説明

吸収性物品及び吸収性物品のスキンケア効果の評価方法

【課題】スキンケア剤が着用者の皮膚に移行した後に皮溝により多く存在しやすく、スキンケア効果を効果的に発現することができる吸収性物品を提供する。
【解決手段】着用時に着用者の皮膚に当接する部材にスキンケア剤を塗布した吸収性物品において、前記スキンケア剤として、吸収性物品を着用して該スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚と水との接触角が、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚と水との接触角と略同じとなるものを用いた。前記スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚と水との接触角が、90度以上100度以下であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品に関する。また本発明は、吸収性物品のスキンケア効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケア剤の塗布された吸収性物品が種々提案されている。例えば特許文献1には、吸収性物品のトップシートの少なくとも一部に、20℃において半固体又は固体であり、部分的に着用者の皮膚へ移ることができる有効量のローション組成物を適用することが記載されている。ローション組成物は、(i)20℃で可塑性もしくは流動性コンシステンシーを有するエモリエント剤を10〜95%、および(ii)該エモリエント剤を該トップシート上に固定化し得る固定化剤であって、少なくとも35℃の融点を有する固定化剤を5〜90%の割合で含むものである。固定化剤としては、例えばC14〜C22脂肪アルコールが用いられる。
【0003】
本出願人もまた、スキンケア剤の塗布された吸収性物品を提案している(特許文献2参照)。この吸収性物品においては、表面シートに水溶性スキンケア剤が存在し、該水溶性スキンケア剤上であって該水溶性スキンケア剤よりも肌側に、特定のジアミド誘導体からなる油性スキンケア剤が存在している。この吸収性物品においては、該物品を着用した初期段階では、着用者の皮膚との接触によって油性スキンケア剤が着用者の皮膚へ移行し、これによって物品と皮膚との摩擦が低減されて、摩擦によって皮膚が傷つけられることが防止される。物品の着用後においては、油性スキンケア剤の下にあった水溶性スキンケア剤が排泄を契機に着用者の皮膚へ移行してそのスキンケア効果が発現するので、尿や便との接触に起因する皮膚のカブレが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4083395号公報
【特許文献2】特許4084278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の各吸収性物品において、表面シート等に施されたスキンケア剤によるスキンケア効果には、なお改善の余地があった。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、スキンケア剤が移行する前の着用者の皮膚の濡れ性と、スキンケア剤が移行した後の着用者の皮膚の濡れ性との関係が、スキンケア効果と密接に関連していることを知見した。
【0008】
本発明は前記知見に基づきなされたものであり、着用時に着用者の皮膚に当接する部材にスキンケア剤を施した吸収性物品において、
前記スキンケア剤として、吸収性物品を着用して該スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚に対する水の接触角が、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚に対する水の接触角と略同じとなるものを用いた吸収性物品を提供するものである。
【0009】
また本発明は、着用時に着用者の皮膚に当接する部材にスキンケア剤を施した吸収性物品のスキンケア効果の評価方法であって、
吸収性物品を着用して前記スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚に対する水の接触角と、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚に対する水の接触角とを比較し、その大小関係に基づきスキンケア効果を評価する、吸収性物品のスキンケア効果の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸収性物品によれば、スキンケア剤が着用者の皮膚に移行した後の状態において皮丘よりも皮溝に一層多く存在しやすくなり、スキンケア効果を効果的に発現することができる。また本発明の評価方法によれば、スキンケア剤が移行した前後での皮膚に対する水の接触角の大小関係に基づいて、吸収性物品のスキンケア効果を容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、スキンケア剤が移行した着用者の皮膚と水との接触角と、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚と水との接触角との大小関係が、スキンケア剤の皮膚における存在状態とどのように関連しているかを示す模式図である。
【図2】図2は、スキンケア剤を皮膚に移行させる方法を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例1、比較例1及び2の各吸収性物品に施されたスキンケア剤が移行した状態での皮膚と水との接触角を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の吸収性物品は、着用者の皮膚に近い側に位置し、かつ着用者の皮膚に対向する表面シートと、着用者の皮膚から遠い側に位置する裏面シートとを有している。両シートの間には、液保持性の吸収体が配置されている。必要に応じ、表面シート上の左右両側部に一対の防漏カフが配置されることもある。
【0013】
表面シート及び裏面シートとしては、当該技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。表面シートとしては、例えば液透過性を有する親水性の不織布や穿孔フィルムなどを用いることができる。これらの不織布やフィルムは一般に熱可塑性樹脂から構成されている。裏面シートとしては、例えば液不透過性のフィルムや、液難透過性の不織布などを用いることができる。液不透過性のフィルムは透湿性を有していてもよい。
【0014】
吸収体としては、フラップパルプの積繊体や、フラッフパルプと高吸収性ポリマーとの混合積繊体を用いることができる。吸収体は、物品の全域にわたって同じ厚みを有していてもよく、あるいは一部分、例えば着用者の排泄部に対向する部分が他の部分よりも厚くなっていてもよい。吸収体の坪量に関しても同様であり、物品の全域にわたって同じ坪量を有していてもよく、あるいは一部分、例えば着用者の排泄部に対向する部分が他の部分よりも高坪量になっていてもよい。
【0015】
吸収性物品は、着用時に着用者の皮膚に当接する部材にスキンケア剤が施されている。スキンケア剤は、吸収性物品の着用中における着用者の皮膚のカブレ等の肌トラブルを抑制する目的で使用される。この目的のため、スキンケア剤は、着用時に着用者の皮膚に当接する部材である表面シートや防漏カフに施されることが好ましい。
【0016】
スキンケア剤を例えば表面シートに施す場合、該スキンケア剤を該表面シートの全域にまんべんなく施すことができる。あるいは、スキンケア剤の存在域と非存在域とが形成されるように該スキンケア剤を不連続に施すことができる。後者の場合、例えばスキンケア剤の存在域と非存在域とが、所定の幅をもって吸収性物品の長手方向に延び、かつ両域が吸収性物品の幅方向に沿って交互に配置されるように、これらを形成することができる。
【0017】
吸収性物品の表面シートや防漏カフ等に施されたスキンケア剤が、その効果を十分に発揮するためには、スキンケア剤が移行する前の着用者の皮膚の濡れ性と、スキンケア剤が移行した後の着用者の皮膚の濡れ性との関係が重要であることを本発明者は知見した。詳細には、スキンケア剤が移行する前の着用者の皮膚の濡れ性と、スキンケア剤が移行した後の着用者の皮膚の濡れ性とが略同じである場合には、該濡れ性が異なる場合に比べて、スキンケア効果が高くなることを知見した。皮膚の濡れ性は表面張力と関連するものなので、濡れ性の程度は例えば皮膚に対する水の接触角で表現することができる。そこで本発明者は、スキンケア剤の移行の前後での着用者の皮膚に対する水の接触角と、スキンケア効果との関係を種々検討した結果、スキンケア剤として、それが移行した着用者の皮膚に対する水の接触角が、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚に対する水の接触角と略同じになるものを用いることによって、吸収性物品のスキンケア効果を高め得ること知見した。
【0018】
スキンケア剤の移行の前後での着用者の皮膚に対する水の接触角が略同じになると、スキンケア効果が高くなる理由について本発明者が検討した結果、以下のことが判明した。
【0019】
ヒトの皮膚表面を拡大すると、多数の凹部が観察される。この凹部は「皮溝」と呼ばれている。一方、「皮溝」間の凸部は「皮丘」と呼ばれている。本発明者が検討したところ、排泄物が皮膚に付着することに起因するカブレ等の発生は、排泄物が皮溝に入り込んで、そこに滞留することが主たる原因であることが判明した。したがって、吸収性物品の着用状態において、排泄物が皮溝に入り込む前に、吸収性物品に施されたスキンケア剤を予め皮溝に移行させれば、排泄物が皮溝に入り込むことを阻止できると本発明者は考えた。そこで、吸収性物品に施されたスキンケア剤が着用者の皮膚に移行した後、どのような存在状態になっているかを種々調べたところ、皮膚に移行したスキンケア剤の存在状態は、皮膚の濡れ性、すなわち接触角と密接に関連していることが見いだされた。このことを図1(a)ないし(c)に基づき説明する。
【0020】
吸収性物品を着用してスキンケア剤が移行した後の状態での着用者の皮膚に対する水との接触角をθ1とし、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚に対する水の接触角をθ2として説明を行う。吸収性物品を着用してスキンケア剤が皮膚に移行すると、移行の初期においては、スキンケア剤は皮膚の表面に塗り広げられた状態となっている。この状態から時間が経過すると、θ1がθ2よりも小さくなるスキンケア剤を吸収性物品に施したときには、スキンケア剤の表面張力が皮膚の表面張力よりも大きく、そのことに起因して、図1(a)に示すように、塗り広げられたスキンケア剤の凝集が生じる。凝集したスキンケア剤は、皮丘に集まる傾向があり、皮溝に留まりにくくなる。
【0021】
逆に、θ1がθ2よりも小さくなるスキンケア剤を吸収性物品に施したときには、スキンケア剤の表面張力が皮膚の表面張力よりも小さく、そのことに起因して、スキンケア剤が皮膚に移行してから時間が経過しても、図1(c)に示すように、皮膚の表面に塗り広げられたスキンケア剤の該塗り広げられた状態が維持されやすい。そのため、スキンケア剤は皮丘及び皮溝の双方に薄く存在し、皮溝に集中して分布しにくい。
【0022】
これらに対して、θ1とθ2とがほぼ同じになるスキンケア剤を吸収性物品に施したときには、スキンケア剤の表面張力が皮膚の表面張力とほぼ同じであり、そのことに起因して、スキンケア剤が皮膚に移行してから時間が経過すると、皮膚の表面に塗り広げられた状態になっているスキンケア剤が、図1(b)に示すように、皮溝に向けて凝集しやすくなる。その結果、皮丘に存在するスキンケア剤の量が減少し、スキンケア剤は皮溝に集中して分布するようになる。この状態が実現すると、排泄物が皮溝に入り込むことが阻止されるので、皮膚のカブレ等が起こりにくくなる。
【0023】
図1(b)に示すスキンケア剤の分布状態を実現するためには、上述したとおり、θ1とθ2とがほぼ同じになるスキンケア剤を選択することが重要である。つまり、表面張力が、皮膚の表面張力と同じスキンケア剤を選択することが重要である。「ほぼ同じ」とは、θ1とθ2とが同じである場合、及びθ1とθ2との差が、θ2の5%以下であることの双方を包含する。
【0024】
接触角θ1は、着用時に着用者の皮膚に当接する部材として表面シートを用いた場合、例えば、以下の<洗浄・馴化処理>及び<剤移行処理>を経た皮膚について、以下の<接触角の測定方法>により測定できる。また、接触角θ2は、例えば、以下の<洗浄・馴化処理>を経た皮膚について、以下の<接触角の測定方法>で測定できる。以下の例では、便宜上、θ1として、実際に吸収性物品を着用した着用者の臀部等の皮膚に対する水の接触角ではなく、着用時に着用者の皮膚に当接する部材を用意し、該部材に施されたスキンケア剤を成人の前腕内側部の皮膚に移行させ、その皮膚に対する水との接触角を測定している。また、θ2として、スキンケア剤を移行させる前の成人の前腕内側部の皮膚に対する水の接触角を測定している。尤も、吸収性物品を実際に着用し、着用によってスキンケア剤を皮膚に移行させた後に、接触角を測定してもよい。その場合には、例えば着用者が乳幼児であるときは、着用者に吸収性物品を装着したのち、横に寝かせた状態で30分経過した後に(25℃、湿度50%RH環境下)、接触角を測定すればよい。
【0025】
<洗浄・馴化処理>
市販のマイルドタイプの洗顔料を泡立てて前腕をよく洗った後、水で十分にすすぐ。洗った部位の水を、日本製紙クレシア(株)製のキムタオル(登録商標)で軽くふき取る。その後、25℃、湿度50%RHの環境可変室で15分間馴化させる。
【0026】
<剤移行処理>
吸収性物品の表面シートを、前記のように洗浄・馴化処理をした大人前腕に擦り付けてスキンケア剤を移行させる。具体的には、底面の直径が5cmの円筒状の重り1(荷重45g/cm2)を用い、図2に示すとおり、該重り1の底面に、吸収性物品の表面シート2を、その外面が下方を向くように取り付け、重り1の側面において表面シート2をゴム3でくくりつけて固定する。この状態の表面シート2を、大人の前腕の内側部に当接させ、その状態下に、重り1を軸周りに一方向に回転するように、10cmの1往復の間に6回転、指で動かす。このようにして、スキンケア剤を皮膚に擦り付ける。この操作は、25℃、湿度50%RHの環境可変室で行う。
【0027】
<接触角の測定方法>
接触角の測定には、既報(ピエールアガシェ、フィリップハンバート編メジャリングザスキン、初版、発行2004年、発行所:シュプリンガーフェアラーク、87〜90頁)に従い皮膚に滴下した水滴をカメラ等で撮影し、得られた画像から形状を計測することで行う。θ1を求める場合には、<剤移行処理>から直後(25℃、湿度50%RH環境下)の前腕内側部の皮膚に、約10μlのイオン交換水をマイクロピペッターで滴下し、その直後に、前記方法によって接触角を測定する。測定は、<剤移行処理>を施した皮膚の5箇所で行い、それらの平均値を接触角とする。θ2を求める場合には、<洗浄・馴化処理>から直後(25℃、湿度50%RH環境下)の前腕内側部の皮膚に、約10μlのイオン交換水をマイクロピペッターで滴下し、その直後に、前記方法によって接触角を測定する。測定箇所やその数は、θ1の測定時と同様とし、θ1と同様に平均値を接触角とする。θ1及びθ2の測定温度は25℃とする。
【0028】
接触角θ1は、90度以上100度以下であることが好ましく、95度以上99度以下であることが更に好ましい。θ1が90度以上100度であることが好ましい理由は、前記のように洗浄した後の皮膚に対する水の接触角θ2は、測定対象者が異なっても、概ね90度以上100度以下となるという本発明者の知見に基づいている。
【0029】
皮膚に対する水の接触角が、測定対象者が異なっても概ね同じ値になることは、以下の文献にも記載されている。
“Cutaneous differences between Black, African or Caribbean Mixed-race and Caucasian women”:biometrological approach of the hydrolipidic film. Skin Research and Technology 2008; 14: 327-335
同文献によれば、アフリカ系又はカリブ系の黒人25人、アフリカ系又はカリブ系の混血25人及びヨーロッパ系の白人25人の額の皮膚の接触角を測定したところ、アフリカ系又はカリブ系の黒人の接触角の平均値は71度、アフリカ系又はカリブ系の混血の接触角の平均値は67度、ヨーロッパ系の白人の接触角の平均値は67度であり、人種間での違いがないことが示されている。なお、同文献に記載されている接触角と、前記「90度以上100度以下」の接触角とは値に差があるが、この理由は、同文献では洗浄していない皮膚の接触角を測定しているのに対して、本発明では洗浄後の皮膚の接触角を測定していることによるものと推測される。この推測は、皮膚洗浄によって、皮膚の接触角が増大するとの報告が知られている(例えばColloids and Surfactants B, 8, 1997, 147-155参照)ことから裏付けられる。
【0030】
以上の観点から選定される好ましいスキンケア剤としては、例えば、エモリエント剤及びその固定化剤を含むものが挙げられる。エモリエント剤とは、例えば肌を軟化あるいは柔軟にしたり、肌を潤滑させたり、肌に湿気を付与したり、肌を保湿したり、肌を清浄にしたりするなどの肌の健康状態を向上させる働きを有する物質全般を包含する。とりわけ、スキンケア効果が特に高い点から、下記式(I)で表されるアミド誘導体をエモリエント剤として用いることが好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
式(I)で表されるアミド誘導体は、主に、吸収性物品の着用開始によって着用者の皮膚に移行して排泄物が着用者の皮膚に直接触れるのを抑制することができる。これによって排泄物の皮膚への浸透が抑制してカブレの発生を抑制しやすい。また、皮膚と吸収性物品との摩擦を弱め、吸収性物品による皮膚への刺激や肌の傷つきを低減させるとともに、経皮吸収された後には皮膚を柔軟化し、あるいは皮膚のバリア機能を高めるという働きも有する。
【0033】
式(I)で表されるアミド誘導体からなるエモリエント剤の固定化剤は、吸収性物品における着用者の肌に当接する部材、例えば表面シートや防漏カフに施されたエモリエント剤を、該部材に固定する目的で用いられる。この目的のために固定化剤は油性の物質であることが好ましい。そのような物質としては、例えば炭素数14〜22の脂肪族モノアルコール、炭素数12〜22の脂肪族モノカルボン酸、該カルボン酸と炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとのエステルなどが知られている。本発明者ら検討した結果、これらの物質のうち、炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールを固定化剤として用いると、式(I)で表されるアミド誘導体に起因するべたつき感の発生を効果的に低減できることが判明した。また、式(I)で表されるアミド誘導体の固定化効果が特に高くなることも判明した。
【0034】
固定化剤として用いられる炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとしては、例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール及びステアリルアルコールなどの飽和脂肪族モノアルコールや、オレイルアルコール及びリノリルアルコールなどの不飽和脂肪族モノアルコールなどを用いることができる。これらのアルコールは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。飽和脂肪族モノアルコール及び不飽和脂肪族モノアルコールのうち、飽和脂肪族モノアルコールを用いることが、式(I)で表されるアミド誘導体に起因するべたつき感の発生を効果的に低減できる点から好ましい。飽和脂肪族モノアルコールとしては、特にセチルアルコール及びステアリルアルコールを用いると、式(I)で表されるアミド誘導体に起因するべたつき感の発生を一層効果的に低減できる。とりわけステアリルアルコールを用いることが有利である。
【0035】
また、式(I)で表されるアミド誘導体と炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとの使用の比率は、該脂肪族モノアルコールの使用量を、該アミド誘導体に対して相対的に多くすることが好ましい。特に、該アミド誘導体と該脂肪族モノアルコールとの合計質量に対して、該脂肪族モノアルコールを60〜90質量%、好ましくは70〜85質量%とすることで、べたつき感の抑制とスキンケア効果の発現とを首尾良くバランスさせることができる。
【0036】
式(I)で表されるアミド誘導体と炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとを混合してスキンケア剤を得るためには、例えばこれらを60〜100℃に加熱して液状にした状態下に混合すればよい。このようにして得られたスキンケア剤を、吸収性物品における着用者の皮膚に当接する部材である表面シートや防漏カフに施すためには、該スキンケア剤を例えば60〜80℃に加熱して液状にした状態下に、塗布、噴霧、浸漬等の方法で該部材の表面に付着させればよい。具体的には、例えばダイコーター方式、スロットスプレー方式、カーテンスプレー方式、メルトブローン方式、スパイラルスプレー方式、グラビア方式、ビード方式等を用いることができる。
【0037】
吸収性物品における着用者の皮膚に当接する部材にスキンケア剤を直接施すことに代えて、間接的に施す手段を採用することもできる。例えば、吸収性物品における表面シートにスキンケア剤を上述の各種の方法で直接施した後、該スキンケア剤が施されていない防漏カフを該表面シートと当接させる。この当接によって、表面シートに施されていたスキンケア剤の一部が防漏カフに移行して、間接的に防漏カフにスキンケア剤が施される。なお、当接状態下に加圧を行ってスキンケア剤の移行が促進するようにしてもよい。
【0038】
また、本発明において十分なスキンケア効果が発現するスキンケア剤の使用量(表面シート等への付着量)は、坪量で表して好ましくは0.3〜2g/m2、更に好ましくは0.5〜1g/m2である。
【0039】
吸収性物品における着用者の皮膚に当接する部材として表面シートにスキンケア剤を施す場合には、それに先立ち、表面シートに親水化処理を施しておくことが好ましい。例えば表面シートが各種の不織布からなる場合には、該不織布の構成繊維の表面に親水化剤を付着させたり、該構成繊維中に親水化剤を練り込んだりすることで、親水化処理を行うことができる。その後に、繊維の表面にスキンケア剤を上述の各種の方式で施せばよい。
【0040】
前記の表面シートを構成する不織布としては、例えば各種の熱可塑性樹脂から構成される繊維を含むものを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などを用いることができる。繊維は、これらの樹脂の単独繊維又は2種以上の樹脂を含むブレンド繊維や複合繊維であり得る。繊維の太さは概ね0.5〜8.9dtex、特に、概ね1〜5.6dtexの範囲内である。これらの繊維に加えて、天然繊維や半天然繊維を不織布中にブレンドすることもできる。不織布の坪量は、10〜60g/m2、特に15〜30g/m2とすることが好ましい。
【0041】
前記アミド誘導体としては、モノアミド誘導体、ジアミド誘導体、トリアミド誘導体及びポリアミド誘導体などが挙げられる。式(I)において、R1の好ましい例としては、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数1〜18のモノ又はジ−ヒドロキシアルキル基;炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜18のアルキル基;及びヒドロキシ基と炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜18のアルキル基が挙げられる。特に炭素数1〜18のアルキル基;炭素数2〜12のモノ−又はジ−ヒドロキシアルキル基;炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数2〜12のアルキル基;ヒドロキシ基と炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数2〜12のアルキル基であることが好ましい。R2の好ましい例としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、特に炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が挙げられる。R3の好ましい例としては、水素原子、又は炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。R4の好ましい例としては、炭素数2〜34の直鎖又は分岐鎖の二価炭化水素基、特に炭素数2〜34の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基;及び1〜4個の二重結合を有する炭素数2〜34のアルケニレン基が挙げられ、とりわけ炭素数2〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基;及び1〜4個の二重結合を有する炭素数2〜24のアルケニレン基が好ましい。R5の好ましい例としては、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数1〜18のモノ又はジ−ヒドロキシアルキル基;炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜18のアルキル基;及びヒドロキシ基と炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜18のアルキル基が挙げられる。R6の好ましい例としては、水素原子、又は炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。式(I)で表されるアミド誘導体は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましいアミド誘導体は、後述する実施例において用いた式(1)で表されるジアミド誘導体である。
【0042】
式(I)で表されるアミド誘導体は、36℃における粘度が5000mPa・s以下、特に200〜5000mPa・s、とりわけ500〜2000mPa・sのものを使用するか、そのようになるように必要に応じて粘度調節したものを用いることが、該アミド誘導体の皮膚への移行性が良好となることから好ましい。粘度の測定は例えば以下のようにして行うことができる。
【0043】
アミド誘導体の粘度は、音叉型振動式粘度計(本発明では代表的にVIBRO NISCOMETERCJV5000(株式会社エー・アンド・デイ社製)を使用)を用いて測定を行う。予め100℃程度に加熱したアミド誘導体を室温まで徐冷し、36℃での粘度を測定する。
【0044】
式(I)で表されるアミド誘導体に加えて、その他のエモリエント剤をスキンケア剤に配合することもできる。そのような他のエモリエント剤としては、例えば流動パラフィン、シリコーンオイル、動植物油(オリーブ油、ホオバ油、ベニバナ油、スクワラン及びスクワレン等)、モノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライド、脂肪族エーテル(ミリスチル−1,3−ジメチルブチルエーテル、パルミチル−1,3−ジメチルブチルエーテル、ステアリル−1,3−ジメチルブチルエーテル、パルミチル−1,3−メチルプロピルエーテル、ステアリル−1,3−メチルプロピルエーテル等)、イソステアリル−コレステロールエステル、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0045】
更に本発明で用いるスキンケア剤には必要に応じて、セラミド類、プソイドセラミド、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴリン脂質等を配合してもよい。セラミド類には、脳や皮膚から抽出、精製された天然セラミドと、微生物学的方法又は化学的方法によって合成された合成セラミドとが含まれる。プソイドセラミドは、例えば特開昭62−228048号公報及び特開昭63−216852号公報等に記載された方法に従って製造することができる。プソイドセラミドとして好ましいものとしては、次の式(II)で表わされる化合物が挙げられる。
【0046】
【化2】

【0047】
スフィンゴ糖脂質及びスフィンゴリン脂質には、前記のセラミド類と同様に、天然由来のものと合成物とがある。スフィンゴ糖脂質としては、例えば、構成糖がグルコース、マンノース、ガラクトース、グルクロン酸、グルコサミン等からなるものが挙げられ、セレブロシド及びその硫酸エステルも含まれる。スフィンゴリン脂質としてはスフィンゴミエリンが例示される。
【0048】
本発明の吸収性物品の具体例としては、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、パンティライナー、おりものシート等が挙げられるが、これらに限られず、人体から排泄される排泄物の吸収保持に用いられる物品を広く包含する。
【0049】
以上のとおり、装着前後における着用者の皮膚の接触角θ1,θ2がほぼ同じ吸収性物品は、スキンケア効果が高いものである。これを別の側面から見ると、新規のスキンケア剤を開発し、該スキンケア剤を有する吸収性物品の性能を評価したい場合には、該スキンケア剤を吸収性物品に施し、該吸収性物品の着用の前後における着用者の皮膚の接触角を測定し、両者の大小関係を比較することで、該吸収性物品のスキンケア効果の程度を客観的に評価することができることを意味している。特に、上述した<剤移行処理>を行うことで、実際に吸収性物品を着用しなくても、吸収性物品のスキンケア効果を簡便に評価できる。つまり本発明によれば、吸収性物品のスキンケア効果の評価方法も提供される。この評価方法においては、吸収性物品の装着前後における着用者の皮膚の接触角θ1,θ2がほぼ同じ場合には、吸収性物品のスキンケア効果が高いと評価し、異なる場合は吸収性物品のスキンケア効果が高くないと評価する。また、θ1が90度以上100度以下の場合には、吸収性物品のスキンケア効果が高いと評価し、θ1が90度未満又は100度超の場合には、吸収性物品のスキンケア効果が高くないと評価することもできる。このような評価方法は、新規なスキンケア剤を有する吸収性物品の開発等に極めて有用である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「部」は及び「質量部」を意味する。
【0051】
〔実施例1〕
(1)スキンケア剤の調製
スキンケア剤におけるエモリエント剤として、以下の式(1)で表されるジアミド誘導体を用いた。このジアミド誘導体の36℃での粘度は1800mPa・sであった。このジアミド誘導体の固定化剤としてステアリルアルコールを用いた。ジアミド誘導体とステアリルアルコールとを80℃に加熱して溶融させ均一に混合した。使用量は、ジアミド誘導体2部に対してステアリルアルコール8部とした。このようにしてスキンケア剤を得た。
【0052】
【化3】

【0053】
(2)モデル表面シートの製造
モデル表面シートとして、使い捨ておむつの表面シートに、前記の(1)で得られたスキンケア剤を施したものを作製した。表面シートとしては、芯成分がポリプロピレンで、鞘成分がポリエチレンである繊度3.3dtexの芯鞘型複合繊維を原料とする坪量30g/m2のエアスルー不織布を使用した。この不織布の原料繊維には、予め親水化剤による親水化処理を施しておいた。この不織布に、スプレーコーターを用いて前記の(1)で得られたスキンケア剤を不織布の全面に施した。スプレーコーターの塗工は、スキンケア剤を80℃に加熱溶融させて行った。スキンケア剤の塗工量は、50μg/cm2(0.5g/m2)とした。
【0054】
(3)θ2の測定
前記の<洗浄・馴化処理>を経た5人の健常な成人を被験者とし、該被験者の前腕内側部の皮膚それぞれについて、前記の<接触角の測定方法>に従って、接触角θ2を測定し、平均値を測定した。
【0055】
(4)θ1の測定
θ2の測定を行った前記被験者のθ2の測定部位に、前記で作製した表面シートを用いて前記の<剤移行処理>を行った後、前記の<接触角の測定方法>に従って、接触角θ1を測定し、平均値を測定した。その結果を図3のグラフに示す。
【0056】
〔比較例1〕
ワセリン4部に対してステアリルアルコール1部を使用してスキンケア剤を調製し、かつ不織布へのスキンケア剤の塗工量を0.5g/m2の代わりに10.2g/m2とした以外は、実施例1と同様にして不織布にスキンケア剤を施した。この不織布について実施例1と同様に、θ1を測定した。その結果を図3のグラフに示す。
【0057】
〔比較例2〕
実施例1において、ジアミド誘導体5部に対してステアリルアルコール5部を用いてスキンケア剤を調製した。これ以外は実施例1と同様に、θ1を測定した。その結果を図3のグラフに示す。
【0058】
〔評価〕
実施例及び比較例(ただし比較例2は除く。)で得られたモデル表面シートを用い、Tewameterによって、被験者のTEWL(経皮水分蒸散量)の測定を行った。TEWLは皮膚から蒸発する水の量(g/m2/hr)を示し、その値が高いほど一般的に皮膚のバリア機能は低下していると言われている。そこで本評価では、実施例及び比較例で得られたモデル表面シートによるスキンケア効果をTEWLで評価することとした。効果の程度は、TEWLの変化量(ΔTEWL)で示す。具体的には、接触角を測定したのと同様の手順で、実施例1及び比較例1で調製したスキンケア剤を、10人の健常な成人の前腕内側部の皮膚にそれぞれ移行させ、移行前後でのTEWLの値をそれぞれ測定し、平均を求めた。そして、スキンケア剤塗布前のTEWLの値から、スキンケア剤塗布後のTEWLの値を差し引くことによって、TEWLの変化量(ΔTEWL=スキンケア剤塗布前のTEWLの値−スキンケア剤塗布後のTEWLの値)を求めた。TEWLの測定は、マルチプローブアダプターMPA5に、テヴァメーターTewameter TM300(いずれもCourage + Khazaka electric GmbH製)を取り付けたものを用い、23.2℃、湿度47%RHの条件下で行った。その結果を以下の表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
図3及び表1に示す結果から明らかなように、実施例1で得られたモデル表面シートを用いてスキンケア剤を皮膚に移行させると、比較例1で得られたモデル表面シートを用いてスキンケア剤を皮膚に移行させた場合に比べて、TEWLの変化量(ΔTEWL)が大きくなり、実施例1の方が比較例1よりもスキンケア効果が高いことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用時に着用者の皮膚に当接する部材にスキンケア剤を施した吸収性物品において、
前記スキンケア剤として、吸収性物品を着用して該スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚に対する水の接触角が、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚に対する水の接触角と略同じとなるものを用いた、吸収性物品。
【請求項2】
前記スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚に対する水の接触角が、90度以上100度以下である請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記スキンケア剤は、エモリエント剤及びその固定化剤を含み、
前記エモリエント剤として下記式(I)で表されるアミド誘導体を用い、
前記固定化剤として炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールを用いた請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【化1】

【請求項4】
前記アミド誘導体と前記脂肪族モノアルコールとの合計質量に対して前記脂肪族モノアルコールを60〜90質量%用いた請求項3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記部材に施された前記アミド誘導体及び前記脂肪族モノアルコールの合計の坪量が0.3〜2g/m2である請求項3又は4に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記脂肪族モノアルコールがステアリルアルコールである請求項3ないし5のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記部材が表面シート又は防漏カフである請求項1ないし6のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項8】
着用時に着用者の皮膚に当接する部材にスキンケア剤を施した吸収性物品のスキンケア効果の評価方法であって、
吸収性物品を着用して前記スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚に対する水の接触角と、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚に対する水の接触角とを比較し、その大小関係に基づきスキンケア効果を評価する、吸収性物品のスキンケア効果の評価方法。
【請求項9】
前記スキンケア剤が移行した状態での着用者の皮膚に対する水の接触角と、吸収性物品を着用する前の着用者の皮膚に対する水との接触角とが略同じ場合は吸収性物品のスキンケア効果が高いと評価し、異なる場合は吸収性物品のスキンケア効果が高くないと評価する請求項8に記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−111396(P2013−111396A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262634(P2011−262634)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】