説明

含フッ素重合体を含む層状結晶化合物およびその製造方法

【課題】樹脂への分散性に優れ且つ樹脂組成物の物性を有効に高めうる層状結晶化合物及びその製造方法、並びに均一に分散された層状結晶化合物を含み且つ良好な物性を有する樹脂組成物及び成形体を提供する。
【解決手段】層状無機化合物を式(I)の含フッ素重合体で処理してなる層状結晶化合物:
Rf1−(CH2CR31m−(CH2CR42)n−Rf2 ・・・(I)
(Rf1およびRf2はC3以上のポリフルオロアルキルまたはポリフルオロオキサアルキル基、R3およびR4はH、メチル等、Z1は一価有機基等、Z2は−CONR56、R5およびR6はアルキル基等、又はR5およびR6は結合してC2〜8の二価のアルキレン基又はエーテル基を形成し隣接する窒素原子と共に環を構成。m/n=0/100〜99/1)、その製造方法、並びに該化合物を含む樹脂組成物及び成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状無機化合物を、含フッ素重合体で処理してなる層状結晶化合物、該層状結晶化合物の製造方法、該層状結晶化合物および樹脂からなる樹脂組成物、および該樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料において、寸法安定性等の物性を向上させる目的で、樹脂にサポナイト、モンモリロナイト等の層状無機化合物をフィラーとして加え、樹脂組成物とすることが知られている(特許文献2)。層状無機化合物をフィラーとして用いる場合、層状無機化合物は極性が高いため、有機化合物などのゲスト分子を用いて有機化処理を施し、極性が低く樹脂への分散性が高い層状結晶化合物(以下、このような処理を施した化合物を単に「層状結晶化合物」ということがある。)としてから樹脂に加えるのが一般的である(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、有機化処理に用いる有機化合物は一般的に低分子化合物であるため、有機化処理を施した層状結晶化合物を用いた樹脂組成物では、フィラー添加による物性向上効果と低分子化合物混入による物性低下効果が相殺し、物性の向上がみられないことがある。例えば、一般に樹脂組成物に層状無機化合物を添加すると、添加量に応じて、線膨張係数が低下し寸法安定性が高まるが、有機化処理を施した層状結晶化合物を添加すると、ゲスト分子に起因し可塑性が上昇してしまう。その結果、層状結晶化合物の添加量を多くしても、線膨張係数の低下が頭打ちになり、有効に線膨張係数を低減できなくなってしまう。
【0004】
【特許文献1】特開平8−333114号公報
【特許文献2】特開平9−124836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、樹脂への分散性に優れ、且つ樹脂組成物の物性を有効に高めうる層状結晶化合物、並びにその製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、均一に分散された層状結晶化合物を含み、且つ良好な物性を有する樹脂組成物および成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、層状無機化合物の有機化処理剤として特定の含フッ素重合体を用いることにより、樹脂への分散性が高く、且つ優れた物性向上効果を有する層状結晶化合物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、
(1) 層状無機化合物を、下記一般式(I)で表される含フッ素重合体で処理してなる層状結晶化合物:
Rf1−(CH2CR31m−(CH2CR42)n−Rf2 ・・・(I)
(一般式(I)において、Rf1およびRf2は、それぞれ独立に炭素数3以上のポリフルオロアルキル基または炭素数3以上のポリフルオロオキサアルキル基である。R3およびR4は水素原子又はメチル基である。Z1はそれぞれ独立に水素原子、一価の有機基又はハロゲン原子である。Z2は−CONR56であり、ここでR5およびR6はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基または−[C(R152qCOR16(R15はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R16は炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、qは1〜5の整数である。)であるか、又はR5およびR6は結合して、炭素数2〜8の二価のアルキレン基又はエーテル基を形成し隣接する窒素原子と共に環を構成する基である。m/n=0/100〜99/1である。);
(2)一般式(I)におけるZ1が−Si(R73、−OCOR8、−COOR9、−CON(R10)R11−N+(R12)3-、又は−COOR11−N+(R123-である(R7はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基である。R8およびR9は水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基、−(CH23−Si(R133または−(C(R14)2pCOR13(R13はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R14はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、pは1〜5の整数である。)、R10は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。R11は炭素数1〜4のアルキレン基である。R12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。Xはハロゲン原子である。)(1)記載の層状結晶化合物;
(3)水又は有機溶剤に層状無機化合物を分散させ、分散液を調製する工程;及び
当該分散液中に、前記一般式(I)で表される含フッ素重合体を加え攪拌する工程を含むことを特徴とする(1)記載の層状結晶化合物の製造方法;
(4)水又は有機溶剤に層状無機化合物を分散させ、分散液を調製する工程;及び
当該分散液中で、前記一般式(I)で表される含フッ素重合体を生成する反応を行う工程を含むことを特徴とする(1)記載の層状結晶化合物の製造方法;
(5)(1)の層状結晶化合物および樹脂からなる樹脂組成物;および
(6)(5)記載の樹脂組成物を成形してなる成形体
がそれぞれ提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の層状結晶化合物は、前記特定の含フッ素重合体を用いて層状無機化合物を処理してなるものであるため、樹脂と混合し樹脂組成物とする際に分散性に優れ、且つ線膨張係数の低減等の物性向上効果を十分に発現することができる。
本発明の層状結晶化合物の製造方法によれば、前記層状結晶化合物を簡便に製造することができる。
本発明の樹脂組成物および成形体は、前記本発明の層状結晶化合物を含むため、均一に分散された層状結晶化合物を含み、且つ低い線膨張係数等の、良好な物性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の層状結晶化合物は、層状無機化合物を、特定の含フッ素重合体で処理してなる。
【0010】
前記含フッ素重合体(以下、化合物1ということがある。)は、主鎖単位と、分子の末端の特定の含フッ素基とを有し、下記一般式(I)であらわされる。
【0011】
(化合物1)
Rf1−(CH2CR31m−(CH2CR42)n−Rf2 ・・・(I)
【0012】
上記一般式(I)において、分子両末端にある含フッ素基Rf1およびRf2(以下、これらをまとめて末端Rf基と総称することがある。)は、それぞれ独立に炭素数3以上、好ましくは炭素数3〜18、より好ましくは炭素数3〜12のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロオキサアルキル基である。ポリフルオロアルキル基とは、直線状、分岐状または環状骨格を有するアルキル基内の炭素原子に結合する水素原子の全部または一部がフッ素原子に置換されている置換基をいう。また、ポリフルオロオキサアルキル基とは、上記ポリフルオロアルキル基中の炭素−炭素結合の間に、エーテル性酸素原子を少なくとも1個有する置換基をいう。末端Rf基は、フッ素原子以外の他のハロゲン原子を含んでいてもよい。他のハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また末端Rf基中の炭素−炭素結合の間には、チオエーテル性硫黄原子が挿入されていてもよい。
【0013】
末端Rf基中のフッ素原子数は、((Rf基中のフッ素原子数)/(Rf基と同一炭素数の対応するアルキル基中に含まれる水素原子数))×100(%)として求められるフッ素置換率が、60%以上であることが好ましく、さらには80%以上であることがより好ましい。特に末端Rf基の末端の炭素原子にはフッ素原子が結合していることが好ましく、さらにはペルフルオロ基、即ち上記フッ素置換率が100%である基が特に好ましい。
【0014】
末端Rf基としては、具体的には後述のラジカル重合開始剤から導かれる基である、−CF2CF2CF3、−CF2CF2CF2CF2CF3、−CF(CF3)OCF2CF2CF3、−[CF(CF3)OCF2]xCF2CF3(Xは正の整数)等を挙げることができる。
【0015】
化合物1の主鎖単位−(CH2CR31m−及び−(CH2CR42)n−は、エチレン性重合単位とすることができる。化合物1における主鎖単位中のR3およびR4は水素原子又はメチル基である。
【0016】
主鎖単位−(CH2CR31m−における側鎖Z1は、それぞれ独立に水素原子、一価の有機基又はハロゲン原子であり、所望の特性によって適宜選択することができる。好ましいZ1の例としては、−Si(R73、−OCOR8、−COOR9、−CON(R10)R11−N+(R12)3-、又は−COOR11−N+(R123-が挙げられる。ここでR7はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシ基である。R8およびR9は水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基、−(CH23−Si(R133、または−(C(R142pCOR13である(R13はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R14はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、pは1〜5の整数である。)。R10は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。R11は炭素数1〜4のアルキレン基である。R12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。また、Xはハロゲン原子であり、好ましくはCl、BrまたはIである。
【0017】
主鎖単位−(CH2CR42)n−における側鎖Z2は、−CONR56で表される基である。Z2におけるR5およびR6はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基または−[C(R152qCOR16(R15はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R16は炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、qは1〜5の整数である。)を示す。または、R5およびR6は結合して、炭素数2〜8の二価のアルキレン基又はエーテル基を形成し隣接する窒素原子と共に環を形成してもよい。
【0018】
単位−(CH2CR31m−を与えうる、基Z1を有するモノマーの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリイソプロポキシビニルシラン、トリ−tert−ブトキシビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジエチルメチルビニルシラン、エトキシジエチルビニルシラン、トリメチルビニルシラン、ジアセチルオキシメチルビニルシラン、トリアセチルオキシビニルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジアセチルオキシメチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリアセチルオキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリ−tert−ブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジエチルメチルシラン、トリ−n−ブチル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ブチル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−オクチル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ドデシル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、トリ−n−ブチル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ブチル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−オクチル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ドデシル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、トリ−n−ブチル(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ブチル(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
【0019】
単位−(CH2CR42)n−を与えうる、基Z2を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−オクタデシルアクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル(メタ)アクリルアミド、N−ジフェニルメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、アクロイルモルホリン、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド、N−(3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などを挙げることができる。
【0020】
化合物1においてm/nの組成比は、m/n=0/100〜99/1の範囲であり、用いる層状無機化合物との親和性に応じて適宜調整することができる。
化合物1において単位−(CH2CR31m−と単位−(CH2CR42)n−とが共に存在する場合、これらの存在の態様は、ブロック共重合、交互重合、ランダム共重合を含むいずれの態様であってもよい。
【0021】
化合物1の数平均分子量(Mn)は、界面張力の低下や末端Rf基部分の凝集等のフッ素セグメントの特性をより顕著に発現させるために、500〜1,000,000が好ましく、700〜50,000がより好ましい。Mnが上記範囲であると製造が容易であり、末端Rf基の凝集効果が相対的に増加し、自己組織化による分子集合体を構築できるため、疎溶剤性の高い層状結晶化合物をゲスト分子として取り込むことができ、極性の低い樹脂への親和性が充分となるため好ましい。
【0022】
化合物1は、ポリフルオロアルキル基またはポリフルオロオキサアルキル基を含む有機過酸化物(以下、フッ素含有有機過酸化物という。)をラジカル重合開始剤として、前述の主鎖単位に対応するエチレン性モノマー等のモノマーを重合することにより、得ることができる。
【0023】
フッ素含有有機過酸化物としては、上記に例示した分子両末端にある2つのRf基同士を過酸化結合(−OO−)した化合物であるRf−CO−OO−OC−Rfなどが使用できる。これらの−OO−または−CO−OO−OC−を介して結合されるRf基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0024】
フッ素含有有機過酸化物としては、具体的には{−OC(=O)CF2CF2CF3]2、{−OC(=O)CF2CF2CF2CF2CF3]2、{−OC(=O)CF(CF3)OC37]2、{−OC(=O)[CF(CF3)OCF2]XCF2CF32(Xは正の整数)等が挙げられる。
【0025】
なお、上記ポリフルオロオキサアルキル基を含む有機過酸化物および該基を分子末端とする含フッ素重合体は、特開2003−155272号公報に記載された合成方法に準じて合成することもできる。
【0026】
含フッ素重合体の調製において、フッ素含有有機過酸化物と、前述の主鎖単位を与えるモノマーとの仕込み量は任意の割合でよく、フッ素含有有機過酸化物/主鎖単位を与えるモノマーのモル比で、1/(0.1〜5000)が好ましく、1/(0.1〜3000)がより好ましく、1/(0.1〜1000)が最も好ましい。なお、主鎖単位を与えるモノマーの仕込みモル比が上記範囲であると、フッ素含有有機過酸化物の自己分解に起因する生成物の生成が少なく、且つ含フッ素重合体の収率が高いため好ましい。
【0027】
フッ素含有有機過酸化物の仕込みモル比を調節することにより、得られる含フッ素重合体の平均分子量を調節することができる。すなわち、フッ素含有有機過酸化物の仕込みモル比を主鎖単位を与えるモノマーに対して高くすれば、数平均分子量の小さい含フッ素重合体が得られ、仕込みモル比を低くすれば、数平均分子量の大きい含フッ素重合体を得ることができる。
【0028】
重合反応は常圧で行うことができ、反応温度は−20〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。反応温度が−20℃以上であると反応時間を短くでき、150℃以下であると反応時の圧力が高くなりすぎず、反応操作が容易である。反応時間は30分〜20時間が好ましく、実用的には1〜10時間となるように条件を設定することが好ましい。
【0029】
種々の反応条件下において、フッ素含有有機過酸化物とモノマーとを反応させることにより、含フッ素重合体を直接1段階反応により得ることができるが、反応をより円滑に行うために、反応溶剤として有機溶剤を用いることが好ましい。
【0030】
有機溶剤としては、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤が特に好ましく、具体的には塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、2−クロロ−1,2−ジブロモ−1,1,2−トリフルオロエタン、1,2−ジブロモヘキサフルオロプロパン、1,2−ジブロモテトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロテトラクロロエタン、1,2−ジフルオロテトラクロロエタン、フルオロトリクロロメタン、ヘプタフルオロ−2,3,3−トリクロロブタン、1,1,1,3−テトラクロロテトラフルオロプロパン、1,1,1−トリクロロペンタフルオロプロパン、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン、ベンゾトリフルオリド、ヘキサフルオロキシレン、ペンタフルオロベンゼンが挙げられる。
【0031】
特に工業的には、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン、ベンゾトリフルオリドが好ましい。
【0032】
溶剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。溶剤を使用する場合は、溶剤中のフッ素含有有機過酸化物の濃度は0.1〜30質量%であることが好ましい。反応終了後に得られる含フッ素重合体は、再沈殿法、カラムクロマトグラフィー、透析等の公知の方法で精製できる。
【0033】
本発明に用いる含フッ素重合体は、化合物1とともに、重合工程で生じる重合体の片末端のみに上記Rf基が導入された化合物を任意の割合で含んでいてもよく、さらに、ラジカルの連鎖移動により溶剤などに由来する基や不均化反応によるラジカル停止反応に由来する基が片末端に導入されたものを含んでいてもよい。
【0034】
本発明で用いる層状無機化合物は、結晶層が平面的に配列されたシート構造を有する状態(層状)にあり、その垂直方向にシート構造の繰り返しが見られる、多結晶層構造を有する化合物である。
【0035】
このような層状無機化合物としては、グラファイト、TiS2、NbSe2、MoS2等の遷移金属ジカルコゲン化物;CrPS4等の二価金属リンカルコゲン化物;MoO3、V25等の遷移金属の酸化物;FeOCl、VOCl、CrOCl等のオキシハロゲン化物;Zn(OH)2、Cu(OH)2等の水酸酸化物;Zr(HPO42・nH2O、Ti(HPO43・nH2O、Na(UO2PO43・nH2O等のリン酸塩;Na2Ti37、KTiNbO5、RbXMnXTi2-X4等のチタン酸塩(Xは正の整数);Na227、K227等のウラン酸塩;KV38、K3514、CaV616・nH2O、Na(UO239)・nH2O等のバナジン酸塩;KNb33、K4Nb617等のニオブ酸塩;Na2413、Ag41013等のタングステン酸塩;Mg2Mo27、Cs2Mo516、Cs2Mo722、Ag4Mo1033等のモリブデン酸塩;モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライト、ノントロナイト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘度鉱物、トリオクタヘドラルバーミキュライト、ハロイサイト、ジオクタヘドラルバーミキュライト、マスコバイト、フィロゴバイト、バイオタイト、レピドライト、バラゴナイト、テトラシリシックマイト、カオリナイト、ハロイサイト、ディッカイト、H2SiO5、H2Si1429・5H2O等のケイ酸塩またはこのケイ酸塩により構成される鉱物類等を挙げることができる。
【0036】
これら層状無機化合物の中でも、前記樹脂への分散性、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度の観点から、ケイ酸塩、リン酸塩およびモリブデン酸塩が好ましく、さらには、ケイ酸塩が特に好ましい。
【0037】
本発明における層状無機化合物の大きさは、通常1nm〜100μm、好ましくは1nm〜10μm、さらに好ましくは1nm〜1μmである。層状無機化合物の大きさが上記範囲にあることにより、熱変形、応力集中等を生じることなく、優れた耐久性を発現する組成物を得ることができる。
【0038】
本発明の層状無機化合物のアスペクト比は30以上であることが好ましい。アスペクト比が30以上であることにより、得られる樹脂組成物の物性を大きく改善することができる。アスペクト比は層状無機化合物の短軸に対する長軸の比(長軸/短軸)をいう。なお、層状無機化合物の長軸は、平板な層状無機化合物のその平板面における最も長い差し渡し長さを言い、短軸は平板な層状無機化合物の平板面を横から見たときのその厚みを言う。これら長軸、短軸および平均アスペクト比の測定は、化合物を電子顕微鏡により観察し、化合物の長軸、短軸を決定した後、計算により得ることができる。
【0039】
前記層状無機化合物を前記化合物1で処理して層状結晶化合物を得る工程は、これらを接触させ混合させる任意の工程とすることができる。具体的には、本発明の層状結晶化合物は、後述する本発明の層状結晶化合物の製造方法により製造することができる。
【0040】
本発明の層状結晶化合物は分散性を高めるために分散剤を含んでも良い。分散剤としては、特に限定されないが、脂肪酸、界面活性剤およびカップリング剤等が挙げられる。脂肪酸としては、ステアリン酸などの炭素数4〜30の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などの炭素数4〜30の不飽和脂肪酸が挙げられる。界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;N−ラウリルエタノールアミン、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル、ソルビタンステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステル等のノニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル、イミダゾリンスルホン酸等の両性界面活性剤;フッ素系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;(メタ)アクリル酸系界面活性剤;等が挙げられる。
【0041】
カップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラン系カップリング剤;トリイソステアロイルイソプロピルチタネート、ジ(ジオクチルホスフェート)ジイソプロピルチタネート等のチタネート系カップリング剤;モノイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレートモノオレイルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート等のアルミナート系カップリング剤;等が挙げられる。
【0042】
本発明の層状結晶化合物は、下記の2通りの製造方法によって製造することができる(以下、これらをそれぞれ、「本発明の製造方法(1)及び(2)」という。):
(1)水または有機溶剤に層状無機化合物を分散させ、分散液を調製する工程;及び当該分散液中に、化合物1を加え撹拌する工程を含む方法。
(2)水または有機溶剤に層状無機化合物を分散させ、分散液を調製する工程;及び当該分散液中で、化合物1を生成する反応を行う工程。
【0043】
<本発明の製造方法(1)>
本発明の製造方法(1)では、第1の工程として、層状無機化合物を水または有機溶剤に分散させ、分散液を調製する。分散液中の層状無機化合物の濃度は層状無機化合物が分散可能な濃度の範囲であれば特に限定はないが、1〜15質量%であることが好ましい。この場合、あらかじめ凍結乾燥した層状無機化合物を用いることは、層状結晶化合物を容易に製造するために有効である。
【0044】
層状無機化合物を分散する溶剤は、不活性で、常温において液体であれば良く、特に限定されるものではないが、層状無機化合物の分散性の点から極性が高い溶剤を用いることが好ましい。例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等のプロトン性系溶剤;、スルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性溶剤;を挙げることができる。
【0045】
本発明の製造方法(1)では、第2の工程として、前記分散液中に、化合物1を添加して混合する。ここで、化合物1は、前記分散液に直接添加してもいいし、予め溶剤に化合物1を溶解して溶液とし、当該溶液を前記分散液に添加してもよい。ここで、化合物1を予め溶解する溶剤としては、不活性で、常温において液体であれば良く、特に限定されるものではなく、前記層状無機化合物を分散するのに用いた溶剤との親和性に優れている溶剤が好ましい。
【0046】
本発明の製造方法(1)の前記第2の工程において、化合物1の配合割合は、層状無機化合物100質量部に対して、通常10〜2,000質量部、好ましくは50〜1,000質量部、より好ましくは100〜500質量部である。化合物1の配合割合が前記範囲より少ない場合、層状無機化合物表面の極性が低下しないために樹脂との親和性が不十分となり、層状結晶化合物を均一に分散することが困難となるため好ましくない。逆に、前記範囲より多い場合、処理された層状無機化合物中のフッ素含有量が高くなることにより、樹脂との親和性が低下し、層状結晶化合物を均一に分散することが困難となるため好ましくない。前記第2の工程は、室温で十分進行するが、加温しながら行ってもよい。加温する場合の最高温度は用いる化合物1の分解点以下とするのが好ましく、その範囲内であれば任意に設定が可能である。
【0047】
前記第2の工程により混合物中に生成した固体を、必要に応じて混合物からの分離、洗浄、乾燥、粉砕等の操作を行うことにより、本発明の層状結晶化合物を得ることができる。混合物中に固体が生成しない場合は、得られた混合物を濃縮し、乾燥して固体を得、これを必要に応じて粉砕することにより、本発明の層状結晶化合物を得ることができる。
【0048】
<本発明の製造方法(2)>
本発明の製造方法(2)では、第1の工程として、層状無機化合物を水または有機溶剤に分散させ、分散液を調製する。この工程において層状無機化合物を分散する溶剤としては、前記本発明の製造方法(1)の第1の工程に用いるものとして例示した溶剤と同様のものを用いることできるが、含フッ素重合体の重合性の観点から、前述したハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤や、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。その他の条件は、前記本発明の製造方法(1)の第1の工程と同様である。
【0049】
本発明の製造方法(2)では、第2の工程として、前記分散液中で化合物1を生成する反応を行う。当該反応は、具体的には、前記分散液を溶剤とする他は、上に述べた化合物1の調製方法と同様の重合反応を行うことにより達成することができる。この工程において、化合物1の原料の配合割合は、生成する化合物1の量が、前記本発明の製造方法(1)における好ましい配合割合と同様の量となるよう、適宜調節することができる。
【0050】
上記製造方法(1)及び(2)においては、必要に応じて、上に述べた層状結晶化合物の任意成分である分散剤等を、工程のいずれかの段階において添加することができる。
【0051】
本発明の層状結晶化合物の生成は、X線回折で(001)底面反射の位置を測定することにより容易に確認することができる。例えば、層状無機化合物として合成スメクタイト型粘土を用いた場合は、脱水状態で10Å、通常の温度、湿度下では12〜18Åの底面間隔を有するが、本発明の層状結晶化合物は、18Å以上の底面間隔を示すことから、層状無機化合物が効果的に処理されていることが分かる。このように底面同士の間隔が離れることは、層状無機化合物の層間に化合物1が入った積層構造が形成されることによるものと考えられる。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、前記本発明の層状結晶化合物及び樹脂を含む。当該樹脂としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂のいずれであってもよい。
【0053】
前記熱可塑性樹脂としては、脂環式構造含有重合体、鎖状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルポリスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアクリレート系樹脂等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ケイ素系樹脂等を挙げることができ、紫外線硬化性樹脂としては、ポリシロキサン樹脂等を挙げることができる。
【0054】
これら樹脂の中でも、光学材料として用いる場合に有利な種々の特性を有する、吸水性が低い、層状結晶化合物と組み合わせて良好な機械的、熱的、物理的性質を得ることができる等の理由から、熱可塑性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂の中でもポリアクリレート系樹脂及び脂環式構造含有重合体が特に好ましい。
【0055】
ポリアクリレート系樹脂とは、その繰り返し単位中にアクリレートまたはメタクリレート構造を含有する重合体であり、後述するアクリレートまたはメタクリレート構造を含有するモノマーの単独重合体およびこれらモノマーとこのモノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体等の共重合体である。
【0056】
前記アクリレート構造を含有するモノマーとしてはアクリレート誘導体を挙げることができ、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、アクリル酸等を挙げることができる。
前記メタクリレート構造を含有するモノマーとしてはメタクリレート誘導体を挙げることができ、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、メタクリル酸等を挙げることができる。
前記アクリレートまたはメタクリレート構造を含有するモノマーと共重合可能なモノマーとしては特に限定は無いが、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等を挙げることができる。
前記ポリアクリレート系樹脂を製造するために用いられるこれらモノマーは単独でもよく、二種以上を併用してもよい。
前記ポリアクリレート系樹脂の製造方法としては、公知のラジカル重合方法を用いることができる。その方法としては、懸濁重合法、連続塊状重合法、溶液重合法、バッグ重合法等が挙げられるが、生産性の観点から連続塊状重合法が好ましい。
前記ポリアクリレート系樹脂は前記モノマーを公知の重合開始剤を用いて重合することにより得ることができる。
【0057】
脂環式構造含有重合体は、その重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体である。この脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造を挙げることができるが、脂環式構造含有重合体を含む樹脂組成物またはこの組成物から得られる成形体の熱安定性の観点からすると、シクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を形成する炭素数は、通常は4〜30、好ましくは、5〜20、より好ましくは、5〜15である。炭素数がこの範囲にあることにより、優れた耐熱性と柔軟性を有する樹脂組成物となる。この脂環式構造は、重合体の主鎖、側鎖のいずれに存在していてもよい。
【0058】
前記脂環式構造含有重合体における脂環式構造を含有する繰り返し単位の含有割合に制限はなく、得られる樹脂組成物の性状、物性等に応じて適宜、選択されるが、通常は50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。この繰り返し単位の含有割合が少量に過ぎると、得られる樹脂組成物の耐熱性が低下することがあるので望ましくない。脂環式構造含有重合体は、脂環式構造を含有する繰り返し単位以外の繰り返し単位を含有していてもよい。
【0059】
本発明の樹脂組成物に含まれる脂環式構造含有重合体としては、ノルボルネン系重合体(A)、単環の環状オレフィン系重合体(B)、環状共役ジエン系重合体(C)、ビニル脂環式炭化水素重合体(D)およびこれらの混合物等を挙げることができる。これら重合体の中でも、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度の観点からすると、ノルボルネン系重合体(A)、およびビニル脂環式炭化水素重合体(D)が好ましい。
【0060】
前記ノルボルネン系重合体(A)としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体及びその水素化物、ノルボルネン系モノマーとこのノルボルネン系モノマーに対して開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体およびこれら開環共重合体の水素化物、ならびにノルボルネン系モノマーの付加重合体、およびノルボルネン系モノマーとこのノルボルネン系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとの付加共重合体等を挙げることができる。これら重合体および共重合体の中でも、得られる脂環式構造含有重合体組成物の耐熱性、機械的強度の観点からすると、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素化物が特に好ましい。
【0061】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの、以下、同じ。)、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、テトラシクロ〔9.2.1.02,10.03,8〕テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(慣用名:メタテトラヒドロフルオレン)およびその誘導体、テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体等を挙げることができる。
【0062】
前記置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基等を挙げることができ、前記ノルボルネン系モノマーは、これら置換基を一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0063】
これら置換基を有するノルボルネン系モノマーとしては、9−メチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチル−9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン等を挙げることができる。
【0064】
前記ノルボルネン系重合体(A)を製造するために用いられるこれらノルボルネン系モノマーは、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0065】
前記ノルボルネン系モノマーの開環重合体またはノルボルネン系モノマーとこのノルボルネン系モノマーに対して開環共重合可能な他のモノマーとの開環共重合体は、前記モノマーを公知の開環重合触媒の存在下に重合することによって製造することができる。
【0066】
前記ノルボルネン系モノマーに対して開環共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系モノマーを挙げることができる。
【0067】
前記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素化物は、通常、ノルボルネン系モノマーの開環重合後の反応液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することによって製造することができる。
【0068】
前記ノルボルネン系モノマーの付加重合体、またはノルボルネン系モノマーとこのノルボルネン系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとの付加共重合体は、前記モノマーを公知の付加重合触媒の存在下に重合することによって製造することができる。
【0069】
ノルボルネン系モノマーに対して付加共重合可能な他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン等のシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン等を挙げることができる。これらモノマーの中でも、α−オレフィン、特にエチレンが好ましい。
【0070】
前記ノルボルネン系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーは、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0071】
ノルボルネン系モノマーとこのノルボルネン系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとを付加共重合するに当っては、得られる付加共重合体中のノルボルネン系モノマーに由来する構造単位と、付加共重合可能な他のモノマーに由来する構造単位との割合が、質量比で、50:50〜99:1、好ましくは70:30〜97:3の範囲となるよう、各モノマーの使用量が選択される。
【0072】
前記単環の環状オレフィン系重合体(B)としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0073】
前記環状共役ジエン系重合体(C)としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2−または1,4−付加重合体およびその水素化物を挙げることができる。
【0074】
また、前記ビニル脂環式炭化水素重合体(D)としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系モノマーの重合体およびその水素化物、スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系モノマーを重合してなる重合体に含まれる芳香族部分を水素化してなる水素化物、ビニル脂環式炭化水素系モノマーまたはビニル芳香族炭化水素系モノマーとこれらビニル芳香族炭化水素系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体等の共重合体の水素化物等を挙げることができる。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロックまたはそれ以上のマルチブロック、傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0075】
前記脂環式構造含有重合体は、層状結晶化合物との親和性が高い等の理由から、極性基を有していることが好ましい。
【0076】
前記極性基としては、ヘテロ原子またはヘテロ原子を有する原子団を挙げることができ、ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、ハロゲン原子を挙げることができる。これらヘテロ原子の中でも、層状結晶化合物との分散性および相溶性の観点からすると、酸素原子および窒素原子が好ましい。具体的には、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基を挙げることができる。
【0077】
極性基を有する脂環式構造含有重合体を得る方法としては特に制限はないが、脂環式構造含有重合体がノルボルネン系重合体である場合、例えば、(I)各種のノルボルネン系モノマーの中から選択されたところの、極性基を有しないノルボルネン系モノマーを重合して得られる未変性重合体に、極性基を有する化合物を反応(変性反応)させる方法、(II)各種のノルボルネン系モノマーの中から選択されたところの、極性基を有しないノルボルネン系モノマーと極性基を有するノルボルネン系モノマーとを共重合させる方法、(III)各種のノルボルネン系モノマーの中から選択されたところの、極性基を有しないノルボルネン系モノマーを重合して得られる重合体と、前記(I)の方法または(II)の方法により得られた極性基を有するノルボルネン系重合体とを混合する方法等を挙げることができる。ノルボルネン系重合体以外の脂環式構造含有重合体についても、ノルボルネン系重合体の場合と同様である。
【0078】
極性基を有する脂環式構造含有重合体としては、脂環式構造含有重合体を塩素化したもの、脂環式構造含有重合体をクロロスルホン化したもの、脂環式構造含有重合体を極性基含有不飽和化合物でグラフト変性したもの等も挙げることができ、中でも、脂環式構造含有重合体を極性基含有不飽和化合物でグラフト変性したものが好ましい。
【0079】
前記極性基含有不飽和化合物としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、p−スチリルカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテルのグリシジルエーテル等の不飽和エポキシ化合物;アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸等の不飽和カルボン酸化合物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレート等の不飽和エステル化合物;アリルアルコール、2−アリル−6−メトキシフェノール、4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン等の不飽和アルコール酸化合物;クロロジメチルビニルシラン、トリメチルシリルアセチレン、5−トリメチルシリル−1,3−シクロペンタジエン、3−トリメチルシリルアリルアルコール、トリメチルシリルメタクリレート等の不飽和シラン化合物等を挙げることができる。
【0080】
これら極性基含有不飽和化合物の中でも、層状結晶化合物の分散性の観点からすると、不飽和エポキシ化合物および不飽和カルボン酸化合物が特に好ましい。なお、これら極性基含有不飽和化合物を効率よく変性させるためには、汎用のラジカル開始剤の存在下に変性反応を実施することが好ましく、この好適なラジカル開始剤としては、有機ペルオキシド、有機ペルエステル等を挙げることができる。
【0081】
極性基を有する脂環式構造含有重合体の極性基含量は、少なくとも0.01mmol/gであることが好ましく、より具体的には、0.01〜0.8mmol/g、さらに好ましくは、0.01〜0.5mmol/gである。極性基含量が前記範囲内にあることにより、層状結晶化合物の分散性の向上と耐水性等のような諸物性の向上とを両立させることができる。
【0082】
前記極性基含量は、前記(I)の方法においては、極性基を有する化合物の反応による極性基の導入率により、前記(II)の方法においては、極性基を有するモノマーの共重合割合により、前記(III)の方法においては、極性基を有しない重合体と極性基を含有する重合体との混合割合により、調節することができる。
【0083】
熱可塑性樹脂の分子量に特に制限はないが、ポリスチレン換算の質量平均分子量が、通常は、5,000〜500,000、好ましくは、8,000〜200,000、より好ましくは、10,000〜100,000である。質量平均分子量がこの範囲にあることにより、得られる樹脂組成物の成形加工性が良好となり、機械的強度を向上させることもできる。この質量平均分子量は、シクロヘキサン溶液またはトルエン溶液のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法により測定することができる。
【0084】
さらに、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)にも特に制限はないが、通常は、80℃以上、好ましくは、130〜250℃である。ガラス転移温度がこの範囲にあることにより、得られる樹脂組成物において、高温下の使用に耐え、熱変形、応力集中等を生じることがなく、優れた耐久性を与えることができる。
【0085】
本発明の樹脂組成物において、層状結晶化合物と樹脂との配合割合は、目的に応じて適宜調整できるが、得られた組成物中の層状結晶化合物の含有量が通常0.1〜70質量%、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは5〜50質量%となるようにする。なお、組成物中の層状結晶化合物の含有量は、樹脂組成物の加熱残分(灰分量)を測定することにより求めることができる。
【0086】
本発明の樹脂組成物の調製方法は、特に限定されないが、層状結晶化合物と樹脂とを単に混練する方法、又は層状結晶化合物と、樹脂を構成するモノマーとの混合物を調製し、モノマーを重合させ、さらに必要に応じて混練する方法等が挙げられる。
【0087】
本発明の樹脂組成物には、所望により各種添加剤を添加してもよい。用いる添加剤としては、例えば、フェノール系やリン系などの酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、ゴム質重合体、石油樹脂、異種熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、成形性、物性などを改良する目的で、例えば、ガラスファイバー、カーボンファイバーなどの繊維状充填剤;シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムなどの微粒子状充填剤;テトラキス[2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート]メタン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどの酸化防止剤;などが例示できるほか、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、顔料、染料、アンチブロッキング剤などを添加してもよい。一般に、重合体からの溶出を避けるため、これらの添加剤は、分子量の大きいものほど好ましい。添加剤の添加量は特に限定されず、目的に応じた範囲で添加することができる。
【0088】
本発明の成形体は、前記本発明の樹脂組成物を成形してなる。本発明の成形体の成形方法は、特に限定されないが、溶液流延法、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等が採用されうる。
【0089】
本発明の成形体は、寸法安定性等の物性に優れた樹脂が適合しうる種々の用途に用いることができるが、具体的には(1)防風ガラスおよび窓ガラスなどの日用品、(2)自動車ランプ、眼鏡、ゴーグル等に使用されるレンズ、(3)カメラ部品、各種計器・機器等のハウジングおよび容器等の工業部品、(4)カメラ、VTR、複写機、OHP,プロジェクション及びプリンター等に使用される撮像系または投影系のレンズ若しくはミラーレンズ等、(5)光磁気ディスク、色素系ディスク、音楽用コンパクトディスク、画像音楽同時録再型ディスクおよびメモリディスク等の情報ディスク材料、(6)反射防止フィルム、液晶表示素子基板、拡散板、導光板および前方散乱板等の情報記録・情報表示分野、ならびに光ファイバー、光導波フィルムおよびコネクター等の情報転送部品、(7)受光素子用カバーおよびプリズム等をはじめとする種々の光学部品などを挙げることができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を、実施例を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。下記の実施例において、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。また、含フッ素重合体の分子量、層状無機化合物の層間距離、成形体の線膨張係数、及び樹脂組成物の灰分量は、それぞれ下記(A)〜(D)の通り測定した。
【0091】
(A)含フッ素重合体の分子量
テトラヒドロフランを溶剤にしてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。
【0092】
(B)層状結晶化合物の層間距離の測定
層状結晶化合物部の層間距離は、理学電機社製広角X線解析装置(RINT2000)を用い、層状結晶化合物の(001)面底面反射に由来する解析ピークより算出した。
【0093】
(C)線膨張係数測定
作製した厚み100μmの成形体(フィルム)を幅5mm、長さ15mmに切り出し、メトラートレド社製熱機械的分析装置(商品名:TMA/SDTA840)を用いて線膨張係数を測定した。本発明では、窒素気流下、昇温速度10℃/分にて、30℃から100℃までの温度範囲で測定した後、50〜80℃の範囲内の平均値を線膨張係数とした。
【0094】
(D)灰分量の測定
約1.5gの試料を秤量した後、これを窒素雰囲気下で温度650℃で2時間試料を加熱することにより有機成分を分解し、残渣の質量により算出した。
【0095】
(製造例1) 含フッ素重合体の作製
コンデンサー、温度計、攪拌機、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、フッ素系溶剤AK−225(商品名、旭硝子製、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン:1,3−ジクロロ−1,2,2,3,3,−ペンタフルオロプロパン=1:1.35の混合物)50部およびアクリロイルモルホリン 1.41部(10mmol)を仕込み、反応容器を45℃に調温し、次いで過酸化ジペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル/AK−225 10質量%溶液 6.58部(開始剤量:1mmol)を5分間かけて滴下した。滴下終了後、45℃、5時間、窒素気流中で反応させ、その後得られた生成物を5mlに濃縮し、ヘキサンで再沈澱を行い、乾燥することにより含フッ素重合体0.99部を得た。得られた含フッ素重合体の数平均分子量は8,900であった。
【0096】
(実施例1)
層状無機化合物であるサポナイト(長平均値:0.05μm、アスペクト比:50)50部を60℃の蒸留水1000部に均一に分散させ、サポナイト分散液を得た。次いで、前記サポナイト分散液を攪拌しながら、製造例1で得た含フッ素重合体100部を蒸留水100部に溶解させた溶液をゆっくり添加し、60℃で3時間攪拌を続けた。攪拌終了後、減圧下にて蒸留水を除去することにより固形物を得た。次いで、凍結乾燥法により残留水分をさらに除去して、含フッ素重合体処理サポナイト(層状結晶化合物1)146.8部を得た。得られた含フッ素重合体処理サポナイトの層間距離を、上記の通り広角X線解析装置を用いて測定したところ、2〜10°付近にピークが見られないことから、含フッ素重合体処理サポナイトの層間距離は45Å以上であった。また、得られた含フッ素重合体処理サポナイトの灰分量は33%であった。
【0097】
次いで、先に得た含フッ素重合体処理サポナイトおよびノルボルネン系重合体(商品名:ARTON FX4726、ガラス転移温度125℃、ジェイエスアール製)を、得られる樹脂組成物の灰分量がそれぞれ7、14、21、28、又は35質量%になるようにヘンシェルミキサーを用いて予備混合した。得られた混合物をそれぞれ2軸混練機(東芝機械製、TEM−35B、スクリュー経37mm、L/D=32、スクリュー回転数150rpm、樹脂温度240℃、フィールドレート10kg/時間)を用いて混練、樹脂組成物をストランド状に押出し、水冷してペレタイザーで切断しペレット化することにより、樹脂組成物1〜5を得た。次いで、得られた樹脂組成物をそれぞれ10μmのポリマーフィルター、65mmΦのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出機を使用して、溶融樹脂温度240℃、Tダイの幅350mmの成形条件で、厚さ100μmのフィルムを押出成形することにより灰分量の異なるフィルム1〜5を得た。得られフィルム1〜5の線膨張係数を測定した結果を図1に示す。得られたフィルムにおいては、灰分量が高くなるほど線膨張係数が大きく低下し、優れた性能を有するフィルムであることが確認された。
【0098】
(実施例2)
コンデンサー、温度計、攪拌機、滴下ロートを備えた四口フラスコに、フッ素系溶剤AK−225(商品名、旭硝子製)50部、アクリロイルモルホリン 1.41部(10mmol)および層状無機化合物であるサポナイト(長平均値:0.05μm、アスペクト比:50)0.7部を仕込み、反応容器を45℃に調温し、次いで過酸化ジペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルのAK−225 10質量%溶液 6.58部(開始剤量:1mmol)を5分間かけて滴下した。滴下終了後、45℃で5時間、窒素気流中で反応させ、その後得られた生成物を5mlに濃縮し、ヘキサンで再沈澱を行い、乾燥することにより含フッ素重合体処理サポナイト(層状結晶化合物2)2.09部を得た。得られた含フッ素重合体処理サポナイトをテトラヒドロフランに分散し、遠心分離機を用いて上澄み液を回収した。その後、得られた上澄み液中に含まれる含フッ素重合体の分子量を測定したところ、数平均分子量は6,500であった。また、得られた含フッ素重合体処理サポナイトの層間距離を上記の通り広角X線解析装置を用いて測定したところ、2〜10°付近にピークが見られないことから、含フッ素重合体処理サポナイトの層間距離は45Å以上であった。また、得られた含フッ素重合体処理サポナイトの灰分量は38質量%であった。
【0099】
次いで、先に得た含フッ素重合体処理サポナイトおよびポリアクリレート系樹脂(商品名:アクリペットV、ビカット軟化点100℃、三菱レーヨン製)を、得られるフィルムの灰分量がそれぞれ7、14、21、28又は35質量%になるように秤量し、これにトルエンを加え、樹脂濃度15質量%の混合物とした。この混合物をペイントシェーカーを用いて均一になるまで混合することにより、塗布液を得た。得られた塗布液を用いて、乾燥膜厚が100μmになるようにガラス板上に塗布し、室温で2日間、さらに80℃で2日間乾燥することにより灰分量の異なるフィルム6〜10を得た。得られたフィルム6〜10の線膨張係数を測定したところ、実施例1と同様、得られたフィルムにおいては灰分量が高くなるほど線膨張係数が大きく低下し、優れた性能を有するフィルムであることが確認された。
【0100】
(比較例1)
実施例2で使用した含フッ素重合体処理サポナイト(層状結晶化合物2)を、ジメチルヘキサデシルオクタデシルアンモニウムクロライドで有機化処理したサポナイトであるルーセンタイトSAN(コープケミカル製、灰分量:70質量%)に変えた他は、実施例2と同様の操作を行うことにより、厚さ100μm、灰分量の異なるフィルム11〜15を得た。得られたフィルム11〜15の線膨張係数を測定したところ、有機化処理サポナイトの添加量が増すに従い、線膨張係数の改善が見られなくなるといった現象が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、実施例及び比較例における、成形体中の灰分量と線膨張係数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状無機化合物を、下記一般式(I)で表される含フッ素重合体で処理してなる層状結晶化合物:
Rf1−(CH2CR31m−(CH2CR42)n−Rf2 ・・・(I)
(一般式(I)において、Rf1およびRf2は、それぞれ独立に炭素数3以上のポリフルオロアルキル基または炭素数3以上のポリフルオロオキサアルキル基である。R3およびR4は水素原子又はメチル基である。Z1はそれぞれ独立に水素原子、一価の有機基又はハロゲン原子である。Z2は−CONR56であり、ここでR5およびR6はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基または−[C(R152qCOR16(R15はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R16は炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、qは1〜5の整数である。)であるか、又はR5およびR6は結合して、炭素数2〜8の二価のアルキレン基又はエーテル基を形成し隣接する窒素原子と共に環を構成する基である。m/n=0/100〜99/1である。)。
【請求項2】
一般式(I)におけるZ1が−Si(R73、−OCOR8、−COOR9、−CON(R10)R11−N+(R12)3-、又は−COOR11−N+(R123-である(R7はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基である。R8およびR9は水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基、−(CH23−Si(R133または−(C(R14)2pCOR13(R13はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R14はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、pは1〜5の整数である。)、R10は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。R11は炭素数1〜4のアルキレン基である。R12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。Xはハロゲン原子である。)請求項1記載の層状結晶化合物。
【請求項3】
水または有機溶剤に層状無機化合物を分散させ、分散液を調製する工程;及び
当該分散液中に、前記一般式(I)で表される含フッ素重合体を加え撹拌する工程
を含むことを特徴とする請求項1記載の層状結晶化合物の製造方法。
【請求項4】
水または有機溶剤に層状無機化合物を分散させ、分散液を調製する工程;及び
当該分散液中で、前記一般式(I)で表される含フッ素重合体を生成する反応を行う工程
を含むことを特徴とする請求項1記載の層状結晶化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の層状結晶化合物および樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−233095(P2006−233095A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51780(P2005−51780)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】