説明

含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法

【課題】酵素を用いることなく、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物を製造する新たな方法を提供すること。
【解決手段】バナジウム化合物の存在下、置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法。置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程は、好ましくは、酸素の存在下で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−メチルチオ―2−オキソ酪酸等の含硫黄2−ケトカルボン酸化合物は、例えば医農薬等の製造中間体として有用な化合物であることが知られている。
【0003】
含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法として、例えば非特許文献1(Table 4等参照。)には、D−2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸を酵素により酸化することにより、4−(メチルチオ)―2−オキソ酪酸を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Applied Microbiology and Biotechnology,1988年,第28巻,433〜439頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法は、酵素を反応試剤として用いる必要がある。本発明の目的は、酵素を用いることなく、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物を製造する新たな方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは含硫2−ケトカルボン酸化合物の製造方法について鋭意検討したところ、本発明に至った。
【0007】
即ち本発明は、以下の通りである。
〔1〕 バナジウム化合物の存在下、置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法。
〔2〕 置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程が、酸素の存在下で行なわれる〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程が、有機溶媒の存在下で行われる〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 有機溶媒がケトン溶媒、ニトリル溶媒及び芳香族溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒である〔3〕記載の製造方法。
記載の製造方法。
〔5〕 バナジウム化合物が、3価のバナジウム化合物、4価のバナジウム化合物及び5価のバナジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である〔1〕〜〔4〕のいずれか1記載の製造方法。
〔6〕 置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物が式(1)
【0008】
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
で示される化合物であり、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物が式(2)
【0009】
【化2】

(式中、R及びnは上記と同じ意味を表す。)
で示される化合物である〔1〕〜〔5〕のいずれか1記載の製造方法。
〔7〕 Rがメチル基であり、nが2である〔6〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酵素を用いることなく、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物を製造する新たな方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法は、置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする。以下、置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を、含硫ヒドロキシ酢酸化合物と記すことがある。また、含硫ヒドロキシ酢酸化合物の酸化を、本反応と記すことがある。本反応により、含硫ヒドロキシ酢酸化合物に含まれる−CH(OH)−で表される基が酸化されて−C−で表される基に変換され、含硫ヒドロキシ酢酸化合物は、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物に変換される。
【0013】
含硫ヒドロキシ酢酸化合物において、含硫黄炭化水素基は、硫黄原子と炭素原子と水素原子とからなる基であり、該含硫黄炭化水素基に含まれる水素原子は、本反応に不活性な、任意の基で置換されていてもよい。
含硫黄炭化水素基は、多重結合を有しない飽和の含硫黄炭化水素基であってもよく、二重結合を有する不飽和の含硫黄炭化水素基であってもよい。
【0014】
飽和の含硫黄炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。以下、直鎖状又は分岐鎖状である飽和の含硫黄炭化水素基を、飽和鎖式含硫黄炭化水素基と記すことがある。また、環状である飽和の含硫黄炭化水素基を、飽和環式含硫黄炭化水素基と記すことがある。
【0015】
飽和鎖式含硫黄炭化水素基としては例えば、メチルチオメチル基、エチルチオメチル基、プロピルチオメチル基、イソプロピルチオメチル基、tert−ブチルチオメチル基、1−(メチルチオ)エチル基、2−(メチルチオ)エチル基、1−(エチルチオ)エチル基、2−(エチルチオ)エチル基、1−(プロピルチオ)エチル基、2−(プロピルチオ)エチル基、2−(イソプロピルチオ)エチル基、2−(tert−ブチルチオ)エチル基、1−(メチルチオ)プロピル基、2−(メチルチオ)プロピル基、3−(メチルチオ)プロピル基、3−(エチルチオ)プロピル基、3−(プロピルチオ)プロピル基、3−(イソプロピルチオ)プロピル基及び2,3−(ジメチルチオ)プロピル基が挙げられる。
【0016】
飽和環式含硫黄炭化水素基としては例えば、シクロプロピルチオメチル基、シクロブチルチオメチル基、シクロペンチルチオメチル基、シクロヘキシルチオメチル基、2−(メチルチオ)シクロプロピル基、2−(メチルチオ)シクロブチル基、2−(メチルチオ)シクロペンチル基、2−(メチルチオ)シクロヘキシル基、4−(メチルチオ)シクロヘキシル基、2−メチル−4−(メチルチオ)シクロヘキシル基、2,4−(ジメチルチオ)シクロヘキシル基、2−チアシクロヘキシル基及び4−チアシクロヘキシル基が挙げられる。
【0017】
不飽和の含硫黄炭化水素基としては例えば、ビニルチオメチル基、1−(ビニルチオ)エチル基、2−(ビニルチオ)エチル基、4−メチルチオ−1−ブテニル基、4−メチルチオ−2−ブテニル基、2−メチルチオフェニル基、3−メチルチオフェニル基、4−メチルチオフェニル基、2−メチル−4−メチルチオフェニル基、2,4−(ジメチルチオ)フェニル基、フェニルチオメチル基、1−(フェニルチオ)エチル基、2−(フェニルチオ)エチル基、ベンジルチオメチル基、1−(ベンジルチオ)エチル基、2−(ベンジルチオ)エチル基、2−チエニル基、3−チエニル基、2−メチル−3−チエニル基が挙げられる。
【0018】
本反応に不活性な基としては例えば、下記<群P1>から選ばれる少なくとも1種の基が挙げられる。
【0019】
<群P1>
メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基及びヘキシルオキシ基等の炭素数1〜12のアルキルオキシ基;
ベンジルオキシ基等の炭素数7〜12のアラルキルオキシ基;
シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜8のシクロアルキルオキシ基;
フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基及び4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;
トリフルオロメトキシ基及びペンタフルオロエトキシ基等の炭素数1〜6のペルフルオロアルキルオキシ基;
アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基及びベンジルオキシカルボニルアミノ基等の置換若しくは無置換のアミノ基(置換アミノ基の炭素数は例えば1〜12である。);
アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基及びベンゾイル基等の炭素数2〜12のアシル基;
アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、イソバレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基及びベンゾイルオキシ基等の炭素数2〜12のアシルオキシ基;
並びに
フッ素原子及び塩素原子等のハロゲン原子。
【0020】
上述の群P1において、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数6〜20のアリールオキシ基は、例えば、下記<群P2>から選ばれる少なくとも一種の基を有していてもよい。
【0021】
<群P2>
メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基及びヘキシルオキシ基等の炭素数1〜12のアルキルオキシ基;
フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基及び4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;
並びに
フッ素原子及び塩素原子等のハロゲン原子。
【0022】
置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基は、置換基を有していてもよい飽和の含硫黄炭化水素基であることが好ましく、置換基を有していてもよい飽和鎖式含硫黄炭化水素基であることがより好ましく、R−S−(CH−(但し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)で表される基であることがさらに好ましい。
【0023】
−S−(CH−で表される基において、Rで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基における、炭素数1〜12のアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基及びオクチル基が挙げられる。Rで表される置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基における、炭素数3〜12のシクロアルキル基としては例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基が挙げられる。
で表される置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基及び置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基における置換基としては、例えば本反応に不活性な基が挙げられ、好ましくは下記の<群P3>から選ばれる少なくとも一種の基が挙げられる。
【0024】
<群P3>
フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基及び4−メチルフェニル基等の炭素数6〜20のアリール基;
メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基及びヘキシルオキシ基等の炭素数1〜12のアルキルオキシ基;
ベンジルオキシ基等の炭素数7〜12のアラルキルオキシ基;
シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜8のシクロアルキルオキシ基;
フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基及び4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;
トリフルオロメトキシ基及びペンタフルオロエトキシ基等の炭素数1〜6のペルフルオロアルキルオキシ基;
アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基及びベンジルオキシカルボニルアミノ基等の置換若しくは無置換のアミノ基(置換アミノ基の炭素数は例えば1〜12である。);
アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基及びベンゾイル基等の炭素数2〜12のアシル基;
アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、イソバレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基及びベンゾイルオキシ基等の炭素数2〜12のアシルオキシ基;
並びに
フッ素原子及び塩素原子等のハロゲン原子。
【0025】
上述の群P3において、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数6〜20のアリールオキシ基は、例えば、上述の<群P2>から選ばれる少なくとも一種の基を有していてもよい。
【0026】
で表される置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基及び置換基を有する炭素数3〜12のシクロアルキル基としては例えば、ベンジル基、ナフタレン−1−イルメチル基、ナフタレン−2−イルメチル基、4−メチルベンジル基、3,4−ジメチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、4−フェニルベンジル基、4−フェノキシベンジル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、イソプロピルオキシメチル基、ブチルオキシメチル基、イソブチルオキシメチル基、sec−ブチルオキシメチル基、tert−ブチルオキシメチル、フェノキシメチル基、2−メチルフェノキシメチル基、4−メチルフェノキシメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−(ナフタレン−1−イル)エチル基、1−(ナフタレン−2−イル)エチル基、1−(4−メチルフェニル)エチル基、1−(3,4−ジメチルフェニル)エチル基、1−(4−メトキシフェニル)エチル基、1−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル基、1−(4−フェニルフェニル)エチル基、1−(4−フェノキシフェニル)エチル基、2−(メトキシ)エチル基、2−(エトキシ)エチル基、2−(イソプロピルオキシ)エチル基、2−(ブチルオキシ)エチル基、2−(イソブチルオキシ)エチル基、2−(sec−ブチルオキシ)エチル基、2−(tert−ブチルオキシ)エチル、2−(フェノキシ)エチル基、2−(2−メチルフェノキシ)エチル基、2−(4−メチルフェノキシ)エチル基、2−フェニルシクロプロピル基及び4−フェニルシクロヘキシル基が挙げられる。
【0027】
は、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくはフェニル基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0028】
置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基として、R−S−(CH−で表される基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物は、式(1)
【0029】
【化3】

(式中、R及びnは上記と同じ意味を表す。)
で示される化合物である。以下、式(1)で示される化合物を、化合物(1)と記すことがある。好ましい含硫ヒドロキシ酢酸化合物は、化合物(1)である。
【0030】
化合物(1)としては例えば、2−ヒドロキシ−3−メチルチオプロピオン酸、3−tert−ブチルチオ−2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ベンジルチオ−2−ヒドロキシプロピオン酸、3−エチルチオ−2−ヒドロキシプロピオン酸、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸、4−エチルチオ−2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−4−プロピルチオ酪酸、4−ベンジルチオ−2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−5−(メチルチオ)ペンタン酸、5−(エチルチオ)−2−ヒドロキシペンタン酸、2−ヒドロキシ−5−(プロピルチオ)ペンタン酸、5−(ベンジルチオ)−2−ヒドロキシペンタン酸、2−ヒドロキシ−6−(メチルチオ)ヘキサン酸、6−(エチルチオ)−2−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシ−6−(プロピルチオ)ヘキサン酸、6−(ベンジルチオ)−2−ヒドロキシヘキサン酸及びそれらの塩が挙げられる。
化合物(1)としては、市販品及び例えば特開2006−109834号公報に記載される方法に準じて製造したものが挙げられる。
【0031】
次いで、含硫ヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程を説明する。かかる工程において、本反応により、含硫ヒドロキシ酢酸化合物は、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物に変換される。
【0032】
本反応は、バナジウム化合物の存在下で行われる。
【0033】
バナジウム化合物としては、例えば、2価のバナジウム化合物、3価のバナジウム化合物、4価のバナジウム化合物及び5価のバナジウム化合物が挙げられる。2価のバナジウム化合物とは、該化合物に含まれるバナジウム原子の価数が2価であることを意味し、3価のバナジウム化合物とは、該化合物に含まれるバナジウム原子の価数が3価であることを意味し、4価のバナジウム化合物とは、該化合物に含まれるバナジウム原子の価数が4価であることを意味し、5価のバナジウム化合物とは、該化合物に含まれるバナジウム原子の価数が5価であることを意味する。
【0034】
2価のバナジウム化合物としては、例えば、酸化バナジウム(VO)が挙げられる。 3価のバナジウム化合物としては、例えば、バナジウム トリス(アセチルアセトナート)(III)等のアセチルアセトナートを配位子として有する3価のバナジウム化合物が挙げられる。
4価のバナジウム化合物としては、例えば、バナジウム オキシアセチルアセトナート(IV)等のアセチルアセトナートを配位子として有する4価のオキシバナジウム化合物、シュウ酸オキソバナジウム(IV)及び[2,2´−[1,2−エタンジイル ビス[ニトリロ−κN]メチリジン]]ビス[フェノラト−κO]](2−)]オキソバナジウム(IV)が挙げられる。
5価のバナジウム化合物としては、例えば、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸アンモニウム等のバナジン酸化合物(V)及びメタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム等のメタバナジン酸化合物(V)、トリアルコキシオキソバナジウム(V)及びオキソ(2−プロパノラト)[2,6−ピリジンジカルボキシラト(2−)−N1,O2,O6]バナジウム(V)が挙げられる。
【0035】
バナジウム化合物は、好ましくは、3価のバナジウム化合物、4価のバナジウム化合物及び5価のバナジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であり、より好ましくは、バナジウム トリス(アセチルアセトナート)(III)、シュウ酸オキソバナジウム(IV)、バナジウム オキシアセチルアセトナート(IV)、トリアルコキシオキソバナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、メタバナジン酸アンモニウム(V)、[2,2´−[1,2−エタンジイル ビス[ニトリロ−κN]メチリジン]]ビス[フェノラト−κO]](2−)]オキソバナジウム(IV)及びオキソ(2−プロパノラト)[2,6−ピリジンジカルボキシラト(2−)−N1,O2,O6]バナジウム(V)からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であり、さらに好ましくは、[2,2´−[1,2−エタンジイル ビス[ニトリロ−κN]メチリジン]]ビス[フェノラト−κO]](2−)]オキソバナジウム(IV)及びオキソ(2−プロパノラト)[2,6−ピリジンジカルボキシラト(2−)−N1,O2,O6]バナジウム(V)からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である。
【0036】
バナジウム化合物の使用量は、反応混合物の濃度等により異なるが、含硫ヒドロキシ酢酸化合物1モルに対して、好ましくは0.001モル以上である。バナジウム化合物の使用量は、含硫ヒドロキシ酢酸化合物1モルに対して、0.5モル以下であることが実用的である。
【0037】
本反応は、好ましくは、酸素の存在下に行われる。
酸素は、酸素ガスであってもよく、窒素等の不活性ガスにより希釈された酸素ガスであってもよく、大気に含まれる酸素であってもよい。また、大気に含まれる酸素を窒素等の不活性ガスにより希釈したものであってもよい。
酸素の使用量は、含硫ヒドロキシ酢酸化合物1モルに対して、好ましくは1モル以上であり、その上限は制限されない。
【0038】
本反応は、好ましくは、有機溶媒の存在下に行われる。
有機溶媒としては例えば、ケトン溶媒、ニトリル溶媒及び芳香族溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒が挙げられる。ケトン溶媒としては例えば、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが挙げられ、ニトリル溶媒としては例えば、アセトニトリル及びプロピオニトリルが挙げられ、芳香族溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びベンゾトリフルオリドが挙げられる。有機溶媒は、好ましくは、アセトン、アセトニトリル及びベンゾトリフルオリドからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒である。
溶媒の使用量は特に制限されず、含硫ヒドロキシ酢酸化合物1重量部に対して、100重量部以下とすることが容積効率の点で好ましい。
【0039】
本反応において、反応試剤の混合順序は制限されない。好ましい実施態様としては例えば、含硫ヒドロキシ酢酸化合物と有機溶媒とバナジウム化合物とを混合し、得られる混合物と酸素とを混合する方法が挙げられる。
【0040】
本反応は、減圧条件下、常圧条件下及び加圧条件下のいずれの条件下でも行われ、好ましくは、常圧条件下及び加圧条件下のいずれかの条件下で行われ、より好ましくは、常圧条件下で行われる。加圧条件は、例えば0.2〜10MPaG(ゲージ圧)が挙げられる。
【0041】
本反応の反応温度は、反応混合物中の含硫ヒドロキシ酢酸化合物の濃度やバナジウム触媒の濃度等により異なるが、好ましくは0℃〜130℃の範囲、より好ましくは10℃〜100℃の範囲、さらに好ましくは20℃〜80℃の範囲、さらに一層好ましくは室温(25℃程度)〜55℃の範囲である。反応温度が0℃よりも低い場合は、本反応の速度が低くなる傾向にあり、反応温度が130℃よりも高い場合は、本反応の選択率が低下する傾向にある。
【0042】
反応の進行度合いは、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル分析、赤外吸収スペクトル分析等の分析手段により確認することができる。
【0043】
反応終了後、例えば、得られる反応混合物を濃縮処理に付し、必要に応じて硫酸、塩酸などの鉱酸で中和処理を行い、濃縮処理、冷却処理等或いは例えばアセトンとの混合処理を行うことにより、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物を固体として取り出すことができる。含硫黄2−ケトカルボン酸化合物が親油性を示す化合物である場合は、反応終了後、反応混合物と水に非混和性の溶媒と混合し、抽出処理、濃縮処理、冷却処理等を行うことにより含硫黄2−ケトカルボン酸化合物を取り出すことができる。水に非混和性の溶媒としては、例えば、酢酸エチル等のエステル溶媒およびメチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒が挙げられ、その使用量は制限されない。
取り出した含硫黄2−ケトカルボン酸化合物は、蒸留、カラムクロマトグラフィー、結晶化などの精製手段により、精製することができる。
【0044】
かくして得られる含硫黄2−ケトカルボン酸化合物は、置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を有する。含硫黄2−ケトカルボン酸化合物における置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基は、上述の含硫ヒドロキシ酢酸化合物における置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基と同じ意味を表す。
かかる含硫黄2−ケトカルボン酸化合物としては例えば、3−メチルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−tert−ブチルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−ベンジルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−エチルチオ−2−オキソプロピオン酸、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸、4−エチルチオ−2−オキソ酪酸、2−オキソ−4−プロピルチオ酪酸、4−ベンジルチオ−2−オキソ酪酸、5−メチルチオ−2−オキソペンタン酸、5−(エチルチオ)−2−オキソペンタン酸、2−オキソ−5−(プロピルチオ)ペンタン酸、5−(ベンジルチオ)−2−オキソペンタン酸、6−メチルチオ−2−オキソヘキサン酸、6−(エチルチオ)−2−オキソヘキサン酸、2−オキソ−6−(プロピルチオ)ヘキサン酸、6−(ベンジルチオ)−2−オキソヘキサン酸及びそれらの塩が挙げられる。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0046】
以下の各実施例では、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて下記分析条件により反応混合物を分析し、下式に基づいて転化率及び選択率を算出した。
【0047】
<分析条件>
LCカラム :Lichrosorb−RP−8
カラム温度 :40℃
移動相 :アセトニトリル/水=5/95
添加剤 1−ペンタンスルホン酸ナトリウム
添加剤濃度 2.5mmol/L
移動相のpH 3(40%リン酸を添加して調整)
流速 :1.5mL/分
検出波長 :210nm
測定時間 :60分
【0048】
<転化率の算出>
転化率(%)=100(%)−(化合物(1)のピーク面積(%))
【0049】
<選択率の算出>
選択率(%)=(化合物(2)のピーク面積)/(全生成物のピーク面積)X100
【0050】
<実施例1>
磁気回転子を付した25mL反応管に、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸150mg、アセトン5g及びトリイソプロポキシオキソバナジウム(V)12mgを仕込み、得られた混合物を酸素雰囲気下、室温で38時間攪拌した。反応終了後、反応混合物から溶媒を留去し、得られた残渣に1規定塩酸1gを加えた。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は16%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は51%であった。
【0051】
<実施例2>
磁気回転子を付した25mL反応管に、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸150mg、アセトン5g及びバナジウム オキシアセチルアセトナート(IV)13mgを仕込み、得られた混合物を酸素雰囲気下、室温で6時間攪拌した。反応終了後、反応混合物から溶媒を留去し、得られた残渣に1規定塩酸1gを加えた。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は11%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は54%であった。
【0052】
<実施例3>
磁気回転子を付した25mL反応管に、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸150mg、アセトニトリル5g及びバナジウム オキシアセチルアセトナート(IV)13mgを仕込み、得られた混合物を酸素雰囲気下、室温で19時間攪拌した。反応終了後、反応混合物から溶媒を留去し、得られた残渣に1規定塩酸1gを加えた。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は9%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は55%であった。
【0053】
<実施例4>
磁気回転子を付した25mL反応管に、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸150mg、ベンゾトリフルオリド1.5g、アセトニトリル0.75g、アセトン0.75g及びバナジウム オキシアセチルアセトナート(IV)13mgを仕込み、得られた混合物を酸素雰囲気下、室温で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物から溶媒を留去し、残渣に1規定塩酸1gを加えた。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は11%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は41%であった。
【0054】
<実施例5>
磁気回転子を付した25mL反応管に、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸150mg、アセトニトリル7.5g及びバナジウム トリス(アセチルアセトナート)(III)17mgを仕込み、得られた混合物を酸素雰囲気下、室温で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物から溶媒を留去し、残渣に1規定塩酸1gを加えた。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は17%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は33%であった。
【0055】
<実施例6>
磁気回転子を付した10mL反応管に、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸150mg、アセトン3.75g及びメタバナジン酸アンモニウム(V)6mgを仕込み、得られた混合物を酸素雰囲気下、室温で96時間攪拌した。反応終了後、反応混合物から溶媒を留去し、残渣に1規定塩酸1gを加えた。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は7%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は31%であった。
【0056】
<実施例7>
磁気回転子を付した10mL反応管に、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸150mg、アセトニトリル7.5g及びシュウ酸オキソバナジウム(IV)8mgを仕込み、得られた混合物を酸素雰囲気下、室温で96時間攪拌した。反応終了後、反応混合物から溶媒を留去し、残渣に1規定塩酸1gを加えた。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は5%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は30%であった。
【0057】
<実施例8>
内容量60mLのオートクレーブに、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸1.50g、アセトニトリル7.57g、トリエチルアミン1.02g及び下式(C−1)で示されるバナジウム化合物(オキソ(2−プロパノラト)[2,6−ピリジンジカルボキシラト(2−)−N1,O2,O6]バナジウム(V)。Inorg.Chem.,第35巻,547〜548頁(1996年)を参照して調製した。)29mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに30%酸素/70%窒素を圧入して0.8MPaG(ゲージ圧)とした後、50℃まで昇温し、得られた混合物を24時間攪拌した。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は87%であり、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の選択率は46%であった。

【0058】
<実施例9>
内容量60mLのオートクレーブに、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸1.50g、アセトニトリル6.40g、トリエチルアミン0.89g及び下式(C−2)で示されるバナジウム化合物([2,2´−[1,2−エタンジイル ビス[ニトリロ−κN]メチリジン]]ビス[フェノラト−κO]](2−)]オキソバナジウム(IV)。Catal.Commun.,第8巻,1336〜1340頁(2007年)を参照して調製した。)30mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに空気を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)とした後、50℃まで昇温し、得られた混合物を18時間攪拌した。得られた混合物の一部を取り出して、高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸の転化率は86%であり、4−(メチルチオ)―2−オキソ酪酸の選択率は48%であった。

【産業上の利用可能性】
【0059】
4−メチルチオ―2−オキソ酪酸等の含硫黄2−ケトカルボン酸化合物は、例えば医農薬等の製造中間体として有用な化合物であることが知られている。本発明は含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム化合物の存在下、置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする含硫黄2−ケトカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項2】
置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程が、酸素の存在下で行われる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物を酸化する工程が、有機溶媒の存在下で行われる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
有機溶媒がケトン溶媒、ニトリル溶媒及び芳香族溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
バナジウム化合物が、3価のバナジウム化合物、4価のバナジウム化合物及び5価のバナジウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
置換基を有していてもよい含硫黄炭化水素基を2位に有するヒドロキシ酢酸化合物が式(1)
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
で示される化合物であり、含硫黄2−ケトカルボン酸化合物が式(2)
【化2】

(式中、R及びnは上記と同じ意味を表す。)
で示される化合物である請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
がメチル基であり、nが2である請求項6記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−67073(P2012−67073A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155567(P2011−155567)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】