説明

含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物及びこれを含む硬化性組成物

【課題】フッ素化合物の優れた特性を有すると共に、非フッ素系有機化合物との相溶性、硬化性に優れた含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物、これを含む硬化性組成物、及び紫外線又は電子線硬化型ハードコート組成物を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(1)


(Rfはフルオロアルキル又はフルオロポリエーテル構造を含む一価又は二価の基である。Q1はSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン、シルアルキレン、シルアリーレン構造の連結基、Q2は二価炭化水素基であり、R1〜R3は水素原子又は一価炭化水素基であり、Rfが一価のときa’は1、aは1〜6の整数であり、Rfが二価のときaは1、a’は2である。bは1〜20の整数である。)
で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られた含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化可能なパーフルオロポリエーテル基を有する(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物に関し、更に詳述すると、含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物と(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸との付加反応で得られる含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物、これを含む硬化性組成物、及び紫外線又は電子線硬化型ハードコート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線等の光照射により硬化可能なフッ素化合物としては、側鎖にパーフルオロアルキル基を有する重合性モノマー、例えば、アクリル酸含フッ素アルキルエステルやメタクリル酸含フッ素アルキルエステルを含む重合体が広く知られている。代表的なものとして、下記の構造のものが基材表面に撥水撥油性、防汚性、耐摩耗性、耐擦傷性等を付与する目的で多く用いられてきた。
【化1】

【0003】
ところが、近年、環境負荷の懸念から炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を含有する化合物の利用を制限する動きが強まっている。しかしながら、炭素数8未満のパーフルオロアルキル基を含有するアクリル化合物は、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキル基を持つものに比べ、その表面特性が顕著に悪いことが知られている(非特許文献1:高分子諭文集Vol.64,No.4,pp.181−190)。
【0004】
一方、連続する炭素数が3以下のパーフルオロアルキル基とエーテル結合性酸素原子からなるパーフルオロポリエーテル類を導入した光硬化可能なフッ素化合物が知られている。例えば、ヘキサフルオロプロピレンオキシドオリゴマーから誘導される下記のアクリル化合物が提案されている(特許文献1:特開平5−194322号公報)。
【化2】

【0005】
また、フッ素含有ポリエーテルジオールと2−イソシアネートエチルメタクリレートとの反応物からなるウレタンアクリレートが提案されている(特許文献2:特開平11−349651号公報)。しかし、フッ素含有化合物の撥水撥油特性から、光重合開始剤、非フッ素化アクリレート、及び非フッ素化有機溶剤との相溶性が低く、配合可能な成分及び用途が限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−194322号公報
【特許文献2】特開平11−349651号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高分子諭文集Vol.64,No.4,pp.181−190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、フッ素化合物の優れた特性を有すると共に、非フッ素系有機化合物との相溶性、硬化性に優れた含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物、これを含む硬化性組成物、及び紫外線又は電子線硬化型ハードコート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、含フッ素化合物の末端に、多官能Si−H化合物(例えば、多官能(即ち、3個以上)のSiH基を含有する、シロキサン、シルアルキレン、シルアリーレン又はこれらの2種以上の組み合せからなる有機ケイ素化合物)を導入し、ここに末端不飽和結合とエポキシ基を有する炭化水素化合物を付加させて得られる化合物(A)に対して、更に導入されたエポキシ基にアクリル酸等の(メタ)アクリル基を有する不飽和カルボン酸(B)を反応させることで、撥水、撥油、防汚性に優れる含フッ素基のセグメントを、非フッ素化有機化合物との溶解性に優れる水酸基やエポキシ基を含むスペーサー構造を介することでアクリル基と同一分子中で結合させることができ、上記目的に一致する化合物が合成可能なことを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物、これを含む硬化性組成物、及び紫外線又は電子線硬化型ハードコート組成物を提供する。
請求項1:
(A)下記一般式(1)
【化3】

(但し、Rfはフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q1は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q2は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい。R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R1とR2が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rfが一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rfが二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られた含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物。
請求項2:
一般式(1)において、Rfが、下記式
−Ci2iO−
(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を1〜500個含むことを特徴とする請求項1記載の化合物。
請求項3:
一般式(1)において、Q1が、下記式(2)
【化4】

(但し、a、bは式(1)におけるa、bと同一であり、破線は結合手を示し、aの繰り返し単位を有するユニットはRfと結合し、bの繰り返し単位を有するユニットは下記式
【化5】

(但し、Q2、R1〜R3は式(1)で定義した通りである。)
で示される基と結合する。また、2種類の繰り返し単位の並びはランダムである。Rfは式(1)で定義した通りである。)
で表される請求項1又は2記載の化合物。
請求項4:
一般式(1)において、Rfが、下記一般式(3)
−[Q3−Rf’−Q3−T]v−Qf−Rf’−Q3− (3)
(但し、Rf’は二価の分子量300〜30,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Q3は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。QfはQ3又はフッ素原子である。Tは、下記式(4)
【化6】

(但し、R1〜R3、Q2、a、bは式(1)で定義した通りであり、Q4は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基である。)
で表される連結基であり、vは0〜5の整数であり、なおかつQfがフッ素原子のときv=0である。)
で表される請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物。
請求項5:
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする硬化性組成物。
請求項6:
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする紫外線又は電子線硬化型ハードコート組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、非フッ素化有機化合物との相溶性に優れるだけでなく、光で硬化して撥水撥油性の硬化物を形成することができ、ハードコート用の防汚添加剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、(A)下記一般式(1)
【化7】

(但し、Rfはフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q1は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q2は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい。R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R1とR2が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rfが一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rfが二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られる含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物である。
【0013】
ここで、Q1は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、具体的には以下の構造が示される。但し、下記式中、a、bは前述の定義通りであり、好ましくはa、b共に1〜4の整数であり、かつa+bは3〜5の整数である。pは0以上の任意の正の整数であり、a個及びb個の各ユニットの並びはランダムであり、a個及びb個の各ユニットの破線で示される結合手は、Rf又は下記式
【化8】

(式中、Q2、R1〜R3は上記の通りである。)
で示されるいずれか一方の基と結合する。
【0014】
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】


ここで、Q5は(a+b)価の連結基であり、例えば以下のものが例示される。
【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【0015】
2は炭素数1〜20、好ましくは2〜15の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(−O−)又はエステル結合(−COO−)を含んでいてもよい。具体的には、下記構造のものが挙げられる。
−CH2CH2
−CH2CH(CH3)−
−CH2CH2CH2CH2
−CH2CH2(CH26
−CH2CH2CH2OCH2
−CH2CH2CH2OCH2CH(CH3)−
【0016】
1〜R3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10、好ましくは1〜8の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子等のハロゲン原子で置換されていても良く、R1とR2が結合してこれらが結合する炭素原子と共に、シクロヘキシル環等の炭素数3〜8の一つの環をなしていても良い。R1〜R3の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。このようなR1〜R3とQ2の組み合わせからなる一般式(1)中の下記式
【化18】

で表される構造としては、特に、
【化19】

【化20】

【化21】


が挙げられる。また、上記式の代わりに、下記式
【化22】

(式中、Q2及びR3及は上述した通りである。)
で示される基を用いることもでき、具体例としては、
【化23】

【化24】

【化25】

が好ましい。
【0017】
Rfはフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む一価又は二価の基であり、Rfとしての分子量は100〜40,000、好ましくは500〜20,000で、なおかつ下記式
−Ci2iO−
(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を1〜500個、好ましくは2〜400個、更に好ましくは4〜200個含むものが好適である。なお、本発明において、分子量は、1H−NMR及び19F−NMRに基づく末端構造と主鎖構造との比率から算出される数平均分子量である。
【0018】
Rfとして特に好ましい構造を下記一般式(3)で表すことができる。
−[Q3−Rf’−Q3−T]v−Qf−Rf’−Q3− (3)
Rf’は二価の分子量300〜30,000、特に500〜20,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良く、特に下記式(5)〜(7)で表される二価のパーフルオロポリエーテル基が好ましい。
【化26】

(式(5)中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜200、好ましくは0〜100の整数、但し、m+nは2〜200、好ましくは3〜150の整数である。sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【化27】

(式中、jは1〜3の整数、kは1〜200、好ましくは1〜60の整数である。)
【化28】

(式中、YはF又はCF3基、jは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200、好ましくは2〜100の整数、但し、m+nは2〜300、好ましくは4〜200の整数である。各繰り返し単位はランダムに結合されていてもよい。)
【0019】
3は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造あるいは不飽和結合を有する基であってもよい。QfはQ3又はフッ素原子である。このようなQ3としては下記のものが例示される。なお、式中、Phはフェニル基を示す。
【0020】
【化29】

【化30】

【0021】
これらのなかでも特に
【化31】

が好ましい。
【0022】
また、Tは、下記式(4)
【化32】

(但し、R1〜R3、Q2、a、bは前述の通りであり、Q4は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、前述のQ1の(a+b)価のうち二価分がQ3との結合に使用されたシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる構造で表される。)
で表される二価の連結基である。また、vは0〜5の整数であり、なおかつQfがフッ素原子のときv=0である。
【0023】
a及びa’は、Rfが一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6、特に1〜3の整数であり、Rfが二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20、特に1〜6の整数である。a+bは3〜6の整数が好ましい。
【0024】
Rfの具体例としては、下記のものが挙げられる。
【化33】

【化34】

【化35】

【化36】

【化37】

【化38】

【化39】

【化40】

(上記式中、j、k、m、n、r、sは上述した通りである。)
【0025】
以上のような一般式(1)で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)は、例えば次のような方法で合成することが可能である。
まず初めに、末端にオレフィン基を有する含フッ素化合物(a)に対して、多官能Si−H化合物(例えば、分子中に2個以上、好ましくは3個以上のSi−H基を有するシロキサン、シルアルキレン、シルアリーレン又はこれらの2種以上の組み合せからなる有機ケイ素化合物)(b)をSi−H基が過剰の条件下でヒドロシリル化付加反応させ、含フッ素多官能Si−H化合物(c)を合成する。
【0026】
このような化合物(a)のうち、特に望ましい構造を一般化した例として下記式(8)を示すことができる。
Rf0−(CH=CH2x (8)
ここで、Rf0は下記式
−[Q6−Rf’−Q3−T]v−Qf−Rf’−Q6
で表される。上記式中、Rf’、T、Qf、Q3、vは上述した通りであり、Q6は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。xはRf0が一価のとき1、二価のとき2である。
【0027】
6としては、下記例が挙げられる。なお、下記例中、Phはフェニル基を示す。
【化41】

【化42】

【0028】
化合物(a)の特に好ましいものとして、以下のものが例示できる。
【化43】

【化44】

【化45】

【化46】

【化47】

【化48】

【化49】

【化50】

(上記式中、j、k、m、n、r、sは上述した通りである。)
【0029】
また、化合物(b)は下記式(9)のような形で一般式として表現できる。
1−(H)a+b (9)
(但し、Q1、a、bは前述の通りであり、かっこ内に示されたHはQ1構造中のSi原子に直接結合した水素原子である。)
【0030】
このようなもののうち好ましい化合物(b)としては、以下のものが例示できる。
【化51】

【化52】

【化53】

【化54】

【化55】

【化56】

【化57】

【化58】

(上記式中、a、bは前述の通りであり、pは0以上の任意の正の整数である。)
【0031】
以上のような化合物(a)及び(b)を任意の組み合わせで、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度60〜150℃、好ましくは70〜120℃で付加反応を行うことで含フッ素多官能Si−H化合物(c)を得ることができる。
例えば、化合物(a)が1官能性の場合(式(8)においてx=1)、化合物(b)1分子に対して付加させる化合物(a)の数は(a+b)個未満であれば1個でも、複数個でも問題なく、例えばa個付加させた場合に得られる化合物(c)は次のような一般式(10)で表すことができる。
(Rf0−C24a−Q1−(H)b (10)
(Rf0、Q1、a、bは上述した通りである。)
【0032】
一方、化合物(a)が2官能性の場合には(式(8)においてx=2)、(a):(b)=v+1:v+2の比率(モル比)で付加させることが望ましく(vは前述の通りである。)、化合物(c)は例えば式(11)のように表現でき、v=0のときは化合物(a)の両末端に1分子ずつの化合物(b)が導入された構造となる。
(H)b−Q1−[C24−Rf0−C24−T2v
−C24−Rf0−C24−Q1−(H)b
(11)
(但し、T2
【化59】

であり、Q4は前述の通りであり、かっこ内に示されたHはQ1又はQ4構造中のSi原子に直接結合する水素原子である。Q1、Rf0、a、bは上述した通りである。)
である。
【0033】
上記の付加反応は溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈しても良い。このとき希釈溶剤はトルエン、キシレン、イソオクタンなど広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができるが、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応後に生成する化合物(c)が反応温度において可溶であることが好ましい。例えば、m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm−キシレンヘキサフロライドが好ましい。
【0034】
付加反応触媒は、例えば白金、ロジウム又はパラジウムを含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金−オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。触媒の配合量は、化合物(a)に対し、含まれる金属量が0.1〜5,000質量ppmとなることが好ましく、より好ましくは1〜1,000質量ppmである。
【0035】
付加反応において、各成分の仕込み順序は特に制限されないが、例えば化合物(a)、化合物(b)及び触媒の混合物を室温から徐々に付加反応温度まで加熱する方法、化合物(a)、化合物(b)及び希釈溶媒の混合物を目的とする反応温度にまで加熱した後に触媒を添加する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(b)と触媒の混合物に化合物(a)を滴下する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(b)に化合物(a)と触媒の混合物を滴下する方法等をとることができる。この中でも、化合物(a)、化合物(b)及び希釈溶媒の混合物を目的とする反応温度にまで加熱した後に触媒を添加する方法、あるいは、目的とする反応温度まで加熱した化合物(b)に化合物(a)と触媒の混合物を滴下する方法が特に好ましい。これらの方法は、各成分あるいは混合物を必要に応じて溶剤で希釈して用いることができる。上記反応は、乾燥雰囲気下で、空気あるいは不活性ガス(N2、Ar等)中、反応温度60〜150℃、好ましくは70〜120℃で、0.5〜96時間、好ましくは1〜48時間行うことが望ましい。
【0036】
化合物(a)に対する、化合物(b)の配合量は、化合物(b)1分子に対して、付加させる化合物(a)の数は(a+b)個未満で、かつ化合物(c)におけるvが0〜5の整数となる条件であればどのような配合量であってもよいが、三次元架橋を防ぐため、化合物(a)のアリル基等の末端オレフィン基に対し、化合物(b)を過剰量用いて付加反応を行った後に、未反応の化合物(b)を減圧留去等により除去することが望ましく、化合物(a)のアリル基等の末端オレフィン基1当量に対し、化合物(b)を1〜10当量、特に2〜6当量の存在下で反応させるのが好ましい。また必要に応じて、vが小さい中間体を合成してから、段階的に付加反応を行っても良い。例えばv=0の化合物(11)を合成した後に、2モルの化合物(11)に対して、1モルの化合物(a)を再度反応させることでv=3の化合物(c)を得ることができる。あるいは、vの異なる混合物中から任意の分離手段により目的とするvの値を持つ成分を分離することもできる。例えば、v=0〜3の混合物から、分取クロマトグラフ等の手段によりv=1の成分のみを取り出しても良い。
【0037】
本発明で用いられる含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)は、以上のようにして得られる化合物(c)のSi−H基と、一分子中に末端オレフィン基とエポキシ基を有する化合物(d)との付加反応を行うことで、得ることができる。このような化合物(d)としては、特に以下のものが好ましい。これらの化合物(d)は1種単独で又は任意の2種以上を組み合わせても用いることができる。
【化60】

【化61】

【化62】

【化63】

【化64】

【化65】

【0038】
化合物(c)と化合物(d)の付加反応は、前述した化合物(a)と化合物(b)の付加反応と同様の手法で行うことができる。即ち、上述した付加反応触媒存在下、乾燥雰囲気下で、空気あるいは不活性ガス(N2、Ar等)中、反応温度60〜150℃、好ましくは70〜120℃で0.5〜96時間、好ましくは1〜48時間、必要に応じて希釈を行い任意の添加順序での反応を実施することができるが、エポキシ基の熱による開環反応を防ぐため100℃以下で行うことが望ましい。
【0039】
化合物(c)に対する、化合物(d)の配合量は任意の値を用いることができるが、化合物(c)のSi−H基に対して、化合物(d)を等モルもしくは過剰量用いて付加反応を行った後に、未反応の化合物(d)を減圧留去等により除去することが望ましく、化合物(c)のSi−H基1当量に対し、化合物(d)を1.0〜2.0好ましくは1.0〜1.2当量存在下で反応を行うことが望ましい。
【0040】
本発明においては、含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)は、上記手法以外に、下記式
(H)b−Q1−Rf
(Q1、b及びRfは上述した通りである。)
で示される含フッ素有機ケイ素化合物(e)と、一分子中に末端オレフィン基とエポキシ基を有する化合物(d)との付加反応を行うことで得ることもできる。この場合、反応条件等は上述した化合物(c)と化合物(d)との反応条件と同様とすることができる。
【0041】
このようにして得られる含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)として特に好ましい構造として、例えば以下のものを例示できる。
【0042】
【化66】

【化67】

【化68】

【化69】


【化70】

【化71】


【化72】

【化73】

(上記式中、j、k、m、nは上記と同じである。)
【0043】
本発明の含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、このように表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)に、(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)を付加反応させた構造を有する。ここで、(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸が好適であるが、2−クロロアクリル酸、2−(トリフルオロメチル)アクリル酸、2,3,3−トリフルオロアクリル酸等のように一部の水素原子が塩素、フッ素等のハロゲン原子でハロゲン化されているものを用いることもできる。また、必要に応じてこれらのカルボン酸がアリル基、シリル基等で保護されたものを用いることもできる。これら不飽和モノカルボン酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明における含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)のエポキシ基と(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)のカルボキシル基とを反応させて得られる。ここで、含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)と(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)の反応比率は、化合物(A)1分子に対して化合物(B)を1分子以上の比率であれば特に制限されるものではなく、化合物(A)に含まれる全エポキシ基に対して化合物(B)を全て反応させてもよく、逆にその一部のみ反応させて、含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の構造中のエポキシ基を残存させても良い。また、反応の際には、化合物(A)に含まれる全エポキシ基に対して化合物(B)を等量もしくは過剰に仕込んで反応を行い、反応が目的の反応率に達した時点で停止させる手法も用いることができる。とりわけ、化合物(A)のエポキシ基1当量に対して、化合物(B)を0.5〜2.0当量、特に0.8〜1.1当量用いることが好ましい。
【0045】
この反応は、通常、50〜150℃の範囲の温度で1〜50時間程度で行う。このとき必要に応じて反応を促進するために触媒を用いることもできる。このような触媒としては、例えば、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、トリエチルアミン、ジメチルブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン等のアミン類、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩等の第四級塩、又は第四級ホスホニウム塩、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化第一錫、塩化亜鉛等の金属ハロゲン化物を挙げることができるが、特にホスフィン類が好適である。
【0046】
また、反応の際には反応中の重合やこれにともなうゲル化を防ぐため、エアレーション等の空気(酸素)の導入による措置やメチルハイドロキノン、ハイドロキノン等のハイドロキノン類、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等のヒンダートフェノール類、p−ベンゾキノン、p−トルキノン等のベンゾキノン類、フェノチアジン等の公知の重合禁止剤を用いることができる。
【0047】
更に反応を円滑に行うために反応系を溶媒で希釈することもできる。溶媒としては任意のものを用いることができるが、化合物(A)、(B)及び反応に伴い発生する水酸基、エステル基と不活性な溶媒であることが望ましい。具体的にはテトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等の飽和脂肪族エステル類、ベンゾトリフロライド、m−キシレンヘキサフロライド、あるいはアサヒクリン(旭硝子(株)製)、ノベックHFE(住友スリーエム(株)製)等、各社から市販されているフッ素化溶媒を用いることもできる。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上の混合で使用することもできる。
このようにして合成することのできる本発明の化合物として、例えば以下のものを例示できる。
【0048】
【化74】

【化75】

【化76】

【化77】

【化78】

【化79】

【化80】

【化81】

(上記式中、n、m、jは上述した通りである。)
【0049】
以上のようにして得られる本発明の含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、非フッ素系の硬化性組成物に配合し、硬化物表面に防汚性、耐指紋性、撥水性、撥油性を付与する硬化性組成物を提供することができる。非フッ素系硬化性組成物の有効成分100質量部に対する含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の配合量は、0.005〜20質量部であり、好ましくは0.01〜10質量部である。上記の上限値を超える値では添加した含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物成分層が厚くなる場合があり、硬化物としての性能を損なう可能性があり、下限値未満ではハードコート層の表面を十分に覆うことができなくなる場合がある。
【0050】
非フッ素系の硬化性組成物としては、本発明の化合物と混合、硬化可能であれば、いかなるものであっても使用することができるが、特に紫外線及び電子線等の活性エネルギー線硬化型樹脂が好適である。
このような活性エネルギー線硬化型樹脂としては、既存のいかなるものも用いることができ、特に制限されるものではないが、特に(メタ)アクリル化合物類を含む硬化性組成物が好適である。このような(メタ)アクリル化合物としては1〜6官能の(メタ)アクリル化合物モノマー類の他に、例えばポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸との反応でエステル化することにより得られるウレタンアクリレート類、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化すること又は多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得られるポリエステルアクリレート類、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラックエポキシ樹脂やその他脂肪族エポキシ樹脂等のオキシラン環と、(メタ)アクリル酸との反応でエステル化することにより得ることができるエポキシアクリレート類等、オリゴマー、ポリマー変性成分を含むものが特に好適である。
【0051】
これら活性エネルギー線硬化型樹脂の具体的な例としては、主剤として1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素−(2,2,2−トリ−(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2〜6官能の(メタ)アクリル化合物、これらの(メタ)アクリル化合物をエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル、ウレタン変性品、エポキシ樹脂にアクリル酸を付加させて得られるエポキシアクリレート類、アクリル酸エステル共重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合体等を含むものが挙げられる。
【0052】
このような活性エネルギー線で硬化可能な硬化性組成物は、ハードコート剤としてあるいは活性エネルギー線硬化型インク等として各社からさまざまなものが市販されている。例えば、荒川化学工業(株)「ビームセット」、大橋化学工業(株)「ユービック」、オリジン電気(株)「UVコート」、カシュー(株)「カシューUV」、JSR(株)「デソライト」、大日精化工業(株)「セイカビーム」、日本合成化学(株)「紫光」、藤倉化成(株)「フジハード」、三菱レイヨン(株)「ダイヤビーム」、武蔵塗料(株)「ウルトラバイン」、十条ケミカル(株)「レイキュアー」等の商品名が挙げられる。また、本発明の化合物は、フッ素系のハードコード組成物に配合することによって、撥水性、撥油性等を更に増強することもできる。
【0053】
また、硬化性組成物中には、エポキシ基及び/又は水酸基との反応可能な化合物を配合し、例えば加熱と活性エネルギー線の複合硬化型の組成物とすることもできる。エポキシ基及び/又は水酸基との反応可能な化合物としては、多官能アミノ化合物、多官能カルボン酸化合物、不飽和カルボン酸類、酸無水物、多官能アルコール類、多官能シラノール化合物、エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物等が挙げられ、特に多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物が好適である。
【0054】
このようなエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ヒダントイン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、及びそれらのハロゲン化物、水素添加物、及びグリシジル(メタ)アクリレート重合体やグリシジル(メタ)アクリレートとエポキシ基を持たない各種(メタ)アクリレート類と共重合体等が例示できる。
【0055】
また多官能イソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、あるいは水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物の水添化物、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチレントリフェニルトリイソシアネート等のような二価又は三価のジイソシアネート化合物、あるいはポリイソシアネート化合物や、これらを多量化させて得られる多量化ポリイソシアネート化合物等のイソシアネート基含有化合物が挙げられる。更に2官能イソシアネートと1分子に2個以上の水酸基を有する多官能アルコール類を反応させた多官能イソシアネート化合物が例示できる。
これらエポキシ基及び/又は水酸基との反応可能な化合物は1種類でも2種類以上の複数でも配合可能である。
【0056】
以上のような本発明の化合物を含む硬化性組成物には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤、重合促進剤、エポキシ硬化触媒、フィラー、染顔料、レベリング剤、希釈剤、非反応性高分子樹脂、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、分散剤、チクソトロピー性付与剤等が挙げられる。
【0057】
本発明の化合物は、硬化性組成物に配合することで、硬化物表面に防汚、撥水、撥油性、耐指紋性を付与するのに有用である。これによって、指紋、皮脂、汗等の人脂、化粧品等により汚れ難くなり、汚れが付着した場合であっても拭き取り性に優れた硬化物表面を与える。このため、本発明の化合物は、人体が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある物品の表面に施与される塗装膜もしくは保護膜を形成するために使用されるハードコート組成物の添加剤として特に有用である。このようなハードコート処理される物品としては、例えば、光磁気ディスク、CD・LD・DVD・ブルーレイディスク等の光ディスク、ホログラム記録等に代表される光記録媒体;メガネレンズ、プリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルター、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、反射防止膜、光ファイバーや光カプラー等の光学部品・光デバイス;CRT、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションプロジェクションディスプレイ、トナー系ディスプレイ等の各種画面表示機器;特にPC、携帯電話、携帯情報端末、ゲーム機、電子ブックリーダー、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、自動現金引出し預け入れ装置、現金自動支払機、自動販売機、自動車用等のナビゲーション装置、セキュリティーシステム端末等の画像表示装置、及びその操作も行うタッチパネル(タッチセンサー、タッチスクリーン)式画像表示入力装置;携帯電話、携帯情報端末、電子ブックリーダー、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機、リモートコントローラ、コントローラ、キーボード等、車載装置用パネルスイッチなどの入力装置;携帯電話、携帯情報端末、カメラ、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機等の筐体表面;自動車の外装、ピアノ、高級家具、大理石等の塗装及び表面;美術品展示用保護ガラス、ショーウインドー、ショーケース、広告用カバー、フォトスタンド用のカバー、腕時計、自動車用フロントガラス、列車、航空機等の窓ガラス、自動車ヘッドライト、テールランプ等の透明なガラス製又は透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネート等)部材;各種ミラー部材等が挙げられる。これら用途において、本発明の化合物を配合したハードコート組成物は、ただ単に目的物の表面への塗工によるものだけでなく、インモールド成形等で広く用いられている転写型ハードコートにも使用することができる。
【0058】
また、本発明のパーフルオロポリエーテル基等を有する(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、紫外線硬化型レジスト液に添加し、露光を行うことで、硬化後のレジスト表面とレジストが除去された部分の撥液性に大きな差を付けることが可能であり、レジスト樹脂表面への現像液や液晶溶液の残存、汚染を防ぐことができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0060】
[実施例1]
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた2,000mL三口フラスコに、下記式(12)で示される両末端にα−不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル500gと、m−キシレンヘキサフロライド700g、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン361gを投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3−ジビニル−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.442g(Pt単体として1.1×10-6モルを含有)を仕込み、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。
1H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤や過剰のテトラメチルシクロテトラシロキサンを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式(13)で示す無色透明の液体であるパーフルオロポリエーテル含有化合物(化合物I)498gを得た。
CH2=CH−CH2−O−CH2−Rf1−CH2−O−CH2−CH=CH2 (12)
Rf1:−CF2(OCF2 CF2p(OCF2qOCF2− (以下、同じ。)
(p/q=0.9、p+q≒45)
【0061】
【化82】

【0062】
化合物(I)60.0gに対して、アリルグリシジルエーテル10.0g、m−キシレンヘキサフロライド60.0gを混合し、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加熱した。ここに白金/1,3−ジビニル−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.0221g(Pt単体として5.6×10-8モルを含有)を投入し、内温を90〜120℃に維持したまま6時間攪拌を継続した。1H−NMRで原料のSi−Hが消失したのを確認した後、活性炭処理を行い、溶剤や過剰のアリルグリシジルエーテルを減圧溜去し、下記式(14)で示される化合物(II)66.2gを得た。
【0063】
【化83】

【0064】
化合物(II)60.0g、酢酸ブチル60.0g、アクリル酸5.50g、トリフェニルホスフィン0.12g、p−メトキシフェノール0.08gを混合し空気によるバブリングと攪拌を行いながら、110℃まで加熱し、8時間反応させた。反応後、活性炭による吸着処理を行った後に溶剤と未反応のアクリル酸を減圧溜去し、得られたサンプルの1H−NMRから、平均して下記式(15)又は(16)で表される構造を有する化合物(III)62gを得た。
【0065】
【化84】


1H−NMRスペクトルのケミカルシフトを表1に示す(測定装置:Bruker製 AVANCE400、溶媒CDCl3)。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例2]
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた100mL三口フラスコに下記式(17)
【化85】

(式中、但し、Rf2は下記の基であり、繰返し単位の数に分布があり、その平均値が5.2である。以下、同じ。)
【化86】

で示される含フッ素環状シロキサン30.0gと、m−キシレンヘキサフロライド30.0gを仕込み、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここにアリルグリシジルエーテル7.7gと白金/1,3−ジビニル−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.010g(白金換算で2.49×10-8mol)の混合溶液を30分かけて滴下し、90℃で8時間攪拌した。1H−NMRで原料のSi−Hが消失したのを確認した後、活性炭処理を行い、溶剤や過剰のアリルグリシジルエーテルを減圧溜去し、下記式(18)で示される化合物(IV)34.2gを得た。
【化87】

【0068】
得られた化合物(IV)33.0gに対してアクリル酸5.1g、トリフェニルホスフィン0.11g、p−メトキシフェノール0.06gを混合し空気によるバブリングと攪拌を行いながら、110℃まで加熱し、10時間反応させた。反応後、活性炭による吸着処理を行った後に溶剤と未反応のアクリル酸を減圧溜去し、得られたサンプルの1H−NMRから、下記式(19)で表される構造を有する化合物(V)35.2gを得た。
【化88】


1H−NMRスペクトルのケミカルシフトを表2に示す(測定装置:Bruker製 AVANCE400、溶媒CDCl3)。
【0069】
【表2】

【0070】
[比較例1]
乾燥空気存在下で、還流装置とメカニカルスターラーを備えた200mL三口フラスコ中に2−イソシアネートエチルメタクリレート15.5gとジオクチル錫ラウレート0.005gを仕込み、パーフルオロポリエーテルジオール(ソルベイ・ソレクシス社製、商品名、FOMBLIN D2000、平均分子量2,000)100gを50℃で1時間かけて滴下した。滴下終了後50℃で5時間攪拌した。反応物のIRスペクトルからは2,300cm-1に現れる−N=C=O基由来のピークが消失しており、両末端にメタクリル基を有するパーフルオロポリエーテルジオールが得られた。
【0071】
実施例1、2及び比較例1の化合物各0.5gを、下記の各種溶媒10gと混合し、その溶解性を目視にて調べた結果を表3に示す。表3において、○は透明な溶液になったことを、×はそれ以外(沈殿、分離及び濁りのいずれかが発生した状態)であったことを示す。
【0072】
【表3】

PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
HFCF−225:ジクロロペンタフルオロプロパン
【0073】
表3に示すように、実施例1、2の化合物は、従来の含フッ素(メタ)アクリル化合物に比べて、多くの非フッ素化溶媒に溶解する。
【0074】
硬化性組成物における評価1
実施例1、2で調製した化合物をそれぞれ以下の組成で配合した溶液を調製した。なお、ブランクとして、何も添加剤を含まない溶液も調製した。
【0075】
【表4】

【0076】
各溶液をガラス板上にスピンコートし、コンベア型紫外線照射装置において1.6J/cm2の紫外線を照射して硬化膜を形成し、その外観を目視により評価した。また、接触角計(協和界面科学(株)製)を用いて、水接触角、オレイン酸接触角を測定した。なお、比較例の化合物は、溶解性が悪く溶液にならなかったため、ハードコートを作ることができなかった。
表5に、それぞれのハードコート処理表面の特性を示す。マジックはじき性は、ゼブラ(株)製油性マーカー、ハイマッキーで、表面に線を引いた場合の、インキのはじかれ具合を目視で評価した。指紋拭取り性は、表面に人差し指を押し当てて指紋を付着させた後にティッシュペーパーで拭きその拭きとり性を目視で評価した。結果を以下に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
ハードコート組成物における評価2
実施例1、2の化合物を以下の組成で配合した溶液を調製した。なお、ブランクとして、添加剤を含まない溶液も調製した。
【0079】
【表6】

【0080】
各溶液をガラス板上にスピンコートし、コンベア型紫外線照射装置において窒素雰囲気中で1.6J/cm2の紫外線を照射して、硬化膜を形成し、その外観を目視により評価した。また、接触角計(協和界面科学(株)製)を用いて、水接触角、オレイン酸接触角を測定した。なお、比較例の化合物は、溶解性が悪く溶液にならなかった。
表7に、それぞれのハードコート処理表面を評価1と同様の方法で評価した結果を示す。
【0081】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)
【化1】

(但し、Rfはフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q1は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q2は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい。R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R1とR2が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rfが一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rfが二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られた含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物。
【請求項2】
一般式(1)において、Rfが、下記式
−Ci2iO−
(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を1〜500個含むことを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項3】
一般式(1)において、Q1が、下記式(2)
【化2】

(但し、a、bは式(1)におけるa、bと同一であり、破線は結合手を示し、aの繰り返し単位を有するユニットはRfと結合し、bの繰り返し単位を有するユニットは下記式
【化3】

(但し、Q2、R1〜R3は式(1)で定義した通りである。)
で示される基と結合する。また、2種類の繰り返し単位の並びはランダムである。Rfは式(1)で定義した通りである。)
で表される請求項1又は2記載の化合物。
【請求項4】
一般式(1)において、Rfが、下記一般式(3)
−[Q3−Rf’−Q3−T]v−Qf−Rf’−Q3− (3)
(但し、Rf’は二価の分子量300〜30,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Q3は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。QfはQ3又はフッ素原子である。Tは、下記式(4)
【化4】

(但し、R1〜R3、Q2、a、bは式(1)で定義した通りであり、Q4は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基である。)
で表される連結基であり、vは0〜5の整数であり、なおかつQfがフッ素原子のときv=0である。)
で表される請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする紫外線又は電子線硬化型ハードコート組成物。

【公開番号】特開2011−241190(P2011−241190A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115979(P2010−115979)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】