含フッ素(メタ)アクリレート化合物
【課題】 透明性に優れる硬化物や重合体を与える含フッ素(メタ)アクリレート化合物、その製法及びそれを含有する光硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】 下記の一般式(I);
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物、その製法及び当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物により上記課題が解決される。
【解決手段】 下記の一般式(I);
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物、その製法及び当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物により上記課題が解決される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物、その製造方法、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物および当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体に関する。
より詳細には、本発明は新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物、その製造方法、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物および当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素を有する単量体を重合して得られる含フッ素重合体は、透明で、防汚性および撥水性に優れることから、タッチパネルやディスプレイなどの表面保護材として用いられている。
その中でも、含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、一般に有機溶媒を用いなくても低粘度の液状の重合性組成物を調製することができて取り扱い性に優れており、しかも光重合開始剤などの重合開始剤により容易に重合させることができるという点で有用である。
【0003】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物としては、1,1−ジヒドロパーフロロアルキルアクリレート(特許文献1)、炭素数4〜6のシクロアルキル基の一部の水素原子がフッ素で置換されたフロロシクロアルキルカルビノール(メタ)アクリレート(特許文献2)、パーフロロシクロヘキシルカルビノール(メタ)アクリレート(特許文献3)などが知られている。
しかし、これらの含フッ素(メタ)アクリレート化合物を重合して得られる重合体およびこれらの含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含む重合性組成物から形成した硬化膜は、しばしば曇りを生じ透明性に劣っていたり、また透明であっても光透過度が十分でなく、光学物性に劣ることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2,642,416号明細書
【特許文献2】米国特許第3,249,596号明細書
【特許文献3】米国特許第3,699,156号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、接着性などの特性に優れるだけでなく、屈折率が低くて光透過率が高く、透明性にも優れる硬化膜、重合体、成形物などを与える含フッ素(メタ)アクリレート化合物、およびその製造方法を提供することである。
本発明の目的は、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、接着性などの特性に優れ、しかも透明性に優れる硬化膜、成形物、立体造形物などを製造することのできる、含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物を提供することである。
また、本発明の目的は、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、接着性などの特性に優れると共に透明性に優れる各種成形品や塗膜などを形成することのできる、含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成すべく本発明者らは研究を重ねてきた。そして、アクリル酸またはメタクリル酸に、パーフロロシクロヘキシル基とエーテル基を分子中に有する特定のフロロアルカノールを反応させて、従来にない新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物を合成した。そこで、当該新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物を用いて光硬化性樹脂組成物を調製し、それを光硬化させて、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物の重合体からなる硬化膜を形成したところ、前記特許文献に記載されている従来の含フッ素(メタ)アクリレート化合物よりなる硬化膜に比べて、透明性に優れる硬化膜が得られることが見出して本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 下記の一般式(I);
【0008】
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物である。
そして、本発明は、
(2) 下記の化学式(II);
【0009】
【化2】
で表される含フッ素アルコールと、アクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させて、下記の一般式(I);
【0010】
【化3】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物を製造する方法である。
【0011】
さらに、本発明は、
(3) 前記(1)の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物;および、
(4) 前記(1)の含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体;
である。
【発明の効果】
【0012】
上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤などを用いて簡単に重合させることができ、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物の重合体は、高いフッ素含有率によって、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、帯電防止性などの特性に優れるだけでなく、屈折率が低くて光透過率が高く、透明性にも優れている。
上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、常温で粘度の低い液状を呈しているため、有機溶媒などを用いなくても、また高温で加熱して溶融しなくても、粘度が低くて取り扱い製に優れる光硬化性樹脂組成物などの硬化性組成物(重合性組成物)を調製することができる。
そのため、上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する本発明の光硬化性樹脂組成物は、低温で基材上に施すことができ、また低温で光照射成形や光造形することができ、それによって防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、帯電防止性などの特性に優れると共に、透明性にも優れる硬化膜、成形品、立体造形物などの光硬化物を円滑に製造することができる。
また、上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を重合して得られる本発明の重合体は、フィルム、シート、チューブ、その他の成形物などの各種成形品の製造、塗料、表面保護剤、防汚・撥水・撥油用処理剤、帯電防止用処理剤、接着剤、粘着剤、反射防止処理剤などとして有効に用いることができる。
本発明の製造方法により、上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を、簡単に且つ円滑に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、下記の一般式(I)で表される新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物である[以下、本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を、「含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)」という]。
【0014】
【化4】
上記の一般式(I)において、R1は、水素原子またはメチル基である。
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、下記の化学式(II)で表される含フッ素アルコール(すなわちパーフロロ−1H,1H−2−シクロヘキシルメトキシエタノール)[以下、「含フッ素アルコール(II)」という]と、アクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させて、アクリル酸またはメタクリル酸のカルボキシル基を含フッ素アルコール(II)によってエステル化することによって製造することができる。
【0015】
【化5】
【0016】
原料化合物である含フッ素アルコール(II)は、米国のExfluor Research Corp.から入手可能である。
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)の製造に当たっては、含フッ素アルコール(II)1モルに対して、アクリル酸またはメタクリル酸を1〜3モル、特に1〜1.5モルの割合で用いることが、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)が効率よく得られる点から好ましい。
【0017】
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させる際の反応条件、操作、反応装置などは特に制限されず、アルコールとカルボン酸との脱水縮合反応において従来から採用されているのと同様にして行うことができる。
反応装置としては、例えば、ディーン・スターク装置を用いることができる。
また、含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応は、有機溶媒中で行ってもまたは有機溶媒を用いずに行ってもよいが、有機溶媒中で行うことが好ましく、それによって反応により生成した水を有機溶媒との共沸混合物にして反応系から効率よく除去することができる。その際に用いる有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などの不活性溶媒が好適であり、これらの1種または2種以上を用いることができる。
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応は、60〜160℃で行うことが好ましく、90〜120℃で行うことがより好ましい。
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応を有機溶媒中で行う場合は、反応により生成する水を効率よく除くために、使用した有機溶媒の沸点以上の温度で反応を行うことがより好ましい。
【0018】
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応は、触媒を用いて行ってもまたは触媒を用いずに行ってもよいが、触媒を用いて行うことが反応の促進の点から好ましい。触媒としては、例えば、硫酸、塩酸などの無機酸、スルホン酸、カルボン酸などの有機酸を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
反応の際に、アクリル酸またはメタクリル酸および反応により生成した含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)の重合を防止するために、重合防止剤を添加することが好ましい。重合防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。
【0019】
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸との反応が充分に進行した後、反応系に水またはアルカリ性水溶液を加えて、未反応のアクリル酸またはメタクリル酸を取り除くことが望ましい。その際に用いるアルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などを挙げることができる。
アクリル酸またはメタクリル酸を除去した後、必要に応じて蒸留を行うことによって、高純度の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を得ることができる。蒸留は、減圧下で行うことが好ましい。
これにより得られる含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、常温では液状をなす淡黄色の低粘度の液体である。
【0020】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、ラジカル重合開始剤の存在下で重合するので、それ単独で、または他のラジカル重合性化合物との併用下に、単独重合体、共重合体の製造に用いることができる。また、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、光ラジカル重合開始剤の存在下に光を照射することによって重合して硬化物を形成するので、光硬化性組成物の調製に用いることができる。
【0021】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)および光ラジカル重合開始剤を含有する。
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤と共に重合性成分として、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)のみを含有していてもよいし、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と他のラジカル重合性化合物を含有していてもよいし、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)およびカチオン重合性化合物を含有し更に光カチオン重合開始剤を含有していてもよいし、または含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)、他のラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物を含有し更に光カチオン重合開始剤を含有していてもよい。
【0022】
本発明の光硬化性樹脂組成物が、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)とともに他のラジカル重合性化合物を含有する場合は、他のラジカル重合性化合物としては、光ラジカル重合開始剤の存在下に重合するラジカル重合性化合物であればいずれでもよい。
そのうちでも、他のラジカル重合性化合物としては、分子中に1個または2個以上のアクリロイルおよび/またはメタクリロイル基を有する(メタ)アクリル系化合物、特に(メタ)アクリレート化合物が、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)との共重合性に優れている点から好ましく用いられる。
【0023】
何ら限定されるものではないが、本発明の光硬化性樹脂組成物で他のラジカル重合性化合物として好ましく用いられる(メタ)アクリレート化合物の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸脂環式アルキルエステル、フェニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の芳香族エステル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのような単官能の(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と共に他のラジカル重合性化合物を用いる場合は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と他のラジカル重合性化合物の合計質量に基づいて、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を5〜95質量%、特に10〜90質量%、他のラジカル重合性化合物を95〜5質量%、特に90〜10質量%とすることが好ましい。
【0025】
本発明の光硬化性樹脂組成物が含有する光ラジカル重合開始剤としては、(メタ)アリル系化合物を含む光硬化性樹脂組成物において従来から用いられている光ラジカル重合開始剤のいずれもが使用できる。限定されるものではないが、本発明で用い得る光ラジカル重合開始剤の具体例としては、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、アセトフェノン、3−メチルアセトフェノン、2−ヒドロキシメチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4’−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−プロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−t−ブチルジクロロアセトフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトノ、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラースケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
光ラジカル重合開始剤の使用量は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と他のラジカル重合性化合物の合計質量に基づいて、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物が、カチオン重合性化合物を更に含有する場合は、カチオン重合性化合物として、エポキシ基を1個または2個以上有する化合物、オキセタン環を有する化合物の1種または2種以上が好ましく用いられる。
本発明の光硬化性樹脂組成物がカチオン重合性化合物を更に含有する場合は、光硬化性樹脂組成物において従来から用いられている光カチオン重合開始剤の1種または2種以上が用いられる。
【0027】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、常温で低粘度の液体であるため、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を含有する本発明の光硬化性樹脂組成物は、有機溶媒を加えなくても、取り扱い性に優れる低粘度の液状を呈する。しかしながら、本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて有機溶媒を含有してもよい。
本発明の光硬化性樹脂組成物が溶媒型光硬化性樹脂組成物である場合には、光硬化性樹脂組成物の光硬化特性、得られる光硬化物の物性などを損なわない有機溶媒であればいずれも使用できるが、用い得る有機溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
有機溶媒を使用する場合の使用量は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を含めた光重合性化合物の全質量に基づいて、5〜95質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。
【0028】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上記した成分以外にも用途などにより、必要に応じて他の成分を含有することができ、当該他の成分としては、例えば、重合体、充填剤、顔料、安定剤、重合調整剤、レベリング剤、界面活性剤、有機可塑剤、有機または無機の固体微粒子などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を必要に応じて含有することができる。
【0029】
本発明の光硬化性樹脂組成物の粘度は用途や使用態様などに応じ調節し得るが、一般的は回転式B型粘度計を用いて測定したときに、常温(25℃)おいて100〜100000mPa・s程度の粘度を有することが取り扱い性、製膜性、成形性、立体造形性などの点から好ましく300〜50000mPa・s程度であることがより好ましい。
例えば、本発明の光硬化性樹脂組成物を光学的立体造形に用いる場合は、上記した常温(25℃)における粘度を300〜5000mPa・sの範囲にすると、光学的に立体造形物を製造する際の取り扱い性が良好になり、しかも目的とする立体造形物を高い寸法精度で円滑に製造することができる。
また、本発明の光硬化性樹脂組成物を光硬化膜の製造に用いる場合は、上記した常温(25℃)における粘度を1〜500mPa・sの範囲にすると、光硬化膜を形成する際の塗工性、塗膜の平面性などが良好になる。
【0030】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光を遮断し得る状態に保存することによって、通常10〜40℃の温度で約6〜18ヶ月の長期にわたって、変性や重合を防止しながら良好な光硬化性能を保ちながら安定に保存することできる。
【0031】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光学的立体造形による立体造形物の製造、成形体の製造、硬化膜(塗膜)の形成、塗料、ホトレジスト、フィルム、接着剤などの種々の用途に有効に使用することができる。
本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化膜(塗膜)の形成に用いると、防汚・撥水・撥油性、帯電防止性、耐熱性、耐薬品性、防眩性に優れ、しかも透明性に優れる硬化膜を形成することができる。
【0032】
本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化させる際に照射する活性エネルギー線は、光重合開始剤を活性化できるエネルギー量を有するエネルギー光線であれば限定されず、例えば、可視光線、紫外線、電子線、X線、放射線などを挙げることができる。そのうちでも、取り扱い性、経済性、工業化適正などの点から紫外線が好ましく使用され、その線源としては、紫外線レーザー(半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He−Cdレーザーなど)、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED(発行ダイオード)、蛍光灯などを用いることができる。紫外線の照射量は、10〜5000mJ/cm2が好ましく、100〜2000mJ/cm2がより好ましい。
【0033】
また、本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を、光ラジカル重合開始剤または熱ラジカル重合開始剤の存在下に重合することにより、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)に由来する、下記の一般式(a)で表される構造単位を分子鎖中に有する、防汚・撥水・撥油性、帯電防止性、耐熱性、耐薬品性、防眩性に優れ、しかも透明性に優れる重合体を得ることができる。
【0034】
【化6】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
【0035】
重合に当たっては、重合性成分として、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を単独で用いて含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)の単独重合体を製造してもよいし、または含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と共に他のラジカル重合性化合物を用いて、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)に由来する上記(a)で表される構造単位と他のラジカル重合性化合物に由来する構造単位を有する共重合体を製造してもよい。その際に、他のラジカル重合性化合物としては、ラジカル重合によって含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と共重合し得る化合物(単量体)であればいずれでもよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテンなどの:レフィン;スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレンなどの芳香族ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフロロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフロロエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物;含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)以外の(メタ)アクリル系化合物;アクリロニトリル;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン系化合物などを挙げることができる。
【実施例】
【0036】
《実施例1》
(1) 上記の化学式(II)で表される含フッ素アルコール(II)(パーフロロ−1H,1H−2−シクロヘキシルメトキシエタノール)(米国、Exfluor Research Corp.製)42.8g(0.1モル)、アクリル酸8.6g(0.12モル)、パラトルエンスルホン酸15.6g、ヒドロキノン0.164gおよびトルエン154mlを攪拌装置を備えたディーン・スターク反応装置に入れ、反応により生成する水をトルエンとの共沸混合物にして除きながら109℃〜115℃で9時間反応を行った。
(2) 次いで、反応液の温度を室温まで下げた後、分液漏斗に移し、5%水酸化ナトリウム水溶液150gで2回洗浄し、続いて水150gで3回洗浄した。
(3) 洗浄後の生成物から有機相を分離して回収し、エバポレータで溶媒を除去して、粗生成物33.1gを得た。
(4) 上記(3)で得られた粗生成物を蒸留して、圧力2.5kPaで沸点28〜30.5℃の留分を集めたところ、下記の化学式(Ia)で表される含フッ素アクリレート化合物(Ia)18.5gが得られた(収率38.4質量%)。
【0037】
【化7】
【0038】
上記(4)で得られた含フッ素アクリレート化合物(Ia)のNMR分析の結果は、次のとおりであった。
*19F−NMR(500MHz,溶媒:CDCl3,内部標準トリフルオロ酢酸)δ(ppm):-72.6,-77.7,-120.2〜-143.1,-187.9〜-188.8
*1H−NMR(500MHz,溶媒:CDCl3,内部標準トリメチルシラン)δ(ppm):4.6,6.0,6.1〜6.2,6.5
【0039】
《実施例2》
(1) 実施例1で得られた含フッ素アクリレート化合物(Ia)95質量部と1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン5質量部を混合して均一な液体状の光硬化性樹脂組成物を調製した。
(2) 上記(1)で得られた光硬化性樹脂組成物を、厚さ2mmのアクリル板上に40番バーコーターを用いて塗布し、高圧水銀ランプ照射装置(ウシオ電機株式会社製「LSVC−5034/IMNLC6−VF01」)を用いて1分間光照射を10回繰り返したところ、透明な塗膜が得られた。
(3) 上記(2)で得られた塗膜の付着したアクリル板について、分光計(日本分光株式会社製「V−570」)を使用して、波長546nmの光の透過率を測定したところ、92.8%であった。
【0040】
《比較例1》
(1) 下記の化学式(III)で表される含フッ素アクリレート化合物(III)(パーフロロシクロヘキサンカルビノールアクリレート;特許文献3のEXAMPLE VIIIに記載)(MATRIX SCIENTIFIC社製「パーフルオロシクロヘキシルメチルアクリル酸」)95質量部と1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン5質量部を混合して均一な液体状の光硬化性樹脂組成物を調製した。
【0041】
【化8】
【0042】
(2) 上記(1)で得られた光硬化性樹脂組成物を、厚さ2mmのアクリル板上に40番バーコーターを用いて塗布し、実施例1で用いたのと同じ高圧水銀ランプを使用して1分間光照射を10回繰り返したところ、白濁した塗膜が得られた。
(3) 上記(2)で得られた塗膜の付着したアクリル板について、実施例1で用いたのと同じ分光計を使用して、波長546nmの光の透過率を測定したところ、62.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を重合することによって、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、帯電防止性などの特性に優れ、更に透明性にも優れる重合体が得られるので、本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を含有する組成物および当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)からなる重合体は、フィルム、シート、チューブ、その他の成形物などの各種成形品の製造、塗料、表面保護剤、防汚・撥水・撥油用処理剤、帯電防止用処理剤、接着剤、粘着剤、反射防止処理剤などとして有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物、その製造方法、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物および当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体に関する。
より詳細には、本発明は新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物、その製造方法、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物および当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素を有する単量体を重合して得られる含フッ素重合体は、透明で、防汚性および撥水性に優れることから、タッチパネルやディスプレイなどの表面保護材として用いられている。
その中でも、含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、一般に有機溶媒を用いなくても低粘度の液状の重合性組成物を調製することができて取り扱い性に優れており、しかも光重合開始剤などの重合開始剤により容易に重合させることができるという点で有用である。
【0003】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物としては、1,1−ジヒドロパーフロロアルキルアクリレート(特許文献1)、炭素数4〜6のシクロアルキル基の一部の水素原子がフッ素で置換されたフロロシクロアルキルカルビノール(メタ)アクリレート(特許文献2)、パーフロロシクロヘキシルカルビノール(メタ)アクリレート(特許文献3)などが知られている。
しかし、これらの含フッ素(メタ)アクリレート化合物を重合して得られる重合体およびこれらの含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含む重合性組成物から形成した硬化膜は、しばしば曇りを生じ透明性に劣っていたり、また透明であっても光透過度が十分でなく、光学物性に劣ることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2,642,416号明細書
【特許文献2】米国特許第3,249,596号明細書
【特許文献3】米国特許第3,699,156号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、接着性などの特性に優れるだけでなく、屈折率が低くて光透過率が高く、透明性にも優れる硬化膜、重合体、成形物などを与える含フッ素(メタ)アクリレート化合物、およびその製造方法を提供することである。
本発明の目的は、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、接着性などの特性に優れ、しかも透明性に優れる硬化膜、成形物、立体造形物などを製造することのできる、含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物を提供することである。
また、本発明の目的は、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、接着性などの特性に優れると共に透明性に優れる各種成形品や塗膜などを形成することのできる、含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成すべく本発明者らは研究を重ねてきた。そして、アクリル酸またはメタクリル酸に、パーフロロシクロヘキシル基とエーテル基を分子中に有する特定のフロロアルカノールを反応させて、従来にない新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物を合成した。そこで、当該新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物を用いて光硬化性樹脂組成物を調製し、それを光硬化させて、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物の重合体からなる硬化膜を形成したところ、前記特許文献に記載されている従来の含フッ素(メタ)アクリレート化合物よりなる硬化膜に比べて、透明性に優れる硬化膜が得られることが見出して本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 下記の一般式(I);
【0008】
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物である。
そして、本発明は、
(2) 下記の化学式(II);
【0009】
【化2】
で表される含フッ素アルコールと、アクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させて、下記の一般式(I);
【0010】
【化3】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物を製造する方法である。
【0011】
さらに、本発明は、
(3) 前記(1)の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物;および、
(4) 前記(1)の含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体;
である。
【発明の効果】
【0012】
上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤などを用いて簡単に重合させることができ、当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物の重合体は、高いフッ素含有率によって、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、帯電防止性などの特性に優れるだけでなく、屈折率が低くて光透過率が高く、透明性にも優れている。
上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、常温で粘度の低い液状を呈しているため、有機溶媒などを用いなくても、また高温で加熱して溶融しなくても、粘度が低くて取り扱い製に優れる光硬化性樹脂組成物などの硬化性組成物(重合性組成物)を調製することができる。
そのため、上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する本発明の光硬化性樹脂組成物は、低温で基材上に施すことができ、また低温で光照射成形や光造形することができ、それによって防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、帯電防止性などの特性に優れると共に、透明性にも優れる硬化膜、成形品、立体造形物などの光硬化物を円滑に製造することができる。
また、上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を重合して得られる本発明の重合体は、フィルム、シート、チューブ、その他の成形物などの各種成形品の製造、塗料、表面保護剤、防汚・撥水・撥油用処理剤、帯電防止用処理剤、接着剤、粘着剤、反射防止処理剤などとして有効に用いることができる。
本発明の製造方法により、上記の一般式(I)で表される本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を、簡単に且つ円滑に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、下記の一般式(I)で表される新規な含フッ素(メタ)アクリレート化合物である[以下、本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を、「含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)」という]。
【0014】
【化4】
上記の一般式(I)において、R1は、水素原子またはメチル基である。
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、下記の化学式(II)で表される含フッ素アルコール(すなわちパーフロロ−1H,1H−2−シクロヘキシルメトキシエタノール)[以下、「含フッ素アルコール(II)」という]と、アクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させて、アクリル酸またはメタクリル酸のカルボキシル基を含フッ素アルコール(II)によってエステル化することによって製造することができる。
【0015】
【化5】
【0016】
原料化合物である含フッ素アルコール(II)は、米国のExfluor Research Corp.から入手可能である。
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)の製造に当たっては、含フッ素アルコール(II)1モルに対して、アクリル酸またはメタクリル酸を1〜3モル、特に1〜1.5モルの割合で用いることが、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)が効率よく得られる点から好ましい。
【0017】
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させる際の反応条件、操作、反応装置などは特に制限されず、アルコールとカルボン酸との脱水縮合反応において従来から採用されているのと同様にして行うことができる。
反応装置としては、例えば、ディーン・スターク装置を用いることができる。
また、含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応は、有機溶媒中で行ってもまたは有機溶媒を用いずに行ってもよいが、有機溶媒中で行うことが好ましく、それによって反応により生成した水を有機溶媒との共沸混合物にして反応系から効率よく除去することができる。その際に用いる有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などの不活性溶媒が好適であり、これらの1種または2種以上を用いることができる。
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応は、60〜160℃で行うことが好ましく、90〜120℃で行うことがより好ましい。
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応を有機溶媒中で行う場合は、反応により生成する水を効率よく除くために、使用した有機溶媒の沸点以上の温度で反応を行うことがより好ましい。
【0018】
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸の反応は、触媒を用いて行ってもまたは触媒を用いずに行ってもよいが、触媒を用いて行うことが反応の促進の点から好ましい。触媒としては、例えば、硫酸、塩酸などの無機酸、スルホン酸、カルボン酸などの有機酸を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
反応の際に、アクリル酸またはメタクリル酸および反応により生成した含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)の重合を防止するために、重合防止剤を添加することが好ましい。重合防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。
【0019】
含フッ素アルコール(II)とアクリル酸またはメタクリル酸との反応が充分に進行した後、反応系に水またはアルカリ性水溶液を加えて、未反応のアクリル酸またはメタクリル酸を取り除くことが望ましい。その際に用いるアルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などを挙げることができる。
アクリル酸またはメタクリル酸を除去した後、必要に応じて蒸留を行うことによって、高純度の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を得ることができる。蒸留は、減圧下で行うことが好ましい。
これにより得られる含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、常温では液状をなす淡黄色の低粘度の液体である。
【0020】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、ラジカル重合開始剤の存在下で重合するので、それ単独で、または他のラジカル重合性化合物との併用下に、単独重合体、共重合体の製造に用いることができる。また、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、光ラジカル重合開始剤の存在下に光を照射することによって重合して硬化物を形成するので、光硬化性組成物の調製に用いることができる。
【0021】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)および光ラジカル重合開始剤を含有する。
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤と共に重合性成分として、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)のみを含有していてもよいし、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と他のラジカル重合性化合物を含有していてもよいし、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)およびカチオン重合性化合物を含有し更に光カチオン重合開始剤を含有していてもよいし、または含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)、他のラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物を含有し更に光カチオン重合開始剤を含有していてもよい。
【0022】
本発明の光硬化性樹脂組成物が、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)とともに他のラジカル重合性化合物を含有する場合は、他のラジカル重合性化合物としては、光ラジカル重合開始剤の存在下に重合するラジカル重合性化合物であればいずれでもよい。
そのうちでも、他のラジカル重合性化合物としては、分子中に1個または2個以上のアクリロイルおよび/またはメタクリロイル基を有する(メタ)アクリル系化合物、特に(メタ)アクリレート化合物が、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)との共重合性に優れている点から好ましく用いられる。
【0023】
何ら限定されるものではないが、本発明の光硬化性樹脂組成物で他のラジカル重合性化合物として好ましく用いられる(メタ)アクリレート化合物の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸脂環式アルキルエステル、フェニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の芳香族エステル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのような単官能の(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と共に他のラジカル重合性化合物を用いる場合は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と他のラジカル重合性化合物の合計質量に基づいて、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を5〜95質量%、特に10〜90質量%、他のラジカル重合性化合物を95〜5質量%、特に90〜10質量%とすることが好ましい。
【0025】
本発明の光硬化性樹脂組成物が含有する光ラジカル重合開始剤としては、(メタ)アリル系化合物を含む光硬化性樹脂組成物において従来から用いられている光ラジカル重合開始剤のいずれもが使用できる。限定されるものではないが、本発明で用い得る光ラジカル重合開始剤の具体例としては、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、アセトフェノン、3−メチルアセトフェノン、2−ヒドロキシメチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4’−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−プロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−t−ブチルジクロロアセトフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトノ、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラースケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
光ラジカル重合開始剤の使用量は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と他のラジカル重合性化合物の合計質量に基づいて、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物が、カチオン重合性化合物を更に含有する場合は、カチオン重合性化合物として、エポキシ基を1個または2個以上有する化合物、オキセタン環を有する化合物の1種または2種以上が好ましく用いられる。
本発明の光硬化性樹脂組成物がカチオン重合性化合物を更に含有する場合は、光硬化性樹脂組成物において従来から用いられている光カチオン重合開始剤の1種または2種以上が用いられる。
【0027】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)は、常温で低粘度の液体であるため、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を含有する本発明の光硬化性樹脂組成物は、有機溶媒を加えなくても、取り扱い性に優れる低粘度の液状を呈する。しかしながら、本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて有機溶媒を含有してもよい。
本発明の光硬化性樹脂組成物が溶媒型光硬化性樹脂組成物である場合には、光硬化性樹脂組成物の光硬化特性、得られる光硬化物の物性などを損なわない有機溶媒であればいずれも使用できるが、用い得る有機溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
有機溶媒を使用する場合の使用量は、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を含めた光重合性化合物の全質量に基づいて、5〜95質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。
【0028】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上記した成分以外にも用途などにより、必要に応じて他の成分を含有することができ、当該他の成分としては、例えば、重合体、充填剤、顔料、安定剤、重合調整剤、レベリング剤、界面活性剤、有機可塑剤、有機または無機の固体微粒子などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を必要に応じて含有することができる。
【0029】
本発明の光硬化性樹脂組成物の粘度は用途や使用態様などに応じ調節し得るが、一般的は回転式B型粘度計を用いて測定したときに、常温(25℃)おいて100〜100000mPa・s程度の粘度を有することが取り扱い性、製膜性、成形性、立体造形性などの点から好ましく300〜50000mPa・s程度であることがより好ましい。
例えば、本発明の光硬化性樹脂組成物を光学的立体造形に用いる場合は、上記した常温(25℃)における粘度を300〜5000mPa・sの範囲にすると、光学的に立体造形物を製造する際の取り扱い性が良好になり、しかも目的とする立体造形物を高い寸法精度で円滑に製造することができる。
また、本発明の光硬化性樹脂組成物を光硬化膜の製造に用いる場合は、上記した常温(25℃)における粘度を1〜500mPa・sの範囲にすると、光硬化膜を形成する際の塗工性、塗膜の平面性などが良好になる。
【0030】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光を遮断し得る状態に保存することによって、通常10〜40℃の温度で約6〜18ヶ月の長期にわたって、変性や重合を防止しながら良好な光硬化性能を保ちながら安定に保存することできる。
【0031】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光学的立体造形による立体造形物の製造、成形体の製造、硬化膜(塗膜)の形成、塗料、ホトレジスト、フィルム、接着剤などの種々の用途に有効に使用することができる。
本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化膜(塗膜)の形成に用いると、防汚・撥水・撥油性、帯電防止性、耐熱性、耐薬品性、防眩性に優れ、しかも透明性に優れる硬化膜を形成することができる。
【0032】
本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化させる際に照射する活性エネルギー線は、光重合開始剤を活性化できるエネルギー量を有するエネルギー光線であれば限定されず、例えば、可視光線、紫外線、電子線、X線、放射線などを挙げることができる。そのうちでも、取り扱い性、経済性、工業化適正などの点から紫外線が好ましく使用され、その線源としては、紫外線レーザー(半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He−Cdレーザーなど)、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED(発行ダイオード)、蛍光灯などを用いることができる。紫外線の照射量は、10〜5000mJ/cm2が好ましく、100〜2000mJ/cm2がより好ましい。
【0033】
また、本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を、光ラジカル重合開始剤または熱ラジカル重合開始剤の存在下に重合することにより、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)に由来する、下記の一般式(a)で表される構造単位を分子鎖中に有する、防汚・撥水・撥油性、帯電防止性、耐熱性、耐薬品性、防眩性に優れ、しかも透明性に優れる重合体を得ることができる。
【0034】
【化6】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
【0035】
重合に当たっては、重合性成分として、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を単独で用いて含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)の単独重合体を製造してもよいし、または含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と共に他のラジカル重合性化合物を用いて、含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)に由来する上記(a)で表される構造単位と他のラジカル重合性化合物に由来する構造単位を有する共重合体を製造してもよい。その際に、他のラジカル重合性化合物としては、ラジカル重合によって含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)と共重合し得る化合物(単量体)であればいずれでもよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテンなどの:レフィン;スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレンなどの芳香族ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフロロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフロロエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物;含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)以外の(メタ)アクリル系化合物;アクリロニトリル;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン系化合物などを挙げることができる。
【実施例】
【0036】
《実施例1》
(1) 上記の化学式(II)で表される含フッ素アルコール(II)(パーフロロ−1H,1H−2−シクロヘキシルメトキシエタノール)(米国、Exfluor Research Corp.製)42.8g(0.1モル)、アクリル酸8.6g(0.12モル)、パラトルエンスルホン酸15.6g、ヒドロキノン0.164gおよびトルエン154mlを攪拌装置を備えたディーン・スターク反応装置に入れ、反応により生成する水をトルエンとの共沸混合物にして除きながら109℃〜115℃で9時間反応を行った。
(2) 次いで、反応液の温度を室温まで下げた後、分液漏斗に移し、5%水酸化ナトリウム水溶液150gで2回洗浄し、続いて水150gで3回洗浄した。
(3) 洗浄後の生成物から有機相を分離して回収し、エバポレータで溶媒を除去して、粗生成物33.1gを得た。
(4) 上記(3)で得られた粗生成物を蒸留して、圧力2.5kPaで沸点28〜30.5℃の留分を集めたところ、下記の化学式(Ia)で表される含フッ素アクリレート化合物(Ia)18.5gが得られた(収率38.4質量%)。
【0037】
【化7】
【0038】
上記(4)で得られた含フッ素アクリレート化合物(Ia)のNMR分析の結果は、次のとおりであった。
*19F−NMR(500MHz,溶媒:CDCl3,内部標準トリフルオロ酢酸)δ(ppm):-72.6,-77.7,-120.2〜-143.1,-187.9〜-188.8
*1H−NMR(500MHz,溶媒:CDCl3,内部標準トリメチルシラン)δ(ppm):4.6,6.0,6.1〜6.2,6.5
【0039】
《実施例2》
(1) 実施例1で得られた含フッ素アクリレート化合物(Ia)95質量部と1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン5質量部を混合して均一な液体状の光硬化性樹脂組成物を調製した。
(2) 上記(1)で得られた光硬化性樹脂組成物を、厚さ2mmのアクリル板上に40番バーコーターを用いて塗布し、高圧水銀ランプ照射装置(ウシオ電機株式会社製「LSVC−5034/IMNLC6−VF01」)を用いて1分間光照射を10回繰り返したところ、透明な塗膜が得られた。
(3) 上記(2)で得られた塗膜の付着したアクリル板について、分光計(日本分光株式会社製「V−570」)を使用して、波長546nmの光の透過率を測定したところ、92.8%であった。
【0040】
《比較例1》
(1) 下記の化学式(III)で表される含フッ素アクリレート化合物(III)(パーフロロシクロヘキサンカルビノールアクリレート;特許文献3のEXAMPLE VIIIに記載)(MATRIX SCIENTIFIC社製「パーフルオロシクロヘキシルメチルアクリル酸」)95質量部と1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン5質量部を混合して均一な液体状の光硬化性樹脂組成物を調製した。
【0041】
【化8】
【0042】
(2) 上記(1)で得られた光硬化性樹脂組成物を、厚さ2mmのアクリル板上に40番バーコーターを用いて塗布し、実施例1で用いたのと同じ高圧水銀ランプを使用して1分間光照射を10回繰り返したところ、白濁した塗膜が得られた。
(3) 上記(2)で得られた塗膜の付着したアクリル板について、実施例1で用いたのと同じ分光計を使用して、波長546nmの光の透過率を測定したところ、62.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を重合することによって、防汚性、撥水・撥油性、耐熱性、防眩性、耐薬品性、帯電防止性などの特性に優れ、更に透明性にも優れる重合体が得られるので、本発明の含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)を含有する組成物および当該含フッ素(メタ)アクリレート化合物(I)からなる重合体は、フィルム、シート、チューブ、その他の成形物などの各種成形品の製造、塗料、表面保護剤、防汚・撥水・撥油用処理剤、帯電防止用処理剤、接着剤、粘着剤、反射防止処理剤などとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I);
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物。
【請求項2】
下記の化学式(II);
【化2】
で表される含フッ素アルコールと、アクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させて、下記の一般式(I);
【化3】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物を製造する方法。
【請求項3】
請求項1に記載の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体。
【請求項1】
下記の一般式(I);
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物。
【請求項2】
下記の化学式(II);
【化2】
で表される含フッ素アルコールと、アクリル酸またはメタクリル酸を脱水縮合反応させて、下記の一般式(I);
【化3】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物を製造する方法。
【請求項3】
請求項1に記載の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を含有する光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の含フッ素(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を有する重合体。
【公開番号】特開2013−28736(P2013−28736A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166406(P2011−166406)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000190895)新中村化学工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000190895)新中村化学工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】
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