説明

吸放湿紙の製造方法、及び吸放湿紙

【課題】紙の特性を確保しつつ、膨潤による寸法変化や、材料の脱落や飛散などを抑え、さらには、優れた吸放湿性能を発揮し得る吸放湿紙の製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも、パルプ繊維、及び平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、平均粒径5〜80μmの特性を有する無機多孔質材料を含有し、かつ、該無機多孔質材料の含有量が固形分換算で5〜65質量%の水性スラリーを抄紙して紙基材を得る工程と、該紙基材に、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物を含有する塩溶液を塗布又は含浸する工程とを有することを特徴とする吸放湿紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放湿紙の製造方法、及び吸放湿紙に関する。さらに詳しくは、極めて優れた吸放湿性能が発揮される吸放湿紙の製造方法、及び吸放湿紙に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
吸放湿性能(調湿性能)を有する吸放湿紙は、従来から、各種フィルター、機能性の壁紙原紙、さらには、保存物の湿度変動による劣化を防ぐための保護紙などの用途で使用されている。また、吸放湿性能の更なる向上を目的として、従来から、紙に、吸放湿性能を有する物質を含有させる提案がいくつかなされている。
【0003】
例えば、吸放湿性能を有する合成繊維を、パルプ繊維とともに抄紙してなる吸放湿紙が提案されている(特許文献1)。このような合成繊維を含有させてなる吸放湿紙は、優れた吸放湿性能を発揮する一方で、吸湿時に膨潤が起こり、寸法安定性が問題となることがあった。また、吸放湿性能を有する合成繊維は、比較的高価であるため、これを用いた吸放湿紙は、その用途が限定されていた。
【0004】
また、シリカゲルや珪藻泥岩などの無機多孔質材料をパルプ繊維とともに抄紙させてなる吸放湿紙についても提案されている(特許文献2、3参照)。しかしながら、このように無機多孔質材料を含有させることで吸放湿性能の向上を図った吸放湿紙においては、寸法安定性の問題は比較的少ないものの、吸湿性能自体が必ずしも十分ではなく、フィルターなどの、より高くて速い吸湿性能が要求される用途においては、更なる性能の向上が望まれていた。これに対して、無機多孔質材料を多量に含有させて、吸湿性能の向上を図った場合においては、無機多孔質材料の脱落や飛散が生じたり、紙の質感や強度などの特性や加工性などの面で問題が生じたりすることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−248361号公報
【特許文献2】特開昭63−99400号公報
【特許文献3】特開2003−213593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、紙の特性を確保しつつ、膨潤による寸法変化や、材料の脱落や飛散などを抑え、さらには、優れた吸放湿性能を発揮し得る吸放湿紙の製造方法、及び吸放湿紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも、パルプ繊維、及び平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、平均粒径5〜80μmの特性を有する無機多孔質材料を含有し、かつ、該無機多孔質材料の含有量が固形分換算で5〜65質量%の水性スラリーを抄紙して紙基材を得る工程と、該紙基材に、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物を含有する塩溶液を塗布又は含浸する工程とを有することを特徴とする吸放湿紙の製造方法である。また、本発明の吸放湿紙の製造方法は、前記無機多孔質材料が、稚内層珪質頁岩であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の吸放湿紙の製造方法は、前記塩化合物が、塩化ナトリウムを含み、塩化ナトリウムの塩溶液中における濃度が3〜15質量%の範囲内である形態、また、前記塩化合物が、塩化リチウムを含み、塩化リチウムの塩溶液中における濃度が1〜10質量%の範囲内である形態、また、前記塩化合物が、塩化マグネシウム又は塩化カルシウムを含み、塩化マグネシウム又は塩化カルシウムの塩溶液中における濃度が3〜15質量%の範囲内である形態、さらには、前記塩化合物が、塩化ナトリウム及び塩化リチウムを含み、塩化ナトリウムの塩溶液中における濃度が3〜15質量%の範囲内であり、かつ、塩化リチウムの塩溶液中における濃度が1〜10質量%の範囲内である形態とすることができる。
【0009】
また、本発明の別の実施形態は、少なくとも、パルプ繊維と、平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、平均粒径5〜80μmの特性を有する無機多孔質材料と、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物とを含有することを特徴とする吸放湿紙である。また、本発明の吸放湿紙は、さらに、その表面上に、通気性を有する樹脂層を設けてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紙の特性を確保し、膨潤による寸法変化や材料の脱落や飛散などを抑え、さらには、優れた吸放湿性能を発揮し得る吸放湿紙の製造方法、及び吸放湿紙が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】吸放湿紙の水蒸気吸着等温線。
【図2】吸放湿紙の水蒸気吸着等温線。
【図3】吸放湿紙の吸放湿性能を示す測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、紙の特性を確保しつつ、優れた吸放湿性能を発揮することができる吸放湿紙を得ることを目的として、検討を行った。その結果、後述する特定の特性を有する無機多孔質材料とパルプ繊維を含有する水性スラリーを抄紙することで得た紙基材に、さらに、後述する特定の塩化合物を含有する塩溶液を含浸又は塗布することで、上記した目的を達成できる吸放湿紙が得られることを見出し、本発明に至った。以下、本発明を構成する各工程毎に本発明の吸放湿紙の製造方法をより詳細に説明する。
【0013】
<抄紙工程>
(無機多孔質材料)
本発明に用いられる無機多孔質材料としては、珪質頁岩、アロフェン、イモゴライト、セピオライト、活性白土、大谷石、ゼオライト又はシリカゲルが挙げられる。本発明においては、その中でも、平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上の特性を有する無機多孔質材料が用いられる。本発明においては、このような空隙特性を有する無機多孔質材料を用いることから、以下のような効果を発揮する吸放湿紙が得られる。すなわち、膨潤しない無機多孔質材料を用いていることから、吸湿時において、寸法変化が起こりにくい吸放湿紙が得られる。また、前記したような特性、つまり、微細な細孔を多数有する構成の無機多孔質材料は、水蒸気の毛細管凝縮(細孔内で水蒸気が凝縮し、多量の水蒸気が吸着される現象)が起こりやすいという性質を有することで知られている。このため、このような前記無機多孔質材料の性質により良好な吸放湿性能を短時間で発揮する吸放湿紙が得られる。
【0014】
さらに、本発明で得られる吸放湿紙は、水蒸気に溶解可能な、アンモニア、ホルマリン又はアセトアルデヒドなどの水溶性ガスを上記した毛細管凝縮により多量に無機多孔質材料の細孔内に吸着することができる。さらに、インドール、スカトール又はイソ吉草酸などの介護臭やペット臭、大気汚染物質であるNOx、SOxなどの有害ガスを吸着することもでき、また、用いる無機多孔質材料を改質させることによって、他のガス、例えば、水ガラスなどを用いた無機多孔質材料のアルカリ処理によって硫化水素などの酸性ガスを、無機多孔質材料の疎水化処理によって水蒸気に溶解しないトルエン、キシレンなどの親油性ガスなどを吸着することができる。つまり、本発明で得られる吸放湿紙は、多様な種類のガスに対して吸着性を有しており、室内環境に存在するほとんどのガスを吸着することが可能である。本発明においては、特に、無機多孔質材料は、平均細孔半径2〜6nm、比表面積100m2/g以上の特性を有するものを用いることがより好ましい。
【0015】
このような特性を有する無機多孔質材料として特に好適なものに、北海道天北地方で産出される、いわゆる、稚内層珪質頁岩と呼ばれるものが挙げられる。稚内層珪質頁岩は、上記した特性を有する他、細孔容量が0.1〜0.4ml/gの範囲内にあり、最大吸湿率が15質量%以上の、シャープな細孔径分布を有する多孔質体である。そして、稚内層珪質頁岩は、相対湿度60%以上の領域において、急激に吸湿性能が向上するという特異な性質を有することで知られている。したがって、本発明において、稚内層珪質頁岩を用いた場合、相対湿度60%以上の領域において優れた吸放湿性能を発揮できる吸放湿紙が得られるようになる。また、この場合、得られる吸放湿紙は、吸湿された状態から40℃程度の低温で速やかに、熱劣化を生じさせないで、再生させることが可能となる。つまり、本発明において、稚内層珪質頁岩を用いた場合、得られる吸放湿紙は、紙自体の特性を確保したまま、繰り返し再生して使用することが可能となる。また、本発明の吸放湿紙をフィルター材などに適用し、これを浄化設備などに用いた場合においては、再生のための特別な熱源が不要となるため、設備をよりコンパクトに設計できるという効果が得られる。さらに、稚内層珪質頁岩は、天然物で多量に産出するものであることから、安価に吸放湿紙を作製することもできる。
【0016】
なお、本発明において、細孔容量は、BJH(Barrett Joyner Halenda)法により測定できる。また、比表面積は、BET(Brunauer Emmett Teller)法により測定できる。また、平均細孔半径は、前記の方法で測定した、細孔容量と比表面積とから、細孔が円柱体と仮定して、下記の式から計算により求めることができる。なお、最大吸湿率は、測定対象物を150℃のオーブンに入れ72時間保持した後に測定した対象物の絶乾質量と、その後、25℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に入れて48時間保持した後に再度測定する対象物の質量との質量増加率により得られる。相対湿度に応じての水分吸着量及び水分放湿量の変化は、水蒸気吸着量測定装置で連続して測定することができる。
(式)平均細孔半径=2×細孔容量(ml/g)÷比表面積(m2/g)
【0017】
また、本発明において、抄紙工程に用いる無機多孔質材料としては、その平均粒径が5〜80μmの範囲のものを用いる。好ましくは、10〜70μmの範囲内であり、特に好ましくは、20〜50μmの範囲内である。5μm未満の場合は、抄紙する際などにおいて、水とともに無機多孔質材料が多量に流出してしまい、パルプ繊維に無機多孔質材料が十分に定着しない問題がある。また、80μmを超える場合は、紙自体の強度や質感などの特性上の問題や、加工性が低下する問題が生じる場合がある。
【0018】
本発明において、水性スラリー中における前記無機多孔質材料の含有量は、水性スラリー中の全固形分質量を基準として、5〜65質量%の範囲内となるように調製される。5質量%未満の場合は、吸放湿性能を十分に有する吸放湿紙を得ることができない。また、65質量%を超える場合は、紙自体の強度や質感、さらには加工性などに問題が生じる場合がある。好ましくは、20〜55質量%の範囲内であり、特に好ましくは、30〜50質量%の範囲内である。
【0019】
(パルプ繊維)
本発明に用いられるパルプ繊維は、吸放湿紙の基本成分となるものであり、その種類は、特に制限はなく、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、麻パルプ、コットンパルプ、その他水酸基を有するフィブリル化パルプなどが挙げられる。水性スラリー中におけるパルプ繊維の含有量は、紙としての機能を確保できる範囲内であれば特に制限はないが、例えば、水性スラリー中の全固形分質量を基準として、10〜95質量%の範囲内とすることができる。
【0020】
(その他の成分)
本発明においては、水性スラリー中に、さらに、必要に応じて、その他の成分を配合させることができる。例えば、界面活性剤や樹脂分散剤などの分散剤、ポリオレフィン繊維又はポリビニルアルコール繊維などの接着性繊維や、アクリル系樹脂や酢酸ビニル系樹脂などの結合剤。また、オレフィン系樹脂又はロジン系樹脂などのサイズ剤や、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム又は炭酸バリウムなどの填料。さらには、染料又は顔料などの色材や、吸放湿性合成繊維又は紙力増強剤などを添加剤として含有させることができる。
【0021】
(抄紙方法)
本発明において、抄紙を行う方法は、特に制限はなく、例えば、通常の抄紙機を用いる方法が挙げられる。さらに、例えば、抄紙する前に、水性スラリーの撹拌処理を行ったり、抄紙した後に、脱水処理、乾燥処理、加圧加熱処理などを行ったりしてもよい。ここで、本発明において、水性スラリーは、水中に、上記した各種成分を混合分散させて得ることができ、また、水性スラリー中における全固形分濃度は、特に制限はないが、均一な分散状態や効率的に生産を確保するために、0.1〜10質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
<塩溶液の塗布又は含浸工程>
(塩溶液)
本発明の吸放湿紙の製造方法は、前記した抄紙工程で得られる紙基材に、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物を含有する塩溶液を塗布又は含浸する工程を有することを特徴とする。このようにして紙基材に前記塩化合物を含ませることにより、吸湿性能が飛躍的に向上された吸放湿紙が得られる。また、本発明で得られる吸放湿紙は、吸湿性能が飛躍的に向上するにもかかわらず、紙表面が濡れた状態となる表面濡れが起こりにくいものとなり、また、材料の飛散や脱落も生じにくいものとなる。
【0023】
上記した効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らの検討によれば、以下のことが関係していると考えられる。すなわち、紙基材中に、微細な細孔を有する無機多孔質材料が含まれているため、その後、前記塩溶液を塗布又は含浸した際に、前記塩化合物の一部又は全部が、前記無機多孔質材料の細孔内に入り込んで担持された状態となり、前記無機多孔質材料と前記塩化合物の吸湿性能が相乗的に発揮されるとともに、材料の飛散や脱落が生じにくくなると考えられる。また、吸湿した際、水分が、無機多孔質材料の細孔内やサブミクロンオーダーの無機多孔質材料の粒子間に保持されるようになることも関係していると考えられる。
【0024】
本発明者らが上記のように推定する理由は、以下の通りである。先ず、例えば、塩化ナトリウムは、主に湿度80%以上の高湿度域で吸湿性能を発揮するものであるが、これを、前記無機多孔質材料を配合した紙に含有させた場合、湿度50%程度の中湿度域でも、従来にない程度に吸湿性能が向上されるようになる。そして、このことは、湿度50%程度の中湿度域において、先ず、前記無機多孔質材料のメソ細孔内に吸着された水蒸気が、さらに、局所的には高湿度域にある前記無機多孔質材料の細孔内付近で前記塩化合物に吸着されるようになるためであると考えられる。つまり、単独では、吸湿しにくい湿度領域においても、前記無機多孔質材料と前記塩化合物の相乗効果により、吸湿性能が向上するようになると考えられる。また、前記無機多孔質材料の細孔内に担持された前記塩化合物が、前記無機多孔質材料の細孔内に閉じ込められるようになることが、脱落などが生じにくくなり、また、前記塩化合物の潮解性による表面濡れなどの影響も防ぐ理由であると考えられる。また、本発明者らのさらなる検討によれば、紙基材に前記塩化合物を含ませて得られる吸放湿紙は、上記したように吸湿性能が向上するだけでなく、放湿性能も高いレベルで発揮されるようになることがわかった。
【0025】
また、前記塩化合物の中でも、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムを用いた場合は、低湿度域から高湿度域にかけて幅広く吸湿性能を向上させることが可能となる。その中でも、塩化リチウムを用いた場合が最も吸湿性能の向上効果が高い。また、塩化ナトリウムを用いた場合は、低湿度域においては吸湿性能の向上効果が低いものの、中湿度域から高湿度域にかけて急激に吸湿性能の向上効果が得られるようになる。つまり、この場合は、人間が快適に感じるとされる中湿度域の状態の安定的確保が望まれる用途、例えば、壁紙や空気浄化装置などの室内空間に適用される用途に好適である。
【0026】
また、前記塩化合物の濃度は、塩化リチウムを用いる場合は、塩溶液全質量を基準として、1〜10質量%の範囲内であることが好ましく、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムを用いる場合は、塩溶液全質量を基準として、3〜15質量%の範囲内であることが好ましい。さらには、これらの塩濃度は、3〜10質量%の範囲内であることがより好ましい。また、塩化ナトリウムを用いる場合は、塩溶液全質量を基準として、3〜15質量%の範囲内であることが好ましく、さらには、3〜10質量%の範囲内であることがより好ましい。また、本発明者らの検討によれば、塩化ナトリウムと塩化リチウムを併用した場合に、より高い吸放湿性能向上効果が得られることがわかった。この場合、塩化リチウム濃度が1〜10質量%の範囲内、塩化ナトリウム濃度が3〜15質量%の範囲内に調整された混合塩溶液を用いることが好ましい。なお、塩溶液の溶媒としては、水を用いることが好ましく、また、アルコール類やエーテル類などの水性溶媒を用いてもよい。また、本発明に用いる塩溶液には、燐酸アルミニウムなどの消泡剤や、ポリカルボン酸系分散剤などの分散剤などの添加剤を含有させていてもよい。さらに、本発明においては、アクリル樹脂や酢酸ビニル樹脂などからなる樹脂エマルジョンに塩化合物を含有させたものを塩溶液として用いてもよく、また、後述するコーティング剤に塩化合物を含有させたものを塩溶液として用いてもよい。
【0027】
(塗布又は含浸方法)
このような塩溶液の紙基材への塗布は、特に制限はないが、例えば、スプレーコート、ロールコート又はバーコートなどの方法を用いて行うことができる。また、塩溶液の紙基材への含浸は、特に制限はないが、例えば、紙基材を塩溶液に浸漬させる方法などを用いて行うことができる。この場合、浸漬させる時間は、特に制限はないが、前記塩化合物が前記無機多孔質材料の細孔内に効率的に入り込むように調整することが好ましい。また、必要により、真空引きを行うことにより、塩化合物が前記多孔質材料の細孔内により効率的に入り込むように調整することもできる。また、塩溶液を紙基材に塗布又は含浸させた後、熱風乾燥処理やオーブンによる強制乾燥処理、あるいは減圧乾燥処理を行ってもよい。
【0028】
(通気性を有する樹脂層)
また、本発明で得られる吸放湿紙は、さらに、その表面上に、通気性を有する樹脂層を設けてなる形態とすることができる。前記したような塩化合物を含有させてなる吸放湿紙は、塩化合物の量などによっては、塩化合物が脱落して吸放湿性能が低下したり、塩化合物が飛散して、例えば、周辺にある金属部品に錆などを発生させたりする場合がある。したがって、前記した方法で得られる吸放湿紙の表面上に、さらに、通気性を有する樹脂層を設けることにより、吸放湿紙の機能を確保しつつ、塩化合物の脱落や飛散を防止することが可能となる。通気性を有する樹脂層は、例えば、以下の構成のコーティング剤を塗布又は含浸させて設けることができる。すなわち、コーティング剤としては、特公平07−110906号公報に記載の多孔質皮膜形成水分散型組成物が挙げられ、具体的には、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとからなる多孔質皮膜形成組成物において、皮膜形成水性エマルジョンはα,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシランまたはビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、コロイダルシリカは粒径が合成樹脂粒子の粒径の1/3以下であり、該コロイダルシリカの配合量は合成樹脂粒子を完全に被覆する重量の0.5〜30倍である多孔質皮膜形成水分散型組成物が挙げられる。この多孔質皮膜形成水分散型組成物に、無機多孔質材料を含有させて樹脂層にも吸放湿性能を付与してもよい。
【0029】
また、他の形態のコーティング剤としては、コーティング剤中における樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、コーティング剤中における固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃の範囲であるコーティング剤も挙げられる。このコーティング剤には、さらに、15〜65質量%の無機多孔質材料が含有されていてもよく、その詳細は、特開2008−138167号公報に記載のものが挙げられる。
【0030】
本発明により得られる吸放湿紙の坪量は、特に制限はなく、また、その用途によっても異なるが、坪量20〜300g/m2の範囲内であることが好ましい。特に、フィルターなどの、調湿・ガス吸着性能を確保しつつ、通気性が求められる用途に用いる場合においては、坪量50〜200g/m2の範囲内とすることが好ましい。また、その強度も特に制限はないが、例えば、JIS P 8113に準じて測定した引張強度を0.4kN/m〜5.0kN/mの範囲内とすることが好ましい。
【0031】
本発明で得られる吸放湿紙は、前記したように、紙自体の特性を確保しつつ、優れた吸放湿性と、多様な種類に対する優れたガス吸着性とを具備するものであるため、室内環境におけるあらゆる用途への使用が可能である。例えば、壁紙用の紙、石膏ボード用の紙、化粧ラミネート材の紙基材乃至は下地紙などの建材用途や、保護紙などの用途などに使用することができる。また、ハニカムやコルゲートなどの構造とし、この構造内に空気を通すことで、空気の調湿や浄化が行えるため、フィルター材としても好適に使用することができる。勿論、これ以外にも、紙自体の優れた吸放湿性やガス吸着性を活かして、あらゆる用途への展開が可能である。また、設置場所も、特に拘りがなく、例えば、空気が通る場所に設置すれば、前記した調湿・ガス吸着機能が発揮されるため、簡単に利用することができる。なお、本発明で得られる吸放湿紙をフィルター材として用いる場合においては、前記無機多孔質材料として稚内層珪質頁岩を用いて低温で再生可能な形態とすることがより好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、本実施例において、比表面積の値はBET法により測定したものであり、細孔容量の値はBJH法により測定したものである。また、平均細孔半径は、比表面積と細孔容量とから、前記した式を用いて算出したものである。
【0033】
<無機多孔質材料の作製>
北海道天北地方から産出した稚内層珪質頁岩を、ボールミルにて湿式粉砕し、粉砕時間を調整して、平均粒径が50μmとなるように調製した。得られた稚内層珪質頁岩(原石)粒子は、比表面積が128m2/g、平均細孔半径が4.1nm、細孔容量が0.26ml/gであった。
【0034】
<紙基材の作製>
(珪質頁岩含有紙)
前記で作製した稚内層珪質頁岩粒子45質量部と、針葉樹パルプ55質量部とを含む水性スラリーを用い、試験用抄紙機で抄紙した後、プレスして脱水し、110℃でシリンダードライヤーを用いて乾燥して、珪質頁岩含有紙を作製した。得られた珪質頁岩含有紙を比較例1の紙とした。
【0035】
(パルプ紙)
また、針葉樹パルプ100質量部を含む水性スラリーを用いる以外は、前記と同様の方法で、パルプ紙を作製した。得られたパルプ紙を比較例2の紙とした。
【0036】
<塩化合物含有吸放湿紙の作製>
(実施例1:塩化マグネシウム)
濃度が5質量%の塩化マグネシウム水溶液を用意し、この水溶液中に、前記で作製した珪質頁岩含有紙を常圧下で24時間含浸させた。その後、かけ洗いなしで濾紙で、紙表面の液を吸い取り、110℃のオーブンで10時間乾燥させて、実施例1の吸放湿紙を作製した。
【0037】
(実施例2:塩化リチウム)
塩化マグネシウム水溶液に代えて、濃度が5質量%の塩化リチウム水溶液を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の吸放湿紙を作製した。
【0038】
(実施例3:塩化ナトリウム)
塩化マグネシウム水溶液に代えて、濃度が5質量%の塩化ナトリウム水溶液を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の吸放湿紙を作製した。
【0039】
(実施例4:塩化カルシウム)
塩化マグネシウム水溶液に代えて、濃度が5質量%の塩化カルシウム水溶液を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の吸放湿紙を作製した。
【0040】
(実施例5:塩化ナトリウム+塩化リチウム)
塩化マグネシウム水溶液に代えて、塩化リチウム濃度が4質量%、塩化ナトリウム濃度が7質量%の混合塩水溶液を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の吸放湿紙を作製した。
【0041】
<評価>
(紙の表面状態)
実施例1の吸放湿紙と、比較例2の紙を目視及び手感触で比較したところ、実施例1の吸放湿紙が茶色となっている以外は、差異は見られなかった。すなわち、質感も同等であり、また、稚内層珪質頁岩粒子や塩化合物が、飛散したり、脱落したりすることもなかった。また、実施例1の吸放湿紙を、25℃、相対湿度95%の条件で24時間静置させて、十分に吸湿させた後、その表面状態を確認したが、表面濡れなどの現象は生じていなかった。
【0042】
(紙の引張強度試験)
実施例1の吸放湿紙と、比較例1、2の紙について、JIS P 8113の基準に準じて、引張強度を測定したが、いずれの値も、ほとんど差異はなかった。
【0043】
(吸放湿性評価)
実施例1〜5の吸放湿紙と、比較例1、2の紙について、水蒸気吸着量測定装置(商品名:HYDROSORB1000、Quantachrome社製)を用い、相対湿度30〜80%における水分吸着量を測定した。得られた実施例1及び比較例1、2の測定結果を図1に示し、実施例2〜5の測定結果を図2に示した。
【0044】
図1、2に示すとおり、無機多孔質材料を含有する紙に、さらに塩化合物を含有させることで、優れた吸放湿性能を有する吸放湿紙が得られることが確認された。また、特に、塩化リチウムを用いた場合は、低湿度域から優れた吸湿性能が得られ、また、塩化ナトリウムを用いた場合は、中湿域から優れた吸湿性能が得られることが確認された。さらに、塩化リチウムと塩化ナトリウムを併用した場合には、広範囲の湿度領域において、優れた吸放湿性能が得られることが確認された。
【0045】
(再生性能評価)
実施例5の吸放湿紙を、温度40℃、相対湿度30%の環境下で24時間静置した後、質量を測定し、それぞれの基準値とした。次に、これらを温度30℃、相対湿度75%の環境下で2時間静置した後、温度40℃、相対湿度30%の環境下で2時間静置し、さらに、これを1サイクルとして、2サイクル半繰り返し、経時で質量を測定した。得られた測定値の基準値に対する質量差を質量変化量とし、図3に示した。図3に示すとおり、実施例5の吸放湿紙は、40℃の低温で再生(放湿)できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、紙の特性を確保しつつ、膨潤による寸法変化や、材料の脱落や飛散などを抑え、さらには、優れた吸放湿性能を発揮し得る吸放湿紙の製造方法、及び吸放湿紙を提供できる。したがって、本発明で得られる吸放湿紙は、フィルターや、除湿シート、保護紙、壁紙などの建材などの幅広い用途で用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、パルプ繊維、及び平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、平均粒径5〜80μmの特性を有する無機多孔質材料を含有し、かつ、該無機多孔質材料の含有量が固形分換算で5〜65質量%の水性スラリーを抄紙して紙基材を得る工程と、該紙基材に、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物を含有する塩溶液を塗布又は含浸する工程とを有することを特徴とする吸放湿紙の製造方法。
【請求項2】
前記無機多孔質材料が、稚内層珪質頁岩である請求項1に記載の吸放湿紙の製造方法。
【請求項3】
前記塩化合物が、塩化ナトリウムを含み、塩化ナトリウムの塩溶液中における濃度が3〜15質量%の範囲内である請求項1又は2に記載の吸放湿紙の製造方法。
【請求項4】
前記塩化合物が、塩化リチウムを含み、塩化リチウムの塩溶液中における濃度が1〜10質量%の範囲内である請求項1又は2に記載の吸放湿紙の製造方法。
【請求項5】
前記塩化合物が、塩化マグネシウム又は塩化カルシウムを含み、塩化マグネシウム又は塩化カルシウムの塩溶液中における濃度が3〜15質量%の範囲内である請求項1又は2に記載の吸放湿紙の製造方法。
【請求項6】
前記塩化合物が、塩化ナトリウム及び塩化リチウムを含み、塩化ナトリウムの塩溶液中における濃度が3〜15質量%の範囲内であり、かつ、塩化リチウムの塩溶液中における濃度が1〜10質量%の範囲内である請求項1又は2に記載の吸放湿紙の製造方法。
【請求項7】
少なくとも、パルプ繊維と、平均細孔半径1〜10nm、比表面積80m2/g以上、平均粒径5〜80μmの特性を有する無機多孔質材料と、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩化合物とを含有してなることを特徴とする吸放湿紙。
【請求項8】
さらに、その表面上に、通気性を有する樹脂層を設けてなる請求項7に記載の吸放湿紙。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−174415(P2010−174415A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19846(P2009−19846)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 エネルギー使用合理化技術戦略的開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(507081430)有限会社稚内グリーンファクトリー (7)
【出願人】(506106866)株式会社自然素材研究所 (21)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】