吸引式濾過濃縮方法
【課題】この方法によれば、浄水場等で発生する濃度1質量%以下という低濃度の汚泥を短時間に、かつ効率的に濃縮することができる。
【解決手段】懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて懸濁液を吸引することにより、懸濁液中の水分について濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、第1懸濁液を吸引式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、を有する吸引式濾過濃縮方法である。
【解決手段】懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて懸濁液を吸引することにより、懸濁液中の水分について濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、第1懸濁液を吸引式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、を有する吸引式濾過濃縮方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引式濾過濃縮方法に関する。より詳細には、濾布により捕捉不能な固形物を含有する汚泥(懸濁液)に対して、このような濾布により濾過することが可能な状態を効率的に形成し、目詰まりを生じることなく濾過することが可能な吸引式濾過濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、浄水場等で発生する汚泥は、主に濃縮に伴うエネルギー消費削減の観点から段階的に濃縮されて、最終的に処分されてきた。典型的なものとして、浄水場等で発生する汚泥(懸濁液)は、凝集剤を用いて凝集沈殿槽内で沈殿させる。沈殿させた汚泥は、さらに重力沈降槽に導入され、重力の作用で沈降させる。この重力沈降槽では、たとえば濃度1質量%以下の汚泥が、濃度1質量%超〜2質量%程度まで濃縮される。次いで、重力沈降槽の底に沈降した汚泥を、吸引式濾過濃縮技術を利用する吸引式濾過濃縮装置を用いて、さらに濃縮する。この吸引式濾過濃縮装置には、汚泥を流入させて濾過濃縮させる濾過濃縮槽が設けられている。さらに、この濾過濃縮槽内には、内部に濾過室を形成する袋状の濾布と、濾過室を通じて濾布の外部にある汚泥を吸引する吸引手段とが備えられている。そして、重力沈降槽から濾過濃縮槽内に流入された汚泥を吸引手段により吸引する。これにより、汚泥中の水分は、濾布の目を通過して濾過室内に回収される一方、汚泥中の固形分は濾布の外表面に付着する。こうして、汚泥がさらに濃縮される。この吸引式濾過濃縮装置により、一般的には、濃度1質量%〜2質量%程度の汚泥を濃度3質量%〜5質量%程度まで濃縮することが可能である。さらに、濾布の外表面に付着した濃縮汚泥を濾過濃縮槽から外部に排出して、脱水機、乾燥機あるいは天日乾燥によりさらに水分除去する。この水分除去により、前述の濃縮汚泥が一層濃縮される。このようにして、濃縮された汚泥は、ケーキ状に形成され、最終的に、埋立処分、あるいは園芸用土壌に再利用されている。
【0003】
しかし、前述のような、浄水場等で発生する濃度1質量%以下という低濃度の汚泥を直接脱水機、乾燥機あるいは天日乾燥により濃縮しようとすれば、脱水機、あるいは乾燥機のエネルギー消費が大きく、コスト増となる。一方、天日乾燥では、乾燥までに相当な時間を必要とする。そのため実用的でない。
【0004】
さらに、昨今、浄水にクリプトスポリジウム等の微生物・菌が混入することで、浄水場において処理能力の高い浄水処理が要求されている。そのため、凝集沈殿槽において添加される凝集剤が増量される等により、発生する汚泥の量が増大し、浄水場における浄水処理の効率化が緊急の課題とされている。一方、重力沈降槽による汚泥の処理は、重力による汚泥の自然沈降を利用するものであり、汚泥が沈降して濃縮されるまでにたとえば数日等長時間を要してしまう。また、重力沈降槽を利用する場合には、自然沈降した汚泥を確実に排出するために、重力沈降槽内下部で汚泥を攪拌することも行われている。しかし、このような場合には、攪拌のために余分なエネルギーを必要とする。さらに、重力沈降槽の設置には、膨大な設置スペースを必要とし、大掛かりな土木工事を必要とする。以上のように、重力沈降槽による汚泥の処理は、浄水処理の効率化にとって障害となっていた。
【0005】
この点、吸引式濾過濃縮技術のうち、吸引の動力をサイフォン式とすることにより、省エネルギー効果を高く実現できるサイフォン式濾過濃縮装置が知られている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、サイフォン式の吸引式濾過濃縮装置が開示されている。この吸引式濾過濃縮装置は、その内部に濾過室を形成する袋状の濾布を備えているため、吸引した汚泥(濃縮前の汚泥)を、水分と、濃縮された汚泥とに分離する。すなわち、汚泥に含まれる水分は、濾布の無数の細孔を通過することにより、濾過室内に案内されて濾液として回収される。また、水分が除去され濃縮された汚泥は、濾布の外表面に付着されて、その後、剥離処理され、吸引濾過濃縮装置の外部へ排出されることになる。
【0007】
ところで、このような濾布の外表面に付着した濃縮汚泥を濾布から剥離するに際しては、従来から以下の(S1)〜(S4)の処理が行われてきた。まず、濾過濃縮槽内の未濃縮汚泥を外部に排出し、一時貯留する(S1)。これは、濃縮汚泥が未濃縮汚泥中に溶け込むことにより、濃縮汚泥の濃縮度が低減しないようにするためである。次いで、濾過室を通じて所定圧力の空気(エア)を濾布の内部から外部に向かって圧送する(S2)。濾布の外表面全体には濃縮汚泥が付着し、濾布の無数の細孔が塞がれている。そのため、エアを圧送することにより、濾布が外側に向かって膨出して変形するとともに、エアが無数の細孔を通過することによって、濃縮汚泥を外側に向かって強制的に剥離することが可能となる。次いで、濃縮汚泥を外部に排出する(S3)。前述の(S2)より、剥離された濃縮汚泥は、濾過濃縮槽の底に溜まる。そのため、濾過濃縮槽から濃縮汚泥を除去するために行われる。次いで、未濃縮汚泥を濾過濃縮槽内に充填する(S4)。
【0008】
上記のようにして、従来における吸引式濾過濃縮装置を使用した剥離処理工程(S1)〜(S4)が終了する。
【0009】
ところで、このような剥離処理工程(S1)〜(S4)を行う場合、重力沈降槽を利用せずに、凝集沈殿槽において沈殿した低濃度の汚泥を、吸引式濾過濃縮装置を用いて、直接吸引方式で濾過濃縮するとすれば、目の小さな濾布を採用せざるを得ない。このような場合には、汚泥を濾過濃縮することで短時間の間に濾布の目詰まりが生じ、濾過濃縮をいったん停止して濾布を洗浄する必要がある。その結果、稼働率が低下するとともに別途洗浄コストがかかり問題となっていた。一方、このような濾布を用いた吸引式濾過濃縮装置の代替として、MF,UF等の膜モジュールを用いた濾過濃縮を行うことも検討されているが、膜モジュール自体が非常に高価であるとともに、膜の洗浄に薬品や高圧ポンプが必要となるため高コストとなる。
【0010】
この点、濾過濃縮対象である汚泥(懸濁液)を利用して、濾過体の表面にケーキ薄層を形成する懸濁液濃縮装置が、たとえば特許文献2に開示されている。この懸濁液濃縮装置は、濾過濃縮の対象である汚泥が満たされた汚泥槽と、汚泥槽の水面上方付近に配置され、循環して走行する濾過体と、濾過体の表面に向かって汚泥を供給する汚泥供給手段と、走行する濾過体を透過した透過水を槽外へ排出する透過水排出手段と、濃縮された汚泥を汚泥槽に戻す手段とを有している。そして、予備濾過として、濾過体である量濾過して、濾過用の濾過層として濾過体の上にケーキ薄層を形成し、本濾過として、ケーキ薄層が形成された濾過体で懸濁液を濾過する。このような懸濁液濃縮装置によれば、濾過体の表面に別途プリコートを行うことなく、比較的目の粗い安価な濾過体を使用しながら目詰まりを防止することが可能である。
【0011】
しかしながら、このような懸濁液濃縮装置によれば、以下のような技術的問題点がある。第1に、濾過体の表面に、濾過層としてのケーキ薄層を効率的に形成するのが困難な点である。すなわち、濾過を予備濾過および本濾過に分けて実行するところ、本濾過のみならず予備濾過においても、濾過濃縮対象である汚泥をそのまま用いてケーキ薄層が形成される。一方、走行型濾過体において、ケーキ薄層の形成に利用されるエリアは、走行型濾過体のループ上の軌道のうち、ごく一部に限られる。このことから、走行型濾過体の回転速度を低下させる必要が生じ、ケーキ薄層の形成までに時間を要し、非効率的である。より詳細には、ケーキ薄層の形成に利用されるエリアが限定されているため、エリア全面に原液を塗布し、ケーキ薄層を形成するのに時間を要する。また、ケーキ薄層の形成時には、限定されたエリアにおいて原液中の固形分を密集させるために、十分な量の原液を走行型濾過体に供給する必要がある。そのため、走行型濾過体の回転速度を低下させる必要があり、走行型濾過体全体にケーキ薄層を形成するのに時間を要する。
【0012】
第2に、ケーキ薄層の厚み制御が困難な点である。より詳細には、走行型濾過体がループ軌道上を走行し、ループ軌道上部において、その前部でケーキ薄層を形成する(予備濾過)。さらに、ケーキ薄層により捕捉された活性濃縮汚泥を後部の液溜部に溜める(本濾過)。一方、ループ軌道下部において、ケーキ薄層の形成後の濾液(懸濁液が濾過された後の液)を利用して濾布面上の過剰なケーキ薄層を落とすように、懸濁液濃縮装置が構成されている。そのため、剥離させるケーキ量および厚さを制御することは困難であり、ケーキ薄層を必要以上に剥離することもある。反面、ほとんど剥離せず、あるタイミングでまとめて剥離することもある。前者の場合、再度走行型濾過体を低速運転して、ケーキ薄層を形成する必要があるが、いつこのような事態となるか予測困難である。しかも、その都度濃縮工程の停止を余儀なくされるため、濃縮効率の低下を引き起こす。一方、後者の場合、液溜部において既に過度に厚いケーキ層が形成されている。そのため、濾液がケーキ薄層を通過せず、濃縮できない場合が生じ、あるタイミングでケーキ薄層がまとめて剥離すると、ケーキ層の厚みが濾布面全体で不均一となり、濾過能力のばらつきを引き起こす。さらに、ループ軌道下部において、ケーキ薄層の形成後の濾液を滴下して濾布面上の過剰なケーキ薄層を落とすように構成することは、滴下した濾液が濾布とケーキ薄層との間にまず浸漬することになる。そのため、ケーキ薄層の下方側に位置する外面が剥離する前に、濾布面とケーキ薄層の上方側に位置する内面との間で剥離が開始する可能性が高く、形成されたケーキ薄層の維持自体が困難となる。
【0013】
第3に、循環して走行する濾過体を採用するため、濾過体の駆動に伴うエネルギー消費が大きく、駆動部が故障の要因になりやすい。加えて、メンテナンスコストがかかるとともに、濾過体として実質的に濾過を行う本濾過の部分が濾過体の軌道の上側の一部に限られるため、濾過効率が悪い。
【0014】
さらに、特許文献3には、コロイド状の被除去物を含む流体が収納されるタンクと、前記タンク内に浸漬される第1のフィルタとその表面に吸着されるゲル膜より成る第2のフィルタとで形成されるフィルタ装置を備える濾過装置が開示されている。この装置では、被除去物より成るゲル膜をフィルタとして用い、フィルタに形成される数多くの隙間を流体の通過路として活用するものである。そして、目詰まりの原因となる被除去物をフィルタから離間させることができ、濾過能力の維持を実現可能としている。したがって、この特許文献3に記載の濾過技術は、従来から公知のいわゆる「ダイナミック濾過」の範疇に入るものである。
【0015】
しかし、特許文献3に開示される濾過装置では、濾過対象となる原液としての流体も、第2フィルタを形成するための流体も、コロイド状の被除去物である点で同じであり、前記被除去物を含有する流体の濃度も同じである。さらに、含まれる被除去物の平均粒径も同じである。したがって、この濾過装置を用いても、前記したような、浄水場等で発生する濃度1質量%以下という低濃度の汚泥を短時間に、かつ効率的に濃縮することはできない。
【0016】
このように、特許文献1〜3のいずれにおいても、未だ十分なものではなく、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第4164498号公報
【特許文献2】特開2001−120915号公報
【特許文献3】特開2004−321997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記した技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、濾布により捕捉不能な固形物を含有する懸濁液に対して、このような濾布により濾過することが可能な状態を効率的に形成し、目詰まりを生じることなく濾過することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。また、上記技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、濾布の表面に厚みの維持および制御が容易なケーキ薄層を形成することにより、濾布により捕捉不能な固形物を含有する懸濁液に対して濾過することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。
【0019】
さらに、上記技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、浄水場等で生じる汚泥(懸濁液)を対象に、重力沈降槽内における汚泥の攪拌を実質的に不要とすると同時に、汚泥を濾過体として利用しつつ、この濾過体により濾過濃縮された汚泥を濾過体として利用される汚泥とともに回収処理することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。
【0020】
さらにまた、上記技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、浄水場等で生じる汚泥(懸濁液)を対象に、重力沈降槽に適用することにより、設備スペースを削減するとともに、効率的かつ長時間に亘って濃縮処理することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
[1] 懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて前記懸濁液を吸引することにより、前記懸濁液中の水分について前記濾布を通過させる一方、前記懸濁液中の固形物を前記濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、前記懸濁液は、第1懸濁液と第2懸濁液を含み、前記懸濁液のうち、自然沈降させて、濃度の濃くなった汚泥であり、前記濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、前記第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、を有する、吸引式濾過濃縮方法。
【0022】
[2] 前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内から排出した後に、前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入させて行う[1]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0023】
[3] 前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、濾布が濾過濃縮槽内に満たされた前記第1懸濁液の液面から露出しないように、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽内から排出しつつ前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入することにより行う[1]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0024】
[4] 前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層からなる濃縮汚泥を、濾布から剥離する剥離段階は、濾過濃縮槽内に満たされた未濃縮懸濁液中で、濾布の内部から水を圧送することにより行う[1]〜[3]のいずれかに記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0025】
[5] 剥離した濃縮懸濁液を濾過濃縮槽から外部に排出し、貯留する段階をさらに有し、貯留した濃縮懸濁液を前記第1懸濁液として利用する[4]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0026】
[6] 前記ケーキ薄層形成段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽から排出し、貯留する段階と、前記剥離段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽へ供給する段階を有する[5]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る吸引式濾過濃縮方法によれば、濾布の目の大きさに応じて、所定粒子径および所定含有率の固形分を含有する第1懸濁液を選択し、第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮すると、固形分によるブリッジ形成、固形分間の分子間力、あるいは固体間を流体が急速に流れることに起因する吸引力等が原因で、濾布を構成する糸と糸との間の空間に固形分が密集することにより、濾布の目が閉塞され、ケーキ薄層を形成することから、このような固形分が必ずしも濾布の目より大きくないとしても、濾布の表面に効率的にケーキ薄層を形成することが可能である。したがって、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液であっても、このケーキ薄層を疑似的な濾過体として利用することにより、第2懸濁液を、ケーキ薄層を通じて吸引式により濾過濃縮すれば、濾布に目詰まりを生じることなく、第2懸濁液を濾過濃縮することが可能である。このことから、浄水場等で発生する濃度1質量%以下という低濃度の汚泥を短時間に、かつ効率的に濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る排水処理設備の概略構成図である。
【図2】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第1実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置の濾過板の概略正面図である。
【図3A】図2の濾過板について、膨出中の状態を示す概略図である。
【図3B】図2の濾過板について、濾過中の状態を示す概略図である。
【図4】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第1実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置の作用を示す概略図である。
【図5】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第1実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置の作用を示す概略図である。
【図6】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第2実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置を示す概略図である。
【図7】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、変形実施形態に係る図6と同様な図である。
【図8】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、変形実施形態に係る図6と同様な図である。
【図9】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、変形実施形態に係る図6と同様な図である。
【図10】汚泥の吸引濾過濃縮の実験方法を示す概略図である。
【図11】低濃度汚泥と高濃度汚泥とにおいて、濾液量の濾過時間による変化を示す実験結果のグラフである。
【図12】濃縮汚泥に含まれる固形分の粒度分布を参考的に示すグラフである。
【図13】ろ液量とろ液時間の関係を参考的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る吸引式濾過濃縮方法の実施形態を、図面を参照しながら、以下詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、以下においては、汚泥を対象に浄水処理設備に適用した場合を例として、説明する。
【0030】
[1]本発明の吸引式濾過濃縮方法の構成:
本発明の吸引式濾過濃縮方法は、懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて前記懸濁液を吸引することにより、前記懸濁液中の水分について前記濾布を通過させる一方、前記懸濁液中の固形物を前記濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、前記懸濁液は、第1懸濁液と第2懸濁液を含み、前記懸濁液のうち、自然沈降させて、濃度の濃くなった汚泥であり、前記濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、前記第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、を有する吸引式濾過濃縮方法である。
【0031】
以上の構成を有する吸引式濾過濃縮方法によれば、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて吸引することにより、懸濁液中の水分について濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させることにより、懸濁液を濾過濃縮することが可能である。
【0032】
さらに、いったん濾布により捕捉可能な固形分を含有する第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮すると、このような固形分が必ずしも濾布の目より大きくないとしても、濾布の表面に効率的にケーキ薄層を形成する。このケーキ層により、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液であっても濾過され、濾布上にさらにケーキ層を形成することとなる。
【0033】
より具体的に述べると、本発明においては、濾布の目を閉塞可能なように、濾布の目の大きさに応じて、所定粒子径および所定含有率の固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階を有している。この第1懸濁液を選択する段階を経た後に、選択した第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階を有することになる。ここで、ケーキ薄層は、固形分によるブリッジ形成、固形分間の分子間力、あるいは固体間を流体が急速に流れることに起因する吸引力等が原因で、濾布を構成する糸と糸との間の空間に固形分が密集することで、濾布の目が閉塞されることによって形成される。さらに、前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階を有している。濾過濃縮段階は、前述のケーキ薄層を疑似的な濾過体として利用することにより、第2懸濁液を、ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する段階である。ここで、ケーキ薄層形成段階を経て濾布の目は閉塞されるものの、この閉塞状態は、第2懸濁液の水分を通過可能な程度の閉塞である。そのため、本発明における濾過濃縮段階における濾過濃縮では、濾布に目詰まりを生じさせることなく、第2懸濁液を濾過濃縮することが可能である。
【0034】
本発明において、第1懸濁液は、濾布の目を閉塞可能な固形分を含有するものであるが、より明確にいうと、第1懸濁液は、「濾布の目を閉塞可能なように、濾布の目の大きさに応じて、所定粒子径および所定含有率の固形分を含有する」ものである。通常、「濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する」との意味は、固形分の粒子径が濾布の目以上の大きさを有する場合や、固形分の含有率(懸濁液の濃度)が所定以上の場合をいう。
【0035】
また、本実施形態では、「前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する」濾過濃縮段階を有する。このことは、図12の粒度分布測定図に示されるように、第1懸濁液及び第2懸濁液の、原液である懸濁液に含まれる固形分等を全て、本実施形態の吸引式濾過濃縮方法によって、濾過濃縮処理を行うことができることを意味している。すなわち、図12に示されるように、従来の、所謂、膜濾過濃縮汚泥処理では、例えば10μmの目の大きさを有する膜を用いる場合には、10μm以上のY領域における粒径(10〜100μm)を有する固形分を対象としていた。一方、従来の、所謂、ケーキ濾過(濾材を濾布上に保持し、その濾材によって行う濾過。ダイナミック濾過の意。)では、10μm以下のX領域における粒径(1〜10μm)を有する固形分を対象としていた。そのため、たとえば、膜濾過濃縮汚泥処理において、Y領域における粒径を有する固形分を濾過処理する場合、或いは、X領域における粒径とともにY領域における粒径を有する固形分を同時に濾過する場合には、すぐに目詰まりが生じ、長時間処理及び連続処理ができなかった。
【0036】
このような本発明の吸引式濾過濃縮方法についての詳細は、以下で、本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する吸引式濾過濃縮装置と合わせて、説明する。なお、本発明の吸引式濾過濃縮方法では、サイフォン式吸引濾過方法や、吸引ポンプを用いた吸引濾過方法を採用することができるが、ここでは、サイフォン式の吸引式濾過濃縮方法及び装置を用いて説明する。
【0037】
[2]本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する吸引式濾過濃縮装置の構成:
本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する吸引式濾過濃縮装置は、図1、図2、図3A及び図3Bに示されるように、重力沈降槽12の下流側に設置されるもので、重力沈降槽12内の懸濁液を流入する濾過濃縮槽83と、前記濾過濃縮槽83の内部に配置され、内部に濾過室76を形成する袋状の濾布18と、前記濾過室76を通じて、前記濾過濃縮槽83内の懸濁液を吸引する吸引手段と、前記重力沈降槽12の下部と前記濾過濃縮槽83とを接続する第1汚泥供給管80と、前記第1汚泥供給管80を通じて前記重力沈降槽12の下部に沈降した第1懸濁液を前記濾過濃縮槽83へ液送する第1液送手段82と、前記重力沈降槽12の上部と前記濾過濃縮槽83とを接続する第2汚泥供給管90と、前記第2汚泥供給管90を通じて前記重力沈降槽12の上部の第2懸濁液を前記濾過濃縮槽83へ液送する第2液送手段91と、前記濾過濃縮槽83内で、前記吸引手段により前記濾布18の表面に付着した濃縮汚泥を剥離するための濃縮汚泥剥離手段と、を有する吸引式濾過濃縮装置10として構成されている。
【0038】
以上の構成を有する吸引式濾過濃縮装置によれば、濾過濃縮槽内で袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて懸濁液を吸引することにより、懸濁液中の水分について濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させることにより、懸濁液を濾過濃縮することが可能である。
【0039】
具体的には、本実施形態においては、重力沈降槽内に満たされた汚泥(懸濁液)のうち、重力沈降槽の下部に沈降した濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を、第1液送手段により第1汚泥供給管を通じて濾過濃縮槽に液送する。液送された濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を、吸引手段により濾布の表面に付着させることにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成する。さらに、この状態で、重力沈降槽内に満たされた汚泥(懸濁液)のうち、重力沈降槽の上部の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を、第2液送手段により第2汚泥供給管を通じて濾過濃縮槽に液送する。液送された濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を、吸引手段により濾布およびケーキ薄層を通じて吸引することにより、濾過濃縮することが可能である。これとともに、濾布の表面に付着したケーキ薄層を形成する濃度の高い汚泥(第1懸濁液)、およびケーキ薄層の表面に付着する濃度の低い汚泥(第2懸濁液)からなる濃縮汚泥を、濃縮剥離手段により一度に濾布の表面から剥離させて回収することが可能である。
【0040】
特に、下水処理場等で生じる活性汚泥を対象に吸引濾過濃縮する場合、水分含有率が低く濃度が高い活性汚泥ほど、汚泥中に含まれる繊維性の粗浮遊物の含有率が高くなる傾向にある。このような濃度が高い汚泥を利用すれば、濾布の目詰まりを発生することなく、濾布の表面に効率的にケーキ薄層を形成することが可能となる。これとともに、吸引圧を高めて吸引濾過することにより、保形性の低い活性汚泥であっても、保形性が高くケーキ薄層を形成する濃度の高い活性汚泥であっても、ともにケーキ薄層の表面に付着する濃度の低い活性汚泥として、一度に濾布の表面で捕え、さらにその表面から剥離させて回収することが可能である。
【0041】
(浄水処理設備)
具体的には、図1に示されるように、浄水処理設備1は、原水Aを浄水Bと汚泥Cとに分離するための浄水槽2と、分離された汚泥Cを受け入れる重力沈降槽12と、重力沈降槽12内の汚泥を吸引方式で濾過濃縮するための吸引式濾過濃縮装置10と、吸引濾過濃縮された汚泥を脱水するための脱水機3とから概略構成されている。
【0042】
(浄水槽及び汚泥(懸濁液))
浄水槽2は、従来既知のものでよく、原水Aを受け入れ、浄水槽2内にたとえば凝集剤を添加することにより、原水Aを浄水Bと汚泥Cとに分離するようにしている。このため、浄水槽2は、凝集沈殿槽ともいえる。さらに、分離された浄水Bは、さらに下流側で別途処理されて、たとえば飲料水として利用されるようにしている。一方、分離された汚泥(懸濁液)Cは、以下に説明するように、下流側で段階的に濃縮処理をして、最終的に処分するようにしている。
【0043】
(重力沈降槽)
重力沈降槽12は、浄水槽2とは別体として設けられている。重力沈降槽12は、有底の円形断面の容器であり、内部に汚泥を受け入れて、重力の作用により自然沈降させて、濃度の高くなった汚泥(第1懸濁液)が槽の底部に溜まるようにしている。さらに、この重力沈降槽12には、重力沈降槽内に従来既知の攪拌機4が設けられ、モータ5により攪拌機4の鉛直軸が回転し、槽内の汚泥を攪拌するようにしている。このように、攪拌機4等を設けることによって、重力沈降槽12の底部に沈降した汚泥(第1懸濁液)を掻きとって回収・排出することができる。
【0044】
(第2懸濁液、第2汚泥供給管及び第2液送手段)
また、重力沈降槽12の側壁22には、重力沈降槽12内に汚泥を供給する汚泥供給管24の一端が連通し、汚泥供給管24の途中に設けられた汚泥供給弁26を介して、汚泥供給ポンプ28が接続されている。これにより、汚泥供給弁26を開き、汚泥供給ポンプ28を作動することにより、汚泥を浄水槽2から重力沈降槽12内に供給するようにしている。さらに、重力沈降槽12の上部には、第2汚泥供給管90の一端が接続されている。第2汚泥供給管90の他端は、第2液送手段としてのポンプ91を介して後に説明する濾過濃縮槽83の上部開口に臨むように配置される。これにより、重力沈降槽12での沈降により濃縮される前の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)が、第2汚泥供給管90を通じて直接濾過濃縮槽83に供給されるようにしている。たとえば、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を選択する段階に相当する。
【0045】
また、重力沈降槽12の側壁22には、重力沈降槽12内の上澄み液を排出する上澄み液排出管21の一端が、連通するように接続されている。この上澄み液排出管21の途中には、上澄み液排出弁23が設けられている。さらに、この上澄み液排出弁23を介して、上澄み液排出ポンプ25が接続されている。そして、上澄み液排出弁23を開き、上澄み液排出ポンプ25を作動させることにより、上澄み液は重力沈降槽12内から排出され、浄水槽2の上流側に戻される。なお、前述した第2汚泥供給管の変形例として、重力沈降槽12の上部に接続される上記一端を、汚泥供給管24に接続させて、第2汚泥供給管90として構成するとともに、汚泥供給ポンプ28を第2液送手段として構成してもよい(図示せず)。これにより、重力沈降槽12を経由せずに、浄水槽2から懸濁液を濾過濃縮槽83に直接液送することが可能となる。重力沈降槽12内の上部の汚泥は、沈降前か沈降分離後の上澄み液であり、重力沈降槽12へ流入前の汚泥(懸濁液)の濃度と変わらないか、重力沈降槽12で沈降した汚泥(第1懸濁液)よりも濃度が薄いものであるため、これを第2懸濁液として利用することも好ましい形態と言える。
【0046】
(第1懸濁液選択段階、第1懸濁液、第1汚泥供給管、及び第1液送手段)
さらに、重力沈降槽12の底部には、重力沈降槽12の下部と後に説明する濾過濃縮槽83とを接続する第1汚泥供給管80の一端が連通するように接続されている。さらに、第1汚泥供給管80の途中に設けられた第1汚泥供給弁81を介して、第1液送手段としての第1汚泥供給ポンプ82が接続されている。これにより、第1汚泥供給管80を通じて重力沈降槽12の下部に沈降した汚泥(第1懸濁液)を濾過濃縮槽83へ液送するようにしている。なお、上述のように説明した処理工程は、たとえば、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階に相当する。
【0047】
(吸引式濾過濃縮装置の概略構成)
図1および図2に示されるように、吸引式濾過濃縮装置10は、濾過濃縮対象である汚泥(懸濁液)を収容する濾過濃縮槽83と、濾過濃縮槽83内に配置された濾過板14と、汚泥(懸濁液)を吸引する吸引手段である吸引部16と、この吸引部16により濾過板14に設けられた濾布18の外表面に付着した、濃縮汚泥を剥離する濃縮汚泥剥離部20と、濃縮汚泥剥離部20により剥離され、濾過濃縮槽83の底に溜まったケーキ状片の濃縮汚泥を排出する濃縮汚泥排出部123、とから概略構成されている。
【0048】
(濾過濃縮槽及び濃縮汚泥貯留槽)
濾過濃縮槽83は、有底の矩形断面の容器であり、後に説明する濾過板14を内部に設置可能な容積を有する。濾過濃縮槽83の上部開口には、第1汚泥供給管80の他端が臨むように設置されている。そして、第1汚泥供給管80を通じて重力沈降槽12の下部に沈降した汚泥(第1懸濁液)が、濾過濃縮槽83の上部開口から濾過濃縮槽83の内部に供給されるようにしている。一方、濾過濃縮槽83の底部には、第1濃縮汚泥排出管84の一端が接続されている。第1濃縮汚泥排出管84は、第1濃縮汚泥排出ポンプ85を介して、濃縮汚泥貯留槽86に接続されている。さらに、第1濃縮汚泥排出管84は、第1濃縮汚泥排出ポンプ85の下流側で分岐して、未濃縮汚泥排出管119として重力沈降槽12に接続され、両者をバルブ150,151で切り替えている。また、濃縮汚泥貯留槽86には、第2濃縮汚泥排出管87の一端が接続され、第2濃縮汚泥排出管87は第2濃縮汚泥排出ポンプ88を介して第1汚泥供給管80の途中に接続されている。ここで、未濃縮汚泥とは、濾過濃縮層83内の濾布18の周囲に存在する汚泥であり、第1懸濁液、第2懸濁液を問わない。
【0049】
以上より、後に説明するように、濾過板14により濾過濃縮され、濾過板14により剥離されて濾過濃縮槽83の底部に溜まった濃縮汚泥は、第1濃縮汚泥排出ポンプ85により第1濃縮汚泥排出管84を通じて濃縮汚泥貯留槽86に送られて、濃縮汚泥貯留槽86に貯留されるように構成され、またそれとは独立に、濃縮汚泥貯留槽86に貯留された濃縮汚泥は、第2濃縮汚泥排出ポンプ88により、第2濃縮汚泥排出管87を通じて濃縮汚泥貯留槽86から第1汚泥供給管80に送られ、第1汚泥供給管80を通じて濾過濃縮槽83に供給されるようにしている。
【0050】
なお、第1濃縮汚泥排出管84が分岐して、未濃縮汚泥排出管119として重力沈降槽12に接続されているのは、汚泥(懸濁液)を連続的に濃縮処理可能とするためである。すなわち、汚泥(懸濁液)を連続的に濃縮処理する場合には、濾過濃縮槽83内の未濃縮汚泥を、未濃縮汚泥排出管119を通じて重力沈降槽12に戻し、その後に濾過濃縮槽83に第1汚泥を供給し、疑似濾過体としてケーキ薄層を形成して、連続的に濃縮処理を行う。この処理段階の後に、後述する濃縮汚泥剥離部によって、ケーキ層を剥離させる濃縮汚泥剥離処理が行われる。なお、上述した処理工程は、たとえば、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、第1懸濁液を吸引式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階に相当する。
【0051】
(吸引部/吸引手段)
図1及び図2に示されるように、濾過板14は、その上部において逆U字状の分配管34に接続され、この分配管34は、濾過濃縮槽83の外部で鉛直下方に延び、途中に濾液排出弁40が設けられる。分配管34の下端は、濾液溜114に臨むように設置されている。さらに、濾液溜114は、途中に濾液戻しポンプ116が設けられた濾液戻し管89を通じて、浄水槽2の上流側に濾液を戻すように構成されている。これにより、サイフォンの原理を利用して、濾過濃縮槽83内で濾過された濾液を濾過濃縮槽83外に排出する。また、それとは独立に、濾液溜114に溜められた濾液を、濾液戻しポンプ116により濾液戻し管89を通じて、浄水槽2の上流に液送し、再度浄水槽2内に流入するようにしてある。
【0052】
さらに、分配管34には、吸引管31が分岐して接続され、吸引管31には、途中に設けられた吸引弁33を介して真空ポンプ35が接続している。これにより、吸引弁33を開いた状態で、真空ポンプ35を作動することにより、濾過濃縮槽83内の処理すべき液を分配管34内に吸引し、サイフォンの原理を利用して、分配管34を通じて、濾液を外部に排出する準備を行うことができるようにしている。
【0053】
このサイフォン式の吸引圧は、分配管34の下端部と頂部とのレベル差に応じて決定される。ただし、吸引式濾過濃縮装置10を実用的に用いる場合、0.02MPaないし0.08MPaであることが好ましい。このような比較的低圧の吸引圧のもとで濾過濃縮槽83内の汚泥(懸濁液)を連続的に吸引することにより、濃縮汚泥が濾布18の外表面に付着させることができる。なお、その際、濾過濃縮槽83内の未濃縮汚泥中(懸濁液中)で、後に説明する濃縮汚泥剥離部20により、濃縮汚泥を濾布18から剥離させても、ケーキ状片として保形性を維持可能な程度の付着力を確保することが可能である。
【0054】
(濃縮汚泥剥離部)
また、濃縮汚泥剥離部20は、分配管34、水流入管42、水流入弁44、液送ポンプ46とから概略構成されている。そして、このような濃縮汚泥剥離部20によって、濾布18の内部から剥離媒体を圧送することにより、前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層からなる濃縮汚泥を、濾布から剥離する段階が行われることになる。
【0055】
具体的には、図2、図3A、図3Bに示されるように、分配管34には、水流入管42の一端が連通して接続され、その途中に設けられた水流入弁44を介して液送ポンプ46に接続されている。そのため、水流入弁44を開いた状態で、液送ポンプ46を作動させると、水が水流入管42および分配管34を通じて、濾過板14の内部に形成される濾過室76(後に説明)に供給される。この供給された水は、濾布18を膨出させて、濾布18から濃縮汚泥が剥離される。この場合、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥がケーキ状片として濾布18から剥離するように、液送ポンプ46および水流入弁44を用いることにより、剥離圧および/または剥離時間を調整されることが好ましい。
【0056】
このように、濾布の内部から剥離媒体を圧送することにより、前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層を濾布から剥離するところ、剥離媒体の圧送前まで濾布の表面に保持されていた濃縮層をまとめて一度に剥離することが可能であるとともに、剥離するたびに第1懸濁液によるケーキ薄層の形成から再開するので、ケーキ薄層の厚みは、主に第1懸濁液の濃度と第1懸濁液の濾過時間との組み合わせにより決定されることから、ケーキ薄層の厚み制御が容易となる。
【0057】
さらに、前記剥離段階は、濾過濃縮槽内に満たされた未濃縮懸濁液中で、濾布の内部から水を圧送することにより行うことが好ましい。この点について、本発明者は、濾過濃縮対象を汚泥とする場合、未濃縮汚泥中(懸濁液中)で濾布に付着した濃縮汚泥を剥離させても、濃縮汚泥が未濃縮汚泥中(懸濁液中)に溶け込まず、ケーキ状片として保形性を維持するのに、剥離媒体としての水を間欠的ではなく、所定時間に亘って連続的に圧送することが重要であることを確認している。
【0058】
ここで、「保形性」とは、濾布に付着した濃縮汚泥が、その付着時の板状の形態(大きさ、厚さなど)をどれくらい維持するかの程度をいう。たとえば、剥離時における濃縮汚泥が、大きい塊として剥離し、その後の段階でその形状があまり崩れない場合は、保形性が良いと判断できる。逆に、剥離時に小さい塊になったり、剥離後の塊が分解して小さい塊になったり、溶けて極端に小さくなる場合は保形性が悪いといえる。
【0059】
なお、濃縮汚泥の剥離媒体としての水は、汚泥(懸濁液)を濾布18により濾過し、濾過室76内に回収される濾液を用いることも好ましい。ただし、これに限定されるものではない。また、ここでの「未濃縮懸濁液」は、前述した「未濃縮懸濁液」と同義である。
【0060】
(濾過板)
図2に示されるように、濾過板14は、濾過枠48と、濾過枠48の内部に配置された支持板50と、支持板50を内部に収容するように袋状とした濾布18と、濾過枠48と支持板50との間に設けられた複数のコイルスプリング54とから概略構成されている。濾過枠48は、中空の矩形形状をなし、上辺56、下辺58および上下辺との間の両側辺60、62を有する。濾過板14は、上辺56の両端部により濾過濃縮槽83の内側面より懸架支持されている。
【0061】
(支持板)
支持板50は、ネットあるいはメッシュ網等からなり、矩形形状とされ、無数の小開口が支持板50に設けられている。支持板50の表面には、その上下方向に延びる凹凸部(図示せず)が設けられ、支持板50の凹部と濾布18の内面との間には、支持板50の上下方向に延びる濾液の流路が複数形成されるようにしている。支持板50は、樹脂製であり、具体的には、たとえばポリエチレン製あるいはEVA樹脂製がよい。このような材質を採用することにより、濾布18を汚泥に長時間浸漬したり、濾布18を膨出させたりする場合に、後に説明するコイルスプリング54により濾過板14に作用する張力が常時略一定となるようにすることが可能となる。
【0062】
(濾布)
濾布18は、化学繊維製あるいは金属製が好ましく、特にナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンなどがよい。濾布18は、たとえば、一対の矩形状の布体を重ね合わせて周縁部どうしを縫ったり、あるいは一枚の矩形状の布体を対向する縁どうしが重なり合うように折り曲げて、周縁部どうしを縫ったりすることにより袋状に形成するのがよい。濾布18の周囲には、複数の鳩目78が設けられ、コイルスプリング54の一端が、鳩目78にフックされるようにしている。
【0063】
また、濾布18には、濾過濃縮槽83の上下方向に延びる縫い目74が複数設けられ、各縫い目74により、濾布18はその内部に収容される支持板50と一体的に縫合されている。図2及び図3に示されるように、濾布18の内部には、隣り合う縫い目74により仕切られた濾過室76が形成される。分配管34の先端には、濾布18内で上部に設けられた水平管15が接続している。さらに、この水平管15には、各濾過室76に連通する流出孔(図示せず)が下向きに設けられ、剥離媒体としての水が、分配管34および水平管15に設けられた流出孔を通じて、各濾過室76内に圧送されるようにしている。
【0064】
なお、特に濾布18の上下方向の長さが長く、濾過濃縮槽83の汚泥による液圧の差が大きい場合には、複数の水供給管を濾布18の高さ方向に互いに異なるレベルに設けることも好ましい。剥離媒体としての水を圧送して、濾布18に付着した濃縮汚泥を剥離する際、濾布18に負荷される濾過濃縮槽83の汚泥(懸濁液)による液圧が高さ方向に変動することに伴い、濃縮汚泥が濾布18の高さ方向に一様に剥離できず、ケーキ状片として剥離するのが困難となる事態を防止することが可能となる。この場合、たとえば、液圧の低い濾布18の上部には、相対的に低い水圧の水を送り、液圧の高い濾布18の下部には、相対的に高い水圧の水を送ってもよい。
【0065】
(コイルスプリング)
図2に示すように、複数のコイルスプリング54は、濾過枠48の側辺60と濾布18の側辺61との間、濾過枠48の側辺62と濾布18の側辺63との間、濾過枠48の下辺58と濾布18の下辺59との間、および濾過枠48の上辺56と濾布18の上辺57との間に配置されている。濾過枠48の両側辺および上下辺それぞれに設置される隣り合うコイルスプリング54同士の間隔は、濾布18の大きさ、付着する濃縮汚泥量等に応じて、適宜設定すればよい。より詳細には、各コイルスプリング54は、その一端部が濾布18の鳩目78にフックされる一方、その他端部が濾過枠48の側辺60,62、上辺56および下辺58に固定されている。複数のコイルスプリング54は、耐蝕性の観点から、SUS製が好ましく、濾過板14の周囲に亘って数十本配置し、濾過板14の枚数がたとえば、数十枚に及ぶことから、特注品ではなく標準品を採用するのがよい。
【0066】
(濃縮汚泥排出部)
本実施形態における濃縮汚泥排出部は、剥離した濃縮汚泥を濾過濃縮槽83の外部に排出するために設けられている。具体的には、図1に示されるように、濃縮汚泥排出部123は、濃縮汚泥弁118、第3濃縮汚泥排出管93より概ね構成されている。この濃縮汚泥弁118を開くことにより、脱水機3に接続されている第3濃縮汚泥排出管93を通じて、濃縮汚泥が濾過濃縮槽83から脱水機3に液送される。
【0067】
(脱水機)
脱水機3は、たとえば、ベルトプレス、ベルトフィルター、遠心脱水機、ロータリプレス等従来既知のものでよく、脱水機3に送られる濃縮汚泥の濃度、汚泥の凝集性等を考慮して、適宜選択すればよい。脱水機3は、第3濃縮汚泥排出管93を介して濾過濃縮槽83の下部に接続され、濾過濃縮槽83の下部に溜まった濃縮汚泥を、第3濃縮汚泥排出管93を通じて脱水機3に供給するようにしている。なお、脱水機3の代替として、乾燥機を用いてもよい。
【0068】
(浄水処理設備の運転方法)
これまで説明した構成を有する浄水処理設備1について、運転方法を含めその作用を以下に説明する。原水Aが浄水槽2内に導入され、浄水槽2内で、凝集剤を添加する。これにより、原水Aが浄水Bと汚泥Cとに分離され、浄水Bは別途下流側で処理される。次いで、汚泥供給弁26を開き、汚泥供給ポンプ28を作動させることにより、分離された汚泥(懸濁液)が汚泥供給管24を通じて重力沈降槽12内に導入される。
【0069】
次いで、第1汚泥供給弁81を開き、第1汚泥供給ポンプ82を作動させる。これにより、重力沈降槽12の底部に溜まった比較的高濃度(たとえば、1質量%)の第1汚泥(第1懸濁液)を、第1汚泥供給管80を通じて濾過板14の頂部のレベルまで濾過濃縮槽83内に導入する。
【0070】
なお、この場合、濃縮汚泥貯留槽86に貯留された濃縮汚泥を、第2濃縮汚泥排出ポンプ88により第2濃縮汚泥排出管87を通じて第1汚泥供給管80に送り、重力沈降槽12からの第1汚泥(第1懸濁液)と合流させて、これを更に、第1汚泥(第1懸濁液)として濾過濃縮槽83に供給してもよい。
【0071】
より好ましくは、前記濾布により捕捉可能な濃度を有する第1懸濁液を貯留する濃縮汚泥貯留槽と、前記濾過濃縮槽の下部と前記濃縮汚泥貯留槽とを接続する第3汚泥供給管と、前記第3汚泥供給管を通じて、前記濃縮汚泥剥離手段により剥離されて前記濾過濃縮槽の底に溜まった濃縮汚泥を前記濃縮汚泥貯留槽に液送する第3液送手段と、前記濃縮汚泥貯留槽と前記第1汚泥供給管の途中とを接続する第4汚泥供給管と、前記第4汚泥供給管および前記第1汚泥供給管を通じて、前記汚泥貯留槽内に貯留された前記濃縮汚泥を前記濾過濃縮槽に液送する第4液送手段と、を有する吸引式濾過濃縮装置として構成されることである。このように構成されることにより、第1懸濁液より高濃度の濃縮汚泥と、第1懸濁液を混合して新たな濃度の第1懸濁液として、濃度調整を行えるため、より確実に短時間でケーキ薄槽を形成でき、連続的な汚泥処理を確実に行うことができる。
【0072】
具体的には、図1及び図2に示されるように、濾布18により捕捉可能な濃度を有する第1懸濁液を貯留する濃縮汚泥貯留槽86と、濾過濃縮槽83の下部と濃縮汚泥貯留槽86とを接続する、第3汚泥供給管としての第1濃縮汚泥排出管84を備えている。さらに、前記第3汚泥供給管としての第1濃縮汚泥排出管84を通じて、濃縮汚泥が濃縮汚泥貯留槽86に液送される。ここで、この濃縮汚泥は、濃縮汚泥剥離手段として構成される濃縮汚泥剥離部20によって剥離される。剥離された濃縮汚泥は、前記濾過濃縮槽83の底に溜まることになる。こうして、第3液送手段としての、第1濃縮汚泥排出ポンプ85、濃縮汚泥排出弁120により、濃縮汚泥は、濃縮汚泥貯留槽86に液送される。さらに、濃縮汚泥貯留槽86と第1汚泥供給管80の途中とを接続する、第4汚泥供給管としての第2濃縮汚泥排出管87が設けられている。そして、第4汚泥供給管としての第2濃縮汚泥排出管87、および第1汚泥供給管80を通じて、濃縮汚泥貯留槽86内に貯留された濃縮汚泥を、濾過濃縮槽83に液送する、第4液送手段としての第2濃縮汚泥排出ポンプ88を有している。このように構成される吸引式濾過濃縮装置を例示できる。ただし、これに限定されるものではない。
【0073】
次いで、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)をサイフォン式により濾過濃縮する準備を行う。より詳細には、図1〜図3A,図3Bに示されるように、吸引弁33を開き、真空ポンプ35を作動させる。これにより、濾布18内の液体(濾液)が、分配管34内に吸引される。すなわち、分配管34の濾過板14側の端部と、頂部とのレベル差に応じて、サイフォン作用により、濾過室76内に導かれた濾液を、分配管34を通じて外部に排出して濾液溜114に溜め、濾液戻しポンプ116により濾液戻し管89を通じて浄水槽2の上流側に戻される。
【0074】
次いで、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)は、サイフォンの原理により、濾布18の外表面に向かって吸引される。その際、第1汚泥(第1懸濁液)中の水分は、濾布18を通過して、濾液として濾布18内の濾過室76に導かれる。このようにして、第1汚泥(第1懸濁液)は脱水され濃縮されて、濾布18の外表面に付着し、ケーキ薄層を形成する。サイフォン式による比較的低圧の連続的な吸引であっても、濾布18の外表面に付着した濃縮汚泥を未濃縮汚泥中で剥離させても、ケーキ状片として保形性を維持可能な程度の付着力で第1汚泥(第1懸濁液)を、脱水され濃縮されたケーキ薄層状に、濾布18の外表面に付着させることが可能である。
【0075】
なお、濾過板14には、その周囲からコイルスプリング54によって常時張力が付加されている。そのため、濾過板14は、不動静止状態に維持される。それにより、後述するように、濾布18の外表面に付着した濃縮汚泥が、濾過板14がばたついたり、ぐらついたりすることにより、濾布18の外表面から剥離するような事態を防止することが可能である。
【0076】
図4に示されるように、このような吸引濾過により、濾布の外表面には、脱水され濃縮された第1汚泥(第1懸濁液)が付着し、それによりケーキ薄層Kが形成される。このような第1汚泥(第1懸濁液)の供給は、濾液の濁度に基づいて、濾液がほぼ透明になった段階で停止する。あるいは、ケーキ薄層の形成に伴い濾液の流量が低下することから、濾液の流量に基づいて、第1汚泥(第1懸濁液)の供給を停止してもよい。
【0077】
なお、本実施形態では、濾過板14は、従来技術に見られるような走行型ではなく固定式である。また、濾布18全体が原液(懸濁液)によって満たされるため、濾過板14全体に対して同時にケーキ薄層Kの形成が開始されることになる。そのため、ケーキ薄層Kの形成時間が大幅に短縮されるとともに、ケーキ薄層の形成のために濾過板を移動させる必要がない。その結果、エネルギーを節約可能である。
【0078】
次いで、図1に示されるように、濃縮汚泥排出弁120を開き、濃縮汚泥弁118を閉じる。このようにして、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)を、第1濃縮汚泥排出ポンプ85により第1濃縮汚泥排出管84を通じて、濃縮汚泥貯留槽86に送る。
【0079】
また、ケーキ薄層形成段階は、第1懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させ、濾過濃縮槽83内に配置された濾布18を用いて行い、第2懸濁液の濾過濃縮段階は、第1懸濁液を濾過濃縮槽83内から排出した後に、前記第2懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させて行うことも好ましい。汎用性が向上するためである。このように第1懸濁液を濾過濃縮槽83内から排出した後に、前記第2懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させて行う場合にも、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)を、第1濃縮汚泥排出ポンプ85により第1濃縮汚泥排出管84を通じて、濃縮汚泥貯留槽86に送るとよい。
【0080】
次に、重力沈降槽12の上部又は浄水槽2から第2汚泥(第2懸濁液)を、第2汚泥供給管90を通じて、濾過濃縮槽83の上部開口から濾過濃縮槽83内に導入する。
【0081】
なお、別の形態としてとして、ケーキ薄層形成段階は、第1懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させ、濾過濃縮槽83内に配置された濾布18を用いて行い、第2懸濁液の濾過濃縮段階は、濾過板14が露出しないように、濾過濃縮槽83内の液位を調整しながら、濾過濃縮槽83下部から第1汚泥(第1懸濁液)を濃縮汚泥貯留槽86へ返送しつつ、重力沈降槽12の上部又は浄水槽2から第2汚泥(第2懸濁液)を濾過濃縮槽83上部から供給することも好ましい。これにより、濾過濃縮槽83内で沈降した第1汚泥(第1懸濁液)の排出と、濃度の低い第2汚泥(第2懸濁液)の供給が、併行して進行するため、濾過濃縮槽83内の第1、第2懸濁液の入れ替え作業による、吸引濾過の中断がなくなり、連続的な濾過が行える。したがって、時間短縮を実現できる。
【0082】
すなわち、図3、及び図5に示すように、袋状の濾布18の内部に形成された濾過室76を通じて吸引することにより、汚泥(懸濁液)中の水分について濾布18を通過させる一方、第2汚泥(第2懸濁液)中の固形物を濾布18の表面に付着させることにより、第2汚泥(第2懸濁液)を吸引式に濾過濃縮することが可能である。
【0083】
このようにすることにより、第1汚泥(第1懸濁液)より低い濃度を有する第2汚泥(第2懸濁液)であっても、ケーキ薄層を疑似的な濾過体として利用することにより濾過濃縮することが可能である。すなわち、いったん濾布18により捕捉可能な程度の濃度を有する第1汚泥(第1懸濁液)を吸引式により濾過濃縮することを通じて、濾布18の表面に効率的にケーキ薄層が形成される。そして、このケーキ薄層を利用することにより、第2汚泥(第2懸濁液)を、ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮できる。しかも、濾布18に目詰まりを生じることなく、第2汚泥(第2懸濁液)を濾過濃縮することが可能である。なお、上述のように説明した処理工程は、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引式により濾過濃縮する濾過濃縮段階に相当する。
【0084】
特に、第2汚泥中(第2懸濁液中)に含有する固形分が、濾布18の目を通過可能であり、第2汚泥(第2懸濁液)が濾布18により捕捉できない程度の濃度を有する場合であっても、第1汚泥(第1懸濁液)により形成されるケーキ薄層を濾過体として利用することにより、第2汚泥(第2懸濁液)を吸引濾過できる。すなわち、第2懸濁液に含まれる水分は濾液として濾過室76に回収される一方、第2懸濁液に含まれる固形分は、ケーキ薄層の表面に、濃縮汚泥として付着させることが可能である。
【0085】
より好ましいのは、第2懸濁液は、前記濾布により捕捉不可能な濃度を有することである。濾布により捕捉不可能な程度の濃度を有する第2懸濁液であっても、前述のような第1懸濁液によるケーキ薄層を介して、濾過可能となり、第1懸濁液及び第2懸濁液といった、濃度や含まれる固形分の量、粒径等が相違したものを同時に、濾過濃縮処理できるため好ましい。
【0086】
さらに、第2懸濁液の濾過濃縮槽内への供給の開始は、第1懸濁液の濾液の濁度により決定することが好ましい。このような第2汚泥(第2懸濁液)の供給が、第1懸濁液の濁度に基づいて濾液が透明になった段階で開始されると、濾布上に、所望のケーキ薄層が形成されているため、十分な濾過濃縮処理を行うことができる。
【0087】
また、第2懸濁液の濾過濃縮槽内への供給の開始は、第1懸濁液の濾液の流量により決定することが好ましい。ケーキ薄層の形成に伴い濾液の流量が低下することから、濾液の流量に基づいて、第2汚泥(第2懸濁液)の供給を開始してもよい。
【0088】
(剥離処理工程)
次いで、濾布18を膨出させることにより、濾布18に付着した濃縮汚泥(第1汚泥のケーキ薄層とケーキ薄層の表面に付着した第2汚泥の濃縮汚泥)を剥離させる。より詳細には、水流入弁44を開き、液送ポンプ46より水流入管42、分配管34および水平管15を通じて、水を濾過板14の濾過室76内に圧送する。すなわち、濾過濃縮された後、未濃縮汚泥中で、濃縮汚泥が付着した面と反対側から濾布18に向かって水を連続的に所定時間に亘って圧送する。その際、圧送された水は、濾布18の無数の細孔を通って未濃縮汚泥中に流出しようとする。一方、濃縮汚泥が、濾布18の外表面全体に付着し、濾布18の無数の細孔をも塞いでいる。さらに、濃縮汚泥が付着した濾布18の外表面には、未濃縮汚泥の液圧が一様に負荷されている。このため、少なくとも未濃縮汚泥の液圧に打ち勝つまでは、濾過室76内の圧送された水の水圧が、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥を未濃縮汚泥中に向かって押圧することになる。すなわち、少なくとも未濃縮汚泥の液圧に打ち勝つまでは、濃縮汚泥を濾布18の表面から、剥離することはない。したがって、濾過室76内の圧送水は圧力が上昇し、それとともに濾布18が膨出する(図3(A)参照)。
【0089】
ここで、圧送水は、液体の水であるから、空気等のガスに比べて非圧縮性の性質を有している。そのため、従来の大気中での空気による剥離で引き起こされる事態を防止することが可能となる。すなわち、従来の空気圧送の場合には、濾過室76内での局所的な圧力上昇により、その部分に近い濾布18から、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥が、部分的に被処理液中(懸濁液中)に向かって押圧される。押圧された濃縮汚泥が、濾布の表面から剥離され、以後開放された細孔からのみ、空気が流出し続ける、といった事態を防止できる。換言すれば、本発明では、圧送された水の圧力が、濾過室76内で一様に所定圧力に達した点で、濾布の全体に亘って、濾布の表面に付着した濃縮汚泥をいっせいに被処理液中に向かって押圧することが可能である。そのため、濃縮汚泥を濾布の表面から周方向に均一に剥離することが可能となる。
【0090】
特に、本実施形態では、濾布18の表面には、第1汚泥(第1懸濁液)による濃縮層(ケーキ薄層)と、第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層とが積層した、濃縮汚泥が付着することになる。しかし、この第1汚泥(第1懸濁液)による濃縮層(ケーキ薄層)と、第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層とが積層した、濃縮汚泥は、プリコートの場合と異なり、同種の汚泥(懸濁液)が積層して付着することになる。しかし、圧送水を用いることにより、濾布から濃縮汚泥を剥離する際、第1汚泥(第1懸濁液)による濃縮層(ケーキ薄層)と第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層とが別々に剥離する恐れは小さい。
【0091】
好ましくは、第1懸濁液および第2懸濁液は、同じ懸濁液源から供給され、第1懸濁液は、懸濁液源の下部から供給され、第2懸濁液は、懸濁液源の上部から供給されることである。濃度が高い第1懸濁液は、同じ懸濁液源が貯留される重力沈降層内の下部に沈降している。一方、濃度が低い第2懸濁液は、重力沈降層内の上部に溜まることになる。したがって、前述のような構成とすることにより、懸濁液を処理工程に応じて選択及び供給しやすくすることができる。
【0092】
さらに、未濃縮汚泥中(懸濁液中)で濾布18の外表面に付着した濃縮汚泥を剥離してもよい。それにより、濃縮汚泥が保形性のあるケーキ状片として剥離しやすくなる。さらに、ケーキ状片の濃縮汚泥が未濃縮汚泥中(懸濁液中)を濾過濃縮槽83の底に向かって浮力の作用を受けながら落下することにより、底に衝突するときの衝撃を緩和できる。これにより、ケーキ状片が小さく砕けることがなくなり、濃縮汚泥が未濃縮汚泥中(懸濁液中)に溶け込むことを防止して、濃縮汚泥の濃縮度が低減することを防止することが可能である。また、濾過濃縮槽83の底に溜まる濃縮汚泥をケーキ状片のまま外部に排出することが可能となる。
【0093】
以上の構成によれば、濾布18の内部から剥離媒体である水を圧送することにより、第1汚泥(第1懸濁液)によるケーキ薄層およびケーキ薄層の外表面に付着した第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層を濾布18からまとめて剥離できる。剥離するたびに第1汚泥(第1懸濁液)によるケーキ薄層の形成から再開するので、ケーキ薄層の厚み制御が容易となる。すなわち、ケーキ薄層の厚みは、主に第1汚泥(第1懸濁液)の濃度と第1汚泥(第1懸濁液)の濾過時間との組み合わせから濾液の濁度や濃度を予測して制御できる。
【0094】
次いで、剥離した濃縮汚泥を濾過濃縮槽83の外部に排出する。より詳細には、濃縮汚泥排出弁120を閉じ濃縮汚泥弁118を開いて、第3濃縮汚泥排出管93を通じて脱水機3に液送する。このとき、濃縮汚泥は剥離後外部に取り出されるまで、未濃縮汚泥中(懸濁液中)でケーキ状片として保形性を保持することが可能であるので、濃縮汚泥を排出する前に未濃縮汚泥(懸濁液)を外部に排出する必要なしに、未濃縮汚泥中(懸濁液中)で固液分離を容易に行うことが可能である。以上で、汚泥の濾過濃縮作業が完了する。なお、剥離したケーキ状片の濃縮汚泥周辺の高濃度の懸濁水、すなわち「剥離した濃縮懸濁液」のみを、第1濃縮汚泥排出ポンプ85、第1濃縮汚泥排出管84を介して濃縮汚泥貯留槽86へ、第1懸濁液として返送してもよい。
【0095】
なお、汚泥(懸濁液)を連続的に濃縮処理する場合には、濾過濃縮槽83内の未濃縮汚泥(懸濁液)を、未濃縮汚泥排出管119を通じて重力沈降槽12に戻しながら、濾過濃縮槽83に第1汚泥(第1懸濁液)を供給し、ケーキ薄層を形成すればよい。
【0096】
濾過濃縮槽83の外部に排出された濃縮汚泥は、別途脱水機3によりさらに濃縮されて、ケーキ状に形成され、焼却あるいは埋立処分に付される。
【0097】
以上のように、濾過濃縮槽83への第1汚泥(第1懸濁液)の供給、第1汚泥(第1懸濁液)による濾布18の表面上へのケーキ薄層の形成、濾過濃縮槽83からの第1汚泥(第1懸濁液)の排出、濾過濃縮槽83への第2汚泥(第2懸濁液)の供給、第2汚泥(第2懸濁液)の吸引濾過濃縮、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥の剥離、および濃縮汚泥の濾過濃縮槽83からの排出からなる一連のサイクルは、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥の厚みが増大することにより濾過性能が劣化するが、濃縮汚泥の厚みが許容範囲である限り、濾過濃縮槽83への第2汚泥(第2懸濁液)の供給および第2汚泥(第2懸濁液)の吸引濾過濃縮を繰り返して行うことが可能である。この場合、濾過濃縮槽83への第2汚泥(第2懸濁液)の供給は、第2汚泥(第2懸濁液)の吸引濾過濃縮を行いながら行ってもよいし、バッチで行ってもよい。
【0098】
このように、重力沈降槽12内に満たされた汚泥(懸濁液)のうち、重力沈降槽12の下部に沈降した濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を、第1液送手段により第1汚泥供給管を通じて濾過濃縮槽に液送する。そして、この液送された濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を吸引手段により、濾布の表面に付着させる。これにより、濾布の表面にケーキ薄層が形成される。この状態で、重力沈降槽12内に満たされた汚泥(第1懸濁液)のうち、重力沈降槽12の上部の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を第2液送手段により、第2汚泥供給管90を通じて濾過濃縮槽に液送する。そして、液送された濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を吸引手段により濾布およびケーキ薄層を通じて吸引することにより、濾過濃縮することが可能である。これとともに、濾布の表面に付着したケーキ薄層を形成する濃度の高い汚泥(第1懸濁液)、およびケーキ薄層の表面に付着する濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を濃縮剥離手段により一度に濾布の表面から剥離させて、回収することが可能である。また、濾布により捕捉不能な固形物を含有する程度の低い濃度を有する汚泥であっても、濾過濃縮することが可能であることから、濾布の表面に付着する濃縮汚泥の厚みの増大速度を抑制することが可能であり、効率的かつ長時間に亘って濾過濃縮することも可能である。
【0099】
以下に本発明の第2実施形態を、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には、同様な参照番号を付することによりその説明は省略し、以下では、本発明の第2実施形態の特徴について説明する。
【0100】
本発明の第2実施形態の特徴は、第1実施形態においては、重力沈降槽12の下流側に、重力沈降槽12と別体の濾過濃縮槽83を設け、濾過濃縮槽83の内部にサイフォン式吸引濾過装置10を配置したのに対して(図1参照)、本実施形態においては、第1実施形態における重力沈降槽12に相当する重力沈降槽212の内部に、サイフォン式吸引濾過装置10に相当するサイフォン式吸引濾過装置210を配置した点にある(図6参照)。
【0101】
より詳細には図6に示されるように、濾過濃縮対象である懸濁液を流入する重力沈降槽212には、重力沈降槽212内を上下方向に延びる仕切100が設けられている。また、仕切100には、その上部と下部それぞれに、仕切100により仕切られた重力沈降槽212の、一方のスペース102と他方のスペース104との間を連通するように形成されている開口部(上部開口部、下部開口部)が設けられている。重力沈降槽212の、一方のスペース102内には、内部に濾過室76を形成する袋状の濾布18と、濾過室76を通じて一方のスペース102内の懸濁液を吸引する吸引手段とが配置される。さらに、上部開口部には上部汚泥液送手段としての連通管126が設けられるとともに、連通管126には、調整弁106が設けられている。この上部汚泥液送手段により、上部開口部を通じて、他方のスペース104内の上部にある第2懸濁液を、一方のスペース102へ液送できるようにしてある。さらに、下部開口部には連通管121および連通管122が設けられている。連通管121には、他方のスペース104内の下部汚泥(第1懸濁液)を一方のスペース102へ液送する第1液送ポンプ124が設けられ、連通管122には、一方のスペース102内の下部汚泥を他方のスペース102へ液送する第2液送ポンプ108が設けられている。すなわち、スペース102は第1実施形態の濾過濃縮槽83と同じ機能を有している。
【0102】
以上より、調整弁106を閉じて、第1液送ポンプ124を作動する。これにより、他方のスペース104内の下部の濃度の高い汚泥(第1懸濁液)が、連通管121を通じて濾過板14に送られる。一方、調整弁106を開いて、第2液送ポンプ108を作動することにより、他方のスペース104内の上部の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)が連通管126を通じて濾過板14に送られるようにすることが可能である。なお、正逆回転可能なポンプによれば、1基のポンプにより第1液送ポンプ124と第2液送ポンプ108とを兼ねることが可能である。
【0103】
吸引手段は、第1実施形態と同様に、サイフォン式吸引管を有し、サイフォン式吸引管は、一端が濾過室76に上方から連通し、他端が重力沈降槽12の外部で下方に延びる逆U字形の管であることが好ましい。このようにすることで、省エネルギー効果を高く実現できる。
【0104】
以上の構成による吸引式濾過装置の作用を以下に説明する。まず、調整弁106を閉じ、重力沈降槽212内を沈降した比較的濃度の高い(たとえば、1質量%)第1汚泥(第1懸濁液)を、第1液送ポンプ124により連通管121を通じて、他方のスペース104から一方のスペース102に液送する。これにより、第1実施形態と同様に、一方のスペース102内に配置された濾過板14により吸引濾過を行い、濾布18の表面にケーキ薄層Kを形成する。なお、他方のスペース104の水位が低下した分は、浄水槽2の下部から懸濁水が補充される。
【0105】
次いで、調整弁106を開き、一方のスペース102内の汚泥(第1懸濁液)を、第2液送ポンプ108により、連通管122を通じて、一方のスペース102から他方のスペース104に液送する。これにより、重力沈降槽212内の水位が上昇し、その上部の比較的濃度の低い(たとえば、0.1質量%)第2汚泥(第2懸濁液)が、連通管126を通じて他方のスペース104から一方のスペース102に流入する。これにより、第1実施形態と同様に、第2汚泥(第2懸濁液)は、第1懸濁液が濾布表面に付着して形成されたケーキ薄層Kを通じて、吸引濾過することが可能である。
【0106】
次いで、濾布に付着した濃縮汚泥、すなわち第1汚泥(第1懸濁液)が濾布表面に付着して形成されたケーキ薄層の濃縮層と、そのケーキ薄層の濃縮層の表面に、更に付着した第2汚泥(第2懸濁液)によって形成された濃縮層、からなる濃縮汚泥を、濾布の表面から剥離する。この剥離処理は、第1実施形態と同様に、液中で濾過室76を通じて水を所定時間に亘って連続的に圧送することにより行われる。なお、一方のスペース102における第1懸濁液と第2懸濁液の入れ替え方法については、第1の実施形態における濾過濃縮槽83の場合と同様である。
【0107】
次いで、剥離されたケーキ状片の濃縮汚泥は重力沈降槽212の底に溜まり、溜まった濃縮汚泥を外部に排出する。
【0108】
このような工程を繰り返すことにより、比較的低濃度の汚泥(第2懸濁液)を、吸引濾過濃縮することが可能となる。なお、このように吸引濾過濃縮を繰り返す毎に、第1汚泥(第1懸濁液)によるケーキ薄層が形成され、ケーキ薄層の表面に付着した第2汚泥(第2懸濁液)の濃縮層が形成される。さらに、このような濃縮層(濃縮汚泥)が、ともに剥離され、濃縮汚泥として外部に排出されることになるから、運転中に必要な第1汚泥(第1懸濁液)が足りなくなる事態も生じ得る。このような場合には、たとえば、重力沈降槽の上流側に混合槽(図示せず)を設け、この混合槽内で、外部に排出した濃縮汚泥を重力沈降槽内の第2汚泥(第2懸濁液)と所定の濃度(少なくとも第2汚泥(第2懸濁液)より濃い濃度)となるように混合して、第1汚泥(第1懸濁液)として補充すればよい。
【0109】
以上のように、本発明の第2実施形態によれば、既存の重力沈降槽212に大幅な改造を加えることなしに、既存の重力沈降槽212を利用することができる。これにより、設備スペースの拡張を必要ともしない。さらに、従来のように重力沈降槽212において汚泥が自然沈降するまで待機することなく、比較的低濃度の汚泥を吸引濾過濃縮することで、濾布の表面に付着する濃縮汚泥の厚みの増大速度を低減することが可能であることから、効率的かつ長時間に亘って汚泥を濃縮処理することが可能である。
【0110】
さらに、本発明の第2実施形態の変形例として、図7に示すように、重力沈降槽212の設置レベルの制約から、サイフォン式吸引濾過が困難である場合には、吸引ポンプ110を利用して、吸引濾過を行えばよい。この場合、吸引ポンプ110の吸引強さを調整することにより、濾布に付着する濃縮汚泥が濾布から剥離され、重力沈降槽212の底に溜まる状態でもケーキ片状に保持することが可能であるから、濃縮汚泥を外部に排出するのに、たとえばスクリューフィーダー112を利用してもよい。
【0111】
さらなる変形例として、前記重力沈降槽の下流側に接続され、前記一方のスペース内の第1懸濁液を貯留する濃縮汚泥貯留槽を有し、前記一方のスペース内の第1懸濁液は、前記濃縮汚泥貯留槽から前記一方のスペースに供給される吸引式濾過濃縮装置として構成されることも好ましい。このように構成されることによって、ケーキ薄層形成用の第1汚泥を貯留することができ、連続して濃縮汚泥処理を行える。具体的には、図8、又は図9に示されるように、濃縮汚泥貯留槽86を重力沈降槽312と別体に設け、一方のスペース102内の濃縮汚泥を濃縮汚泥貯留槽86に回収し、ケーキ薄層形成用の第1汚泥として一方のスペース102に供給するようにしてもよい。ここで、図8は、濃縮汚泥貯留槽86を重力沈降槽312の上方に設ける場合であり、図9は、濃縮汚泥貯留槽86を重力沈降槽312の下方に設け、一方のスペース102から回収した1質量%汚泥をろ液返送ポンプ153、ろ液返送菅154を介して、再び一方のスペースに返送する場合を例示する。ただし、これに限定されるものではない。
【0112】
さらに、他方のスペース内の下部に第2懸濁液を貯留する第2懸濁液用汚泥貯留槽を有し、他方のスペース内の下部の、第2懸濁液は、第2懸濁液用汚泥貯留槽から一方のスペースに供給されるように構成される吸引式濾過濃縮装置として構成されることも好ましい。このように構成されることによって、第2懸濁液を貯留することができ、連続して濃縮汚泥処理を行える。
【0113】
さらに、変形例として、汚泥を重力沈降槽12内で濾過濃縮するのではなく、槽内に満たされた懸濁液を吸引濾過することにより、濾液を利用する場合には、槽内で下部に位置する比較的濃度の高い第1懸濁液を利用して濾布の表面にケーキ薄層を形成し、次いで、このケーキ薄層を疑似濾過体として利用して、槽内で上部に位置する比較的濃度の低い第2懸濁液を吸引濾過すればよい。この場合、重力沈降槽12においては浄水の沈降分離に数日要するが、容積が比較的小さい、あるいは深さが比較的浅い槽の場合には、槽内で第1懸濁液を利用してケーキ薄層を形成する前に、懸濁液の固形分が槽内で濾過板より下方に沈降してしまうことがある。そのために、第1懸濁液を利用してケーキ薄層を形成する前に、いったん槽内の懸濁液を攪拌して、槽内で一様な濃度の懸濁液となるようにし、この懸濁液を利用して、ケーキ薄層を形成すればよい。濾布の表面にケーキ薄層が形成された後は、省エネルギーの観点から、攪拌を停止し、槽内で自然沈降する濃度の低い懸濁液を対象に、吸引濾過を行ってもよいし、継続して攪拌を行いつつ、吸引濾過を行ってもよい。
【0114】
このような吸引式濾過濃縮方法によれば、重力沈降槽内で袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて吸引することにより、懸濁液の水分を濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させることにより、懸濁液を吸引式に濾過濃縮することが可能である。
【0115】
この場合、重力沈降槽内に満たされた汚泥のうち、濾布により捕捉不能な固形物を含有する程度の低い濃度を有する汚泥であっても、濾布により捕捉可能な固形物を含有する程度の高い濃度を有する汚泥を利用して、濾布の表面にケーキ薄層を形成し、このケーキ薄層を疑似的な濾過体として用いることにより、ケーキ薄層を通じて濾過濃縮することが可能であり、重力沈降槽内に満たされた汚泥が沈降するまで待機する必要なしに、効率的に濾過濃縮することが可能であり、その一方、濾布により捕捉不能な固形物を含有する程度の低い濃度を有する汚泥であっても、濾過濃縮することが可能であることから、濾布の表面に付着する濃縮汚泥の厚みの増大速度を抑制することが可能であり、長時間に亘って濾過濃縮することも可能である。
【0116】
さらに、濾布に付着したケーキ薄層とともに、ケーキ薄層の外表面に付着した濃縮汚泥を濾布から剥離する段階を有するのがよい。
【実施例】
【0117】
本発明者は、図10に示すように、重力沈降槽12に直接濾過板14を設置して、汚泥の濾過濃縮が可能であるか否かの確認試験を行った。試験装置および試験方法は、以下のとおりである。
【0118】
1.試験対象:汚泥:某浄水場汚泥
2.試験装置:吸引式濾過濃縮装置
濾過板14の濾過面積:0.12m2
濾布18:ナイロン製、支持板に一体的に裁縫
吸引圧:−33kPa
【0119】
3.試験方法:
(1)濾過濃縮方法:
吸引式濾過濃縮により原汚泥を対象に8時間に亘って連続的に吸引濾過濃縮を行った。
具体的には、図10に示すように、まず、原液(汚泥:第1懸濁液に相当)で濾過濃縮を開始する(T1)。次いで、濾過開始後、濾液Fの濁質が透明になった時点で、槽下部より原液(汚泥)を排出する(T2)とともに、槽上部より10倍希釈液(第2懸濁液に相当)を投入する(T3)。次いで、原液排出後、10倍希釈液のみで濾過濃縮を続ける(T3)。
【0120】
(2)剥離方法:
次に、図10に示すように、槽内の未濃縮汚泥を外部に排出した後(T4)、濾過室76を通じてエアを圧送して濾布18に付着した濃縮汚泥Wを濾布18より剥離する(T5)。
【0121】
実験結果を表1および図11に示す。濾液Fが透明になるまでに、約1分を要した。表1および図11に示すように、比較例1では、原液での濾過濃縮によれば、原液濃度1.12%、濾液の濃度0.05%、濃縮汚泥濃度8.29%であり、濃縮倍率は、7.40であるのに対し、実施例1では、10倍希釈液による低濃度汚泥によれば、原液濃度0.108%、濾液の濃度0.014%、濃縮汚泥濃度6.69%であり、濃縮倍率は、61.94であった。なお、濃度は質量%を示す。
【0122】
【表1】
【0123】
この結果より、第1に、原汚泥の濃度が低くても、濃縮汚泥の濃度に大きな違いが出ないこと、第2に、図10に示されるT3において、図13の、ろ液量とろ液時間の関係を示す線Sに示されるように、8時間経過しても濾過性能が低下しないこと、すなわち、逆洗することなく連続運転できることが確認できる。さらに、第3に、所要時間としては、原液によりケーキ薄層を形成するまでに1分、汚泥の入れ替えに9分、低濃度汚泥の濾過濃縮に470分であり、また濾過板を洗浄した後最初の工程に戻すのに20分であったので、トータルの濾過時間に対する有効濾過時間の割合は94%に達すること、第4に、濃縮汚泥の剥離時に濾過工程を停止する必要があるが、剥離に要する時間は、低濃度汚泥の濾過濃縮時間に対して数%を占めるに過ぎず、全体の濃縮効率を阻害するものでないこと、を確認した。
【0124】
以上から、本発明者は、濃度の高い汚泥を用いて濾布の表面に固形分を密集させて付着させることにより、重力沈降槽12に直接濾過板を設置して汚泥の濾過濃縮が実用的に可能であるとの見通しを得た。
【0125】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば種々の修正あるいは変形が可能である。たとえば、第1実施形態においては、濾過濃縮の対象が汚泥の場合を説明したが、それに限定されることなく、たとえば濾過濃縮の対象としては、アルカリ溶液中に含有した焼却灰、牛乳、ジュース等飲料液中に含有した異物、濁質水中の濁質物等があり、濾過濃縮の対象に応じて、濾布18の種類、細孔径の大きさ、吸引力等の条件を適切に設定する限り、本発明に係る吸引式濾過濃縮方法は、これらに対して適用可能である。この場合、ケーキ薄層の形成用に第1懸濁液が必要となるが、第1実施形態においては、濾過濃縮の対象が汚泥の場合として、重力沈降槽内に沈降した第1汚泥を利用したが、このような第1懸濁液が即座に利用できないときには、天日または熱による乾燥濃縮、膜濾過装置を用いた濃縮、あるいは真空蒸発による濃縮により第1懸濁液を生成すればよい。
【0126】
また、第1実施形態においては、濃縮汚泥を濾布から剥離するのに、未濃縮汚泥中において水を剥離媒体として用いたが、それに限定されることなく、未濃縮汚泥をいったん濾過濃縮槽から外部に排出した後、空気を剥離媒体として用いて剥離を行ってもよい。
【0127】
さらに、第1実施形態においては、濃縮汚泥貯留槽86に溜められた濃縮汚泥を濾過濃縮槽83においてケーキ薄層の形成のために利用したが、それに限定されることなく、いわゆる種汚泥のように、同種の性状であれば、他の吸引濾過濃縮において、ケーキ薄層の形成のために活用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明に係る吸引式濾過濃縮方法は、上水、中水および下水を含めた水処理系技術分野に限らず、食品系分野、化学工業系分野等広範囲の技術分野に対して適用可能であり、そのなかでも、浄水場等の水処理工程において発生する汚泥の濃縮工程において適用される吸引式濾過濃縮方法として特に有用である。
【符号の説明】
【0129】
1:浄水処理設備、2:浄水槽、3:脱水機、4:攪拌機、5:モータ、10,210:吸引式濾過濃縮装置(サイフォン式濾過濃縮装置)、12,212,312:重力沈降層、14:濾過板、15:水平管、16:吸引部、18:濾布、20:濃縮汚泥剥離部、21:上澄み液排出管、22:側壁、23:上澄み液排出弁、24:汚泥供給管、25:上澄み液排出ポンプ、26:汚泥供給弁、28:汚泥供給ポンプ、31:吸引管、33:吸引弁、34:分配管、35:真空ポンプ、36:濾液貯留槽、40:濾液排出弁、42:水流入管、44:水流入弁、46:液送ポンプ、48:濾過枠、50:支持板、54:コイルスプリング、56:上辺、57:上辺、58:下辺、59:下辺、60,61,62,63:側辺、74:縫い目、76:濾過室、78:鳩目、80:第1汚泥供給管、81:第1汚泥供給弁、82:第1液送手段(第1汚泥供給ポンプ)、83:濾過濃縮槽、84:第1濃縮汚泥排出管、85:第1濃縮汚泥排出ポンプ、86:濃縮汚泥貯留槽、87:第2濃縮汚泥排出管、88:第2濃縮汚泥排出ポンプ、89:濾液戻し管、90:第2汚泥供給管、91:ポンプ、93:第3濃縮汚泥排出管、100:仕切、102:一方のスペース、104:他方のスペース、106:調整弁、108:第2液送ポンプ、110:吸引ポンプ、112:スクリューフィーダー、114:濾液溜、116:濾液戻しポンプ、118:濃縮汚泥弁、119:未濃縮汚泥排出管、120:濃縮汚泥排出弁、121:連通管、122:連通管、123:濃縮汚泥排出部、124:第1液送ポンプ、126:連通管、153:ろ液返送ポンプ、154:ろ液返送菅、K:ケーキ薄層、W:濃縮汚泥。
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引式濾過濃縮方法に関する。より詳細には、濾布により捕捉不能な固形物を含有する汚泥(懸濁液)に対して、このような濾布により濾過することが可能な状態を効率的に形成し、目詰まりを生じることなく濾過することが可能な吸引式濾過濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、浄水場等で発生する汚泥は、主に濃縮に伴うエネルギー消費削減の観点から段階的に濃縮されて、最終的に処分されてきた。典型的なものとして、浄水場等で発生する汚泥(懸濁液)は、凝集剤を用いて凝集沈殿槽内で沈殿させる。沈殿させた汚泥は、さらに重力沈降槽に導入され、重力の作用で沈降させる。この重力沈降槽では、たとえば濃度1質量%以下の汚泥が、濃度1質量%超〜2質量%程度まで濃縮される。次いで、重力沈降槽の底に沈降した汚泥を、吸引式濾過濃縮技術を利用する吸引式濾過濃縮装置を用いて、さらに濃縮する。この吸引式濾過濃縮装置には、汚泥を流入させて濾過濃縮させる濾過濃縮槽が設けられている。さらに、この濾過濃縮槽内には、内部に濾過室を形成する袋状の濾布と、濾過室を通じて濾布の外部にある汚泥を吸引する吸引手段とが備えられている。そして、重力沈降槽から濾過濃縮槽内に流入された汚泥を吸引手段により吸引する。これにより、汚泥中の水分は、濾布の目を通過して濾過室内に回収される一方、汚泥中の固形分は濾布の外表面に付着する。こうして、汚泥がさらに濃縮される。この吸引式濾過濃縮装置により、一般的には、濃度1質量%〜2質量%程度の汚泥を濃度3質量%〜5質量%程度まで濃縮することが可能である。さらに、濾布の外表面に付着した濃縮汚泥を濾過濃縮槽から外部に排出して、脱水機、乾燥機あるいは天日乾燥によりさらに水分除去する。この水分除去により、前述の濃縮汚泥が一層濃縮される。このようにして、濃縮された汚泥は、ケーキ状に形成され、最終的に、埋立処分、あるいは園芸用土壌に再利用されている。
【0003】
しかし、前述のような、浄水場等で発生する濃度1質量%以下という低濃度の汚泥を直接脱水機、乾燥機あるいは天日乾燥により濃縮しようとすれば、脱水機、あるいは乾燥機のエネルギー消費が大きく、コスト増となる。一方、天日乾燥では、乾燥までに相当な時間を必要とする。そのため実用的でない。
【0004】
さらに、昨今、浄水にクリプトスポリジウム等の微生物・菌が混入することで、浄水場において処理能力の高い浄水処理が要求されている。そのため、凝集沈殿槽において添加される凝集剤が増量される等により、発生する汚泥の量が増大し、浄水場における浄水処理の効率化が緊急の課題とされている。一方、重力沈降槽による汚泥の処理は、重力による汚泥の自然沈降を利用するものであり、汚泥が沈降して濃縮されるまでにたとえば数日等長時間を要してしまう。また、重力沈降槽を利用する場合には、自然沈降した汚泥を確実に排出するために、重力沈降槽内下部で汚泥を攪拌することも行われている。しかし、このような場合には、攪拌のために余分なエネルギーを必要とする。さらに、重力沈降槽の設置には、膨大な設置スペースを必要とし、大掛かりな土木工事を必要とする。以上のように、重力沈降槽による汚泥の処理は、浄水処理の効率化にとって障害となっていた。
【0005】
この点、吸引式濾過濃縮技術のうち、吸引の動力をサイフォン式とすることにより、省エネルギー効果を高く実現できるサイフォン式濾過濃縮装置が知られている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、サイフォン式の吸引式濾過濃縮装置が開示されている。この吸引式濾過濃縮装置は、その内部に濾過室を形成する袋状の濾布を備えているため、吸引した汚泥(濃縮前の汚泥)を、水分と、濃縮された汚泥とに分離する。すなわち、汚泥に含まれる水分は、濾布の無数の細孔を通過することにより、濾過室内に案内されて濾液として回収される。また、水分が除去され濃縮された汚泥は、濾布の外表面に付着されて、その後、剥離処理され、吸引濾過濃縮装置の外部へ排出されることになる。
【0007】
ところで、このような濾布の外表面に付着した濃縮汚泥を濾布から剥離するに際しては、従来から以下の(S1)〜(S4)の処理が行われてきた。まず、濾過濃縮槽内の未濃縮汚泥を外部に排出し、一時貯留する(S1)。これは、濃縮汚泥が未濃縮汚泥中に溶け込むことにより、濃縮汚泥の濃縮度が低減しないようにするためである。次いで、濾過室を通じて所定圧力の空気(エア)を濾布の内部から外部に向かって圧送する(S2)。濾布の外表面全体には濃縮汚泥が付着し、濾布の無数の細孔が塞がれている。そのため、エアを圧送することにより、濾布が外側に向かって膨出して変形するとともに、エアが無数の細孔を通過することによって、濃縮汚泥を外側に向かって強制的に剥離することが可能となる。次いで、濃縮汚泥を外部に排出する(S3)。前述の(S2)より、剥離された濃縮汚泥は、濾過濃縮槽の底に溜まる。そのため、濾過濃縮槽から濃縮汚泥を除去するために行われる。次いで、未濃縮汚泥を濾過濃縮槽内に充填する(S4)。
【0008】
上記のようにして、従来における吸引式濾過濃縮装置を使用した剥離処理工程(S1)〜(S4)が終了する。
【0009】
ところで、このような剥離処理工程(S1)〜(S4)を行う場合、重力沈降槽を利用せずに、凝集沈殿槽において沈殿した低濃度の汚泥を、吸引式濾過濃縮装置を用いて、直接吸引方式で濾過濃縮するとすれば、目の小さな濾布を採用せざるを得ない。このような場合には、汚泥を濾過濃縮することで短時間の間に濾布の目詰まりが生じ、濾過濃縮をいったん停止して濾布を洗浄する必要がある。その結果、稼働率が低下するとともに別途洗浄コストがかかり問題となっていた。一方、このような濾布を用いた吸引式濾過濃縮装置の代替として、MF,UF等の膜モジュールを用いた濾過濃縮を行うことも検討されているが、膜モジュール自体が非常に高価であるとともに、膜の洗浄に薬品や高圧ポンプが必要となるため高コストとなる。
【0010】
この点、濾過濃縮対象である汚泥(懸濁液)を利用して、濾過体の表面にケーキ薄層を形成する懸濁液濃縮装置が、たとえば特許文献2に開示されている。この懸濁液濃縮装置は、濾過濃縮の対象である汚泥が満たされた汚泥槽と、汚泥槽の水面上方付近に配置され、循環して走行する濾過体と、濾過体の表面に向かって汚泥を供給する汚泥供給手段と、走行する濾過体を透過した透過水を槽外へ排出する透過水排出手段と、濃縮された汚泥を汚泥槽に戻す手段とを有している。そして、予備濾過として、濾過体である量濾過して、濾過用の濾過層として濾過体の上にケーキ薄層を形成し、本濾過として、ケーキ薄層が形成された濾過体で懸濁液を濾過する。このような懸濁液濃縮装置によれば、濾過体の表面に別途プリコートを行うことなく、比較的目の粗い安価な濾過体を使用しながら目詰まりを防止することが可能である。
【0011】
しかしながら、このような懸濁液濃縮装置によれば、以下のような技術的問題点がある。第1に、濾過体の表面に、濾過層としてのケーキ薄層を効率的に形成するのが困難な点である。すなわち、濾過を予備濾過および本濾過に分けて実行するところ、本濾過のみならず予備濾過においても、濾過濃縮対象である汚泥をそのまま用いてケーキ薄層が形成される。一方、走行型濾過体において、ケーキ薄層の形成に利用されるエリアは、走行型濾過体のループ上の軌道のうち、ごく一部に限られる。このことから、走行型濾過体の回転速度を低下させる必要が生じ、ケーキ薄層の形成までに時間を要し、非効率的である。より詳細には、ケーキ薄層の形成に利用されるエリアが限定されているため、エリア全面に原液を塗布し、ケーキ薄層を形成するのに時間を要する。また、ケーキ薄層の形成時には、限定されたエリアにおいて原液中の固形分を密集させるために、十分な量の原液を走行型濾過体に供給する必要がある。そのため、走行型濾過体の回転速度を低下させる必要があり、走行型濾過体全体にケーキ薄層を形成するのに時間を要する。
【0012】
第2に、ケーキ薄層の厚み制御が困難な点である。より詳細には、走行型濾過体がループ軌道上を走行し、ループ軌道上部において、その前部でケーキ薄層を形成する(予備濾過)。さらに、ケーキ薄層により捕捉された活性濃縮汚泥を後部の液溜部に溜める(本濾過)。一方、ループ軌道下部において、ケーキ薄層の形成後の濾液(懸濁液が濾過された後の液)を利用して濾布面上の過剰なケーキ薄層を落とすように、懸濁液濃縮装置が構成されている。そのため、剥離させるケーキ量および厚さを制御することは困難であり、ケーキ薄層を必要以上に剥離することもある。反面、ほとんど剥離せず、あるタイミングでまとめて剥離することもある。前者の場合、再度走行型濾過体を低速運転して、ケーキ薄層を形成する必要があるが、いつこのような事態となるか予測困難である。しかも、その都度濃縮工程の停止を余儀なくされるため、濃縮効率の低下を引き起こす。一方、後者の場合、液溜部において既に過度に厚いケーキ層が形成されている。そのため、濾液がケーキ薄層を通過せず、濃縮できない場合が生じ、あるタイミングでケーキ薄層がまとめて剥離すると、ケーキ層の厚みが濾布面全体で不均一となり、濾過能力のばらつきを引き起こす。さらに、ループ軌道下部において、ケーキ薄層の形成後の濾液を滴下して濾布面上の過剰なケーキ薄層を落とすように構成することは、滴下した濾液が濾布とケーキ薄層との間にまず浸漬することになる。そのため、ケーキ薄層の下方側に位置する外面が剥離する前に、濾布面とケーキ薄層の上方側に位置する内面との間で剥離が開始する可能性が高く、形成されたケーキ薄層の維持自体が困難となる。
【0013】
第3に、循環して走行する濾過体を採用するため、濾過体の駆動に伴うエネルギー消費が大きく、駆動部が故障の要因になりやすい。加えて、メンテナンスコストがかかるとともに、濾過体として実質的に濾過を行う本濾過の部分が濾過体の軌道の上側の一部に限られるため、濾過効率が悪い。
【0014】
さらに、特許文献3には、コロイド状の被除去物を含む流体が収納されるタンクと、前記タンク内に浸漬される第1のフィルタとその表面に吸着されるゲル膜より成る第2のフィルタとで形成されるフィルタ装置を備える濾過装置が開示されている。この装置では、被除去物より成るゲル膜をフィルタとして用い、フィルタに形成される数多くの隙間を流体の通過路として活用するものである。そして、目詰まりの原因となる被除去物をフィルタから離間させることができ、濾過能力の維持を実現可能としている。したがって、この特許文献3に記載の濾過技術は、従来から公知のいわゆる「ダイナミック濾過」の範疇に入るものである。
【0015】
しかし、特許文献3に開示される濾過装置では、濾過対象となる原液としての流体も、第2フィルタを形成するための流体も、コロイド状の被除去物である点で同じであり、前記被除去物を含有する流体の濃度も同じである。さらに、含まれる被除去物の平均粒径も同じである。したがって、この濾過装置を用いても、前記したような、浄水場等で発生する濃度1質量%以下という低濃度の汚泥を短時間に、かつ効率的に濃縮することはできない。
【0016】
このように、特許文献1〜3のいずれにおいても、未だ十分なものではなく、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第4164498号公報
【特許文献2】特開2001−120915号公報
【特許文献3】特開2004−321997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記した技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、濾布により捕捉不能な固形物を含有する懸濁液に対して、このような濾布により濾過することが可能な状態を効率的に形成し、目詰まりを生じることなく濾過することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。また、上記技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、濾布の表面に厚みの維持および制御が容易なケーキ薄層を形成することにより、濾布により捕捉不能な固形物を含有する懸濁液に対して濾過することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。
【0019】
さらに、上記技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、浄水場等で生じる汚泥(懸濁液)を対象に、重力沈降槽内における汚泥の攪拌を実質的に不要とすると同時に、汚泥を濾過体として利用しつつ、この濾過体により濾過濃縮された汚泥を濾過体として利用される汚泥とともに回収処理することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。
【0020】
さらにまた、上記技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、浄水場等で生じる汚泥(懸濁液)を対象に、重力沈降槽に適用することにより、設備スペースを削減するとともに、効率的かつ長時間に亘って濃縮処理することが可能な吸引式濾過濃縮方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
[1] 懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて前記懸濁液を吸引することにより、前記懸濁液中の水分について前記濾布を通過させる一方、前記懸濁液中の固形物を前記濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、前記懸濁液は、第1懸濁液と第2懸濁液を含み、前記懸濁液のうち、自然沈降させて、濃度の濃くなった汚泥であり、前記濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、前記第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、を有する、吸引式濾過濃縮方法。
【0022】
[2] 前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内から排出した後に、前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入させて行う[1]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0023】
[3] 前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、濾布が濾過濃縮槽内に満たされた前記第1懸濁液の液面から露出しないように、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽内から排出しつつ前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入することにより行う[1]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0024】
[4] 前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層からなる濃縮汚泥を、濾布から剥離する剥離段階は、濾過濃縮槽内に満たされた未濃縮懸濁液中で、濾布の内部から水を圧送することにより行う[1]〜[3]のいずれかに記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0025】
[5] 剥離した濃縮懸濁液を濾過濃縮槽から外部に排出し、貯留する段階をさらに有し、貯留した濃縮懸濁液を前記第1懸濁液として利用する[4]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【0026】
[6] 前記ケーキ薄層形成段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽から排出し、貯留する段階と、前記剥離段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽へ供給する段階を有する[5]に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る吸引式濾過濃縮方法によれば、濾布の目の大きさに応じて、所定粒子径および所定含有率の固形分を含有する第1懸濁液を選択し、第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮すると、固形分によるブリッジ形成、固形分間の分子間力、あるいは固体間を流体が急速に流れることに起因する吸引力等が原因で、濾布を構成する糸と糸との間の空間に固形分が密集することにより、濾布の目が閉塞され、ケーキ薄層を形成することから、このような固形分が必ずしも濾布の目より大きくないとしても、濾布の表面に効率的にケーキ薄層を形成することが可能である。したがって、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液であっても、このケーキ薄層を疑似的な濾過体として利用することにより、第2懸濁液を、ケーキ薄層を通じて吸引式により濾過濃縮すれば、濾布に目詰まりを生じることなく、第2懸濁液を濾過濃縮することが可能である。このことから、浄水場等で発生する濃度1質量%以下という低濃度の汚泥を短時間に、かつ効率的に濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る排水処理設備の概略構成図である。
【図2】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第1実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置の濾過板の概略正面図である。
【図3A】図2の濾過板について、膨出中の状態を示す概略図である。
【図3B】図2の濾過板について、濾過中の状態を示す概略図である。
【図4】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第1実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置の作用を示す概略図である。
【図5】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第1実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置の作用を示す概略図である。
【図6】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、第2実施形態に係る排水処理設備の吸引濾過濃縮装置を示す概略図である。
【図7】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、変形実施形態に係る図6と同様な図である。
【図8】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、変形実施形態に係る図6と同様な図である。
【図9】本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する、変形実施形態に係る図6と同様な図である。
【図10】汚泥の吸引濾過濃縮の実験方法を示す概略図である。
【図11】低濃度汚泥と高濃度汚泥とにおいて、濾液量の濾過時間による変化を示す実験結果のグラフである。
【図12】濃縮汚泥に含まれる固形分の粒度分布を参考的に示すグラフである。
【図13】ろ液量とろ液時間の関係を参考的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る吸引式濾過濃縮方法の実施形態を、図面を参照しながら、以下詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、以下においては、汚泥を対象に浄水処理設備に適用した場合を例として、説明する。
【0030】
[1]本発明の吸引式濾過濃縮方法の構成:
本発明の吸引式濾過濃縮方法は、懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて前記懸濁液を吸引することにより、前記懸濁液中の水分について前記濾布を通過させる一方、前記懸濁液中の固形物を前記濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、前記懸濁液は、第1懸濁液と第2懸濁液を含み、前記懸濁液のうち、自然沈降させて、濃度の濃くなった汚泥であり、前記濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、前記第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、を有する吸引式濾過濃縮方法である。
【0031】
以上の構成を有する吸引式濾過濃縮方法によれば、袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて吸引することにより、懸濁液中の水分について濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させることにより、懸濁液を濾過濃縮することが可能である。
【0032】
さらに、いったん濾布により捕捉可能な固形分を含有する第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮すると、このような固形分が必ずしも濾布の目より大きくないとしても、濾布の表面に効率的にケーキ薄層を形成する。このケーキ層により、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液であっても濾過され、濾布上にさらにケーキ層を形成することとなる。
【0033】
より具体的に述べると、本発明においては、濾布の目を閉塞可能なように、濾布の目の大きさに応じて、所定粒子径および所定含有率の固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階を有している。この第1懸濁液を選択する段階を経た後に、選択した第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階を有することになる。ここで、ケーキ薄層は、固形分によるブリッジ形成、固形分間の分子間力、あるいは固体間を流体が急速に流れることに起因する吸引力等が原因で、濾布を構成する糸と糸との間の空間に固形分が密集することで、濾布の目が閉塞されることによって形成される。さらに、前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階を有している。濾過濃縮段階は、前述のケーキ薄層を疑似的な濾過体として利用することにより、第2懸濁液を、ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する段階である。ここで、ケーキ薄層形成段階を経て濾布の目は閉塞されるものの、この閉塞状態は、第2懸濁液の水分を通過可能な程度の閉塞である。そのため、本発明における濾過濃縮段階における濾過濃縮では、濾布に目詰まりを生じさせることなく、第2懸濁液を濾過濃縮することが可能である。
【0034】
本発明において、第1懸濁液は、濾布の目を閉塞可能な固形分を含有するものであるが、より明確にいうと、第1懸濁液は、「濾布の目を閉塞可能なように、濾布の目の大きさに応じて、所定粒子径および所定含有率の固形分を含有する」ものである。通常、「濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する」との意味は、固形分の粒子径が濾布の目以上の大きさを有する場合や、固形分の含有率(懸濁液の濃度)が所定以上の場合をいう。
【0035】
また、本実施形態では、「前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する」濾過濃縮段階を有する。このことは、図12の粒度分布測定図に示されるように、第1懸濁液及び第2懸濁液の、原液である懸濁液に含まれる固形分等を全て、本実施形態の吸引式濾過濃縮方法によって、濾過濃縮処理を行うことができることを意味している。すなわち、図12に示されるように、従来の、所謂、膜濾過濃縮汚泥処理では、例えば10μmの目の大きさを有する膜を用いる場合には、10μm以上のY領域における粒径(10〜100μm)を有する固形分を対象としていた。一方、従来の、所謂、ケーキ濾過(濾材を濾布上に保持し、その濾材によって行う濾過。ダイナミック濾過の意。)では、10μm以下のX領域における粒径(1〜10μm)を有する固形分を対象としていた。そのため、たとえば、膜濾過濃縮汚泥処理において、Y領域における粒径を有する固形分を濾過処理する場合、或いは、X領域における粒径とともにY領域における粒径を有する固形分を同時に濾過する場合には、すぐに目詰まりが生じ、長時間処理及び連続処理ができなかった。
【0036】
このような本発明の吸引式濾過濃縮方法についての詳細は、以下で、本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する吸引式濾過濃縮装置と合わせて、説明する。なお、本発明の吸引式濾過濃縮方法では、サイフォン式吸引濾過方法や、吸引ポンプを用いた吸引濾過方法を採用することができるが、ここでは、サイフォン式の吸引式濾過濃縮方法及び装置を用いて説明する。
【0037】
[2]本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する吸引式濾過濃縮装置の構成:
本発明の吸引式濾過濃縮方法を使用する吸引式濾過濃縮装置は、図1、図2、図3A及び図3Bに示されるように、重力沈降槽12の下流側に設置されるもので、重力沈降槽12内の懸濁液を流入する濾過濃縮槽83と、前記濾過濃縮槽83の内部に配置され、内部に濾過室76を形成する袋状の濾布18と、前記濾過室76を通じて、前記濾過濃縮槽83内の懸濁液を吸引する吸引手段と、前記重力沈降槽12の下部と前記濾過濃縮槽83とを接続する第1汚泥供給管80と、前記第1汚泥供給管80を通じて前記重力沈降槽12の下部に沈降した第1懸濁液を前記濾過濃縮槽83へ液送する第1液送手段82と、前記重力沈降槽12の上部と前記濾過濃縮槽83とを接続する第2汚泥供給管90と、前記第2汚泥供給管90を通じて前記重力沈降槽12の上部の第2懸濁液を前記濾過濃縮槽83へ液送する第2液送手段91と、前記濾過濃縮槽83内で、前記吸引手段により前記濾布18の表面に付着した濃縮汚泥を剥離するための濃縮汚泥剥離手段と、を有する吸引式濾過濃縮装置10として構成されている。
【0038】
以上の構成を有する吸引式濾過濃縮装置によれば、濾過濃縮槽内で袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて懸濁液を吸引することにより、懸濁液中の水分について濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させることにより、懸濁液を濾過濃縮することが可能である。
【0039】
具体的には、本実施形態においては、重力沈降槽内に満たされた汚泥(懸濁液)のうち、重力沈降槽の下部に沈降した濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を、第1液送手段により第1汚泥供給管を通じて濾過濃縮槽に液送する。液送された濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を、吸引手段により濾布の表面に付着させることにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成する。さらに、この状態で、重力沈降槽内に満たされた汚泥(懸濁液)のうち、重力沈降槽の上部の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を、第2液送手段により第2汚泥供給管を通じて濾過濃縮槽に液送する。液送された濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を、吸引手段により濾布およびケーキ薄層を通じて吸引することにより、濾過濃縮することが可能である。これとともに、濾布の表面に付着したケーキ薄層を形成する濃度の高い汚泥(第1懸濁液)、およびケーキ薄層の表面に付着する濃度の低い汚泥(第2懸濁液)からなる濃縮汚泥を、濃縮剥離手段により一度に濾布の表面から剥離させて回収することが可能である。
【0040】
特に、下水処理場等で生じる活性汚泥を対象に吸引濾過濃縮する場合、水分含有率が低く濃度が高い活性汚泥ほど、汚泥中に含まれる繊維性の粗浮遊物の含有率が高くなる傾向にある。このような濃度が高い汚泥を利用すれば、濾布の目詰まりを発生することなく、濾布の表面に効率的にケーキ薄層を形成することが可能となる。これとともに、吸引圧を高めて吸引濾過することにより、保形性の低い活性汚泥であっても、保形性が高くケーキ薄層を形成する濃度の高い活性汚泥であっても、ともにケーキ薄層の表面に付着する濃度の低い活性汚泥として、一度に濾布の表面で捕え、さらにその表面から剥離させて回収することが可能である。
【0041】
(浄水処理設備)
具体的には、図1に示されるように、浄水処理設備1は、原水Aを浄水Bと汚泥Cとに分離するための浄水槽2と、分離された汚泥Cを受け入れる重力沈降槽12と、重力沈降槽12内の汚泥を吸引方式で濾過濃縮するための吸引式濾過濃縮装置10と、吸引濾過濃縮された汚泥を脱水するための脱水機3とから概略構成されている。
【0042】
(浄水槽及び汚泥(懸濁液))
浄水槽2は、従来既知のものでよく、原水Aを受け入れ、浄水槽2内にたとえば凝集剤を添加することにより、原水Aを浄水Bと汚泥Cとに分離するようにしている。このため、浄水槽2は、凝集沈殿槽ともいえる。さらに、分離された浄水Bは、さらに下流側で別途処理されて、たとえば飲料水として利用されるようにしている。一方、分離された汚泥(懸濁液)Cは、以下に説明するように、下流側で段階的に濃縮処理をして、最終的に処分するようにしている。
【0043】
(重力沈降槽)
重力沈降槽12は、浄水槽2とは別体として設けられている。重力沈降槽12は、有底の円形断面の容器であり、内部に汚泥を受け入れて、重力の作用により自然沈降させて、濃度の高くなった汚泥(第1懸濁液)が槽の底部に溜まるようにしている。さらに、この重力沈降槽12には、重力沈降槽内に従来既知の攪拌機4が設けられ、モータ5により攪拌機4の鉛直軸が回転し、槽内の汚泥を攪拌するようにしている。このように、攪拌機4等を設けることによって、重力沈降槽12の底部に沈降した汚泥(第1懸濁液)を掻きとって回収・排出することができる。
【0044】
(第2懸濁液、第2汚泥供給管及び第2液送手段)
また、重力沈降槽12の側壁22には、重力沈降槽12内に汚泥を供給する汚泥供給管24の一端が連通し、汚泥供給管24の途中に設けられた汚泥供給弁26を介して、汚泥供給ポンプ28が接続されている。これにより、汚泥供給弁26を開き、汚泥供給ポンプ28を作動することにより、汚泥を浄水槽2から重力沈降槽12内に供給するようにしている。さらに、重力沈降槽12の上部には、第2汚泥供給管90の一端が接続されている。第2汚泥供給管90の他端は、第2液送手段としてのポンプ91を介して後に説明する濾過濃縮槽83の上部開口に臨むように配置される。これにより、重力沈降槽12での沈降により濃縮される前の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)が、第2汚泥供給管90を通じて直接濾過濃縮槽83に供給されるようにしている。たとえば、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を選択する段階に相当する。
【0045】
また、重力沈降槽12の側壁22には、重力沈降槽12内の上澄み液を排出する上澄み液排出管21の一端が、連通するように接続されている。この上澄み液排出管21の途中には、上澄み液排出弁23が設けられている。さらに、この上澄み液排出弁23を介して、上澄み液排出ポンプ25が接続されている。そして、上澄み液排出弁23を開き、上澄み液排出ポンプ25を作動させることにより、上澄み液は重力沈降槽12内から排出され、浄水槽2の上流側に戻される。なお、前述した第2汚泥供給管の変形例として、重力沈降槽12の上部に接続される上記一端を、汚泥供給管24に接続させて、第2汚泥供給管90として構成するとともに、汚泥供給ポンプ28を第2液送手段として構成してもよい(図示せず)。これにより、重力沈降槽12を経由せずに、浄水槽2から懸濁液を濾過濃縮槽83に直接液送することが可能となる。重力沈降槽12内の上部の汚泥は、沈降前か沈降分離後の上澄み液であり、重力沈降槽12へ流入前の汚泥(懸濁液)の濃度と変わらないか、重力沈降槽12で沈降した汚泥(第1懸濁液)よりも濃度が薄いものであるため、これを第2懸濁液として利用することも好ましい形態と言える。
【0046】
(第1懸濁液選択段階、第1懸濁液、第1汚泥供給管、及び第1液送手段)
さらに、重力沈降槽12の底部には、重力沈降槽12の下部と後に説明する濾過濃縮槽83とを接続する第1汚泥供給管80の一端が連通するように接続されている。さらに、第1汚泥供給管80の途中に設けられた第1汚泥供給弁81を介して、第1液送手段としての第1汚泥供給ポンプ82が接続されている。これにより、第1汚泥供給管80を通じて重力沈降槽12の下部に沈降した汚泥(第1懸濁液)を濾過濃縮槽83へ液送するようにしている。なお、上述のように説明した処理工程は、たとえば、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階に相当する。
【0047】
(吸引式濾過濃縮装置の概略構成)
図1および図2に示されるように、吸引式濾過濃縮装置10は、濾過濃縮対象である汚泥(懸濁液)を収容する濾過濃縮槽83と、濾過濃縮槽83内に配置された濾過板14と、汚泥(懸濁液)を吸引する吸引手段である吸引部16と、この吸引部16により濾過板14に設けられた濾布18の外表面に付着した、濃縮汚泥を剥離する濃縮汚泥剥離部20と、濃縮汚泥剥離部20により剥離され、濾過濃縮槽83の底に溜まったケーキ状片の濃縮汚泥を排出する濃縮汚泥排出部123、とから概略構成されている。
【0048】
(濾過濃縮槽及び濃縮汚泥貯留槽)
濾過濃縮槽83は、有底の矩形断面の容器であり、後に説明する濾過板14を内部に設置可能な容積を有する。濾過濃縮槽83の上部開口には、第1汚泥供給管80の他端が臨むように設置されている。そして、第1汚泥供給管80を通じて重力沈降槽12の下部に沈降した汚泥(第1懸濁液)が、濾過濃縮槽83の上部開口から濾過濃縮槽83の内部に供給されるようにしている。一方、濾過濃縮槽83の底部には、第1濃縮汚泥排出管84の一端が接続されている。第1濃縮汚泥排出管84は、第1濃縮汚泥排出ポンプ85を介して、濃縮汚泥貯留槽86に接続されている。さらに、第1濃縮汚泥排出管84は、第1濃縮汚泥排出ポンプ85の下流側で分岐して、未濃縮汚泥排出管119として重力沈降槽12に接続され、両者をバルブ150,151で切り替えている。また、濃縮汚泥貯留槽86には、第2濃縮汚泥排出管87の一端が接続され、第2濃縮汚泥排出管87は第2濃縮汚泥排出ポンプ88を介して第1汚泥供給管80の途中に接続されている。ここで、未濃縮汚泥とは、濾過濃縮層83内の濾布18の周囲に存在する汚泥であり、第1懸濁液、第2懸濁液を問わない。
【0049】
以上より、後に説明するように、濾過板14により濾過濃縮され、濾過板14により剥離されて濾過濃縮槽83の底部に溜まった濃縮汚泥は、第1濃縮汚泥排出ポンプ85により第1濃縮汚泥排出管84を通じて濃縮汚泥貯留槽86に送られて、濃縮汚泥貯留槽86に貯留されるように構成され、またそれとは独立に、濃縮汚泥貯留槽86に貯留された濃縮汚泥は、第2濃縮汚泥排出ポンプ88により、第2濃縮汚泥排出管87を通じて濃縮汚泥貯留槽86から第1汚泥供給管80に送られ、第1汚泥供給管80を通じて濾過濃縮槽83に供給されるようにしている。
【0050】
なお、第1濃縮汚泥排出管84が分岐して、未濃縮汚泥排出管119として重力沈降槽12に接続されているのは、汚泥(懸濁液)を連続的に濃縮処理可能とするためである。すなわち、汚泥(懸濁液)を連続的に濃縮処理する場合には、濾過濃縮槽83内の未濃縮汚泥を、未濃縮汚泥排出管119を通じて重力沈降槽12に戻し、その後に濾過濃縮槽83に第1汚泥を供給し、疑似濾過体としてケーキ薄層を形成して、連続的に濃縮処理を行う。この処理段階の後に、後述する濃縮汚泥剥離部によって、ケーキ層を剥離させる濃縮汚泥剥離処理が行われる。なお、上述した処理工程は、たとえば、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、第1懸濁液を吸引式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階に相当する。
【0051】
(吸引部/吸引手段)
図1及び図2に示されるように、濾過板14は、その上部において逆U字状の分配管34に接続され、この分配管34は、濾過濃縮槽83の外部で鉛直下方に延び、途中に濾液排出弁40が設けられる。分配管34の下端は、濾液溜114に臨むように設置されている。さらに、濾液溜114は、途中に濾液戻しポンプ116が設けられた濾液戻し管89を通じて、浄水槽2の上流側に濾液を戻すように構成されている。これにより、サイフォンの原理を利用して、濾過濃縮槽83内で濾過された濾液を濾過濃縮槽83外に排出する。また、それとは独立に、濾液溜114に溜められた濾液を、濾液戻しポンプ116により濾液戻し管89を通じて、浄水槽2の上流に液送し、再度浄水槽2内に流入するようにしてある。
【0052】
さらに、分配管34には、吸引管31が分岐して接続され、吸引管31には、途中に設けられた吸引弁33を介して真空ポンプ35が接続している。これにより、吸引弁33を開いた状態で、真空ポンプ35を作動することにより、濾過濃縮槽83内の処理すべき液を分配管34内に吸引し、サイフォンの原理を利用して、分配管34を通じて、濾液を外部に排出する準備を行うことができるようにしている。
【0053】
このサイフォン式の吸引圧は、分配管34の下端部と頂部とのレベル差に応じて決定される。ただし、吸引式濾過濃縮装置10を実用的に用いる場合、0.02MPaないし0.08MPaであることが好ましい。このような比較的低圧の吸引圧のもとで濾過濃縮槽83内の汚泥(懸濁液)を連続的に吸引することにより、濃縮汚泥が濾布18の外表面に付着させることができる。なお、その際、濾過濃縮槽83内の未濃縮汚泥中(懸濁液中)で、後に説明する濃縮汚泥剥離部20により、濃縮汚泥を濾布18から剥離させても、ケーキ状片として保形性を維持可能な程度の付着力を確保することが可能である。
【0054】
(濃縮汚泥剥離部)
また、濃縮汚泥剥離部20は、分配管34、水流入管42、水流入弁44、液送ポンプ46とから概略構成されている。そして、このような濃縮汚泥剥離部20によって、濾布18の内部から剥離媒体を圧送することにより、前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層からなる濃縮汚泥を、濾布から剥離する段階が行われることになる。
【0055】
具体的には、図2、図3A、図3Bに示されるように、分配管34には、水流入管42の一端が連通して接続され、その途中に設けられた水流入弁44を介して液送ポンプ46に接続されている。そのため、水流入弁44を開いた状態で、液送ポンプ46を作動させると、水が水流入管42および分配管34を通じて、濾過板14の内部に形成される濾過室76(後に説明)に供給される。この供給された水は、濾布18を膨出させて、濾布18から濃縮汚泥が剥離される。この場合、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥がケーキ状片として濾布18から剥離するように、液送ポンプ46および水流入弁44を用いることにより、剥離圧および/または剥離時間を調整されることが好ましい。
【0056】
このように、濾布の内部から剥離媒体を圧送することにより、前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層を濾布から剥離するところ、剥離媒体の圧送前まで濾布の表面に保持されていた濃縮層をまとめて一度に剥離することが可能であるとともに、剥離するたびに第1懸濁液によるケーキ薄層の形成から再開するので、ケーキ薄層の厚みは、主に第1懸濁液の濃度と第1懸濁液の濾過時間との組み合わせにより決定されることから、ケーキ薄層の厚み制御が容易となる。
【0057】
さらに、前記剥離段階は、濾過濃縮槽内に満たされた未濃縮懸濁液中で、濾布の内部から水を圧送することにより行うことが好ましい。この点について、本発明者は、濾過濃縮対象を汚泥とする場合、未濃縮汚泥中(懸濁液中)で濾布に付着した濃縮汚泥を剥離させても、濃縮汚泥が未濃縮汚泥中(懸濁液中)に溶け込まず、ケーキ状片として保形性を維持するのに、剥離媒体としての水を間欠的ではなく、所定時間に亘って連続的に圧送することが重要であることを確認している。
【0058】
ここで、「保形性」とは、濾布に付着した濃縮汚泥が、その付着時の板状の形態(大きさ、厚さなど)をどれくらい維持するかの程度をいう。たとえば、剥離時における濃縮汚泥が、大きい塊として剥離し、その後の段階でその形状があまり崩れない場合は、保形性が良いと判断できる。逆に、剥離時に小さい塊になったり、剥離後の塊が分解して小さい塊になったり、溶けて極端に小さくなる場合は保形性が悪いといえる。
【0059】
なお、濃縮汚泥の剥離媒体としての水は、汚泥(懸濁液)を濾布18により濾過し、濾過室76内に回収される濾液を用いることも好ましい。ただし、これに限定されるものではない。また、ここでの「未濃縮懸濁液」は、前述した「未濃縮懸濁液」と同義である。
【0060】
(濾過板)
図2に示されるように、濾過板14は、濾過枠48と、濾過枠48の内部に配置された支持板50と、支持板50を内部に収容するように袋状とした濾布18と、濾過枠48と支持板50との間に設けられた複数のコイルスプリング54とから概略構成されている。濾過枠48は、中空の矩形形状をなし、上辺56、下辺58および上下辺との間の両側辺60、62を有する。濾過板14は、上辺56の両端部により濾過濃縮槽83の内側面より懸架支持されている。
【0061】
(支持板)
支持板50は、ネットあるいはメッシュ網等からなり、矩形形状とされ、無数の小開口が支持板50に設けられている。支持板50の表面には、その上下方向に延びる凹凸部(図示せず)が設けられ、支持板50の凹部と濾布18の内面との間には、支持板50の上下方向に延びる濾液の流路が複数形成されるようにしている。支持板50は、樹脂製であり、具体的には、たとえばポリエチレン製あるいはEVA樹脂製がよい。このような材質を採用することにより、濾布18を汚泥に長時間浸漬したり、濾布18を膨出させたりする場合に、後に説明するコイルスプリング54により濾過板14に作用する張力が常時略一定となるようにすることが可能となる。
【0062】
(濾布)
濾布18は、化学繊維製あるいは金属製が好ましく、特にナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンなどがよい。濾布18は、たとえば、一対の矩形状の布体を重ね合わせて周縁部どうしを縫ったり、あるいは一枚の矩形状の布体を対向する縁どうしが重なり合うように折り曲げて、周縁部どうしを縫ったりすることにより袋状に形成するのがよい。濾布18の周囲には、複数の鳩目78が設けられ、コイルスプリング54の一端が、鳩目78にフックされるようにしている。
【0063】
また、濾布18には、濾過濃縮槽83の上下方向に延びる縫い目74が複数設けられ、各縫い目74により、濾布18はその内部に収容される支持板50と一体的に縫合されている。図2及び図3に示されるように、濾布18の内部には、隣り合う縫い目74により仕切られた濾過室76が形成される。分配管34の先端には、濾布18内で上部に設けられた水平管15が接続している。さらに、この水平管15には、各濾過室76に連通する流出孔(図示せず)が下向きに設けられ、剥離媒体としての水が、分配管34および水平管15に設けられた流出孔を通じて、各濾過室76内に圧送されるようにしている。
【0064】
なお、特に濾布18の上下方向の長さが長く、濾過濃縮槽83の汚泥による液圧の差が大きい場合には、複数の水供給管を濾布18の高さ方向に互いに異なるレベルに設けることも好ましい。剥離媒体としての水を圧送して、濾布18に付着した濃縮汚泥を剥離する際、濾布18に負荷される濾過濃縮槽83の汚泥(懸濁液)による液圧が高さ方向に変動することに伴い、濃縮汚泥が濾布18の高さ方向に一様に剥離できず、ケーキ状片として剥離するのが困難となる事態を防止することが可能となる。この場合、たとえば、液圧の低い濾布18の上部には、相対的に低い水圧の水を送り、液圧の高い濾布18の下部には、相対的に高い水圧の水を送ってもよい。
【0065】
(コイルスプリング)
図2に示すように、複数のコイルスプリング54は、濾過枠48の側辺60と濾布18の側辺61との間、濾過枠48の側辺62と濾布18の側辺63との間、濾過枠48の下辺58と濾布18の下辺59との間、および濾過枠48の上辺56と濾布18の上辺57との間に配置されている。濾過枠48の両側辺および上下辺それぞれに設置される隣り合うコイルスプリング54同士の間隔は、濾布18の大きさ、付着する濃縮汚泥量等に応じて、適宜設定すればよい。より詳細には、各コイルスプリング54は、その一端部が濾布18の鳩目78にフックされる一方、その他端部が濾過枠48の側辺60,62、上辺56および下辺58に固定されている。複数のコイルスプリング54は、耐蝕性の観点から、SUS製が好ましく、濾過板14の周囲に亘って数十本配置し、濾過板14の枚数がたとえば、数十枚に及ぶことから、特注品ではなく標準品を採用するのがよい。
【0066】
(濃縮汚泥排出部)
本実施形態における濃縮汚泥排出部は、剥離した濃縮汚泥を濾過濃縮槽83の外部に排出するために設けられている。具体的には、図1に示されるように、濃縮汚泥排出部123は、濃縮汚泥弁118、第3濃縮汚泥排出管93より概ね構成されている。この濃縮汚泥弁118を開くことにより、脱水機3に接続されている第3濃縮汚泥排出管93を通じて、濃縮汚泥が濾過濃縮槽83から脱水機3に液送される。
【0067】
(脱水機)
脱水機3は、たとえば、ベルトプレス、ベルトフィルター、遠心脱水機、ロータリプレス等従来既知のものでよく、脱水機3に送られる濃縮汚泥の濃度、汚泥の凝集性等を考慮して、適宜選択すればよい。脱水機3は、第3濃縮汚泥排出管93を介して濾過濃縮槽83の下部に接続され、濾過濃縮槽83の下部に溜まった濃縮汚泥を、第3濃縮汚泥排出管93を通じて脱水機3に供給するようにしている。なお、脱水機3の代替として、乾燥機を用いてもよい。
【0068】
(浄水処理設備の運転方法)
これまで説明した構成を有する浄水処理設備1について、運転方法を含めその作用を以下に説明する。原水Aが浄水槽2内に導入され、浄水槽2内で、凝集剤を添加する。これにより、原水Aが浄水Bと汚泥Cとに分離され、浄水Bは別途下流側で処理される。次いで、汚泥供給弁26を開き、汚泥供給ポンプ28を作動させることにより、分離された汚泥(懸濁液)が汚泥供給管24を通じて重力沈降槽12内に導入される。
【0069】
次いで、第1汚泥供給弁81を開き、第1汚泥供給ポンプ82を作動させる。これにより、重力沈降槽12の底部に溜まった比較的高濃度(たとえば、1質量%)の第1汚泥(第1懸濁液)を、第1汚泥供給管80を通じて濾過板14の頂部のレベルまで濾過濃縮槽83内に導入する。
【0070】
なお、この場合、濃縮汚泥貯留槽86に貯留された濃縮汚泥を、第2濃縮汚泥排出ポンプ88により第2濃縮汚泥排出管87を通じて第1汚泥供給管80に送り、重力沈降槽12からの第1汚泥(第1懸濁液)と合流させて、これを更に、第1汚泥(第1懸濁液)として濾過濃縮槽83に供給してもよい。
【0071】
より好ましくは、前記濾布により捕捉可能な濃度を有する第1懸濁液を貯留する濃縮汚泥貯留槽と、前記濾過濃縮槽の下部と前記濃縮汚泥貯留槽とを接続する第3汚泥供給管と、前記第3汚泥供給管を通じて、前記濃縮汚泥剥離手段により剥離されて前記濾過濃縮槽の底に溜まった濃縮汚泥を前記濃縮汚泥貯留槽に液送する第3液送手段と、前記濃縮汚泥貯留槽と前記第1汚泥供給管の途中とを接続する第4汚泥供給管と、前記第4汚泥供給管および前記第1汚泥供給管を通じて、前記汚泥貯留槽内に貯留された前記濃縮汚泥を前記濾過濃縮槽に液送する第4液送手段と、を有する吸引式濾過濃縮装置として構成されることである。このように構成されることにより、第1懸濁液より高濃度の濃縮汚泥と、第1懸濁液を混合して新たな濃度の第1懸濁液として、濃度調整を行えるため、より確実に短時間でケーキ薄槽を形成でき、連続的な汚泥処理を確実に行うことができる。
【0072】
具体的には、図1及び図2に示されるように、濾布18により捕捉可能な濃度を有する第1懸濁液を貯留する濃縮汚泥貯留槽86と、濾過濃縮槽83の下部と濃縮汚泥貯留槽86とを接続する、第3汚泥供給管としての第1濃縮汚泥排出管84を備えている。さらに、前記第3汚泥供給管としての第1濃縮汚泥排出管84を通じて、濃縮汚泥が濃縮汚泥貯留槽86に液送される。ここで、この濃縮汚泥は、濃縮汚泥剥離手段として構成される濃縮汚泥剥離部20によって剥離される。剥離された濃縮汚泥は、前記濾過濃縮槽83の底に溜まることになる。こうして、第3液送手段としての、第1濃縮汚泥排出ポンプ85、濃縮汚泥排出弁120により、濃縮汚泥は、濃縮汚泥貯留槽86に液送される。さらに、濃縮汚泥貯留槽86と第1汚泥供給管80の途中とを接続する、第4汚泥供給管としての第2濃縮汚泥排出管87が設けられている。そして、第4汚泥供給管としての第2濃縮汚泥排出管87、および第1汚泥供給管80を通じて、濃縮汚泥貯留槽86内に貯留された濃縮汚泥を、濾過濃縮槽83に液送する、第4液送手段としての第2濃縮汚泥排出ポンプ88を有している。このように構成される吸引式濾過濃縮装置を例示できる。ただし、これに限定されるものではない。
【0073】
次いで、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)をサイフォン式により濾過濃縮する準備を行う。より詳細には、図1〜図3A,図3Bに示されるように、吸引弁33を開き、真空ポンプ35を作動させる。これにより、濾布18内の液体(濾液)が、分配管34内に吸引される。すなわち、分配管34の濾過板14側の端部と、頂部とのレベル差に応じて、サイフォン作用により、濾過室76内に導かれた濾液を、分配管34を通じて外部に排出して濾液溜114に溜め、濾液戻しポンプ116により濾液戻し管89を通じて浄水槽2の上流側に戻される。
【0074】
次いで、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)は、サイフォンの原理により、濾布18の外表面に向かって吸引される。その際、第1汚泥(第1懸濁液)中の水分は、濾布18を通過して、濾液として濾布18内の濾過室76に導かれる。このようにして、第1汚泥(第1懸濁液)は脱水され濃縮されて、濾布18の外表面に付着し、ケーキ薄層を形成する。サイフォン式による比較的低圧の連続的な吸引であっても、濾布18の外表面に付着した濃縮汚泥を未濃縮汚泥中で剥離させても、ケーキ状片として保形性を維持可能な程度の付着力で第1汚泥(第1懸濁液)を、脱水され濃縮されたケーキ薄層状に、濾布18の外表面に付着させることが可能である。
【0075】
なお、濾過板14には、その周囲からコイルスプリング54によって常時張力が付加されている。そのため、濾過板14は、不動静止状態に維持される。それにより、後述するように、濾布18の外表面に付着した濃縮汚泥が、濾過板14がばたついたり、ぐらついたりすることにより、濾布18の外表面から剥離するような事態を防止することが可能である。
【0076】
図4に示されるように、このような吸引濾過により、濾布の外表面には、脱水され濃縮された第1汚泥(第1懸濁液)が付着し、それによりケーキ薄層Kが形成される。このような第1汚泥(第1懸濁液)の供給は、濾液の濁度に基づいて、濾液がほぼ透明になった段階で停止する。あるいは、ケーキ薄層の形成に伴い濾液の流量が低下することから、濾液の流量に基づいて、第1汚泥(第1懸濁液)の供給を停止してもよい。
【0077】
なお、本実施形態では、濾過板14は、従来技術に見られるような走行型ではなく固定式である。また、濾布18全体が原液(懸濁液)によって満たされるため、濾過板14全体に対して同時にケーキ薄層Kの形成が開始されることになる。そのため、ケーキ薄層Kの形成時間が大幅に短縮されるとともに、ケーキ薄層の形成のために濾過板を移動させる必要がない。その結果、エネルギーを節約可能である。
【0078】
次いで、図1に示されるように、濃縮汚泥排出弁120を開き、濃縮汚泥弁118を閉じる。このようにして、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)を、第1濃縮汚泥排出ポンプ85により第1濃縮汚泥排出管84を通じて、濃縮汚泥貯留槽86に送る。
【0079】
また、ケーキ薄層形成段階は、第1懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させ、濾過濃縮槽83内に配置された濾布18を用いて行い、第2懸濁液の濾過濃縮段階は、第1懸濁液を濾過濃縮槽83内から排出した後に、前記第2懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させて行うことも好ましい。汎用性が向上するためである。このように第1懸濁液を濾過濃縮槽83内から排出した後に、前記第2懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させて行う場合にも、濾過濃縮槽83内の第1汚泥(第1懸濁液)を、第1濃縮汚泥排出ポンプ85により第1濃縮汚泥排出管84を通じて、濃縮汚泥貯留槽86に送るとよい。
【0080】
次に、重力沈降槽12の上部又は浄水槽2から第2汚泥(第2懸濁液)を、第2汚泥供給管90を通じて、濾過濃縮槽83の上部開口から濾過濃縮槽83内に導入する。
【0081】
なお、別の形態としてとして、ケーキ薄層形成段階は、第1懸濁液を濾過濃縮槽83内に流入させ、濾過濃縮槽83内に配置された濾布18を用いて行い、第2懸濁液の濾過濃縮段階は、濾過板14が露出しないように、濾過濃縮槽83内の液位を調整しながら、濾過濃縮槽83下部から第1汚泥(第1懸濁液)を濃縮汚泥貯留槽86へ返送しつつ、重力沈降槽12の上部又は浄水槽2から第2汚泥(第2懸濁液)を濾過濃縮槽83上部から供給することも好ましい。これにより、濾過濃縮槽83内で沈降した第1汚泥(第1懸濁液)の排出と、濃度の低い第2汚泥(第2懸濁液)の供給が、併行して進行するため、濾過濃縮槽83内の第1、第2懸濁液の入れ替え作業による、吸引濾過の中断がなくなり、連続的な濾過が行える。したがって、時間短縮を実現できる。
【0082】
すなわち、図3、及び図5に示すように、袋状の濾布18の内部に形成された濾過室76を通じて吸引することにより、汚泥(懸濁液)中の水分について濾布18を通過させる一方、第2汚泥(第2懸濁液)中の固形物を濾布18の表面に付着させることにより、第2汚泥(第2懸濁液)を吸引式に濾過濃縮することが可能である。
【0083】
このようにすることにより、第1汚泥(第1懸濁液)より低い濃度を有する第2汚泥(第2懸濁液)であっても、ケーキ薄層を疑似的な濾過体として利用することにより濾過濃縮することが可能である。すなわち、いったん濾布18により捕捉可能な程度の濃度を有する第1汚泥(第1懸濁液)を吸引式により濾過濃縮することを通じて、濾布18の表面に効率的にケーキ薄層が形成される。そして、このケーキ薄層を利用することにより、第2汚泥(第2懸濁液)を、ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮できる。しかも、濾布18に目詰まりを生じることなく、第2汚泥(第2懸濁液)を濾過濃縮することが可能である。なお、上述のように説明した処理工程は、本発明の吸引式濾過濃縮方法においては、第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引式により濾過濃縮する濾過濃縮段階に相当する。
【0084】
特に、第2汚泥中(第2懸濁液中)に含有する固形分が、濾布18の目を通過可能であり、第2汚泥(第2懸濁液)が濾布18により捕捉できない程度の濃度を有する場合であっても、第1汚泥(第1懸濁液)により形成されるケーキ薄層を濾過体として利用することにより、第2汚泥(第2懸濁液)を吸引濾過できる。すなわち、第2懸濁液に含まれる水分は濾液として濾過室76に回収される一方、第2懸濁液に含まれる固形分は、ケーキ薄層の表面に、濃縮汚泥として付着させることが可能である。
【0085】
より好ましいのは、第2懸濁液は、前記濾布により捕捉不可能な濃度を有することである。濾布により捕捉不可能な程度の濃度を有する第2懸濁液であっても、前述のような第1懸濁液によるケーキ薄層を介して、濾過可能となり、第1懸濁液及び第2懸濁液といった、濃度や含まれる固形分の量、粒径等が相違したものを同時に、濾過濃縮処理できるため好ましい。
【0086】
さらに、第2懸濁液の濾過濃縮槽内への供給の開始は、第1懸濁液の濾液の濁度により決定することが好ましい。このような第2汚泥(第2懸濁液)の供給が、第1懸濁液の濁度に基づいて濾液が透明になった段階で開始されると、濾布上に、所望のケーキ薄層が形成されているため、十分な濾過濃縮処理を行うことができる。
【0087】
また、第2懸濁液の濾過濃縮槽内への供給の開始は、第1懸濁液の濾液の流量により決定することが好ましい。ケーキ薄層の形成に伴い濾液の流量が低下することから、濾液の流量に基づいて、第2汚泥(第2懸濁液)の供給を開始してもよい。
【0088】
(剥離処理工程)
次いで、濾布18を膨出させることにより、濾布18に付着した濃縮汚泥(第1汚泥のケーキ薄層とケーキ薄層の表面に付着した第2汚泥の濃縮汚泥)を剥離させる。より詳細には、水流入弁44を開き、液送ポンプ46より水流入管42、分配管34および水平管15を通じて、水を濾過板14の濾過室76内に圧送する。すなわち、濾過濃縮された後、未濃縮汚泥中で、濃縮汚泥が付着した面と反対側から濾布18に向かって水を連続的に所定時間に亘って圧送する。その際、圧送された水は、濾布18の無数の細孔を通って未濃縮汚泥中に流出しようとする。一方、濃縮汚泥が、濾布18の外表面全体に付着し、濾布18の無数の細孔をも塞いでいる。さらに、濃縮汚泥が付着した濾布18の外表面には、未濃縮汚泥の液圧が一様に負荷されている。このため、少なくとも未濃縮汚泥の液圧に打ち勝つまでは、濾過室76内の圧送された水の水圧が、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥を未濃縮汚泥中に向かって押圧することになる。すなわち、少なくとも未濃縮汚泥の液圧に打ち勝つまでは、濃縮汚泥を濾布18の表面から、剥離することはない。したがって、濾過室76内の圧送水は圧力が上昇し、それとともに濾布18が膨出する(図3(A)参照)。
【0089】
ここで、圧送水は、液体の水であるから、空気等のガスに比べて非圧縮性の性質を有している。そのため、従来の大気中での空気による剥離で引き起こされる事態を防止することが可能となる。すなわち、従来の空気圧送の場合には、濾過室76内での局所的な圧力上昇により、その部分に近い濾布18から、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥が、部分的に被処理液中(懸濁液中)に向かって押圧される。押圧された濃縮汚泥が、濾布の表面から剥離され、以後開放された細孔からのみ、空気が流出し続ける、といった事態を防止できる。換言すれば、本発明では、圧送された水の圧力が、濾過室76内で一様に所定圧力に達した点で、濾布の全体に亘って、濾布の表面に付着した濃縮汚泥をいっせいに被処理液中に向かって押圧することが可能である。そのため、濃縮汚泥を濾布の表面から周方向に均一に剥離することが可能となる。
【0090】
特に、本実施形態では、濾布18の表面には、第1汚泥(第1懸濁液)による濃縮層(ケーキ薄層)と、第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層とが積層した、濃縮汚泥が付着することになる。しかし、この第1汚泥(第1懸濁液)による濃縮層(ケーキ薄層)と、第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層とが積層した、濃縮汚泥は、プリコートの場合と異なり、同種の汚泥(懸濁液)が積層して付着することになる。しかし、圧送水を用いることにより、濾布から濃縮汚泥を剥離する際、第1汚泥(第1懸濁液)による濃縮層(ケーキ薄層)と第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層とが別々に剥離する恐れは小さい。
【0091】
好ましくは、第1懸濁液および第2懸濁液は、同じ懸濁液源から供給され、第1懸濁液は、懸濁液源の下部から供給され、第2懸濁液は、懸濁液源の上部から供給されることである。濃度が高い第1懸濁液は、同じ懸濁液源が貯留される重力沈降層内の下部に沈降している。一方、濃度が低い第2懸濁液は、重力沈降層内の上部に溜まることになる。したがって、前述のような構成とすることにより、懸濁液を処理工程に応じて選択及び供給しやすくすることができる。
【0092】
さらに、未濃縮汚泥中(懸濁液中)で濾布18の外表面に付着した濃縮汚泥を剥離してもよい。それにより、濃縮汚泥が保形性のあるケーキ状片として剥離しやすくなる。さらに、ケーキ状片の濃縮汚泥が未濃縮汚泥中(懸濁液中)を濾過濃縮槽83の底に向かって浮力の作用を受けながら落下することにより、底に衝突するときの衝撃を緩和できる。これにより、ケーキ状片が小さく砕けることがなくなり、濃縮汚泥が未濃縮汚泥中(懸濁液中)に溶け込むことを防止して、濃縮汚泥の濃縮度が低減することを防止することが可能である。また、濾過濃縮槽83の底に溜まる濃縮汚泥をケーキ状片のまま外部に排出することが可能となる。
【0093】
以上の構成によれば、濾布18の内部から剥離媒体である水を圧送することにより、第1汚泥(第1懸濁液)によるケーキ薄層およびケーキ薄層の外表面に付着した第2汚泥(第2懸濁液)による濃縮層を濾布18からまとめて剥離できる。剥離するたびに第1汚泥(第1懸濁液)によるケーキ薄層の形成から再開するので、ケーキ薄層の厚み制御が容易となる。すなわち、ケーキ薄層の厚みは、主に第1汚泥(第1懸濁液)の濃度と第1汚泥(第1懸濁液)の濾過時間との組み合わせから濾液の濁度や濃度を予測して制御できる。
【0094】
次いで、剥離した濃縮汚泥を濾過濃縮槽83の外部に排出する。より詳細には、濃縮汚泥排出弁120を閉じ濃縮汚泥弁118を開いて、第3濃縮汚泥排出管93を通じて脱水機3に液送する。このとき、濃縮汚泥は剥離後外部に取り出されるまで、未濃縮汚泥中(懸濁液中)でケーキ状片として保形性を保持することが可能であるので、濃縮汚泥を排出する前に未濃縮汚泥(懸濁液)を外部に排出する必要なしに、未濃縮汚泥中(懸濁液中)で固液分離を容易に行うことが可能である。以上で、汚泥の濾過濃縮作業が完了する。なお、剥離したケーキ状片の濃縮汚泥周辺の高濃度の懸濁水、すなわち「剥離した濃縮懸濁液」のみを、第1濃縮汚泥排出ポンプ85、第1濃縮汚泥排出管84を介して濃縮汚泥貯留槽86へ、第1懸濁液として返送してもよい。
【0095】
なお、汚泥(懸濁液)を連続的に濃縮処理する場合には、濾過濃縮槽83内の未濃縮汚泥(懸濁液)を、未濃縮汚泥排出管119を通じて重力沈降槽12に戻しながら、濾過濃縮槽83に第1汚泥(第1懸濁液)を供給し、ケーキ薄層を形成すればよい。
【0096】
濾過濃縮槽83の外部に排出された濃縮汚泥は、別途脱水機3によりさらに濃縮されて、ケーキ状に形成され、焼却あるいは埋立処分に付される。
【0097】
以上のように、濾過濃縮槽83への第1汚泥(第1懸濁液)の供給、第1汚泥(第1懸濁液)による濾布18の表面上へのケーキ薄層の形成、濾過濃縮槽83からの第1汚泥(第1懸濁液)の排出、濾過濃縮槽83への第2汚泥(第2懸濁液)の供給、第2汚泥(第2懸濁液)の吸引濾過濃縮、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥の剥離、および濃縮汚泥の濾過濃縮槽83からの排出からなる一連のサイクルは、濾布18の表面に付着した濃縮汚泥の厚みが増大することにより濾過性能が劣化するが、濃縮汚泥の厚みが許容範囲である限り、濾過濃縮槽83への第2汚泥(第2懸濁液)の供給および第2汚泥(第2懸濁液)の吸引濾過濃縮を繰り返して行うことが可能である。この場合、濾過濃縮槽83への第2汚泥(第2懸濁液)の供給は、第2汚泥(第2懸濁液)の吸引濾過濃縮を行いながら行ってもよいし、バッチで行ってもよい。
【0098】
このように、重力沈降槽12内に満たされた汚泥(懸濁液)のうち、重力沈降槽12の下部に沈降した濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を、第1液送手段により第1汚泥供給管を通じて濾過濃縮槽に液送する。そして、この液送された濃度の高い汚泥(第1懸濁液)を吸引手段により、濾布の表面に付着させる。これにより、濾布の表面にケーキ薄層が形成される。この状態で、重力沈降槽12内に満たされた汚泥(第1懸濁液)のうち、重力沈降槽12の上部の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を第2液送手段により、第2汚泥供給管90を通じて濾過濃縮槽に液送する。そして、液送された濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を吸引手段により濾布およびケーキ薄層を通じて吸引することにより、濾過濃縮することが可能である。これとともに、濾布の表面に付着したケーキ薄層を形成する濃度の高い汚泥(第1懸濁液)、およびケーキ薄層の表面に付着する濃度の低い汚泥(第2懸濁液)を濃縮剥離手段により一度に濾布の表面から剥離させて、回収することが可能である。また、濾布により捕捉不能な固形物を含有する程度の低い濃度を有する汚泥であっても、濾過濃縮することが可能であることから、濾布の表面に付着する濃縮汚泥の厚みの増大速度を抑制することが可能であり、効率的かつ長時間に亘って濾過濃縮することも可能である。
【0099】
以下に本発明の第2実施形態を、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には、同様な参照番号を付することによりその説明は省略し、以下では、本発明の第2実施形態の特徴について説明する。
【0100】
本発明の第2実施形態の特徴は、第1実施形態においては、重力沈降槽12の下流側に、重力沈降槽12と別体の濾過濃縮槽83を設け、濾過濃縮槽83の内部にサイフォン式吸引濾過装置10を配置したのに対して(図1参照)、本実施形態においては、第1実施形態における重力沈降槽12に相当する重力沈降槽212の内部に、サイフォン式吸引濾過装置10に相当するサイフォン式吸引濾過装置210を配置した点にある(図6参照)。
【0101】
より詳細には図6に示されるように、濾過濃縮対象である懸濁液を流入する重力沈降槽212には、重力沈降槽212内を上下方向に延びる仕切100が設けられている。また、仕切100には、その上部と下部それぞれに、仕切100により仕切られた重力沈降槽212の、一方のスペース102と他方のスペース104との間を連通するように形成されている開口部(上部開口部、下部開口部)が設けられている。重力沈降槽212の、一方のスペース102内には、内部に濾過室76を形成する袋状の濾布18と、濾過室76を通じて一方のスペース102内の懸濁液を吸引する吸引手段とが配置される。さらに、上部開口部には上部汚泥液送手段としての連通管126が設けられるとともに、連通管126には、調整弁106が設けられている。この上部汚泥液送手段により、上部開口部を通じて、他方のスペース104内の上部にある第2懸濁液を、一方のスペース102へ液送できるようにしてある。さらに、下部開口部には連通管121および連通管122が設けられている。連通管121には、他方のスペース104内の下部汚泥(第1懸濁液)を一方のスペース102へ液送する第1液送ポンプ124が設けられ、連通管122には、一方のスペース102内の下部汚泥を他方のスペース102へ液送する第2液送ポンプ108が設けられている。すなわち、スペース102は第1実施形態の濾過濃縮槽83と同じ機能を有している。
【0102】
以上より、調整弁106を閉じて、第1液送ポンプ124を作動する。これにより、他方のスペース104内の下部の濃度の高い汚泥(第1懸濁液)が、連通管121を通じて濾過板14に送られる。一方、調整弁106を開いて、第2液送ポンプ108を作動することにより、他方のスペース104内の上部の濃度の低い汚泥(第2懸濁液)が連通管126を通じて濾過板14に送られるようにすることが可能である。なお、正逆回転可能なポンプによれば、1基のポンプにより第1液送ポンプ124と第2液送ポンプ108とを兼ねることが可能である。
【0103】
吸引手段は、第1実施形態と同様に、サイフォン式吸引管を有し、サイフォン式吸引管は、一端が濾過室76に上方から連通し、他端が重力沈降槽12の外部で下方に延びる逆U字形の管であることが好ましい。このようにすることで、省エネルギー効果を高く実現できる。
【0104】
以上の構成による吸引式濾過装置の作用を以下に説明する。まず、調整弁106を閉じ、重力沈降槽212内を沈降した比較的濃度の高い(たとえば、1質量%)第1汚泥(第1懸濁液)を、第1液送ポンプ124により連通管121を通じて、他方のスペース104から一方のスペース102に液送する。これにより、第1実施形態と同様に、一方のスペース102内に配置された濾過板14により吸引濾過を行い、濾布18の表面にケーキ薄層Kを形成する。なお、他方のスペース104の水位が低下した分は、浄水槽2の下部から懸濁水が補充される。
【0105】
次いで、調整弁106を開き、一方のスペース102内の汚泥(第1懸濁液)を、第2液送ポンプ108により、連通管122を通じて、一方のスペース102から他方のスペース104に液送する。これにより、重力沈降槽212内の水位が上昇し、その上部の比較的濃度の低い(たとえば、0.1質量%)第2汚泥(第2懸濁液)が、連通管126を通じて他方のスペース104から一方のスペース102に流入する。これにより、第1実施形態と同様に、第2汚泥(第2懸濁液)は、第1懸濁液が濾布表面に付着して形成されたケーキ薄層Kを通じて、吸引濾過することが可能である。
【0106】
次いで、濾布に付着した濃縮汚泥、すなわち第1汚泥(第1懸濁液)が濾布表面に付着して形成されたケーキ薄層の濃縮層と、そのケーキ薄層の濃縮層の表面に、更に付着した第2汚泥(第2懸濁液)によって形成された濃縮層、からなる濃縮汚泥を、濾布の表面から剥離する。この剥離処理は、第1実施形態と同様に、液中で濾過室76を通じて水を所定時間に亘って連続的に圧送することにより行われる。なお、一方のスペース102における第1懸濁液と第2懸濁液の入れ替え方法については、第1の実施形態における濾過濃縮槽83の場合と同様である。
【0107】
次いで、剥離されたケーキ状片の濃縮汚泥は重力沈降槽212の底に溜まり、溜まった濃縮汚泥を外部に排出する。
【0108】
このような工程を繰り返すことにより、比較的低濃度の汚泥(第2懸濁液)を、吸引濾過濃縮することが可能となる。なお、このように吸引濾過濃縮を繰り返す毎に、第1汚泥(第1懸濁液)によるケーキ薄層が形成され、ケーキ薄層の表面に付着した第2汚泥(第2懸濁液)の濃縮層が形成される。さらに、このような濃縮層(濃縮汚泥)が、ともに剥離され、濃縮汚泥として外部に排出されることになるから、運転中に必要な第1汚泥(第1懸濁液)が足りなくなる事態も生じ得る。このような場合には、たとえば、重力沈降槽の上流側に混合槽(図示せず)を設け、この混合槽内で、外部に排出した濃縮汚泥を重力沈降槽内の第2汚泥(第2懸濁液)と所定の濃度(少なくとも第2汚泥(第2懸濁液)より濃い濃度)となるように混合して、第1汚泥(第1懸濁液)として補充すればよい。
【0109】
以上のように、本発明の第2実施形態によれば、既存の重力沈降槽212に大幅な改造を加えることなしに、既存の重力沈降槽212を利用することができる。これにより、設備スペースの拡張を必要ともしない。さらに、従来のように重力沈降槽212において汚泥が自然沈降するまで待機することなく、比較的低濃度の汚泥を吸引濾過濃縮することで、濾布の表面に付着する濃縮汚泥の厚みの増大速度を低減することが可能であることから、効率的かつ長時間に亘って汚泥を濃縮処理することが可能である。
【0110】
さらに、本発明の第2実施形態の変形例として、図7に示すように、重力沈降槽212の設置レベルの制約から、サイフォン式吸引濾過が困難である場合には、吸引ポンプ110を利用して、吸引濾過を行えばよい。この場合、吸引ポンプ110の吸引強さを調整することにより、濾布に付着する濃縮汚泥が濾布から剥離され、重力沈降槽212の底に溜まる状態でもケーキ片状に保持することが可能であるから、濃縮汚泥を外部に排出するのに、たとえばスクリューフィーダー112を利用してもよい。
【0111】
さらなる変形例として、前記重力沈降槽の下流側に接続され、前記一方のスペース内の第1懸濁液を貯留する濃縮汚泥貯留槽を有し、前記一方のスペース内の第1懸濁液は、前記濃縮汚泥貯留槽から前記一方のスペースに供給される吸引式濾過濃縮装置として構成されることも好ましい。このように構成されることによって、ケーキ薄層形成用の第1汚泥を貯留することができ、連続して濃縮汚泥処理を行える。具体的には、図8、又は図9に示されるように、濃縮汚泥貯留槽86を重力沈降槽312と別体に設け、一方のスペース102内の濃縮汚泥を濃縮汚泥貯留槽86に回収し、ケーキ薄層形成用の第1汚泥として一方のスペース102に供給するようにしてもよい。ここで、図8は、濃縮汚泥貯留槽86を重力沈降槽312の上方に設ける場合であり、図9は、濃縮汚泥貯留槽86を重力沈降槽312の下方に設け、一方のスペース102から回収した1質量%汚泥をろ液返送ポンプ153、ろ液返送菅154を介して、再び一方のスペースに返送する場合を例示する。ただし、これに限定されるものではない。
【0112】
さらに、他方のスペース内の下部に第2懸濁液を貯留する第2懸濁液用汚泥貯留槽を有し、他方のスペース内の下部の、第2懸濁液は、第2懸濁液用汚泥貯留槽から一方のスペースに供給されるように構成される吸引式濾過濃縮装置として構成されることも好ましい。このように構成されることによって、第2懸濁液を貯留することができ、連続して濃縮汚泥処理を行える。
【0113】
さらに、変形例として、汚泥を重力沈降槽12内で濾過濃縮するのではなく、槽内に満たされた懸濁液を吸引濾過することにより、濾液を利用する場合には、槽内で下部に位置する比較的濃度の高い第1懸濁液を利用して濾布の表面にケーキ薄層を形成し、次いで、このケーキ薄層を疑似濾過体として利用して、槽内で上部に位置する比較的濃度の低い第2懸濁液を吸引濾過すればよい。この場合、重力沈降槽12においては浄水の沈降分離に数日要するが、容積が比較的小さい、あるいは深さが比較的浅い槽の場合には、槽内で第1懸濁液を利用してケーキ薄層を形成する前に、懸濁液の固形分が槽内で濾過板より下方に沈降してしまうことがある。そのために、第1懸濁液を利用してケーキ薄層を形成する前に、いったん槽内の懸濁液を攪拌して、槽内で一様な濃度の懸濁液となるようにし、この懸濁液を利用して、ケーキ薄層を形成すればよい。濾布の表面にケーキ薄層が形成された後は、省エネルギーの観点から、攪拌を停止し、槽内で自然沈降する濃度の低い懸濁液を対象に、吸引濾過を行ってもよいし、継続して攪拌を行いつつ、吸引濾過を行ってもよい。
【0114】
このような吸引式濾過濃縮方法によれば、重力沈降槽内で袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて吸引することにより、懸濁液の水分を濾布を通過させる一方、懸濁液中の固形物を濾布の表面に付着させることにより、懸濁液を吸引式に濾過濃縮することが可能である。
【0115】
この場合、重力沈降槽内に満たされた汚泥のうち、濾布により捕捉不能な固形物を含有する程度の低い濃度を有する汚泥であっても、濾布により捕捉可能な固形物を含有する程度の高い濃度を有する汚泥を利用して、濾布の表面にケーキ薄層を形成し、このケーキ薄層を疑似的な濾過体として用いることにより、ケーキ薄層を通じて濾過濃縮することが可能であり、重力沈降槽内に満たされた汚泥が沈降するまで待機する必要なしに、効率的に濾過濃縮することが可能であり、その一方、濾布により捕捉不能な固形物を含有する程度の低い濃度を有する汚泥であっても、濾過濃縮することが可能であることから、濾布の表面に付着する濃縮汚泥の厚みの増大速度を抑制することが可能であり、長時間に亘って濾過濃縮することも可能である。
【0116】
さらに、濾布に付着したケーキ薄層とともに、ケーキ薄層の外表面に付着した濃縮汚泥を濾布から剥離する段階を有するのがよい。
【実施例】
【0117】
本発明者は、図10に示すように、重力沈降槽12に直接濾過板14を設置して、汚泥の濾過濃縮が可能であるか否かの確認試験を行った。試験装置および試験方法は、以下のとおりである。
【0118】
1.試験対象:汚泥:某浄水場汚泥
2.試験装置:吸引式濾過濃縮装置
濾過板14の濾過面積:0.12m2
濾布18:ナイロン製、支持板に一体的に裁縫
吸引圧:−33kPa
【0119】
3.試験方法:
(1)濾過濃縮方法:
吸引式濾過濃縮により原汚泥を対象に8時間に亘って連続的に吸引濾過濃縮を行った。
具体的には、図10に示すように、まず、原液(汚泥:第1懸濁液に相当)で濾過濃縮を開始する(T1)。次いで、濾過開始後、濾液Fの濁質が透明になった時点で、槽下部より原液(汚泥)を排出する(T2)とともに、槽上部より10倍希釈液(第2懸濁液に相当)を投入する(T3)。次いで、原液排出後、10倍希釈液のみで濾過濃縮を続ける(T3)。
【0120】
(2)剥離方法:
次に、図10に示すように、槽内の未濃縮汚泥を外部に排出した後(T4)、濾過室76を通じてエアを圧送して濾布18に付着した濃縮汚泥Wを濾布18より剥離する(T5)。
【0121】
実験結果を表1および図11に示す。濾液Fが透明になるまでに、約1分を要した。表1および図11に示すように、比較例1では、原液での濾過濃縮によれば、原液濃度1.12%、濾液の濃度0.05%、濃縮汚泥濃度8.29%であり、濃縮倍率は、7.40であるのに対し、実施例1では、10倍希釈液による低濃度汚泥によれば、原液濃度0.108%、濾液の濃度0.014%、濃縮汚泥濃度6.69%であり、濃縮倍率は、61.94であった。なお、濃度は質量%を示す。
【0122】
【表1】
【0123】
この結果より、第1に、原汚泥の濃度が低くても、濃縮汚泥の濃度に大きな違いが出ないこと、第2に、図10に示されるT3において、図13の、ろ液量とろ液時間の関係を示す線Sに示されるように、8時間経過しても濾過性能が低下しないこと、すなわち、逆洗することなく連続運転できることが確認できる。さらに、第3に、所要時間としては、原液によりケーキ薄層を形成するまでに1分、汚泥の入れ替えに9分、低濃度汚泥の濾過濃縮に470分であり、また濾過板を洗浄した後最初の工程に戻すのに20分であったので、トータルの濾過時間に対する有効濾過時間の割合は94%に達すること、第4に、濃縮汚泥の剥離時に濾過工程を停止する必要があるが、剥離に要する時間は、低濃度汚泥の濾過濃縮時間に対して数%を占めるに過ぎず、全体の濃縮効率を阻害するものでないこと、を確認した。
【0124】
以上から、本発明者は、濃度の高い汚泥を用いて濾布の表面に固形分を密集させて付着させることにより、重力沈降槽12に直接濾過板を設置して汚泥の濾過濃縮が実用的に可能であるとの見通しを得た。
【0125】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば種々の修正あるいは変形が可能である。たとえば、第1実施形態においては、濾過濃縮の対象が汚泥の場合を説明したが、それに限定されることなく、たとえば濾過濃縮の対象としては、アルカリ溶液中に含有した焼却灰、牛乳、ジュース等飲料液中に含有した異物、濁質水中の濁質物等があり、濾過濃縮の対象に応じて、濾布18の種類、細孔径の大きさ、吸引力等の条件を適切に設定する限り、本発明に係る吸引式濾過濃縮方法は、これらに対して適用可能である。この場合、ケーキ薄層の形成用に第1懸濁液が必要となるが、第1実施形態においては、濾過濃縮の対象が汚泥の場合として、重力沈降槽内に沈降した第1汚泥を利用したが、このような第1懸濁液が即座に利用できないときには、天日または熱による乾燥濃縮、膜濾過装置を用いた濃縮、あるいは真空蒸発による濃縮により第1懸濁液を生成すればよい。
【0126】
また、第1実施形態においては、濃縮汚泥を濾布から剥離するのに、未濃縮汚泥中において水を剥離媒体として用いたが、それに限定されることなく、未濃縮汚泥をいったん濾過濃縮槽から外部に排出した後、空気を剥離媒体として用いて剥離を行ってもよい。
【0127】
さらに、第1実施形態においては、濃縮汚泥貯留槽86に溜められた濃縮汚泥を濾過濃縮槽83においてケーキ薄層の形成のために利用したが、それに限定されることなく、いわゆる種汚泥のように、同種の性状であれば、他の吸引濾過濃縮において、ケーキ薄層の形成のために活用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明に係る吸引式濾過濃縮方法は、上水、中水および下水を含めた水処理系技術分野に限らず、食品系分野、化学工業系分野等広範囲の技術分野に対して適用可能であり、そのなかでも、浄水場等の水処理工程において発生する汚泥の濃縮工程において適用される吸引式濾過濃縮方法として特に有用である。
【符号の説明】
【0129】
1:浄水処理設備、2:浄水槽、3:脱水機、4:攪拌機、5:モータ、10,210:吸引式濾過濃縮装置(サイフォン式濾過濃縮装置)、12,212,312:重力沈降層、14:濾過板、15:水平管、16:吸引部、18:濾布、20:濃縮汚泥剥離部、21:上澄み液排出管、22:側壁、23:上澄み液排出弁、24:汚泥供給管、25:上澄み液排出ポンプ、26:汚泥供給弁、28:汚泥供給ポンプ、31:吸引管、33:吸引弁、34:分配管、35:真空ポンプ、36:濾液貯留槽、40:濾液排出弁、42:水流入管、44:水流入弁、46:液送ポンプ、48:濾過枠、50:支持板、54:コイルスプリング、56:上辺、57:上辺、58:下辺、59:下辺、60,61,62,63:側辺、74:縫い目、76:濾過室、78:鳩目、80:第1汚泥供給管、81:第1汚泥供給弁、82:第1液送手段(第1汚泥供給ポンプ)、83:濾過濃縮槽、84:第1濃縮汚泥排出管、85:第1濃縮汚泥排出ポンプ、86:濃縮汚泥貯留槽、87:第2濃縮汚泥排出管、88:第2濃縮汚泥排出ポンプ、89:濾液戻し管、90:第2汚泥供給管、91:ポンプ、93:第3濃縮汚泥排出管、100:仕切、102:一方のスペース、104:他方のスペース、106:調整弁、108:第2液送ポンプ、110:吸引ポンプ、112:スクリューフィーダー、114:濾液溜、116:濾液戻しポンプ、118:濃縮汚泥弁、119:未濃縮汚泥排出管、120:濃縮汚泥排出弁、121:連通管、122:連通管、123:濃縮汚泥排出部、124:第1液送ポンプ、126:連通管、153:ろ液返送ポンプ、154:ろ液返送菅、K:ケーキ薄層、W:濃縮汚泥。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、
袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて前記懸濁液を吸引することにより、前記懸濁液中の水分について前記濾布を通過させる一方、前記懸濁液中の固形物を前記濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、
前記懸濁液は、第1懸濁液と第2懸濁液を含み、
前記懸濁液のうち、自然沈降させて、濃度の濃くなった汚泥であり、前記濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、
前記第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、
前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、
を有する、吸引式濾過濃縮方法。
【請求項2】
前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、
前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内から排出した後に、前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入させて行う請求項1に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項3】
前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、
前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、濾布が濾過濃縮槽内に満たされた前記第1懸濁液の液面から露出しないように、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽内から排出しつつ前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入することにより行う請求項1に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項4】
前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層からなる濃縮汚泥を、濾布から剥離する剥離段階は、濾過濃縮槽内に満たされた未濃縮懸濁液中で、濾布の内部から水を圧送することにより行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項5】
剥離した濃縮懸濁液を濾過濃縮槽から外部に排出し、貯留する段階をさらに有し、
貯留した濃縮懸濁液を前記第1懸濁液として利用する請求項4に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項6】
前記ケーキ薄層形成段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽から排出し、貯留する段階と、
前記剥離段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽へ供給する段階を有する請求項5に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項1】
懸濁液を吸引方式により濾過濃縮する吸引式濾過濃縮方法であって、
袋状の濾布の内部に形成された濾過室を通じて前記懸濁液を吸引することにより、前記懸濁液中の水分について前記濾布を通過させる一方、前記懸濁液中の固形物を前記濾布の表面に付着させる段階を有する吸引式濾過濃縮方法において、
前記懸濁液は、第1懸濁液と第2懸濁液を含み、
前記懸濁液のうち、自然沈降させて、濃度の濃くなった汚泥であり、前記濾布の目を閉塞可能な固形分を含有する第1懸濁液を選択する段階と、
前記第1懸濁液を吸引方式により濾過濃縮することにより、濾布の表面にケーキ薄層を形成するケーキ薄層形成段階と、
前記第1懸濁液の濃度より低い濃度を有する第2懸濁液を、前記ケーキ薄層を通じて吸引方式により濾過濃縮する濾過濃縮段階と、
を有する、吸引式濾過濃縮方法。
【請求項2】
前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、
前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内から排出した後に、前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入させて行う請求項1に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項3】
前記ケーキ薄層形成段階は、前記第1懸濁液を濾過濃縮槽内に流入させ、前記濾過濃縮槽内に配置された濾布を用いて行い、
前記第2懸濁液の濾過濃縮段階は、濾布が濾過濃縮槽内に満たされた前記第1懸濁液の液面から露出しないように、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽内から排出しつつ前記第2懸濁液を前記濾過濃縮槽内に流入することにより行う請求項1に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項4】
前記第1懸濁液による前記ケーキ薄層および前記ケーキ薄層の外表面に付着した前記第2懸濁液による濃縮層からなる濃縮汚泥を、濾布から剥離する剥離段階は、濾過濃縮槽内に満たされた未濃縮懸濁液中で、濾布の内部から水を圧送することにより行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項5】
剥離した濃縮懸濁液を濾過濃縮槽から外部に排出し、貯留する段階をさらに有し、
貯留した濃縮懸濁液を前記第1懸濁液として利用する請求項4に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【請求項6】
前記ケーキ薄層形成段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽から排出し、貯留する段階と、
前記剥離段階後に、前記第1懸濁液を前記濾過濃縮槽へ供給する段階を有する請求項5に記載の吸引式濾過濃縮方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−35262(P2012−35262A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228462(P2011−228462)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【分割の表示】特願2011−519909(P2011−519909)の分割
【原出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【分割の表示】特願2011−519909(P2011−519909)の分割
【原出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
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