説明

吸入装置用の液体吐出ヘッドおよび吸入装置

【課題】吐出後に液滴同士衝突して液滴が大きくなったり、吐出ヘッドの表面に大量に付着し吐出口を塞いで吐出できなくなったりするのを防ぐ。
【解決手段】複数の液体吐出口10を有する液体吐出ヘッドであって、複数の液体吐出口10と複数のガス噴出口11とを有し、液体吐出口10とガス噴出口11とは交互に配置されている。各液体吐出口10から吐出される液滴の吐出方向と同方向に各ガス噴出口11からガスを噴出することで、液滴同士が衝突するのを抑止し、均一な粒度分布を保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤或いは嗜好品などの液滴を吐出して利用者に吸入させる吸入装置用の液体吐出ヘッド、および吸入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置におけるインクジェットヘッドには、単に液滴を吐出するだけでなく液滴の吐出方向の制御も要求されている。この要求を達成するために、空気流を用いて液滴の方向を制御する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インクを吐出する複数の吐出口の外側にインクの吐出方向と同一方向に空気を噴出する空気噴出口を設けることで、液滴の偏向を阻止して液滴吐出の直進性を高めるインクジェットヘッドが開示されている。また、特許文献2には、インクを吐出する吐出口に重ねるように空気噴出口を設け、液滴を空気と一緒に吐出させることにより液滴のテールを少なくすることで、記録品位を向上させたインクジェットヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02―204049号公報
【特許文献2】特開2007―301935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸入装置などに用いられる液体吐出ヘッドは、インクジェット記録装置に用いられるインクジェットヘッドと比較して吐出液滴数を増加させることが要求される。しかし、吐出液滴数を増加させた液体吐出ヘッドを吸入装置に用いると、次のような問題が発生する。
【0006】
特許文献1に開示されたインクジェットヘッドのように、複数の液体吐出口の外側に空気噴出口を配置する構成では、液滴同士の衝突は防止することができない。その結果、液滴の粒度分布が悪化するおそれがある。また、特許文献2に開示されたインクジェットヘッドのように、液体吐出口と重なるように空気噴出口を設けると、液体吐出口と空気噴出口の間に残液が残って液体吐出口を塞ぎ、吐出できなくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、大量の液滴を吐出した場合でも、液滴衝突や吐出ヘッド表面への液滴付着が少なく、微小且つ均一な粒度分布を持つ液滴群を吐出できる吸入装置用の液体吐出ヘッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の吸入装置用の液体吐出ヘッドは、利用者に吸入させる液体を吐出する複数の液体吐出口と、前記複数の液体吐出口から液体を吐出させるためのエネルギーを発生させる手段と、を有する液体吐出ヘッドであって、互いに隣接する液体吐出口の間に、前記液体吐出口から吐出される液滴の吐出方向と同方向にガスを噴出するためのガス噴出口が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の液体吐出口から吐出された液滴同士の衝突を抑止できる。その結果、吐出液滴数を増加させた際にも、微小な粒径で粒度分布が均一な液滴を吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態による液体吐出ヘッドを示し、(a)は模式斜視図、(b)は模式分解斜視図である。
【図2】図1に示した液体吐出ヘッドの液体吐出部を示し、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図である。
【図3】図1に示した液体吐出ヘッドの吐出口プレートを示す斜視図である。
【図4】実施例1の吐出口の一部を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X線に沿う断面図である。
【図5】実施例1の液体吐出ヘッドを示す平面図である。
【図6】実施例2の液体吐出ヘッドを示す平面図である。
【図7】実施例2の一変形例を示す平面図である。
【図8】実施例3の吐出口の一部を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X線に沿う断面図である。
【図9】実施例3の液体吐出ヘッドを示す平面図である。
【図10】実施例3の一変形例を示す平面図である。
【図11】本発明の液体吐出ヘッドを用いた吸入装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の吸入装置用の液体吐出ヘッドは、液体吐出ヘッドを薬剤のディスペンサと連結した構成とし、吐出する液体としては、インスリン、人成長ホルモン、性腺刺激ホルモンなどの蛋白製剤、ニコチン、または麻酔薬などが挙げられる。
【0012】
図1〜3は、一実施形態による吸入装置用の液体吐出ヘッドを示す。この液体吐出ヘッドは、膜沸騰を液体に対して生じさせるための熱エネルギーを生成する発熱体に対し、垂直な方向に液滴を吐出させるサイドシューター型であり、液体吐出部1と、チップホルダ2と、電気配線テープ3とから構成されている。
【0013】
チップホルダ2は、例えば、樹脂成形により形成され、液体タンク(不図示)から発熱素子基板18の液体供給口12へ液体を導くための接続口を有し、着脱自在の液体タンク(不図示)を保持する機能も一部備えている。
【0014】
図2に示すように、発熱素子基板18は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板に液体流路として長孔状の貫通口からなる液体供給口12およびガス供給口13がSiの結晶方位を利用した異方性エッチンングやレーザー加工などの方法で形成されている。そして、液体供給口12を挟んだ両側に発熱素子14がそれぞれ1列づつ配列され、発熱素子14と、発熱素子14に電力を供給するAu等の不図示の電気配線が成膜技術により形成されている。
【0015】
さらに、電気配線(不図示)に電力を供給するための電極部19が発熱素子14の列の両端側に配置されている。電気配線は、発熱素子基板18に対して液体を吐出するための電気信号を印加するものである。電気配線は、発熱素子基板18の電極部19に対応する電極端子と、本体装置からの電気信号を受け取るための外部接続端子4とを接続している。
【0016】
液体供給口12から供給された液体は、発熱素子14により発生された気泡により、発熱素子14に対向して設けられている液体吐出口10から吐出される。
【0017】
ガスは加圧ポンプ等(不図示)で加圧され、ガス導入口20から液体吐出ヘッド内に導入される。そしてガス供給口13を経て、互に隣接する液体吐出口10の間に配置されたガス噴出口11より噴出される。つまり、互に隣接する液体吐出口10の間に、液体吐出口10から吐出される液滴の吐出方向と同方向にガスを噴出するためのガス噴出口11が配置されている。ここで、「同方向」とは、液滴の吐出方向と厳密な意味で平行な方向に限られず、概ね吐出方向と同じ方向であることを意味する。本実施形態においては、吐出プレート15の面に対して、略垂直となる。
【0018】
液体を吐出するためのエネルギーを発生する手段である発熱素子14が、液体流路に対応してSi基板に配置されている。図3では、発熱素子14、液体流路およびガス流路は2つもしくは3つしか示していないが、実際には、1枚のSi基板上に複数の液体供給口12、ガス供給口13、発熱素子14が配置されている。
【0019】
図3に示すように、発熱素子基板18には、発熱素子14に対応した液体流路を形成するための液体流路壁16およびガス流路を形成するためのガス流路壁17とが樹脂材料でフォトリソグラフィ技術により形成されている。液体流路およびガス流路は、それぞれ液体流路壁16、ガス流路壁17、発熱素子基板18によりかこまれて構成され、液体流路には発熱素子14が配置されている。尚、エネルギー発生素子はヒータのような発熱素子14に限らず、ピエゾ素子のような振動エネルギー発生素子であってもよい。
【実施例1】
【0020】
図4に示すように、実施例1による液体吐出ヘッドは、液体吐出口10とガス噴出口11が交互に配置されている。ガス噴出口11から液滴の吐出方向と同方向にガスを噴出することにより、液滴同士が衝突することを抑止することができる。また、液体供給口12とガス供給口13は、液体吐出口10およびガス噴出口11を間に挟んで交互に配置されている。
【0021】
さらに図5に示すように、液体供給口12から延びている液体流路およびガス供給口13から延びているガス流路の位置をオフセットさせてもよい。すなわち、ある吐出口列のある液体供給口12と隣接した列の隣接した位置には、ガス供給口11がある構成である。このように構成することにより、ガス供給口13の両側に位置する液体吐出口10から吐出された液滴同士の衝突を抑止することができる。また、ガス噴出口11のうち、液体吐出部の最も外側のガス噴出口群から噴出されるガスの気流速度を最大とすることで、液滴同士の衝突を抑制することができる。
【0022】
ガス噴出口11は、液滴吐出終了前後にヘッド表面の残留液の回収口を兼ねてもよい。ガスの圧力源を負圧にすることによりヘッド表面に付着した残液を空気とともに回収し、残留液が液体吐出口10を塞いでしまうのを防止することができる。
【実施例2】
【0023】
実施例1では全ての液体吐出口10およびガス噴出口11が交互に配置されているが、実施例2では図6に示すように、互に隣接するガス噴出口11の間に複数の液体吐出口10を配置する。このように構成することにより、液滴数を多く確保し、且つ液滴同士の衝突にともなう粒度分布悪化を抑止することができる。
【0024】
また、図7に示すように、液体供給口12から延びている液体流路、およびガス供給口13から延びているガス流路の位置をオフセットさせてもよい。このように構成することにより、ガス供給口13の両側に位置する液体吐出口10から吐出された液滴同士の衝突を抑制することができる。
【0025】
隣接するガス噴出口11の間に配置される複数の液体吐出口10の個数は、液滴の許容される粒度分布により決定される。例えば、許容される粒度分布が3±2μmであるとする。この場合、液体吐出口10からは3μmの液滴が安定して吐出されると仮定して、4つの液滴が結合したと仮定しても上記の粒度分布を満たすが、5個以上結合すると許容範囲を超える。つまり、次式を満たすように構成されていることが好ましい。
【0026】
【数1】

ここでnは連続する液体吐出口10の数、φは液体吐出口10から吐出される液滴の粒径、φmaxは許容される粒径の上限値である。
【0027】
また、液体吐出部1のガス噴出口11のうち、液体吐出部1の最も外側のガス噴出口群から噴出されるガスの気流速度を最大とすることで、液滴同士の衝突を抑制することができる。
【0028】
ガス噴出口11から噴出されるガスは、液滴が気化せぬよう液滴が気化した際に生じる気体の含有量を制御されていることが好ましい。つまり液滴が水である場合には、ガスは湿度制御され、液滴の気化により液滴の粒径が小さくならないように構成されていることが好ましい。噴出するガスは、80%以上の湿度を有することが好ましく、90%以上の湿度を有することがより好ましい。
【0029】
ガス噴出口11は、液滴吐出終了前後にヘッド表面の残留液の回収口を兼ねてもよい。ガスの圧力源を負圧にすることによりヘッド表面に付着した残液を空気とともに回収し、残留液が液体吐出口10を塞いでしまうのを防止することができる。
【実施例3】
【0030】
図8に示すように、実施例3は、液体吐出口10を構成する凹部を液体流路に連通させる複数の液体吐出口細孔21を設け、凹部にメニスカスをはり、液体吐出口細孔21が水没し得る形態をとる。このように構成することにより、実施例1と比較してより多くの液滴を生成することができる。
【0031】
本実施例による液体吐出ヘッドの具体的な寸法の例を挙げる。発熱素子14は10μm四方の正方形とし、液体吐出口10の直径は18μm、液体吐出口細孔21の直径は3μmである。液体吐出口細孔21が貫通する部分の厚みは1μmとした。さらに、吐出口プレート5の厚みは5μm、液体流路壁16の高さは5μmとした。
【0032】
また、液体吐出ヘッドは、液体吐出口細孔21の厚みと、液体流路壁の高さとの間に、液体吐出口細孔厚み≦液体流路壁高さ、となる関係を有している。本実施例の液体吐出ヘッドの場合、前述のように、吐出口プレート厚み=5μm、液体流路壁高さ=5μmであり、吐出口プレートの厚み≦液体流路壁高さとなる関係を満足することがわかる。
【0033】
図9に示すように、液体供給口12とガス供給口13は平行に配置され、さらに液体吐出口10およびガス噴出口11を間に挟んで交互に配置されている。
【0034】
液体吐出口細孔21の個数は、液滴の許容される粒度分布により決定される。例えば、許容される粒度分布が3±2μmであるとする。この場合、液体吐出口10からは3μmの液滴が安定して吐出されると仮定して、4つの液滴が結合したと仮定しても上記の粒度分布を満たすが、5個以上結合すると許容範囲を超える。つまり、次式を満たすように構成されていることが好ましい。
【0035】
【数2】

ここでnは2つのガス噴出口の間にある液体吐出口細孔21の数、φは液体吐出細孔部21の径、φmaxは許容される粒径の上限値である。
【0036】
図10に示すように、液体供給口12から延びている液体流路およびガス供給口13から延びているガス流路の位置をオフセットさせてもよい。このように構成することにより、ガス供給口13の両側方に位置する吐出口から吐出された液滴同士の衝突を抑止することができる。また、ガス噴出口11のうち、液体吐出部1の最も外側のガス噴出口から噴出されるガスの気流速度を最大とすることで、液滴同士の衝突を抑止することができる。
【0037】
ガス噴出口11は、液滴吐出終了前後にヘッド表面の残留液の回収口を兼ねてもよい。ガスの圧力源を負圧にすることによりヘッド表面に付着した残留液を空気とともに回収し、残留液が液体吐出口10を塞いでしまうのを防止することができる。
【実施例4】
【0038】
実施例4では本発明の液体吐出ヘッドを用いた吸入装置について示す。インスリン等の薬剤の吸入では、薬剤を液滴としたときの粒径が約3μm程度であれば血中への吸収効率が高く、好適であることが知られている。この好適な粒径から大きく外れた薬剤は血中への吸収効率が低く、無駄な薬剤となる。本発明の液体吐出ヘッドを利用することで、液滴同士の衝突が低減され、無駄な薬剤を減らすことができる。
【0039】
図11に示すように、本体カバー71とフロントカバー72にて薬剤吸入装置の外郭を構成している。ロック解除ボタン61によってロックを解除することで、アクセスカバー72を開けることができ、本体カバー71の内部には、図1の液体吐出ヘッドの装着部分があり、液体吐出ヘッドの装着部分で、液体吐出ヘッドは駆動制御部と電気的に接続することができる。
【0040】
液体吐出ヘッドEには液体タンク9が接続されており、液体タンク9にはインスリン等の薬剤が入っている。薬剤は液体吐出ヘッドEにより液滴としてマウスピース5に繋がる流路内に吐出され、利用者はマウスピース5を通して液滴を吸入することができる。
【0041】
本実施例による薬剤吸入装置の吸入時の動作フローを説明する。利用者は、マウスピース5を咥え、吸入を行いながら、吐出スイッチ62を押す。薬剤吸入器本体に内蔵された加圧ポンプ8、もしくは利用者の吸気により、ガス噴出口11に導かれる。ガス噴出口11は、実施例1〜3で詳細を説明したように、互に隣接する液体吐出口の間に配置されている。ガス噴出口11へ達した空気は、マウスピース5へ繋がる流路へ向かって噴出しはじめる。空気が噴出しはじめた直後に駆動回路部によって液体吐出ヘッドから薬剤が液滴としてマウスピース5へ繋がる流路内に吐出される。利用者は、流路内に吐出された液滴をマウスピース5から吸入する。薬剤の必要量が吐出されると、駆動回路は停止し、利用者に吸入終了を知らせる合図を発信する。利用者は吸入終了の合図を確認し、吸入を終了する。なお、この吸入の動作フローはすべて1〜2秒程度である。
【0042】
以上説明した本実施例の薬剤吸入装置により、液滴合体や吐出ヘッド表面への液滴付着が少なく、微小且つ均一な粒度分布を持つ液滴群を吐出させることができ、利用者は薬剤の無駄が少ない吸入を行うことができる。
【符号の説明】
【0043】
1 液体吐出部
10 液体吐出口
11 ガス噴出口
12 液体供給口
13 ガス供給口
14 発熱素子
15 吐出口プレート
16 液体流路壁
17 ガス流路壁
18 発熱素子基板
19 電極部
21 液体吐出口細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者に吸入させる液体を吐出する複数の液体吐出口と、前記複数の液体吐出口から液体を吐出させるためのエネルギーを発生させる手段と、を有する液体吐出ヘッドであって、
互いに隣接する液体吐出口の間に、前記液体吐出口から吐出される液滴の吐出方向と同方向にガスを噴出するためのガス噴出口が配置されていることを特徴とする吸入装置用の液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液体吐出口と前記ガス噴出口とが交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の吸入装置用の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液体吐出口が、複数の液体吐出口細孔を介して液体流路と連通しており、
前記液体吐出口にメニスカスをはり、前記液体吐出口細孔が水没しうることを特徴とした請求項1または2に記載の吸入装置用の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ガス噴出口はヘッド表面の残留液の回収口を兼ねることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の吸入装置用の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液体を吐出して利用者に吸入させる吸入装置であって、
利用者が吸気とともに吸入する液滴をマウスピースへ導く流路と、
前記流路に前記液滴を吐出するための請求項1ないし4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、を有することを特徴とする吸入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−246669(P2010−246669A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97790(P2009−97790)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)