吸収性物品の表面シート
【課題】エンボス凹部との境界に位置する繊維が並列化した起立性向を有する吸収性物品の表面シートを提供すること。
【解決手段】肌当接面側に、複数の線状のエンボス凹部11と、複数の該エンボス凹部11で区画化された複数の区画領域とを有し、該区画領域が、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維を含む凸部14を有する吸収性物品の表面シートである。区画領域を囲む複数の該エンボス凹部11どうしの交差部が、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状であるか若しくは交差角が鈍角であるか、又は前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部11が線分からなり、かつ隣合う該エンボス凹部11どうしが交差していない。
【解決手段】肌当接面側に、複数の線状のエンボス凹部11と、複数の該エンボス凹部11で区画化された複数の区画領域とを有し、該区画領域が、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維を含む凸部14を有する吸収性物品の表面シートである。区画領域を囲む複数の該エンボス凹部11どうしの交差部が、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状であるか若しくは交差角が鈍角であるか、又は前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部11が線分からなり、かつ隣合う該エンボス凹部11どうしが交差していない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキン、パンティライナ、失禁パッド及び使い捨ておむつなどの吸収性物品の肌対向面に用いられる表面シートに関する。また本発明は、該表面シートを備えた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品の表面シートにおける肌対向面に多数の凸部を形成して、該表面シートの種々の特性を向上させる試みが行われている。表面シートに凸部を形成するための手段の一つとして、該表面シートの構成繊維として熱の付与によって伸長する繊維、すなわち熱伸長性繊維を用いることが提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1及び2に記載の技術においては、熱伸長性繊維を含むウエブにエンボス加工を施して、閉じた形状の小区画を多数形成し、該小区画内に存在する熱伸長性繊維に熱を付与してこれを伸長・起立させ、該小区画内を隆起させることで、凸部を形成している。閉じた形状の小区画を形成するためのエンボスパターンとしては、例えば斜め格子状のエンボスパターン(特許文献1)や、波状又はジグザグ形状に蛇行しながら一方向に延びる線状のエンボスパターン(特許文献2)などが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−148730号公報
【特許文献2】特開2010−158488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱伸長性繊維を含むウエブにエンボス加工を施した後に、該熱伸長性繊維を伸長・起立させることに関して本発明者らが検討を重ねたところ、エンボス加工のパターンによっては、図11に示すように、伸長によって熱伸長性繊維が起立する方向が交差してしまい、該熱伸長性繊維の起立阻害が生じることが判明した。この起立阻害は、立体性の高い凸部の形成や、圧縮に対する凸部の安定性の点からマイナスに作用する傾向にある。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術よりも各種の性能が向上した吸収性物品の表面シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、肌当接面側に、複数の線状のエンボス凹部と、複数の該エンボス凹部で区画化された複数の区画領域とを有し、該区画領域が、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維を含む凸部を有する吸収性物品の表面シートであって、
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部どうしの交差部が、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状であるか若しくは交差角が鈍角であるか、又は
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部が線分からなり、かつ隣合う該エンボス凹部どうしが交差していない吸収性物品の表面シートを提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の表面シートを備え、該表面シートにおける凸部が着用者の身体に対向するように該表面シートが配置されている吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面シートによれば、エンボス凹部との境界に位置する繊維が並列化した起立性向を有するので、凸部の立体性が高くなり、また装着時の圧縮に対して凸部が潰れ難く、表面シートとしての通液性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の表面シートを備えた吸収性物品の一実施形態としての生理用ナプキンを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す生理用ナプキンにおける表面シートの斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す表面シートの要部を拡大して示す平面図である。
【図4】図4は、図3におけるIII−III線断面図である。
【図5】図5(a)及び(b)は、直線状エンボス凹部及び該直線状エンボス凹部に隣接する繊維並列起立部を、表面シートの肌対向面側から見た走査型顕微鏡像である。
【図6】図6は、図3に示すエンボス凹部の要部を拡大して示す模式図である。
【図7】図7は、表面シートに形成されるエンボス凹部の別の形態を示す平面図(図3相当図)である。
【図8】図8は、表面シートに形成されるエンボス凹部の別の形態を示す平面図(図3相当図)である。
【図9】図9は、表面シートに形成されるエンボス凹部の別の形態を示す平面図(図3相当図)である。
【図10】図10は、表面シートの製造に好適に用いられる装置を示す模式図である。
【図11】図11は、伸長した熱伸長性繊維を含む従来の表面シートを肌対向面側から見た走査型顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の表面シートを備えた生理用ナプキン100を示す斜視図である。ナプキン100は、その着用時に着用者の肌に近い側に位置する面である肌対向面としての表面シート10を備えている。表面シート10は液透過性を有している。またナプキン100は、その着用時に着用者の肌から遠い側に位置する面である非肌対向面としての裏面シート(図示せず)を備えている。裏面シートの外面には、ナプキン100を着用者のショーツに固定するための粘着剤が施されていてもよい。裏面シートは、液不透過性であるか又は液難透過性である。また裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。表面シート10と裏面シートとの間には、液保持性の吸収体(図示せず)が配置されている。
【0012】
ナプキン100は、実質的に縦長の形状を有しており、長手方向の中央域において、左右側方に延出する一対のウイング部101を有している。ウイング部101は、表面シート10及び/又は裏面シートの延出部分から構成されているか、又は表面シート10及び裏面シートとは別材料のシートから構成されている。ウイング部101の裏面には粘着剤が施されていてもよい。
【0013】
ナプキン100はその左右の側部に一対の防漏カフ102を有している。防漏カフ102は、ナプキン100の長手方向に延びている。防漏カフ102は長手方向に延びる一側縁が自由縁になっているとともに、他側縁が固定縁になっている。自由縁には、弾性糸等の弾性体が伸長状態で固定されていてもよい。固定縁は、ナプキンの肌対向面に固定されている。防漏カフ102は、固定縁から自由縁に向けて起立することで、排泄された液が横漏れすることを阻止する堰としての働きを有する。防漏カフ102は、先に述べたウイング部101を構成するシートの一部から形成されていてもよく、あるいは該シートとは別材料のシートから構成されていてもよい。
【0014】
上述の裏面シート、吸収体、ウイング部101及び防漏カフ102を構成する材料としては、当該技術分野においてこれまで用いられてきた材料と同様のものを特に制限なく用いることができる。表面シート10の詳細については後述する。
【0015】
ナプキン100には、その肌対向面に、表面シート10及び吸収体を圧密化して形成された防漏溝103が形成されている。防漏溝103は、その長手方向がナプキン100の長手方向と一致した縦長の閉じた形状をしている。防漏溝103は、ナプキン100の装着時に該ナプキン100の変形の起点となる可撓軸としての働きを有するとともに、排泄された液をナプキン100の長手方向に導く働きも有する。
【0016】
図2は、ナプキン100における表面シート10を示す斜視図である。表面シート10は、同図に示すように、単層構造の不織布からなり、構成繊維が熱融着により一体化された直線状の凹部12を菱形格子状に有している。各線は、連続線及び断続線(破線)のいずれであっても良いが、円形などの点が間欠的に形成されたエンボス形状は含まない。間欠的にとは、点状のエンボスの隣合う間隔が5mm以上離れていることをいう。
【0017】
表面シート10は、図3に示すように、直線状のエンボス凹部11として、互いに平行にかつ所定の間隔で形成された複数本の第1線状のエンボス凹部11aと、互いに平行にかつ所定の間隔で形成された複数本の第2線状のエンボス凹部11bとを有している。その結果、エンボス凹部11は、複数の菱形形状の連続体から構成されている。第1線状のエンボス凹部1aと第2線状のエンボス凹部11bとは、角度A1及び角度A2をなして互いに交差している。第1線状のエンボス凹部11aの幅と第2線状のエンボス凹部11bの幅は同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。第1線状のエンボス凹部11aどうし間の間隔と第2線状のエンボス凹部11bどうし間の間隔も、同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0018】
表面シート10はナプキン100に組み込まれたときに着用者の肌側に向けられる面(肌当接面)側に、熱エンボス加工によって形成された凹部12を有しており、該凹部12内に前述した直線状のエンボス凹部11を有している。直線状のエンボス凹部11は、菱形格子状に形成されているので、表面シート10には、該直線状のエンボス凹部11によって区画化された複数の区画領域13,13・・が形成されている。個々の区画領域13は、それぞれ周囲を線状のエンボス凹部11に囲まれた領域であり、平面視菱形形状である。各区画領域13の中央部は、該区画領域13を囲む凹部12に対して相対的に隆起して凸部14となっている。つまり凸部14は、不織布をエンボス加工して形成されたエンボス凹部11によって囲繞されている。表面シート11は、該表面シート11における凸部14が着用者の身体に対向するようにナプキン100に配置されている。
【0019】
表面シート10は、その構成繊維として、伸長した状態の熱伸長性繊維を含んでいる。熱伸長性繊維は、熱融着性繊維であることが好ましい。熱伸長性繊維としての熱融着性繊維は、熱融着成分と該熱融着成分より融点の高い高融点成分よりなる複合繊維であることが好ましい。より好ましくは、熱融着成分を鞘とし、高融点成分を芯とする芯鞘型複合繊維が用いられる。熱融着成分及び高融点成分は熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱融着成分としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、又はこれらのランダム若しくはブロック共重合体等が挙げられる。高融点成分としては、例えば、ポリエチレンテレフテレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン−6やナイロン−66などのポリアミド等が挙げられる。熱融着成分と高融点成分の好ましい組み合わせとしては、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリプロピレン、低融点のポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリブチレンテレフタレート等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。芯鞘型複合繊維は、同芯タイプの他、偏芯タイプのもの、更には繊維の全周の一部に芯成分が露出しているもの等であっても良い。
【0020】
熱融着性繊維は、後述する繊維並列起立部の形成性や凹凸形状の形成性の点から、熱伸長性複合繊維であることが好ましい。熱伸長性複合繊維は、高融点樹脂からなる第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点より低い融点を有する低融点樹脂からなる第2樹脂成分とを含み、該第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在しているものであることが好ましい。熱伸長性複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる繊維であり、好ましくは90℃以上、更に好ましくは110℃〜130℃の熱の付与で伸長する繊維である。表面シート11の製造時に、熱伸長性複合繊維を伸長させることによって、起伏の大きい凹凸を表面シートに形成し得るとともに、後述する繊維並列起立部を容易に生じさせることができる。したがって、表面シート10として完成した後においては、その多くが伸長した状態となっている。場合によっては、追加の熱の付与によって更に伸長可能なこともある。以下の説明において、熱伸長性複合繊維というときには、文脈に応じて伸長前の熱伸長性複合繊維を意味する場合と、伸長した状態の熱伸長性複合繊維を意味する場合とがある。
【0021】
熱伸長性複合繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸びたり、あるいは捲縮加工が施された繊維であって捲縮が解除されて見かけの長さが伸びる繊維が挙げられる。熱伸長性複合繊維としては、熱融着成分の軟化点より10℃高く、更に融点より10℃低い温度での伸長率が5〜40、特に10〜30%であることが、繊維並列起立部や凹凸形状を顕著に形成させる点から好ましい。熱伸長性複合繊維の好ましい例は、特開2005−350836号公報の段落〔0024〕〜〔0040〕に記載されている。
【0022】
前記の熱伸長性複合繊維の伸長率は、次の方法で測定される。セイコーインスツルメンツ(株)製の熱機械的分析装置TMA/SS6000を用いる。試料としては、繊維長さが10mm以上の繊維を繊維長さ10mmあたりの合計重量が0.5mgとなるように複数本採取したものを用意し、その複数本の繊維を平行に並べた後、チャック間距離10mmで装着し、測定開始温度を25℃とし、0.73mN/dtexの一定荷重を負荷した状態で5℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸び量を測定し、第2樹脂成分の融点より10℃高い温度、融点を持たない樹脂の場合は軟化点より10℃高い温度での伸び量Xmmを読み取る。そして(X/10)×100[%]から伸長率を算出する。
【0023】
熱融着成分と高融点成分からなる複合繊維、特に熱伸長性複合繊維の割合は、表面シート10の構成繊維中、40〜100質量%であることが好ましく、更に好ましくは70〜100質量%、一層好ましくは95〜100質量%である。これらの複合繊維の以外に配合する繊維としては、熱可塑性樹脂からなる繊維(非複合繊維)等が挙げられる。
【0024】
表面シート10においては、図4並びに図5(a)及び(b)に示すように、凹部12は、線状のエンボス凹部11で形成され、該線状のエンボス凹部11の際(きわ)に隣接する非エンボス領域である凸部14にある繊維15は、該際においてエンボスの線方向Pと交差する方向Qに概ね揃って、肌当接面側に向けて起立して配向されている。より具体的に説明すると、表面シート10は、線状のエンボス凹部11の近傍に、構成繊維(より具体的には熱伸長性複合繊維)が、該線状のエンボス凹部11から離れる方向(肌当接面側)に向けて並列して立ち上がる繊維並列起立部16を有している。繊維並列起立部16は、第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bそれぞれに隣接して形成されている。各繊維並列起立部16の繊維15は、図5(a)に示すように、長手方向の一端15aが、熱融着性成分の溶融により線状のエンボス凹部11に固定されており、長手方向の他端側は、表面シート10の平面視において、第1又は第2線状のエンボス凹部11a,11bが延びる方向Pと交差する方向、より具体的には、該方向Pに略直交する方向(Q方向)に向かって延びている。
【0025】
繊維並列起立部16を形成する繊維15は、図5(a)及び(b)に示すように、表面シート10の平面視において前記P方向に並列にした状態に配されており、また図4に示すように、線状のエンボス凹部11から立ち上がるように配されている。立ち上がる方向は、吸収性物品の表面シートとして用いたときに、肌当接面側、すなわち着用者の肌に近づく方向である。このように、凸部14は、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維15を含むものである。
【0026】
表面シート10における繊維15の起立性及び配向性を高め、凸部14の立体感を一層高める観点から、エンボス凹部11a,11bが交差する交差部に隣接する凸部14において、肌当接面側に向けて起立した繊維15の配向度は、表面シート10の厚み方向において1.0以上であることが好ましく、1.1〜1.6であることがより好ましい。繊維の配向度はKANAKA社製のMicrowave molecular orientation analyzer MOA-2001Aを用いて測定する。その装置を用い、サンプルの3点の平均値をもって配向度とする。
【0027】
本発明者らの検討の結果、繊維並列起立部16を首尾よく形成するためには、各凸部14を囲繞するエンボス凹部11が、熱伸長性複合繊維の伸長に起因して該熱伸長性繊維が起立するときに、該起立を妨げない形状をしていることが望ましい。この観点から本発明者らが更に詳細に検討したところ、第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bの交差する角度が大きく影響することが判明した。詳細には、先に述べたとおり、第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bの交差する角度はA1及びA2であるところ、角度A1及びA2が直角又は鋭角である場合、すなわち90度以下である場合には、熱伸長性複合繊維の伸長・起立時に、起立した繊維どうしの交差が起こりやすくなり(図11参照)、その結果、起立した繊維が互いに起立を阻害し合うことが判明した。一方、角度A1及びA2が鈍角である場合には、起立した繊維どうしの交差が起こりにくいので、起立した繊維が互いに起立を阻害し合うことが起こりづらい。その結果、繊維並列起立部16が首尾よく形成される。
【0028】
以上の観点から、図3に示すようにエンボス凹部11が、複数の直線が格子状に配置された形状をしている場合には、直線どうしの交差部の交差角が鈍角になっていることが好ましい。
【0029】
ところで、図3に示す表面シート10においては、平面視菱形をなす凸部14の内角のうち、一方の内角A1は鈍角であり、他方の内角A2は鋭角になっている。したがって内角A1の部位においては、起立した繊維どうしの交差が起こりにくいが、内角A2の部位においては、起立した繊維が互いに起立を阻害し合いやすい。そこで角度が90度以下である内角A2の部位では、図6に示すように、2本のエンボス凹部、すなわち第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bの交差部に、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状の曲線からなる曲線エンボス凹部17を、エンボス凹部11a,11bに沿って形成することが有利である。曲線エンボス凹部17を形成することで、内角を鈍角にした場合と同様の効果が奏されて、起立した繊維どうしの交差が起こりにくくなる。このように、本実施形態においては、両エンボス凹部11a,11bの交差部において、曲線エンボス凹部17が形成されていない交差角が90度以下の部位は存在していない。
【0030】
図3に示す表面シート10に形成された第1及び第2線状のエンボス凹部11a,11bの幅は、該線状のエンボス凹部において繊維を確実に固定するために0.1〜1.5mm、特に0.3〜0.9mmであることが好ましい。第1線状のエンボス凹部11aどうし間の間隔及び第2線状のエンボス凹部11bどうし間の間隔は、後述する繊維並列起立部を形成しやすいように2〜14mm、特に2〜8mmであることが好ましい。これらの幅は、線に対して直交する方向に計測される。これらの幅の値は、後述する図7、図8及び図9に示す実施形態にも同様に適用される。
【0031】
図7には、エンボス凹部11の別の形態が示されている。同図に示すエンボス凹部11は、複数の断続的な直線(線分)が格子状に配置された形状をしている。かつ各断続的な直線はいずれも、隣合う他の断続的な直線と交差していない。つまり、本実施形態のエンボス凹部には交差部が存在しておらず、隣合うエンボス凹部11を仮想的に延長した仮想延長線の交差部は、エンボス凹部11の非存在部18になっている。したがって各凸部14はエンボス凹部11によって完全に囲繞されておらず、各凸部14を囲繞するようにエンボス凹部11とエンボス凹部11の非存在部18とが交互に配置されている状態になっている。本実施形態によれば、交差部が存在していないことに起因して、起立した繊維どうしの交差が一層起こりにくくなっている。
【0032】
図7に示す実施形態においては、直線どうしの交差部が存在していないので、該直線どうしを仮想的に延長した延長線の交差部のなす角度は90度以下であってもよい。もちろん鈍角であってもよい。
【0033】
図8には、エンボス凹部11の更に別の形態が示されている。同図に示すエンボス凹部11は、複数本の直線の組み合わせからなる多角形の形状をしている。詳細には、正六角形の区画領域13が形成されるように複数本の直線が組み合わされている。したがってエンボス凹部11は全体でみたときに亀甲模様をなしている。そして区画領域13を画定する多角形である正六角形の内角はすべて90度超になっている。したがって、起立した繊維どうしの交差が起こりにくく、起立した繊維が互いに起立を阻害し合うことが起こりづらい。
【0034】
図9に示す実施形態は、先に述べた図7に示す実施形態の変形例である。本実施形態では、エンボス凹部11が、複数の直線が格子状に配置された格子状エンボス凹部11cと、直線どうしの交差部に配置された点状エンボス凹部11dとを有している。点状エンボス凹部11dは、格子状エンボス凹部11cの直線の太さよりも直径又は短径の大きな略円形又は略楕円形をしている。図9では、点状エンボス凹部11dの大きさはすべて同じになっているが、異なる大きさの2種以上の点状エンボス凹部11dを用いてもよい。本実施形態においても、区画領域13を囲繞するエンボス凹部11に直線どうしの交差部が存在しないので、起立した繊維どうしの交差が起こりにくい。
【0035】
点状エンボス凹部11dの直径又は短径は、格子状エンボス凹部11cの直線の太さの150〜400%、特に200〜300%であることが、起立した繊維どうしの交差が一層起こりにくくなる点から好ましい。
【0036】
図9に示す実施形態において、点状エンボス凹部11dが略楕円形である場合には、該略楕円形の長軸及び短軸はすべて同じ方向を向いてもよく、あるいはそうでなくてもよい。
【0037】
上述した各実施形態の表面シート10の好ましい製造方法を、熱伸長性複合繊維を用いた場合を例に図10を参照しながら説明する。先ず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて表面シート10の原反となるウエブ20を作製する。ウエブ20は、熱伸長性複合繊維を含むものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。ウエブ形成手段としては、例えば(a)カード機を用いて短繊維を開繊するカード法、(b)溶融紡糸された連続フィラメントを直接エアサッカーで牽引してネット上に堆積させる方法(スパンボンド法)、(c)短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)などの公知の方法を用いることができる。
【0038】
そして、ウエブ20をヒートエンボス装置51に導入する。そして、ヒートエンボス装置51内で、ウエブ20にヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス装置51は、一対のロール52,53を備えている。ロール52は周面が平滑となっている平滑ロールである。一方、ロール53は、その周面に、上述した各種のエンボス凹部11に対応する凸部が形成されている彫刻ロールである。各ロール52,53は所定温度に加熱可能になっている。
【0039】
ヒートエンボス加工は、ウエブ20中の熱伸長性複合繊維の熱融着成分が溶融する温度で行われる。ヒートエンボス加工の加工温度は、ウエブ20中の熱伸長性複合繊維における熱融着成分の融点以上でかつ高融点成分の融点未満の温度で行われることが好ましい。また熱伸長性繊維の伸長開始温度未満の温度で行われることが好ましい。
【0040】
ヒートエンボス加工によって、エンボス凹部11を有する不織布54が得られる。次いで、その不織布54は、熱風吹き付け装置55に搬送される。熱風吹き付け装置55においては不織布54にエアスルー加工が施される。熱風吹き付け装置55は、所定温度に加熱された熱風が不織布54を貫通するように構成されている。エアスルー加工は、不織布54中の熱伸長性複合繊維が加熱によって伸長する温度で行われる。かつ不織布54におけるエンボス凹部11以外の部分に存するフリーな状態の熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着する温度で行われる。尤も、かかる温度は熱伸長性複合繊維の高融点成分の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0041】
このようなエアスルー加工によって、不織布54に含まれる熱伸長性複合繊維が、エンボス凹部11以外の部分において伸長する。熱伸長性複合繊維はその一部がエンボス凹部11によって固定されているので、伸長するのはエンボス凹部11間の部分である。熱伸長性複合繊維はその一部がエンボス凹部11によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、不織布54の平面方向への行き場を失い、エアスルー加工時の熱風吹き付け側の熱伸長性複合繊維は、該不織布54の厚み方向へ移動する。つまり熱伸長性複合繊維が起立する。エンボス凹部11の形状は、先に述べたとおり、熱伸長性複合繊維の起立を阻害しない形状なので、エンボス凹部11の近傍に繊維並列起立部16が形成されるとともに、エンボス凹部11に囲まれた区画領域13の中央部には凸部14が形成される。また、エアスルー加工によってエンボス凹部11間に存する熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着によって接合され、凸部14には、繊維接合点が三次元的に分散した状態で形成される。このようにして目的とする表面シート10が得られる。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記の実施形態に制限されない。例えば前記実施形態は、吸収性物品の一つである生理用ナプキンに係るものであったが、本発明はナプキン以外の吸収性物品、例えばパンティライナ、失禁パッド及び使い捨て等にも同様に適用できる。
【0043】
また、前記実施形態における表面シートは単層の不織布から構成されていたが、これに代えて2層以上の複数層の不織布又はウエブの積層体から表面シートを構成してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0045】
〔実施例1〕
熱伸長性繊維として、繊度が4dtex、伸長率が8%の芯鞘型複合繊維(芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレン)を用いた。この芯鞘型複合繊維をカード機に通してウエブを形成した。このウエブの坪量は40g/m2であった。このウエブを図10に示すヒートエンボス装置51に導入し、図7に示すパターンでエンボス凹部が形成された不織布を得た。エンボス凹部の形状は、菱形格子における一方の対角線の長さが7mm、他方の対角線の長さが12mmであった。菱形の各頂点から0.5mmの範囲内にはエンボス凹部を形成しなかった。エンボス凹部の幅は0.8mmであった。この不織布を熱風吹き付け装置55に搬送し、136℃の熱風を吹き付けるエアスルー加工を施して表面シートを得た。
【0046】
〔実施例2〕
エンボス凹部の形状を図6に示すものとした以外は実施例1と同様にして表面シートを得た。図6における曲線エンボス凹部17は、菱形の長辺の対角線上に中心を有する直径1cmの円を、実施例1におけるエンボス凹部11a,11bの端部どうしと滑らかに連なるように配置したときの、該円の円弧部とした。
【0047】
〔実施例3〕
エンボス凹部の形状を図8に示す正六角形とした以外は実施例1と同様にして表面シートを得た。正六角形は、向かい合う辺どうしの間隔が8mmのものであった。
【0048】
〔比較例1〕
エンボス凹部の形状を、一方の対角線の長さが7mm、他方の対角線の長さが12mmの菱形格子状とした以外は実施例1と同様にして表面シートを得た。
【0049】
〔評価〕
市販の生理用ナプキン(花王株式会社製、商品名「ロリエSpeed+肌きれいガード」)から表面シートを取り除き、その代わりに、実施例及び比較例で得られた表面シートを配置した。表面シートは、その凸部が着用者の身体に対向するように配置した。該表面シートの周囲をナプキンと固定して評価用の生理用ナプキンを得た。得られた生理用ナプキンについて、表面液残り量、吸い上げ残存量、構造安定度を以下の方法で測定した。また、交差部に隣接する凸部における厚み方向の繊維の配向度を、先に述べた方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0050】
〔表面液残り量〕
表面シートを上方に向けた状態で生理用ナプキンを水平に置き、表面シートの中心位置に直径1cmの注入口のついたアクリル板を重ねた。注入口から脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)3gを注入し、注入後1分間その状態を保持した。次に、アクリル板を取り除き、表面シートをナプキンから取り出し、注入該表面シートの重さW2を測定した。この重さW2から注入前に測定したおいた表面シートの重さW1を差し引き、その値を表面シートに残存した液残り量とした。
【0051】
〔吸い上げ残存量〕
水平に置いたガラス製の表面平滑なプレート上に、脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)1gを滴下した。その上に、表面シートを下に向けて生理用ナプキンを載置した。1分間その状態を保持した後、生理用ナプキンを取り除き、プレートに残存する脱繊維馬血の量を測定した。その量を吸い上げ残存量とした。
【0052】
〔構造安定度〕
カトーテック(株)社製のKES−G5装置を用い、表面シートのLC値を測定し、その値によって表面シートの構造安定度を評価した。LC値は、その値が大きいほど構造安定度が高いと評価される。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1ないし3の表面シートを有するナプキンは、比較例1の表面シートを有するナプキンと比較して、表面液残り量及び吸い上げ残存量が少なく、通液性に優れていることが判る。また、比較例1に比べて構造安定度にも優れていることが判る。
【符号の説明】
【0055】
10 表面シート
11 エンボス凹部
12 凹部
13 区画領域
14 凸部
15 繊維
16 繊維並列起立部
17 曲線エンボス凹部
100 生理用ナプキン(吸収性物品)
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキン、パンティライナ、失禁パッド及び使い捨ておむつなどの吸収性物品の肌対向面に用いられる表面シートに関する。また本発明は、該表面シートを備えた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品の表面シートにおける肌対向面に多数の凸部を形成して、該表面シートの種々の特性を向上させる試みが行われている。表面シートに凸部を形成するための手段の一つとして、該表面シートの構成繊維として熱の付与によって伸長する繊維、すなわち熱伸長性繊維を用いることが提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1及び2に記載の技術においては、熱伸長性繊維を含むウエブにエンボス加工を施して、閉じた形状の小区画を多数形成し、該小区画内に存在する熱伸長性繊維に熱を付与してこれを伸長・起立させ、該小区画内を隆起させることで、凸部を形成している。閉じた形状の小区画を形成するためのエンボスパターンとしては、例えば斜め格子状のエンボスパターン(特許文献1)や、波状又はジグザグ形状に蛇行しながら一方向に延びる線状のエンボスパターン(特許文献2)などが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−148730号公報
【特許文献2】特開2010−158488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱伸長性繊維を含むウエブにエンボス加工を施した後に、該熱伸長性繊維を伸長・起立させることに関して本発明者らが検討を重ねたところ、エンボス加工のパターンによっては、図11に示すように、伸長によって熱伸長性繊維が起立する方向が交差してしまい、該熱伸長性繊維の起立阻害が生じることが判明した。この起立阻害は、立体性の高い凸部の形成や、圧縮に対する凸部の安定性の点からマイナスに作用する傾向にある。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術よりも各種の性能が向上した吸収性物品の表面シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、肌当接面側に、複数の線状のエンボス凹部と、複数の該エンボス凹部で区画化された複数の区画領域とを有し、該区画領域が、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維を含む凸部を有する吸収性物品の表面シートであって、
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部どうしの交差部が、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状であるか若しくは交差角が鈍角であるか、又は
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部が線分からなり、かつ隣合う該エンボス凹部どうしが交差していない吸収性物品の表面シートを提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の表面シートを備え、該表面シートにおける凸部が着用者の身体に対向するように該表面シートが配置されている吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面シートによれば、エンボス凹部との境界に位置する繊維が並列化した起立性向を有するので、凸部の立体性が高くなり、また装着時の圧縮に対して凸部が潰れ難く、表面シートとしての通液性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の表面シートを備えた吸収性物品の一実施形態としての生理用ナプキンを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す生理用ナプキンにおける表面シートの斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す表面シートの要部を拡大して示す平面図である。
【図4】図4は、図3におけるIII−III線断面図である。
【図5】図5(a)及び(b)は、直線状エンボス凹部及び該直線状エンボス凹部に隣接する繊維並列起立部を、表面シートの肌対向面側から見た走査型顕微鏡像である。
【図6】図6は、図3に示すエンボス凹部の要部を拡大して示す模式図である。
【図7】図7は、表面シートに形成されるエンボス凹部の別の形態を示す平面図(図3相当図)である。
【図8】図8は、表面シートに形成されるエンボス凹部の別の形態を示す平面図(図3相当図)である。
【図9】図9は、表面シートに形成されるエンボス凹部の別の形態を示す平面図(図3相当図)である。
【図10】図10は、表面シートの製造に好適に用いられる装置を示す模式図である。
【図11】図11は、伸長した熱伸長性繊維を含む従来の表面シートを肌対向面側から見た走査型顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の表面シートを備えた生理用ナプキン100を示す斜視図である。ナプキン100は、その着用時に着用者の肌に近い側に位置する面である肌対向面としての表面シート10を備えている。表面シート10は液透過性を有している。またナプキン100は、その着用時に着用者の肌から遠い側に位置する面である非肌対向面としての裏面シート(図示せず)を備えている。裏面シートの外面には、ナプキン100を着用者のショーツに固定するための粘着剤が施されていてもよい。裏面シートは、液不透過性であるか又は液難透過性である。また裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。表面シート10と裏面シートとの間には、液保持性の吸収体(図示せず)が配置されている。
【0012】
ナプキン100は、実質的に縦長の形状を有しており、長手方向の中央域において、左右側方に延出する一対のウイング部101を有している。ウイング部101は、表面シート10及び/又は裏面シートの延出部分から構成されているか、又は表面シート10及び裏面シートとは別材料のシートから構成されている。ウイング部101の裏面には粘着剤が施されていてもよい。
【0013】
ナプキン100はその左右の側部に一対の防漏カフ102を有している。防漏カフ102は、ナプキン100の長手方向に延びている。防漏カフ102は長手方向に延びる一側縁が自由縁になっているとともに、他側縁が固定縁になっている。自由縁には、弾性糸等の弾性体が伸長状態で固定されていてもよい。固定縁は、ナプキンの肌対向面に固定されている。防漏カフ102は、固定縁から自由縁に向けて起立することで、排泄された液が横漏れすることを阻止する堰としての働きを有する。防漏カフ102は、先に述べたウイング部101を構成するシートの一部から形成されていてもよく、あるいは該シートとは別材料のシートから構成されていてもよい。
【0014】
上述の裏面シート、吸収体、ウイング部101及び防漏カフ102を構成する材料としては、当該技術分野においてこれまで用いられてきた材料と同様のものを特に制限なく用いることができる。表面シート10の詳細については後述する。
【0015】
ナプキン100には、その肌対向面に、表面シート10及び吸収体を圧密化して形成された防漏溝103が形成されている。防漏溝103は、その長手方向がナプキン100の長手方向と一致した縦長の閉じた形状をしている。防漏溝103は、ナプキン100の装着時に該ナプキン100の変形の起点となる可撓軸としての働きを有するとともに、排泄された液をナプキン100の長手方向に導く働きも有する。
【0016】
図2は、ナプキン100における表面シート10を示す斜視図である。表面シート10は、同図に示すように、単層構造の不織布からなり、構成繊維が熱融着により一体化された直線状の凹部12を菱形格子状に有している。各線は、連続線及び断続線(破線)のいずれであっても良いが、円形などの点が間欠的に形成されたエンボス形状は含まない。間欠的にとは、点状のエンボスの隣合う間隔が5mm以上離れていることをいう。
【0017】
表面シート10は、図3に示すように、直線状のエンボス凹部11として、互いに平行にかつ所定の間隔で形成された複数本の第1線状のエンボス凹部11aと、互いに平行にかつ所定の間隔で形成された複数本の第2線状のエンボス凹部11bとを有している。その結果、エンボス凹部11は、複数の菱形形状の連続体から構成されている。第1線状のエンボス凹部1aと第2線状のエンボス凹部11bとは、角度A1及び角度A2をなして互いに交差している。第1線状のエンボス凹部11aの幅と第2線状のエンボス凹部11bの幅は同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。第1線状のエンボス凹部11aどうし間の間隔と第2線状のエンボス凹部11bどうし間の間隔も、同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0018】
表面シート10はナプキン100に組み込まれたときに着用者の肌側に向けられる面(肌当接面)側に、熱エンボス加工によって形成された凹部12を有しており、該凹部12内に前述した直線状のエンボス凹部11を有している。直線状のエンボス凹部11は、菱形格子状に形成されているので、表面シート10には、該直線状のエンボス凹部11によって区画化された複数の区画領域13,13・・が形成されている。個々の区画領域13は、それぞれ周囲を線状のエンボス凹部11に囲まれた領域であり、平面視菱形形状である。各区画領域13の中央部は、該区画領域13を囲む凹部12に対して相対的に隆起して凸部14となっている。つまり凸部14は、不織布をエンボス加工して形成されたエンボス凹部11によって囲繞されている。表面シート11は、該表面シート11における凸部14が着用者の身体に対向するようにナプキン100に配置されている。
【0019】
表面シート10は、その構成繊維として、伸長した状態の熱伸長性繊維を含んでいる。熱伸長性繊維は、熱融着性繊維であることが好ましい。熱伸長性繊維としての熱融着性繊維は、熱融着成分と該熱融着成分より融点の高い高融点成分よりなる複合繊維であることが好ましい。より好ましくは、熱融着成分を鞘とし、高融点成分を芯とする芯鞘型複合繊維が用いられる。熱融着成分及び高融点成分は熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱融着成分としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、又はこれらのランダム若しくはブロック共重合体等が挙げられる。高融点成分としては、例えば、ポリエチレンテレフテレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン−6やナイロン−66などのポリアミド等が挙げられる。熱融着成分と高融点成分の好ましい組み合わせとしては、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリプロピレン、低融点のポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとポリブチレンテレフタレート等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。芯鞘型複合繊維は、同芯タイプの他、偏芯タイプのもの、更には繊維の全周の一部に芯成分が露出しているもの等であっても良い。
【0020】
熱融着性繊維は、後述する繊維並列起立部の形成性や凹凸形状の形成性の点から、熱伸長性複合繊維であることが好ましい。熱伸長性複合繊維は、高融点樹脂からなる第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点より低い融点を有する低融点樹脂からなる第2樹脂成分とを含み、該第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在しているものであることが好ましい。熱伸長性複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる繊維であり、好ましくは90℃以上、更に好ましくは110℃〜130℃の熱の付与で伸長する繊維である。表面シート11の製造時に、熱伸長性複合繊維を伸長させることによって、起伏の大きい凹凸を表面シートに形成し得るとともに、後述する繊維並列起立部を容易に生じさせることができる。したがって、表面シート10として完成した後においては、その多くが伸長した状態となっている。場合によっては、追加の熱の付与によって更に伸長可能なこともある。以下の説明において、熱伸長性複合繊維というときには、文脈に応じて伸長前の熱伸長性複合繊維を意味する場合と、伸長した状態の熱伸長性複合繊維を意味する場合とがある。
【0021】
熱伸長性複合繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して伸びたり、あるいは捲縮加工が施された繊維であって捲縮が解除されて見かけの長さが伸びる繊維が挙げられる。熱伸長性複合繊維としては、熱融着成分の軟化点より10℃高く、更に融点より10℃低い温度での伸長率が5〜40、特に10〜30%であることが、繊維並列起立部や凹凸形状を顕著に形成させる点から好ましい。熱伸長性複合繊維の好ましい例は、特開2005−350836号公報の段落〔0024〕〜〔0040〕に記載されている。
【0022】
前記の熱伸長性複合繊維の伸長率は、次の方法で測定される。セイコーインスツルメンツ(株)製の熱機械的分析装置TMA/SS6000を用いる。試料としては、繊維長さが10mm以上の繊維を繊維長さ10mmあたりの合計重量が0.5mgとなるように複数本採取したものを用意し、その複数本の繊維を平行に並べた後、チャック間距離10mmで装着し、測定開始温度を25℃とし、0.73mN/dtexの一定荷重を負荷した状態で5℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸び量を測定し、第2樹脂成分の融点より10℃高い温度、融点を持たない樹脂の場合は軟化点より10℃高い温度での伸び量Xmmを読み取る。そして(X/10)×100[%]から伸長率を算出する。
【0023】
熱融着成分と高融点成分からなる複合繊維、特に熱伸長性複合繊維の割合は、表面シート10の構成繊維中、40〜100質量%であることが好ましく、更に好ましくは70〜100質量%、一層好ましくは95〜100質量%である。これらの複合繊維の以外に配合する繊維としては、熱可塑性樹脂からなる繊維(非複合繊維)等が挙げられる。
【0024】
表面シート10においては、図4並びに図5(a)及び(b)に示すように、凹部12は、線状のエンボス凹部11で形成され、該線状のエンボス凹部11の際(きわ)に隣接する非エンボス領域である凸部14にある繊維15は、該際においてエンボスの線方向Pと交差する方向Qに概ね揃って、肌当接面側に向けて起立して配向されている。より具体的に説明すると、表面シート10は、線状のエンボス凹部11の近傍に、構成繊維(より具体的には熱伸長性複合繊維)が、該線状のエンボス凹部11から離れる方向(肌当接面側)に向けて並列して立ち上がる繊維並列起立部16を有している。繊維並列起立部16は、第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bそれぞれに隣接して形成されている。各繊維並列起立部16の繊維15は、図5(a)に示すように、長手方向の一端15aが、熱融着性成分の溶融により線状のエンボス凹部11に固定されており、長手方向の他端側は、表面シート10の平面視において、第1又は第2線状のエンボス凹部11a,11bが延びる方向Pと交差する方向、より具体的には、該方向Pに略直交する方向(Q方向)に向かって延びている。
【0025】
繊維並列起立部16を形成する繊維15は、図5(a)及び(b)に示すように、表面シート10の平面視において前記P方向に並列にした状態に配されており、また図4に示すように、線状のエンボス凹部11から立ち上がるように配されている。立ち上がる方向は、吸収性物品の表面シートとして用いたときに、肌当接面側、すなわち着用者の肌に近づく方向である。このように、凸部14は、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維15を含むものである。
【0026】
表面シート10における繊維15の起立性及び配向性を高め、凸部14の立体感を一層高める観点から、エンボス凹部11a,11bが交差する交差部に隣接する凸部14において、肌当接面側に向けて起立した繊維15の配向度は、表面シート10の厚み方向において1.0以上であることが好ましく、1.1〜1.6であることがより好ましい。繊維の配向度はKANAKA社製のMicrowave molecular orientation analyzer MOA-2001Aを用いて測定する。その装置を用い、サンプルの3点の平均値をもって配向度とする。
【0027】
本発明者らの検討の結果、繊維並列起立部16を首尾よく形成するためには、各凸部14を囲繞するエンボス凹部11が、熱伸長性複合繊維の伸長に起因して該熱伸長性繊維が起立するときに、該起立を妨げない形状をしていることが望ましい。この観点から本発明者らが更に詳細に検討したところ、第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bの交差する角度が大きく影響することが判明した。詳細には、先に述べたとおり、第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bの交差する角度はA1及びA2であるところ、角度A1及びA2が直角又は鋭角である場合、すなわち90度以下である場合には、熱伸長性複合繊維の伸長・起立時に、起立した繊維どうしの交差が起こりやすくなり(図11参照)、その結果、起立した繊維が互いに起立を阻害し合うことが判明した。一方、角度A1及びA2が鈍角である場合には、起立した繊維どうしの交差が起こりにくいので、起立した繊維が互いに起立を阻害し合うことが起こりづらい。その結果、繊維並列起立部16が首尾よく形成される。
【0028】
以上の観点から、図3に示すようにエンボス凹部11が、複数の直線が格子状に配置された形状をしている場合には、直線どうしの交差部の交差角が鈍角になっていることが好ましい。
【0029】
ところで、図3に示す表面シート10においては、平面視菱形をなす凸部14の内角のうち、一方の内角A1は鈍角であり、他方の内角A2は鋭角になっている。したがって内角A1の部位においては、起立した繊維どうしの交差が起こりにくいが、内角A2の部位においては、起立した繊維が互いに起立を阻害し合いやすい。そこで角度が90度以下である内角A2の部位では、図6に示すように、2本のエンボス凹部、すなわち第1線状のエンボス凹部11a及び第2線状のエンボス凹部11bの交差部に、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状の曲線からなる曲線エンボス凹部17を、エンボス凹部11a,11bに沿って形成することが有利である。曲線エンボス凹部17を形成することで、内角を鈍角にした場合と同様の効果が奏されて、起立した繊維どうしの交差が起こりにくくなる。このように、本実施形態においては、両エンボス凹部11a,11bの交差部において、曲線エンボス凹部17が形成されていない交差角が90度以下の部位は存在していない。
【0030】
図3に示す表面シート10に形成された第1及び第2線状のエンボス凹部11a,11bの幅は、該線状のエンボス凹部において繊維を確実に固定するために0.1〜1.5mm、特に0.3〜0.9mmであることが好ましい。第1線状のエンボス凹部11aどうし間の間隔及び第2線状のエンボス凹部11bどうし間の間隔は、後述する繊維並列起立部を形成しやすいように2〜14mm、特に2〜8mmであることが好ましい。これらの幅は、線に対して直交する方向に計測される。これらの幅の値は、後述する図7、図8及び図9に示す実施形態にも同様に適用される。
【0031】
図7には、エンボス凹部11の別の形態が示されている。同図に示すエンボス凹部11は、複数の断続的な直線(線分)が格子状に配置された形状をしている。かつ各断続的な直線はいずれも、隣合う他の断続的な直線と交差していない。つまり、本実施形態のエンボス凹部には交差部が存在しておらず、隣合うエンボス凹部11を仮想的に延長した仮想延長線の交差部は、エンボス凹部11の非存在部18になっている。したがって各凸部14はエンボス凹部11によって完全に囲繞されておらず、各凸部14を囲繞するようにエンボス凹部11とエンボス凹部11の非存在部18とが交互に配置されている状態になっている。本実施形態によれば、交差部が存在していないことに起因して、起立した繊維どうしの交差が一層起こりにくくなっている。
【0032】
図7に示す実施形態においては、直線どうしの交差部が存在していないので、該直線どうしを仮想的に延長した延長線の交差部のなす角度は90度以下であってもよい。もちろん鈍角であってもよい。
【0033】
図8には、エンボス凹部11の更に別の形態が示されている。同図に示すエンボス凹部11は、複数本の直線の組み合わせからなる多角形の形状をしている。詳細には、正六角形の区画領域13が形成されるように複数本の直線が組み合わされている。したがってエンボス凹部11は全体でみたときに亀甲模様をなしている。そして区画領域13を画定する多角形である正六角形の内角はすべて90度超になっている。したがって、起立した繊維どうしの交差が起こりにくく、起立した繊維が互いに起立を阻害し合うことが起こりづらい。
【0034】
図9に示す実施形態は、先に述べた図7に示す実施形態の変形例である。本実施形態では、エンボス凹部11が、複数の直線が格子状に配置された格子状エンボス凹部11cと、直線どうしの交差部に配置された点状エンボス凹部11dとを有している。点状エンボス凹部11dは、格子状エンボス凹部11cの直線の太さよりも直径又は短径の大きな略円形又は略楕円形をしている。図9では、点状エンボス凹部11dの大きさはすべて同じになっているが、異なる大きさの2種以上の点状エンボス凹部11dを用いてもよい。本実施形態においても、区画領域13を囲繞するエンボス凹部11に直線どうしの交差部が存在しないので、起立した繊維どうしの交差が起こりにくい。
【0035】
点状エンボス凹部11dの直径又は短径は、格子状エンボス凹部11cの直線の太さの150〜400%、特に200〜300%であることが、起立した繊維どうしの交差が一層起こりにくくなる点から好ましい。
【0036】
図9に示す実施形態において、点状エンボス凹部11dが略楕円形である場合には、該略楕円形の長軸及び短軸はすべて同じ方向を向いてもよく、あるいはそうでなくてもよい。
【0037】
上述した各実施形態の表面シート10の好ましい製造方法を、熱伸長性複合繊維を用いた場合を例に図10を参照しながら説明する。先ず、所定のウエブ形成手段(図示せず)を用いて表面シート10の原反となるウエブ20を作製する。ウエブ20は、熱伸長性複合繊維を含むものであるか、又は熱伸長性複合繊維からなるものである。ウエブ形成手段としては、例えば(a)カード機を用いて短繊維を開繊するカード法、(b)溶融紡糸された連続フィラメントを直接エアサッカーで牽引してネット上に堆積させる方法(スパンボンド法)、(c)短繊維を空気流に搬送させてネット上に堆積させる方法(エアレイ法)などの公知の方法を用いることができる。
【0038】
そして、ウエブ20をヒートエンボス装置51に導入する。そして、ヒートエンボス装置51内で、ウエブ20にヒートエンボス加工が施される。ヒートエンボス装置51は、一対のロール52,53を備えている。ロール52は周面が平滑となっている平滑ロールである。一方、ロール53は、その周面に、上述した各種のエンボス凹部11に対応する凸部が形成されている彫刻ロールである。各ロール52,53は所定温度に加熱可能になっている。
【0039】
ヒートエンボス加工は、ウエブ20中の熱伸長性複合繊維の熱融着成分が溶融する温度で行われる。ヒートエンボス加工の加工温度は、ウエブ20中の熱伸長性複合繊維における熱融着成分の融点以上でかつ高融点成分の融点未満の温度で行われることが好ましい。また熱伸長性繊維の伸長開始温度未満の温度で行われることが好ましい。
【0040】
ヒートエンボス加工によって、エンボス凹部11を有する不織布54が得られる。次いで、その不織布54は、熱風吹き付け装置55に搬送される。熱風吹き付け装置55においては不織布54にエアスルー加工が施される。熱風吹き付け装置55は、所定温度に加熱された熱風が不織布54を貫通するように構成されている。エアスルー加工は、不織布54中の熱伸長性複合繊維が加熱によって伸長する温度で行われる。かつ不織布54におけるエンボス凹部11以外の部分に存するフリーな状態の熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着する温度で行われる。尤も、かかる温度は熱伸長性複合繊維の高融点成分の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0041】
このようなエアスルー加工によって、不織布54に含まれる熱伸長性複合繊維が、エンボス凹部11以外の部分において伸長する。熱伸長性複合繊維はその一部がエンボス凹部11によって固定されているので、伸長するのはエンボス凹部11間の部分である。熱伸長性複合繊維はその一部がエンボス凹部11によって固定されていることによって、伸長した熱伸長性複合繊維の伸び分は、不織布54の平面方向への行き場を失い、エアスルー加工時の熱風吹き付け側の熱伸長性複合繊維は、該不織布54の厚み方向へ移動する。つまり熱伸長性複合繊維が起立する。エンボス凹部11の形状は、先に述べたとおり、熱伸長性複合繊維の起立を阻害しない形状なので、エンボス凹部11の近傍に繊維並列起立部16が形成されるとともに、エンボス凹部11に囲まれた区画領域13の中央部には凸部14が形成される。また、エアスルー加工によってエンボス凹部11間に存する熱伸長性複合繊維どうしの交点が熱融着によって接合され、凸部14には、繊維接合点が三次元的に分散した状態で形成される。このようにして目的とする表面シート10が得られる。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記の実施形態に制限されない。例えば前記実施形態は、吸収性物品の一つである生理用ナプキンに係るものであったが、本発明はナプキン以外の吸収性物品、例えばパンティライナ、失禁パッド及び使い捨て等にも同様に適用できる。
【0043】
また、前記実施形態における表面シートは単層の不織布から構成されていたが、これに代えて2層以上の複数層の不織布又はウエブの積層体から表面シートを構成してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0045】
〔実施例1〕
熱伸長性繊維として、繊度が4dtex、伸長率が8%の芯鞘型複合繊維(芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレン)を用いた。この芯鞘型複合繊維をカード機に通してウエブを形成した。このウエブの坪量は40g/m2であった。このウエブを図10に示すヒートエンボス装置51に導入し、図7に示すパターンでエンボス凹部が形成された不織布を得た。エンボス凹部の形状は、菱形格子における一方の対角線の長さが7mm、他方の対角線の長さが12mmであった。菱形の各頂点から0.5mmの範囲内にはエンボス凹部を形成しなかった。エンボス凹部の幅は0.8mmであった。この不織布を熱風吹き付け装置55に搬送し、136℃の熱風を吹き付けるエアスルー加工を施して表面シートを得た。
【0046】
〔実施例2〕
エンボス凹部の形状を図6に示すものとした以外は実施例1と同様にして表面シートを得た。図6における曲線エンボス凹部17は、菱形の長辺の対角線上に中心を有する直径1cmの円を、実施例1におけるエンボス凹部11a,11bの端部どうしと滑らかに連なるように配置したときの、該円の円弧部とした。
【0047】
〔実施例3〕
エンボス凹部の形状を図8に示す正六角形とした以外は実施例1と同様にして表面シートを得た。正六角形は、向かい合う辺どうしの間隔が8mmのものであった。
【0048】
〔比較例1〕
エンボス凹部の形状を、一方の対角線の長さが7mm、他方の対角線の長さが12mmの菱形格子状とした以外は実施例1と同様にして表面シートを得た。
【0049】
〔評価〕
市販の生理用ナプキン(花王株式会社製、商品名「ロリエSpeed+肌きれいガード」)から表面シートを取り除き、その代わりに、実施例及び比較例で得られた表面シートを配置した。表面シートは、その凸部が着用者の身体に対向するように配置した。該表面シートの周囲をナプキンと固定して評価用の生理用ナプキンを得た。得られた生理用ナプキンについて、表面液残り量、吸い上げ残存量、構造安定度を以下の方法で測定した。また、交差部に隣接する凸部における厚み方向の繊維の配向度を、先に述べた方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0050】
〔表面液残り量〕
表面シートを上方に向けた状態で生理用ナプキンを水平に置き、表面シートの中心位置に直径1cmの注入口のついたアクリル板を重ねた。注入口から脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)3gを注入し、注入後1分間その状態を保持した。次に、アクリル板を取り除き、表面シートをナプキンから取り出し、注入該表面シートの重さW2を測定した。この重さW2から注入前に測定したおいた表面シートの重さW1を差し引き、その値を表面シートに残存した液残り量とした。
【0051】
〔吸い上げ残存量〕
水平に置いたガラス製の表面平滑なプレート上に、脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)1gを滴下した。その上に、表面シートを下に向けて生理用ナプキンを載置した。1分間その状態を保持した後、生理用ナプキンを取り除き、プレートに残存する脱繊維馬血の量を測定した。その量を吸い上げ残存量とした。
【0052】
〔構造安定度〕
カトーテック(株)社製のKES−G5装置を用い、表面シートのLC値を測定し、その値によって表面シートの構造安定度を評価した。LC値は、その値が大きいほど構造安定度が高いと評価される。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1ないし3の表面シートを有するナプキンは、比較例1の表面シートを有するナプキンと比較して、表面液残り量及び吸い上げ残存量が少なく、通液性に優れていることが判る。また、比較例1に比べて構造安定度にも優れていることが判る。
【符号の説明】
【0055】
10 表面シート
11 エンボス凹部
12 凹部
13 区画領域
14 凸部
15 繊維
16 繊維並列起立部
17 曲線エンボス凹部
100 生理用ナプキン(吸収性物品)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面側に、複数の線状のエンボス凹部と、複数の該エンボス凹部で区画化された複数の区画領域とを有し、該区画領域が、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維を含む凸部を有する吸収性物品の表面シートであって、
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部どうしの交差部が、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状であるか若しくは交差角が鈍角であるか、又は
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部が線分からなり、かつ隣合う該エンボス凹部どうしが交差していない吸収性物品の表面シート。
【請求項2】
前記交差部に隣接する前記凸部において、肌当接面側に向けて起立した前記熱伸長性繊維の配向度が、前記表面シートの厚み方向において1.0以上である請求項1に記載の表面シート。
【請求項3】
前記区画領域を囲む前記エンボス凹部が、正六角形状で該区画領域を区画化している請求項1又は2に記載の表面シート。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の表面シートを備え、該表面シートにおける前記凸部が着用者の身体に対向するように該表面シートが配置されている吸収性物品。
【請求項1】
肌当接面側に、複数の線状のエンボス凹部と、複数の該エンボス凹部で区画化された複数の区画領域とを有し、該区画領域が、肌当接面側に向けて起立した熱伸長性繊維を含む凸部を有する吸収性物品の表面シートであって、
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部どうしの交差部が、平面視して該交差部に向けた凸の円弧状であるか若しくは交差角が鈍角であるか、又は
前記区画領域を囲む複数の該エンボス凹部が線分からなり、かつ隣合う該エンボス凹部どうしが交差していない吸収性物品の表面シート。
【請求項2】
前記交差部に隣接する前記凸部において、肌当接面側に向けて起立した前記熱伸長性繊維の配向度が、前記表面シートの厚み方向において1.0以上である請求項1に記載の表面シート。
【請求項3】
前記区画領域を囲む前記エンボス凹部が、正六角形状で該区画領域を区画化している請求項1又は2に記載の表面シート。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の表面シートを備え、該表面シートにおける前記凸部が着用者の身体に対向するように該表面シートが配置されている吸収性物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図11】
【公開番号】特開2012−239531(P2012−239531A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110088(P2011−110088)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]