説明

含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法

【課題】含フッ素共重合体を含有する熱可塑性樹脂粉末を使用した場合においても、樹脂粉末同士の結着が起こらない含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料と溶媒を含有する混合物から溶媒を除去する粉体塗料用組成物の製造方法において、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を含有する溶媒を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料は、有機溶剤を使用しない低公害型塗料として、自動車部品、電化製品、家具、工作機械、事務機器、玩具などに需要が増加しつつある。粉体塗料による塗装はこのように低公害型であることに加え、1回の塗装で形成される塗膜が厚く、従来の溶剤型塗料のように何度も重ね塗りする必要がないため、塗装時間を短縮することができる。さらに、塗料中に溶剤を含有しないため、環境負荷が低い利点も有している。粉体塗料に求められるカラーバリエーションも従来の塗料にちかいものが要求され、メタリック色に対し建築内外装材を中心に近年その要求が高まっている。
【0003】
上記のようなメタリック色の粉体塗料を製造する方法として、フレーク状顔料を溶融法によりあらかじめ樹脂や着色顔料と十分混練した後、粉砕などにより粉末化するメルトブレンド法、樹脂粉末とフレーク状顔料とを混合して塗装するドライブレンド法などが知られている。
【0004】
しかしながら、メルトブレンド法ではフレーク状顔料が混練時に破壊され目的の意匠が得られない。特にメタリック色の意匠をもたらすアルミフレークではフレーク状顔料の破壊が顕著に発生する。ドライブレンド法では、塗装時に静電容量差によりフレーク状顔料と樹脂粉末粒子の被塗装物への付着が不均一となったり、さらには粉体塗料を回収再利用した場合にフレーク状顔料と樹脂粉末の混合比が維持できなくなったりする等の問題がある。
上記の問題を解決する方法として、熱硬化性樹脂粉末を溶解しない溶媒にフレーク状顔料と一緒に分散させたのち、その後撹拌しながら前記溶媒を揮発させて除去する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【0005】
しかしながら、熱硬化性樹脂粉末として含フッ素共重合体を含有する場合においては、例えば特許文献1に例示されているような熱可塑性樹脂粉末を溶解しない溶媒を選択しても、含フッ素共重合体が著しく膨潤するような溶媒である場合には、熱可塑性樹脂粉末の粒子同士が結着して、溶媒を揮発した後に粉体塗料として使用できない場合があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−189597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、含フッ素共重合体を含有する熱可塑性樹脂粉末を使用した場合においても、樹脂粉末同士の結着が起こらない含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題解決のために以下の構成を採用した。
[1]含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料と溶媒を含有する混合物から溶媒を除去する粉体塗料用組成物の製造方法において、該溶媒が1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を含有する溶媒であることを特徴とする含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
[2]溶媒が、溶媒の全質量において1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を90質量%以上含有する溶媒である[1]に記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
[3]前記混合物が、さらに水素添加テルペン樹脂含有する混合物である[1]または[2]に記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
[4]前記熱可塑性樹脂粉末における含フッ素共重合体の含有量が50質量%以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
[5]前記含フッ素共重合体が、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、の少なくとも1種のモノマーに基づく重合単位を有する共重合体である[1]〜[4]のいずれかに記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
[6]前記含フッ素共重合体が、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステルから選ばれる少なくとも1種以上の単量体に基づく重合体ンを有する共重合体である[1]〜[5]のいずれかに記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、含フッ素共重合体を含有する熱可塑性樹脂粉末を用いた場合においても、粉末の粒子同士が結着を発生させることなく含フッ素粉体塗料用組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<含フッ素粉体塗料組成物>
本発明の製造方法によって得られた含フッ素粉体塗料用組成物は、フレーク状顔料が含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末の表面に固定化さてれている。ここで、フレーク状顔料が表面に固定化した熱硬化性樹脂粉末とは、1つの熱硬化性樹脂粉末の表面に単〜複数のフレーク状顔料が付着した形態をいい、フレーク状顔料の表面に複数の熱硬化性樹脂粉末が結合した形態のものとは明確に区別されるものである。ただし、複数の熱硬化性樹脂粉末同士が結合したものや、1つのフレーク状顔料のみが表面に結合した熱硬化性樹脂粉末を含有する粉体塗料用組成物を排除するものではない。
【0011】
また、本発明の製造方法によって得られた含フッ素粉体塗料用組成物から形成される塗膜は、特定の形状を有するフレーク状顔料を含有することにより、独特の意匠性を持たせることができる。例えば、アルミニウムフレークのような金属顔料が含まれる場合には、塗膜にメタリック色を発色させることができる。さらに、該塗膜は、含フッ素共重合体を含有するので、耐候性や耐薬品性に優れる。
【0012】
<熱硬化性樹脂粉末>
本発明における熱可塑性樹脂粉末は含フッ素共重合体を含有する。本発明における熱可塑性樹脂粉末においては、(1)熱硬化性を有する含フッ素共重合体を含有する、(2)架橋性基を有する含フッ素共重合体と該架橋性基と反応する架橋剤とを含有する、(3)含フッ素共重合体と含フッ素共重合体以外の熱硬化性樹脂を含有する、のいずれかの形態が好ましく、(2)の形態が最も好ましい。
【0013】
なお、(3)の場合における熱硬化性樹脂は、含フッ素共重合体以外で熱硬化性を有する樹脂であれば特に限定されず、樹脂自体が熱硬化性を有していてもよく、架橋性基を有する樹脂と該架橋性と反応する架橋剤との組み合わせであってもよい。このような熱硬化性樹脂としては、例えば特開2010−189597号公報に記載の樹脂を挙げられる。架橋性基を有する樹脂における架橋性基と架橋剤の組み合わせは、公知のものを使用することができる。
【0014】
また、本発明の熱硬化性樹脂粉末は、各種の着色剤を含むこともできる。このような着色剤としては、たとえばキナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、トリフェニルメタンキノフタロン、アントラピリミジン、黄鉛、フタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、アゾ顔料(アゾメチン金属錯体、縮合アゾなど)、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、縮合多環類顔料などを挙げることができる。これらの着色剤の配合量はその種類によって異なるが、本発明のフレーク状顔料によってもたらされる効果を害することがなく、かつ塗膜表面の平滑性が損なわれない範囲に設定することが望ましい。
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂粉末は、上記に挙げた各種の添加成分の他、必要に応じ次のような添加剤を含むこともできる。そのような添加剤としては、たとえばベントナイト、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルクなどの各種充填剤、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウムなどの各種流動性調整剤、アクリルオリゴマー、シリコーンなどの各種流展剤、ベンゾインなどの各種発泡防止剤、ワックス類、カップリング剤、酸化防止剤、磁性粉、安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、増粘剤、沈降防止剤などを挙げることができる。このように本発明の熱硬化性樹脂粉末は、上記のような各種添加剤および各種機能性材料を含むことができる。
【0016】
このような熱硬化性樹脂粉末の50%体積平均粒径は特に限定されないが、通常15〜100μm程度が好ましく、特に好ましくは20〜60μmである。50%体積平均粒径が15μm未満では、粒度分布により実質的に5μm以下の粒子が多くなり、フレーク状顔料と均一に混合することが困難になるとともに、熱硬化性樹脂粉末同士が凝集する傾向が高くなり粉体塗装の際に均一に塗布できない場合がある。また、50%体積平均粒径が100μmを超える場合には、塗膜表面の平滑性が阻害され、良好な外観が得られない場合がある。
なお、このような平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法などの公知の粒度分布測定法により求めることができる。
【0017】
このような熱硬化性樹脂粉末を製造するには、たとえば、樹脂、硬化剤、および必要に応じて添加する充填剤などの各種添加剤を原材料として準備し、これらの原材料をまずミキサーやブレンダーなどの混合機を用いてドライブレンドする。ドライブレンド後、混練機により原材料を溶融混練し、冷却する。次に、機械または気流式の粉砕機を用いて冷却された溶融混練物を粉砕し、その後、気流式分級機を用いて分級することにより、本発明の熱硬化性樹脂粉末を得ることができる。この方法以外にも、たとえばスプレードライ法や重合法によっても熱硬化性樹脂粉末を製造することができる。
【0018】
<含フッ素共重合体>
本発明における含フッ素共重合体は、フッ素原子を有する共重合体であれば特に制限されないが、フルオロオレフィンに基づく重合単位を有する共重合体であることが好ましい。
フルオロオレフィンとしては、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、が挙げられ、これらの中でもクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンがより好ましい。
【0019】
含フッ素共重合体が架橋性基を有する場合には、架橋性基を有する単量体をフルオロオレフィンと共重合させることが好まし。架橋性としては水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、エキセタン基が好ましく、水酸基、カルボキシル基がより好ましい。このような架橋性基を有する単量体としては、二重結合と架橋性基を有する化合物が好ましく、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、アリルエーテル類が特に好ましい。具体的には、架橋性基が水酸基である場合には、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテルが挙げられる。架橋性基がカルボシキル基である場合には、水酸基含有共重合体で重合物を製造した後、酸無水物を使ってカルボキシル基を付加する方法が挙げられる。
【0020】
含フッ素共重合体が架橋性基を有する場合に、組み合わせて用いる架橋剤は、該架橋性基と反応する架橋剤であれば特に限定されない。例えば、架橋性基が水酸基である場合には、ポリイソシアネート硬化剤、メラミンが好ましい。架橋性基がカルボキシル基である場合には、エポキシ、ヒドロキシアルキルアミドが好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂粉末の製造工程において、混練や粉砕等の熱を加えるまたは熱が発生する工程がある場合には、架橋性基と架橋剤との反応温度は、熱可塑性樹脂粉末の製造工程における最高温度よりも高いことが好ましい。具体的に熱が加わる工程の温度より−20℃以上であることが好ましく、−30℃以上であることがより好ましい。
【0022】
このような架橋性基と架橋剤の組み合わせとしては、水酸基とポリイソシアネート硬化剤またはブロックポリイソシアネート硬化剤との組み合わせが好ましい。
【0023】
<フレーク状顔料>
アルミニウムフレークに代表されるフレーク状顔料は、フレーク状顔料が有機溶媒に分散されたペースト状であってもよく、樹脂でペレット状に固められた形状であってもよい。また、乾燥した粉末状であってもよい。
ペースト状態のフレーク状顔料を使用する場合、ペースト状態のフレーク状顔料をそのまま使用して、フレーク状顔料が分散されている有機溶媒を、本発明の製造方法における溶媒の一部として含有させてもよい。しかし、フレーク状顔料を分散させる有機溶媒は、ミネラルスピリット、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソパラフィン等が使用されており、このような有機溶剤は、本発明において用いられる含フッ素共重合体を溶解乃至膨潤してしまう。したがって、ペースト状態のフレーク状顔料を使用する場合は、予め有機溶剤を本発明で使用する溶媒に置換しておくことが好ましい。
【0024】
このような溶媒の置換方法としては、たとえば濾過装置を用いてそのような有機溶剤とフレーク顔料とを含むペースト(すなわち市販のペースト状態のフレーク状顔料)を、溶媒分散工程で用いられる溶媒で洗浄する方法や、そのようなペーストを溶媒分散工程で用いる溶媒に分散させた後、濾過もしくは遠心分離を行なうことにより溶媒分散工程で用いる溶媒に分散させた状態でフレーク状顔料を回収する方法などを挙げることができる。
【0025】
<溶媒>
本発明においては、含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料と溶媒とを混合する。本発明で使用する溶媒は、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、または1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を含有するが、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの溶媒以外のその他溶媒を含有してもよい。
本発明における溶媒は、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましく、これらの溶媒の少なくとも一方のみからなることが最も好ましい。
【0026】
1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方の含有量がこの範囲であれば、粉体塗料粒子の溶解による他混合成分との分離や、溶解しなくても融解により粉体塗料としての形状が維持できない問題が発生しにくくなる。
また本発明において特に1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンは結合剤を使用する従来のボンデッド法において、結合剤となる水添テルペンフェノール樹脂は溶解し、含フッ素共重合体を溶解しないため、結合剤を使用するボンディッド法において、好適に使用できる。
【0027】
<含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法>
本発明の製造方法は、含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料と溶媒を含有する混合物から溶媒を除去する粉体塗料用組成物の製造方法において、該溶媒が1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を含有する溶媒であることを特徴とする。
【0028】
本発明の製造方法は、含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料と溶媒とを混合する混合工程と混合工程で得られた混合物から溶媒を除去する溶媒除去工程を有することが好ましい。
混合工程では、含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料と溶媒とを混合するが、当該混合物の固形分濃度は、50〜90質量%とすることが好ましく、特に70〜85質量%とすることがより好ましい。混合物の固形分濃度がこの範囲であれば、フレーク状顔料と熱硬化性樹脂粉末との均一混合が良好となり、また、溶媒除去の際に必要となるエネルギーや時間が少なくて済むので生産効率がよい。
【0029】
溶媒除去工程では、混合物から溶媒を除去し、含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末の表面にフレーク状顔料を固定化する。
溶媒除去工程においては、混合物に含有される溶媒が揮発し全体が粉体化するまで撹拌を継続し、溶媒が完全に除去された後、スクリーンを用いて分級することにより本発明の粉体塗料組成物を得ることができる。溶媒除去の際は、混合物を撹拌しながら溶媒を揮発させて除去することが好ましい。撹拌しながら溶媒を除去することにより、フレーク状顔料が熱硬化性樹脂粉末表面に均一に凝集し、フレーク状顔料が表面に固定化した熱硬化性樹脂粉末が得られる。蒸発工程は、真空吸引しながら溶媒を揮発させて除去することが好ましい。
【0030】
溶媒除去工程は、混合物を−5℃〜50℃の範囲で撹拌することが好ましい。特に0℃以上の温度に上記混合物を保持することがより好ましく、40℃以下の温度に上記混合物を保持することがより好ましい。当該温度が50℃を超えると熱硬化性樹脂粉末同士の結合が促進されブロッキングする可能性がある。この場合、ジェットミルなどの物理的粉砕方法で凝集粒子(ブロッキングした粒子)を解砕することも可能であるが、その作業に伴いフレーク状顔料が熱硬化性樹脂粉末の表面から剥離し、延いては熱硬化性樹脂粉末粒子自体の破壊を引き起こす可能性がある。また、上記温度が−5℃未満であると、溶媒の揮発に長時間を必要とするため実用的ではない。すなわち、本発明の蒸発工程は、熱硬化性樹脂粉末同士がブロッキングを生じない温度(すなわち熱硬化性樹脂粉末の溶融温度以下の温度)であって、上記溶媒の揮発が効率的に行なわれる温度で実行することが好ましい。
【0031】
<用途>
本発明の製造方法によって得られた含フッ素粉体塗料用組成物は、たとえば建築仕上材、自動車、船舶、航空機等の移動体、事務用品、家庭用品、スポーツ用品、建築材料、弱電、重電設備、支柱や信号、標識、ハンドレール、ガードレールなどの道路資材などに利用することができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<含フッ素共重合体の製造>
撹拌機が装着された内容積2.5Lのステンレス鋼製耐圧反応器に、キシレンの503g、シクロヘキシルビニルエーテルの558g、ヒドロキシブチルビニルエーテルの145g、炭酸カルシウムの12gおよびパーブチルピバレートの7gを仕込み、窒素によるガス置換を行い、反応器内の溶存酸素を除去した。
【0033】
次いで、CTFEの660gを導入し、65℃まで徐々に温度を上げて、65℃に維持しながら10時間反応を続けた。10時間後に反応器を水冷し、反応液を得た。得られた反応液を室温まで冷却した後、未反応の原料をパージし、濾過して未溶解物を除去して、固形分濃度が65質量%の含フッ素共重合体の溶液を得た。得られた溶液を減圧乾燥して、水酸基価が50mgKOH/g、Tgが50℃の含フッ素共重合体を得た。
【0034】
<熱硬化性樹脂粉末の製造>
前記含フッ素共重合体の52質量部、ε−カプロラクタムでブロック化されたイソシアネート樹脂「ベスタゴンB−1530 クレアノバ社製、商品名)」の14質量部、ベンゾインの0.4質量部、アクリル酸オリゴマー系レべリング剤「BYK−364P(BYK−Chemie社製、商品名)」の1質量部、二酸化チタン「Titone D−918D」の28質量部およびジブチルスズジラウレートの0.1質量部を、高速ミキサー内に投入して1分間混合した。そして、120℃に温度調整した2軸練合機(Prism社製)を用いて混練を行い、吐出された混練物を冷却ロールで冷延後、得られた述べ板状混合物の塊砕を行い、ピンミルを用いて粉砕し、100μm目開きの網で分級し、含フッ素共重合体を含有する熱可塑性樹脂粉末(50%体積平均粒子径:35μm)を得た。
【0035】
<実験例1>
得られた含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末5gを50ml容量の蓋付き容器に投入し、フレーク顔料としてアルミニウムパウダー(STANDART AluminumPowder PCR901:ECKART社製商品名)を0.25添加した。その後溶媒4g添加し、容器を密閉した。1時間放置後容器を振とうし、中の熱硬化性粉体塗料の状態を観察した(1時間後の状態)。またその後、30℃、400Paの真空容器内で5時間乾燥して溶媒を揮発させ、残った粉体の状態を観察した(揮発後の状態)。
【0036】
[状態の評価]
(1時間後の状態)
○:容器内の熱硬化性粉体塗料が粉末状を維持している
△:容器内の熱硬化性粉体塗料が粉末状を維持できず融解している(溶媒と粉体塗料は分離している)
×:容器内の熱硬化性粉体塗料が溶媒に溶解して懸濁液となっている
(溶媒揮発後の状態)
○:粉末状を維持している
×:一塊となっている
種々の溶媒を用いた実験結果を表1に示した。
【0037】
<実験例2>
実験例1で使用した溶媒1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ジクロロペンタフルオロプロパン それぞれ10gに水添テルペン樹脂(YSポリエスターTH−130:ヤスハラケミカル社製商品名)を0.075gを添加し状態を観察した。
その結果、水添テルペン樹脂は、1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ジクロロペンタフルオロプロパン中で溶解した。一方、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンでは完全に溶解しなかった。
【0038】
以上のように、含フッ素共重合体含有する熱硬化性樹脂粉末粉体塗料においては1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンが含フッ素共重合体をバインダーとする熱硬化性粉体塗料を溶解せず、フレーク状樹脂を粒子を分散することができた。また1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンにおいてはフレーク状顔料の結着剤として使途用される水添テルペン樹脂を溶解することができ、結着剤を使用したフレーク状顔料固定化工程にも使用することができる。
【0039】
【表1】

【0040】
溶媒A:1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン
溶媒B:1,1,1、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素共重合体を含有する熱硬化性樹脂粉末とフレーク状顔料と溶媒を含有する混合物から溶媒を除去する粉体塗料用組成物の製造方法において、該溶媒が1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を含有する溶媒であることを特徴とする含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
【請求項2】
溶媒が、溶媒の全質量において1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンおよび1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンの少なくとも一方を90質量%以上含有する溶媒である請求項1に記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混合物が、さらに水素添加テルペン樹脂含有する混合物である請求項1または2に記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂粉末における含フッ素共重合体の含有量が50質量%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記含フッ素共重合体が、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンの少なくとも1種のモノマーに基づく重合単位を有する共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記含フッ素共重合体が、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステルから選ばれる少なくとも1種以上の単量体に基づく重合体ンを有する共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素粉体塗料用組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−136640(P2012−136640A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290074(P2010−290074)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】