説明

含油固形物およびその製造方法

【課題】 含油固形物において、液油を多量に含有し、油の染み出し量が少ない含油固形物、及び、その製造法を提供する。
【解決手段】 多孔性固形物に、W/Oエマルションを含浸させることにより含油固形物を製造する。さらに、W/Oエマルションの水相に、水溶性ゲル化可能物質を含有させて用いる。これにより、水溶性ゲル化可能物質を多孔性固形物の孔内でゲル化させW/Oエマルションの液油漏出防止効果がより向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W/Oエマルションが多孔性固形物の孔内に充填された含油固形物、多孔性固形物の孔内に多量の液油が含有・保持されており、かつ、液油の漏出の少ない含油固形物、及び該含油固形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肥料や固形燃料などのように、固形物に液油を保持させることにより、液油の有する機能性を固形物に付与する技術が一般的に知られている。こうした技術は、固形物という一定の領域内に、液油を束縛・保持させることにより液油の機能が発揮されることを目的としている。
上記のような含油固形物においては、固形物が多孔性固形物の場合、含油固形物の製造時に「多孔性固形物の孔内に液油がうまく入らない」、「多孔性固形物の液油吸収能に限界があり、固形物中に多量の液油を保持することができない」、または、製造された含油固形物中の「液油が多孔性固形物の孔内に保持されずに、多孔性固形物の孔内より漏れ出す」といった問題が生じていた。
【0003】
この含油固形物からの液油の染み出し問題を解決するべく、食品や医薬品分野では、液油をカプセルなどに内包し、液油の染み出しを防止した上で、成分を保持することを可能にする方法が提示されている。しかしながら、その他のあらゆる分野においてカプセル化することが好ましくない場合もあり、全ての場合においてカプセル化のような「包む技術」を適用することは非常に困難である。また、費用、コスト、設備、製品の機能の面からも、「包む技術」以外の方法で固形物に液油を保持させる技術が望まれていた。
【0004】
例えば、肥料、農薬、芳香剤などの含油性固形物の場合には、固形物中に存在する有効成分の効力及び効力発揮時間の調節を目的として、固形物の基材に液油もしくは香料を直接含ませて含油固形物とする製造方法が提示されている(特許文献1、2)。また、畜産および養魚の飼料分野においては、飼料の栄養強化(カロリーや生理活性の付与)を目的として、飼料固形物に対して液油添加を施し含浸することにより含油固形物を製造する方法が提示されている(特許文献3)。
【0005】
上記のような含油固形物において、特に飼料分野の固形タイプの飼料において、油の染み出し問題はとりわけ重要視されている。固形飼料は動植物由来の粉末、グルテン、デンプン、油脂、ビタミン、ミネラルを中心に配合、混練、成型されたもので、非常に多孔性に富んだ固形物となる。これら固形飼料に液油を含浸させた場合、固形飼料の空隙より液油が染み出し、飼料の栄養価が低下するという問題を発生することがある。さらに液油の染み出しは、流通・保存時の含油量低下に伴う飼料品質の低下、給餌装置および作業性の悪化、投餌後の海洋の汚染など種々の問題を引き起こす原因となる。
【0006】
「包む技術」に依存しない含油固形物を製造する既存の技術は、大きく二つに分けることができる。一つは固形物製造の際に、固形物原料中に液状油を配合させ混練し、その後成型し固形化する方法(1)と、もう一つは、製造された固形物に対して、外部より液状油を添加し含油固形物とする方法(2)である。
(1)の技術例は、特許文献4のように、芳香剤や洗浄剤を製造する際に原料中に液油(芳香剤や洗浄剤の場合、香料として分類されることもある)を混練した後成型し、液油の含量を調節することにより、有効成分の徐放性を調整する技術および製造法である。
【0007】
しかしながら、この技術により固形物原料に多量の液油を練り込み、その液油含量を高くしようとすると、成型の際に強度的な問題が生じ、成型後も保形性が悪く固形物は崩れ易くなる。また、過剰な油分が固形物中を移行し、最終的には固形物表面で油にじみを起こす。これらの問題を抱えるため、固形物原料中にはあまりに多量な液油を混練することができない。
【0008】
一方(2)の技術例は、特許文献5のように、固形飼料製造時、まず液油含量の少ない飼料基材を製造し固形化した後、得られた(多孔性)固形物を液油に浸すなどして多孔性固形物の孔内に液油を吸収させ、また、多孔性固形物の孔内の空隙中に液油を保持させるなどした、高含油量の固形飼料を製造する技術にあたる。
しかしながら(2)の技術では、固形物が空隙を有した多孔性固形物である場合、固形物の空隙に液油を保持させるのは大変困難であり、「液油が固形物中に十分に保持されず、空隙より漏れ出す」といった問題があった。
【特許文献1】特開2003-212708
【特許文献2】特開平10-127743
【特許文献3】特開2004-236592
【特許文献4】特開平8-109366
【特許文献5】特開平9-201168
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、液油含有多孔性固形物の製造技術のうち、「該固形物に液油を染み込ませる」という技術における、「(1)孔内への液油浸透が困難、(2)孔内より液油が漏出する」という二つの問題点を解決する技術を提供することにある。
また、上技術により、該固形物の孔内に液油を安定に保持させ、該固形物中の油含有量が高く、かつ油漏出の少ない含油固形物、及び、その製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、多孔性固形物に対して、液油の代わりにW/Oエマルションを含浸させることで、該固形物中に液油を高濃度化させ、さらにそれを安定に保持し漏出を防止する方法を見出し、本発明を完成させた。
詳細には、液油に界面活性剤を溶解後、水相と混合してW/Oエマルションを作製し、続いてこのW/Oエマルションを多孔性固形物に含浸し、W/Oエマルションを該固形物孔内に安定に保持させる。さらに、水相にゲル化可能物質を含ませ、固形物空隙中でゲル化させることで、液油の漏出をより効果的に防止する技術である。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)多孔性固形物の孔内に、W/Oエマルションを含浸させてなる含油固形物。
(2)W/Oエマルションが多孔性固形物の孔内に充填されていることを特徴とする含油固形物。
(3)該多孔性固形物の孔内にゲル状高分子が充填されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の含油固形物。
(4)W/Oエマルション中の水相含量比が、0.01重量%〜50重量%であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1つに記載の含油固形物。
(5)W/Oエマルションの水相が、水溶性ゲル化可能物質を含むことを特徴とする(1)〜(4)の何れか1つに記載の含油固形物。
(6)多孔性固形物が、食品、飼料、固形燃料、芳香剤、肥料、及び、医薬品の群から選ばれるいずれか1つの固形物であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の含油固形物。
(7)多孔性固形物に、W/Oエマルションを含浸させることを特徴とする、含油固形物の製造方法。
(8)W/Oエマルションが、水相に水溶性高分子を含有することを特徴とする(7)に記載の含油固形物の製造方法。
(9)水溶性高分子を多孔性固形物の孔内でゲル化させることを特徴とする(8)に記載の含油固形物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、多孔性固形物に液油を染み込ませ、高濃度化する技術における、「(1)孔内への液油浸透が困難、(2)孔内より液油が漏出する」という二つの問題点を解決できる。
本技術により、該固形物中に液油を高濃度化及び安定化することができ、液油漏出の少ない固形物の提供が可能となる。さらに、固形物より液油の漏出を抑えることで、液油の漏出に伴う種々の問題を軽減し、固形物中に含ませた液油の機能を効率よく発揮させることができる。
【0013】
また、上述の効果の他、「液油には通常溶解されない水溶性物質を含油固形物に保持させる」といった、新たなメリットも生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の要旨の一つは、多孔性固形物の孔内に、W/Oエマルションを含浸させてなる含油固形物に存する。
まず以下に、本発明に関する多孔性物質への液油の染み込み及び漏出と、W/Oエマルションの効果を記述する。
【0015】
<多孔性固形物への液油の染み込み>
多孔性固形物はその構造上、毛細管の集合体であるとみなすことができ、内外に空隙が存在する。多孔性固形物に対する液油の染み込みは、大きく2つの工程に分けて考えられる。一つは1)液油が多孔性固形物表面に接触し孔内に入る工程、二つめは2)液油が孔内に入った後、毛細管空隙(孔)内を液油が深部へ移動してゆく工程である。
この二つの工程において、液油の性質と染み込み易さには、次の関係があると考えられる。
【0016】
1)について:一般に固体と液油の接触のし易さは、固体−液油間の界面張力が低い程良好である。つまり、多孔性固形物に液油を染み込ませる場合、多孔性固形物表面と液油の接触は、多孔性固形物−液油間の界面張力が低い程容易になる。従って1)の工程では、界面張力の「低い」液油であることが、多孔性固形物の液油高濃度化に好ましい。
2)について:2)の工程はさらに、孔の大きさにより2つのパターンに分けて考えられる。(1)孔径が大きいときは、孔内における溶液の毛細管現象が僅かにしか起こらず、孔内の液油移動は1)のように多孔性固形物表面と液油の接触が主となる。従って大きな孔内では界面張力の「低い」液油であることが、染み込みに好ましい。(2)一方で、孔径がより小さく(細部)なると、溶液の毛細管現象はより顕著に起こる。この場合、毛細管中を液体が移動する力は、液体の表面張力が高い程強い。界面張力の高い液体は、毛細管内でその液体表面を小さくしようとする力が働く。結果的として、この力が毛細管壁で液体を移動させる力となる。例えば水は、分子間力が強いために高い表面張力(72dyn/cm)を持ち、水が繊維や木材などの多孔性固形物に染み込み易いのは、界面張力が高く、毛細管内を移動し易いことに起因している。従って孔の細部では、界面張力が「高い」液油であると、多孔性固形物内をより移動しやすく液油の高濃度化に好ましい。
【0017】
<多孔性固形物からの液油の漏出>
一方で、多孔性固形物より液油が漏出するケースにおいては、荷重(圧力)のような外的要因を除けば、多孔性固形物−液油間の界面張力が低いときに、多孔性固形物表面および孔内に液油が保持されずに孔外への液油漏出が起こる。また、温度上昇等の要因により液油の粘度低下が引き起こされると、液油が孔内に吸着不可能となり漏出が起こる。
つまり液油を多孔性固形物内に安定化するためには、液油が高い界面張力を有することが好ましい。
【0018】
<多孔性固形物内の液油安定化におけるW/Oエマルションの有用性>
上記要因から多孔性固形物に液油を高濃度化する為には、1)液油が多孔性固形物表面から孔内に入る、2)大きな孔内を液油が移動する、3)孔の細部を液油が移動する、という3つの状況において、液油の界面張力をコントロールする必要がある。
【0019】
本発明者らは「多孔性固形物により染み込み易く、かつ温度変化等の外的要因の変化に対しても孔内に安定に吸着し続ける」溶液として、液油中に界面活性剤を用いて水を分散させた「W/Oエマルション」を選定した。
W/Oエマルションが多孔性固形物内に浸透・吸着する状況は次のように説明される。
【0020】
1)液油が多孔性固形物表面に接触し孔内に入る状況
W/Oエマルションの分散媒である液油は、界面活性剤を溶解することで、その界面張力が低下した状態になる。すなわち、多孔性固形物表面との接触性が界面活性剤により向上しており、液油より容易に多孔性固形物内に浸透することができる。
【0021】
2)大きな孔内を液油が移動する状況
W/Oエマルションが孔内に進入した後、該固形物の孔径が大きいときは、溶液の毛細管現象は僅かにしか起こらない。先述したとおりこの状況下では、界面張力の低い液油が、孔内の移動に好ましい。1)と同様、液油は界面活性剤を溶解することで、その界面張力が低下した状態になっており、W/Oエマルションは容易に多孔性固形物内に浸透することができる。
【0022】
3)孔の細部を液油が移動する状況
W/Oエマルションが孔内に進入し、孔径が小さくなると、溶液の毛細管現象はより顕著に現れるようになり、この毛細管力が液油の孔内移動のドライビングフォースとなる。
「多孔性固形物の孔径 ≦ W/Oエマルションの粒子径」となり、分散質である水相(乳化滴)が孔と作用すると、分散媒(液油)よりも高い界面張力を有した水の毛細管力が発揮され、W/Oエマルションはさらに孔内を移動し易くなる。また、水は界面張力が高く、孔内に保持され易いので、このエマルションは、孔内に安定に吸着することになる。
【0023】
すなわち、W/Oエマルションの分散媒である液油は多孔性固形物内外表面と接触し易く、分散質である水を容易に孔内へ届けることができる。乳化滴は先述の通り孔内への浸透が良好で、その高い界面張力が起因して孔内に保持され易くかつ漏出が少ない。この技術における界面活性剤は、液油−水間の界面張力を下げエマルションを形成させることで、水を安定な形で孔内に届ける役割を担う。さらに界面活性剤は、孔内に保持された水に対し、より多くの液油を分配させ、液油保持の役割を持つ。
【0024】
結果として液油(エマルション)は、「多孔性固形物に染み込み易くかつ漏出し難い」機能を有し、「多孔性固形物への液油の高濃度化」という本技術の発明に至った。
さらに、本発明における液油漏出の防止効果は、水相に水溶性ゲル化可能物質を含有させたW/Oエマルションを使用することにより、より高い効果が得られる。
水溶性ゲル化可能物質の効果は、エマルションが固形物の孔内に吸着した後、エマルション中の水溶性ゲル化可能物質がゲル化を起こし、このゲルにより孔内への液油(エマルション)の保持・吸着がより安定強固なものとなり、液油の漏出を防止する。
【0025】
以下に本発明に係る、多孔性固形物、W/Oエマルションの詳細を記述する。
(1)多孔性固形物
本発明に用いる多孔性固形物は、固形物内部の空隙孔内に、液油を充填することが可能であればよいが、空隙孔内への液油充填のしやすいこと、空隙孔内での液油保持の良いことから、空隙の孔径の大きさは通常0.001μm以上であり、また、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0026】
本発明に用いる多孔性固形物は、固形物の有する空隙に液油を保持することができる固形物であればよく、その形状に特に限定はないが、固形物の表面及び/又は内部に凹凸や孔等の空隙を有したものが挙げられる。
多孔性固形物を形成する材質としては、特に制限はなく、動植物より得られるタンパク質、アミノ酸、脂質、炭水化物、ビタミン、またはこれらの分解生成物及び化学的修飾物、金属(ミネラル)やそれらの塩、水、化学的・生物的に合成されるポリマー等が挙げられる。
【0027】
多孔性固形物の具体例としては、畜産や養魚用の飼料(固形飼料)、ペットフード、クッキー、スポンジケーキ等の食品、化学肥料や有機質肥料、固形芳香剤・固形脱臭剤・固形消臭剤・固形洗浄剤や固形燃料、化粧品、固形入浴剤、繊維塊、フェルト、木材、わら、土壌、ガラス又は樹脂製の中空物等が挙げられる。
養魚飼料固形物は、例えば、魚粉、大豆油かす、コーングルテンミール、オキアミミール、でんぷん質、米ぬか等の主原料に、必要に応じ、ビタミン、ミネラル、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等を添加し、得られた混合物をエクストルーダー(一軸又は二軸スクリュー)により加圧、押出して成形することにより製造することができる。
【0028】
上記のようにして得られる養魚飼料固形物は、空隙を有した多孔性固形物であり、通常円筒状を呈している。養魚飼料固形物の大きさは、対象とする養魚の種類、成長の度合いによって使い分けられており、直径2〜4mmの小さいものから、直径20〜25mmの大きいもの迄、任意に選択できる。
【0029】
(2)W/Oエマルション
本発明に用いるW/Oエマルションは、油性成分、界面活性剤、水溶液(水相)より作製することができる。
W/Oエマルションの充填量は、多孔性固形物に対して、通常0.01重量%以上であり、また、通常80重量%以下である。
さらに本発明のW/Oエマルションは、通常油性成分に溶解しない物質を水相に溶解し、液油および固形物に付与できるメリットを有している。つまり、油溶性物質および水溶性物質の両者を特に限定無く使用することができる。
従って、使用目的に応じて抗酸化剤、防腐剤、色素類、糖類、塩類、調味料類、乳製品等を適宜に水溶液(水相)もしくは油性成分(油相)に添加して用いることができる。
【0030】
(a)油性成分
本発明で作製されるW/Oエマルションの油性成分としては、食品、飼料、化粧品、医薬品及び工業等の分野で利用される公知の油性成分を特に制限なく用いることができる。例えば動植物油脂類、脂肪酸およびそのアルコールとのエステル、炭化水素類、飽和または不飽和の高級アルコール、ワックス、エッセンシャルオイル、オレオジン又はレジノイド、着香料及びこれらを酵素的処理(加水分解、エステル交換等)や化学的処理(エステル交換、水素添加等)したもの等が該当する。
【0031】
動植物油脂類の具体例としては、魚油、牛脂、豚脂、乳脂、馬油、蛇油、卵油、卵黄油、大豆油、とうもろこし油、綿実油、なたね油、ごま油、シソ油、こめ油、ひまわり油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、米胚芽油、小麦胚芽油、玄米胚芽油、ハトムギ油、ガーリックオイル、ホホバ油、マカデミアンナッツ油、アボガド油、ユーカリ油、月見草油、タートル油、ミンク油、フラワー油、つばき油、やし油、ひまし油、あまに油、カカオ油、中鎖脂肪酸トリグリセライド、及びこれらを水素添加またはエステル交換を施して得られた加工油脂等が挙げられる。
【0032】
脂肪酸およびそのアルコールとのエステルの具体例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、ヘキサデカトリエン酸、オクタデカトリエン酸、エイコサテトラエン酸、ドコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、テトラヘキサエン酸等およびこれらの幾何異性体、さらにこれらのアルコールとのエステルが挙げられる。
【0033】
炭化水素類の具体例としては、軽質流動パラフィン、重質流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、セレシン、パラフィン、マクロクリスタンワックス、ワセリン、スクワラン、スクワレン等が挙げられる。
飽和または不飽和の高級アルコールの具体例としては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリンアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールオクタコサノール等の炭素数8〜44のアルコールが挙げられる。
【0034】
ワックスの具体例としては、ホホバ油、ライスワックス、プロポリス、みつろう、さらしみつろう、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう、鯨ろう、セシレン等が挙げられる。
エッセンシャルオイルの具体例としては、アンブレットシード油、カラシ油、サフラン油、シトトネラ油、ベチバー油、バレリアン油、ヨモギ油、カミツレ油、しょう脳油、サッサフラス油、ホウショウ油、ローズウッド油、クラリーセージ油、タイム油、バジル油、カーネーション油、シダーウッド油、ヒノキ油、ヒバ油、クローブ油、テレピン油、パイン油等が挙げられる。
【0035】
オレオジン又はレジノイドの具体例としては、コショウ、ショウズク、ショウガ、パセリ、コリアンダー、ヒメウイキョウ、ピメンタ、バニラ、セロリ、チョウジ、ニクズク、パブリカ、イリスレジノイド、乳香樹、オーモニクス等が挙げられる。
着香料の具体例としては、オレンジ油、レモングラス油、タラゴン油、アボガド油、ローレル葉油、カシア油、シナモン油、コショウ油、カラムス油、セージ油、ハッカ油、ペパーミント油、スペアーミント油、パッチュリ油、ローズマリー油、ラバンジン油、ラベンダー油、クルクマ油、カルダモン油、ショウガ油、アンゲリカ油、アニス油、ウイキョウ油、パセリ油、セロリ油、カルバナム油、クミン油、コリアンダー油、ジル油、キャロット油、キラウェー油、ウィンターグリン油、ナツメグ油、ローズ油、シプレス油、ビャクダン油、オールスパイス、グレープフルーツ油、ネロリ油、レモン油、ライム油、ベルガモット油、マンダリン油、オニオン油、ガーリック油、ビターアーモンド油、ゼラニウム油、ミモザ油、ジャスミン油、キンモクセイ油、スターアニス油、カナンガ油、イランイラン油、オイゲノール、カプリル酸エチル、ゲラニオール、メントール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール等が挙げられる。
上記の各成分は1種のみを用いてもよいし、複数を同時に用いてもよい。
【0036】
<硬化性油脂>
油性成分には、より高い液油漏出防止効果を目的として、硬化性油脂を加えることもできる。硬化性油脂としては、動植物油脂を水素添加して得られたもの、または動植物油脂より高融点画分を分画して得られたものが使用される。具体的には、ヤシ油の硬化油、パーム核油の硬化油、ニシン油の硬化油、タラ肝油の硬化油、牛脂の硬化油、パーム油の硬化油、綿実油の硬化油、オリーブ油の硬化油、落花生油の硬化油、大豆油の硬化油、アマニ油の硬化油、ひまし油の硬化油等が挙げられる。硬化性油脂は1種類のみを使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0037】
油性成分の充填量は、多孔性固形物に対して、通常0.01重量%以上であり、また、通常80重量%以下である。
油性成分には、酸化防止剤等の油溶性物質を必要に応じて添加することができる。油溶性酸化防止剤としては、例えば、油溶性ローズマリー抽出物、茶抽出物、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ビタミンE(α、β、γ、δトコフェロール)、ミックストコフェロール、ビタミンC脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
(b)界面活性剤
本発明において使用される界面活性剤としては、水相が油相中に安定に分散したW/Oエマルションを形成するものが望ましく、食品、飼料、化粧品、医薬品及び工業等の分野において用いられる公知の界面活性剤を特に制限なく用いることができる。
界面活性剤はその化学的性質からイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などに分類され、そのいずれもが本発明において使用することができる。
また、界面活性剤はその用途から工業用界面活性剤、食品用乳化剤又は天然系界面活性剤などに分類され、そのいずれもが本発明において使用することができるが、環境や生体への安全性や飲食品、飼料、化粧品への応用を考慮に入れると、食品用乳化剤又は天然系界面活性剤がより優れており、食品用乳化剤の中でも入手が容易である点、そして幅広いHLB・脂肪酸種が選択でき、国内に関しては使用制限の無い点で、ショ糖脂肪酸エステル
又はポリグリセリン脂肪酸エステルがより好ましい。また、以上の界面活性剤は、1種または2種以上を組み合せて用いることができる。
【0039】
<食品用乳化剤>
食品用乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム(CSL)、オキシエチレン高級脂肪族アルコール、ポリオキシエチレン高級脂肪族アルコール、オレイン酸ナトリウム、モルホリン脂肪酸塩等が挙げられる。
上述脂肪酸エステル化合物の構成成分である脂肪酸は、通常炭素数が8〜24の脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸であり、炭化水素基又はヒドロキシ炭化水素基が、直鎖であっても分岐鎖であってもよく、また、飽和であっても不飽和であってもよい。具体例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、エイコセン酸、エイコサテトラエン酸、エルカ酸等のドコセン酸、オクタデカトリエン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられ、中でも汎用性に優れかつ入手が容易な点で、炭素数12〜24の脂肪酸が好ましく、更には炭素数18〜22の脂肪酸が液油をより硬化し易くする(融点が高い)点でより好ましい。また、これらの脂肪酸は目的に応じて、2種類以上の組み合わせで用いることもできる。
【0040】
<ショ糖脂肪酸エステル>
ショ糖脂肪酸エステルは通常、モノ、ジ、トリ、テトラ等のエステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルを含んでおり、各エステルの混合物として利用されることが多い。本発明で使用するショ糖脂肪酸エステルは、W/Oエマルションを形成するにあたり、油成分に対してより親和性を有することが好ましい。該当するショ糖脂肪酸エステルとしては、平均エステル化度の高い、HLB(hydrophile-lipophile balance:親水性と疎水性のバランス)が1〜8のものが好ましく、中でもHLB1〜6のものがより好ましい。
市販品の例としては、S−170(ショ糖ステアリン酸エステル、HLB1:三菱化学フーズ(株)社製)、ER−290(ショ糖エルカ酸エステル、HLB2:三菱化学フーズ(株)
社製)等が挙げられる。
【0041】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル>
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、通常ポリグリセリンと脂肪酸を反応させて得られる。ポリグリセリンは平均重合度が2〜16のものが一般的に使用され、合成反応の形式により、直鎖・分岐・環状のものが得られるが、混合物としても利用できる。また、脂肪酸のエステル化度を調節することで、様々なHLBのポリグリセリン脂肪酸エステルを合成することができる。本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が2〜16であり、好ましくは4〜12である。また、W/Oエマルションを形成するにあたり、油成分に対してより親和性を有することが好ましく、該当するポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、平均エステル化度の高い、HLB1〜8のものが好ましく、中でもHLB1〜6のものがより好ましい。
市販品の例としては、ER−60D(デカグリセリンエルカ酸エステル、HLB5:三菱化学フーズ(株)社製)、B−100D(デカグリセリンベヘニン酸エステル、HLB3:三菱化学フーズ(株)社製)等が挙げられる。
【0042】
<天然界面活性剤>
天然界面活性剤としては、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン、酵素処理レシチン、サポニン、キラヤサポニン、大豆サポニン、スフィンゴ脂質、植物性ステロール、動物性ステロール、胆汁末、トマト糖脂質、ユッカ・フォーム抽出物等が挙げられる。
【0043】
<イオン性界面活性剤>
アニオン界面活性剤としては石けん用素地、脂肪酸塩、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、一般的にはアンモニウム塩の水素をアルキル基で置換した化合物がこれに相当し、例えばモノ・ジ・トリアルキルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、ピリジニウム塩等の第四級アンモニウム塩、ポリエチレンオキサイド(POE)−アルキルアミン、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、有機変性粘度鉱物等が挙げられる。
【0044】
<非イオン性界面活性剤>
非イオン性界面活性剤としては、アルキルフェノール、高級脂肪酸、アルキルアミン、アルキルアミド、ポリプロピレングリコール等を有した「エーテル型非イオン性界面活性剤」及び、グリセリンやソルビトール、砂糖などの多価アルコールを親水基とする、「多価アルコール型非イオン性界面活性剤」等が挙げられる。後者については、食品用乳化剤の項で述べた。
【0045】
<両性界面活性剤>
両性界面活性剤としては、アニオン部がカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等のものが挙げられる。また、カルボン酸塩型の中でもアルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等の様に、カチオン部が第四級アンモニウム塩であり、カチオン部がカルボン酸塩であるベタイン系界面活性剤や、カチオン部にイミダゾール核を有すイミダゾリン系界面活性剤、またカチオン部にアミノ酸を有するアミノ酸系界面活性剤等が挙げられる。
界面活性剤の添加量としては、W/Oエマルションに対する重量パーセント濃度で、通常0.01%以上、好ましくは0.1%以上であり、また、通常20%未満、好ましくは10%未満である。
【0046】
(c)水溶液(水相)
本発明において水溶液(水相)は、油性成分と界面活性剤と共にW/Oエマルションを形成し、W/Oエマルションの水相含量を決定する。W/Oエマルションにおける水相含量は、通常0.01重量%以上であり、好ましくは0.05重量%以上であり、さらに好ましくは0.1重量%以上であり、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
水溶液は、水のみであってもよいが、必要に応じて、他の水溶性物質を添加することもできる。先述したとおり、本発明のもう一つの特徴として、通常油性成分には溶解しない水溶性物質を水相中に溶解させたW/Oエマルションを多孔性固形物に含浸することで、油性成分には溶解しない水溶性物質を使用目的に応じて液油及び固形物に付与することができる。
水溶性物質として特に限定は無く、公知の水溶性物質を任意に使用することができる。例えば、使用用途別に、酸化防止剤、甘味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、香料・香辛料、増粘安定剤、漂白剤等を任意に選択でき、上記を1種類または2種類以上を用いても良い。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、水溶性ロ−ズマリー抽出物等の水溶性天然抽出物が挙げられる。
本発明に係るW/Oエマルションは、油性成分を含有するため、製造・流通・保存などの各プロセスにおいて、油脂劣化が予想される。特にW/Oエマルションでは、水相の溶存酸素の影響等による油脂劣化が予想されるため、これを防止する為に、必要に応じて水相中に酸化防止剤を添加することができる。
【0047】
(d)W/Oエマルション作製方法
本発明のW/Oエマルションの作製方法は、従来公知の方法を特に制限なく用いることができる。まず液油中に目的の界面活性剤を加熱溶解させた後、ゲル化可能物質を含有した水溶液を液油中に分散させる。乳化・分散方法は乳化滴が形成される方法であれば特に制限はないが、乳化滴がより完全に分散するようプロペラミキサー、カッターミキサー、攪拌乳化機、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化、膜乳化、バルブホモジナイザー等で分散均一混合する方法で調製することが望ましい。
【0048】
W/Oエマルション調製時の乳化滴の粒子径の範囲は通常0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、また、通常500μm未満、好ましくは200μm未満、さらに好ましくは100μm未満であるが、この限りではない。
得られたW/Oエマルションは、そのまま液油として多孔性固形物に含浸させてもよいが、さらに他の油性成分と混合したものを液油として多孔性固形物に含浸させてもよい。
【0049】
(3)水溶性ゲル化可能物質
本発明で用いるW/Oエマルションの水相に、水溶性ゲル化可能物質を添加することにより、乳化滴のゲル化が引き起こされ、W/Oエマルションをより安定に孔内に吸着させることができる。水溶性ゲル化可能物質としては、食品、飼料、医療、化粧品及び工業等
の分野で利用される公知の水溶性ゲル化成分を特に制限なく用いることができる。
水溶性ゲル化可能物質の具体例としては、多糖類、タンパク質、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルデヒド、アクリル系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール−Cu2+、ポリアクリル酸−Fe3+、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムおよびそれらの誘導体等が挙げられる。環境及び生体への安全性、並びに飲食品、飼料、化粧品への応用を考慮に入れると、多糖類又はタンパク質を用いることがより好ましい。また、以上の水溶性ゲル化可能物質は、1種または2種以上を組み合せて用いることができる。
【0050】
多糖類としては、たとえばデンプン、寒天、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、こんにゃくマンナン、アルギン酸、ヒアルロン酸、グアガム、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガントガム、タマリンドガム、ペクチン、プルラン、カードラン、ジェランガム、アガロース等の食品添加物として収載のものが挙げられるが、特にアルギン酸、グアガム、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガムの使用が効果の発現性からみて好ましい。
タンパク質としては、乳清タンパク質、カゼイン類乳タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、蓄肉タンパク質、魚肉タンパク質、ゼラチン、コラーゲン、卵タンパク質、卵白アルブミン、血清アルブミン、フィブリン、エラスチン、ケラチンなどが挙げられる。
水溶性ゲル化可能物質の添加濃度は、水相に対する重量パーセント濃度で、通常0.1%以上であり、また、通常20%以下、好ましくは10%以下である。
【0051】
(4)ゲル化(ゲル形成反応)
水溶性ゲル化可能物質によるゲル化反応とは、基本的には水溶性ゲル化可能物質間に「架橋を形成する反応」であり、熱、光、圧力、電気、プラズマ、放射線、触媒、pH・イオン強度の変化、ラジカル、多価カチオン、疎水物質等により誘引される反応である。多孔性固形物の孔内の空隙に存在するW/Oエマルションに分散された水溶液中に存在する水溶性ゲル化可能物質がゲル化(ゲル形成反応)することにより、空隙中に存在する液油(油性成分)が漏れ出すことを抑制する。これにより多孔性固形物の含油保持力を高めることができる。
【0052】
具体例には分子間または分子内官能基の共有結合、水素結合、イオン結合、配位結合、疎水結合クーロン力、ファンデルワールス力等による分子間の架橋や重合反応、分子鎖の物理的な絡み合い、高分子鎖間で二重へリックスを形成した後凝集して架橋領域を形成する反応、pHやイオン強度等の溶媒組成の変化や高圧・冷却・加熱、変性剤の添加等により誘引されるタンパク質の変性及び変性タンパク質の会合、分子間のランダムな立体的相互作用による三次元的ネットワーク構造の構築等が挙げられる。
【0053】
実際には、多孔性固形物またはW/Oエマルション中に、水溶性ゲル化可能物質のゲル化を誘引する物質をゲル化補助剤として添加することも可能である。このゲル化補助剤は、水溶性ゲル化可能物質のゲル化形成機序により様々に異なる。
水溶性ゲル化可能物質とゲル化補助剤の組み合わせは、例えば(1)アルギン酸ナトリウムとCaイオンのような多価陽イオンの組み合わせ、(2)キサンタンガムとローカストビーンガムのような多糖類ハイドロコロイド同士の組み合わせ、(3)タンパク質と酸・アルカリ化合物の組み合わせ等が挙げられる。
【0054】
ゲル化補助剤により誘引されるゲル化反応機構を上述の組み合わせに従って具体的に説明すると、(1)糖鎖上のカルボキシル基が、多価陽イオンを仲立ちとしてヘリックス状糖鎖を会合し、その会合体が三次元ネットワークを形成しゲル化する。(2)第一の高分子の網目中に第二の高分子が取り込まれ、両分子が互いに立体的に絡み合いゲル化する。(3)タンパク質周囲環境のpH変化により等電点沈殿が起こり、ゲル化を誘引したり、または、pH変化がタンパク質の構造変化を引き起こし、凝固(変性)しゲル化する、等
の反応機構等が挙げられる。
ゲル化補助剤の添加方法としては、W/Oエマルション中のゲル化可能物質とゲル化補助剤が固形物中で接触する方法であれば特に制限は無いが、多孔性固形物の基材中にあらかじめゲル化補助剤を添加しておくことにより、多孔性固形物に含浸されたW/Oエマルション中に含まれるゲル化可能物質のゲル化を誘引することができる。多孔性固形物の基材中にあらかじめゲル化補助剤を添加しておく方法としては、例えば多孔性固形物原料中にゲル化補助剤を混練させる、または多孔性固形物に液油を浸漬させる事前に、ゲル化補助剤を付与する方法等が考えられる。
ゲル化補助剤の添加濃度は、その種類により様々であるが、多孔性固形物に対する重量パーセント濃度で、通常0.01%以上、好ましくは0.1%以上であり、また、通常10%未満、好ましくは1%未満である。
【0055】
(5)W/Oエマルションを浸漬する方法
多孔性固形物の空隙にW/Oエマルションを含浸させる方法は、多孔性固形物内に液状物質であるW/Oエマルションが吸収される方法ならば特に制限は無い。簡便的にはW/Oエマルション溶液中に多孔性固形物を浸漬した後、常圧静置して空隙内に液油を浸透させる。また特殊な機器を用いる方法としては、加圧機、減圧機、スプレー、注射器等の機器を用いて、多孔性固形物に加圧する、減圧する、噴霧する、注入することにより多孔性固形物の空隙内にW/Oエマルションを含浸することができる。
【0056】
(6)含油固形物の評価方法
本願発明の含油固形物の評価は、以下の方法で行うことができる。
油漏出試験は、含油固形物を、直径5cmに切った円形ろ紙(No.5A:ADVANTEC社製)10枚の上に置き、45℃、常圧下で24時間静置し、固形物中の液油を漏出させることにより行う。なお、油漏出の防止効果は、次に示す方法で評価した
【0057】
<油漏出防止効果の評価>
A:多孔性固形物、B:液油またはW/Oエマルションを含浸させた多孔性固形物(含油固形物)、C:24時間静置後の含油固形物について、各々の重量を測定し、含油固形物
の油含有率(%)及び油漏出率(%)を次式により算出した。
(式1)
油含有率(%) = 100×(液油含浸後の多孔性固形物重量B−液油含浸前の多孔性
固形物重量A)/(液油含浸後の多孔性固形物重量B)
(式2)
油漏出率(%) = 100×(液油含浸後の多孔性固形物重量B−油漏出後の含油固形
物重量C)/(液油含浸後の多孔性固形物重量B−液油含浸前の多孔性固形物重量A)
すなわち、含油固形物では、(式1)により算出される油含有率が高い値を示し、かつ(式2)により算出される油漏出率が低い値を示す程より好ましく、「固形物が多くの液油が保持し、かつ液油の漏出を抑えている」と解釈できる。
【0058】
本願発明の含油固形物の油含有率は、好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、特に好ましくは20%以上である。
また、本願発明の含油固形物の油漏出率は、好ましくは55%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
(1)大豆油を含有させた養魚飼料固形物についての検討
液油の漏出が特に問題となる「飼料分野」における本発明の「液油漏出防止効果」を示す例として、養魚飼料固形物における液油漏出防止効果の検討結果を実施例として以下に記述する。
【0060】
[製造例1] 養魚飼料固形物の作製
下記の原料: 重量%
魚粉:43%
大豆粕:30%
澱粉・小麦粉:12%
その他(動物性油脂・ビタミン・ミネラル):3%
を混合機で十分ミキシングした後、得られた混合物を二軸エクストルーダーを使用して、バレル温度80〜120℃、出口圧力4〜8バールの押出条件下で加水、加圧、成形及び乾燥(水分10〜15%)を行って、多孔性の養魚飼料固形物(養魚固形飼料)を得た。
【0061】
得られた養魚飼料固形物は、養魚飼料として最も汎用性の高い大きさで、重量1.3±0.1(g)(1.2〜1.5(g))、直径12.3〜13.9mm、高さ13.1±0.1mmであった。
[製造例2] W/Oエマルションの作製
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてデカグリセリンエルカ酸エステル(ER−60D:三菱化学フーズ(株)社製)5重量部を94重量部の大豆油(軟膏基材、日本薬局方:小堺製薬株式会社製)に添加後、75℃に加熱して均一溶解させた。この溶液に1重量%アルギン酸ナトリウム(I−3G:株式会社キミカ社製)水溶液を1重量部添加し、加熱撹拌しながら均質化し、W/Oエマルションとした。このW/Oエマルション3重量部を、予め60℃に加熱した大豆油22重量部中に希釈し、固形養魚飼料に浸漬させるW/Oエマルション含有の液油とした。
【0062】
[実施例1] W/Oエマルションを含浸させた養魚飼料固形物の作製
製造例1で作製した多孔性の養魚飼料固形物を任意の重量でビーカー中に秤量し、製造例2で作製したW/Oエマルション含有の液油を養魚飼料固形物が全て浸るようにビーカー内に浸漬した。このビーカーを60℃、−0.085〜−0.095MPaの減圧下で1分間保持した後、再度常圧に戻して養魚飼料固形物の孔内にW/Oエマルションを含浸させた。ビーカー内より養魚飼料固形物のみ回収し、飼料表面に付着した液油を軽く拭き取り、含油固形物とした。
【0063】
油漏出試験は、含油固形物を、直径5cmに切った円形ろ紙(No.5A:ADVANTEC)10枚の上に置き、45℃、常圧下で24時間静置し、固形物中の液油を漏出させることにより行った。なお、油漏出の防止効果は、次に示す方法で評価した。
<含油養魚飼料固形物の油漏出防止効果の評価>
A:使用した養魚飼料、B:液油またはW/Oエマルションを含浸させた後の養魚飼料、C:24時間静置後の養魚飼料について、各々の重量を測定し、養魚飼料の油含有率(%)及び油漏出率(%)を、前記式(1)、(2)と同様にして次式により算出した。
(式3)
油含有率(%)=100×(液油浸漬後の養魚飼料固形物重量B−養魚飼料固形物重量A)/(液油浸漬後の養魚飼料固形物重量B)
(式4)
油漏出率(%)=100×(液油浸漬後の養魚飼料固形物重量B−油漏出後の養魚飼料固形物重量C)/(液油浸漬後の養魚飼料固形物重量B−養魚飼料固形物重量A)
すなわち、(式3)により算出される油含有率が高く、(式4)により算出される油漏出率が、低い程より好ましく、「養魚飼料固形物により多くの液油が保持され、液油の漏出を抑えている。」と解釈できる。
【0064】
[比較例1]
実施例1と同様にして、大豆油のみを含浸した養魚飼料を作製して含油固形物として、同様の油漏出試験に供した。
上記実施例1及び比較例1の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかな様に、本発明により製造されるW/Oエマルション含有養魚飼料(実施例1)は、固形物中に含浸した液油の漏出量が比較例1に比べ少ない。
この系において、W/Oエマルション中のアルギン酸ナトリウム水溶液は、養魚飼料固形物中に取り込まれた際に、飼料中添加物である炭酸カルシウム又はリン酸カルシウム由来のカルシウムイオンと接触し、アルギン酸のゲル化が誘引されていると考えられる。結果的にW/Oの乳化滴がゲル化を起こし、そのゲルが養魚資料固形物(多孔性固形物)内の空隙を埋め、空隙からの液油の漏出を抑えていると推測される。
【0067】
(2)大豆油と硬化性油脂を含有させた養魚飼料固形物についての検討
乳化剤と硬化油脂を予め液油に添加した場合の本願発明の液油漏出防止効果を、以下の通り検討した。
[実施例2] 硬化性油脂添加のW/Oエマルションを含浸した養魚飼料固形物の作製
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてデカグリセリンベヘニン酸エステル(B−100D:三菱化学フーズ(株)社製)8.3重量部と、25重量%の硬化油(融点約60℃(ブロード)、Z−4110:不二製油(株)社製)を25重量部を、66.7重量部の大豆油に添加後、75℃に加熱して均一溶解させた。この溶液に1%アルギン酸ナトリウム(I−3G:株式会社キミカ社製)水溶液を1重量部添加し、加熱撹拌しながら均質化し、W/Oエマルションとした。このW/Oエマルション3重量部を、予め60℃に加熱した大豆油22重量部中に希釈し、多孔性固形物に浸漬させるW/Oエマルション含有の液油とした。このW/Oエマルションを実施例1と同様の操作にて養魚飼料固形物に含浸して含油固形物とし、油漏出試験に供した。
【0068】
[比較例2]
製造例1で示したW/Oエマルションに変えて、大豆油のみを含浸させた養魚飼料を、実施例1と同様に作製して含油固形物として、同様の油漏出試験に供した。
[比較例3]
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてデカグリセリンベヘニン酸エステル(B−100D:三菱化学フーズ(株)社製)8.3重量部と、硬化油(融点約60℃(ブロード)、Z−4110:不二製油(株)社製)25重量部を、66.7重量部の大豆油を混合した液油を含浸した養魚飼料固形物を、実施例1と同様に製造し、油漏出試験に供した。
【0069】
上記実施例2と、比較例2及び3の結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2からも明らかな様に、本発明により得られるW/Oエマルション含有養魚飼料は、固形物中に含浸した液油漏出の防止効果が比較例3の現行法よりも向上しており、ゲル化可能物質を含有したW/Oエマルションが、優れた油漏出防止効果を有していることがわかる。
【0072】
(3)魚油を含有させた養魚飼料固形物についての検討
上述の「W/Oエマルションによる養魚飼料固形物の油漏出防止」効果が、実施例1〜3で使用した植物性油である大豆油に特異的な効果では無いことを証明するため、動物性油脂である魚油を用いて、同様の試験を行った。
[実施例3]
魚油を用いたW/Oエマルションを含浸させた養魚飼料固形物の作製
液油として大豆油の代わりに魚油(叶:日興油脂社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、液油を養魚飼料固形物に含浸して含油固形物とし、油漏出試験に供した。
[比較例4]
W/Oエマルションの代わりに魚油のみを液油として用いた以外は実施例1と同様にして、液油を養魚飼料固形物に含浸して含油固形物とし、油漏出試験に供した。
【0073】
[比較例5]
W/Oエマルションの代わりにポリグリセリン脂肪酸エステルとしてデカグリセリンベヘニン酸エステル(B−100D:三菱化学フーズ(株)社製)8.3重量部と、硬化油(融点約60℃(ブロード)、Z−4110:不二製油(株)社製)25重量部を、65.7重量部の魚油を混合した液油を用いた以外は実施例1と同様にして、液油を養魚飼料固形物に含浸して含油固形物とし、油漏出試験に供した。
【0074】
上記実施例3及び比較例4、5の結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表3からも明らかな様に、本発明により得られるW/Oエマルション含有養魚飼料は、固形物中に含浸した液油漏出の防止効果が比較例よりも向上しており、ゲル化可能物質を含有したW/Oエマルションが、優れた油漏出防止効果を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により、空隙を有する多孔性固形物に液油を含浸させる場合、液油として必要に応じてゲル化可能物質を添加したW/Oエマルションを用いることにより、固形物により多くの液油を浸透させ、かつ液油の漏出を防止できることが明らかになった。これにより、養魚飼料固形物等の多孔性含油固形物における、油漏出に関する種々の問題を軽減し、固形物中に含ませた液油の機能を効率よく発揮させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性固形物の孔内に、W/Oエマルションを含浸させてなる含油固形物。
【請求項2】
W/Oエマルションが多孔性固形物の孔内に充填されていることを特徴とする含油固形物。
【請求項3】
該多孔性固形物の孔内にゲル状高分子が充填されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の含油固形物。
【請求項4】
W/Oエマルション中の水相含量比が、0.01重量%〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の含油固形物。
【請求項5】
W/Oエマルションの水相が、水溶性ゲル化可能物質を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の含油固形物。
【請求項6】
多孔性固形物が、食品、飼料、固形燃料、芳香剤、肥料、及び、医薬品の群から選ばれるいずれか1つの固形物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の含油固形物。
【請求項7】
多孔性固形物に、W/Oエマルションを含浸させることを特徴とする、含油固形物の製造方法。
【請求項8】
W/Oエマルションが、水相に水溶性高分子を含有することを特徴とする請求項7に記載の含油固形物の製造方法。
【請求項9】
水溶性高分子を多孔性固形物の孔内でゲル化させることを特徴とする請求項8に記載の含油固形物の製造方法。



【公開番号】特開2007−707(P2007−707A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181205(P2005−181205)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】