説明

含フッ素表面調整剤

【課題】低泡性である新規な含フッ素グラフト共重合体を提供する。
【解決手段】下記単量体(1)、単量体(2)及び単量体(3)で表される(メタ)アクリル酸エステルからなる含フッ素グラフト共重合体であって、枝ポリマーおよび幹ポリマーの少なくとも一方が下記単量体(1)で表される含フッ素モノマーからなる構成単位を含有するグラフト共重合体。単量体(1)のRfは、特定のフッ素含有基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂、光学材料、塗料等の分野で用いられる表面改質剤として有用な、パーフルオロアルケニル基を有する含フッ素グラフト共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂、光学材料、塗料等の分野で用いられている塗工液は、部材表面への塗工工程を含んでいる。この工程で発生するスジ、ハジキ、ムラ、ブツ、不濡れ等の不良の抑制、すなわち、塗工膜表面への平滑性の付与を目的として、塗工膜表面への撥水撥油性等の機能性付与を目的として、塗工液には様々な物質が添加されている。
【0003】
パーフルオロアルケニル基を含有する化合物も本用途での添加剤として用いられており、特に、表面平滑性付与の点で、パーフルオロアルケニル基を有するノニオン系界面活性剤が有用であることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
フッ素系界面活性剤として用いられている共重合体としては、例えば、含フッ素モノマーと親媒基を有するモノマーとのランダム共重合体がある。しかし、ランダム共重合体であるフッ素系界面活性剤を配合した塗液等は、表面の平滑性に優れるものの、起泡性が低いとはいえず操業性や塗工品質の悪化につながる場合があった。また、ランダム共重合体は、フッ素含有量が少ない場合は、表面張力の低下に乏しく、塗膜表面の表面平滑性、撥水撥油性が劣る傾向にあった。レベリング剤としての機能を発揮させるためには、フッ素の含有量または塗液等への添加量を増やす必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−77057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の従来技術の問題点を解消する、新規な含フッ素表面調整剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、これらの問題点を解決すべく鋭意検討した結果、枝ポリマーおよび幹ポリマーの少なくとも一方がフルオロアルキル基を含有する含フッ素グラフト共重合体が、低泡性であると同時にランダム共重合体よりも少ないフッ素モノマー比率でも表面張力を低下させる能力に優れ、かつ塗工材料を塗布した際の表面平滑性の付与及び塗膜表面への撥水撥油性の付与が可能となることを見出した。
【0008】
本発明はこれらの知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねて完成された発明である。すなわち、本発明は下記項1〜8の含フッ素表面調整剤に関する。
項1.
下記単量体(1)、単量体(2)及び単量体(3)で表される(メタ)アクリル酸エステルからなる含フッ素グラフト共重合体であって、枝ポリマーおよび幹ポリマーの少なくとも一方が下記単量体(1)で表される含フッ素モノマーからなる構成単位を含有するグラフト共重合体を含んでなる含フッ素表面調整剤。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

[式中、Rfは下記式(4)または(5)で示される式である。R1は炭素原子数が1〜50の二価の連結基(該連結基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアリール部分を有していてもよい。)である。
R3は炭素数が1〜50の有機基(該有機基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアリール部分を有していてもよい。)である。
Rは炭素原子数が1〜100の二価の連結基(該連結基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアリール部分を有していてもよい。)である。
R2、R及びRは相互に独立してH又はメチル基である。]
【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
項2.
単量体(2)と単量体(3)を共重合した幹ポリマーに、単量体(1)で表される含フッ素モノマーをグラフト重合させて得られるグラフト共重合体を含んでなる項1に記載の含フッ素表面調整剤。
項3.
前記含フッ素グラフト共重合体において幹ポリマーの重量平均分子量が2,000〜50,000である項1または2に記載の含フッ素表面調整剤。
項4.
前記含フッ素グラフト共重合体の重量平均分子量が2,000〜100,000である項1、2または3に記載の含フッ素表面調整剤。
項5.
前記含フッ素グラフト共重合体において単量体(1)と、単量体(2)と単量体(3)との合計量の重量比が、単量体(1):単量体(2)と単量体(3)の合計量=1:99〜55:45である項1、2、3、または4に記載の含フッ素表面調整剤。
項6.
単量体(1)においてRが炭素数2〜30の二価の連結基(該連結基は所望によりエーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール部分を有していてもよい。)である項1、2、3、4または5に記載の含フッ素表面調整剤。
項7.
単量体(2)においてRが炭素数1〜30の有機基(該連結基は所望によりエーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール部分を有していてもよい。)である項1、2、3、4、5、または6に記載の含フッ素表面調整剤。
項8.
単量体(3)においてRが炭素数2〜50の二価の連結基(該連結基は所望によりエーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール部分を有していてもよい。)である項1、2、3、4、5、6または7に記載の含フッ素表面調整剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の含フッ素グラフト共重合体は、上記特殊なパーフルオロ部位が存在するため、塗工液の塗工工程におけるスジ、ハジキ、ムラ、ブツ、不濡れ等の抑制、すなわち塗工膜表面への平滑性が付与される。有機フッ素化合物はその分解性の低さから環境への負荷が問題となっているが、本発明によると表面平滑性に優れ、かつ低泡性の含フッ素表面調整剤を従来(ランダム共重合体)よりも少ないフッ素モノマー比率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の含フッ素表面調整剤について詳述する。本発明の含フッ素オリゴマーは下記単量体(1)単量体(2)、単量体(3)で表される(メタ)アクリル酸エステルからなる含フッ素グラフト共重合体であって、枝ポリマーおよび幹ポリマーの少なくとも一方が下記単量体(1)で表される含フッ素モノマーからなる構成単位を含有するグラフト共重合体を含有する。
【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
単量体(1)
単量体(1)で表される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルのRは、炭素原子数が1〜50、好ましくは、炭素原子数が2〜30の二価の連結基(該連結基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合( −O− )、エステル結合( −COO− または −O−CO− )、アミド結合( −NHCO− または −CONH− )又はアリール部分を有していてもよい。)である。
【0021】
本明細書において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子または塩素原子が挙げられ、アリール部分としては、フェニル(フェニレン)、ナフチル(ナフチレン)、トルイル(トルイレン)、キシリル(キシリレン)、アントラニル(アントラニレン)、フェナントリル(フェナントリレン)などの炭素数6〜15のアリール基ないしアリーレン基が挙げられる。
【0022】
好ましいRとしては、具体的に以下の構造の二価の連結基が挙げられる。
− ( CHn1 − ( n1=2〜10 )
− ( CHn2 OCOC− ( n2=2〜10 )
− ( CHn3− ( n3=1〜10 )
− ( CHCHO )n4 CHCH− ( n4=1〜10 )
− ( CHCHO )n5 COC− ( n5=1〜10 )
【0023】
は、Hまたはメチル基である。
【0024】
本発明において、この単量体(1)は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
単量体(2)
単量体(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルにおいて、Rは、通常炭素数が1〜50、好ましくは炭素原子数が1〜30の有機基である。該有機基は、所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール基を有していてもよい。
【0026】
好ましいRとしては、具体的に以下の置換基が挙げられる。
− ( CHn9 CH ( n9=0〜20 )
− ( CHCHO )n10 CH ( n10=1〜10 )
【0027】
は、Hまたはメチル基である。
【0028】
本発明において、この単量体は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
単量体(3)
単量体(3)で表される(メタ)アクリル酸エステルにおいて、Rは、通常炭素数が1〜100、好ましくは炭素原子数が2〜50の二価の連結基である。該連結基は、所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール基を有していてもよい。
【0030】
特に好ましいRとしては、具体的に以下の構造の二価の連結基が挙げられる。
− ( CHn6 − ( n6=2〜10 )
− ( CHCHO )n7 CHCH− ( n7=1〜20 )
− ( CHCHCHO )n8 CHCHCH− ( n8=1〜10 )
【0031】
は、Hまたはメチル基である。
【0032】
本発明において、この単量体は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
含フッ素グラフト共重合体
本発明における含フッ素グラフト共重合体では、単量体(1)は幹ポリマーまたは枝ポリマーの少なくとも一方に含有され、好ましくは少なくとも枝ポリマーに含有される。単量体(1)は幹ポリマーに含有されるよりも枝ポリマーに含有される方がスジ、ハジキ、ムラ、ブツ、不濡れ等の抑制、すなわち塗工膜表面への平滑性がより良好に付与される。
【0034】
なお、幹ポリマーが2種以上の単量体の共重合体である場合、幹ポリマーはランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれでもよい。
【0035】
本発明の含フッ素グラフト共重合体の好ましい単量体の組み合わせは、以下のものである。
【0036】
【表1】

【0037】
本発明の含フッ素グラフト共重合体は、幹ポリマー20〜80重量%、枝ポリマー20〜80重量%程度であり、枝ポリマー/幹ポリマーの比は、1:0.25〜1:10程度である。
【0038】
また、単量体(1)〜(3)の比率は、共重合体全体を100質量%としたとき、単量体(1)が1〜55質量%、単量体(2)と単量体(3)の合計量が45〜99質量%;好ましくは単量体(1)が1〜45質量%、単量体(2)と単量体(3)の合計量が55〜99質量%;より好ましくは、単量体(1)が1〜30質量%、単量体(2)と単量体(3)の合計量が70〜99質量%である。単量体(1)が多すぎる場合は、液状媒体への溶解性が悪化するため上記範囲が好ましい。
【0039】
含フッ素グラフト共重合体の幹ポリマーの重量平均分子量は2,000〜50,000程度、好ましくは4000〜20000程度である。
【0040】
含フッ素グラフト共重合体の重量平均分子量は2,000〜100,000程度、好ましくは4000〜30000程度である。
【0041】
本発明のグラフト共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で他の単量体を共重合することができる。他の単量体の使用量は、共重合体全体の0〜10質量%程度である。
【0042】
他の単量体としては、以下のものが挙げられる:
スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ビニルスルホン酸、酢酸ビニル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等。
【0043】
幹ポリマーは単量体(1)、単量体(2)及び単量体(3)のうちから選択した単量体から溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法等によって得ることができる。例えば、溶液重合法の場合には、各単量体を所望の組成にて溶媒に溶解し、窒素雰囲気下、ラジカル重合開始剤を使用して加熱することにより幹ポリマーを得ることができる。
【0044】
重合の際に用いられる溶媒としては、単量体(1)、単量体(2)及び単量体(3)を溶解又は懸濁するものであれば、いかなる溶媒でも用いることが可能であり、例えば、水又はトルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明の好ましいグラフト共重合体は、以上の様にして得られた幹ポリマーに単量体(1)を含む(メタ)アクリル酸エステルを公知の重合法によって、グラフト重合して調製することができる。例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法等を用いることができるが、比較的簡易な装置で行うことができることから、溶液重合法が好ましい。
【0046】
溶液重合は、反応成分を適当な溶媒に溶解させ、有機過酸化物を添加するか、電離性放射線を照射して行う。
【0047】
有機過酸化物は 特に制限されないが、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルクメルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロパノールパーオキシジカーボネート等の公知のものを幅広く使用できる。これらの過酸化物は1種または2種以上組み合わせて使ってもよい。
【0048】
このグラフト重合は、前記の幹ポリマーを合成した反応溶媒中に、単量体(1)、単量体(2)、単量体(3)のうち選択した単量体および開始剤を入れて行ってもよい。あるいは、一旦、幹ポリマーを反応溶媒中から取り出して、改めて幹ポリマーを溶媒に溶解させて溶液とし、この溶液中に単量体及び開始剤を入れて行ってもよい。
【0049】
本発明において、反応時間は特に限定されないが、通常1〜48時間程度とすればよい。
【0050】
この様にして得られる本発明の含フッ素グラフトオリゴマーはパーフルオロカーボン鎖の中でも、上記一般式(4)及び(5)で示される分岐状パーフルオロカーボンを分子内に有する。本発明の含フッ素オリゴマーは表面エネルギーの低下に効果的であるトリフルオロメチル基を分子内に多数有することにより、高い表面改質効果をもたらし、例えば塗工液の塗工工程におけるスジ、ハジキ、ムラ、ブツ、不濡れ等の抑制、すなわち塗工膜表面への平滑性が付与される。
【0051】
また、上記一般式(4)及び(5)で示される分岐状パーフルオロカーボン鎖の原料である含フッ素化合物(ヘキサフルオロプロペン3量体)は、分岐度が高く、比較的安価であり、実用上極めて有用なフルオロカーボン鎖導入剤又はその調整原料である。
【0052】
使用方法
本発明の含フッ素グラフトオリゴマーは、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノエーテル類、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのアルキレングリコールジエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の有機溶媒の溶液として、または、樹脂、光学材料、塗料などの塗工液に添加した溶液として使用することができる。
【0053】
単量体(1)、単量体(2)および単量体(3)から得られる含フッ素グラフト共重合体は、一種単独で使用しても良いし、二種以上を混合して使用してもよい。また、該溶液に使用する前記溶媒も、一種単独で使用しても良いし、二種以上を混合しても良い。
【0054】
本発明の含フッ素グラフト共重合体を含む溶液を、例えば、樹脂、フィルム、繊維、ガラス、金属等の基材表面に塗布、コーティング、スプレー等により付着させることにより、基材表面の特性を改質することができる。すなわち、該溶液中の溶媒が蒸発することにより、基材表面に、本発明の含フッ素グラフトオリゴマー膜が形成される。含フッ素グラフト共重合体を含む溶液は、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、例えば〜2%の濃度の溶液として好ましく塗布される。
【0055】
該膜は、撥水撥油性、防汚性、レベリング性等を有する。溶媒の乾燥(蒸発)条件は、溶液中の溶媒の種類、量等によって変化するが、通常室温〜200℃で、10秒間〜10分間程度乾燥させればよい。
【0056】
本発明の含フッ素グラフト共重合体を塗工液に配合する場合、塗工液中にはこの他に硬化性モノマー成分、光重合開始剤、溶剤等を配合することができる。
【0057】
硬化性モノマー成分としては、塗工液に使用される通常の硬化性樹脂モノマー成分であれば特に限定されず、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ビスフェノールF EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、各種ウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業株式会社製 紫光シリーズ、根上工業株式会社製 アートレジンシリーズ等)等が挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。これらの硬化性樹脂モノマーは単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0058】
該溶液中の含フッ素グラフト共重合体の濃度は特に限定されないが、塗工液に含まれる硬化性樹脂モノマー成分100重量部に対して、0.01〜15重量部程度、好ましくは0.1〜10重量部程度である。
【0059】
塗工液全量中の硬化性樹脂モノマー成分の使用量は、5〜99.99重量%程度、好ましくは10〜99.9重量%程度である。また、本発明の含フッ素グラフト共重合体の使用量は、塗工液全量中、0.0005〜13重量%程度、好ましくは0.01〜9重量%程度である。
【0060】
塗工液中には、必要に応じて従来公知の光重合開始剤、溶剤等を配合することができる。光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシ−シクロへキシル−フェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾフェノン等が使用できる。これらの光重合開始剤は1種のみで使用しても良いし、2種以上を混合してもよい。
【0061】
光重合開始剤及び/又は溶剤を使用する場合、塗工液全量中の硬化性樹脂モノマー成分の使用量は、5〜80重量%程度、好ましくは10〜70重量%程度である。また、本発明の含フッ素表面調整剤の使用量は、塗工液全量中、0.0005〜13重量%程度、好ましくは0.01〜9重量%程度である。
【0062】
光重合開始剤を使用する場合、光重合開始剤の使用量としては、硬化性樹脂モノマー成分100重量部に対して通常1〜20重量部程度、好ましくは2〜15重量部程度とすればよい。また、溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル等、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノエーテル類、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのアルキレングリコールジエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンを使用できる。これらの溶剤は1種類のみで使用しても良いし、2種類以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0063】
溶剤を使用する場合、溶剤の使用量としては、硬化性樹脂モノマー成分100重量部に対して通常10〜1900重量部程度、好ましくは15〜900重量部程度とすればよい。
【0064】
塗工方法は、特に制限されず、従来公知の塗工方法が採用でき、例えば、バーコーター等を使用すればよい。効果方法も紫外線、熱等のエネルギー等により硬化させる方法を採用できる。
【実施例】
【0065】
本発明の内容を以下の実施例により説明するが、本発明の内容は実施例に限定されることは意図しない。
【0066】
合成例1
滴下ロートを備えた三つ口フラスコ(3L)内に、4−ヒドロキシブチルアクリレート259.5g(1.8mol)、トリエチルアミン218.6g(2.16mol)、アセトニトリル1000gを入れた。滴下ロートにヘキサフルオロプロペントリマー973.0g(2.16mol)を入れフラスコ内の溶液中へ約60分かけて攪拌下で徐々に滴下した。滴下終了後、室温で攪拌をさらに3時間続行した。
【0067】
反応混合物に1N塩酸2200gを加えて反応を停止させ、次いで、反応混合物を5Lのビーカー内へ移した後、水1Lを用いる洗浄処理を3回行った。水洗処理後の溶液を減圧下脱水することにより、次式(6)で表されるフッ素化アクリレートを964.0g(収率93%)で得た。得られたフッ素化アクリレート(6)のH−NMRデータを表2に示す。
【0068】
【化9】

(式中、Rfは下記の一般式(4)または(5)である。)
【0069】
【化10】

【0070】
【化11】

【0071】
【表2】

【0072】
合成例2
冷却管を備えた三つ口フラスコ(300mL)内に、日油社製ブレンマーAE−400[HO(CHCHO)10C(=O)CH=CH]51.2g(0.1mol)、酢酸エチル256g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.82g(5mmol)、ラウリルメルカプタン0.3g(2mmol)を入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応溶液を80℃まで加熱し、反応を開始した。その後80℃で攪拌を14時間続行した。反応の終了をH−NMRの、アクリレート特有のピークの消失で確認した。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。測定結果を表3に示す。
【0073】
合成例3
冷却管を備えた三つ口フラスコ(200mL)内に、日油社製ブレンマーAME−400[CHO(CHCHO)C(=O)CH=CH]48.2g(0.1mol)、酢酸エチル241g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.82g(5mmol)、ラウリルメルカプタン0.2g(1mmol)を入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応溶液を80℃まで加熱し、反応を開始した。その後80℃で攪拌を14時間続行した。反応の終了をH−NMRの、アクリレート特有のピークの消失で確認した。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。測定結果を表3に示す。
【0074】
合成例4
冷却管を備えた三つ口フラスコ(200mL)内に、日油社製ブレンマーAME−400[CHO(CHCHO)C(=O)CH=CH]21.7g(0.045mol)、東京化成工業社製グリシジルメタクリレート0.7g(0.005mol)、酢酸エチル95g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.42g(5mmol)、ラウリルメルカプタン0.6g(3mmol)を入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応溶液を80℃まで加熱し、反応を開始した。その後80℃で攪拌を14時間続行した。反応の終了をH−NMRの、アクリレート特有のピークの消失で確認した。含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。測定結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
実施例1
冷却管を備えた三つ口フラスコ(100mL)内に酢酸エチルで20質量%に調整した合成例2で合成した重合体25.5g、過酸化ベンゾイル0.06gを入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応容器を80℃まで加熱し、合成例1で合成し酢酸エチルで20質量%に調整した含フッ素メタクリレート9.5gを1時間かけて滴下した。滴下後、80℃で攪拌を5時間続行しグラフト共重合体を得た。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。その測定結果を表4に示す。
【0077】
得られた含フッ素グラフト共重合体を酢酸エチルで50質量%に調整しこれを0.2重量部、硬化性樹脂モノマーとしてペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(日亜合成社製、商品名:m−305)20重量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガキュア184)を0.8重量部、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)を79重量部、混合し塗工液を作成した。作製した塗工液15mLを、30mLスクリュー瓶にとり、一秒間に二回の速さで120回上下振とうし塗工液の起泡性を確認した。また、塗工液をNo.20のバーコーターでポリエステルフィルムに塗り広げ、60℃に設定した乾燥器に2分間投入し、溶剤を揮発させた後、UV照射することで硬化膜を得、硬化膜表面の表面平滑性、撥水・撥油性を評価した。その測定結果を表4に示す。
【0078】
実施例2
冷却管を備えた三つ口フラスコ(100mL)内に酢酸エチルで20質量%に調整した合成例2で合成した重合体28.6g、過酸化ベンゾイル0.05gを入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応容器を80℃まで加熱し、合成例1で合成した酢酸エチルで20質量%に調整した含フッ素メタクリレート6.4gを1時間かけて滴下した。滴下後、80℃で攪拌を5時間続行しグラフト共重合体を得た。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。その測定結果を表4に示す。また、得られた含フッ素共重合体を配合した塗液を実施例1と同様に作製し、同様に表面平滑性、撥水性・撥油性、起泡性を評価した。その測定結果を表4に示す。
【0079】
実施例3
冷却管を備えた三つ口フラスコ(100mL)内に酢酸エチルで20質量%に調整した合成例2で合成した重合体35.1g、過酸化ベンゾイル0.02gを入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応容器を80℃まで加熱し、合成例1で合成し酢酸エチルで20質量%に調整した含フッ素メタクリレート4.9gを1時間かけて滴下した。滴下後、80℃で攪拌を5時間続行しグラフト共重合体を得た。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。その測定結果を表4に示す。また、得られた含フッ素共重合体を配合した塗液を実施例1と同様に作製し、同様に表面平滑性、撥水性・撥油性を評価した。その測定結果を表4に示す。
【0080】
実施例4
冷却管を備えた三つ口フラスコ(100mL)内に酢酸エチルで20質量%に調整した合成例3で合成した重合体30.0g、過酸化ベンゾイル0.05gを入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応容器を80℃まで加熱し、合成例1で合成した酢酸エチルで20質量%に調整した含フッ素メタクリレート11.9gを1時間かけて滴下した。滴下後、80℃で攪拌を5時間続行しグラフト共重合体を得た。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。その測定結果を表4に示す。また、得られた含フッ素共重合体を配合した塗液を実施例1と同様に作製し、同様に表面平滑性、撥水性・撥油性、起泡性を評価した。その測定結果を表4に示す。
【0081】
実施例5
冷却管を備えた三つ口フラスコ(100mL)内に酢酸エチルで20質量%に調整した合成例3で合成した重合体35.1g、過酸化ベンゾイル0.05gを入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応容器を80℃まで加熱し、合成例1で合成した含フッ素メタクリレート(酢酸エチル20質量%溶液)11.9gを滴下1時間かけてした。滴下後、80℃で攪拌を5時間続行しグラフト共重合体を得た。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。その測定結果を表4に示す。また、得られた含フッ素共重合体を配合した塗液を実施例1と同様に作製し、同様に表面平滑性、撥水性・撥油性、起泡性を評価した。その測定結果を表4に示す。
【0082】
実施例6
冷却管を備えた三つ口フラスコ(100mL)内に酢酸エチルで20質量%に調整した合成例4で合成した重合体20.0g、過酸化ベンゾイル0.02gを入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応容器を80℃まで加熱し、合成例1で合成し酢酸エチルで20質量%に調整した含フッ素メタクリレート5.6gを1時間かけて滴下した。滴下後、80℃で攪拌を5時間続行しグラフト共重合体を得た。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。その測定結果を表4に示す。また、得られた含フッ素共重合体を配合した塗液を実施例1と同様に作製し、同様に表面平滑性、撥水性・撥油性、起泡性を評価した。その測定結果を表4に示す。
【0083】
比較例1
冷却管を備えた三つ口フラスコ(200mL)内に、合成例1で合成した含フッ素アクリレート(6)3.7g、日油社製ブレンマーAE−400[HO(CHCHO)10C(=O)CH=CH]26.3g、酢酸エチル45g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.30g、ラウリルメルカプタン1.22gを入れた。反応容器中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。窒素置換後、反応容器を攪拌しながら反応溶液を80℃まで加熱し反応を開始した。その後80℃で攪拌を14時間続行した。反応の終了をH−NMRの、それぞれのアクリレート特有のピークの消失で確認した。得られた含フッ素オリゴマーの重量平均分子量をGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)を用いて確認した。測定結果を表4に示す。また、得られた含フッ素共重合体を配合した塗液を実施例1と同様に作製し、同様に表面平滑性、撥水性・撥油性、起泡性を評価した。その測定結果を表4に示す。
【0084】
評価
(1)表面平滑性
UV照射後の効果膜表面を目視で観察した。
評価基準 : スジ、ハジキ等が無い ○
スジ、ハジキ等が有る ×
【0085】
(2)撥水性・撥油性
実施例および比較例で作成した硬化膜表面に対する水及びヘキサデカンの接触角を接触角測定装置(協和界面化学社製 DropMaster700)で測定した。水に対する接触角が撥水性の程度を示し、ヘキサデカンの接触角が撥油性の程度を示す。
【0086】
(3)静的表面張力
実施例1〜3及び比較例1〜2にて合成した含フッ素共重合体のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの0.1質量%溶液を調整後、表面張力計(協和界面科学性、SURFACE TENSIONMETER CBVP−Z)によりウィルヘルミー法にて22℃〜28℃で測定した。その測定結果を表5に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
表4および表5より、本発明の含フッ素グラフト共重合体を使用することにより、ランダム共重合体よりも少ないフッ素モノマー比率でも表面張力を低下させる能力に優れ、かつ塗工表面の平滑性の付与及び撥水撥油性の付与が可能であることがわかった。また、本発明の含フッ素グラフト共重合体はランダム共重合体よりも低起泡性であり、起泡が厳しく制限される用途にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
含フッ素グラフト共重合体は、樹脂、工学材料、塗料等の分野で用いられる表面改質剤として有用であり、基材表面に平滑性、撥水撥油性を付与させることができる化合物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記単量体(1)、単量体(2)及び単量体(3)で表される(メタ)アクリル酸エステルからなる含フッ素グラフト共重合体であって、枝ポリマーおよび幹ポリマーの少なくとも一方が下記単量体(1)で表される含フッ素モノマーからなる構成単位を含有するグラフト共重合体を含んでなる含フッ素表面調整剤。
【化1】


【化2】


【化3】

[式中、Rfは下記式(4)または(5)で示される基である。R1は炭素原子数が1〜50の二価の連結基(該連結基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアリール部分を有していてもよい。)である。
R3は炭素数が1〜50の有機基(該有機基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアリール部分を有していてもよい。)である。
は炭素原子数が1〜100の二価の連結基(該連結基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアリール部分を有していてもよい。)である。
R2、R及びRは相互に独立してH又はメチル基である。]
【化4】


【化5】

【請求項2】
単量体(2)と単量体(3)を共重合した幹ポリマーに、単量体(1)で表される含フッ素モノマーをグラフト重合させて得られるグラフト共重合体を含んでなる請求項1に記載の含フッ素表面調整剤。
【請求項3】
前記含フッ素グラフト共重合体において幹ポリマーの重量平均分子量が2,000〜50,000である請求項1または2に記載の含フッ素表面調整剤。
【請求項4】
前記含フッ素グラフト共重合体の重量平均分子量が2,000〜100,000である請求項1、2または3に記載の含フッ素表面調整剤。
【請求項5】
前記含フッ素グラフト共重合体において単量体(1)と、単量体(2)と単量体(3)との合計量の重量比が、単量体(1):単量体(2)と単量体(3)の合計量=1:99〜55:45である請求項1、2、3、または4に記載の含フッ素表面調整剤。
【請求項6】
単量体(1)においてRが炭素数2〜30の二価の連結基(該連結基は所望によりエーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール部分を有していてもよい。)である請求項1、2、3、4または5に記載の含フッ素表面調整剤。
【請求項7】
単量体(2)においてRが炭素数1〜30の有機基(該有機基は所望によりエーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール部分を有していてもよい。)である請求項1、2、3、4、5、または6に記載の含フッ素表面調整剤。
【請求項8】
単量体(3)においてRが炭素数2〜50の二価の連結基(該連結基は所望によりエーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール部分を有していてもよい。)である請求項1、2、3、4、5、6または7に記載の含フッ素表面調整剤。

【公開番号】特開2012−72287(P2012−72287A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218519(P2010−218519)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】