説明

含硫アミノ酸残基が酸化された酸化型ポリペプチドに対する抗体

【課題】含硫アミノ酸残基が酸化された酸化型ポリペプチドに対する抗体を作製する技術を提供する。
【解決手段】システインスルホン酸もしくはその塩およびメチオニンスルフォキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1個の酸化型含硫アミノ酸を含む酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法であって、前記ポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に組み込んだベクター又はその発現産物を哺乳動物に投与し、該哺乳動物から前記酸化型ポリペプチドに対する抗体を得ることを特徴とする、酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法、ハイブリドーマ、モノクローナル抗体、パーキンソン病またはアルツハイマー病の診断方法およびパーキンソン病またはアルツハイマー病に有効な薬物候補化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DJ-1はNIH3T3細胞を形質転換させる癌遺伝子として発見された(非特許文献1)。
【0003】
また、パーキンソン病の原因遺伝子としてPARK7が同定され、該遺伝子がDJ-1の点突然変異(166番目のロイシンがプロリンに変異)産物と同一であることが判明した(非特許文献2)。
【0004】
さらに、DJ-1は過酸化水素、パラコートによる酸化ストレスで二次元電気泳動上のスポットがシフトし、スポットの位置の変化からシステインの酸化によることが示唆されている(非特許文献3)。
【0005】
さらに、非特許文献4は、DJ-1のX-線結晶構造解析に関する論文であり、パーキンソン病に関わるL166P変異の導入により二量体構造に変化が起こること、X線照射により106番目のシステインが酸化されてスルフィン酸(SO2H)になることを示唆している。また、特許文献1,2は、106位のシステイン残基がシステインスルフィン酸またはシステインスルホン酸に酸化された酸化型ヒトDJ-1を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/75513
【特許文献2】特開2007-319084
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nagakubo D, Taira T, Kitaura H, Ikeda M, Tamai K, Iguchi-Ariga SM, Ariga H.J-1, a novel oncogene which transforms mouse NIH3T3 cells in cooperation with ras.Biochem Biophys Res Commun. (1997) 231, 509-13
【非特許文献2】Bonifati V, Rizzu P, van Baren MJ, Schaap O, Breedveld GJ, Krieger E, Dekker MC, Squitieri F, Ibanez P, Joosse M, van Dongen JW, Vanacore N, van Swieten JC, Brice A, Meco G, van Duijn CM, Oostra BA, Heutink P. Mutations in the DJ-1 gene associated with autosomal recessive early-onset parkinsonism. Science. (2003) 299, 256-9.
【非特許文献3】Mitsumoto A, Nakagawa Y, Takeuchi A, Okawa K, Iwamatsu A, Takanezawa Y.Oxidized forms of peroxiredoxins and DJ-1 on two-dimensional gels increased in response to sublethal levels of paraquat. Free Radic Res. (2001) 35, 301-10.
【非特許文献4】Wilson MA, Collins JL, Hod Y, Ringe D, Petsko GA. The 1.1-A resolution crystal structure of DJ-1, the protein mutated in autosomal recessive early onset Parkinson's disease. Proc Natl Acad Sci U S A. (2003) 100, 9256-61.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、含硫アミノ酸残基が酸化された酸化型ポリペプチドに対する抗体を作製する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、酸化型ポリペプチドに対する抗体の作製について種々検討した結果、意外にも通常の還元型ポリペプチドを発現可能なベクター又はその発現産物を哺乳動物に投与し、発現させることで、酸化型ポリペプチドに対する抗体が得られることを見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、ヒトを含む哺乳動物に、本来生体内で酸化型が存在するポリペプチドをコードする遺伝子を組み込んだベクター又はその発現産物を投与し、生体内で発現させると、一定の割合で、酸化型ポリペプチドが出現し、この酸化型ポリペプチドに対する抗体産生細胞が生じ、この抗体産生細胞を分離することで、酸化型ポリペプチドに対するモノクローナル抗体、或いはモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが得られると本発明者は考えている。
【0010】
本発明は、以下の酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法、ハイブリドーマ、モノクローナル抗体、パーキンソン病またはアルツハイマー病の診断方法およびパーキンソン病またはアルツハイマー病に有効な薬物候補化合物のスクリーニング方法に関する。
項1. システインスルホン酸もしくはその塩およびメチオニンスルフォキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1個の酸化型含硫アミノ酸を含む酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法であって、還元型の前記ポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に組み込んだベクター又はその発現産物を哺乳動物に投与し、該哺乳動物から前記酸化型ポリペプチドに対する抗体を得ることを特徴とする、酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法。
項2. 前記酸化型ポリペプチドが、システイン又はメチオニン残基が生体内で酸化されてシステインスルホン酸もしくはその塩およびメチオニンスルフォキサイド残基になるタンパク質である、項1に記載の方法。
項3. 前記酸化型ポリペプチドが、該ポリペプチドを表面に露出することのできるタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子として前記ベクターに組み込まれている、項1または2に記載の方法。
項4. 前記ベクターがウイルスベクターであり、かつ、酸化型ポリペプチドを表面に露出することのできるタンパク質が、ウイルス粒子の表面に存在するタンパク質であり、該ウイルスベクターの発現により酸化型ポリペプチドがウイルス由来の粒子に表面提示される、項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. ポリペプチドを表面に露出することのできるタンパク質がgp64である、項3または4に記載の方法。
項6. 前記ウイルスベクターがバキュロウイルスベクターである、項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7. 前記ベクターの発現産物が、バキュロウイルスベクターを昆虫細胞で発現させ、該昆虫細胞から単離した、酸化型ポリペプチド又はその一部とgp64の融合蛋白質を表面提示したバキュロウイルスであり、この酸化型ポリペプチド又はその一部とgp64の融合蛋白質を表面提示したバキュロウイルスを哺乳動物に投与することで、該哺乳動物から前記酸化型ポリペプチドに対する抗体を得ることを特徴とする、項1に記載の方法。
項8. システインスルホン酸もしくはその塩およびメチオニンスルフォキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1個の酸化型含硫アミノ酸を含む酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法であって、還元型の前記ポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に組み込んだベクター又はその発現産物を哺乳動物に投与し、得られた免疫哺乳動物から前記酸化型ポリペプチドに対する抗体産生細胞を得ることを特徴とする、抗体産生細胞の調製方法。
項9. 項8の方法で得られた抗体産生細胞とミエローマ細胞を細胞融合して得られるハイブリドーマ。
項10. 項9に記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体。
項11. 酸化型DJ−1を特異的に認識する、項10に記載のモノクローナル抗体。
項12. ヒトサンプル中に存在する酸化型DJ−1を項11に記載のモノクローナル抗体により検出することを特徴とする、パーキンソン病またはアルツハイマー病の診断方法。
項13. パーキンソン病またはアルツハイマー病の疾患モデル動物に薬物候補化合物を投与し、前記モデル動物の酸化型DJ−1の量の変化を評価することを特徴とするパーキンソン病またはアルツハイマー病に有効な薬物候補化合物のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
酸化ストレス下において、酸化される蛋白質として、DJ-1やペルオキシレドキシンなどが知られているが、これまで酸化型蛋白質に対するモノクローナル抗体は得られていない。ペルオキシレドキシンに対しては、酸化型蛋白質に反応するポリクローナル抗体が得られているが、特異性が低く、また反応性はあまり良くない。従来、酸化される部位のペプチドを合成し、それを免疫原として用いるのが従来法である。しかしながら、ペプチドに反応する抗体は得られるが、実際存在するインタクトの蛋白質への反応性が低下する場合がほとんどである。実際、酸化型DJ-1に対する抗体を作成する場合、酸化型ペプチドを合成して検討したが、ペプチドに反応する抗体は得られたが、インタクトの蛋白質に反応する抗体は得られない。
【0012】
酸化型ポリペプチドは、生体内で生成されている可能性が十分にあり、本発明の方法により、酸化型ポリペプチドの標品、あるいは該酸化型ポリペプチドに対する抗体を容易に調製することができる。酸化型ポリペプチドは、生体内での酸化ストレスの指標となり得る。
【0013】
例えば酸化型DJ-1は、パーキンソン病やアルツハイマー病、動脈硬化などの酸化ストレスが関連する疾患のマーカーになることが知られており、酸化型DJ-1に対する抗体を作製するための抗原として有用である。
【0014】
本発明の方法により得られた酸化型ポリペプチドを用いれば、生体内で産生される酸化型蛋白質を同定することができ、パーキンソン病やアルツハイマー病の診断や、これらの疾患に有効な薬物のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】酸化型DJ-1抗体(#7411と#7305)を用いたウエスタンブロット解析
【図2】過酸化水素処理による赤血球の酸化型DJ-1のELISA測定
【図3】パーキンソン病患者赤血球の酸化型DJ-1のELISAによる測定
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、含硫アミノ酸を含むポリペプチドとしては、遊離のSH基を有するシステイン残基、メチオニン残基を1残基以上含むポリペプチドが広く例示され、特に限定されないが、例えばDJ-1、ペルオキシレドキシン6などのペルオキシレドキシン、酵素、ホルモン、受容体、リガンドなどの各種生理活性ポリペプチドが挙げられる。該ポリペプチドは、天然型であってもよく、酸化される可能性がある含硫アミノ酸以外の1又は複数のアミノ酸が置換、付加、欠失、挿入された改変体であってもよい。好ましいポリペプチドは、生体内で含硫アミノ酸が酸化されて酸化型ポリペプチドになり得るものである。システイン残基、メチオニン残基は、酸化により各々システインスルホン酸残基、メチオニンスルフォキサイド残基に酸化され得る。
【0017】
ポリペプチドは、哺乳動物由来のものが使用される。哺乳動物としては、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ラット、マウス、ウサギなどが挙げられ、好ましくはヒトである。
【0018】
システインスルホン酸残基の塩としては、スルホン酸のアルカリ金属(Na,K,Liなど)塩、アルカリ土類金属(Ca,Mg,Baなど)塩などが例示されるが、これらに限定されない。
【0019】
ポリペプチドが含硫アミノ酸を2残基以上含む場合には、これらの2残基以上の含硫アミノ酸を含む全ポリペプチド或いは部分ポリペプチドを哺乳動物内で発現させて免疫し、各酸化型含硫アミノ酸を認識できる抗体を分離して得ることができる。或いは、2残基以上の含硫アミノ酸を含む全ポリペプチド或いは部分ポリペプチドを哺乳動物細胞内で発現させて酸化型ポリペプチドまたは酸化型部分ポリペプチド(これらは、融合蛋白として表面提示されてもよく、特にウイルスの表面に提示された酸化型ポリペプチドまたは酸化型部分ポリペプチドでもよい)を発現産物として得、これを哺乳動物に投与して免疫し、各酸化型含硫アミノ酸を認識できる抗体を分離して得ることができる。具体的には、各酸化型含硫アミノ酸を認識できる抗体を産生する細胞を分離し、必要に応じてハイブリドーマとすることで、目的とする酸化型含硫アミノ酸を認識できる抗体を得ることができる。或いは1種のみの含硫アミノ酸残基を含む部分ポリペプチドを生体内で発現させて、酸化型含硫アミノ酸残基に対する抗体/抗体産生細胞を得ることもできる。
【0020】
本発明において、宿主細胞中で発現される含硫アミノ酸を含むポリペプチドは、含硫アミノ酸が複数存在する場合、酸化されることが所望される含硫アミノ酸のみを含むように改変してもよい。このような改変としては、酸化を望まない含硫アミノ酸を置換もしくは欠失させるか、酸化を望まない含硫アミノ酸を含むアミノ酸配列を欠失させるなどの方法が例示される。本発明の特徴は、得られる酸化型ポリペプチドが、酸化型DJ−1のような生体内で産生される酸化型ポリペプチドと比較して、酸化型含硫アミノ酸の付近の立体構造が天然に存在するものと同一または類似しているため、天然に存在する酸化型ポリペプチドを特異的に認識する抗体を容易に作成できる点にあるので、このような改変体は、酸化型含硫アミノ酸の付近の立体構造が維持されるように改変されるのが望ましい。
【0021】
本発明では、還元型のポリペプチド(標的の含硫アミノ酸を含む部分アミノ酸配列でもよい)をコードするDNAを発現可能に組み込んだ発現ベクターまたはその発現産物を用いて哺乳動物を免疫し、該免疫哺乳動物から、酸化型含硫アミノ酸を認識できる抗体ないし抗体産生細胞を得ることができる。
【0022】
本発明の抗体生産方法において、ポリペプチド(全配列又は酸化型含硫アミノ酸を含む部分配列)は単独で発現させてもよいが、酸化型含硫アミノ酸の付近の立体構造が天然に存在するものと同一または類似させるために、ポリペプチドを表面に提示できるようなタンパク質との融合蛋白質として発現させてもよい。このようなタンパク質としては、N末端又はC末端が細胞表面に露出するタンパク質(例えば膜蛋白質)や、ウイルス表面に露出されるタンパク質が挙げられる。このような融合蛋白質は、直接結合してもよく、適当なリンカーポリペプチドを用いて連結してもよい。含硫アミノ酸を含むポリペプチドに融合される好ましいタンパク質は、gp64タンパク質、HBsAgなどのウイルス由来のタンパク質、受容体や細胞表面に提示される抗原タンパク質などが挙げられる。
【0023】
ベクターは、哺乳動物細胞に導入可能なものであれば特に限定されず、プラスミドやウイルスベクターが挙げられ、特にバキュロウイルスベクターが例示される。
【0024】
以下、含硫アミノ酸を含むポリペプチドとしてヒトDJ-1を例に取り説明するが、DJ-1以外のポリペプチドについてもDJ-1と同様にして酸化型ポリペプチドに対する抗体を得ることができる。
【0025】
ヒトのDJ-1のアミノ酸配列を配列番号1に示し、DNA配列を配列番号2に示す。
【0026】
酸化型ヒトDJ-1は、少なくとも106位のシステイン残基が酸化されたものであり、さらに46位もしくは53位のシステイン残基が酸化されていてもよい。ヒト以外の哺乳動物由来のDJ-1の場合には、ヒトDJ-1の106位に対応するシステイン残基がシステインスルホン酸に酸化されたものを酸化型DJ-1またはその改変体という。ヒトDJ-1の106位に対応するシステイン残基がシステインスルホン酸に酸化されている限り、他のアミノ酸残基がさらに酸化されていてもよい。
【0027】
本発明のDJ-1改変体は、酸化型DJ-1に対する抗体により酸化型DJ-1改変体が認識されるような改変が行われたものであり、106位のシステインは、改変されず、他のアミノ酸が、抗体により認識される立体構造を保持するように置換、付加、欠失または挿入されていてもよい。例えばDJ-1改変体は、46位及び/または53位のシステイン残基が他のアミノ酸(例えばSer)に置換されていてもよい。
【0028】
DJ-1は、酸化ストレスにより、その106位のシステイン残基がシステインスルホン酸に酸化されて、酸化型のDJ-1誘導体となる。このDJ-1の酸化は生理的条件下で生じているものである。
【0029】
本発明は、酸化型DJ-1を認識するモノクローナル抗体の産生に好ましく使用可能である。例えば106位のシステイン残基の周辺のペプチドとgp64などの表面提示タンパク質との融合タンパク質をコードするベクター(好ましくはバキュロウイルスベクター)を作製し、このベクター又はその発現産物(例えばバキュロウイルスの表面にgp64との融合タンパク質として発現(表面提示)された酸化型DJ-1又はその酸化型部分ポリペプチド)
により哺乳動物を免疫(投与)するなどの常法に従い該酸化型ペプチドを認識する抗体を得ることができる。これにより、酸化型DJ-1抗体を使用したELISAキット、パーキンソン病やアルツハイマー病、動脈硬化など酸化ストレスが関連する疾患の診断薬を開発することが可能になる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。
【0031】
実施例1
材料と方法
抗体:ヒトDJ-1のC106を含むAsp68からPhe119(以下、「ヒトDJ-1(68-119)」と略す)をトランスフェクトしたgp64タンパク質発現Baculovirusを使用した。この方法では、ヒトDJ-1(68-119)/gp64融合タンパク質を発現したBaculovirusを、Sf9細胞を用いて作成した。その結果、ヒトDJ-1(68-119)/gp64融合タンパク質中に含まれるDJ-1のシステイン(C106)が酸化されており、結果として酸化剤を用いることなく酸化型DJ-1を含むポリペプチドが得られた。
免疫マウスにはgp64 transgenic Balb/c マウスを用いて、ヒトDJ-1(68-119)/gp64融合タンパク質を発現(表面提示)したBaculovirusを一匹あたり0.1 mg/0.2ml salineで腹腔内投与で免疫することにより、酸化DJ-1に対して特異的な抗体を作成した。作成した抗体はC106が酸化されたリコンビナントDJ-1を用いてスクリーニングを行い、酸化DJ-1に特異的な抗体を得た。
HRP標識酸化DJ-1タンパク質:酸化DJ-1タンパク質に活性化したHRPを反応させ、HRP標識した酸化DJ-1タンパク質を作成した。
実験方法:以下のプロトコールに従い、サンプル中の酸化DJ-1を2次元電気泳動ウエスタンブロッティング法とELISA法にて測定した。
2次元電気泳動ウエスタンブロッティング法:各種サンプルをタンパク質量あたり75 μgずつ等電点電気泳動用のstrip ゲルに膨潤させ電気泳動を行う。その後、12.5%アクリルアミドゲルによりSDS-PAGEを行い、PVDF膜に転写し作成した酸化型DJ-1タンパク質と反応させる。
ELISA法:20 μg/mLの酸化DJ-1特異的抗体を100 μL/wellで96 well plateに播種し4℃で12時間以上反応させる。0.05 % Tween 20 PBS バッファーで4回洗った後、0.1% BSAを含むPBSバッファーを150 μL/wellで添加し37℃ 1時間反応させる。さらに、0.05 % Tween 20 PBS バッファーで4回洗った後、酸化DJ-1の標品もしくはヒト赤血球サンプルを50 μL/wellとHRP標識酸化DJ-1タンパク質を添加し、37℃で2時間反応させる。反応後、0.05 % Tween 20 PBS バッファーで8回洗い、DakoCytomstion社製TMB+ Substrate-chromogenを50 μL/wellで添加して室温で30分反応させ、1N H2SO4を50 μL/well添加し反応を止めて450 nmと620 nmで吸光度を測定する。
【0032】
実施例2
作成した酸化型DJ-1特異的な抗体を用いて、500 μM 過酸化水素で処理したJurkat細胞を上記の方法により二次元電気泳動ウエスタンブロット解析を行った(図1)。#7411抗体と#’7305抗体において、酸化型DJ-1に対して特異的に反応することが確認できた。
【0033】
実施例3
健常者の赤血球(タンパク質量70 μg/ml)に、0、1、10、100 mMの過酸化水素を加えて37℃15分反応後、上記ELISA法により酸化型DJ-1の測定を行った(図2)。濃度依存的な過酸化水素による酸化で酸化型DJ-1の上昇が認められた。
【0034】
実施例4
ヒトパーキンソン病患者の赤血球を用いて上記ELISA法により酸化DJ-1の測定を行った。健常者(5人)、治療中パーキンソン病患者(5人)、未治療パーキンソン病患者(7人)の赤血球を生理食塩水で2回洗浄後、5倍量の超純水により溶血させELISA用のサンプルとし、酸化型DJ-1の測定を行った(図3)。健常者と治療中パーキンソン病患者間で差はないが、未治療パーキンソン病患者において酸化型DJ-1の高度な上昇が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システインスルホン酸もしくはその塩およびメチオニンスルフォキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1個の酸化型含硫アミノ酸を含む酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法であって、還元型の前記ポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に組み込んだベクター又はその発現産物を哺乳動物に投与し、該哺乳動物から前記酸化型ポリペプチドに対する抗体を得ることを特徴とする、酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法。
【請求項2】
前記酸化型ポリペプチドが、システイン又はメチオニン残基が生体内で酸化されてシステインスルホン酸もしくはその塩およびメチオニンスルフォキサイド残基になるタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化型ポリペプチドが、該ポリペプチドを表面に露出することのできるタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子として前記ベクターに組み込まれている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベクターがウイルスベクターであり、かつ、酸化型ポリペプチドを表面に露出することのできるタンパク質が、ウイルス粒子の表面に存在するタンパク質であり、該ウイルスベクターの発現により酸化型ポリペプチドがウイルス由来の粒子に表面提示される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリペプチドを表面に露出することのできるタンパク質がgp64である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルスベクターがバキュロウイルスベクターである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ベクターの発現産物が、バキュロウイルスベクターを昆虫細胞で発現させ、該昆虫細胞から単離した、酸化型ポリペプチド又はその一部とgp64の融合蛋白質を表面提示したバキュロウイルスであり、この酸化型ポリペプチド又はその一部とgp64の融合蛋白質を表面提示したバキュロウイルスを哺乳動物に投与することで、該哺乳動物から前記酸化型ポリペプチドに対する抗体を得ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
システインスルホン酸もしくはその塩およびメチオニンスルフォキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1個の酸化型含硫アミノ酸を含む酸化型ポリペプチドに対する抗体を生産する方法であって、還元型の前記ポリペプチドをコードする遺伝子を発現可能に組み込んだベクター又はその発現産物を哺乳動物に投与し、得られた免疫哺乳動物から前記酸化型ポリペプチドに対する抗体産生細胞を得ることを特徴とする、抗体産生細胞の調製方法。
【請求項9】
請求項8の方法で得られた抗体産生細胞とミエローマ細胞を細胞融合して得られるハイブリドーマ。
【請求項10】
請求項9に記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体。
【請求項11】
酸化型DJ−1を特異的に認識する、請求項10に記載のモノクローナル抗体。
【請求項12】
ヒトサンプル中に存在する酸化型DJ−1を請求項11に記載のモノクローナル抗体により検出することを特徴とする、パーキンソン病またはアルツハイマー病の診断方法。
【請求項13】
パーキンソン病またはアルツハイマー病の疾患モデル動物に薬物候補化合物を投与し、前記モデル動物の酸化型DJ−1の量の変化を評価することを特徴とするパーキンソン病またはアルツハイマー病に有効な薬物候補化合物のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−183843(P2010−183843A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28042(P2009−28042)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【Fターム(参考)】