説明

含フッ素非線状ポリマー、およびその製造方法

【課題】本発明は、新規な含フッ素非線状ポリマーを提供することを課題とする。
【解決手段】
式(I)


[式中
Rfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
nは、1〜18の整数を表し、および
mは、0〜10の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する
ことを特徴とする含フッ素非線状ポリマー

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素非線状ポリマー、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーは、フッ素基に由来する、低表面エネルギー、低屈折率、および化学的物理的な安定性等の優れた性質を有しており、機能材料として広く利用されている。
なかでも、比較的に安価であるアクリル系含フッ素ポリマー(含フッ素ポリエステル)が用いられることが多いが、低屈折率に関する光学用途では、そのエステル基に由来する化学的な不安定さが指摘されている。これを改善するためにスチレン系含フッ素ポリマーも開発されているが、屈折率の面で機能が不十分であると指摘されてきた。
一方で、一般に、ポリビニルエーテルは分子鎖が柔軟であることから、非晶質の材料を与えるので、フィルム材料、封止材料、トライボロジー用途に適している。また分子中に長波長の光を吸収する部位が無いので、光学用途に適している。
上記の特性から、フッ素基を含有するビニルモノマーの重合が研究されており、そのホモポリマー、および親水性モノマーとのコポリマーが報告されている(特許文献1、2;非特許文献1、2、3、4、5、6)。しかし、水溶液中におけるコポリマーの凝集挙動以外(LCST(lower critical solution temperature)など)には、機能発現に関する報告例は少ない。特に、パーフルオロアルキル基の撥油性に基づく挙動(例えば、有機溶媒中でのUCST(upper critical solution temperature)等)の報告例は少なかった。
一方、星形ポリマー、櫛形ポリマー、デンドリマー、およびハイパーブランチポリマー等の非線状ポリマーは、その構造から特有の性質を有することが期待され、含フッ素デンドリマー、および含フッ素ハイパーブランチポリマーの研究開発も報告されている。これらはほとんどがポリエステルであり、また重合にはリビングラジカル重合が用いられているが、ポリエステルに関しては上記と同様の課題がある。またリビングラジカル重合には比較的多量の銅塩が用いられるが、この塩が得られるポリマー中に残存することが、ポリマーの実用において大きな障害となっている(非特許文献7、非特許文献8)。ラジカル重合以外では、リビングアニオン重合を用いた、末端にパーフルオロアルキル基が導入されたポリスチレンの報告がある(非特許文献9)。しかしながら、導入位置が最末端のみに限られる。さらにはリビングアニオン重合で用いられる、強い塩基や低温が必要な重合条件が実用化の障害になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−721号公報
【特許文献2】米国特許2732370号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mollerら、Makromol. Chem.、1992年、193巻、p.275−284
【非特許文献2】Jeromeら、Polymer Bulletin、1994年、32巻、p.387−393
【非特許文献3】Matsumotoら、Journal of Polymer Science Part A、2001年、39巻、p.3751−3760
【非特許文献4】Matsumotoら、Macromolecules、1999年、32巻、p.7122−7127
【非特許文献5】Matsumotoら、Macromolecules、2004年、37巻、p.2256−2267
【非特許文献6】沢田英夫ら、有機合成化学協会誌、1999年、57巻、p.291−304)
【非特許文献7】Hvilstedら、European Polymer Journal、2007年、43巻、p.255−293
【非特許文献8】Krafftら、Journal of Polymer Science, Part A、2006年、44巻、p.4251−4258
【非特許文献9】Hiraoら、Macromolecules、2005年、38巻、p.8285−8299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な含フッ素非線状ポリマーを提供することを課題とする。
また、本発明は、新規な含フッ素線状ポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の構造を有する含フッ素ビニルエーテルをリビングカチオン重合させることにより、新規な含フッ素非線状ポリマーが得られることを見出し、さらにはフルオロアルキル鎖長とビニルエーテルユニットの有する親水性とのバランス、さらには分子量の最適化によりUCSTの発現する溶媒種および発現温度のコントロールが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
[1]
式(I)

[式中
Rfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
nは、1〜18の整数を表し、および
mは、0〜10の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する
ことを特徴とする含フッ素非線状ポリマー;
[2]
mが0または1である
ことを特徴とする前記[1]に記載の含フッ素非線状ポリマー;
ことを特徴とする含フッ素非線状ポリマー;
[3]
mが2以上である
ことを特徴とする前記[1]に記載の含フッ素非線状ポリマー;
[4]
前記[1]に記載の含フッ素非線状含フッ素非線状ポリマーポリマーの製造方法であって、
工程1:
式(I’)

[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表されるモノマーを、
ルイス酸、および
開始剤もしくは生長種
の存在下でリビングカチオン重合させること、および、
工程2:
前記工程1の後に、反応系に停止剤を添加してリビングカチオン重合を停止させること
を含み、
(1)前記開始剤もしくは前記生長種または(2)前記停止剤のいずれか一方が複数の反応点を有する
ことを特徴とする製造方法;
[5]
前記開始剤もしくは前記生長種が、複数の反応点を有する
ことを特徴とする前記[4]に記載の製造方法;
[6]
前記開始剤もしくは前記生長種が由来する開始剤が複数のアセタール基を有する化合物である
ことを特徴とする前記[5]に記載の製造方法;
[7]
前記開始剤が、さらに、アニオン重合開始点、ラジカル重合開始点、またはその両方を有する
ことを特徴とする前記[4]〜前記[6]のいずれか1項に記載の製造方法;
[8]
前記停止剤が複数の反応点を有する
ことを特徴とする前記[4]に記載の製造方法;
[9]
前記停止剤が、炭素数2以上の多価アルコール、炭素数2以上の多価チオール、または炭素数2以上の多価アミンである
ことを特徴とする前記[8]に記載の製造方法;
[10]
前記含フッ素非線状ポリマーがマルチブロック体であり、および
さらに、
工程3:前記工程1のモノマーとは異なるモノマーを
ルイス酸、および
開始剤もしくは生長種
の存在下でリビングカチオン重合させること
を含む
ことを特徴とする前記[4]〜[9]のいずれか1項に記載の製造方法;
[11]
前記[1]〜前記[3]のいずれか1項に記載の含フッ素非線状ポリマーを含む
ことを特徴とする温度センサー;
[12]
前記[1]〜前記[3]のいずれか1項に記載の含フッ素非線状ポリマーを含む
ことを特徴とする表示素子;
[13]
前記[1]〜前記[3]のいずれか1項に記載の含フッ素非線状ポリマーを含む
ことを特徴とする徐放剤;
[14]
式(I)

[式中
Rfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
nは、1〜18の整数を表し、および
mは、2〜10の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する
ことを特徴とする含フッ素線状ポリマー。
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の含フッ素非線状ポリマーは、低表面エネルギー、低屈折率、および化学的物理的な安定性等の優れた性質を有する。
本発明の含フッ素線状ポリマーは、低表面エネルギー、低屈折率、および化学的物理的な安定性等の優れた性質を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<含フッ素非線状ポリマー>
本発明の含フッ素非線状ポリマーは、
式(I)

[式中
Rfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
nは、1〜18の整数を表し、および
mは、0〜10の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する。
【0009】
当該含フッ素非線状ポリマーは、分岐部と線状部を有し、これらの組み合わせが、非線状の形態を構成する。当該含フッ素非線状ポリマーの形態としては、好ましくは、例えば、星形ポリマー、櫛形ポリマー、デンドリマー、ハイパーブランチポリマー、およびこれらの組み合わせである形態が挙げられる。前記線状部は、側鎖を有する。
当該含フッ素非線状ポリマーにおいて、前記式(I)で表される繰り返し単位は、前記鎖状部の構成要素であり、一方、前記式(I)で表される繰り返し単位における、

の部分は、前記側鎖に相当する。
【0010】
本明細書中、特に記載の無い限り、「パーフルオロアルキル基」としては、例えば、炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のパーフルオロアルキル基が挙げられる。
当該「パーフルオロアルキル基」は、直鎖状でも分枝鎖状でもよい。また、当該「パーフルオロアルキル基」とは、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、またはアルキル基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基を意味する。
【0011】
本明細書中、特に記載の無い限り、「パーフルオロアルコキシ基」としては、例えば、炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のパーフルオロアルコキシ基が挙げられる。
当該「パーフルオロアルコキシ基」は、直鎖状でも分枝鎖状でもよい。また、当該「パーフルオロアルコキシ基」とは、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、またはアルキル基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基を意味する。
【0012】
本明細書中、特に記載の無い限り、「パーフルオロポリエーテル基」として、例えば、末端に炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のパーフルオロアルキル基を有し、−C36O−、C24O−、および−CF2O−から選択される1種以上の繰り返し単位を有する、炭素数2〜50のパーフルオロポリエーテル基が挙げられる。当該繰り返し単位としては、−C24O−が好ましい。前記繰り返し単位の繰り返し数は、好ましくは、2〜20である。
【0013】
Rfで表される「パーフルオロポリエーテル基」として、具体的には例えば、
F−(CF(−CF3)−CF2−O)n−CF(CF3)−[式中、n=1〜16の整数である。]、
CF3O−(CF(−CF3)−CF2−O)n−(CF2O)m−CF2−[式中、n=0〜16、m=0〜20の整数である。]、
CF3−O−((CF22−O)n−(CF2−O)m−CF2−[式中、n=1〜20、m=0〜20の整数である。]、
F−((CF23−O)n−(CF22−[式中、n=1〜16の整数である。]、
H−(CF(−CF3)−CF2−O)n−CF(CF3)−[式中、n=1〜16の整数である。]、
H−CF2O−(CF(−CF3)−CF2−O)n−(CF2O)m−CF2−[式中、n=0〜16、m=0〜20の整数である。]、
H−CF2−O−((CF22−O)n−(CF2−O)m−CF2−[式中、n=1〜20、m=0〜20の整数である。]、および
H−((CF22−O)n−(CF22−[式中、n=1〜16の整数である。]、
等が挙げられる。
【0014】
前記式(I)で表される繰り返し単位は、
式(I’)

[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表されるモノマー(以下、単に、ビニルエーテル誘導体(I’)と称する場合がある。)に由来する。
【0015】
式(I)中のmを選択することによって、溶媒中の挙動を大きく変化させることができる。すなわち、mが小さい場合(例、mが0または1の場合)、式(I)の含フッ素非線状ポリマーは疎水性有機溶媒中でUCSTを有する。一方、mが大きい場合(例、mが2以上の場合)、含水アルコールなどの、親水性有機溶媒中で、UCSTを有する。ここで、疎水性有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;クロロホルムおよびこれらの混合溶媒が
挙げられる。また、ここで、親水性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、2−ブタノン、DMSO、DMF、DMA(ジメチルアセトアミド)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0016】
本発明の含フッ素非線状ポリマーの線状部は、
前記式(I)で表される繰り返し単位に加えて、他の繰り返し単位を有していてもよい。当該「他の繰り返し単位」は、ビニルエーテル誘導体(I’)とリビングカチオン重合可能な化合物に由来する繰り返し単位であればよい。
このような繰り返し単位としては、例えば、
CH(−R2)=CH(−X−R1) (II’)
[式中、
1およびRは、同一または異なって、1価の有機基を表し、
2は、水素原子またはアルキル基を表し、
Xは、単結合、−O−、−S−、−NH−、または−N(−CH3)−を表す。]
で表される化合物に由来する、
式(II)
−CH(−R2)−CH(−X−R1)− (II)
で表される繰り返し単位等が挙げられる。
【0017】
1およびR2で表される1価の有機基としては、例えば、
置換されていてもよい炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基(当該アルキル基の炭素−炭素結合には、アミド、イミド、ウレタンおよび尿素結合から選択される1種以上が挿入されていてもよい)、
炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基が、−O−を介して2〜30個連結した炭素数4〜50の基(例、−C36O−、−C24O−および−CH2O−から選択される1種以上の繰り返し単位(好ましくは−C24O−)を有する、炭素数4〜50のポリエーテル基)、
置換されていてもよい炭素数2〜20(好ましくは炭素数2〜10)のアルコキシアルキル基、
置換されていてもよい炭素数3〜20(好ましくは炭素数3〜10)のアルコキシアルコキシアルキル基、
炭素数1〜20のシリロキシアルキル基、
炭素数3〜10のシクロアルキル基、
炭素数6〜10のアリール基、
置換されていてもよい炭素数7〜20のアルキルアリール基、
炭素数7〜20のアリールアルキル基、
炭素数7〜20のアリールオキシアルキル基、
炭素数8〜20のアリールオキシカルボニルアルキル基、
(メタ)アクリルカルボニルオキシエチル基、
スチリルカルボニルオキシエチル基および
ソルビンカルボニルオキシエチル基が挙げられる。
これらの置換されていてもよい基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数3〜10のシクロアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基およびリン酸基から選択される置換基が挙げられる。
1として、好ましくは、例えば、置換されていてもよい炭素数2〜20(好ましくは炭素数2〜10)のアルコキシアルキル基および置換されていてもよい炭素数3〜10のシクロアルキル基が挙げられる。
【0018】
2で表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基が好ましい

2の特に好ましい例としては水素原子およびメチル基が挙げられる。
【0019】
本発明の含フッ素非線状ポリマーの分岐部は、分岐構造を与えるものであれば特に限定されない。その構造の例は、下記の製造方法の説明等から容易に理解されよう。
【0020】
<製造方法>
以下に、本発明の含フッ素非線状ポリマーの製造方法を、説明する。
本発明の含フッ素非線状ポリマー、例えば、下記の製造方法によって製造することができる。
本発明の含フッ素非線状ポリマーの製造方法は、
工程1:
ビニルエーテル誘導体(I’)を、
ルイス酸、および
開始剤もしくは生長種
の存在下でリビングカチオン重合させること、および、
工程2:
前記工程1の後に、反応系に停止剤を添加してリビングカチオン重合を停止させること
を含み、
(1)前記開始剤もしくは前記生長種または(2)前記停止剤のいずれか一方が複数の反応点を有する。
【0021】
(製造方法A)
本発明の含フッ素非線状ポリマーの製造方法Aは、前記製造方法の工程1において用いられる、前記開始剤もしくは前記生長種が、複数の反応点を有することを特徴とする。
すなわち、製造方法Aは、
工程1:
ビニルエーテル誘導体(I’)を、
ルイス酸、および
複数の反応点を有する開始剤もしくは複数の反応点を有する生長種
の存在下でリビングカチオン重合させること、および、
工程2:
前記工程1の後に、反応系に、停止剤を添加してリビングカチオン重合を停止させることを含む。
当該製造方法で得られる含フッ素非線状ポリマーは、前記開始剤からなる分岐部に、フッ素を含有する複数個の線状部が、枝として結合した構造を有する。
【0022】
(開始剤)
製造方法Aの工程1における開始剤(以下、開始剤Aと称する場合がある。)としては、リビングカチオン重合の開始を可能にする複数の反応点を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、反応点として、アセタール基を有する化合物が好ましい。
ここで、当該化合物は、反応点を有していればよく、当該反応点を担持するポリマー鎖はホモポリマーであっても、ブロック体、またはランダム体などのコポリマーであってもよい。このような化合物は、目的とする本発明の含フッ素非線状ポリマーの構造および機能に応じて、原料化合物の構造および分子量などを選択し、リビングカチオン重合、またはリビングカチオン重合と他の重合方法の組み合わせ等の公知の方法によって製造すればよい。
また、前記開始剤は、前記の反応点に加えて、さらに、アニオン重合開始点、ラジカル重合開始点、またはその両方を有することができる。この場合、前記で説明した線状部に
加えて、アニオン重合開始点、ラジカル重合開始点、またはその両方に基づく、他の線状部を有する含フッ素非線状ポリマーを得ることができる。
【0023】
理解を容易にするため、開始剤A、およびその製造反応の例を以下の反応式1−1、反応式2、および反応式3に示すが、開始剤A、およびその製造反応は、ここに挙げたものに限定されるものではない。この様にして得られた開始剤は、実際には、アセタール基を活性化して重合開始剤として用いられる。
反応式1−1に示すように、ペンダント基(側鎖)にアセタール基を有するポリマーは、アセタール基を有するビニルエーテルのカチオン重合によって、容易に入手することが出来る。即ち、適当なカチオン重合開始剤存在下に、アセタール基を有するビニルエーテル誘導体を、ルイス酸によりカチオン重合することで得ることが出来る。ここではリビングカチオン重合を用いることが出来るので、アセタール基を有するポリマー鎖はホモ重合体でも、ブロック体、ランダム体などの共重合体でも合成できる。
【0024】
反応式1−1

(式中、nは2以上の整数を表す。)
【0025】
また、反応式2、および反応式3に例示するように、他の重合様式と組合わせて重合開始剤Aを製造することもできる。ここでは、例えば、Deffieuxら、Macromolecules, 2005年, 38巻, 4942頁,および 2006年, 39巻, 7107頁に従い合成を行う。
例えば、本発明の含フッ素非線状ポリマーが櫛形ポリマーである場合、下記の反応式2に例示するように、アセタール基を有さないビニルエーテル誘導体を、慣用の方法で重合させて得られるポリマーに、別途合成したアセタール基を有する複数の化合物を結合させることによって、開始剤Aを製造してもよい。
一方、例えば、本発明の含フッ素非線状ポリマーが星形ポリマーである場合、放射状に分岐し、その複数の分岐鎖にそれぞれ反応点(好ましくはアセタール基)を有する化合物を開始剤Aとして用いればよい。このような開始剤Aは、下記の反応式3に例示するように、放射状に分岐した化合物に、別途合成したアセタール基を有する複数の化合物を慣用の方法により、結合させることによって、製造することができる。
【0026】
反応式2

(式中、mは1以上の整数を示す。)
【0027】
反応式3

(式中、nは1以上の整数を示す。)
例えば、本発明の含フッ素非線状ポリマーが櫛形ポリマーである場合、開始剤Aとして、線状ポリマーの複数の側鎖にそれぞれ反応点(好ましくはアセタール基)を有する化合物を用いればよい。このような化合物は、例えば、反応点(好ましくはアセタール基)を有するビニルエーテル誘導体のリビングカチオン重合、適当な開始剤(以下、開始剤Bと称する。)およびルイス酸の存在下で、開始および進行させ、アルコール等の停止剤で、反応を停止させることによって、製造することができる。
前記開始剤Bとしては、例えば、ビニルエーテル誘導体の酢酸付加体およびハロゲン化水素酸付加体などが好ましい。
具体的には例えば、式(III)
1−CHRa−X1a−(Y−X1bm1−(CH2n1−Rf1 (III)
[式中、
1は、R1z−COO−(式中、R1zは、脂肪族炭化水素基、フェニル、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルポリオロエーテル基を表し、
aは、アルキル基を表し、
1aおよびX1bは、それぞれ独立して、−O−、−S−、−NH−、または−N(−CH3)−を表し、
Yは、炭素数1〜3のアルキレン鎖を表し、
f1は、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
m1は、0〜10の整数を表し、
n1は、1〜18の整数を表す。]
で表される化合物が挙げられる。
本明細書中、特に記載の無い限り、「脂肪族炭化水素基」としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、および炭素数3〜10のシクロアルキル基が挙げられる。
【0028】
当該リビングカチオン重合反応は、本発明の含フッ素非線状ポリマーを得るためにビニルエーテル誘導体(I’)を重合させるリビングカチオン重合反応と同様の方法で実施すればよい。
【0029】
(ルイス酸)
製造方法A1で用いられるルイス酸としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物、および下記の一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
一般式(1):AlXabc
(式中、Xa、Xb、およびXcは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表す。)
で表されるアルミニウム化合物。
a、Xb、およびXcで表される「ハロゲン原子」としては、例えば、塩素、臭素、およびヨウ素などが挙げられる。
a、Xb、およびXcで表される「アルキル基」としては、例えば、炭素原子数1〜10のアルキル基が挙げられる。
a、Xb、およびXcで表される「アリール基」としては、例えば、炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
a、Xb、およびXcで表される「アルコキシ基」としては、例えば、炭素原子数1〜10のアルコキシ基が挙げられる。
a、Xb、およびXcで表される「アリール基」としては、例えば、炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
一般式(1)で表されるアルミニウム化合物として具体的には、例えば、
ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムブロマイド、ジエチルアルミニウムフルオライド、ジエチルアルミニウムアイオダイド、ジイソプロピルアルミニウムクロライド、ジイソプロピルアルミニウムブロマイド、ジイソプロピルアルミニウムフルオライド、ジイソプロピルアルミニウムアイオダイド、メチルアルミニウムセスキクロライド、ジメチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジブロマイド、エチルアルミニウムジフルオライド、エチルアルミニウムジアイオダイド、イソブチルアルミニウムジクロライド、オクチルアルミニウムジクロライド、エトキシアルミニウムジクロライド、ビニルアルミニウムジクロライド、フェニルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキブロマイド、アルミニウムトリクロライド、アルミニウムトリブロマイド、エチルアルミニウムエトキシクロライド、ブチルアルミニウムブトキシクロライド、エチルアルミニウム
エトキシブロマイドなどの有機ハロゲン化アルミニウム化合物、および
ジエトキシエチルアルミニウムなどのジアルコキシアルキルアルミニウム、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウム、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウムなどのビス(アルキル置換アリロキシ)アルキルアルミニウムなどが挙げられる。これらのアルミニウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
一般式(2):MYabcd
(式中、Mは4価のTiまたはSnを表し、Ya、Yb、Yc、およびYdは、それぞれハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリロキシ基を示す。)
でそれぞれ表される。四価チタニウムまたは四価スズ化合物。
a、Yb、Yc、およびYdでそれぞれ表される、「ハロゲン原子」、「アルキル基」、「アリール基」、および「アルコキシ基」としては、それぞれXa、Xb、およびXcについて例示したものと同様のものが挙げられる。
一般式(2)で表される四価チタニウム化合物として具体的には、例えば、
四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン等のハロゲン化チタン、
チタントリエトキシクロライド、チタントリn−ブトキシドクロライド等のハロゲン化チタンアルコキシド、
チタンテトラエトキシド、チタンn−ブトキシドなどのチタンアルコキシドなどが挙げられる。
一般式(2)で表される四価スズ化合物として具体的には、例えば、
四塩化スズ、四臭化スズ、四ヨウ化スズ等のハロゲン化スズ等を挙げることができる。
これらの四価チタン化合物および四価スズ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、前記ルイス酸としては、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ビスマス(Bi)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、またはアンチモン(Sb)のハロゲン化物;オニウム塩(例、アンモニウム塩、ホスホニウム塩);金属酸化物(例、Fe23、Fe34、In23、Ga23、ZnO、およびCo34等)も挙げられる。
【0031】
前記のような開始剤A、ルイス酸、およびビニルエーテル誘導体(I’)を混合することで、リビングカチオン重合が開始される。
【0032】
リビングカチオン重合の進行において、カチオンは、常にポリマーの末端に存在する。当該カチオンはモノマーとの反応点として機能する。当該本明細書中、このようにポリマー末端にカチオンを有するポリマーを生長種と称する。通常、カチオンはリビングカチオン重合の進行によって失われないので、生長種は、その原料である開始剤と同数の反応点を有する。
【0033】
従って、所望により、工程1の前に、工程3として、前記工程1のモノマーとは異なるモノマーをルイス酸、および
開始剤もしくは生長種
の存在下でリビングカチオン重合させてもよい。その後、ビニルエーテル誘導体(I’)を反応系に添加しても、リビングカチオン重合は進行し、これにより、前記非線状ポリマーをマルチブロック体として得ることができる。
また、同様に、所望により、工程1の後に、工程3として、前記工程1のモノマーとは異なるモノマーをルイス酸、および
生長種
の存在下でリビングカチオン重合させてもよい。
この場合も、前記非線状ポリマーをマルチブロック体として得ることができる。
【0034】
本発明の、含フッ素非線状ポリマーの製造方法は、少なくとも工程1を1回含んでいればよく、工程1と工程3の組み合わせにより、所望するマルチブロック体を得ることができる。なお、工程1および工程3がそれぞれ複数回ある場合、用いられるモノマーは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
生長種を安定化させる目的で、含酸素または含窒素化合物を好適に用いることができる。
当該含酸素または含窒素化合物としては、例えば、エステル、エーテル、酸無水物、ケトン、イミド、リン酸化合物、ピリジン誘導体、およびアミンが挙げられる。具体的には、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸フェニル、クロロ酢酸メチル、ジクロロ酢酸メチル、酪酸エチル、ステアリン酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、フタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチルなどが挙げられる。
当該エーテルとしては、例えば、
ジエチルエーテル、エチレングリコールなどの鎖状エーテル、
ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテルが挙げられる。
前記酸無水物としては、無水酢酸などが挙げられる。
前記ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトンなどが挙げられる。
前記イミドとしては、エチルフタルイミドなどが挙げられる。
前記リン酸化合物としては、トリエチルホスフェートなどが挙げられる。
前記ピリジン誘導体としては、2,6−ジメチルピリジンなどが挙げられる。
前記アミンとしては、トリブチルアミンなどが挙げられる。
これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
当該製造方法で用いられるビニルエーテル誘導体(I’)は、少なくとも開始剤の反応点の合計モル数と同数以上が必要であるが、それ以外の制限は無く、望む機能に応じた含フッ素ポリマー鎖長が得られるモル数のビニルエーテル誘導体(I’)を用いればよい。
前記ルイス酸の使用量は、ビニルエーテル誘導体(I’)/ルイス酸(モル比)=2〜1000が好ましく、10〜1000がより好ましい。
前記含酸素または含窒素化合物の使用量は、含酸素または含窒素化合物/ルイス酸(モル比)=0.1〜2000が好ましく、1〜2000がより好ましい。
ビニルエーテル誘導体(I’)の濃度は、0.1〜1000mMが好ましく、1〜100mMがより好ましい。
当該反応は、バルクで行ってもよいが、好ましくは、溶媒を使用する。
溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;四塩化炭素、塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテルなどのエーテルなどが挙げられる。特に式(I)中のmが0または1の場合、無極性溶媒が好ましい。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶媒の使用量は、通常、溶媒:ビニルエーテル誘導体(I’)(容量比)=1:1〜100:1であり、好ましくは5:1〜30:1である。
反応温度は、通常−80℃〜150℃、好ましくは−78〜80℃である。
反応時間は、通常1分〜1ヶ月間、好ましくは1分〜100時間である。
【0037】
前記リビングカチオン重合(工程1)の後に、反応系に停止剤を添加してリビングカチオン重合を停止させる(工程2)。なお、本発明の含フッ素非線状ポリマーの製造方法は、前述のように、工程1と工程2の間に、更に、工程3等の別の工程を有してもよい。
当該停止剤としては、カチオン重合反応を停止できるものであれば特に限定されず、例
えば、アルコールまたはカルボン酸を用いることができるが、アルコールが好ましい。
ここで、カチオン重合反応停止剤として、フッ素原子を含有する化合物を用いた場合、線状部の末端にも含フッ素基を有する重合体が得られる。
当該停止剤としては、例えば、
式:Rt−OH
[式中、
tは、それぞれフッ素原子を有していてもよい、アルキル基、アルコキシ基、またはポリエーテル基を表す。]
で表される化合物が好ましい。
当該「アルキル基」としては、炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のアルコキシ基が挙げられる。
当該「アルコキシ基」としては、炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のアルコキシ基が挙げられる。
当該「ポリエーテル基」としては、末端に炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基を有し、−C36O−、−C24O−、および−CH2O−から選択される1種以上の繰り返し単位(好ましくは−C24O−)を有する、炭素数4〜50のポリエーテル基が挙げられる。
【0038】
一方、ここで、リビングカチオン重合反応停止剤として、フッ素原子を含有する化合物を用いることも可能である。これにより、末端にパーフルオロアルキル基を導入できる。
当該フッ素原子を含有するリビングカチオン重合反応停止剤としては、式(II)
tf−(CH2nt−Xt−H (II)
[式中、
tfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
ntは、1〜18の整数を表し、
tは、−O−、−S−、−NH−、または−N(−CH3)−を表す。]で表される化合物である。
tとしては、例えば、−O−が好ましい。
【0039】
リビングカチオン重合反応停止剤の使用量は、反応溶液内で停止剤とポリマーの反応末端が充分に接触することが可能となればよく、使用する量は厳密に規定されるものでは無い。通常、反応溶媒量の0.01〜10倍容量であり、好ましくは0.1〜1倍容量である。
【0040】
前記反応式1−2に、前記反応式1−1の開始剤を用いたリビングカチオン重合の一例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
反応式1−2

(式中、nは2以上の整数を、mは1以上の整数を表す。)
【0041】
<製造方法B>
本発明の含フッ素非線状ポリマーの製造方法Bは、前記製造方法の工程2において用いられる、前記停止剤が、複数の反応点を有することを特徴とする。
すなわち、製造方法Bは、
工程1:
ビニルエーテル誘導体(I’)を、
ルイス酸、および
開始剤もしくは生長種
の存在下でリビングカチオン重合させること、および、
工程2:
前記工程1の後に、反応系に、複数の反応点を有する停止剤を添加してリビングカチオン重合を停止させること
を含む。
当該製造方法で得られる含フッ素非線状ポリマーは、前記停止剤からなる分岐部に、フッ素を含有する複数個の線状部が、枝として結合した構造を有する。
【0042】
製造方法Bの工程1における開始剤としては、前記開始剤Bと同様のものを用いることができる。
製造方法Bの工程1は、開始剤が異なることを除いて、製造方法Aの工程1と同様に実施することができる。
なお、製造方法Bにおいても、製造方法Aと同様に、所望による工程3を実施することによって、マルチブロック体を製造することができる。
【0043】
製造方法Bの工程2で用いられる停止剤としては、リビングカチオン重合の停止を可能にする複数の反応点(停止点)を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、反応点として、水酸基またはカルボキシル基を有する化合物が好ましい。
なお、全ての反応点で同時に反応が停止しない場合があるので、出来るだけ同じ反応性の活性基を有する化合物を停止剤に用いることが望ましい。
例えば、本発明の含フッ素非線状ポリマーが櫛形ポリマーである場合、停止剤として、線状ポリマーの複数の側鎖にそれぞれ反応点(水酸基またはカルボキシル基)を有する化合物を用いればよい。このような化合物は、公知の合成方法により、製造することができる。その具体例としては、例えば、ポリビニルアルコールが挙げられる。
ここで、当該化合物は、反応点を有していればよく、当該反応点を担持するポリマー鎖はホモポリマーであっても、ブロック体、またはランダム体などのコポリマーであってもよい。このような化合物は、目的とする本発明の含フッ素非線状ポリマーの構造および機能に応じて、原料化合物の構造および分子量などを選択し、公知の方法によって製造すればよい。
【0044】
製造方法Bの一例を反応式3に示す。この例では、別途、含フッ素ビニルエーテルをカチオン重合させておき、停止剤にポリビニルアルコールを用いて櫛型ポリマーを合成している。
反応式3

(式中、nは1以上の整数を表し、mは2以上の整数を、Rはアルキル基を表す。)
【0045】
一方、例えば、本発明の含フッ素非線状ポリマーが星形ポリマーである場合、放射状に分岐し、その複数の分岐鎖にそれぞれ反応点(水酸基またはカルボキシル基)を有する化合物を停止剤として用いればよい。このような化合物は、公知の合成方法により、製造することができる。
【0046】
リビングカチオン重合反応停止剤の使用量は、反応溶液内で停止剤とポリマーの反応末端が充分に接触することが可能となればよく、使用する量は厳密に規定されるものでは無い。通常、反応溶媒量の0.01〜10倍容量であり、好ましくは0.1〜1倍容量である。
【0047】
当該製造方法で用いられるビニルエーテル誘導体(I’)は、停止剤分子中に存在する反応点のモル数と同数以上が必要であるが、それ以外の制限は無く、望む機能に応じた含フッ素ポリマー鎖長が得られるモル数のビニルエーテル誘導体(I’)を用いればよい。
【0048】
前記で説明した製造方法は、
1)導入できる含フッ素基の選択性が広い、
2)開始剤、停止剤を適切に選択することで、多方向へ広がりを有する含フッ素ポリマーが容易に合成できる、
3)得られる高分子の分子量を望むものに設定できる、
4)得られる高分子の分子量分布を非常に狭く出来る、
という優れた特徴を有する。
【0049】
当該製造方法によれば、分子量分布が1〜1.3、好ましくは1〜1.2のポリマーを得ることができる。
なお、本明細書中、分子量分布とは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mnを意味する。平均分子量および分子量分布は、GPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)測定に基づいて求められる。
(GPC測定)
以下のカラムを順に直列配管したものを使用して測定する。
TOSOH TSK guardcolumn HXL−L(6.0mm I.D.×30cm)
TOSOH TSKgel G4000HXL(7.8mm I.D.×30cm)
TOSOH TSKgel G3000HXL(7.8mm I.D.×30cm)
TOSOH TSKgel G2000HXL(7.8mm I.D.×30cm)
溶出液:クロロホルム
標準ポリスチレンで分子量を校正する。
HPLC装置:TOSOH DP−8020,デュアルポンプ、流速:1mL/min
【0050】
本発明の製造方法で得られる高分子の分子量は、特に限定されず、所望する分子量のものを得ることができるが、好ましくは、例えば、数1000〜数10万である。
【0051】
このようにして得られた本発明のポリマーは、例えば、塗料用の分散助剤、レオロジー制御剤、定着剤(これは、基板密着性を向上させる)、または親水化剤等として用いることができる。ここで、本発明のポリマーは、その分子末端のフッ素の含有量に応じて、溶剤への適当な分散性、適当な塗料粘度、および基板への適当な密着性等を有することができる。
また、本発明のポリマーは、高機能性表面処理剤(例、テキスタイル用撥水撥油剤、カーペット用撥剤、紙用撥剤および離型剤等)として用いることができる。ここで、本発明のポリマーは、分子末端に導入したフッ素の効果に起因して被覆物の表面に効率よく配向することによって、分子自体の性質等に基づく優れた水濡れ性、撥水性、撥油性、または防汚性を効果的に発現しうる。したがって、本発明のポリマーは、環境応答性を有する優れた撥水撥油剤等として用いることができる。
また、本発明のポリマーは、樹脂添加剤(例、相溶化剤、内添型撥剤、内添型防汚剤、離型剤、難燃化剤、ドリップ防止剤、耐衝撃改良剤、剛性改良剤および強化剤等)として用いることができる。ここで、本発明のポリマーは、分子末端のフッ素の含有量の調節によって、例えば、分子末端のフッ素の疎水的作用と分子中央部の親水的作用に基づく樹脂との相溶性をコントロールし、添加対象となる樹脂に対して適当な相溶性を有することができる。なお、本発明のポリマーは、波長レベル以下の粒径を有することができ、このようなポリマーは、特に透明樹脂の添加剤として好適である。
また、本発明のポリマーは、徐放剤、またはDDS(ドラッグデリバリーシステム)の担体等として用いることができる。
また、本発明のポリマーは、分子末端に導入したフッ素同士が疎水性相互作用によって分子間および分子内にて自己組織化することで、大きな集合体(高次構造)を形成する。この自己組織化によって得られた集合体の場を様々な用途(例、酵素などの触媒の固定化担体等)として用いることができる。
また、各種光学部材の材料または添加剤(例、屈折率調整剤、防汚剤、発光素子材料、レンズ用材料、光デバイス用材料、表示用材料、光学記録材料、光信号伝送用材料(光伝送媒体)、封止部材用材料)として表示素子等に用いることができる。
また、本発明のポリマーは、フッ素が分子末端に存在することによる優れた分子配向性により、フッ素に由来するすべり性、撥水撥油性、防汚性を発現することができるので、化粧品(洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、スキンケア製品、ファンデーション、口紅、ポイントメーク製品、ボディシャンプー、液体石けん、サンスクリーン化粧品等のサンケア製品、ハンドケア製品、防臭化粧品、浴剤等の皮膚化粧料;シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント、ヘアリキッド、ヘアスプレー、ヘアマニキュア、セットフォーム、ヘアゲル等の毛髪化粧料)の性質改変剤として使用することができる。
また、本発明のポリマーは、枝部末端のフッ素の疎水的相互作用を利用したゲル化剤、優れた温度感応特性を利用したセンサー(例、温度センサー、湿度センサー)、メカノケミカル材料および接着剤等における使用が可能である。
<含フッ素線状ポリマーおよびその製造方法>
本発明の含フッ素線状ポリマーは、
式(I)

[式中
Rfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
nは、1〜18の整数を表し、および
mは、2〜10の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する。
当該含フッ素非線状ポリマーは、例えば、前記で説明した含フッ素非線状ポリマーの線状部と同様にして製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
実施例1

重合用のガラス器具は、すべて送風定温乾燥機(130℃)にて3時間乾燥させたものを用いた。三方活栓をつけたガラス反応容器を窒素ガス気流下で加熱し、窒素加圧下にて室温まで放冷、乾燥窒素で常圧に戻し、容器内を十分乾燥させた。窒素雰囲気下、容器内に、1,4−ジオキサン(1.2M)、モノマーとして2−パーフルオロヘキシルプロポキシエチルビニルエーテル(1.0M)、酢酸1−ブトキシエチル(4mM)を乾燥窒素下で添加し、トルエンを加えて全体を4.5mLとした。容器を0℃に冷却した後、(CH3CH21.5AlCl1.5の200mM トルエン溶液を0.5mL(20mM)加えて、重合を開始した。5時間反応を続けた。ここで反応液を微量取り出し、GPCにより反応の進行を解析した(DPn=160、Mw=7.1x104)。この反応溶液に計算量の
ポリビニルアルコール(DPn=160、ケン化率10%)のトルエン溶液を0℃で滴下した。反応液にメタノール(2ML)を滴下して反応を全て停止させ、ジクロロメタンで反応液を希釈した後、反応液を水洗して反応で発生したアルミニウム化合物を除去した。溶媒をエバポレーターで除去後、残った生成物を真空ポンプによる減圧下で一晩乾燥した。
生成したポリマーは、重量法によりモノマーの転換率(重合率、Conversion)を算出し、ほぼ定量的にモノマーがポリマーへと変換されていることが判った。
得られたポリマーの構造は1H−NMRにより確認した。導入されたグラフト鎖における−OCH2−基由来の吸収が、3.5−4.0ppmに観られる。
【0054】
実施例2

三方活栓付きガラス反応容器は、予め送風定温乾燥機(130℃)にて3時間乾燥させ、窒素加圧下にて室温まで放冷し、容器内を十分乾燥させた。この反応容器に1,4−ジオキサン(1.2M)、モノマーとして2−[2,2−ビス(エトキシ)エトキシ]エチルビニルエーテル(1.0M)、酢酸 1−[(2−メトキシ)エトキシ]エチル(4mM)を乾燥窒素下で添加し、トルエンを加えて全体を4.5mLとした。容器を0℃に冷却した後、ZnCl2の1M エーテル溶液を(20mM)加えて、重合を開始した。1時間後、反応液中にメタノール(2mL)のTHF溶液を添加して反応を停止させた。ジクロロメタンで反応液を希釈し、水洗後、溶媒を留去してポリマーを回収した。これを再度反応容器に移し、乾燥後、ジ−t−ブチルピリジン(5mM)、2−(7H,1H,1H−ドデカフルオロヘプチルオキシ)エチルビニルエーテル(1M)、酢酸エチル(1M)を加えたトルエン溶液(1M)とした。これにTiCl4のジクロロメタン溶液(添加後に5mM濃度)を0℃で滴下した。この温度で2時間後、反応液をジクロロメタンで希釈し、水洗後、溶媒を留去し、ポリマーを回収した。生成したポリマーは、重量法によりモノ
マーの転換率を算出し、ほぼ定量的にモノマーがポリマーへと変換されていることが判った。

また、1H−NMR(CDCl3)による生成ポリマーの解析において、4.2−4.4ppm領域でのプロトンの吸収が消失していることから、原料のオレフィンおよびアセタール基は反応で消費されていることを確認した。
【0055】
実施例3
実施例2と同様の操作により、2−(1H,1H−ペンタフルオロペンチルオキシ)エチルビニルエーテルから、ポリマー3を合成した。
【0056】
実施例4
以下の実験条件により、ポリマー2と3に関して有機溶媒との温度−溶解度の相関を検討した。その結果、ポリマー2は、トルエン中では50℃、クロロホルム中では52℃、ジクロロメタン中では39℃でUCST(upper critical solution temperature)を発現し、一方、ポリマー3は、トルエン中、25℃でUCSTを発現した。
[実験条件]
ポリマー濃度:1wt%
【0057】
実施例5
1) 2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エトキシ]エチルビニルエーテルの合成

1−1) 2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタノールの合成
エーテル中で、2,2,2-トリフルオロエタノールと水素化ナトリウム(1当量)から調製したアルコラート溶液から、減圧下にエーテルを留去して、これをトルエン−ジグライム
(3:1)溶液とした。これに100℃で2−クロロエタノール(1.2当量)を滴下して、24時間この温度で攪拌した。冷後、減圧下に溶媒を留去し、続いて減圧蒸留により
2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタノールを得た(収率44%)。
1−2) 2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エトキシ]エチルビニルエーテルの合成
2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタノール(10mmol),硫酸水素テトラブチルアンモニウム(1mmol),40% NaOH水溶液(10ml)を室温で30分間攪拌した。この反応液に2−クロロエチルビニルエーテル(10ml)を加えて、70℃で3日間攪拌した。
冷却後、反応液をエーテルで抽出した。有機相を水洗後、硫酸マグネシウムで脱水し、ろ過後、溶媒を留去した。残った反応物を減圧下に蒸留し、2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタノールを得た(収率66%)。
2) ポリマー4の合成
実施例2と同様にして、1)で得た2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタノールからポリマー4を合成した。
【0058】
実施例6
実施例4と同様にしてポリマー4に関してメタノール−水(85:15)混合溶媒中で、温度―溶解度の相関を検討した。UCSTが35℃で発現した。
【0059】
参考例1
ポリマー3を実施例6と同様の溶媒中で攪拌したが、どの温度領域(0〜65℃)でも溶解することは無かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

[式中
Rfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
nは、1〜18の整数を表し、および
mは、0〜10の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する
ことを特徴とする含フッ素非線状ポリマー。
【請求項2】
mが0または1である
ことを特徴とする請求項1に記載の含フッ素非線状ポリマー。
【請求項3】
mが2以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の含フッ素非線状ポリマー。
【請求項4】
請求項1に記載の含フッ素非線状含フッ素非線状ポリマーポリマーの製造方法であって、工程1:
式(I’)

[式中の記号は前記と同意義を表す。]
で表されるモノマーを、
ルイス酸、および
開始剤もしくは生長種
の存在下でリビングカチオン重合させること、および、
工程2:
前記工程1の後に、反応系に停止剤を添加してリビングカチオン重合を停止させること
を含み、
(1)前記開始剤もしくは前記生長種または(2)前記停止剤のいずれか一方が複数の反応点を有する
ことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記開始剤もしくは前記生長種が、複数の反応点を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記開始剤もしくは前記生長種が由来する開始剤が複数のアセタール基を有する化合物である
ことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記開始剤が、さらに、アニオン重合開始点、ラジカル重合開始点、またはその両方を有する
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記停止剤が複数の反応点を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
前記停止剤が、炭素数2以上の多価アルコール、炭素数2以上の多価チオール、または炭素数2以上の多価アミンである
ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記含フッ素非線状ポリマーがマルチブロック体であり、および
さらに、
工程3:前記工程1のモノマーとは異なるモノマーを
ルイス酸、および
開始剤もしくは生長種
の存在下でリビングカチオン重合させること
を含む
ことを特徴とする請求項4〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素非線状ポリマーを含む
ことを特徴とする温度センサー。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素非線状ポリマーを含む
ことを特徴とする表示素子。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素非線状ポリマーを含む
ことを特徴とする徐放剤。
【請求項14】
式(I)

[式中
Rfは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、またはパーフルオロポリエーテル基を表し、
nは、1〜18の整数を表し、および
mは、2〜10の整数を表す。]
で表される繰り返し単位を有する
ことを特徴とする含フッ素線状ポリマー。

【公開番号】特開2011−63661(P2011−63661A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213734(P2009−213734)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】