説明

含フッ素樹脂組成物、含フッ素成形品、含フッ素層含有積層体及び含フッ素層含有積層体使用方法

本発明は、得られる成形品に充分な導電性を付与するとともに、成形加工性に優れる含フッ素樹脂組成物、及び、表面平滑性に優れ、充填材の脱落がない成形品を提供する。含フッ素エチレン性重合体と炭素フィブリルとからなる含フッ素樹脂組成物であって、上記含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有するものであり、上記炭素フィブリルは、上記炭素フィブリル及び上記含フッ素エチレン性重合体の固形分合計の0.3〜20質量%であることを特徴とする含フッ素樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、含フッ素樹脂組成物、含フッ素成形品、含フッ素層含有積層体及び含フッ素層含有積層体使用方法に関する。
【背景技術】
フッ素樹脂は、化学プラントや半導体製造装置等の配管材料、自動車用燃料配管、OA機器用定着ロール等として使用されているが、引火性の液体が連続して接触する場合にはフッ素樹脂に導電性の充填材を配合してなる導電性のフッ素樹脂組成物が用いられていた。
なお、ここでいう「導電性」とは、例えば、ガソリンのような引火性の流体が樹脂のような絶縁体と連続的に接触した場合に静電荷が蓄積して引火する可能性があるが、この静電荷が蓄積しない程度の電気特性を有することをいい、例えば、SAE J2260では表面抵抗率が10Ω/□以下と定められている。
導電性の充填材としては今日まで、一般的にカーボンブラックやアセチレンブラックのような炭素系の導電性材料が使用されてきたが、これらの導電性材料を用いて、フッ素樹脂からなる成形品に表面抵抗率10Ω/□程度の充分な導電性を付与するためには、導電性材料をかなりの量添加する必要があった。
しかしながら、導電性材料の添加量がこのように多いと、溶融粘度が上昇して、燃料配管用チューブ等を溶融押出し法等によって製造する際に成形性が劣る、得られる成形品が脆く硬くなり、機械的強度、摺動特性等の機械特性が低下する、弾性率が上昇し、特にチューブ等に使用する場合に柔軟性が損なわれる等の様々な問題が発生していた。また、得られた成形品を使用するうちに導電性材料が脱落して表面平滑性を損なう、といった問題が発生し、半導体製造装置における薬液送液チューブ等のクリーン性が要求される用途で特に問題となっていた。
従来、導電性材料の添加量を少なくしても、得られる成形品の抵抗率を下げることができるものとしてケッチェンブラック(ライオン社製)等が知られている(例えば、山田久志,成田道郎,「導電性カーボンブラック<ケッチェンブラックEC>と樹脂の導電化」,株式会社プラスチック・エージ,1988年,第4号,p.164−170参照。)。しかしながら、表面抵抗率の減少が小さく、また、溶融粘度が高いという問題は依然改善されていなかった。
発明の要約
本発明の目的は、上記現状に鑑み、得られる成形品に充分な導電性を付与するとともに、成形加工性に優れる含フッ素樹脂組成物、及び、表面平滑性に優れ、充填材の脱落がない成形品を提供することにある。
本発明は、含フッ素エチレン性重合体と炭素フィブリルとからなる含フッ素樹脂組成物であって、上記含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有するものであり、上記炭素フィブリルは、上記炭素フィブリル及び上記含フッ素エチレン性重合体の固形分合計の0.3〜20質量%であることを特徴とする含フッ素樹脂組成物である。
本発明は、上記含フッ素樹脂組成物からなるものであることを特徴とする含フッ素成形品である。
本発明は、上記含フッ素樹脂組成物からなるものであることを特徴とする含フッ素層含有積層体である。
発明の詳細な開示
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の含フッ素樹脂組成物は、含フッ素エチレン性重合体と炭素フィブリルとからなるものである。
上記含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有するものである。上記含フッ素エチレン性重合体がカルボニル基を有するものであると、後述の炭素フィブリルとの接触性又は親和性を向上することにより炭素フィブリルを固定化して、上記含フッ素エチレン性重合体の分子鎖と接着した炭素フィブリル同士の接触性を高めることができるものと考えられ、その結果導電性を向上することができるものと考えられる。上記炭素フィブリル同士は、炭素フィブリルを添加することのみによって導電性を与えるためには、物理的に接触している必要は必ずしもないとされるが、物理的に接触しているか、又は、少なくとも炭素フィブリルに高い導電性をもたらすπ電子の移動が炭素フィブリル同士の間で容易になる程度に近接している必要がある。
本明細書において、上記「カルボニル基を有する」とは、炭素−酸素二重結合を化学構造の一部に有すること意味する。本明細書において、上記炭素−酸素二重結合の炭素2価の基を「カルボニル基」という。上記炭素−酸素二重結合は、官能基の一部分であってもよいし、炭素−酸素二重結合そのものがカルボニル基として上記含フッ素エチレン性重合体の末端を含む主鎖又は側鎖の炭素原子に結合しているものであってもよい。含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有する官能基を有するものであってもよいし、カルボニル基そのものとカルボニル基を有する官能基との両方を有するものであってもよい。上記カルボニル基を有する官能基は、1種又は2種以上であってもよい。上記カルボニル基を有する官能基は、上記含フッ素エチレン性重合体の末端を含む主鎖に結合していてもよいし、側鎖に結合していてもよい。
上記カルボニル基を有する官能基としては特に限定されず、例えば、ホルミル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物結合[−C(=O)O−C(=O)−]、カーボネート基、カルバモイルオキシ基[NH−C(=O)O−]、イソシアネート基、アミド基、イミド基[−C(=O)−NH−C(=O)−]、カルバモイル基[NH−C(=O)−]、ウレタン結合[−NH−C(=O)O−]、カルバモイルオキシ基[NH−C(=O)O−]、オキサモイル基[NH−C(=O)−C(=O)−]、スクシンアモイル基[NH−C(=O)−CH−CH−C(=O)−]、ウレイド基[NH−C(=O)−NH−]等が挙げられる。
上記カルボニル基が例えば、カーボネート基の一部分及び/又はハロホルミル基の一部分である場合には、上記含フッ素エチレン性重合体は、
(1)カーボネート基のみを末端又は側鎖に有する
(2)ハロホルミル基のみを末端又は側鎖に有する、及び、
(3)カーボネート基とハロホルミル基の両方を末端又は側鎖に有する
場合があり、これらのいずれのものであってもよい。なかでも、上記含フッ素エチレン性重合体の末端にこれらの官能基を有するものが、得られる含フッ素成形品若しくは含フッ素積層体の耐熱性、機械特性及び耐薬品性を著しく低下させない理由で、又は、生産性やコスト面で有利である理由で好ましい。上記官能基の反応性の高低によって限定されず、何れの構造で存在していてもよい。
上記カーボネート基は、−OC(=O)O−R(式中、Rは、有機基を表す。)で表される基である。上記式中のRである有機基としては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、エーテル結合を有する炭素数2〜20のアルキル基等が挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基、エーテル結合を有する炭素数2〜4のアルキル基等であることが好ましい。上記カーボネート基としては、例えば−OC(=O)OCH、−OC(=O)OC、−OC(=O)OC17、−OC(=O)OCHCHCHOCHCH等が好ましく挙げられる。
上記ハロホルミル基は、−COY(Yは、ハロゲン原子を表す。)で表されるものであり、−COF、−COCl等が挙げられる。
上記アミド基は、−C(=O)−NR(式中、Rは、水素原子又は有機基を表し、Rは、有機基を表す。)で表される基である。
上記イミド基、ウレタン結合、カルバモイル基、カルバモイルオキシ基、ウレイド基、オキサモイル基等の窒素原子に結合する水素原子は、例えばアルキル基等の炭化水素基により置換されていてもよい。
上記カルボニル基は、なかでも、ホルミル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ハロホルミル基、酸無水物結合、カーボネート基、イソシアネート基、アミド基、イミド基、ウレタン結合及びウレイド基からなる群より選択される少なくとも1つに由来するものであることが好ましい。上記「群より選択される少なくとも1つに由来する」とは、上記群を構成する官能基又は結合のうち選択されるものの分子構造上の一部分であることを意味する。
上記含フッ素エチレン性重合体の主鎖末端にカルボニル基を導入する方法としては、例えば、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等のカルボニル基を有する官能基、又は、カルボニル基に変換し得る官能基を有する重合開始剤を使用する方法がある。この方法は、カルボニル基の導入が非常に容易であり、しかも導入量の制御も容易であることから好ましい。
上記カルボニル基は、主鎖炭素数1×10個あたり3〜3000個であることが好ましい。主鎖炭素数1×10個あたり3個未満であると、後述する炭素フィブリルとの親和性に劣り、得られる成形品は機械特性に関して劣る場合があり、主鎖炭素数1×10個あたり3000個を超えると、成形時に発泡等を生じ易く、ピンホールやクラックが生じる可能性がある。主鎖炭素数1×10個あたりより好ましい下限は5個、更に好ましい下限は10個であり、より好ましい上限は1000個、更に好ましい上限は、500個である。
上記カルボニル基の数が、主鎖炭素数1×10個あたり上述の範囲であると、得られる含フッ素成形品は炭素フィブリルが脱落しにくく、対紙転写性が小さい。
本明細書において、上記「対紙転写性」は、紙に含フッ素成形品を擦りつけた際に炭素フィブリルが脱落して上記紙に付着する性質である。
上記含フッ素エチレン性重合体中のカルボニル基の含有量は、赤外吸収スペクトル分析により測定し、算出することができる。
上記含フッ素エチレン性重合体には、カルボニル基を有さない重合体分子が存在していてもよく、重合体分子の集合として含フッ素エチレン性重合体の主鎖炭素数1×10個あたり上述の範囲のカルボニル基を有していればよい。
上記含フッ素エチレン性重合体の種類や構造は、目的とする成形品の用途、要求性能等により適宜選択されうるが、なかでも、融点が120〜310℃、又は、ガラス転移温度が50〜250℃である重合体が好ましく、このような重合体であれば、一般的なフッ素樹脂が有する優れた特性を保持することができる。なお、含フッ素エチレン性重合体が結晶性である場合には、融点に注目しなければならず、非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度に注目しなければならない。
本発明の含フッ素樹脂組成物は、2種以上の含フッ素エチレン性重合体から構成されるものであってもよいが、その場合には各種の含フッ素エチレン性重合体が上記融点又はガラス転移点の条件を満足することが望ましい。
上記含フッ素エチレン性重合体は、少なくとも1種のフッ素含有エチレン性単量体を重合してなるものである。
上記含フッ素エチレン性重合体には、テトラフルオロエチレン〔TFE〕のホモポリマー〔TFEホモポリマー〕のように実質的に溶融加工が困難なポリマーは含まれない。
上記フッ素含有エチレン性単量体は、フッ素原子を有するエチレン性単量体である。
上記フッ素含有エチレン性単量体としては特に限定されず、例えば、TFE、フッ化ビニリデン〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、ヘキサフルオロイソブテン、下記一般式(II)又は(III):
CH =CX (CF (II)
CF =CXOCHRf (III)
(式中Xは、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、m及びnは、1〜10の整数を表す。Rfは、−CF又は−ORfを表し、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される単量体、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル〔PAVE〕等が挙げられる。
上記含フッ素エチレン性重合体は、テトラフルオロエチレン単位比率40モル%以上からなる重合体であることが好ましい。より好ましい下限は、50モル%である。
上記テトラフルオロエチレン単位は、含フッ素エチレン性重合体の分子構造上、TFE1個に由来する化学構造部分〔−CF−CF−〕である。
上記テトラフルオロエチレン単位比率は、上記テトラフルオロエチレン単位の数が、含フッ素エチレン性重合体の分子鎖における全単量体に由来する単量体単位の合計数に占める割合である。上記テトラフルオロエチレン単位比率は、含フッ素エチレン性重合体の各分子鎖につき定められるものであるが、本明細書に記載するテトラフルオロエチレン単位比率の数値は、含フッ素エチレン性重合体の分子の集合体が各分子のテトラフルオロエチレン単位比率の平均として有する値であればよい。
上記含フッ素エチレン性重合体は、TFE、及び、下記一般式(I)
CF2=CF−Rf (I)
〔式中、Rfは、−CF又は−ORfを表し、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。〕で表されるパーフルオロエチレン性単量体からなる共重合体であることがより好ましい。
上記含フッ素エチレン性重合体は、上記フッ素含有エチレン性単量体とフッ素非含有エチレン性単量体とが共重合してなるものであることが好ましい。
上記フッ素非含有エチレン性単量体は、フッ素原子を有さないエチレン性単量体である。
上記フッ素非含有エチレン性単量体は、耐熱性や耐薬品性等を低下させないためにも炭素数5以下のエチレン性単量体から選ばれることが好ましい。上記フッ素非含有エチレン性単量体としては特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
上記含フッ素エチレン性重合体は、下記a、b及びcからなる共重合体であることが好ましい。
a.テトラフルオロエチレン単位比率20〜90モル%
b.エチレン単位比率10〜80モル%
c.上記一般式(I)で表されるパーフルオロエチレン性単量体に由来するパーフルオロエチレン性単量体単位比率0〜70モル%
上記エチレン単位比率及びパーフルオロエチレン性単量体単位比率は、上述のテトラフルオロエチレン単位比率と同様に解釈でき、含フッ素エチレン性重合体の分子構造上、それぞれ、エチレン1個に由来する化学構造部分〔−CH−CH−〕又は上記パーフルオロエチレン性単量体1個に由来する化学構造部分〔CF=CF−Rf(Rfは上記と同じ)〕の数が、含フッ素エチレン性重合体の分子鎖における全単量体に由来する単量体単位の合計数に占める割合である。上記エチレン単位比率又はパーフルオロエチレン性単量体単位比率は、含フッ素エチレン性重合体の各分子鎖につき定められるものであるが、本明細書に記載するエチレン単位比率又はパーフルオロエチレン性単量体単位比率の数値は、含フッ素エチレン性重合体の分子の集合体が各分子のエチレン単位比率又はパーフルオロエチレン性単量体単位比率の平均として有する値であればよい。
上記含フッ素エチレン性重合体において、上記a、b及びcのモル%は、上記a、b及びcを合計して100モル%になるものである。
上記cは、1種類のパーフルオロエチレン性単量体からなるものであってもよいし、2種類以上のパーフルオロエチレン性単量体からなるものであってもよい。
上記含フッ素エチレン性重合体は、上述のように、上記a、b及びcからなる共重合体であり、上記TFE、エチレン及びパーフルオロエチレン性単量体とともにTFE、エチレン又はパーフルオロエチレン性単量体以外の単量体をも重合したものであってもよい。
但し、上記含フッ素エチレン性重合体は、上記a及びbからなり、上記cを有さなくてもよい。
上記含フッ素エチレン性重合体は、フッ化ビニリデン単位比率15モル%以上からなる重合体であることが好ましい。
上記フッ化ビニリデン単位は、含フッ素エチレン性重合体の分子構造上、VdF1個に由来する化学構造部分〔−CF−CH−又は−CH−CF−〕である。
上記「フッ化ビニリデン単位比率」は、上記フッ化ビニリデン単位の数が、含フッ素エチレン性重合体の分子鎖における全単量体に由来する単量体単位の合計数に占める割合である。上記フッ化ビニリデン単位比率は、含フッ素エチレン性重合体の各分子鎖につき定められるものであるが、本明細書に記載するフッ化ビニリデン単位比率の数値は、含フッ素エチレン性重合体の分子の集合体が各分子のフッ化ビニリデン単位比率の平均として有する値であればよい。
上記含フッ素エチレン性重合体は、下記d、e及びfからなる共重合体であることがより好ましい。
d.フッ化ビニリデン単位比率15〜60モル%
e.テトラフルオロエチレン単位比率35〜80モル%
f.ヘキサフルオロプロピレン単位比率5〜30モル%
上記ヘキサフルオロプロピレン単位は、含フッ素エチレン性重合体の分子構造上、HFP1個に由来する化学構造部分〔−CF−CF(CF)−〕である。
上記ヘキサフルオロプロピレン単位比率は、上記ヘキサフルオロプロピレン単位の数が、含フッ素エチレン性重合体の分子鎖における全単量体に由来する単量体単位の合計数に占める割合である。上記ヘキサフルオロプロピレン単位比率は、含フッ素エチレン性重合体の各分子鎖につき定められるものであるが、本明細書に記載するヘキサフルオロプロピレン単位比率の数値は、含フッ素エチレン性重合体の分子の集合体が各分子のヘキサフルオロプロピレン単位比率の平均として有する値であればよい。
上記含フッ素エチレン性重合体において、上記d、e及びfのモル%は、上記d、e及びfを合計して100モル%になるものである。
上記含フッ素エチレン性重合体は、上述のように、上記d、e及びfからなる共重合体であり、VdF、TFE及びHFPとともにVdF、TFE又はHFP以外の単量体をも重合したものであってもよい。
上記含フッ素エチレン性重合体においては、フッ素含有エチレン性単量体及びフッ素非含有エチレン性単量体の種類、組合せ、組成等を選ぶことによって重合体の融点又はガラス転移点を調整することができ、また更に樹脂状のもの、エラストマー状のもののどちらにもすることができる。
上記含フッ素エチレン性重合体は、工業的に通常用いられる重合方法を用いて得ることができる。上記重合方法としては特に限定されず、例えば、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等が挙げられるが、工業的にはフッ素系溶媒を用い、重合開始剤としてパーオキシカーボネート等を使用した水性媒体中での懸濁重合が好ましい。懸濁重合においては、フッ素系溶媒を水に添加して使用することができる。
懸濁重合に用いる上記フッ素系溶媒としては、例えばハイドロクロロフルオロアルカン類、パーフルオロアルカン類、パーフルオロシクロアルカン類等が挙げられる。上記ハイドロクロロフルオロアルカン類としては、例えばCHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHClが挙げられる。上記パーフルオロアルカン類としては、例えば、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCFが挙げられる。上記パーフルオロシクロアルカン類としては、例えばパーフルオロシクロブタンが挙げられる。なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。
重合温度は特に限定されず、0〜100℃でよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量及び蒸気圧、重合温度等の重合圧力以外のその他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常0〜9.8MPaGであってよい。
上記含フッ素エチレン性重合体の重合において、分子量調整のために、通常の連鎖移動剤、例えば、イソペンタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素を用いることができる。
本発明の含フッ素樹脂組成物は、上述の含フッ素エチレン性重合体と炭素フィブリルとからなるものである。
上記炭素フィブリルは、通常、黒鉛化した炭素原子の規則的配列からなる層からなる管壁を持つ中空状の微細炭素繊維、又は、その集合体である。上記管壁は、ベンゼンの縮合体が連続してなるものであるグラフェン単層であってもよいし、上記グラフェンが2層以上であるものであってもよい。上記微細炭素繊維は、通常、円筒形状を有するものである。本明細書において、上記微細炭素繊維1本を、以下、「繊維状物」ということがある。上記炭素フィブリルは、一般に、カーボンナノチューブと呼ばれることがあるものである。上記炭素フィブリルとしては、例えば、米国特許第4,663,230号明細書、特開平3−174018号公報、特公平3−64606号公報、特公平3−77288号公報等に記載の微細炭素繊維等を用いることができる。
上記炭素フィブリルは、外径が1〜1000nm、長手方向の長さ(L)と外径(D)との比率(L/D)が5を超える繊維状物からなるものであることが好ましい。上記繊維状物の外径が1nm未満のものは、通常、得ることが困難であり、1000nmを超えると、上記炭素フィブリルと上記含フッ素エチレン性重合体との混合が不充分になる場合があるので好ましくない。より好ましい下限は3nmであり、より好ましい上限は100nmである。
本明細書において、上記外径は、走査型電子顕微鏡(SEM、S−4000型、日立製作所社製)を用いて測定することにより得られる値である。
本明細書において、上記炭素フィブリルは、上記範囲内の外径を有する繊維状物からなるものであれば、上記繊維状物1本が単独で存在しているものであってもよいし、繊維状物が2本以上集まったものであってもよいし、これらの混合物であってもよい。上記炭素フィブリルは、上記繊維状物が1本又は2本以上集まって、一部分又は全部が細長い形状を維持しているものであってもよいし、上記繊維状物が1本又は2本以上集まって、凝集して綿くずのような塊となった凝集体(以下、「炭素フィブリル凝集体」ということがある。)であってもよいし、これらの混合物であってもよい。
上記炭素フィブリルは、上記炭素フィブリル凝集体からなるものであってよい。
上記繊維状物の長手方向の長さ(L)と外径(D)との比率(L/D)が5を超えるものであると、得られる含フッ素成形品において、炭素フィブリルが配向しやすく、導電性、耐衝撃性等の特性を含フッ素成形品全体にわたって均一に発現することができる。上記L/D値は、5を超えればよいが、通常、1000以下である。
上記L/D値は、走査型電子顕微鏡(SEM、S−4000型、日立製作所社製)を用いて測定することにより得られる値である。
上記炭素フィブリル凝集体は、平均粒子径が0.01mm〜0.25mmであるものであることが好ましい。平均粒子径が0.25mmを超えると、溶融粘度が上昇して、成形加工性に劣ったり、炭素フィブリルの添加量の割に導電性が充分でなかったり、得られる含フッ素成形品の表面平滑性、機械的強度等が低下したりする場合がある。より好ましい上限は、0.20mmである。
上記炭素フィブリル凝集体は、最長径が0.50mm以下であるものが好ましい。本明細書において、上記炭素フィブリル凝集体の平均粒子径は、以下の方法に準拠して測定して得られる値である。即ち、炭素フィブリルを両面テープ上に接着し、表面を金コートしたのち、走査型電子顕微鏡(SEM、S−4000型、日立製作所社製)を用いて50倍、12視野で観察し、平均的な場所を3枚採用し、平均粒子径を測定する方法である。
上記炭素フィブリルは、上記炭素フィブリル及び上述の含フッ素エチレン性重合体の固形分合計の0.3〜20質量%である。0.3質量%未満であると、炭素フィブリルが有する導電性等の特性が不充分になる場合があり、20質量%を超えると、炭素フィブリルの量が多すぎて、得られる含フッ素成形品の成形性が悪化したり、表面平滑性等が損なわれたりする場合がある。上記炭素フィブリルは、上記炭素フィブリルと含フッ素エチレン性重合体との合計質量の0.5質量%がより好ましい下限、1質量%が更に好ましい下限であり、15質量%がより好ましい上限、10質量%が更に好ましい上限である。
本発明の含フッ素樹脂組成物は、上記含フッ素エチレン性重合体と上記炭素フィブリルと、更に、上記炭素フィブリル以外の無機フィラーとからなるものであってもよい。上記炭素フィブリルと上記炭素フィブリル以外の無機フィラーを併用することにより、用途により上記炭素フィブリルの添加量を低減することができ、例えば、導電性付与を目的とする場合、上記無機フィラーとして炭素フィブリル以外の導電性フィラーを用いることにより、上記炭素フィブリルの添加量を少量にしても、得られる含フッ素成形品に充分な導電性を付与することができ経済的である。
上記炭素フィブリル以外の導電性フィラーとしては特に限定されず、例えば、セルロース、ポリアクリロニトリル等の有機高分子繊維を原料として得られる従来公知の炭素繊維;カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素系の導電性材料、金属繊維、金属粉、表面を金属化したフィラー等が挙げられる。
また、上記無機フィラーとしては、例えば、タルク、マイカ、クレー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭酸カルシウム、ウォラストナイト等が挙げられ、これらを用いると、得られる成形品の機械的強度を向上させることができ、また、これらを増量材として用いることにより、本発明の含フッ素樹脂組成物における他の成分の配合量を低減することができる。
上記無機フィラーは、本発明の含フッ素樹脂組成物に用いる場合、上記含フッ素樹脂組成物の3〜50質量%であることが好ましい。3質量%未満であると、上記無機フィラーを添加することによる効果が不充分になる場合があり、50質量%を超えると、得られる成形品は脆く硬くなりやすく、成形品を使用するうちに上記無機フィラーの脱落が起きやすくなる。より好ましい下限は、5質量%であり、より好ましい上限は、40質量%、更に好ましい上限は、30質量%である。
本発明の含フッ素樹脂組成物は、上記含フッ素エチレン性重合体と上記炭素フィブリルと、所望により上記炭素フィブリル以外の無機フィラーとをヘンシェルミキサー等を用いて機械混合した混合粉体であってもよいし、上記混合粉体を更に2軸押出機等を用いて溶融混合したペレットであってもよい。
本発明の含フッ素樹脂組成物が、得られる成形品に充分な導電性と表面平滑性を付与することができる機構としては明確ではないが、以下のように考えられる。
即ち、含フッ素エチレン性重合体がカルボニル基を有することにより、上記炭素フィブリルとの接触性が高くなり、成形時に含フッ素エチレン性重合体の重合体分子鎖が配向すると、上記炭素フィブリルも上記ポリマー分子鎖の配向に沿って容易に配向する。上記炭素フィブリルの配向機構により、炭素フィブリル又は所望により用いる炭素フィブリル以外の導電性フィラーの添加量が少なくても、導電性を高めることができるものと考えられる。本発明の含フッ素樹脂組成物は、また、上述の炭素フィブリルの配向機構により、得られる成形品における炭素フィブリルの凝集体が少なくなる結果、表面平滑性を向上することができるものと考えられる。
本発明の含フッ素樹脂組成物は、上述のように、炭素フィブリルの添加量を少なくすることができるものであるので、上記含フッ素樹脂組成物は溶融粘度の上昇が小さく、従って成形加工性が向上し、得られる含フッ素成形品の強度や伸びの低下も抑制することができるものと考えられる。
本発明の含フッ素樹脂組成物は、また、上述の炭素フィブリルの配向機構により、炭素フィブリルを細長く延伸しやすく、含フッ素エチレン性重合体の分子鎖と充分に絡ませることができるものである。この結果、得られる成形品は、炭素フィブリルが成形品から脱落しにくいものであり、摺動等の機械的摩擦等を伴う用途であっても、使用の過程で炭素フィブリルの脱落量が少ない。このような本発明の含フッ素樹脂組成物は、例えば、半導体製造装置用の薬液チューブ等の内容物を汚染しないことが要求される成形品の形成に好適であり、また、対紙転写性が小さいことを利用しOA機器用定着ロール等の摺動用途の成形品の形成にも好適である。
上記含フッ素樹脂組成物からなるものであることを特徴とする含フッ素成形品もまた、本発明の一つである。
上記含フッ素成形品は、従来公知の加工方法を用いて成形することより得ることができる。上記従来公知の加工方法としては、例えば、溶融押出し成形、圧縮成形、カレンダー成形、射出成形等の成形方法や、上記含フッ素樹脂組成物をディスパージョンにして含浸、キャスト製膜等が挙げられる。
上記含フッ素成形品は、使用時に液体と接触させるものであることが好ましい。
上記含フッ素成形品の用途としては特に限定されず、例えば、塗装用塗料配管チューブ、自動車工業等における燃料配管用チューブ(ホース)、食品搬送シート、飲料及び液体状食品輸送チューブ、コーティング組成物、半導体製造装置用の薬液輸送用チューブ、OA機器用定着ロール等が挙げられ、なかでも、塗装用塗料配管チューブ、飲料及び液体状食品輸送チューブ、薬液輸送用チューブ又は自動車燃料配管チューブであることが好ましい。
上記含フッ素樹脂組成物からなる含フッ素層を有することを特徴とする含フッ素層含有積層体もまた、本発明の一つである。
上記含フッ素層としては上記含フッ素樹脂組成物からなるものであれば特に限定されないが、通常、上記含フッ素樹脂組成物を成形して得られる成形体又はこの成形体を切削して得られるシート類が挙げられる。
上記含フッ素層含有積層体は、上記含フッ素層を有する積層体であれば特に限定されないが、上記含フッ素層以外のその他の層としては通常、樹脂成形体又はこの成形体を切削して得られるシート類等が挙げられ、上記含フッ素層を含めて2層である積層構造であってもよいし、上記含フッ素層を含めて3層以上からなる積層構造であってもよい。
上記含フッ素層含有積層体は、上述の含フッ素層と上記含フッ素層以外のその他の層とを別々に用意してこれらを加熱圧着等により接着させたものであってもよいが、層間接着性、工程簡便化等の点から、共押出成形により上記含フッ素層と上記含フッ素層以外のその他の層とを溶融させて同時に押し出して積層させたものが好ましい。
上記含フッ素層含有積層体の用途としては特に限定されないが、例えば、上述の含フッ素成形品の用途と同様のものが挙げられ、特に燃料配管用チューブに好適に用いることができる。上記含フッ素層含有積層体は、燃料配管用チューブに用いる場合、上記含フッ素層と、上記含フッ素層以外のその他の層としてポリアミド樹脂からなる層とからなる積層体が好ましく、この積層体としては、共押出成形により積層させたものが好ましい。
上記含フッ素層含有積層体は、上記含フッ素層積層体以外のその他の部材や媒体と接する上で発揮される一般的なフッ素樹脂の特性、例えば、耐薬液性、非粘着性等を活かした用途に用いる場合、上記含フッ素層が最表層であることが好ましく、例えば、上記燃料配管用チューブは上記含フッ素層が最表層であるものが好ましい。
上記含フッ素層含有積層体において含フッ素層は、使用時に液体と接触させるものであることが好ましい。
上記含フッ素層含有積層体は、上述のように含フッ素層からなるものであるので、特に、上記含フッ素層が最表層である場合、薬液の存在下に使用することに好適である。上記含フッ素層含有積層体は、薬液の存在下に使用する場合、上記含フッ素層を最表層とすると、この含フッ素層に薬液が接するように使用しても、上記含フッ素層が上述のように炭素フィブリルの脱落を起こしにくいので薬液を汚染することがなく、また、フッ素樹脂が一般に有する耐薬液性により、含フッ素層含有積層体の劣化やクラックを防止することができる。上記薬液としては特に限定されず、例えば、各種化学処理剤又は処理済の薬剤類等が挙げられる。薬液の存在下に使用する含フッ素層含有積層体としては、例えば、上述の半導体製造装置用の薬液輸送用チューブ、化学プラントの配管チューブやライニング材等が挙げられる。
上記含フッ素層含有積層体は、塗装用塗料配管チューブ、飲料及び液体状食品輸送チューブ、薬液輸送用チューブ又は自動車燃料配管チューブであることが好ましい。
上記含フッ素層含有積層体を薬液の存在下に使用することよりなる含フッ素層含有積層体使用方法であって、上記薬液は、含フッ素層に接することを特徴とする含フッ素層含有積層体使用方法もまた、本発明の一つである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種パラメーターの測定は以下の通りに行った。
(1)含フッ素エチレン性重合体中のカーボネート基の個数の測定
合成例1〜7で得られた含フッ素エチレン性重合体の白色粉末又は溶融押出しペレットの切断片を室温にて圧縮成形し、厚さ0.05〜0.2mmのフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトル分析によってカーボネート基(−OC(=O)O−)のカルボニル基に由来するピークが1809cm−1(ν=O)の吸収波長に現れ、そのピークの吸光度を測定した。そして、下記式(IV)によって主鎖炭素数10個当たりのカーボネート基の個数(N)を算出した。
N=500AW/εdf (IV)
A:カーボネート基(−OC(=O)O−)由来のνC=Oピークの吸光度
ε:カーボネート基(−OC(=O)O−)由来のνC=Oピークのモル吸光度係数
〔1・cm−1・mol−1〕。モデル化合物からε=170とした。
W:モノマー組成から計算される単量体単位の平均分子量
d:フィルムの密度〔g/cm
f:フィルムの厚さ〔mm〕
なお、赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて40回スキャンして行った。得られたIRスペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for Windows Ver.1.4Cにて自動でベースラインを判定させ1809cm−1のピークの吸光度を測定した。また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定した。
(2)含フッ素エチレン性重合体中のその他のカルボニル基の個数の測定
上記(1)と同様にして得られたフィルムの赤外スペクトル分析により、1500〜1900cm−1にみられるカルボニル基の伸縮振動に由来するνC=Oピークの吸光度を測定した。そして、モデル化合物より求めたνC=Oピークのモル吸光度係数を用いて上記式(IV)より上述の(1)と同様にして各カルボニル基の個数を求めた。なお、フルオロホルミル基のモル吸光度係数は600、アミド基のモル吸光度係数は940、その他のカルボニル基のモル吸光度係数は530とした。また、ピークが重なる場合があるので19F−NMR分析も併せて行った。
(3)含フッ素エチレン性重合体の組成の分析
19F−NMR分析により定量化した。
(4)融点(Tm)の測定
セイコー型DSC装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点(Tm)とした。、
(5)MFR(Melt Flow Rate)の測定
メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、所定温度、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)に流出する樹脂組成物の質量(g)を測定した。
なお、表2に示した流動性は、下記式(V)によって求めた値である。
流動性=(導電性フィラーを充填した樹脂組成物のMFR)/(原料となった含フッ素エチレン性重合体のMFR) (V)
(6)表面抵抗率の測定
粉末又はペレットの場合は、MFR測定で得た直径約2mmの真直ぐのストランドから長さ8cm以上の棒を切り出し、7cm間隔で棒表面に端子を接触させてアドバンテスト社製 デジタル超高抵抗/微小電流計 R8340Aを用いて表面抵抗率を測定した。なお、温度25±2℃、相対湿度60±5%の雰囲気下に測定サンプルを8時間以上放置した後に測定した。なお、多層チューブの場合には、SAE J2260記載の方法に準じて測定した。
(7)樹脂組成物の引張り特性
各樹脂組成物ペレットを用いて、MFRの測定温度でヒートプレスを行い、厚み0.15〜0.2mmの均一なシートを作成した。そして、これらのシートからASTM D 638記載のType 5ダンベル片を各5個ずつ打ち抜いて作成した。その後にテンシロン万能試験機を用いて、引張り速度50mm/分の速度で引張り試験を行い、5個のデータの平均値として引張り強度及び引張り伸度を求めた。
(8)多層チューブの接着強度の測定
チューブから1cm幅のテストピースを切り取り、テンシロン万能試験機にて、25mm/分の速度で180°剥離試験を行い、伸び量−引っ張り強度グラフにおける極大5点平均を層間の接着強度として求めた。
(9)通紙試験
同じ樹脂組成物から作成したチューブを用いて作成した2本1対の加熱ロールを180℃に加熱して上記1対の加熱ロール間に0.2MPaの圧力を加えた状態で、市販のA4版のコピー紙10,000枚を20枚/分の速度で通紙した。
(10)対紙転写性
各樹脂組成物のペレットを265℃で30分間予熱した後、圧力5MPaを加えて圧縮成形することにより得られた直径120mm、厚さ1.5mmの含フッ素成形品を普通紙にこすりつけ、上記普通紙の表面を目視観察し下記基準により評価した。
○:充填材が転写した痕跡は観察されなかった
△:充填材由来の黒いスジが薄く観察された
×:充填材由来の黒いスジが観察された
合成例1含フッ素エチレン性重合体F−Aの合成
オートクレーブに蒸留水380Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン166kg、ヘキサフルオロプロピレン80kg、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)0.4kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度200rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.90MPaまで圧入し、更に引き続いてエチレンを0.94MPaまで圧入し、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート9.0kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン:エチレン:ヘキサフルオロプロピレン=48.5:43.0:8.5モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を1.0MPaに保った。そして、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)についても合計量4.2kgを連続して仕込み、28時間、攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して200kgの粉末(含フッ素エチレン性重合体F−A)を得た。このものの分析結果を表1に示した。
合成例2含フッ素エチレン性重合体F−Bの合成
合成例1と同様にして、表1に示した組成の含フッ素エチレン性重合体F−Bを得た。得られた粉末の分析結果を表1に示した。
合成例3〜4含フッ素エチレン性重合体F−C〜F−Dの合成
合成例1で得られた粉末を単軸押出し機(田辺プラクティス機械社製、VS50−24)を用いてシリンダ温度320℃で押出した後に粉砕することで粉末(含フッ素エチレン性重合体F−C)を得た。そして、得られた粉末を蒸留水と共に密閉器中、150℃で12時間、攪拌し、室温まで冷却した後に取り出し、充分に乾燥して含フッ素エチレン性重合体F−Dを得た。これらの分析結果を表1に示した。
合成例5含フッ素エチレン性重合体F−Eの合成
オートクレーブに蒸留水400Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン320kg、ヘキサフルオロプロピレン80kg、テトラフルオロエチレン19kg、フッ化ビニリデン6kgを仕込み、系内を35℃、攪拌速度180rpmに保った。その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート5kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン:フッ化ビニリデン:ヘキサフルオロプロピレン=50:40:10モル%の混合ガスを連続して供給し、系内圧力を一定に保った。30時間、攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して200kgの粉末(含フッ素エチレン性重合体F−E)を得た。このものの分析結果を表1に示した。
合成例6含フッ素エチレン性重合体F−Fの合成
オートクレーブに蒸留水340Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン300kg、パーフロロプロピルビニルエーテル(以下、PPVEという。)14.0kg、メタノール2.5Lを仕込み、系内を35℃、攪拌速度180rpmに保った。その後、テトラフルオロエチレンを0.6MPaまで圧入して、その後にジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート0.15kgを投入して重合を開始した。重合の進行と共に系内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレンを連続して供給し、系内圧力を0.6MPaに保った。そして、PPVEについても合計量16.5kgを連続して仕込み、19時間、攪拌を継続した。そして、放圧して大気圧に戻した後、反応生成物を水洗、乾燥して300kgの粉末を得た。つぎに、この粉末30kgを入れた専用トレイを箱型反応オープンに入れ密閉し、窒素ガスで充分置換し、フッ素ガスと窒素ガスの混合ガス(フッ素ガス濃度20容量%)を1.0L/分の流速で3時間通した。オーブン内は大気圧とし温度は180℃に保った。反応終了後、窒素ガスに切替え約2時間にわたってフッ素ガスを充分に置換した。つづいて、アンモニアガスを2.0L/分の流速で30分通すことによりアンモニア処理した。処理後、加熱を中止するとともに窒素ガスを出口ガスが中性になるまで置換した。置換後、オーブン内が室温であることを確認した後、大気に開放して粉末(含フッ素エチレン性重合体F−F)を得た。このものの分析結果を表1に示した。
合成例7含フッ素重合体F−Gの合成
合成例6で重合、水洗、乾燥して得た粉末300kgのうちの30kgを入れた専用トレイを箱型反応オーブンに入れ密閉し、窒素ガスで充分置換し、フッ素ガスと窒素ガスの混合ガス(フッ素ガス濃度20容量%)を1.0L/分の流速で5時間通した。オーブン内は大気圧とし温度は200℃に保った。反応終了後、加熱を中止するとともに窒素ガスに切替え約2時間にわたってフッ素ガスを充分に置換した。置換後、オーブン内が室温であることを確認した後、大気に開放して粉末(含フッ素重合体F−G)を得た。このものの分析結果を表1に示した。

表1において、TFEはテトラフルオロエチレンを、Etはエチレンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VdFはフッ化ビニリデンを、PPVEはパーフロロプロピルビニルエーテルを、HF−Paはパーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)を、それぞれ表す。
【実施例1】
合成例1で得られた含フッ素エチレン性重合体F−Aと外径0.015μm、内径0.005μm、平均長さ1.1μmの炭素フィブリルとを98:2の質量比でヘンシェルミキサー(三井三池製作所社製、FM75E)を用いて均一に混合分散し、これを2軸押出し機(池貝鉄工社製、PCM−45)に供給して、溶融混合し、含フッ素樹脂組成物ペレットを得た。押出し条件及び得られた含フッ素樹脂組成物ペレットの分析結果を表2に示す。
実施例2〜9及び比較例1〜6
表1及び表2に示した原料及び押出し条件を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。使用した原料、組成及び押出し条件、得られた樹脂組成物ペレットの分析結果を表2に示す。

表2において、CNTとは実施例1と同じ炭素フィブリルであり、CBとは、市販のアセチレンブラックであり、CFとは、炭素繊維(呉羽化学工業社製 M−107T)である。
実施例8〜9では、炭素フィブリルと他の導電性材料を併用したが、それぞれ単独で使用する場合よりも少量添加で優れた導電性を示すことから、成形性や機械特性に優れ、本発明の好適な態様である。一方、比較例1〜3に示すように、アセチレンブラックを用いて充分な導電性を安定して得るためには15質量%は添加しなければならず、その結果、成形性や機械特性が犠牲にされる結果となった。また、本発明でいうカルボニル基を含有しない含フッ素重合体F−Gを用いた比較例6は、炭素フィブリルを分散させても充分な導電性が得られ難いことが判明した。
実施例10〜12及び比較例7
多層チューブの成形と評価
マルチマニホールドダイを装着した2種2層のチューブ押出し装置を用いて、チューブの外層がポリアミド樹脂(ダイセル−デグサ社製ナイロン12、LX9011)、内層が表3に示す実施例1、3若しくは8又は比較例4にて得られた樹脂組成物からなる層となるようにして外径8mm、内径6mm、外層0.75mm、内層0.25mmの多層チューブを連続して成形した。成形条件及び得られた多層チューブの評価結果を表3に示した。

なお、ポリアミド樹脂の押出し機の成形温度は、C1,150℃、C2,200℃、C3,240℃、C4,240℃、A(アダプタ部),240℃とし、チューブの引き取り速度を8m/分とした。
表3から、実施例10〜12ではいずれも問題無く良好な導電性及び接着強度を有する多層チューブが得られることがわかったが、比較例7では、内層材料の流動性が悪く、層間が容易に剥離できるものしか得られなかった。なお、内層側のシリンダ温度及びダイ(D)の温度を更に上げていったが、この現象は改善されず、ポリアミド樹脂の熱劣化が観測されたので中止した。
実施例13及び比較例8
OA用チューブとしての成形及び評価
実施例7(実施例13)及び比較例6(比較例8)で得た樹脂組成物を用いてダイ:コア=74:50mm径を備えた押出し機を用いて内面サイジングにより、50mm径、厚さ50μmのチューブを連続して押出した。そして、得られたチューブを硬度30、厚み2mmのシリコンゴムが被覆されている加熱ロールの表面に被せて、皺やたるみ等の外観不良を起こさないよう、強固に接着させて評価用のロールを作成した。なお、チューブ内面は潤工社製、「テトラH」を用いて表面処理し、その後に接着剤(ロード・ファー・イースト・インコンポレイティッド社製、ケムロック607)を用いた。次に、上記評価用の各ロールを用いて通紙試験を行った後に、表面抵抗率を測定した。結果を表4に示す。

表4から、本発明でいうカルボニル基を含有しない含フッ素重合体F−Gを用いた比較例8は、通紙試験後に表面抵抗率の増加が認められ、表面観察の結果、表面近傍の炭素フィブリルが脱落したと思われる形跡が確認された。
【産業上の利用可能性】
本発明の含フッ素樹脂組成物は、上述の構成よりなるので、充填材の脱落がなく、導電性及び表面平滑性に優れる含フッ素成形品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エチレン性重合体と炭素フィブリルとからなる含フッ素樹脂組成物であって、
前記含フッ素エチレン性重合体は、カルボニル基を有するものであり、
前記炭素フィブリルは、前記炭素フィブリル及び前記含フッ素エチレン性重合体の固形分合計の0.3〜20質量%である
ことを特徴とする含フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
カルボニル基は、含フッ素エチレン性重合体の主鎖炭素数1×10個あたり3〜3000個である請求の範囲第1項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項3】
含フッ素エチレン性重合体は、テトラフルオロエチレン単位比率40モル%以上からなる重合体である請求の範囲第1又は2項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項4】
含フッ素エチレン性重合体は、テトラフルオロエチレン及び下記一般式(I)
CF=CF−Rf (I)
〔式中、Rfは、−CF又は−ORfを表し、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。〕で表されるパーフルオロエチレン性単量体からなる共重合体である請求の範囲第1、2又は3項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項5】
含フッ素エチレン性重合体は、下記a、b及びcからなる共重合体である請求の範囲第1又は2項記載の含フッ素樹脂組成物。
a.テトラフルオロエチレン単位比率20〜90モル%
b.エチレン単位比率10〜80モル%
c.下記一般式(I)
CF=CF−Rf (I)
〔式中、Rfは、−CF又は−ORfを表し、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。〕で表されるパーフルオロエチレン性単量体に由来するパーフルオロエチレン性単量体単位比率0〜70モル%
【請求項6】
含フッ素エチレン性重合体は、フッ化ビニリデン単位比率15モル%以上からなる重合体である請求の範囲第1又は2項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項7】
含フッ素エチレン性重合体は、下記d、e及びfからなる共重合体である請求の範囲第6項記載の含フッ素樹脂組成物。
d.フッ化ビニリデン単位比率15〜60モル%
e.テトラフルオロエチレン単位比率35〜80モル%
f.ヘキサフルオロプロピレン単位比率5〜30モル%
【請求項8】
炭素フィブリルは、外径が1〜1000nm、長手方向の長さ(L)と外径(D)との比率(L/D)が5を超える繊維状物からなるものである請求の範囲第1、2、3、4、5、6又は7項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項9】
炭素フィブリルは、炭素フィブリル凝集体からなるものである請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7又は8項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項10】
炭素フィブリル凝集体は、平均粒子径が0.01〜0.25mmであるものである請求の範囲第9項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項11】
含フッ素樹脂組成物は、含フッ素エチレン性重合体と炭素フィブリルと、更に、無機フィラーとからなるものであり、
前記無機フィラーは、前記含フッ素樹脂組成物の3〜50質量%である請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10項記載の含フッ素樹脂組成物。
【請求項12】
請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11項記載の含フッ素樹脂組成物からなるものである
ことを特徴とする含フッ素成形品。
【請求項13】
請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11項記載の含フッ素樹脂組成物からなる含フッ素層を有する
ことを特徴とする含フッ素層含有積層体。
【請求項14】
請求の範囲第13項記載の含フッ素層含有積層体を薬液の存在下に使用することよりなる含フッ素層含有積層体使用方法であって、
前記薬液は、含フッ素層に接する
ことを特徴とする含フッ素層含有積層体使用方法。
【請求項15】
使用時に液体と接触させるものである請求の範囲第12項記載の含フッ素成形品。
【請求項16】
含フッ素層は、使用時に液体と接触させるものである請求の範囲第13項記載の含フッ素層含有積層体。
【請求項17】
塗装用塗料配管チューブ、飲料及び液体状食品輸送チュープ、薬液輸送用チューブ又は自動車燃料配管チューブである請求の範囲第12又は15項記載の含フッ素成形品。
【請求項18】
塗装用塗料配管チューブ、飲料及び液体状食品輸送チューブ、薬液輸送用チューブ又は自動車燃料配管チューブである請求の範囲第13又は16項記載の含フッ素層含有積層体。

【国際公開番号】WO2004/039883
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【発行日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548060(P2004−548060)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013812
【国際出願日】平成15年10月29日(2003.10.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
WINDOWS
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】