説明

含気和菓子、含気和菓子の素及び含気和菓子の製造方法

【課題】鳳瑞や淡雪などの含気和菓子の気泡を維持しつつ、より甘さを控えた軽い食感の含気和菓子及びその素を提供することである。
【解決手段】凝固剤及び増粘剤の少なくとも1以上、起泡剤、並びに糖質を原料とし、これら原料を熱水に混ぜて撹拌することによって気泡を生じさせた和菓子であって、水分活性が0.90〜0.95であり、比重が0.35〜0.55に調整されたことを特徴とする含気和菓子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鳳瑞や淡雪など、糖質、植物性多糖類及び卵白など起泡剤が含まれ、撹拌されることによって気泡された含気和菓子、含気和菓子の素及び含気和菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、和菓子は、甘味を採るものとして、食事や間食の場面で珍重されている。菓子は、元々「果子」として果物から甘味を採取することによって作られていたが、いつしか甘味素材(例えば、甘藷)を加工することよって作られるようになった。砂糖から作られるようになると、小豆や芋などとあわせるようになり、さらに南蛮由来の菓子と融合されて、現在の和菓子の原型が完成された。和菓子は、日持ちすることが重要であり、そのため、固形分や甘味分の量が多く含まれている。和菓子の一種である淡雪は、水が加えられた寒天を加熱により溶解し、砂糖を加えてしばらく煮詰めたもに、メレンゲを加えて固められた菓子であり、その淡雪の糖濃度が高いものが、鳳瑞として分類されている。これら鳳瑞及び淡雪など含気和菓子は、いずれも糖濃度が高く甘い菓子である。
【0003】
一方、寒天の代わりにゼラチンを使ったものがマシュマロであるが、マシュマロも糖濃度が高く、マシュマロの食感を改良したものとして特許文献1に記載されたものがあるが、含気和菓子の改良されたものは、知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平4−335861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように含気和菓子は、基本的に甘味分や固形分の含量が多く、食感が重くて(重厚で)甘いという食感を有する。含気和菓子の甘味を低減するために、含水量を増やすと、卵白の気泡を菓子全体に均一に溜めることができず、気泡が液と分離してしまうという問題があり、また、含水量の増加により離水が生じるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、鳳瑞や淡雪などの含気和菓子の気泡を維持しつつ、より甘さを控えた軽い食感の含気和菓子及びその素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水分活性が0.90〜0.95であり、比重が0.35〜0.55に調整された含気和菓子を見出すことができた。すなわち、本発明は、凝固剤及び増粘剤の少なくとも1以上、起泡剤、並びに糖質を原料とし、これら原料を熱水に混ぜて撹拌することによって気泡を生じさせた和菓子であって、水分活性が0.90〜0.95であり、比重が0.35〜0.55に調整されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、水分活性が0.90〜0.95であり、比重が0.35〜0.55に調整されているので、鳳瑞や淡雪などの含気和菓子の気泡を維持しつつ、より甘さを控えた軽い食感の含気和菓子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る含気和菓子は、撹拌含気処理(オーバーラン)を行なう際に、起泡剤とともに凝固剤及び増粘剤の少なくとも1以上を含ませているので、水分活性を0.90〜0.95にし、比重が0.35〜0.55に調整することができる。
【0010】
本発明において含気和菓子とは、砂糖などの糖質、寒天など植物性多糖類、及び卵白など起泡剤が含まれ、撹拌することによって気泡された和菓子のことをいい、例えば、鳳瑞や淡雪などがあり、植物性多糖類でなくゼラチンが含まれたマシュマロは、含まれない。
【0011】
本発明に係る含気和菓子において、気泡を形成する起泡剤として、卵白、小麦由来蛋白、大豆由来蛋白、ホエータンパクやカゼインタンパクなど乳由来蛋白、小麦由来ペプチド、大豆由来ペプチド及びホエーペプチドやカゼインペプチドなど乳由来ペプチドのいずれか1以上が含まれていることが好ましく、卵白が必ず含まれていることがより好ましい。このような蛋白やペプチドを加えることによって、気泡をより安定させて比重を調整することができる。
【0012】
また、本発明に係る含気和菓子は、凝固剤や増粘剤が含まれていることが好ましく、凝固剤や増粘剤を原料に加えることによって、水分活性が高い状態であっても、細かい気泡を作ることができ、気泡を菓子全体に均一に溜めることができ、気泡が分離するのを防止し、瑞々しい軽い食感を得ることができる。また、このように凝固剤や増粘剤を添加することにより、温度変化によって粘性が変化するのを防止することができ、気泡の状態を一定に保つことができる。
【0013】
本発明に係る含気和菓子において、凝固剤としては、寒天、カラギナン、ファーセレラン及びジェランガムのうち少なくとも1以上を用いることができ、特に粘度が20cp以上である高粘度の寒天が好ましい。寒天は、凝固点が低く、他の糊料に比べて粘性の変化が少ないため有用である。例えば、伊那寒天大和(伊那食品工業(株)製)や即溶性寒天大和(伊那食品工業(株)製)がより好ましい。本発明に係る含気和菓子において、凝固剤の含有量は、0.1〜2.0重量%であることが好ましく、寒天、カラギナン及びファーセレランにおいては、0.5〜2.0重量%であることがより好ましく、ジェランガムにおいては、0.2〜0.5重量%であることがより好ましい。なお、凝固剤の含有量が多い場合には、低強度寒天(ウルトラ寒天:伊那食品工業(株)製)が併用されることが良い。
【0014】
本発明に係る含気和菓子において、増粘剤としては、タマリンドガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、澱粉、ペクチン及び大豆多糖類のうち少なくとも1以上を用いることができる。本発明に係る含気和菓子において、増粘剤の含有量は、0.02〜3.0重量%であることが好ましく、0.05〜1.0重量%であることがより好ましく、澱粉においては、1.0〜3.0重量%であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る含気和菓子は、卵白の気泡を安定させるために、pHが4.0〜8.0に調整されていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る含気和菓子に含有される糖質としては、砂糖だけでなく、和菓子で通常使用されているものを用いることができ、甘味度の低いものであれば好ましい。
【0017】
本発明に係る含気和菓子の原料である卵白は、粉末状に加工されていることが好ましく、その他の起泡剤、凝固剤、増粘剤、糖質なども粉末状のものを混ぜ合わせて含気和菓子の素として用いることができる。この含気和菓子の素は、粉末状態で熱水に混ぜられて泡立て器によって撹拌されることにより、気泡が形成されることが好ましい。
【0018】
本発明に係る含気和菓子は、原料である増粘剤及び起泡剤の少なくとも1以上、起泡剤及び糖質を熱水に混ぜて、撹拌含気処理(オーバーラン)を行なうことによって作製することができる。撹拌含気処理されたものを寒天や糖質などに混ぜ合わせる従来の方法とは異なる。また、本発明に係る含気和菓子は、凝固剤又は増粘剤の凝固温度よりも5〜50℃高い温度で、さらに好ましくは5〜30℃高い温度で撹拌含気処理が行なわれて作製されることが好ましい。
【0019】
本発明に係る含気和菓子は、このように水分活性を高く調整することができるので、エネルギーが100g当たり100kcal以下に調整することも容易にできる。
【0020】
また、本発明に係る含気和菓子は、冷凍した状態で食することができる。本発明に係る含気和菓子は、甘味が抑えられており、水分活性が0.90〜0.95であるが、比重が0.35〜0.55に調整されてオーバーランが行なわれているので、凝固剤の効果により冷凍変性することはない。このため、スプーン通りが良く、凝固温度が高くてもアイスクリームとの比熱が小さく、アイスクリームと接触させてもアイスクリームが溶け出すことは少ない。
【実施例】
【0021】
実験例1
次に、従来の鳳瑞の糖度や寒天濃度を変化させた場合の気泡の分離について観察した。すなわち、表1に示す配合で乾燥卵白(粉末卵白、サンキララHW、太陽化学(株)製)、グラニュー糖、及び粉末寒天(伊那食品工業(株)製、伊那寒天Z−10)を変化させて比較態様1乃至5に係る淡雪を作製し、さらにそれらにキサンタンガム(V−10、伊那食品工業(株)製)及び乳ペプチド(ペプチドC−800、森永乳業(株)製)を加えて実施態様1に係る淡雪を作製した。これら実施態様1、並びに比較態様1乃至5に係る淡雪は、これら粉末を混合し、80℃の熱水に溶解させ、その後、75℃でミキサー(アイコーミキサー、株式会社愛工舎製作所製)に移し、ホイッパーを用いて高速撹拌にて50℃になるまで気泡させることによって作製した。
【0022】
【表1】

【0023】
これら実施態様1、並びに比較態様1乃至5に係る淡雪について、撹拌前の粘度及び5分間撹拌後の比重を測定し、気泡と水の分離を観察した。粘度の測定は、B型粘時計(芝浦システム(株))によって行い、比重の測定は、それぞれを100ccカップに入れて表面をすり切った重量を測定することによって行なった。これらの結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2から明らかなように、従来の淡雪は、糖度や寒天濃度を下げると気泡と液が分離してしまうが、増粘剤としてキサンタンガムを添加し、起泡剤として乳ペプチドと添加することによって、気泡と液の分離を防止することができた。また、これらの食感について、10名のパネラーによって官能試験を行なったところ、比較態様1及び2は、固く口どけが悪く好ましい食感ではないが、実施態様1は、軽い好ましい食感であるという結果を得た。
【0026】
実験例2
次に、比較態様1に係る淡雪のグラニュー糖の量を70%に変更して比較態様6に係る鳳瑞を作製し、また、実施態様1に係る淡雪のグラニュー糖の量を30%に変化したものを実施態様2とし、50%に変化したものを実施態様3として同様に作製した。実施態様1乃至3に係る淡雪、比較態様1及び6に係る淡雪の比重及び水分活性を測定した。水分活性値は、水分活性測定器(EZ−100、フロイント産業(株)製)を用いて測定した。その結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
実験例3
次に、表4に示すように、上記実施態様1に係る淡雪の他に凝固剤や増粘剤の種類や添加量を変化させて、また乳ペプチド(ペプチドC−800、森永乳業(株)製)の添加量を変化させたり、また大豆ペプチド(不二製油(株)製、ハイニート DC−7)を使用して、実施態様4乃至10に係る淡雪を同様に作製した。
【0029】
【表4】

【0030】
これら実施態様1、4乃至10に係る淡雪について、実験例2と同様に比重及び水分活性値の測定を行なった。
【0031】
【表5】

【0032】
実施例4
次に、実施態様1に係る淡雪と同様の原料で熱水の温度を60〜100℃に変化させて淡雪を作製した。これらについて比重及び水分活性値を実験例2と同様に測定した。その結果を表6に示す。
【0033】
【表6】

【0034】
表6に示すように、熱水の温度が90℃を超えると、比重が0.50を超えることが分かる。
【0035】
実施例1及び2
次に、表3に示す配合で寒天(伊那寒天マックス、伊那食品工業(株)製)、乾燥卵白(キューピー(株)製)、乳蛋白(森永乳業(株)製)、キサンタンガム(V−10、伊那食品工業(株)製)又はカラギナン(E−150、伊那食品工業(株)製)、砂糖及びトレハオースを混合し、80℃の熱水に溶解させ、その後、75℃でミキサー(アイコーミキサー、株式会社愛工舎製作所製)に移し、ホイッパーを用いて高速撹拌にて50℃になるまで気泡させることによって実施例1及び2に係る含気和菓子を作製した。また、表7に示す配合で同様に比較例1に係る含気和菓子を作製した。これら実施例1及び2、並びに比較例1に係る含気和菓子について、それぞれを100ccカップに入れて表面をすり切った重量を測定することによって、比重を測定した。また、これらの水分活性値を実験例2と同様に測定した。これらの結果を表8に示す。さらに、これら実施例1及び2、並びに比較例1に係る含気和菓子を容器に充填して静置したところ、比較例1に係る含気和菓子だけ気泡と液の分離があった。
【0036】
【表7】

【0037】
【表8】

【0038】
また、実施例1及び2に係る含気和菓子を冷凍凝固後に試食することによって官能試験を行なったところ、非常に軽く従来にない新しい食べ易い食感であるとの評価を得た。
【0039】
またさらに、実施例1に係る含気和菓子を−20℃のアイスクリーム上を移動させて、アイスクリーム上の移動させた軌跡を観察したところ、アイスクリームの表面が溶け出すことはなかった。
【0040】
さらに、実施例1に係る含気和菓子を−30℃まで冷却して観察したところ、スプーンの通りは良く、また可食温度である−20〜−15℃でも食べ易い食感であった。その上、室温下に置かれたときにも溶け出しはみられず、加えてアイスクリームの上層に乗せることでアイスクリームの溶け出しも遅くなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝固剤及び増粘剤の少なくとも1以上、起泡剤、並びに糖質を原料とし、これら原料を熱水に混ぜて撹拌することによって気泡を生じさせた和菓子であって、水分活性が0.90〜0.95であり、比重が0.35〜0.55に調整されたことを特徴とする含気和菓子。
【請求項2】
前記起泡剤には、卵白、小麦由来蛋白、大豆由来蛋白、乳由来蛋白、小麦由来ペプチド、大豆由来ペプチド及び乳由来ペプチドの少なくとも1以上が含まれていることを特徴とする請求項1記載の含気和菓子。
【請求項3】
前記凝固剤には、寒天、カラギナン、ファーセレラン及びジェランガムのうち少なくとも1以上が含まれていることを特徴とする請求項1又は2記載の含気和菓子。
【請求項4】
前記増粘剤には、タマリンドガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、澱粉、ペクチン及び大豆多糖類のうち少なくとも1以上が含まれていることを特徴とする請求項1又は2記載の含気和菓子。
【請求項5】
前記熱水の温度は、前記凝固剤又は増粘剤の凝固温度よりも5〜50℃高い温度であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の含気和菓子。
【請求項6】
冷凍されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の含気和菓子。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれか記載の含気和菓子の前記原料を粉末状態で含み、熱湯に混ぜて撹拌して気泡を生じさせることによって前記含気和菓子を作製することが可能な含気和菓子の素。
【請求項8】
凝固剤及び増粘剤の少なくとも1以上、起泡剤、並びに糖質を原料とし、これら原料を熱水に混ぜて撹拌することによって気泡を生じさせて、水分活性を0.90〜0.95、比重を0.35〜0.55に調整することを特徴とする含気和菓子の製造方法。
【請求項9】
前記熱水の温度は、前記凝固剤又は増粘剤の凝固温度よりも5〜50℃高い温度であることを特徴とする請求項8記載の含気和菓子の製造方法。

【公開番号】特開2007−312718(P2007−312718A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147480(P2006−147480)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】