説明

吸引カテーテル

【課題】気管内に付着した痰等の異物を早期に吸引することができる吸引カテーテルを提供する。
【解決手段】本発明は、長手方向に沿って伸びる外壁12の内側に異物を吸引・排出するための吸引路11を有し、この吸引路11に通じる吸引口13を外壁12に備えると共に、この外壁12の横断面形状が偏平形状であり、その長幅方向に沿って伸びる当該外壁12の部分に吸引口13が配置され、この吸引口13が、外壁12の先端12eを貫通して吸引路11に通じる開孔13aと、外壁12の先端12eからその長手方向に沿って外壁12を切り欠いて開孔13aと共に吸引路11に通じるスリット孔13bとからなり、外壁12に、吸引口13を気管カニューレ120の通気路122の中心軸線周りに角度調整するための角度位置照合マークM1とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引カテーテル、詳細には、気管切開手術により気管の途中に孔を形成し、この孔から挿入した気管カニューレを通る吸引カテーテルによって行われる、気管内に付着した痰等の異物を吸引する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者の呼吸を確保するため、切開された気管に気管カニユーレを挿入し、気管カニユーレに、アダプタ部を介して、人工呼吸器に繋がる呼吸管を連通させることで、人工呼吸器を利用した人工呼吸を施す技術が開発されている。気管カニユーレ内には、送気および排気用の呼吸路が形成されている。
【0003】
一方、人工呼吸では、気管に溜まった痰等の異物が気道を塞ぐため、その処置が課題となる。汎用される異物の処理方法の一例としては、介護者が気管カニユーレからアダプタ部を外し、その後、開口部(呼吸管側の口)から、当該気管カニユーレを通して吸引カテーテルを気管部に挿入し、この吸引カテーテルにより痰を吸引するものがある。
【0004】
しかしながら、この処置方法では、痰を取り除く度に吸引カテーテルの出し入れを行なうため、介護者に昼夜を問わぬ労働を強いてしまい、その結果、介護者への負担が大きくなっていた。
【0005】
これに対し、従来の技術としては、気管カニユーレの側壁(人体左側壁)に対してその略全長にわたって、痰吸引用の吸引カテーテルを通す小径な通し孔を形成し、痰吸引時において、当該通し孔に吸引カテーテルを挿入し、この吸引カテーテルの先端部に有した痰吸引口から気管内に溜まった痰を吸引するものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実公昭57−182449号公報
【0006】
この従来技術において用いられる吸引カテーテルは、全体視して、曲率半径が大きいゆるやかな円弧形状のチューブであり、その吸引路を取り囲む外壁に、痰吸引口が形成されている。この吸引カテーテルの吸引口は、気管内壁側とは反対側(気管内壁側に対して180°の位相位置)で、具体的には仰向けに寝た患者の胸表面側となる位置に形成される(特許文献1に添付の第6A図、第6B図参照)。
【0007】
また、この従来技術において用いられる気管カニューレは、その内側に形成した前記呼吸路及び前記通し孔の気管側開口部を、呼吸路の長さ方向に直交した同じ平面内に配置し、その先端付近の外周側には、空気の出し入れで膨縮するカフが周設されている(特許文献1に添付の第2図参照)。
【0008】
こうした従来の技術は、まず、切開された気管に気管カニユーレの先端部を挿入し、その外周に設けたカフに空気を注入してこれを膨らませる。これにより、気管カニユーレと気管内壁との隙間が閉塞される。その後、人工呼吸器から延出された呼吸管に繋がる気管カニユーレを通して気管内に空気が送られる。
【0009】
一方、上記構成の気管カニューレを使用すれば、その側壁に設けた通し孔に吸引カテーテルを挿入だけで、従前までは熟練を要していた左気管支内の痰の処置を容易に行うことができる。これは、通し孔が気管カニユーレの側壁に存在し、かつ気管カニユーレが全体的にゆるやかに湾曲しているためである。
【0010】
しかも、こうした構成の気管カニユーレは、その通し孔に吸引カテーテルを通さず、直接、通し孔を痰吸引孔として気管内の痰を吸引する使い方も可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来技術には、以下のような間題点があった。
(1)仮に、こうした気管カニューレに吸引カテーテルを通すことなく、その通し孔を直接、痰を吸引する吸引口として気管内の痰を吸引した場合には、痰の吸引が開始される時期が遅くなっていた。これは、通し孔の気管側開口部(痰吸引口)が、呼吸路の気管側開口部と同一平面内に配置されていることに起因する。すなわち、気管に付着した痰が、前記呼吸路の気管側開口部と同一平面内に配した前記通し孔の気管側開口部を略完全に塞がなければ、ほとんど気道や肺の内部空気を吸い出すだけで、実質的な痰の吸引は開始されないためである。
【0012】
(2)また、気管カニューレに吸引カテーテルを通した場合であっても、上述した従来の吸引カテーテルによれば、その外壁に形成された吸引口は、気管内壁側とは反対側であった。そのため、気管に付着した痰が、当該吸引カテーテルのうち、気管内に挿入された先端部を略完全に塞がなければ、上記気管カニューレを単体で用いた場合と同様に、痰の吸引が開始されなかった。その結果、従来の吸引カテーテルを用いた場合でも、痰の吸引が開始される時期が遅れることがあった。
【0013】
本発明の解決すべき課題は、気管内に付着した痰等の異物を早期に吸引することができる吸引カテーテルを提供することにある。また、痰等の異物を吸引する時の吸引流量が極端に少ない場合でも、痰等の異物を吸引することが出来る吸引カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、気管カニューレの通気路を通って気管内に挿入可能であり、気管に付着した異物を吸引する吸引カテーテルであって、前記吸引カテーテルは、長手方向に沿って伸びる外壁の内側に異物を吸引・排出するための吸引路を有し、この吸引路に通じる吸引口を前記外壁に備えると共に、この外壁の横断面形状が偏平形状であり、その長幅方向に沿って伸びる当該外壁の部分に前記吸引口が配置され、この吸引口が、前記外壁の先端を貫通して前記吸引路に通じる開孔と、前記外壁の先端からその長手方向に沿って当該外壁を切り欠いて前記開孔と共に前記吸引路に通じるスリット孔とからなり、前記外壁に、前記吸引口を前記気管カニューレの通気路の中心軸線周りに角度調整するための角度位置照合マークを備えることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る、吸引カテーテルは、気管カニユーレの基部から分岐して形成された吸引カテーテル導入口を通して出し入れ自在に挿入されるものであり、その長さは、前記気管カニユーレより長く、痰等の異物を吸引する時に前記気管カニユーレの通気路から気管内に向かって露出する。
【0016】
本発明において、「外壁の横断面形状」とは、外壁の長手方向(長さ方向)に対して直交する断面形状をいう。また、「偏平形状」とは、楕円形状、曲率半径の異なる2つの曲線を繋ぎ合せてなる形状、曲線とその両端を結ぶ直線とからなる、半円若しくは弓形形状、又は、第一の曲線と、この第一の曲線の両端を結び当該第一の曲線に向けて凸形に湾曲した第二の曲線とからなる、三日月形状を含む。台形等の多角形又は、多角形に近似する曲面形状でも良い。
【0017】
スリット孔の形状には、均等な幅間隔を維持しつつ外壁の先端に向かって平行に伸びる形状と、外壁の先端に向かって幅間隔が広くなり末広がりに伸びる形状とを含む。前記スリット孔の長さも、用途等に応じて適宜変更可能であり、例えば、吸引カテーテルの先端部は、必ずしも気管カニューレから気管内部に露出させる必要はないが、気管カニューレの通気路を通して吸引カテーテルの先端部を気管内部に露出させた場合、前記スリット孔の長さは、気管カニューレから露出する吸引カテーテルの部分の長さよりも長く設定することもできる。この場合、スリット孔の長さの具体例としては、典型的には、10mmから50mmの範囲が挙げられる。
【0018】
気管カニューレは、人工呼吸器に繋がる呼吸管が着脱可能に接続される基部と、患者の気管に挿入される先端部と有し、気管切開手術により気管に形成された孔を通し、気管に挿入される短尺な管部材であり、その内側に形成された通気路により、患者の呼吸を確保するものである。
【0019】
気管カニユーレには、その先端から所定長さだけ離間した位置にカフを設けることができる。カフとは、気管カニユーレの先端部の外周側に形成された環状の風船であり、気管と気管カニューレとの間を密閉するための部材である。カフは、空気の給排により膨張及び収縮する。即ち、空気をカフの内部空間に注入することでカフが膨らんだり、カフの内部空間から空気を抜くことでカフが収縮するものである。
【0020】
人工呼吸器は、患者の呼吸を確保するため、気管に対して送気と排気とを一定時間ごとに交互に繰り返す器械である。本発明に適用される人工呼吸器の構造は限定されない。
【0021】
本発明において、吸引カテーテルの素材は、吸引カテーテルが湾曲自在となるものであれば限定されない。例えば、各種のゴム、各種の軟質合成樹脂などを採用することができる。また、本発明において、吸引カテーテルの太さ(外径)は限定されない。気管カニユーレ内に挿入されたとき、患者の送気および排気に支障がない断面積の呼吸路を確保できればよい。なお、本発明において、吸引カテーテルの外壁に、その先端を開口するスリット孔を設けたのみの場合は、吸引カテーテルの断面形状は限定されない。例えば、円形、楕円形、三角形以上の多角形などでもよい。
【0022】
さらに、本発明の如く、角度位置照合マークを備える場合、吸引カテーテルは、少なくとも、痰等の異物を吸引する時に、気管カニユーレの基部であり、人工呼吸器に繋がる呼吸管を接続する側の口部より角度位置照合マークの形成部分が露出し、かつ、気管カニューレから気管内に露出する部分に形成した吸引口が、気管に付着した痰等の異物のある位置に達することができる長さを有していればよい。
【0023】
これにより、吸引カテーテルの吸引口は、気管に挿入した気管カニューレの気管側開口により先方にある気管内壁の壁面上に付着した痰等の異物と対峠する位置まで届き、実際に、この吸引口を痰等の異物と対峙するように位置決めすれば、吸引口と痰等の異物が付着した気管内壁とが最短距離で向かい合うことになる。
【0024】
また、本発明において、吸引カテーテルに連通され、その吸引路に吸引圧を発生させる吸引器の種類は限定されない。ただし、本発明の吸引カテーテルを、痰を少ない吸引流量で常時吸引するチューブポンプ式等の吸引器に接続した場合、その効果は顕著となる。なお、チューブポンプとは、ロータに取り付けたローラがチューブの一部を閉塞しながら、そのチューブ上での閉塞位置を、液体(痰)の排出側に連続的に移動させることで、チューブ内の液体を強制的に押し出すポンプである。
【0025】
吸引器が、例えば、吸引量が多いダイヤフラム式の吸引器(汎用品)の場合には、痰が吸引カテーテルの吸引口を完全に閉塞しなくても(吸引口に若干隙間が存在しても)、痰を早い流速で吸い込んで吸引することができる。しかしながら、チューブポンプ式の場合には、前述したように吸引量が少ないことから、吸引口が完全に塞がれるまで痰が気管内に溜まらなければ、痰を吸引することはできない。しかも、チューブポンプ式のものは、単位時間当たりの痰の吸引量もダイヤフラム式のものに比べて小さい。
【0026】
そこで、本発明の吸引カテーテルは、痰等の異物が付着する位置と対峠する位置に吸引口を配置すれば、気管内に発生した痰等の異物の除去に高い応答性を示し、チューブポンプ式の吸引器であっても、ダイヤフラム式の吸引器の場合と略同じ水準またはそれ以上の水準で痰を吸引処理することができる。
【0027】
角度位置照合マークは、吸引カテーテルの外周側において、他の部分と識別が可能であればどのようなものでもよい。例えば、色彩を含む平面的なマーク(点、線、文字、数字、模様、絵など)でもよいし、立体的なマーク(凸部、凹部など)でもよい。
【0028】
また、吸引カテーテルの周方向において角度位置照合マークが付される位置は、痰等の異物を吸引する時に、気管カニユーレの基部であり、人工呼吸器に繋がる呼吸管を接続する側の口部より露出する吸引カテーテルの部分であって、且つ、吸引口とは吸引カテーテルの周方向の反対側の部分(痰吸引口を含み吸引カテーテルの軸線と直交する断面上で、吸引カテーテルの中心点を中心とした痰吸引口とは反対側の部分)であれば好ましいが、これに限定されるものではない。なお、吸引カテーテルの周方向の反対側の部分とは、吸引カテーテルの中心軸線を挟んで吸引口と対向する部分であるが、吸引カテーテルの軸回りの方向において、吸引口とは180°の角度位置になる吸引カテーテルの部分が好ましい。また、吸引カテーテルの長さ方向において角度位置照合マークが付される位置は、気管カニューレの基部から露出している部分であればよい。
【0029】
本発明において、痰等の異物を吸引する時において、吸引カテーテルのうち、気管カニユーレの基部であり、人工呼吸器に繋がる呼吸管を接続する側の口部より露出する部分の長さは限定されない。また、吸引カテーテルのうち、気管カニューレの内側に形成した呼吸路の気管側開口部から突出する露出部分の長さ(吸引口が気管カニューレの気管側開口部から痰等の異物が付着した位置に達するまでの、吸引カテーテルの突出長さ)は限定されない。
【発明の効果】
【0030】
本発明の吸引カテーテルは、長手方向に沿って伸びる外壁の内側に異物を吸引・排出するための吸引路を有し、この吸引路に通じる吸引口を前記外壁に備えると共に、この外壁の横断面形状が偏平形状であり、その長幅方向に沿って伸びる当該外壁の部分に前記吸引口が配置されているので、当該吸引カテーテルは、痰等の異物を吸引する時において、気管カニユーレの内側に形成した通気路の内周面に沿って気管内に挿入される。そのため、吸引カテーテルの吸引口は必ず気管内壁側の面に対向して挿入され、しかも、吸引カテーテルの長さ方向に直交した断面を円形状としたときに比べて、吸引カテーテルは気管カニユーレ内で反転(吸引カテーテルの軸線を中心とした回転)を起こし難い。これにより、気管カニユーレの通気路内に挿入した吸引カテーテルであっても、その吸引口を気管に付着した痰等の異物に対峙させるための位置決め(吸引口の位置決め)が容易でその位置ズレも小さくなる。その結果、痰等の異物を吸引する時において、吸引カテーテルの吸引口を安定した状態で気管内壁側に向けておくことができるから、従来に比べ、気管内に付着した痰等の異物を早期に吸引することができる。
【0031】
しかも、この場合、前記吸引口を配置した前記外壁の部分の横断面形状が円弧形状をなす場合、前記吸引口を配した当該外壁の部分の外周面が、気管カニユーレの内周面と面接触した状態で気管カニユーレ内に挿入されるため、痰等の異物を吸引する時に、前記気管カニユーレの断面を円形状とした場合に比べて、気管カニユーレの軸線に直交した断面上で、吸引カテーテルを気管カニユーレの内周面に沿って配置することができる。そのため、見かけ上は、気管カニューレの内側に形成した通気路内の障害物(吸引カテーテル)が小さくなり、この通気路を通して、別の吸引カテーテルまたは内視鏡などを気管内に挿入し易い。また、通気路内に生じる流路抵抗が少なく人工呼吸器の換気に影響を与えない。
【0032】
また、本発明によれば、吸引路に通じる吸引口は、前記外壁の先端を貫通して前記吸引路に通じる開孔と、前記外壁の先端からその長手方向に沿って当該外壁を切り欠いて前記開孔と共に前記吸引路に通じるスリット孔とからなるため、痰等の異物を吸引するときに、気管カニューレの通気路から露出した吸引カテーテルの外壁は当該スリット孔を起点に2つに分かれて気管の内壁に沿って広がる。これにより、吸引カテーテルの吸引口が、気管に付着した痰等の異物と多少ずれた位置で対峙しても、当該異物の吸引が可能となるから、結果として、従来に比べ、気管内に付着した痰等の異物を早期に吸引することができる。
【0033】
また、吸引カテーテルの外壁に、その先端を貫通する開孔に繋がるスリット孔を設けた場合、痰等の異物を吸引する際に、気管の内壁に沿って広がった外壁の内側に、痰や粘液の表面張力で当該痰の膜が張られるから、痰等の異物を吸引し易くなる。このことは特に、低流量によって比較的吸引力を小さくし、吸引をゆっくり行なう場合には有効である。加えて、外壁がスリット孔を起点に2つに分かれて広がる場合、その境目に吸引路内の負圧を逃がす開放部が形成されるため、強い吸引力で気管壁に密着することなく、痰等の異物を吸引することができ、人体にやさしい。
【0034】
更に、本発明のように、角度位置照合マークを設けた場合、痰等の異物を吸引する時には、まず、気管カニユーレの基部から人工呼吸器に繋がる呼吸管を外す。その後、吸引カテーテルを、呼気管カニユーレの基部から当該気管カニューレの通気路内に挿入する。このとき、吸引カテーテルのうち、角度位置照合マークを含む吸引カテーテルの基部側の部分を、気管カニユーレの基部から露出させる。
【0035】
次に、吸引カテーテルを、その周方向(吸引カテーテルの軸線を中心とした回転方向)に回転させたり、その長さ方向に移動させて、前記角度位置照合マークを、予め設定された位置(吸引カテーテルに形成された痰等の異物を吸引する吸引口が、気管カニューレの通気路より先方にある、気管に付着した痰等の異物と対時する位置)に配置させる。これにより、高価な位置検出装置を使用することなく、吸引カテーテルの吸引口を気管に付着した痰等の異物と対峠する位置に、正確に配置することができる。
【0036】
即ち、本発明の如く、吸引カテーテルに角度位置照合マークを設ければ、高価な位置検出装置を使用することなく、正確に、吸引カテーテルの吸引口を気管内壁の壁面上に付着した痰等の異物と対峠する位置に配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明の好適な形態を詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明に従う吸引カテーテルが採用される人工呼吸システム100を例示する模式図である。
【0039】
人工呼吸システム100は、患者の呼吸を確保する人工呼吸器110と、患者の気管Tを切開し、この切開部分から気管T内に挿入される気管カニューレ120と、本発明の第一の形態である吸引カテーテル10内に吸引圧を発生させる吸引器130と、吸引カテーテル10からの痰等の異物PHを集める収集ビン140とを具える。また、人工呼吸システム110は、シーケンサやタイマ等が配設された制御部(コントロールボックス)150を具える。この制御部150は、吸引カテーテル10の内圧に応じて吸引器130による吸引圧を調整して吸引器130に対する流入量を制御する。
【0040】
更に詳述すると、人工呼吸器110は、図示せぬ開放弁及びコンプレッサを内蔵し、これらを一定時間毎に交互に動作させることにより、送気及び排気を行う。人工呼吸器110の送排気口には、空気を給排する呼吸管111の基部が接続されている。呼吸管111は、呼気弁112が介在し、気管カニューレ120に繋がる。
【0041】
気管カニューレ120は、図2(a)に示すように、所定の曲率で略J字形状に湾曲した所定長さのプラスチック管で構成されたカニューレ本体121を有する。カニューレ本体121は、その内径が例えば8〜12 mmの円形断面を有し、内部に呼吸路(通気路)122が形成されている。また、本体121の先端部の外周側には、空気の出し入れによって膨張、収縮させるカフ123が,本体21の外周に密着して環状に配設されている。カフ123は、合成樹脂シートからなる環状のバルーンである。カニューレ本体21の外周側には、カフ123に空気を注入する合成樹脂製の細管123aが固着されている。細管123aの基端部には,弁付きの小さな円筒状アダプタ124が設けられている。このアダプタ124にシリンジ先端を差し込み、シリンジによって細管123aから空気をカフ123に注入すると、カフ123が膨張する。
【0042】
また、カニューレ本体121の基部121aには、マウント150が装着されている。マウント150は、人工呼吸器110に繋がる呼吸管111の先端部が接続される呼吸管接続部151と、この呼吸管接続部151から分岐して形成された開口152とを有し、この開口152には封止栓153が取り付けられている。この封止栓153には、吸引器130に繋がる吸引カテーテル10が密閉状態のまま貫通する。これにより、吸引カテーテル10は、気管カニューレ120の内側に形成した呼吸路122を通り、その一部が気管側開口121bを経て気管Tの内部に露出する。なお、気管カニューレ121の外径は、例えば、10mmであり、吸引カテーテル10の外径は、例えば、4mmである。
【0043】
吸引カテーテル10は、可撓性を有する合成樹脂製の細長い弾性チューブであり、カニューレ本体121に形成された呼吸路122を通って気管T内に挿入可能である。吸引カテーテル10は、その先端部を気管カニューレ120から露出させることなく使用できるが、本形態では、吸引カテーテル10の先端部を気管カニューレ120から露出させて使用し、この気管カニューレ120から露出する吸引カテーテル10の部分10aから気管Tの内壁Tfに付着した痰等の異物を吸引する。
【0044】
詳述すると、吸引カテーテル10は、図2,3に示すように、長手方向に沿って伸びる外壁12の内側に痰PH等の異物を吸引・排出するための吸引路11を有し、この吸引路11に通じる吸引口13を外壁12に備える。更に詳細に説明すると、吸引口13は、外壁12の先端12eを貫通して吸引路11に通じる開孔13aと、外壁12の先端12eから外壁12の長手方向に沿って外壁12を切り欠いて開孔13aと共に吸引路11に通じるスリット孔13bとからなる。
【0045】
更に、本形態の吸引カテーテル10は、その形状自体にも顕著な特徴を有する。即ち、吸引カテーテル10は、図3に示すように、その長さ方向に対して直交する断面形状、即ち、外壁12の横断面形状が、吸引口13を円弧形状側に配した三日月形状をなす。この三日月形状は、呼吸路122に配した円弧形状の第一の曲線と、この第一の曲線の両端を結び呼吸路122の中心軸から第一の曲線に向けて凸形に湾曲した円弧形状の曲線とからなり、呼吸路122側にスリット孔13bに向かう湾曲した樋面12fを形成する。このため、気管カニューレ120の呼吸路122内に吸引カテーテル10を通したとき、この呼吸路122にできる限り大きな流路面積を確保できる。これにより、患者は楽に呼吸することができる。
【0046】
カニューレ本体121に形成した呼吸路122内に、本形態の吸引カテーテル10を通すときは、図2(a)に示すように、所定の曲率で湾曲した呼吸路122の内壁122fうち、当該湾曲の中心とは反対側の内壁122fに沿って通す。言い換えれば、吸引カテーテル10の外壁12に形成したスリット孔13bの指向する向きは、図2(a)に示すように、仰向けに寝た患者に対して気管カニユーレ120を挿着した際、痰PH等の異物が自重によって沈殿する患者の下側(背中側)となる部分である。その結果、吸引カテーテル10の露出部分10aに形成した吸引口13は、気管カニユーレ120の通気路122により先方にある、気管Tの内壁Tfに付着した痰PH等の異物と対峙する位置に位置決めされる。
【0047】
また、図1に示すように、吸引カテーテル10の長さ方向の中間部より上流側(気管カニューレ120よりも上流側)には、吸引器130による吸引圧を検出する際に利用される短尺な分岐管131が設けられている。分岐管131は、その先端部(図1では図面上端部)に圧力センサ132が設けられている。圧力センサ132は、吸引カテーテル10の内側に形成された吸引路11の内圧(すなわち、吸引路11内に発生する痰PH等の異物を吸引するための吸引圧)を測定する。
【0048】
吸引器130は、その内部で発生させた負圧により、気管T内に溜まった痰PH等の異物を、吸引カテーテル10を介して吸い出し、収集ビン140に回収する。吸引器130は、適宜のポンプ、例えば、チューブポンプ133を具えている。チューブポンプ133は、図4に示すように、所定の弾性力を有する合成樹脂製の吸引カテーテル10を局所的に押圧して閉塞させる3つの押圧ローラ135aが、外周上で円周方向に離間した位置にそれぞれ突設されたロータ135と、ロータ135の外周面から所定距離だけ離間して設けられ、ロータ135との対向面が、このロータ135の外周面と平行に湾曲したチューブ押圧面136aとして構成された押圧ガイド136と、ロータ135を回転させる回転手段とを含んでいる。ロータ135の回転手段は電動モータ134で構成され、押圧ガイド136のチューブ押圧面に沿ってロータ135を回転させる。チューブポンプ133による痰PHの圧送量(圧送速度)は、50〜200cc/secを目安とする。
【0049】
図1に示す制御部150は、次のように痰PH等の異物の吸引動作を制御する。すなわち、通常、痰PHを吸引する時には、チューブポンプ133を予め設定した設定値(痰等の異物を吸引する時の正常な吸引圧)で作動させ、圧力センサ132により検出された検出値がその設定値より高くなった時、チューブポンプ133に対して作動指令を出してポンプ出力を所定時間だけ高める。すなわち、吸引器130の通常運転中はチューブポンプ133を常時作動させ、吸引カテーテル10内で痰PH等の異物が詰まるなどの異常状態が発生した場合には、チューブポンプ133の出力を高めて対処するものである。なお,上述したような異常事態の発生に備えて、吸引器130に制御部150で制御される補助ポンプ、例えばダイヤフラム式ポンプを併設しておくこともできる。
【0050】
次に、気管カニユーレ120が適用された人工呼吸システム100の作動を説明する。
まず、切開された気管Tに気管カニユーレ120の先端部を挿入する。この場合、所定の曲率で湾曲したカニューレ本体121の湾曲凸部が下側となって気管Tの内壁Tfに対向する状態となる。次に、指押しポンプ124を指で押し、カフ123に空気を注入してこれを膨らませる。その結果、カニューレ本体121の周壁と気管内壁Tfとの隙間がカフ123により閉塞される。その後、カニューレ本体121の基部121aに、人工呼吸器110に繋がる呼吸管111を連通させる。患者の呼吸、すなわち人工呼吸器110を用いた患者の気管Tへの送気および排気は、従来と同様に、呼吸管111およびマウント150を介して、カニューレ本体121内の呼吸路122を通して行われる。
【0051】
次に、図4を参照して、チューブポンプ133による具体的な痰PHの吸引について説明する。
【0052】
まず、ロータ135の外周面と押圧ガイド136のチューブ押圧面136aとの間に吸引カテーテル10を配置させた状態で、回転手段134によりロータ135を痰排出側に回転させる(図4(a))。これにより、押圧ローラ135aが押圧ガイド136のチューブ押圧面136aに沿って、痰PHの排出側に回転する。このとき、押圧ガイド136のチューブ押圧面136a側と押圧ローラ135aとの間で、吸引カテーテル10の一部が閉塞される。その閉塞位置は、押圧口一ラ135aの回転に伴って、痰PHの排出側に連続的に移動する(図4(b),図4(c))。その結果、吸引カテーテル10上での閉塞位置が痰PHの排出側に徐々に移行し、吸引カテーテル10内の痰PHがしだいに排出側に圧送される。最終的に、痰PHは吸引カテーテル10から排出される(図4(d))。その結果、簡単でかつ低コストな構造により吸引器130を得ることができる。これに伴い、吸引カテーテル10の吸引側では負圧力が発生し、気管T内の痰PHが吸引カテーテル10に吸い込まれる。
【0053】
吸引カテーテル10は、長手方向に沿って伸びる外壁12の内側に痰PH等の異物を吸引・排出するための吸引路11を有し、この吸引路11に通じる吸引口13を外壁12に備えると共に、この外壁12の横断面形状が偏平形状であり、その長幅方向に沿って伸びる外壁12の部分にスリット孔13bを有する吸引口13が配置されているので、当該吸引カテーテル10は、痰PH等の異物を吸引する時において、気管カニユーレ120の内側に形成した呼吸路122の内周面に沿って気管T内に挿入される。そのため、吸引カテーテル10の吸引口13は必ず気管内壁Tfに対向して挿入され、しかも、吸引カテーテル10の長さ方向に直交した断面を円形状としたときに比べて、吸引カテーテル10は気管カニユーレ120内で反転(吸引カテーテル10の軸線を中心とした回転)を起こし難い。これにより、気管カニユーレ120の呼吸路122内に挿入した吸引カテーテル10であっても、その吸引口13を気管Tに付着した痰等の異物に対峙させるための位置決め(吸引口13の位置決め)が容易でその位置ズレも小さくなる。その結果、痰PH等の異物を吸引する時において、吸引カテーテル10の吸引口13を安定した状態で痰PH等の異物が付着した気管内壁Tf側に向けておくことができるから、従来に比べ、気管T内に付着した痰PH等の異物を早期に吸引することができる。
【0054】
しかも、この場合、吸引口13を配置した外壁12の部分の横断面形状が円弧形状をなすため、吸引口13を配した外壁12の部分の外周面が、気管カニユーレ120の内周面と面接触した状態で呼吸路122内に挿入されるため、痰PH等の異物を吸引する時に、気管カニユーレ120の内側に形成した呼吸路122の断面形状を円形状とした場合に比べて、気管カニユーレ120の軸線に直交した断面上で、吸引カテーテル10を気管カニユーレ120の内周面に沿って配置することができる。そのため、見かけ上は、気管カニューレ120の内側に形成した呼吸路122内の障害物(吸引カテーテル10)が小さく(又は、吸引カテーテル10の厚さが薄くなり、若しくは、吸引カテーテル10の高さが低く)なり、この呼吸路122を通して、別の吸引カテーテルまたは内視鏡などを気管内に挿入し易い。また、この場合、呼吸路122内に生じる流路抵抗が少なく人工呼吸器110の換気に影響を与えない。
【0055】
特に、本形態は、図2(b)に示すように、吸引カテーテル10の横断面形状が、呼吸路122側にスリット孔13bに向かう湾曲した樋面14を有する三日月形状をなすため、気管カニューレ120の呼吸路122内に吸引カテーテル20を通したとき、この呼吸路122に最も大きな流路面積を確保できる。これにより、患者は楽に呼吸することができる。
【0056】
また、本形態によれば、吸引路11に通じる吸引口13は、外壁12の先端12eを貫通して吸引路11に通じる開孔13aと、外壁12の先端12eからその長手方向に沿って外壁12を切り欠いて開孔13aと共に吸引路11に通じるスリット孔13bとからなるため、痰PH等の異物を吸引するときに、気管カニューレ120の呼吸路122から露出した吸引カテーテル10の外壁12は当該スリット孔13bを起点に2つに分かれて気管Tの内壁Tfに沿って広がる。これにより、吸引カテーテル10の吸引口13が、気管Tに付着した痰PH等の異物と多少ずれた位置で対峙しても、当該異物の吸引が可能となるから、結果として、従来に比べ、気管T内に付着した痰PH等の異物を早期に吸引することができる。
【0057】
また、吸引カテーテル10の外壁12に、その先端12eを貫通する開孔13aに繋がるスリット孔13bを設けた場合、痰PH等の異物を吸引する際に、気管Tの内壁Tfに沿って広がった外壁12の内側に、痰PHや粘液の表面張力で当該痰PHの膜が張られるから、痰PH等の異物を吸引し易くなる。このことは特に、低流量によって比較的吸引力を小さくし、吸引をゆっくり行なう場合には有効である。加えて、外壁12がスリット孔13bを起点に2つに分かれて広がる場合、その境目に呼吸路122内の負圧を逃がす開放部が形成されるため、強い吸引力で気管Tの内壁Tfに密着することなく、痰PH等の異物を吸引することができ、人体にやさしい。
【0058】
更に、スリット孔13bの形状には、均等な幅間隔を維持しつつ外壁12の先端12eに向かって平行に伸びる形状と、外壁12の先端12eに向かって幅間隔が広くなり末広がりに伸びる形状とを含む。スリット孔13bの長さも、用途等に応じて適宜変更可能であり、吸引カテーテル10における、気管カニューレ120からの露出部分10aの長さよりも長く設定することもできる。スリット孔13bの長さを露出部分10aの長さよりも長くする場合の具体例としては、10mmから50mmの範囲が挙げられる。この場合、気管カニューレ120の呼吸路122内に痰PH等の異物が入り込んでも、吸引口13から吸い取ることができる。
【0059】
また、吸引カテーテル10は、図5の斜視図に示すように、気管カニユーレ120の呼吸路122側の外壁12が樋面12fで、しかも、吸引カテーテル10の先端領域のうち、気管内壁側の壁面(スリット孔13b及びその周辺を含む領域一帯)12Pを、外方に膨出させてもよい。これにより、気管内壁Tfと吸引口13(スリット孔13b)との距離がさらに短くなり、気管T内で発生した痰PH等の異物の除去に対してさらに高い応答性を発揮することができる。
【0060】
さらに、吸引カテーテル10は、他の変形例として、図6に示すように、気管カニユーレ120の呼吸路122側の外壁12が樋面12fで、しかも、樋面12fの両端部に、吸引カテーテル10の長さ方向の略全長にわたって合成ゴム製の鍔部15をそれぞれ一体形成させてもよい。両鍔部15を設けることで、痰PH等の異物を吸引する時に、吸引カテーテル10の外壁12を、常時、カニユーレ本体121の呼吸路122の内周壁122fに圧着させる力(弾性力)が高まる。その結果、痰PH等の異物を吸引する時に、気管カニユーレ120内での吸引カテーテル10の浮き上がりを防止することができる。
【0061】
図7(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の第四の形態である吸引カテーテル20を気管カニューレ120に挿入した状態で示す正面図と、吸引カテーテル20をスリット孔23bから示す底面図及び正面図である。
【0062】
吸引カテーテル20は、図2,3に示す第一の形態と同様、長手方向に沿って伸びる外壁22の内側に痰PH等の異物を吸引・排出するための吸引路21を有し、この吸引路21に通じる吸引口23を外壁22に備える。吸引口23は、外壁22の先端22eを貫通して吸引路11に通じる開孔23aと、外壁22の先端22eから外壁22の長手方向に沿って外壁22を切り欠いて開孔23aと共に吸引路21に通じるスリット孔23bとからなる。
【0063】
また、吸引カテーテル20は、外壁22の横断面形状が偏平形状の一例である半円形状をなす。この半円形状は、呼吸路122に配した円弧形状の曲線とその両端を結ぶ呼吸路122の中心軸側に配した直線とからなり、呼吸路122側に平坦面22fを有するため、気管カニューレ120の呼吸路122内に吸引カテーテル20を通したとき、この呼吸路122に大きな流路面積を確保できる。これにより、吸引カテーテル20においても、患者は楽に呼吸することができる。
【0064】
図8(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の第五の形態である吸引カテーテル30を気管カニューレ120に挿入した状態で示す正面図と、吸引カテーテル30をスリット孔33bから示す底面図及び正面図である。
【0065】
吸引カテーテル30も、他の形態と同様、長手方向に沿って伸びる外壁32の内側に痰PH等の異物を吸引・排出するための吸引路31を有し、この吸引路31に通じる吸引口33を外壁32に備える。吸引口33は、外壁32の先端32eを貫通して吸引路31に通じる開孔33aと、外壁32の先端32eから外壁32の長手方向に沿って外壁32を切り欠いて開孔33aと共に吸引路31に通じるスリット孔33bとからなる。
【0066】
また、吸引カテーテル30は、外壁22の横断面形状が偏平形状の一例である楕円形状をなす。この場合、気管カニューレ120の呼吸路122内に、円形断面を有する従来の吸引カテーテルを通したときに比べ、呼吸路122に大きな流路面積を確保できる。これにより、吸引カテーテル30においても、患者は楽に呼吸することができる。
【0067】
図9は、本発明の第六の形態である吸引カテーテル40を示す斜視図である。
【0068】
吸引カテーテル40は、合成ゴム製の細長い管部材で、長手方向に沿って伸びる外壁42の内側に痰PH等の異物を吸引・排出するための吸引路41を有し、その外壁42の横断面形状が円形状としてなり、その先端42eを丸く成形して吸引路41を密閉している。このように先端42eが丸いと、吸引カテーテル40の気管内挿入時に、その先端による気管粘膜の損傷を防ぐことができる。吸引カテーテル40の長さは、気管カニユーレ120の長さの数倍を有する。
【0069】
また、吸引カテーテル40は、カニューレ本体121の呼吸路122を通って気管T内に挿入可能な露出部分40aを有し、この露出部分40aの外壁42には、その内側に形成した吸引路41に通じる吸引口43が形成されている。更に、吸引カテーテル40は、呼吸路122を通したとき、カニューレ本体121の基部121aに装着したマウント150より露出した部分であり、かつ、吸引口43とは吸引カテーテル40の周方向の反対側となる部分に、吸引口43が、気管内壁の壁面Tf上に付着した痰PH等の異物の存在する位置(以下、「痰吸引位置」という。)Pと対時する位置に達したことを知らせる角度位置照合マーク(以下、「照合マーク」という。)M1が付されている。
【0070】
照合マークM1は、吸引カテーテル40の長さ方向に沿って所定長さ(例えば、4cm)だけ伸びた直線で、吸引カテーテル40の基部側から吸引口43を有する先端側に向かって所定の間隔(例えば、1cm)毎に、+2、+1、0、−1、−2の各目盛りが順次付されている。また、気管カニユーレ120又はマウント150には、所定の曲率で湾曲したカニユーレ本体121の外周壁のうち、当該湾曲中心とは反対側の外周壁に、図9(b)に示すように位置合わせ点M2が付されている。ここでは、照合マークM1の目盛り0の点を位置合わせ点M2に合わせたとき、吸引口43が、痰吸引位置Pと対峠する位置に達するように形成されている。
【0071】
次に、本形態の吸引カテーテル40の使用方法を説明する。
痰PH等の異物を吸引する時には、まずカニユーレ本体121の基部121aに装着したマウント50から呼吸管111を外す。その後、吸引カテーテル40を、マウント50を通してカニューレ本体121の呼吸路122内に挿入する。このとき、吸引カテーテル40のうち、照合マークMを含む吸引カテーテル40の基部側の部分を、マウント50から露出させる。
【0072】
次に、吸引カテーテル40を、その周方向(吸引カテーテル40の軸線を中心とした回転方向)に回転させたり、その長さ方向に移動させて、照合マークM1の目盛り0の点をカニューレ本体121に設けた位置合わせ点M2に合致させる。これにより、吸引カテーテル40に形成された吸引口43が、気管カニューレ120の呼吸路122の気管側開口121bより先方で、かつ痰吸引位置Pと対峠する位置に配置される。その結果、高価な位置検出装置を使用することなく、吸引カテーテル40の吸引口43を痰吸引位置Pと対峠する位置に、正確に配置することができる。
【0073】
即ち、吸引カテーテル40の如く、照合マークM1を設ければ、高価な位置検出装置を使用することなく、正確に、吸引カテーテル40の吸引口43を気管内壁の壁面Tf上に付着した痰PH等の異物と対峠する位置に配置することができる。なお、吸引カテーテル40の長さ方向において、吸引口43の位置調整をしたい場合には、照合マークMの目盛り0の点を除く任意の点(+2の点,+1の点,−1の点,−2の点)をカニューレ本体121に設けた位置合わせ点M2に合致させればよい。
【0074】
上記第六の形態は、細長い円管形状の吸引カテーテル40に代えて、その長さ方向に直交した断面形状が第一の形態〜第五の形態の如くの吸引カテーテルに採用してもよい。
【0075】
要するに、本発明によれば、吸引カテーテルに、その先端を開口させると共に、その長さ方向に沿って伸びるスリット状の吸引口を設けたことにより、以下の効果が得られる。
1.痰等の異物を吸引しやすくなる。
2.痰等の異物を広範囲に吸引することができる。
3.特に、異物が痰等の粘性を有するものである場合、表面張力で膜が張られるため、異物の吸引がされやすくなる。また、膜が張られることで、異物の吸引が比較的小さな吸引力で済むため、異物の効率的な除去を実現できる。
4.スリット孔を長くすることで、気管カニューレ内に侵入した異物も吸引できる。
【0076】
更に、本発明によれば、吸引カテーテルの外壁の横断面形状を偏平形状とし、その長幅方向に沿って伸びる外壁の部分に前記吸引口を配置したことにより、以下の効果が得られる。
1.湾曲した気管カニューレに挿入した場合、吸引カテーテルの断面形状が偏平形状であるため、吸引カテーテルの幅方向は長軸であるから、その幅広さが腰となって吸引カテーテルをその長さ方向周りに回転させない。即ち、人工呼吸器のアダプタ部が、例えば、90度回転しても、吸引カテーテル自体は回転せず、常に安定した状態のまま、吸引カテーテルの吸引口を気管の内壁に付着した痰等の異物に向けることができる。
2.吸引カテーテルの吸引口が気管の内壁に向くことで、付着した痰等の異物との距離が近くなり、異物の効率的な除去を実現できる。
【0077】
上述したところは、本発明の好適な形態を示したものであるが、請求の範囲内において種々の変更を加えることができる。例えば、各形態に採用された個々の要素はそれぞれ、用途等に応じて適宜組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に従う吸引カテーテルが採用される人工呼吸システムを例示する模式図である。
【図2】(a),(b)はそれぞれ、本発明の第一の形態である吸引カテーテルを気管カニューレに挿入して気管内に付着した痰を取り除く状態を示す断面図及び、同図(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ、同形態の吸引カテーテルを示す斜視図、同カテーテルをスリット孔が形成された外壁の側から示す底面図及び、同カテーテルを外壁の先端の側から示す正面図である。
【図4】(a)〜(d)はそれぞれ、図1の人工呼吸システムに採用される吸引器の動作を説明する要部拡大模式図である。
【図5】本発明の第二の形態である吸引カテーテルのうち、気管カニューレの気管側開口部から露出した部分を、その外壁の先端の側から示す要部斜視図である。
【図6】(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の第三の形態である吸引カテーテルを、外壁の先端の側から示す要部斜視図及び、スリット孔が形成された外壁の側から示す底面図である。
【図7】(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の第四の形態である吸引カテーテルを、気管カニューレに挿入した状態で、外壁の先端の側から示す正面図、同カテーテルをスリット孔が形成された外壁の側から示す底面図及び、同カテーテルを外壁の先端の側から示す正面図である。
【図8】(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の第五の形態である吸引カテーテルを、気管カニューレに挿入した状態で、外壁の先端の側から示す正面図、同カテーテルをスリット孔が形成された外壁の側から示す底面図及び、同カテーテルを外壁の先端の側から示す正面図である。
【図9】(a),(b)はそれぞれ、本発明の第六の形態である吸引カテーテルの斜視図及び、同カテーテルを、気管カニューレに挿入した状態で、外壁の先端の側から示す正面図である。
【符号の説明】
【0079】
10 吸引カテーテル
11 吸引路
12 外壁
12e 先端
12f 樋面
13 吸引口
13a 先端開孔
13b スリット孔
100 人工呼吸システム
110 人工呼吸器
111 呼吸管
120 気管カニューレ
121 カニューレ本体
122 呼吸路(通気路)
123 カフ
M1 角度位置照合マーク
M2 位置合わせ点
P 痰吸引位置
T 気管
Tf 気管内壁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管カニューレの通気路を通って気管内に挿入可能であり、気管に付着した異物を吸引する吸引カテーテルであって、
前記吸引カテーテルは、長手方向に沿って伸びる外壁の内側に異物を吸引・排出するための吸引路を有し、この吸引路に通じる吸引口を前記外壁に備えると共に、
この外壁の横断面形状が偏平形状であり、その長幅方向に沿って伸びる当該外壁の部分に前記吸引口が配置されていることを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項2】
気管カニューレの通気路を通って気管内に挿入可能であり、気管に付着した異物を吸引する吸引カテーテルであって、
前記吸引カテーテルは、長手方向に沿って伸びる外壁の内側に異物を吸引・排出するための吸引路を有し、この吸引路に通じる吸引口は、前記外壁の先端を貫通して前記吸引路に通じる開孔と、前記外壁の先端からその長手方向に沿って当該外壁を切り欠いて前記開孔と共に前記吸引路に通じるスリット孔とからなることを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項3】
気管カニューレの通気路を通って気管内に挿入可能であり、気管に付着した異物を吸引する吸引カテーテルであって、
前記吸引カテーテルは、長手方向に沿って伸びる外壁の内側に異物を吸引・排出するための吸引路を有し、この吸引路に通じる吸引口を前記外壁に備えると共に、
この外壁の横断面形状が偏平形状であり、その長幅方向に沿って伸びる当該外壁の部分に前記吸引口が配置され、この吸引口は、前記外壁の先端を貫通して前記吸引路に通じる開孔と、前記外壁の先端からその長手方向に沿って当該外壁を切り欠いて前記開孔と共に前記吸引路に通じるスリット孔とからなることを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項4】
前記スリット孔の長さを、気管カニューレから露出する前記吸引カテーテルの部分の長さよりも長く設定してなる、請求項2又は3に記載の吸引カテーテル。
【請求項5】
前記外壁に、前記吸引口を前記気管カニューレの通気路の周りに角度調整するための角度位置照合マークを備える、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の吸引カテーテル。
【請求項6】
気管カニューレの通気路を通って気管内に挿入可能であり、気管に付着した異物を吸引する吸引カテーテルであって、
前記吸引カテーテルは、長手方向に沿って伸びる外壁の内側に異物を吸引・排出するための吸引路を有し、この吸引路に通じる吸引口を前記外壁に備え、この外壁に、前記吸引口を前記気管カニューレの通気路の中心軸線周りに角度調整するための角度位置照合マークとを備えることを特徴とする吸引カテーテル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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