説明

含水ゲル積層体の製造方法および含水ゲル積層体

【課題】アニオン性高分子の不本意な凝集を防止し、高pH領域においてゲル強度に優れた含水ゲル積層体を製造することが可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の含水ゲル積層体の製造方法は、基板上に含水ゲル層が積層された含水ゲル積層体の製造方法であって、水と、塩基性物質と、数平均分子量40万以上200万未満の第1のアニオン性高分子とを含む第1の液体を調製する第1の液体調製工程と、多価アルコールと、架橋剤と、数平均分子量200万以上800万以下の第2のアニオン性高分子とを含み、実質的に水を含まない第2の液体を調製する第2の液体調製工程と、前記第1の液体と前記第2の液体とを混合し、pH9〜13の含水ゲル層形成用液体を調製する含水ゲル層形成用液体調製工程と、前記含水ゲル層形成用液体を前記基板上に塗布し、前記含水ゲル層を形成する含水ゲル層形成工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水ゲル積層体の製造方法および含水ゲル積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
支持体(基板)上に、水溶性高分子を架橋して水を含有させることにより得られた含水ゲルを層状に積層した含水ゲル積層体が知られている。この含水ゲル積層体は、医療目的や化粧品の材料として広く用いられている。
【0003】
上記の用途の中でも、除毛剤等のように含水ゲルを高アルカリ領域に調整して用いる場合がある。例えば、含水ゲルを除毛剤に適用する場合、含水ゲルは、体毛のイオン結合を緩めるため、pHが11〜13の高アルカリ領域であることが必要であり、また、体毛の水素結合を緩めるため、含水率が60質量%以上である必要がある。また、高アルカリ領域での水溶性高分子の水への溶解性を考慮して、水溶性高分子としてアニオン性高分子を用いる必要がある。
【0004】
ところで、一般に、含水ゲル積層体の含水ゲルは、水溶性高分子と架橋剤とを水に溶解させて、水溶性高分子を架橋させることにより調製されている。しかしながら、除毛剤等のように含水ゲルのpHを高アルカリ領域に調整して用いる場合、架橋剤の効果が低下してしまい、十分なゲル強度の含水ゲルが得られなかった。また、十分なゲル強度を得るために、高分子量の水溶性高分子を多量に添加することも考えられるが、調製時に、水溶性高分子と架橋剤との反応が急速に進行し、局所的な水溶性高分子の凝集が起こり、均一な含水ゲルを得ることができなかった。その結果、製品間においてゲル強度にばらつきが生じてしまうといった問題があった。また、急激な粘度上昇が起こり、加工性が低下するといった問題があった。
【0005】
水溶性高分子と架橋剤との急速な反応による局所的な水溶性高分子の凝集を防止するために、アニオン性高分子(水溶性高分子)と水とを含むA液と、架橋剤とpH調整剤と水とを含むB液とを調製し、これらを特殊な装置を用いて混合してゲル状組成物を得、そして、混合から連続的に塗布を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、A液中に高分子量のアニオン性高分子を十分な量添加することができず、その結果、十分なゲル強度のゲル組成物を得ることが困難であった。また、特殊な装置を用いるため、上記方法で含水ゲル積層体を製造しようとした場合、新たな設備投資が必要で、既存の設備を利用して含水ゲル積層体を製造するのが困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−145895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アニオン性高分子の不本意な凝集を防止し、高pH領域においてゲル強度に優れた含水ゲル積層体を製造することが可能な製造方法および高pH領域においてゲル強度に優れた含水ゲル積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(5)の本発明により達成される。
(1) 基板上に含水ゲル層が積層された含水ゲル積層体の製造方法であって、
水と、塩基性物質と、数平均分子量40万以上200万未満の第1のアニオン性高分子とを含む第1の液体を調製する第1の液体調製工程と、
多価アルコールと、架橋剤と、数平均分子量200万以上800万以下の第2のアニオン性高分子とを含み、実質的に水を含まない第2の液体を調製する第2の液体調製工程と、
前記第1の液体と前記第2の液体とを混合し、pH9〜13の含水ゲル層形成用液体を調製する含水ゲル層形成用液体調製工程と、
前記含水ゲル層形成用液体を前記基板上に塗布し、前記含水ゲル層を形成する含水ゲル層形成工程とを有し、かつ、
前記含水ゲル層形成用液体調製工程において、前記第1の液体と前記第2の液体との混合は、前記第1の液体中における前記第1のアニオン性高分子の含有量をW、前記第2の液体中における前記第2のアニオン性高分子の含有量をWとしたとき、50/50<W/W≦75/25となるように行うことを特徴とする含水ゲル積層体の製造方法。
【0010】
(2) 前記第2の液体中における前記第2のアニオン性高分子の含有量をW、前記第2の液体中における多価アルコールの含有量をWとしたとき、10/90≦W/W≦35/65の関係を満足する上記(1)に記載の含水ゲル積層体の製造方法。
【0011】
(3) 前記第2のアニオン性高分子の数平均分子量と、前記第1のアニオン性高分子の数平均分子量との差は、50万〜500万である上記(1)または(2)に記載の含水ゲル積層体の製造方法。
【0012】
(4) 前記第1の液体、前記第2の液体、前記含水ゲル層形成用液体のうち、少なくとも1つにチオール化合物を添加することにより、前記含水ゲル層のpHを11〜13に調整する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の含水ゲル積層体の製造方法。
【0013】
(5) 上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする含水ゲル積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アニオン性高分子の不本意な凝集を防止し、高pH領域においてゲル強度に優れた含水ゲル積層体を製造することが可能な製造方法を提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、製造される含水ゲル積層体間において、ゲル強度のばらつきが発生するのを防止することができる。
【0016】
また、本発明によれば、特殊な装置を必要とせずに、既存の装置を用いて、容易に製造可能な含水ゲル積層体の製造方法を提供することができる。
【0017】
また、本発明によれば、高pH領域においてゲル強度に優れた含水ゲル積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
≪含水ゲル積層体≫
まず、含水ゲル積層体について説明する。
【0019】
含水ゲル積層体は、医療目的や化粧品の材料として広く用いられるものであり、基板(支持体)上に、必要により中間層を介して含水ゲル層を積層した構成となっている。
【0020】
基板は、含水ゲル層を支持する機能を有しており、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムやポリメチルペンテンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、アルミニウム、ステンレス等の金属箔、グラシン紙、上質紙、コート紙、含浸紙、合成紙等の紙、これら紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートした紙等で構成されている。
【0021】
基板の平均厚さは、特に限定されないが、5〜300μmであるのが好ましく、10〜200μmであるのがより好ましい。
【0022】
含水ゲル層は、後述するような本発明の製造方法により形成されるものであり、架橋されたアニオン性高分子(水溶性のアニオン性高分子)と水と塩基性物質とを含むものである。なお、塩基性物質、アニオン性高分子については後に詳述する。
【0023】
また、含水ゲル層は、そのpHが9〜13を示すものである。特に、含水ゲル積層体を除毛の目的で用いる場合、そのpHは、11〜13であるのが好ましい。
【0024】
また、含水ゲル層の含水率は、60質量%以上であるのが好ましく、60〜75質量%であるのがより好ましい。これにより、例えば、含水ゲル積層体を除毛の目的で用いた際に、体毛の水素結合を効果的に緩めることができる。
【0025】
また、含水ゲル層の平均厚さは、100〜4000μmであるのが好ましく、200〜2000μmであるのがより好ましい。
【0026】
≪含水ゲル積層体の製造方法≫
次に、本発明の含水ゲル積層体の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の含水ゲル積層体の製造方法は、水に、少なくとも塩基性物質と数平均分子量40万以上200万未満の第1のアニオン性高分子とを溶解させ、第1の液体を調製する第1の液体調製工程と、多価アルコールに、少なくとも架橋剤と数平均分子量200万以上800万以下の第2のアニオン性高分子とを分散させ、実質的に水を含まない第2の液体を調製する第2の液体調製工程と、得られた第1の液体と第2の液体とを混合し、含水ゲル層形成用液体を調製する含水ゲル層形成用液体調製工程と、得られた含水ゲル層形成用液体を基板(支持体)上に塗布し、含水ゲル層を形成する含水ゲル層形成工程とを有している。
【0028】
[第1の液体調製工程]
まず、第1の液体の調製について説明する。
【0029】
本工程では、水に、少なくとも、塩基性物質と数平均分子量40万以上200万未満の第1のアニオン性高分子とを溶解させ、第1の液体を調製する(第1の液体調製工程)。
【0030】
塩基性物質は、形成する含水ゲル層のpHを9〜13の範囲に調整する目的で添加する成分である。また、後述する数平均分子量40万以上200万未満の第1のアニオン性高分子の水への溶解性を高める効果を有している成分でもある。
【0031】
塩基性物質としては、特に限定されず、例えば、一般にpH調整剤として用いられている金属の水酸化物やアミン等が挙げられる。これらの中でも、入手のしやすさ、少ない添加量でpHを調整可能なことから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いるのが好ましい。
【0032】
後述する含水ゲル層形成用液体中に含まれる塩基性物質の含有量は、0.5〜10質量%であるのが好ましく、1〜5質量%であるのがより好ましい。
【0033】
数平均分子量40万以上200万未満の第1のアニオン性高分子は、水に溶解した状態で後述する架橋剤と反応することにより、形成する含水ゲル層のゲル強度を補足することができる成分である。
【0034】
ところで、一般に、含水ゲル積層体の含水ゲルは、水溶性高分子と架橋剤とを水に溶解させて、水溶性高分子を架橋させることにより調製されるが、除毛剤等のように含水ゲルのpHを高アルカリ領域に調整して用いる場合、架橋剤の効果が低下してしまい、十分なゲル強度の含水ゲル層を形成できないといった問題があった。このような問題を解決するために、比較的高い分子量(分子量200万以上)のアニオン性高分子を多量に添加してゲル強度を得ようとした場合、調製時に、高分子量のアニオン性高分子と架橋剤との反応が急速に進行し、局所的な高分子の凝集が起こり、均一な含水ゲルを得ることができないといった問題があった。このため、高分子量のアニオン性高分子を水に添加できる量には限界があり、均一な含水ゲルを得ようとした場合、ゲル強度を十分なものとするのが困難であった。
【0035】
これに対して、本発明では、上記のような中程度の分子量のアニオン性高分子(第1のアニオン性高分子)と後述する高分子量のアニオン性高分子(第2のアニオン性高分子)とを併用することにより、所望のゲル強度とすることができる。
【0036】
また、第1の液体中に上記のような分子量の第1のアニオン性高分子を含ませておくことにより、後述する含水ゲル層形成用液体調整工程において、第1の液体と第2の液体とを混合した際に、後述する高分子量の第2のアニオン性高分子が水に急速に溶解するのを防止することができる。その結果、架橋剤と第2のアニオン性高分子との反応が急速に進行するのを防止することができ、局所的な第2のアニオン性高分子の凝集を防止することができ、均一な含水ゲル層を形成することができる。また、特殊な装置を用いなくても、局所的な第2のアニオン性高分子の凝集を防止することができ、均一な含水ゲル層を形成することができる。
【0037】
第1のアニオン性高分子の数平均分子量は、40万以上200万未満であるが、70万〜150万であるのが好ましく、80万〜120万であるのがより好ましい。これにより、後述する含水ゲル層形成用液体調整工程において、第2のアニオン性高分子が水に急速に溶解するのをより効果的に防止することができるとともに、得られる含水ゲル層のゲル強度をより好適なものとすることができる。これに対して、第1のアニオン性高分子の数平均分子量が小さすぎると、十分なゲル強度を得ることができない。また、後述する高分子量の第2のアニオン性高分子が水に急速に溶解するのを防止することが困難となり、局所的な第2のアニオン性高分子の凝集を防止することができない。一方、第1のアニオン性高分子の数平均分子量が大きすぎると、水と混合する際に凝集物が生じ、均一な含水ゲル層を形成することができない。
【0038】
第1のアニオン性高分子としては、例えば、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸およびこれらの塩等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。塩とは、上記高分子とカチオン、例えばアルカリ金属イオン(例えばナトリウム、カリウムもしくはリチウムイオン)、アルカリ土類金属イオン、またはアンモニウムイオンもしくはテトラアルキルアンモニウムイオンとの塩を意味する。上述した中でも、中和(塩形成)していないもの、すなわち非中和物を用いるのが好ましい。非中和物は、第1の液を調製する際に、塩基性物質によって中和が行われるため、水への溶解性が特に高い。また、特に非中和物の中でも、ポリアクリル酸は、入手が容易であるとともに、ゲル形成が容易であるため、好適に用いることができる。
【0039】
なお、第1のアニオン性高分子は、水への溶解性を損なわないものであれば、架橋体であってもよい。
【0040】
第1の液体中における第1のアニオン性高分子の含有量は、2〜5質量%であるのが好ましく、3〜4質量%であるのがより好ましい。これにより、得られる含水ゲル層のゲル強度をより好適なものとすることができる。また、後述する含水ゲル層形成用液体調整工程において、第1の液体と第2の液体とを混合した際に、第2のアニオン性高分子が水に急速に溶解するのをより効果的に防止することができ、局所的な第2のアニオン性高分子の凝集を防止することができる。
【0041】
また、第1の液体中における水の含有量は、80〜95質量%であるのが好ましく、90〜95質量%であるのがより好ましい。
【0042】
上記成分を水に添加する順番としては、まず、塩基性物質を水に溶解させた後に、第1のアニオン性高分子を添加するのが好ましい。これにより、第1のアニオン性高分子をより均一に溶解させることができる。
【0043】
上記のようにして得られた第1の液体の25℃において測定される粘度は、1000〜20000mPa・sであるのが好ましく、5000〜15000mPa・sであるのがより好ましい。これにより、後述する含水ゲル層形成用液体調整工程において、第1の液体と第2の液体とをより容易に混合することができ、均一な組成の含水ゲル層をより確実に形成することができる。
【0044】
第1の液体の調製に用いる装置としては、例えば、一般的なディスパー、ホモミキサー、パドルミキサー、ニーダー等を用いることができる。
【0045】
[第2の液体調製工程]
次に、第2の液体の調製について説明する。
【0046】
本工程では、多価アルコールに、少なくとも架橋剤と数平均分子量200万以上800万以下の第2のアニオン性高分子とを分散させて第2の液体を調製する(第2の液体調製工程)。
【0047】
本工程で得られる第2の液体は、実質的に水を含まないものである。このように水を含まないことにより、第2の液体中において、比較的高分子量の第2のアニオン性高分子が不本意に凝集するのを防止することができる。その結果、均一な組成の含水ゲル層を形成することができる。なお、実質的に水を含まないとは、第2の液体中に含まれる水の含有量が10000ppm以下のことを言う。
【0048】
多価アルコールは、第2のアニオン性高分子を分散する機能を有する成分である。また、このように第2のアニオン性高分子を多価アルコールで分散することにより、第1の液体と第2の液体とを混合した際に、第2のアニオン性高分子が不本意に凝集するのを効果的に防止することができる。また、多価アルコールは、含水ゲル積層体中において、保湿剤として働く成分でもある。
【0049】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述した中でも、グリセリンは、適度な粘度を有しているため、第2のアニオン性高分子を好適に分散することができる。また、グリセリンは、水との親和性が高く、後述する含水ゲル層形成用液体調製工程において、第1の液体と第2の液体との混合をより円滑に行うことができる。
【0050】
第2の液体中における多価アルコールの含有量は、60〜90質量%であるのが好ましく、65〜80質量%であるのがより好ましい。これにより、第2のアニオン性高分子、架橋剤をより確実に分散することができる。また、第2の液体の粘度をより好適なものとすることができる。
【0051】
第2のアニオン性高分子は、数平均分子量が200万以上800万以下であり、分子量が高い成分である。また、第2のアニオン性高分子は、水に溶解した状態で後述する架橋剤と反応することによりゲル化する成分である。
【0052】
ところで、高アルカリ領域において、ゲル強度を高いものとするために、このような高分子量のアニオン性高分子を多量に添加しようとすると、調製時に、アニオン性高分子と架橋剤との反応が急速に進行し、局所的なアニオン性高分子の凝集が起こり、均一な含水ゲルを得ることができなかった。
【0053】
これに対して、本発明では、前述したような中程度の分子量の第1のアニオン性高分子と、高分子量の第2のアニオン性高分子とを併用することにより、高分子量の第2のアニオン性高分子をあまり多量に用いなくても、十分なゲル強度を発現させることができる。
【0054】
さらに、第1の液体は、水に第1のアニオン性高分子が溶解したものであるので、第1の液体と第2の液体とを混合した際に、第2のアニオン性高分子の水への急速な溶解が防止され、その結果、架橋剤と第2のアニオン性高分子とが急速に反応するのが防止される。このため、単なる水(第1のアニオン性高分子が溶解していない水)に第2のアニオン性高分子を添加できる量(局所的な凝集を生じない程度の量)よりも、多くの第2のアニオン性高分子を添加することができる。その結果、形成される含水ゲル層は優れたゲル強度を有するものとなる。
【0055】
第2のアニオン性高分子の数平均分子量は、200万以上800万以下であるが、300万〜700万であるのが好ましく、400万〜600万であるのがより好ましい。これにより、得られる含水ゲル層のゲル強度をより好適なものとすることができる。これに対して、第2のアニオン性高分子の数平均分子量が小さすぎると、十分なゲル強度を得ることができない。一方、第2のアニオン性高分子の数平均分子量が大きすぎると、台1の液体と第2の液体とを混合した際に、第2のアニオン性高分子の局所的な凝集が生じ、均一な組成の含水ゲル層を形成することができない。
【0056】
また、第2のアニオン性高分子の数平均分子量と、前述した第1のアニオン性高分子の数平均分子量との差は、50万〜500万であるのが好ましく、300万〜500万であるのがより好ましい。これにより、第1の液体と第2の液体とを混合した際に、第2のアニオン性高分子の局所的な凝集を効果的に防止しつつ、得られる含水ゲル層のゲル強度をより好適なものとすることができる。
【0057】
第2のアニオン性高分子としては、例えば、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸およびこれらの塩等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。塩とは、上記高分子とカチオン、例えばアルカリ金属イオン(例えばナトリウム、カリウムもしくはリチウムイオン)、アルカリ土類金属イオン、またはアンモニウムイオンもしくはテトラアルキルアンモニウムイオンとの塩を意味する。上述した中でも、ポリアクリル酸のアルカリ金属イオンとの塩は、入手が容易であり、多価アルコールへの分散性に優れるとともに、より優れたゲル強度を発現するため、好適に用いることができる。
【0058】
第2の液体中における第2のアニオン性高分子の含有量は、10〜35質量%であるのが好ましく、20〜35質量%であるのがより好ましい。これにより、得られる含水ゲル層のゲル強度をより好適なものとすることができる。また、後述する含水ゲル層形成用液体調整工程において、第1の液体と第2の液体とを混合した際に、第2のアニオン性高分子の局所的な凝集をより効果的に防止することができる。
【0059】
また、第2の液体中における第2のアニオン性高分子の含有量をW、第2の液体中における多価アルコールの含有量をWとしたとき、10/90≦W/W≦35/65の関係を満足するのが好ましく、25/75≦W/W≦35/65の関係を満足するのがより好ましい。これにより、所望のゲル強度を得るのに十分な量の第2のアニオン性高分子を多価アルコールに分散させることができるとともに、第1の液体と第2の液体とを混合した際に、第2のアニオン性高分子の局所的な凝集をより効果的に防止することができる。
【0060】
架橋剤は、水に溶解することにより、水に溶解したアニオン性高分子(第1および第2のアニオン性高分子)の架橋を促進するための成分である。
【0061】
第2の液体中における架橋剤の含有量は、0.1〜2質量%であるのが好ましく、0.2〜1質量%であるのがより好ましい。これにより、アニオン性高分子をより確実に架橋させることができ、含水ゲル層のゲル強度を優れたものとすることができる。
【0062】
架橋剤としては、例えば、ケイ酸アルミニウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノ酢酸、アラントインジクロロアルミニウム、アルジオキサ、酸化アルミニウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ジヒドロキシアルミニウムアミノ酢酸、アラントインジクロロアルミニウム、アルジオキサは、架橋反応の進行が緩やかで、加熱等の外的要因によって架橋反応が促進されるため、本発明に好適に用いることができる。
【0063】
上記のようにして得られた第2の液体の25℃において測定される粘度は、500〜10000mPa・sであるのが好ましく、1000〜8000mPa・sであるのがより好ましい。これにより、後述する含水ゲル層形成用液体調整工程において、第1の液体と第2の液体とをより容易に混合することができ、均一な組成の含水ゲル層をより確実に形成することができる。
【0064】
第2の液体の調製に用いる装置としては、例えば、一般的なディスパー、ホモミキサー、パドルミキサー、ニーダー等を用いることができる。
【0065】
[含水ゲル層形成用液体調製工程]
次に、上記のようにして得られた第1の液体と第2の液体とを混合し、含水ゲル層形成用液体を調製する(含水ゲル層形成用液体調製工程)。この際に、架橋剤とアニオン性高分子とが架橋反応が進行し、ゲル化する。
【0066】
第1の液体と第2の液体との混合は、前記第1の液体中における前記第1のアニオン性高分子の含有量をW、前記第2の液体中における前記第2のアニオン性高分子の含有量をWとしたとき、50/50<W/W≦75/25となるように行う。より好ましくは、52/48≦W/W≦72/28となるように行う。これにより、形成される含水ゲル層のゲル強度を特に好適なものとすることができる。
【0067】
本工程において、第1の液体と第2の液体との混合は、いかなる方法によって行ってもよいが、攪拌した状態の第1の液体に対して、第2の液体を徐々に添加することにより行うのが好ましい。これにより、第2のアニオン性高分子の局所的な凝集をより効果的に防止することができる。
【0068】
含水ゲル層形成用液体の25℃において測定される粘度は、10000〜50000mPa・sであるのが好ましく、10000〜30000mPa・sであるのがより好ましい。これにより、後述する含水ゲル層形成工程において、含水ゲル層形成用液体を容易に塗布することができる。また、形成される含水ゲル層の厚さを容易に調整することができる。
【0069】
第1の液体と第2の液体との混合に用いる装置としては、例えば、一般的なディスパー、ホモミキサー、パドルミキサー、ニーダー等を用いることができる。
【0070】
[含水ゲル層形成工程]
次に、得られた含水ゲル層形成用液体を基板上に塗布する。
【0071】
塗布に用いる装置としては、例えば、押出成型機、ロールコーター、ナイフコーター、ダイコーター等の一般的な塗布装置を用いることができる。
【0072】
塗布により形成された塗膜をそのまま含水ゲル層としてもよいし、塗膜に対して加熱処理を施したものを含水ゲル層としてもよい。
【0073】
形成された塗膜に対して加熱処理を施すことにより含水ゲル層を形成する場合、含水ゲル層の含水率を調整することができる。また、含水ゲル層形成用液体内における架橋反応を確実に進行させることができ、含水ゲル層のゲル強度をより向上させることができる。
【0074】
加熱処理の方法は、特に限定されず、例えば、熱風を吹き付ける方法、高周波、マイクロ波、遠赤外線等を照射する方法等が挙げられる。
加熱温度は、80〜180℃程度であるのが好ましい。
【0075】
なお、得られる含水ゲル積層体を除毛剤として用いる場合、上記のような第1の液体、第2の液体および含水ゲル層形成用液体のうちの少なくとも1つにチオール化合物を添加することにより、含水ゲル層のpHを11〜13に調整してもよい。
【0076】
チオール化合物としては、例えば、チオグリコール酸、チオグリコール酸の金属塩、システイン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
以上のようにして、基板上に含水ゲル層が形成され、本発明の含水ゲル積層体が得られる。
【0078】
以上、本発明の含水ゲル積層体の製造方法および含水ゲル積層体の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、第1の液体は、塩基性物質と第1のアニオン性高分子とを含む混合物に水を添加することにより調製されるものであってもよい。
【0079】
また、第2の液体は、架橋剤と第2のアニオン性高分子とを含む混合物に多価アルコールを添加することにより調製されるものであってもよい。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の含水ゲル積層体の製造方法の具体的実施例について説明する。
1.含水ゲル形成用液体の調製
(実施例1)
[第1の液体の調製]
まず、第1のアニオン性高分子としての数平均分子量100万のポリアクリル酸:3質量部、塩基性物質としての水酸化ナトリウム:2質量部、チオール化合物としてのチオグリコール酸:1.4質量部、精製水:88質量部を用意した。
【0081】
次に、精製水に、水酸化ナトリウム、チオグリコール酸、数平均分子量100万のポリアクリル酸を順に添加し、攪拌・溶解させて、第1の液体を得た。
【0082】
[第2の液体の調製]
一方、第2のアニオン性高分子としての数平均分子量440万のポリアクリル酸ナトリウム:1.5質量部、架橋剤としてのジヒドロキシアルミニウムアミノ酢酸:0.33質量部およびケイ酸アルミニウム:0.04質量部、多価アルコールとしてのグリセリン:3.73質量部を用意した。
【0083】
次に、グリセリンに、架橋剤、数平均分子量440万のポリアクリル酸ナトリウムを順に添加し、攪拌混合し、第2の液体を得た。
【0084】
[含水ゲル層形成用液体の調製]
次に、ホモミキサー内に得られた第1の液体を投入し、攪拌した状態の第1の液体に、第2の液体を徐々に添加し、均一に混合して、含水ゲル層形成用液体を得た。
【0085】
(実施例2〜7)
各添加成分の種類、配合量を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして含水ゲル形成用液体を調製した。
【0086】
(比較例1)
第2のアニオン性高分子を使用せず、各添加成分の種類、配合量を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして含水ゲル形成用液体を調製した。
【0087】
(比較例2)
第1のアニオン性高分子を使用せず、各添加成分の種類、配合量を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして含水ゲル形成用液体を調製した。
【0088】
[第1の液体の調製]
まず、塩基性物質としての水酸化ナトリウム:2質量部、チオール化合物としてのチオグリコール酸:1.4質量部、精製水:90.25質量部を用意した。
【0089】
次に、精製水に、水酸化ナトリウム、チオグリコール酸を順に添加し、攪拌・溶解させて、第1の液体を得た。
【0090】
[第2の液体の調製]
一方、第2のアニオン性高分子としての数平均分子量440万のポリアクリル酸ナトリウム:2.25質量部、架橋剤としてのジヒドロキシアルミニウムアミノ酢酸:0.33質量部およびケイ酸アルミニウム:0.04質量部、多価アルコールとしてのグリセリン:3.73質量部を用意した。
【0091】
次に、グリセリンに、架橋剤、数平均分子量440万のポリアクリル酸ナトリウムを順に添加し、攪拌混合し、第2の液体を得た。
【0092】
[含水ゲル層形成用液体の調製]
次に、攪拌した状態の得られた第1の液体:95.9質量部に、第2の液体:4.1質量部を徐々に添加したが、第2のアニオン性高分子の局所的な凝集が生じてしまい、均一な組成の含水ゲル層形成用液体が得られなかった。
【0093】
(比較例3)
表1に示す処方により、前記実施例1と同様にして、含水ゲル層形成用液体の調製を試みたが、第1の液体の調製において、ポリアクリル酸の局所的な凝集が生じてしまい、均一な組成の第1の液体が得られず、さらに第2の液体を徐々に添加したが、均一な組成の含水ゲル層形成用液体が得られなかった。
【0094】
(比較例4)
表1に示す処方により、前記実施例1と同様にして、含水ゲル層形成用液体の調製を試みたが、第2のアニオン性高分子の局所的な凝集が生じてしまい、均一な組成の含水ゲル層形成用液体が得られなかった。
【0095】
(比較例5)
数平均分子量440万のポリアクリル酸ナトリウム:5.5質量部、数平均分子量100万のポリアクリル酸(15%水溶液):10質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム:0.9質量部、チオグリコール酸カルシウム:4.0質量部、グリセリン12.0重量部、合成ケイ酸アルミニウム:2質量部、精製水:45.6質量部をニーダーに仕込み、均一になるまで混合してA液(粘度約200000mPa・s)を得た。
【0096】
一方、水酸化ナトリウム(30%水溶液):5質量部、水酸化アルミニウム:0.1質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム:1質量部、精製水:13.9質量部を混合し、B液(粘度約100000mPa・s)を得た。
【0097】
A液およびB液を、ホモミキサー内に投入し攪拌・混合したが、粘度が高すぎて、均一な組成の含水ゲル層形成用液体が得られなかった。
【0098】
上記各実施例および各比較例での第1の液体の組成およびその配合量、第2の液体の組成および配合量等を表1にまとめた。
【0099】
表中、第1のアニオン性高分子を高分子A、第2のアニオン性高分子を高分子Bと示した。また、ポリアクリル酸をPA、ポリアクリル酸ナトリウムをPANaと示した。また、ジヒドロキシアルミニウムアミノ酢酸を架橋剤C、ケイ酸アルミニウムを架橋剤Dと示した。また、各実施例および比較例1における第1の液体、第2の液体および含水ゲル層形成用液体の25℃における粘度を、E型粘度計(東京計器工業社製)を用いて測定し、合わせて表1に示した。
【0100】
【表1】

【0101】
2.評価
[含水ゲル層形成用液体の混合均一性]
各実施例および各比較例で得られた含水ゲル層形成用液体を目視により観察し、均一に溶解している場合を○、凝集物が生じている場合を×とした。
【0102】
[含水ゲル層形成用液体の塗工性]
各実施例および各比較例で得られた含水ゲル層形成用液体を、調製後24時間静置して脱泡した。その後、ナイフコーターにより、加熱後の膜厚が500μmとなるように、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製の基板に塗布し、形成した含水ゲル層形成用液体の塗膜を目視により観察し、塗膜が均一であった場合を○、不均一であった場合を×とした。
【0103】
[含水ゲル層のゲル強度]
上記[含水ゲル層形成用液体の塗工性]において、各実施例および比較例1で得られた含水ゲル層形成用液体を用いて形成した各塗膜を、130℃で加熱して、基板上に含水ゲル層を形成し、含水ゲル積層体を製造した。各実施例および比較例1に対応する各含水ゲル積層体を3mm×3mmに裁断し、人工皮革に1kg荷重を掛けて貼付し、15分貼付した後、人工皮革を剥離した。このとき、含水ゲル層が人工皮革に移らなかった場合を○、含水ゲル層の一部が人工皮革側に移ったが移った含水ゲル層が半分以下であった場合を△、半分以上の含水ゲル層が人工皮革に移った場合を×とした。
【0104】
[除毛評価]
上記[含水ゲル層のゲル強度]において得られた各実施例および比較例1に対応する各含水ゲル積層体を3mm×3mmに裁断した。裁断した各含水ゲル積層体を、被験者の下腕部外側に15分間貼付した後、含水ゲル積層体を除去した。その後、水で濡らした織布で拭き取り、除去された体毛を目視により観察し、すべて除去された場合を○、半分以上除去された場合を△、除去された体毛が半分以下である場合を×とした。
これらの結果を、形成された含水ゲル層の含水率とともに表2に示した。
【0105】
また、各実施例および比較例1で得られた含水ゲル層形成用液体のpHを、東亜電波工業社製:pHメーターHM−60Vを用いて測定し、合わせて表2に示した。
【0106】
また、各実施例および比較例1で得られた含水ゲル層形成用液体を用いて形成された含水ゲル層の表面のpHを、東亜ディーケーケー社製:ポータブルpH計HM−20Pを用いて測定し、合わせて表2に示した。
【0107】
【表2】

【0108】
表2から明らかなように、実施例では、アニオン性高分子の不本意な凝集が防止されていた。また、本発明の方法により得られた含水ゲル積層体では、高pH領域においてもゲル強度に優れるものであった。また、実施例で得られた含水ゲル形成用液体は、均一な組成であるため、製造される含水ゲル積層体間においてもゲル強度のばらつきがなかった。これに対して、比較例では満足な結果が得られなかった。
【0109】
また、各実施例では、特殊な装置を用いずに、既存の装置を用いて、含水ゲル積層体を容易に製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に含水ゲル層が積層された含水ゲル積層体の製造方法であって、
水と、塩基性物質と、数平均分子量40万以上200万未満の第1のアニオン性高分子とを含む第1の液体を調製する第1の液体調製工程と、
多価アルコールと、架橋剤と、数平均分子量200万以上800万以下の第2のアニオン性高分子とを含み、実質的に水を含まない第2の液体を調製する第2の液体調製工程と、
前記第1の液体と前記第2の液体とを混合し、pH9〜13の含水ゲル層形成用液体を調製する含水ゲル層形成用液体調製工程と、
前記含水ゲル層形成用液体を前記基板上に塗布し、前記含水ゲル層を形成する含水ゲル層形成工程とを有し、かつ、
前記含水ゲル層形成用液体調製工程において、前記第1の液体と前記第2の液体との混合は、前記第1の液体中における前記第1のアニオン性高分子の含有量をW、前記第2の液体中における前記第2のアニオン性高分子の含有量をWとしたとき、50/50<W/W≦75/25となるように行うことを特徴とする含水ゲル積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の液体中における前記第2のアニオン性高分子の含有量をW、前記第2の液体中における多価アルコールの含有量をWとしたとき、10/90≦W/W≦35/65の関係を満足する請求項1に記載の含水ゲル積層体の製造方法。
【請求項3】
前記第2のアニオン性高分子の数平均分子量と、前記第1のアニオン性高分子の数平均分子量との差は、50万〜500万である請求項1または2に記載の含水ゲル積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の液体、前記第2の液体、前記含水ゲル層形成用液体のうち、少なくとも1つにチオール化合物を添加することにより、前記含水ゲル層のpHを11〜13に調整する請求項1ないし3のいずれかに記載の含水ゲル積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする含水ゲル積層体。

【公開番号】特開2009−62340(P2009−62340A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233355(P2007−233355)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】