説明

含フッ素樹脂成形体の製造方法

【課題】低温、短時間のアニールによって、機械強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体を得ることができる含フッ素樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】次の工程a)およびb)、a)含フッ素樹脂または該含フッ素樹脂を含む混合物を成形して含フッ素樹脂成形体中間物を得る工程と、b)得られた含フッ素樹脂成形体中間物中の含フッ素樹脂100質量部に対して良溶媒を25〜500質量部含浸させてアニールをする工程と、を少なくとも有する含フッ素樹脂成形体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素樹脂成形体の製造方法に関し、詳しくは、低温、短時間のアニールによって、機械強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体を得ることができる含フッ素樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素樹脂成形体の製造では、成形工程の後に、熱的に安定な相を形成したり、結晶性を制御したり、残留応力を取り除いたりするためにアニールを行うことが効果的であることが知られている。特に電解質ポリマーは、典型的には分散液を塗工(キャスト)し、乾燥することにより成形されるため、乾燥凝集したポリマー粒子から連続的固体相を得るために120℃以上でアニールすることが有効であることが特許文献1に開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、物理的強度や耐久性が十分な膜を得るために、含フッ素樹脂のガラス転移点(Tg)よりも10℃以上高く、かつ高温による電解質ポリマーの分解につながる210℃よりも低い温度でアニールすることが開示されている。
【0004】
さらに、電解質膜は含水率の変化や温度変化に伴う面積方向の寸法変化が少ないことが望まれているが、この点について特許文献3には、寸法安定性を向上させる手法として、加熱時に延伸し、その次に延伸温度よりも高い温度でアニールすることが開示されている。
【0005】
さらにまた、特許文献4には、電解質膜の製造方法として、電解質ポリマーの懸濁液に用いられる溶媒よりも低沸点であり、かつ電解質ポリマーに対して貧溶媒である液に電解質膜を接触させることで、その乾燥速度を向上させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−501484号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特表2007−511047号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2005−166329号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2007−042582号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の技術のように連続的固体相を得ることは、電解質膜形成において必要な条件ではあるが、それだけでは、電解質膜の使用環境において十分な物理的強度および寸法安定性は得られないという問題がある。さらに、アニールが十分ではないと、製造プロセスにおいて、物理的強度が弱いために電解質膜がダメージを受ける場合があるという問題もある。
【0008】
また、特許文献2記載の技術では、含フッ素樹脂成形体が耐熱性の低い材料を含む場合には、その材料の耐熱性に見合った温度でアニールする必要があり、アニールが不十分になるか、あるいは長時間のアニールが必要になるという問題がある。一方、含フッ素樹脂のTgよりも高い温度でのアニールでは、含フッ素樹脂が軟化するために、高い耐熱性を有する支持体が必要となり、製造コストが高くなってしまうという問題がある。また、アニール温度は電解質ポリマーの分解温度より低い必要があるが、アニール可能上限温度においても、十分な機械的強度を得るためには長時間を必要とする場合があり、効率の面でも問題がある。
【0009】
さらに、特許文献3記載の技術のように電解質膜を加熱時に延伸する方法は、長期間の使用や、温度・湿度環境の変化にさらされることにより残留歪みが緩和し、その効力が低減するという問題がある。また、電解質膜に歪みが残っているために、膜が破断するまでの伸度が低く、取り扱いが困難である場合がある。さらに、延伸装置は、装置コストが高いという問題もある。
【0010】
さらにまた、特許文献4記載の技術のように貧溶媒に接触させる工程の採用は、乾燥速度を向上させるという効果はあるが、アニールによる物性向上には寄与しないという問題がある。いずれにしても、これまでは機械的強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体を効率よく製造することはできなかったのが、実情である。
【0011】
そこで本発明の目的は、低温、短時間のアニールによって、機械強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体を得ることができる含フッ素樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、形成された含フッ素樹脂成形体中間物を良溶媒で膨潤させた後にアニールすることで、アニール温度の低下またはアニール時間の短縮、あるいはこれらの双方を行っても同等性能を有する含フッ素樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の含フッ素樹脂成形体の製造方法は、下記工程a)およびb)、
a)含フッ素樹脂または該含フッ素樹脂を含む混合物を成形して含フッ素樹脂成形体中間物を得る工程と、
b)得られた含フッ素樹脂成形体中間物中の含フッ素樹脂100質量部に対して良溶媒を25〜500質量部含浸させてアニールをする工程と、
を少なくとも有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の製造方法よりも低温、短時間のアニールによって、機械強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体、特に含フッ素樹脂フィルムを作製することができる。かかるアニール温度の低下は省エネルギーになるだけでなく、フィルム支持体等への負荷の低減にもなり、多様な支持体材料を選択することが可能である。また、本発明によれば、従来の製造方法ではアニールを十分に行うことができなかった、含フッ素樹脂よりも低い耐熱性を有する材料を含む場合でも十分にアニールすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。
(工程a))
含フッ素樹脂または該含フッ素樹脂を含む混合物を成形して含フッ素樹脂成形体中間物を得る工程a)としては、特に限定されないが、例えば、含フッ素樹脂または該含フッ素樹脂を含む混合物を溶媒に、懸濁、分散または溶解させた液を塗工液として基材に塗工(塗布)し、乾燥させることにより好適にフィルム状に成形することができる。
【0016】
本発明において、塗工方法としては特に限定されないが、具体例を示すと、バッチ式の方法としてはバーコータ法、スピンコータ法、スクリーン印刷法等があり、連続式の方法としては後計量法と前計量法がある。後計量法は、過剰の塗工液を塗工し、後から所定の膜厚となるように塗工液を除去する方法であり、前計量法は、所定の膜厚を得るのに必要な量の塗工液を塗工する方法である。
【0017】
後計量法としては、エアドクタコータ法、ブレードコータ法、ロッドコータ法、ナイフコータ法、スクイズコータ法、含浸コータ法、コンマコータ法等があり、前計量法としては、ダイコータ法、リバースロールコータ法、トランスファロールコータ法、グラビアコータ法、キスロールコータ法、キャストコータ法、スプレイコータ法、カーテンコータ法、カレンダコータ法、押出コータ法等がある。均一な塗工層を形成するためには、スクリーン印刷法およびダイコータ法が好ましく、コスト面、量産を考慮すると連続式のダイコータ法が好ましい。
【0018】
本発明において使用し得る含フッ素樹脂は、特に限定されないが、その用途の多様性から、好ましくは電解質ポリマーである。特には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体が好ましく、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、スルホン酸基を有するパーフルオロビニルエーテルに基づく単位とを含む共重合体がより好ましい。なお、通常このような共重合体は、テトラフルオロエチレンと−SOF基等のスルホン酸基の前駆体基を有するパーフルオロビニルエーテルとを共重合した後、加水分解、酸型化して得ることができる。
【0019】
スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(スルホン酸型パーフルオロカーボンポリマー)としては、下記ポリマー(H)または下記ポリマー(Q)が好ましく、ポリマー(Q)が特に好ましい。
【0020】
ポリマー(H)は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と記す)に基づく単位と、下記単位(1)とを有するコポリマーである。
【0021】
単位(1):
【0022】
【化1】

【0023】
(ただし、単位(1)の式中、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0または1である。)
【0024】
かかるポリマー(H)は、TFEおよび下記化合物(2)の混合物を重合して前駆体ポリマー(以下、「ポリマー(F)」と記す)を得た後、ポリマー(F)中の−SOF基をスルホン酸基に変換することにより得られる。−SOF基のスルホン酸基への変換は、加水分解および酸型化処理により行われる。
【0025】
化合物(2):
CF=CF(OCFCFX)−O−(CF−SOF (2)
(ただし、化合物(2)の式中、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0または1である。)
【0026】
また、上記化合物(2)としては、下記化合物(21)〜(23)が好ましい。
【0027】
CF=CFO(CFn1SOF (21)
CF=CFOCFCF(CF)O(CFn2SOF (22)
CF=CF(OCFCF(CF))m3O(CFn3SOF (23)
(ただし、化合物(21)〜(23)の式中、n1、n2、n3は、1〜8の整数であり、m3は、1〜3の整数である。)
【0028】
ポリマー(Q)は、TFEに基づく単位と、下記単位(U1)とを有するコポリマーである。
【0029】
単位(U1):
【0030】
【化2】

【0031】
(ただし、単位(U1)の式中、Qは、エーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Qは、単結合、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基であり、Yは、フッ素原子または1価のパーフルオロ有機基であり、単結合は、CYの炭素原子と、SOHのイオウ原子とが直接結合していることを意味し、有機基は、炭素原子を1以上含む基を意味する。)
【0032】
上記単位(U1)において、Q、Qのパーフルオロアルキレン基がエーテル性の酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、パーフルオロアルキレン基の炭素原子−炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。さらに、パーフルオロアルキレン基の炭素数は1〜6が好ましく、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【0033】
また、上記単位(U1)としては、下記単位(M1)が好ましく、下記単位(M11)または下記単位(M12)がより好ましい。
【0034】
単位(M1):
【0035】
【化3】

【0036】
(ただし、単位(M1)の式中、RF11は、単結合、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基であり、RF12は、炭素数1〜6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0037】
単位(M11):
【0038】
【化4】

【0039】
単位(M12):
【0040】
【化5】

【0041】
さらに、ポリマー(Q)は、他のモノマーに基づく繰り返し単位(以下、「他の単位」と記す)を有していてもよい。
【0042】
上記他の単位としては、機械的強度および化学的な耐久性の点から、パーフルオロモノマーに基づく繰り返し単位が好ましく、上記の官能基を有する単位(1)に基づく繰り返し単位や、下記単位(M2)基づく繰り返し単位が好ましい。かかる単位(M2)としては、下記単位(M21)または下記単位(M22)がより好ましい。
【0043】
単位(M2):
【0044】
【化6】

【0045】
(ただし、単位(M2)の式中、tは、0〜5の整数であり、qは、1〜12の整数である。)
【0046】
単位(M21):
【0047】
【化7】

【0048】
単位(M22):
【0049】
【化8】

【0050】
また、ポリマー(Q)のイオン交換当量(EW)は、400〜900g乾燥樹脂/当量(以下、「g/当量」と記す)が好ましく、500〜800g/当量がより好ましい。
【0051】
さらに、ポリマー(Q)の質量平均分子量は、1×10〜1×10が好ましく、5×10〜5×10がより好ましい。
【0052】
また、ポリマー(Q)の質量平均分子量は、TQ値を測定することにより評価できる。TQ値(単位:℃)は、ポリマーの分子量の指標であり、長さ1mm、内径1mmのノズルを用い、2.94MPaの押出し圧力の条件でポリマーの溶融押出しを行った際の押出し量が100mm/秒となる温度である。例えば、TQ値が200〜300℃であるポリマーは、ポリマーを構成する繰り返し単位の組成で異なるが、質量平均分子量が1×10〜1×10に相当する。
【0053】
さらに、含フッ素イオン交換樹脂のイオン交換容量は、導電性およびガス拡散性の点から、1.1〜1.8ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.25〜1.65ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。
【0054】
また、本発明において、上記含フッ素樹脂を含む混合物に含むことができる他の成分として、非フッ素系交換樹脂を使用することができる。該非フッ素系交換樹脂としては、スルホン化ポリアリーレン、スルホン化ポリベンゾオキサゾール、スルホン化ポリベンゾチアゾール、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルホン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリフェニレンスルホキシド、スルホン化ポリフェニレンサルファイド、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトンケトン、スルホン化ポリイミド等が挙げられる。
【0055】
上記塗工液に含まれる溶媒は、単独溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。例えば、アルコール類、含フッ素溶媒等を使用することができる。
【0056】
アルコール類としては、主鎖の炭素数が1〜4のものが好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等を好適に使用することができる。また、アルコールに水を混合すると樹脂の溶解性を高めることもできる。
【0057】
含フッ素溶媒としては、例えば、下記のものが挙げられる。1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,3,4,5,5,5,−ノナフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−ペンタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,6,6,6−ドデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−ペンタン、1,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,2−ジ(トリフルオロメチル)−シクロブタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロヘキサン等のフルオロカーボン;1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、2,2,2−トリフルオロ−1、1−ジクロロエタン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等のハイドロクロロフルオロカーボン;1,1,2,2−テトラフルオロエチル−1,1,1−トリフルオロエチルエーテル、メチル−1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロピルエーテル等のフルオロエーテル;2,2,2−トリフロロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフロロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロイソプロパノール等の含フッ素アルコールが挙げられる。
【0058】
本発明において、上記塗工液の粘度は0.1〜10Pa・sの範囲が好ましい。0.1Pa・s未満では粘度が低すぎ、塗布した際に塗工液が基材にのらず流れ出すおそれがある。一方、10Pa・sを超えると、粘度が高すぎて均一な塗工が難しくなる。また、塗工液の濃度は用いる溶媒によって異なるが、塗工液の粘度を考慮して0.1〜50質量%、特に0.1〜30質量%であることが好ましい。
【0059】
本発明において、上記塗工液を塗工する基材は特に限定されず、乾燥の際に溶融しなければよい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の炭化水素系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系フィルムが挙げられる。
【0060】
(工程b))
次に、工程b)において含フッ素樹脂成形体中間物中に良溶媒を含浸させる方法は、特に限定されないが、具体的には、良溶媒を含フッ素樹脂成形体中間物上に流延塗布する方法、含フッ素樹脂成形体中間物を良溶媒中に浸漬する方法、含フッ素樹脂成形体中間物を良溶媒の蒸気に暴露する方法等が挙げられる。
【0061】
良溶媒を含フッ素樹脂成形体中間物上に流延塗布する方法としては、上記塗工工程と同様の塗工方法の何れも用いることができるが、良溶媒である塗布液を含フッ素樹脂が吸収するため、前計量法の方が好ましい。特に、含フッ素樹脂が軟化することから含フッ素樹脂成形体中間物の変形を避けるためには非接触であるスプレイコータ法、ダイコータ法が好ましく、均一な塗工量を得るためにはダイコータ法が好ましい。
【0062】
また、含フッ素樹脂成形体中間物を良溶媒中に浸漬する方法は、含フッ素樹脂成形体中間物中の含フッ素樹脂に良溶媒を含浸させることができれば、浸漬時間、溶剤組成等は限定されないが、溶媒の種類によっては含フッ素樹脂が溶媒中に溶解する場合があるため、浸漬時間、溶剤組成等を含浸量が適切になるように調整することが好ましい。
【0063】
さらに、含フッ素樹脂成形体中間物を良溶媒の蒸気に暴露する方法は、含フッ素樹脂成形体中間物の含フッ素樹脂に良溶媒を含浸させることができれば、暴露時間、温度、圧力等は限定されないが、含浸量が適切になるように、暴露時間、温度、圧力を調整することが好ましい。
【0064】
良溶媒を含フッ素樹脂成形体中間物に含浸させる量は、用いる良溶媒および用いる含フッ素樹脂によって異なるが、含フッ素樹脂成形体中間物中の含フッ素樹脂100質量部に対して、25〜500質量部であり、好ましくは50〜500質量部である。含浸量が25質量部よりも低いと、アニール工程の進行に伴い良溶媒の揮発が協奏的に生じることから、アニール処理促進とともに良溶媒自身の揮発が協奏的に生じてしまい、アニール処理効果を十分に得ることができない。一方、500質量部を超える量を含浸させると含フッ素樹脂成形体の形態そのものを維持できないおそれがある。
【0065】
本発明において、良溶媒とは、含フッ素樹脂を全質量の10質量%となるように溶媒と混合したときに、溶媒の沸点以下の温度で、含フッ素樹脂中に溶媒が浸透して含フッ素樹脂の不溶解物をなくすことができる溶媒をいう。
【0066】
かかる良溶媒としては、例えば、含フッ素化合物、アルコール類、グリコールエーテル類、芳香族炭化水素類等を好適に用いることができる。特に好適には、含フッ素樹脂成形体中間物を形成するために工程a)で用いられる溶媒の他に、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、アサヒクリンAK−225 TM(旭硝子社製、日本、東京)、セロソルブ、トルエン、n−ブチルアルコール等を挙げることができる。また、良溶媒は単独であっても2種以上を混合したものであってもよい。
【0067】
また、良溶媒はアニール後には含フッ素樹脂成形体内に残存しないことが好ましいため、良溶媒の沸点がアニール温度以下であることが好ましく、含フッ素樹脂成形体を形成する工程において用いられる溶媒と共沸する性質を有することが特に好ましい。
【0068】
アニールを行うときのアニール温度については、含フッ素樹脂成形体中間物中の含フッ素樹脂に良溶媒を含浸させることを行わない従来のアニール温度よりも低く設定しても、最終含フッ素樹脂成形体において従来と同等の性能を得ることができる。また、アニール時間については、温度が同じ場合には短縮することができ、あるいは温度の低下と時間の短縮とを同時に行っても従来と同等の性能を得ることができる。
【0069】
具体的には、含フッ素樹脂が電解質ポリマーである場合、アニール温度は120〜200℃が好ましい。120℃未満ではアニールの効果が十分に得られない場合があり、200℃を超えると電解質ポリマーが分解してしまうおそれがある。
【0070】
本発明において、アニール時間は典型的に10分から60分である。アニール時間が短か過ぎるとアニール効果が得られない場合があり、一方、コスト面、量産を考慮するとアニール時間を長くすることは不利である。
【0071】
また、本発明において、良溶媒は、環境によっては時間と共に含浸量が減少する場合があるため、アニールは良溶媒を含浸させた直後に行うことが好ましい。
【0072】
本発明において、最終成形体である含フッ素樹脂成形体は、含フッ素樹脂フィルムであることが好ましい。かかる含フッ素樹脂フィルムは、燃料電池の電解質膜に好適に使用することができる。
【0073】
また、本発明においては、含フッ素樹脂成形体は、含フッ素樹脂を構成要素とする層状成形体としてもよい。かかる層状成形体は、例えば、含フッ素樹脂の他に金属触媒や触媒担体を含む層状多孔体であってもよい。かかる含フッ素樹脂多孔体は、燃料電池の触媒層に好適に使用することができる。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
【0075】
〔実施例1〕
モノマーA(CF=CF)と、モノマーB(CF=CF−OCFCF(CF)−OCFCFSOF)と、モノマーC(CF=CF−OCFCF(OCFCFSOF)−OCFCFSOF)と、を共重合し、それぞれのモノマー単位の割合がA:82.6mol%、B:7.8mol%、C:9.6mol%であるスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の前駆体を得た。この前駆体を加水分解および酸型化処理してイオン交換容量が1.52ミリ当量/グラム乾燥樹脂であるイオン交換樹脂に変換し、次いで、このイオン交換樹脂の水とエタノール溶液の混合液を溶媒とする溶液(固形分濃度10質量%)を調製した。次いで、この溶液に硝酸セリウムを蒸留水に溶解した溶液を添加し、イオン交換樹脂中のスルホン酸基の10%をCe3+でイオン交換した樹脂(以下、イオン交換樹脂(A)という)の溶液を得た。この溶液をダイコートにより旭硝子社製フッ素樹脂(商品名:フィルムアフレックス)品番100N(厚み100μm)の上に流延し、しかる後、80℃15分間乾燥し、上記イオン交換樹脂(A)からなる厚さ25μmの含フッ素樹脂フィルム中間物を得た。
得られた含フッ素樹脂フィルム中間物をエタノール中に1秒間浸漬して膨潤体を得た。次いで、この膨潤体に対し140℃、15分の条件でアニールを行い、最終成形体である含フッ素樹脂フィルムを得た。
【0076】
〔実施例2〕
エタノールの代わりにセロソルブとエタノールの混合液(質量比1:1)を用い、140℃、30分の条件でアニールを行った以外は実施例1と同様の手法で含フッ素樹脂フィルムを得た。
【0077】
〔比較例1〕
エタノールへの浸漬を行わなかった以外は、実施例1と同様の手法で含フッ素樹脂フィルムを得た。
【0078】
〔比較例2〕
140℃、30分の条件でアニールを行った以外は、比較例1と同様の手法で含フッ素樹脂フィルムを得た。
【0079】
〔比較例3〕
膨潤体形成のために、エタノールの代わりにアセトンを用いた以外は、実施例2と同様の手法で含フッ素樹脂フィルムを得た。なお、溶媒としてアセトンを使用した場合には、膨潤体を得ることができなかった。
【0080】
(評価方法)
含水率は、含フッ素樹脂フィルムの機械強度および寸法安定性の指標となることから、実施例1、2および比較例1〜3で得られた含フッ素樹脂フィルムの含水率を下記方法により求めた。
含フッ素樹脂フィルムを80℃の温水中に60時間浸漬した後、温水ごと含フッ素樹脂フィルムを室温まで冷却した。水中より含フッ素樹脂フィルムを取り出し、表面に付着した水滴をふき取り、直ちに含フッ素樹脂フィルムの含水時の質量を測定した。ついで、該含フッ素樹脂フィルムをグローブボックス中に入れ、乾燥窒素を流した雰囲気中に24時間以上放置し、含フッ素樹脂フィルムを乾燥させた。しかる後、グローブボックス中で含フッ素樹脂フィルムの乾燥質量を測定した。含フッ素樹脂フィルムの含水時の質量と乾燥質量との差から、含フッ素樹脂フィルムが含水時に吸収する水の質量を求めた。これら測定値より、下式、
含水率=(含フッ素樹脂フィルムが含水時に吸収する水の質量/含フッ素樹脂フィルムの乾燥質量)×100
より含フッ素樹脂フィルムの含水率(%)を求めた。
【0081】
評価結果は、実施例1の含水率を100として表示した。数値が小さい程、機械強度および寸法安定性が良好であることを示す。得られた結果を下記表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から、実施例1は、アニール条件が同じである比較例1に比べて、機械強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体を得ることができることが分かる。また、実施例1は、比較例2および3よりもアニール時間を短縮しても、なお良好な結果を得ることができることが分かる。さらに、実施例2では、アニール条件が同じである比較例2および3に比べて、機械強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体を得ることができることが分かる。
【0084】
〔実施例3〕
モノマーA(CF=CF)と、モノマーB(CF=CF−OCFCF(CF)−OCFCFSOF)と、モノマーC(CF=CF−OCFCF(OCFCFSOF)−OCFCFSOF)と、を共重合し、それぞれのモノマー単位の割合がA:82.6mol%、B:7.8mol%、C:9.6mol%であるスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の前駆体を得た。この前駆体を加水分解および酸型化処理してイオン交換容量が1.52ミリ当量/グラム乾燥樹脂であるイオン交換樹脂に変換し、次いで、このイオン交換樹脂の水とエタノール溶液の混合液を溶媒とする溶液(固形分濃度10質量%)を調製した。次いで、この溶液に硝酸セリウムを蒸留水に溶解した溶液を添加し、イオン交換樹脂中のスルホン酸基の10%をCe3+でイオン交換した樹脂(以下、イオン交換樹脂(A)という)の溶液を得た。この溶液をダイコートにより旭硝子社製フッ素樹脂(商品名:フィルムアフレックス)品番100N(厚み100μm)の上に流延し、しかる後、80℃15分間乾燥し、上記イオン交換樹脂(A)からなる厚さ25μmの含フッ素樹脂フィルム中間物を得た。
得られた含フッ素樹脂フィルム中間物を25℃のエタノール飽和蒸気に16時間暴露して膨潤体を得た。次いで、この膨潤体に対し160℃、30分の条件でアニールを行い、最終成形体である含フッ素樹脂フィルムを得た。
【0085】
〔比較例4〕
エタノール飽和蒸気への暴露時間を1時間とした以外は、実施例3と同様の方法で含フッ素樹脂フィルムを得た。
【0086】
〔比較例5〕
エタノール飽和蒸気への暴露を行わなかった以外は、実施例3と同様の方法で含フッ素樹脂フィルムを得た。
【0087】
〔比較例6〕
エタノール飽和蒸気への暴露の代わりに、エタノールをダイコートにより含フッ素樹脂フィルムのエタノール含浸量が含フッ素樹脂フィルム中間物中の含フッ素樹脂100質量部に対して、550質量部となるよう塗工した以外は、実施例3と同様の方法で含フッ素樹脂フィルムを得た。比較例6は、含フッ素樹脂の膨潤が大き過ぎるため、含フッ素樹脂フィルムが一部基材から剥離してしまい、平坦な含フッ素樹脂フィルムが得られなかった。
【0088】
実施例3および比較例4、5のフッ素樹脂フィルムの含水率および暴露後のエタノール含浸量を求めた。含水率の測定は実施例1と同様に行い、評価結果は、実施例3の含水率を100として表示した。数値が小さい程、機械強度および寸法安定性が良好であることを示す。得られた結果を下記表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2より、実施例3は、含フッ素樹脂中間物中の含フッ素樹脂100質量部に対してエタノールを50質量部含浸することで、アニール条件が同じである比較例4および5に比べ、機械強度および寸法安定性に優れた含フッ素樹脂成形体を得ることができることが分かった。なお、比較例4では、含フッ素樹脂成形体中間物に対するエタノールの含浸量が少なすぎるため、アニール促進効果が得られる前にエタノールが揮発してしまい、機械強度および寸法安定性の改良効果は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程a)およびb)、
a)含フッ素樹脂または該含フッ素樹脂を含む混合物を成形して含フッ素樹脂成形体中間物を得る工程と、
b)得られた含フッ素樹脂成形体中間物中の含フッ素樹脂100質量部に対して良溶媒を25〜500質量部含浸させてアニールをする工程と、
を少なくとも有することを特徴とする含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記含フッ素樹脂成形体が、含フッ素樹脂フィルムである請求項1記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素樹脂成形体が、前記含フッ素樹脂を構成要素とする層状成形体である請求項1記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記含フッ素樹脂が電解質ポリマーである請求項1〜3のうちいずれか一項記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記工程a)が、含フッ素樹脂または該含フッ素樹脂を含む混合物を含む塗工液を基材に塗工した後乾燥して、前記含フッ素樹脂成形体中間物を得る工程である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記塗工液が、懸濁液、分散液または溶液である請求項5記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記工程b)が、前記良溶媒を前記含フッ素樹脂成形体中間物上に流延塗布することで含浸させる工程である請求項1〜6のうちいずれか一項記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
前記工程b)が、前記含フッ素樹脂成形体中間物を前記良溶媒中に浸漬することで含浸させる工程である請求項1〜6のうちいずれか一項記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記工程b)が、前記含フッ素樹脂成形体中間物を前記溶媒の蒸気に暴露することで含浸させる工程である請求項1〜6のうちいずれか一項記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
前記良溶媒が、含フッ素化合物、アルコール類、グリコールエーテル類および芳香族炭化水素類よりなる群から選ばれる1種、または2種以上を混合した溶媒である請求項1〜9のうちいずれか一項記載の含フッ素樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−284948(P2010−284948A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142333(P2009−142333)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】