説明

含フッ素連結基合成方法

【課題】液晶に用いられるアリール基、パーフロロアリール基、シクロヘキシル基などの環状炭化水素間の含フッ素連結基を、容易に合成する方法の提供。
【解決手段】 6つの工程(以下では1つのみ記述)のいずれかにより、A、B間の含フッ素連結基 −(V)CFCFY(W)− を合成する方法。
(1)グリニヤ試薬AMgXをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物BX’またはアリールエーテル化合物BOCZに作用させて、A−CFCFY−Bを得る。
(ここで、A、Bはアリール基、パーフロロアリール基またはシクロヘキシル基;XはCl、BrまたはI;X’はBrまたはI;YはF、Cl、Br、RfまたはORf;RfはC1−C3のパーフロロアルキル基;ZはNO、CFまたはF;VはO、SまたはSO;WはCF、CFO、CFCl、CCl、COまたはCOO;m、nは0または1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶分野で有用な含フッ素連結基の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示技術の発展は低電圧駆動および高速応答を益々追求しており、使用される液晶には、高い誘電率異方性と低い回転粘性および広いネマチック相が要求されている。これらの特性を満たすためにフッ素原子が利用されており、含フッ素連結基でアリール基やシクロヘキシル基を結合した第三世代の液晶が検討されている。
上記の含フッ素連結基は,例えば非特許文献1に記載されているように、次のようなルートで合成されている。
【化1】

しかしながら、従来の方法は、多段階反応であり、また取り扱いの難しいSFやDASTを使用する上、得られる含フッ素連結基構造が−CFO−と−CFCF−に限定されるという欠点を有しており、汎用性のある優れた合成方法が強く求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来の方法に比べて次のような特徴を持つ含フッ素連結基の合成方法を提供することを目的とする。
・フッ素化オレフィンの付加反応により、基本的な連結構造が一段階で合成出来る。
・取り扱いの難しいSFやDASTの使用を必須としない。
・従来存在しなかった含フッ素連結基が合成出来る。
【非特許文献1】独立行政法人日本学術振興会・フッ素化学第155委員会編「フッ素化学入門」(三共出版、2004年3月1日発行)235−243頁
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の何れかの工程により、A、B間の含フッ素連結基 −(V)CFCFY(W)− を合成する方法である。
(1)グリニヤ試薬AMgXをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物BX’またはアリールエーテル化合物BOCZに作用させて、A−CFCFY−Bを得る。
【0005】
(2)グリニヤ試薬AMgXをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物BCClX’またはアリールエーテル化合物BCClOCZに作用させて、A−CFCFYCCl−Bを得、該化合物をA−CFCFYCF−B、A−CFCFYCFCl−BまたはA−CFCFYCO−Bに変換する。
【0006】
(3)グリニヤ試薬AMgXをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物 CClX’、またはアリールエーテル化合物CClOCZに作用させてA−CFCFYCClを得た後、加水分解してA−CFCFYCOOHとし、アルコールBOHと反応させてA−CFCFYCOO−Bを得て、該化合物をA−CFCFYCFO−Bに変換する。
【0007】
(4)アルカリ金属塩AVMをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物BX’、またはアリールエーテル化合物BOCZに作用させて、A−VCFCFY−Bを得る。
【0008】
(5)アルカリ金属塩AVMをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをエステル化合物BCOORに作用させてA−VCFCFYCO−Bを得た後、該化合物をA−VCFCFYCF−B、A−VCFCFYCFCl−BまたはA−VCFCFYCCl−Bに変換する。
【0009】
(6)アルカリ金属塩AVMをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンを炭酸エステル(BO)COに作用させて、A−VCFCFYCOO−Bを得た後,該化合物をA−VCFCFYCFO−Bに変換する。
(ここで、A、Bはアリール基、パーフロロアリール基またはシクロヘキシル基;XはCl、BrまたはI;X’はBrまたはI;YはF、Cl、Br、RfまたはORf;RfはC1−C3のパーフロロアルキル基;ZはNO、CFまたはF;VはO、SまたはSO;MはNa、KまたはLi;RはC1−C5のアルキル基;WはCF、CFO、CFCl、CCl、COまたはCOO;m、nは0または1)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フッ素化オレフィンの付加反応を用いる事で、アリール基、パーフロロアリール基、シクロヘキシル基などの環状炭化水素間の含フッ素連結基を、従来よりも少ない工程数で合成出来る。本発明は取り扱い易い試薬を用いて実施可能であり、また、従来存在しなかった構造の含フッ素連結基も合成可能なので、誘電率異方性が高く回転粘性が低い上に、ネマチック相が広い液晶を合成する事が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の含フッ素連結基合成方法は、フッ素化オレフィンCF=CFYへの付加反応を必須要件としている。該反応は、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒を用い、常圧または加圧下で、反応温度 20℃から60℃の範囲において実施される。この反応は、例えばU.S.P.4,329,435、U.S.P.4,474,700,特開2000−268834などの公知文献に開示されているように、食塩電解や燃料電池に使用されるパーフロロ陽イオン交換膜を製造するのに必要なモノマー合成に用いられている。しかしながらこの場合は、COF基に変換出来る置換基を片側に有する下記の二官能性含フッ素化合物の合成が目的であり、アリール基、パーフロロアリール基、シクロヘキシル基間の含フッ素連結基を合成する本発明の方法とは全く異なるものである。
【化2】

【0012】
本発明の合成方法は、使用する試薬により、次のように6種類の工程に分類される。
(1)AMgX + CF=CFY + BX’又はBOC
→ A−CFCFY−B
【0013】
(2)AMgX + CF=CFY + BCClX’又はBCClOC
→ A−CFCFYCCl−B
付加反応で得られた上記のA−CFCFYCCl−Bは、次のように公知の方法で、各種の含フッ素連結基に変換出来る。
【化3】

【0014】
(3)AMgX + CF=CFY + CClX’又はCClOC
→ A−CFCFYCCl
付加反応で得られた上記の A−CFCFYCClは、次のように加水分解してアルコールBOHと反応させ、エステル化合物A−CFCFYCOO−Bに変換出来る。更に上記の文献に記載されているように、例えばエステル基のカルボニル基をチオカルボニル基に変え、酸化的脱硫フッ素化などの方法でジフルオロ化する事が出来る。
【化4】

【0015】
(4)AVM + CF=CFY + BX’又はBOC
→ A−VCFCFY−B
【0016】
(5)AVM + CF=CFY + BCOOR
→ A−VCFCFYCO−B
付加反応で得られた上記のA−VCFCFYCO−Bは、方法(2)と同様に公知の方法で、種々の含フッ素連結基に変換出来る。
【化5】

【0017】
(6)AVM + CF=CFY + (BO)CO
→ A−VCFCFYCOO−B
付加反応で得られた上記の A−VCFCFYCOO−Bは、方法(3)と同様に公知の方法で、エステル基のカルボニル基をジフロロメチレン基に変換出来る。
A−VCFCFYCOO−B → A−VCFCFYCSO−B
→ A−VCFCFYCF−B
【0018】
(上述の(1)〜(6)で、A、Bは アリール基、パーフロロアリール基またはシクロヘキシル基;XはCl、BrまたはI;X’はBrまたはI;YはF、Cl、Br、RfまたはORf;RfはC1−C3のパーフロロアルキル基;ZはNO、CFまたはF;VはO、SまたはSO;MはNa、KまたはLi;RはC1−C5のアルキル基;WはCF、CFO、CFCl、CCl、COまたはCOO;m、nは0または1)
【0019】
本発明で使用される環状炭化水素A,Bは、未置換または適当な置換基が結合したアリール基、パーフロロアリール基またはシクロヘキシル基であるが、アリール基は置換されたフェニル基の場合が多く、縮合芳香族炭化水素は通常含まれない。またフッ素化オレフィンの置換基Yは、最終製品である液晶の誘電率異方性、回転粘性およびネマチック相の広さを考慮して、目的に合った物が選ばれる。
【0020】
付加反応において最も重要な事は、フッ素化オレフィンに付加するグリニヤ試薬AMgXやアルカリ金属塩AVMが、付加によって生成するカルバニオンの受容体であるハロゲン化合物BX’、 BCClX’、アリールエーテル化合物BOCZ、BCClOCZ、エステル化合物BCOOR、炭酸エステル(BO)COなどと先に反応して、目的物の収率を低下させるのを防ぐ事である。こうした観点から、X、V、M、X’、Z、Rの種類が選ばれ、また反応温度、圧力、溶媒、試薬の添加方法などが決定される。また、上記の理由により、グリニヤ試薬より活性の強い有機リチウム化合物ALiは、本発明の付加試薬としては好ましくない。
【0021】
付加反応によって得られた生成物は、必要により公知の方法で種々のWを有する含フッ素連結基に変換されるが、この場合のWの種類は、最終製品である液晶の誘電率異方性、回転粘性およびネマチック相の広さなどを考慮して選ばれる。
【0022】
本発明では、例えば次に示すように二官能性の付加試薬を用いて、二単位の含フッ素連結基を同時に合成する事が可能である。
【化6】

【0023】
勿論次に示すように、一単位の含フッ素連結基を合成した後、もう一度付加反応用末端基を形成して、逐次的に二単位の含フッ素連結基を合成する事も可能である。
【化7】

次に実施例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものでは無い。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
500ccのパイレックス(商標)ガラス製三口フラスコに、ソジウムフェノラートCONa 60g(ca.0.5モル)とジシクロヘキシル炭酸エステル(C11O)CO 110g(ca.0.5モル)およびテトラヒドロフラン150ccを入れた後、窒素ガスでパージした。反応系を激しく攪拌しながら、氷浴で温度を10−20℃に維持しつつテトラフロロエチレンCF=CFを吹き込んだ。テトラフロロエチレンは、別のフラスコ内のジメチルホルムアミドにZn粉末を分散させておき、テトラフロロジブロモエタンBrCFCFBrを攪拌しながら滴下して発生させた。発生したテトラフロロエチレンは、逆流防止用トラップおよびガス流量計を通して、付加反応用フラスコにガラスフィルターを用いて細かい泡となるように吹き込んだ。テトラフロロエチレンを約60g(ca.0.6モル)吹き込んだ後反応を終了し、反応混合物に98%硫酸を入れて中和した。生成した硫酸ソ−ダをロ別し、ロ液からエバポレ−タ−を用いてテトラヒドロフランを除去した後、残液を蒸留して82gの主留分を得た。
主留分の赤外吸収スペクトルには次のような特性吸収ピークが見られ、下記の目的物の構造と一致した。
目的物
−OCFCFCOO−C11
特性吸収ピーク
3100cm−1 芳香族−CH
2900cm−1 シクロヘキシル基−CH
1780cm−1 エステル基−CO−
1300−1100cm−1 フッ素アルキル基− CF
750cm−1690cm−1 一置換ベンゼン−C
【0025】
(実施例2)
実施例1において、ジシクロヘキシル炭酸エステルの替りにシクロヘキシルカルボン酸メチルエステルC11COOCHを用いて同様に操作し、フッ素化ケトン化合物C−OCFCFCO−C11を得た。また、得られたフッ素化ケトン化合物をSFと反応させたところ、フッ素化エーテル化合物C−OCFCFCF−C11に変換された。
【0026】
(実施例3)
実施例1において、ジシクロヘキシル炭酸エステルの替りにシクロヘキシルブロマイドC11Brを用いて同様に操作した。反応終了後、生成した臭化ナトリウムをロ別し、ロ液からエバポレーターを用いてテトラヒドロフランを除去した後、残液を蒸留してフッ素化エーテル化合物C−OCFCF−C11を得た。
【0027】
(実施例4)
500ccのパイレックス(商標)ガラス製三口フラスコに、200ccのテトラヒドロフランを入れ、細かく刻んだ金属マグネシューム片12g(ca.0.5mol)を分散させた後、攪拌しながらブロムベンゼンCBr 80g(ca.0.5mol)を滴下して、グリニヤ試薬を調製した。この溶液の中に、シクロヘキシルブロマイド80g(ca.0.5mol)を加え、温度を10−20℃に保ちながら、実施例1と同様な方法で発生させたテトラフロロエチレンを約60g吹き込んだ。反応終了後、生成した臭化マグネシュームをロ別し、残液を蒸留して主留分35gを得た。主留分の構造は、赤外吸収スペクトルから、C−CFCF−C11と確認された。
【0028】
(実施例5)
実施例4において、シクロヘキシルブロマイドの替りに、ハロゲン化合物C11CClBrを用いて同様に操作し、フッ素化化合物 C−CFCFCCl−C11を得た。
【0029】
(実施例6)
実施例4において、シクロヘキシルブロマイドの替りに、トリクロロブロモメタンCClBrを用いて同様に操作し、フッ素化化合物C−CFCFCClを得た。これを加水分解してフッ素化カルボン酸C−CFCFCOOHに変換し、更にシクロヘキサノールと反応させて、フッ素化エステル化合物 C−CFCFCOO−C11を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の何れかの工程により、A、B間の含フッ素連結基 −(V)CFCFY(W)− を合成する方法。
(1)グリニヤ試薬AMgXをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物BX’またはアリールエーテル化合物BOCZに作用させて、A−CFCFY−Bを得る。
(2)グリニヤ試薬AMgXをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物BCClX’またはアリールエーテル化合物BCClOCZに作用させて、A−CFCFYCCl−Bを得、該化合物をA−CFCFYCF−B、A−CFCFYCFCl−BまたはA−CFCFYCO−Bに変換する。
(3)グリニヤ試薬AMgXをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物 CClX’、またはアリールエーテル化合物CClOCZに作用させてA−CFCFYCClを得た後、加水分解してA−CFCFYCOOHとし、アルコールBOHと反応させてA−CFCFYCOO−Bを得て、該化合物をA−CFCFYCFO−Bに変換する。
(4)アルカリ金属塩AVMをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをハロゲン化合物BX’、またはアリールエーテル化合物BOCZに作用させて、A−VCFCFY−Bを得る。
(5)アルカリ金属塩AVMをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンをエステル化合物BCOORに作用させてA−VCFCFYCO−Bを得た後、該化合物をA−VCFCFYCF−B、A−VCFCFYCFCl−BまたはA−VCFCFYCCl−Bに変換する。
(6)アルカリ金属塩AVMをフッ素化オレフィンCF=CFYと付加反応させ、生成したカルバニオンを炭酸エステル(BO)COに作用させて、A−VCFCFYCOO−Bを得た後,該化合物をA−VCFCFYCFO−Bに変換する。
(ここで、A、Bはアリール基、パーフロロアリール基またはシクロヘキシル基;XはCl、BrまたはI;X’はBrまたはI;YはF、Cl、Br、RfまたはORf;RfはC1−C3のパーフロロアルキル基;ZはNO、CFまたはF;VはO、SまたはSO;MはNa、KまたはLi;RはC1−C5のアルキル基;WはCF、CFO、CFCl、CCl、COまたはCOO;m、nは0または1)

【公開番号】特開2006−16366(P2006−16366A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198282(P2004−198282)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(599034158)有限会社 ミレーヌコーポレーション (2)
【Fターム(参考)】