴム

【課題】架橋反応性に優れ、架橋ゴム物性、製造作業性に優れる含フッ素弾性共重合体及びその架橋フッ素ゴムの製造方法を提供する。
【解決手段】テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロビニルエーテルから選ばれる1種以上の含フッ素モノマー(a)、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニルなどのビニルエステルモノマー(b)、及び必要に応じて、エチレン、プロピレン、ビニルエーテルから選ばれる1種以上の炭化水素モノマー(c)を、水性媒体中で乳化重合して含フッ素弾性共重合体ラテックスを製造し、次に該含フッ素弾性共重合体ラテックスのpHを1〜9に調整した後、凝集して含フッ素弾性共重合体を単離する含フッ素弾性共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素弾性共重合体の製造方法、その製造方法で得られた含フッ素弾性共
重合体、およびその含フッ素弾性共重合体を架橋して得られる架橋フッ素ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素弾性共重合体として、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合
体、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフ
ルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体等が知られている。
これらの含フッ素弾性共重合体は、耐熱性や耐薬品性に優れることから、通常の材料が
耐えられないような過酷な環境に適用されている。しかし、これらの含フッ素弾性共重合
体は、反応性に乏しいため架橋反応性や他材料との接着性が充分でなく、従来より反応性
官能基を導入し、反応性を向上する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。
)。
【0003】
一般に、ゴム材料は、一部の熱可塑性エラストマーを除いて、架橋反応により適切な物
理特性を発現する必要がある。そのため、含フッ素弾性共重合体においても分子の中に架
橋反応性の官能基が導入されている。フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共
重合体については、反応性官能基としては、ヨウ素原子(例えば、非特許文献1を参照。
)や不飽和結合(例えば、特許文献2を参照。)が提案されているが、その効果は充分で
はなかった。
【0004】
また、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体よりも耐薬品性、特に
耐アミン性や耐高温蒸気性に優れるテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体(例
えば、特許文献3を参照。)については、CF=CFOCF=CFCF、CF=C
FOCFCF(CF)OCF=CFCF、CF=CFCFCF=CFCF
どの架橋反応性の官能基を含有するモノマーを共重合する方法(例えば、特許文献2を参
照。)が提案されたが、その効果は充分ではなかった。
【0005】
また、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体は、ポリオール架橋剤で容易に架橋できる。しかし、該共重合体にフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体を混合したり、シリカなどの酸性フィラーを配合すると、架橋阻害を起こしやすいという問題点があった。
そこで、煩雑な工程を経ないで、フッ素ゴム分子中に架橋反応性の官能基を導入した架
橋反応性の優れた含フッ素弾性共重合体の開発および該含フッ素共重合体の効率的な製造
方法が要請されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−116634号公報
【特許文献2】特公昭62−56887号公報
【特許文献3】特開平6−306242号公報
【非特許文献1】建元正祥,高分子論文集,49(10),765−783(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、凝集作業性に優れた含フッ素弾性共重合体の製造方法、架橋反応性に
優れた含フッ素弾性共重合体、およびそれを架橋して得られる架橋ゴム物性に優れた架橋
フッ素ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、CF=CF−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロ(アルコキシアルキル)基である。)で表されるパーフルオロビニルエーテルからなる群より選ばれる1種以上の含フッ素モノマー(a)、一般式CR=CRCOOCH=CH(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基又はエーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜10のアルコキシアルキル基であり、Rは水素原子、フッ素原子又はメチル基である。)で表されるビニルエステルモノマー(b)、及び必要に応じて、エチレン、プロピレン、CH=CH−O−R(式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。)で表されるビニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上の炭化水素モノマー(c)を、水性媒体中で乳化重合して含フッ素弾性共重合体ラテックスを製造し、次に該含フッ素弾性共重合体ラテックスのpHを1〜9に調整した後、凝集して含フッ素弾性共重合体を単離することを特徴とする含フッ素弾性共重合体の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体の製造方法において、前記ビニルエステルノマー(b)におけるRおよびRが水素原子である含フッ素弾性共重合体の製造方法提供する。
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体の製造方法において、前記ビニルエステルモノマー(b)がメタクリル酸ビニルおよびクロトン酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1種である含フッ素弾性共重合体の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体の製造方法において、前記含フッ素弾性共重合体における、前記含フッ素モノマー(a)に基づく繰り返し単位(l)と前記炭化水素モノマー(c)に基づく繰り返し単位(n)の含有割合が、(n)/(l)=30/70〜70/30(モル比)である含フッ素弾性共重合体の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体の製造方法において、前記含フッ素モノマー(a)がテトラフルオロエチレンであり、前記炭化水素モノマー(c)がプロピレンで
あり、前記含フッ素弾性共重合体における、前記含フッ素モノマー(a)に基づく繰り返
し単位(l)と前記炭化水素モノマー(c)に基づく繰り返し単位(n)の含有割合が(
n)/(l)=40/60〜60/40(モル比)である含フッ素弾性共重合体の製造方
法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体の製造方法において、前記含フッ素弾性共重合体における、前記含フッ素モノマー(a)に基づく繰り返し単位(l)、前記ビニルエステルモノマー(b)に基づく繰り返し単位(m)、および前記炭化水素モノマー(c)に基づく繰り返し単位(n)の含有割合が、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.1(モル比)である含フッ素弾性共重合体の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体の製造方法において、前記pHが1〜8である含フッ素弾性共重合体の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体の製造方法において、乳化重合時のpHが1〜8である含フッ素弾性共重合体の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記の含フッ素弾性共重合体の製造方法により得られたものであることを特徴とする含フッ素弾性共重合体を提供する。
また、本発明は、上記の含フッ素弾性共重合体の製造方法により得られた含フッ素弾性共重合体を架橋させてなることを特徴とする架橋フッ素ゴムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含フッ素弾性共重合体の製造方法は、優れた凝集作業性で含フッ素弾性共重合体ラテックスから含フッ素弾性共重合体を単離することができ、また、得られる含フッ素弾性共重合体中の灰分含有量を少なくすることができ、特にリン含有量を著しく少なくすることができる。さらに、その製造方法で得られた含フッ素弾性共重合体は、架橋反応性に優れており、その含フッ素弾性共重合体を架橋して得られる架橋フッ素ゴムは、架橋ゴム物性に優れ、特に引張り強度、硬度、伸び、圧縮永久歪み等に優れ、薬液への溶出分が著しく少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の製造方法において使用される、含フッ素モノマー(a)は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、CF=CF−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロ(アルコキシアルキル)基である。)で表されるパーフルオロビニルエーテルからなる群より選ばれる1種以上である。
以下、含フッ素モノマーにおいて、テトラフルオロエチレンをTFE、ヘキサフルオロプロピレンをHFP、フッ化ビニリデンをVdF、CF=CF−O−RをPAVE、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)をPMVE、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)をPPVE、という。
【0014】
本発明の製造方法において使用される、ビニルエステルモノマー(b)は、一般式CR=CRCOOCH=CH(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基又はエーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜10のアルコキシアルキル基であり、Rは水素原子、フッ素原子又はメチル基である。)である。
前記ビニルエステルモノマーとしては、R及びRが水素原子であることが好ましい。具体例としては、Rがメチル基でありR及びRが水素原子であるクロトン酸ビニル、R、R及びRが水素原子であるメタクリル酸ビニルが好ましく、クロトン酸ビニルがより好ましい。ビニルエステルモノマー(b)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ビニルエステルモノマーは、炭素−炭素不飽和二重結合を2つ持っているので、一方の炭素−炭素不飽和二重結合が含フッ素モノマーとの共重合に使用され、他の炭素−炭素不飽和二重結合は架橋反応に供するために、含フッ素弾性共重合体に残存する。
【0015】
また、本発明の製造方法において必要に応じて使用される、炭化水素モノマー(c)は、エチレン、プロピレン、CH=CH−O−R(式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。)で表されるビニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上である。炭化水素モノマー(c)としては、エチレン(以下、Eという。)及びプロピレン(以下、Pという。)がより好ましく、Pが最も好ましい。
【0016】
本発明の製造方法において、前記含フッ素モノマー(a)、前記ビニルエステルモノマー(b)および前記炭化水素モノマー(c)の使用量の割合は、(b)/((a)+(c))=0.0001〜0.1(モル比)の範囲が好ましく、より好ましくは0.0001〜0.05(モル比)の範囲であり、さらに好ましくは0.0005〜0.05(モル比)の範囲である。この範囲にあると、含フッ素弾性共重合体は架橋反応性に優れ、得られる架橋フッ素ゴムは、引張り強度、耐薬品性、耐熱性、圧縮永久歪み等の架橋ゴム物性に優れる。
【0017】
また、本発明の製造方法において、前記炭化水素モノマー(c)は必須成分ではないが、前記含フッ素モノマー(a)と前記炭化水素モノマー(c)の使用量の割合は、(c)/(a)=1/99〜70/30(モル比)が好ましく、(c)/(a)=30/70〜70/30(モル比)がより好ましく、(c)/(a)=40/60〜60/40(モル比)がさらに好ましい。この範囲にあると、架橋フッ素ゴムは、架橋ゴム物性に優れ、耐熱性及び耐薬品性、低温特性が良好である。
なお、ここで、(c)/(a)の使用量の割合とは、重合の進行にしたがって、重合槽に追加仕込みするモノマーの使用量の割合を表す。これは、生成する含フッ素弾性共重合体の共重合組成に対応する比率となる。ただし、重合場においては、(a)と(c)のモノマー反応性比を考慮して、初期の仕込みモノマー(c)/(a)の使用量の割合を設定する。たとえば、モノマー(a)がTFEであり、モノマー(c)がPの場合には、初期仕込み割合を(c)/(a)=15/85(モル比)に、使用量の割合を(c)/(a)=44/56(モル比)に設定することにより、(c)に基づく繰り返し単位/(a)に基づく繰り返し単位=約44/55(モル比)の共重合組成の含フッ素弾性共重合体が得られる。
【0018】
本発明の製造方法においては、上記モノマーを水性媒体中で乳化重合して含フッ素弾性共重合体ラテックスを製造する。
乳化重合は、乳化剤の存在下に水性媒体中で行なう重合であり、開始反応には、ラジカル重合開始剤、レドックス重合開始剤、熱、放射線等を用いることができる。
【0019】
本発明の含フッ素弾性共重合体の製造方法においては、前記乳化重合を行う際のpHが1以上10未満の範囲であることが好ましく、1〜8がより好ましく、さらに2〜8が特に好ましい。この範囲で乳化重合させると架橋ゴム物性に優れる架橋フッ素ゴムが得られる。
【0020】
水性媒体としては、水、又は水溶性有機溶媒を含有する水が好ましい。水溶性有機溶媒としては、tert−ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
tert−ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。水性媒体が水溶性有機溶媒を含有する場合には、その含有量は、水の100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、3〜20質量部がより好ましい。
【0021】
乳化剤としては、ラテックスの機械的及び化学的安定性に優れるイオン性乳化剤が好ましく、アニオン性乳化剤がより好ましい。アニオン性乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の炭化水素系乳化剤、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム等の含フッ素アルキルカルボン酸塩、一般式F(CFO(CF(X)CFO)CF(X)COOA(式中、Xはフッ素原子又は炭素原子数1〜3のパーフルオロアルキル基、Aは水素原子、アルカリ金属、NH、nは1〜10の整数、mは0又は1〜3の整数である。)で表される含フッ素乳化剤等が好ましい。
【0022】
F(CFO(CF(X)CFO)CF(X)COOAで表される含フッ素乳化剤としては、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COONH、F(CFO(CF(CF)CFO)CF(CF)COONH、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFO(CFCFO)CFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFO(CFCFO)CFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONa、F(CFOCFCFOCFCOONa、F(CFO(CFCFO)CFCOONa、F(CFOCFCFOCFCOONa、F(CFO(CFCFO)CFCOONa、F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COONa、F(CFO(CF(CF)CFO)CF(CF)COONa等が挙げられる。
【0023】
乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONHがより好ましい。
乳化剤の含有量は、水性媒体の100質量部に対して、0.01〜15質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。
【0024】
乳化重合で使用されるラジカル重合開始剤としては、水溶性開始剤が好ましく、その具体例としては、過硫酸アンモニウム塩などの過硫酸類、ジコハク酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩などの有機系開始剤等が挙げられ、好ましくは過硫酸アンモニウム塩などの過硫酸類である。
【0025】
レドックス重合開始剤系では、過硫酸アンモニウム/ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム/硫酸第一鉄系、過マンガン酸カリウム/シュウ酸系、臭素酸カリウム/亜硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム/亜硫酸アンモニウム系が好ましく、さらに過硫酸アンモニウム/亜硫酸アンモニウム系がより好ましい。
重合開始剤の含有量は、共重合に用いるモノマーに対して0.0001〜3質量%が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。
【0026】
乳化重合は、連鎖移動剤の存在下に実施することが好ましい。連鎖移動剤としては、アルコール類、ハイドロカーボン類、メルカプタン類、クロロフルオロハイドロカーボン類、Rf2(式中、Rf2は炭素原子数1〜16の飽和ポリフルオロアルキレン基を示す。以下、同じ。)、Rf2IBr等を用いることができる。
アルコール類としては、メタノール、エタノール等の1級アルコール類、1−メチルプロパノール、1−メチルブタノール、1−メチルペンタノール、1−メチルヘキサノール、1−メチルヘプタノール、1−エチルヘキサノール、1−プロピルペンタノール等の2級アルコール類等が挙げられる。
【0027】
ハイドロカーボン類としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
メルカプタン類としては、tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられる。
クロロフルオロハイドロカーボン類としては、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等が挙げられる。
f2としては、1,4−ジヨードパーフルオロブタン等が挙げられる。また、Rf2IBrとしては、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン等が挙げられる。
【0028】
重合圧力及び温度等の重合条件は、モノマー組成、ラジカル重合開始剤、レドックス重合開始剤などの分解温度等により適宜選択することができる。通常、重合圧力は0.1〜20MPaGが好ましく、0.3〜10MPaGがより好ましく、0.3〜5MPaGが最も好ましい。重合温度は0〜100℃が好ましく、10〜90℃がより好ましく、20〜80℃が最も好ましい。
【0029】
本発明の製造方法においては、得られた含フッ素弾性共重合体ラテックスのpHを1〜9に調整した後に凝集する。このpHは、1〜8が好ましく、1〜7がより好ましい。この範囲にした後、凝集させると凝集作業性が良好である。また、pHを1〜5の範囲にした後、凝集すると、凝集作業性が良好であるだけでなく、架橋フッ素ゴムの圧縮永久歪みが小さく、優れている。特に乳化重合するときのpHを1〜7、好ましくは1〜5の範囲にし、凝集するときの含フッ素弾性共重合体ラテックスのpHを1〜5の範囲にすると、一層、架橋フッ素ゴムの圧縮永久歪みが小さく、優れている。
乳化重合時のpHおよび凝集時の含フッ素弾性共重合体ラテックスのpHを上記範囲に調整する方法としては、pHを上げるには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基を添加する方法が挙げられ、pHを下げるには、硫酸、塩酸、硝酸などの酸を添加する方法が挙げられる。
なお、pHの調整には、炭酸水素ナトリムなどのpH緩衝剤を添加することもできる。
【0030】
含フッ素弾性共重合体ラテックスの凝集は、公知の凝集方法で行うことができる。凝集方法としては、金属塩の添加、塩酸等の無機酸の添加、機械的剪断、凍結解凍等の方法が用いられる。含フッ素弾性共重合体ラテックスの凝集を行った後、凝集した含フッ素弾性共重合体を単離する。
本発明の製造方法により製造される含フッ素弾性共重合体は、含フッ素モノマー(a)に基づく繰り返し単位(l)、ビニルエステルモノマー(b)に基づく繰り返し単位(m)、及び必要に応じて、炭化水素モノマー(c)に基づく繰り返し単位(n)を含有する含フッ素弾性共重合体である。
【0031】
前記繰り返し単位(m)の含有量は、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.1(モル比)の割合が好ましく、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.05(モル比)の割合がより好ましく、(m)/((l)+(n))=0.0005〜0.01(モル比)の割合がさらに好ましく、(m)/((l)+(n))=0.001〜0.008(モル比)の割合が特に好ましい。この範囲にあると、含フッ素弾性共重合体は架橋反応性に優れ、得られる架橋フッ素ゴムは、引張り強度、耐薬品性、耐熱性、圧縮永久歪み等の架橋ゴム物性に優れる。
含フッ素弾性共重合体においては、繰り返し単位比(n)/(l)は1/99〜70/30(モル比)であることが好ましく、30/70〜70/30(モル比)がより好ましく、60/40〜40/60(モル比)がさらに好ましい。この範囲にあると、含フッ素弾性共重合体は、架橋ゴム物性に優れ、耐熱性および耐薬品性、低温特性が良好である。
【0032】
前記含フッ素弾性共重合体は、含フッ素モノマーを1種のみ用いた共重合体であってもよいし、含フッ素モノマーを2種以上組み合わせて用いた共重合体であってもよいが、含フッ素モノマーを1種のみ用いた含フッ素弾性共重合体が好ましい。含フッ素モノマーを1種のみ用いた含フッ素弾性共重合体としては、TFE系共重合体が好ましい。
含フッ素モノマーの1種を用いている含フッ素弾性共重合体としては、TFE/P系共重合体、E/PAVE系共重合体、E/HFP系共重合体等が挙げられる。TFE/P系共重合体が好ましい。
【0033】
含フッ素モノマーの2種以上を用いる含フッ素弾性共重合体としては、VdF/HFP系共重合体、TFE/VdF/HFP系共重合体、TFE/PAVE系共重合体、TFE/PMVE系共重合体、TFE/PPVE系共重合体、TFE/P/VdF系共重合体、TFE/PMVE/PPVE系共重合体、VdF/PAVE系共重合体等が挙げられる。
含フッ素弾性共重合体としては、TFE/P系共重合体、TFE/P/VdF系共重合体、VdF/HFP系共重合体、TFE/VdF/HFP系共重合体、TFE/PPVE系共重合体、TFE/PMVE/PPVE系共重合体が好ましい。
【0034】
本発明の含フッ素弾性共重合体は、以下の共重合組成であることがより好ましい。共重合組成が以下の範囲であると、架橋フッ素ゴムは架橋ゴム物性に優れ、耐熱性および耐薬品性、低温特性が良好である。
TFE/P系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40(モル比)、
TFE/P/VdF系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/VdFに基づく繰り返し単位=40〜60/60〜40/1〜10(モル比)、VdF/HFP系共重合体においてVdFに基づく繰り返し単位/HFPに基づく繰り返し単位=20/80〜95/5(モル比)、
【0035】
TFE/VdF/HFP系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/VdFに基づく繰り返し単位/HFPに基づく繰り返し単位=20〜40/20〜40/20〜40(モル比)、
TFE/PAVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PAVEに基づく繰り返し単位=40/60〜70/30(モル比)、
TFE/PMVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PMVEに基づく繰り返し単位=40/60〜70/30(モル比)、
【0036】
TFE/PPVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PPVEに基づく繰り返し単位=40/60〜70/30(モル比)、
TFE/PMVE/PPVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PMVEに基づく繰り返し単位/PPVEに基づく繰り返し単位=40〜70/3〜57/3〜57(モル比)、
VdF/PAVE系共重合体においてVdFに基づく繰り返し単位/PAVEに基づく繰り返し単位=60/40〜95/5(モル比)、
E/PAVE系共重合体においてEに基づく繰り返し単位/PAVEに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40(モル比)、
E/HFP系共重合体においてEに基づく繰り返し単位/HFPに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40(モル比)。
【0037】
前記含フッ素弾性共重合体のムーニー粘度は、20〜150が好ましく、30〜150がより好ましい。ムーニー粘度は、分子量の目安であり、大きいと分子量が高く、小さいと分子量が低いことを示す。この範囲にあると含フッ素弾性共重合体の加工性と架橋ゴム物性が良好である。該ムーニー粘度は、JIS K6300に準じて、直径38.1mm、厚さ5.54mmの大ローターを用い、100℃で、予熱時間を1分、ローター回転時間を4分に設定して測定される値である。
【0038】
本発明の製造方法によると、得られる含フッ素弾性共重合体中の灰分の含有量を少なくすることができ、具体的には1質量%以下にすることができ、より少なくは0.7質量%以下にすることができ、さらに少なくは0.5質量%以下にすることができる。灰分の成分としては、リン、カルシウム、硫黄、アルミニウム、ナトリウム、フッ素、炭素、酸素などが挙げられる。これらの灰分成分のうち、リン、硫黄、アルミニウム、ナトリウム、炭素、酸素をより少なくすることができ、具体的にはこれらの合計量として全灰分量の20質量%以下にすることができ、さらには15質量%以下にすることができる。
【0039】
本発明の製造方法により得られる含フッ素弾性共重合体は、これらの灰分の成分の中で、特にリンを少なくすることができ、具体的には、1000ppm以下にすることができ、より少なくは500ppm以下にすることができ、さらに少なくは200ppm以下にすることができ、特に少なくは50ppm以下にすることができる。
上記灰分を少なくすることより、架橋フッ素ゴムの薬液への溶出分を著しく減少させることができる。
【0040】
本発明の架橋フッ素ゴムは、含フッ素弾性共重合体を架橋させてなる。
本発明において、架橋は、加熱による架橋、放射線照射による架橋などが好ましい。照射する放射線としては、電子線、紫外線などが挙げられる。
架橋を行う際の操作は、従来通常使用されている操作を採用し得る加熱架橋時の温度は、通常60〜250℃程度、好ましくは120〜200℃程度が採用され得る。
加熱架橋は、通常、含フッ素弾性共重合体に、架橋剤、架橋助剤等を配合して配合物とし、成形し、加熱することにより行なわれる。
【0041】
架橋剤としては、有機過酸化物、ポリオール、アミン化合物等が使用される。
有機過酸化物の具体例としては、ジtert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α,α−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロキシパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシマレイン酸、tert−ブチルパーオキシソプロピルカーボネート等が挙げられる。ジアルキルパーオキシド類が好ましい。
【0042】
有機過酸化物の含有量は、含フッ素弾性共重合体の100質量部に対して、0.3〜10質量部が好ましく、0.3〜5質量部がより好ましく、0.5〜3質量部が最も好ましい。この範囲にあると引張り強度と伸びのバランスに優れた架橋フッ素ゴムが得られる。
【0043】
本発明の含フッ素弾性共重合体を架橋する時に、架橋助剤を含有することが好ましい。架橋助剤を含有すると、架橋効率が高い。架橋助剤の具体例としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタクリルイソシアヌレート、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、トリアリルトリメリテート、m−フェニレンジアミンビスマレイミド、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N′,N′′,N′′′−テトラアリルテレフタールアミド、ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルビニルシロキサン等のビニル基含有シロキサンオリゴマー等が挙げられる。特に、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。
架橋助剤の含有量は、含フッ素弾性共重合体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。この範囲にあると強度と伸びのバランスのとれた架橋ゴム物性が得られる。
【0044】
本発明の含フッ素弾性共重合体を架橋する時に、補強剤、充填剤、添加剤などを適宜配合することが好ましい。補強材、充填材としては、従来架橋ゴムの製造に際して通常使用されるゴム補強材や、充填材などが挙げられ、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラツクやホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、表面処理した炭酸カルシウムなどの無機補強材、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、珪藻土、アルミナ、硫酸バリウムなどの無機充填材や、その他の充填材が挙げられ、添加剤としては、顔料、酸化防止剤、安定剤、加工助剤、内部離型剤などの添加剤などが挙げられる。補強材、充填材、添加剤は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。補強材の配合量は、適宜選定すればよいが、含フッ素弾性共重合体100質量部に対して1〜100質量部が好ましい。充填材の配合量は、適宜選定すればよいが、含フッ素弾性共重合体100質量部に対して1〜100質量部が好ましい。
【0045】
本発明の含フッ素弾性共重合体を架橋させる時に、必要に応じて金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種を含有させることも好ましい。金属の酸化物および水酸化物としては、2価金属の酸化物および水酸化物が好ましい。これにより、含フッ素弾性共重合体を架橋させる時に、架橋反応を速やかにかつ確実に進行させることができ、優れた物性を示す架橋物を得ることができる。2価金属の酸化物の具体例としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉛等が好ましい。2価金属水酸化物の具体例としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0046】
2価金属の酸化物および2価金属の水酸化物は、それぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用してもよい。また、2価金属の酸化物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、2価金属の水酸化物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種の含有量は、含フッ素弾性共重合体の100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。この範囲にあると強度と伸びのバランスに優れる架橋ゴム物性が得られる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、含フッ素弾性共重合体の共重合組成、ムーニー粘度及び架橋フッ素ゴムの物性、凝集作業性、灰分分析は、以下の方法により測定した。なお、以下において、酸性重合はpHが7未満の酸性条件下での重合を、中性重合はpHが7の中性条件下での重合を、塩基性重合はpHが7超の塩基性条件下の重合を、酸性凝集はpHが7未満の酸性条件下の凝集を、中性凝集はpHが7の中性条件下での凝集を、塩基性凝集はpHが7超の塩基性条件下の凝集を、意味する。
[含フッ素弾性共重合体の共重合組成]
含フッ素弾性共重合体を重水素化テトラヒドロフランに溶解し、13C−NMRを測定して共重合組成を分析した。
【0048】
[ムーニー粘度]
JIS K6300に準じて、直径38.1mm、厚さ5.54mmの大ローターを用い、100℃で、予熱時間を1分、ローター回転時間を4分に設定して測定された粘度を示す。値が大きい程、間接的に高分子量であることを示す。
【0049】
[架橋フッ素ゴムの物性(引張強さ、伸びおよび硬度)]
含フッ素弾性共重合体の100質量部に対して、カーボンブラックの25質量部、トリアリルイソシアヌレートの3質量部、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(化薬アクゾ社製パーカドックス14)の1質量部を2本ロールで混練し、170℃の熱プレスで20分間一次架橋を実施し、200℃のオーブン内で4時間の2次架橋を行った。得られた架橋フッ素ゴムの引張強さ及び破断伸びはJIS K6251に準じて測定した。また、硬度はJIS K6253に準じて測定した。
【0050】
[架橋フッ素ゴムの圧縮永久ひずみ]
上記架橋フッ素ゴムの物性の欄で記載した架橋条件と同様な架橋条件で、含フッ素弾性共重合体を架橋し、JIS K6262に準じて、円柱状試験片(直径29mm、厚さ12.5mm)を作成し、その試験片を用いて圧縮率25%、試験温度200℃、試験時間70時間の条件にて試験をおこなった。試験終了後に室温にて30分静置後、該試験片の厚みを測定して、試験前の厚みとの差の比率を百分率で算出した。この値が小さいほど良好なゴム物性を示している。
【0051】
[凝集作業性]
含フッ素弾性共重合体ラテックスを塩化カルシウムの1.5質量%水溶液に添加して、塩析により含フッ素弾性共重合体ラテックスを凝集させる作業において、凝集物と凝集液とをろ別するのに要する時間を指標とする。固形分濃度約20質量%の含フッ素弾性共重合体ラテックスの約2200gを塩化カルシウムの1.5質量%水溶液の約3300gに添加し含フッ素弾性共重合体を析出させた後、凝集物と凝集液の全量をろ紙でろ別し、ろ別が終わるまでの時間を測定した。この時間が短いほど凝集時の作業性が良好である。ろ紙はJIS P 3801に規定される1種に相当する厚さ0.2mm直径330mmのものを使用した。○は1分未満で作業性に優れることを、×は1分以上で作業性が不充分であることを示す。
【0052】
[灰分測定]
乾燥した含フッ素弾性共重合体の約1.0gを白金るつぼに量り取り、700℃に保った電気炉(ヤマト科学製)に入れて15分間加熱することにより含フッ素弾性共重合体由来の揮発性熱分解物を十分に揮散させた。白金るつぼに残った残存分の質量を秤り、以下の式によって灰分を算出した。
灰分(質量%)=加熱後残存分の質量(g)/加熱前乾燥ポリマーの質量(g)×100この灰分の値が小さいほど含フッ素弾性共重合体に含まれる金属分量が少ないことを示す。
【0053】
[灰分中の元素濃度測定]
残存灰分をエネルギー分散型分析装置(OXFORD製:ISIS300)を用い蛍光X線強度測定を行った。その検出される蛍光波長より元素種、蛍光強度より各元素の含有率を求めた。各元素の標準サンプルの蛍光強度比と質量比の関係から灰分に含まれる元素の質量%を算出した。
【0054】
[実施例1]
(酸性重合−酸性凝集)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、1600gのイオン交換水、97gのtert−ブタノール、9gのラウリル硫酸ナトリウムの均一混合液を加えた。該均一混合液のpHは7.0であった。ついで、該反応器内溶液を80℃に昇温させ、あらかじめ調製しておいたTFE/P=85/15(モル比)のモノマー混合ガスを、反応器内圧が2.50MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、過硫酸アンモニウムの10質量%水溶液を25g添加し、重合反応を開始させた。
【0055】
重合の進行に伴い圧力が低下するので、反応器内圧が2.49MPaGに降下した時点で、あらかじめ調製しておいたTFE/P=56/44(モル比)の混合ガスを自圧で圧入し、反応器内圧を2.51MPaGまで昇圧させた。これを繰り返し、反応器内圧を2.49〜2.51MPaGに保持し、重合反応を続けた。TFE/P混合ガスの添加量が10gになった時点で、あらかじめ調製しておいたクロトン酸ビニル/tert−ブタノール=8/92(質量比)溶液の1mLを反応器内に窒素背圧で圧入した。以降、TFE/P混合ガスの添加量が390gまで、10g毎に該クロトン酸ビニルのtert−ブタノール溶液の1mLを添加し、合計39mL圧入した。TFE/P混合ガスの添加量の総量が400gとなった時点で、反応器内温を10℃に冷却し、重合反応を停止し、固形分濃度19質量%のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体ラテックスを得た。得られたラテックスのpHは2.0であった。重合時間は約3.5時間であった。
【0056】
pH2.0の該ラテックスの2161gを塩化カルシウムの1.5質量%水溶液の3241gに添加して、塩析によりラテックスを凝集させ、TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体を析出させた。該共重合体をろ別し、イオン交換水により洗浄し、100℃のオーブンで12時間乾燥させ、白色のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の398gを得た。
【0057】
該共重合体の赤外スペクトルには、1700cm−1付近に炭素−炭素二重結合に基づく吸収が確認された。該共重合体の組成は、TFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/クロトン酸ビニルに基づく繰り返し単位=55.4/44.6/0.39(モル比)であった。ムーニー粘度は、130であった。該TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の架橋フッ素ゴム物性を表1に示す。
【0058】
[実施例2]
(塩基性重合−酸性凝集)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、1600gのイオン交換水、97gのtert−ブタノール、9gのラウリル硫酸ナトリウム、1.5gの水酸化ナトリウム、42gのリン酸水素ナトリウムを加えた。pHは11.5であった。ついで、80℃で、TFE/P=85/15(モル比)のモノマー混合ガスを、反応器内圧が2.50MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、過硫酸アンモニウムの10質量%水溶液を25g添加し、重合反応を開始させた。
【0059】
その他は、実施例1と同様にして、固形分濃度20質量%のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体ラテックスを得た。得られたラテックスのpHは9.5であった。重合時間は約3.5時間であった。
硫酸により該ラテックスの2205gのpHを2.0に調整した後、塩化カルシウムの1.5質量%水溶液の3307gに添加して、塩析によりラテックスを凝集させ、TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体を析出させた。該共重合体をろ別し、イオン交換水により洗浄し、100℃のオーブンで12時間乾燥させ、白色のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の398gを得た。
【0060】
該共重合体の赤外スペクトルには、1700cm−1付近に炭素−炭素二重結合に基づく吸収が確認された。該共重合体の組成は、TFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/クロトン酸ビニルに基づく繰り返し単位=55.4/44.6/0.39(モル比)であった。ムーニー粘度は、132であった。該TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の架橋フッ素ゴム物性を表1に示す。
【0061】
[実施例3]
(中性重合−中性凝集)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、1600gのイオン交換水、97gのtert−ブタノール、9gのラウリル硫酸ナトリウム、8.0gの亜硫酸アンモニウムを加えた。この時点での溶液のpHは7.0であった。ついで、40℃で、TFE/P=85/15(モル比)のモノマー混合ガスを、反応器内圧が2.50MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、過硫酸アンモニウムの10質量%水溶液を添加し、重合反応を開始させた。以降、過硫酸アンモニウム10質量%水溶液を高圧ポンプを用いて連続的に添加した。
【0062】
重合の進行に伴い圧力が低下するので、反応器内圧が2.49MPaGに降下した時点で、TFE/P=56/44(モル比)の混合ガスを自圧で圧入し、反応器内圧を2.51MPaGまで昇圧させた。これを繰り返し、反応器内圧を2.49〜2.51MPaGに保持し、重合反応を続けた。TFE/P混合ガスの添加量が10gになった時点で、あらかじめ調製しておいたクロトン酸ビニル/tert−ブタノール=4/96(質量比)溶液の1mLを反応器内に窒素背圧で圧入した。以降、TFE/P混合ガスの添加量が390gまで、10g毎に該クロトン酸ビニルのtert−ブタノール溶液の1mLを添加し、合計39mL圧入した。TFE/P混合ガスの添加量の総量が400gとなった時点で、過硫酸アンモニウム10質量%水溶液の添加を停止し、反応器内温を10℃に冷却し、重合反応を停止し、固形分濃度19質量%のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体ラテックスを得た。得られたラテックスのpHは7.0であった。過硫酸アンモニウム10質量%水溶液の使用量は80gであった。重合時間は約3.5時間であった。
【0063】
pH7.0の該ラテックスの2223gを、塩化カルシウムの1.5質量%水溶液の3334gに添加して、塩析によりラテックスを凝集させ、TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体を析出させた。該共重合体をろ別し、イオン交換水により洗浄し、100℃のオーブンで12時間乾燥させ、白色のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の398gを得た。
該共重合体の赤外スペクトルには、約1700cm−1に炭素−炭素二重結合に基づく吸収が確認された。該共重合体の組成は、TFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/クロトン酸ビニルに基づく繰り返し単位=55.6/44.4/0.19(モル比)であった。ムーニー粘度は、157であった。該TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の架橋フッ素ゴム物性を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
(塩基性重合―塩基性凝集)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、1600gのイオン交換水、97gのtert−ブタノール、9gのラウリル硫酸ナトリウム、1.5gの水酸化ナトリウム、42gのリン酸水素ナトリウムを加えた。pHは11.5であった。ついで、80℃で、TFE/P=85/15(モル比)のモノマー混合ガスを、反応器内圧が2.50MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、過硫酸アンモニウムの10質量%水溶液を25g添加し、重合反応を開始させた。
【0065】
その他は、実施例1と同様にして、固形分濃度21質量%のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体ラテックスを得た。得られたラテックスのpHは9.5であった。重合時間は約3.5時間であった。
pH9.5の該ラテックスの2207gを塩化カルシウムの1.5質量%水溶液の3310gに添加して、塩析によりラテックスを凝集させ、TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体を析出させた。該共重合体をろ別し、イオン交換水により洗浄し、100℃のオーブンで12時間乾燥させ、白色のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の397gを得た。
該共重合体の赤外スペクトルには、1700cm−1付近に炭素−炭素二重結合に基づく吸収が確認された。該共重合体の組成は、TFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/クロトン酸ビニルに基づく繰り返し単位=55.4/44.6/0.39(モル比)であった。ムーニー粘度は、131であった。該TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の架橋フッ素ゴム物性を表1に示す。
【0066】
[比較例2]
(塩基性重合−塩基性凝集)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、1600gのイオン交換水、40gのリン酸水素二ナトリウム12水和物、0.5gの水酸化ナトリウム、97gのtert−ブタノール、9gのラウリル硫酸ナトリウム、2.5gの過硫酸アンモニウムを加えた。さらに予め200gのイオン交換水に0.4gのEDTA及び0.3gの硫酸第一鉄7水和物を溶解させた水溶液を投入した。この時点で溶液のpHは11.5であった。ついで、40℃で、TFE/P/プロパン=85/12/3(モル比)のモノマー混合ガスを、反応器内圧が2.60MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、ロンガリット4.6質量%水溶液を添加し、重合反応を開始させた。以降、ロンガリット4.6質量%水溶液を高圧ポンプを用いて連続で添加した。
【0067】
重合の進行に伴い圧力が低下するので、反応器内圧が2.59MPaGに降下した時点で、TFE/P/プロパン=51/40/9(モル比)の混合ガスを自圧で圧入し、反応器内圧を2.61MPaGまで昇圧させた。これを繰り返し、反応器内圧を2.59〜2.61MPaGに保持し、重合反応を続けた。TFE/P/プロパン混合ガスの添加量が10gになった時点であらかじめ調製しておいたクロトン酸ビニル/tert−ブタノール=7.5/92.5(質量比)溶液の1mLを反応器内に窒素背圧で圧入した。以降、TFE/P/プロパン混合ガスの添加量が390gまで、10g毎に該クロトン酸ビニルのtert−ブタノール溶液の1mLを添加し、合計39mL圧入した。TFE/P/プロパン混合ガスの添加量の総量が400gとなった時点で、ロンガリット4.6質量%水溶液の添加を停止し、反応器内温を10℃に冷却し、重合反応を停止し、固形分濃度20質量%のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体ラテックスを得た。得られたラテックスのpHは9.5であった。ロンガリット4.6質量%水溶液の使用量は26gであった。重合時間は約4時間であった。
【0068】
比較例1と同様にして、該ラテックスの2179gを1.5質量%の塩化カルシウム水溶液の3268gで塩析し、析出した共重合体の洗浄、乾燥により、白色のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の365gを得た。
該共重合体の赤外スペクトルには、1700cm−1付近に炭素−炭素二重結合に基づく吸収が確認された。該共重合体の組成は、TFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/クロトン酸ビニルに基づく繰り返し単位=55.1/44.9/0.39(モル比)であった。ムーニー粘度は、130であった。該TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の架橋ゴム物性を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
pHが2〜7の範囲で凝集して得た実施例1〜3のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体はいずれも凝集作業性に優れ、優れた架橋ゴム物性を示した。また、pH2で凝集して得た実施例1、2のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体はいずれも圧縮永久歪みが小さく、特に乳化重合時のpHが7であり、凝集時のpHが2である実施例1では圧縮永久歪みが小さい。また、実施例3の過硫酸アンモニウムと亜硫酸アンモニウムを用いたレドックス重合開始剤系で共重合して得たTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体では、添加する触媒量が減量され簡略な方法で重合ができ、伸びに優れる架橋フッ素ゴムが得られた。これに対し、pHが9を超える範囲で重合・凝集して得た比較例1、2のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体は、凝集作業性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法で製造した含フッ素弾性共重合体の架橋フッ素ゴムは、Oリング、シート、ガスケット、オイルシール、ダイヤフラム、V−リングに用いられる。また、耐熱性耐薬品性シール材、電線被覆材、半導体装置用シール材、耐蝕性ゴム塗料、耐ウレア系グリース用シール材等の用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、CF=C
F−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8のパーフルオロアルキル基又はパーフルオ
ロ(アルコキシアルキル)基である。)で表されるパーフルオロビニルエーテルからなる
群より選ばれる1種以上の含フッ素モノマー(a)、一般式CR=CRCOOC
H=CH(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜10の
アルキル基又はエーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜10のアルコキシアルキル基で
あり、Rは水素原子、フッ素原子又はメチル基である。)で表されるビニルエステルモ
ノマー(b)、及び必要に応じて、エチレン、プロピレン、CH=CH−O−R(式
中、Rは炭素数1〜8のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。)で表されるビ
ニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上の炭化水素モノマー(c)を、水性媒体中
で乳化重合して含フッ素弾性共重合体ラテックスを製造し、次に該含フッ素弾性共重合体
ラテックスのpHを1〜9に調整した後、凝集して含フッ素弾性共重合体を単離すること
を特徴とする含フッ素弾性共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ビニルエステルモノマー(b)におけるRおよびRが水素原子である請求項1
に記載の含フッ素弾性共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ビニルエステルモノマー(b)がメタクリル酸ビニルおよびクロトン酸ビニルから
なる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の含フッ素弾性共重合体の製造
方法。
【請求項4】
前記含フッ素弾性共重合体における、前記含フッ素モノマー(a)に基づく繰り返し単
位(l)と前記炭化水素モノマー(c)に基づく繰り返し単位(n)の含有割合が、(n
)/(l)=30/70〜70/30(モル比)である請求項1〜3のいずれかに記載の
含フッ素弾性共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記含フッ素モノマー(a)がテトラフルオロエチレンであり、前記炭化水素モノマー
(c)がプロピレンであり、前記含フッ素弾性共重合体における、前記含フッ素モノマー
(a)に基づく繰り返し単位(l)と前記炭化水素モノマー(c)に基づく繰り返し単位
(n)の含有割合が(n)/(l)=40/60〜60/40(モル比)である請求項1
〜4のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記含フッ素弾性共重合体における、前記含フッ素モノマー(a)に基づく繰り返し単
位(l)、前記ビニルエステルモノマー(b)に基づく繰り返し単位(m)、および前記
炭化水素モノマー(c)に基づく繰り返し単位(n)の含有割合が、(m)/((l)+
(n))=0.0001〜0.1(モル比)である請求項1〜5のいずれかに記載の含フ
ッ素弾性共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記pHが1〜8である請求項1〜6のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体の製造
方法。
【請求項8】
乳化重合時のpHが1〜8である請求項1〜7のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合
体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体の製造方法により得られたもの
であることを特徴とする含フッ素弾性共重合体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体の製造方法により得られた含フッ素弾性共重合体を架橋させてなることを特徴とする架橋フッ素ゴム。

【公開番号】特開2007−211233(P2007−211233A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319198(P2006−319198)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】