説明

吸収性物品

【課題】トップシートの突条部の頂部が着用者の肌に張り付くことを抑制することができる吸収性物品を提供する。
【解決手段】本発明は、肌側に設けられた液透過性のトップシート2Aと、着衣側に設けられた液不透過性のバックシートと、トップシートとバックシートとの間に設けられた液保持性の吸収体とを備えた吸収性物品であって、トップシート2Aの少なくとも肌側の面の少なくとも一部が、肌側の面に滑剤層27Aが形成された樹脂フィルムで形成されており、滑剤層27Aは、撥水性および/または撥油性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
着用者の体液を通過させるための開口部が複数形成されたポリオレフィンフィルムをトップシートとして使用した吸収性物品が知られている(たとえば、特許文献1)。着用者の体液はこの開口部を通過して吸収体に吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−515539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インドなどの国では、トイレにいるときに生理用ナプキンの表面に付着して経血をトイレットペーパーなどで拭き取ることによって、1つの生理用ナプキンを長時間使用する習慣がある。しかしながら、特許文献1に記載されているような従来の吸収性物品では、生理用ナプキンの表面に付着して経血をトイレットペーパーなどで拭き取った後もトップシートの表面に経血が多く残留してしまう場合がある。この場合、トップシートの表面に残留した経血のために、トイレで生理用ナプキンが見えるたびに生理用ナプキンに対して不潔感を抱く場合がある。
【0005】
本発明は、トップシートに付着した経血などの体液をトイレットペーパーなどで拭き取ったあとに残留する体液が少ない、または体液が残留しない吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を採用した。
すなわち、本発明は、肌側に設けられた液透過性のトップシートと、着衣側に設けられた液不透過性のバックシートと、トップシートとバックシートとの間に設けられた液保持性の吸収体とを備えた吸収性物品であって、トップシートの少なくとも肌側の面の少なくとも一部が、肌側の面に滑剤層が形成された樹脂フィルムで形成されており、滑剤層は、撥水性および/または撥油性を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トップシートに付着した体液をトイレットペーパーなどで拭き取ったあと、残留する体液が少ないか、または体液が残留しないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態の吸収性物品の部分破断平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線断面を示す模式断面図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態の吸収性物品のトップシートを説明するための図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施形態の吸収性物品のトップシートの製造方法を説明するための図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態の吸収性物品のトップシートの製造方法に使用される凹部形成ロールを説明するための図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施形態の吸収性物品のトップシートの製造方法に使用される延伸ギアロールを説明するための図である。
【図7】図7は、延伸ギアロールによって延伸される樹脂フィルムを説明するための図である。
【図8】図8は、本発明の第1の実施形態の吸収性物品のトップシートの製造方法の各工程で変わる樹脂フィルムの形態を説明するための図である。
【図9】図9は、本発明の第1の実施形態の吸収性物品のトップシートを示す顕微鏡写真である。
【図10】図10は、本発明の第2の実施形態の吸収性物品のトップシートを説明するための図である。
【図11】図11は、本発明の第2の実施形態の吸収性物品のトップシートの製造方法を説明するための図である。
【図12】図12は、延伸ギアロールによって延伸される複合シートを説明するための図である。
【図13】図13は、樹脂フィルム層に開口部が形成されたトップシートの肌側の顕微鏡写真である。
【図14】図14は、樹脂フィルム層に開口部が形成されたトップシートの着衣側の顕微鏡写真である。
【図15】図15は、本発明の吸収性物品のトップシートの変形例を説明するための図である。
【図16】図16は、本発明の吸収性物品のトップシートの変形例を説明するための図である。
【図17】図17は、本発明のトップシートの変形例を説明するための図である。
【図18】図18は、実施例および比較例の表面を撮影した顕微鏡写真である。
【図19】図19は、実施例および比較例に高粘度人工経血を滴下して1分間放置した後の実施例および比較例の表面の状態を示す写真である。
【図20】図20は、実施例および比較例から高粘度人工経血を拭き取った後のトイレットペーパーの表面の状態を示す写真である。
【図21】図21は、トイレットペーパーを使用して高粘度人工経血を拭き取った後の実施例および比較例の表面の状態を示す写真である。
【図22】図22は、例1において、トップシートが血液改質剤を含む範囲を示す図である。
【図23】図23は、血液改質剤を含むまたは含まない経血の顕微鏡写真である。
【図24】図24は、表面張力の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施形態−
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施形態の吸収性物品を説明するが、本発明は図面に記載されたものに限定されるものではない。
図1は本発明の第1の実施形態の吸収性物品の部分破断平面図であり、図2は図1のA−A線断面を示す模式断面図である。吸収性物品1は、肌側に設けられた液透過性のトップシート2Aと、着衣側に設けられた液不透過性のバックシート3と、トップシート2Aとバックシート3との間に設けられた液保持性の吸収体4とを備える。バックシート3は、幅方向に延出して、一対のウイング部5を形成する。ウイング部5の着衣側に、粘着部6が設けられている。なお、図1において、吸収性物品1の幅方向はX軸方向であり、長手方向はY軸方向である。また、吸収性物品1の平面方向は、XY方向である。
【0010】
トップシート2Aは、着用者から排出された尿、経血などの体液を、吸収体4へ移動させる。トップシート2Aの少なくとも一部は液透過性を有し、体液を透過するための多数の開口部が形成された樹脂フィルムで作製される。トップシート2Aとして使用される樹脂フィルムは、オレフィンとアクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの他モノマーとの共重合体、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、酢酸セルロースなどから作製される。柔軟性が高く肌に対する刺激が少ない点から、トップシート2として使用される樹脂フィルムは、オレフィンと他モノマーとの共重合体、またはポリオレフィンがとくに好ましい。
【0011】
トップシート2Aの坪量は、好ましくは1g/m2以上、40g/m2以下であり、より好ましくは10g/m2以上、35g/m2以下である。また、トップシート2Aの厚さは、好ましくは0.01mm以上、0.4mm以下であり、より好ましくは0.1mm以上、0.35mm以下である。トップシート2Aの厚さが0.01mm未満の場合には、トップシート2Aの後述の隠ぺい性が小さくなりすぎてしまう場合があり、トップシート2Aの厚さが0.4mmを超える場合には、トップシート2Aの剛性が高くなり、着用者の肌に対するトップシート2Aの刺激が強くなりすぎてしまう場合がある。
【0012】
トップシート2Aは、吸収体4に吸収された体液が外部から見えないようにするため、隠ぺい性を有する。トップシート2Aの隠ぺい性は、酸化チタンなどのフィラーを樹脂に混ぜることによって生ずる。フィラーが酸化チタンの場合、酸化チタンの含有量は、樹脂フィルムの重量に対して、好ましくは1%以上、50%以下であり、より好ましくは3%以上、15%以下である。酸化チタンの含有量が樹脂フィルムの重量に対して1%未満であると、トップシート2Aにおける吸収体4に吸収された体液を隠ぺいする効果が小さすぎてしまう場合がある。酸化チタンの含有量が樹脂フィルムの重量に対して50%を超えると、酸化チタンを含有した樹脂のシート成形が困難になる場合がある。
【0013】
トップシート2Aは、着用者の肌とトップシート2Aとの間の接触面積を小さくしてトップシート2Aの肌触りを良好にするために、幅方向の断面が略波状になるように曲げられている。なお、トップシート2Aは、長手方向の断面が略波状になるように曲げられていてもよい。トップシート2Aは、断面が略波状になるように曲げられている。これにより、着用者がトイレットペーパーなどで経血などの体液を拭き取る際にトップシート2Aの表面に印加される圧力によって、トップシート2Aの略波状形状が変形してトップシート2Aが平坦になり、トップシート2Aの表面に付着した体液が拭き取りやすくなる。
【0014】
図3を参照して、トップシート2Aをさらに詳細に説明する。
幅方向の断面が略波状になるように曲げられたトップシート2Aは、長手方向に延びる突条部21Aと隣接する突条部21Aの間に配置された底部22Aとを有する。なお、突条部21Aが延びる方向は、長手方向に限定されない。突条部21Aは、着用者の肌に接する頂部23Aと側面の壁部24Aとを有する。突条部21Aの厚さ方向の高さ、すなわち、頂部23Aと底部22Aとの間の厚さ方向の高さの差は、好ましくは0.1mm以上、5mm以下である。頂部23Aと底部22Aとの間の厚さ方向の高さの差が0.1mm未満である場合は、吸収体4に一旦吸収された体液がトップシート2の後述の開口部25Aを通って逆戻りする場合がある。頂部23Aと底部22Aとの間の厚さ方向の高さの差が5mmより大きい場合は、着用者が吸収性物品1を着用したとき、突条部21Aが倒れてしまう場合がある。
【0015】
壁部24Aは、底部22Aに対して垂直ではなく、傾斜していることが好ましい。すなわち、底部22Aと壁部24Aとのなす角度は、好ましくは90°よりも大きい。しかし、底部22Aと壁部24Aとのなす角度は、好ましくは165°以下である。底部22Aと壁部24Aとのなす角度を90°以下にするには、樹脂フィルムを大きく塑性変形させなければならないので、底部22Aと壁部24Aとのなす角度が90°以下の場合、トップシート2Aの強度が非常に弱くなる場合がある。底部22Aと壁部24Aとのなす角度が165°より大きい場合、吸収体4に一旦吸収された体液がトップシート2Aの後述の開口部25Aを通って逆戻りしたり、後述の開口部25Aを通して吸収体4に吸収された体液が見えるようになり、トップシート2Aの隠ぺい性が小さくなったりする場合がある。
【0016】
トップシート2Aの壁部24Aは、突条部21Aの延びる方向(長手方向)に並ぶ複数の開口部25Aを有する。開口部25Aはトップシート2Aを貫通する穴であり、着用者の体液は、開口部25Aを通って吸収体4に吸収される。1つの開口部25Aの開口面積は、好ましくは0.001mm2以上、1mm2以下であり、より好ましくは0.01mm2以上、0.1mm2以下である。1つの開口部25Aの開口面積が0.001mm2よりも小さいと、着用者の体液は、開口部25Aを通らなくなる場合があり、1つの開口部25Aの開口面積が1mm2よりも大きいと、吸収体4に一旦吸収された体液がトップシート2Aの開口部25Aを通って逆戻りしたり、開口部25Aを通して吸収体4に吸収された体液が見えるようになり、トップシート2Aの隠ぺい性が小さくなったりする場合がある。
【0017】
トップシート2Aの面積に対する総開口面積の割合、すなわち、トップシート2Aの開口率は、好ましくは5%以上、20%以下である。トップシート2Aの開口率が5%よりも小さい場合、トップシート2Aにおける体液の透過性が悪くなる場合があり、トップシート2Aの開口率が20%よりも大きい場合、吸収体4に一旦吸収された体液がトップシート2Aの開口部25Aを通って逆戻りしたり、開口部25Aを通して吸収体4に吸収された体液が見えるようになり、トップシート2Aの隠ぺい性が小さくなったりする場合がある。
【0018】
開口部25Aは、頂部23A付近から底部22A付近にわたって形成されている。このため、一度の多量の体液が着用者から排出された場合でも、吸収性物品1は、その体液を吸収することができるので、吸収性物品1からの体液の漏れを抑制できる。
【0019】
トップシート2Aの頂部23Aは、突条部21Aの延びる方向(長手方向)に並ぶ複数の凹部26Aを有する。凹部26Aの平面方向の形状は、たとえば、菱形であり、この菱形の一辺の長さは、たとえば0.15mmであり、隣接する2つの凹部間距離は、たとえば0.34mmである。なお、凹部26Aの平面方向の形状は、菱形に限定されず、正方形、矩形形状、三角形、円形、星形、線状(直線状)などの形状でもよい。また、凹部26Aの大きさも0.15mm×0.15mmに限定されず、隣接する2つの凹部間距離も0.34mmに限定されない。凹部26Aの深さは、着用者の肌がトップシート2Aの頂部23Aに接したとき、着用者の肌が凹部26Aの底に接しないような深さであればとくに限定されない。トップシート2Aの底部22Aにも突条部21Aの延びる方向(長手方向)に並ぶ複数の凹部26Aがあるが、なくてもよい。
【0020】
頂部23Aに設けられた凹部26Aによって、着用者の肌と直接接触する頂部23Aの接触面積が低減するため、着用時の吸収性物品1の肌への張り付きが抑制され、着用者が違和感やかゆみなどを感じたり、かぶれなどの肌トラブルが着用者に発生したりすることが抑制される。また、後述の滑剤が凹部26Aの中に収納される。これにより、トップシート2Aに付着した経血などの体液をトイレットペーパーなどで拭き取った後も滑剤は凹部26Aの中に残り、凹部26Aに残った滑剤がトップシート2Aの表面に広がり、滑剤層27Aに滑剤が補充されることができる。
【0021】
トップシート2Aの表面に滑剤を塗布することによって、トップシート2Aの肌側の表面に滑剤層27Aが形成されている。この滑剤層27Aによって、トップシート2Aに付着した経血などの体液をトイレットペーパーなどで拭き取ったあと、残留する体液が少ないか、または体液が残留しないようにできる。なお、滑剤層27Aはトップシート2Aの全面に形成されていてもよいし、吸収性物品1における着用者の体液が排出される領域に対応する領域のみに滑剤層27Aはトップシート2Aに形成されていてもよい。すなわち、滑剤層27Aはトップシート2Aの表面の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0022】
滑剤層27Aは、撥水性および/または撥油性を有する。滑剤層27Aの滑剤は、トップシート2Aに撥水性および/または撥油性を付与できる化合物であればとくに限定されないが、好ましくは、フッ素化合物、シリコン化合物、または血液改質剤である。滑剤層27Aの滑剤は、さらに好ましくは、血液改質剤である。血液改質剤は、0〜0.60のIOBと、45℃以下の融点と、25℃における、0.05g以下の水溶解度を有する。
【0023】
血液改質剤の融点が45℃以下であるので、血液改質剤が固体の場合でも、30〜40℃の体液と接触した際に血液改質剤は液化する。体液とトップシート2Aとの間に液体状の血液改質剤が存在するので、トップシート2Aに付着した体液をトイレットペーパーなどで拭き取ったあと、残留する体液が少ないか、または体液が残留しないようにできると考えられる。
【0024】
血液改質剤は、血液の粘度および表面張力を下げるメカニズムを有する。これにより、高粘度の体液がトップシート2Aに付着した場合、付着した体液の粘度および表面張力が小さくなるので、付着した体液を容易に拭き取ることができる。
【0025】
IOB(Inorganic Organic Balance)は、親水性および親油性のバランスを示す指標であり、本明細書では、小田らによる次式:
IOB=無機性値/有機性値
により算出される値を意味する。
【0026】
上記無機性値と、有機性値とは、藤田穆「有機化合物の予測と有機概念図」化学の領域Vol.11,No.10(1957)p.719−725)に記載される有機概念図に基づく。
藤田氏による、主要な基の有機性値および無機性値を、以下の表1にまとめる。
【0027】
【表1】

【0028】
たとえば、炭素数14のテトラデカン酸と、炭素数12のドデシルアルコールとのエステルの場合には、有機性値が520(CH2,20×26個)、無機性値が60(−COOR,60×1個)となるため、IOB=0.12となる。
【0029】
上記血液改質剤において、IOBは、約0〜約0.60であり、約0〜約0.50であることが好ましく、約0〜約0.40であることがより好ましく、そして約0〜約0.30であることがさらに好ましい。IOBが低いほど、有機性が高く、血球との親和性が高くなると考えられるからである。
【0030】
本明細書において、「融点」は、示差走査熱量分析計において、昇温速度10℃/分で測定した場合の、固形状から液状に変化する際の吸熱ピークのピークトップ温度を意味する。上記融点は、たとえば、島津製作所社製のDSC−60型DSC測定装置を用い、昇温速度10℃/分で測定することができる。
【0031】
上記血液改質剤は、約45℃以下の融点を有すれば、室温で液体であっても、または固体であってもよい、すなわち、融点が約25℃以上でも、または約25℃未満でもよく、そしてたとえば、約−5℃、約−20℃等の融点を有することができる。上記血液改質剤の融点が約45℃以下である根拠は、後述する。
【0032】
上記血液改質剤は、その融点に下限は存在しないが、その蒸気圧が低いことが好ましい。上記血液改質剤の蒸気圧は、1気圧および25℃で約0.01Pa以下であることが好ましく、約0.001Pa以下であることがより好ましく、そして約0.0001Pa以下であることがさらに好ましい。本開示の吸収性物品が、人体に接して用いられることを考慮すると、上記蒸気圧は、1気圧および40℃で約0.01Pa以下であることが好ましく、約0.001Pa以下であることがより好ましく、そして約0.0001Pa以下であることがさらに好ましい。蒸気圧が高いと、保存中に気化し、血液改質剤の量の減少、着用時の臭気等の問題が発生する場合があるからである。
【0033】
また、血液改質剤の融点を、気候、着用時間の長さ等に応じて、使い分けることができる。たとえば、平均気温が10℃以下の地域では、約10℃以下の融点を有する血液改質剤を採用することにより、経血が排泄された後、周囲温度によって冷却された場合であっても、血液改質剤が、安定して血液を改質することができると考えられる。
また、吸収性物品が長時間にわたって使用される場合には、血液改質剤の融点は、45℃以下の範囲で高い方が好ましい。汗、着用時の摩擦等の影響を受けにくく、長時間着用した場合であっても、血液改質剤が移動しにくいからである。
【0034】
上記水溶解度は、25℃において、100gの脱イオン水に、0.05gの試料を添加して24時間静置し、24時間後に、必要に応じて軽く攪拌し、試料が溶解したか否かにより、0.05g以下の水溶解度を有するか否か判断することができる。
なお、本明細書では、水溶解度に関して、「溶解」には、試料が脱イオン水に完全に溶解し、均一混合物を形成した場合と、試料が完全にエマルション化した場合とが含まれる。なお、「完全」とは、脱イオン水に、試料の塊が存在しないことを意味する。
【0035】
当技術分野では、血液の表面張力等を変化させ、血液を迅速に吸収することを目的として、トップシートの表面を、界面活性剤でコーティングすることが行われている。しかし、界面活性剤は、一般に水溶解度が高いため、界面活性剤がコーティングされたトップシートは、血液中の親水性成分(血漿等)となじみがよく、むしろ血液をトップシートに残存させるようにはたらく傾向がある。上記血液改質剤は、水溶解度が低いため、従来公知の界面活性剤と異なり、血液をトップシートに残存させず、迅速に吸収体に移行させることができると考えられる。
【0036】
本明細書において、25℃における、100gの水に対する溶解度を、単に、「水溶解度」と称する場合がある。
上記血液改質剤は、約0gの水溶解度を有することができる。したがって、上記血液改質剤において、上記水溶解度の下限は、約0gである。
【0037】
上記血液改質剤の例として、以下の構造を有する化合物が挙げられる。
(i)炭化水素、
(ii)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入された化合物、または
(iii)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入され、かつ炭化水素上の少なくとも1つの水素原子が、カルボキシル基(−COOH)もしくはヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物。
【0038】
本明細書において、「炭化水素」は、炭素と水素とから成る化合物を意味し、鎖状炭化水素、たとえば、パラフィン系炭化水素(二重結合および三重結合を含まない、アルカンとも称される)、オレフィン系炭化水素(二重結合を1つ含む、アルケンとも称される)、アセチレン系炭化水素(三重結合を1つ含む、アルキンとも称される)、および二重結合および三重結合から成る群から選択される結合を2つ以上含む炭化水素、並びに環状炭化水素、たとえば、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素が挙げられる。
【0039】
上記炭化水素としては、鎖状炭化水素および脂環式炭化水素であることが好ましく、鎖状炭化水素であることがより好ましく、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、および二重結合を2つ以上含む炭化水素(三重結合を含まない)であることがさらに好ましく、そしてパラフィン系炭化水素であることが最も好ましい。
上記鎖状炭化水素には、直鎖状炭化水素および分岐鎖状炭化水素が含まれる。
【0040】
上記(ii)および(iii)の化合物において、エーテル結合(−O−)が2つ以上挿入されている場合には、エーテル結合(−O−)同士は隣接していない。したがって、上記(ii)および(iii)の化合物には、エーテル結合が連続する化合物(いわゆる、過酸化物)は含まれない。
【0041】
また、上記(iii)の化合物では、炭化水素上の少なくとも1つの水素原子が、カルボキシル基(−COOH)で置換された化合物よりも、炭化水素上の少なくとも1つの水素原子が、ヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物の方が好ましい。表1に示すように、カルボキシル基は、経血中の金属等と結合し、無機性値が150から、400以上へと大幅に上昇するため、カルボキシル基を有する血液改質剤は、使用時にIOBの値が約0.6を上回り、血球との親和性が低下する可能性があるからである。
【0042】
上記血液改質剤は、好ましくは、以下の構造を有する化合物であることができる。
(i’)炭化水素、
(ii’)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)、少なくとも1つのエステル結合(−COO−)、少なくとも1つのカーボネート結合(−OCOO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入された化合物、または
(iii’)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)、少なくとも1つのエステル結合(−COO−)、少なくとも1つのカーボネート結合(−OCOO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入され、かつ炭化水素上の少なくとも1つの水素原子が、カルボキシル基(−COOH)もしくはヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物。
【0043】
上記(ii’)および(iii’)の化合物において、2以上の結合が挿入されている場合、すなわち、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、カーボネート結合(−OCOO−)およびエーテル結合(−O−)から選択される2以上の結合が挿入されている場合には、各結合は隣接しておらず、各結合の間には、少なくとも、炭素原子が1つ介在する。
【0044】
上記血液改質剤は、さらに好ましくは、炭化水素中に、炭素原子10個当たり、カルボニル結合(−CO−)を約1.8個以下、エステル結合(−COO−)を2個以下、カーボネート結合(−OCOO−)を約1.5個以下、エーテル結合(−O−)を約6個以下、カルボキシル基(−COOH)を約0.8個以下、そして/またはヒドロキシル基(−OH)を約1.2個以下有する化合物であることができる。
【0045】
上記血液改質剤は、さらに好ましくは、
(A)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のカルボキシル基を有する化合物とのエステル、
(B)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエーテル、
(C)2〜4個のカルボキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエステル、
(D)炭化水素に、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、カーボネート結合(−OCOO−)およびエーテル結合(−O−)から成る群から選択されるいずれか1つが挿入された化合物、
(E)ポリC3~6アルキレングリコール、またはそのアルキルエステルもしくはアルキルエーテル、あるいは
(F)鎖状炭化水素、
であることができる。
以下、(A)〜(F)について詳細に説明する。
【0046】
[(A)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のカルボキシル基を有する化合物とのエステル]
(A)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のカルボキシル基を有する化合物とのエステル(以下、「化合物(A)」と称する場合がある)には、4個、3個、または2個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のカルボキシル基を有する化合物とのエステルが含まれ、上述のIOB、融点および水溶解度を有する範囲にある限り、全てのヒドロキシル基がエステル化されていなくともよい。
【0047】
上記2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物としては、たとえば、鎖状炭化水素テトラオール、たとえば、アルカンテトラオール、たとえば、ペンタエリトリトール、鎖状炭化水素トリオール、たとえば、アルカントリオール、たとえば、グリセリン、および鎖状炭化水素ジオール、たとえば、アルカンジオール、たとえば、グリコールが挙げられる。上記1個のカルボキシル基を有する化合物としては、たとえば、炭化水素上の1つの水素原子が、1つのカルボキシル基(−COOH)で置換された化合物、たとえば、脂肪酸が挙げられる。
化合物(A)としては、たとえば、(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル、(A2)鎖状炭化水素トリオールと脂肪酸とのエステル、および(A3)鎖状炭化水素ジオールと脂肪酸とのエステルが挙げられる。
【0048】
[(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル]
上記鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステルとしては、たとえば、次の式(1):
【化1】


のペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステル、次の式(2):
【化2】


のペンタエリトリトールと脂肪酸とのトリエステル、次の式(3):
【化3】


のペンタエリトリトールと脂肪酸とのジエステル、次の式(4):
【化4】


のペンタエリトリトールと脂肪酸とのモノエステルが挙げられる。
(式中、R1〜R4は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
【0049】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸(R1COOH、R2COOH,R3COOH,およびR4COOH)としては、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルが、上記IOB、融点および水溶解度の要件を満たすものであれば、特に制限されないが、たとえば、飽和脂肪酸、たとえば、C2〜C30の飽和脂肪酸、たとえば、酢酸(C2)(C2は、炭素数を示し、R1C、R2C,R3CまたはR4Cの炭素数に相当する、以下同じ)、プロパン酸(C3)、ブタン酸(C4)およびその異性体、たとえば、2−メチルプロパン酸(C4)、ペンタン酸(C5)およびその異性体、たとえば、2−メチルブタン酸(C5)、2,2−ジメチルプロパン酸(C5)、ヘキサン酸(C6)、ヘプタン酸(C7)、オクタン酸(C8)およびその異性体、たとえば、2−エチルヘキサン酸(C8)、ノナン酸(C9)、デカン酸(C10)、ドデカン酸(C12)、テトラデカン酸(C14)、ヘキサデカン酸(C16)、ヘプタデカン酸(C17)、オクタデカン酸(C18)、エイコサン酸(C20)、ドコサン酸(C22)、テトラコサン酸(C24)、ヘキサコサン酸(C26)、オクタコサン酸(C28)、トリアコンタン酸(C30)等、並びにこれらの異性体(上述のものを除く)が挙げられる。
【0050】
上記脂肪酸はまた、不飽和脂肪酸であることができる。上記不飽和脂肪酸としては、たとえば、C3〜C20の不飽和脂肪酸、たとえば、モノ不飽和脂肪酸、たとえば、クロトン酸(C4)、ミリストレイン酸(C14)、パルミトレイン酸(C16)、オレイン酸(C18)、エライジン酸(C18)、バクセン酸(C18)、ガドレイン酸(C20)、エイコセン酸(C20)等、ジ不飽和脂肪酸、たとえば、リノール酸(C18)、エイコサジエン酸(C20)等、トリ不飽和脂肪酸、たとえば、リノレン酸、たとえば、α-リノレン酸(C18)およびγ-リノレン酸(C18)、ピノレン酸(C18)、エレオステアリン酸、たとえば、α-エレオステアリン酸(C18)およびβ-エレオステアリン酸(C18)、ミード酸(C20)、ジホモ-γ-リノレン酸(C20)、エイコサトリエン酸(C20)等、テトラ不飽和脂肪酸、たとえば、ステアリドン酸(C20)、アラキドン酸(C20)、エイコサテトラエン酸(C20)等、ペンタ不飽和脂肪酸、たとえば、ボセオペンタエン酸(C18)、エイコサペンタエン酸(C20)等、並びにこれらの部分水素付加物が挙げられる。
【0051】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルとしては、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸に由来する、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステル、すなわち、ペンタエリトリトールと飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
また、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルとしては、IOBを小さくし、より疎水性とするために、ジエステル、トリエステルまたはテトラエステルであることが好ましく、トリエステルまたはテトラエステルであることがより好ましく、そしてテトラエステルであることが最も好ましい。
【0052】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、上記式(1)において、R1C、R2C、R3CおよびR4C部分の炭素数の合計が15の場合にIOBが0.60となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステルでは、上記炭素数の合計が約15以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのテトラエステルでは、たとえば、ペンタエリトリトールと、ヘキサン酸(C6)、ヘプタン酸(C7)、オクタン酸(C8)、たとえば、2−エチルヘキサン酸(C8)、ノナン酸(C9)、デカン酸(C10)および/またはドデカン酸(C12)とのテトラエステルが挙げられる。
【0053】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのトリエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのトリエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、上記式(2)において、R1C、R2CおよびR3C部分の炭素数の合計が19の場合にIOBが0.58となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのトリエステルでは、脂肪酸の炭素数の合計が約19以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0054】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのジエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのジエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、上記式(3)において、R1CおよびR2C部分の炭素数の合計が22の場合にIOBが0.59となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのジエステルでは、脂肪酸の炭素数の合計が約22以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0055】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのモノエステルでは、ペンタエリトリトールと脂肪酸とのモノエステルを構成する脂肪酸の炭素数、すなわち、上記式(4)において、R1C部分の炭素数が25の場合にIOBが0.60となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのモノエステルでは、脂肪酸の炭素数が約25以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
なお、上記計算に当たっては、二重結合、三重結合、iso分岐、およびtert分岐の影響は、考慮していない。
【0056】
上記ペンタエリトリトールと脂肪酸とのエステルの市販品としては、ユニスター H−408BRS、H−2408BRS−22(混合品)等(以上、日油株式会社製)が挙げられる。
【0057】
[(A2)鎖状炭化水素トリオールと脂肪酸とのエステル]
上記鎖状炭化水素トリオールと脂肪酸とのエステルとしては、たとえば、次の式(5):
【化5】


のグリセリンと脂肪酸とのトリエステル、次の式(6):
【化6】


のグリセリンと脂肪酸とのジエステル、および次の式(7):
【化7】


(式中、R5〜R7は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
のグリセリンと脂肪酸とのモノエステルが挙げられる。
【0058】
上記グリセリンと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸(R5COOH、R6COOHおよびR7COOH)としては、グリセリンと脂肪酸とのエステルが、上記IOB、融点および水溶解度の要件を満たすものであれば、特に制限されず、たとえば、「(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル」において列挙される脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸に由来する、グリセリンと脂肪酸とのエステル、すなわち、グリセリンと飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
また、上記グリセリンと脂肪酸とのエステルとしては、IOBを小さくし、より疎水性とするために、ジエステルまたはトリエステルであることが好ましく、そしてトリエステルであることがより好ましい。
【0059】
上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルは、トリグリセリドとも称され、たとえば、グリセリンとオクタン酸(C8)とのトリエステル、グリセリンとデカン酸(C10)とのトリエステル、グリセリンとドデカン酸(C12)とのトリエステル、およびグリセリンと、2種または3種の脂肪酸とのトリエステル、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0060】
上記グリセリンと、2種以上の脂肪酸とのトリエステルとしては、たとえば、グリセリンと、オクタン酸(C8)およびデカン酸(C10)とのトリエステル、グリセリンと、オクタン酸(C8)、デカン酸(C10)およびドデカン酸(C12)とのトリエステル、グリセリンと、オクタン酸(C8)、デカン酸(C10)、ドデカン酸(C12)、テトラデカン酸(C14)、ヘキサデカン酸(C16)およびオクタデカン酸(C18)とのトリエステル等が挙げられる。
【0061】
上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルとしては、融点を約45℃以下とするために、グリセリンと脂肪酸とのトリエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、式(5)において、R5C、R6CおよびR7C部分の炭素数の合計が、約40以下であることが好ましい。
【0062】
また、上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルでは、グリセリンと脂肪酸とのトリエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、式(5)において、R5C、R6CおよびR7C部分の炭素数の合計が12の場合にIOBが0.60となる。したがって、上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルでは、脂肪酸の炭素数の合計が約12以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルは、いわゆる、脂肪であり、人体を構成しうる成分であるため、安全性の観点から好ましい。
【0063】
上記グリセリンと脂肪酸とのトリエステルの市販品としては、トリヤシ油脂肪酸グリセリド、NA36、パナセート800、パナセート800Bおよびパナセート810S、並びにトリC2L油脂肪酸グリセリドおよびトリCL油脂肪酸グリセリド(以上、日油株式会社製)等が挙げられる。
【0064】
上記グリセリンと脂肪酸とのジエステルは、ジグリセリドとも称され、たとえば、グリセリンとデカン酸(C10)とのジエステル、グリセリンとドデカン酸(C12)とのジエステル、グリセリンとヘキサデカン酸(C16)とのジエステル、およびグリセリンと、2種の脂肪酸とのジエステル、並びにこれらの混合物が挙げられる。
上記グリセリンと脂肪酸とのジエステルでは、グリセリンと脂肪酸とのジエステルを構成する脂肪酸の炭素数の合計、すなわち、式(6)において、R5CおよびR6C部分の炭素数の合計が16の場合にIOBが0.58となる。したがって、上記グリセリンと脂肪酸とのジエステルでは、脂肪酸の炭素数の合計が約16以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0065】
上記グリセリンと脂肪酸とのモノエステルは、モノグリセリドとも称され、たとえば、グリセリンのオクタデカン酸(C18)モノエステル、グリセリンのドコサン酸(C22)モノエステル等が挙げられる。
上記グリセリンと脂肪酸とのモノエステルでは、グリセリンと脂肪酸とのモノエステルを構成する脂肪酸の炭素数、すなわち、式(7)において、R5C部分の炭素数が19の場合にIOBが0.59となる。したがって、上記グリセリンと脂肪酸とのモノエステルでは、脂肪酸の炭素数が約19以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0066】
[(A3)鎖状炭化水素ジオールと脂肪酸とのエステル]
上記鎖状炭化水素ジオールと脂肪酸とのエステルとしては、たとえば、C2〜C6の鎖状炭化水素ジオール、たとえば、C2〜C6のグリコール、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコールまたはヘキシレングリコールと、脂肪酸とのモノエステルまたはジエステルが挙げられる。
【0067】
具体的には、上記鎖状炭化水素ジオールと脂肪酸とのエステルとしては、たとえば、次の式(8):
8COOCk2kOCOR9 (8)
(式中、kは、2〜6の整数であり、そしてR8およびR9は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
のC2〜C6グリコールと脂肪酸とのジエステル、および次の式(9):
8COOCk2kOH (9)
(式中、kは、2〜6の整数であり、そしてR8は、鎖状炭化水素である)
のC2〜C6グリコールと脂肪酸とのモノエステルが挙げられる。
【0068】
上記C2〜C6グリコールと脂肪酸とのエステルにおいて、エステル化すべき脂肪酸(式(8)および式(9)において、R8COOHおよびR9COOHに相当する)としては、C2〜C6グリコールと脂肪酸とのエステルが、上記IOB、融点および水溶解度の要件を満たすものであれば、特に制限されず、たとえば、「(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル」において列挙されている脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸が好ましい。
【0069】
式(8)に示されるブチレングリコール(k=4)と脂肪酸とのジエステルでは、R8CおよびR9C部分の炭素数の合計が6の場合に、IOBが、0.6となる。したがって、式(8)に示されるブチレングリコール(k=4)と脂肪酸とのジエステルでは、上記炭素数の合計が約6以上の場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。また、式(9)に示されるエチレングリコール(k=2)と脂肪酸とのモノエステルでは、R8C部分の炭素数が12の場合に、IOBが0.57となる。したがって、式(9)に示されるエチレングリコール(k=2)と脂肪酸とのモノエステルでは、脂肪酸の炭素数が約12以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0070】
上記C2〜C6グリコールと脂肪酸とのエステルとしては、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸に由来する、C2〜C6グリコールと脂肪酸とのエステル、すわなち、C2〜C6グリコールと飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
【0071】
また、上記C2〜C6グリコールと脂肪酸とのエステルとしては、IOBを小さくし、より疎水性とするために、炭素数の大きいグリコールに由来する、グリコールと脂肪酸とのエステル、たとえば、ブチレングリコール、ペンチレングリコールまたはヘキシレングリコールに由来するグリコールと脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
さらに、上記C2〜C6グリコールと脂肪酸とのエステルとしては、IOBを小さくし、より疎水性とするために、ジエステルであることが好ましい。
上記C2〜C6グリコールと脂肪酸とのエステルの市販品としては、たとえば、コムポールBL、コムポールBS(以上、日油株式会社製)等が挙げられる。
【0072】
[(B)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエーテル]
(B)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエーテル(以下、「化合物(B)」と称する場合がある)には、4個、3個、または2個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエーテルが含まれ、上述のIOB、融点および水溶解度を有する範囲にある限り、全てのヒドロキシル基がエーテル化されていなくともよい。
【0073】
上記2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物としては、「化合物(A)」において列挙されるもの、たとえば、ペンタエリトリトール、グリセリン、およびグリコールが挙げられる。
上記1個のヒドロキシル基を有する化合物としては、たとえば、炭化水素の1個の水素原子が、1個のヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物、たとえば、脂肪族1価アルコール、たとえば、飽和脂肪族1価アルコールおよび不飽和脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0074】
上記飽和脂肪族1価アルコールとしては、たとえば、C1〜C20の飽和脂肪族1価アルコール、たとえば、メチルアルコール(C1)(C1は、炭素数を示す、以下同じ)、エチルアルコール(C2)、プロピルアルコール(C3)およびその異性体、たとえば、イソプロピルアルコール(C3)、ブチルアルコール(C4)およびその異性体、たとえば、sec−ブチルアルコール(C4)およびtert−ブチルアルコール(C4)、ペンチルアルコール(C5)、ヘキシルアルコール(C6)、ヘプチルアルコール(C7)、オクチルアルコール(C8)およびその異性体、たとえば、2−エチルヘキシルアルコール(C8)、ノニルアルコール(C9)、デシルアルコール(C10)、ドデシルアルコール(C12)、テトラデシルアルコール(C14)、ヘキサデシルアルコール(C16)、へプラデシルアルコール(C17)、オクタデシルアルコール(C18)、およびエイコシルアルコール(C20)、並びにこれらの列挙されていない異性体が挙げられる。
上記不飽和脂肪族1価アルコールとしては、上記飽和脂肪族1価アルコールのC−C単結合の1つを、C=C二重結合で置換したもの、たとえば、オレイルアルコールが挙げられ、たとえば、新日本理化株式会社から、リカコールシリーズおよびアンジェコオールシリーズの名称で市販されている。
【0075】
化合物(B)としては、たとえば、(B1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、たとえば、モノエーテル、ジエーテル、トリエーテルおよびテトラエーテル、好ましくはジエーテル、トリエーテルおよびテトラエーテル、より好ましくはトリエーテルおよびテトラエーテル、そしてさらに好ましくはテトラエーテル、(B2)鎖状炭化水素トリオールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、たとえば、モノエーテル、ジエーテルおよびトリエーテル、好ましくはジエーテルおよびトリエーテル、そしてより好ましくはトリエーテル、並びに(B3)鎖状炭化水素ジオールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、たとえば、モノエーテルおよびジエーテル、そして好ましくはジエーテルが挙げられる。
【0076】
上記鎖状炭化水素テトラオールと脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、たとえば、次の式(10)〜(13):
【化8】


(式中、R10〜R13は、それぞれ、鎖状炭化水素である。)
の、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのテトラエーテル、トリエーテル、ジエーテルおよびモノエーテルが挙げられる。
【0077】
上記鎖状炭化水素トリオールと脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、たとえば、次の式(14)〜(16):
【化9】


(式中、R14〜R16は、それぞれ、鎖状炭化水素である。)
の、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのトリエーテル、ジエーテルおよびモノエーテルが挙げられる。
【0078】
上記鎖状炭化水素ジオールと脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、次の式(17):
17OCn2nOR18 (17)
(式中、nは、2〜6の整数であり、そしてR17およびR18は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
のC2〜C6グリコールと脂肪族1価アルコールとのジエーテル、および次の式(18):
17OCn2nOH (18)
(式中、nは、2〜6の整数であり、そしてR17は、鎖状炭化水素である)
のC2〜C6グリコールと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルが挙げられる。
【0079】
上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのテトラエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのテトラエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、上記式(10)において、R10、R11、R12およびR13部分の炭素数の合計が4の場合にIOBが0.44となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのテトラエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数の合計が約4以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0080】
上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、上記式(11)において、R10、R11およびR12部分の炭素数の合計が9の場合にIOBが0.57となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数の合計が約9以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0081】
上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのジエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、上記式(12)において、R10およびR11部分の炭素数の合計が15の場合にIOBが0.60となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数の合計が約15以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0082】
上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数、すなわち、上記式(13)において、R10部分の炭素数が22の場合にIOBが0.59となる。したがって、上記ペンタエリトリトールと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数が約22以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0083】
また、上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルでは、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、式(14)において、R14、R15およびR16部分の炭素数の合計が3の場合にIOBが0.50となる。したがって、上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのトリエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数の合計が約3以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0084】
上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのジエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、式(15)において、R14およびR15部分の炭素数の合計が9の場合にIOBが0.58となる。したがって、上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数の合計が約9以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0085】
上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、グリセリンと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数、すなわち、式(16)において、R14部分の炭素数が16の場合にIOBが0.58となる。したがって、上記グリセリンと脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数が約16以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0086】
式(17)に示されるブチレングリコール(n=4)と脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、R17およびR18部分の炭素数の合計が2の場合に、IOBが、0.33となる。したがって、式(17)に示されるブチレングリコール(n=4)と脂肪族1価アルコールとのジエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数の合計が2以上の場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。また、式(18)に示されるエチレングリコール(n=2)と脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、R17部分の炭素数が8の場合に、IOBが0.60となる。したがって、式(18)に示されるエチレングリコール(n=2)と脂肪族1価アルコールとのモノエーテルでは、脂肪族1価アルコールの炭素数が約8以上である場合に、IOBが約0〜約0.6の要件を満たす。
【0087】
化合物(B)としては、2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、脂肪族1価アルコール等の1個のヒドロキシル基を有する化合物とを、酸触媒の存在下で、脱水縮合することにより生成することができる。
【0088】
[(C)2〜4個のカルボキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエステル]
(C)2〜4個のカルボキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエステル(以下、「化合物(C)」と称する場合がある)には、4個、3個または2個のカルボキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエステルが含まれ、上述のIOB、融点および水溶解度を有する範囲にある限り、全てのカルボキシル基がエステル化されていなくともよい。
【0089】
上記2〜4個のカルボキシル基を有する化合物としては、たとえば、2〜4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素、たとえば、鎖状炭化水素ジカルボン酸、たとえば、アルカンジカルボン酸、たとえば、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸およびデカン二酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、たとえば、アルカントリカルボン酸、たとえば、プロパン三酸、ブタン三酸、ペンタン三酸、ヘキサン三酸、ヘプタン三酸、オクタン三酸、ノナン三酸およびデカン三酸、並びに鎖状炭化水素テトラカルボン酸、たとえば、アルカンテトラカルボン酸、たとえば、ブタン四酸、ペンタン四酸、ヘキサン四酸、ヘプタン四酸、オクタン四酸、ノナン四酸およびデカン四酸が挙げられる。
【0090】
また、上記2〜4個のカルボキシル基を有する化合物には、2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシ酸、たとえば、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸等、2〜4個のカルボキシル基を有するアルコキシ酸、たとえば、O−アセチルクエン酸、および2〜4個のカルボキシル基を有するオキソ酸が含まれる。
上記1個のヒドロキシル基を有する化合物としては、「化合物(B)」の項で列挙されるもの、たとえば、脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0091】
化合物(C)としては、(C1)4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素テトラカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸またはオキソ酸と、脂肪族1価アルコールとのエステル、たとえば、モノエステル、ジエステル、トリエステルおよびテトラエステル、好ましくはジエステル、トリエステルおよびテトラエステル、より好ましくはトリエステルおよびテトラエステル、そしてさらに好ましくはテトラエステル、(C2)3個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素トリカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸またはオキソ酸と、脂肪族1価アルコールとのエステル、たとえば、モノエステル、ジエステルおよびトリエステル、好ましくはジエステルおよびトリエステル、そしてより好ましくはトリエステル、並びに(C3)2個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素ジカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸またはオキソ酸と、脂肪族1価アルコールとのエステル、たとえば、モノエステルおよびジエステル、好ましくはジエステルが挙げられる。
化合物(C)の例としては、アジピン酸ジオクチル、リンゴ酸ジイソステアリル、クエン酸トリブチル、O−アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられ、そして市販されている。
【0092】
[(D)炭化水素に、エーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、およびカーボネート結合(−OCOO−)から成る群から選択されるいずれか1つが挿入された化合物]
(D)炭化水素に、エーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、およびカーボネート結合(−OCOO−)から成る群から選択されるいずれか1つが挿入された化合物(以下、「化合物(D)」と称する場合がある)としては、(D1)脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(D2)ジアルキルケトン、(D3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル、および(D4)ジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0093】
[(D1)脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル]
上記脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、次の式(19):
19OR20 (19)
(式中、R19およびR20は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
を有する化合物が挙げられる。
【0094】
上記エーテルを構成する脂肪族1価アルコール(式(19)において、R19OHおよびR20OHに相当する)としては、上記エーテルが、上記IOB、融点および水溶解度の要件を満たすものであれば、特に制限されず、たとえば、「化合物(B)」の項で列挙される脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0095】
脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテルでは、当該エーテルを構成する脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、上記式(19)において、R19およびR20部分の炭素数の合計が2の場合にIOBが0.50となるため、当該炭素数の合計が約2以上であれば、上記IOBの要件を満たす。しかし、上記炭素数の合計が6程度では、水溶解度が約2gと高く、蒸気圧の観点からも問題がある。水溶解度が約0.05g以下の要件を満たすためには、上記炭素数の合計が約8以上であることが好ましい。
【0096】
[(D2)ジアルキルケトン]
上記ジアルキルケトンとしては、次の式(20):
21COR22 (20)
(式中、R21およびR22は、それぞれ、アルキル基である)
を有する化合物が挙げられる。
【0097】
上記ジアルキルケトンでは、R21およびR22の炭素数の合計が5の場合にIOBが0.54となるため、当該炭素数の合計が約5以上であれば、上記IOBの要件を満たす。しかし、上記炭素数の合計が5程度では、水溶解度が約2gと高い。したがって、水溶解度が約0.05g以下の要件を満たすためには、上記炭素数の合計が約8以上であることが好ましい。また、蒸気圧を考慮すると、上記炭素数は、約10以上であることが好ましく、そして約12以上であることが好ましい。
なお、上記炭素数の合計が約8の場合、たとえば、5−ノナノンでは、融点は約−50℃であり、蒸気圧は20℃で約230Paである。
上記ジアルキルケトンは、市販されている他、公知の方法、たとえば、第二級アルコールを、クロム酸等で酸化することにより得ることができる。
【0098】
[(D3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル]
上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルとしては、たとえば、次の式(21):
23COOR24 (21)
(式中、R23およびR24は、それぞれ、鎖状炭化水素である)
を有する化合物が挙げられる。
【0099】
上記エステルを構成する脂肪酸(式(21)において、R23COOHに相当する)としては、たとえば、「(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル」において列挙されている脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸が好ましい。上記エステルを構成する脂肪族1価アルコール(式(21)において、R24OHに相当する)としては、たとえば、「化合物(B)」の項で列挙される脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0100】
なお、上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルでは、脂肪酸および脂肪族1価アルコールの炭素数の合計、すなわち、式(21)において、R23CおよびR24部分の炭素数の合計が5の場合にIOBが0.60となるため、上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルでは、R23CおよびR24部分の炭素数の合計が約5以上である場合に、上記IOBの要件を満たす。しかし、たとえば、上記炭素数の合計が6の酢酸ブチルでは、蒸気圧が2000Pa超と高い。したがって、蒸気圧を考慮すると、上記炭素数の合計が約12以上であることが好ましい。なお、上記炭素数の合計が約11以上であれば、水溶解度が約0.05g以下の要件を満たすことができる。
【0101】
上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルの例としては、たとえば、ドデカン酸(C12)と、ドデシルアルコール(C12)とのエステル、テトラデカン酸(C14)と、ドデシルアルコール(C12)とのエステル等が挙げられ、上記脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステルの市販品としては、たとえば、エレクトールWE20、およびエレクトールWE40(以上、日油株式会社製)が挙げられる。
【0102】
[(D4)ジアルキルカーボネート]
上記ジアルキルカーボネートとしては、次の式(22):
25OC(=O)OR26 (22)
(式中、R25およびR26は、それぞれ、アルキル基である)
を有する化合物が挙げられる。
【0103】
上記ジアルキルカーボネートでは、R25およびR26の炭素数の合計が6の場合にIOBが0.57となるため、R25およびR26の炭素数の合計が、約6以上であれば、IOBの要件を満たす。
水溶解度を考慮すると、R25およびR26の炭素数の合計が約7以上であることが好ましく、そして約9以上であることがより好ましい。
上記ジアルキルカーボネートは、市販されている他、ホスゲンとアルコールとの反応、塩化ギ酸エステルとアルコールまたはアルコラートとの反応、および炭酸銀とヨウ化アルキルとの反応により合成することができる。
【0104】
[(E)ポリC2~6アルキレングリコール、またはそのエステルもしくはエーテル]
上記ポリC2~6アルキレングリコール、またはそのエステルもしくはエーテル(以下、化合物(E)と称する場合がある)としては、(E1)ポリC2~6アルキレングリコール、(E2)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエステル、(E3)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(E4)ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラカルボン酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、または鎖状炭化水素ジカルボン酸とのエステル、および(E5)ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、または鎖状炭化水素ジオールとのエーテルが挙げられる。以下、説明する。
【0105】
[(E1)ポリC2~6アルキレングリコール]
(E1)ポリC2~6アルキレングリコールには、単一のグリコールのホモポリマーだけでなく、2種以上のグリコールのコポリマーおよびランダムポリマーも含まれる。グリコール種としては、C2~6アルキレングリコール、すなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、またはヘキシレングリコールが挙げられる。上記グリコール種としては、ポリC2~6アルキレングリコールのIOBを低くする観点から、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコールまたはヘキシレングリコールであることが好ましく、ブチレングリコール、ペンチレングリコールまたはヘキシレングリコールであることがより好ましい。
【0106】
なお、本明細書において、「ポリC2~6アルキレングリコール」は、C2~6アルキレングリコール、すなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコールおよびヘキシレングリコールから成る群から選択されるいずれか1種のホモポリマー、上記群から選択される2種以上のコポリマー、または上記群から選択される2種以上のランダムポリマーを意味する。
【0107】
上記ポリC2~6アルキレングリコールがホモポリマーである場合には、ポリC2~6アルキレングリコールは、次の式(23):
HO−(Cm2mO)n−H (23)
により表わされる。
【0108】
なお、本発明者が確認したところ、ポリエチレングリコール(式(23)において、m=2の場合に相当する)は、n≧45(おおよそ、分子量2,000超)の場合に、約0〜約0.60のIOBの要件を満たすものの、分子量が4,000を超えた場合であっても、水溶解度の要件を満たさなかった。したがって、(E1)ポリC2~6アルキレングリコールには、エチレングリコールのホモポリマーは含まれないと考えられ、エチレングリコールは、他のグリコールとのコポリマーまたはランダムポリマーとして、(E1)ポリC2~6アルキレングリコールに含まれるべきである。
【0109】
したがって、式(23)のホモポリマーには、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコールまたはヘキシレングリコールのホモポリマーが含まれうる。
以上より、式(23)において、mは、約3〜約6であり、そして約4〜約6であることがより好ましく、そしてnは1以上である。
【0110】
上記式(23)において、nの値は、ポリC2~6アルキレングリコールが、約0〜約0.60のIOBと、約45℃以下の融点と、25℃の水100gに対する、約0.05g以下の水溶解度とを有するような値である。
たとえば、式(23)がポリプロピレングリコール(m=3)である場合には、n=12の場合に、IOBが0.58となる。したがって、式(23)がポリプロピレングリコール(m=3)である場合には、m≧約12の場合に、上記IOBの要件を満たす。
また、式(21)がポリブチレングリコール(m=4)である場合には、n=7の場合に、IOBが0.57となる。したがって、式(23)がポリブチレングリコール(m=4)である場合には、n≧約7の場合に、上記IOBの要件を満たす。
【0111】
OB、融点および水溶解度の観点から、ポリC4~6アルキレングリコールの重量平均分子量は、好ましくは約200〜約10,000、より好ましくは約250〜約8,000、そしてさらに好ましくは、約250〜約5,000の範囲にある。
また、OB、融点および水溶解度の観点から、ポリC3アルキレングリコール、すなわち、ポリプロピレングリコールの重量平均分子量は、好ましくは約1,000〜約10,000、より好ましくは約3,000〜約8,000、そしてさらに好ましくは、約4,000〜約5,000の範囲にある。上記重量平均分子量が約1,000未満では、水溶解度が要件を満たさず、そして重量平均分子量が大きいほど、特に、吸収体移行速度およびトップシートの白さが向上する傾向があるからである。
【0112】
上記ポリC2~6アルキレングリコールの市販品としては、たとえば、ユニオール(商標)D−1000,D−1200,D−2000,D−3000,D−4000,PB−500,PB−700,PB−1000およびPB−2000(以上、日油株式会社製)が挙げられる。
【0113】
[(E2)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエステル]
上記ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエステルとしては、「(E1)ポリC2~6アルキレングリコール」の項で説明したポリC2~6アルキレングリコールのOH末端の一方または両方が、脂肪酸によりエステル化されているもの、すなわち、モノエステルおよびジエステルが挙げられる。
【0114】
ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエステルにおいて、エステル化すべき脂肪酸としては、たとえば、「(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル」において列挙されている脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が挙げられ、酸化等により変性する可能性を考慮すると、飽和脂肪酸が好ましい。
上記ポリC3~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエステルの市販品としては、たとえば、ウィルブライトcp9(日油株式会社製)が挙げられる。
【0115】
[(E3)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル]
上記ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪族1価アルコールとのエーテルとしては、「(E1)ポリC2~6アルキレングリコール」の項で説明したポリC2~6アルキレングリコールのOH末端の一方または両方が、脂肪族1価アルコールによりエーテル化されているもの、すなわち、モノエーテルおよびジエーテルが挙げられる。
ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪族1価アルコールとのエーテルにおいて、エーテル化すべき脂肪族1価アルコールとしては、たとえば、「化合物(B)」の項で列挙されている脂肪族1価アルコールが挙げられる。
【0116】
[(E4)ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラカルボン酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、または鎖状炭化水素ジカルボン酸とのエステル]
上記ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラカルボン酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、または鎖状炭化水素ジカルボン酸とのエステルにおいて、エステル化すべきポリC2~6アルキレングリコールとしては、「(E1)ポリC2~6アルキレングリコール」の項で説明したポリC2~6アルキレングリコールが挙げられる。また、エステル化すべき鎖状炭化水素テトラカルボン酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、および鎖状炭化水素ジカルボン酸としては、「化合物(C)」の項で説明されるものが挙げられる。
【0117】
上記ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラカルボン酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、または鎖状炭化水素ジカルボン酸とのエステルは、市販されているほか、鎖状炭化水素テトラカルボン酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、または鎖状炭化水素ジカルボン酸に、C2~6アルキレングリコールを、公知の条件で重縮合させることにより製造することができる。
【0118】
[(E5)ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、または鎖状炭化水素ジオールとのエーテル]
上記ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、または鎖状炭化水素ジオールとのエーテルにおいて、エーテル化すべきポリC2~6アルキレングリコールとしては、「(E1)ポリC2~6アルキレングリコール」の項で説明したポリC2~6アルキレングリコールが挙げられる。また、エーテル化すべき鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、および鎖状炭化水素ジオールとしては、「化合物(A)」の項で説明されるもの、たとえば、ペンタエリトリトール、グリセリン、およびグリコールが挙げられる。
【0119】
上記ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、または鎖状炭化水素ジオールとのエーテルの市販品としては、たとえば、ユニルーブ(商標)5TP−300KB,並びにユニオール(商標)TG−3000およびTG−4000(日油株式会社製)が挙げられる。
ユニルーブ(商標)5TP−300KBは、ペンタエリトリトール1モルに、プロピレングリコール65モルと、エチレングリコール5モルとを重縮合させた化合物であり、そのIOBは0.39であり、融点は45℃未満であり、そして水溶解度は0.05g未満であった。
【0120】
ユニオール(商標)TG−3000は、グリセリン1モルに、プロピレングリコール50モルを重縮合させた化合物であり、そのIOBは0.42であり、融点は45℃未満であり、水溶解度は0.05g未満であり、そして重量平均分子量は約3,000であった。
ユニオール(商標)TG−4000は、グリセリン1モルに、プロピレングリコール70モルを重縮合させた化合物であり、そのIOBは0.40であり、融点は45℃未満であり、水溶解度は0.05g未満であり、そして重量平均分子量は約4,000であった。
【0121】
上記ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、または鎖状炭化水素ジオールとのエーテルはまた、鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、または鎖状炭化水素ジオールに、C2~6アルキレングリコールを、公知の条件で重縮合させることにより製造することができる。
【0122】
[(F)鎖状炭化水素]
上記鎖状炭化水素は、上記無機性値が0であることから、IOBが0であり、そして水溶解度がほぼ0gであるので、融点が約45℃以下のものであれば、上記血液改質剤に含まれうる。上記鎖状炭化水素としては、たとえば、(F1)鎖状アルカン、たとえば、直鎖アルカンおよび分岐鎖アルカンが挙げられ、たとえば、直鎖アルカンの場合には、融点が約45℃以下であることを考慮すると、おおむね、炭素数が22以下のものが含まれる。また、蒸気圧を考慮すると、おおむね、炭素数が13以上のものが含まれる。分岐鎖アルカンの場合には、直鎖アルカンよりも、同一炭素数において、融点が低くなる場合があるため、炭素数が22以上のものも含まれうる。上記炭化水素の市販品としては、たとえば、パールリーム6(日油株式会社)が挙げられる。
【0123】
上記血液改質剤は、実施例とともに詳細に考察するが、血液の粘度および表面張力を下げるメカニズムを有すると考えられる。吸収性物品が吸収すべき経血は、通常の血液と比較して、子宮内膜壁等のタンパク質を含むため、それらが血球同士を繋ぐように作用して、血球が連銭した状態をとりやすい。そのため、吸収性物品が吸収すべき経血は、高粘度となりやすく、トップシートが不織布である場合には、経血が繊維の間に目詰まりしやすく、着用者はベタつき感を覚えやすく、そしてトップシートの表面で経血が拡散し、漏れやすくなる。
【0124】
本開示の吸収性物品では、トップシートが、血液の粘度および表面張力を下げるメカニズムを有すると考えられる血液改質剤を含むため、トップシートの繊維の間に経血が目詰まりしにくく、経血をトップシートから吸収体に迅速に移行させることが可能となる。
また、本開示の吸収性物品では、血液改質剤の融点が約45℃以下であることにより、常温(25℃)で液体であるか、または固体であるかを問わず、約30〜約40℃の体液と接触した際に液化し(または液体であり)、体液に溶解しやすくなると考えられる。
【0125】
さらに、IOBが約0〜約0.60である血液改質剤は、有機性が高く、血球の間に入り込みやすいので、血球を安定化させ、血球に連銭構造を形成しにくくすることができると考えられる。
上記改質剤が、血球を安定化させ、血球に連銭構造を形成しにくくすることにより、吸収体が経血を吸収しやすくなると考えられる。たとえば、アクリル系高吸収ポリマー、いわゆる、SAPを含む吸収性物品では、経血を吸収すると、連銭した血球がSAP表面を覆い、SAPが吸収性能を発揮しにくくなることが知られているが、血球を安定化することにより、SAPが吸収性能を発揮しやすくなると考えられる。また、赤血球と親和性の高い血液改質剤が、赤血球膜を保護するため、赤血球が破壊されにくくなると考えられる。
【0126】
上記吸収性物品において、トップシートは、上記血液改質剤を、好ましくは約1〜約30g/m2、より好ましくは約2〜約20g/m2、そしてさらに好ましくは約3〜約10g/m2の坪量の範囲で含む。血液改質剤の坪量が、約1g/m2を下回ると血液改質効果が不十分となる傾向があり、そして血液改質剤の坪量が多くなると、着用中のべたべた感が増加する傾向がある。
【0127】
上記血液改質剤の塗布方法は、特に制限されるものではなく、必要に応じて加熱され、たとえば、非接触式のコーター、たとえば、スパイラルコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ディップコーター等、接触式のコーター等により塗布されることができる。液滴状または粒子状の改質剤が全体に均一に分散される点、および資材にダメージを与えない観点から、非接触式のコーターが好ましい。また、上記血液改質剤は、室温で液体の場合にはそのまま、または粘度を下げるために加熱し、そして室温で固体の場合には液化するように加熱して、コントロールシームHMAガンから塗布することができる。コントロールシームHMAガンのエアー圧を高くすることにより、微粒子状の血液改質剤を塗布することができる。
【0128】
上記血液改質剤は、トップシートを製造する際に塗布されることができ、または吸収性物品を製造する製造ラインにおいて塗布されることもできる。設備投資を抑制する観点からは、吸収性物品の製造ラインにおいて、血液改質剤を塗布することが好ましく、血液改質剤が脱落し、ラインを汚染することを抑制するためには、製造ラインの川下工程、具体的には、製品を個包装に封入する直前に、血液改質剤を塗布することが好ましい。
【0129】
トップシートは、親水剤がコーティングされるか、または混合されることにより、親水化処理されていることが好ましい。元々の資材が親水性を有すると、次いで約0〜約0.60のIOBを有し、有機性が高くかつ親油性の改質剤が塗布されるため、親油性領域と、親水性領域とがまばらに共存することになる。それにより、親水性成分(血漿等)と、親油性成分(血球等)から成る経血に対して、一定の吸収性能を発揮することができると考えられる。
【0130】
上記血液改質剤は、約2,000以下の重量平均分子量を有することが好ましく、そして1,000以下の重量平均分子量を有することがより好ましい。重量平均分子量が高くなると、血液改質剤の粘度を、塗工に適した粘度に下げることが難しくなり、溶媒で希釈すべき場合が生ずるからである。また、数平均分子量が大きくなると、血液改質剤にタック性が生じ、着用者に不快感を与える場合があるからである。
【0131】
図1および図2に示すバックシート3は、吸収体4に吸収された体液が外へ漏れ出すのを防止する。バックシート3には、体液を透過しない材料が使用される。たとえば、バックシート3として、疎水性の不織布、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどの不透水性のプラスチックフィルムまたは不織布と不透水性プラスチックフィルムとのラミネートシートなどが使用される。また、耐水性の高いメルトブローン不織布を強度の強いスパンボンド不織布で挟んだSMS不織布をバックシート3として使用してもよい。体液は通さない通気性を有する材料をバックシート3として使用することにより、着用時のムレを低減させることができる。
【0132】
吸収体4は体液を吸収して保持する。吸収体4は、嵩高であり、型崩れし難く、化学的刺激が少ないものであることが好ましい。たとえば、吸収体4として、フラッフ状パルプもしくはエアレイド不織布と高吸収性ポリマー(SAP)とからなる複合吸収体が使用される。この複合吸収体は、ティッシュなどの液透過性の材料で覆われていてもよい。
【0133】
また、上記複合吸収体のフラッフ状パルプの代わりに、たとえば、化学パルプ、セルロース繊維、レーヨンおよびアセテートなどの人工セルロース繊維を使用してもよい。上記複合吸収体中のパルプなどの吸収性繊維の坪量は、好ましくは100g/m2以上、800g/m2以下であり、上記複合吸収体中の高吸収性ポリマーの質量比は、吸収性繊維を100%として好ましくは10%以上、65%以下である。上記複合混合体を覆うティッシュなど液透過性の材料の坪量は、好ましくは12g/m2以上、30g/m2以下である。
【0134】
上記複合混合体のエアレイド不織布として、たとえば、パルプと合成繊維とを熱融着させた不織布またはパルプと合成繊維とをバインダーで固着させた不織布を使用することができる。
【0135】
上記複合吸収体の高吸収性ポリマーは、水溶性高分子が適度に架橋した三次元網目構造を有する。この吸収性ポリマーは、水を吸収する前の吸収性ポリマーの体積に対して30〜60倍の水を吸収する。しかし、この吸収性ポリマーは本質的に水不溶性である。また、この吸収性ポリマーは、多少の圧力を加えられても、一旦吸収された水を離水しない。この吸収性ポリマーとして、たとえば、デンプン系、アクリル酸系またはアミノ酸系の粒子状または繊維状のポリマーが使用される。
【0136】
吸収体の形状および構造は必要に応じて変えることができるが、吸収体4の全吸収量は、吸収性物品1としての設計挿入量および所望の用途に対応させる必要がある。また、吸収体4のサイズや吸収能力などは用途に対応して変動される。
【0137】
ウイング部5は、吸収性物品1を下着に安定して固定するために吸収性物品1に設けられている。ウイング部5を下着の外面側に折り曲げた後、粘着部6を介して下着のクロッチ部に張り付けることによって、吸収性物品1を下着に安定して固定することができる。
【0138】
粘着部6は、吸収性物品1を下着のクロッチ部に固定する。粘着部6を形成する粘着剤としては、たとえばスチレン系ポリマー、粘着付与剤、可塑剤のいずれかが主成分であるものが好適に使用される。前記スチレン系ポリマーとしては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体などが挙げられるが、これらのうち1種のみを使用しても、二種以上のポリマーブレンドであってもよい。この中でも熱安定性が良好であるという点で、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体が好ましい。
【0139】
また、前記粘着付与剤および可塑剤としては、常温で固体のものを好ましく用いることができ、粘着付与剤ではたとえばC5系石油樹脂、C9系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、ロジン系石油樹脂、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂などが挙げられ、前記可塑剤ではたとえば、リン酸トリフレシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのモノマー可塑剤の他、ビニル重合体やポリエステルのようなポリマー可塑剤が挙げられる。
【0140】
ヒートエンボス加工によりトップシート2をバックシート3に接合させることによって、吸収性物品1の長手方向両側にシール部7が形成される。
【0141】
次に、図4を参照して、本発明の第1の実施形態における吸収性物品1のトップシート2Aの製造方法を説明する。図4は、本発明の第1の実施形態におけるトップシート2Aの製造方法に使用するトップシート製造装置100Aを説明するための図である。トップシート製造装置100Aは、凹部成形ロール120A、延伸ギアロール130および滑剤塗布スプレー140を含む。また、トップシート2Aの製造方法は、樹脂フィルムを用意する工程、凹部形成工程、ギア延伸工程および滑剤塗布工程を含む。
【0142】
樹脂フィルムを用意する工程では、不図示の樹脂フィルムのロールから供給された樹脂フィルム102Aを凹部形成ロール120Aに供給する。
【0143】
凹部形成工程では、加熱した樹脂フィルム102A(図8(a)参照)を凹部形成ロール120Aに通過させて、凹部104Aが形成された樹脂フィルム103A(図8(b)参照)を作製する。凹部形成ロール120Aは、ローレットロール121Aと平滑な表面を有する予熱ロール122Aとからなる。
【0144】
図5(a)および(b)は、ローレットロール121Aの一例を示す図である。図5(a)は、ローレットロール121Aの全体を示す図であり、図5(b)は、樹脂フィルム102Aが、ローレットロール121Aと平滑な表面を有するロール122Aとの間を通過するときに樹脂フィルム102Aと接するローレットロール121Aの表面の部分123Aを拡大した図である。図5(c)は、平滑な表面を有する予熱ロール122Aの一例を示す図である。ローレットロール121Aの表面123Aには、格子状の凸部124Aが設けられている。これにより、ローレットロール121Aの表面に菱形の凹部125Aが形成される。
【0145】
格子状の凸部124Aにおいて平行に並ぶ凸部124Aの中心線間隔、すなわち格子状の凸部124Aのピッチは、好ましくは、0.2mm以上、10mm以下であり、より好ましくは0.4mm以上、2mm以下である。格子状の凸部124Aのピッチが0.2mm未満、または10mmより大きい場合、樹脂フィルムに凹部が形成されない場合がある。また、格子状の凸部124Aの幅は、好ましくは0.01mm以上、1mm以下であり、より好ましくは0.03mm以上、0.1mm以下である。また、菱形の凹部125Aの一辺の長さは、好ましくは0.1mm以上、5mm以下であり、より好ましくは0.2mm以上、1mm以下である。格子状の凸部124Aの幅が0.01mm未満もしくは1mmより大きい場合、または菱形の凹部125Aの一辺の長さが0.1mm未満もしくは5mmより大きい場合、樹脂フィルムに凹部が形成されない場合がある。
【0146】
平滑な表面を有する予熱ロール122Aは、70℃以上、100℃以下の温度に保持されており、供給された樹脂フィルム102Aを加熱する。これにより、樹脂フィルム102Aは柔らかくなり、成形しやすくなる。
【0147】
樹脂フィルム102Aが、ローレットロール121Aと平滑な表面を有するロール122Aとの間を通過するとき、格子状の凸部124Aと接する部分では、樹脂フィルム102Aは厚さ方向に圧力を受け、図8(b)に示す略矩形形状の凹部104Aが樹脂フィルム102Aに形成される。なお、ローレットロール121Aの凹部125Aの形状は菱形に限定されず、正方形、長方形、平行四辺形、台形、三角形、六角形などの形状であってもよい。
【0148】
ギア延伸工程では、図4に示す延伸ギアロール130に、凹部を形成した樹脂フィルム103Aを通過させることによって、突条部21Aおよび開口部25Aを形成した樹脂フィルム105Aを作製する(図8(c)参照)。図6(a)は、延伸ギアロール130の上段ギアロール131を示す図である。図6(b)は、上段ギアロール131の外周面上に配置されたギア歯133を説明するための図である。ギア歯133は、上段ギアロール131の円周方向に延びている。樹脂フィルム103A(図8(b)参照)が延伸ギアロール130を通過したときに、樹脂フィルム103Aがギア歯133の角によって切断されるのを防ぐために、ギア歯133の角はR状に面取りされている。
【0149】
ギア歯133の幅は、たとえば0.3〜0.5mmであり、隣接するギア歯133の間の距離は、たとえば1.0〜1.2mmである。なお、ギアロール130の下段ギアロール132は、上段ギアロール131と同様の形状であるので、下段ギアロール132の詳細な説明は省略する。上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯とが噛み合っている部分における上段ギアロール131の径方向の長さ、すなわち噛み込み深さは、たとえば1.25mmである。上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯とが噛み合っているときの上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯との間の隙間は、たとえば、0.25〜0.45mmである。
【0150】
樹脂フィルム103Aが延伸ギアロール130を通過すると、樹脂フィルム103Aは略波状に曲げられ、突条部21Aが形成された樹脂フィルム105Aが作製される(図8(c)参照)。
【0151】
次に、図7を参照して、延伸ギアロール130に樹脂フィルム103Aを通過させたとき、樹脂フィルム103Aに開口部25Aが形成される原理を説明する。なお、この原理は、本発明を限定するものではない。
【0152】
樹脂フィルム103Aは、上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っている部分106Aで大きく延伸される。上述の凹部を形成する工程で凹部104Aが形成された部分は、樹脂フィルム103Aの坪量が急激に変わっている部分であるので、強度が弱く、樹脂フィルム103Aの凹部104Aは、延伸を受けると破れる。このため、樹脂フィルム103Aの延伸を受けた部分106Aでは、樹脂フィルム103Aの凹部104Aが破れて、樹脂フィルム103Aの破れた部分が広がり開口部25Aが形成される。
【0153】
樹脂フィルム103Aは、上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っていない部分107Aではあまり延伸されない。このため、樹脂フィルム103Aにおける上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っていない部分107Aでは、樹脂フィルム103Aが延伸ギアロール130を通過しても、上述の凹部形成工程で形成された凹部104Aは、破れず開口部にならない。そして、凹部を形成する工程で形成された凹部104Aは、少し延伸されてトップシート2の凹部26Aになる。
【0154】
樹脂フィルム103Aの上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っていない部分107Aは、トップシート2Aの突条部21の頂部23Aおよび底部22Aに対応する(図3参照)。樹脂フィルム103Aの上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っている部分106Aは、トップシート2Aの突条部21Aの壁部24Aに対応する(図3参照)。このため、トップシート2Aの突条部21Aの頂部23Aおよび底部22Aには凹部26Aが設けられ、トップシート2Aの突条部21Aの壁部24Aに開口部25Aが設けられる。
【0155】
トップシート2Aに用いられる樹脂フィルムは延伸されると、薄くなるので、隠ぺい性が弱くなる。したがって、吸収性物品1を肌側上方から見ると、吸収体4に吸収された体液はトップシート2Aの底部22Aおよび突条部21Aの頂部23Aに隠れて見えないが、吸収性物品1を斜め方向から見ると、トップシート2Aの突条部21Aの壁部24Aを透過して、および壁部24Aの開口部25Aを通して吸収体2に吸収された体液を見ることができる。したがって、吸収性物品1の交換の時期を判断したい場合は、吸収性物品1を斜め方向から見ることによって吸収体4に吸収された体液の量を確認することができ、これにより吸収性物品1の交換の時期を判断することができる。
【0156】
滑剤塗布工程では、滑剤塗布スプレー140を使用してギア延伸した樹脂フィルム105Aに上述の滑剤141を塗布して、表面に滑剤層27Aが形成された樹脂フィルム108Aを作製する(図8(d)参照)。滑剤の塗布量は、0.1g/m2以上、30.0g/m2以下であることが好ましく、1.0g/m2以上、10.0g/m2以下であることがさらに好ましい。滑剤の塗布量が、0.1g/m2未満であると、滑剤による体液の拭き取り性の効果が生じない場合がある。滑剤の塗布量が、30.0g/m2よりも大きいと、トップシート2Aの表面が濡れているような感触を着用者に与えてしまう場合がある。
【0157】
樹脂フィルム105Aの全面に滑剤を塗布してもよいし、吸収性物品における着用者の体液が排出される領域に対応する領域のみに滑剤を樹脂フィルム105Aに塗布してもよい。なお、滑剤を塗布する工程では、滑剤塗布スプレー140を使用した噴霧によって、樹脂フィルム105Aに滑剤141を塗布したが、印刷法、浸漬法などで滑剤141を樹脂フィルム105Aに塗布してもよい。
【0158】
トップシートの作製条件の例を以下に示す。
樹脂フィルムの材質:低密度ポリエチレン(LDPE)
樹脂フィルムの坪量:23.5g/m2または35.0g/m2
樹脂フィルムの厚さ:20μmまたは30μm
樹脂フィルム中の酸化チタンの含有量:2.9%または5%
予熱ロールの温度:80℃
ローレットロールの格子状の凸部のピッチ:0.4mm
ギア歯の幅:0.5mm
隣接するギア歯の間の距離:1.0mm
上段ギアロールのギア歯と下段ギアロールのギア歯との間の隙間:0.25mm
延伸ギアロールの噛み込み深さ:1.25mm
【0159】
ローレットロールの表面に設けられた格子状の凸部124Aおよび菱形の凹部125Aを図9(a)に示す。
【0160】
凹部形成ロール120Aを通過して樹脂フィルムに形成された凹部104Aを図9(b)に示す。凹部104Aの幅方向(CD)の長さは0.25mmであった。凹部104Aの幅方向(CD)のピッチは0.70mmであった。ここで、凹部104Aの幅方向のピッチとは、図9(b)の横方向に隣接する凹部104Aの幅方向の右端の間の距離である。
【0161】
延伸ギアロール130Aを通過して突条部の壁部24Aに形成された開口部25Aおよび突条部の頂部23Aに形成された凹部26を図9(c)に示す。なお、図9(c)は、樹脂フィルム全体に顕微鏡の焦点を合わせるために、略波状に曲がっている樹脂フィルムを延ばして撮影された。
【0162】
−第2の実施形態−
図面を参照して、本発明の第2の実施形態を説明するが、本発明は図面に記載されたものに限定されるものではない。なお、本発明の第1の実施形態と共通する部分には共通の符号を付し、本発明の第1の実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0163】
本発明の第2の実施形態の吸収性物品の構成は、トップシート以外、第1の実施形態の吸収性物品1と同じであるので、第2の実施形態の吸収性物品のトップシートについて主に説明する。
【0164】
図10は、第2の実施形態の吸収性物品のトップシート2Bの模式斜視図である。幅方向の断面が略波状になるように曲げられたトップシート2Bは、長手方向に延びる突条部21Bと隣接する突条部21Bの間に配置された底部22Bとを有する。なお、突条部21Bが延びる方向は、長手方向に限定されない。突条部21Bは、着用者の肌に接する面である頂部23Bと側面の壁部24Bとを有する。第2の実施形態の吸収性物品のトップシート2Bも断面が略波状になるように曲げられているので、着用者がトイレットペーパーなどで経血などの体液を拭き取る際にトップシート2Bの表面に印加される圧力によって、トップシート2Bの略波状形状が変形してトップシート2Bが平坦になり、トップシート2Bの表面に付着した体液が拭き取りやすくなる。
【0165】
トップシート2Bは、体液を透過するための多数の開口部34Bが設けられた樹脂フィルム層31Bと、樹脂フィルム層31Bの肌側に設けられた滑剤層33Bと、樹脂フィルム層31Bの着衣側に設けられた繊維集合層32Bとを含む。繊維集合層32Bは、突条部21Bの壁部24Bにおいて、基材破壊されている。ここで、基材破壊Bとは、繊維集合層32Bが裂けるなどの繊維集合層内部で生じる繊維集合層32Bの破壊である。
【0166】
樹脂フィルム層31Bとして使用される樹脂は、第1の実施形態の吸収性物品のトップシートと同様であるので、樹脂フィルム層31Bとして使用される樹脂の説明は省略する。
【0167】
樹脂フィルム層31Bの坪量は、好ましくは1g/m2以上、30g/m2以下であり、より好ましくは3g/m2以上、15g/m2以下である。また、樹脂フィルム層31Bの厚さは、好ましくは0.01mm以上、0.3mm以下であり、より好ましくは0.03mm以上、0.15mm以下である。樹脂フィルム層31Bの厚さが0.01mm未満の場合には、トップシート2Bの後述の隠ぺい性が小さくなりすぎてしまう場合があり、樹脂フィルム層31Bの厚さが0.3mmを超える場合には、トップシート2Bの剛性が高くなり、着用者の肌に対するトップシート2Bの刺激が強くなりすぎてしまう場合がある。また、樹脂フィルム層31Bの厚さが0.3mmを超える場合には、樹脂フィルム層31Bの強度が高くなりすぎてしまい、開口部34Bが樹脂フィルム層31Bに形成されない場合がある。
【0168】
トップシート2Bは、第1の実施形態の吸収性物品のトップシート2と同様に、吸収体に吸収された体液が外部から見えないようにするため、隠ぺい性を有する。トップシート2の隠ぺい性は、樹脂フィルム層31の隠ぺい性により生ずる。樹脂フィルム層31の隠ぺい性は、酸化チタンなどの無機フィラーを樹脂に混ぜることによって生ずる。フィラーが酸化チタンの場合、酸化チタンの含有量は、樹脂の重量に対して、好ましくは1%以上、50%以下であり、より好ましくは3%以上、15%以下である。酸化チタンの含有量が樹脂の重量に対して1%未満であると、トップシート2Bにおける吸収体に吸収された体液を隠ぺいする効果が小さすぎてしまう場合がある。酸化チタンの含有量が樹脂フィルムの重量に対して50%を超えると、酸化チタンを含有した樹脂を層状に成形することが困難になる場合がある。
【0169】
トップシート2Bの壁部24Bにおいて、樹脂フィルム層31Bは、突条部21Bの延びる方向(長手方向)に並ぶ複数の開口部34Bを有する。開口部34Bは樹脂フィルム層31Bを貫通する穴であり、着用者の体液は、開口部34Bを通って繊維集合層32Bに吸収され、そして吸収体に吸収される。開口部34Bの開口面積は、好ましくは0.0005mm2以上、1.5mm2以下であり、より好ましくは0.01mm2以上、0.5mm2以下である。開口部34Bの開口面積が0.0005mm2よりも小さいと、着用者の体液は、開口部34Bを通らなくなる場合があり、開口部34Bの開口面積が1.5mm2よりも大きいと、吸収体に一旦吸収された体液が樹脂フィルム層31Bの開口部34Bを通って逆戻りしたり、樹脂フィルム層31Bの開口部34B以外の部分の面積の割合が小さくなり、トップシート2Bの隠ぺい性が小さくなったりする場合がある。また、樹脂フィルム層31Bの開口部34Bの開口面積が1.5mm2よりも大きいと、トップシート2Bの強度が小さくなりすぎてしまう場合がある。
【0170】
樹脂フィルム層31Bの面積に対する総開口面積の割合、すなわち、樹脂フィルム層31Bの開口率は、好ましくは1%以上、10%以下である。樹脂フィルム層31Bの開口率が1%よりも小さい場合、トップシート2Bにおける体液の透過性が悪くなる場合があり、樹脂フィルム層31Bの開口率が10%よりも大きい場合、吸収体に一旦吸収された体液が樹脂フィルム層31Bの開口部34Bを通って逆戻りしたり、樹脂フィルム層31Bの開口部34B以外の部分の面積の割合が小さくなり、トップシート2Bの隠ぺい性が小さくなったりする場合がある。また、樹脂フィルム層31Bの開口率が10%よりも大きいと、トップシート2Bの強度が小さくなりすぎてしまう場合がある。
【0171】
繊維集合層32Bは、親水性繊維の集合体である紙および不織布などを含む。繊維集合層32Bとして使用される不織布は、好ましくはティッシュである。ここで、ティッシュとは、クラフトパルプやレーヨンなどを主成分として湿潤強度が与えられた坪量が10g/m2以上、20g/m2以下の薄葉紙をいう。繊維集合層32Bの厚さは、好ましくは0.1mm以上、0.5mm以下である。樹脂フィルム層31Bが親水性を有さなくても、繊維集合層32は、トップシート2Bに親水性を付与できる。また、繊維集合層32Bは、トップシート2Bに柔軟性を付与することができる。繊維集合層32Bにティッシュを用いる場合、ティッシュは、他の紙および不織布に比べて、価格が安く、また、市場に多く出回っているので調達しやすい。また、ティッシュの強度は低いが、樹脂フィルム層31Bとともに使用することで、トップシート2Bの繊維集合層32Bとしてティッシュを使用することができる。さらに、ティッシュは基材破壊されやすいので、後述のギア延伸工程によって、樹脂フィルム層31Bに容易に開口部34を形成することができる。
【0172】
滑剤層33Bは、第1の実施形態の吸収性物品のトップシート2Aの表面に形成された滑剤層27Aと同様であるので、滑剤層33Bの説明は省略する。
【0173】
次に、図11を参照して、本発明の第2の実施形態におけるトップシートの製造方法を説明する。図11は、本発明の第2の実施形態におけるトップシート2Bの製造方法に使用するトップシート製造装置100Bを説明するための図である。トップシート製造装置100Bは、延伸ギアロール130および滑剤塗布スプレー140を含む。また、トップシート2Bの製造方法は、樹脂フィルム層と繊維集合層とからなる複合シートを用意する工程、ギア延伸工程および滑剤塗布工程を含む。
【0174】
樹脂フィルム層と繊維集合層とからなる複合シートを用意する工程では、不図示の複合シートのロールから供給された複合シート103Bを延伸ギアロール130に供給する。複合シート103Bは、たとえばティッシュシート(ティッシュをシート状にしたもの)などの繊維シートに樹脂を押し出しラミネートして、繊維シート上に樹脂フィルム層を形成することによって作製される。
【0175】
ギア延伸工程では、延伸ギアロール130に複合シート103を通過させることによって、複合シート103に突条部を形成し、複合シートの樹脂フィルム層に開口部を形成する。ギア延伸工程で使用される延伸ギアロールは、第1の実施形態の吸収性物品のトップシートの製造方法で使用されるギア延伸ロール130と同様であるので、ギア延伸ロールの説明は省略する。
【0176】
複合シート103Bが延伸ギアロール130を通過すると、複合シート103Bは略波状に曲げられ、機械方向に延び、幅方向に並んだ複数の突条部が複合シート103Bに形成される。
【0177】
次に、図12を参照して、延伸ギアロール130に複合シート103Bを通過させたとき、複合シート103Bの樹脂フィルム層に開口部が形成される原理を説明する。なお、この原理は、本発明を限定するものではない。
【0178】
複合シート103Bは、上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っている部分105Bで延伸される。
【0179】
繊維集合層は基材破壊されやすく、繊維集合層の引張強度は樹脂フィルム層の引張強度に対して低い。繊維集合層が基材破壊されるまで複合シート103Bを延伸すると、ティッシュ層の基材破壊された部分に一体化された樹脂フィルム層も一緒に破壊され、樹脂フィルム層に開口部が形成される。
【0180】
詳細には、繊維集合層の表面は平滑性が低く、繊維集合層の表面には小さな凹凸の起伏が形成されている。このため、樹脂フィルム層には繊維集合層との間の接着力が強い部分と弱い部分とが生じる。繊維集合層との接着力が強い部分の樹脂フィルム層は、繊維集合層が基材破壊するまで複合シート103Bが延伸されたとき、繊維集合層と一体化しているので、樹脂フィルム層は、繊維集合層の基材破壊と一緒に破壊されて開口部を形成する。しかし、繊維集合層との接着力が弱い部分の樹脂フィルム層は、繊維集合層が基材破壊するまで複合シート103Bが延伸されたとき、繊維集合層との接着が解除されるので、繊維集合層から離間された状態になる。その結果、繊維集合層との接着力が弱い部分の樹脂フィルム層は、繊維集合層の基材破壊と一緒に破壊されない。このため、繊維集合層との接着力が弱い部分の樹脂フィルム層には開口部が形成されない。繊維集合層の表面には、凹凸が不規則に形成されているので、樹脂フィルム層には、不規則な大きさの開口部が形成される。
【0181】
複合シート103Bは、上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っていない部分106Bではあまり延伸されない。このため、複合シート103Bにおける上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っていない部分106Bでは、複合シート103Bが延伸ギアロール130を通過しても、開口部は形成されない。
【0182】
複合シート103Bの上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っていない部分106Bは、トップシート2Bの突条部21Bの頂部23Bおよび底部22Bに対応する(図10参照)。複合シート103Bの上段ギアロール131のギア歯133と下段ギアロール132のギア歯134とが噛み合っている部分105Bは、トップシート2Bの突条部21Bの壁部24Bに対応する(図10参照)。このため、トップシート2Bの突条部21Bの頂部23Bおよび底部22Bには開口部34Bがなく、トップシート2Bの突条部21Bの壁部24Bに開口部34Bが設けられる。
【0183】
樹脂フィルム層に開口部が形成されたトップシートの肌側の顕微鏡写真を図13に示す。図13(a)は、突条部の延びる方向に並ぶ複数の開口部を示すトップシートの肌側の顕微鏡写真である。図13(b)は、開口部を有する突条部の壁部を示すトップシートの肌側の顕微鏡写真である。図13(c)は、フィルム樹脂層の開口部を示すトップシートの肌側の顕微鏡写真である。
【0184】
樹脂フィルム層に開口部が形成されたトップシートの着衣側の顕微鏡写真を図14に示す。図14(a)は、基材破壊された繊維集合層と、開口部が形成された樹脂フィルム層を示すトップシートの着衣側の顕微鏡写真である。図14(b)は、樹脂フィルム層の開口部を覆う、基材破壊された繊維集合層の繊維を示すトップシートの着衣側の顕微鏡写真である。
【0185】
滑剤塗布工程では、滑剤塗布スプレー140を使用してギア延伸した複合シート104Bの樹脂フィルム層側の面に上述の滑剤141を塗布して、複合シート104Bに滑剤層を形成する。滑剤の塗布量は、第1の実施形態の吸収性物品のトップシートの製造方法における滑剤の塗布量と同様である。
【0186】
なお、上述のトップシート2Bの製造方法において、樹脂フィルム層と繊維集合層とからなる複合シートを用意する工程の代わりに、繊維シートを用意する工程と、繊維シートに樹脂をラミネートして、繊維シート上に樹脂フィルム層を形成することによて複合シートを作製する工程とを設けるようにしてもよい。
【0187】
以上の第1の実施形態の吸収性物品および第2の実施形態の吸収性物品を以下のように変形することができる。
(1)トップシートの少なくとも肌側の面の少なくとも一部が、肌側の面に滑剤層が形成された樹脂フィルムで形成されていれば、第1の実施形態の吸収性物品のようにトップシート全体が、肌側の面に滑剤層27Aが形成された樹脂フィルム2Aであったり、第2の実施形態の吸収性物品のようにトップシート2Bの肌側の全面が、肌側の面に滑剤層33Bが形成された樹脂フィルム31Bであったりしなくてもよい。たとえば、吸収性物品のトップシートに、図15に示すトップシート2Cのように、不織布またはティッシュ32Cの肌側の面にストライプ状に形成した樹脂フィルム層31Cの肌側の面に滑剤層33Cを形成するようにしてもよい。図15は、トップシート2Cの一部を拡大した模式斜視図である。この場合も、着用者の体液と樹脂フィルム層31Cとの間に滑剤層33Cが存在するので、体液の拭き取り性が良好になる。なお、不織布またはティッシュ31Cに付着した体液は、不織布またはティッシュ31Cを通過して吸収体に吸収されるので、拭き取る必要はない。
【0188】
ストライプ状の樹脂フィルム層31Cの幅は、たとえば、0.05〜3mmであり、好ましくは、0.1〜1mmである。また、隣接する樹脂フィルム層31C間の距離は、たとえば、0.05〜3mmであり、好ましくは、0.1〜1mmである。ストライプ状の樹脂フィルム層31Cは、たとえば、ポリエチレンを主成分とした樹脂を不織布などの基材へストライプ状に連続塗布した後、ニップロールで厚さ方向に圧力をかけることによって不織布などの上に形成される。
【0189】
図16(a)に示す上述の特許文献1に記載された樹脂フィルムのトップシート2Dの表面に、図16(b)に示すように滑剤層27Dを形成するようにしてもよい。図16(a),(b)は、トップシート2Dの一部を拡大した模式斜視図である。特許文献1に記載されたトップシート2Dの表面には毛髪状のフィブリル21Dが形成されている。したがって、複数のフィブリル21Dの間に体液が残留するので、トップシート2Dから体液を拭き取ることは難しい。また、毛髪状のフィブリル21Dによって、体液を拭き取るときに使用するトイレットペーパーなどが破損してしまう恐れがある。しかし、トップシート2Dの表面に滑剤層27Dを形成することによって、複数のフィブリル21Dの間に体液が残留することを抑制でき、トップシート2Dに付着した体液を容易に拭き取れるようにできる。また、体液を容易に拭き取れるので、トイレットペーパーなどでトップシート2Dを強くこする必要がないので、体液を拭き取るときに使用するトイレットペーパーなどが破損することを抑制できる。
【0190】
なお、上述の特許文献1に記載された樹脂フィルムのトップシートの表面に毛髪状のフィブリルを形成しないトップシート2E(図17参照)、すなわち、開口部25Eのみが形成されているトップシート2Eの表面に滑剤層27Eを形成するようにしてもよい。図17は、トップシート2Eの一部を拡大した模式斜視図である。
【0191】
(2)少なくとも、着用者の体液の排出口に対向する領域で、トップシートと吸収体とは接合されていなくてもよい。この場合、トップシートの少なくとも着用者の体液の排出口に対向する領域は、肌側の面に滑剤層が形成された樹脂フィルムで形成されてる。これにより、トップシートが変形しやすくなり、トップシートの表面に残留した経血などの体液をさらに拭き取りやすくできる。とくに、トップシートが、断面が略波状になるように曲げられている場合、着用者がトイレットペーパーなどで体液を拭き取る際にトップシートの表面に印加される圧力によって、トップシートの略波状形状が変形してトップシートがさらに平坦になりやすくなる。これにより、トップシートの表面に付着した体液がさらに拭き取りやすくなる。
【実施例】
【0192】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0193】
(拭き取り性)
実施例および比較例において、トップシートの拭き取り性を以下のようにして測定した。
【0194】
(1)3枚に重ねたろ紙(100mm×100mm)上に試料を配置した。3枚に重ねたろ紙は、吸収体に対応する。
(2)内径1.8mmのピペットを使用して、垂直に速度100g/分の条件で、試料の上方の10mmの高さから、高粘度人工経血0.1mgを試料に滴下した。このとき使用した高粘度人工経血の組成を以下に示す。
高粘度人工経血の組成
97重量%の0.9%生理食塩水
3重量%のタマリンドガム(商品名:グリロイド6C、DSP五協フード&ケミカル(株)より購入)
微量の食用色素赤色102号
(3)滴下後、1分間放置した。
(4)トイレットペーパーを6折りにして110mm×60mmの大きさにした後、手の中指に、6折りにしたトイレットペーパーを巻き込んだ。そして、100〜150g/cm2の加圧で、試料の表面でトイレットペーパーを30mm移動させ、滴下した高粘度人工経血をトイレットペーパーで拭き取った。
(5)拭き取った後の試料の質量を測定し、測定した質量から、高粘度人工経血を滴下する前の試料の質量を引き算して、試料に残留した高粘度人工経血の残留量を算出した。
【0195】
以下、実施例および比較例の作製方法について説明する。
【0196】
(実施例1)
97重量%のポリエチレンと3重量%の酸化チタンとからなる樹脂フィルムにパーフォレーション加工によって孔を形成した。孔を形成した樹脂フィルムの目付は22g/m2であり、実質開口径は0.5〜0.8mmであり、実質開口面積率(開口率)は18%であった。そして、5g/m2の塗布量で樹脂フィルムの表面に、トリグリセリド(商品名:パナセート810s(IOB:0.32、融点:−5℃、水解度:<0.05g、日油(株)より購入)を塗布した。
【0197】
(実施例2)
第1の実施形態におけるトップシートの製造方法によって、実施例2のトップシートを作製した。実施例2の作製条件を以下に示す。
樹脂フィルムの組成:97重量%のポリエチレン、3重量%の酸化チタン
ローレットロールの格子状の凸部のピッチ:0.4mm
ギア歯の幅:0.5mm
ギア歯の高さ:1.5mm
隣接するギア歯の間の距離:1.0mm
上段ギアロールのギア歯と下段ギアロールのギア歯との間の隙間:0.25mm
延伸ギアロールの噛み込み深さ:1.1mm
滑剤:トリグリセリド(商品名:パナセート810s(IOB:0.32、融点:−5℃、水解度:<0.05g、日油(株)より購入)
塗布量:5g/m2
【0198】
実施例2の形態を以下に示す。
突条部の高さ:0.05mm
隣接する突条部の幅方向中心間の距離(突条部のピッチ):2.5mm
開口部の直径:0.1〜0.6mm
実質開口率:10%
【0199】
(比較例1)
比較例1の作製方法は、トリグリセリドを塗布しなかった点を除いて、実施例1の作製方法と同じであった。
【0200】
(比較例2)
比較例2の作製方法は、トリグリセリドを塗布しなかった点を除いて、実施例2の作製方法と同じであった。
【0201】
実施例1および2ならびに比較例1および2の表面を撮影した顕微鏡写真を図18に示す。図18(a)が実施例1の表面を撮影した顕微鏡写真であり、図18(b)が実施例2の表面を撮影した顕微鏡写真であり、図18(c)が比較例1の表面を撮影した顕微鏡写真であり、図18(d)が比較例2の表面を撮影した顕微鏡写真である。
【0202】
実施例および比較例の拭き取り試験の結果を以下に示す。
【0203】
実施例および比較例に高粘度人工経血を滴下して1分間放置した後の実施例および比較例の表面の状態を図19に示す。図19(a)は、実施例1の表面の状態を示す写真であり、図19(b)は、実施例2の表面の状態を示す写真であり、図19(c)は、比較例1の表面の状態を示す写真であり、図19(d)は、比較例2の表面の状態を示す写真である。
【0204】
実施例および比較例から高粘度人工経血を拭き取った後のトイレットペーパーの表面の状態を図20に示す。図20(a)は、実施例1から高粘度人工経血を拭き取った後のトイレットペーパーの表面の状態を示す写真であり、図20(b)は、実施例2から高粘度人工経血を拭き取った後のトイレットペーパーの表面の状態を示す写真であり、図20(c)は、比較例1から高粘度人工経血を拭き取った後のトイレットペーパーの表面の状態を示す写真であり、図20(d)は、比較例2から高粘度人工経血を拭き取った後のトイレットペーパーの表面の状態を示す写真である。
【0205】
トイレットペーパーを使用して高粘度人工経血を拭き取った後の実施例および比較例の表面の状態を図21に示す。図21(a)は、実施例1の表面の状態を示す写真であり、図21(b)は、実施例2の表面の状態を示す写真であり、図21(c)は、比較例1の表面の状態を示す写真であり、図21(d)は、比較例2の表面の状態を示す写真である。
【0206】
図21の写真から、比較例1の表面に比べて、実施例1の表面には、高粘度人工経血が残留しておらず、比較例2の表面に比べて、実施例2の表面には、高粘度人工経血が残留していないことがわかった。これより、滑剤をトップシートに塗布することによって、トップシートに付着した高粘度人工経血をきれいに拭き取れることがわかった。
【0207】
トイレットペーパーを使用して高粘度人工経血を拭き取った後の実施例1の高粘度人工経血の残留量は0.01gであり、実施例2の高粘度人工経血の残留量は0.00gであり、比較例1の高粘度人工経血の残留量は0.03gであり、比較例2の高粘度人工経血の残留量は0.02gであった。これからも、滑剤をトップシートに塗布することによって、トップシートに付着した高粘度人工経血をきれいに拭き取れることがわかった。
【0208】
実施例1に比べて実施例2には、拭き取った後に残っている高粘度人工経血は少ない。これは、トイレットペーパーで高粘度人工経血を拭き取る際に実施例2の表面に印加される圧力によって、実施例2の突条部が変形して実施例2の表面が平坦になり、表面に付着した高粘度人工経血が拭き取りやすくなったためと考えられる。
【0209】
(血液改質剤が、血液の粘度および表面張力を下げるメカニズム)
血液改質剤が、血液の粘度および表面張力を下げるメカニズムを有することを以下の実施例で確認した。
【0210】
[例1]
[リウェット率および吸収体移行速度の評価]
市販の生理用ナプキンを準備した。当該生理用ナプキンは、親水剤で処理されたエアスルー不織布(ポリエステルおよびポリエチレンテレフタレートから成る複合繊維、坪量:35g/m2)から形成されたトップシートと、エアスルー不織布(ポリエステルおよびポリエチレンテレフタレートから成る複合繊維、坪量:30g/m2)から形成されたセカンドシートと、パルプ(坪量:150〜450g/m2、中央部ほど多い)、アクリル系高吸収ポリマー(坪量:15g/m2)およびコアラップとしてのティッシュを含む吸収体と、撥水剤処理されたサイドシートと、ポリエチレンフィルムから成るバックシートとから形成されていた。
【0211】
以下に、実験に用いられた血液改質剤を列挙する。
[(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル]
・ユニスター H−408BRS,日油株式会社製
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリトール
・ユニスター H−2408BRS−22,日油株式会社製
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリトールと、ジ2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールとの混合物(58:42、重量比)
【0212】
[(A2)鎖状炭化水素トリオールと脂肪酸とのエステル]
・Cetiol SB45DEO,コグニスジャパン株式会社製
脂肪酸が、オレイン酸またはステアリル酸である、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
・トリC2L油脂肪酸グリセリド,日油株式会社製
8の脂肪酸:C10の脂肪酸:C12の脂肪酸がおおよそ37:7:56の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
・トリCL油脂肪酸グリセリド,日油株式会社製
8の脂肪酸およびC12の脂肪酸がおおよそ44:56の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
【0213】
・パナセート810s,日油株式会社製
8の脂肪酸:C10の脂肪酸がおおよそ85:15の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
・パナセート800,日油株式会社製
脂肪酸が全てオクタン酸(C8)である、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
【0214】
・パナセート800B,日油株式会社製
脂肪酸が全て2−エチルヘキサン酸(C8)である、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
・NA36,日油株式会社製
16の脂肪酸:C18の脂肪酸:C20の脂肪酸(飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の両方を含む)がおおよそ5:92:3の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
【0215】
・トリヤシ油脂肪酸グリセリド,日油株式会社製
8の脂肪酸:C10の脂肪酸:C12の脂肪酸:C14の脂肪酸:C16の脂肪酸(飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の両方を含む)がおおよそ4:8:60:25:3の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
・SOY42,日油株式会社製
14の脂肪酸:C16の脂肪酸:C18の脂肪酸:C20の脂肪酸(飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の両方を含む)がおおよそ0.2:11:88:0.8の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル
【0216】
・カプリル酸ジグリセリド,日油株式会社製
脂肪酸がオクタン酸である、グリセリンと脂肪酸とのジエステル
[(A3)鎖状炭化水素ジオールと脂肪酸とのエステル]
・コムポールBL,日油株式会社製
ブチレングリコールのドデカン酸(C12)モノエステル
・コムポールBS,日油株式会社製
ブチレングリコールのオクタデカン酸(C18)モノエステル
・ユニスター H−208BRS,日油株式会社製
ジ2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール
【0217】
[(C3)2個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素ジカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸またはオキソ酸と、脂肪族1価アルコールとのエステル]
・アジピン酸ジオクチル,和光純薬工業製
[(D3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル]
・エレクトールWE20,日油株式会社製
ドデカン酸(C12)と、ドデシルアルコール(C12)とのエステル
・エレクトールWE40,日油株式会社製
テトラデカン酸(C14)と、ドデシルアルコール(C12)とのエステル
【0218】
[(E1)ポリC2~6アルキレングリコール]
・ユニオールD−1000(ユニオールは、全て日油株式会社製)
重量平均分子量約1,000のポリプロピレングリコール
・ユニオールD−1200
重量平均分子量約1,200のポリプロピレングリコール
・ユニオールD−3000
【0219】
重量平均分子量約3000のポリプロピレングリコール
・ユニオールD−4000
重量平均分子量約4000のポリプロピレングリコール
・ユニオールPB500
重量平均分子量約500のポリブチレングリコール
・ユニオールPB700
重量平均分子量約700のポリオキシブチレンポリオキシプロピレングリコール
・ユニオールPB1000R
重量平均分子量約1000のポリブチレングリコール
【0220】
[(E2)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエステル]
・ウィルブライトcp9,日油株式会社製
両末端のOH基がヘキサデカン酸(C16)によりエステル化されている、重量平均分子量約1,100のポリブチレングリコール
[(E3)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエーテル]
・ユニルーブMS−70K,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのステアリルエーテル,約15の繰返し単位
【0221】
[(F1)鎖状アルカン]
・パールリーム6,日油株式会社製
流動イソパラフィン、イソブテンおよびn-ブテンを共重合し、次いで水素を付加することにより生成された分岐鎖炭化水素、重合度:約5〜約10
【0222】
[その他]
・NA50,日油株式会社製
NA36に水素を付加し、原料である不飽和脂肪酸に由来する二重結合の比率を下げたグリセリンと脂肪酸とのトリエステル
・(カプリル酸/カプリン酸)モノグリセリド,日油株式会社製
オクタン酸(C8)およびデカン酸(C10)がおおよそ85:15の重量比で含まれている、グリセリンと脂肪酸とのモノエステル
・Monomuls 90−L2ラウリン酸モノグリセリド,コグニスジャパン株式会社製
【0223】
・ユニオックスHC60,日油株式会社製
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
【0224】
・ウィルブライトs753,日油株式会社製
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオキシブチレングリセリン
・クエン酸イソプロピル,東京化成工業製
・ユニオールD−400
重量平均分子量約400のポリプロピレングリコール
・ユニオール TG−330,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのグリセリルエーテル,約6の繰返し単位,重量平均分子量:約330
【0225】
・ユニオール TG−1000,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのグリセリルエーテル,約16の繰返し単位,重量平均分子量:約1000
・ユニルーブ DGP−700,日油株式会社製
ポリプロピレングリコールのジグリセリルエーテル,約9の繰返し単位,重量平均分子量:約700
・PEG1500,日油株式会社製
重量平均分子量約1,500〜約1,600のポリエチレングリコール
【0226】
・ノニオンS−6,日油株式会社製
ポリオキシエチレンモノステアレート、約7の繰返し単位、重量平均分子量:約600
・ワセリン,コグニスジャパン株式会社製
石油に由来する炭化水素、半固形
【0227】
上記試料の、IOB,融点および水溶解度を表2に示す。
なお、水溶解度は、上述の方法にしたがって測定したが、100gの脱塩水に、20.0gを添加し、24時間後に溶解した試料は、「20g<」と評価し、そして100gの脱塩水に、0.05gは溶解したが、1.00gは溶解しなかった試料は、0.05〜1.00gと評価した。
また、融点に関し、「<45」は、融点が45℃未満であることを意味する。
【0228】
上記生理用ナプキンのトップシートの肌当接面を、上述の血液改質剤で塗工した。各血液改質剤を、血液改質剤が室温で液体である場合にはそのまま、そして血液改質剤が室温で固体である場合には、融点+20℃まで加熱し、次いで、コントロールシームHMAガンを用いて、各血液改質剤を微粒化し、トップシートの肌当接面に、坪量がおおよそ5g/m2となるように塗布した。
【0229】
例1において、トップシートが血液改質剤を含む範囲を、図22に示す。図22に示されるように、例1では、生理用ナプキン200のトップシート220のほぼ全面が、血液改質剤を含む、血液改質剤含有領域240である。なお、図22において、符号230は、圧搾部を示す。
【0230】
[試験方法]
各血液改質剤を含むトップシートの上に、穴の開いたアクリル板(200mm×100mm,125g,中央に、40mm×10mmの穴が開いている)を置き、上記穴から、37±1℃のウマEDTA血(ウマの血液に、凝結防止のため、エチレンジアミン四酢酸(以下、「EDTA」と称する)が添加されたもの)3gを、ピペットを用いて滴下(1回目)し、1分後、37±1℃のウマEDTA血3gを、アクリル板の穴から、ピペットで再度滴下した(2回目)。
【0231】
2回目の血液の滴下後、直ちに上記アクリル板を外し、血液を滴下した場所に、ろ紙(50mm×35mm)10枚を置き、その上から、圧力が30g/cm2となるようにおもりを置いた。1分後、上記ろ紙を取出し、以下の式にしたがって、「リウェット率」を算出した。
リウェット率(%)=100×(試験後のろ紙質量−当初のろ紙質量)/6
【0232】
また、リウェット率の評価とは別に、2回目の血液の滴下後、血液がトップシートから吸収体に移行する時間である「吸収体移行速度」を測定した。上記吸収体移行速度は、吸収体に血液を投入してから、トップシートの表面および内部に、血液の赤さが見られなくなるまでの時間を意味する。
リウェット率と、吸収体移行速度の結果を、以下の表2に示す。
【0233】
また、吸収体移行速度の試験後のトップシートの肌当接面の白さを、以下の基準にしたがって、目視で評価した。
◎:血液の赤さがほとんど残っておらず、血液が存在した場所と、存在していない場所の区別がつかない
○:血液の赤さが若干残っているが、血液の存在した場所と、存在していない場所の区別がつきいにくい
△:血液の赤さが若干残っており、血液が存在した場所が分かる
×:血液の赤さがそのまま残っている
結果を、併せて以下の表2に示す。
【0234】
【表2】

【0235】
【表3】

【0236】
血液改質剤を有しない場合には、リウェット率は22.7%であり、そして吸収体移行速度は60秒超であったが、グリセリンと脂肪酸とのトリエステルは、いずれも、リウェット率が7.0%以下であり、そして吸収体移行速度が8秒以下であることから、吸収性能が大幅に改善されていることが分かる。しかし、グリセリンと脂肪酸とのトリエステルのうち、融点が45℃を超えるNA50では、吸収性能に大きな改善はみられなかった。
【0237】
同様に、約0〜約0.60のIOBと、約45℃以下の融点と、25℃の水100gに対する、約0.05g以下の水溶解度を有する血液改質剤では、吸収性能が大きく改善されることが分かった。
【0238】
次に、No.1〜42の生理用ナプキンを、複数のボランティアの被験者に着用してもらったところ、No.1〜28の血液改質剤を含む生理用ナプキンでは、経血を吸収した後であってもトップシートにべたつき感がなく、トップシートがサラサラしているとの回答を得た。特に、これらは、No.29,32,39,41および42の生理用ナプキンとの差異が顕著であるとの回答を得た。
また、No.1〜28の生理用ナプキンでは、そして、とくにNo.1〜11,15〜18および28の血液改質剤を含む生理用ナプキンでは、経血を吸収後のトップシートの肌当接面が、血液で赤く染まっておらず、不快感が少ないとの回答を得た。
【0239】
[例2]
動物の各種血液に関して、上述のリウェット率を評価した。実験に用いられた血液は、以下の通りである。
[動物種]
(1)ヒト
(2)ウマ
(3)ヒツジ
【0240】
[血液種]
・脱繊維血:血液を採取後、ガラスビーズと共に、三角フラスコ内で約5分間撹拌したもの
・EDTA血:静脈血65mLに、12%EDTA・2K生理食塩液0.5mLを添加したもの
【0241】
[分画]
血清または血漿:それぞれ、脱繊維血またはEDTA血を、室温下で、約1900Gで10分間遠心分離した後の上清
血球:血液から血清を除去し、残差をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)で2回洗浄し、次いで除去した血清分のリン酸緩衝生理食塩液を加えたもの
【0242】
トリC2L油脂肪酸グリセリドが、坪量がおおよそ5g/m2となるように塗布されている以外は、例1と同様にして吸収性物品を製造し、上述の各種血液のリウェット率を評価した。各血液に関して測定を3回行い、その平均値を採用した。
結果を、以下の表3に示す。
【0243】
【表4】

【0244】
例1で得られた、ウマEDTA血と同様の傾向が、ヒトおよびヒツジの血液でも得られた。また、脱繊維血およびEDTA血においても、同様の傾向が観察された。
【0245】
[例3]
[血液保持性の評価]
血液改質剤を含むトップシートと、血液改質剤を含まないトップシートとにおける血液保持性を評価した。
【0246】
[試験方法]
(1)エアスルー不織布(ポリエステルおよびポリエチレンテレフタレートから成る複合繊維、坪量:35g/m2)から形成されたトップシートの肌当接面に、トリC2L油脂肪酸グリセリドを、コントロールシームHMAガンを用いて微粒化し、坪量がおおよそ5g/m2となるように塗布する。また、比較のため、トリC2L油脂肪酸グリセリドを塗布していないものも準備する。次いで、トリC2L油脂肪酸グリセリドが塗布されているトップシートと、塗布されていないトップシートとの両方を、0.2gの大きさにカットし、セルストレイナー+トップシートの質量(a)を正確に測定する。
【0247】
(2)ウマEDTA血約2mLを、肌当接面側から添加し、1分間静置する。
(3)セルストレイナーを、遠心管にセットし、スピンダウンして、余剰のウマEDTA血を取り除く。
(4)セルストレイナー+ウマEDTA血を含むトップシートの重量(b)を測定する。
(5)下式にしたがって、トップシート1g当たりの当初吸収量(g)を算出する。
当初吸収量=[重量(b)−重量(a)]/0.2
(6)セルストレイナーを、遠心管に再セットし、室温下、約1200Gで1分間遠心分離する。
【0248】
(7)セルストレイナー+ウマEDTA血を含むトップシートの重量(c)を測定する。
(8)下式にしたがって、トップシート1g当たりの試験後吸収量(g)を算出する。
試験後吸収量=[重量(c)−重量(a)]/0.2
(9)下式にしたがって血液保持率(%)を算出した。
血液保持率(%)=100×試験後吸収量/当初吸収量
なお、測定は3回行い、その平均値を採用した。
結果を、以下の表4に示す。
【0249】
【表5】

【0250】
血液改質剤を含むトップシートは、血液保持性が低く、血液を吸収後、迅速に吸収体に移行させることができることが示唆される。
【0251】
[例4]
[血液改質剤を含む血液の粘性]
血液改質剤を含む血液の粘性を、Rheometric Expansion System ARES(Rheometric Scientific,Inc)を用いて測定した。ウマ脱繊維血に、パナセート810sを2質量%添加し、軽く撹拌して試料を形成し、直径50mmのパラレルプレートに試料を載せ、ギャップを100μmとし、37±0.5℃で粘度を測定した。パラレルプレートゆえ、試料に均一なせん断速度はかかっていないが、機器に表示された平均せん断速度は、10s-1であった。
【0252】
パナセート810sを2質量%含むウマ脱繊維血の粘度は、5.9mPa・sであり、一方、血液改質剤を含まないウマ脱繊維血の粘度は、50.4mPa・sであった。したがって、パナセート810sを2質量%含むウマ脱繊維血は、血液改質剤を含まない場合と比較して、約90%粘度を下げることが分かる。
血液は、血球等の成分を含み、チキソトロピーの性質を有することが知られているが、本開示の血液改質剤は、低粘度域で、血液の粘度を下げることができると考えられる。血液の粘度を下げることにより、吸収した経血を、トップシートから吸収体に速やかに移行させることができると考えられる。
【0253】
上記血液改質剤は、吸収した経血を、トップシートから吸収体に速やかに移行させるために、ウマ脱繊維血に、上記血液改質剤を2質量%添加し、37℃およびせん断速度10s-1の条件下で粘度を測定した場合に、上記ウマ脱繊維血の粘度を、添加前と比較して、少なくとも50%下げることが好ましく、少なくとも60%下げることがより好ましく、少なくとも70%下げることがさらに好ましく、そして少なくとも80%下げることが最も好ましい。
【0254】
[例5]
[血液改質剤を含む血液の顕微鏡写真]
健常ボランティアの経血をサランラップ上に採取し、その一部に、10倍の質量のリン酸緩衝生理食塩水中に分散されたパナセート810sを、パナセート810sの濃度が1質量%となるように添加した。経血を、スライドグラスに適下し、カバーグラスをかけ、光学顕微鏡にて、赤血球の状態を観察した。血液改質剤を含まない経血の顕微鏡写真を図23(a)に、そしてパナセート810sを含む経血の顕微鏡写真を図23(b)に示す。
【0255】
図23から、血液改質剤を含まない経血では、赤血球が連銭等の集合塊を形成しているが、パナセート810sを含む経血では、赤血球が、それぞれ、安定に分散していることが分かる。したがって、血液改質剤は、血液の中で、赤血球を安定化させる働きをしていることが示唆される。
【0256】
[例6]
[血液改質剤を含む血液の表面張力]
血液改質剤を含む血液の表面張力を、協和界面科学社製接触角計 Drop Master500を用い、ペンダントドロップ法にて測定した。表面張力は、ヒツジ脱繊維血に、所定の量の血液改質剤を添加し、十分振とうした後に測定した。
測定は、機器が自動で行うが、密度γは、以下の式により求められる(図24を参照)。
【0257】
γ=g×ρ×(de)2×1/H
g:重力定数
1/H:ds/deから求められる補正項
ρ:密度
de:最大直径
ds:滴下端よりdeだけ上がった位置での径
【0258】
密度ρは、JIS K 2249−1995の「密度試験方法および密度・質量・容量換算表」の5.振動式密度試験方法に準拠し、表5に示される温度で測定した。
測定には、京都電子工業株式会社のDA−505を用いた。
結果を、下記表5に示す。
【0259】
【表6】

【0260】
表5から、血液改質剤は、25℃の水100gに対する、0.05g以下の水溶解度を有することからも明らかなように、水への溶解性が非常に低いが、血液の表面張力を下げることができることが分かる。
血液の表面張力を下げることにより、吸収した血液をトップシートの繊維間に保持せず、速やかに吸収体に移行させることができると考えられる。
【0261】
実施形態と変形例の一つ、もしくは複数を組み合わせることも可能である。変形例同士をどのように組み合わせることも可能である。
【0262】
以上の説明はあくまで一例であり、発明は、上記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0263】
1 吸収性物品
2A〜2E トップシート
3 バックシート
4 吸収体
5 ウイング部
6 粘着部
21A,21B 突条部
22A,22B 底部
23A,23B 頂部
24A,24B 壁部
25A,34B 開口部
26A 凹部
27A,27D,27E,33B,33C 滑剤層
100A,100B トップシート製造装置
120A 凹部成形ロール
121A ローレットロール
122A 平滑な表面を有する予熱ロール
130 延伸ギアロール
131 上段ギアロール
132 下段ギアロール
133,134 ギア歯
140 滑剤塗布スプレー
141 滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌側に設けられた液透過性のトップシートと、着衣側に設けられた液不透過性のバックシートと、該トップシートと該バックシートとの間に設けられた液保持性の吸収体とを備えた吸収性物品であって、
前記トップシートの少なくとも肌側の面の少なくとも一部が、肌側の面に滑剤層が形成された樹脂フィルムで形成されており、
前記滑剤層は、撥水性および/または撥油性を有する吸収性物品。
【請求項2】
前記滑剤層の滑剤は、0〜0.60のIOBと、45℃以下の融点と、25℃の水100gに対する、0.05g以下の水溶解度とを有する血液改質剤である請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記血液改質剤が、
(i)炭化水素、
(ii)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入された化合物、または
(iii)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入され、かつ炭化水素上の少なくとも1つの水素原子が、カルボキシル基(−COOH)もしくはヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物、
であり、ここで、(ii)または(iii)の化合物において、エーテル結合が2つ以上挿入されている場合には、エーテル結合同士は隣接していない、
請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記血液改質剤が、
(i’)炭化水素、
(ii’)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)、少なくとも1つのエステル結合(−COO−)、少なくとも1つのカーボネート結合(−OCOO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入された化合物、または
(iii’)炭化水素のC−C単結合間に、少なくとも1つのカルボニル結合(−CO−)、少なくとも1つのエステル結合(−COO−)、少なくとも1つのカーボネート結合(−OCOO−)および/もしくは少なくとも1つのエーテル結合(−O−)が挿入され、かつ炭化水素上の少なくとも1つの水素原子が、カルボキシル基(−COOH)もしくはヒドロキシル基(−OH)で置換された化合物、
であり、ここで、(ii’)または(iii’)の化合物において、2以上の結合が挿入されている場合には、各結合は隣接していない、
請求項2または3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記血液改質剤が、炭化水素中に、炭素原子10個当たり、カルボニル結合(−CO−)を1.8個以下、エステル結合(−COO−)を2個以下、カーボネート結合(−OCOO−)を1.5個以下、エーテル結合(−O−)を6個以下、カルボキシル基(−COOH)を0.8個以下、そして/またはヒドロキシル基(−OH)を1.2個以下有する化合物である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記血液改質剤が、
(A)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のカルボキシル基を有する化合物とのエステル、
(B)2〜4個のヒドロキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエーテル、
(C)2〜4個のカルボキシル基を有する化合物と、1個のヒドロキシル基を有する化合物とのエステル、
(D)炭化水素に、エーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、エステル結合(−COO−)、およびカーボネート結合(−OCOO−)から成る群から選択されるいずれか1つが挿入された化合物、
(E)ポリC2~6アルキレングリコール、またはそのエステルもしくはエーテル、あるいは
(F)鎖状炭化水素、
である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記血液改質剤が、(A1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪酸とのエステル、(A2)鎖状炭化水素トリオールと脂肪酸とのエステル、(A3)鎖状炭化水素ジオールと脂肪酸とのエステル、(B1)鎖状炭化水素テトラオールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(B2)鎖状炭化水素トリオールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(B3)鎖状炭化水素ジオールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(C1)4個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素テトラカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸またはオキソ酸と、脂肪族1価アルコールとのエステル、(C2)3個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素トリカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸またはオキソ酸と、脂肪族1価アルコールとのエステル、(C3)2個のカルボキシル基を有する鎖状炭化水素ジカルボン酸、ヒドロキシ酸、アルコキシ酸またはオキソ酸と、脂肪族1価アルコールとのエステル、(D1)脂肪族1価アルコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(D2)ジアルキルケトン、(D3)脂肪酸と脂肪族1価アルコールとのエステル、(D4)ジアルキルカーボネート、(E1)ポリC2~6アルキレングリコール、(E2)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪酸とのエステル、(E3)ポリC2~6アルキレングリコールと脂肪族1価アルコールとのエーテル、(E4)ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラカルボン酸、鎖状炭化水素トリカルボン酸、または鎖状炭化水素ジカルボン酸とのエステル、(E5)ポリC2~6アルキレングリコールと、鎖状炭化水素テトラオール、鎖状炭化水素トリオール、または鎖状炭化水素ジオールとのエーテル、および(F1)鎖状アルカンから成る群から選択される、請求項2〜6のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記血液改質剤が、2000以下の重量平均分子量を有する、請求項2〜7のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記トップシートは、断面が略波状になるように曲げられることによって形成された、並列に配置された複数の突条部と、隣接する該突条部の間に配置された底部とを備え、
前記突条部は、前記突条部の延びる方向に並ぶ複数の開口部を有する壁部を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記トップシートの少なくとも着用者の体液の排出口に対向する領域は、肌側の面に前記滑剤層が形成された前記樹脂フィルムで形成されており、
少なくとも着用者の体液の排出口に対向する領域で、前記トップシートと前記吸収体とは接合されていない請求項1〜9のいずれか1項に記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図22】
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【図24】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−78376(P2013−78376A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218544(P2011−218544)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】