説明

含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法

【課題】水溶性含浸液を用いた、鋳造品等の対象物の含浸工程において発生する、含浸液含有洗浄廃水から、洗浄水を経済的に有利に回収して、再利用し得る手法を提供する。
【解決手段】重合性成分として水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類を含有する含浸液を含む洗浄廃水を、親水性精密濾過膜にて濾過して、洗浄廃水中の非水溶性成分を分離・除去した後、かかる含浸液の重合性成分を、炭素数が7〜12の一価のアルコールからなる抽出剤にて抽出することにより、得られた抽出残液を、洗浄水として再使用するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法に係り、特に、鋳造品などの対象物の空隙を封孔するために実施される含浸工程において発生する、水溶性含浸液を含有する洗浄水である洗浄廃水を、再び洗浄水としてリサイクルすることの出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、輸送機器や油圧・空圧機器等のシリンダやバルブ、ポンプ等の構成材料として用いられる、耐圧用の鋳造品やセラミック製品においては、それら鋳造品やセラミック製品の表面に開口する微細な鋳巣やピンホール等の空隙(巣孔)が存在するところから、そのような空隙(巣孔)内に、重合性の含浸液(含浸シール剤)を含浸させて、かかる空隙内において含浸液を重合・硬化させ、その硬化物にて空隙を封孔することにより、圧洩れ等の不良の発生が防止され得るようになっている。
【0003】
特に、そのような含浸液は、自動車部品の分野で最も多く使用されており、例えば、エンジンブロック、トランスミッション等のアルミ合金鋳造品において、圧洩れ不良品の救済に使用されてきている。即ち、かかる鋳造品は、一般に、鋳型に溶融金属を流し込み、冷却固化することで、製造されているのであるが、その際の、液体から固体に変化するときの、凝固収縮により、また液体に溶け込んでいるガスの影響により、巣と呼ばれる空隙が発生することがあり、これが、圧洩れ不良の原因となっているのである。このため、所定の含浸液を、そのような巣に充填し、加熱重合させることによって、かかる圧洩れ不良の問題が解消されるようになっているのである。
【0004】
また、そのような含浸液を用いた鋳造品等の対象物の含浸工程においては、先ず、含浸槽内に対象物を入れて、かかる含浸槽内部を減圧し、対象物の空隙を減圧状態に保持する一方、この含浸槽内部の負圧を利用して、含浸液を含浸槽内部に導入せしめ、そして、含浸槽内を大気圧若しくは加圧して、対象物の空隙に含浸液が浸透せしめられるようにされる。その後、含浸槽内から対象物を取り出し、その対象物の表面等に付着している余剰の含浸液を洗浄水にて洗い、除去した後、対象物を温水若しくは電気炉で加熱せしめて、対象物の空隙に浸透した含浸液を加熱重合することにより、目的とする対象物の空隙の封孔が完成するのである。
【0005】
ところで、かかる空隙の封孔に用いられる含浸液には、非水溶性含浸液や水洗可能な非水溶性含浸液、水溶性含浸液が知られている。そして、その中で、非水溶性含浸液は、非水溶性の(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするものであって、その洗浄除去には、適当な有機溶剤が用いられることとなる。また、水洗可能な非水溶性含浸液は、非水溶性の(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするものであるが、界面活性剤が含有せしめられているところから、水洗浄が可能となっているのであり、更に水溶性含浸液は水溶性の(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするものであるところから、水洗浄が可能となっている。
【0006】
そして、そのような含浸液を用いた含浸工程において、対象物の表面等に付着している余剰の含浸液を洗浄するに際しては、一般的に、水洗浄が採用されているのであるが、この水洗浄によって対象物表面に含浸液が残らないように充分に洗浄されることが求められている。また、この水洗浄を繰り返し行うようにすると、洗浄水中の含浸液の濃度が漸次高くなり、洗浄不良を起こすようになるところから、かかる洗浄水は定期的に交換される必要が生じ、その際、含浸液を含む洗浄廃水が発生することとなる。
【0007】
また、そのような含浸工程から取り出された含浸液を含む洗浄廃水は、数%の重合性成分を含むものとなっているところから、それを、そのまま、廃棄することが出来ないために、現在までのところ、焼却処理されているのであるが、そのための装置や処理コストが問題となってきているのである。
【0008】
そこで、特開平7−24458号公報においては、水洗可能な非水溶性含浸液を使用した含浸工程において発生する一次洗浄水のリサイクルに関して、濾過処理による洗浄廃水の処理方法が提案されている。しかしながら、そのような非水溶性含浸液を使用することは、洗浄性に大きな不利を負うことになるのであり、しかも、そこでは、多量の架橋剤と共に、非水溶性の重合性成分を含む含浸液が対象とされたものであるところから、その処理手法を、そのまま、水溶性含浸液を用いた含浸工程で発生する水溶性含浸液を含む洗浄廃水の処理に適用することは困難なことであった。
【0009】
また、特開2010−279871号公報には、水溶性含浸液を含む洗浄廃水の処理技術として、かかる洗浄廃水に酸素を供給しながら、所定の分離温度範囲で減圧することにより、水溶性含浸液と水とを分離する方法が提案されている。しかしながら、そのような処理方法においては、その処理のための設備が大掛かりとなる問題があり、また、減圧分離する際に、エネルギーコストがかさむ等の問題を内在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−24458号公報
【特許文献2】特開2010−279871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、水溶性含浸液を用いた含浸工程において発生する含浸液含有洗浄廃水の有効なリサイクル方法を提供することにあり、特に、かかる洗浄廃水から洗浄水を経済的に有利に回収して、リサイクルし得る手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明は、かかる課題の解決のために、対象物の空隙を封孔するために用いられて、該対象物の表面に付着する、水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類を重合性成分として含む水溶性含浸液が、洗浄水にて洗浄されることによって、該洗浄水中に該含浸液を含んで得られる洗浄廃水を、親水性精密濾過膜にて濾過して、該洗浄廃水中の非水溶性成分を分離・除去した後、該洗浄廃水中の水溶性含浸液の重合性成分を、炭素数が7〜12の一価のアルコールからなる抽出剤にて抽出することにより、その得られた抽出残液を、洗浄水として、前記対象物の洗浄に再使用するようにしたことを特徴とする含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法を、その要旨とするものである。
【0013】
なお、このような本発明に従う含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法の望ましい態様の一つによれば、前記抽出により得られた、前記含浸液を含む抽出剤に対して、アルカリ水溶液を添加して、かかる含浸液の重合性成分を加水分解せしめた後、希薄酸にて中和し、そして水で洗浄することにより、該抽出剤を再生する工程が、更に有利に採用されるのである。
【0014】
また、本発明に従うリサイクル方法の別の望ましい態様の一つによれば、前記洗浄廃水としては、前記含浸液が表面に付着した対象物の一次洗浄水が、好適に用いられることとなる。
【0015】
さらに、本発明に従う含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法の他の望ましい態様の一つによれば、前記親水性精密濾過膜にて前記洗浄廃水から分離された、前記非水溶性成分を含む分離液が、油水分離槽において油水分離され、そしてその取り出された水性相が、前記親水性精密濾過膜にて濾過される前の洗浄廃水に合流せしめられるようになっている工程が、有利に採用される。
【0016】
更にまた、本発明の他の望ましい態様の別の一つによれば、前記抽出剤による抽出処理によって得られる抽出残液が親水性精密濾過膜にて濾過されて、該抽出残液中に残存する前記抽出剤が分離・除去され、そしてその得られた抽出剤を含む分離膜が再び前記洗浄廃水の抽出工程に供給される一方、該残存抽出剤の分離・除去された抽出残液が、洗浄水として前記対象物の洗浄に用いられるようになっている工程が、好適に採用されることとなる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に従う含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法によれば、水溶性含浸液を使用した含浸工程において発生する、かかる水溶性含浸液を含有する洗浄水(洗浄廃水)から、水溶性含浸液と洗浄水とが抽出操作にて効果的に分離されることとなるのであり、それによって、その得られた浄化された洗浄水を、再び、含浸工程における洗浄水として、有利に使用することが出来ることとなったのである。
【0018】
従って、かかる本発明によって、水溶性含浸液を含む洗浄廃水から、洗浄水が効果的に回収され得ることとなるのであり、また、従来の如き多量の洗浄廃水の焼却処理も必要ではなくなったことにより、経済的に有利な且つ環境保全上においても優れた洗浄水のリサイクル方法が実現され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に従う含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明において好適に用いられ得るミキサーセトラーの一例を示す縦断面概要図である。
【図3】本発明において好適に用いられる四連のセルからなるミキサーセトラー抽出装置を示す平面概要図である。
【図4】本発明において好適に用いられる、ミキサーセトラー抽出装置と加水分解槽、中和槽、水洗浄槽とを一体化してなる構造の装置を示す平面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ところで、かくの如き本発明に従うリサイクル方法において、その対象とされる含浸液含有洗浄廃水は、図1において、白抜き矢印にて示される含浸工程において、洗浄槽から排出される洗浄廃水であって、ここでは、含浸液の濃度が高くなる一次洗浄水の一次洗浄廃水に対して、本発明が適用されるようになっている。
【0021】
具体的には、そのような含浸工程において、空隙の生じ易い鋳物やセラミック製品等が、従来と同様に、含浸対象物とされて、含浸槽において水溶性の含浸液にて含浸せしめられるようになっているのである。なお、そこで用いられる水溶性含浸液は、よく知られているように、水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類を重合性成分として含む、一般に、その一種又は二種以上を主成分として含む水溶性含浸液であって、また、それには、公知の重合開始剤や重合禁止剤、界面活性剤等の、従来から公知の各種の添加成分が必要に応じて含有せしめられている。このような水溶性含浸液は、市販もされており、その市販されているものの中から、適宜に選択して用いることが可能である。また、ここで、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルを総称する表現として用いられていることが、理解されるべきである。
【0022】
そして、含浸槽において水溶性含浸液が含浸せしめられてなる対象物は、その表面等に余剰の含浸液が付着しているところから、その付着含浸液を洗浄除去すべく、第一の洗浄槽において、一次洗浄水にて洗浄せしめられた後、更に第二洗浄槽に移されて、二次洗浄水にて、二次洗浄が施されて、対象物表面の含浸液が実質的に除去せしめられるものとされるのである。そして、その後、洗浄された対象物は、硬化槽において加熱されて、その空隙内に含浸せしめられた含浸液を重合硬化せしめることにより、封孔された対象物(含浸物)として、取り出されるようになっている。なお、第一洗浄槽や第二洗浄槽においては、それぞれ、一次洗浄水や二次洗浄水にて洗浄操作が実施されるようになっており、その際、各洗浄槽から取り出される洗浄水を補給するために、所定量の一次洗浄水や二次洗浄水が補給水として補給されるようになっている一方、含浸液の濃度が高くなり、一次洗浄効果が低下するようになると、第一洗浄槽からは、水溶性含浸液を含む一次洗浄水が、一次洗浄廃水として取り出され、また同様に、第二洗浄槽からも、含浸液の濃度の低い二次洗浄廃水が取り出されるようになっている。
【0023】
ところで、図1に示される工程において、第二洗浄槽から取り出される二次洗浄廃水は、含浸液の濃度が低いために、生物処理等の適当な処理を施して、放流が可能となるものであるところから、ここでは、本発明は、第一洗浄槽から取り出された一次洗浄廃水に対して、適用されるようになっているのであるが、勿論、第二洗浄槽から取り出された二次洗浄廃水に対しても、本発明を適用することが、可能である。そして、例示の場合では、先ず、その取り出された一次洗浄廃水が、親水性精密濾過膜に通液されて、濾過せしめられるようになっている。この親水性精密濾過膜による濾過によって、一次洗浄廃水中の非水溶性成分が分離除去された後、かかる一次洗浄廃水は、その中の水溶性含浸液の重合成分たる水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類の抽出のために、所定の抽出装置に導かれるようになっている。なお、ここで用いられる親水性精密濾過膜としては、市販されている公知のものの中から、適宜に選択することが出来る。また、この親水性精密濾過膜にて一次洗浄廃水から分離された非水溶性成分を含む分離液は、油水分離槽において油水分離され、その取り出された水性相が、親水性精密濾過膜にて濾過される前の一次洗浄廃水に合流せしめられるようになっている一方、油水分離槽から取り出された油性相(分離液)は、非水溶性成分を含む廃水として、廃棄されるようになっている。
【0024】
そして、抽出装置においては、上述の如くして非水溶性成分の分離除去された一次洗浄廃水に対して、特定の抽出剤(溶媒)を用いた溶媒抽出処理が施されることとなる。この溶媒抽出処理によって、一次洗浄廃水中の水溶性含浸液の重合性成分である水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類が溶解せしめられた、抽出剤からなる比重の軽い有機相が取り出される一方、そのような水溶性の重合成分が抽出除去されて清浄化された一次洗浄廃水からなる水相が、比重の重い抽出残液として取り出され、この抽出残液が、再び、一次洗浄水として、含浸対象物の洗浄に再使用されるようになっているのである。
【0025】
なお、ここで用いられる特定の抽出剤とは、抽出条件下で液体形態を呈する、炭素数が7〜12の一価のアルコールであって、具体的には、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、イソデカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール等や、それらのグリコールモノエーテル、例えば、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル等を挙げることが出来る。この抽出剤としての一価のアルコールにおいて、その炭素数が6以下となると、水への溶解度が0.1重量%以上になり、溶媒抽出の際に抽出剤のロスが多くなる等の問題を惹起する。また、そのような一価のアルコールの炭素数が13以上になると、洗浄廃水との分離性が著しく悪くなり、本発明の目的を充分に達成し難くなる。更に、そのような抽出剤の使用量としては、容量基準で、洗浄廃水の1部に対して、抽出剤を0.05部〜10部程度の割合とし、好ましくは0.1部〜1部程度の割合において用いられることとなる。これにより、含浸液成分(重合性成分)が抽出除去されてなる洗浄廃液である抽出残液を、有利に得ることが出来るのである。
【0026】
ところで、かかる一次洗浄廃水の特定の抽出剤による抽出処理は、それら一次洗浄廃水と抽出剤とが充分に接触せしめられ得るように、従来と同様な装置や手法を採用して、実施されることとなるが、特に、本発明にあっては、一次洗浄廃水と抽出剤とを向流接触せしめる手法が有利に採用され、これによって、抽出処理が効果的に行われ得るのである。そして、そのような向流抽出操作においては、例えば、図2に示される如きミキサーセトラーを用い、その複数を、図3に示される如く、直列に接続してなるミキサーセトラー抽出装置が有利に用いられることとなる。
【0027】
ここで、図2に示されるミキサーセトラー(セル)の断面概略図において、水相としての一次洗浄廃水と有機相としての抽出剤とが、ミキシングゾーン(混合部)Mに導入されて、攪拌装置2によって均一に混合攪拌せしめられた後、セトリングゾーン(分離部)Sに導かれ、そこで、比重の軽い抽出剤からなる有機相4と、比重の重い水からなる水相6とに、分離せしめられることとなる。そして、その際、一次洗浄廃水中に存在する水溶性含浸液の重合性成分たる水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類が抽出剤に溶解して、有機相4として取り出される一方、一次洗浄廃水の水部分は、そのような水溶性含浸液の重合性成分を含有しない水相6として、分離されるようになる。そして、それら有機相4と水相6とが、ミキサーセトラーの槽外(セル外)に、それぞれ別個に取り出されるようになっているのである。
【0028】
また、図3は、図2に示される如きミキサーセトラー(セル)の四個(四段)を直列に接続して、一次洗浄廃水と抽出剤とが向流接触せしめられるように構成したミキサーセトラー抽出装置の平面形態における、ミキシングゾーンMとセトリングゾーンSとの配置形態の概略を示している。そこにおいて、一次洗浄廃水が導入される最上流側のミキサーセトラーセル(8a)から、抽出剤が導入される最下流側のミキサーセトラーセル(8d)まで、ミキシングゾーンMとセトリングゾーンSとが交互に位置するように、四個のミキサーセトラーセル(8a〜8d)が配置されている。そして、最下流側のミキサーセトラーセル8dのセトリングゾーンSにおいて分離された水相が、抽出残液として、ミキサーセトラー抽出装置から取り出されるようになっている一方、一次洗浄廃水中の水溶性含浸液の重合性成分たる水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類を溶解して、含有する抽出剤が、最上流側のミキサーセトラーセル8aのセトリングゾーンSから、抽出剤相(有機相4)として、装置外に取り出されるようになっているのである。なお、各ミキサーセトラーセル8a〜8dにおいては、外部から導入された一次洗浄廃水又は前段のミキサーセトラーセルのセトリングゾーンSにおいて分離された水相(6)と、後段のミキサーセトラーセルのセトリングゾーンSにおいて分離された有機相(4)又は外部から導入される抽出剤とが、それぞれのミキシングゾーンMに導かれて、そこで、攪拌装置(2)にて均一に混合攪拌せしめられて、不純物としての水溶性含浸液の重合性成分が、抽出剤側に抽出され、一次洗浄廃水相から分離されるようになっている。
【0029】
このように、図3に示される如きミキサーセトラー抽出装置を用いて、一次洗浄廃水と抽出剤とを向流接触せしめ、各ミキサーセトラーセル8a〜8dにおいて、抽出処理操作を繰り返して実行することにより、一次洗浄廃水中の不純物たる水溶性含浸液の重合性成分を効果的に抽出剤側に抽出せしめ得、以て、水溶性含浸液の重合性成分たる水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類等を含むことのない、水部分(一次洗浄水)からなる抽出残液を、水相6として得ることが出来るのである。
【0030】
尤も、このようにして得られた抽出残液である水相6には、抽出処理に用いた抽出剤の混入が避け得ないところから、そのような抽出残液を与える水相6の洗浄水としての清浄度を高めるべく、図1に示されるように、抽出装置から取り出された抽出残液は、先の非水溶性成分の分離・除去に用いた親水性精密濾過膜と同様な、親水性精密濾過膜を用いて濾過された後、清浄度の高められた一次洗浄水として第一洗浄槽に供給されて、再び一次洗浄水として循環使用されるようになっているのである。なお、かかる親水性精密濾過膜にて分離除去された、抽出残液中に残存する抽出剤を含む分離液は、再び、抽出装置に戻されて、抽出剤として再利用されるようになっている。
【0031】
一方、上記した抽出操作によって得られた水溶性含浸液成分を含む抽出剤は、図1に示される如く、抽出装置から抽出液(有機相4)として取り出された後、その再生のために加水分解槽に導かれて、苛性ソーダ等のアルカリによって、抽出液中の含浸液成分である(メタ)アクリル酸エステル類の加水分解が行われ、その加水分解生成物は、廃アルカリ水として、加水分解槽から排出されることとなる。また、苛性ソーダ等のアルカリは、後述する水洗浄槽及び中和槽を通じて導かれた抽出液洗浄水に添加されて、アルカリ水溶液として、加水分解槽に供給されることとなるが、そのようなアルカリ水溶液の濃度としては、一般に、重量基準で、5〜25%程度、好ましくは8〜15%程度が採用される。なお、このアルカリ水溶液の濃度が低くなり過ぎると、(メタ)アクリル酸エステル類を充分に加水分解し難くなる問題があり、また、アルカリ水溶液の濃度が高くなり過ぎると、加水分解時の反応熱により、(メタ)アクリル酸エステル類が重合する等の問題が惹起されるようになる。また、このアルカリ水溶液の使用量は、抽出液中に含まれる含浸液成分の濃度によって調整する必要があるが、概ね、容量基準で、抽出液の1部に対して、アルカリ水溶液0.2部〜1部程度の割合が採用されることとなる。
【0032】
そして、加水分解槽において、静置分離により、下層の廃アルカリ水と分離された上層の抽出液相は、中和槽に導かれて、希塩酸水溶液等の希薄酸にて洗浄されて、抽出液相中のアルカリ成分が中和されることとなる。そこで、その希薄酸の濃度としては、一般に、0.03重量%〜0.5重量%程度、好ましくは0.075重量%〜0.12重量%程度とされる。また、この希薄酸の使用量としては、容量基準で、抽出液の1部に対して、希薄酸が0.1部〜1部程度の割合とされ、中和槽においては、下層に水相が存在し、この水相は、静置分離されて取り出され、苛性ソーダ等のアルカリが添加された後、アルカリ水溶液として加水分解槽に導かれるようになっている。また、中和槽において静置分離されて、生じた上層の抽出液は、水洗浄槽に導かれるようになっている。
【0033】
さらに、水洗浄槽においては、中和槽から導かれた抽出液相が、外部から導かれた抽出液洗浄水にて洗浄されて、pHが5〜8、好ましくはpHが6〜7程度の抽出剤として取り出され、抽出剤槽に収容された後、抽出装置に再び抽出剤として供給されるようになっている。また、水洗浄槽において、抽出液洗浄水は、下層の水相として分離され、水洗浄槽から中和槽に導かれるようになっている。
【0034】
なお、かかる図1に示される抽出装置と加水分解槽と中和槽と水洗浄槽とは、一つの装置構造において実現することが可能であり、その一例が、図4に示されている。そこにおいて、装置の左側の四段は、図3に示されるミキサーセトラー抽出装置を構成するものであり、その右側に、それぞれ一段の加水分解槽及び中和槽が配設され、更にその右側に、二段の水洗浄槽が配設されて、一体的な構造の装置として、構成されているのである。なお、それら加水分解槽、中和槽、及び水洗浄槽は、何れも、ミキサーセトラー構造を呈するものであって、比重差によって上層に抽出液相、下層に抽出液洗浄水からなる水相が分離されるようになっている。そして、それぞれのミキサーセトラー構造の槽において、必要な液体の流入・分離・取り出しが行われるようになっているのである。
【0035】
以上のように、本発明を適用して、水溶性含浸液を用いた含浸工程において発生する洗浄廃水から、それに溶存している水溶性含浸液を除去すべく、かかる洗浄廃水を親水性精密濾過膜に通液して、非水溶性成分を分離除去した後、かかる洗浄廃水中に残存する水溶性成分を溶剤抽出法で除去することにより、再び洗浄水として、再利用可能な清浄度の水が有利に回収され得たのであり、これによって、洗浄水のリサイクル法として、廃水量を効果的に低減せしめたエコロジカルな手法を有利に実現し得たのである。
【0036】
因みに、従来の方式においては、第一洗浄槽内の一次洗浄水が循環槽を介してポンプにて循環使用されると共に、かかる第一洗浄槽内の一次洗浄水中の含浸液濃度が高くなり過ぎないように、第一洗浄槽から、一次洗浄水が、例えば、1000L/週の割合で廃水として取り出される一方、それに対応した量において、補給水が一次洗浄水として第一洗浄槽に供給されていたのである。
【0037】
これに対して、本発明に従う、図1に示される如き一次洗浄廃水の処理システムによれば、第一洗浄槽内の一次洗浄水中の含浸液濃度を3重量%に維持するために、第一洗浄槽から取り出される一次洗浄水の廃液(一次洗浄廃水)量は、例えば、1060L/週程度となるのであるが、そのような一次洗浄廃水は、抽出装置において抽出処理されて、そのうちの992L/週程度が再生一次洗浄水として第一洗浄槽に戻され、廃水としては、一次洗浄廃水を親水性精密濾過膜で濾過し、更に油水分離槽で油水分離して得られる非水溶性成分を含む油性相が、68L/週程度の割合にて系外に排出されるものであるところから、第一洗浄槽には、この排出量に見合う68L/週の補給水が一次洗浄水として補給されるだけで済むこととなるのであり、ここに、一次洗浄水の有効な回収が実現され得たのである。
【0038】
また、抽出装置から取り出された使用済みの抽出剤からなる有機相の回収(再生)工程において、その工程内に導入される抽出剤洗浄水は132L/週程度であって、それは、添加されるアルカリや希薄酸と共に、廃アルカリ水として132L/週程度の量において工程外に排出されるのである。従って、図1に示される処理システムにおける廃水の全体量は、上記二つの廃水の合計量(68L/週+132L/週)となるが、それは、従来方式における廃水量(1000L/週)と比べると、高々20%程度の極めて少ない量となるのであって、これにより、廃水処理量の低減を有利に図り得たのである。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。なお、以下の実験における百分率や部は、特に断りのない限り、何れも重量基準にて表されるものである。
【0040】
−実施例1−
水溶性のメタクリル酸エステルを主成分とする水溶性含浸液として、市販のサンシール W−300(三和油化工業株式会社製)を用いて、この含浸液濃度が5%の水溶液を、試験洗浄廃水として調製した。次いで、この試験洗浄廃水の前処理として、親水性精密濾過膜を用いた親水性PTFEカートリッジフィルター(アドバンテック東洋株式会社製 TCFH−020−S1FD、孔径:0.20μm)に、クロスフローにて通液処理を実施した。このクロスフローによる通液処理にて、試験洗浄廃水中の非水溶性成分を含む分離液が、試験洗浄廃水の1割相当分として除去された。その後、50mLスクリュー管に、抽出剤として2−オクタノール(小倉合成工業株式会社製)を20mL入れ、更に、前記の前処理した試験洗浄廃水を20mL加えて、1分間振とう攪拌した。そして、静置して、分離するまでの時間、分配比を測定し、その結果を、下記表1に示した。
【0041】
−実施例2−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として1−ヘプタノール(和光純薬工業株式会社製)を使用して、更に、実施例1と同様にして、分離するまでの時間及び分配比を測定し、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0042】
−実施例3−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として2−エチルヘキサノール(協和発酵ケミカル株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定し、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0043】
−実施例4−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として1−デカノール(和光純薬工業株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定し、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0044】
−実施例5−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として1−ドデカノール(和光純薬工業株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定した。但し、1−ドデカノールの融点が24℃であるため、実験は30℃の温度で行なった。得られた結果を、下記表1に併せ示した。
【0045】
−実施例6−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤としてエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(協和発酵ケミカル株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定し、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0046】
−実施例7−
水溶性含浸液として、サンシール W−300(三和油化工業株式会社製)の水溶性のメタクリル酸エステルの代わりに、ポリエチレングリコールモノメタクリレートを添加したもの(日油株式会社製 ブレンマーPE−90)を使用し、実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として1−デカノール(和光純薬工業株式会社製)を使用して、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定した。その結果を、下記表1に併せ示した。
【0047】
−比較例1−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として1−ブタノール(関東化学株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定し、その得られた結果を、下記表1に併せ示した。
【0048】
−比較例2−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として1−ヘキサノール(和光純薬工業株式会社製)を使用して、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定し、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0049】
−比較例3−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤としてイソトリデカノール(協和発酵ケミカル株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定した。その結果を、下記表1に示した。
【0050】
−比較例4−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤としてn−ヘキサン(関東化学株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定し、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0051】
−比較例5−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤としてn−ドデカン(株式会社ジャパンエナジー製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定した。その得られた結果を、下記表1に示した。
【0052】
−比較例6−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、抽出剤として、二価のアルコールである2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(和光純薬工業株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定し、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0053】
なお、下記表1における水への溶解度の評価は、0.10%以下を○、0.10%超、0.50%以下を△、0.50%超を×とした。また、分離速度の評価においては、1.00分以下を○、1.00分を超え、5.00分以下を△、5.00分を超えるものを×とした。更に、分配比の評価においては、1.00以上を○、1.00未満を×とした。
【0054】
【表1】

【0055】
かかる表1の結果から明らかなように、抽出剤として、炭素数が7〜12の一価のアルコール類を用いることにより、良好な抽出結果を得ることが出来ることが確認された。
【0056】
−実施例8−
実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を準備した。次いで、図4に示される如き八連(八段)の小型ミキサーセトラー抽出テスト装置(各セルの容量2L)を用いて、かかる前処理した試験洗浄廃水から、含浸液の抽出を行った。即ち、前処理した試験洗浄廃水を80mL/分、抽出剤としての2−オクタノール(小倉合成工業株式会社製)を40mL/分(相比0.5)の流速において、向流接触させる連続抽出分離操作を実施して、含浸液を抽出した2−オクタノールからなる抽出液の約60Lと、含浸液が除去された洗浄水の約120Lを得た。
【0057】
その後、かかる含浸液が除去された洗浄水を、親水性PTFE膜(アドバンテック東洋株式会社製 H100A074A、孔径:1.0μm)に通液し、抽出剤(2−オクタノール)を分離除去することにより、浄化された洗浄水を得た。この洗浄水の含浸液濃度は0.35%であった。また、洗浄水の回収率は86%であった。
【0058】
−実施例9−
乾燥デシケータで保管された鋳物のテストピース(ADC12、大きさ:30×30×30mm、ネジ穴:φ5×20mm3箇所、φ6×20mm3箇所)の重量を測定した。次いで、このテストピースのネジ穴全てに、実施例1記載の含浸液をスポイトで注入した後、テストピースを、そのネジ穴が水平方向となるようにして、実施例8で得られた洗浄水に浸漬し、10秒間保持して、洗浄水から取り出した。そして、その操作を5回繰り返し行った。その後、テストピースを90℃の温水に3分間浸漬した後、取り出し、次いでテストピースを105℃の乾燥機で一晩乾燥させた後、乾燥デシケータ内において放冷し、重量を測定した。試験前後のテストピースの重量増加分から、洗浄性を評価し、その結果を、下記表2に示した。
【0059】
−比較例7−
市水を使用して、実施例9と同様に洗浄性を評価し、その結果を、下記表2に示した。
【0060】
−比較例8−
洗浄廃水(含浸液5重量%含有水溶液)を使用して、実施例9と同様に洗浄性を評価した。その結果を、下記表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
かかる表2の結果から明らかなように、ミキサーセトラー試験によって得られた洗浄水は、市水と同等の洗浄性を有しており、洗浄水として使用出来ることが確認された。
【0063】
−実施例10−
実施例8で得られた含浸液含有抽出液の80mLと、12.5%の水酸化ナトリウム水溶液の20mLとを分液漏斗に入れ、攪拌した。その後、静置分離し、下層(水酸化ナトリウム水溶液)を除去した。
【0064】
次いで、かかる水酸化ナトリウム水溶液にて処理された抽出液の80mLと0.1%塩酸水溶液の10mLとを、分液漏斗に入れて攪拌することにより、中和を行い、その後、静置分離して、下層(塩酸水溶液)を除去した。
【0065】
その後、この中和処理された抽出液の80mLと水の10mLを分液漏斗に入れて、攪拌することにより、洗浄を行った後、静置分離し、下層(水)を除去することで、再生抽出剤を得た。
【0066】
そして、実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、上記の再生抽出剤を使用して、実施例1と同様にして分離するまでの時間と分配比を測定した。更に、かかる操作を5回繰り返し行ない、その結果を、下記表3に示した。
【0067】
−参考例1−
実施例8で得られた含浸液含有抽出液の80mLと25%水酸化ナトリウム水溶液の20mLとを分液漏斗に入れて、攪拌した後、静置分離し、その下層(水酸化ナトリウム水溶液)を除去した。次いで、このアルカリ処理された抽出液の80mLと水の10mLを分液漏斗に入れて、攪拌した後、静置分離し、その下層(水)を除去することで、再生抽出剤を得た。
【0068】
その後、実施例1と同様にして前処理した試験洗浄廃水を得た後、かかる再生抽出剤を使用して、実施例1と同様にして、分離するまでの時間と分配比を測定した。その結果を、下記表3に示す。
【0069】
−参考例2−
実施例8で得られた含浸液含有抽出液の80mLと25%水酸化ナトリウム水溶液の20mLとを分液漏斗に入れて、攪拌することにより、アルカリ処理した後、静置分離し、その下層(水酸化ナトリウム水溶液)を除去した。次いで、このアルカリ処理された抽出液の80mLと0.1%塩酸水溶液の10mLを分液漏斗に入れて、攪拌することにより、中和処理をした後、静置分離し、その下層(塩酸水溶液)を除去した。その後、この中和処理された抽出液の80mLと水の10mLを分液漏斗に入れて、攪拌することにより、洗浄し、その後静置分離して、その下層(水)を除去することにより、再生抽出剤を得た。
【0070】
そして、かかる得られた再生抽出剤を用いて、実施例1で得られた前処理した試験洗浄廃水の抽出処理を、実施例1と同様にして実施し、分離するまでの時間と分配比を測定した。更に、この操作を5回繰り返し行ない、その結果を、下記表3に示した。
【0071】
−参考例3−
実施例8で得られた含浸液含有抽出液の80mLと4%水酸化ナトリウム水溶液の80mLとを分液漏斗に入れて、攪拌することにより、アルカリ処理を実施した。その後、静置分離し、その下層(水酸化ナトリウム水溶液)を除去した。次いで、かかるアルカリ処理された抽出液の80mLと0.1%塩酸水溶液の10mLを分液漏斗に入れて、攪拌することにより、中和処理を行った後、静置分離し、その下層(塩酸水溶液)を除去した。更に、この中和処理された抽出液の80mLと水の10mLを分液漏斗に入れて、攪拌することにより、洗浄を行った後、静置分離し、その下層(水)を除去することで、再生抽出剤を得た。
【0072】
そして、かかる得られた再生抽出剤を用いて、実施例1と同様にして前処理された試験洗浄廃水の抽出処理を実施し、分離するまでの時間と分配比を測定した。その結果を、下記表3に示した。
【0073】
【表3】

【0074】
かかる表3の結果から明らかなように、実施例10においては、適切な濃度の水酸化ナトリウム水溶液を使用し、更に塩酸水溶液の洗浄(中和)を実施することにより、再生を繰り返しても、分配比が低下することがないことが認められるが、参考例1の場合にあっては、塩酸水溶液の洗浄(中和処理)が未実施のために、再生抽出剤の分配比が低下するようになるのであり、また、参考例2の場合の如く、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が高くなり過ぎると、再生を繰り返すことにより分配比が低下するようになるのであり、更に参考例3の如く、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が低すぎる場合には、再生抽出剤の分配比が低下してしまうのである。
【0075】
−実施例11−
実施例8で得られた含浸液含有抽出液の8Lと12.5%水酸化ナトリウム水溶液の2Lを、20L容器に入れ、攪拌機で攪拌することにより、アルカリ処理を実施した後、静置分離し、その下層(水酸化ナトリウム水溶液)を除去した。
【0076】
次いで、かかるアルカリ処理された抽出液の8Lと0.1%塩酸水溶液の1Lとを、20L容器に入れて、攪拌機で攪拌することにより、中和処理を行ない、その後静置分離して、その下層(塩酸水溶液)を除去した。
【0077】
そして、かかる中和処理された抽出液の8Lと水の1Lを20L容器に入れて、攪拌機で攪拌することにより、洗浄を行ない、その後静置分離して、下層(水)を除去することで、再生抽出剤を得た。
【0078】
さらに、かかる操作を繰り返し行ない、再生抽出剤の40Lを得た。そして、この再生抽出剤を使用して、実施例8と同様のミキサーセトラー試験操作を実施し、含浸液を抽出した2−オクタノールからなる抽出液の約40Lと、含浸液が除去されて、浄化された洗浄水の約80Lを得た。
【0079】
その後、かかる含浸液が除去された洗浄水を、親水性PTFE膜(アドバンテック東洋株式会社製 H100A047A、孔径:1.0μm)に通液して、抽出剤(2−オクタノール)を分離除去し、浄化された洗浄水を得た。この洗浄水の含浸液濃度は0.35%であり、再生抽出剤として使用しても、実施例5と同等の洗浄水が得られることが確認された。なお、洗浄水の回収率は、86%であった。
【0080】
−実施例12−
実施例11の再生抽出剤のミキサーセトラー試験で得られた洗浄水を使用して、実施例9と同様にして、洗浄性を評価し、その結果を、下記表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
かかる表4の結果から明らかなように、再生抽出剤のミキサーセトラー試験で得られた洗浄水も、先の表2に示される市水と同等の洗浄性を有するものであり、洗浄水として有利に使用することが出来ることが認められた。
【符号の説明】
【0083】
2 攪拌装置
4 有機相
6 水相
8a〜8d ミキサーセトラーセル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の空隙を封孔するために用いられて、該対象物の表面に付着する、水溶性の(メタ)アクリル酸エステル類を重合性成分として含む水溶性含浸液が、洗浄水にて洗浄されることによって、該洗浄水中に該含浸液を含んで得られる洗浄廃水を、親水性精密濾過膜にて濾過して、該洗浄廃水中の非水溶性成分を分離・除去した後、該洗浄廃水中の水溶性含浸液の重合性成分を、炭素数が7〜12の一価のアルコールからなる抽出剤にて抽出することにより、その得られた抽出残液を、洗浄水として、前記対象物の洗浄に再使用するようにしたことを特徴とする含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法。
【請求項2】
前記抽出により得られた、前記含浸液を含む抽出剤に対して、アルカリ水溶液を添加して、かかる含浸液の重合性成分を加水分解せしめた後、希薄酸にて中和し、そして水で洗浄することにより、該抽出剤を再生することを含む請求項1に記載の含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法。
【請求項3】
前記洗浄廃水が、前記含浸液が表面に付着した対象物の一次洗浄水である請求項1又は請求項2に記載の含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法。
【請求項4】
前記親水性精密濾過膜にて前記洗浄廃水から分離された、前記非水溶性成分を含む分離液が、油水分離槽において油水分離され、そしてその取り出された水性相が、前記親水性精密濾過膜にて濾過される前の洗浄廃水に合流せしめられるようになっている請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法。
【請求項5】
前記抽出剤による抽出処理によって得られる抽出残液が親水性精密濾過膜にて濾過されて、該抽出残液中に残存する前記抽出剤が分離・除去され、そしてその得られた抽出剤を含む分離液が再び前記洗浄廃水の抽出工程に供給される一方、該残存抽出剤の分離・除去された抽出残液が、洗浄水として前記対象物の洗浄に用いられるようになっている請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の含浸液含有洗浄廃水のリサイクル方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−196593(P2012−196593A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60668(P2011−60668)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(591089855)三和油化工業株式会社 (34)
【Fターム(参考)】