説明

含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物、これを含む組成物、及び製造方法

【課題】合成後に抽出や単離の工程を必要とせず、塩素を含む廃棄物を発生させることなく簡便に合成することが可能であり、フッ素源として炭素数が少ないフルオロアルキル鎖を持つ化合物を使用しても、高いフッ素含有率を達成して低屈折率化が可能な含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物を提供すること。
【解決手段】含フッ素エポキシ化合物に(メタ)アクリル酸を反応させて式(2)の(メタ)アクリル酸エステル化合物を得、当該化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得、当該化合物のカルボキシル基に対して、含フッ素エポキシ化合物を反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物、これを含む組成物、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、フッ素を含む化合物は屈折率が低く、撥水・撥油性、耐薬品性などの性質を示す。その中でも、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物は、光硬化が可能であり、それ自身の重合反応、または、架橋剤との架橋反応により、低屈折率の含フッ素重合体を与えることができる。この重合体は防汚性にも優れており、光学材料、反射防止膜、防汚塗料等の分野で利用されている。
【0003】
含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法としては、例えば、特許文献1〜3で開示されている。
【0004】
特許文献1では、ルイス酸触媒の存在下で、含フッ素エポキシ化合物と含フッ素アルコールを反応させて、2級水酸基をもつ中間体を得て、それにアクリル酸クロライドを反応させることで、含フッ素アクリル酸エステルを得る方法が開示されている。
【0005】
特許文献2では、2官能の含フッ素エポキシ化合物とアクリル酸を反応させてエポキシアクリレートを合成し、さらにアクリル酸クロライドを反応させることで、含フッ素アクリル酸エステルを得る方法が開示されている。
【0006】
特許文献3では、含フッ素ジオールとエポキシ基を持つアクリレートとを開環反応により反応させ、得られた生成物をアクリル酸クロライドと反応させることで、含フッ素アクリル酸エステルを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−195662号公報
【特許文献2】特開平11−60637号公報
【特許文献3】特開2001−64326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の方法ではルイス酸触媒やアクリル酸クロライドを使用し、特許文献2および3でもアクリル酸クロライドを使用している。これらの化合物を使用すると、反応後にこれらの化合物またはこれらに由来する不純物を取り除くための抽出や単離の工程が必要になるため、操作が煩雑になるという欠点や、塩素を含む廃棄物が生じるという欠点がある。またそれらの工程は、目的化合物の収率の低下を招く原因にもなる。
【0009】
さらに特許文献2および3記載の方法では、フッ素源として単一の化合物を使用しているので、目的化合物中のフッ素原子の含有率を上げて低屈折率化を図るには、フッ素源中のフルオロアルキル鎖の炭素数を多くしてフッ素原子の個数を増やす必要がある。しかし、フルオロアルキル鎖の炭素数が8以上の化合物は、PFOAやPFOS規制に該当する可能性があるため、使用するのは好ましくない。フルオロアルキル鎖の炭素数が少ない化合物を用いた場合、目的化合物中のフッ素原子の含有率は低くなるため、屈折率を十分に下げることができず、撥水・撥油性による防汚性の機能なども十分に発揮できなくなる。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、合成後に抽出や単離の工程を必要とせず、塩素を含む廃棄物を発生させることなく簡便に合成することが可能であり、フッ素源として炭素数が少ないフルオロアルキル鎖を持つ化合物を使用しても、高いフッ素含有率を達成して低屈折率化が可能な含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物、その合成中間体、それらを含む組成物、及び、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得て、さらに、当該化合物のカルボキシル基に対して、下記一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)を反応させて得ることができる化学構造式を有する、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物である。
【0012】
【化1】



【0013】
(式(2)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(式(4)中、Rf′はフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。mは1または2である。)
また本発明は、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させて得ることができる化学構造式を有する、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物でもある。この化合物は、前述した本発明の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物の合成中間体となり得る。
【0016】
以上の本発明に係る各化合物は、化学構造式による特定が困難であるため、製法により特定しているが、この製法で製造された化合物のみに限定して解釈されるものではない。他の製法により製造された化合物についても、同等の構造を有するものである限り、本発明に係る化合物に含まれる。
【0017】
さらに本発明は、前記含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物、および、前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、のうちいずれか1つの化合物を含む、光硬化性組成物でもある。この組成物は、前記含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物および前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の、他の(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むことができる。
【0018】
さらに本発明は、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させて得ることができる化学構造式を有するカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物のカルボキシル基に対して、前記一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)を反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る工程を含む、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法でもあり、
また、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物中のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る工程を含む、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法でもあり、
また、下記一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)に(メタ)アクリル酸(b)を反応させて前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る第1工程と、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る第2工程と、前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物のカルボキシル基に対して、前記一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)を反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る第3工程と、を含む、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法でもある。
【0019】
【化3】

【0020】
(式(1)中、Rfおよびnは式(2)中のものと同じである。)
【発明の効果】
【0021】
本発明の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物は、フッ素を含むため屈折率が低く、撥水・撥油性、耐薬品性等の性質を示すことができる。加えて、(メタ)アクリロイル基を有するので、光硬化が可能であり、低屈折率の含フッ素重合体を与えることができる。当該化合物は、含フッ素化合物、(メタ)アクリル酸、酸無水物と複数の原料を用いて合成されるため、分子設計の幅が広く、原料の選択により屈折率および粘度の調整を行なうことができる。また、フッ素含有モノマーとしては分子量が大きく高粘度であり、基板上に成膜をすることも可能であるため、光硬化性材料としての使用が可能である。
【0022】
当該化合物の製造の観点からは、抽出、単離などの後処理工程を必要としないため、簡易な操作で合成することが可能である。また、溶媒を使用することなく合成することが可能であり、また、合成後に廃棄物を発生させないため、アトムエコノミーな合成反応とすることができる。さらに、フッ素を2段階に分けて導入するため、フッ素源として、法規制に該当するような炭素数の多いフルオロアルキル鎖を含む化合物を使用する必要がなく、炭素数の少ないフルオロアルキル鎖を含む化合物を用いても、高いフッ素含有率を達成できる。
【0023】
さらに、本発明の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物の合成の途中で生じる合成中間体であるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物は、これ自体、フッ素を含む(メタ)アクリル酸エステル化合物であるので、低屈折率、光硬化性を示し、光硬化性の材料として使用することが可能である。また、カルボキシル基を有するものであるため、アルカリ可溶性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。まず、本発明の最終化合物を合成するための3段階の工程を順に説明する。
【0025】
(第一工程)
まず、第一工程では、下記一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)に(メタ)アクリル酸(b)を反応させて下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る。この工程では、含フッ素エポキシ化合物(a)のエポキシ基と、(メタ)アクリル酸(b)のカルボキシル基が反応することで、エステル結合が生じて両化合物が結合する。エステル結合の形成に伴いヒドロキシル基が生じ、(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリロイル基はそのまま生成物に含まれるので、生成物である下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物は、フルオロアルキル基に加えて、ヒドロキシル基と(メタ)アクリロイル基を含む。
【0026】
【化4】

【0027】
式(1)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。
【0028】
【化5】

【0029】
式(2)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基を示す。
【0030】
まず、一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)について説明する。
【0031】
式(1)中、nは1または2であり、すなわち前記化合物はエポキシ基を1個または2個有する化合物である。入手が容易であることから、nは1が好ましい。また、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。Rfが有するフッ素原子の個数は1個以上であれば特に限定されず、所望の屈折率に応じて適宜決定すればよいが、2個以上が好ましい。上限も特に限定されないが、例えば20個以下であり、好ましくは18個以下である。Rfの炭素数は1〜10が好ましく、1〜7がより好ましい。Rfは、入手が容易であることから、下記一般式(9)で表わされるフルオロアルキル基であることが好ましい。一般式(9)で表わされるフルオロアルキル基は炭素数が7以下であることから、PFOAやPFOS規制に該当することなく用いることができる。
H(CFCH− (9)
(式(9)中、pは2、4、または6を示す。)
第1工程で使用する(メタ)アクリル酸(b)とは、アクリル酸、メタクリル酸のことであり、単独又は2種を組み合わせて使用することができる。光硬化を行う際の感度の良さから、アクリル酸が好ましい。
【0032】
第一工程において一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)と(メタ)アクリル酸(b)との反応により一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する際は、製造中の安定性と反応生成物の貯蔵安定性を確保するため、重合禁止剤の存在下で反応を実施することが好ましい。このような重合禁止剤としては特に限定されないが、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、トルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、tert−ブチルカテコール、フェノチアジン等が挙げられる。
【0033】
第一工程で反応を円滑に進めるため、公知の触媒の存在下で反応を実施することが好ましい。このような触媒としては特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン等の3級アミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩、トリフェニルホスフィン等の有機燐化合物、イミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体が挙げられる。
【0034】
第一工程では反応溶媒を使用してもよいが、使用しなくとも反応を円滑に進めることが可能である。反応溶媒を使用しない場合には、抽出や蒸留等の後処理が不要となるので、製造を簡易にすることができる。反応溶媒を使用する場合は、反応系を取扱容易な粘度に調整することができる。このような反応溶媒としては特に限定されないが、原料化合物や生成化合物と反応せず、これらを溶解または分散可能な溶剤であればよい。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、トルエン、キシレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、エトキシ酢酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチルなどのエステル類等が挙げられる。
【0035】
第一工程の反応時の温度は適宜設定することができ、例えば、約60〜120℃で反応を行ってもよい。また、反応時間も適宜設定することができ、例えば、約10〜50時間反応を行ってもよい。
【0036】
(第二工程)
第二工程では、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る。この反応では、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基と、多塩基性カルボン酸無水物(c)の酸無水物基が反応することでエステル結合が生じて両化合物が結合する。酸無水物基からカルボキシル基が生じるので、生成物は、フルオロアルキル基に加えて、(メタ)アクリロイル基とカルボキシル基を有する。この生成物は従来報告されていない新規の化合物であり、カルボキシル基を有するためアルカリ可溶性である。
【0037】
第二工程で使用される多塩基性カルボン酸無水物(c)は、2個以上のカルボキシル基を有する多塩基性カルボン酸から形成された酸無水物である。以下に、多塩基性カルボン酸無水物(c)が、左から、二塩基性カルボン酸無水物、三塩基性カルボン酸無水物または四塩基性カルボン酸無水物である場合の化学式を示す。
【0038】
【化6】

【0039】
各式中、Rは、多塩基性カルボン酸無水物から酸無水物基およびカルボキシル基を除いた残基を表す。各式に示すように、二塩基性カルボン酸無水物は1個の酸無水物基を有し、三塩基性カルボン酸無水物は1個の酸無水物基と1個のカルボキシル基を有し、四塩基性カルボン酸無水物は2個の酸無水物基を有する。しかし、多塩基性カルボン酸無水物(c)はこれらに限定されず、5個以上のカルボキシル基を有する多塩基性カルボン酸から形成された酸無水物であってもよい。
【0040】
多塩基性カルボン酸無水物(c)の具体例としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、オクテニル無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、グルタル酸無水物、クロレンド酸無水物、無水ナジック酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等の二塩基酸無水物、トリメリット酸無水物等の三塩基酸無水物、ピロメリット酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコール−ビス(無水トリメリット酸)エステル、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等の四塩基酸無水物等が挙げられる。
【0041】
多塩基性カルボン酸無水物(c)として無水マレイン酸等の、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を使用すると、第二工程または第三工程の生成物も、当該重合性炭素−炭素二重結合を有することになる。この重合性炭素−炭素二重結合の存在により、生成物の光硬化性の感度を向上させる効果を得ることができる。
【0042】
多塩基性カルボン酸無水物(c)としてトリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物等の、芳香環を有する化合物を使用すると、第二工程または第三工程の生成物にも、芳香環が含まれることになる。この場合、得られる生成物を硬化させて得られた硬化物の耐熱性を向上させることができるという利点がある。
【0043】
第二工程は、第一工程と同様、重合禁止剤の存在下で行なうことが好ましい。しかしながら、第一工程で使用した重合禁止剤をそのまま用いることができるので、第二工程で重合禁止剤を改めて添加する必要はない。また、第一工程で使用した触媒は、この工程に含まれていてもよい。従って、第一工程終了後、第二工程の開始前に、第一工程で使用した触媒を除去する必要はない。
【0044】
さらに、第一工程と同様、反応溶媒は使用してもよいし、使用しなくともよい。使用する場合には、第一工程に関して例示した反応溶媒を使用することができる。
【0045】
第二工程の反応時の温度は適宜設定することができ、例えば、約60〜120℃で反応を行ってもよい。また、反応時間も適宜設定することができ、例えば、約10〜30時間反応を行ってもよい。
【0046】
第二工程で得られる生成物は、前記式(1)及び式(2)におけるnが1の場合(すなわち、一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)がエポキシ基を1個のみ有する化合物である場合)であって、かつ、多塩基性カルボン酸無水物(c)が有するカルボキシル基の個数が2〜4個の場合、下記一般式(7)または(8)で表される。
【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
式(7)および(8)中、RfおよびRは式(2)中のものと同じである。Rは、前記多塩基性カルボン酸無水物から酸無水物基およびカルボキシル基を除いた残基を表す。具体的には、前記多塩基性カルボン酸無水物が酸無水物基を有するがカルボキシル基を有しない場合、Rは、前記多塩基性カルボン酸無水物から酸無水物基を除いた残基を表し、前記多塩基性カルボン酸無水物が酸無水物基とカルボキシル基の双方を有する場合、Rは、前記多塩基性カルボン酸無水物から酸無水物基およびカルボキシル基を除いた残基を表す。
【0050】
各式中、lは1または2を示す。ただし、式(7)でl=1は前記多塩基性カルボン酸無水物が二塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(7)でl=2は前記多塩基性カルボン酸無水物が三塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(8)は前記多塩基性カルボン酸無水物が四塩基性カルボン酸無水物である場合を示す。式(7)は、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物と多塩基性カルボン酸無水物(c)が1:1で反応した化合物を表し、式(8)は、使用する多塩基性カルボン酸無水物(c)が2個の酸無水物基を有するために、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物と多塩基性カルボン酸無水物(c)が2:1で反応した化合物を表す。
【0051】
このように、第二工程では、多塩基性カルボン酸無水物(c)の構造によって種々の生成物が得られるが、いずれの生成物もフルオロアルキル基、(メタ)アクリロイル基、およびカルボキシル基を有する化合物である。式(8)で表される化合物は1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個有するため、光硬化性材料の架橋剤として用いることができる。
【0052】
(第三工程)
第三工程では、第二工程で得ることができるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物のカルボキシル基に対して、下記一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)を反応させて、本発明の最終化合物である含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る。この反応では、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物のカルボキシル基と、含フッ素エポキシ化合物(d)のエポキシ基が反応することで、エステル基が生じて両化合物が結合する。この反応に伴い、エポキシ基からヒドロキシル基が生じるので、第三工程での生成物は、フルオロアルキル基に加えて、(メタ)アクリロイル基とヒドロキシル基を有する。この生成物は従来報告されていない新規の化合物である。1分子中にフルオロアルキル基を2つ以上有するので、個々のフルオロアルキル基の炭素数が少ないものであっても、化合物中のフッ素含量は高く、そのため化合物の屈折率を低くすることができる。
【0053】
【化9】

【0054】
式(4)中、Rf′はフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。mは1または2である。式(4)中、mは1または2であり、すなわち前記化合物はエポキシ基を1個または2個有する化合物である。入手が容易であることから、mは1が好ましい。また、Rf′はフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。Rfが有するフッ素原子の個数は1個以上であれば特に限定されず、所望の屈折率に応じて適宜決定すればよいが、2個以上が好ましい。上限も特に限定されないが、例えば20個以下であり、好ましくは18個以下である。Rf′の炭素数は1〜10が好ましく、1〜7がより好ましい。Rf′は、入手が容易であることから、下記一般式(9)で表わされるフルオロアルキル基であることが好ましい。一般式(9)で表わされるフルオロアルキル基は炭素数が7以下であることから、PFOAやPFOS規制に該当することなく用いることができる。
H(CFCH− (9)
(式(9)中、pは2、4、または6を示す。)
一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)としては、一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)と同じ化合物を使用してもよいし、異なる化合物を使用することもできる。
【0055】
この工程は、第一工程および第二工程と同様、重合禁止剤の存在下で行なうことが好ましい。しかしながら、第一工程または第二工程で使用した重合禁止剤をそのまま用いることができるので、第三工程で重合禁止剤を改めて添加する必要はない。また、第一工程で使用した触媒は、この工程に含まれていてもよい。従って、第一工程終了後、第三工程の開始前に、第一工程で使用した触媒を除去する必要はない。
【0056】
さらに、第一工程および第二工程と同様、反応溶媒は使用してもよいし、使用しなくともよい。使用する場合には、第一工程に関して例示した反応溶媒を使用することができる。
【0057】
第三工程の反応時の温度は適宜設定することができ、例えば、約60〜120℃で反応を行ってもよい。また、反応時間も適宜設定することができ、例えば、約10〜30時間反応を行ってもよい。
【0058】
第三工程で得られる生成物は、前記式(1)及び式(2)におけるnが1であり、かつ前記式(4)におけるmが1の場合(すなわち、一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)および一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)がそれぞれ、エポキシ基を1個のみ有する化合物である場合)、下記一般式(5)または(6)で表される。
【0059】
【化10】

【0060】
【化11】

【0061】
式(5)および(6)中、Rf、Rf′およびRは式(2)および式(4)中のものと同じである。Rは、前記多塩基性カルボン酸無水物から酸無水物基およびカルボキシル基を除いた残基を表す。lは1または2を示す。ただし、式(5)でl=1は前記多塩基性カルボン酸無水物が二塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(5)でl=2は前記多塩基性カルボン酸無水物が三塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(6)は前記多塩基性カルボン酸無水物が四塩基性カルボン酸無水物である場合を示す。いずれの生成物もフルオロアルキル基、(メタ)アクリロイル基、およびヒドロキシル基を有する化合物である。式(6)で表される化合物は1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個有するため、光硬化性材料の架橋剤として用いることができる。
【0062】
以上の各工程では、いずれもルイス酸や酸クロライド等の、取扱に困難を伴い、塩化物等の副生物を生じる原料を使用していない。いずれの工程でも副生物が生じないので、後処理により副生物を除去する必要がない。また、いずれの反応も反応溶媒を使用することなく反応が進行するので、抽出や蒸留等の操作を行なう必要もない。また、生成物に未反応の原料が含まれていたとしても、生成物の光硬化性を阻害することはないので、合成後の精製過程を省略することもできる。すなわち、反応溶媒を使用せずに合成反応を行なった場合には、後処理を特段行なうことなく、反応物をそのまま、光硬化性の材料等として使用することができる。
【0063】
(光硬化性組成物)
第二工程により得ることができるカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、または、第三工程により得ることができる含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物は、感光性基である(メタ)アクリロイル基を有する化合物であるので、光硬化性組成物の主成分(光硬化性成分)または補助成分として使用することができる。本発明の光硬化性組成物には、必要に応じて、架橋剤、界面活性剤、接着助剤等を配合することができる。
【0064】
前記架橋剤は、例えば、本発明の(メタ)アクリル酸エステル化合物が光重合する際に架橋剤として働き、光硬化性、耐熱性、耐クラック性等を向上させる効果と、適切な作業粘度を確保する作用がある。このような架橋剤としては、例えば、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等の多価アルコール、又は、これらのエチレンオキサイド、もしくはプロピレンオキサイド付加物の多価(メタ)アクリレート類等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの架橋剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0065】
前記架橋剤の配合量は、露光時の硬化性の観点から、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物または含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物100重量部に対して、0.5〜50重量部が好ましい。
【0066】
前記界面活性剤は、例えば、本発明の光硬化性組成物を基板上に塗布したときに、ストリエーションを防止して、塗布性を向上させるために配合される。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシアリールエーテル類、ポリオキシエチレンジアルキルエステル類などのノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を挙げることができる。これらの界面活性剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0067】
前記界面活性剤の添加量としては、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物または含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましい。
【0068】
前記接着助剤は、液状の組成物と基板との密着性を向上させるために含有される。このような接着助剤としては、官能性シランカップリング剤等が挙げられる。
【0069】
前記接着助剤の配合量は、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物または含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましい。
【0070】
本発明の光硬化性組成物には、以上の成分の他に、必要に応じて、通常の光硬化性組成物に添加されている種々の、帯電防止剤、保存安定剤、消泡剤、顔料、染料等を添加することができる。帯電防止剤、保存安定剤、消泡剤、顔料、染料等に関しては用途に応じて適量添加するとよい。
【0071】
さらに、本発明の光硬化性組成物には、必要に応じて、他の(メタ)アクリル酸エステル化合物を添加することができる。
【0072】
他の(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリルアクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの他の(メタ)アクリル酸エステル化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0073】
他の(メタ)アクリル酸エステル化合物の添加量は、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物または含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物100重量部に対して、0.5〜50重量部が好ましい。
【0074】
該光硬化性組成物は、例えば、各成分を混合機で混合することにより製造することができる。このとき、各成分の投入方法は特に限定されず、例えば、全成分を同時に投入すれば良い。また、必要に応じて50℃まで加熱して混合してもよい。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
1Lのセパラブルフラスコに、含フッ素モノエポキシ化合物E−5444(商品名、ダイキン工業製)700g(2.43モル)、テトラメチルアンモニウムクロライド1.33g(0.012モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.84g(0.0068モル)、及びアクリル酸17g(0.23モル)を仕込み、5mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温した。温度が70〜75℃に達したら、アクリル酸156g(2.16モル)を1時間かけて滴下し、40時間反応させた。この際、残存エポキシ化合物量をJIS K−7236に則って測定し、反応が98%以上進行していることを確認して反応を終了した。反応終了後、下記式で示されるアクリル酸エステル化合物が得られた。この化合物を化合物(i)とする。
【0077】
【化12】

【0078】
引き続き、化合物(i)792g(2.20モル)に無水マレイン酸216g(2.20モル)を加え、5mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させた。反応終了後、下記式で表されるアルカリ可溶性のアクリル酸エステル化合物を主成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(ii)とする。
【0079】
【化13】



【0080】
(実施例2)
実施例1と同様に反応を行うことで得られた化合物(ii)を含む生成物900gに、含フッ素モノエポキシ化合物E−5444(商品名、ダイキン工業製)490g(1.70モル)を加え、5mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させた。反応終了後、下記式で表される含フッ素アクリル酸エステル化合物を成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(iii)とする。
化合物(iii):
【0081】
【化14】



【0082】
(実施例3)
実施例1と同様に反応を行うことで得られた化合物(i)120g(0.33モル)に、トリメリット酸無水物32g(0.17モル)を加え、2mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させた。反応終了後、下記式で表されるアルカリ可溶性のアクリル酸エステル化合物を成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(iv)とする。
化合物(iv):
【0083】
【化15】

【0084】
引き続き、化合物(iv)を含む生成物100gに含フッ素モノエポキシ化合物E−5444(商品名、ダイキン工業製)60g(0.21モル)を加え、2mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させた。反応終了後、下記式で表される含フッ素アクリル酸エステル化合物を成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(v)とする。
化合物(v):
【0085】
【化16】



【0086】
(実施例4)
実施例1と同様に反応を行うことで得られた化合物(i)100g(0.28モル)に、ピロメリット酸無水物30g(0.14モル)を加え、2mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させた。反応終了後、下記式で表されるアルカリ可溶性のアクリル酸エステル化合物を成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(vi)とする。
化合物(vi):
【0087】
【化17】

【0088】
引き続き、化合物(vi)を含む生成物130gに含フッ素モノエポキシ化合物E−5444(商品名、ダイキン工業製)80g(0.28モル)を加え、2mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させた。反応終了後、下記式で表される含フッ素アクリル酸エステル化合物を成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(vii)とする。
化合物(vii):
【0089】
【化18】



【0090】
(比較例1)
300mLのセパラブルフラスコに、デナコールEX−121(商品名、ナガセケムテックス製)170g(0.91モル)、テトラメチルアンモニウムクロライド0.64g(0.0059モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.22g(0.0018モル)、及びアクリル酸6.4g(0.089モル)を仕込み、2mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温した。温度が70〜75℃に達したら、アクリル酸58g(0.80モル)を1時間かけて滴下し、40時間反応させた。この際、残存エポキシ化合物量をJIS K−7236に則って測定し、反応が98%以上進行していることを確認して反応を終了した。反応終了後、下記式で示されるアクリル酸エステル化合物が得られた。この化合物を化合物(viii)と称する。
化合物(viii):
【0091】
【化19】

【0092】
引き続き、化合物(viii)100g(0.39モル)に無水マレイン酸38g(0.39モル)を加え、5mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させた。反応終了後、下記式で表されるアルカリ可溶性のアクリル酸エステル化合物を主成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(ix)とする。
化合物(ix):
【0093】
【化20】

【0094】
さらに化合物(ix)を含む生成物138gにデナコールEX−121(商品名、ナガセケムテックス製)72g(0.39モル)を加え、5mL/分の流速で空気を吹き込みながら昇温し、100〜105℃の温度で15時間反応させ、下記式で表されるアクリル酸エステル化合物を成分として含む生成物が得られた。この化合物を化合物(x)とする。
化合物(x):
【0095】
【化21】



【0096】
(評価)
実施例1〜4及び比較例1で得られた生成物について、以下の方法により、屈折率及び粘度の測定を行った。
【0097】
(屈折率の測定)
アッベ屈折計(アタゴ(株)製)により25℃での各生成物の屈折率を測定した。
【0098】
(粘度の測定)
B型粘度計により25℃での各生成物の粘度を測定した。
【0099】
(試験結果)
実施例1〜4及び比較例1についての試験結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例1で得られた化合物(ii)は、分子内にアクリロイル基とカルボキシル基を有するため、低屈折率のアルカリ可溶性の光硬化性材料として使用することができる。実施例2で得られた化合物(iii)は、化合物(ii)に対してさらにもう1分子の含フッ素モノエポキシ化合物が導入されているため、より低い屈折率を示し、より高粘度の材料となっている。このようにフッ素の導入工程を2回に分けて行うことで、フッ素源として、フルオロアルキル基がそれほど長くない含フッ素モノエポキシ化合物を使用しても、1.400程度の低屈折率を達成することが可能となる。
【0102】
実施例3では芳香環を有するトリカルボン酸無水物を使用している。一般的に、芳香環を含む化合物は屈折率が高くなる傾向があるが、実施例3においては芳香環を含有しているのにも関わらず、低い屈折率を示している。
【0103】
同様に、実施例4も芳香環を有する酸無水物を使用しているが、実施例3と同等の屈折率を示している。またテトラカルボン酸無水物を用いることで、含フッ素モノエポキシ化合物の導入量を増加させ、生成物の分子量を増やし、粘度を向上させている。このように酸無水物の官能基数を変えることで、低屈折率を維持しながら粘度を調整することも可能であることが分かる。
【0104】
比較例1はフッ素を含まない脂肪族エポキシ化合物を使用した例である。フッ素を含む脂肪族エポキシ化合物を使用している実施例2と比較すると、屈折率が高いことが分かる。このことからフッ素の導入により、屈折率を下げられることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物及びこれを含む組成物は、光硬化が可能であり、低屈折性、撥水・撥油性、および耐薬品性を有するものであるため、光学材料、反射防止膜、塗料等の原料成分として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得て、さらに、当該化合物のカルボキシル基に対して、下記一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)を反応させて得ることができる化学構造式を有する、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【化1】



(式(2)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【化2】


(式(4)中、Rf′はフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。mは1または2である。)
【請求項2】
下記一般式(5)または(6)で表される、請求項1記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【化3】


【化4】



(式(5)および(6)中、Rf、Rf′およびRは式(2)および式(4)中のものと同じである。Rは、前記多塩基性カルボン酸無水物から酸無水物基およびカルボキシル基を除いた残基を表す。lは1または2を示す。ただし、式(5)でl=1は前記多塩基性カルボン酸無水物が二塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(5)でl=2は前記多塩基性カルボン酸無水物が三塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(6)は前記多塩基性カルボン酸無水物が四塩基性カルボン酸無水物である場合を示す。)
【請求項3】
RfおよびRf′が下記一般式(9)で表わされるフルオロアルキル基である、請求項1または2記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物。
H(CFCH− (9)
(式(9)中、pは2、4、または6を示す。)
【請求項4】
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させて得ることができる化学構造式を有する、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【化5】


(式(2)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【請求項5】
下記一般式(7)または(8)で表される、請求項4記載のカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【化6】



【化7】



(式(7)および(8)中、RfおよびRは式(2)中のものと同じである。Rは、前記多塩基性カルボン酸無水物から酸無水物基およびカルボキシル基を除いた残基を表す。lは1または2を示す。ただし、式(7)でl=1は前記多塩基性カルボン酸無水物が二塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(7)でl=2は前記多塩基性カルボン酸無水物が三塩基性カルボン酸無水物である場合を示し、式(8)は前記多塩基性カルボン酸無水物が四塩基性カルボン酸無水物である場合を示す。)
【請求項6】
Rfが下記一般式(9)で表わされるフルオロアルキル基である、請求項4または5記載のカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物。
H(CFCH− (9)
(式(9)中、pは2、4、または6を示す。)
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物、および、請求項4〜6のいずれか1項に記載のカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、のうちいずれか1つの化合物を含む、光硬化性組成物。
【請求項8】
さらに、他の(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む、請求項7記載の光硬化性組成物。
【請求項9】
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させて得ることができる化学構造式を有するカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物のカルボキシル基に対して、下記一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)を反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る工程を含む、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【化8】


(式(2)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【化9】


(式(4)中、Rf′はフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。mは1または2である。)
【請求項10】
下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物中のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る工程を含む、カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【化10】


(式(2)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【請求項11】
下記一般式(1)で表される含フッ素エポキシ化合物(a)に(メタ)アクリル酸(b)を反応させて下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る第1工程と、
前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物のヒドロキシル基に、多塩基性カルボン酸無水物(c)を反応させてカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る第2工程と、
前記カルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物のカルボキシル基に対して、下記一般式(4)で表される含フッ素エポキシ化合物(d)を反応させて含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る第3工程と、を含む、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【化11】


(式(1)中、Rfおよびnは式(2)中のものと同じである。)
【化12】


(式(2)中、Rfはフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示し、nは1または2である。Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【化13】


(式(4)中、Rf′はフッ素原子を1個以上有する炭素数1〜16の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基を示す。mは1または2である。)

【公開番号】特開2013−10702(P2013−10702A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143193(P2011−143193)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】