説明

含窒素多環複素環化合物の製造方法

【課題】安全性が高く、高収率で得られる含窒素多環複素環化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式[3]で表される化合物とパラジウム錯体及びボロン酸誘導体を用いて、下記一般式[4]で表される含窒素多環複素環化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成化合物の中間体及び有機エレクトロルミネッセンス用材料として有用な含窒素多環複素環化合物(特にアザカルバゾール誘導体)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アザカルバゾール誘導体の合成法として、ベンジジン誘導体とジハロビピリジン誘導体を反応しビスアザカルバゾリルビフェニール誘導体を合成する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、ベンジジン誘導体は変異原性が強陽性であり、安全性の点で好ましくない。
【0003】
【化1−1】

【0004】
又、下記アザカルバゾール誘導体のベンゼン環の4位をハロゲン化する方法として、以下のようなジアゾニウム塩を経由するSandmyer法が用いられていた。しかしながら、工程数が長いこと、4工程目のハロゲン化の収率が低いという問題があった。
【0005】
【化1−2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−340122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題を解決すべく為されたものであり、その目的は、安全性が高く、高収率で得られる含窒素多環複素環化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
【0009】
1.
下記一般式[3]で表される化合物とパラジウム錯体及びボロン酸誘導体を用いることを特徴とする下記一般式[4]で表される含窒素多環複素環化合物の製造方法。
【0010】
【化2】

【0011】
〔式中、R1は置換基を表し、n1は0〜4の整数を表す。Z4及びZ5は各々、芳香族炭化水素環又は含窒素芳香族複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。Z3は単なる結合手又は2価の連結基を表す。Xはハロゲン原子を表す。〕
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法により、有機合成化合物の中間体及び有機エレクトロルミネッセンス用材料として有用な含窒素多環複素環化合物を、安全性上問題のある化合物を用いることなく高収率で得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を更に詳細に述べる。
【0014】
前記一般式[3]及び一般式[4]において、R1で表される置換基として、例えばアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アシルアミノ、スルホンアミド、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン原子、複素環、スルホニル、スルフィニル、ホスホニル、アシル、カルバモイル、スルファモイル、シアノ、アルコキシ、アリールオキシ、複素環オキシ、シロキシ、アシルオキシ、カルバモイルオキシ、アミノ、アルキルアミノ、イミド、ウレイド、スルファモイルアミノ、アルコキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボニルアミノ、アリールオキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、カルボキシル等の各基が挙げられる。n1が2〜4の場合、複数のR1は同じでも異なってもよい。
【0015】
Xで表されるハロゲン原子としては、弗素、塩素、臭素及び沃素原子が挙げられる。Xで表される基の内で好ましいものは臭素原子である。
【0016】
n1で表される整数の内で好ましいものは0又は1である。
【0017】
4及びZ5は各々、含窒素芳香族複素環又は芳香族炭化水素環を形成する原子群を表す。
【0018】
含窒素芳香族複素環としては、例えばフラン、チオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ベンゾイミダゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン等の各環が挙げられる。
【0019】
芳香族炭化水素環としては、例えばベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、o−テルフェニル、m−テルフェニル、p−テルフェニル、アセナフテン、コロネン、フルオレン、フルオラントレン、ナフタセン、ペンタセン、ペリレン、ペンタフェン、ピセン、ピレン、ピラントレン、アンスラアントレン等の各環が挙げられる。
【0020】
これら芳香族炭化水素環、含窒素芳香族複素環の内で好ましいものは含窒素芳香族複素環であり、更に好ましいものはピリジン環である。
【0021】
3が表す2価の連結基としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレン等の炭化水素基の他、ヘテロ原子を含むものでもよく、又、チオフェン−2,5−ジイル基やピラジン−2,3−ジイル基のような芳香族複素環を有する化合物(ヘテロ芳香族化合物とも言う)に由来する2価の連結基であってもよいし、酸素や硫黄などのカルコゲン原子であってもよい。又、アルキルイミノ基、ジアルキルシランジイル基やジアリールゲルマンジイル基のようなヘテロ原子を介して連結する基でもよい。単なる結合手とは、連結する置換基同士を直接結合する単なる結合手である。
【0022】
これらの内で好ましいものは単なる結合手である。
【0023】
上記の基は、何れも更に置換基によって置換されてもよく、該置換基として、例えば、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アシルアミノ、スルホンアミド、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン原子、複素環、スルホニル、スルフィニル、ホスホニル、アシル、カルバモイル、スルファモイル、シアノ、アルコキシ、アリールオキシ、複素環オキシ、シロキシ、アシルオキシ、カルバモイルオキシ、アミノ、アルキルアミノ、イミド、ウレイド、スルファモイルアミノ、アルコキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボニルアミノ、アリールオキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、カルボキシル等の各基が挙げられる。
【0024】
以下に、本発明の一般式[3]で表される化合物の代表的具体例を示すが、本発明はこれらに限定されものではない。
【0025】
【化4】

【0026】
以下に、本発明の一般式[4]で表される化合物の代表的具体例を示すが、本発明はこれらに限定されものではない。
【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
本発明で用いられる芳香族系溶媒の使用量は、一般式[3]の化合物に対して質量比で1〜20倍が好ましく、特に好ましくは1〜10倍である。
【0030】
一般式[3]で表される化合物から一般式[4]で表される化合物を得る反応においては金属触媒が用いられる。金属触媒としては、例えばパラジウム錯体(PdCl2,Pd(OAc)2,Pd(Pph34,PdCl2dppf,Pd(dba)2,Pd/C)、ニッケル錯体(NiBr2,NiBr2(Pph32,Ni(acac)2,bis(1,5−cyclooctadiene)Ni(0))、亜鉛等が挙げられる。これらの内で好ましいものはパラジウム錯体である。尚、パラジウム錯体の配位子略号は以下の構造を示す。
【0031】
OAc:OCOCH3
Pph3:triphenyl−phosphine
dppf:(diphenylphosphino)ferrocene
dba:dibenzylideneacetone
acac:acetylacetone
更に、金属触媒と共に以下の化合物を添加してもよい。例えば、4級アンモニウム塩(TBAF:弗化テトラブチルアンモニウム,沃化テトラエチルアンモニウム)、セシウム塩(炭酸セシウム、弗化セシウム)、アルカリ金属塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)、2,2′−ビピリジン、トリ(t−ブチル)ホスフィン、グリニア試薬、ボロン酸誘導体(Bis(pinacolato)diboron、Pinacolborane)等が挙げられる。
【0032】
これらの内で好ましいものは、パラジウム錯体とボロン酸誘導体であり、更に好ましくはPdCl2dppfとBis(pinacolato)diboronの併用である。
【0033】
反応温度は、通常、70〜130℃で行われるのが好ましく、80〜100℃が特に好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1(比較例)
《例示化合物A−3の合成》
【0036】
【化7】

【0037】
例示化合物1−3の9.7gと硫酸20mlを混合し、硝酸(比重1.41)2.5mlを徐々に滴下し、更に1時間攪拌した。冷水200mlを徐々に加え、炭酸カリウムで中和した。析出した結晶を濾取、乾燥した。
【0038】
次に、得られた化合物Bを酢酸100mlに溶解し、接触還元(触媒Pd/C)した。酢酸を減圧除去した後、酢酸エチル/ヘキサンで再結晶し、更に濾取、乾燥し、化合物Cを13g得た。次に、48%臭化水素酸100mlに溶解し、氷水冷下、亜硝酸ナトリウム2.8gを溶解した水溶液14mlを10分で滴下し、更に室温で20分攪拌した。臭化第一銅3.0gを溶解した水溶液60mlを別途調製し、これに前述の溶液を10分で滴下し、更に1時間攪拌した。炭酸ナトリウムで中和した後、酢酸エチル100mlを加えて減圧濾過した。テトラヒドロフラン(THF)抽出、水洗後、溶媒を除去した。更に、アセトニトリル/メタノールで加熱・還流した後、結晶を濾取、乾燥することにより、例示化合物A−3を3.2g得た(収率35%)。
【0039】
実施例2(参考例)
《例示化合物A−3の合成》
【0040】
【化8】

【0041】
窒素雰囲気下、Pd(dba)22.1g、化合物E1.7g、エチレングリコールジメチルエーテル40mlを混合し、約40℃で20分攪拌した。この混合液に、ジクロロビピリジン27g、m−トルイジン13g、ナトリウム−t−ブトキサイド30g及びエチレングリコールジメチルエーテル350mlを混合し、4時間加熱・還流した。不溶分を除去後、THF抽出、水洗を行った。次に、溶媒を減圧溜去後、酢酸エチル60mlに溶解し、ヘキサン130mlを徐々に加えた。析出した結晶を濾取、乾燥し、例示化合物1−3を30g得た(収率95%)。
【0042】
例示化合物1−3を26g、硫酸104ml、臭素10.3mlを混合し、60〜65℃で30時間加熱・還流した。過剰の臭素を除去後、水800ml、THF400mlを加え、炭酸ナトリウム220gを徐々に加えて中和した。THF抽出後、減圧蒸溜によりTHFを除去した。メタノール/THF混合液に溶解し、フラッシュカラムを行った後、溶媒を除去した。アセトニトリル/メタノールで加熱・還流した後、結晶を濾取、乾燥することにより、例示化合物A−3を25g得た(収率74%)。
【0043】
実施例3(参考例)
《例示化合物A−3の合成》
【0044】
【化9】

【0045】
例示化合物1−3を1.0g、硫酸1.0ml、水4.1m及び硫酸銀1.4gを混合し、この混合物に、臭素0.27mlを5分で加え2時間攪拌した。THF30ml、水15mlを投入し、40%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9とした。不溶分を除去後、濾液をTHF抽出、水洗した。溶媒を除去し、アセトニトリル/メタノールで加熱・還流した後、結晶を濾取、乾燥することにより、例示化合物A−3を0.65g得た(収率48%)。
【0046】
実施例4(参考例)
【0047】
【化10】

【0048】
例示化合物1−3を1.0g、硫酸2.0ml、水2.1mを混合し、氷水冷下、この混合物に臭素酸ナトリウム0.61gを15分で加え6時間攪拌した。THF15ml、水15mlを投入し、炭酸ナトリウムでpH8〜9とした。不溶分を除去後、濾液をTHF抽出、水洗した。溶媒を除去し、アセトニトリル/メタノールで加熱・還流した後、結晶を濾取、乾燥することにより、例示化合物A−3を0.57g得た(収率47%)。
【0049】
実施例5(比較例)
《例示化合物4−3の合成》
【0050】
【化11】

【0051】
窒素雰囲気下、化合物E1.0g、化合物F2.3g、化合物G0.24g、Pd(dba)20.28g、ナトリウム−t−ブトキサイド2.4g及びエチレングリコールジメチルエーテル100mlを混合し、8時間加熱・還流した。減圧で溶媒溜去後、CH2Cl2(メチレンクロライド)で抽出、水洗した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。CH2Cl2溜去後、カラム精製(SiO2、CH2Cl2/MeOH)し、例示化合物4−3を1.0g得た(収率41%)。
【0052】
実施例6(本発明)
《例示化合物4−3の合成》
【0053】
【化12】

【0054】
窒素雰囲気下、例示化合物A−3を4.0g、Bis(pinacolato)diboron1.8g、炭酸カリウム4.9g、DMSO(ジメチルスルホキシド)80mlを混合した。10分後、この混合液にPdCl2dppf0.39gを加え、80〜90℃で4時間加熱・攪拌した。水140mlを加え析出した固体を濾取、乾燥した。更に、カラム精製(SiO2、CH2Cl2/MeOH)し、例示化合物4−3を2.1g得た(収率69%)。
【0055】
実施例中の各化合物の同定は、MASS及びNMRスペクトルで行い、それぞれ、目的化合物であることを確認した。その他の例示化合物も上記の方法に準じて合成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[3]で表される化合物とパラジウム錯体及びボロン酸誘導体を用いることを特徴とする下記一般式[4]で表される含窒素多環複素環化合物の製造方法。

〔式中、R1は置換基を表し、n1は0〜4の整数を表す。Z4及びZ5は各々、芳香族炭化水素環又は含窒素芳香族複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。Z3は単なる結合手又は2価の連結基を表す。Xはハロゲン原子を表す。〕


【公開番号】特開2012−184231(P2012−184231A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89012(P2012−89012)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【分割の表示】特願2006−250700(P2006−250700)の分割
【原出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】