説明

含浸型電極および放電ランプ

【課題】
閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプなどの放電ランプに好適な含浸型電極およびこれを備えた放電ランプを提供する。
【解決手段】
含浸型電極Eは、その電極主部1が高融点金属、例えばタングステン(W)、モリブデン(Mo)およびタンタル(Ta)などの粉末を焼結してなり、相対密度M(%)が数式50≦M≦75を満足する焼結体1aと、焼結体1a中に含浸されたエミッタ1bとを具備している。焼結体1aは、高融点金属の粒子(結晶)1a1の間に空孔1a2が形成され、空孔1a2内にエミッタ1bが含浸されている。
また、焼結体1aは、焼結後の平均粒径が40μm以上に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸型電極およびこれを備えた放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
含浸型電極は、一般に仕事関数が低くて電子放射性に優れている特徴があり、進行波管などに用いる高電流密度用として既知である(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、平均粒径1〜4μmのタングステン粉末を円柱形状にプレス加工した後、高温等方圧プレスでプレスおよび焼結させ、その後、水素雰囲気中または真空雰囲気中にて1600℃以上で再焼結して焼結体の空孔率を約20%とすることを特徴とする含浸型陰極用タングステン粉末焼結体の製造方法が記載されている。そして、特許文献1によれば、1〜4μmのタングステン粉末を使用し、HIP、再焼結することによって空孔率を20%に制御し、小さい空孔を陰極表面全体に均一に形成することによって、含浸型陰極の仕事関数を0.02〜0.05eV低下させ、電子放出特性を向上させることができるという効果がある旨記載されている。
【0003】
一方、キセノン(Xe)を封入していて、コンデンサの電荷を急激に放電させることにより、閃光放電を行う閃光放電ランプ(フラッシュランプ)や、電極間距離が小さくて放電により発生した光を集光するのに適したショートアーク形放電ランプも既知である。前者は、放電時に大電流が流れ、また後者は電流密度が高いという特徴がある。
【0004】
そこで、上記の放電ランプに含浸型電極を用いることが考えられる。
【特許文献1】特許第2910426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプの電極に特許文献1に記載の電極を用いると、従来の含浸型電極は、本発明者の実験によれば、ランプ使用開始時および寿命中に黒化が発生しやすいという問題のあることが分かった。
【0006】
上記の問題の原因は詳らかでないが、焼結体の表面部と中心部との相対密度の分布が不均一であるのが影響しているのではないかと考えられる。すなわち、焼結体の中心部の相対密度に比較して表面部の相対密度が低くなる傾向がある。したがって、エミッタを含浸させると、表面部のエミッタ含浸量が過剰になって飛散しやすくなる。これに対して、中心部に含浸されるエミッタが少なくなるため、中心部に含浸されたエミッタが徐々に拡散して焼結体の表面へ移動し、エミッタを補給する作用が不十分になるのではないかと考えられる。
【0007】
一方、焼結体の空孔率が低いのも一因ではないかと想像される。すなわち、焼結体の空孔率が低いと、エミッタの含浸率が低下して、電子放射が不十分になり、始動性が低下したり、寿命が短くなったりすると考えられる。
【0008】
閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプに含浸型電極を用いる場合の問題およびその解決に向けて、従来は十分な検討がなされていなかったといえる。
【0009】
そこで、本発明者は、閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプの電極に好適な含浸型電極について、その最適な空孔サイズおよびエミッタの含浸量ならびに焼結体の空孔サイズおよびエミッタの含浸量の好ましい分布についてさらに検討を行った。その結果、本発明をなすに至った。
【0010】
本発明は、閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプなどの放電ランプに好適な含浸型電極およびこれを備えた放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明の含浸型電極は、高融点金属粉末を焼結してなり、相対密度M(%)が数式50≦M≦75を満足する焼結体と;焼結体中に含浸されたエミッタと;を具備していることを特徴としている。
【0012】
上記数式において、相対密度Mは、焼結体を構成する金属固有の密度を100%とし、上記金属固有の密度に対する焼結体の見かけ上の密度の割合を%で表わしたときの値である。相対密度Mが50%未満になると、焼結体の空孔比率が大きくなりすぎて、点灯時にエミッタの飛散が顕著になり、また電極の耐熱性が低下する。これに対して、相対密度Mが75%を超えると、空孔比率が小さくなりすぎて、エミッタの含浸量が少なくなり、始動性向上の作用が所望の程度に得られないとともに、電極寿命が低下する。なお、相対密度Mは、数式55≦M≦65を満足する範囲が好適である。
【0013】
本発明の含浸型電極は、上記の構成を備えていることにより、電極の熱電子放射体、換言すればカソードとして用いるのに好適である。したがって、直流点灯用の放電ランプの場合には、これを陰極として用いるのがよい。しかし、本発明の含浸型電極は、耐スパッタ性および放熱性にも優れているので、所望により陽極として用いても十分に効果的である。なお、陽極として用いる場合、エミッタを含浸しないで上記焼結体のみを用いるのも効果的である。
【0014】
また、本発明の含浸型電極は、電極全体を構成しているだけでなく、電極の一部であって、熱電子放射体部分のみを構成しているにような電極にも適応する。例えば、電極が電極主部およびこれを支持する電極軸部から構成される場合に、電極主部を本発明の構成とし、電極軸部をタングステンやモリブデンなどの耐火性金属により形成することができる。また、交流作動用の電極であって、陰極部分と陽極部分とがそれぞれ分かれている場合に、陰極部分を本発明の含浸型電極により構成し、陽極部分を耐火性金属単体またはエミッタを含浸しない耐火性金属の焼結体により構成することができる。
【0015】
次に、含浸型電極の基体金属である焼結体に用いる耐火性金属としては、例えばタングステン(W)、モリブデン(Mo)およびタンタル(Ta)などの高融点金属のグループから適宜選択して用いることができる。特に閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプなどの放電ランプに本発明の含浸型電極を用いる場合、モリブデン(Mo)およびタンタル(Ta)は、その焼結温度が比較的低くてよいので、焼結体の構成金属として好適である。
【0016】
また、本発明において、焼結体の相対密度Mが前記数式を満足するための手段は特段限定されないが、例えば耐火性金属の粒径、焼結時間および焼結温度などを適切に制御することにより実現することができる。
【0017】
一方、エミッタは、熱電子放射性物質であるが、アルカリ土類金属、3B・4B族金属および希土類金属中から選択した金属の酸化物または/および金属単体とすることができる。例えば、酸化バリウム、酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムのグループの一種または複数種が好適である。
【0018】
また、エミッタを含浸させるための具体的な手段は特段限定されない。好適な含浸手段としては、焼結体を得た後に、焼結体をエミッタ材で被覆して真空中または水素雰囲気中で所望により超音波振動を加振しながら加熱処理することができる。この場合のエミッタ材としては、エミッタを構成する金属の炭化物、例えば炭酸バリウム(BaCO)を用いるのがよい。しかし、所望により高融点金属粉末とエミッタ材粉末とを混合して加圧成形した後に、さらに加圧しながら焼結して、高融点金属の焼結体中にエミッタが含浸された含浸型電極を得ることもできる。
【0019】
さらに、焼結体を製造後、焼結体内にエミッタを含浸させる際に、エミッタ材に共晶材、例えばアルミナなどを添加することにより、含浸時の加熱温度が低下するとともに、エミッタの空孔内への含浸が良好になる。
【0020】
そうして、請求項1に係る発明においては、上述のように構成されていることにより、焼結体の空孔比率が所定範囲内で大きくなり、その空孔内にエミッタを含浸させるので、エミッタの含浸量を多くできる。また、焼結体の表面積が増大して電極の放熱が良好になり、エミッタの飛散が低減する。
【0021】
したがって、本発明の含浸型電極を放電ランプ、特に閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプなどに用いた場合には、良好な始動性を備えるとともに、エミッタの飛散を防止してランプの長寿命化を実現することができる。
【0022】
請求項2に係る発明の含浸型電極は、高融点金属粉末を焼結してなり、焼結後の高融点金属の平均粒径が平均40μm以上である焼結体と;焼結体中に含浸されたエミッタと;を具備していることを特徴としている。
【0023】
本発明において、焼結後の高融点金属の粒子ないし結晶は、高融点金属粉末の1次粒子および2次粒子のいずれから形成されているのであってもよい。高融点金属粉末の1次粒径が数μmである場合、焼結後の高融点金属の粒子ないし結晶は、主として1次粒子が集合して加熱溶融して形成された2次粒子からなる。また、高融点金属粉末の粒径が平均40μm以上である場合には、主として1次粒子により上記粒子ないし結晶が形成される。いずれにしても、焼結後の高融点金属の粒子ないし結晶の粒径が40μm以上であることによって、高融点金属粒子の間に比較的大きな空孔が形成されているという構成上の特徴が認められる。
【0024】
焼結後の高融点金属の平均粒径は、以下の手段により求めることができる。すなわち、平均粒径の10倍以上の所定距離にわたる直線を電極の断面上に規定して、その直線に沿って存在する高融点金属の粒子数をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて測定し、上記所定距離を求めた粒子数で除算することにより、焼結後の高融点金属の平均粒径を特定することが可能になる。なお、所望により被測定電極を透明アクリル樹脂中に埋設して、測定用の試料を得てから上記測定を実施することも許容される。
【0025】
ところで、焼結後の高融点金属の平均粒径は、好ましくは40〜100μmの範囲である。平均粒径が100μmを超えて大きくなると、エミッタの飛散が増加しだす傾向がある。
【0026】
また、本発明を実施するに際しては、請求項1に係る発明の構成を併せて備えていることが許容される。
【0027】
そうして、請求項2に係る発明においては、上記構成を備えていることにより、焼結体の空孔比率が所定範囲内で大きくなっていて、その空孔内にエミッタを含浸させるので、エミッタの含浸量を多くできる。また、焼結体の表面積が増大するので、電極の放熱が良好になり、電極スパッタが抑制される。
【0028】
したがって、本発明の含浸型電極を放電ランプ、特に閃光放電ランプやショートアーク型放電ランプなどに用いた場合には、良好な始動性を備えるとともに、エミッタの飛散を防止してランプの長寿命化を実現することができる。
【0029】
請求項3に係る発明の含浸型電極は、高融点金属粉末を焼結してなり、径方向および軸方向の少なくとも一方における相対密度がほぼ均一になっている焼結体と;焼結体中に含浸されたエミッタと;を具備していることを特徴としている。
【0030】
本発明において、焼結体の相対密度がほぼ均一になっているということは、中心部と表面部とにおける相対密度の偏差が10%以下であることをいう。径方向は、電極軸に直交する方向である。軸方向は、電極軸に沿った方向である。なお、特に陰極輝点が形成される電極先端部において、焼結体の密度分布が上記のように構成されていることが重要である。
【0031】
したがって、本発明によれば、焼結体の径方向に相対密度がほぼ均一になっている場合には、電極軸を中心とする中心部と、そこから径方向に向かった表面部との相対密度がほぼ均一になっている。また、焼結体の軸方向に相対密度がほぼ均一になっている場合には、主として電極軸を中心とする中心部において、電極の先端側に位置する表面部と、軸方向に沿った内部との間の相対密度がほぼ均一になっている。さらに、焼結体の径方向および軸方向に相対密度がほぼ均一になっている場合には、上述の両構造を備えている。
【0032】
要するに、本発明によれば、焼結体は、径方向および軸方向のいずれにおいても相対密度がほぼ均一になっているか、または径方向および軸方向のいずれか一方おいて相対密度がほぼ均一になっている。
【0033】
本発明において、焼結体を上記のように均一に構成する手段は特段限定されないが、例えば焼結時間を長くしたり、焼結体を小形化したりすることで実現することができる。また、アルゴン(Ar)プラズマ放電を応用した放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて焼結することによっても相対密度の均一な焼結体を実現することができる。
【0034】
また、本発明の実施に際しては、請求項1および/または請求項2に係る発明の構成を併せて採用することが許容される。
【0035】
そうして、本発明においては、焼結体の表面部が内部の中心部と同様の相対密度になっていて、全体として均一な密度分布になっている。これにより、電極表面のエミッタが過剰にならないで、しかも熱電子放射に必要な量のエミッタは、焼結体の内部に含浸しているエミッタが拡散により表面に過不足なく補給される。このため、所望量の熱電子放射が得られるとともに、エミッタの飛散が防止される。
【0036】
したがって、本発明の含浸型電極を閃光放電ランプやショートアーク形放電ランプに用いると、黒化の発生が低減して長寿命化する。
【0037】
請求項4に係る発明の含浸型形電極は、高融点金属粉末を焼結してなり、径方向および軸方向の少なくとも一方において、中心部の含浸密度M1が70%以上で、表面部の含浸密度M2が50%以上で、かつ、数式M1>M2を満足する焼結体と;焼結体中に含浸されたエミッタと;を具備していることを特徴としている。
【0038】
本発明において、焼結体を上記のように構成する手段は特段限定されないが、例えば焼結前の高融点金属の粉末の粒度、焼結温度、焼結時間を適宜設定することで実現することができる。
【0039】
また、本発明の実施に際しては、請求項1および/または請求項2に係る発明の構成を併せて採用することが許容される。
【0040】
本発明は、電極の中心部と表面部との相対密度を上記のように制御された範囲で変化させた構成を規定している。本発明の構成によれば、含浸型電極の表面部に含浸するエミッタが中心部のそれより増加させることができる。また、上記の範囲であれば、電極スパッタも抑制される。その結果、含浸型電極の寿命が長くなる。そのため、本発明の含浸型電極を閃光放電ランプやショウートアーク型放電ランプなどの放電ランプに組み込んだ場合、放電ランプが長寿命になる。
【0041】
しかしながら、表面部の相対密度M2が50%未満になると、放電ランプの点灯時のエミッタの飛散が多くなったり、電極の耐熱性が低下して電極寿命が短縮したりする。また、表面部の相対密度M2が95%を超えると、エミッタの含浸量が低減しすぎるので、始動性が低下する。
【0042】
請求項5に係る発明の含浸型電極は、高融点金属粉末を焼結してなる焼結体と;焼結体中に含浸されてなり、焼結体の径方向および軸方向の少なくとも一方において、中心部の含浸密度を100%としたとき、表面部の含浸密度が70%以下になっているエミッタと;を具備していることを特徴としている。
【0043】
本発明は、焼結体の中心部に含浸しているエミッタを表面部に含浸しているエミッタより相対的に多くした構成、すなわち中心部のエミッタがリッチな構成を規定している。なお、焼結体の中心部は、径方向および軸方向の両方またはいずれか一方に対する部分の意味で用いられている。したがって、表面部のエミッタの含浸量を基準(100%)にすれば、中心部のエミッタ量は、140%以上となる。
【0044】
また、本発明の実施に際しては、請求項1ないし4に係る発明の全部または任意の一部の構成を併せて採用することが許容される。
【0045】
そうして、本発明においては、上記の構成を備えていることにより、エミッタの含浸量を多くすることができ、長期間にわたりエミッタを内部中心部から焼結体の表面部に拡散により補給する。表面部に存在するエミッタは、熱電子放射作用を呈する。また、表面部のエミッタは、電子放射に必要な量だけでよく、したがってエミッタが過剰にならないので、エミッタが飛散して黒化を生じるのが低減する。その結果、含浸型電極が長寿命になる。
【0046】
したがって、本発明の含浸型電極を適用した閃光放電ランプやショートアーク形放電ランプが長寿命になる。
【0047】
請求項6に係る発明の放電ランプは、透光性気密容器と;透光性気密容器内に封装された少なくとも一方が請求項1ないし4のいずれか一記載の含浸型電極を備えて構成されている一対の電極と;透光性気密容器内に封入された放電媒体と;を具備していることを特徴としている。
【0048】
本発明において、放電ランプは、好適には閃光放電ランプおよびショートアーク型放電ランプである。これらの放電ランプは、前者が放電時に大電流が流れ、また後者が電流密度が高いという特徴がある。
【0049】
閃光放電ランプは、細長い気密容器、気密容器の両端内部に封装されている一対の電極、気密容器の内部に封入されて放電時に発光する放電媒体および気密容器の外周に近接して配設されたトリガーワイヤを具備している。
【0050】
上記一対の電極は、その一方が陰極として、他方が陽極として、それぞれ作用し、電解コンデンサのような短時間に大きなランプ電流を供給し得る直流電源を用いて点灯される。本発明においては、少なくとも陰極が請求項1ないし4のいずれか一記載の含浸型電極からなる。これに対して、陽極は、上記と同様の含浸型電極、耐火性金属単体または上記含浸型電極のエミッタを含浸しない焼結体のみなどによって構成することができる。
【0051】
ショートアーク型放電ランプは、気密容器、気密容器の内部に電極間距離が6mm以下で封装されている一対の電極、および気密容器の内部に封入されて放電時に発光する放電媒体を具備している。そして、限流インピーダンスを経由して交流点灯または直流点灯される。
【0052】
上記放電ランプの一対の電極は、直流点灯の場合には、少なくとも陰極が請求項1ないし4のいずれか一記載の含浸型電極により構成される。陽極は、閃光放電ランプにおけるのと同様に構成することができる。
【発明の効果】
【0053】
請求項1および2に係る発明によれば、エミッタの含浸量を多くできるとともに、電極スパッタが低減する含浸型電極を提供することができる。
【0054】
請求項3に係る発明によれば、焼結体の表面部および中心部の相対密度がほぼ均一になっているから、電極表面のエミッタが過剰にならないで、しかも熱電子放射に必要な量のエミッタが焼結体の内部に含浸しているエミッタから拡散により過不足なく補給されるため、所望量の熱電子放射が得られるとともに、エミッタの飛散が低減する含浸型電極を提供することができる。
【0055】
請求項4に係る発明によれば、焼結体の径方向および軸方向の少なくとも一方において、中心部の含浸密度M1が70%以上で、表面部の含浸密度M2が50%以上で、かつ、数式M1>M2を満足するから、エミッタの含浸量を増加できるとともに、電極スパッタを抑制し、放電ランプに組み込んだ場合に当該放電ランプが長寿命になる含浸型電極を提供することができる。
【0056】
請求項5に係る発明によれば、焼結体の中心部に含浸されたエミッタが表面部のそれより多くなっていて、電極表面のエミッタが過剰にならないで、しかも熱電子放射に必要な量のエミッタが焼結体の内部に含浸しているエミッタから拡散により過不足なく補給されるため、所望量の熱電子放射が得られるとともに、エミッタの飛散が低減し、さらに長期間にわたってエミッタが表面部に補給されるので、長寿命な含浸型電極を提供することができる。
【0057】
請求項6に係る発明によれば、請求項1ないし5に係る発明の効果を有する放電ランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0059】
図1および図2は、本発明の含浸型電極を実施するための第1の形態を示し、図1は電極全体を示す正面図、図2は含浸型電極の内部構造を拡大して概念的に説明する模式図である。各図において、符号Eは含浸型電極を示し、また当該電極Eは、電極主部1および電極軸部2からなる。
【0060】
電極主部1は、含浸型電極構造であり、図2に概念的に示すように、焼結体1aおよびエミッタ1bを備えていて、塊状に成形されている。焼結体1aは、高融点金属粉末を焼結して相対密度Mが数式50≦M≦75を満足している。また、焼結後の高融点金属の粒子(結晶)1a1の平均粒径が平均40μm以上である。したがって、焼結体1aは、図2(a)に示すように、高融点金属の粒子(結晶)1a1の間に空孔1a2が形成されて多孔質になっている。
【0061】
エミッタ1bは、図2(b)に示すように、焼結体1aの高融点金属の粒子(結晶)1a1の間に形成された空孔1a2内に含浸されている。
【0062】
電極軸部2は、高融点金属からなる棒状をなしていて、その先端部が電極主部1の背面内に挿入され、かつ、溶接されることによって電極主部1を支持している。また、電極軸部2の基端部は、放電ランプに封装される際に、気密容器に埋設されることにより、電極Eを支持する。なお、電極主部1の内部に水銀を含浸させるようにしてもよい。この場合は、エミッタ1bが含浸されていない空孔1a2内に水銀を含浸させることになる。水銀含浸用の空孔1a2は、電極主部1の内部(電極軸部2の挿入孔の近傍)に形成されるのが好ましい。このように電極主部1に水銀を含浸させることによって、放電ランプ内の水銀量を増加させて放射する紫外線量の低下、水銀枯渇による放電ランプの短寿命化を防ぐことができる。
【実施例1】
【0063】
図1に示す構造の電極において以下の仕様とした。
【0064】
電極主部1
焼結体1a :Mo平均粒径5μmのMo粉末をプレス圧力5t/cmで加圧
しながら焼結温度2000℃で焼成した。相対密度M65%
エミッタ1b :共晶材としてAlを添加したBaCOを主体とする
エミッタ材にて焼結体を包囲し、かつ、超音波振動を加えながら
真空雰囲気中において、1200〜1600℃で約1時間加熱分解 して酸化バリウムを主体とするエミッタを焼結体内に含浸させた。
【0065】
相対密度分布(表面部/中心部):0.90

次に、実施例1および比較例1の含浸型電極を用いてショートアーク型放電ランプを試作して、始動性および黒化について調査した結果を表1に示す。なお、表中において、焼結体の相対密度比は、含浸型電極の径方向における表面部の相対密度/中心部の相対密度を示す。また、評価は目視により行い、記号◎は極めて良好、○は良好、△はやや不良、×は不良を意味する。始動性の評価は、上記放電ランプの瞬時点灯可能な回数の多寡により行い、比較例2を基準として評価した。
[表1]
区 分 焼結体の密度比 始動性 100時間 1000時間
点灯時黒化 点灯時黒化
実施例1 0.90 ○ ○ ○
実施例2 約1.00 ○ ◎ ◎
比較例1 0.70 ◎ × ×
比較例2 0.80 ○ △ △

図3は、本発明の含浸型電極を実施するための第2の形態を示す要部断面正面図である。図において、図1と同一部分には同一符号を付して説明は省略する。本形態は、電極軸部2の先端が電極主部1の先端面から前方へ突出している点で異なる。また、電極主部1と電極軸部2とを白金(Pt)ろう材3を用いてろう付けしている。
【0066】
なお、図に示すように、電極主部1の背面側の開口部をすり鉢状に形成すると、開口部に挿入される電極軸部2の周囲に環状の楔形空隙が形成されるので、その楔形空隙の内部に白金(Pt)ろう材3を含浸させることによって、ろう付けを確実にすることができる。この場合、白金が電極主部1内に適度に拡散するので、単に電極主部1を電極軸部2に焼き締めて固着した場合に比べて、電極主部1の電極軸部2に対する接続強度が向上する。
【0067】
一方、電極軸部2は、タングステン(W)で形成することが可能であるが、始動性を向上させるために、電子放射性に優れたCeO−W、ThO−WまたはLa−Wなどのドープドタングステン材料で形成してもよい。
【0068】
図4は、本発明の含浸型電極を実施するための第3の形態を示す電極軸に直交する断面の模式図である。図において、図2と同一部分には同一符号を付して説明は省略する。本形態は、電極主部1の焼結体1aが電極軸に対して直交する断面において、中心部Rの含浸密度M1が70%以上で、表面部Rの含浸密度M2が50%以上で、かつ、数式M1>M2を満足する用に構成されている。
【0069】
上記の構成に伴って、中心部Rは、その高融点金属の粒子(結晶)1a1が相対的に小さくなっている。このため、空孔1a2も小さくなっているために、エミッタ1bの含浸量が上記のように少なくなっている。
【0070】
一方、表面部Rは、その高融点金属の粒子(結晶)1a1´が相対的に大きくなっている。このため、空孔1a2´も大きくなっているために、エミッタ1b´の含浸量も多くなっている。
【0071】
図5は、本発明の含浸型電極を実施するための第4の形態を示す電極軸に沿った断面の模式図である。図において、図4と同一部分には同一符号を付して説明は省略する。本形態は、電極軸方向における中心部Rの含浸密度M1が70%以上で、表面部Rの含浸密度M2が50%以上で、かつ、数式M1>M2を満足する用に構成されている点で第3の形態と異なる。なお、表面部Rは、含浸型電極の先端側の表面部を示す。
【0072】
図6および図7は、本発明の放電ランプを実施するための第1の形態としての閃光放電ランプを示し、図6は正面図、図7はワイヤバルブの拡大正面縦断面図である。各図において、図1と同一部分については同一符号を付して説明は省略する。本形態において、閃光放電ランプHFLは、気密容器SE、一対の電極E、E、一対の導入線LW、ゲッターG、放電媒体およびトリガーワイヤTWを具備している。
【0073】
気密容器SEは、石英ガラスからなり、直管状をなしている。そして、横断面がほぼ真円形状であり、内径10mm、外径12mmである。気密容器SEの両端部は、封止端部を構成している。この封止端部は、いわゆるグレーデッドシールを形成していて、円筒状の石英ガラスからなる主体部分と後述する導入線LWとの間を熱膨張係数が徐々に変化している複数の封止材を順次溶着することによって気密に封着している。
【0074】
一対の電極E、Eは、図1に示す本発明の含浸型電極である。なお、電極軸2は、後述する導入線LWを兼ねている。また、一対の電極E、Eの一方は陽極で、他方は陰極として作用する。
【0075】
ゲッターGは、Zr−Al合金からなり、電極Eの後背部において気密容器SEの内面に蒸着されている。
【0076】
一対の導入線LWは、気密容器SEの両端部から外部へ気密に導出されていて、電極Eにランプ電流を供給する際の導電体としても機能する。
【0077】
放電媒体は、キセノン(Xe)からなり、気密容器SE内に13.3kPaの圧力で封入されている。
【0078】
トリガーワイヤTWは、図6に示すように、例えば線径1mmのモリブデン(Mo)線からなり、気密容器SEの外面に接触した状態で、ピッチ30mmで螺旋状に巻回されて管軸方向に沿って延在している。なお、図において、記号4はトリガーワイヤTWの両端を気密容器SEの外周面に固定する金属リングであり、記号5は金属リング4を介してトリガーワイヤTWから導出されたリード部である。
【0079】
そうして、閃光放電ランプHFLは、例えば静電容量40μFの充放電用のコンデンサを電圧7kVで充電し、かつ、インダクタンス0μHの直流電源を用いて本形態の閃光放電ランプHFLを点灯させると、ピーク電流6.06kA、電流半値幅35.2μsのランプ電流が流れて閃光放電が生起する。
【0080】
図6は、本発明の放電ランプを実施するための第2の形態としてのプロジェクション用のショートアーク型放電ランプを示す一部縦断面正面図である。図において、図1および図5と同一部分については同一符号を付して説明は省略する。各図において、LTは発光管、Mは集光ミラー、FPは前面ガラス、CWは接続線、WHはワイヤハーネスである。発光管LTは、気密容器SE、一対の電極E、E、封着金属箔SF、導入導体LWおよび口金Bからなる。また、気密容器SEの内部には、放電媒体が封入されている。
【0081】
気密容器SEは、石英ガラスからなり、中央の包囲部および両端の第1および第2の封止部からなる。包囲部は、外形がほぼ球体に近い回転楕円体形状をなしているが、内部が管軸方向に長い細長い回転楕円体形状をなした放電空間が形成されている。第1および第2の封止部は、包囲部の両端に減圧封止構造により一体に接続して形成されている。
【0082】
一対の電極E、Eは、図1に示す構造である。なお、電極軸部2にはタングステン細線のくわえ込みコイルが巻回されている。
【0083】
封着金属箔SFは、モリブデンからなる。そして、封着金属箔SFは、その先端部に電極軸2の基端を、基端部に導入導体LWの先端を、それぞれ溶接して電極マウントを形成した状態で、気密容器SEの両端の第1および第2の封止部の内部に気密に埋設されている。
【0084】
放電媒体は、水銀、希ガスおよびハロゲンからなる。希ガスは、アルゴン(Ar)などからなる。ハロゲンは、CHBrなどからなる。
【0085】
導入導体LWは、モリブデン(Mo)線からなり、封着金属箔SFの基端に先端が溶接し、基端が第1の封止部から外部へ露出している。なお、導入導体LWは、図において左右対称構造であるが、右側の導入導体は後述する口金B内に位置しているため外部から見えない。
【0086】
口金Bは、筒状の口金本体およびねじ端子を備えている。
【0087】
接続線CWは、導入導体LWと後述するワイヤハーネスWHとの間を接続している。
【0088】
集光ミラーMは、内面が凹形をなすガラス基体の内面に可視光反射・熱線透過膜が形成されていて、頂部に一体に形成した筒状部で発光管LTの口金Bに接着している。ガラス基体12aは、内面の凹形部が回転放物面を基本とする曲面に形成され、頂部の外側に筒部12cが一体に突出して形成されている。なお、符号tは中継端子である。
【0089】
ワイヤハーネスWHは、コネクタおよび一対の絶縁被覆導線からなる。コネクタは、図示を省略している点灯装置の出力端のコネクタに着脱可能に結合して接続するとともに、一対の絶縁被覆導線の一端に接続している。一対の絶縁被覆導線は、その一方が中継端子tを経由して導入導体LWに接続している。絶縁被覆導線の他方は、口金Bのねじ端子にローレット付きナットによって締め付けられて接続している。したがって、発光管LTは、ワイヤハーネスWHを経由して点灯回路の出力端に接続する。
【0090】
前面カバーFGは、透明ガラス板からなり、集光ミラーMの前面開口端に接着されている。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の含浸型電極を実施するための第1の形態を示す正面図
【図2】同じく含浸型電極の内部構造を拡大して概念的に説明する模式図
【図3】本発明の含浸型電極を実施するための第2の形態を示す要部断面正面図
【図4】本発明の含浸型電極を実施するための第3の形態を示す電極軸に直交する断面の模式図
【図5】本発明の含浸型電極を実施するための第4の形態を示す電極軸に沿った断面の模式図
【図6】本発明の放電ランプを実施するための第1の形態としての閃光放電ランプを示す正面図
【図7】同じくワイヤバルブの拡大正面縦断面図
【図8】本発明の放電ランプを実施するための第2の形態としてのプロジェクション用のショートアーク型放電ランプを示す一部縦断面正面図
【符号の説明】
【0092】
1…電極主部、1a…焼結体、1a1…高融点金属の粒子(結晶)、1a2…空孔、2…電極軸部、E…含浸型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高融点金属粉末を焼結してなり、相対密度M(%)が数式50≦M≦75を満足する焼結体と;
焼結体中に含浸されたエミッタと;
を具備していることを特徴とする含浸型電極。
【請求項2】
高融点金属粉末を焼結してなり、焼結後の高融点金属の平均粒径が平均40μm以上である焼結体と;
焼結体中に含浸されたエミッタと;
を具備していることを特徴とする含浸型電極。
【請求項3】
高融点金属粉末を焼結してなり、径方向および軸方向の少なくとも一方における相対密度がほぼ均一になっている焼結体と;
焼結体中に含浸されたエミッタと;
を具備していることを特徴とする含浸型形電極。
【請求項4】
高融点金属粉末を焼結してなり、径方向および軸方向の少なくとも一方において、中心部の含浸密度M1が70%以上で、表面部の含浸密度M2が50%以上で、かつ、数式M1>M2を満足する焼結体と;
焼結体中に含浸されたエミッタと;
を具備していることを特徴とする含浸型形電極。
【請求項5】
高融点金属粉末を焼結してなる焼結体と;
焼結体中に含浸されてなり、焼結体の径方向および軸方向の少なくとも一方において、中心部の含浸密度を100%としたとき、表面部の含浸密度が70%以下になっているエミッタと;
を具備していることを特徴とする含浸型電極。
【請求項6】
透光性気密容器と;
透光性気密容器内に封装された少なくとも一方が請求項1ないし5のいずれか一記載の含浸型電極を備えて構成されている一対の電極と;
透光性気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備していることを特徴とする放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−114296(P2006−114296A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299422(P2004−299422)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】