説明

吸収性物品

【課題】べたつき感を生じさせることなく、スキンケア効果を発現することができる吸収性物品を提供すること。
【解決手段】着用時に着用者の肌に当接する部材に、エモリエント剤及びその固定化剤を含むスキンケア組成物が施されてなる吸収性物品である。エモリエント剤としてジアミド誘導体を用い、固定化剤として炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールを用いた。TOF−SIMSを用いたフラグメントイオンの測定において、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値ITに対するジアミド誘導体に由来するフラグメントイオン強度IDの比率ID/ITが0.1×10-2〜0.3×10-2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケア剤の塗布された吸収性物品が種々提案されている。例えば特許文献1には、トップシートの外側表面の少なくとも一部に、20℃において半固体又は固体であり、部分的に着用者の皮膚へ移ることができる有効量のローションコーティングを適用することが記載されている。ローションコーティングは、ポリシロキサンエモリエント剤と、該エモリエント剤を固定化し得る固定化剤を含むものである。固定化剤としては、例えばC14〜C22脂肪アルコールが用いられる。
【0003】
本発明者らもまた、スキンケア剤の塗布された吸収性物品を提案している(特許文献2参照)。この吸収性物品においては、表面シートに水溶性スキンケア剤が存在し、該水溶性スキンケア剤上であって該水溶性スキンケア剤よりも肌側に、特定のジアミド誘導体からなる油性スキンケア剤が存在している。この吸収性物品においては、該物品を着用した初期段階では、着用者の肌との接触によって油性スキンケア剤が着用者の肌へ移行し、これによって物品と肌との摩擦が低減されて、摩擦によって肌が傷つけられることが防止される。物品の着用後においては、油性スキンケア剤の下にあった水溶性スキンケア剤が排泄を契機に着用者の肌へ移行してそのスキンケア効果が発現するので、尿や便との接触に起因する肌のかぶれが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−509895号公報
【特許文献2】特開2004−255164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の各吸収性物品においては、表面シートに施されたスキンケア剤中に油性物質が含まれているので、該スキンケア剤を施す量によっては、該油性物質に起因して表面シートにべたつきが生じることがある。べたつき感を低減させるためにはスキンケア剤を施す量を減らせばいいが、その場合には十分なスキンケア効果が発現しない。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、着用時に着用者の肌に当接する部材に、エモリエント剤及びその固定化剤を含むスキンケア組成物が施されてなる吸収性物品において、
前記エモリエント剤として下記式(I)で表されるジアミド誘導体を用い、
前記固定化剤として炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールを用い、
前記部材を対象とするTOF−SIMSを用いたフラグメントイオンの測定において、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値ITに対する前記ジアミド誘導体に由来するフラグメントイオン強度IDの比率ID/ITが0.1×10-2〜0.3×10-2である吸収性物品を提供するものである。
【0008】
【化1】

【発明の効果】
【0009】
本発明の吸収性物品は、べたつき感を生じさせることなく、スキンケア効果を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の吸収性物品におけるスキンケア組成物の存在状態を示す模式図である。
【図2】図2は、従来の吸収性物品におけるスキンケア組成物の存在状態を示す模式図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、実施例及び比較例におけるスキンケア組成物の存在状態を示すTOF−SIMSによるイメージ像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の吸収性物品は、着用者の肌に近い側に位置し、かつ着用者の肌に対向する表面シートと、着用者の肌から遠い側に位置する裏面シートとを有している。両シートの間には、液保持性の吸収体が配置されている。必要に応じ、表面シート上の左右両側部に一対の防漏カフが配置されることもある。
【0012】
表面シート及び裏面シートとしては、当該技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。例えば表面シートとしては、例えば液透過性を有する親水性の不織布や穿孔フィルムなどを用いることができる。これらの不織布やフィルムは一般に熱可塑性樹脂から構成されている。裏面シートとしては、例えば液不透過性のフィルムや、液難透過性の不織布などを用いることができる。液不透過性のフィルムは透湿性を有していてもよい。
【0013】
吸収体としては、フラップパルプの積繊体や、フラッフパルプと高吸収性ポリマーとの混合積繊体を用いることができる。吸収体は、物品の全域にわたって同じ厚みを有していてもよく、あるいは一部分、例えば着用者の排泄部に対向する部分が他の部分よりも厚くなっていてもよい。吸収体の坪量に関しても同様であり、物品の全域にわたって同じ坪量を有していてもよく、あるいは一部分、例えば着用者の排泄部に対向する部分が他の部分よりも高坪量になっていてもよい。
【0014】
吸収性物品は、着用時に着用者の肌に当接する部材にスキンケア組成物が施されている。スキンケア組成物は、吸収性物品の着用中における着用者の肌のかぶれ等の肌トラブルを抑制する目的で使用される。この目的のため、スキンケア組成物は、着用時に着用者の肌に当接する部材である表面シートや防漏カフに施されることが好ましい。
【0015】
スキンケア組成物を例えば表面シートに施す場合、該スキンケア組成物を該表面シートの全域にまんべんなく施すことができる。あるいは、スキンケア組成物の存在域と非存在域とが形成されるように該スキンケア組成物を不連続に施すことができる。後者の場合、例えばスキンケア組成物の存在域と非存在域とが、所定の幅をもって吸収性物品の長手方向に延び、かつ両域が吸収性物品の幅方向に沿って交互に配置されるように、これらを形成することができる。
【0016】
スキンケア組成物は、エモリエント剤及びその固定化剤を含んでいる。エモリエント剤とは、例えば肌を軟化あるいは柔軟にしたり、肌を潤滑させたり、肌に湿気を付与したり、肌を保湿したり、肌を清浄にしたりするなどの肌の健康状態を向上させる働きを有する物質全般を包含する。本発明においては、スキンケア効果が特に高い点から、前記の式(I)で表されるジアミド誘導体をエモリエント剤として用いている。
【0017】
式(I)で表されるジアミド誘導体は、主に、吸収性物品の着用開始によって着用者の肌に移行して排泄物が着用者の肌に直接触れるのを抑制する。これによって排泄物の肌への浸透を抑制してかぶれの発生を抑える。また、肌と吸収性物品との摩擦を弱め、吸収性物品による肌への刺激や肌の傷つきを低減させるとともに、経皮吸収された後には肌を柔軟化し、あるいは肌のバリア機能を高めるという働きも有する。
【0018】
式(I)で表されるジアミド誘導体からなるエモリエント剤の固定化剤は、吸収性物品における着用者の肌に当接する部材、例えば表面シートや防漏カフに施されたエモリエント剤を、該部材に固定する目的で用いられる。この目的のために固定化剤は油性の物質であることが好ましい。そのような物質としては、例えば炭素数14〜22の脂肪族モノアルコール、炭素数12〜22の脂肪族モノカルボン酸、該カルボン酸と炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとのエステルなどが知られている。本発明者ら検討した結果、これらの物質のうち、炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールを固定化剤として用いると、式(I)で表されるジアミド誘導体に起因するべたつき感の発生を効果的に低減できることが判明した。また、式(I)で表されるジアミド誘導体の固定化効果が特に高くなることも判明した。
【0019】
固定化剤として用いられる炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとしては、例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール及びステアリルアルコールなどの飽和脂肪族モノアルコールや、オレイルアルコール及びリノリルアルコールなどの不飽和脂肪族モノアルコールなどを用いることができる。これらのアルコールは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。飽和脂肪族モノアルコール及び不飽和脂肪族モノアルコールのうち、飽和脂肪族モノアルコールを用いることが、式(I)で表されるジアミド誘導体に起因するべたつき感の発生を効果的に低減できる点から好ましい。飽和脂肪族モノアルコールとしては、特にセチルアルコール及びステアリルアルコールを用いると、式(I)で表されるジアミド誘導体に起因するべたつき感の発生を一層効果的に低減できる。とりわけステアリルアルコールを用いることが有利である。
【0020】
本発明者らの検討の結果、前記の固定化剤及び式(I)で表されるジアミド誘導体を含むスキンケア組成物のべたつき感は、該スキンケア組成物が施される基剤の表面における該スキンケア組成物の存在状態に依存することが判明した。詳細には、図1に模式的に示すように、基材Mの表面にスキンケア組成物Sが不連続的に、かつ離散的に存在している場合には、べたつき感が発生しづらいことが判明した。なお基材Mは、例えば繊維やフィルムからなる。これに対して、図2に模式的に示すように、基材Mの表面にスキンケア組成物Sが膜状に連続して存在している場合には、べたつき感を知覚しやすいことが判明した。したがって、スキンケア組成物を施した吸収性物品にべたつき感を生じさせないようにするためには、図1に示す状態となるようにスキンケア組成物を施せばよい。後述する実施例において詳述するとおり、スキンケア組成物が図1に示す状態で存在している場合、個々のスキンケア組成物は1〜15μm程度の大きさで離散的に分布している(後述する図3(a)参照)。
【0021】
基材Mの表面におけるスキンケア組成物の存在状態を正確に観察できる手段に関して本発明者らが鋭意検討したところ、TOF−SIMSを用いることが有効であることが判明した。TOF−SIMSとは、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)のことである。TOF−SIMSは、固体試料の最表面にどのような成分(原子や分子)が存在するかを調べるための装置である。TOF−SIMSによればppmオーダーの極微量成分を検出することができる。検出対象物質は有機物及び無機物の双方である。またTOF−SIMSによれば、固体試料の表面に存在する成分の分布を調べることもできる。
【0022】
吸収性物品における着用者の肌に当接する部材にスキンケア組成物を施して、該部材の表面をTOF−SIMSを用いてフラグメントイオンの測定をすると、該部材の表面から検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値ITに対する前記ジアミド誘導体に由来するフラグメントイオン強度IDの比率ID/ITが、前記部材の表面におけるスキンケア組成物の存在状態と密接に関連していることが判明した。詳細には、ID/ITが0.1×10-2〜0.3×10-2、好ましくは0.1×10-2〜0.2×10-2である場合、スキンケア組成物の存在状態は概ね図1に示すようになり、該スキンケア組成物に起因するべたつき感が生じづらくなる。これに対してID/ITが0.3×10-2超である場合には、スキンケア組成物の存在状態は概ね図2に示すようになり、該スキンケア組成物に起因するべたつき感を知覚しやすくなる。ID/ITが0.1×10-2未満である場合には、べたつき感は生じづらくなるものの、式(I)で表される化合物の量が少なくなりすぎて、十分なスキンケア効果が発現しなくなってしまう。
【0023】
TOF−SIMSによって得られる情報は、測定対象表面から数nmの深さの部位である。したがって、式(I)で表されるジアミド誘導体が前記部材の表面に均一に存在するほど、TOF−SIMSで検出される該ジアミド誘導体に由来するフラグメントイオン強度IDは高くなる。このことを利用して、式(I)で表されるジアミド誘導体に由来するフラグメントイオン強度IDを全イオン強度ITで規格化した値を比較することで、スキンケア組成物が施されている部材での式(I)で表されるジアミド誘導体の存在状態を定性的に評価することができる。
【0024】
TOF−SIMSによる測定は真空中で行われる。式(I)で表されるジアミド誘導体は真空中で揮発しないが、固定化剤である炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールは真空中で揮発してしまうので、TOF−SIMSによるフラグメントイオンの強度測定を行うことができない。そこで本発明においては、該脂肪族モノアルコールを化学修飾して、TOF−SIMSによる測定を可能にしている。具体的には、以下の式(1)で表される反応によって脂肪族モノアルコール1と、ジメチルアミノフェニルイソシアネート2とを反応させて、化学修飾された化合物3を得る。該化合物3について、TOF−SIMSによるフラグメントイオンの強度測定を行う。脂肪族モノアルコールの化学修飾は、着用者の肌に当接する部材にスキンケア組成物を施した後に行うことができる。具体的な修飾の方法及びそれに引き続くTOF−SIMSの測定方法は、例えば特許4527603号公報に詳述されている。
【0025】
【化2】

【0026】
TOF−SIMSによる測定で得られたフラグメントイオン強度IDの比率ID/ITが上述した範囲となるようにするためには、式(I)で表されるジアミド誘導体と炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとの使用の比率を調節することが有利であることが判明した。具体的には、該脂肪族モノアルコールの使用量を、該ジアミド誘導体に対して相対的に多くすることが好ましい。特に、該ジアミド誘導体と該脂肪族モノアルコールとの合計質量に対して、該脂肪族モノアルコールを60〜90質量%、好ましくは70〜85質量%とすることで、ID/ITを上述した範囲に設定しやすくなり、その結果、べたつき感の抑制とスキンケア効果の発現とを首尾良くバランスさせることができる。
【0027】
式(I)で表されるジアミド誘導体と炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールとを混合してスキンケア組成物を得るためには、例えばこれらを60〜100℃に加熱して液状にした状態下に混合すればよい。このようにして得られたスキンケア組成物を、吸収性物品における着用者の肌に当接する部材である表面シートや防漏カフに施すためには、該スキンケア組成物を例えば60〜80℃に加熱して液状にした状態下に、塗布、噴霧、浸漬等の方法で該部材の表面に付着させればよい。具体的には、例えばダイスコーター方式、スロットスプレー方式、カーテンスプレー方式、メルトブローン方式、スパイラルスプレー方式、グラビア方式、ビード方式等を用いることができる。
【0028】
吸収性物品における着用者の肌に当接する部材にスキンケア組成物を直接施すことに代えて、間接的に施す手段を採用することもできる。例えば、吸収性物品における表面シートにスキンケア組成物を上述の各種の方法で直接施した後、該スキンケア組成物が施されていない防漏カフを該表面シートと当接させる。この当接によって、表面シートに施されていたスキンケア組成物の一部が防漏カフに移行して、間接的に防漏カフにスキンケア組成物が施される。なお、当接状態下に加圧を行ってスキンケア組成物の移行が促進するようにしてもよい。スキンケア組成物の移行においては、移行元である表面シートにおけるスキンケア組成物の存在状態が図1に示す状態であれば、移行先である防漏カフにおけるスキンケア組成物の存在状態も図1に示す状態となる。
【0029】
先に述べたとおりスキンケア組成物におけるジアミド誘導体と脂肪族モノアルコールとの使用比率は該スキンケア組成物の存在状態、すなわちフラグメントイオンの強度比ID/ITに影響を及ぼす。これとは対照的に、本発明者らの検討の結果、意外にも、吸収性物品における着用者の肌に当接する部材に施すスキンケア組成物の量は、該スキンケア組成物の存在状態に大きな影響を及ぼさないことが判明した。詳細には、スキンケア効果が十分に発現する使用量の範囲内においては、使用量の多少にかかわらず、フラグメントイオンの強度比ID/ITは大きく変化しないことが判明した。本発明において十分なスキンケア効果が発現するスキンケア組成物の使用量は、坪量で表して好ましくは0.3〜2g/m2、更に好ましくは0.5〜1g/m2である。
【0030】
吸収性物品における着用者の肌に当接する部材として表面シートにスキンケア組成物を施す場合には、それに先立ち、表面シートに親水化処理を施しておくことが好ましい。例えば表面シートが各種の不織布からなる場合には、該不織布の構成繊維の表面に親水化剤を付着させたり、該構成繊維中に親水化剤を練り込んだりすることで、親水化処理を行うことができる。その後に、繊維の表面にスキンケア組成物を上述の各種の方式で施せばよい。
【0031】
前記の表面シートは、排泄された液を円滑に吸収体へ透過させる特性が要求される。表面シートが撥水性であると液の透過を円滑に行うことができない。この目的のために、上述したとおり表面シートに親水化処理を施すことが好ましい。親水化処理を施すことは、表面シートのイオン交換水との接触角を小さくすることにつながる。この接触角について本発明者らが検討したところ、接触角の値が、先に述べた図1に示す状態と図2に示す状態とでは相違することが判明した。具体的には、図1に示す状態は、図2に示す状態に比べて接触角の値が小さく、表面シートは親水性が高くなることが判明した。このことから、表面シートに施されたスキンケア組成物の存在状態は、該スキンケア組成物が施された部材とイオン交換水との接触角によっても評価できることが判る。この評価法について本発明者らが検討したところ、スキンケア組成物が施された表面シートとイオン交換水との接触角が好ましくは60度以上90度以下、更に好ましくは60度以上75度以下である場合、スキンケア組成物は表面シート上において概ね図1に示す状態で存在していることが判明した。この接触角の範囲は、表面シートが液を円滑に透過する範囲でもある。
【0032】
接触角の具体的な測定方法は次のとおりである。接触角の測定には、例えば協和界面科学株式会社製の接触角計MCA−Jを用いる。具体的には、スキンケア組成物が施された表面シートに、親水化剤を塗布する。親水化剤塗布後の表面シート上に、イオン交換水を滴下(約20ピコリットル)した後、直ちに前記接触角計を用いて接触角度の測定を行う。測定は、親水化剤塗布後の表面シートの5箇所以上の箇所で行い、それらの平均値を接触角とする。測定温度は22℃とする。
【0033】
一般に、表面シートにスキンケア組成物を塗布すると、塗布された部位の接触角が90度を超え、該部位を通じての液の透過が起こりづらくなる。そこで従来は、スキンケア組成物を非塗布部位が存在するように多条のストライプ状に表面シートに塗布し、該非塗布部位を通じて液の透過を確保していた。これに対して本発明においては、表面シートの全面にスキンケア組成物を塗布しても、塗布部位を通じての液の透過が確保される。この理由は、スキンケア組成物が図1に示す状態で存在しているからである。表面シートの全面にスキンケア組成物を塗布できることは、十分なスキンケア効果の発現の点から極めて有利である。
【0034】
前記の表面シートを構成する不織布としては、例えば各種の熱可塑性樹脂から構成される繊維を含むものを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などを用いることができる。繊維は、これらの樹脂の単独繊維又は2種以上の樹脂を含むブレンド繊維や複合繊維であり得る。繊維の太さは概ね0.5〜8.9dtex、特に、概ね1〜5.6dtexの範囲内である。これらの繊維に加えて、天然繊維や半天然繊維を不織布中にブレンドすることもできる。不織布の坪量は、10〜60g/m2、特に15〜30g/m2とすることが好ましい。
【0035】
本発明で用いられるジアミド誘導体は、上述した式(I)で表されるものであるところ、式(I)において、R1は、炭素数1〜18のアルキル基;炭素数1〜18のモノ又はジ−ヒドロキシアルキル基;炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜18のアルキル基;及びヒドロキシ基と炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましい。特に炭素数1〜18のアルキル基;炭素数2〜12のモノ−又はジ−ヒドロキシアルキル基;炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数2〜12のアルキル基;ヒドロキシ基と炭素数1〜6のアルコキシ基で置換された炭素数2〜12のアルキル基であることが好ましい。R2は、特に炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、特に炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であることが好ましい。R3は、炭素数2〜34の直鎖又は分岐鎖の二価炭化水素基、特に炭素数2〜34の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基;及び1〜4個の二重結合を有する炭素数2〜34のアルケニレン基であることが好ましく、とりわけ炭素数2〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基;及び1〜4個の二重結合を有する炭素数2〜24のアルケニレン基であることが好ましい。式(I)で表されるジアミド誘導体は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
式(I)で表されるジアミド誘導体は、36℃における粘度が5000mPa・s以下、特に200〜5000mPa・s、とりわけ500〜2000mPa・sのものを使用するか、そのようになるように必要に応じて粘度調節したものを用いることが、該ジアミド誘導体の肌への移行性が良好となることから好ましい。粘度の測定は例えば以下のようにして行うことができる。
【0037】
音叉型振動式粘度計(本発明では代表的にVIBRO NISCOMETERCJV5000(株式会社エー・アンド・デイ社製)を使用)を用いて測定を行う。予め100℃程度に加熱したジアミド誘導体を室温まで徐冷し、36℃での粘度を測定する。
【0038】
式(I)で表されるジアミド誘導体に加えて、その他のエモリエント剤をスキンケア組成物に配合することもできる。そのような他のエモリエント剤としては、例えば流動パラフィン、シリコーンオイル、動植物油(オリーブ油、ホオバ油、ベニバナ油、スクワランおよびスクワレン等)、モノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライド、脂肪族エーテル(ミリスチル−1,3−ジメチルブチルエーテル、パルミチル−1,3−ジメチルブチルエーテル、ステアリル−1,3−ジメチルブチルエーテル、パルミチル−1,3−メチルプロピルエーテル、ステアリル−1,3−メチルプロピルエーテル等)、イソステアリル−コレステロールエステル、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0039】
更に本発明で用いるスキンケア組成物には必要に応じて、セラミド類、プソイドセラミド、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴリン脂質等を配合してもよい。セラミド類には、脳や皮膚から抽出、精製された天然セラミドと、微生物学的方法又は化学的方法によって合成された合成セラミドとが含まれる。プソイドセラミドは、例えば特開昭62−228048号公報及び特開昭63−216852号公報等に記載された方法に従って製造することができる。プソイドセラミドとして好ましいものとしては、次の式(2)で表わされる化合物が挙げられる。
【0040】
【化3】

【0041】
スフィンゴ糖脂質及びスフィンゴリン脂質には、前記のセラミド類と同様に、天然由来のものと合成物とがある。スフィンゴ糖脂質としては、例えば、構成糖がグルコース、マンノース、ガラクトース、グルクロン酸、グルコサミン等からなるものが挙げられ、セレブロシド及びその硫酸エステルも含まれる。スフィンゴリン脂質としてはスフィンゴミエリンが例示される。
【0042】
本発明の吸収性物品の具体例としては、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、パンティライナー、おりものシート等が挙げられるが、これらに限られず、人体から排泄される排泄物の吸収保持に用いられる物品を広く包含する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「部」は及び「質量部」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
(1)スキンケア組成物の調製
スキンケア組成物におけるエモリエント剤として、以下の式(II)で表されるジアミド誘導体を用いた。このジアミド誘導体の36℃での粘度は1800mPa・sであった。このジアミド誘導体の固定化剤としてステアリルアルコールを用いた。ジアミド誘導体とステアリルアルコールと80℃に加熱して溶融させ均一に混合した。使用量は、ジアミド誘導体2部に対してステアリルアルコール8部とした。このようにしてスキンケア組成物を得た。
【0045】
【化4】

【0046】
(2)モデル吸収性物品の製造
【0047】
モデル吸収性物品として、使い捨ておむつの表面シートに、前記の(1)で得られたスキンケア組成物を施したものを作製した。表面シートとしては、芯成分がポリプロピレンで、鞘成分がポリエチレンである繊度3.3dtexの芯鞘型複合繊維を原料とする坪量30g/m2のエアスルー不織布を使用した。この不織布の原料繊維には、予め親水化剤による親水化処理を施しておいた。この不織布に、スプレーコーターを用いて前記の(1)で得られたスキンケア組成物を不織布の全面に施した。スプレーコーターの塗工は、スキンケア組成物を80℃に加熱溶融させて行った。スキンケア組成物の塗工量は、50μg/cm2(0.5g/m2)とした。
【0048】
(3)ステアリルアルコールの化学修飾
特許4527603号公報に記載の方法に従いスキンケア組成物中のステアリルアルコールを化学修飾した。すなわち、スキンケア組成物が施された前記の不織布を1×1cm程度にカットした。これを900mlの密閉容器に入れた。修飾試薬として4−(ジメチルアミノ)フェニルイソシアネートを30mg用いた。また触媒として、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン(DBU)を5.0μl用いた。これらを先の密閉容器に入れた。不織布をこの密閉容器内で25℃/24時間静置することで気相反応を行い、ステアリルアルコールを化学修飾した。
【0049】
(4)TOF−SIMSによる測定
測定装置としてION−TOF社製のTOF−SIMS IVを用いた。測定条件は次のとおりとした。
1次イオン源:
Bi3 2+ 25keV,電流量0.3pA(DC換算)
Pulse width 100nsec.,高空間分解能モードで測定
2次イオン取り込み条件:
Positive ion scan Time Resolution 100psec, Cycle time 100μsec
測定領域:150×150μm,ピクセル数:128×128pixel,スキャン回数:100回
測定中は帯電緩和を行うため、電子銃を使用した。
フラグメントイオンの強度測定において、ジアミド誘導体は質量数513のフラグメントイオンのピークで検出し、ステアリルアルコールは修飾物である質量数433のフラグメントイオンのピークで検出した。
【0050】
(5)評価
TOF−SIMSによるイオン強度比ID/ITの測定結果を以下の表1に示す。またTOF−SIMSによって得られた不織布表面におけるスキンケア組成物の存在状態のイメージ像を図3(a)に示す。また、先に述べた方法で測定した接触角の値を同表に示す。更に、以下の方法で行ったべたつき感の官能評価の結果も同表に示す。
【0051】
〔べたつき感の官能評価〕
スキンケア組成物を施した表面シートを、赤ちゃんの母親10名に手で触ってもらい、以下の基準でべたつき感を評価させた。
○:べたつかない
×:べたつく(少しでもべたつきを感じたら×)
【0052】
〔比較例1〕
ジアミド誘導体5部に対してステアリルアルコール5部を使用してスキンケア組成物を調製した。これ以外は実施例1と同様にして不織布にスキンケア組成物を施した。そしてこの不織布について実施例1と同様の評価を行った。その結果を以下の表1に示す。またTOF−SIMSによって得られた不織布表面におけるスキンケア組成物の存在状態のイメージ像を図3(b)に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1の不織布はべたつき感の発生が抑制されたものであることが判る。これに対して、比較例1の不織布はべたつき感が知覚されるものであることが判る。また図3(a)及び(b)に示す像から、実施例1の不織布は、スキンケア組成物が不連続に塊状になって離散的に分布しているのに対して、比較例1の不織布は、スキンケア組成物が繊維の表面に連続して存在していることが判る。なお、図3(a)及び(b)において明るい白の部位がジアミド誘導体が存在している部位であり、灰色の部位がステアリルアルコールが存在している部位である。
【符号の説明】
【0055】
M 基材
S スキンケア組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用時に着用者の肌に当接する部材に、エモリエント剤及びその固定化剤を含むスキンケア組成物が施されてなる吸収性物品において、
前記エモリエント剤として下記式(I)で表されるジアミド誘導体を用い、
前記固定化剤として炭素数14〜22の脂肪族モノアルコールを用い、
前記部材を対象とするTOF−SIMSを用いたフラグメントイオンの測定において、検出されるすべてのフラグメントイオンの強度の合計値ITに対する前記ジアミド誘導体に由来するフラグメントイオン強度IDの比率ID/ITが0.1×10-2〜0.3×10-2である吸収性物品。
【化1】

【請求項2】
前記ジアミド誘導体と前記脂肪族モノアルコールとの合計質量に対して前記脂肪族モノアルコールを60〜90質量%用いた請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記スキンケア組成物が施された前記部材とイオン交換水との接触角が60度以上90度以下である請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記部材に施された前記ジアミド誘導体及び前記脂肪族モノアルコールの合計の坪量が0.3〜2g/m2である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記脂肪族モノアルコールがステアリルアルコールである請求項1ないし4のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記部材が表面シート又は防漏カフである請求項1ないし5のいずれか一項に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−125292(P2012−125292A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277057(P2010−277057)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】