説明

含水油脂組成物およびその製造方法

本発明によれば、実質的に乳化剤無添加でありながら乳化安定性が良好であり、作業適性に優れた含水油脂組成物、およびその製造方法が提供される。本発明による製造方法にあっては、炭素数18以上の脂肪酸を構成脂肪酸とする飽和脂肪酸トリグリセリド類を1.5〜4.5重量%含んでなる油脂を用意し、この油脂を融解し、その後飽和脂肪酸トリグリセリド類が安定型以外の結晶型の結晶となるように、急速に冷却する。次いでこの油脂を、飽和脂肪酸トリグリセリド類の少なくとも一部が安定型結晶となるように、再加熱し、再加熱後の油脂に水性媒体を加えて乳化する。これにより乳化剤を実質的に含まない、安定した含水油脂組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の背景]
[発明の分野]
本発明は、油脂、水、および気体のみから実質的に成る安定な油中水型エマルションである含水油脂組成物を製造する方法および当該含水油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種マーガリン、バタークリーム、ドレッシング等の油中水型エマルションの製造にあたり、食品添加物として認可されている乳化剤が単独または組み合わせて用いられている。その具体例としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルなどが挙げられる。
【0003】
乳化剤を添加せずにマーガリン、バタークリーム、ドレッシング等を製造した場合、撹拌により油相部に分散した水滴が油脂の結晶化に伴い合一をおこし、水相と油相が分離状態となり、安定な油中水型エマルションを形成することができないか、あるいは一旦乳化状態を保持したまま固化した場合でも、保存中におこる飽和脂肪酸トリグリセリド類結晶の粗大化により、乳化が破壊されてしまう。
【0004】
しかし、上記のような乳化剤を用いた場合には、乳化剤由来の異味、異臭が問題とされている。さらに近年の消費者の天然志向、健康志向から、乳化剤無添加商品志向が高まっており、乳化剤を使用しない安定な油中水型エマルションとしてのマーガリン、バタークリーム、ドレッシング等の食品や化粧品の製造方法が求められている。
【0005】
乳化剤を使用せず、安定な油中水型エマルションが形成できるとする提案が従前なされている。
【0006】
例えば、特開昭58−134961号公報には、油脂にショ糖脂肪酸エステルおよび/または高融点トリグリセリドを加えた油性物質を冷却結晶化し、さらには加温融解して、乳化物を得る方法が開示されている。
【0007】
また、特開平10−295271号公報には、油相部に微細な結晶を維持する高融点油脂を5〜100重量%含有することで安定な乳化剤無添加油中水型エマルションを調製する方法が開示されている。
【0008】
国際公開第WO00/57715号公報には、食用油脂とベヘン酸を含有するトリ飽和脂肪酸グリセリドの混合油を添加してなる含気泡チョコレートおよびその製造法が開示されている。
【0009】
含水油脂組成物は、その最終製品の形態により、求められる性質は無論異なるが、一般的に口融けやのびがよく、また適当な作業性を確保するため、ある程度の流動性等が求められる。
[発明の概要]
【0010】
本発明者らは、今般、実質的に乳化剤を使用せず、特定量の飽和脂肪酸トリグリセリド類を含んだ油脂を用い、この飽和脂肪酸トリグリセリド類の結晶型を制御しながら含水油脂組成物を製造することにより、実質的に乳化剤無添加でありながら乳化安定性が良好であって、口融けや伸びがよく、且つ、製品配合設計上の自由度が大きく作業適性に優れた含水油脂組成物が得られるとの知見を得た。
【0011】
従って本発明は、実質的に乳化剤無添加でありながら乳化安定性が良好であって、口融けや伸びがよく、且つ、製品配合設計上の自由度が大きく作業適性に優れた含水油脂組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
そして、本発明の第一の態様によれば、乳化剤を実質的に含まない、含水油脂組成物の製造方法が提供され、この方法は乳化剤を実質的に含まない、含水油脂組成物の製造方法であって、炭素数18以上の脂肪酸を構成脂肪酸とする飽和脂肪酸トリグリセリド類を1.5〜4.5重量%含んでなる油脂を用意する工程と、この油脂を融解する融解工程と、この油脂を、前記飽和脂肪酸トリグリセリド類が安定型以外の結晶型の結晶となるように、急速に冷却する冷却工程と、油脂を、前記飽和脂肪酸トリグリセリド類の少なくとも一部が安定型結晶となるように、再加熱する再加熱工程と、再加熱後の油脂に水性媒体を加えて乳化する乳化工程とを少なくとも含んでなるものである。
【0013】
本発明の第二の態様によれば、前記第一の態様による製造方法により得られる含水油脂組成物が提供される。
【0014】
本発明によれば、本発明による含水油脂組成物の特異的な性質、すなわち、乳化安定性、高抱水性(水を多く取り込める性質)、高抱気性(気体を多く取り込める性質)を利用することで、軽い食感で膨らみの良いベーカリー類、ビスケット類、クッキー類を得ることができ、また、水相と油相が分離しやすい含水チョコレートにおいても高い乳化安定性を得ることができ、乳化液状型ドレッシングにおいても該含水油脂組成物を使用することで、乳化剤を添加しないでもその調製が可能となる。さらに、本発明者らによる、該含水油脂組成物は流動性が高く作業適性に優れており、化粧品等にも応用できる。
[発明の具体的説明]
【0015】
定義
本発明によれば、乳化剤を実質的に含まない含水油脂組成物およびその製造方法が提供される。ここで、乳化剤とは、食品衛生法により食品添加物として認められ、または薬事法により化粧品添加物として認められている乳化剤を意味する。また、乳化剤を実質的に含まないとは、乳化剤が乳化効果を奏する程度には含まれないこと、例えば臨界ミセル濃度以上の濃度では含まれないこと、を意味する。
【0016】
飽和脂肪酸トリグリセリド類
本発明における飽和脂肪酸トリグリセリド類は、炭素数18以上の長鎖飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするものである。本発明の好ましい態様によれば、飽和脂肪酸トリグリセリド類として、炭素数18〜22の長鎖飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするものの利用が好ましい。飽和脂肪酸トリグリセリド類の構成脂肪酸の具体例としては、炭素数18のステアリン酸、炭素数20のアラキン酸、そして炭素数22のベヘン酸が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、三つの構成脂肪酸が相異なるものである混酸型の飽和脂肪酸トリグリセリドの利用が好ましい。三種の構成脂肪酸が様々な脂肪酸組成を形成することは、飽和脂肪酸トリグリセリド類の結晶の粗大化が起こり難くなる点で有利であるからである。好ましい飽和脂肪酸トリグリセリドの例としては、1,2−アラキドイル−3−ステアロイルグリセロール、1,3−アラキドイル−2−ステアロイルグリセロール、1,2−ベヘノイル−3−ステアロイルグリセロール、1,3−ベヘノイル−2−ステアロイルグリセロールなどが挙げられる。
【0017】
本発明において用いられる飽和脂肪酸トリグリセリド類は、温度調節により、安定型の結晶、または安定型以外の結晶を取り得る。ここで、本発明における安定型の結晶とはβ型の結晶を意味し、安定型以外の結晶とは、β型以外の結晶、すなわち、不安定なα型結晶、準安定なβ’型結晶などを意味する。
【0018】
本発明における飽和脂肪酸トリグリセリド類は、油脂中の含有量が1.5〜4.5重量%とされる。本発明の好ましい態様によれば、飽和脂肪酸トリグリセリド類の油脂中の含有量の好ましい下限は2.0重量%であり、好ましい上限は3.0重量%である。このような飽和脂肪酸トリグリセリド濃度は、油脂に飽和脂肪酸トリグリセリドを後添加することにより達成されていてもよく、また、このような飽和脂肪酸トリグリセリドを含む天然体由来の油脂をそのまま用いてもよい。飽和脂肪酸トリグリセリド類の油脂に対する量が上記範囲にあることで、安定性に優れ、口融けや伸びのよい含水油脂組成物が得られる。
【0019】
油脂
また、油脂中の、飽和脂肪酸トリグリセリド類以外の油脂成分としては、飽和脂肪酸トリグリセリド類より融点の低い油脂であれば特に限定はなく、例えば天然の動植物油脂でノンテンパー型油脂とテンパー型油脂、ならびに油溶性香料や化粧品原料が挙げられる。ノンテンパー型油脂とは、調温(テンパリング)せず、単に冷却しても、準安定型(β’型)の結晶型になる油脂であり、例えばヤシ油、サル脂軟部油(サル脂を融点別に分画したノンテンパー型油脂)、パーム核油および水素添加硬化油が挙げられる。また、テンパー型油脂とは、調温しないと大半の結晶型が安定型(β型)になり難い油脂であり、例えば、カカオ脂、パーム油分画精製油脂(パーム油を融点別に分画したもので、パーム核油とは異なり、パルミチン酸やオレイン酸グリセリンエステルを主成分とするテンパー型油脂で、パーム中融点分画油脂ともいう。)、サル脂、シア脂などの植物性油脂が挙げられる。
【0020】
水性媒体
本発明において、含水油脂組成物に用いる水性媒体としては、乳化物が得られるかぎり、特に限定されず、以下に説明する用途に応じて、適宜決定されてよい。その具体例としては、水、乳製品、果汁、酢、リキュール、香料等の食品原料や化粧品原料が挙げられる。
【0021】
用途
本発明によれば、飽和脂肪酸トリグリセリド類は油相部に対して少量の添加でよく、従来に比して口融けや伸びの良好な含水油脂組成物を提供できる。またこの含水油脂組成物中の飽和脂肪酸トリグリセリド類添加量が従来に比して少ないことによって、製品配合設計上の自由度が大きく、応用範囲が広く、作業適性も高くなるとの利点を有する。加えて飽和脂肪酸トリグリセリド類以外の油脂及び水性媒体には様々な液状物を使用することができるので、本技術は乳化製品全般の製造において極めて有用である。また、この含水油脂組成物を原料として用いることで、好ましいテクスチャー、物性などを持った可食物を得ることが可能となる。更に、ここで得られた含水油脂組成物は、抱水性が高いために相対的に油分を低減でき、含水油脂組成物を用いた可食物の場合には摂取カロリーが低いこと、また可食物以外においても油分低減が製品のコストダウンにつながること等のメリットがあり、乳化剤無添加であることが望ましい製品の産業上の利用範囲を拡大できるものである。
【0022】
本発明によれば、上記した含水油脂組成物を含んでなるまたはこれを原料とする可食物が提供される。その具体例としては、パン、ケーキ、ドーナツ、シュークリーム、パイ、ワッフル、カステラなどのベーカリー類、ビスケット類、クッキー類、クラッカー類、プレッツェル類、フレーク類、ウエハース類、スナック類、チョコレート類、マシュマロ類、米菓類、和菓子類、キャンデー類、バター、マーガリン等の乳製品、ドレッシング類などが挙げられる。なお、上記の名称は法令等で限定されるものではない。本発明の別の態様によれば、従って、可食物の製造のための、上記含水油脂組成物の使用が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、上記した含水油脂組成物を含んでなるまたはこれを原料とする化粧品が提供される。その具体的形態としては、コールドクリームなどのクリーム類、乳液類、ファンデーション類、化粧用石けんなどの皮膚洗浄剤類、口紅類、頬紅類、毛髪用化粧品類、洗髪剤類などが挙げられる。なお、上記の名称は法令等で限定されるものではない。本発明の別の態様によれば、従って、化粧品の製造のための、上記含水油脂組成物の使用が提供される。
【0024】
製造方法
本発明による方法にあっては、飽和脂肪酸トリグリセリド類を1.5〜4.5重量%、より好ましくは、2.0〜3.0重量%含んでなる油脂を用意する。そして、この油脂を融解する。本発明の好ましい態様によれば、融解工程は、油脂を60〜75℃に加熱して、好ましくは完全に融解する。
【0025】
本発明による方法にあっては、次に、この融解油脂を飽和脂肪酸トリグリセリド類が安定型以外の結晶型の結晶となるように急速に冷却する。本発明の好ましい態様によれば、この冷却工程は、油脂を25℃以下、好ましくは−20〜20℃まで、5℃/分以上、好ましくは10℃/分以上、の冷却速度で急冷する。これにより、飽和脂肪酸トリグリセリド類を、好ましくはすべて、不安定型結晶(α型)として結晶化させる。急冷によって得た不安定型結晶(α型)には、数多くの微細結晶が存在し、これらは安定なβ型結晶の核形成サイトとなり得るので、再加熱工程において数多くの微細な安定型結晶を得るのに有利である。
【0026】
本発明による方法にあっては、次にこの油脂を再加熱し、飽和脂肪酸トリグリセリド類の少なくとも一部を安定型結晶とする。本発明の好ましい態様によれば、再加熱工程は、油脂を30〜45℃、好ましくは35〜40℃の所定温度で40分間以上、好ましくは60分間以上等温保持することで、この飽和脂肪酸トリグリセリド類の一部、好ましくは40〜100重量%を微細な安定型結晶(β型)とする。このように効率的に結晶型を安定型(β型)に揃えることにより、飽和脂肪酸トリグリセリド類の添加量を従来より少なく抑えても、安定した乳化が達成される。
【0027】
本発明による方法にあっては、次に、この油脂に水性媒体を加え、乳化工程を行う。乳化は油脂と水性媒体とを攪拌することにより行われる。そして、本発明によれば、微細な安定型結晶(β型)を多量に含む結果として、水性媒体を多量に取り込んだ乳化が可能となる。本発明の好ましい態様によれば、乳化工程は、油脂に対して50〜240重量%、好ましくは100〜233重量%の水性媒体を添加する。ここで、水性媒体の油脂への添加は、徐々に行われても、全てを一気に加えることにより行われてもよい。
【0028】
この乳化工程の攪拌処理の温度条件は、適宜決定されてもよいが、再加熱工程後の油脂および水性媒体を、好ましくは30〜38℃にて攪拌するのがよい。この攪拌速度も適宜決定されてよい。ここで、攪拌中に温度低下があってもよい。攪拌中の温度低下に伴い、この混合物中の固体脂が増加するので、増粘し、より安定な乳化状態が形成される。さらに、このとき飽和脂肪酸トリグリセリド類の微細な安定型結晶が、分散質としての水相および気体と分散媒としての油相との界面に均一分散していることが安定な乳化を実現するために好ましい。
【0029】
本発明によれば、含水油脂組成物中には1気圧下において体積比で12〜65%の気泡が含まれることが好ましい。含水油脂組成物中に含まれる気泡が上記範囲にあることで、安定な乳化が実現できる。なお、気体または気泡の具体的な成分としては、空気のほかに、窒素、酸素、炭酸ガス、アルゴンなどが挙げられる。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の飽和脂肪酸トリグリセリド類の結晶型の同定には、X線回折装置(XRD:株式会社リガク製RAD−2C;Cu−Kα;λ=1.54Å)を使用した。また、以下で抱気率とは、1気圧下において含水油脂組成物の全体積に占める気泡の体積を百分率で表したものである。なお、以下に用いられるベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)の脂肪酸組成を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1
油相部の調製
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)2.0重量部と、オリーブ油98.0重量部との混合物を、70℃に加熱して完全に融解させた後、一旦20℃まで10℃/分以上の冷却速度で急冷して、オリーブ油中で飽和脂肪酸トリグリセリド類を完全に不安定型結晶(α型)として結晶化させた。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間等温保持することにより、飽和脂肪酸トリグリセリド類を微細な安定型結晶(β型)とした。
含水油脂組成物の調製
上記油相部に対して150重量%量の水を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.66、抱気率26%の含水油脂組成物を調製した。この含水油脂組成物は製造過程、および20℃で7日間保存した後もその乳化状態が全く壊れることがなかった。また、滑らかな口融けで、ワキシー感はなかった。
【0033】
実施例2
油相部の調製
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)3.0重量部と、オリーブ油97.0重量部との混合物を、70℃に加熱して完全に融解させた後、一旦20℃まで10℃/分以上の冷却速度で急冷して、オリーブ油中で飽和脂肪酸トリグリセリド類を完全に不安定型結晶(α型)として結晶化させた。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間等温保持することにより飽和脂肪酸トリグリセリド類を微細な安定型結晶(β型)とした。
含水油脂組成物の調製
上記油相部に対して100重量%量の水を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.51、抱気率41%の含水油脂組成物を調製した。この含水油脂組成物は製造過程、および20℃で7日間保存した後もその乳化状態が全く壊れることがなかった。また、滑らかな口融けで、ワキシー感はなかった。
【0034】
比較例1
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)5.5重量部と、オリーブ油94.5重量部との混合物を、実施例2の油相部の調製と同様に処理した。その後、この油相部に対して100重量%量の水を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.47、抱気率45%の含水油脂組成物を調製した。この含水油脂組成物は製造過程、および20℃で7日間保存した後もその乳化状態が全く壊れることがなかったが、口融けが悪く、ワキシー感が感じられた。
【0035】
試験例1
実施例2と比較例1において得られた含水油脂組成物の口融けに関して官能評価比較を行ったところ、官能評価者20人中17人が“実施例2の方が口融けが良い”と評価し、カイ2乗検定において有意に差があると判定された(有意差1%)。
【0036】
比較例2
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)1.0重量部と、オリーブ油99.0重量部との混合物を、実施例2の油相部の調製と同様に処理した。その後、この油相部に対して100重量%量の水を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.76、抱気率16%の含水油脂組成物を調製した。この含水油脂組成物は20℃、1日の保存期間中に、水相と油相の分離が発生し始め、その乳化安定性は高くなかった。
【0037】
実施例3
油相部の調製
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)2.0重量部と、サラダ油(リノール油脂株式会社製、商品名:リノールサラダ油)98.0重量部との混合物を、70℃に加熱して完全に融解させた後、20℃まで10℃/分以上の冷却速度で急冷して、サラダ油中で飽和脂肪酸トリグリセリド類を完全に不安定型結晶(α型)として結晶化させた。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間等温保持することにより、この飽和脂肪酸トリグリセリド類を微細な安定型結晶(β型)とした。
乳化液状ドレッシングの調製
上記油相部に対して100重量%量の酢(塩、胡椒を少量含む)を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.77、抱気率18%の乳化液状ドレッシングを調製した。この乳化液状ドレッシングは製造過程、および20℃で7日間保存した後もその乳化状態が全く壊れることがなかった。また、滑らかな口融けで、ワキシー感はなかった。
【0038】
実施例4
実施例3と同様にして調製した油相部に対して150重量%量の酢(塩、胡椒を少量含む)を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.74、抱気率22%の乳化液状ドレッシングを調製した。この乳化液状ドレッシングは製造過程、および20℃で7日間保存した後もその乳化状態が全く壊れることがなかった。また、滑らかな口融けで、ワキシー感はなかった。
【0039】
比較例3
サラダ油100重量部を70℃に加熱して、一旦20℃まで10℃/分の冷却速度で急冷した。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間、等温保持した。このようにして得た油相部に対して100重量%量の酢(塩、胡椒を少量含む)を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌したが、撹拌直後に酢(水相)とサラダ油(油相)の分離が発生し、乳化液状ドレッシングは得られなかった。
【0040】
比較例4
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)2.0重量部と、サラダ油(リノール油脂株式会社製、商品名:リノールサラダ油)98.0重量部との混合物を、70℃に加熱して完全に融解させた後、20℃まで1℃/分の冷却速度で徐冷し、サラダ油中で飽和脂肪酸トリグリセリド類を準安定型結晶(β’型)と安定型結晶(β型)として結晶化させた。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間等温保持することによって飽和脂肪酸トリグリセリド類を粗大な安定型結晶(β型)とした。このようにして得た油相部に対して100重量%量の酢(塩、胡椒を少量含む)を徐々に添加し、全量を添加した後、冷却しながらケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.88、抱気率7%の乳化液状ドレッシングを調製した。この乳化液状ドレッシングは20℃、1日間の保存期間に、酢(水相)とサラダ油(油相)の分離が発生し始め、その乳化安定性は高くなかった。
【0041】
実施例5
油相部の調製
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)3.0重量部と、ココアバター97.0重量部との混合物を70℃に加熱して完全に融解させた後、一旦20℃まで10℃/分以上の冷却速度で急冷して、ココアバター中で飽和脂肪酸トリグリセリド類を完全に不安定型結晶(α型)として結晶化させた。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間等温保持することによって飽和脂肪酸トリグリセリド類を微細な安定型結晶(β型)とした。
含水ココアバターの調製
上記油相部に対して150重量%量の水を徐々に添加し、全量を添加した後、ケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.63、抱気率27%の含水ココアバターを調製した。
含水チョコレートの調製
テンパリング処理した30℃のミルクチョコレート(砂糖40重量%、カカオマス24重量%、全脂粉乳17重量%、ココアバター19重量%)100gに対して、30℃保持した上記含水ココアバターを9.1g添加混合した。このようにして得られた含水チョコレートは水相と油相の分離がなく、みずみずしく滑らかで軽い食感であった。
【0042】
比較例5
ミルクチョコレート(砂糖40重量%、カカオマス24重量%、全脂粉乳17重量%、ココアバター19重量%)100gに、予め上記含水ココアバター9.1gの油相部に相当する3.6gのココアバターを実施例5の油相部の調製と同一に処理してから添加し、実施例5の含水チョコレートの調製と同様にテンパリング処理した。このようにして得たチョコレート(30℃)に上記含水ココアバター9.1g中の水に相当する量の水5.5g(30℃)を添加混合したところ、著しい水相と油相の分離が発生し、含水チョコレートとして調製することができなかった。
【0043】
実施例6
油相部の調製
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)2.0重量部と、ショートニング(ミヨシ油脂株式会社製、商品名:ショートニングUB)98.0重量部との混合物を70℃に加熱して完全に融解させた後、20℃まで10℃/分以上の冷却速度で急冷して、ショートニング中で飽和脂肪酸トリグリセリド類を完全に不安定型結晶(α型)として結晶化させた。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間等温保持することで飽和脂肪酸トリグリセリド類を微細な安定型結晶(β型)とした。
含水ショートニングの調製
上記のようにして得られた油相部に対して100重量%量の水を徐々に添加し、全量を添加した後、ケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.53、抱気率37%の含水ショートニングを調製した。
ココアパンの調製
上記のようにして得た含水ショートニング9.0重量部、強力粉49.5重量部、水25.2重量部、砂糖7.4重量部、全卵1.5重量部、ココアパウダー2.9重量部、生イースト1.5重量部、脱脂粉乳1.5重量部、ベーキングパウダー1.0重量部、および塩0.5重量部を28℃以下で10分間混合した後、30℃で1時間発酵させた。この生地を100gづつに分け、30℃で30分間保持した後、ガス抜きを行い、高湿度恒温器内(37℃、湿度80%)で40分間保持した。その後、200℃で15分間焼成してココアパンを得た。含水ショートニングを使用して焼成したこのココアパンの焼成前に対する焼成後の体積膨張率は240%と大きく膨らみ、柔らかく、ふんわりとした食感であった。
【0044】
比較例6
実施例6の含水ショートニングの油相部と水相部を別々に添加し、次のような配合でココアパンを作製した。すなわち、上記油相部4.5重量部、強力粉49.5重量部、水29.7重量部、砂糖7.4重量部、全卵1.5重量部、ココアパウダー2.9重量部、生イースト1.5重量部、脱脂粉乳1.5重量部、ベーキングパウダー1.0重量部、および塩0.5重量部を28℃以下で10分間混合した後、30℃で1時間発酵させた。この生地を100gづつに分け、30℃で30分間保持した後、ガス抜きを行い、高湿度恒温器内(37℃、湿度80%)で40分間保持した。しかる後に200℃で15分間焼成してココアパンを得た。予め含水ショートニングを調製しないで焼成したこのココアパンの焼成前に対する焼成後の体積膨張率は210%であり、食感は含水ショートニング使用時と比較して有意に劣っていた。
【0045】
実施例7
油相部の調製
ベヘン酸高含有菜種極度硬化油(旭電化工業株式会社製、商品名:菜種極度硬化油)2.0重量部と、無塩バター(よつば乳業株式会社製)98.0重量部との混合物を70℃に加熱して完全に融解させた後、20℃まで10℃/分以上の冷却速度で急冷して、無塩バター中で飽和脂肪酸トリグリセリド類を完全に不安定型結晶(α型)として結晶化させた。その後、38℃に再加熱し、この温度で60分間等温保持することで該飽和脂肪酸トリグリセリド類を微細な安定型結晶(β型)とした。
含水バターの調製
上記のようにして得られたバター生地に対して77.5重量%の牛乳を徐々に添加し、全量を添加した後、ケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて489r.p.m.の速度で10分間撹拌することで比重0.57、抱気率48%の含水バターを調製した。尚、ここで用いた「バター」という用語は法令等で限定されるものではない。
バタークッキーの調製
上記のようにして得た含水バター35.6重量部、砂糖19.9重量部、および卵黄4.4重量部をケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて58r.p.m.の速度で5分間撹拌させた後、薄力粉40.0重量部、ベーキングパウダー0.1重量部を添加して3分間混合した。得られた生地を厚さ12mmのシート状に成型し、−20℃で1時間固化させた。その後、この生地をφ=28mmの円筒状型抜きで円盤状に型抜きし、140℃で30分間焼成してバタークッキーを得た。このバタークッキーは、焼成熱による生地の変形(焼きダレ)もほとんどなく、焼成後は後記する比較例7のバタークッキーに対して1枚あたり82%の重量で、非常にサクサクとした軽い食感で口融けも滑らかであった。
【0046】
比較例7
実施例7の含水バターの油相部と牛乳を別々に添加し、次のような配合でバタークッキーを調製した。すなわち、上記の油相部を冷蔵固化後室温で軟化させたもの20.1重量部、砂糖19.9重量部、牛乳15.5重量部、卵黄4.4重量部をケンミックスアイコープロKM−600((株)愛工舎製作所製)を用いて58r.p.m.の速度で5分間撹拌したが、この時既に牛乳が分離し、離水状態となって乳化しなかった。この状態で薄力粉40.0重量部、ベーキングパウダー0.1重量部を添加して3分間混合した後、厚さ12mmのシート状に成型し、−20℃で1時間固化させた。しかる後、この生地をφ=28mmの円筒状型抜きで円盤状に型抜きし、140℃で30分間焼成してバタークッキーを調製した。このバタークッキーは、焼成熱による生地の変形(焼きダレ)が激しく、ボソボソとした硬い食感で口融けも悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤を実質的に含まない、含水油脂組成物の製造方法であって、
炭素数18以上の脂肪酸を構成脂肪酸とする飽和脂肪酸トリグリセリド類を1.5〜4.5重量%含んでなる油脂を用意する工程と、
該油脂を融解する融解工程と、
前記融解工程を経た油脂を、前記飽和脂肪酸トリグリセリド類が安定型以外の結晶型の結晶となるように、急速に冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経た油脂を、前記飽和脂肪酸トリグリセリド類の少なくとも一部が安定型結晶となるように、再加熱する再加熱工程と、
前記再加熱工程を経た油脂に水性媒体を加えて乳化する乳化工程と
を少なくとも含んでなる、方法。
【請求項2】
前記構成脂肪酸が、ステアリン酸、アラキン酸、およびべヘン酸からなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記含水油脂組成物が気泡を含んでなり、該気泡が、含水油脂組成物中に12〜65%の体積比で分散されてなる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水性媒体が、油脂成分全量に対して、50〜240重量%の割合で添加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記融解工程が、60〜75℃で行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程が、25℃以下に達するまで5℃/分以上の速度で行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記再加熱工程が、30〜45℃にて40分間以上行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか一項に記載の製造方法により製造され得る、含水油脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の含水油脂組成物を含んでなるまたは原料とする、可食物。
【請求項10】
請求項8に記載の含水油脂組成物を含んでなるまたは原料とする、化粧品。
【請求項11】
可食物の製造のための、請求項8に記載の含水油脂組成物の使用。
【請求項12】
化粧品の製造のための、請求項8に記載の含水油脂組成物の使用。

【国際公開番号】WO2005/006870
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511916(P2005−511916)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010482
【国際出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】