説明

含水性コンタクトレンズの表面処理方法及びそれによって得られた含水性コンタクトレンズ

【課題】 レンズの特性に影響を及ぼすことなく、その水濡れ性(親水性)を向上せしめ、また、その耐久性を向上し、更には耐脂質汚染性にも優れた特徴を発揮する、含水性コンタクトレンズの表面処理方法及びそれによって得られる優れた特性を有する含水性コンタクトレンズを提供すること。
【解決手段】 (メタ)アクリルアミド系モノマーを少なくとも含んで構成される共重合体からなる含水性コンタクトレンズを、酸素ガス及び/又は炭酸ガス雰囲気中においてプラズマ処理することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水性コンタクトレンズの表面処理方法及びそれによって得られた含水性コンタクトレンズに係り、特に、コンタクトレンズ特性に影響を及ぼすことなく、親水性(水濡れ性)や耐脂質汚染性等が著しく向上せしめられた、含水性コンタクトレンズを有利に与え得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンタクトレンズの表面を改質して、レンズ特性やその装用感を向上せしめるべく、各種の手法が提案されてきており、そのうちの一つとして、プラズマ処理によってコンタクトレンズの表面を親水性化して、その水濡れ性を高める方法が、よく知られている。
【0003】
例えば、米国特許第4214014号明細書(特許文献1)においては、酸素含有雰囲気中において、コンタクトレンズをプラズマ処理することによって、かかるコンタクトレンズに水濡れ性を付与する方法が明らかにされており、また特公昭60−39089号公報(特許文献2)には、酸素雰囲気中でのプラズマ処理による親水性ポリマー(例えばコンタクトレンズ)の表面改質(親水化)方法が明らかにされ、更に特開平3−15816号公報(特許文献3)には、高周波グロー放電処理を酸素透過性コンタクトレンズに施すことによって、コンタクトレンズに水濡れ性を付与する方法が明らかにされている。加えて、米国特許第3925178号明細書(特許文献4)においては、コンタクトレンズに対して、水蒸気雰囲気中でプラズマ処理を行なうことが、また、特公平1−600525号公報(特許文献5)には、希薄ガス雰囲気中で行なう疎水性樹脂成形体(コンタクトレンズ)の低温プラズマ処理が、更に、特公昭58−43015号公報(特許文献6)には、シリコーンゴム製コンタクトレンズのガス放電処理による親水化が、それぞれ、明らかにされている。
【0004】
一方、コンタクトレンズの装用感を高め、また酸素透過性に優れたコンタクトレンズと為す目的から、水を吸収して膨潤し、軟質化する含水性の材料を用いて構成される含水性コンタクトレンズが、近年、注目を集めている。そして、そのような含水性コンタクトレンズを与える含水性材料としては、一般に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールメタクリレート、N、N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン等の親水性モノマーに対して、レンズ特性改質成分として、アルキル(メタ)アクリレート、フッ素系(メタ)アクリレート、シリコン系(メタ)アクリレート等のコモノマーを共重合せしめてなる共重合体が用いられている[特開平3−179422号公報(特許文献7)、特開平3−196117号公報(特許文献8)、特開平3−196118号公報(特許文献9)等参照]。
【0005】
しかしながら、かかる親水性モノマーに対して、レンズ特性を改善せしめるべく、所定のコモノマーを共重合せしめた場合にあっては、その特性の改善の程度に反比例するように、得られる含水性コンタクトレンズの表面の水濡れ性が低下することとなる。例えば、上述のフッ素系(メタ)アクリレートモノマーやシリコン系(メタ)アクリレートモノマーの共重合量を増すことによって、酸素透過性は漸次増大せしめられることとなるが、それにつれて、レンズ表面の水濡れ性が低下するようになるのである。
【0006】
このため、本発明者らは、そのような従来からの含水性コンタクトレンズに対して、その表面の水濡れ性(親水性)を改善せしめるべく、上記した親水化処理たるプラズマ処理を施すことを試み、種々検討したところ、そのようなプラズマ処理を実施しても、それによる水濡れ性改善効果を充分に実現し得ないことが、明らかとなったのである。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4214014号明細書
【特許文献2】特公昭60−39089号公報
【特許文献3】特開平3−15816号公報
【特許文献4】米国特許第3925178号明細書
【特許文献5】特公平1−600525号公報
【特許文献6】特公昭58−43015号公報
【特許文献7】特開平3−179422号公報
【特許文献8】特開平3−196117号公報
【特許文献9】特開平3−196118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、上記の事情に鑑みて、更に種々検討した結果、含水性コンタクトレンズであっても、それが特定の含水性共重合体から構成されている場合にあっては、所定のプラズマ処理によって、含水性コンタクトレンズ自体が本来有する含水率、酸素透過性、硬度等のコンタクトレンズの特性を維持しつつ、水濡れ性(親水性)及び耐脂質汚染性が有利に付与され得る事実を見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
従って、本発明の課題とするところは、含水性コンタクトレンズの特性に影響を及ぼすことなく、その水濡れ性(親水性)を向上せしめ、また、その耐久性を向上し、更には耐脂質汚染性にも優れた特徴を発揮する、含水性コンタクトレンズの表面処理方法及びそれによって得られる優れた特性を有する含水性コンタクトレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、かかる課題を解決するために、本発明は、(メタ)アクリルアミド系モノマーを共重合成分として少なくとも含んで構成される共重合体からなる含水性コンタクトレンズを、酸素ガス及び/又は炭酸ガス雰囲気中において、プラズマ処理することを特徴とする含水性コンタクトレンズの表面処理方法を、その要旨とするものである。
【0011】
なお、このような本発明に従う含水性コンタクトレンズの表面処理方法の好ましい第一の態様によれば、前記プラズマ処理は、0.7〜0.9 Torr の減圧下において実施されることとなる。
【0012】
また、かかる本発明に従う表面処理方法の好ましい第二の態様によれば、前記プラズマ処理は、プラズマ出力:45〜55W及び処理時間:0.5〜5分にて、実施されることとなる。
【0013】
さらに、本発明に従う含水性コンタクトレンズの表面処理方法の好ましい第三の態様によれば、前記(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、N、N−ジメチルアクリルアミドが用いられることとなる。
【0014】
そして、本発明は、かくの如き表面処理によって得られた含水性コンタクトレンズをも要旨とするものであって、その特徴とするところは、(メタ)アクリルアミド系モノマーを共重合成分として少なくとも含んで構成される共重合体からなる含水性コンタクトレンズを、酸素ガス及び/又は炭酸ガス雰囲気中において、プラズマ処理して得られた含水性コンタクトレンズにある。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明に従う含水性コンタクトレンズの表面処理方法によれば、コンタクトレンズの特性に悪影響をもたらすことなく、効果的な親水性(水濡れ性)の向上が可能となるのであり、また水濡れ性が向上する上に、その耐久性が良いという特徴を発揮し、更に耐脂質汚染性にも優れているという特徴も発揮され得るのである。
【0016】
従って、そのような本発明に従う表面処理が施されてなる含水性コンタクトレンズは、コンタクトレンズ自体が本来有する含水率、硬度等のコンタクトレンズの特性を維持しつつ、優れた水濡れ性(親水性)及び耐脂質汚染性が付与されたものとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ところで、このような本発明の対象とする含水性コンタクトレンズは、(メタ)アクリルアミド系モノマーを共重合成分として少なくとも含んで構成される共重合体から形成されたものであって、そのような含水性コンタクトレンズに対して、所定のプラズマ処理を施すことによって、コンタクトレンズ自体が本来有する含水率、硬度等のコンタクトレンズの特性を維持しつつ、水濡れ性(親水性)を有利に高め、また耐脂質汚染性を効果的に付与せしめ得たのである。
【0018】
そして、そのような本発明にて対象とする含水性コンタクトレンズを与える共重合体を構成する必須の共重合成分たる前記(メタ)アクリルアミド系モノマーは、得られる含水性コンタクトレンズに透明性や耐脂質汚染性を付与したり、かかるコンタクトレンズの含水性を向上せしめたり、またその切削加工を容易と為す成分であって、そのような(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらは、単独で、または2種以上を混合して用いることが出来る。これらのなかでは、より透明性に優れ、より切削加工が容易な含水性コンタクトレンズを得ることが出来るという点において、N、N−ジメチルアクリルアミドが、有利に用いられることとなる。
【0019】
ここで、本明細書でいう「〜(メタ)アクリルアミド」とは、「〜アクリルアミド及び/又は〜メタクリルアミド」を意味するものである。
【0020】
また、本発明にあっては、かかる含水性コンタクトレンズを与える共重合体の共重合成分として、上記した(メタ)アクリルアミド系モノマーと共に、有利には、下記一般式(I)にて表されるポリシロキサンマクロモノマーや、シリコン含有アルキル(メタ)アクリレート及びシリコン含有スチレン誘導体からなる群より選ばれるシリコン含有モノマーが適宜に用いられることとなる。それら共重合成分を含んで構成される含水性材料(共重合体)は、既に、特開平6−121826号公報において本願出願人らによって明らかにされているところである。
1 −U1 −S1 −U2 −A2 ・・・(I)
{但し、式中、A1 は、一般式(II):Y21−R31−(但し、Y21は、アクリロイルオ キシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基を示し、R31は、炭素数2〜 6の直鎖又は分岐鎖を有するアルキレン基を示す)で表される基を示し;
2 は、一般式 (III):−R34−Y22(但し、Y22は、アクリロイルオキシ基、メ タクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基を示し、R34は、炭素数2〜6の直鎖又 は分岐鎖を有するアルキレン基を示す)で表される基を示し;
1 は、一般式(IV):−X21−E21−X25−R32−〔但し、X21は、共有結合、 酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基を示し、E21は、−CONH−基 (但し、この場合、X21は共有結合であり、E21はX25とウレタン結合を形成している )、又は飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソ シアネート由来の2価の基(但し、この場合、X21は酸素原子又は炭素数1〜6のアル キレングリコール基であり、E21はX21及びX25の間でウレタン結合を形成している) を示し;X25は、酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基を示し;R32は 、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖を有するアルキレン基を示す〕で表される基を示し;
1 は、一般式(V):
【化1】

〔但し、R23、R24、R25、R26、R27及びR28は、それぞれ独立して、炭素数1〜6 のアルキル基、フッ素置換されたアルキル基又はフェニル基を示し、Kは1〜50の整 数であり、Lは0〜(50−K)を満たす整数である〕を示し;
2 は、一般式(VI):−R33−X26−E22−X22−〔但し、R33は、炭素数1〜 6の直鎖若しくは分岐鎖を有するアルキレン基を示し、X22は、共有結合、酸素原子又 は炭素数1〜6のアルキレングリコール基を示し、X26は、酸素原子又は炭素数1〜6 のアルキレングリコール基を示し、E22は、−CONH−基(但し、この場合、X22は 共有結合であり、E22はX26とウレタン結合を形成している)、又は飽和若しくは不飽 和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基 (但し、この場合、X22は酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基であり 、E22はX22及びX26の間でウレタン結合を形成している)を示す〕で表される基を示 す}。
【0021】
なお、含水性コンタクトレンズを与える含水性共重合体を構成する有用な共重合成分の一つたるポリシロキサンマクロモノマーは、上記一般式(I)にて表される如く、ウレタン結合という弾性力のある結合を有し、シロキサン部分により材料の柔軟性や酸素透過性を損なうことなく補強し、且つ弾力的反発性を付与して脆さをなくし、機械的強度を向上させるという性質を付与する成分であり、また分子鎖中にシリコン鎖を有するので、高酸素透過性を付与するものであり、更には分子の両末端に重合性基を有し、かかる重合性基を介して他の共重合成分を共重合するため、得られる含水性コンタクトレンズに、分子の絡み合いによる物理的な補強効果だけでなく、化学的結合(共有結合)による補強効果を付与するという優れた性質を有するものである。
【0022】
そのような一般式(I)において、A1 を表す前記一般式(II):Y21−R31−及びA2 を表す前記一般式 (III):−R34−Y22におけるY21及びY22は、何れも、重合性基であり、前述した通りの意味を有するものであるが、特に、(メタ)アクリルアミド系モノマーと容易に重合し得るという点から、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基若しくはビニル基が選択され、またR31及びR34は、何れも、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖を有するアルキレン基であり、好ましくはエチレン基、プロピレン基若しくはブチレン基である。
【0023】
また、前記一般式(I)におけるU1 及びU2 は、何れも、ポリシロキサンマクロモノマーの分子鎖中でウレタン結合を含む基を表し、そしてそれらU1 及びU2 を示す前記一般式(IV)及び(VI)において、E21及びE22は、前記したように、それぞれ、−CONH−基、又は飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基を表している。ここで、飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群れから選ばれたジイソシアネート由来の2価の基としては、例えば、エチレンジイソシアネート、1、3−ジイソシアネートプロパン、ヘキサメチレンジイソシアネート等の飽和脂肪族系ジイソシアネート由来の2価の基;1、2−ジイソシアネートシクロヘキサン、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート等の脂環式系ジイソシアネート由来の2価の基;トリレンジイソシアネート、1、5−ジイソシアネートナフタレン等の芳香族系ジイソシアネート由来の2価の基;2、2′−ジイソシアネートジエチルフマレート等の不飽和脂肪族系ジイソシアネート由来の2価の基が挙げられるが、これらのなかでは、比較的入手し易く且つ強度を付与し易いところから、ヘキサメチレンジイソシアネート由来の2価の基、トリレンジイソシアネート由来の2価の基及びイソホロンジイソシアネート由来の2価の基が望ましい。
【0024】
なお、かかるU1 において、E21が−CONH−基である場合には、X21は共有結合であり、E21はX25と式:−OCO−NH−で表されるウレタン結合を形成する。また、E21が、前記ジイソシアネート由来の2価の基である場合には、X21は酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基であり、E21はX21とX25との間でウレタン結合を形成している。X25は、酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基であり、またR32は、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖を有するアルキレン基である。
【0025】
また、U2 において、R33は、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖を有するアルキレン基であり、X26は、酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基である。そして、E22が−CONH−基である場合には、X22は共有結合であり、E22はX26と式:−OCO−NH−で表されるウレタン結合を形成する。また、E22が前記ジイソシアネート由来の2価の基である場合には、X22は酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基であり、E22はX22とX26との間でウレタン結合を形成している。
【0026】
ここで、前記X21、X25、X22及びX26における炭素数1〜6のアルキレングリコール基としては、例えば、一般式(VII) :−O−(Cx2x−O)y −(但し、式中、xは1〜4の整数、yは1〜5の整数を示す)で表される基等が挙げられる。なお、かかる一般式(VII) において、yが6以上の整数である場合には、酸素透過性が低下したり、機械的強度が低下する傾向があるため、本発明においては、yは1〜5の整数、特に1〜3の整数であることが好ましい。
【0027】
また、前記一般式(I)におけるS1 を表す前記一般式(V)において、R23、R24、R25、R26、R27及びR28は、前記したように、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素置換されたアルキル基又はフェニル基である。なお、このフッ素置換されたアルキル基の具体例としては、例えば、3、3、3−トリフルオロ−n−プロピル基、β、β、β−トリフルオロイソプロピル基、3、3、3−トリフルオロ−n−ブチル基、3、3、3−トリフルオロイソブチル基、3、3、3−トリフルオロ−sec−ブチル基、3、3、3−トリフルオロ−tert−ブチル基、3、3、3−トリフルオロ−n−ペンチル基、3、3、3−トリフルオロイソペンチル基、3、3、3−トリフルオロ−t−ペンチル基、3、3、3−トリフルオロヘキシル基等を挙げることが出来る。そして、このフッ素置換されたアルキル基を有するポリシロキサンマクロモノマーを用い、その配合量を多くすると、得られる含水性コンタクトレンズの耐脂質汚染性が向上する傾向が認められている。
【0028】
加えて、かかる一般式(V)において、Kは1〜50の整数であり、Lは0〜(50−K)を満たす整数である。なお、K+Lの値が、50よりも大きい場合には、ポリシロキサンマクロモノマーの分子量が大きくなり、これと(メタ)アクリルアミド系モノマーとの相溶性が悪くなって、配合時に充分に溶解しなかったり、重合時に白濁し、均一で透明なレンズ材料が得られなくなる傾向があり、また0である場合には、得られるレンズ材料の酸素透過性が低くなるばかりでなく、柔軟性も低下する傾向がある。なかでも、K+Lの値は、好ましくは2〜45の整数である。
【0029】
さらに、本発明にて対象とする含水性コンタクトレンズを与える含水性材料たる共重合体は、前記した(メタ)アクリルアミド系モノマーに加え、上記のポリシロキサンマクロモノマーの他に、更に、シリコン含有アルキル(メタ)アクリレート及びシリコン含有スチレン誘導体からなる群れより選ばれたシリコン含有モノマーを有効な共重合成分の一つとして含有するが、そのようなシリコン含有モノマーは、得られる含水性コンタクトレンズの酸素透過性を補助的に高め、更に機械的強度を向上せしめるものである。
【0030】
そのようなシリコン含有モノマーの一つである、シリコン含有アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ〔メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ〕ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス〔メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ〕シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ〔メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ〕ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルオキシシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルオキシメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルオキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
なお、本明細書でいう「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレート及び/又は〜メタクリレート」を意味し、更に他の(メタ)アクリレート誘導体についても、同様である。
【0032】
また、前記シリコン含有モノマーの他の一つたるシリコン含有スチレン誘導体としては、例えば、下記一般式(VIII):
【化2】

(式中、pは1〜15の整数、qは0又は1、rは1〜15の整数を示す)で表される化合物等が挙げられる。この一般式(VIII)で表されるシリコン含有スチレン誘導体においては、p又はrが16以上の整数である場合には、その精製や合成が困難となり、更には、得られる含水性コンタクトレンズの硬度が低下する傾向があり、またqが2以上の整数である場合には、該シリコン含有スチレン誘導体の合成が困難となる傾向がある。
【0033】
そして、上記の一般式(VIII)で表される化合物の具体例としては、例えば、〔トリス(トリメチルシロキシ)シリル〕スチレン、〔ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル〕スチレン、(トリメチルシロキシジメチルシリル)スチレン、〔トリス(トリメチルシロキシ)シロキシジメチルシリル〕スチレン、〔ビス(トリメチルシロキシ)メチルシロキシジメチルシリル〕スチレン、(ヘプタメチルトリシロキサニル)スチレン、(ノナメチルテトラシロキサニル)スチレン、(ペンタデカメチルヘプタシロキサニル)スチレン、(ヘンエイコサメチルデカシロキサニル)スチレン、(ヘプタコサメチルトリデカシロキサニル)スチレン、(ヘントリアコンタメチルペンタデカシロキサニル)スチレン、(トリメチルシロキシペンタメチルジシロキサニルオキシメチルシリル)スチレン、〔トリス(ペンタメチルジシロキサニルオキシ)シリル〕スチレン、〔トリス(トリメチルシロキシ)シロキシビス(トリメチルシロキシ)シリル〕スチレン、〔ビス(ヘプタメチルトリシロキサニルオキシ)メチルシリル〕スチレン、{トリス〔メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ〕シリル}スチレン、{トリメチルシロキシビス〔トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ〕シリル}スチレン、ヘプタキス(トリメチルシロキシ)トリシリルスチレン、(ノナメチルテトラシロキシウンデカメチルペンタシロキシメチルシリル)スチレン、{トリス〔トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ〕シリル}スチレン、〔トリス(トリメチルシロキシ)ヘキサメチルテトラシロキサニルオキシトリス(トリメチルシロキシ)シロキシトリメチルシロキシシリル〕スチレン、〔ノナキス(トリメチルシロキシ)テトラシロキサニルオキシシリル〕スチレン、〔ビス(トリデカメチルヘキサシロキサニルオキシ)メチルシリル〕スチレン、〔ヘプタメチルシクロテトラシロキサニル〕スチレン、〔ヘプタメチルシクロテトラシロキサニルオキシビス(トリメチルシロキシ)シリル〕スチレン、〔トリプロピルテトラメチルシクロテトラシロキサニル〕スチレン、〔トリメチルシリル〕スチレン等を挙げることが出来る。
【0034】
そして、これらシリコン含有モノマーは、単独で又は2種以上混合して用いることが出来るが、それらシリコン含有モノマーのなかでは、少なくとも酸素透過性を低下させずに、機械的強度が良好な含水性コンタクトレンズを与えることが出来るという点より、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート等のシリコン含有アルキル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。また、広範囲の配合組成において、優れた透明性及び、更に良好な機械的強度を有し、加えて、比較的高屈折率のレンズ材料を得ることが出来、また高屈折率であることから、同じパワーでもより薄いコンタクトレンズとすることが可能であり、例えば、厚さが薄い分だけ、より酸素透過性に優れたコンタクトレンズを得ることが出来るという点からは、トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン等のシリコン含有スチレン誘導体が、好ましく用いられる。
【0035】
なお、本発明にて対象とする含水性コンタクトレンズを与える共重合体は、一般に、(メタ)アクリルアミド系モノマー5〜85重量%、ポリシロキサンマクロモノマー1〜85重量%、シリコン含有モノマー10〜75重量%の割合において、好ましくは(メタ)アクリルアミド系モノマー15〜75重量%、ポリシロキサンマクロモノマー3〜55重量%、シリコン含有量モノマー10〜65重量%の割合において、共重合せしめられることとなる。従って、それら三成分のみにて共重合体が構成される場合にあっては、それら三成分の合計量は100重量%となり、また後述する第四成分が、それら三成分と共に、共重合せしめられる場合にあっては、それら三成分の共重合割合の範囲内において、それら三成分の一部が第四成分にて置き換えられた形態となる(三成分の合計量+第四成分の使用量=100重量%)。なお、かかる三成分の共重合割合が、上記の範囲から外れるようになると、得られる含水性コンタクトレンズの酸素透過性が不充分となったり、機械的強度、ゴム弾性、形状安定性等が悪くなったりするようになり、また含水性が低下したり、耐脂質汚染性も低下したり、切削加工が困難となる等の問題を惹起するようになる。
【0036】
このように、本発明においては、(メタ)アクリルアミド系モノマーに加えて、ポリシロキサンマクロモノマーやシリコン含有モノマーを含んで、目的とする含水性コンタクトレンズを与える共重合体が構成されるのであって、それ故に、それら成分のみの共重合体が用いられる他、それら成分に、更にそれらと共重合可能な不飽和二重結合を有するモノマーからなる第四成分を共重合せしめてなる四元共重合体、或いはそれ以上の多元共重合体を用いることが可能である。そのような共重合体を与える第四成分は、得られる含水性コンタクトレンズに、更に、硬質性や軟質性、耐脂質汚染性等を付与したり、レンズの含水率を調節したり、架橋して、更に向上した強度を耐久性を付与したり、紫外線吸収能を付与したり、色を付与したりする等の目的で用いられる。
【0037】
例えば、硬度を調節して、更に硬質性、又は軟質性や柔軟性を付与する場合には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、tert−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エチルチオエチル(メタ)アクリレート、メチルチオエチル(メタ)アクリレート、等の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルチオアルキル(メタ)アクリレート;スチレン;α−メチルスチレン;メチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、イソブチルスチレン、ペンチルスチレン等のアルキルスチレン;メチル−α−メチルスチレン、エチル−α−メチルスチレン、プロピル−α−メチルスチレン、ブチル−α−メチルスチレン、tert−ブチル−α−メチルスチレン、イソブチル−α−メチルスチレン、ペンチル−α−メチルスチレン等のアルキル−α−メチルスチレン等の1種又は2種以上が選択して用いられる。これらの第四成分の使用量は、共重合成分全量の60重量%以下、好ましくは50重量%以下、更に好ましくは40重量%以下であることが望ましい。かかる使用量が60重量%を越える場合には、相対的に、前記ポリシロキサンマクロモノマーの使用量が少なくなって、酸素透過性や機械的強度が低下する傾向がある。
【0038】
また、得られる含水性コンタクトレンズの含水率を調節する場合には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(アルキル)アミノアルキル(メタ)アクリレート;プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリグリコールモノ(メタ)アクリレート;ビニルピロリドン;(メタ)アクリル酸;無水マレイン酸;マレイン酸;フマル酸;フマル酸誘導体;アミノスチレン;ヒドロキシスチレン等の1種又は2種以上が用いられる。これらの第四成分の使用量は、共重合成分全量の50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下であることが望ましい。その使用量が50重量%を越える場合には、相対的に前記ポリシロキサンマクロモノマーの使用量が少なくなって、高酸素透過性及び高機械的強度が望めなくなる傾向がある。
【0039】
更にまた、得られる含水性コンタクトレンズに更に耐脂質汚染性を付与させる場合には、フッ化アルキル(メタ)アクリレート等のフッ素含有モノマーが用いられ、その具体例としては、例えば、2、2、2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2、2、3、3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2、2、3、3−テトラフルオロ−t−ペンチル(メタ)アクリレート、2、2、3、4、4、4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2、2、3、4、4、4−ヘキサフルオロ−t−ヘキシル(メタ)アクリレート、2、3、4、5、5、5−ヘキサフルオロ−2、4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、2、2、3、3、4、4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2、2、2、2′、2′、2′−ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、2、2、3、3、4、4、4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2、2、3、3、4、4、5、5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2、2、3、3、4、4、5、5、5−ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2、2、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、8、8−ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、8、8、8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2、2、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、7−トリデカフルオロヘクチル(メタ)アクリレート、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、8、8、9、9、10、10−ヘキサデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、8、8、9、9、10、10、10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、8、8、9、9、10、10、11、11−オクタデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、8、8、9、9、10、10、11、11、11−ノナデカフルオロウンデシル(メタ)アクリレート、3、3、4、4、5、5、6、6、7、7、8、8、9、9、10、10、11、11、12、12−エイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート等を挙げることが出来る。
【0040】
なお、かかるフッ素含有モノマーの使用量は、共重合成分全量の40重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下であることが望ましい。その使用量が40重量%を越える場合には、相対的に前記ポリシロキサンマクロモノマーの使用量が少なくなって、高酸素透過性及び高機械的強度が望めなくなる傾向がある。
【0041】
また、得られる含水性コンタクトレンズに更に向上した機械的強度と耐久性を付与させる場合には、第四成分として、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート、α−メチレン−N−ビニルピロリドン、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、2、2−ビス(p−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2、2−ビス(m−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2、2−ビス(o−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2、2−ビス(p−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(m−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(o−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、1、4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1、3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1、2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1、4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1、3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1、2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられ、これらの第四成分は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。この第四成分の配合量は、共重合成分の全量100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜8重量部、更に好ましくは0.1〜5重量部であることが望ましい。この第四成分の配合量が0.01重量部未満である場合には、該第四成分を配合したことによる効果が充分に発揮されなくなる傾向があり、また10重量部を越える場合には、得られる含水性コンタクトレンズが脆くなる傾向がある。
【0042】
さらに、得られる含水性コンタクトレンズに、紫外線を吸収したり、着色するために、第四の成分として、例えば、重合性紫外線吸収剤、重合性色素、重合性紫外線吸収色素等を用いることも可能である。
【0043】
そして、本発明にあっては、上記した(メタ)アクリルアミド系モノマーに加え、ポリシロキサンマクロモノマーやシリコン含有モノマーを、更に必要に応じて、第四の共重合成分を、前記共重合割合の範囲内において組み合わせ、これにラジカル重合開始剤を添加して、常法に従って重合せしめることにより、目的とする含水性コンタクトレンズを与える含水性材料としての共重合体を得ることが出来るのである。
【0044】
また、そのようにして得られた共重合体からなる本発明の適用される含水性コンタクトレンズは、その含水率が10〜60%のものであることが望ましい。含水率が10%未満のコンタクトレンズでは、もともと非常に親水性に劣り、例え本発明に従うプラズマ処理を施しても、含水性コンタクトレンズとしての特徴を充分に発揮することが困難であり、また含水率が60%よりも大きくなると、プラズマ処理前後の含水率の変化率が大きくなる恐れがあり、コンタクトレンズの物性に影響をもたらす可能が生じる。
【0045】
本発明は、かくの如き含水性コンタクトレンズに対して、酸素ガス及び/又は炭酸ガス雰囲気中においてプラズマ処理を施すことによって、かかるコンタクトレンズを与える共重合体の構成成分中の(メタ)アクリルアミド系モノマー成分等に基因する親水性を、効果的に、より向上せしめ、またそれを保持させることが出来ることとなったのであるが、そのようなプラズマ処理においては、具体的には、酸素ガス及び/又は炭酸ガスを導入するための導入口及び所定の減圧状態に排気するための排気手段を有する減圧容器を用い、この減圧容器内の陰陽両極間上に、処理されるべき含水性コンタクトレンズを載置し、所定の減圧状態に保持した後、陰陽両極間に所定のプラズマ(放電)を発生せしめて、目的とするプラズマ処理が施されるのである。
【0046】
そして、そのようなプラズマ放電による表面処理が施された含水性コンタクトレンズは、コンタクトレンズ自体が本来有する含水率、酸素透過性、硬度等のコンタクトレンズの特性が維持されつつ、水濡れ性(親水性)や耐脂質汚染性が付与れ、或いは向上せしめられたものとなるのである。
【0047】
なお、このようなプラズマ処理において、その処理雰囲気としては、酸素ガス及び/又は炭酸ガス雰囲気が採用されるが、これは、プラズマ処理にて、水濡れ性を効果的に向上させるためである。そして、そのようなプラズマ処理は、好ましくは0.7〜0.9Torrの減圧下において、実施されるのである。けだし、0.7Torr未満では、プラズマアッシャー(プラズマ灰化装置)内の温度が上昇し、その熱によって、含水性コンタクトレンズが劣化する恐れがあるからであり、また0.9Torrよりも高くなると、完全にプラズマ処理を行なうことが出来ず、充分な表面改質効果、換言すれば親水性向上の効果が期待出来ないからである。
【0048】
また、かかる本発明に従う、特定の含水性コンタクトレンズに対するプラズマ処理は、本発明の目的を有利に達成する上において、プラズマ処理出力:45〜55W及び処理時間:0.5〜5分の条件下において、実施されることが望ましい。プラズマ出力が45W未満では、親水性向上の向上の効果が充分に期待出来ないからであり、また55wよりも大きくなると、エネルギーが高すぎて、コンタクトレンズが劣化する恐れがあるからである。また、処理時間も、0.5分(30秒)よりも短いと、完全にプラズマ処理を行なうことが出来ず、親水性向上の効果が充分に期待することが出来ず、更に5分よりも長くなると、コンタクトレンズが劣化する恐れがあるからである。
【0049】
そして、本発明にあっては、このようなプラズマ処理を施しても、含水性コンタクトレンズのプラズマ処理前後の含水率の変化、換言すれば下式にて示される変化率は2%以下、と極めて影響が少なく、以てコンタクトレンズに悪影響を及ぼすことなく、水濡れ性の有効な向上が可能となるのである。
含水率の変化率(%)=〔(処理後の含水率−処理前の含水率)/処理後 の含水率〕×100
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0051】
実施例 1
下式(IX)にて示されるポリシロキサンマクロモノマー10重量部と、N、N−ジメチルアクリルアミド40重量部と、トリス(トリメチスシロキシ)シリルプロピルメタクリレート50重量部とからなる共重合体より得られた含水性コンタクトレンズを用い、その含水率を予め測定した後、酸素雰囲気中、0.8Torrの減圧下において、プラズマ処理出力:50Wにて、プラズマ処理を3分間実施した。
【化3】

ついで、このようなプラズマ処理の施された含水性コンタクトレンズについて、含水率を測定し、プラズマ処理前後の含水率の変化率を算出すると共に、以下の測定方法によって、洗浄前後の水濡れ性を評価し、それらの結果を、下記表1に示した。また、脂質汚染性を評価したところ、レンズ表面に汚れは全く認められなかった。
【0052】
(イ)洗浄前の水濡れ性評価
含水状態のコンタクトレンズ表面の外観を目視にて観察し、下記の基準にて評価を行なった。
◎:コンタクトレンズの表面が均一に濡れている。
○:コンタクトレンズの表面の面積の半分以上が均一に濡れている。
△:コンタクトレンズの表面の面積の半分以上の濡れが不均一であり、若干水を弾いて いる。
×:コンタクトレンズの表面が殆ど濡れず、水を弾いている。
(ロ)洗浄後の水濡れ性評価
得られた含水状態のコンタクトレンズを、パフ(スポンジ)上に載せ、市販のコンタクトレンズ用洗浄液(株式会社メニコン製メニクリーン)を用いて、手指で2000回擦って、洗浄した後、コンタクトレンズ表面の外観を目視にて観察し、上記(イ)の基準に従って評価を行なった。
(ハ)含水率(処理前・処理後)の測定
試験片(切削時の厚さ:1.0mm)について、次式に従って、含水率を測定した。
含水率(%)=〔(W−W0 )/W〕×100
但し、Wは、平衡含水状態での試験片の重量(g)、W0 は、乾燥状態での試験片の重量(g)を表す。
また、含水率の変化率は、処理前・後の含水率から、前記した式に従って、算出した。
(ニ)脂質汚染性の評価
オレイン酸、マレイン酸を主成分とする人工眼脂2mlを含んだ生理食塩水(0.9%NaCl水溶液)50ml中に、レンズを浸し、37℃の恒温槽の中で5時間振とうさせた後、真空乾燥機にて、室温で約20時間乾燥せしめた。その後、目視にて観察した。
【0053】
実施例 2
実施例1と同様な含水性コンタクトレンズを用いて、炭酸ガス雰囲気中で、実施例1と同様な処理条件下にて、プラズマ処理を施した。そして、その得られたプラズマ処理の施された含水性コンタクトレンズについて、その水濡れ性を評価し、またプラズマ処理前後の含水率及びその変化率を求めて、それらの結果を、下記表1に示した。
【0054】
実施例 3
プラズマ処理時間を1分間とすること以外は、実施例1と同様にして、含水性コンタクトレンズのプラズマ処理を実施し、そして水濡れ性及び含水率の評価を行ない、その結果を、下記表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例 1
実施例1と同様な組成を有する共重合体から得られた含水性コンタクトレンズを用い、これにプラズマ処理を施すことなく、実施例1と同様にして、物性を測定したところ、洗浄前の水濡れ性及び洗浄後の水濡れ性の評価は、何れも、×であり、プラズマ処理を行なわない場合においては、水濡れ性に劣ることを確認した。
また、かかる含水性コンタクトレンズについて、その脂質汚染性を評価したところ、レンズ表面に明らかな汚れが認められ、レンズとしての光学的特性を失うことが明らかとなった。
【0057】
比較例 2
ラウリルメタクリレート45重量部と、n−ビニルピロリドン45重量部と、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10重量部とからなる共重合体より得られる含水性コンタクトレンズを用い、実施例1と同様なプラズマ処理を施した。そして、そのプラズマ処理された含水性コンタクトレンズについて、洗浄前後の水濡れ性を評価したところ、洗浄前の水濡れ性は○であったが、洗浄後の水濡れ性は△となった。
【0058】
比較例 3
プラズマ処理雰囲気を、酸素ガス雰囲気から、ヘリウムガス雰囲気に変えること以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同様な含水性コンタクトレンズに対し、プラズマ処理を実施した。そして、その得られたプラズマ処理含水性コンタクトレンズについて、洗浄前後の水濡れ性を評価したところ、洗浄前の水濡れ性は△であり、また洗浄後の水濡れ性は×であった。
【0059】
以上の結果より明らかなように、含水性コンタクトレンズであっても、比較例1の如くプラズマ処理を行なわないものは、明らかに水濡れ性が悪く、また実施例1と比較例2の対比から明らかなように、特に本発明で規定されている成分からなる共重合体より得られる含水性コンタクトレンズに対して、本発明に従うプラズマ処理を実施することによって、水濡れ性が著しく向上せしめられ得ることとなるのである。更に、比較例3の結果より、本発明で規定されているプラズマ処理条件(雰囲気)以外では、有効な水濡れ性及びその耐久性が得られないことが認められる。更にまた、実施例1と比較例1の脂質汚染性を比較すると、明らかにプラズマ処理を行なうことで、耐脂質汚染性が向上することが分かる。
【0060】
このように、比較例と比べて、本発明に従う実施例においてプラズマ処理された含水性コンタクトレンズは、水濡れ性が良く、またその耐久性を有し、更に耐脂質汚染性を有していることが認められるのである。そして、含水率の変化率が2%以下であることから、含水性コンタクトレンズの特性に影響を及ぼすことなく、水濡れ性(親水性)の向上が可能となることが理解されるのである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミド系モノマーを共重合成分として少なくとも含んで構成される共重合体からなる含水性コンタクトレンズを、酸素ガス及び/又は炭酸ガス雰囲気中において、プラズマ処理することを特徴とする含水性コンタクトレンズの表面処理方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理が、0.7〜0.9 Torr の減圧下において実施される請求項1に記載の含水性コンタクトレンズの表面処理方法。
【請求項3】
前記プラズマ処理が、プラズマ出力:45〜55W及び処理時間:0.5〜5分にて実施される請求項1又は請求項2に記載の含水性コンタクトレンズの表面処理方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリルアミド系モノマーが、N,N−ジメチルアクリルアミドである請求項1乃至請求項4の何れかに記載の含水性コンタクトレンズの表面処理方法。
【請求項5】
(メタ)アクリルアミド系モノマーを共重合成分として少なくとも含んで構成される共重合体からなる含水性コンタクトレンズを、酸素ガス及び/又は炭酸ガス雰囲気中において、プラズマ処理して得られたものであることを特徴とする含水性コンタクトレンズ。


【公開番号】特開2006−58902(P2006−58902A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254568(P2005−254568)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【分割の表示】特願平7−32651の分割
【原出願日】平成7年2月21日(1995.2.21)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】