説明

含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法

【課題】 短時間での合成が可能で、合成後に含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の回収が容易な含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 一般式(1):(RfSONH(式中、Rfは、F又は炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基である)で表される含フッ素スルホニルイミド酸、又は一般式(2):(RfSON・M(式中、Mは、Li、Na又はKである)で表される含フッ素スルホニルイミド酸塩を、一般式(3):Rf’SOR(式中、Rf’は、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルと反応させることを特徴とする、一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度イオン性化合物の製造に有用な含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物は、イオン性化合物の製造に有用であり、この含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法として、含フッ素スルホニルイミド酸又は含フッ素スルホニルイミド酸塩を、アルキル化剤である硫酸ジアルキル又は炭酸ジアルキルによりアルキル化する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アルキル化剤として硫酸ジアルキル又は炭酸ジアルキルを用いてアルキル化する方法では、含フッ素スルホニルイミド酸又は含フッ素スルホニルイミド酸塩と反応を完結させるのに長時間を要し、また、N−アルキルビス(フルオロスルホニル)イミドを合成する際に、原料であるビス(フルオロスルホニル)イミド酸又はビス(フルオロスルホニル)イミド酸塩が分解したフルオロスルホン酸等の副生成物が生成し、収率が低下する問題があった。
【0005】
また、フッ素又は炭素数が1〜4のペルフルオロ基を有する含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物である場合、反応後に過剰に使用した硫酸ジアルキルや炭酸ジアルキルが、含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物に溶解しているため、含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物から、硫酸ジアルキルや炭酸ジアルキルを除く必要がある。硫酸ジアルキルや炭酸ジアルキルを除く方法として、硫酸ジアルキルや炭酸ジアルキルを加水分解させて除く方法が効率的であるが、加水分解させる際に、70℃以上の加熱が必要となり、硫酸ジアルキルや炭酸ジアルキルを分解させる間に含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物が分解するおそれがあった。
【0006】
本発明は、短時間での合成が可能で、合成後に含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の回収が容易な含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決する含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法に関する。
〔1〕一般式(1):(RfSONH(式中、Rfは、F又は炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基である)で表される含フッ素スルホニルイミド酸、又は一般式(2):
(RfSON・M(式中、Rfは、上記と同義であり、Mは、Li、Na又はKである)で表される含フッ素スルホニルイミド酸塩を、
一般式(3):Rf’SOR(式中、Rf’は、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルと反応させることを特徴とする、
一般式(4):(RfSONR(式中、RfおよびRは、上記と同義である)で表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法。
〔2〕 前記反応により一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を製造した後に、含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を含有する反応物に、水を添加して、水層と疎水性液体層に分離させ、
水層に含有される、一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸、又は一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸と一般式(6):Rf’SOMで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸塩を回収し、一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルに誘導した後、誘導した一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルを反応させることを特徴とする、上記〔1〕記載の一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明〔1〕によれば、含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を短時間で、かつ高収率で得ることができる。また、得られた含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を、容易に回収することができる。また、本発明〔2〕によれば、本発明〔1〕の副生成物であるペルフルオロアルキルスルホン酸又はペルフルオロアルキルスルホン酸塩を、含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造に、再利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0010】
〔含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法〕
本発明の一般式(4):(RfSONR(式中、Rfは、F又は炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)で表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法は、
一般式(1):(RfSONHで表される含フッ素スルホニルイミド酸、又は一般式(2):(RfSON・M(式中、Mは、Li、Na又はKである)で表される含フッ素スルホニルイミド酸塩を、
一般式(3):Rf’SOR(式中、Rf’は、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基である)で表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルと反応させることを特徴とする。
【0011】
一般式(1):(RfSONHで表される含フッ素スルホニルイミド酸と、アルキル化剤の一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルとの反応は、式(7):
(RfSONH+Rf’SO
→ (RfSONR+Rf’SOH (7)
で表される。
【0012】
また、一般式(2):(RfSON・Mで表される含フッ素スルホニルイミド酸塩と、アルキル化剤の一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルとの反応は、式(8):
(RfSON・M+Rf’SO
→ (RfSONR+Rf’SOM (8)
で表される。
【0013】
一般式(1):(RfSONHで表される含フッ素スルホニルイミド酸、又は一般式(2):(RfSON・Mで表される含フッ素スルホニルイミド酸塩:1モルに対して、一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルは、3〜20モルのモル比であることが好ましい。ペルフルオロアルキルスルホン酸エステルが、3モル未満では、式(7)又は(8)の反応が十分に促進せず、20モルより多く加えても、顕著な反応の促進が望めず、過剰のペルフルオロアルキルスルホン酸エステルが無駄である。
【0014】
式(7)又は(8)の反応は、50〜150℃で行うことが好ましい。50℃未満では、式(7)又は(8)の反応が十分に促進せず、150℃より高い温度で行っても顕著な反応の促進が望めない上に副生成物が増加し、品質が低下する。
【0015】
式(7)又は(8)の反応は、0.5〜30時間で行うことが好ましい。0.5時間未満では、式(7)又は(8)の反応が十分に促進せず、30時間より長く行っても反応は進行せず、コスト的に不利である上、副生成物が増加し品質が低下する。
【0016】
式(7)又は(8)の反応物(反応後の溶液)に大量の水を加えて撹拌することにより、反応後に残っている余剰の一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルは、式(9):
Rf’SOR+HO → Rf’SOH+ROH (9)
の反応式により加水分解される。
【0017】
式(9)の反応後は、上層の水層と下層にある疎水性液体層の2層に分離され、式(9)により生成した一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸と、式(7)での副生成物である一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸または式(8)での副生成物である一般式(6):Rf’SOMで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸塩は、水層に移行する。また、式(9)により生成するROHも水層に移行する。一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物は、疎水性液体であるため、分液により下層の疎水性液体として単離することができる。
【0018】
上記により、高純度の一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を製造することができる。
【0019】
〔ペルフルオロアルキルスルホン酸又はペルフルオロアルキルスルホン酸塩の再利用〕
反応処理後の水層には、一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸、又は一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸と一般式(6):Rf’SOMで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸塩が、含まれる。これらを一般式(3):Rf’SORに誘導し、一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を製造するためのアルキル化剤として再利用することができる。
【0020】
反応処理後の水層からの一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸と一般式(6):Rf’SOMで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸塩は、公知の方法による中和や濃縮により回収できる。
【0021】
回収された一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸は、式(10):
2Rf’SOH+(RO)SO → 2Rf’SOR+HSO (10)
により、ペルフルオロアルキルスルホン酸エステルに誘導することができる。
【0022】
また、回収された一般式(6):Rf’SOMで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸塩は、式(11):
2Rf’SOM+(RO)SO → 2Rf’SOR+MSO (11)
により、ペルフルオロアルキルスルホン酸エステルに誘導することができる。
【0023】
誘導したペルフルオロアルキルスルホン酸エステルを再利用して、上述の一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を製造できる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に記載する転化率、収率は以下の計算式により算出した。
転化率の計算式に示す「原料1」とは前記一般式(1)に示される含フッ素スルホニルイミド酸、又は前記一般式(2)に示される含フッ素スルホニルイミド酸塩を意味する。
転化率の計算式に示す「生成物1」とは前記一般式(4)に示される含フッ素スルホニルイミド化合物を意味する。
【0025】
・転化率(%)
=〔(投入した原料1のモル数)−(反応終了時点の原料1のモル数)〕
/(投入した原料1のモル数)×100
・収率(%)
=(得られた含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物のモル数)
/(製造に使用した原料1のモル数より算出した含フッ素N−アルキル
スルホニルイミド化合物の理論のモル数)×100
【0026】
〔実施例1:N−エチルビス(フルオロスルホニル)イミドの合成〕
まず、300cmのフラスコに、原料としてビス(フルオロスルホニル)イミドカリウム((FSONK):0.10モル(21.9g)を投入し、アルキル化剤としてトリフルオロメタンスルホン酸エチル(CFSOCHCH):0.65モル(115.8g)を加えた。フラスコ内の温度を100℃に保って2時間撹拌させ、転化率をNMRにより測定した結果、転化率は100%であった。続いて、水:300gの入った500cmのフラスコに、反応終了液を加えて7時間、室温で攪拌させ、溶液を2層に分離した。分液後、下層はN−エチルビス(フルオロスルホニル)イミド((FSONCHCH)であることを、NMRにより確認した。また、N−エチルビス(フルオロスルホニル)イミド((FSONCHCH)の量は0.89モル(18.7g)(収率:89質量%)であった。表1に、反応時間と収率を示す。
【0027】
〔実施例2〜6〕
表1に示した条件にしたこと以外は実施例1と同様にしてN−アルキルスルホンイミドを合成した。
【0028】
〔比較例1:N−エチルビス(フルオロスルホニル)イミドの合成〕
まず、300cmのフラスコに、原料としてビス(フルオロスルホニル)イミドカリウム((FSONK):0.9モル(19.7g)を投入し、アルキル化剤として硫酸ジエチル((CO)SO):5.85モル(90.1g)を加えた。なお、原料に対するアルキル化剤の添加量は、モル比で6.5倍であった。フラスコ内の温度を100℃に保って2時間撹拌させ、転化率をNMRにより測定した結果、転化率は44%程度であった。そのため、100℃での撹拌を継続し、合計55時間行い、上記と同様に転化率を測定した結果、転化率は91%であった。続いて、水300gの入った500cmのフラスコに、反応終了液を加えて、70℃で2時間攪拌し、溶液を2層に分離した。分液後、下層はN−エチルビス(フルオスルホニル)イミド((FSONCHCH)であることをNMRにより確認した。また、N−エチルビス(フルオスルホニル)イミドの量は、0.66モル(13.7g)(収率:73質量%)であった。表1に、反応時間と収率を示す。
【0029】
〔比較例2〜5〕
表1に示した条件にしたこと以外は比較例1と同様にしてN−アルキルスルホンイミドを合成した。
【0030】
【表1】

【0031】
〔実施例7:実施例6における反応処理後液からトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを取り出す工程〕
まず、500cmのフラスコに、実施例6で得られた反応処理後液:412.6g(CFSOHを0.60モル、CFSOMを0.05モル含有)を投入し、48%水酸化カリウム水溶液:0.60モル(70.0g)を加え、中和を行った。中和後の溶液を、エバポレーターを用いて、減圧濃縮及び減圧乾燥を行い、0.64モル(121.0g)のトリフルオロメタンスルホン酸カリウムを得た。収率は99%であった。
【0032】
得られたトリフルオロメタンスルホン酸カリウムは、下記式(10)又は、上記式(8):
2CFSOK+(CO)SO
→ 2CFSO+KSO (10)
の硫酸ジエチルによるエチル化を経て、容易にトリフルオロメタンスルホン酸エチルが得られる。このトリフルオロメタンスルホン酸エチルは、本発明の含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法の原料として使用することができる。
【0033】
表1からわかるように、ペルフルオロアルキルスルホン酸エステルを使用した実施例1〜6では、短時間の反応時間で、含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を高収率で得ることができた。これに対して、ペルフルオロアルキルスルホン酸エステルの代わりに硫酸ジアルキルを使用した比較例1〜4では、長時間反応させても、転化率及び収率は実施例1〜6より低い結果となった。また、実施例7より、実施例6における反応処理後液から、本発明の含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法の原料として使用可能なトリフルオロメタンスルホン酸カリウムが得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):(RfSONH(式中、Rfは、F又は炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基である)で表される含フッ素スルホニルイミド酸、又は一般式(2):(RfSON・M(式中、Rfは、上記と同義であり、Mは、Li、Na又はKである)で表される含フッ素スルホニルイミド酸塩を、
一般式(3):Rf’SOR(式中、Rf’は、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルと反応させることを特徴とする、
一般式(4):(RfSONR(式中、RfおよびRは、上記と同義である)で表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記反応により一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を製造した後に、含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物を含有する反応物に、水を添加して、水層と疎水性液体層に分離させ、
水層に含有される、一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸、又は一般式(5):Rf’SOHで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸と一般式(6):Rf’SOMで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸塩を回収し、一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルに誘導した後、誘導した一般式(3):Rf’SORで表されるペルフルオロアルキルスルホン酸エステルを反応させることを特徴とする、請求項1記載の一般式(4):(RfSONRで表される含フッ素N−アルキルスルホニルイミド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2013−107883(P2013−107883A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−237329(P2012−237329)
【出願日】平成24年10月26日(2012.10.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】