説明

含嗽剤及びその生成方法並びにその生成装置

【目的】咽頭の粘膜細胞を傷めることなくかつ咽頭近傍のウィルスを除去する。
【構成】本発明に係る含嗽剤63は、次亜塩素酸(HClO)及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を含み、有効塩素濃度を50〜300ppm、望ましくは50〜250ppm、さらに望ましくは50〜200ppmとするとともに、pHを6.3以上8以下、望ましくは7以上8以下としてあり、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)によって、含嗽剤全体のpHが次亜塩素酸(HClO)の存在比率が高い6.3〜8の範囲に維持されるため、含嗽剤63を口腔内に含んで数秒〜数十秒間、含嗽すると、含嗽剤63に含まれる次亜塩素酸(HClO)の殺菌力で咽頭に存在するウィルスが速やかに除去されるとともに、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)による緩衝作用によって人体に対する安全も確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として経気道感染によって人体に感染症を引き起こすウィルスの殺菌を用途とした含嗽剤及びその生成方法並びにその生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルスによる感染症は、人体細胞へのウィルスの吸着に始まるが、生体のどの部位がウィルスの侵入部位となるかはウィルスごとに異なっており、かかる侵入部位の違いによって、経口感染、経気道感染、接触感染、創傷感染といった分類がなされている。
【0003】
これらのうち、経気道感染を侵入門戸としたウィルスとしては、インフルエンザウィルスやSARSの病原体であるコロナウィルスをはじめ、麻疹ウィルス、風疹ウィルスなどが知られている。
【0004】
経気道感染は、咳やくしゃみに伴う飛沫に含まれているウィルスが咽頭の上皮細胞に存在するレセプターに吸着し、該ウィルスが上皮細胞に取り込まれ、あるいは侵入することで感染が始まるものであるため、水やうがい薬でうがいすることによって、咽頭上皮細胞へのウィルス付着、ひいてはウィルスによる感染を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−169378
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「みずうがいで風邪発症が4割減少」(2005年12月6日)、京都大学保健管理センター、[平成21年11月12日検索]、インターネット<URL : http://www.kyoto-u.ac.jp/health/006.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ウィルスを除去可能なうがい薬、すなわち含嗽剤としてはポピヨンヨードが広く知られており、成分中のヨウ素がウィルスをはじめとした真菌や細菌等の病原微生物に対し、一定の有効性を示すことはよく知られている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、その殺菌性ゆえ、咽頭の上皮細胞も傷めてしまい、結果としてウィルスの侵入を十分に阻止できないのではないかという懸念が最近になって指摘され始めているとともに(非特許文献1)、本出願時に世界的流行を見せている新型インフルエンザ(A/H1N1)は、季節型インフルエンザよりもその感染拡大の規模が大きいため、従来にも増して安全確実な感染予防策が急務となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、咽頭の上皮細胞を傷めることなくかつ咽頭近傍のウィルスを除去することが可能な含嗽剤及びその生成方法並びにその生成装置を提供することを目的とする。
【0010】
本発明に係る含嗽剤は請求項1に記載したように、有効塩素濃度が50〜300ppm、pHが6.3〜8であって、次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムを含み、咽頭に存在するウィルスの除去を用途としたものである。
【0011】
また、本発明に係る含嗽剤は、前記有効塩素濃度を50〜250ppmとしたものである。
【0012】
また、本発明に係る含嗽剤は、前記有効塩素濃度を50〜200ppmとしたものである。
【0013】
また、本発明に係る含嗽剤は、pHを、前記6.3〜8に代えて、7〜8としたものである。
【0014】
また、本発明に係る含嗽剤の生成方法は請求項5に記載したように、咽頭に存在するウィルスの除去を用途とした含嗽剤の生成方法であって、塩化ナトリウム及び二酸化炭素が添加された水溶液を原液とし、該原液を、有効塩素濃度が50〜300ppm、pHが6.3〜8となるように電気分解することにより、所定濃度の次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムを生成させるものである。
【0015】
また、本発明に係る含嗽剤の生成方法は、前記原液を、
水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加し、該塩化ナトリウムの添加工程と同時に又はその前後に炭酸ガスを吹き込み又はドライアイスを添加することによって、
純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加し、該塩化ナトリウムの添加工程と同時に又はその前後に炭酸ガスを吹き込み又はドライアイスを添加することによって、
水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加するとともに、前記通過水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くすることによって、又は、
純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加するとともに、前記純水又は前記蒸留水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くすることによって、
それぞれ作製するものである。
【0016】
また、本発明に係る含嗽剤の生成方法は、前記有効塩素濃度を50〜250ppmとしたものである。
【0017】
また、本発明に係る含嗽剤の生成方法は、前記有効塩素濃度を50〜200ppmとしたものである。
【0018】
また、本発明に係る含嗽剤の生成方法は、pHを前記6.3〜8に代えて、7〜8としたものである。
【0019】
また、本発明に係る含嗽剤の生成装置は請求項10に記載したように、咽頭に存在するウィルスの除去を用途とした含嗽剤を生成する装置であって、塩化ナトリウム及び二酸化炭素が添加された原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続され前記原液を電気分解する電解槽とを備え、該電解槽は、前記原液を電気分解することによって、有効塩素濃度が50〜300ppm、pHが6.3〜8であって、次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムを含む含嗽剤を生成するようになっているものである。
【0020】
また、本発明に係る含嗽剤の生成装置は、前記有効塩素濃度を50〜250ppmとしたものである。
【0021】
また、本発明に係る含嗽剤の生成装置は、前記有効塩素濃度を50〜200ppmとしたものである。
【0022】
また、本発明に係る含嗽剤の生成装置は、pHを前記6.3〜8に代えて、7〜8としたものである。
【0023】
ウィルスは、生体細胞の外では、特殊な環境でない限り、ごく短時間で死滅するが、いったん生体細胞内に侵入した後は、体液性免疫から逃れながら、該細胞内に寄生して増殖する。
【0024】
シネオールやチモールを主成分とする洗口液やポピヨンヨードを主成分とするうがい薬は、このようなウィルスに対しても一定の殺菌性があることが検証されているが、その反面、人体内の上皮細胞に対して傷害性があることも懸念されている。
【0025】
一方、本発明に係る含嗽剤は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が緩衝剤として機能することにより、含嗽剤全体のpHを6.3〜8の範囲に維持して人体に対する安全を確保しつつ、次亜塩素酸(HClO)の存在比率を高水準に維持し、その殺菌力で咽頭に存在するウィルスを速やかに除去する。
【0026】
また、有効塩素濃度を50ppm以上でかつ次亜塩素酸(HClO)の存在比率が高いpH範囲としたので、核膜を持たない原核生物である細菌や、細胞を構成する細胞質に侵入したウィルスを次亜塩素酸(HClO)の殺菌作用によって速やかに死滅させる一方、有効塩素濃度を300ppm以下、望ましくは250ppm以下、さらに望ましくは200ppm以下としたので、核膜を持つ人体の上皮細胞に対する傷害性を最小限にとどめることができる。
【0027】
すなわち、本発明に係る含嗽剤によれば、有効塩素濃度を50〜300ppm、望ましくは50〜250ppm、さらに望ましくは50〜200ppmとすることにより、咽頭の上皮細胞には傷害を与えず、細菌や細胞に侵入したウィルスだけを選択的に攻撃して死滅させることができる。
【0028】
また、次亜塩素酸(HClO)は、アミノ基と結合しやすい性質があるが、ウィルスがカプシドと呼ばれるタンパク質で覆われているため、ウィルスを容易に破壊することができる。
【0029】
なお、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は、ウィルスへの次亜塩素酸(HClO)の接触をバイオフィルムが阻害している状況において、該バイオフィルムを破壊してウィルスへの次亜塩素酸(HClO)の接触を可能にする役目も果たす。
【0030】
本発明において対象となるウィルスは、人体への感染の入口となる侵入部位、すなわち侵入門戸が上気道(口腔及び鼻腔から咽頭を経て喉頭に至るまでの範囲)であって、具体的には、インフルエンザウィルス、麻疹ウィルス、風疹ウィルス、水痘ウィルス、流行性耳下腺炎の病原体であるムンプスウィルス、SARSの病原体であるコロナウィルスを含む。
【0031】
有効塩素濃度が50〜300ppm、pHが6.3〜8となるように電気分解するためには、塩化ナトリウムを例えば2〜5質量%添加するとともに、二酸化炭素についても、大気中に存在する二酸化炭素(380ppm、日本の大気中二酸化炭素の年平均濃度、「理科年表(第2版環境編)」から抜粋)による分圧で自然に溶け込む程度の量では全く足りず、強制溶解によって二酸化炭素の溶解度を高める必要がある。
【0032】
すなわち、本明細書において二酸化炭素の強制溶解とは、二酸化炭素の溶解度を、自然に溶解し得る濃度(大気中に存在する二酸化炭素の分圧下における溶解度)よりも高くすることを意味するものとする。ここで、二酸化炭素を強制溶解させる具体的な方法としては、原液を、下記(a)〜(d)のいずれかの方法で作製すればよいが、いずれの方法においても、塩酸、酢酸その他炭酸を除く酸は一切添加しない。したがって、原液組成条件は、塩化ナトリウムの添加量が主たるパラメータとなる。
【0033】
(a)水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加し、該塩化ナトリウムの添加工程と同時に又はその前後に炭酸ガスを吹き込み、又はドライアイスを添加する。
【0034】
(b)純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加し、該塩化ナトリウムの添加工程と同時に又はその前後に炭酸ガスを吹き込み、又はドライアイスを添加する。
【0035】
(c)水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加するとともに、通過水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くする。
【0036】
(d)純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加するとともに、純水又は蒸留水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くする。
【0037】
ここで、(a)及び(c)において原液の構成要素である水は、井戸水、水道水などを使用することが可能であり、あえて純水を使用する必要はない。但し、電解槽の電極損傷や電極反応の低下を未然に防止するためには、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどを含まない純水を使用した方がよいことは言うまでもない。
【0038】
ここで、pHを6.3〜8としたのは、pH6.3以下では、含嗽剤を口腔内に含んだときに歯の脱灰の懸念があるからであり、さらにpH6未満では、H2CO3、HCO3-及びCO32-の濃度分率におけるHCO3-の存在比率が低くなって、緩衝剤としての炭酸水素ナトリウムを生成させることが困難になり、pH8を上回ると、Cl2、HClO及びClO-の濃度分率におけるHClOの存在比率が低下して、ウィルスを殺菌することができるだけの高濃度の次亜塩素酸を生成させることが困難になるからである。
【0039】
また、pHを望ましくは7以上としたのは、う蝕病原菌によって産生される乳酸等に起因した口腔内の酸性化を防止することができるからである。
【0040】
また、有効塩素濃度を50〜300ppmとしたのは、50ppm未満では、殺菌力が小さいためにウィルスを死滅させることが困難だからであり、300pmを上回ると、核膜によって細胞核が取り囲まれているとはいえ、人体の上皮細胞に傷害を与える懸念が出てくるからである。
【0041】
ここで、有効塩素濃度を望ましくは50〜250ppmとしたのは、上皮細胞への傷害の懸念をさらに小さくできるからであり、さらに望ましくは50〜200ppmとしたのは、上皮細胞への傷害可能性を実質的にゼロにすることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態に係る含嗽剤の生成装置を示した概略図。
【図2】変形例に係る含嗽剤の生成装置を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る含嗽剤及びその生成方法並びにその生成装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
本実施形態に係る含嗽剤は、次亜塩素酸(HClO)及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を含み、有効塩素濃度を50〜300ppm、望ましくは50〜250ppm、さらに望ましくは50〜200ppmとするとともに、pHを6.3以上8以下、望ましくは7以上8以下とし、咽頭に存在するウィルスの除去を用途とするものである。
【0045】
本実施形態に係る含嗽剤の生成装置を図1に示す。
【0046】
同図でわかるように、本実施形態に係る含嗽剤の生成装置51は、原液52を貯留する原液タンク3と、該原液タンクに連通接続されたストロークポンプ4と、該ストロークポンプに連通接続された電解槽5と、該電解槽に連通接続された吐出管6と、希釈水57が貯留された希釈水タンク8とを備えるとともに、吐出管6の先端が希釈水タンク8に貯留された希釈水57の水位以下となるように、吐出管6の先端位置に対する希釈水タンク8の設置位置を相対的に位置決めしてある。
【0047】
原液52は、後述するいずれかの方法で作製するが、いずれの方法においても、塩酸、酢酸その他炭酸を除く酸は一切添加されていない。
【0048】
希釈水57は、井戸水、水道水、純水その他任意の水を使用することができるが、生成される含嗽剤のpHが上述した範囲になるようにpHを適宜選択する。
【0049】
本実施形態に係る生成装置51はさらに、1次生成水が希釈水タンク8内において希釈水57で希釈されてなる2次生成水60に注水側が連通された脱気モジュール11を備えており、該脱気モジュールは、真空ポンプ12による減圧によって2次生成水60の溶存酸素を除去するようになっているとともに、2次生成水60から溶存酸素が除去された3次生成水を含嗽剤63として貯留する3次生成水タンク14を備えている。
【0050】
なお、生成装置51に用いるチューブ類あるいは必要に応じて適宜設ける電磁弁は、高濃度の次亜塩素酸による酸化で劣化のおそれがあるため、フッ素で形成するのが望ましい。
【0051】
本実施形態に係る含嗽剤の生成装置51を用いて含嗽剤63を生成するには、3次生成水の有効塩素濃度が50〜300ppm、望ましくは50〜250ppm、さらに望ましくは50〜200ppmであり、かつpHが6.3〜8、望ましくは7〜8となるように、原液52の組成条件(主として塩化ナトリウムの添加量)、電気分解時の動作条件(例えば電圧値や電流値)及び希釈条件(希釈倍率や希釈水のpH)を定めるとともに、配合された原液52を原液タンク3に貯留する。
【0052】
塩化ナトリウムは例えば2〜5質量%添加する。
【0053】
二酸化炭素の溶解度を高めるためには、逆浸透膜に通された通過水、純水又は蒸留水を溶媒とし、該溶媒中に二酸化炭素を強制的に混入させることで二酸化炭素の溶解度を一時的に高める方法と、溶媒に接している二酸化炭素の分圧を上げる方法と、溶媒の温度を下げる方法とが考えられるが、電解時に生じる熱によって水温が上昇することを考えた場合、二酸化炭素を強制的に混入させる方法か、二酸化炭素の分圧を上げる方法のいずれかを選択するのが望ましい。
【0054】
二酸化炭素の溶解度を一時的に高める方法としては、炭酸ガスの吹込みによる方法か、ドライアイスの添加による方法のいずれかにさらに分類することができる。ここで、一時的とは、溶媒に接している二酸化炭素の分圧が大気中に存在する二酸化炭素の分圧と等しいため、換言すれば、二酸化炭素の混入を大気圧下で行うため、一時的に強制圧入したとしても、空気に含まれる二酸化炭素の分圧との圧力平衡により、時間が経過するにしたがって、二酸化炭素の溶解度が減少する場合を指す。この場合、二酸化炭素の溶解度が低下しないうちに、速やかに電解処理を行う必要がある。
【0055】
二酸化炭素の分圧を上げることで二酸化炭素の溶解度を高める方法としては、逆浸透膜を通過した通過水、純水又は蒸留水を溶媒として該溶媒を気密タンクに封入し、その気中空間に二酸化炭素を圧入するか、気密タンク内の溶媒に炭酸ガスを吹き込み若しくは溶媒にドライアイスを添加する方法を採用することができる。
【0056】
この場合、所定の二酸化炭素分圧で二酸化炭素を溶媒に溶かすとともに、その分圧を維持したまま、原液52を電解槽5に送り込んで電気分解を行う必要があるため、二酸化炭素の分圧が低下しないよう、原液タンク3、ストロークポンプ4及び電解槽5を全体として気密に構成すればよい。
【0057】
以上まとめると、二酸化炭素の強制溶解は、以下に示す方法のいずれかを選択して作製する。
【0058】
(a-1) 水道水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加するとともに、該塩化ナトリウムの添加工程と同時又はその前後に炭酸ガスを吹き込むことで、二酸化炭素を通過水に強制的に溶解させる。
【0059】
(a-2) 水道水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加するとともに、該塩化ナトリウムの添加工程と同時又はその前後にドライアイスを添加することで、二酸化炭素を通過水に強制的に溶解させる。
【0060】
(b-1) 純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加するとともに、該塩化ナトリウムの添加工程と同時又はその前後に炭酸ガスを吹き込むことで、二酸化炭素を強制的に溶解させる。
【0061】
(b-2) 純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加するとともに、該塩化ナトリウムの添加工程と同時又はその前後にドライアイスを添加することで、二酸化炭素を強制的に溶解させる。
【0062】
(c) 水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加するとともに、通過水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くすることによって、大気中の二酸化炭素分圧での溶解度よりも高い溶解度で二酸化炭素を通過水に溶解させる。
【0063】
(d) 純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加するとともに、純水又は蒸留水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くすることによって、大気中の二酸化炭素分圧での溶解度よりも高い溶解度で二酸化炭素を通過水に溶解させる。
【0064】
逆浸透膜に通す水は、どのような性状のものでもよいが、逆浸透膜やそれを使った浄水器の負担を軽減し、あるいは捨て水の量をなるべく少なくするという意味では、ある程度浄化された水が望ましい。例えば、地下水、水道水又は市販されているミネラルウォータ(市販水)を使用することができる。以下、本実施形態では、逆浸透膜に通す水として水道水を用いるものとする。
【0065】
水道水を逆浸透膜に通すことで原液52を作製する場合には、逆浸透膜を備えた浄水器がいくつかのメーカーから市販されているので、それらから適宜選択し利用すればよい。また、二酸化炭素の分圧が高い環境下で通過水、純水又は蒸留水に二酸化炭素を溶解させる場合には、従来公知の二酸化炭素溶解装置を適宜利用することができる。
【0066】
原液52を作製したならば、次に、かかる原液52を含嗽剤1バッチ分に相当する量だけ計量し原液タンク3に貯留するとともに、同じく含嗽剤1バッチ分に相当する量の希釈水57を希釈水タンク8に貯留する。含嗽剤1バッチ分に相当する希釈水57の量は、希釈倍率や希釈水のpHに応じて適宜定めればよい。
【0067】
次に、原液52をストロークポンプ4で電解槽5に送り、定められた動作条件で電解槽5を動作させ、原液52を電気分解する。
【0068】
次に、電解槽5内で生成された1次生成水を、該電解槽に連通接続された吐出管6を介して、予め希釈水タンク8に貯留された希釈水57内に注入する。
【0069】
ここで、希釈水タンク8は、吐出管6の先端位置が希釈水タンク8の中に貯留された希釈水57の水位以下となるように、その設置位置を相対的に位置決めしてある。
【0070】
そのため、1次生成水は、空気(外気)と接触することなく、吐出管6を介して希釈水57内に注入される。また、1次生成水は、予め計量された希釈水57に注入されるいわばバッチ方式で注入されることになるため、従来のような配管内混合とは異なり、1次生成水は、希釈水57に均質に混合される。
【0071】
次に、2次生成水60を脱気モジュール11に通すことにより、溶存ガス、特に溶存酸素が除去された3次生成水を生成し、これを含嗽剤33として3次生成水タンク14に貯留する。
【0072】
本実施形態に係る含嗽剤63を用いて咽頭に存在するウィルスを除去するには、含嗽剤を口腔内に含んで数秒〜数十秒間、含嗽すればよい。
【0073】
このようにすると、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)によって、含嗽剤全体のpHを次亜塩素酸(HClO)の存在比率が高い6.3〜8の範囲に維持しつつ、含嗽剤63に含まれる次亜塩素酸(HClO)の殺菌力で咽頭に存在するウィルスを速やかに除去する一方、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)による緩衝作用によって人体に対する安全を確保する。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係る含嗽剤63及びその生成方法並びに生成装置51によれば、塩化ナトリウム及び二酸化炭素が添加された水溶液を原液とし、該原液を、有効塩素濃度が50〜300ppm、望ましくは50〜250ppm、さらに望ましくは50〜200ppm、pHが6.3〜8、望ましくは7〜8となるように電気分解するようにしたので、咽頭に存在するウィルスを殺菌できるだけの高濃度の次亜塩素酸と、次亜塩素酸の存在比率が高くなるpH環境を維持できるだけの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)とを生成することが可能となる。
【0075】
また、本実施形態に係る含嗽剤63の生成方法及び生成装置51によれば、二酸化炭素を強制的に溶解させるようにしたので、高濃度の炭酸水素ナトリウムを生成させてpH変動に対する抵抗性(緩衝性)を高めることができるとともに、塩酸や酢酸といった酸をわざわざ添加する必要がないので、無味無臭の含嗽剤を生成することが可能であり、有効塩素濃度が300ppmであっても、何ら不快感を与えることなく、かつ数秒〜数十秒程度という短時間の含嗽で咽頭のウィルスを除去することができるという顕著な作用効果を奏する。
【0076】
また、本実施形態に係る含嗽剤63によれば、有効塩素濃度を50ppm以上でかつ次亜塩素酸(HClO)の存在比率が高いpH範囲としたので、核膜を持たない原核生物である細菌や、細胞を構成する細胞質に侵入したウィルスを次亜塩素酸(HClO)の殺菌作用によって速やかに死滅させる一方、有効塩素濃度を300ppm以下、望ましくは250ppm以下、さらに望ましくは200ppm以下としたので、核膜による細胞核の保護作用が損なわれることはなく、かくして人体の上皮細胞に対する傷害性を最小限にとどめることができる。
【0077】
すなわち、本実施形態に係る含嗽剤63によれば、有効塩素濃度を50〜300ppm、望ましくは50〜250ppm、さらに望ましくは50〜200ppmとすることにより、咽頭の上皮細胞には傷害を与えず、細菌や細胞に侵入したウィルスだけを選択的に攻撃して死滅させることができる。
【0078】
また、本実施形態に係る含嗽剤63によれば、次亜塩素酸(HClO)が、カプシドに存在するアミノ基と結合するため、ウィルスを容易に破壊することができる。
【0079】
本実施形態では、2次生成水60中の溶存ガスを脱気モジュール11を用いて除去するようにしたが、2次生成水60中の溶存ガスの濃度が低いために発泡現象が起きる懸念がないのであれば、溶存ガスを除去する工程を省略してもかまわない。かかる場合には、2次生成水60がすなわち含嗽剤となる。
【0080】
図2は、溶存ガスの除去工程を省略する際に用いる生成装置51aを示した図であり、脱気モジュール11、真空ポンプ12及び3次生成水タンク14を生成装置21から省略してある。
【0081】
また、本実施形態では、含嗽剤1バッチ分に対応する量の原液52と希釈水57とを計量し、それぞれを原液タンク3と希釈水タンク8に予め貯留するようにしたが、これに代えて、含嗽剤1バッチ分よりも多い量、例えば数バッチ分に対応する量の原液52を原液タンク3に予め貯留しておくのであれば、含嗽剤1バッチ分に対応する原液52の量をそのつど計量するための水位計測手段を備えるようにすればよい。かかる水位計測手段は、例えば超音波センサや電極式センサ等で適宜構成することができる。
【0082】
また、本実施形態では、原液を電気分解した後、これを希釈して含嗽剤を生成するようにしたが、これに代えて、原液を希釈し、しかる後、該希釈水を電気分解して含嗽剤を得るようにしてもかまわない。
【0083】
また、本実施形態では、原液を電気分解した後、これを希釈して含嗽剤を生成するようにしたが(後希釈)、これに代えて、原液を希釈し、しかる後、該希釈水を電気分解して含嗽剤を得るようにしてもかまわない(前希釈)。なお、かかる変形例の場合においては、希釈水タンク8を省略し、これに代えて、希釈された原液を貯留するための希釈原液タンクを原液タンク3と電解槽5との間に別途備えればよい。
【実施例1】
【0084】
(含嗽剤の生成)
まず、逆浸透膜を備えた浄水器に水道水を注水し、次いで、逆浸透膜を通過した水に3質量%の塩化ナトリウムを添加するとともに、ドライアイスを添加して原液とし、次いで、この原液を5倍に希釈した(前希釈)。
【0085】
次に、希釈した原液を電解槽で電気分解して含嗽剤とした。
【0086】
電解槽は、葵エンジニヤリング株式会社が製造し、野口歯科医学研究所株式会社が「パーフェクトペリオ」の商品名で販売している電解中性水生成装置の電解槽を用いた。
【0087】
以上のプロセスで電気分解を行ったところ、pH6.3〜8の範囲内で有効塩素濃度が50〜300ppmの含嗽剤を生成することができた。なお、含嗽剤中における有効塩素の濃度を測定するにあたっては、200ppmを越える濃度測定が可能な計器や試験紙あるいは試薬がなかったため、二倍希釈を二度繰り返すことで有効塩素濃度を計測した。
【実施例2】
【0088】
(含嗽剤の生成に関する実験)
1)原液
原液として、以下の4つの試験溶液を準備した。
試験溶液A;
大気圧下かつ室温下で蒸留水にドライアイス5%(w/v)を添加することで、該蒸留水にドライアイスを構成する二酸化炭素を溶解させ(飽和炭酸水)、しかる後、塩化ナトリウムを0.6%(w/v)を溶解させた。
【0089】
試験溶液B;
試験溶液Aの中間生成物である飽和炭酸水を蒸留水で5倍に希釈し、しかる後、塩化ナトリウムを0.6%(w/v)を溶解させた。
【0090】
試験溶液C;
試験溶液Aの中間生成物である飽和炭酸水を蒸留水で10倍に希釈し、しかる後、塩化ナトリウムを0.6%(w/v)を溶解させた。
【0091】
試験溶液D;
大気圧下かつ室温下で蒸留水を大気に曝露することで、該蒸留水に空気中の二酸化炭素を溶解させ、次いで、塩化ナトリウムを0.6%(w/v)を溶解させた。
【0092】
2)試験方法
無隔膜タイプの電解槽に上記原液を4L投入し、2.8Aの直流電流で電気分解を行った。
【0093】
3)結果
試験結果を表1に示す。
【表1】

【0094】
同表でわかるように、飽和炭酸水を使った試験溶液A〜試験溶液Cでは、次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムが十分な濃度で存在し得るpH範囲、すなわち6〜8となっている。それに対し、空気中の二酸化炭素を自然溶解させた試験溶液Dでは、pHが9.2となった。したがって、空気中の二酸化炭素を自然溶解させる方法では、次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムの両方を十分な濃度で生成することは困難であろうと思われる。
【符号の説明】
【0095】
51 含嗽剤の生成装置
52 原液
3 原液タンク
5 電解槽
6 吐出管
57 希釈水
8 希釈水タンク
11 脱気モジュール
14 3次生成水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効塩素濃度が50〜300ppm、pHが6.3〜8であって、次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムを含み、咽頭に存在するウィルスの除去を用途としたことを特徴とする含嗽剤。
【請求項2】
前記有効塩素濃度を50〜250ppmとした請求項1記載の含嗽剤。
【請求項3】
前記有効塩素濃度を50〜200ppmとした請求項1記載の含嗽剤。
【請求項4】
pHを、前記6.3〜8に代えて、7〜8とした請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の含嗽剤。
【請求項5】
咽頭に存在するウィルスの除去を用途とした含嗽剤の生成方法であって、塩化ナトリウム及び二酸化炭素が添加された水溶液を原液とし、該原液を、有効塩素濃度が50〜300ppm、pHが6.3〜8となるように電気分解することにより、所定濃度の次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムを生成させることを特徴とする含嗽剤の生成方法。
【請求項6】
前記原液を、
水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加し、該塩化ナトリウムの添加工程と同時に又はその前後に炭酸ガスを吹き込み又はドライアイスを添加することによって、
純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加し、該塩化ナトリウムの添加工程と同時に又はその前後に炭酸ガスを吹き込み又はドライアイスを添加することによって、
水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムを添加するとともに、前記通過水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くすることによって、又は、
純水又は蒸留水に塩化ナトリウムを添加するとともに、前記純水又は前記蒸留水に接する二酸化炭素分圧を大気中の分圧よりも高くすることによって、
それぞれ作製する請求項5記載の含嗽剤の生成方法。
【請求項7】
前記有効塩素濃度を50〜250ppmとした請求項5又は請求項6記載の含嗽剤。
【請求項8】
前記有効塩素濃度を50〜200ppmとした請求項5又は請求項6記載の含嗽剤。
【請求項9】
pHを前記6.3〜8に代えて、7〜8とした請求項5乃至請求項8のいずれか一記載の含嗽剤の生成方法。
【請求項10】
咽頭に存在するウィルスの除去を用途とした含嗽剤を生成する装置であって、塩化ナトリウム及び二酸化炭素が添加された原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続され前記原液を電気分解する電解槽とを備え、該電解槽は、前記原液を電気分解することによって、有効塩素濃度が50〜300ppm、pHが6.3〜8であって、次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムを含む含嗽剤を生成するようになっていることを特徴とする含嗽剤の生成装置。
【請求項11】
前記有効塩素濃度を50〜250ppmとした請求項10記載の含嗽剤の生成装置。
【請求項12】
前記有効塩素濃度を50〜200ppmとした請求項10記載の含嗽剤の生成装置。
【請求項13】
pHを前記6.3〜8に代えて、7〜8とした請求項10乃至請求項12のいずれか一記載の含嗽剤の生成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28539(P2013−28539A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260554(P2009−260554)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(504339239)パーフェクトペリオ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】