説明

含酸素ハロゲン化フッ化物の製造方法

【課題】 本発明の課題は、含酸素ハロゲン化フッ化物の製造において、効率的、連続的に含酸素ハロゲン化フッ化物を製造できる方法を提供することである。
【解決手段】 含酸素ハロゲン化フッ化物の製造において気液反応を用いる製造方法であり、フッ化ハロゲンとフッ素とを含有する混合ガスと、HO源を反応させることを特徴とする、一般式:XOF(但し、Xは前記フッ化ハロゲンを構成するハロゲン元素(Cl、Br、またはI)を、mは3または4をそれぞれ表す。)で表される含酸素ハロゲン化フッ化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含酸素ハロゲン化フッ化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含酸素ハロゲン化フッ化物は、例えば、モノフルオロメチル化剤として、医薬品として有用な生理活性物質である1−フルオロ-1、1−ビス(アリールスルホニル)メタンの製造に用いられている(特許文献1)。
【0003】
従来、含酸素ハロゲン化フッ化物を製造する方法としては、例えば、KClOとFとの反応(例えば、非特許文献1)や、KClOとHSOFとの反応(例えば、非特許文献2)によりClOFを製造する方法などが知られている。
【0004】
これら含酸素ハロゲン化フッ化物の製造方法は主に固気反応である。固気反応に用いるFガスやフッ化物ガスは非常に活性な物質なので、反応進行に伴い温度が上昇する。そして、この温度上昇が進展していくと、最終的には、爆発的な反応の発生や固体原料の分解等が生じることがある。また、CoFやKNiFなどの固体フッ化剤を用いて、一酸化炭素や有機化合物のフッ素化を行う場合も、同様に温度上昇が起こる。したがって、固気反応を用いる従来の製造方法では温度上昇を抑制する必要があり、効率的、連続的に目的の含酸素ハロゲン化フッ化物を製造することは困難である。
一方、含酸素ハロゲン化フッ化物の製造方法において、気液反応を用いた例は報告されていない。
【特許文献1】特開2007−230961号公報
【非特許文献1】Journal of Inorganic and Nuclear Chemistry,Volume 2, Issues5−6,July 1956, Pages 348−357
【非特許文献2】Journal of Fluorine Chemistry, Volume 11, Issues 3−4,March−April 1978, Pages 225−241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、含酸素ハロゲン化フッ化物の製造において、効率的、連続的に含酸素ハロゲン化フッ化物を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、含酸素ハロゲン化フッ化物の製造において気液反応を用いることができることを見出し、本発明に到ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、フッ化ハロゲンとフッ素とを含有する混合ガスと、HO源を反応させることを特徴とする、一般式:XOFで表される含酸素ハロゲン化フッ化物の製造方法を提供するものである。
但し、Xは前記フッ化ハロゲンを構成するハロゲン元素(Cl、Br、またはI)を、mは3または4をそれぞれ表す。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、効率的、連続的に一般式:XOFで表される含酸素ハロゲン化フッ化物(但し、XはCl、Br、またはIを、mは3または4をそれぞれ表す。) の製造を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0010】
本発明において、気体原料として使用されるフッ化ハロゲンの具体例としては、ClF、IF、IF、IF、ClF、BrF、BrF、BrF等が挙げられる。
【0011】
本発明に使用されるHO源は、水、または、HF水溶液、KF水溶液、KOH水溶液、NaOH水溶液、KCO水溶液、NaF水溶液、Al(OH)懸濁水溶液など、pH=1〜13の水溶液を用いることができる。
【0012】
混合ガス中のフッ化ハロゲンとフッ素の量は、特に限定されないが、体積基準で同等量、もしくはフッ素がフッ化ハロゲンに対し過剰であることが収率の点で好ましい。
【0013】
また、液体原料の使用温度については特に限定されない。
【0014】
フッ化ハロゲンとフッ素を含有する気体原料とHO源を含有する液体原料を気液反応させることで、一般式:XOF(但し、Xは前記フッ化ハロゲンを構成するハロゲン元素(Cl、Br、またはI)を、mは3または4をそれぞれ表す。)で表される含酸素ハロゲン化フッ化物を、得ることができる。本発明で得られる一般式:XOFで表される含酸素ハロゲン化フッ化物の具体例として、ClOF、ClOF、BrOF、IOF等が挙げられる。上記の気体原料と液体原料を気液反応させる為の接触方法としては、向流接触または並流接触を用いることができる。その中でも、気液の接触効率を考えると、向流接触の方が好ましい。さらに、上記の気体原料と液体原料を気液反応させるときの反応温度は、液体原料が液体の状態で気体原料と接触できる温度であれば問題ない。
【0015】
また、本発明に使用される装置は、気体原料と液体原料が本発明の気液反応させる為の反応槽に供給でき、反応槽内で気体原料と液体原料が接触し反応槽内のガスを取り出せる構造であればよく、液体原料を循環させる機構を具備する反応槽が使用できる。反応槽の材質は、ステンレス鋼、Ni鋼、鉄鋼、モネル、インコネル、アルミ等が好ましい。
【0016】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1に、本発明を用いた例の概略系統図を示す。反応槽7は、充填材を充填した充填塔9と、導入される原料ガスと反応させる原料液10と、原料液10を溜めるのに十分な容量を持ち内壁をポリテトラフルオロエチレンでライニングを施した液釜12と、液釜12内の原料液10を充填材の上方に液送する液送ポンプ8を備えており、充填塔9下部より導入される原料ガスは、充填塔9内で原料液10と向流接触し、反応槽7上部より放出される。
【0018】
希釈ガス(N)ボンベ1、Fガスボンベ2、ClFガスボンベ3から、マスフローコントローラー(MFC)4、5、6にて、所定のガス組成となる様にそれぞれ流量を制御し、反応槽7に導入し、原料液10と向流接触させる。その後、反応槽7から放出されるガスを空容器11に捕集する。空容器11に捕集されたガスをフーリエ変換赤外分光光度計(FT‐IR(大塚電子社製 IG‐1000))で分析し、ClOFの濃度を測定する。
[実施例1]
長さ650mm、内径25mmのSUS316製の管の内壁に、厚さ0.1mmのポリテトラフルオロエチレンのライニングを施した充填塔9に充填材として4φのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製ラシヒリングを充填し、原料液10として4質量%−フッ化水素水溶液(pH=1)を用いた反応槽7に、ガス組成をMFCでClF:F:N=2 vol%:2vol%:96 vo%に調整した混合ガスを0.274l/min(空塔線速度 9.31×10−3m/sec)、反応温度24℃で導入した。その後、反応槽7から放出されるガスを空容器11に捕集した。
【0019】
空容器11に捕集したガス中のClOF濃度をFT‐IR(大塚電子社製(IG−1000)で分析した。その結果、ClOF濃度は2753ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は13.8%であった。
[実施例2]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=4.4vol%:5.5vol%:90.1vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0020】
その結果、ClOF濃度は3380ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は7.68%であった。
[実施例3]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=4.4vol%:7.8vol%:87.8vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0021】
その結果、ClOF濃度は3496ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は7.95%であった。
[実施例4]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=24.8vol%:11.2vol%:64vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7からを通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0022】
その結果、ClOF濃度は8186ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は3.3%であった。
[実施例5]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=2vol%:3vol%:95vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0023】
その結果、ClOF濃度は3065ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は15.3%であった。
[実施例6]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=2vol%:2vol%:96vol%に調整した混合ガスを、1.096l/min(空塔線速度3.72×10−2m/sec)で導入する以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0024】
その結果、ClOF濃度は2350ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は11.8%であった。
[実施例7]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=10vol%:10vol%:80vol%に調整した混合ガスを、1.096l/min(空塔線速度 3.72×10−2m/sec)で導入する以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0025】
その結果、ClOF濃度は7962ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は7.96%であった。
[実施例8]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=6.9 vol%:6.9vol%:86.2vol%に調整した混合ガスを、1.096l/min(空塔線速度 3.72×10−2m/sec)で導入する以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0026】
その結果、ClOF濃度は7051ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は10.2%であった。
[実施例9]
原料液10として5質量%−水酸化アルミニウム懸濁水溶液(pH=7)を用い、混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=4.3 vol%:2.0 vol%:93.7vol%に調整した混合ガスを用い、反応温度が40℃であること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0027】
その結果、ClOF濃度は2626ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は6.1%であった。
[実施例10]
原料液10として水(pH=7)を用い、混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=2.7 vol%:12.9vol%:84.4vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0028】
その結果、ClOF濃度は13709ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は50.8%であった。
[実施例11]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=5.6 vol%:12.9 vol%:81.5 vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例10と同条件で行った。実施例10と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0029】
その結果、ClOF濃度は21508ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は30.4%であった。
[実施例12]
原料液10として40質量%−水酸化カリウム水溶液(pH=13)を用い、混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=2.7vol%:12.9vol%:84.4vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0030】
その結果、ClOF濃度は8514ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は31.5%であった。
[実施例13]
原料液10として10質量%−炭酸カリウム水溶液(pH=10)を用い、混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=2.7vol%:12.9vol%:84.4vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0031】
その結果、ClOF濃度は9624ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は35.6%であった。
[実施例14]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=4.4vol%:7.8vol%:87.8vol%に調整した混合ガスを用い、反応温度が40℃であること以外は、実施例1と同条件で行った。実施例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0032】
その結果、ClOF濃度は3536ppmであり、ClOFが生成していることを確認できた。また、Clベースにおける収率は8.03%であった。
[比較例1]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=0vol%:12.9vol%:87.1 vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、実施例10と同条件で行った。実施例10と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0033】
その結果、ClOFは確認されなかった。
[比較例2]
原料液10として4質量%‐フッ化水素水溶液(pH=1)を用いる以外は、比較例1と同条件で行った。比較例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0034】
その結果、ClOFは確認されなかった。
[比較例3]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=12.9vol%:0vol%:87.1vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、比較例2と同条件で行った。比較例2と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0035】
その結果、ClOFは確認されなかった。
[比較例4]
混合ガスとして、ガス組成をMFCでClF:F:N=12.9vol%:0vol%:87.1vol%に調整した混合ガスを用いること以外は、比較例1と同条件で行った。比較例1と同様、反応槽7を通過後に捕集したガス中のClOF濃度をFT−IR(大塚電子社製 IG−1000)で分析した。
【0036】
その結果、ClOFは確認されなかった。
上記の測定結果を表1に記載した。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明で得られた含酸素ハロゲン化フッ化物は、例えば選択的なフッ素化剤としてモノメチルフッ素化、エステルの選択的なフッ素化、ケトンのフッ素化に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を用いた例の概略系統図である。
【符号の説明】
【0040】
1 :希釈ガス(N) ボンベ
2 :Fガスボンベ
3 :ClFガスボンベ
4 :希釈ガス用マスフローコントローラー
5 :F用マスフローコントローラー
6 :ClF用マスフローコントローラー
7 :反応槽
8 :液送ポンプ
9 :充填塔
10 :原料液
11 :空容器
12 :液釜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ハロゲンとフッ素とを含有する混合ガスと、HO源を反応させることを特徴とする、一般式:XOFで表される含酸素ハロゲン化フッ化物の製造方法。
但し、Xは前記フッ化ハロゲンを構成するハロゲン元素(Cl、Br、またはI)を、mは3または4をそれぞれ表す。


【図1】
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【公開番号】特開2009−215101(P2009−215101A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59739(P2008−59739)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)