説明

含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物、それを用いた絶縁電線及びその製造方法、並びに同軸ケーブル

【課題】高空孔率と均質な微細空孔とを有し、細径化・薄肉化を可能とした低誘電率多孔質薄膜層の形成材料として好適な含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物、それを用いた絶縁電線及びその製造方法、並びに同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに予め水を吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散させ、50%以上の含水率を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物において、紫外線硬化型樹脂組成物の吸水率が2%以下に調整された含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物、それを用いた絶縁電線及びその製造方法、並びに同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野を始めとする精密電子機器類や通信機器類の小型化や高密度実装化が進む中で、これらに使用される電線・ケーブルも益々細径化が図られている。更に、信号線等では、伝送信号のいっそうの高速化を求める傾向が顕著であり、信号線等に使用される電線の絶縁体層を薄肉化するとともに、可能な限り低誘電率化することで伝送信号の高速化を図ることが望まれている。
【0003】
この電線の絶縁層には、ポリエチレンやフッ素樹脂などの誘電率の低い絶縁材料を発泡させたものが使われている。この発泡絶縁層の形成には、予め発泡させたフィルムを導体上に巻付ける方法、導体上に発泡絶縁材料の溶融物を押出被覆する押出方式が知られており、特に押出方式が広く用いられている。
【0004】
発泡形成方法としては、物理的な発泡方法と化学的な発泡方法との2種類に大きく分けられる。物理的な発泡方法としては、液体フロンのような揮発性発泡用液体を溶融樹脂中に注入し、その気化圧により溶融樹脂を発泡させる方法、あるいは窒素ガス、炭酸ガスなどの気泡形成用ガスを押出機中の溶融樹脂に直接圧入させることで一様に分布した細胞状の微細な独立気泡体を溶融樹脂中に発生させる方法などがある。
【0005】
一方、化学的な発泡方法としては、溶融樹脂中に発泡剤を分散混合した状態で成形し、その後、熱を加えることにより発泡剤の分解反応を発生させ、分解により発生するガスを利用して発泡させる方法がある。
【0006】
上記押出方式に代わる薄肉被覆方式としては、エナメル線に代表される熱硬化型樹脂のコーティングや光ファイバの紫外線硬化型樹脂のコーティングなどのコーティング方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−62024号公報
【特許文献2】特開昭57−170725号公報
【特許文献3】特開平3−185063号公報
【特許文献4】特開平11−5863号公報
【特許文献5】特開平11−100457号公報
【特許文献6】特許第3717942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶融樹脂中に揮発性発泡用液体を注入する物理的な発泡方法では、気化圧が強く、気泡の微細形成や均質形成が困難となり、薄肉成形に限界があった。また、揮発性発泡用液体の注入速度が遅いために、高速の製造化が困難であり、生産性に劣るという問題もあった。
【0009】
押出機中で直接気泡形成用ガスを圧入する物理的な発泡方法においては、細径化や薄肉化には押出形成に限界があり、安全面で特別な設備や技術を必要とするため、生産性に劣ることや製造コストの高騰を招くという問題があった。
【0010】
フロン、ブタンや炭酸ガス等を用いる物理的な発泡方式においては、環境負荷が大きいという問題があり、化学発泡に用いる発泡剤は、価格が高いという問題があった。
【0011】
一方、化学的な発泡方法では、溶融樹脂中に発泡剤を予め混練し、分散混合し、成形加工後に、熱により発泡剤を反応分解させて発生したガスにより発泡させる。そのため、溶融樹脂の成形加工温度は、発泡剤の分解温度より低く保持しなければならないという問題があった。更には、素線の径が細くなると、押出被覆では樹脂圧により断線が起こりやすく、高速化が困難となるという問題をも有している。
【0012】
本発明の目的は、高空孔率と均質な微細空孔とを有し、細径化・薄肉化を可能とした低誘電率多孔質薄膜層の形成材料として好適な含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物、それを用いた絶縁電線及びその製造方法、並びに同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]上記目的を達成するため、第1の発明は、紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに予め水を吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散させ、50%以上の含水率を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物において、前記紫外線硬化型樹脂組成物の吸水率が2%以下に調整されたことを特徴とする含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物にある。
【0014】
[2]第2の発明は、上記[1]記載の紫外線硬化型樹脂組成物は、吸水率が2%以下であるポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマ、疎水性モノマ、光開始剤から少なくとも構成されてなり、当該樹脂組成物中のオリゴマは50〜80重量%、疎水性モノマは20〜50重量%、光開始剤は1〜10重量%でそれぞれ調整され、前記紫外線硬化型樹脂組成物の粘度が1〜10Pa・s(25℃)の範囲であることを特徴とする。
【0015】
[3]第3の発明は、上記[1]又は[2]記載の紫外線硬化型樹脂組成物には非イオン性の界面活性剤が添加されていることを特徴とする。
【0016】
[4]第4の発明は、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を導体の外周に被覆し、当該樹脂組成物を硬化させた後、その硬化させた樹脂組成物を加熱して樹脂組成物中の水分を除去し、絶縁層を形成したことを特徴とする絶縁電線にある。
【0017】
[5]第5の発明は、上記[4]記載の絶縁層の厚さが200μm以下であり、当該絶縁層の空孔率が50〜70%であることを特徴とする。
【0018】
[6]第6の発明は、上記[4]又は[5]記載の絶縁電線の外周にスキン層を設けたことを特徴とする。
【0019】
[7]第7の発明は、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を導体の外周に被覆し、当該樹脂組成物を硬化させ絶縁層を形成した後、加熱して前記絶縁層中の前記含水吸水性ポリマの水分を除去し、前記絶縁層の中に空孔を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法にある。
【0020】
[8]第8の発明は、上記[7]記載の加熱にマイクロ波加熱を用いることを特徴とする。
【0021】
[9]第9の発明は、上記[4]〜[6]のいずれかに記載の絶縁電線の外周に少なくとも金属を含むシールド体を設けたことを特徴とする同軸ケーブルにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、環境負荷が小さい低誘電率多孔質薄膜層の形成材料が簡単に得られるとともに、高空孔率であり、均質な微細空孔を有する細径・薄肉多孔質の絶縁電線及びその製造方法、並びに同軸ケーブルが容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る多孔質膜被覆電線を模式的に示す横断面図である。
【図2】本発明に係る多孔質膜被覆電線を用いた多層被覆ケーブルを模式的に示す横断面図である。
【図3】本発明に係る多孔質膜被覆電線を用いた同軸ケーブルを模式的に示す横断面図である。
【図4】本発明に係る多孔質膜被覆電線を用いた同軸ケーブルの他の一例を模式的に示す横断面図である。
【図5】本発明に係る典型的な実施例である含水吸水性ポリマ含有樹脂組成物により得られたフィルムを200倍に拡大した断面写真である。
【図6】本発明に係る典型的な実施例である含水吸水性ポリマ含有樹脂組成物に界面活性剤を添加して得られたフィルムを200倍に拡大した断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
(含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物)
この第1の実施の形態に係る含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型樹脂組成物の中に、吸水性ポリマに予め水を吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散させ、含水率50%以上を有している。
【0026】
吸水性ポリマとは、非常に良く水を吸い込み、保水力が強いため、多少の圧力を加えても、吸水した水を放出しない高分子物質であり、含水吸水性ポリマとは、吸水性ポリマに水を吸水させたものである。吸水性ポリマとしては、ナトリウムを含まず、吸水量が20g/g以上のものが好ましい。代表的なものとしては、ポリアルキレンオキサイド系樹脂が挙げられる。
【0027】
ナトリウムを含まないというのは、電気絶縁性を低下させる要因になりやすいためである。吸水量とは、吸水性ポリマ1gあたりに吸水される水の量(g)である。吸水量を20g/g以上とするのは、吸水量が20g/gより小さくなると、空孔形成効率が低くなり、吸水性ポリマを多く使用する必要があるためである。
【0028】
(吸水率)
紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線により硬化するものであれば、ウレタン系、シリコーン系、フッ素系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリカーボネート系などの各種の樹脂組成物を選択できるが、その樹脂組成物の吸水率が2%以下に疎水化されていることが好ましい。この吸水率は、JIS K7209「プラスチックの吸水率及び沸騰水吸水率試験方法」のA法に準拠して得られる値である。但し、試料厚さを210±20μmとした。
【0029】
紫外線硬化型樹脂組成物の吸水率を2%以下に調整するのは、吸水率が2%より高くなると、含水吸水性ポリマを分散させて含水率を50%以上とした際に、溶融樹脂成分が含水吸水性ポリマ中へ溶け込みやすく、含水吸水性ポリマ中の水が溶融樹脂中に溶け込みやすくなり、含水吸水性ポリマが独立して分散しにくくなり、海島構造の逆転が生じやすくなるためである。
【0030】
(含水率)
含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の含水率を50%以上に調整するのは、多孔質化による低誘電率効果を得るためである。紫外線硬化型樹脂組成物の誘電率としては、4以下、好ましくは3以下のものが好適である。ここで、含水率とは、含水吸水性ポリマを分散した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物中に占める水の割合である。
【0031】
(粘度)
紫外線硬化型樹脂組成物の好適な一例としては、吸水率が2%以下であるポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマ、疎水性モノマ、光開始剤からなる。その樹脂組成物中のオリゴマは50〜80重量%、疎水性モノマは20〜50質量%、光開始剤は1〜10重量%で調整されており、その樹脂組成物の25℃における粘度が1〜10Pa・sの範囲であることが好適である。
【0032】
吸水率が2%以下であるポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマとするのは、紫外線硬化型樹脂組成物の吸水率を2%以下とし、更に靭性と可とう性に優れ、曲げによるクラックが生じにくいものを得るためである。
【0033】
ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマの分子量としては、1000〜3000のものが好ましい。分子量が1000より小さいと、可とう性が得にくくなり、好ましくない。一方、分子量が3000より大きくなると、粘度が高くなり、取扱い性が低下し、含水吸水性ポリマの分散が低下するので好ましくない。
【0034】
疎水性モノマを用いるのは、紫外線硬化型樹脂組成物の吸水率を下げるためである。疎水性モノマとしては、特に限定するものではなく、例えばシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。光開始剤にあっても、特に規定するものではなく、例えば1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンなどの一般的な光開始剤を用いることができる。
【0035】
オリゴマの比率を50〜80重量%とするのは、50重量%より少なくなると、曲げや熱衝撃などによるクラックの発生が生じやすくなったり、脆くなったりするなどの問題があるためである。一方、80重量%より多くなると、紫外線硬化型樹脂組成物の粘度が高くなり、取扱い性や含水吸水性ポリマの分散が低下するなどの問題があるためである。
【0036】
疎水性モノマの比率を20〜50重量%とするのは、20重量%より少ないと、粘度が高くなり、含水吸水性ポリマの分散による多孔質層の形成が著しく低下するためである。一方、50重量%より多くなると、可とう性や機械的特性などの特性バランスを得にくくなるなどの問題があるためである。
【0037】
光開始剤の比率を1〜10重量%とするのは、1重量%より少ないと、硬化性が低下する問題があるためである。一方、10重量%より多くすると、添加量に対する硬化性付与効果が得られなくなり、機械的特性の低下などの問題が生じやすいためである。
【0038】
紫外線硬化型樹脂組成物の粘度を1〜10Pa・s(25℃)とするのは、その粘度が1Pa・sより低いと、コーティング時に膜厚が得にくくなる問題が生じやすくなり、10Pa・sより高いと、含水吸水性ポリマの分散がしにくく、多孔質層の形成が得られにくくなり、粘度を下げるために加温温度を高くする必要があるためである。また、加温温度が高いと、含水吸水性ポリマから水が揮散しやすく、温度を下げた際に、容器内壁面に結露が生じやすくなるという問題があるためである。
【0039】
紫外線硬化型樹脂組成物には、非イオン性の界面活性剤が添加されることが好適である。この非イオン性の界面活性剤を添加するのは、含水吸水性ポリマの分散を高め、含水率を高くするためである。
【0040】
非イオン性とするのは、電気絶縁性の低下を防ぐためである。非イオン性の界面活性剤としては、特に規定するものではないが、例えばフッ素系、シリコーン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。添加量としては、0.05〜3重量%が好ましい。
【0041】
非イオン性の界面活性剤の添加量が0.05重量%より少ないと、含水吸水性ポリマの分散効果が得にくくなるので好ましくない。一方、3重量%より多くなると、添加量に対する分散効果が得られなくなり、逆に分散が低下するなどの問題を有するので好ましくない。
【0042】
吸水膨潤させた吸水性ポリマを分散させるのは、吸水膨潤によりゲル状となった吸水性ポリマは水を多く含み、水と紫外線硬化型樹脂組成物とは非相溶のため、攪拌分散の際に、独立分散しやすく、かつ、球状となって分散しやすくなるからである。このため、硬化後の脱水によって得られる空孔の形状を球に近い形状とすることができるようになり、潰れに対して強いものが得られやすくなる。
【0043】
含水吸水性ポリマの分散径としては、50μm以下とするのが好ましい。この分散径が50μmより大きくなると、コーティング時の外径変動、薄肉化効果が得られにくくなるほか、潰れなども生じやすくなるためである。
【0044】
含水吸水性ポリマ中の水の割合を90%以上とすることが好ましい。水の割合が90%より少なくなると、含水率を高くしていくに伴い紫外線硬化型樹脂組成物中の吸水性ポリマの割合が高くなり、脱水後に吸湿しやすくなる問題があるためである。
【0045】
[第2の実施の形態]
含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物により得られる多孔質体(発泡体状物)は、緩衝材、衝撃吸収フィルム(シート)、光反射板、被覆電線、ケーブルなどへ利用することができる。また、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物は液状であることから、異形状物表面にも、多孔質層を形成することができる。なお、特に限定するものではないが、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物に、分散剤、レベリング剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、電気絶縁性向上剤、充填剤などを加えて使用してもよい。
【0046】
(絶縁電線とケーブル)
以下に、図1〜図4を参照しながら、上記のように構成された含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を用いた絶縁電線及びケーブルについて説明する。
【0047】
絶縁電線1は、図1に示すように、銅製などの金属撚り線で構成される導体2と、この導体2の外周に被覆形成された絶縁層3とを有している。この絶縁層3は、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を導体2の外周に被覆して硬化させた後、その硬化させた樹脂組成物を加熱して含水吸水性ポリマの水分を除去することで絶縁層3の中に複数の空孔4が形成された多孔質層から構成される。
【0048】
図2を参照すると、図2には多層被覆ケーブル6の断面が模式的に示されている。図1に示す絶縁電線1の外周にスキン層5を被覆形成することで、多層被覆ケーブル6が得られる。スキン層5の形成には、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物からなるフィルムを導体2上に巻付ける方法、あるいは導体2上に含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の溶融物を押出被覆する押出成形などが用いられる。
【0049】
図3には同軸ケーブル9の断面が模式的に示されている。図1に示す絶縁電線1の外周に金属からなるシールド体であるシールド線7aを被覆形成し、そのシールド線7の外周に被覆層8を被覆形成することで、同軸ケーブル9が得られる。なお、同軸ケーブルの他の一例としては、図4に示すように、シールド線7に代えて、金属含有合成樹脂からなるシールド体であるシールド層7bを絶縁層3上に被覆形成した同軸ケーブル9であってもよい。
【0050】
図1〜図4に示す絶縁電線やケーブルの絶縁層3の厚さとしては、200μm以下であることが好適である。絶縁層3の空孔率としては、50〜70%であることが好適である。
【0051】
絶縁層3の厚さを200μm以下とし、絶縁層3の空孔率を50〜70%とするのは、絶縁層厚が200μmより厚くなると、コーティングによる薄肉化のメリットがなくなるほか、紫外線硬化の効率が低下するためである。空孔率が50%より低いと、低誘電率多孔質層としての効果が小さくなり、70%より高くすると、含水吸水性ポリマの分散時において分散が不安定になりやすくなり、コーティング性も低下するなどの問題を生じやすくなるためである。
【0052】
吸水させた吸水性ポリマの水を加熱脱水するのには、マイクロ波加熱を利用することが好適である。このマイクロ波加熱を利用するのは、水はマイクロ波により急速に加熱されるため、吸水性ポリマや周囲の樹脂などに影響を与えることなく、短時間で加熱脱水ができるとともに、効率よく空孔4の形成ができるためである。導波管型マイクロ波加熱炉を用いることで、連続的に加熱脱水ができる。この加熱には、導波管型マイクロ波加熱炉と一般的な加熱炉とを組合せて用いてもよい。
【0053】
また、架橋硬化後に加熱により脱水させるのは、脱水による体積収縮による空隙率の低下が防止できるほか、膜厚や外径の変化を防止し、安定した電線やケーブルを得ることができるためである。更に、予め空孔4となる部分をもって絶縁層3を形成できるため、発泡させる必要がなく、従来のガス注入や発泡剤によるガス発泡により生じやすい導体2と絶縁層3との間の膨れや剥離による密着力の低下が全くない安定した絶縁電線やケーブルが得られる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の更に具体的な実施の形態として、実施例及び比較例を挙げて、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物について説明する。
【0055】
下記の実施例1〜3、及び比較例1として紫外線硬化型樹脂組成物A〜Dの4種を用意し、それらの樹脂組成物A〜Dを比較した。
【0056】
[実施例1]
吸水率1.1%のウレタンアクリレートオリゴマ(GX9887I 第一工業製薬製)100重量部(56.1重量%)に、疎水性モノマのシクロペンタニルメタクリレート(FA−513M 日立化成工業製)70重量部(39.2重量%)、光開始剤の1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(IRGACURE184 チバスペシャリティケミカルズ製)3重量部(1.7重量%)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO チバスペシャリティケミカルズ製)5重量部(2.8重量%)、安定剤のヒドロキノン0.2重量部(0.1重量%)、酸化防止剤の2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1035 チバスペシャリティケミカルズ製)0.2重量部(0.1重量%)を添加してなる紫外線硬化型樹脂組成物(樹脂組成物A)を用意した。
【0057】
この樹脂組成物Aの粘度を測定したところ、2100mPa・s(25℃)であった。この樹脂組成物Aを50℃に加温し、15MILのブレードを用いて、ガラス板上に幅100mm、長さ200mmの塗膜を形成し、窒素雰囲気下で、紫外線照射コンベア装置を用いて紫外線照射量500mJ/cmを照射して硬化させ、膜厚約200μmのフィルムを作製した。そして、JIS K7209のA法に準拠し、吸水率を測定したところ、1.5%であった。
【0058】
[実施例2]
吸水率1.8%のウレタンアクリレートオリゴマ(R1240 第一工業製薬製)100重量部(53.1重量%)に、疎水性モノマのシクロペンタニルメタクリレート(FA−513M 日立化成工業製))80重量部(42.5重量%)、光開始剤の1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(IRGACURE184 チバスペシャリティケミカルズ製)3重量部(1.6重量%)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO チバスペシャリティケミカルズ製)5重量部(2.6重量%)、安定剤のヒドロキノン0.2重量部(0.1重量%)、酸化防止剤の2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1035 チバスペシャリティケミカルズ製)0.2重量部(0.1重量%)を添加してなる紫外線硬化型樹脂組成物(樹脂組成物B)を用意した。
【0059】
樹脂組成物Bの粘度を測定したところ、3200mPs・s(25℃)であった。上記樹脂組成物Aと同様に、フィルムを作製して吸水率を測定したところ、2.0%であった。
【0060】
[実施例3]
吸水率1.7%のウレタンアクリレートオリゴマ(LPVC−1 根上工業製)100重量部(56.1重量%)に、疎水性モノマのシクロペンタニルメタクリレート(FA−513M 日立化成工業製)70重量部(39.2重量%)、光開始剤の1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(IRGACURE184 チバスペシャリティケミカルズ製)3重量部(1.7重量%)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(DAOCUR TPO チバスペシャリティケミカルズ製)5重量部(2.8重量%)、安定剤のヒドロキノン0.2重量部(0.1重量%)、酸化防止剤の2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1035 チバスペシャリティケミカルズ製)0.2重量部(0.1重量%)を添加してなる紫外線硬化型樹脂組成物(樹脂組成物C)を用意した。
【0061】
樹脂組成物Cの粘度を測定したところ、11000mPa・s(25℃)であった。上記樹脂組成物Aと同様に、フィルムを作製して吸水率を測定したところ、1.9%であった。
【0062】
[比較例1]
吸水率2.4%のウレタンアクリレートオリゴマ(M−1600 東亜合成化学製)100重量部(63.1重量%)に、疎水性モノマのシクロペンタニルメタクリレート(FA−513M 日立化成工業製)50重量部(31.6重量%)、光開始剤の1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(IRGACURE184 チバスペシャリティケミカルズ製)3重量部(1.9重量%)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO チバスペシャリティケミカルズ製)5重量部(3.2重量%)、安定剤のヒドロキノン0.2重量部(0.1重量%)、酸化防止剤の2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGAN1035 チバスペシャリティケミカルズ製)0.2重量部(0.1重量%)を添加してなる紫外線硬化型樹脂組成物(樹脂組成物D)を用意した。
【0063】
樹脂組成物Dの粘度を測定したところ、3500mPa・s(25℃)であった。上記樹脂組成物Aと同様に、フィルムを作製して吸水率を測定したところ、2.8%であった。
【0064】
(含水吸水性ポリマ)
含水吸水性ポリマは、平均粒径50μmの吸水性ポリマ「アクアコークTWP−PF」(住友精化製)を蒸留水と1:31の比率で混ぜ合わせ、24時間静置した後、高圧ホモジナイザー(PANDA 2K型 Niro Soavi社製)を用いた。この含水吸水性ポリマを、圧力130MPaで、1回の解砕処理を実施した。
【0065】
(含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物)
上記樹脂組成物A〜Dに含水吸水性ポリマを添加し、50℃に加温しながら30分間、回転数600rpmで攪拌分散して含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、発泡絶縁層となるフィルムが成形できる含水率を調べた。その結果を下記の表1に示す。
【0066】
(フィルム成形性)
50℃に加温した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物について、15MILのブレードを用い、ガラス板上に幅100mm、長さ200mmの塗膜を形成し、紫外線照射コンベア装置を用い、窒素雰囲気下で紫外線照射量500mJ/cmを照射して硬化させ、膜厚約200μmのフィルムが得られるか調べた。
【0067】
図5に、実施例1の樹脂組成物Aに含水吸水性ポリマを添加して得られた含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物からなるフィルムを、100℃で1時間脱水処理したときの断面写真を示す。形成された複数の空孔4の径は20〜50μmであった。なお、図5の符号10は、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例1の樹脂組成物Aに非イオン性界面活性剤のα−モノイソステアリルグリセリルエーテル(ペネトールGE−IS 花王製)を1重量部添加し、上記実施例1と同様に含水吸水性ポリマを添加し、最大含水率72%のフィルム成形を行い、得られたフィルムを100℃で1時間脱水処理した。そのフィルムの断面写真を図6に示す。形成された複数の空孔4の径は、5〜25μmであった。なお、図6の符号10は、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物を示す。
【0070】
表1に示す実施例1〜3、及び比較例1から明らかなように、吸水率の低いオリゴマを用い、紫外線硬化型樹脂組成物の吸水率を低くすることで、含水率の高い成形体が得られる。そして、その結果、高空孔率と均質な微細空孔とを有する成形体が得られる。また、表1に示す実施例2及び3から明らかなように、紫外線硬化型樹脂組成物の粘度が高いと、実施例1に比べて最大含水率が低くなることが分かった。更に、図5及び図6から明らかなように、非イオン性の界面活性剤を添加することで含水吸水性ポリマの微分散が得られ、空孔径が小さい複数の空孔4を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物が得られることが理解できる。
【0071】
以上の説明から明らかなように、上記実施の形態及び実施例にあっては、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の典型的な一例を挙げており、本発明は、これらの実施の形態及び実施例に特に限定されるものではないことは勿論であり、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 絶縁電線
2 導体
3 絶縁層
4 空孔
5 スキン層
6 多層被覆ケーブル
7a シールド線
7b シールド層
8 被覆層
9 同軸ケーブル
10 含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに予め水を吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散させ、50%以上の含水率を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物において、前記紫外線硬化型樹脂組成物の吸水率が2%以下に調整されたことを特徴とする含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
前記紫外線硬化型樹脂組成物は、吸水率が2%以下であるポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマ、疎水性モノマ、光開始剤から少なくとも構成されてなり、当該樹脂組成物中のオリゴマは50〜80重量%、疎水性モノマは20〜50重量%、光開始剤は1〜10重量%でそれぞれ調整され、
前記紫外線硬化型樹脂組成物の粘度が1〜10Pa・s(25℃)の範囲であることを特徴とする請求項1記載の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
前記紫外線硬化型樹脂組成物には非イオン性の界面活性剤が添加されていることを特徴とする請求項1又は2記載の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれかに記載の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を導体の外周に被覆し、当該樹脂組成物を硬化させた後、その硬化させた樹脂組成物を加熱して樹脂組成物中の水分を除去し、絶縁層を形成したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
前記絶縁層の厚さが200μm以下であり、当該絶縁層の空孔率が50〜70%であることを特徴とする請求項4記載の絶縁電線。
【請求項6】
上記請求項4又は5記載の絶縁電線の外周にスキン層を設けたことを特徴とする絶縁電線。
【請求項7】
上記請求項1〜3のいずれかに記載の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を導体の外周に被覆し、当該樹脂組成物を硬化させて絶縁層を形成した後、加熱して前記絶縁層中の前記含水吸水性ポリマの水分を除去し、前記絶縁層の中に空孔を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項8】
前記加熱にマイクロ波加熱を用いることを特徴とする請求項7記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項9】
上記請求項4〜6のいずれかに記載の絶縁電線の外周に少なくとも金属を含むシールド体を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82367(P2012−82367A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231544(P2010−231544)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】