説明

吸入用抗生物質微粒子

本発明は、抗生物質およびステアリン酸マグネシウムからなる微粒子を含む吸入用粉末製剤に関する。本発明はまた、前記微粒子を調製する方法、およびある種の肺疾患に関連する細菌感染症の治療における前記微粒子の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗生物質およびステアリン酸マグネシウムからなる微粒子を含む吸入用製剤に関する。
【0002】
本発明はまた、前記微粒子を調製する方法、およびある種の肺疾患に関連する細菌性気管支内感染症の治療における前記微粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
CF、ムコボイドーシス(mucovoidosis)またはムコビシドーシス(mucoviscidosis)としても知られている嚢胞性線維症は、致死的な遺伝障害である。
【0004】
嚢胞性線維症は、専門的には奇病であると考えられているが、最も蔓延している寿命短縮性遺伝疾患の1つに位置づけられており、世界中で6万人超の人々がこれを発症している。
【0005】
嚢胞性線維症は、外分泌腺の上皮膜を通る塩素イオンの輸送障害と関係しており、その分泌物の含水量減少を引き起こす。気管支腺の拡張および肥大という形態変化に続いて、粘液性閉塞が起こる。気道内の前記粘着性の粘液により細菌のコロニー形成が引き起こされ、その結果呼吸器が感染し、組織損傷の進行の原因となる。
【0006】
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は最初の病原菌であり、初期段階(chidhood)において気道にコロニー形成する。肺病が進行するにつれて、病原菌緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)によるコロニー形成が次いで起こるであろう。
【0007】
緑膿菌による間欠的なコロニー形成期間の後、コロニー形成は大部分のCF患者において慢性化し、事実上根絶不可能となる。
【0008】
なかでも、アミノグリコシド系に属する抗生物質、特にトブラマイシンが、非経口経路によって現在まだ利用されている。
【0009】
前記抗生物質は、肺の変質を抑制し、肺機能を改善することによって、CF進行を食い止める。
【0010】
しかしながら、アミノグリコシドは、気管支内分泌物(痰)に浸透しにくいので、感染部位で有効濃度に達するには多くの静脈内投与量(intravenous dose)を必要とする。これらの高用量により患者は、腎毒性および耳毒性作用のリスクを伴うことになる。
【0011】
エアロゾル化経路によれば、前記抗生物質は、化学的に安定なままでありながら肺上皮表面全体に吸収されにくいので、これらの問題は、エアロゾル化により肺に薬物を投与することによって克服することができよう。
【0012】
特に、さまざまなタイプの噴霧器によりトブラマイシン[(2S,3R,4S,5S,6R)−4−アミノ−2−{[(1S,2S,3R,4S,6R)−4,6−ジアミノ−3−{[(2R,3R,5S,6R)−3−アミノ−6−(アミノメチル)−5−ヒドロキシオキサン−2−イル]オキシ}−2−ヒドロキシシクロヘキシル]オキシ}−6−(ヒドロキシメチル)オキサン−3,5−ジオール]を投与する水性製剤が、TOBI(登録商標)(Novartis Pharm Corp)およびBRAMITOB(登録商標)(Chiesi Farmaceutici SpA)の商標で現在販売されている。
【0013】
しかしながら、患者は病院または家庭用送達装置を必要とするので、噴霧は患者のコンプライアンス(compliace)を完全には満足させない。
【0014】
また、多くの報告により、CF患者が使用する噴霧器の細菌汚染が示されており、噴霧器の定期的な洗浄および消毒が必要とされている。噴霧器のもう1つの欠点には、効率が低いことがある。
【0015】
乾燥粉末吸入器(DPI)として知られている適切な装置は、より容易でより速い薬物投与を可能にすると思われるので、これらの装置によって投与される粉末製剤は、噴霧用トブラマイシン製剤の適切な代替物とみなすことができる。
【0016】
特に、カプセル型乾燥粉末吸入器は、高治療用量であるので、適切な装置とみなすべきである。
【0017】
有効なトブラマイシン乾燥粉末製剤を提供するために解決すべき問題のいくつかは、前記種類の製剤を製造するにあたって通常直面する問題である。すなわち、トブラマイシン乾燥粉末製剤は、使用前の装置において、適切な流動性、適正な化学的および物理的安定性を示し、十分な吸入可能率(respirable fraction)を生じると同時に、正確な治療活性用量の活性成分を送達するべきである。
【0018】
特に、高用量、したがって各カプセル中への粉末の多量(15mg以上)装てんのために、製剤は、吸入器の作動時のカプセルの効率的な空洞化、したがって再現性のある放出用量が可能となる適切な流動特性を示すことが必要とされる。
【0019】
また、トブラマイシンは、吸湿性であることがよく知られている。
【0020】
湿気は、化学的安定性だけでなく流動性にも影響を及ぼしうるので、保管後には、水分吸収だけでなく残留水分量も低減することに特別な注意を払うべきである。
【0021】
現在のところ販売されている製品がまだないので、DPI用トブラマイシン製剤を作製するためのこれらの課題は、解決が容易でないと思われる。
【0022】
WO03/053411およびWO2006/066367は、リン脂質を含むトブラマイシン製剤を開示している。しかしながら、それらの使用は、物理化学的安定性に関する懸念をもたらす。
【0023】
より最近では、Parlatiら(Pharm Res 2009, 26(5), 1084-1092)が、噴霧乾燥によって調製したステアリン酸ナトリウムを含有するトブラマイシン粉末についてのデータを提示した。
【0024】
しかしながら、DPI投与に適した、トブラマイシンなどのアミノグリコシド系に属する抗生物質を含む粉末の必要性が依然として存在する。
【0025】
特に、溶媒を使用せずに、残留水分が粉末の化学的安定性および/または流動性に影響を及ぼしうるのでとりわけ水性溶媒を使用せずに、製造が容易な製剤を提供することも非常に有利(advantagoeus)であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
先行技術の問題および欠点は、本発明の製剤によって解決される。
発明の概要
本発明は、肺内投与用の乾燥粉末製剤であって、90%w/w以上の量のアミノグリコシド系に属する抗生物質の粒子、および該薬物粒子全表面の少なくとも50%を被覆する、10%w/w以下の量のステアリン酸マグネシウムからなるメカノフュージョン処理した(mechano−fused)微粒子、ならびに任意選択で生理的に許容可能で薬理不活性な担体を含む、乾燥粉末製剤を提供する。
【0027】
好ましくは、抗生物質はトブラマイシンである。
【0028】
別の態様において、本発明は、メカノフュージョン処理した微粒子に関する。
【0029】
本発明はまた、本発明の乾燥粉末製剤を詰めた乾燥粉末吸入器とともに使用するためのカプセルを提供する。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、メカノフュージョンによって本発明の微粒子を調製するための方法を提供する。
【0031】
さらなる態様において、本発明は、90%w/w以上の量のアミノグリコシド系に属する抗生物質の粒子、および該薬物粒子全表面の少なくとも50%を被覆する、10%w/w以下の量のステアリン酸マグネシウムからなる、メカノフュージョンによって得られる微粒子を提供する。
【0032】
本発明はまた、肺疾患に関連する気管支内細菌感染症の治療に使用するための、本発明のメカノフュージョン処理した微粒子を対象とする。
【0033】
本発明はさらに、肺疾患に関連する気管支内細菌感染症を治療するための医薬品の製造における、本発明のメカノフュージョン処理した微粒子の使用を対象とする。
【0034】
なお別の態様において、本発明は、肺疾患に関連する気管支内細菌感染症を治療するための、本発明のメカノフュージョン処理した微粒子を対象とする。
【0035】
なお一層さらなる態様において、本発明は、患者において肺疾患に関連する気管支内細菌感染症を治療するための方法であって、治療有効量の、本発明のメカノフュージョン処理した微粒子を投与することを含む方法を提供する。
定義
用語「活性薬物」、「活性成分」、「活性物」および「活性物質」、「活性化合物」ならびに「治療剤」は、同義で使用する。
【0036】
乾燥粉末吸入器は、2つの基本タイプに分類することができる:
i)活性化合物の小分け単回用量を投与するための、単回用量吸入器。各単回用量は、通例1つのカプセル中に詰められている。
ii)より長期の治療サイクルに十分な量の有効成分が予め装てんされた、複数回用量の乾燥粉末吸入器。
【0037】
用語「被覆する」は、滑沢剤のステアリン酸マグネシウムが活性粒子の周囲にフィルムを形成することを意味する。
【0038】
ステアリン酸マグネシウム(magnesum stearate)の量が、全活性成分粒子の全表面周囲にフィルムを形成するのに十分でない場合、コーティングは部分的に過ぎない。
【0039】
用語「実質的に純粋な」は、化学的純度が90%w/wを超える、好ましくは93%w/w以上である活性成分を意味する。
【0040】
一般論として、粒子の粒径は、体積直径として知られている、特徴的な球相当径をレーザー回折により測定することによって定量化する。
【0041】
粒径はまた、当業者によく知られている適切な計器を用いて、質量直径を測定することによって定量化することができる。
【0042】
体積直径(VD)は、粒子の密度(粒子のサイズ非依存性密度を仮定する)によって、質量直径(MD)に関連付けられる。
【0043】
用語「メカノフュージョン処理した」は、乾燥プロセスによって第1の材料が第2の材料上に機械的に融合される、2つの異なる材料から構成される微粒子を指す。
【0044】
粒径は体積直径によって表され、粒径分布は以下によって表される:i)それぞれ重量または体積で、粒子の50パーセントの直径に相当する体積中位径(VMD)、ならびにii)粒子のそれぞれ10%および90%のミクロン単位で体積直径(VD)。
【0045】
用語「凝集した」は、本明細書において2つの異なる意味で使用する。
【0046】
用語「凝集微粒子」は、互いに接着している複数の微粒子からなる粒子を指す。たとえば、1.5ミクロンの[d(v,0.5)]の凝集微粒子は、一緒に接着した、それぞれの直径がより小さい数多くの微粒子からなりうる。
【0047】
反対に、用語「緩凝集微粒子」は、容易に崩壊して個々の微粒子となりうる、軟質凝集物の形態の粒子を指す。
【0048】
用語「適切な流動特性」は、製造プロセス中の扱いが容易で、治療有効用量の正確で再現性のある送達を保証することができる製剤を指す。語句「正確な治療活性用量の活性成分」は、作動の際、平均放出用量が名目上の用量の60%以上であり、好ましくは65%を超える、一層より好ましくは70%を超える製剤を指す。
【0049】
語句「化学的に安定な」は、保管中に、「Stability Testing of Existing Active Substances and Related Finished Products」を参照するEMEA Guideline CPMP/QWP/122/02の要件を満たす製剤を指す。
【0050】
語句「物理的に安定な」は、使用前および保管中に、装置内においてその物理的状態が変化しない製剤を指す。
【0051】
語句「吸入可能率」は、患者の肺の奥深くに到達すると思われる活性粒子の百分率指数を指す。
【0052】
微細粒子率(FPF)とも称する吸入可能率は、通常はMultistage Cascade ImpactorまたはMulti Stage Liquid Impinger(MLSI)である、適切なインビトロ装置を使用して、一般の薬局方に報告された手順に従って評価する。しかしながら、例に報告したようなTwin Stage ApparatusまたはSprayTec計器などの他の装置も、有利に使用することができる。
【0053】
吸入可能率は、約5ミクロン未満の直径の粒子に相当する呼吸可能用量と送達(放出)用量との比によって計算する。
【0054】
30%より有意に高い吸入可能率(FPF)は、良好なエアロゾル性能の指標である。
【0055】
用語「治療有効量」は、本明細書に記載したように、乾燥粉末製剤によって肺に送達したときに望ましい生物学的効果をもたらす、アミノグリコシド系に属する抗生物質の量を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図は、(a)99%トブラマイシンおよび1%ステアリン酸マグネシウム、(b)95%トブラマイシンおよび5%ステアリン酸マグネシウムからなる、本発明のメカノフュージョン処理した微粒子の、SEMによって撮影した写真である。発明の詳細な説明 本発明は、トブラマイシンなどの、アミノグリコシド系に属する抗生物質の活性粒子を、メカノフュージョンによりステアリン酸マグネシウムでドライコーティングすることは、前記粒子のエアロゾル性能を高めるという知見に部分的に基づく。
【0057】
したがって、第1の態様において、本発明は、90%w/w以上の量のアミノグリコシド系に属する抗生物質の粒子、および10%w/w以下の量のステアリン酸マグネシウムからなるメカノフュージョン処理した微粒子を含む、肺内投与用の乾燥粉末製剤に関する。
【0058】
アミノグリコシド系に属する抗生物質は、トブラマイシン、カナマイシンA、ジベカシン、アミカシンおよびアルベカシンからなる群から有利に選択することができる。
【0059】
本発明の微粒子中の前記アミノグリコシドは、塩基として、または硫酸塩、硝酸塩、塩化物および臭化物などの医薬として許容可能なその塩として使用することができる。
【0060】
好ましい抗生物質は、塩基として好ましくは使用されるトブラマイシンである。塩として使用する場合、好ましいものは、化学量論比2:5のトブラマイシン硫酸塩である。
【0061】
あるいは、硝酸塩などの他のトブラマイシン塩を使用することができる。
【0062】
本発明の微粒子中のステアリン酸マグネシウムは、10%w/w以下の量で存在する。有利には、ステアリン酸マグネシウムは、0.1〜10%の量、より有利には0.5〜5%w/wの量で存在する。
【0063】
一実施形態において、その量はまた、0.5〜2%w/wでもよい。代わりの他の実施形態において、その量は、5〜10%w/wまたは2〜5%w/wでもよい。
【0064】
特に好ましい実施形態において、その量は、0.5〜1.0%w/wに及ぶ。
【0065】
抗生物質の残り部分は、それに応じて計算することができる。
【0066】
本発明の微粒子のために、ステアリン酸マグネシウムが、薬物粒子全表面の少なくとも50%、有利には少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%を被覆することが必要である。
【0067】
コーティングの存在は、走査電子顕微鏡法(SEM)などの視覚法によって、定性的に検出することができる。
【0068】
代わりに、コーティング程度を他の知られている方法に従って決定することができる。たとえば、本発明の微粒子のコーティング程度は、特定元素の他の物質表面上における分布の範囲ならびに均一性を決定するための周知手段である、X線光電子分光法(XPS)によって決定することができる。XPS計器では、ある特定のエネルギーの光子を使用して、試料表面下の原子の電子状態を励起させる。表面から放出された電子は、半球型分析器(HSA)によってエネルギーフィルター処理された後、所定エネルギーの強度が検出器によって記録される。固体原子中の内殻電子準位が量子化されるので、得られたエネルギースペクトルは、試料表面の原子の電子構造に特徴的な共鳴ピークを示す。
【0069】
通常は、XPS測定は、15mA放出電流および10kVアノード電位(150W)で動作する、単色Al Kα線(1486.6eV)を使用した、Kratos Analytical(Manchester,UK)から入手可能なAxis−Ultra計器上で行う。絶縁体帯電を補償するために、低エネルギー電子フラッドガンを使用する。検出元素の定量化が得られるサーベイスキャンが、160eVの分析器通過エネルギーおよび1eVのステップサイズで得られる。C1s、O1s、Mg2s、N1sおよびCl2p領域の高分解能スキャンは、40eVの通過エネルギーおよび0.1eVのステップサイズで得られる。調査する区域は、サーベイスキャンではおよそ700μm×300μmであり、高分解能スキャンでは110μmスポット径である。
【0070】
通常は、日常的に行うXPS実験に対して10%の精度を見積もる。
【0071】
あるいは、最初に微粒子の水接触角を測定し、次いで、Colombo Iら、Il Farmaco 1984, 39(10), 328-341の338ページで報告されたCassieおよびBaxterのような文献において知られている式を当てはめることによって、ステアリン酸マグネシウムが抗生物質表面を被覆する程度を決定することができる。
【0072】
水接触角の測定は、Colomboらの332ページを参照して行うことができ、すなわち、圧縮(圧縮粉末ディスク法)によって得られるディスク形態の粉末表面への液滴被覆を想定する液滴法または静滴法を適用することよって行うことができる。Lorentzen Wettre(Sweden)から入手可能な湿潤性試験器が使用可能である。
【0073】
ステアリン酸マグネシウムが抗生物質表面を被覆する程度を測定するのに有利に使用しうる他の手段は、SEMまたはTime−of−Flight Secondary Ion Mass Spectrometry(TOF−SIMS)と対になったIRおよびラマン分光法である。前記手段は当業者に公知であり、それらを使用する操作手順は、彼らの一般知識内にある。
【0074】
球状を有するであろう、噴霧乾燥した微粒子などの解決法によって得た微粒子とは反対に、図より、本発明のメカノフュージョン処理した微粒子の形状が、不規則で球状でないということも理解できる。
【0075】
粒子の形状およびそれらの表面形態などの、本発明の微粒子の特性を定性的に理解するために、走査電子顕微鏡法(SEM)または光学顕微鏡法を使用することができる。
【0076】
得られた円滑で滑らかな表面は、粉末中の粒子間の力(分子間表面力および摩擦力)を減少させると思われるので、したがって、エアロゾル化の際により優れた分散性能を生じさせる。
【0077】
本発明のメカノフュージョン処理した微粒子は、結晶性または非結晶性でよい。しかしながら、微粒子の全重量に対する重量%で表される非結晶性の百分率は、大幅に変動してもよく、50%以上、好ましくは少なくとも70%、一層より好ましくは少なくとも90%でよい。
【0078】
粉末X線回折、または示差走査熱量測定(DSC)もしくは微小熱量測定などの、当業者に公知の他の公知技法を使用して、非結晶性の前記百分率を決定することができる。
【0079】
本発明の微粒子の粒径は、15ミクロン未満である。有利には、粒子の少なくとも90%は、約10ミクロン未満の体積直径を有する。より有利には(aadvantageously)、微粒子の10%以下は、0.1ミクロン未満の体積直径[d(v,0.1)]を有する。好ましくは、粒子の50%以下は、0.6未満の体積直径[d(v,0.5)]を有し、好ましくは、[d(v,0.5)]は、0.7〜2.0ミクロンであり、より好ましくは、0.8〜1.5ミクロンである。
【0080】
粒径法は、知られている方法に従ってレーザー回折によって測定することができうる。
【0081】
本発明のメカノフュージョン処理した微粒子は、非凝集形態微粒子、たとえば個別形態微粒子、または上記範囲の1つである粒径を有する安定凝集微粒子形態で存在してよい。
【0082】
Karl−Fisher法などの知られている方法に従って決定されるように、本発明の微粒子は、たとえば5.0%w/w未満、好ましくは4.8%〜4.5%w/wの非常にわずかな量の残留水分を示す。
【0083】
本発明の微粒子中の残留水分量は、抗生物質それ自体と比較して著しく増加しないことが実際に見出されている。
【0084】
コーティングであり、少なくとも部分的に活性成分粒子の表面であるステアリン酸マグネシウムは、環境の湿気から微粒子を保護することができることも見出されている。
【0085】
上に報告したように、湿気は化学的安定性に影響を与えるだけでなく、流動性にも弊害をもたらしうるので、これはさらなる利点であるとみなすことができる。流動性については、本発明の微粒子はまた、以下の特性を示す:
−0.16〜0.35g/mlの注入密度;
−0.25〜0.60g/mlのタップ密度;
−50%未満、好ましくは46%以下、より好ましくは40%未満のCarr指数。
【0086】
前記技術的特性により、関連製剤は、カプセル型乾燥粉末吸入器による肺内投与に適切なものとなる。
【0087】
前記製剤は、本発明の微粒子のみからなることができるか、または生理的に許容可能で薬理不活性な担体を含むことができる。製造および粉末充てんを容易にする目的で、より効率的で再現性のある活性薬剤送達を可能にし、活性薬剤の取扱適性(たとえば、流動性および稠度(consistency))を改善するために、そのような担体は、患者に送達されている粉末中の活性薬剤濃度を低減することが望まれるときに単に増量剤として働くことができるか、または粉末分散装置内の粉末の分散性を改善するために働くことができる。
【0088】
担体は、動物または植物源の任意の非結晶性もしくは結晶性の生理的に許容可能な不活性物質、またはそれらの組合せから構成されてよい。好ましい材料は結晶糖であり、たとえばグルコースもしくはアラビノースなどの単糖、またはマルトース、サッカロース、デキストロースもしくはラクトースなどの二糖である。マンニトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトールなどの多価アルコールも使用してよい。最も好ましい材料は、α−ラクトース一水和物である。
【0089】
製剤はまた、1種または複数の活性成分、好ましくは、吸入剤により細菌感染症を治療するための別の抗生物質、または香味剤および風味マスキング剤などの、他の適切な添加物(excipient)を含んでよい。
【0090】
本発明の微粒子からなる本発明の製剤は、エアロゾル化に際して、有利には30%超、より有利には35%超、好ましくは40%超、より好ましくは50%超である、優れた吸入可能率を生じさせる。
【0091】
放出用量は、有利には60%を超え、好ましくは70%を超えてよい。
【0092】
いくつかの特定の実施形態において、ステアリン酸マグネシウムの量が0.5〜1.0%であるとき、放出用量および吸入可能率をさらに改善するために、好ましくは、180および710μmの2つの篩間で粉末を振動させることにより本発明の微粒子を緩凝集に供して、緩凝集微粒子を得ることができる。
【0093】
さらなる態様において、本発明は、メカノフュージョンによって本発明の微粒子を調製するための方法を提供する。
【0094】
メカノフュージョンは、滑沢剤の薄層を粒子表面に塗布するために設計された、単純な乾燥機械プロセスである。
【0095】
微細活性粒子およびステアリン酸マグネシウム粒子はメカノフュージョン駆動容器内に供給され、そこで遠心力を受けて容器の内壁に押し付けられる。粉末は、ドラムと要素との高い相対速度により、ドラム壁と曲線状の内部要素との固定した間隔の間で圧縮される。内壁および曲線状の要素は、一緒になって隙間または隙(nip)を形成し、その中に粒子が共に押し付けられる。結果として、粒子は、内部ドラム壁と内部要素(内部ドラム壁よりも大きな曲率を有する)との間に捕捉されるので、非常に大きな剪断力および非常に強い圧縮応力を受ける。
【0096】
該粒子は、疎水性材料の粒子を局所的に加熱および軟化させ、破壊し、変形させ、伸ばし、コア粒子の周囲を取り囲むのに十分なエネルギーで互いに激しく衝突することにより、コーティングを形成する。エネルギーは、凝集物を粉砕するのに一般的に十分であるが、活性成分の粒径は実質的に同じままである。
【0097】
外側容器または内部要素のいずれかが回転して、相対運動を起こし得る。これらの表面間の隙間は比較的狭く、通常は10mm未満であり、好ましくは5mm未満、より好ましくは3mm未満である。この隙間を固定して、結果として、ボールミルなどのいくつかの他の形態のミルよりも圧縮エネルギーの良好な制御が得られる。また、好ましくは、粉砕媒体表面の固着がないため、磨耗および結果として汚染が最小となる。
【0098】
容器表面に形成された任意の固まった材料を粉砕するために、スクレーパーが存在してよい。これは、微細な粘着性の出発物質を使用する際に、特に有利である。局所的な温度は、ドラム容器の壁に組み込まれた加熱/冷却を使用して制御されてよい。粉末は、容器で再び回転されてよい。
【0099】
ホソカワミクロン株式会社(日本)からのNobilta(登録商標)およびNanocular(登録商標)メカノフュージョン処理装置などの装置を好ましくは利用する。どちらの装置も、回転する軸シャフトを備える円筒状容器を備える。Nobilta(登録商標)処理装置では、パドルは、軸シャフト長さにそって延び、容器の壁をおよそ1mm以下超えて延びる。結果として、シャフトが回転するにつれて、ブレードは容器の壁に近づくように連続して移動するので、すべての粉末が一定で激しい運動にあることを保証する。パドルの高回転速度により、粉末は壁に推進され、結果として混合物は、パドル面の非常に強い剪断力、および壁とパドルとの間の圧縮応力を受ける。
【0100】
Nanocular(登録商標)処理装置では、運動は同様であるが、パドル面がないために衝撃がより少なく、壁とプレスヘッドとの間の圧縮応力が強くなる。
【0101】
処理時間は処理装置の種類によるであろうが、バッチのサイズに応じて当業者が適切に調節してよい。いくつかの実施形態において、プロセスは、少なくとも2分間の間、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間行ってよい。本発明のいくつかの実施形態において、処理時間は10〜20分間であってよい。また、回転速度は、メカノフュージョン処理装置の種類および処理するバッチのサイズによるはずである。
【0102】
通常は、10000rpm以下、有利には6000rpm以下、好ましくは1000〜5000rpm、より好ましくは2000〜3000rpmの回転速度を使用することができる。
【0103】
あるいは、回転速度は、rpmではなくm/sで、先端速度と同じスピードに規定してよい。
【0104】
先端速度は、ローターの直径によるであろう。ローターの直径がおよそ9.2cmの場合、有利に使用することができる先端速度は、5m/sを超え、好ましくは10m/sを超え、より好ましくは25m/sを超える。
【0105】
Cyclomix(登録商標)(ホソカワミクロン株式会社)およびHybridiser(Nara)などの、他の類似装置を有利に利用することができる。
【0106】
上記方法によって微粒子を調製する際、微粒子中の抗生物質は、実質的に化学的に純粋なままである。
【0107】
本発明の微粒子中の抗生物質投薬量は、細菌感染症の性質、治療する疾患のタイプおよび患者タイプに応じて、広範囲の制限内で変動しうる。
【0108】
当業者は、各患者にとっての治療有効量を決定することができ、したがってふさわしい投薬量を規定することができる。トブラマイシンを使用するとき、1日1回〜1日3回患者に投与するための、吸入によって嚢胞性線維症に関連する緑膿菌気管支内感染症を治療するための通常の単一単位用量は、20mg〜160mg(遊離塩基として計算して)、好ましくは30〜90mgの範囲内であってよい。
【0109】
DPI装置に応じて、単一単位用量を単一の容器から投与してよく、または好ましくは、単一単位用量を連続投与用カプセルなどの複数の容器に分割してよく、または単一単位用量をDPI装置内に配置された1つを超える容器から投与してよい。したがって、別個に、各カプセルに単一単位用量未満を詰める。
【0110】
たとえば、単一単位用量は、2〜6カプセル、好ましくは3〜5カプセルに分割してよい。
【0111】
トブラマイシンを使用するとき、通常は、各カプセルに遊離塩基として表して12〜40mg、好ましくは15〜30mgを詰める。
【0112】
好ましい実施形態の1つにおいて、吸入可能率を改善するために、各カプセルの粉末装てん量は15mgである。
【0113】
たとえばサイズ3HPMCまたはゼラチンカプセルである、医薬用途の任意のカプセルを利用することができる。
【0114】
本発明の製剤は、嚢胞性線維症(CF)、非CF気管支拡張症、肺炎、慢性閉塞性肺疾患および結核などの肺疾患に関連する、任意の気管支内細菌感染症の治療に使用するための製剤であってよい。好ましくは、本発明の製剤は、緑膿菌などのグラム陰性菌による感染症の治療に使用するための製剤であってよい。
【0115】
特に、本発明の製剤は、緑膿菌がコロニー形成していることが知られている、嚢胞性線維症の患者を治療するために利用することができる。
【0116】
要約すると、本発明の微粒子の利点には、関連製剤が物理的および化学的に安定であり、水分吸収しにくく、高い吸入可能率を生じさせ、治療有効用量の正確で再現性のある送達を保証すると同時に、関連製剤が知られている製剤よりも、より容易かつ経済的に製造できるという事実が挙げられる。
【0117】
以下の例によって本発明を詳細に例示する。

例1−本発明による微粒子の調製
微粒化トブラマイシン、ならびに0.5%、1%、5%および10%w/wのさまざまな量のステアリン酸マグネシウムを、Nanocular(登録商標)駆動容器上でNobilta(登録商標)に供給する。
【0118】
5000rpmの処理回転速度で、およそ40mlのバッチサイズで10および20分間の処理時間、プロセスを行った。
【0119】
得られたメカノフュージョン処理した微粒子を回収し、技術的性能およびエアロゾル性能の特性決定を行った。
【0120】
同様に、アミノグリコシド類に属する、他の抗生物質を有する微粒子を得ることができる。
例2−例1の微粒子の技術的な特性決定
例1で得られた微粒子に対して、次の分析を行った。
【0121】
走査電子顕微鏡法(SEM)−走査型電子顕微鏡(Phenom(商標)、FEI Company,Hillsboro,OR)を使用して、形態特性を調査した。代表的な画像を確保するように、各試料を試料ホルダーに注意深く取り付け、金をスパッタコーティングした。内蔵画像取込みソフトウエアを使用して、SEM顕微鏡写真を撮影した。
【0122】
代表的な写真を、図(a)および1(b)に報告する。
【0123】
本発明の微粒子の粒径および形状は、トブラマイシンそれ自体と比較して実質的に変化しないが、粉末中に存在する緩凝集物はより少ない。
【0124】
密度および流量特性−欧州薬局方により報告された方法によって、両方の密度値を計算した。
【0125】
シリンダーの上の固定高さで、漏斗を通して10ml較正測定シリンダーに試料をゆっくりと注入することによって、注入密度(dv)を測定した。自動タッパー(AUTOTAP(商標)、Quantachrome Instruments,Boynton Beach,FL,USA)を使用して、1250回タップした後、タップ密度(ds)を決定した。タッパーを、260タップ/分のタップ速度で3.18mm垂直移動で操作した。次の式を使用して、注入密度およびタップ密度からCarr指数(CI)を計算した。
【0126】
【数1】

【0127】
レーザー回折による粒径−少量の試料表示ユニット(最大容量150ml)を備えた300RFレンズを使用したレーザー回折(Mastersizer(登録商標)S,Malvern Instruments,Worcestershire,UK)によって、粒径分布を測定した。n−ヘキサン中0.065%のジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩に、粉末を分散させた。測定に先立ち、試料を分散剤中で5分間超音波分解した。
【0128】
密度、Carr指数および粒径(平均+相対標準偏差)についての結果を、表1に報告する。
【0129】
TMCはトブラマイシンであり、MgStはステアリン酸マグネシウムである。
【0130】
【表1】

【0131】
表1は、MgSt含有量が増加したとき、注入密度およびタップ密度の両方が増加したことを示し、これは、トブラマイシンが、より多いMgSt含有量でより完全に表面被覆されたことを意味する。一般に、コーティング後のこのような密度変化は、粉末中の微粒子間の粘着が実質的に低減したことを意味する。
例3−例1の微粒子のエアロゾル性能の特性決定
吸入用セルアタッチメントを備えたレーザー回折(Spraytec,Malvern Instruments,Worcestershire,UK)によって、本発明の微粒子のエアロゾル性能を評価した。各粉末のおよそ30mg(または後の試験では15mg)を、サイズ3HPMCカプセル(Capsugel,Peapack,NJ,USA)に装てんした。エアロゾル化の前に、ステンレス鋼ピンでカプセルの両端に穴を開け、直径約1mmの穴を2つ開けてカプセルから粉末を放出できるようにした。60および90L/分の流量で、1回用量吸入装置(Miat S.p.A.,Milan,Italy)を使用して、各カプセルをエアロゾル化した。室温(20℃、50%RH)で、4つの複製品に対してすべての測定を行った。各測定を4秒を超えて行った。
【0132】
カプセル中と吸入器内との両方に残った粉末の、総量に対する百分率として、装置保持を計算した。吸入装置から放出された粉末の百分率として、5.4μmより小さい薬物粒子の量として、微細粒子画分(FPF)を規定した。
【0133】
粉末を250μmの篩に穏やかに通過させることによって大きな凝集物を取り除いた後に、すべての粉末を試験したことに留意すべきである。平均+RSDについての結果を表2に挙げる(空気流90L/分)。
【0134】
【表2】

【0135】
結果は、未処理の薬物粉末のエアロゾル性能が、FPF(%<5.4μm)およそ30%と比較的劣っていたことを示した。
【0136】
メカノフュージョン後、本発明の微粒子の全バッチは、未処理の薬物粉末と比較して優れた性能を得た。いくらか驚いたことには、より低いMgSt含有量(1%)でメカノフュージョン処理したバッチは、いくつかの場合では高含有MgStバッチよりも優れた、著しく改善した分散挙動を得られたということがわかった。
例4−エアロゾル性能に対する、緩凝集物の影響
MgSt含有量がより少ない(たとえば0.5%〜1%)メカノフュージョン処理した微粒子の放出用量とFPFとの両方をさらに改善するために、180および710μmの2つの篩間で粉末を振動させることによって、緩凝集物を適用した。この篩プロセスに先立ち、粉末を回転させて緩凝集物の形成を促した。緩凝集粉末に対する結果(平均+RSD)を、表3に挙げる。
【0137】
【表3】

【0138】
結果は、この緩凝集物の後、MgSt含有量が低いメカノフュージョン処理した微粒子の放出用量をわずかに改善することができ、FPFのレベルが非常に改善したことを示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺内投与用の乾燥粉末製剤であって、90%w/w以上の量のアミノグリコシド系に属する抗生物質の粒子、および該薬物粒子全表面の少なくとも50%を被覆する、10%w/w以下の量のステアリン酸マグネシウムからなるメカノフュージョン処理した微粒子を含む、乾燥粉末製剤。
【請求項2】
抗生物質が、トブラマイシン、カナマイシンA、ジベカシン、アミカシンおよびアルベカシンからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
抗生物質がトブラマイシンである、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
トブラマイシンの量が90〜99.9%であり、ステアリン酸マグネシウムの量が0.1〜10%w/wである、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
トブラマイシンの量が95〜99%であり、ステアリン酸マグネシウムの量が1〜5%w/wである、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
トブラマイシンの量が99〜99.5%であり、ステアリン酸マグネシウムの量が0.5〜1.0%w/wであってもよい、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
微粒子の残留水分量が5%w/w未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項8】
生理的に許容可能で薬理不活性な担体をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の製剤。
【請求項9】
90%w/w以上の量のアミノグリコシド系に属する抗生物質の粒子、および該薬物粒子全表面の少なくとも50%を被覆する、10%w/w以下の量のステアリン酸マグネシウムからなる、メカノフュージョン処理した微粒子。
【請求項10】
抗生物質がトブラマイシンである、請求項9に記載の微粒子。
【請求項11】
請求項1に記載の乾燥粉末製剤を詰めた乾燥粉末吸入器とともに使用するためのカプセル。
【請求項12】
請求項9に記載の微粒子を調製するための方法であって、
i)抗生物質およびステアリン酸マグネシウム粒子を、メカノフュージョン装置の駆動容器内に供給する(fed)ステップと、
ii)粒子を少なくとも5分間の間処理するステップと、
iii)得られた微粒子を回収するステップと
を含む方法。
【請求項13】
抗生物質がトブラマイシンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
粒子を少なくとも5分間の間処理する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
肺疾患に関連する気管支内細菌感染症の治療に使用するための、請求項9または10に記載の微粒子。
【請求項16】
前記疾患が、嚢胞性線維症(CF)、非CF気管支拡張症、肺炎、慢性閉塞性肺疾患および結核からなる群から選択される、請求項15に記載の微粒子。
【請求項17】
前記疾患が嚢胞性線維症である、請求項16に記載の微粒子。

【公表番号】特表2013−513631(P2013−513631A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543575(P2012−543575)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068109
【国際公開番号】WO2011/073002
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(304037234)シエシー ファルマセウティチィ ソシエタ ペル アチオニ (24)
【Fターム(参考)】