説明

含酸素環状化合物及びその製造方法

【課題】医・農薬、電子材料等の機能性化学品として有用な含酸素環状化合物を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】芳香族性化合物と4−オキソカルボン酸を触媒存在下で反応させ、2,5−位に同一又は相異なる置換基を有するフラン類、4−位に置換基を有する5員環ラクトン類及び/又は3−位に置換基を有する2−シクロペンテノン類を製造する。触媒としては、ゼオライト等の固体酸触媒を使用でき、ゼオライトとしてはベータ型等が好ましい。また、マイクロ波照射を用いることにより、より効率的に反応を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含酸素環状化合物の効率的製造方法と新規な含酸素環状化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
フラン、ラクトン等の基本骨格を有する含酸素環状化合物は、医・農薬や電子材料等の分野で利用される機能性化学品である。たとえば、アリール基を置換基として有するフラン等の含酸素環状化合物には抗菌性、殺虫性、抗ガン性等、さまざまな生理活性作用が知られており、医・農薬等において利用価値が高い(非特許文献1−3)。
そのような含酸素環状化合物のうち、2−位及び5−位に同一又は相異なる置換基を有するフラン類の従来の製造法としては、ポリリン酸やp−トルエンスルホン酸等の酸触媒存在下で1,4−位にアリール基を有する1,4−ジケトン類の環化反応を行うKnorr法(非特許文献1、4、5)、パラジウム触媒存在下で2,5−ジスタニルフランとハロゲン化アリールとのクロスカップリング(Stilleカップリング反応)を行う方法(非特許文献2)、パラジウム触媒存在下で2−アリール−5−ブロモフランとアリールボロン酸とのクロスカップリング(鈴木−宮浦カップリング反応)を行う方法(非特許文献3)、パラジウム触媒及びトリエチルアミン存在下で1−位及び4−位に同一又は相異なるアリール基を有する2−ブチン−1−オンを異性化させる方法(非特許文献6)、レニウム触媒存在下でα−ブロモアセトフェノン類をα−メトキシスチレン類と反応させる方法(非特許文献7)、パラジウム触媒存在下で2,5−ジブロモフランとアリールグリニャール試薬(ヘテロアリールグリニャール試薬)とのクロスカップリングを行う方法(非特許文献8)、パラジウム触媒及び酢酸カリウム存在下で2−アリールフランを臭化アリールと反応させる方法(非特許文献9)、パラジウム触媒存在下で1,4−位にアリール基を有する2−ブテン−1,4−ジオン(又は2−ブチン−1,4−ジオン)をギ酸、硫酸と反応させて還元・環化反応を行う方法(非特許文献10)、ルテニウム触媒存在下でアリールアセチレンをメタノールと反応させて得られる1,4−ジアリール−1−メトキシ−1,3−ジエンをp−トルエンスルホン酸、塩化第二銅及び水で処理して加水分解・環化を行う方法(非特許文献11)等が知られていた。また、Si/Al比=15.9(シリカ/アルミナ比=8.0)のH−Y型ゼオライト触媒存在下で、アニソールと2−メチルコハク酸無水物を反応させ、2,5−ジアリールフラン類の2,5−ビス(4−メトキシフェニル)−3−メチルフランが少量副生することが知られていた(非特許文献12)。
一方、4−位に置換基を有する5員環ラクトン類及び/又は3−位に置換基を有する2−シクロペンテノン類については、芳香族化合物とレブリン酸を、トリフルオロメタンスルホン酸または五酸化ニリン/トリフルオロメタンスルホン酸混合物存在下で反応させる方法が報告されていた(非特許文献13)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J.Med.Chem.,44,3838(2001)
【非特許文献2】Eur.J.Med.Chem.,41,756(2006)
【非特許文献3】Tetrahedron Lett.45,7157(2004)
【非特許文献4】Synthesis,593(1984)
【非特許文献5】J.Org.Chem.,60,301(1995)
【非特許文献6】J.Org.Chem.,66,6014(2001)
【非特許文献7】Bull.Chem.Soc.Jpn.,71,475(1998)
【非特許文献8】Tetrahedron,41,1919(1985)
【非特許文献9】J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,2247(1997)
【非特許文献10】J.Org.Chem.,68,5392(2003)
【非特許文献11】Angew.Chem.Int.Ed.,48,1681(2009)
【非特許文献12】Acta Chem.Scand.,51,1229(1997)
【非特許文献13】Synth.Commun.,32,3169(2002)
【0004】
しかしながら、上記の方法では、(1)アリール基を有する1,4−ジケトン類、2,5−ジスタニルフラン、アリールボロン酸、アリール基を有する2−ブチン−1−オン、2,5−ジブロモフラン、2−アリールフラン、2−ブテン−1,4−ジオン、2−ブチン−1,4−ジオン、アリールアセチレン等の原料化合物が高価である、及び/又は、入手・合成が容易でない(非特許文献1−6、8−11)、(2)触媒としてパラジウム、レニウム、ルテニウムのような高価な貴金属が必要である(非特許文献2、3、6−11)、(3)毒性・安全性の面で問題があるスズ化合物、ホウ素化合物、又は臭素化合物を使用するとともに、スズ、ホウ素、又は臭素を含む廃棄物が多量に(原料に対して当量)生成する(非特許文献2、3、7)等の問題があり、いずれも工業的に有利な方法とはいえなかった。
一方、2−メチルコハク酸無水物を用いる方法(非特許文献12)は、原料は安価で入手容易であるものの、反応例は2−メチルコハク酸無水物とアニソールを原料としたものだけであること、及び、通常加熱による150℃、24時間の反応における主生成物は収率25%で得られる5員環ラクトンの4,4−ビス(4−メトキシフェニル)−2−メチル−4−ブテノリドであり、少量副生成物として得られる2,5−ビス(4−メトキシフェニル)−3−メチルフランの収率は4%にすぎないことから、工業的に十分な製造方法とはいえなかった。
さらに、2−位及び5−位に同一又は相異なる置換基を有するフラン類を製造できる方法は上記の方法の一部であり(非特許文献1、3−7、9、10)、他の方法(非特許文献2、8、11、12)では、同一の置換基を有するものしか製造できないという問題点があった。
また、4−位に置換基を有する5員環ラクトン類及び/又は3−位に置換基を有する2−シクロペンテノン類を、トリフルオロメタンスルホン酸または五酸化ニリン/トリフルオロメタンスルホン酸混合物存在下で反応させる方法(非特許文献13)では、トリフルオロメタンスルホン酸または五酸化ニリン/トリフルオロメタンスルホン酸混合物が液体であるため、それらと生成物との分離・回収が容易でなく、また、それらの酸性物質を溶媒量使用するため、大量の酸性廃棄物が生じるという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、入手容易な原料化合物を用いて効率よく環化反応を進行させることにより、2,5−位に同一又は相異なる置換基を有するフラン類、4−位に置換基を有する5員環ラクトン類及び/又は3−位に置換基を有する2−シクロペンテノン類を効率よく製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)安価で入手容易な芳香族性化合物と、比較的入手容易な4−オキソカルボン酸類を用いた反応が、酸触媒存在下でスムーズに進行し、2,5−位に同一又は相異なる置換基を有するフラン類、4−位に置換基を有する5員環ラクトン類及び/又は3−位に置換基を有する2−シクロペンテノン類が収率よく得られる、及び、(2)マイクロ波照射により反応がより効率的に進行する、という新規な事実を見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉下記一般式(I)
H (I)
(式中、Rはアリール基又はヘテロアリール基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表される芳香族性化合物と、下記一般式(II)
【化1】

(式中、Rはアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、又はアラルキル基であり、その炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。また、上記式においてカルボキシ基からみて2−位及び3−位の炭素上のそれぞれ2個の水素原子のうちの一つは反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表される4−オキソカルボン酸類を、触媒存在下で反応させ、環化させることにより、下記一般式(III)で表されるフラン類、あるいは、下記一般式(III)で表されるフラン類及び下記一般式(IV)で表される5員環ラクトン類、Rがメチル基である場合にはこれらに加えて更に下記一般式(V)で表される2−シクロペンテノン類を製造する方法。

【化2】

(式中、R及びRは前記と同じ意味である。また、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
〈2〉前記の触媒として、酸触媒を用いることを特徴とする〈1〉に記載の製造方法。〈3〉前記の酸触媒として、固体酸触媒を用いることを特徴とする〈2〉に記載の製造方法。
〈4〉前記の固体酸触媒として、ゼオライト、モンモリロナイト又はヘテロポリ酸を用いることを特徴とする〈3〉に記載の製造方法。
〈5〉前記のゼオライトとして、ベータ型、Y型、モルデナイト型又はZSM−5型のゼオライトを使用することを特徴とする〈4〉に記載の製造方法。
〈6〉前記のゼオライトとして、シリカ/アルミナ比が2〜600のものを使用することを特徴とする〈4〉又は〈5〉に記載の製造方法。
〈7〉反応をマイクロ波照射下で行うことを特徴とする〈1〉、〈2〉、〈3〉、〈4〉、〈5〉、又は〈6〉に記載の製造方法。
〈8〉下記一般式(VI)で表されるフラン類。
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ、4−ヒドロキシフェニル基及びフェニル基、4−クロロフェニル基及び4−メトキシフェニル基、又は、2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル基及びフェニル基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法を用いることにより、環化反応が効率よく進行し、2,5−位に同一又は相異なる置換基を有するフラン類、4−位に置換基を有する5員環ラクトン類及び/又は3−位に置換基を有する2−シクロペンテノン類を、従来の方法に比べより効率的に製造できるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、芳香族性化合物と4−オキソカルボン酸類を触媒存在下で反応させることを特徴とする。
本反応でフランが生成する場合には、1分子の芳香族性化合物(I)と1分子の4−オキソカルボン酸(II)が触媒存在下で反応し、2分子の水の脱離を伴って、1分子のフラン(III)が生成すると考えられる。推定される反応経路を下記に示す。
【化4】

上記式に示すように、フラン類(III)と共に生成する共生成物は水のみであり、本反応系は低環境負荷型のクリーンな反応系である。
一方、5員環ラクトン又は2−シクロペンテノンが生成する場合に推定される反応経路を下記に示す。
【化5】

がアリール基又はヘテロアリール基の場合には、Rの隣のカルボニル基の求電子性がそれほど高くないために、末端のカルボキシ基が芳香族化合物(I)と反応しやすく、フラン(III)が生成しやすいと考えられる。
それに対して、Rがアルキル基又はアラルキル基の場合には、Rの隣のカルボニル基の求電子性が高くなり、芳香族化合物(I)への付加と脱水的環化反応を経て、5員環ラクトン(IV)が生成しやすくなると考えられる。
さらに、Rがメチル基の時には、メチル基の隣のカルボニル基が関与するエノール化も起きる可能性があるために、末端のカルボキシ基が芳香族化合物(I)と反応した場合、メチル基の部分でのエノール化とそれに続く環化反応及び脱水反応により、2−シクロペンテノン(V)が生成すると考えられる。
【0010】
本発明において、原料として使用する芳香族性化合物は、下記一般式(I)
H (I)
(式中、Rはアリール基又はヘテロアリール基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表される芳香族性化合物である。
【0011】
一般式(I)において、Rがアリール基の場合には、環内炭素数が好ましくは6〜22、より好ましくは6〜14である。
したがって、それらのアリール基を有する芳香族性化合物の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ペンタセン等が挙げられる。
【0012】
また、Rがヘテロアリール基の場合には、ヘテロ原子は硫黄原子、酸素原子、窒素原子等であり、環内炭素数が好ましくは4〜12、より好ましくは4〜8である。
したがって、それらのヘテロアリール基を有する芳香族性化合物の具体例としては、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、N−メチルピロール等が挙げられる。
【0013】
さらに、上記Rはその環上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていてもよく、それらの基の具体例としては、メチル基、イソプロピル基、ヘキシル基等のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基のようなアルコキシ基の他に、環上の2つの炭素原子を結合させる2価の基であるオキシエチレン基やオキシエチレンオキシ基等を挙げることができる。
したがって、それらの基を有する芳香族性化合物の具体例としては、トルエン、アニソール、エトキシベンゼン(フェネトール)、ブトキシベンゼン、ヘキシルオキシベンゼン、2−メチルアニソール、2,6−ジメチルアニソール、1,2−ジメトキシベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、1,3−ベンゾジオキソール、1,4−ベンゾジオキサン、2−又は3−メチルチオフェン、2−又は3−メチルフラン等が挙げられる。
【0014】
一方、上記芳香族性化合物と反応させる4−オキソカルボン酸類は、下記一般式(II)
【化1】

(式中、Rはアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、又はアラルキル基であり、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表される4−オキソカルボン酸である。
一般式(II)において、R2がアリール基の場合には、環内炭素数が好ましくは6〜22、より好ましくは6〜14であり、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。それらのアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、ブロモフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、メトキシフェニル基等を挙げることができる。
したがって、それらのアリール基を有する4−オキソカルボン酸の具体例としては、4−フェニル−4−オキソブタン酸、4−ナフチル−4−オキソブタン酸、4−(4−トリル)−4−オキソブタン酸、4−(4−ブロモフェニル)−4−オキソブタン酸、4−(4−クロロフェニル)−4−オキソブタン酸、4−(4−フルオロフェニル)−4−オキソブタン酸、4−(4−メトキシフェニル)−4−オキソブタン酸等が挙げられる。
また、R2がヘテロアリール基の場合には、ヘテロ原子は硫黄原子、酸素原子、窒素原子等であり、環内炭素数が好ましくは4〜12、より好ましくは4〜8であり、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。それらのヘテロアリール基の具体例としては、チエニル基、ベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、N−メチルピロリル基等を挙げることができる。
したがって、それらのヘテロアリール基を有する4−オキソカルボン酸の具体例としては、4−(2−チエニル)−4−オキソブタン酸、4−(2−フリル)−4−オキソブタン酸、4−(2−N−メチルピロリル)−4−オキソブタン酸等が挙げられる。
【0015】
さらに、R2がアルキル基の場合には、炭素数が好ましくは1〜12、より好ましくは1〜10であり、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。それらのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、クロロプロピル基、sec−ブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
したがって、それらのアルキル基を有する4−オキソカルボン酸の具体例としては、4−オキソペンタン酸(レブリン酸)、4−オキソヘキサン酸、7−クロロ−4−オキソヘプタン酸等が挙げられる。
一方、R2がアラルキル基の場合には、環内炭素数が好ましくは7〜23、より好ましくは7〜16であり、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。それらのアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、4−クロロフェニルメチル基、フェネチル基、1−(4−メトキシフェニル)エチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基等を挙げることができる。
したがって、それらのアラルキル基を有する4−オキソカルボン酸の具体例としては、5−フェニル−4−オキソペンタン酸、6−フェニル−4−オキソヘキサン酸、5−(4−クロロフェニル)−4−オキソペンタン酸等が挙げられる。
【0016】
また、一般式(II)においては、2−位及び3−位の炭素上のそれぞれ2個の水素原子のうちの一つが反応に関与しない基で置換されていてもよく、それらの基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、デシル基等のようなアルキル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ドデセニル基のようなアルケニル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ヘキシルオキシ基のようなアルコキシ基の他に、2つの炭素原子を結合させる2価の基であるテトラメチレン基等を挙げることができる。
したがって、それらの基を有する4−オキソカルボン酸の具体例としては、2−メチル−4−オキソブタン酸、2,3−ジメチル−4−オキソブタン酸等が挙げられる。
【0017】
4−オキソカルボン酸(II)に対する芳香族性化合物(I)のモル比は任意に選ぶことができるが、4−オキソカルボン酸に対するフラン類の収率を考慮すれば、通常0.5以上300以下であり、好ましくは1以上200以下であり、より好ましくは2以上150以下である。
【0018】
上記の芳香族性化合物(I)と4−オキソカルボン酸(II)との反応で、下記一般式(III)で表されるフラン類、あるいは、下記一般式(III)で表されるフラン類及び下記一般式(IV)で表される5員環ラクトン類を製造することができ、Rがメチル基の場合はこれらに加えて更に下記一般式(V)で表される2−シクロペンテノン類を製造することができる。
【化2】

(式中、R及びRは前記と同じ意味である。また、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)

及びRの具体例としては、前記に示したもの等を挙げることができ、それらの基を有するフラン類(III)の具体例としては、2−(4−メトキシフェニル)−5−フェニルフラン、2−(4−エトキシフェニル)−5−フェニルフラン、2,5−ビス(4−メトキシフェニル)フラン、2−(4−クロロフェニル)−5−(4−メトキシフェニル)フラン、2−(4−ブロモフェニル)−5−(4−メトキシフェニル)フラン、2−(4−メトキシフェニル)−5−(4−トリル)フラン、2−(4−メトキシ−3−メチルフェニル)−2−フェニルフラン、2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)−5−フェニルフラン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−5−フェニルフラン、2−フェニル−5−(2−チエニル)フラン、2−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−5−フェニルフラン、2−(4−メトキシフェニル)−5−メチルフラン、2−ベンジル−5−(4−メトキシフェニル)フラン等が挙げられる。
また、5員環ラクトン類(IV)の具体例としては、4−(4−メトキシフェニル)−4−メチル−4−ブタノリド、4−(4−エトキシフェニル)−4−メチル−4−ブタノリド、4−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)−4−メチル−4−ブタノリド、4−エチル−4−(4−メトキシフェニル)−4−ブタノリド等が挙げられ、2−シクロペンテノン類の具体例としては、3−(4−メトキシフェニル)−2−シクロペンテノン、3−(4−エトキシフェニル)−2−シクロペンテノン、3−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)−2−シクロペンテノン等が挙げられる。
反応で得られるこれらの生成物の種類は、原料の種類、触媒の種類、反応温度等の反応条件によって制御することができる。たとえば、原料の種類に関しては、4−オキソカルボン酸において、Rがアリール基又はヘテロアリール基の場合、フラン類(III)をほぼ選択的に得ることができる。一方、4−オキソカルボン酸において、Rがアルキル基又はアラルキル基の場合には、5員環ラクトン類(IV)が得られやすくなり、Rがメチル基の場合はこれらに加えて更に2−シクロペンテノン類(V)も生成する。
【0019】
本発明ではフリーデル・クラフツ型の求電子置換反応等で使われる従来公知の各種の触媒を用いることができる。
それらの具体例としては、金属塩、金属酸化物等の無機物、有機物等、各種酸性化合物が挙げられ、無機物の触媒をより具体的に示せば、金属塩(アルミニウム、鉄等の塩化物、臭化物等)や、プロトン性水素原子あるいは金属カチオン(アルミニウム、チタン、ガリウム、鉄、セリウム、スカンジウム等)を有する、ゼオライト、モンモリロナイト、シリカ、ヘテロポリ酸等の無機系固体酸が挙げられる。
また、有機物の触媒をより具体的に示せば、スルホ基を有するナフィオン(Nafion、登録商標、デュポン社より入手可能)、ダウエックス(Dowex、登録商標、ダウ・ケミカル社より入手可能)、アンバーライト(Amberlite、登録商標、ローム&ハス社より入手可能)等の酸性ポリマーや他の有機系固体酸が挙げられる。さらに、シリカ等にナフィオン等の有機系酸性化合物を担持した触媒(たとえば、Nafion SAC−13等)を用いることもできる。
【0020】
触媒として用いられるゼオライトの種類としては、ベータ型、Y型、ZSM−5型、モルデナイト型、SAPO型等の基本骨格を有する各種のゼオライトが使用可能で、この中では、ベータ型、Y型、モルデナイト型及びZSM−5型が好ましく、べータ型がより好ましい。
これらゼオライトにおいては、プロトン性水素原子を有するブレンステッド酸型のものや金属カチオンを有するルイス酸型のものなど、各種のゼオライトを使用できる。この中で、プロトン性水素原子を有するプロトン型のものは、H−ベータ型、H−Y型、H−モルデナイト型、H−ZSM−5型等で表される。また、アンモニウム型のものである、NH−ベータ型、NH−Y型、NH−モルデナイト型、NH−ZSM−5型等のゼオライトを焼成して、プロトン型に変換したものも使用することができる。
さらに、ゼオライトのシリカ/アルミナ比については、反応条件に応じて各種の比を選択できるが、好ましくは2〜600であり、より好ましくは3〜500、さらに好ましくは3〜400である。
【0021】
それらゼオライトとしては、市販品を含む各種のものを使用できる。市販品の具体例を示すと、ベータ型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されている、CP811C、CP814N、CP7119、CP814E、CP7105、CP814CN、CP811TL、CP814T、CP814Q、CP811Q、CP811E−75、CP811E、及びCP811C−300等、東ソー社より市販されているHSZ−930HOA及びHSZ−940HOA等、UOP社より市販されているUOP−Beta等が挙げられる。また、Y型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されている、CBV720、CBV760、CBV780、CBV712、及びCBV600等、東ソー社より市販されているHSZ−360HOA及びHSZ−320HOA等が挙げられる。さらに、モルデナイト型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されているCBV21A及びCBV90A等、東ソー社より市販されている、HSZ−660HOA、HSZ−620HOA、及びHSZ−690HOA等が挙げられ、ZSM−5型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されている、CBV5524G、CBV8020、及びCBV8014N等が挙げられる。
原料に対する触媒量は任意に決めることができるが、重量比では、通常は0.0001〜100程度で、好ましくは0.001〜70程度、さらに好ましくは0.001〜50程度である。
【0022】
また本発明では、反応をマイクロ波照射下で行うことにより、より効率的に反応を進めることができる。本反応系では、共生成物である水や固体酸触媒の誘電損失係数が大きく、それらがマイクロ波を効率よく吸収するため、マイクロ波照射下では触媒表面からの水の脱着や固体酸触媒の活性化が促進され、反応をより効率的に進行させることが可能である。
マイクロ波照射を用いる反応では、接触式又は非接触式の温度センサーを備えた各種の市販装置等が使用可能である。マイクロ波照射の出力、キャビティの種類(マルチモード、シングルモード)、照射の形態(連続的、断続的)等は、反応のスケールや種類等に応じて任意に決めることができる。マイクロ波の周波数としては、通常、0.3〜30GHzである。具体的な周波数帯としては、ISM周波数帯(産業、科学、医療の分野で使用できる電波法での周波数帯)として知られる、2.45GHz帯、5.8GHz帯等を利用できる。
【0023】
マイクロ波照射下での反応では、反応系を効率よく加熱するために、マイクロ波を吸収して発熱する加熱材(サセプター)を反応系に添加することができる。加熱材の種類としては、活性炭、黒鉛、炭化ケイ素、炭化チタン等、従来公知の各種のものを使用できる。
また、先に記載した触媒と加熱材の粉末を混合し、セピオライト、ホルマイト等の適当なバインダーを利用して焼成加工した成形触媒を用いることもできる。
【0024】
本発明の反応は、反応温度や反応圧力に応じて、液相又は気相状態で行うことができる。また、反応装置の形態としては、バッチ型、フロー型等、従来知られている各種形態で行うことができる。
反応温度は、20℃以上、好ましくは20〜350℃、より好ましくは、20〜300℃である。さらに、反応圧力は、通常0.1〜100気圧で、好ましくは0.1〜80気圧、より好ましくは0.1〜60気圧である。
反応時間は、反応温度、触媒量、反応装置の形態等に依存するが、1〜300分、好ましくは1〜240分、より好ましくは1〜180分程度である。
【0025】
本反応を液相系で行う場合、溶媒の有無にかかわらず実施できるが、溶媒を用いる場合には、デカリン(デカヒドロナフタレン)、デカン等の炭化水素、クロロベンゼン、1,2−又は1,3−ジクロロベンゼン、2,4−ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2−又は1,3−ジブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジブチルエーテル等のエーテル等、原料と反応するものを除いた各種の溶媒が使用可能で、2種以上混合して用いることもできる。
また、原料の芳香族性化合物よりも反応性の低い芳香族性化合物を溶媒とすることもできる。たとえば、アニソールを原料とする場合には、トルエン、キシレン等を溶媒として使用できる。
一方、本反応を気相で行う場合には、窒素等の不活性ガスを混合して反応を行うこともできる。
【0026】
本発明の方法で生成するフラン類、5員環ラクトン類および2−シクロペンテノン類の精製は、再結晶、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機化学上通常用いられる手段により容易に達せられる。
【0027】
また、本発明の製造方法により、下記一般式(VI)で表される新規なフラン類が提供される。
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ、4−ヒドロキシフェニル基及びフェニル基、4−クロロフェニル基及び4−メトキシフェニル基、又は、2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル基及びフェニル基である。)
これらのヒドロキシ基又はアルコキシ構造を有するフラン誘導体は、制ガン作用を示すフラン類と類似した構造を有し、制ガン剤等としての利用を期待できる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
アニソール(Ia) 2.84mmol、4−フェニル−4−オキソブタン酸(IIa) 0.30mmol、H−ベータ型ゼオライト CP811C(ゼオリスト社製) 50mg、1,2−ジクロロベンゼン 1.0mLの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(Biotage社製 Initiator、シングルモード型)を用いて、攪拌しながら200℃で30分反応させた。生成物をガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフ質量分析計で分析した結果、2−(4−メトキシフェニル)−5−フェニルフラン(IIIa)が84.2%の収率で生成したことがわかった(表1参照)。
【0029】
(実施例2〜62)
反応条件(原料の種類と量、触媒、添加物、溶媒、反応装置、温度、時間等)を変えて、実施例1と同様に反応及び分析を行い、生成物の収率を測定した結果を表1に示す。
【0030】
【表1−1】

【0031】
【表1−2】

【0032】
【表1−3】

【0033】
(実施例63)
アニソール(Ia) 24mmol、4−フェニル−4−オキソブタン酸(IIa) 3.0mmol、H−ベータ型ゼオライト CP811C(ゼオリスト社製) 500mg、トルエン 10mLの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(Biotage社製 Initiator、シングルモード型、2.45GHz)を用いて、攪拌しながら200℃で3時間反応させた。遠心分離器で固体を上澄み液と分離し、トルエン(8mLで2回)およびアセトン(8mLで2回)で固体を洗浄した。上澄み液と洗浄液を合わせて減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/トルエン=5/1)で生成物を精製した結果、2−(4−メトキシフェニル)−5−フェニルフラン(IIIa)が1.54mmol(収率51%)得られた。
【0034】
(実施例64)
アニソール(Ia)の代わりに2,3−ジヒドロベンゾフラン(Ib)を用い、反応時間を2時間とする他は実施例56と同様に反応及び後処理を行った。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/トルエン=3/1)で生成物を精製した結果、2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)−5−フェニルフラン(IIIb)が2.29mmol(収率76%)得られた。
【0035】
(IIIb)は文献未載の化合物であり、そのスペクトルデータ等は下記の通りであった。
Mp:121-123℃.
1H-NMR(CDCl3):δ3.23(t,J=8.6Hz,2H,OCCH2),4.58(t,J=8.6Hz,2H,OCH2),6.54(d,J=3.3Hz,1H,フラン環H),6.69(d,J=3.3Hz,1H,フラン環H),6.81(d,J=8.4Hz,1H,芳香環H),7.20-7.26(m,1H,芳香環H),7.33-7.40(m,2H,芳香環H),7.48-7.53(m,1H,芳香環H),7.57(s,1H,芳香環H),7.68-5.74(m,2H,芳香環H).
13C-NMR(CDCl3):δ29.6,71.4,102.7,123.5,123.9,124.1,127.0,127.5,128.6,130.9,152.4,153.8,159.7.
IR(KBr):ν1489,1244,1116,1023,982,946,780,757,687cm-1.
GC-MS(EI,70eV):m/z(相対強度)262(M+,100),157(13),131(12),115(10),105(14),77(15).
【0036】
(実施例65)
アニソール(Ia)を28mmolとし、4−フェニル−4−オキソブタン酸(IIa)の代わりに4−(4−トリル)−4−オキソブタン酸(IIb)を用い、反応時間を1.5時間とする他は実施例56と同様に反応及び後処理を行った。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/トルエン=4/1)で生成物を精製した結果、2−(4−メトキシフェニル)−5−(4−トリル)フラン(IIIc)が1.76mmol(収率59%)得られた。
【0037】
(実施例66)
アニソール(Ia)を28mmolとし、4−フェニル−4−オキソブタン酸(IIa)の代わりに4−(4−クロロフェニル)−4−オキソブタン酸(IIc)を用い、反応時間を1.5時間とする他は実施例56と同様に反応を行った。上澄み液を分離し、固体を酢酸エチル(20mL)及びアセトン(20mL)で洗浄し、上澄み液と洗浄液を合わせて減圧下で濃縮した。得られた固体生成物を再結晶(トルエン 2mL/ヘキサン 2mL)で精製した結果、2−(4−クロロフェニル)−5−(4−メトキシフェニル)フラン(IIId)が1.82mmol(収率60%)得られた。
【0038】
(IIId)は文献未載の化合物であり、そのスペクトルデータ等は下記の通りであった。
Mp:173-175℃.
1H-NMR(CDCl3):δ3.85(s,3H,OCH3),6.59(d,J=3.3Hz,1H,フラン環H),6.70(d,J=3.0Hz,1H,フラン環H),6.93-6.97(m,2H,ベンゼン環H),7.33-7.37(m,1H,ベンゼン環H),7.63-7.68(m,4H,ベンゼン環H).
13C-NMR(CDCl3):δ55.3,105.7,107.7,114.2,123.7,124.7,125.2,128.9,129.4,132.6,151.6,153.8,159.2.
IR(KBr):ν1497,1479,1297,1254,1177,1094,1029,928,835,789cm-1.
GC-MS(EI,70eV):m/z(相対強度)284(M+,100),269(86),241(20),178(18),142(14),111(12),75(11).
【0039】
(実施例67)
アニソール(Ia)を28mmolとし、4−フェニル−4−オキソブタン酸(IIa)の代わりに4−(4−ブロモフェニル)−4−オキソブタン酸(IId)を用い、反応時間を1.5時間とする他は実施例56と同様に反応を行った。上澄み液を分離し、固体を酢酸エチル(20mLで8回)で洗浄し、上澄み液と洗浄液を合わせて減圧下で濃縮した。得られた生成物を再結晶(トルエン 2mL/ヘキサン 2mL)で精製した結果、2−(4−ブロモフェニル)−5−(4−メトキシフェニル)フラン(IIIe)が1.81mmol(収率60%)得られた。
【0040】
(実施例68)
アニソール(Ia)の代わりにフェノール(Ic)を用い、反応時間を3時間とする他は実施例56と同様に反応及び後処理を行った。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で生成物を精製した結果、2−(4−ヒドロキシフェニル)−5−フェニルフラン(IIIf)が1.80mmol(収率60%)得られた。
【0041】
(IIIf)は文献未載の化合物であり、そのスペクトルデータ等は下記の通りであった。
Mp:122-124℃.
1H-NMR(CDCl3):δ5.09(s,1H,OH),6.58(d,J=3.5Hz,1H,フラン環H),6.70(d,J=3.5Hz,1H,フラン環H),6.83-6.88(m,2H,ベンゼン環H),7.22-7.27(m,1H,ベンゼン環H),7.36-7.42(m,2H,ベンゼン環H),7.60-7.64(m,2H,ベンゼン環H),7.68-7.73(m,2H,ベンゼン環H).
13C-NMR(CDCl3):δ105.6,107.2,115.7,123.5,123.8,125.4,127.1,128.7,130.9,152.7,153.3,155.0.
IR(KBr):ν3324,1601,1498,1448,1247,1108,1023,927,829,793,757,691cm-1.
GC-MS(EI,70eV):m/z(相対強度)236(M+,100),207(16),131(21),118(14),115(12),105(15),77(24).
【0042】
(実施例69)
アニソール(Ia)の代わりにチオフェン(Id)を用い、反応時間を1.5時間とする他は実施例56と同様に反応及び後処理を行った。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン)で生成物を精製した結果、2−フェニル−5−(2−チエニル)フラン(IIIg)が1.14mmol(収率38%)得られた。
【0043】
(実施例70)
アニソール(Ia) 27.6mmol、レブリン酸(IIe) 3.0mmol、H−ベータ型ゼオライト CP811C(ゼオリスト社製) 500mg、1,2−ジクロロベンゼン 10mLの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(Biotage社製 Initiator、シングルモード型、2.45GHz)を用いて、攪拌しながら200℃で3時間反応させた。遠心分離器で固体を上澄み液と分離し、トルエン(8mLで2回)およびアセトン(8mLで3回)で固体を洗浄した。同じ反応と後処理を繰り返して行い、得られた上澄み液と洗浄液をすべて合わせて減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=19/1〜3/1)で生成物を精製した結果、2−(4−メトキシフェニル)−5−メチルフラン(IIIh)が0.29mmol(収率4.8%)、4−(4−メトキシフェニル)−4−メチル−4−ブタノリド(IVa)が2.60mmol(収率43.3%)、3−(4−メトキシフェニル)−2−シクロペンテノン(Va)が0.34mmol(収率5.6%)得られた。
【0044】
上記の実施例8及び実施例1では、200℃の温度で、それぞれ10分及び30分の反応を行い、(IIIa)を63.4%及び84.2%の収率で得ているが、マイクロ波照射装置の代わりにオイルバス加熱装置を用いた場合の(IIIa)の収率はそれぞれ39.4%及び80.0%であった(それぞれ実施例9及び実施例10)。
この結果は、本発明の反応では、マイクロ波照射を行わない通常加熱法でも、反応時間等の反応条件を制御することにより(IIIa)を良好な収率で得ることができることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の方法により、機能性化学品として有用なフラン類、5員環ラクトン類および2−シクロペンテノン類を安価で入手容易な原料を使用して効率的かつ安全に製造できるため、本発明の利用価値は高く、その工業的意義は多大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
H (I)
(式中、Rはアリール基又はヘテロアリール基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表される芳香族性化合物と、下記一般式(II)
【化1】

(式中、Rはアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、又はアラルキル基であり、その炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。また、上記式においてカルボキシ基からみて2−位及び3−位の炭素上のそれぞれ2個の水素原子のうちの一つは反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
で表される4−オキソカルボン酸類を、触媒存在下で反応させ、環化させることにより、下記一般式(III)で表されるフラン類、あるいは、下記一般式(III)で表されるフラン類及び下記一般式(IV)で表される5員環ラクトン類、Rがメチル基である場合はこれらに加えて更に下記一般式(V)で表される2−シクロペンテノン類を製造する方法。
【化2】

(式中、R及びRは前記と同じ意味である。また、炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていても差し支えない。)
【請求項2】
前記の触媒として、酸触媒を用いることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記の酸触媒として、固体酸触媒を用いることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記の固体酸触媒として、ゼオライト、モンモリロナイト又はヘテロポリ酸を用いることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記のゼオライトとして、ベータ型、Y型、モルデナイト型又はZSM−5型のゼオライトを使用することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記のゼオライトとして、シリカ/アルミナ比が2〜600のものを使用することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
反応をマイクロ波照射下で行うことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、又は請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(VI)で表されるフラン類。
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ、4−ヒドロキシフェニル基及びフェニル基、4−クロロフェニル基及び4−メトキシフェニル基、又は、2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル基及びフェニル基である。)

【公開番号】特開2011−201847(P2011−201847A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8899(P2011−8899)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】